説明

貴金属イオンを含む溶液からの貴金属の回収方法、それに用いる逆抽出剤及び脱着剤

【課題】貴金属イオンを含む溶液からの貴金属の回収方法、それに用いる抽出剤若しくは吸着剤、及び逆抽出剤若しくは脱着剤を提供する。
【解決手段】貴金属イオンを抽出又は吸着した抽出剤又は吸着剤を、下記一般式(1)


(上記式(1)中、Rはメチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、nは0又は1を表す。)で表される含硫黄アミノ酸誘導体を含む逆抽出剤又は脱着剤と接触させて貴金属を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出剤又は吸着剤により抽出又は吸着され、次いで、逆抽出剤又は脱着剤により逆抽出又は脱着された貴金属イオンを含む溶液を還元処理して貴金属を回収する方法、並びにそれに用いる逆抽出剤、及び脱着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用触媒、自動車排ガス浄化触媒及び多くの電化製品には、パラジウム、白金、ロジウム等の貴金属が用いられている。貴金属は高価であり、資源としても有用であることから、従来から使用後に回収してリサイクルすることが行われている。最近では、資源保全の要求が高まり、貴金属の回収及びリサイクルの重要性が一層増加している。
【0003】
貴金属を回収する方法としては、沈殿分離法、イオン交換法、電解析出法、溶媒抽出法等の方法が開発されている。貴金属がパラジウムイオンの場合、上記の方法のうち溶媒抽出法が経済性及び操作性の点から広く採用されている。
【0004】
溶媒抽出法によるパラジウムイオンの回収方法としては、例えば、パラジウムイオンが溶解した水相と油溶性抽出剤が溶解した有機相を液−液接触させることによりパラジウムイオンを有機相側に抽出する抽出工程と、有機相側に抽出されたパラジウムイオンを逆抽出剤が溶解した水相を用いて、再度、水相側に逆抽出する逆抽出工程からなる。より具体的には、抽出剤にジアルキルスルフィド化合物を用いた有機相によりパラジウムイオンの逆抽出が行われ、逆抽出剤にアンモニア水を用いた水相によりパラジウムの逆抽出が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、溶媒抽出法における抽出速度を改善するため、ジアルキルスルフィドの硫黄近傍にアミド基を導入した抽出剤が提案されており、逆抽出剤に酸性のチオ尿素水溶液を用いたパラジウムの回収方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、上記した溶媒抽出法は、多量の有機溶剤を使用することから、安全性や環境負荷の面で課題を有する。
【0007】
このため、有機溶剤を使用しない回収方法として、パラジウムイオンの吸着方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。本法では、パラジウムイオンのリガンド(受容体)として、特定のスルフィド化合物をスチレン誘導体ポリマー(例えば、ポリクロロメチルスチレン)担体上に固定化した吸着剤を作製し、この吸着剤をパラジウムイオンが溶解した水溶液中に直接添加することでパラジウムイオンの吸着が行われている。
【0008】
また、本出願人は、ジアルキルスルフィドの硫黄近傍にアミド基を導入した化合物をパラジウムイオンのリガンドとした吸着剤に関して、既に特許出願している(例えば、特許文献4及び5参照)。
【0009】
ジアルキルスルフィドの硫黄近傍にアミド基を含む抽出剤、又は吸着剤を用いた場合、逆抽出剤又は脱着剤として塩酸やアンモニアを用いると、パラジウムイオンの逆抽出又は脱着率が低いため、通常、チオ尿素水溶液が好ましく用いられる(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−279264号公報
【特許文献2】国際公開第2005/083131号パンフレット
【特許文献3】特開平5−105973号公報
【特許文献4】特開2011−41916号公報
【特許文献5】特開2011−41918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、特許文献4、5に従い、ジアルキルスルフィドの硫黄近傍にアミド基を導入した化合物(リガンド)をアルミナ担体に固定化した吸着剤を作製し、水溶液中でパラジウムイオンを吸着させ、次に、チオ尿素水溶液を用いてパラジウムイオンを脱着してパラジウムイオンを含有する溶液を得た。得られた溶液から金属パラジウム回収するために、回収液の電解還元を試みたところ、得られた金属パラジウムは、含硫黄不純物を多量に含む低純度のものであった。この低純度金属パラジウムから高純度の金属パラジウムを得るには、煩雑な高純度化処理が必要になることが判明した。
【0012】
かくして、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、抽出剤又は吸着剤に抽出又は吸着された貴金属イオン、特にパラジウムイオンを効率よく逆抽出又は脱着し、得られる貴金属イオンを含む溶液(以降、回収液ともいう)を還元処理することで高純度の貴金属を取得することを可能にする逆抽出剤又は脱着剤、並びに当該逆抽出剤又は脱着剤を用いる貴金属の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体が、従来公知の塩酸、アンモニアなどに比べて、優れた貴金属イオン逆抽出性及び脱着性を示すことを見出した。さらに予想外なことに、かかる含硫黄アミノ酸誘導体を用いて逆抽出又は脱着して得られた回収液を還元処理した場合には、従来のチオ尿素を用いた場合に比べて、極めて高純度の貴金属が簡便に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の要旨を有するものである。
【0015】
[1]
一般式(1)
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、Rはメチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐、若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐、若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、nは0又は1を表す。)
で表される含硫黄アミノ酸誘導体を含む貴金属イオン逆抽出剤又は脱着剤。
【0018】
[2]
[1]に記載の一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体において、Rがメチル基であり、Rが各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐、若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基であり、nが1であることを特徴とする、貴金属イオン逆抽出剤又は脱着剤。
【0019】
[3]
[1]に記載の一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体がメチオニンであることを特徴とする、貴金属イオン逆抽出剤又は脱着剤。
【0020】
[4]
[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の貴金属イオン逆抽出剤又は脱着剤と、貴金属イオンを含有する抽出剤又は吸着剤とを接触させて得られる貴金属イオンを含有する溶液を還元処理して貴金属を得る事を特徴とする貴金属の回収方法。
【0021】
[5]
貴金属イオンがパラジウムイオンであり、且つ貴金属がパラジウムであることを特徴とする[4]に記載の回収方法。
【0022】
[6]
[1]乃至[3]のいずれかに記載の貴金属イオン逆抽出剤又は脱着剤と、貴金属イオンを含有する抽出剤又は吸着剤とを接触させて貴金属イオンを含有する溶液を得ることを特徴とする貴金属イオンの逆抽出方法又は脱着方法。
【0023】
[7]
[1]乃至[3]のいずれかに記載の貴金属イオン逆抽出剤又は脱着剤、及び貴金属イオンを含有する溶液を還元処理することを特徴とする貴金属の製造方法。
【0024】
[8]
下記一般式(1)
【0025】
【化2】

【0026】
(式中、Rはメチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、nは0又は1を表す。)
で表される含硫黄アミノ酸誘導体を含む貴金属イオン脱着剤。
【0027】
[9]
含硫黄アミノ酸誘導体がメチオニンであることを特徴とする[8]に記載の貴金属イオン脱着剤。
【0028】
[10]
[8]又は[9]に記載の貴金属イオン脱着剤を、貴金属イオンを吸着した吸着剤と接触させて、貴金属イオンを脱着させることを特徴とする貴金属イオンの脱着方法。
【0029】
[11]
[10]に記載の貴金属イオンの脱着方法により得られた貴金属イオンを含む水溶液を還元処理して、貴金属を沈殿回収することを特徴とする貴金属の回収方法。
【0030】
[12]
貴金属イオンがパラジウムイオンであり、且つ貴金属がパラジウムであることを特徴とする[11]に記載の貴金属の回収方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体を用いることにより、抽出又は吸着された貴金属イオン、特にパラジウムイオンを、効率よく逆抽出又は脱着し、且つ得られる回収液の還元処理によって、従来に比べて、硫黄などの不純物の含有量が顕著に少ない、高純度の貴金属、特に金属パラジウムが簡便に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0033】
(逆抽出剤又は脱着剤)
本発明の逆抽出剤又は脱着剤に含まれる、上記一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体において、Rはメチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8、好ましくは炭素数3〜6の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14、好ましくは炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表し、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、nは0若しくは1を表す。
【0034】
炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基としては、特に限定するものではないが、例えば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、2−エチルヘキシル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、1−ヘプチニル基、1−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、1−オクテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロヘキサトリエニル基、シクロオクテニル基、シクロオクタジエニル基等が挙げられる。
【0035】
炭素数6〜14の芳香族炭化水素基としては、特に限定するものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ビフェニル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0036】
このうち、貴金属イオン、特に好ましくはパラジウムイオン逆抽出性又は脱着性の点で、Rはメチル基又はエチル基が好ましく、Rは各々独立して水素原子、メチル基又はエチル基が好ましい。なかでも、貴金属イオン逆抽出性又は脱着性及び入手容易性の点で、Rはメチル基であり、全てのRが水素原子であり、n=1である、メチオニンが特に好ましい。
【0037】
一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体のうち、メチオニンの場合、以下にその製造例を示す。
【0038】
メチルメルカプタンとアクロレインを反応させ3−メチルメルカプトプロピオンアルデヒドを製造し、次いでこれを青酸でシアンヒドリン化すると、3−メチルメルカプトプロピオンシアンヒドリンが得られる。得られた3−メチルメルカプトプロピオンシアンヒドリンを二酸化炭素及びアンモニアでヒダントイン化することで、M−ヒダントインが得られる。
【0039】
得られたM−ヒダントインは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩や炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩などのアルカリの存在下に加水分解され、メチオニンのアルカリ金属塩が得られる。得られたメチオニンのアルカリ金属塩に硫酸、塩酸、二酸化炭素等を加えて中和し、メチオニンを晶析させる。析出したメチオニンは濾過、分離し、必要により水洗し、乾燥して取得することができる(例えば、特開2000−143617号公報 参照)。
【0040】
一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体のうち、Rがメチル基であり、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、n=1であるメチオニン誘導体の場合の製造例を示す。
【0041】
すなわち、メチオニンを、公知の試薬を用いて、N−アルキル化(例えば、実験科学講座,第4版,第20巻,285項 参照)若しくはN−アリール化(例えば、Tetrahedron Letters,1998年,第39巻,2367頁 参照)及び/又はエステル化(例えば、実験化学講座,第5版,第16巻,285項 参照)することによって、一般式(1)で表されるメチオニン誘導体を製造することが出来る。
【0042】
一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体のうち、Rがメチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、n=1である含硫黄アミノ酸誘導体の場合の製造例を示す。
【0043】
すなわち、特開2000−143617号公報に記載の製造方法におけるメチルメルカプタンに替えて、下記一般式(2)
【0044】
【化3】

【0045】
(式中Rは、一般式(1)におけるRと同じ。)
を用いることによって、S−置換−2−アミノ−4−メルカプト酪酸が得られる。得られたS−置換−2−アミノ−4−メルカプト酪酸を、公知の試薬を用いて、N−アルキル化(例えば、前記文献参照)若しくはN−アリール化(例えば、前記文献参照)及び/又はエステル化(例えば、前記文献参照)することによって、n=1である一般式(1)で表されるメチオニン誘導体を任意に製造することが出来る。
【0046】
一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体のうち、Rがメチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、n=0である含硫黄アミノ酸誘導体の場合の製造例を示す。
【0047】
すなわち、システインを、公知の試薬を用いて、S−アルキル化(例えば、新実験化学講座,第16巻,1716項 参照)、N−アルキル化(例えば、前記文献参照)若しくはN−アリール化(例えば、前記文献参照)及び/又はエステル化(例えば、前記文献参照)することによって、n=0である一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体を任意に製造することが出来る。
【0048】
上記一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体は不斉中心を有すが、S体、R体、若しくはラセミ混合物のいずれであってもよい。また、含硫黄アミノ酸誘導体は、特に限定するものではないが、例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩等の塩であってもよい。
【0049】
(逆抽出剤又は脱着剤による逆抽出方法又は脱着方法)
上記の一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体は、逆抽出剤又は脱着剤として用いられ、それぞれ、貴金属イオンを含有する抽出剤又は吸着剤と接触させることにより貴金属イオンを逆抽出又は脱着することができる。
【0050】
一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体を含む逆抽出剤又は脱着剤(以下、「本発明の逆抽出剤または脱着剤」ともいう。)としては、かかる含硫黄アミノ酸誘導体の水溶液が好ましく、水溶液中の含硫黄アミノ酸誘導体の濃度は、特に限定されないが、通常0.1〜20重量%が好ましい。当該逆抽出剤又は脱着剤には、塩化ナトリウム等の塩類や、メタノール等の有機溶媒、多糖類等のポリマー、その他第3成分を含有していてもよい。
【0051】
本発明の逆抽出剤または脱着剤は、塩基性、中性、酸性のいずれの液性でも問題なく使用できるが、貴金属の抽出プロセス、及び吸着プロセスで、通常、酸性水溶液が用いられる都合上、酸性下で好ましく用いられる。
【0052】
本発明の逆抽出剤または脱着剤の酸性水溶液に用いる酸としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸が好ましく、このうち塩酸が特に好ましい。かかる酸性水溶液の酸濃度としては、特に限定されないが、0.01〜10mol/Lの範囲が好ましく、0.1〜5mol/Lがより好ましい。特に、酸濃度が1〜3mol/Lの場合、貴金属イオンを定量的に逆抽出、又は脱着することができ、且つ、抽出剤又は吸着剤の化学的損傷、及び吸着剤からの貴金属イオンリガンドの脱離を低減できるため好ましい。
【0053】
本発明の逆抽出剤または脱着剤を用いる逆抽出又は脱着において、対象となる貴金属イオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、パラジウムイオン、白金イオン、金イオン、ロジウムイオン、イリジウムイオン、ルテニウムイオン、オスミウムイオン等の硫黄原子に対する親和性が高い貴金属イオンが挙げられる。なかでも、パラジウムイオンが特に好ましく、パラジウムイオンは、上記した他の貴金属イオンと共存していてもよい。
【0054】
本発明の逆抽出剤または脱着剤を用いる逆抽出又は脱着において、逆抽出剤又は脱着剤の使用量は、特に限定されないが、対象となる貴金属イオン量1モルに対して、上記含硫黄アミノ酸誘導体が2倍モル量以上となるように調節することが好ましく、5〜1000倍モルとなるように調節することがより好ましい。
【0055】
また、かかる逆抽出又は脱着は、通常、常圧下、又は大気下で実施されるが、加圧下又は減圧下、若しくは不活性ガス存在下で実施することも出来る。かかる逆抽出又は脱着は、通常、4〜150℃の温度範囲で実施されるが、10〜50℃の温度範囲がより好ましい。
【0056】
かかる逆抽出又は脱着においては、本発明の目的を損なわない限りにおいて、一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体以外の他の逆抽出剤又は脱着剤を併用することもできる。
【0057】
かかる逆抽出又は脱着により、一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体、及び貴金属イオンを含む溶液が得られる。
【0058】
(還元処理による貴金属の回収)
本発明の逆抽出剤または脱着剤により逆抽出又は脱着された貴金属イオン、特にパラジウムイオンが好ましい、を含む溶液(以下、還元処理用溶液ともいう。)は、そのまま、又は中和した後、還元処理することによって、貴金属、特に金属パラジウムが好ましい、を得ることができる。
【0059】
還元処理用溶液は水溶液であることが好ましい。当該水溶液には、本発明の逆抽出剤または脱着剤に由来する成分を含有していてもよい。すなわち、塩化ナトリウム等の塩類や、メタノール等の有機溶媒、多糖類等のポリマー、その他第3成分を含有していても良い。
【0060】
かかる還元処理は、酸性条件、中性条件、塩基性条件のいずれの条件でも実施可能であるが、貴金属イオンの還元効率の点及び設備の腐食性を抑える点から、pH6以上8以下であることが好ましい。還元処理用溶液が酸性である場合、事前に中和することが好ましく、中和剤としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重曹、又は消石灰などの無機塩基化合物を好ましく用いることができる。
【0061】
還元処理用溶液に含まれる一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体の濃度としては、特に限定するものではないが、例えば、0.01重量%以上、30重量%以下であることが好ましい。このうち、経済性の点で、0.01重量%以上、15重量%以下であることがより好ましい。
【0062】
還元処理用溶液における貴金属イオンの濃度としては、特に限定するものではないが、0.01重量%以上、20重量%以下であることが好ましい。このうち、取り扱いやすさの点で、0.01重量%以上、15重量%以下であることがより好ましい。
【0063】
本発明の還元処理としては、特に限定されないが、目的や設備に応じて種々の方法を用いることができ、例えば、電気分解による電解還元法や、水素ガス、水素化硼素化合物等の還元剤を添加する化学的還元方法が挙げられる。このうち、操作の容易性及びコストの面から電解還元法が好ましい。
【0064】
かかる還元処理が電解還元法で実施される場合、例えば、「電気化学反応操作と電解槽工学」(科学同人株式会社発行、1979年、175頁)に記載される既知の電解還元処理が使用できる。例えば、陽極としては、表面を白金で被覆したチタン電極などが使用され、また、陰極としては、チタン電極、銅電極、ニッケル電極などが使用される。また、電流密度は、好ましくは0.001〜100A/dmが好ましく、特に好ましくは1〜50A/dmである。
【0065】
本発明の還元処理によって貴金属を得ることができるが、当該貴金属は貴金属沈殿物として得られる。貴金属沈殿物はろ過によって逆抽出剤又は脱着剤や水などと分離することができる。ろ過方法としては、例えばメンブレンフィルター、ろ紙、ろ布又はグラスフィルター等を用いる方法が挙げられるが、操作の容易性から、メンブレンフィルター又はろ紙による方法が好ましい。かくして、上記した逆抽出、又は脱着により得られる還元処理用溶液から貴金属を製造し、単離することができる。
【0066】
(貴金属イオンを含む溶液からの貴金属イオンの抽出又は吸着)
本発明の逆抽出剤または脱着剤を用いる貴金属イオンの逆抽出又は脱着において、処理対象となる貴金属イオンの抽出剤又は吸着剤としては、特に限定するものではなく、種々のものが挙げられる。
【0067】
抽出剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ジヘキシルスルフィドやジオクチルスルフィド等を含有する抽出剤を挙げることができる。
【0068】
吸着剤としては、SILICYCLE社製のSiliaBondシリーズ、Reaxa社製のQuadraPureシリーズなどの市販品、又は従来公知の貴金属イオンを捕捉するリガンドを適当な担体に担持させたもの等が挙げられる。貴金属イオンを捕捉するリガンドとしては、特に限定するものではないが、スルフィド基やアミノ基を有する化合物が好ましく用いられる。
【0069】
抽出剤は、通常、有機溶剤の溶液として用いられる。有機溶剤としては、水と混和しないものが好ましく、特に限定するものではないが、例えば、トベンゼン、ルエン、キシレン、ヘキサン、塩化メチレン、クロロホルム等を用いることができる。
【0070】
抽出剤は、貴金属イオンが溶解した水溶液と接触することで貴金属イオンを抽出する。次いで、かかる母水溶液から分離された抽出剤に、一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体を含む逆抽出剤を接触させることで、貴金属イオンが、抽出剤の相からかかる逆抽出剤の相へ逆抽出される。抽出剤と逆抽出剤との接触及び相互分離には、特に限定するものではないが、例えば、分液ロートを用いることができる。分液ロートと同様の機能を有する工業用装置を用いることも可能である。
【0071】
一方、上記した貴金属イオンを捕捉するリガンドを適当な担体に担持させた吸着剤において、担体としては、水に不溶性のものであれば特に制限無く用いることが出来る。例えば、ポリスチレン若しくは架橋ポリスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン若しくはポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル若しくはポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化オレフィン)、ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル系ポリマー等の合成高分子量担体、セルロース、アガロース、デキストラン等の天然高分子量担体、又は活性炭、シリカゲル、珪藻土、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、マグネシア、ポリシロキサン等の無機担体が挙げられる。
【0072】
架橋ポリスチレンとは、スチレン、ジビニルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等のモノビニル芳香族化合物とジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、トリビニルベンゼン、ビスビニルジフェニル、ビスビフェニルエタン等のポリビニル芳香族化合物との架橋共重合体を主体とする、又はこれらの共重合体にグリセロールメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等のメタクリル酸エステルが共重合されているものでも良い。
【0073】
これらの不溶性担体のうち、価格及び入手容易性の点で、シリカゲル又はアルミナが好ましい。
【0074】
不溶性担体の形状としては、球状(例えば、球状粒子等)、粒状、繊維状、顆粒状、モノリスカラム、中空糸、膜状(例えば、平膜等)等の、一般的に分離基材として使用される形状が利用可能であり、特に限定するものではない。これらのうち、球状、膜状、粒状、繊維状のものが好ましい。粒状粒子はカラム法やバッチ法で使用する際、その使用体積を任意に設定できることから、特に好ましい。
【0075】
担体の粒子サイズとしては、通常外径1μm〜10mmのものを用いることができるが、貴金属イオン吸着性能及び取り扱いの容易性の点から、2μm〜1mmのものが好ましい。担体は、多孔質でも無孔質でも問題なく使用できるが、多孔質のほうが貴金属イオン吸着の有効面積が広いため、好ましい。
【0076】
貴金属イオンを捕捉するリガンドを担体に固定化する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、物理的に吸着担持させる方法又は化学的結合による固定化方法が挙げられる。
【0077】
市販の貴金属イオン吸着剤及び任意のリガンドを担体に固定化した貴金属イオン吸着剤は、特に限定するものではないが、例えば、カラム法又はバッチ法で使用することができ、カラム法の場合は充填床又は伸展床で使用することができる。
【実施例】
【0078】
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定して解釈されるものではない。
【0079】
H−NMR(核磁気共鳴)はGemini−200(Varian社製)で測定した。
【0080】
金属イオンの水溶液は、市販のパラジウム標準液(1000ppm)、白金標準液(1000ppm)、ロジウム標準液(1000ppm)、銅標準液(1000ppm)、鉄標準液(1000ppm)、ニッケル標準液(1000ppm)、及び亜鉛標準液(1000ppm)を薄めて調製した。
【0081】
水溶液中のパラジウムイオン濃度及び金属パラジウム純度はICP発光分光分析装置(OPTIMA3300DV、Perkin Elmaer社製)で測定した。
【0082】
硫黄含有量はイオンクロマトグラフィー法で測定した。イオンクロマトグラフィー測定は以下の前処理、設備及び条件で行った。
【0083】
前処理: 試料を自動試料燃焼装置(AQF−100、三菱化学アナリティック社製)に導入し、燃焼生成したSO2−を吸着液(内部標準物質PO)に捕集した。
【0084】
測定装置: 東ソー社製 IC−2001
分離カラム: TSKgel Super IC−AP(4.6mmΦ×150mm)
検出器: 電気伝導検出器
溶離液: 2.7mmol/L NaHCO + 1.8mmol/L NaCO
一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体としては、市販品のDL−メチオニン(キシダ化学社製)をそのまま用いた。
【0085】
合成例1 化合物(7)の合成
【0086】
【化4】

【0087】
(式(3a)、(5a)、及び(7)中、Rは、牛脂由来の長鎖アルキル基(例えば、セチル基、ステアリル基、オレイル基等)である。)
ジアシル化体(5a)の合成
200mL(リットル)ナス型フラスコに牛脂プロピレンジアミン(3a)(花王社製、商品名:ジアミン RRT)の9.51g(30mmol)、10重量%水酸化ナトリウム水溶液30.00g(75mmol)、ジエチルエーテル 40gを加えた。この混合物に対し、クロロ塩化アセチル(4) 8.47g(75mmol)を室温にて2時間かけて滴下し、更に室温で30分間攪拌した。反応液を分液ロートに移し、酢酸エチルで抽出した(15mL×2)。有機層を合わせ、飽和重曹水15mL、飽和食塩水15mLで順次洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を減圧下留去し、上記式(5a)で表されるジアシル化体[以下、ジアシル化体(5a)と称する。]を収量12.59g、収率89.3%で得た。
【0088】
H−NMR(CDCl)δ(ppm):0.85−0.91(m,牛脂アルキル基由来ピーク),1.25−1.31(m,牛脂アルキル基由来ピーク),1.52−1.80(m,牛脂アルキル基由来ピーク),1.96−2.05(m,牛脂アルキル基由来ピーク),3.22−3.48(m,6H),4.04(s,2H),4.08(s,2H),5.32−5.38(m,牛脂アルキル基由来ピーク),7.59(1H,brs),2H未検出(牛脂アルキル基由来ピークとオーバーラップしていると推定)
ジアシル化体(5b)の合成
200mLナス型フラスコに1,3−プロパンジアミン(3a)の3.71g(50mmol)、水50g、及びジエチルエ−テル 20gを量り取り、これに20重量%水酸化ナトリウム水溶液24.00g(120mmol)を加えた。この混合物に対し、クロロ塩化アセチル(4)の13.55g(120mmol)を0℃にて1時間かけて滴下し、更に0℃で1時間攪拌した。生じた白色固体をろ取した後、水、ジエチルエ−テルで順次洗浄し、上記式(5b)で表されるジアシル化体[以下、ジアシル化体(5a)と称する。]を収量10.41g、収率91.7%で得た。
【0089】
H−NMR(DMSO−d)δ(ppm):1.55(2H,quintet,J=7.0Hz),3.03−3.10(4H,m),4.03(4H,s),8.22(2H,brs)
ジチオエステル化体(6)の合成
100mLナス型フラスコに炭酸カリウム 2.65g(19.2mmol)、水40gを量り取り、これにチオ安息香酸2.65g(19.2mmol)を加えて40℃で30分間攪拌した。これに上記ジアシル化体(5b)の1.82g(8mmol)及びテトラヒドロフラン 10gを加え、40℃で3時間攪拌した。その後更に0℃で1時間攪拌し、生じた白色固体をろ取した後、水で洗浄し、上記式(6)で表されるジチオエステル化体[以下、ジチオエステル化体(6)と称する。]を収量3.51g、収率95.6%で得た。
【0090】
H−NMR(CDCl)δ(ppm):1.65(2H,quintet,J=6.2Hz),3.23−3.32(4H,m),3.74(4H,s),6.88(2H,brs),7.43−7.52(4H,m),7.57−7.66(2H,m),7.95−8.00(4H,m)
化合物(7)の合成
300mLナス型フラスコに上記ジチオエステル化体(6)の11.53g(26.8mmol)、及びメタノ−ル 100gを量り取り、これに20重量%水酸化ナトリウム水溶液10.71g(53.5mmol)を加え、窒素気流下室温で2時間攪拌した。これに上記ジアシル化体(5a)の1.14g(5mmol)を加え、室温で20時間攪拌した。溶媒を減圧下留去した後、テトラヒドロフラン 30g、水30g、20重量%水酸化ナトリウム水溶液10.71g(53.5mmol)を加え、40℃で1時間撹拌した。反応液を分液ロートに移し、酢酸エチルで抽出した(20mL×3)。有機層を合わせ、飽和重曹水20mL、飽和食塩水20mLで順次洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を減圧下留去し、化合物(7)を収量15.40g、収率92.9%で得た。
【0091】
H−NMR(CDCl)δ(ppm):0.85−0.91(m,牛脂アルキル基由来ピーク),1.25−1.31(m,牛脂アルキル基由来ピーク),1.50−2.03(m,牛脂アルキル基由来ピーク),3.26−3.52(m,18H),5.32−5.38(m,牛脂アルキル基由来ピーク),7.36(1H,brs),7.58(1H,brs),7.70(1H,brs),4H未検出(牛脂アルキル基由来ピークとオーバーラップしていると推定)
合成例2 化合物(9)の合成
【0092】
【化5】

【0093】
50mLナス型フラスコに上記ジチオエステル化体(6)の2.15(5mmol)、及びメタノ−ル 20gを量り取り、これに20重量%水酸化ナトリウム水溶液2.00g(10mmol)を加え、窒素気流下室温で2時間攪拌した。これに1,6−ジブロモヘキサン(8)の1.22g(5mmol)を加え、室温で20時間攪拌した。生じた白色固体をろ取した後、水、メタノ−ルで順次洗浄し、化合物(9)を収量1.16g、収率76.3%で得た。
【0094】
H−NMR(DMSO−d)δ(ppm):1.34−1.39(8H,m),1.50−1.63(12H,m),2.55−2.61(8H,m),3.05−3.17(16H,m),8.02(4H,brs)
合成例3 化合物(10)の合成
【0095】
【化6】

【0096】
100mLナス型フラスコに上記ジチオエステル化体(6)の2.15g(5mmol)、及びメタノ−ル 20gを量り取り、これに20重量%水酸化ナトリウム水溶液 2.00g(水酸化ナトリウムとして10mmol)を加え、窒素気流下室温で2時間攪拌した。これに1−ブロモオクタン 1.93g(10mmol)を加え、室温で20時間攪拌した。溶媒を減圧下留去した後、テトラヒドロフラン 10g、水10g、及び20%水酸化ナトリウム水溶液 2.00g(10mmol)を加え、40℃で1時間撹拌した。反応液を分液ロートに移し、酢酸エチルで抽出した(10mL×2回)。有機層を合わせ、飽和重曹水溶液10mL、水10mL、飽和食塩水水溶液10mLで順次洗浄した。有機相を分離し、硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を減圧下留去し、化合物(10)を収量2.12g、収率95.1%で得た。
【0097】
H−NMR(CDCl)δ(ppm):0.88(6H,t,J=7.0Hz),1.27−1.38(20H,m),1.52−1.79(6H,m),2.54(4H,t,J=7.0Hz),3.23(4H,s),3.29−3.83(4H,m),7.32(2H,brs)
調製例1 化合物(7)のアルミナ担体への固定化
50mLナス型フラスコに合成例1で合成した化合物(7)の0.1g、及びテトラヒドロフラン 0.9gを量り取り、40℃で30分間攪拌した。その後アルミナ(和光純薬工業社製、商品名:活性アルミナ)0.9gを加え、更に40℃で30分間攪拌した。溶媒を減圧下にて留去した後、得られた白色粉末を室温で減圧乾燥することにより化合物(7)を10重量%の割合で含浸担持させたアルミナを調製した。これを吸着剤Aとする。
【0098】
調製例2 化合物(9)のアルミナ担体への固定化
50mLナス型フラスコに合成例2で合成した化合物(9)の0.1g、クロロホルム 9mL、及びメタノール 1mLを量り取り、40℃で30分間攪拌した。その後アルミナ(和光純薬工業社製、商品名:活性アルミナ) 0.9gを加え、更に40℃で30分間攪拌した。溶媒を減圧下にて留去した後、得られた白色粉末を室温で減圧乾燥することにより化合物(9)を10重量%の割合で含浸担持させたアルミナを調製した。これを吸着剤Bとする。
【0099】
実施例1
調製例1で調製した吸着剤A 300mg(乾燥重量)を、パラジウムイオンを500mg/L含む1mol/L塩酸溶液10mL中に添加し、室温で2時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液の残存パラジウムイオン濃度と初濃度とからパラジウムイオンの吸着量を吸着剤 1g当たり16.6mgと算出した。
【0100】
次に、ろ取した吸着剤を水洗後、乾燥した。乾燥した吸着剤30mgを、DL−メチオニン濃度10重量%の1mol/L塩酸水溶液として調製した脱着剤10mL中に加え、室温で1時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液のパラジウムイオン濃度からパラジウムイオンの脱着量を求めた結果、パラジウムイオンの脱着率は100%であった。
【0101】
実施例2
実施例1において、DL−メチオニン濃度を2重量%とした以外は実施例1と同様に行った結果、パラジウムイオンの脱着率は98%であった。
【0102】
実施例3
実施例1において、DL−メチオニン濃度を1重量%とした以外は実施例1と同様に行った結果、パラジウムイオンの脱着率は84%であった。
【0103】
実施例4
調製例2で調製した吸着剤B 400mg(乾燥重量)を、パラジウムイオンを500mg/L含む1mol/L塩酸溶液10mL中に添加し、室温で2時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液の残存パラジウムイオン濃度と初濃度とからパラジウムイオンの吸着量を吸着剤 1g当たり12.5mgと算出した。
【0104】
次に、ろ取した吸着剤を水洗後、乾燥した。乾燥した吸着剤40mgを、DL−メチオニン濃度10重量%の1mol/L塩酸水溶液として調製した脱着剤10mL中に加え、室温で1時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液のパラジウムイオンの濃度からパラジウムイオンの脱着量を求めた結果、パラジウムイオンの脱着率は100%であった。
【0105】
実施例5
SILICYCLE社製SiliaBond TAAcOH(吸着剤) 200mg(乾燥重量)を、パラジウムイオンを500mg/L含む1mol/L塩酸溶液10mL中に添加し、室温で2時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液の残存パラジウムイオン濃度と初濃度とからパラジウムイオンの吸着量を吸着剤 1g当たり19.5mgと算出した。
【0106】
次に、ろ取した吸着剤を水洗後、乾燥した後、そのうち20mgを、DL−メチオニン濃度10重量%の1mol/L塩酸水溶液として調製した脱着剤10mL中に加え、室温で1時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液のパラジウムイオン濃度からパラジウムイオンの脱着量を求めた結果、パラジウムイオンの脱着率は100%であった。
【0107】
実施例6
化合物(10)の30mgをジクロロメタン2mLに溶解し抽出剤Aとした。抽出剤Aと、パラジウムイオンを500mg/L含む1mol/L塩酸溶液10mLとを混合し、室温で1時間撹拌した。水相と有機相を分液ロートを用いて分離した。水相の残存パラジウムイオン濃度と初濃度とから、パラジウムイオンの抽出量を抽出剤A 1g当たり166mgと算出した。
【0108】
次に、分離した抽出剤Aを含有する有機相に、DL−メチオニン1gを溶解した1mol/L塩酸水溶液10mL(逆抽出剤)を加え、室温で1時間撹拌し、分液ロートを用いて水相と有機相を分離した。得られた水相のパラジウムイオン濃度から求めたパラジウムイオンの逆抽出率は88%であった。
【0109】
実施例7
パラジウムイオンを100mg/L含む1.5重量%DL−メチオニン水溶液100mL(pH7、市販のパラジウム標準液(1000ppm)を水で希釈して調整した。)にカーボン製の陽極(電極面積:20cm)及び陰極(電極面積:20cm)を差し込み、室温で1A(アンペア)の定電流(電流密度10A/cm)を1時間通電して電気分解による還元を行ったところ、黒色沈殿物が得られた。ろ紙を用いたろ過により黒色沈殿物を単離した。ICP発光分光分析測定及びイオンクロマトグラフィー測定の結果、黒色沈殿物は純度99重量%以上の金属パラジウムであった。
【0110】
実施例8
100mg/Lのパラジウムイオン、及び1.5重量%のDL−メチオニンを含む1mol/L塩酸溶液100mL(市販の塩化パラジウムを用いて調整した。)に、液が中性になるまで水酸化ナトリウムを加えた。得られた液にカーボン製の陽極(電極面積:20cm)及び陰極(電極面積:20cm)を差し込み、室温で1A(アンペア)の定電流(電流密度10A/cm)を1時間通電して電気分解による還元を行ったところ、黒色沈殿物が得られた。ろ紙を用いたろ過により黒色沈殿物を単離した。ICP発光分光分析測定の結果、黒色沈殿物は純度99重量%以上の金属パラジウムであった。
【0111】
比較例1
実施例4において、DL−メチオニン濃度10重量%の1mol/L塩酸水溶液の脱着剤の代わりに、28重量%アンモニア水溶液10mLを用いた以外は実施例4と同様に行った結果、パラジウムイオンの脱着率は17%であった。
【0112】
比較例2
実施例4において、DL−メチオニン濃度10重量%の1mol/L塩酸水溶液の脱着剤の代わりに、36重量%塩酸10mLを用いた以外は実施例4と同様に行った結果、パラジウムイオンの脱着率は14%であった。
【0113】
比較例3
実施例7において、パラジウムイオンを100mg/L含む1.5重量%DL−メチオニン水溶液の代わりに、パラジウムを100mg/L含む3重量%チオ尿素水溶液100mL(pH7、市販のパラジウム標準液(1000ppm)を水で希釈して調整した。)を被検液として用いた以外は実施例7と同様に行った結果、多量の褐色沈殿が生成した。ろ紙を用いたろ過により褐色沈殿物を単離した。ICP発光分光分析測定の結果、褐色沈殿物のパラジウム含有量は2.9重量%であった。また、イオンクロマトグラフィー測定の結果、褐色沈殿物には、91.9重量%の硫黄が含まれることがわかった。
【0114】
比較例4
実施例8において、100mg/Lのパラジウムイオンと1.5重量%のDL−メチオニンを含む1mol/L塩酸溶液の代わりに、100mg/Lのパラジウムイオンと3重量%のチオ尿素を含む1mol/L塩酸溶液100mL(市販の塩化パラジウムを用いて調整した。)を被検液として用いた以外は実施例8と同様に行った結果、多量の褐色沈殿が生成した。ろ紙を用いたろ過により褐色沈殿物を単離した。ICP発光分光分析測定の結果、褐色沈殿物のパラジウム含有量は2.9重量%であった。また、イオンクロマトグラフィー測定の結果、褐色沈殿物には、93.0重量%の硫黄が含まれることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の逆抽出剤又は脱着剤及び貴金属回収方法を用いれば、従来公知の技術に比べて、非常に簡便に高純度の貴金属を製造、沈殿回収できる。このため、廃棄された工業用若しくは自動車排ガス浄化触媒又は電化製品等に使用されている高価な貴金属を回収し再利用する資源リサイクル分野での利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rはメチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐、若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐、若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、nは0又は1を表す。)
で表される含硫黄アミノ酸誘導体を含む貴金属イオン逆抽出剤又は脱着剤。
【請求項2】
請求項1に記載の一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体において、Rがメチル基であり、Rが各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐、若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基であり、nが1であることを特徴とする、貴金属イオン逆抽出剤又は脱着剤。
【請求項3】
請求項1に記載の一般式(1)で表される含硫黄アミノ酸誘導体がメチオニンであることを特徴とする、貴金属イオン逆抽出剤又は脱着剤。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の貴金属イオン逆抽出剤又は脱着剤と、貴金属イオンを含有する抽出剤又は吸着剤とを接触させて得られる貴金属イオンを含有する溶液を還元処理して貴金属を得る事を特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項5】
貴金属イオンがパラジウムイオンであり、且つ貴金属がパラジウムであることを特徴とする請求項4に記載の回収方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の貴金属イオン逆抽出剤又は脱着剤と、貴金属イオンを含有する抽出剤又は吸着剤とを接触させて貴金属イオンを含有する溶液を得ることを特徴とする貴金属イオンの逆抽出方法又は脱着方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の貴金属イオン逆抽出剤又は脱着剤、及び貴金属イオンを含有する溶液を還元処理することを特徴とする貴金属の製造方法。
【請求項8】
下記一般式(1)
【化2】

(式中、Rはメチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状の炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、nは0又は1を表す。)
で表される含硫黄アミノ酸誘導体を含む貴金属イオン脱着剤。
【請求項9】
含硫黄アミノ酸誘導体がメチオニンであることを特徴とする請求項8に記載の貴金属イオン脱着剤。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の貴金属イオン脱着剤を、貴金属イオンを吸着した吸着剤と接触させて、貴金属イオンを脱着させることを特徴とする貴金属イオンの脱着方法。
【請求項11】
請求項10に記載の貴金属イオンの脱着方法により得られた貴金属イオンを含む水溶液を還元処理して、貴金属を沈殿回収することを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項12】
貴金属イオンがパラジウムイオンであり、且つ貴金属がパラジウムであることを特徴とする請求項11に記載の貴金属の回収方法。

【公開番号】特開2012−149344(P2012−149344A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−289307(P2011−289307)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】