負膨張部材及び負膨張部材の製造方法並びに光デバイス
【課題】厳しい環境下に曝されても光デバイスの特性が変動しない負膨張部材及び負膨張部材の製造方法並びに光デバイスを提供することである。
【解決手段】本発明の負膨張部材は、粒界空隙を有し、モノリシック(monolithic)なバルク体からなり、比表面積が0.1〜2.0m2/gの範囲にあることに特徴づけられる。また、本発明の負膨張部材の製造方法は、粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体を準備する工程と、前記バルク体を酸水溶液又はアルカリ水溶液中で浸漬処理する工程とを有することに特徴づけられる。
【解決手段】本発明の負膨張部材は、粒界空隙を有し、モノリシック(monolithic)なバルク体からなり、比表面積が0.1〜2.0m2/gの範囲にあることに特徴づけられる。また、本発明の負膨張部材の製造方法は、粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体を準備する工程と、前記バルク体を酸水溶液又はアルカリ水溶液中で浸漬処理する工程とを有することに特徴づけられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負膨張部材及び負膨張部材の製造方法並びに前記負膨張部材上に光導波部材を設置した光通信用デバイス、光導波路等の光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信技術の進歩に伴い、光ファイバを用いたネットワークが急速に整備されつつある。ネットワークの中では、複数の波長の光を一括して伝送する波長多重技術が用いられるようになり、波長フィルタ、カプラ、導波路等が重要な光デバイスになりつつある。
【0003】
この種の光デバイスの中には、温度によって特性が変化し、屋外での使用に支障をきたすものがあるため、このような光デバイスの特性を温度変化によらずに一定に保つ技術、いわゆる温度補償技術が必要とされている。
【0004】
温度補償を必要とする光デバイスの代表的なものとして、ファイバブラッググレーティング(以下、FBGという)がある。FBGは、光ファイバのコア内に格子状に屈折率変化を持たせた部分、いわゆるグレーティング部分を形成した光通信デバイスであり、下記の式1に示した関係に従って、特定の波長の光を反射する特性を有している。このため、波長の異なる光信号が1本の光ファイバを介して多重伝送される波長分割多重伝送方式の光通信システムにおける重要な光デバイスとして注目を浴びている。
【0005】
λ=2nΛ …(式1)
ここで、λは反射波長、nはコアの実効屈折率、Λは格子状に屈折率に変化を設けた部分の格子間隔を表す。
【0006】
しかしながら、このようなFBGは、温度が変化すると反射波長が変動するという問題がある。反射波長の温度依存性は、式1を温度Tで微分して得られる下記の式2で示される。
【0007】
∂λ/∂T=2{(∂n/∂T)Λ+n(∂Λ/∂T)}
=2Λ{(∂n/∂T)+n(∂Λ/∂T)/Λ} …(式2)
この式2の右辺第2項の(∂Λ/∂T)/Λは光ファイバの熱膨張係数に相当し、その値はおよそ0.6×10-6/℃である。一方、右辺第1項は光ファイバのコア部分における屈折率の温度依存性であり、その値はおよそ7.5×10-6/℃である。つまり、反射波長の温度依存性はコア部分の屈折率変化と熱膨張による格子間隔の変化の双方に依存するが、大部分は屈折率の温度変化に起因していることが分かる。
【0008】
このような反射波長の変動を防止するための手段として、負の熱膨張係数を有する基材を使用することによって、温度変化に応じた張力をFBGに印加し、グレーティング部分の格子間隔を変化させることによって、屈折率変化に起因する成分を相殺する方法が知られている。
【0009】
この具体例として、予め板状に成形した原ガラス体を結晶化して得られる負の熱膨張係数を有するガラスセラミックス基材に、所定の張力を印加したFBGを接着固定することによって、FBGの張力をコントロールした光通信用デバイス(例えば、特許文献1参照。)や、セラミックスを焼結して得られる負の熱膨張係数を有するセラミックス基材に、所定の張力を印加したFBGを接着固定することによって、FBGの張力をコントロールした光通信用デバイス(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。
【0010】
上記光通信用デバイスは、温度が上昇するとセラミックス基材またはガラスセラミックス基材が収縮し、光ファイバのグレーティング部分に印加されている張力が減少する。一方、温度が低下するとガラスセラミックス基材またはセラミックス基材が伸長して光ファイバのグレーティング部分に印加されている張力が増加する。この様に、負の熱膨張係数を有するガラスセラミックス基材やセラミックス基材は、温度変化の際、FBGの寸法変化方向に対して反対方向の張力を与え、グレーティング部分の間隔を調節することができ、これによって反射中心波長の温度依存性を相殺できる。
【0011】
特許文献1に記載のガラスセラミックス基材や特許文献2に記載のセラミック基材は、負の熱膨張係数を有し、単一部材からなるため簡便な機構で温度補償を行なうことができるが、高温高湿環境化において熱膨張係数が大きく変化するため、これらのガラスセラミックス基材やセラミック基材上に、正の熱膨張係数を有するFBGを固定した光通信用デバイスは、温度変化によって反射中心波長が大きく変動し、安定した性能を発揮できないという問題を有していた。
【0012】
この問題に対し、シロキサン化合物あるいはシラザン化合物から選ばれる有機珪素化合物の1種又は2種以上を含む溶液によって表面処理した負膨張基材を使用することによって、熱膨張係数の変化が小さい光通信用デバイスが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特表2000−503967号公報
【特許文献2】特開2003−146693号公報
【特許文献3】特開2003−286090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献3に記載の基材は、高温高湿環境下において熱膨張係数は変化しないものの、基材上にFBGを固定した光通信用デバイスは、耐環境性試験においてFBGの反射中心波長が50pmよりも大きく変動することが問題とされていた。
【0014】
本発明の目的は、上記事情に鑑みなされたものであり、厳しい環境下に曝されても光デバイスの特性が変動しない負膨張部材及び負膨張部材の製造方法並びに光デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために創案された本発明の負膨張部材は、粒界空隙を有し、モノリシック(monolithic)なバルク体からなり、比表面積が0.1〜2.0m2/gの範囲にあることに特徴づけられる。
【0016】
このようにすれば、厳しい環境下においても、本発明の負膨張部材の表面に、正の熱膨張係数を有するFBG等の光導波部材を固定した光デバイスの特性が変動するのを抑制できる。
【0017】
比表面積が0.1m2/gよりも小さいと、耐環境性試験において光デバイスの特性変動、具体的には、FBGの反射中心波長変動が大きくなりやすい。比表面積が2.0m2/gよりも大きいと、表面が脆くなるとともに、機械的強度が小さくなりやすいため好ましくない。比表面積の好ましい範囲は、0.2〜1.5m2/g、さらに好ましくは0.25〜1.0m2/gである。
【0018】
また、本発明の負膨張部材の製造方法は、粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体を準備する工程と、前記バルク体を酸水溶液又はアルカリ水溶液中で浸漬処理する工程とを有することに特徴づけられる。
【0019】
このようにすれば、厳しい環境下においても、本発明の製造方法により得られた負膨張部材を光デバイスの温度補償用基材として使用した場合、光デバイスの特性が変動するのを抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明に係る負膨張部材によれば、厳しい環境下においても、粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体からなる負膨張部材の表面に、正の熱膨張係数を有するFBG等の光導波部材を固定した光デバイスの特性が変動するのを抑制できる。
【0021】
また、本発明に係る負膨張部材の製造方法によれば、厳しい環境下においても、本発明の製造方法により得られた負膨張部材を光デバイスの温度補償用基材として使用した場合、光デバイスの特性が変動するのを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の負膨張部材は、120℃−2気圧−湿度100%の環境下での500時間の耐環境性試験の前後で、寸法変化率が20ppm以下であることが好ましく、17ppm以下であるとより好ましく、15ppm以下であるとより一層好ましい。
【0023】
また本発明の負膨張部材は、表面に、2500μm2当たり15個以上のクラックが存在することが好ましい。このようにすれば、厳しい環境下において、光デバイスの特性変動を抑制しやすくなる。クラック数は、2500μm2当たり50個以上であることがさらに好ましい。
【0024】
上述した負膨張部材を用いた光デバイスは、120℃−2気圧−湿度100%の環境下での500時間の耐環境性試験の前後で、前記光導波部材によって反射した1550nm付近の反射中心波長の変化が20pm以下となりやすく、また前記光導波部材によって反射した1550nm付近の反射中心波長の0〜55℃における温度依存性が40pm以下となりやすい。
【0025】
本発明の負膨張部材は、β−石英固溶体もしくはβ−ユークリプタイト固溶体を主結晶とするセラミックス又はガラスセラミックスからなることが好ましく、特に−40〜+100℃の温度範囲において−55〜−120×10-7/℃の負の平均熱膨張係数を有すると、光デバイスの温度依存性を相殺でき、光導波部材の温度補償用基材に使用することができる。−40〜+100℃の温度範囲において熱膨張係数が−55×10-7/℃よりも負に小さい又は熱膨張係数が正であると、もしくは−120×10-7/℃よりも負に大きいと、正の熱膨張係数を有する光導波部材の温度依存性を相殺することができないため、温度補償用基材として使用することができない。
【0026】
本発明の負膨張部材は、質量%で、SiO2 45〜60%、Al2O3 20〜45%、Li2O 7〜12%、TiO2 0〜4%、ZrO2 0〜4%を含有すると、β−石英固溶体もしくはβ−ユークリプタイト固溶体の結晶化度を高くできるため好ましく、特に、Li2O:Al2O3:SiO2のモル比が1:1.5〜2.5:2〜3であると好ましい。
【0027】
本発明の負膨張部材の形状は角柱状、円柱状、円筒状、平板状が加工しやすく、角柱状、円柱状、平板状の場合、光部品を収納するためにスリットが全長にわたって設けられていても構わない。
【0028】
本発明の負膨張部材の製造方法において、浸漬処理には、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、ギ酸等の酸水溶液又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、等のアルカリ水溶液が使用可能であるが、特に、塩酸、硝酸及び硫酸の群から選ばれる1種の強酸の水溶液であると、処理速度を大きくでき、短時間で処理可能となるため好ましい。
【0029】
また、酸水溶液又はアルカリ水溶液による浸漬処理工程の際、酸やアルカリが分解又は蒸発しない範囲で溶液の温度を上げる、及び/又は溶液に超音波振動を与えると、さらに処理時間を短縮できるため好ましい。
【0030】
また本発明の負膨張部材の製造方法は、粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体を準備する工程と、前記バルク体を酸水溶液又はアルカリ水溶液中で浸漬処理する工程とに加え、浸漬処理後にシラン化合物、シロキサン化合物及びシラザン化合物の1種又は2種以上を含む撥水溶液で撥水処理する工程とを有することが好ましい。
【0031】
このようにすれば、環境変動に伴う基材の熱膨張係数の変動を抑制できる。
【0032】
撥水処理溶液は、シラン化合物(RR1R2R3Si(各置換基R、R1、R2、R3はHまたは有機基)、以下に示すシロキサン化合物及びシラザン化合物の群から選ばれる有機珪素化合物の1種又は2種以上を含む溶液であることが好ましい。
【0033】
シロキサン化合物は下記一般化学式(1)で表わされる有機珪素化合物が好適である。
【0034】
【化1】
【0035】
ここで、R1は同一、或いは、異なっていても良い炭素数3〜20、好ましくは4〜10の1価炭化水素基で、具体的には、直鎖状、又は、分岐状の、プロピル基、ブチル基、へキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、フェニル基等である。Xは、同一、或いは、異なっていても良い炭素数1〜10、好ましくは1〜5の1価炭化水素基で、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基である。また、aは、0〜2の数、bは、0〜2の数であり、a+b=(m+2)/mを満足する。mは、構造単位の繰り返し数を意味し、m≧2であるので、化学式(1)のシロキサン化合物は、2量体以上のオリゴマーであることを示している。ただし、シロキサン化合物は、全て同じ構造単位の繰り返し数を有するものではなく、複数の構造単位の繰り返し数を有するオリゴマーの混合物であるため、mは、それらの構造単位の繰り返し数の平均値を指している。
【0036】
また、化学式(1)のシロキサン化合物は、アルキルトリアルコキシシランの加水分解縮合により、製造する事ができる。別のシロキサン化合物としては、下記一般化学式(2)で表わされる有機珪素化合物が好適である。
【0037】
【化2】
【0038】
ここで、R2は、メチル基で、R3は、同一、或いは、異なっていても良い炭素数3〜20の1価炭化水素基であり、具体的には、プロピル基、オクチル基、オクタデシル基、フェニル基等である。また、Y1、Y2及びY3は、R2、R3又は下記の化学式(3)で表される基である。
【0039】
【化3】
【0040】
ここで、Aは、酸素原子、或いは、炭素数2〜10の2価炭化水素基で、例えば、エチレン基、プロピレン基、フェニレン基が例示されるが、特に、酸素原子又はエチレン基が好ましい。R4は、炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基が例示される。
【0041】
pは、0〜5、qは0〜50、rは、0〜50である。化学式(2)のシロキサン化合物は、1分子中に、少なくとも一つの化学式(3)の基を含む。
【0042】
シラザン化合物としては、下記の一般化学式(4)で表わされる有機珪素化合物が好適である。
【0043】
【化4】
【0044】
ここで、R5は、同一、或いは、異なっていても良い炭素数3〜20の1価炭化水素基で、具体的には、直鎖状、又は、分岐状のプロピル基、ブチル基、へキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、フェニル基等が例示できる。
【0045】
化学式(4)のシラザン化合物は、対応するハロシラン(好適にはクロロシラン)とアンモニアの反応で得られるシラザンオリゴマーで、有機溶剤に溶解させて使用するのが望ましい。
【0046】
使用する溶剤としては、シロキサン化合物には、これを溶解できる溶剤であるアルコール、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等が使用できるが、特に、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコールが好ましい。
【0047】
シラザン化合物の反応性が強いため、シラザン化合物の溶剤としては、非水溶剤が用いられ、特に、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、オクタン、工業用ガソリン等の脂肪族炭化水素が好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて詳細に説明する。
【0049】
表1は、本発明の実施例1〜3及び比較例を示す。また図1は、光デバイスの説明図である。
【0050】
【表1】
【0051】
まず、実施例1〜3では、焼結後の組成が、質量%でSiO2 55.0%、Al2O3 33.1%、Li2O 9.4%、TiO2 0.8%、ZrO2 1.0%、MgO 0.2%、P2O5 0.5%となるように原料粉末を1340℃で15時間保持して焼結し、β−石英固溶体を主結晶として含有するセラミックス(A)からなり、粒界空隙を有するモノリシックなバルク体からなる負膨張部材を作製した。
【0052】
この負膨張部材に切削加工等を施し、図1に示すように、長さ40mm、幅4mm、厚さ2mmの半円柱状(4mmφの円柱を中心軸方向に縦割りした形状)を有し、上面に全面にわたって深さ0.6mmのスリット1aが形成された基材1を作製した。
【0053】
この基材1を実施例1では0.01mol%の塩酸水溶液、実施例2では0.01mol%の硫酸水溶液、実施例3では、0.02mol%の水酸化ナトリウム水溶液からなる100℃の浸漬溶液中に、1時間浸漬した後取り出し、30分間水中で超音波洗浄した後、100℃に保持した恒温乾燥機中で乾燥させた。
【0054】
次いで、この基材1を{R1Si(OH)a(OCH3)bO(m-1)/m}mで表されるシロキサン化合物を含むIPA(イソプロピルアルコール)溶液に浸し、10分間超音波振動を与えた後100℃で10分間乾燥した。なお、上記シロキサン化合物では、R1がC6H13、aが0.07、bが1.88、mが2.1である。
【0055】
最後に、各基材1のスリット1a中に、FBG2を挿入し、基材1の両端付近の2点をエポキシ系接着剤3(協立化学産業(株)製XOC−02THK)を用い、FBG2を基材1に接着固定することによって光デバイス10を作製した。なお、FBG2の基材1への接着は、3200mW/cm2の出力を有するメタルハライドランプを使用して、波長300〜400nmの紫外線をエポキシ系接着剤3に2秒間照射して接着剤を硬化させて行なった。
【0056】
比較例1は、酸処理を行なわなかった以外は実施例1と同様にして基材および光デバイスを作製した。
【0057】
−40〜+100℃の範囲における基材の平均熱膨張係数の測定は、ディラトメーター(マックサイエンス製)を用いて行なった。
【0058】
比表面積は、測定装置として島津製作所製Flow SorbII−2300を用い、BET法にて測定した。尚、比表面積の測定に際し、図1に示す基材1を長さ4mmになるように切断した測定試料を11個準備し、上記装置の試料ホルダーに装填した。
【0059】
表面のクラック数は、基材表面をSEM写真撮影し、1辺が50μmの正方形の領域内に存在するクラックの数をカウントすることによって求めた。
【0060】
耐環境性試験(PCT)は、基材又は光デバイスを120℃−2気圧−湿度100%の環境下で0〜500時間保持することによって実施した。
【0061】
PCT前後の基材の寸法変化量は、3×3×125mmの角柱状試料を用い、PCT前とPCT500時間後の基材の長さをレーザ顕微鏡を用いて測定し、算出した。
【0062】
PCT前後の反射中心波長変化量は、PCT前とPCT500時間後の光デバイスにおける1550nm付近の反射中心波長をスペクトラムアナライザー(アドバンテスト製 Q−8384)を用いて測定して求め、その結果を図2に示した。この場合、PCTの100時間後及び220時間後についても同様に反射中心波長を求めた。
【0063】
PCT前及びPCT500時間後の反射中心波長の温度依存性は、25℃から55℃まで1℃/分で昇温した後、55℃から0℃まで1℃/分で降温し、更に0℃から25℃まで1℃/分で昇温するという熱サイクルにおいて、反射中心波長を0℃、5℃、25℃、50℃及び55℃で測定した時の、反射中心波長の最大値と最小値との差で評価し、その結果を図3〜6に示した。尚、これらの図では、熱サイクルの開始点である25℃の反射中心波長を基準として、25℃に対する各温度での反射中心波長の変化量を示した。
【0064】
図7〜10は、それぞれ実施例1〜3及び比較例の基材表面のSEM写真を示す。これらのSEM写真を見て判るように、浸漬処理を施した実施例1〜3の方が、未処理の比較例よりもクラックが多いことが判る。尚、クラックとは、例えば、図7の矢印で示す部分である。
【0065】
また、図11及び図12は、それぞれ比表面積と反射中心波長の変化量との相関及びクラック数と反射中心波長の変化量との相関を示すグラフである。図11及び12に示すように、基材の比表面積、クラック数が大きくなるほど反射中心波長の変化量が小さくなり、特に比表面積が0.2m2/g以上、クラック数が50個/2500μm2以上になると、反射中心波長の変化量は安定化する。
【0066】
表1に示すように、実施例1〜3は、比較例よりもPCT前後での基材の寸法変化が小さかった。また、表1及び図2に示すように、実施例1〜3は、比較例よりもPCT前後での光デバイスの反射中心波長の変化量が小さかった。また、表1及び図3〜6に示すように、実施例1〜3は、比較例(図6)よりもPCT前及びPCT500時間後の反射中心波長の温度依存性が小さかった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態に係る光デバイスの説明図である。
【図2】実施例1〜3及び比較例のPCT保持時間に対する反射中心波長の変化を示すグラフである。
【図3】実施例1のPCT前後の温度に対する反射中心波長の変化を示すグラフである。
【図4】実施例2のPCT前後の温度に対する反射中心波長の変化を示すグラフである。
【図5】実施例3のPCT前後の温度に対する反射中心波長の変化を示すグラフである。
【図6】比較例のPCT前後の温度に対する反射中心波長の変化を示すグラフである。
【図7】実施例1の基材表面のSEM写真である。
【図8】実施例2の基材表面のSEM写真である。
【図9】実施例3の基材表面のSEM写真である。
【図10】比較例の基材表面のSEM写真である。
【図11】比表面積と反射中心波長の変化量との相関を示すグラフである。
【図12】クラック数と反射中心波長の変化量との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0068】
1 基材
1a スリット
2 FBG
3 エポキシ系接着剤
10 光デバイス
【技術分野】
【0001】
本発明は、負膨張部材及び負膨張部材の製造方法並びに前記負膨張部材上に光導波部材を設置した光通信用デバイス、光導波路等の光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信技術の進歩に伴い、光ファイバを用いたネットワークが急速に整備されつつある。ネットワークの中では、複数の波長の光を一括して伝送する波長多重技術が用いられるようになり、波長フィルタ、カプラ、導波路等が重要な光デバイスになりつつある。
【0003】
この種の光デバイスの中には、温度によって特性が変化し、屋外での使用に支障をきたすものがあるため、このような光デバイスの特性を温度変化によらずに一定に保つ技術、いわゆる温度補償技術が必要とされている。
【0004】
温度補償を必要とする光デバイスの代表的なものとして、ファイバブラッググレーティング(以下、FBGという)がある。FBGは、光ファイバのコア内に格子状に屈折率変化を持たせた部分、いわゆるグレーティング部分を形成した光通信デバイスであり、下記の式1に示した関係に従って、特定の波長の光を反射する特性を有している。このため、波長の異なる光信号が1本の光ファイバを介して多重伝送される波長分割多重伝送方式の光通信システムにおける重要な光デバイスとして注目を浴びている。
【0005】
λ=2nΛ …(式1)
ここで、λは反射波長、nはコアの実効屈折率、Λは格子状に屈折率に変化を設けた部分の格子間隔を表す。
【0006】
しかしながら、このようなFBGは、温度が変化すると反射波長が変動するという問題がある。反射波長の温度依存性は、式1を温度Tで微分して得られる下記の式2で示される。
【0007】
∂λ/∂T=2{(∂n/∂T)Λ+n(∂Λ/∂T)}
=2Λ{(∂n/∂T)+n(∂Λ/∂T)/Λ} …(式2)
この式2の右辺第2項の(∂Λ/∂T)/Λは光ファイバの熱膨張係数に相当し、その値はおよそ0.6×10-6/℃である。一方、右辺第1項は光ファイバのコア部分における屈折率の温度依存性であり、その値はおよそ7.5×10-6/℃である。つまり、反射波長の温度依存性はコア部分の屈折率変化と熱膨張による格子間隔の変化の双方に依存するが、大部分は屈折率の温度変化に起因していることが分かる。
【0008】
このような反射波長の変動を防止するための手段として、負の熱膨張係数を有する基材を使用することによって、温度変化に応じた張力をFBGに印加し、グレーティング部分の格子間隔を変化させることによって、屈折率変化に起因する成分を相殺する方法が知られている。
【0009】
この具体例として、予め板状に成形した原ガラス体を結晶化して得られる負の熱膨張係数を有するガラスセラミックス基材に、所定の張力を印加したFBGを接着固定することによって、FBGの張力をコントロールした光通信用デバイス(例えば、特許文献1参照。)や、セラミックスを焼結して得られる負の熱膨張係数を有するセラミックス基材に、所定の張力を印加したFBGを接着固定することによって、FBGの張力をコントロールした光通信用デバイス(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。
【0010】
上記光通信用デバイスは、温度が上昇するとセラミックス基材またはガラスセラミックス基材が収縮し、光ファイバのグレーティング部分に印加されている張力が減少する。一方、温度が低下するとガラスセラミックス基材またはセラミックス基材が伸長して光ファイバのグレーティング部分に印加されている張力が増加する。この様に、負の熱膨張係数を有するガラスセラミックス基材やセラミックス基材は、温度変化の際、FBGの寸法変化方向に対して反対方向の張力を与え、グレーティング部分の間隔を調節することができ、これによって反射中心波長の温度依存性を相殺できる。
【0011】
特許文献1に記載のガラスセラミックス基材や特許文献2に記載のセラミック基材は、負の熱膨張係数を有し、単一部材からなるため簡便な機構で温度補償を行なうことができるが、高温高湿環境化において熱膨張係数が大きく変化するため、これらのガラスセラミックス基材やセラミック基材上に、正の熱膨張係数を有するFBGを固定した光通信用デバイスは、温度変化によって反射中心波長が大きく変動し、安定した性能を発揮できないという問題を有していた。
【0012】
この問題に対し、シロキサン化合物あるいはシラザン化合物から選ばれる有機珪素化合物の1種又は2種以上を含む溶液によって表面処理した負膨張基材を使用することによって、熱膨張係数の変化が小さい光通信用デバイスが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特表2000−503967号公報
【特許文献2】特開2003−146693号公報
【特許文献3】特開2003−286090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献3に記載の基材は、高温高湿環境下において熱膨張係数は変化しないものの、基材上にFBGを固定した光通信用デバイスは、耐環境性試験においてFBGの反射中心波長が50pmよりも大きく変動することが問題とされていた。
【0014】
本発明の目的は、上記事情に鑑みなされたものであり、厳しい環境下に曝されても光デバイスの特性が変動しない負膨張部材及び負膨張部材の製造方法並びに光デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために創案された本発明の負膨張部材は、粒界空隙を有し、モノリシック(monolithic)なバルク体からなり、比表面積が0.1〜2.0m2/gの範囲にあることに特徴づけられる。
【0016】
このようにすれば、厳しい環境下においても、本発明の負膨張部材の表面に、正の熱膨張係数を有するFBG等の光導波部材を固定した光デバイスの特性が変動するのを抑制できる。
【0017】
比表面積が0.1m2/gよりも小さいと、耐環境性試験において光デバイスの特性変動、具体的には、FBGの反射中心波長変動が大きくなりやすい。比表面積が2.0m2/gよりも大きいと、表面が脆くなるとともに、機械的強度が小さくなりやすいため好ましくない。比表面積の好ましい範囲は、0.2〜1.5m2/g、さらに好ましくは0.25〜1.0m2/gである。
【0018】
また、本発明の負膨張部材の製造方法は、粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体を準備する工程と、前記バルク体を酸水溶液又はアルカリ水溶液中で浸漬処理する工程とを有することに特徴づけられる。
【0019】
このようにすれば、厳しい環境下においても、本発明の製造方法により得られた負膨張部材を光デバイスの温度補償用基材として使用した場合、光デバイスの特性が変動するのを抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明に係る負膨張部材によれば、厳しい環境下においても、粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体からなる負膨張部材の表面に、正の熱膨張係数を有するFBG等の光導波部材を固定した光デバイスの特性が変動するのを抑制できる。
【0021】
また、本発明に係る負膨張部材の製造方法によれば、厳しい環境下においても、本発明の製造方法により得られた負膨張部材を光デバイスの温度補償用基材として使用した場合、光デバイスの特性が変動するのを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の負膨張部材は、120℃−2気圧−湿度100%の環境下での500時間の耐環境性試験の前後で、寸法変化率が20ppm以下であることが好ましく、17ppm以下であるとより好ましく、15ppm以下であるとより一層好ましい。
【0023】
また本発明の負膨張部材は、表面に、2500μm2当たり15個以上のクラックが存在することが好ましい。このようにすれば、厳しい環境下において、光デバイスの特性変動を抑制しやすくなる。クラック数は、2500μm2当たり50個以上であることがさらに好ましい。
【0024】
上述した負膨張部材を用いた光デバイスは、120℃−2気圧−湿度100%の環境下での500時間の耐環境性試験の前後で、前記光導波部材によって反射した1550nm付近の反射中心波長の変化が20pm以下となりやすく、また前記光導波部材によって反射した1550nm付近の反射中心波長の0〜55℃における温度依存性が40pm以下となりやすい。
【0025】
本発明の負膨張部材は、β−石英固溶体もしくはβ−ユークリプタイト固溶体を主結晶とするセラミックス又はガラスセラミックスからなることが好ましく、特に−40〜+100℃の温度範囲において−55〜−120×10-7/℃の負の平均熱膨張係数を有すると、光デバイスの温度依存性を相殺でき、光導波部材の温度補償用基材に使用することができる。−40〜+100℃の温度範囲において熱膨張係数が−55×10-7/℃よりも負に小さい又は熱膨張係数が正であると、もしくは−120×10-7/℃よりも負に大きいと、正の熱膨張係数を有する光導波部材の温度依存性を相殺することができないため、温度補償用基材として使用することができない。
【0026】
本発明の負膨張部材は、質量%で、SiO2 45〜60%、Al2O3 20〜45%、Li2O 7〜12%、TiO2 0〜4%、ZrO2 0〜4%を含有すると、β−石英固溶体もしくはβ−ユークリプタイト固溶体の結晶化度を高くできるため好ましく、特に、Li2O:Al2O3:SiO2のモル比が1:1.5〜2.5:2〜3であると好ましい。
【0027】
本発明の負膨張部材の形状は角柱状、円柱状、円筒状、平板状が加工しやすく、角柱状、円柱状、平板状の場合、光部品を収納するためにスリットが全長にわたって設けられていても構わない。
【0028】
本発明の負膨張部材の製造方法において、浸漬処理には、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、ギ酸等の酸水溶液又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、等のアルカリ水溶液が使用可能であるが、特に、塩酸、硝酸及び硫酸の群から選ばれる1種の強酸の水溶液であると、処理速度を大きくでき、短時間で処理可能となるため好ましい。
【0029】
また、酸水溶液又はアルカリ水溶液による浸漬処理工程の際、酸やアルカリが分解又は蒸発しない範囲で溶液の温度を上げる、及び/又は溶液に超音波振動を与えると、さらに処理時間を短縮できるため好ましい。
【0030】
また本発明の負膨張部材の製造方法は、粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体を準備する工程と、前記バルク体を酸水溶液又はアルカリ水溶液中で浸漬処理する工程とに加え、浸漬処理後にシラン化合物、シロキサン化合物及びシラザン化合物の1種又は2種以上を含む撥水溶液で撥水処理する工程とを有することが好ましい。
【0031】
このようにすれば、環境変動に伴う基材の熱膨張係数の変動を抑制できる。
【0032】
撥水処理溶液は、シラン化合物(RR1R2R3Si(各置換基R、R1、R2、R3はHまたは有機基)、以下に示すシロキサン化合物及びシラザン化合物の群から選ばれる有機珪素化合物の1種又は2種以上を含む溶液であることが好ましい。
【0033】
シロキサン化合物は下記一般化学式(1)で表わされる有機珪素化合物が好適である。
【0034】
【化1】
【0035】
ここで、R1は同一、或いは、異なっていても良い炭素数3〜20、好ましくは4〜10の1価炭化水素基で、具体的には、直鎖状、又は、分岐状の、プロピル基、ブチル基、へキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、フェニル基等である。Xは、同一、或いは、異なっていても良い炭素数1〜10、好ましくは1〜5の1価炭化水素基で、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基である。また、aは、0〜2の数、bは、0〜2の数であり、a+b=(m+2)/mを満足する。mは、構造単位の繰り返し数を意味し、m≧2であるので、化学式(1)のシロキサン化合物は、2量体以上のオリゴマーであることを示している。ただし、シロキサン化合物は、全て同じ構造単位の繰り返し数を有するものではなく、複数の構造単位の繰り返し数を有するオリゴマーの混合物であるため、mは、それらの構造単位の繰り返し数の平均値を指している。
【0036】
また、化学式(1)のシロキサン化合物は、アルキルトリアルコキシシランの加水分解縮合により、製造する事ができる。別のシロキサン化合物としては、下記一般化学式(2)で表わされる有機珪素化合物が好適である。
【0037】
【化2】
【0038】
ここで、R2は、メチル基で、R3は、同一、或いは、異なっていても良い炭素数3〜20の1価炭化水素基であり、具体的には、プロピル基、オクチル基、オクタデシル基、フェニル基等である。また、Y1、Y2及びY3は、R2、R3又は下記の化学式(3)で表される基である。
【0039】
【化3】
【0040】
ここで、Aは、酸素原子、或いは、炭素数2〜10の2価炭化水素基で、例えば、エチレン基、プロピレン基、フェニレン基が例示されるが、特に、酸素原子又はエチレン基が好ましい。R4は、炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基が例示される。
【0041】
pは、0〜5、qは0〜50、rは、0〜50である。化学式(2)のシロキサン化合物は、1分子中に、少なくとも一つの化学式(3)の基を含む。
【0042】
シラザン化合物としては、下記の一般化学式(4)で表わされる有機珪素化合物が好適である。
【0043】
【化4】
【0044】
ここで、R5は、同一、或いは、異なっていても良い炭素数3〜20の1価炭化水素基で、具体的には、直鎖状、又は、分岐状のプロピル基、ブチル基、へキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、フェニル基等が例示できる。
【0045】
化学式(4)のシラザン化合物は、対応するハロシラン(好適にはクロロシラン)とアンモニアの反応で得られるシラザンオリゴマーで、有機溶剤に溶解させて使用するのが望ましい。
【0046】
使用する溶剤としては、シロキサン化合物には、これを溶解できる溶剤であるアルコール、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等が使用できるが、特に、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコールが好ましい。
【0047】
シラザン化合物の反応性が強いため、シラザン化合物の溶剤としては、非水溶剤が用いられ、特に、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、オクタン、工業用ガソリン等の脂肪族炭化水素が好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて詳細に説明する。
【0049】
表1は、本発明の実施例1〜3及び比較例を示す。また図1は、光デバイスの説明図である。
【0050】
【表1】
【0051】
まず、実施例1〜3では、焼結後の組成が、質量%でSiO2 55.0%、Al2O3 33.1%、Li2O 9.4%、TiO2 0.8%、ZrO2 1.0%、MgO 0.2%、P2O5 0.5%となるように原料粉末を1340℃で15時間保持して焼結し、β−石英固溶体を主結晶として含有するセラミックス(A)からなり、粒界空隙を有するモノリシックなバルク体からなる負膨張部材を作製した。
【0052】
この負膨張部材に切削加工等を施し、図1に示すように、長さ40mm、幅4mm、厚さ2mmの半円柱状(4mmφの円柱を中心軸方向に縦割りした形状)を有し、上面に全面にわたって深さ0.6mmのスリット1aが形成された基材1を作製した。
【0053】
この基材1を実施例1では0.01mol%の塩酸水溶液、実施例2では0.01mol%の硫酸水溶液、実施例3では、0.02mol%の水酸化ナトリウム水溶液からなる100℃の浸漬溶液中に、1時間浸漬した後取り出し、30分間水中で超音波洗浄した後、100℃に保持した恒温乾燥機中で乾燥させた。
【0054】
次いで、この基材1を{R1Si(OH)a(OCH3)bO(m-1)/m}mで表されるシロキサン化合物を含むIPA(イソプロピルアルコール)溶液に浸し、10分間超音波振動を与えた後100℃で10分間乾燥した。なお、上記シロキサン化合物では、R1がC6H13、aが0.07、bが1.88、mが2.1である。
【0055】
最後に、各基材1のスリット1a中に、FBG2を挿入し、基材1の両端付近の2点をエポキシ系接着剤3(協立化学産業(株)製XOC−02THK)を用い、FBG2を基材1に接着固定することによって光デバイス10を作製した。なお、FBG2の基材1への接着は、3200mW/cm2の出力を有するメタルハライドランプを使用して、波長300〜400nmの紫外線をエポキシ系接着剤3に2秒間照射して接着剤を硬化させて行なった。
【0056】
比較例1は、酸処理を行なわなかった以外は実施例1と同様にして基材および光デバイスを作製した。
【0057】
−40〜+100℃の範囲における基材の平均熱膨張係数の測定は、ディラトメーター(マックサイエンス製)を用いて行なった。
【0058】
比表面積は、測定装置として島津製作所製Flow SorbII−2300を用い、BET法にて測定した。尚、比表面積の測定に際し、図1に示す基材1を長さ4mmになるように切断した測定試料を11個準備し、上記装置の試料ホルダーに装填した。
【0059】
表面のクラック数は、基材表面をSEM写真撮影し、1辺が50μmの正方形の領域内に存在するクラックの数をカウントすることによって求めた。
【0060】
耐環境性試験(PCT)は、基材又は光デバイスを120℃−2気圧−湿度100%の環境下で0〜500時間保持することによって実施した。
【0061】
PCT前後の基材の寸法変化量は、3×3×125mmの角柱状試料を用い、PCT前とPCT500時間後の基材の長さをレーザ顕微鏡を用いて測定し、算出した。
【0062】
PCT前後の反射中心波長変化量は、PCT前とPCT500時間後の光デバイスにおける1550nm付近の反射中心波長をスペクトラムアナライザー(アドバンテスト製 Q−8384)を用いて測定して求め、その結果を図2に示した。この場合、PCTの100時間後及び220時間後についても同様に反射中心波長を求めた。
【0063】
PCT前及びPCT500時間後の反射中心波長の温度依存性は、25℃から55℃まで1℃/分で昇温した後、55℃から0℃まで1℃/分で降温し、更に0℃から25℃まで1℃/分で昇温するという熱サイクルにおいて、反射中心波長を0℃、5℃、25℃、50℃及び55℃で測定した時の、反射中心波長の最大値と最小値との差で評価し、その結果を図3〜6に示した。尚、これらの図では、熱サイクルの開始点である25℃の反射中心波長を基準として、25℃に対する各温度での反射中心波長の変化量を示した。
【0064】
図7〜10は、それぞれ実施例1〜3及び比較例の基材表面のSEM写真を示す。これらのSEM写真を見て判るように、浸漬処理を施した実施例1〜3の方が、未処理の比較例よりもクラックが多いことが判る。尚、クラックとは、例えば、図7の矢印で示す部分である。
【0065】
また、図11及び図12は、それぞれ比表面積と反射中心波長の変化量との相関及びクラック数と反射中心波長の変化量との相関を示すグラフである。図11及び12に示すように、基材の比表面積、クラック数が大きくなるほど反射中心波長の変化量が小さくなり、特に比表面積が0.2m2/g以上、クラック数が50個/2500μm2以上になると、反射中心波長の変化量は安定化する。
【0066】
表1に示すように、実施例1〜3は、比較例よりもPCT前後での基材の寸法変化が小さかった。また、表1及び図2に示すように、実施例1〜3は、比較例よりもPCT前後での光デバイスの反射中心波長の変化量が小さかった。また、表1及び図3〜6に示すように、実施例1〜3は、比較例(図6)よりもPCT前及びPCT500時間後の反射中心波長の温度依存性が小さかった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態に係る光デバイスの説明図である。
【図2】実施例1〜3及び比較例のPCT保持時間に対する反射中心波長の変化を示すグラフである。
【図3】実施例1のPCT前後の温度に対する反射中心波長の変化を示すグラフである。
【図4】実施例2のPCT前後の温度に対する反射中心波長の変化を示すグラフである。
【図5】実施例3のPCT前後の温度に対する反射中心波長の変化を示すグラフである。
【図6】比較例のPCT前後の温度に対する反射中心波長の変化を示すグラフである。
【図7】実施例1の基材表面のSEM写真である。
【図8】実施例2の基材表面のSEM写真である。
【図9】実施例3の基材表面のSEM写真である。
【図10】比較例の基材表面のSEM写真である。
【図11】比表面積と反射中心波長の変化量との相関を示すグラフである。
【図12】クラック数と反射中心波長の変化量との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0068】
1 基材
1a スリット
2 FBG
3 エポキシ系接着剤
10 光デバイス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体からなり、比表面積が0.1〜2.0m2/gの範囲にあることを特徴とする負膨張部材。
【請求項2】
120℃−2気圧−湿度100%の環境下での500時間の耐環境性試験の前後で、寸法変化率が20ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の負膨張部材。
【請求項3】
粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体を準備する工程と、前記バルク体を酸水溶液又はアルカリ水溶液中で浸漬処理する工程とを有することを特徴とする負膨張部材の製造方法。
【請求項4】
粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体からなる負膨張部材と、前記負膨張部材上に設置した光導波部材とを備えた光デバイスであって、前記負膨張部材は、比表面積が0.1〜2.0m2/gの範囲にあることを特徴とする光デバイス。
【請求項5】
前記光導波部材によって反射した1550nm付近の反射中心波長の0〜55℃における温度依存性が40pm以下であることを特徴とする請求項4に記載の光デバイス。
【請求項1】
粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体からなり、比表面積が0.1〜2.0m2/gの範囲にあることを特徴とする負膨張部材。
【請求項2】
120℃−2気圧−湿度100%の環境下での500時間の耐環境性試験の前後で、寸法変化率が20ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の負膨張部材。
【請求項3】
粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体を準備する工程と、前記バルク体を酸水溶液又はアルカリ水溶液中で浸漬処理する工程とを有することを特徴とする負膨張部材の製造方法。
【請求項4】
粒界空隙を有し、モノリシックなバルク体からなる負膨張部材と、前記負膨張部材上に設置した光導波部材とを備えた光デバイスであって、前記負膨張部材は、比表面積が0.1〜2.0m2/gの範囲にあることを特徴とする光デバイス。
【請求項5】
前記光導波部材によって反射した1550nm付近の反射中心波長の0〜55℃における温度依存性が40pm以下であることを特徴とする請求項4に記載の光デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図12】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図12】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2009−282091(P2009−282091A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131594(P2008−131594)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】
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