説明

貯留施設の遮水構造

【課題】遮水シートの破損箇所の修復において、短い工期で済み、応急処理にも適した貯留施設の遮水構造を提供する。
【解決手段】本発明は、貯留施設の底部15に敷設された下部遮水シート4と、その上方に敷設された上部遮水シート5と、両シート4,5の間に設けられ水平方向において複数に区画された中間保護土層11とを備え、中間保護土層11内には、吐出部12を有する注入管3が複数配設され、吐出部が区画16ごとに配設されている貯留施設の遮水構造1である。上部遮水シート5側には、印加電極7及び測定電極8が各区画に対応して設けられているため、通電が検出された測定電極の位置により、上部遮水シートの破損箇所13を特定できる。その区画に配設された注入管3から緩結性注入材14を注入すると、その区画内が緩結性注入材で満たされながら、緩結性注入材が破損箇所に到達し、破損箇所が修復される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯留施設の遮水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種廃棄物の処分、又は、土砂等の一時保存の目的で使用される貯留施設では、貯留物に含まれている有害物質が汚染水として外部に漏出することを防ぐために、底部に遮水シートが敷設される場合がある。この場合、遮水シートの表面を保護するために、保護土によって遮水シートを覆うことが一般的である。
【0003】
遮水シートが敷設された貯留施設においては、遮水シートが破損することがある。遮水シートが破損した場合、破損箇所から貯留施設内の汚染水が漏出することを防ぐために、破損位置を早急に特定し、破損箇所を修復する必要がある。
【0004】
遮水シートの破損位置を電気検知により検出する方法が知られている。破損位置の検出方式として、例えば特許文献1には、遮水シートの上側に設けられた第1の電極、及び、遮水シートの下側に設けられ、複数の線状電極を格子状になるように配置すると共にそれらの交点部分に絶縁処理部を施してなる第2の格子状の線状電極等を含む構成において、線状電極に流れる電流を測定することにより二次元の座標で遮水シートの破損位置を求める漏水発生位置検出方式が開示されている。これによれば、従来よりも短い測定時間で破損位置を特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3622172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記検出方式により破損位置を特定した後、破損箇所を修復するためには、破損位置周辺の貯留物を重機等により取り除き、次いで遮水シートを覆う保護土を掘削して、遮水シートの破損箇所を露出させる必要がある。このため、破損箇所の修復に際し、工期を要し、応急性の観点から対応が難しい場合がある。
【0007】
そこで本発明は、遮水シートの破損箇所の修復において、短い工期で済み、応急処理にも適した貯留施設の遮水構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の貯留施設の遮水構造は、貯留施設の底部に敷設された下部遮水シートと、下部遮水シートの上方に敷設された上部遮水シートと、下部遮水シートと前記上部遮水シートの間に設けられた中間保護土層と、を備え、中間保護土層は、水平方向において複数に区画され、上部遮水シートは、上下いずれか一方の側で区画に対応して設けられ電圧を印加する印加電極と、他方の側で区画に対応して設けられ上部遮水シートが破損したときの漏水に基づいて印加電極と通電される測定電極とを備え、中間保護土層内には、中間保護土層に浸透する緩結性注入材が吐出される吐出部を有する注入管が複数配設され、複数の注入管の吐出部は、区画ごとにそれぞれ配設されている。
【0009】
この貯留施設の遮水構造では、上部遮水シートが破損した場合に、上部遮水シートの上に溜まっていた水が破損箇所から中間保護土層に浸み出し、水を介して印加電極と測定電極とが通電する。また、印加電極及び測定電極は各区画に対応して設けられているため、通電が検出された測定電極の位置により、上部遮水シートの破損箇所が特定される。そして、破損箇所に対応する区画に配設された注入管から緩結性注入材が注入されると、緩結性注入材が中間保護土層に浸透し、その区画内の中間保護土層が緩結性注入材で満たされながら、緩結性注入材が破損箇所に到達する。注入された緩結性注入材は、やがて凝固し、破損箇所が緩結性注入材により修復されることとなる。破損箇所がこのように修復されることが可能であると、修復に際して従来のように保護土を掘削して遮水シートの破損箇所を露出させる必要がなく、修復が短い工期で済み、応急処理にも適する。
【0010】
ここで、中間保護土層は、仕切り部により複数に区画されていることが好ましい。この場合、中間保護土層に緩結性注入材を注入した際に、仕切り部が緩結性注入材の中間保護土層への浸透を堰き止めることになる。これにより、緩結性注入材が水平方向へ浸透する範囲が制限されるとともに、鉛直方向への浸透が早く進み、破損箇所に緩結性注入材をより早く到達させることができる。
【0011】
また、仕切り部は、瞬結性注入材を中間保護土層中に注入することで形成されたものであることが好ましい。この場合、中間保護土層を設けた後に、中間保護土層の表面において、区画すべき箇所に狙いを定めて瞬結性注入材を注入して仕切り部を形成するため、施工が簡便である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、遮水シートの破損箇所の修復において、短い工期で済み、応急処理にも適した貯留施設の遮水構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る貯留施設の遮水構造の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の貯留施設の遮水構造における区画と注入管との配置関係を示す平面図である。
【図3】図1の貯留施設の遮水構造を示す要部拡大断面図である。
【図4】図3の平面図である。
【図5】区画内に注入材が充填された状態を示す断面図である。
【図6】本発明に係る貯留施設の遮水構造の他の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しつつ本発明に係る貯留施設の遮水構造の好適な実施形態について説明する。
【0015】
貯留施設の一例として知られる処分場において、遮水構造1は、図1に示されるように、処分場Aの底部15に敷設される遮水工であって、その内部は仕切り部2によって水平方向において複数に区画されている。そして、区画16内には、区画16の外部から延びる注入管3が配設されている。なお、図1に示された処分場Aの遮水構造1では、図示の便宜上、仕切り部2と注入管3以外の構成が省略されている。
【0016】
図2に示されるように、仕切り部2により、一辺が2m〜25mの碁盤目状の区画16が形成されている。注入管3は、仕切り部2を貫通して各区画16内に延びている。注入管3の先端側には、後述する緩結性注入材を吐出する多数の孔(吐出部)12が形成され、注入管3の孔12は、区画16ごとにそれぞれ配設されている。ここで、施工の便宜上、注入管3が仕切り部2を貫く部分を少なくするために、処分場Aの周囲から注入管3を這わせることが好ましい。
【0017】
図3及び図4に示されるように、処分場Aの遮水構造1は、2枚の遮水シートを備える二重遮水構造であって、下部遮水シート4と、上部遮水シート5とを具備している。
【0018】
下部遮水シート4及び上部遮水シート5はいずれも、大きさが十数m×数十m、厚さが1.5mm〜2.0mmのシート生地を並べて熱融着させたものである。下部遮水シート4及び上部遮水シート5はそれぞれ上下に、シートを物理的に保護するために透水性の高い不織布6a,6bを備えている。
【0019】
上部遮水シート5は、その上側の不織布6aに沿って配置され且つ電圧の印加が可能な印加電極7と、下側の不織布6bに沿って配置されて、上部遮水シート5が破損したときの漏水に基づいて印加電極7と通電される測定電極8と、を備えている。印加電極7及び測定電極8は、図4に示されるように、各区画16に対応して設けられている。なお、図4では便宜上、遮水シート等、一部の構成を図示していない。
【0020】
測定電極8は、水平二次元方向に配置され、区画16毎にそれらが交差するように配置されている。測定電極8の交点には、直交する測定電極8a,8bが互いに通電しないように、絶縁部9が設けられている。
【0021】
印加電極7及び測定電極8はそれぞれ、配線を介して外部の漏水検出装置(図示せず)に接続されており、測定時において、漏水検出装置によってそれぞれに電流が流れる。
【0022】
下部遮水シート4と上部遮水シート5の間には、中間保護土層11が設けられている。中間保護土層11としては、水に対する浸透性を有する砂又は土等が用いられ、10cm〜100cmで敷設されている。後述する注入材を均等に浸透させる観点から、区画16内において、中間保護土層11はできるだけ均一にすることが好ましく、中間保護土層11内には、注入管3が配設されている。
【0023】
中間保護土層11の内部は、上述のように仕切り部2によって水平方向において複数に区画されている。仕切り部2は、下部遮水シート4、注入管3及び中間保護土層11を設置した後に、中間保護土層11の表面において、区画すべき箇所に狙いを定めて、例えば水ガラス系の瞬結性注入材を注入することで形成される。
【0024】
ここで、仕切り部2とは、透水係数が中間保護土層11の透水係数よりも一桁以上小さく、かつ、中間保護土層11と同等の高さを有する部分をいう。
【0025】
処分場Aの遮水構造1の上方には、保護土10が敷設されている。保護土10は、処分場Aに投入される廃棄物や処分場A内に乗り入れる重機や車両等から上部遮水シート5を保護する役割を果たすものであり、任意の厚さを有している。
【0026】
次に、図5を参照しながら処分場Aの遮水構造1の作用を説明する。図5は、区画16内に緩結性注入材14が充填された状態を示す断面図である。
【0027】
処分場A内には通常、有機物の分解や雨に由来する汚染水が溜まっている。処分場Aの遮水構造1において上部遮水シート5が破損した場合には、上部遮水シート5の上に溜まっていた汚染水が破損箇所13から中間保護土層11に浸み出し、印加電極7に電流を流すと、汚染水を介して印加電極7と測定電極8とが通電するようになり、電流値が変化することとなる。従って、漏水検出装置によって、例えば一日一回の定期的な測定により、上部遮水シート5が破損していないかどうかを確認することができる。
【0028】
印加電極7及び測定電極8は各区画16に対応して設けられており、かつ、測定電極8は水平二次元方向に配置されているため、通電が起こった場合には、通電が検出された測定電極8の位置により上部遮水シート5の破損箇所を特定することができる。
【0029】
破損箇所を修復するためには、破損箇所に対応する区画16に配設された注入管3を通じて、緩結性注入材14を注入する。緩結性注入材14を注入すると、緩結性注入材14が中間保護土層11に浸透し、その区画16内の中間保護土層11が緩結性注入材14で満たされながら、緩結性注入材14が破損箇所13に到達する。
【0030】
このとき、中間保護土層11を区画する仕切り部2は、透水係数が中間保護土層11の透水係数よりも一桁以上小さく、かつ、中間保護土層11と同等の高さを有するものであるため、中間保護土層11に緩結性注入材14を注入した際に、仕切り部2が緩結性注入材14の中間保護土層11への浸透を堰き止めることになる。これにより、緩結性注入材14が水平方向へ浸透する範囲が制限されるとともに、鉛直方向への浸透が早く進み、破損箇所13に緩結性注入材14がより早く到達することとなる。
【0031】
注入された緩結性注入材14は、やがて凝固し、破損箇所13が緩結性注入材14により修復される。
【0032】
ここで緩結性注入材14としては、凝固した後の遮水性が高いことに加え、溶液又は微細粒懸濁液であってゲルタイムの調整が可能であり、中間保護土層11への浸透に際して材料分離を起こさない材料(例えば、ポリビニルアルコール水溶液)を好適に使用することができる。
【0033】
破損箇所13を上述のように修復することが可能であると、修復に際して従来のように保護土を掘削して遮水シートの破損箇所を露出させる必要がなく、修復が短い工期で済み、応急処理にも適する。
【0034】
図6は、本発明に係る貯留施設の遮水構造の他の実施形態を示す断面図である。本実施形態の処分場Bの遮水構造20が前述の実施形態のものと異なる点は、下部遮水シート4と中間保護土層11との間に粘土層17を設けて三重遮水構造とした点である。このように粘土層17(例えば、ベントナイト混合土)を使用すると、遮水性がより高くなる。
【0035】
以上、本発明に係る貯留施設の遮水構造の好適な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0036】
例えば、上記二つの実施形態では、二重の遮水シートのうち、上部遮水シート5の側にのみ印加電極7及び測定電極8を備える構成としたが、下部遮水シート4の側にも印加電極7及び測定電極8を備える構成としてもよい。この場合、下部遮水シート4が破損していないかどうかを点検することができ、下部遮水シート4のみが破損していた場合でも破損箇所を修復することができる。なお、図6の実施形態において下部遮水シート4の破損を修復するためには、粘土層17と下部遮水シート4との間にも、中間保護土層及び注入管を設ける必要がある。
【0037】
また、上部遮水シートの上側に印加電極、下側に測定電極を備える構成としたが、これに代えて上側に測定電極、下側に印加電極を備える構成としてもよい。
【0038】
また、区画の形状は四角形に限定されない。更に、仕切り部を瞬結性注入材の注入により形成することに代えて、型枠による現場打ち又は樹脂成形された仕切り板により形成してもよい。
【0039】
また、本発明が適用される貯留施設は、処分場に限定されない。例えば、土砂等の一時保存を目的とした施設に対しても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1,20…処分場(貯留施設)の遮水構造、2…仕切り部、3…注入管、4…下部遮水シート、5…上部遮水シート、6a,6b…不織布、7…印加電極、8…測定電極、9…絶縁部、10…保護土、11…中間保護土層、12…孔(吐出部)、13…破損箇所、14…緩結性注入材、15…底部、16…区画、17…粘土層、A…処分場(貯留施設)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留施設の底部に敷設された下部遮水シートと、
前記下部遮水シートの上方に敷設された上部遮水シートと、
前記下部遮水シートと前記上部遮水シートの間に設けられた中間保護土層と、を備え、
前記中間保護土層は、水平方向において複数に区画され、
前記上部遮水シートは、上下いずれか一方の側で前記区画に対応して設けられ電圧を印加する印加電極と、他方の側で前記区画に対応して設けられ前記上部遮水シートが破損したときの漏水に基づいて前記印加電極と通電される測定電極とを備え、
前記中間保護土層内には、前記中間保護土層に浸透する緩結性注入材が吐出される吐出部を有する注入管が複数配設され、
前記複数の注入管の前記吐出部は、前記区画ごとにそれぞれ配設されている貯留施設の遮水構造。
【請求項2】
前記中間保護土層は、仕切り部により複数に区画されている請求項1に記載の貯留施設の遮水構造。
【請求項3】
前記仕切り部は、瞬結性注入材を前記中間保護土層中に注入することで形成されたものである請求項2に記載の貯留施設の遮水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−10059(P2013−10059A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143014(P2011−143014)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】