説明

貯水槽の中空糸膜モジュールろ過システム

【課題】 比較的大きな孔径の中空糸膜をもつ中空糸膜モジュールを用いて、システムの小型化を可能とし、かつ容易に貯水の消毒維持が可能な貯水槽の中空糸膜モジュールろ過システムを提供する。
【解決手段】 比較的大きな孔径の中空糸膜をもつ中空糸膜モジュールAで貯水をろ過するので、通水抵抗が小さいことから、大流量のろ過が可能となり、小型化が図れるとともに、物理洗浄または薬品洗浄の際に原液をバイパスさせることにより、物理洗浄や薬品洗浄を行う間でも、貯水槽に消毒剤が供給されるので、 容易に貯水の消毒維持が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的大きな孔径の中空糸膜からなるモジュールを有し、貯水槽の貯水を循環ろ過する、中空糸膜モジュールろ過システムに関し、特に中空糸膜の物理洗浄、薬品洗浄時における貯水槽への消毒剤注入に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プール、浴場、ジェットバスなどの貯水槽の貯水をろ過する装置として、砂ろ過や珪藻土ろ過のほかにカートリッジ(糸巻き)ろ過などを用いた装置が知られている。しかし、各ろ過装置にはそれぞれ、砂ろ過は逆洗に大量の水を必要とし、珪藻土ろ過は洗浄が面倒であって、カートリッジ(糸巻き)ろ過は寿命が短いといった問題があり、また、ともに使用済みの廃棄物の処理問題も有する。一方、近年、選択透過性を有する分離膜を用いた分離操作の技術がめざましく進展しており、中空糸膜のような分離膜を用いてプール水などを処理する装置が知られている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
中空糸膜のような分離膜を用いたシステムは、以下のような利点を有する。すなわち、(a)分離精度がシャープなため、原水水質に左右されず、安定した濾過液が得られ、安全性も高い。(b)砂の入れ替えなど煩雑なメンテナンスが少なく廃棄物も少ない。(c)砂濾過であれば分画精度を改善させるために凝集沈殿処理が必要であるが、膜濾過であれば凝集沈殿処理を省略するか、簡素化することができ、システムの省スペース化や処理工程の単純化が図れる。(d)濾過液回収率が高く逆洗排水が少ないため、逆洗廃液処理が簡単になる。
【特許文献1】特開昭59−206091号公報
【特許文献2】特開平8−323396号公報
【特許文献3】特開2000−5582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、分画粒子径が0.2μm以下の精密濾過膜や1μm以下の限外濾過膜が主流である従来の分離膜を用いたシステムでは、大量の水を処理するために膜面積を大きくする必要があり、システムが大型化、高コスト化するという問題があった。
【0005】
一方、分離膜によるろ過の過程では、目詰まりとよばれる膜表面の汚染や微細孔の詰まりにより経時的に透過流速の低下が生じるため、長期にわたり安定したろ過を継続するには、分離膜に対して気体逆洗などの物理洗浄や酸などの薬品洗浄を定期的に行う必要がある。
【0006】
また、プール水のろ過では、殺菌のために塩素濃度を維持するように例えば次亜塩素酸ナトリウムのような消毒剤を供給する必要がある。しかし、上記した物理洗浄や薬品洗浄の際、膜ろ過を停止して行うが、消毒剤の供給口は、通常、膜ろ過ラインに設けられるため、消毒剤供給も停止されることとなり、物理洗浄や薬品洗浄を行う間、プール水を消毒する塩素濃度の維持が困難であるという問題もあった。
【0007】
本発明は、前記課題に鑑みて、比較的大きな孔径の中空糸膜をもつ中空糸膜モジュールを用いて、システムの小型化を可能とし、かつ容易に貯水の消毒維持が可能な貯水槽の中空糸膜モジュールろ過システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる貯水槽の中空糸膜モジュールろ過システムは、分画粒子径が1〜10μmの多孔質中空糸膜からなるモジュールを備え、貯水槽の貯水を該モジュールを介して循環ろ過するとともに、所定時間ごとにろ過を停止して、中空糸膜を物理洗浄および薬品洗浄するものであって、ろ過を停止して物理洗浄または薬品洗浄する際に、貯水を中空糸膜モジュールを経由することなく循環させて貯水槽に消毒剤を供給する貯水バイパス装置を備えている。ここでいう分画粒子径とは、中空糸膜による阻止率が90%である粒子の粒子径(S)のことをいい、異なる粒子径を有する少なくとも2種類の粒子の阻止率を測定し、その測定値を元にして下記の近似式(1)において、Rが90となるSの値を求め、これを分画粒子径としたものである。
R=100/(1−m×exp(−a×log(s))) …(1)
上記の式(1)中、a及びmは中空糸膜によって定まる定数であって、2種類以上の阻止率の測定値をもとに算出される。
【0009】
中空糸膜の分画粒子径は、大流量のろ過を可能とし、装置の小型化を図る観点から、1〜10μmの範囲にあることが重要で、2〜5μmの範囲が好ましい。
【0010】
この構成によれば、比較的大きな孔径の中空糸膜をもつ中空糸膜モジュールで貯水をろ過するので、通水抵抗が小さいことから、大流量のろ過が可能となり、装置の小型化が図れるとともに、物理洗浄や薬品洗浄を行う間でも、貯水槽に消毒剤が供給されるので、容易に貯水の消毒維持が可能となる。
【0011】
本発明の中空糸膜の素材は特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂により親水化処理されたポリスルホン系樹脂、架橋または非架橋の親水性高分子が添加されたポリスルホン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂、親水化されたポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂などを挙げることができる。
【0012】
中空糸膜の力学的性質およびモジュールとしての膜面積の観点から、中空糸膜の外径は200〜3000μmの範囲内に設定することが好ましく、500〜2000μmの範囲内であることがより好ましい。
【0013】
中空糸膜の厚さは、50〜700μmの範囲にあることが好ましく、100〜600μmの範囲であることがより好ましい。
【0014】
上記した多孔質中空糸膜の製造方法について説明する。この製造方法は、本件出願人による特開2002−79066号に係る中空糸膜の製造方法の技術を元に、原液組成等を改良・工夫をすることで実現したものである。この多孔質中空糸膜の製造方法は、多孔質中空糸膜を構成する素材のベースポリマー、添加剤、これらの共通溶媒および該共通溶媒に不溶で液中で均一に分散した平均粒径が1〜20μmの微粉体からなる原液と中空糸を形成するための注入液を用い、乾湿式紡糸法または湿式紡糸法によって中空糸を形成する工程と、紡糸後の中空糸を該ベースポリマーを溶解せず、上記微粉体を溶解する抽出液に浸漬させて、上記微粉体を抽出除去する工程とを含む方法により製造するものである。
【0015】
ベースポリマーの濃度は、中空糸膜として十分な強度が得られ、かつ貫通孔が形成されるような範囲に決められる。ベースポリマーの種類によって異なるが、一般には、5〜40wt%、好ましくは15〜25wt%である。
【0016】
添加剤を添加することによって、原液の相分離を促進させることにより大きな孔径の中空糸膜を得ることができる。添加剤は液体でも固体でも良く、例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、エタノール、プロパノール、グリセリンなどのアルコール類、ブタンジオールなどのジオール類、塩化リチウム、硫酸マグネシウムなどの無機塩類やこれらの混合物を例示することができる。添加剤の添加量は添加剤の種類により異なるが、ベースポリマー、添加剤および両者の共通溶媒のみを溶解した場合には相分離を起こすが、これに微粉体を混合することで相分離が抑えられて紡糸が可能な均一な原液となるような添加量であることが好ましい。
【0017】
ベースポリマーと添加剤を共に溶解するものであれば、共通溶媒の種類に特に制限はなく、例えばN、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−ビニルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどを挙げることができる。
【0018】
共通溶媒に不溶な微粉体としては、例えば酸化珪素、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等の金属酸化物、珪素、亜鉛、銅、鉄、アルミニウムなどの金属微粒子、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、燐酸ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等の無機化合物などを例示することができる。ベースポリマー、添加剤等の種類に応じて、微粉体の種類や添加量を適宜決めれば良い。溶液中で微粉体同士の分子間力が強く、凝集作用を起こしやすいものを微粉体として選定することが好ましい。中でも酸化珪素微粉体(シリカパウダー)が、平均粒径が小さく、かつ各種の粒径のものが市販されており、さらに紡糸原液中に分散させやすく凝集性を有する点で最良である。微粉体の平均粒径の大きさは1〜20μmの範囲が好ましく、2〜10μmの範囲がより好ましい。微粉体の平均粒径の大きさが1μm未満では、大きな分画粒子径を有する中空糸膜を得ることが困難である。平均粒径が5μmを越えるような大きな微粉体を用いる場合には、平均粒径が大きくなるにつれて微粉体同士の凝集作用が弱くなるために、ボイドの大きな不均質な中空糸膜ができやすくなる傾向になる。このため、平均粒径の小さな粒子を適宜混合したり、添加量を多くして微粉体の凝集作用をより有効に活用するなどの調製をする必要がある。ここで、「不溶」とは紡糸原液の溶解温度においてその溶解度が0.1g(微粉体)/100cc(溶媒)以下であることをいう。
【0019】
以上の組成からなる紡糸原液を、通常は脱泡した後に、2重環構造のノズルから吐出し、次いで凝固浴に浸漬させて中空糸膜を製膜する。製膜方法に関しては、ノズルから吐出された紡糸原液を、一旦、一定長の空気中に通し、しかる後に凝固浴中に導入する乾湿式紡糸法でも、ノズルより吐出された紡糸原液を直接凝固浴中に導入する湿式紡糸法でもいずれでも良い。乾湿式紡糸法によることが、中空糸膜の外面構造の制御が容易であり、また、透水性の高い中空糸膜を製造することが可能である点で好適である。
【0020】
中空糸膜の紡糸にあたっては、通常、ノズルから吐出された紡糸原液の形状を中空糸状に保持する目的で、2重環構造ノズルの内側に注入液が導入される。注入液の凝固速度を制御することで中空糸膜の内面構造を制御することができる。注入液は原液の溶媒と混和し、かつベースポリマーに対して凝固能力を有するものであれば特に制限はなく、水、水と溶媒の水溶液、アルコール類、グリコール類、エステル類や水や溶媒との混合物が挙げられる。また、注入液中にポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性親水性高分子を添加することによって、凝固段階での拡散によって親水性高分子を中空糸膜の内表面あるいは中空糸膜全体にコーティングすることが可能である。凝固液には、注入液と同様な組成の液が用いられる。
【0021】
乾湿式紡糸法では、ドライゾーンの長さ、温度、湿度などにより得られる中空糸膜の外表面構造が決定される。ドライゾーンの長さを長くするか、あるいはドライゾーンの温度又は湿度を高くすると相分離が進み外表面に形成される微孔の孔径は大きくなる傾向がある。ドライゾーンの長さが短く、例えば0.1cmであっても、ドライゾーンを経ない湿式紡糸法による場合とは全く異なった外表面構造の中空糸膜が得られる。なお、ドライゾーンを長くしすぎると紡糸安定性に影響を与えるので、通常0.1〜200cm、好ましくは0.1〜50cmの範囲に設定される。
【0022】
凝固浴で凝固した中空糸膜中には、共通溶媒、添加剤及び多量の微粉体を含有している。これらは、紡糸工程中、あるいは一旦巻き取られた後に、以下の操作によって中空糸膜から除去される。まず、中空糸膜中に残存する共通溶媒及び添加剤を水洗または、40〜90℃の温水洗によって抽出除去する。中空糸膜中に親水性高分子を残存させる場合は、上記の洗浄操作の後、必要に応じて親水性高分子を物理的または科学的に架橋構造化する。架橋構造化の方法は、親水性高分子の種類に応じて公知の方法を選択すればよい。例えば、親水性高分子がポリビニルアルコールの場合には、硫酸触媒の存在下にグルタルアルデヒド等のアルデヒド類によってアセタール化する方法が簡便である。
【0023】
次いで、上記微粉体を溶解するが中空糸膜のベースポリマーを溶解しない抽出溶媒によって中空糸膜中に残存する微粉体を抽出除去する。該粉体が抽出除去された跡に微孔が形成される。微粉体の抽出条件は、微粉体の95%以上、好ましくは100%が抽出されるように設定する必要がある。微粉体はポリスルホンのマトリックス中に存在しているため、微粉体の種類と抽出溶媒の溶解性によって異なるが、微粉体単独での溶解条件よりもかなり厳しく設定され、抽出温度および溶剤濃度を高くし、しかも抽出時間を長くする必要がある。たとえば、酸化珪素を抽出する場合であれば、抽出溶媒として5〜20重量%の水酸化ナトリウム水溶液を使用し、抽出温度は60℃以上、かつ抽出時間は30分以上という条件で中空糸膜を処理することが必要である。なお、微粉体の抽出除去は紡糸工程で行ってもよく、中空糸をモジュールとして成形した後、該モジュールの状態で行ってもよい。
【0024】
本発明による多孔質中空糸膜は、内部が網目状構造、ハニカム状構造、微細間隙構造などの微細多孔質構造を有している。中空糸膜内部には、いわゆるフィンガーライク状構造やボイド構造があっても良い。中空糸膜内部の微細多孔質構造が、分画粒子径および純水透過速度を決定する。
【0025】
上記のようにして製造された多孔質中空糸膜は、例えば枠やカセに巻き取った後に乾燥される。乾燥後の中空糸膜を所定の本数ずつ束ね、所定の形状のケースに収納された後、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等で端部を固定化することによって中空糸膜モジュールが得られる。中空糸膜モジュールとしては、中空糸膜の両端が開口固定されているタイプのもの、中空糸膜の一端が開口するように固定されており、他端が密封されているが固定化されていないタイプのもの等、種々の形態のものが公知である。中空糸膜モジュールはろ過装置に装着され、水の浄化など液体の分離・精製に使用される。
【0026】
本発明で使用される中空糸膜モジュールによるろ過の方式としては、外圧全ろ過、外圧循環ろ過、内圧循環ろ過などが挙げられ、所望の処理条件や処理性能に応じて適宜選択することができる。膜寿命の点では、分離膜表面の洗浄を同時に行うことのできる循環方式が好ましく、設備の単純さ、設置コスト、運転コストの点では全ろ過方式が好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る貯水槽の中空糸膜モジュールろ過システムを示す概略構成図および工程表である。このシステムは、プールWのような貯水槽の貯水(原液)を、中空糸膜モジュールAを介して循環ろ過するもので、中空糸膜モジュールAのほかに原液供給ポンプP1、薬液供給ポンプP2、消毒剤供給ポンプP3、各バルブAV1〜AV9、エアコンプレッサ8、ヘアキャッチャ9、薬液タンク10および中和タンク11を備えている。
【0028】
図2に示す中空糸膜モジュールAは例えば外圧全ろ過タイプであり、複数本の中空糸膜エレメント1とハウジング(ケース)2からなる。中空糸膜モジュールAは、仕切り板7によって原液側S1と膜ろ過水側S2に仕切られており、原液側S1には原液導入口3、気体排出口4および濃縮液排出口5を有し、膜ろ過水側S2には、膜ろ過水出口(加圧気体入口兼用)6を備えており、原液導入口3から導入された原液をろ過して、膜ろ過水出口6から膜ろ過水を排出する。
【0029】
原液供給ポンプP1と原液導入口3間に原液入口バルブAV1が接続され、気体排出口4に気体排出口バルブAV3および薬液出口バルブAV8が接続され、濃縮液排出口5に濃縮液排出口バルブAV4および薬液出口バルブAV9が接続されている。薬液出口バルブAV8、AV9からの薬液は薬液タンク10へ排出される。膜ろ過水出口6に膜ろ過水出口バルブAV2が接続され、膜ろ過水出口(加圧気体入口)6とエアコンプレッサ8間に加圧気体導入口バルブAV5が接続され、薬液供給ポンプP2と原液導入口3間に薬液入口バルブAV7が接続されている。薬液供給ポンプP2、薬液入口バルブAV7、薬液出口バルブAV8、AV9、および薬液タンク10により、薬品循環装置15が構成される。
【0030】
原液供給ポンプP1と膜ろ過水出口バルブAV2間にはバイパスラインL1が設けられており、バイパスラインL1にバイパスバルブAV6が設けられている。本発明にかかる貯水バイパス装置17は、これら原液供給ポンプP1、バイパスラインL1およびバイパスバルブAV6により構成される。
【0031】
図1の工程表に基づいて、以下、本システムの動作を説明する。
膜ろ過工程
(No.1)充水工程
すべてのバルブを閉じた状態から、気体排出口バルブAV3、原液入口バルブAV1および膜ろ過水出口バルブAV2を開き、原液供給ポンプP1を作動させる。プールWの原液をヘアキャッチャ9で毛髪類等を分離処理したうえで中空糸膜モジュールAの原液側S1に導入し、気体排出口バルブAV3から原液を溢れさせる。充水は例えば数秒間で行われる。
(No.2)ろ過工程
気体排出口バルブAV3から原液を溢れさせた後、原液入口バルブAV1および膜ろ過水出口バルブAV2を開いた状態で、気体排出口バルブAV3を閉じてろ過を開始する。ろ過は30分〜1時間程度行われる。例えば、分画粒子径が2.5μmの中空糸膜モジュールAを用いると、膜面積が1mあたり0.5〜2m/Hのろ過処理を行うことができる。
【0032】
この膜ろ過工程(No.1-No.2)の間、消毒剤供給ポンプP3は作動しており、中空糸膜モジュールAからの膜ろ過水とともに、次亜塩素酸ナトリウムのような消毒剤がプールW内に供給されている。
【0033】
物理洗浄(逆洗)工程
(No.3) 逆洗工程
ろ過時間の経過に伴い中空糸膜エレメント1の膜表面には溶解物質やSS(懸濁物質)が付着し、ろ過能力が低下するため、所定時間ごとにろ過を停止して、中空糸膜の物理洗浄(逆洗)を行う。すなわち、前記膜ろ過工程で開いている原液入口バルブAV1および膜ろ過水出口バルブAV2を閉じてろ過を停止し、次いでエアコンプレッサ8を作動させながら気体排出口バルブAV3および加圧気体導入口バルブAV5を開く。そして、中空糸膜の膜ろ過水側S2に導入された加圧エアーが中空糸膜を通過して原液側に抜ける圧力よりも大きい圧力の加圧エアーを中空糸膜モジュールAの膜ろ過水側S2に導入して気体逆洗操作を例えば約3〜5秒間行う。この例では気体(ガス)逆洗を行っているが、気体に代えて液体(膜ろ過水)を用いる液体逆洗や、バブリング洗浄などを行ってもよい。
(No.4) 排水工程
逆洗を行った後、加圧気体導入口バルブAV5を閉じ、その後濃縮液排出口バルブAV4を開いて原液側S1に滞留している濃縮液を系外へ排出する。この排水は例えば30秒間程度行われる。
【0034】
この物理洗浄工程(No.3-No.4)の間でも、消毒剤供給ポンプP3は作動している。そして、本発明では原液供給ポンプP1も作動を継続している。物理洗浄工程の間、バイパスバルブAV6を開き、原液が、原液入口バルブAV1が閉じられているため中空糸膜モジュールAを経由することなく、バイパスラインL1を通して直接プールに供給循環されるので、原液とともに消毒剤供給ポンプP3によって消毒剤がプールW内に供給される。これにより、物理洗浄を行う間でも、プールWに消毒剤が供給されるので、容易に原液(プール水)の消毒維持が可能となる。
【0035】
(No.5)繰り返し工程
膜ろ過工程と物理洗浄工程(No.1-No.4)が繰り返し行われる。この繰り返し工程は、例えば5〜50回程度行われる。
【0036】
薬品洗浄工程
(No.6)薬液循環工程
ある程度、中空糸膜に目詰まりが進行した所定時間ごとにろ過を停止して、薬品洗浄を実施する。すなわち、まず薬液タンク10にシュウ酸のような所定の薬品を所定濃度(0.5〜5重量%)で満たし、次いで中空糸膜モジュールA内の水をすべて排出し、すべてのバルブが閉じた状態から薬液入口バルブAV7および薬液出口バルブAV8を開き、薬液供給ポンプP2を起動させて中空糸膜モジュールAの原液側S1に薬液を導入し、薬液出口バルブAV8から溢れさせて薬液タンク10に戻し、所定時間(例えば15分)循環させる。このように、洗浄に使用した薬品を繰り返し使用するので、低コスト化を図ることができる。この際、薬液供給ポンプP2を停止し、薬液入口バルブAV7を閉じて循環を停止し、所定時間浸漬静置することも可能であり、循環と浸漬静置とを組み合わせて実施することも可能である。また薬液の一部または全量をろ過して洗浄することも可能である。さらに循環や浸漬静置と気体逆洗などの物理洗浄操作とを組み合わせて実施することも可能である。
【0037】
(No.7)排液工程
薬液を循環させた後、薬液出口バルブAV9を開いて、濃縮液排出口5からの薬液を薬液タンク10に排出する。この排液は30秒間程度行われる。
【0038】
この薬品洗浄工程(No.6-No.7)の間でも、物理洗浄工程(No.3-No.4)と同様に、消毒剤供給ポンプP3が作動し、原液供給ポンプP1も作動を継続している。薬品洗浄工程の間、バイパスバルブAV6を開き、原液が、原液入口バルブAV1が閉じられているため中空糸膜モジュールAを経由することなく、バイパスラインL1を通して直接プールWに供給循環されるので、原液とともに消毒剤供給ポンプP3によって消毒剤がプールW内に供給される。これにより、薬品洗浄を行う間でも、プールWに消毒剤が供給されるので、容易に原液(プール水)の消毒維持が可能となる。
【0039】
このように、本発明では、物理洗浄または薬品洗浄の際であっても、原液をバイパスさせて消毒剤注入が行われるので、プールW内の塩素濃度を維持することができる。また、原液供給ポンプP1を停止させないことから、ON/OFF繰り返しによるポンプの故障を回避できる。
【0040】
(No.8)繰り返し工程
薬液循環工程と排液工程(No.6-No.7)は例えば2回以上繰り返し行うことで、薬品洗浄効果が増大する場合がある。
【0041】
上記薬品洗浄工程で使用する薬品としては、従来公知の種々の薬品を使用することが可能であり、除去したい膜付着物質や中空糸膜モジュールAの耐薬品性に応じて適宜選択することが可能である。例えば酸系薬品では、無機酸として塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられ、有機酸として前記したシュウ酸のほかに、酢酸、クエン酸、アスコルビン酸などが挙げられ、アルカリ系薬品として水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、酸化剤として過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウムなどが挙げられ、キレート化剤としてエチレンジアミン四酢酸およびその塩類などが挙げられる。その他各種洗浄剤を使用することも可能である。
【0042】
使用する薬品の濃度、中空糸膜との接触時間、温度などの各条件は、膜付着物質の種類および量、使用する薬品、中空糸膜モジュールの耐薬品性などにより、適宜選択することが可能である。
【0043】
上記薬品洗浄工程では、例えば上記のような条件で薬品洗浄操作を実施した後、中空糸膜モジュール内の薬液を排出するが、その後再度同様の手法で薬品洗浄操作を繰り返してもよい。繰り返し回数としては2回以上で任意の回数を選択することができ、1回目と2回目以降の薬品洗浄時間はそれぞれ同一であっても、異なる時間でもよい。例えば2時間の循環および/または静置浸漬を行う場合、例えば1時間後に一旦薬液を排出し、その後、再度1時間の薬品洗浄を行うことで、一括して2時間薬品洗浄する場合に比較して、洗浄効果を顕著に向上させることが可能となる。また、例えば1回目の薬品洗浄操作では薬液の循環を行い、2回目は静置浸漬するなど、各薬品洗浄工程は同一の操作であっても、異なる操作を行ってもよい。
【0044】
さらに、上記薬品洗浄工程では、1度以上薬品洗浄に使用した薬液を廃棄することなく、必要に応じて新たに薬品または高濃度の薬液を適量追加して繰り返し2回以上使用することで、薬品洗浄ごとに薬液を排出することなく長期間使用可能となることから、廃液量を大幅に減少させることができる。
【0045】
薬品洗浄に使用する薬液は、一般に薬品洗浄に使用することにより有効成分が消費されたり、膜付着物質が薬液中に移行することにより、溶解物質や懸濁物質量が増大して洗浄能力が低下する。この薬品洗浄方法では、1度以上薬品洗浄に使用した薬液を廃棄することなく繰り返し2回以上使用するが、何らかの方法で薬液の洗浄能力を評価することが望ましい。最も直接的には、薬品洗浄での回復性を評価することで判断できるが、例えば酸系薬品やアルカリ系薬品ではpH(水素イオン濃度)、次亜塩素酸ナトリウムでは有効塩素濃度など、薬品に応じて適切な分析を行うことで判断することも可能である。1度以上薬品洗浄に使用し、洗浄能力の低下や有効成分濃度の低下などが生じた薬液は、新しい薬液に交換することもできるが、廃棄することなく薬品そのものまたは該薬品の高濃度溶解品などを継ぎ足し使用することも可能である。
【0046】
前記薬品洗浄工程(No.6-No.7)で、薬液を繰り返し使用する際、薬液にプール水が混入することにより、(No.7)排液工程において薬液タンク10内の薬液がオーバーフローする場合がある。この場合、薬液は酸またはアルカリであることが多いことから、排出に際しては、中和タンク11により中和処理を行うことが好ましい。
【0047】
物理洗浄(逆洗)工程
(No.9) 逆洗工程
薬品洗浄後に、加圧気体導入口バルブAV5および薬液出口バルブAV8を開き、上記と同様に逆洗を行う。
(No.10) 排液工程
逆洗を行った後、加圧気体導入口バルブAV5を閉じ、その後薬液出口バルブAV9を開いて原液側S1に滞留している濃縮液を系外へ排出する。
(No.11)
(No.1)に戻って、No.1-No.10の工程を繰り返す。なお、酸などの希釈化のため、必要に応じて(No.10)排液工程の後に、水洗などの洗浄操作を行ってもよい。
【0048】
上述した膜ろ過、物理洗浄、薬品洗浄などの一連の工程は、制御装置によってシーケンスコントロールを行うことにより自動的に行うようにすることが可能である。また、膜ろ過工程と物理洗浄工程とをシーケンスコントロールにより連続的に繰り返し、目詰まりが大きくなった時点で手動により薬品洗浄する、いわゆるセレクトスイッチ方式で長期間安定的に運転を継続することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る貯水槽の中空糸膜モジュールろ過システムを示す概略構成図および工程表である。
【図2】図1の中空糸膜モジュールを示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0050】
A:中空糸膜モジュール
W:プール
1:中空糸膜エレメント
2:ケース
3:空間部
3:原液導入口
4:気体排出口
5:濃縮液排出口
6:膜ろ過水出口
8:エアコンプレッサ
10:薬液タンク
15:薬品循環装置
17:貯水バイパス装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分画粒子径が1〜10μmの多孔質中空糸膜からなるモジュールを備え、貯水槽の貯水を該モジュールを介して循環ろ過するとともに、所定時間ごとにろ過を停止して、中空糸膜を物理洗浄および薬品洗浄する貯水槽のろ過システムであって、
ろ過を停止して物理洗浄または薬品洗浄する際に、貯水を中空糸膜モジュールを経由することなく循環させて貯水槽に消毒剤を供給する貯水バイパス装置を設けた貯水槽の中空糸膜モジュールろ過システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記多孔質中空糸膜の分画粒子径が2〜5μmである貯水槽の中空糸膜モジュールろ過システム。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−43507(P2006−43507A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224188(P2004−224188)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】