説明

貯蔵石炭の水分低減方法

【課題】低品位炭の含水率低減効果に優れ、容易かつ安価に処理することができ、自然発火の虞がなく、低品位炭の発熱量増加、輸送コスト削減及び各種石炭処理の熱効率改善に好適な、貯蔵石炭の水分低減方法を提供すること。
【解決手段】含水率が20%以上の低品位炭の粒子の表面に、HLBが11以上の非イオン界面活性剤水溶液を散布する工程と、前記非イオン界面活性剤水溶液が散布された低品位炭を乾燥する工程とを含むことを特徴とする貯蔵石炭の水分低減方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、炭鉱、コールセンター、石炭火力発電所、石炭液化プラント、石炭ガス化プラント、石炭改質プラントなどの各種石炭処理プラントの貯炭場で貯蔵されている低品位炭の含水率を効果的に低減することができ、低品位炭の発熱量増加、輸送コスト低減及び各種石炭処理の熱効率改善に好適な、貯蔵石炭の水分低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭は、石油に比べて供給安定性が高く、安価であるために、世界中の国々において重要なエネルギー資源として位置づけられている。石炭は、発熱量が高い高品位炭(無煙炭、瀝青炭など)と、比較的発熱量が低い低品位炭(亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭など)とに大別される。低品位炭の賦存埋蔵量は、高品位炭の賦存埋蔵量と同程度又はそれ以上と言われているが、発熱量が低いことから、高品位炭に比べるとほとんど有効利用されていない。
【0003】
低品位炭の発熱量が低い主な理由としては、含水率が高いことが挙げられる。低品位炭の含水率は、通常20〜30質量%であり、多いと50質量%以上にもなる。また、含水率が高いと輸送コストがかかるので、この点も低品位炭が有効利用されない一因となっている。したがって、低品位炭の含水率を低減させることで、低品位炭の発熱量増加、輸送コストの削減及び各種石炭処理の熱効率改善を実現し、低品位炭を有効利用できる技術が強く求められている。
【0004】
従来、低品位炭の含水率を低減させる技術としては、低品位炭を直接又は間接に加熱して水分を蒸発乾燥させる方法、並びに、低品位炭の表面に化学変化を与え、水を引き出す非蒸発の乾燥方法が提案されている。
前者の蒸発脱水方法としては、(1)低品位炭を、低圧飽和蒸気で回転式の熱交換器を用いて、120〜130℃の温度で間接加熱によって水分を蒸発させて改質炭を得る方法(スチームドライヤー法)、(2)低品位炭を三段の振動流動床に接触させて約300℃で乾燥し、毛細管水の除去を行い水分を蒸発させて改質炭を得る方法(シンコール法)、(3)低品位炭を回転円盤型の格子に導入した後、熱ガスを吹き込み、約540℃で熱分解させて乾燥炭とタールを得る方法(LFC法)、(4)低品位炭を石油系軽質留分と混合してスラリーとし、更に少量の重質を添加したものに対し、150〜200℃の温和な条件で蒸気により間接加熱して水分を蒸発除去後、軽質油分を加熱除去し、脱水炭の細孔に上記重質油を吸着させる処理を行うことで、自然発火が抑制された脱水炭を得る方法(UBC法)等が知られている(特許文献1、非特許文献1、2参照)。
【0005】
また後者の非蒸発脱水方法としては、(5)低品位炭を圧力下約250℃の過熱蒸気に接触させ、石炭表面の親水性官能基を分解除去して水を液状で浸出除去する方法(K−Fuel法)、(6)低品位炭に水を加えて水スラリーとした後に、高圧(約100atm)、高温(約300℃)下で石炭表面の親水性官能基を分解除去して水を液状で浸出除去する方法(熱水処理法)等がある(特許文献2、3および非特許文献1、2参照)。
しかしながら、これらの処理方法は、水分含量を低減することは出来るものの、特殊な装置を必要とすること、石炭全量を装置にかけるために処理コストが非常に高価なものになってしまうことなど、多くの問題点を有しており、経済的な工業的規模の生産には不向きである。
【0006】
したがって、低品位炭の含水率低減効果に優れ、容易かつ安価に処理することができ、自然発火の虞がなく、低品位炭の発熱量増加、輸送コスト削減及び各種石炭処理の熱効率改善に好適な、貯蔵石炭の水分低減方法は、未だ満足なものが提供されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2001−55589号公報
【特許文献2】特開平7−166180号公報
【特許文献3】特開昭62−50393号公報
【非特許文献1】日本エネルギー学会誌、第80号巻第4号(2001)、P207−214、石炭の改質技術
【非特許文献2】日本エネルギー学会誌、第86号巻第10号(2007)、P822−827、低品位炭の改質技術
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、低品位炭の含水率低減効果に優れ、容易かつ安価に処理することができ、自然発火の虞がなく、低品位炭の発熱量増加、輸送コスト削減及び各種石炭処理の熱効率改善に好適な、貯蔵石炭の水分低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、含水率が20質量%以上の低品位炭の粒子の表面に、HLBが11以上の非イオン界面活性剤水溶液を散布し、前記非イオン界面活性剤水溶液が散布された低品位炭を自然乾燥したところ、非イオン界面活性剤を散布しなかった低品位炭に比べて、低品位炭の含水率が顕著に低下しており、発熱量が高く有効利用可能な石炭を提供できることを知見した。
【0009】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 含水率が20質量%以上の低品位炭の粒子の表面に、HLBが11以上の非イオン界面活性剤水溶液を散布する工程と、前記非イオン界面活性剤水溶液が散布された低品位炭を乾燥する工程とを含むことを特徴とする貯蔵石炭の水分低減方法である。
<2> 低品位炭の粒子の総表面積をSとし、非イオン界面活性剤水溶液に含有されるHLBが11以上の非イオン界面活性剤の質量をSaとした際に、Sa/Sで表される低品位炭の粒子の総表面積当たりの非イオン界面活性剤の散布量Adが、0.2〜5g/mとなるように散布する<1>に記載の貯蔵石炭の水分低減方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来技術における前記諸問題を解決することができ、低品位炭の含水率低減効果に優れ、容易かつ安価に処理することができ、自然発火の虞がなく、低品位炭の発熱量増加、輸送コスト削減及び各種石炭処理の熱効率改善に好適な、貯蔵石炭の水分低減方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の貯蔵石炭の水分低減方法は、含水率が20質量%以上の低品位炭の粒子の表面に、HLBが11以上の非イオン界面活性剤水溶液を散布する工程((a)工程)と、前記非イオン界面活性剤水溶液が散布された低品位炭を乾燥する工程((b)工程)とを含んでなり、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0012】
<(a)工程>
−低品位炭−
本発明における低品位炭としては、含水率が20質量%以上の石炭である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、本発明の方法による水分低減効果が高い点で、含水率が25質量%以上の石炭がより好ましい。
前記含水率が20質量%以上の石炭としては、例えば、亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭などが挙げられる。前記含水率が25質量%以上の石炭としては、例えば、亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭などが挙げられる。
【0013】
前記含水率は、例えば、石炭を細かく粉砕し、目開き0.18mmの篩を通過した試料を、相対湿度75%、温度22℃のデシケータ内で48時間保存した後の質量をMとし、107±2℃の恒温層内で60分乾燥した後の質量をMとしたときに、下記(1)式により算出することができる。
含水率(質量%)=(M−M)/M×100 ・・・(1)
【0014】
なお、本発明の貯蔵石炭の水分低減方法に適用される石炭は、必ずしも前記低品位炭のみで構成される必要はなく、その一部に高品位炭などが含有されていてもよい。
【0015】
−非イオン界面活性剤水溶液−
前記非イオン界面活性剤水溶液は、水を溶媒とする溶液中に、HLBが11以上の非イオン界面活性剤が含有されてなり、必要に応じてその他の成分を含有する。
【0016】
前記HLBとは、界面活性剤の親水・親油バランスを示す尺度であり、Griffin法に基づく下記(2)式により算出することができる。
HLB=20×Mw/M ・・・(2)
〔但し、前記(2)式中、Mwは親水基の式量、Mは界面活性剤の分子量を表す。なお、非イオン界面活性剤がオキシアルキレン基を有する場合には、オキシアルキレン基のうちオキシエチレン基のみを親水基として算出する。〕
【0017】
前記非イオン界面活性剤のHLBとしては、11以上である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、11〜19がより好ましい。前記HLBが11未満であると、低品位炭の含水率が低下しない場合がある。
【0018】
前記HLBが11以上の非イオン界面活性剤としては、例えば、高級アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル、高級アルキルアミン、脂肪酸アミド、油脂などに対し、アルキレングリコールを付加した構造をもつポリオキシアルキレングリコール系非イオン界面活性剤が挙げられる。中でも、下記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル系非イオン界面活性剤、及び、下記一般式(II)で表される脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなるエステル型非イオン界面活性剤が特に好ましい。前記非イオン界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
R1−O−(AO)n−H (I)
R2−CO−(AO)n−O−R3 (II)
〔但し、一般式(I)及び(II)中、
R1,R2:炭素数8〜22の、直鎖又は分岐のアルキル基、
R3:炭素数1〜22の、直鎖又は分岐のアルキル基、
AO:炭素数2〜4のオキシアルキレン基、
n:平均付加モル数5〜40、を示す。〕
【0019】
前記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル系非イオン界面活性剤の具体的な例としては、ポリオキシエチレンデシルエーテル(n=5以上)、ポリオキシエチレンドデシルエーテル(n=5以上)、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル(n=6以上)、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル(n=7以上)、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル(n=7以上)、ポリオキシエチレンC12〜C14合成アルコールエーテル(n=7以上)、などが挙げられる。
【0020】
なお、前記一般式(I)中、R1がアルキルフェニル基を有する構造であると、前記非イオン界面活性剤が野外で散布された場合には、土壌に染み込むことが予想され、環境への影響が懸念される。したがって、前記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル系非イオン界面活性剤としては、R1がアルキルフェニル基を有しないことが好ましい。
【0021】
前記一般式(II)で表される脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなるエステル型非イオン界面活性剤の具体的な例としては、ポリオキシエチレンラウリン酸メチルエステル(n=6以上)、ポリオキシエチレンミリスチン酸メチルエステル(n=7以上)、ポリオキシエチレンパルミチン酸メチルエステル(n=8以上)、ポリオキシエチレンステアリン酸メチルエステル(n=9以上)、などが挙げられる。
【0022】
前記非イオン界面活性剤水溶液における前記非イオン界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、1〜20質量%が好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜15質量%が更に好ましい。前記含有量が、1質量%未満であると、前記非イオン界面活性剤水溶液の散布効率が低下したり、過剰発泡が起こったりする虞がある。前記含有量が20質量%を超えると、前記非イオン界面活性剤水溶液が増粘し、均一な散布の妨げになる虞がある。
【0023】
前記非イオン界面活性剤水溶液に用いられる前記水としては、特に制限はなく、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。
【0024】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、自然発火防止剤、炭塵防止剤、昇温防止剤、添加剤などが挙げられる。前記添加剤としては、例えば、低級アルコール、ハイドロトロープ、水溶性高分子物質などが挙げられる。
【0025】
−散布−
前記(a)工程における非イオン界面活性剤水溶液の散布方法としては、低品位炭の粒子の表面に散布できる限り、特に制限はないが、含水率の低減効果が高い点で、散布対象となる石炭全体に対して均一に散布することが好ましい。
具体的には、前記散布方法としては、例えば、棒状注水;噴霧注水;噴霧器、スプリンクラー、散水車など、一般によく使用される散布設備を用いる散布;などが挙げられる。また、前記散布方法には、前記非イオン界面活性剤水溶液を含有する処理槽内に、処理対象の低品位炭を入れて一定時間滞留させた後に、処理槽から低品位炭を回収する方法なども含まれる。
なお、前記「低品位炭の粒子」とは、ふるい分け試験を行ったときに分離可能な石炭塊を意味する。
【0026】
非イオン界面活性剤水溶液の散布時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、採掘場から貯炭場への運搬中、貯蔵前に石炭を加工(例えば、粉砕など)する間、貯炭場での貯蔵中、貯炭場内での運搬中、などが挙げられる。前記貯炭場としては、特に制限はなく、例えば、炭鉱、コールセンター(中継点)、石炭火力発電所、石炭液化プラント、石炭ガス化プラント、石炭改質プラントなどの各種石炭処理プラントの貯炭場が挙げられる。一般に、石炭は、貯炭場で、露天(野積み)又はサイロ内で山積みされて貯蔵されている。
【0027】
散布する際の低品位炭の状態としても、特に制限はなく、例えば、山積みされた状態、山積みされていない状態、格納された状態などが挙げられるが、散布対象となる石炭全体に対して均一に散布する観点から、前記山積みされていない状態が好ましい。前記山積みされていない状態としては、例えば、貯蔵前に石炭を加工(例えば、粉砕など)している間の状態;コンベアで運搬中の状態(コンベア上、コンベアヘッドシュート部において等);などが挙げられる。
【0028】
前記非イオン界面活性剤の散布量としては、特に制限はないが、前記低品位炭の粒子の総表面積をSとして、前記非イオン界面活性剤に含有されるHLBが11以上の非イオン界面活性剤の質量をSaとした際に、Sa/Sで表される低品位炭の粒子の総表面積当たりの非イオン界面活性剤の散布量Adが、0.2〜5g/mとなるように散布することが好ましく、0.4〜5g/mがより好ましく、0.4〜4g/mが更に好ましい。前記非イオン界面活性剤の散布量Adが、0.2g/m未満であると、含水率の低減効果が充分に得られないことがある。また、前記非イオン界面活性剤の散布量Adが、5g/mを超えると、散布した非イオン界面活性剤に見合うだけの含水率の低減効果が得られず、必要以上にコストがかかる場合がある。
【0029】
ここで、前記低品位炭の粒子の総表面積Sは、散布対象の石炭に対してふるい分け試験を行い、散布対象の石炭の粒度分布を、ふるい分け試験により算出された平均粒子径Rからなる単分散粒子であると仮定することで、下記(3)式により算出できる。
【0030】
【数1】

【0031】
前記平均粒子径Rは、JIS K 0069(日本工業規格 化学製品のふるい分け試験方法)によりふるい分け試験を行い、ふるい残分の積算分布が50%のときに読み取れるふるい目開き径を、平均粒子径Rとすることで求めることができる。
【0032】
前記(3)式における低品位炭の密度は、一般的な試験方法により求めることができるが、例えばJIS K 0061(日本工業規格 化学製品の密度及び比重測定方法)に記載のある比重瓶法などにより密度を求めることができる。
【0033】
前記(3)式における低品位炭1粒子の体積は、例えば、前記低品位炭の粒子が球形であると仮定して、前記平均粒子径Rを用いて、4/3π(R/2)により算出できる。
前記(3)式における低品位炭1粒子の表面積は、例えば、前記低品位炭の粒子が球形であると仮定して、前記平均粒子径Rを用いて、4π(R/2)により算出できる。
【0034】
非イオン界面活性剤水溶液の散布回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0035】
<(b)工程>
−乾燥−
前記(b)工程における乾燥方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、自然発火の虞が少なく、乾燥のための設備を特に必要としない点で、自然乾燥が好ましい。
【0036】
前記乾燥を行う時期としては、前記(a)工程の後である限り、特に制限はなく、乾燥方法に応じて適宜選択することができ、前記(a)工程と同じ場所で連続的に行ってもよく、異なる場所への運搬中又は運搬後に行ってもよい。前記乾燥方法が自然乾燥である場合には、貯炭場において露天又はサイロ内で山積みされている間、又は、輸送中の船上において、自然乾燥を行うことが好ましい。
なお、前記自然乾燥を、露天で山積みされている状態で行う場合には、雨水対策として樹脂製のシート等で覆うシート養生を行ったり、高分子エマルションを主成分とする表面コーティングタイプの炭塵防止剤等を使用したりしてもよい。
【0037】
前記乾燥期間としては、特に制限はなく、乾燥方法に応じて適宜選択することができる。 前記乾燥方法が自然乾燥である場合の乾燥期間としては、特に制限はなく、石炭産地、貯炭方法、輸送方法、気象条件などに応じて適宜調節することができる。
例えば、石炭産地が砂漠気候や熱帯性気候であって、乾季に相当するような雨量の少ない場合における自然乾燥の乾燥期間としては、4〜28日間が好ましく、4〜14日間がより好ましい。
例えば、石炭産地が熱帯性気候であって、雨季である場合の自然乾燥の乾燥期間としては、4〜28日間が好ましく、7〜28日間がより好ましく、10〜14日間が更に好ましい。
例えば、日中の平均相対湿度が70〜80%で、気温が20〜30℃で、雨が降らない場合における自然乾燥の乾燥期間としては、4日間以上が好ましく、8日間以上がより好ましく、14日間以上が更に好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
(第一実施例)
非イオン界面活性剤水溶液を調製し、低品位炭に散布したときの含水率低減効果を評価した。
【0040】
−非イオン界面活性剤水溶液の調製−
表1に示す非イオン界面活性剤を、それぞれ水に添加した後に混合し、実施例1〜3の非イオン界面活性剤を調製した。なお、実施例1〜3においては、非イオン界面活性剤の濃度cをそれぞれ、0.5、1、2、5、10及び20質量%に変えて、非イオン界面活性剤水溶液を調製した。
また、比較対象として、非イオン界面活性剤の濃度が0質量%の非イオン界面活性剤水溶液(水のみ)を調製した。
【0041】
【表1】

【0042】
−低品位炭の調製−
タバン炭(インドネシア産、亜瀝青炭、熱量:4,500cal/kg(ADB)、灰分:2.8%、硫黄分:0.10%)を細かく粉砕し、目開き0.18mmの篩をパスした試料を、相対湿度75%、温度22℃のデシケータ内で48時間保存した後、質量Mを測定した。その後、107±2℃の恒温槽内で60分乾燥した後の質量Mを測定した。得られた結果から、下記(4)式により初期含水率W(質量%)を算出した。低品位炭の初期含水率Wは29.2質量%であった。
=(M−M)/M×100 ・・・(4)
【0043】
また、前記目開き0.18mmの篩をパスした後、相対湿度75%、温度22℃のデシケータ内で保存しておいた粉末状の低品位炭試料について、ふるい分け試験を行い、平均粒子径Rを算出した。ふるい分け試験は、JIS K 0069(日本工業規格 化学製品のふるい分け試験方法)により行った。ふるい分け試験に用いた篩の目開きと、その積算分布を表2に示す。表2から、ふるい残分の積算分布が50%のときに読み取れるふるい見開き径は、115μmであり、この値を平均粒子径R(m)とした。
【0044】
【表2】

【0045】
また、前記目開き0.18mmの篩をパスした後、相対湿度75%,温度22℃のデシケータ内で保存しておいた粉末状の低品位炭試料について、密度を測定した。密度は、JIS K 0061(日本工業規格 化学製品の密度及び比重測定方法)に記載のある比重瓶法に従って測定した。測定の結果、低品位炭試料の密度dは1.35×10(g/m)であった。
【0046】
−散布処理−
目開き0.18mmの篩をパスした後、相対湿度75%,温度22℃のデシケータ内で保存しておいた粉末状の低品位炭試料から、約0.5g(下記式中、「M」に相当する。)を精秤した。この低品位炭試料に対し、実施例1〜3の非イオン界面活性剤水溶液を、0.5g(下記式中、「e」に相当する。)ずつ、均一に散布した。散布処理された低品位炭試料を、相対湿度75%、22℃のデシケータ内で14日間保存した後、質量Mを測定した。得られた結果から、下記(5)〜(7)式により散布処理後の低品位炭試料の含水率Wを算出した。結果を表3に示す。
【0047】
W=A/(A+B)×100 ・・・(5)
A=M−M+M×W/100−Sa ・・・(6)
B=M×(100−W)/100 ・・・(7)
[但し、前記(5)〜(7)式中、
A:低品位炭試料に含有される水分の質量(g)、
B:低品位炭試料に含有される純石炭部(水分以外)の質量(g)、を示す。]
【0048】
なお、散布された非イオン界面活性剤の散布量Adは、下記(8)〜(10)式により算出した。濃度cが0.5、1、2、5、10及び20質量%の非イオン界面活性剤水溶液を散布したときの非イオン界面活性剤の散布量Adは、それぞれ、0.13、0.26、0.52、1.29、2.59、5.18g/mであった(表3参照)。
【0049】
Ad=Sa/S ・・・(8)
Sa=e×c/100 ・・・(9)
S=M÷(4/3π(R/2)×d)×4π(R/2) ・・・(10)
〔但し、前記(8)〜(10)式中、
Sa:非イオン界面活性剤水溶液に含有される非イオン界面活性剤の質量
S :低品位炭の粒子の総表面積(m)、
π :円周率、を示す。〕
【0050】
【表3】

表3中、()は、非イオン界面活性剤の散布量Adが0g/mのとき(水のみを散布)の含水率を基準とした、含水率の増減を示す。
【0051】
表3の結果から、実施例1〜3の非イオン界面活性剤水溶液を散布することにより、低品位炭の含水率Wが効果的に低減することが示された。また、非イオン界面活性剤の散布量Adが多いほど、低品位炭の含水率Wが低減することが示された。
【0052】
(第二実施例)
非イオン界面活性剤水溶液を調製し、低品位炭に散布したときの含水率低減効果を、経時的に評価した。
【0053】
−非イオン界面活性剤水溶液の調製−
表4に示す非イオン界面活性剤を水に添加した後に混合し、非イオン界面活性剤の濃度が、10質量%の非イオン界面活性剤水溶液を調製した。また、比較対象として、非イオン界面活性剤の濃度が0質量%の非イオン界面活性剤水溶液(水のみ)を調製した。
【0054】
【表4】

【0055】
−低品位炭の調製−
第一実施例と同様にして、低品位炭試料を調製した。
【0056】
−散布処理−
目開き0.18mmの篩をパスした後、相対湿度75%,温度22℃のデシケータ内で保存しておいた粉末状の低品位炭試料から、約0.5g(上記式中、「M」に相当する。)を精秤した。この低品位炭試料に対し、実施例4の非イオン界面活性剤水溶液を、0.5g(上記式中、「e」に相当する。)ずつ、均一に散布した(このときの非イオン界面活性剤の散布量Adを、上記(8)〜(10)式により算出した結果、2.59g/mであった)。散布処理された低品位炭試料を、相対湿度75%、22℃のデシケータ内で0〜16日間保存した後、質量Mを測定した。得られた結果から、上記(5)〜(7)式により散布処理後の低品位炭試料の含水率Wを算出した。結果を表5に示す。
【0057】
【表5】

表5中、()は、非イオン界面活性剤の散布量Adが0g/mのとき(水のみを散布)の含水率を基準とした、含水率の増減を示す。
【0058】
表5の結果から、実施例4の非イオン界面活性剤水溶液を散布することにより、低品位炭の含水率Wが効果的に低減することが示された。また、非イオン界面活性剤水溶液の散布後の経過日数が多いほど、低品位炭の含水率Wが低減することが示された。また、散布後10日間以上経過した後では、水のみを散布したときに比べて、含水率を5%以上低減できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水率が20質量%以上の低品位炭の粒子の表面に、HLBが11以上の非イオン界面活性剤水溶液を散布する工程と、前記非イオン界面活性剤水溶液が散布された低品位炭を乾燥する工程とを含むことを特徴とする貯蔵石炭の水分低減方法。
【請求項2】
低品位炭の粒子の総表面積をSとし、非イオン界面活性剤水溶液に含有されるHLBが11以上の非イオン界面活性剤の質量をSaとした際に、Sa/Sで表される低品位炭の粒子の総表面積当たりの非イオン界面活性剤の散布量Adが、0.2〜5g/mとなるように散布する請求項1に記載の貯蔵石炭の水分低減方法。

【公開番号】特開2009−120652(P2009−120652A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293515(P2007−293515)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【出願人】(503398118)双日株式会社 (9)
【出願人】(507374594)
【Fターム(参考)】