説明

貼付剤

【課題】 本発明は、遊離塩基性薬物の経皮吸収性及び保存安定性に優れた貼付剤を提供する。
【解決手段】 本発明の貼付剤は、その膏体層中に、炭素数が8〜22の脂肪族炭化水素基を有する脂肪酸を所定量含有していることから、膏体層中の遊離塩基性薬物の保存安定性を損ねることなく、遊離塩基性薬物の溶解性及び拡散性を向上させて経皮吸収性を高めており、膏体層中に充分な量の遊離塩基性薬物が拡散された状態で含有されているため、持続的な遊離塩基性薬物の経皮投与が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離塩基性薬物を含有する貼付剤に関し、詳細には、皮膚透過性が良好で製剤の保存安定性に優れた遊離塩基型の薬物の経皮適用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クロルフェニラミン、ケトチフェン、アゼラスチン或いはその塩類などの抗ヒスタミン作用性薬物は、気管支喘息及びアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎等の治療剤として知られており、経口或いは局所経粘膜の投与経路で適用されている。経口剤の場合、鼻粘膜、眼粘膜、皮膚、気管支といった全身のアレルギー反応に効果があるため汎用されているが、肝臓での初回通過効果で分解してしまう場合や、消化管障害を起こしたり、血中濃度の変動が大きいために血中濃度が高まりすぎて副作用である眠気が発生したり、逆に血中濃度が低下してしまい必要な時に効果が得られなかったりする場合がある。
【0003】
これに対して、経皮投与の場合には、肝臓での初期通過効果も避けられ、消化管障害も避けることができる。また、吸収が持続的に行われるため、例えば、就寝前に投与開始すれば、起き抜けのアレルギー反応を効果的に抑えることも可能である。更には、皮膚掻痒症の局所症状にも効果的に適用できる。経皮吸収製剤の中でも、貼付剤においては持続的な吸収が可能であるため、突発的に起きるアレルギー反応にも安定した効果が期待される。
【0004】
これまでにアゼラスチン、ケトチフェン、塩酸アゼラスチン又はフマル酸ケトチフェンといった抗ヒスタミン作用を持つ塩基性活性物質及びその塩類について、経皮吸収型の製剤への可能性が検討されてきた。
【0005】
特許文献1には、塩酸アゼラスチンと炭素数8〜12の脂肪酸のモノグリセライド、及び/又は炭素数12〜18の脂肪族アルコールの乳酸エステルを配合した場合に、アゼラスチン或いはその塩類の溶解性が適度で、しかも、アゼラスチン或いはその塩類の皮膚透過性が著しく向上することが開示されている。
【0006】
又、特許文献2には、フリー塩基性薬物を粘着剤中に含有してなる薬物含有粘着剤層を支持体に積層してなるテープ製剤が開示され、特許文献3には、塩基性薬物と酢酸ナトリウムの様な有機酸塩、あるいは塩基性薬物(フリー体)と酢酸の様な有機酸(フリー体)の組み合わせで液体成分を含む経皮吸収型製剤に溶解させると、それぞれイオン対の形成を介して基剤成分である液体成分への薬物の溶解性と皮膚への分配率を高め、薬物の皮膚透過性を有意に向上させることが開示され、更に、液体成分の溶解度パラメーターが7〜13(cal/cm31/2の範囲内において、薬物の溶解性が増大し、薬物の経皮吸収性が向上することが開示されている。
【0007】
又、特許文献4では、炭素数4〜13のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる感圧性接着剤層の露出表面のpHが7以上である医療用貼付剤で、塩基性薬物及び酸性物質を該感圧性接着剤層に含有することにより、薬物の安定性と経皮吸収性に優れる製剤が実現されるとしている。ここでは好適な酸性物質を有機酸とし、クエン酸、コハク酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、サリチル酸、乳酸が挙げられている。
【0008】
更に、特許文献5には、塩酸アゼラスチンと炭素数8以上の脂肪酸を含有させることで、結晶性水和物の生成を防ぎ、且つ経皮及び経粘膜吸収性に優れる製剤が提案されている。
【0009】
しかしながら、吸収性を優先した処方では、薬物の溶解性が高まりすぎて、製剤中での薬物安定性が低下する場合がある。又、上記文献の皮膚透過性を向上させる化合物は、必ずしも貼付剤において適切であるとは言えず、上記化合物の必要量を製剤中に含有することができないか、或いは、貼付性が不十分で持続的な使用に耐えられないといった問題点があった。更に、上記文献では遊離塩基型薬物と酸付加塩型薬物の特性の違いによる化合物の効果を詳細に検討しておらず、遊離塩基型の薬物を貼付剤に含有させる場合の最適な化合物についての検討はなされていなかった。
【0010】
更に、一般的に、酸付加塩型の薬物に比べ、遊離塩基型(フリー体)薬物はその結晶の融点が低くなり、分子量も小さく、極性が脂溶性に変化するため、粘着剤や皮膚表面の角質層への溶解性が高まり、経皮投与において角質層を通過するためには有利な物性となる。
【0011】
しかしながら、物理化学的活動度が高い故に、保存中における薬物の分解や過飽和状態からの結晶化といった製剤安定性が課題となり、実現化に至らない場合が多く、安定性を確保しつつ十分な経皮吸収性を実現する事が遊離塩基型薬物の課題であった。
【0012】
例えば、特許文献6には、塩基性薬物の製剤中での安定性を確保するために、非架橋状態の粘着剤層に薬物及び液状成分を含有させた層と、その表面に薬物非含有の架橋粘着剤層を積層一体化することで、貼付に必要な凝集力を保ちつつ安定性と吸収性を向上させている。
【0013】
上記技術においては、保存中における薬物の分解を抑制する効果はあるものの、薬物の過飽和状態からの結晶化を防ぐという課題に対しては十分ではなかった。
【0014】
【特許文献1】特開平2−124824号公報
【特許文献2】特開平2−255611号公報
【特許文献3】WO00/61120号公報
【特許文献4】特開平2−255612号公報
【特許文献5】特開平7−40949号公報
【特許文献6】特開2004−10525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、遊離塩基性薬物の経皮吸収性及び保存安定性に優れた貼付剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の貼付剤は、支持体と、この支持体の一面に積層一体化された膏体層とを備えた貼付剤であって、上記膏体層は、遊離塩基性薬物1〜30重量%と、炭素数が8〜22の脂肪族炭化水素基を有する脂肪酸1〜30重量%と、粘着剤50〜98重量%とを含有することを特徴とする。
【0017】
上記遊離塩基性薬物としては、その構造内に窒素原子を持ち塩基性を有する薬物であれば、特に限定されず、例えば、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、ケトチフェン、アゼラスチン、ロラタジン、オキサトミド、ジフェニルピラリン、クレマスチン、アリメマジン、メキタジン、エメダスチンエピナスチン、エバスチンなどが挙げられ、抗ヒスタミン作用を有するものが好ましい。
【0018】
膏体層中における遊離塩基性薬物の含有量は、1〜30重量%に限定され、2〜20重量%が好ましく、5〜15重量%が特に好ましい。これは、膏体層中における遊離塩基性薬物の含有量が、少ないと、薬物の経皮吸収量が少なくなり、薬物血中濃度を所望の範囲まで上昇させられないことがあったり、遊離塩基性薬物の血中濃度を充分な時間維持できなかったりする一方、多いと、膏体層に遊離塩基性薬物の結晶が過剰に析出して、貼付剤の粘着力及び薬物の拡散性が低下したりするのに加えて、遊離塩基性薬物の利用率が低下するため製剤として非効率になったりすることがあるからである。
【0019】
本発明の貼付剤は、治療薬として、遊離塩基性薬物の血中濃度を所望の範囲まで上昇させることが必要とされており、このような効果を得るためには、その膏体層中に充分な量の遊離塩基性薬物が安定的に含有され、且つ、遊離塩基性薬物が膏体層中を良好に拡散して皮膚との貼着面に薬物が継続的に供給され、更に、製剤として長期間保存してもその性能に変化のないことが求められる。
【0020】
しかしながら、遊離塩基性薬物と添加剤との組み合わせによっては、遊離塩基性薬物の溶解性や拡散性が経時的に変化して遊離塩基性薬物の経皮吸収性が低下してしまうことがあり、貼付剤化を困難にしていた。本発明の貼付剤では、遊離塩基性薬物の経皮吸収性及び保存安定性に優れた貼付剤を実現するために、その膏体層中に炭素数が8〜22の脂肪族炭化水素基を有する脂肪酸を含有させており、この脂肪酸の存在によって、遊離塩基性薬物の経皮吸収性と保存安定性が確保される。
【0021】
炭素数が8〜22の脂肪族炭化水素基を有する脂肪酸(以下、単に「脂肪酸」ということがある)は、遊離塩基性薬物を良好に溶解し、所望の薬物血中濃度を得るために充分な量の遊離塩基性薬物を膏体層中に溶解させることができる。
【0022】
更に、膏体中における遊離塩基性薬物の溶解性が経時的に変化することがなく、長期間保存した後も良好な経皮吸収性能を発揮することができる。更に、上記脂肪酸は、皮膚の角質層を柔軟にし、或いは、水和性を高めることにより、遊離塩基性薬物の皮膚透過性を向上させる効果や、皮膚内に遊離塩基性薬物を運ぶキャリアーとして作用するといった効果も有している。従って、膏体層中に上記脂肪酸を含有させることによって遊離塩基性薬物の経皮吸収性を大きく向上させることができる。
【0023】
上記脂肪酸は、R−COOHで表され、Rは、炭素数が8〜22の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは、炭素数が10〜20の脂肪族炭化水素基である。これは、脂肪族炭化水素基の炭素数が7以下であると、粘着剤との相溶性が低下し、膏体層が不均一となってしまうことがあり、或いは、遊離塩基性薬物との反応性が高まり、膏体層中で薬物との塩を形成しやすくなり、遊離塩基性薬物の経皮吸収性が低下することがあるからである。一方、脂肪酸の炭素数が23以上となると、遊離塩基性薬物の溶解性が低下して、所望の薬物血中濃度を得るために充分な量の遊離塩基性薬物を膏体層中に溶解させることができなくなり、或いは、膏体層の柔軟性を低下させ、貼付剤としての粘着力の低下が起こり易くなるからである。
【0024】
上記炭素数が8〜22の脂肪族炭化水素基を有する脂肪酸としては、特に限定されず、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、ウンデシレン酸などが挙げられ、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸が好ましい。なお、脂肪酸は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0025】
膏体層中における脂肪酸の含有量は、少ないと、膏体層における薬物の溶解性及び拡散性が低下し、薬物の経皮吸収性と保存安定性が不十分になる一方、多いと、膏体層中のアクリル系粘着剤が過度に可塑化され、或いは、粘着性が低下するので、1〜30重量%に限定され、3〜20重量%が好ましく、5〜15重量%がより好ましい。
【0026】
膏体層を構成する粘着剤としては、遊離塩基性薬物と脂肪酸を安定的に配合し、良好な貼付性を実現できる粘着剤であれば、特に限定されず、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコン系粘着剤などが挙げられ、脂肪酸を良好に配合することができることから、アクリル系粘着剤が好ましい。
【0027】
上記アクリル系粘着剤としては、原料となる単量体として、アルキル基の炭素数が2以上、好ましくは2〜18のアルキル(メタ)アクリレートを少なくとも50重量%含有するアクリル系共重合体からなるものが好ましい。なお、本発明において、(メタ)アクリは、「アクリ」又は「メタクリ」を意味する。
【0028】
アクリル系共重合体は、皮膚への密着性及び薬物に対する溶解性が良好であり、しかも皮膚を刺激することが少なく、さらに薬物を安定に保持し得る。アクリル系共重合体には、アルキル(メタ)アクリレートと、他の共重合可能な単量体との共重合体が含まれ、この共重合可能な単量体(以下「共重合性単量体」という)は40重量%以下、好ましくは0.5〜30重量%の範囲で共重合される。
【0029】
アクリル系共重合体としては、(i)2−エチルヘキシルメタクリレートとこれを除くアルキル基の炭素数が6〜16のアルキル(メタ)アクリレートとを構成成分とし、アクリル系共重合体を構成する単量体成分中に2−エチルヘキシルメタクリレートを40〜90重量%含有するもの、或いは、(ii)アルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートを25〜70重量%、アルキル基の炭素数が3以下のアルキル(メタ)アクリレートを30〜75重量%含有するものが好ましい。
【0030】
共重合性単量体の種類及び共重合比を調整することにより、アクリル系共重合体の貼付性、薬物溶解性及び薬物放出性を調節することができる。従って、アクリル系共重合体又はこの混合物は、上記薬物と添加剤を担持させる粘着剤として好適なものである。
【0031】
アクリル系共重合体を構成するのに用いられるアルキル(メタ)アクリレートとしては、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレートなどが挙げられる。
【0032】
共重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロシキプロピルアクリレート、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0033】
更に、上記アクリル系粘着剤の原料となる単量体には、ミドドリン類の保存安定性を損なわない範囲内であれば、上記多官能性単量体以外の、エポキシ化合物、ポリイソシアネート化合物、金属キレート化合物、金属アルコキシド化合物などの架橋剤を添加してもよい。このようにアクリル系粘着剤の原料となる単量体に架橋剤を添加することにより、アクリル系粘着剤の内部凝集力が高まるので、貼付剤を皮膚から剥離させる際に皮膚に糊残りを生じにくくすることができる。
【0034】
そして、上記アクリル系粘着剤の重合方法としては、従来公知の方法にて行なえばよく、例えば、重合開始剤の存在下で、上述のような単量体を配合して、溶液重合を行なうことによって重合する。具体的には、所定量のアルキル基の炭素数が4〜22のメタクリル酸アルキルエステル、アルキル基の炭素数が2〜20のアクリル酸アルキルエステル、重合開始剤及び必要に応じて添加する架橋剤を重合溶媒と共に、撹拌装置及び気化溶媒の冷却還流装置を備えた反応器に供給し、60〜80℃の温度で4〜48時間に亘って加熱して、上記単量体をラジカル重合反応させる。
【0035】
又、上記重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4’−ジメチルバレロニトリル)などのアゾビス系重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド(LPO)、ジターシャルブチルパーオキサイドなどの過酸化物系重合開始剤などが挙げられ、上記重合溶媒としては、例えば、酢酸エチルやトルエンなどが挙げられる。更に、上記重合反応は、窒素ガス雰囲気下で行なうのが好ましい。
【0036】
膏体層中におけるアクリル系粘着剤の含有量は、少ないと、皮膚への粘着力が低下する一方、多いと、所望の薬物血中濃度を得るために必要な量の遊離塩基性薬物及び脂肪酸を配合することができなくなるので、50〜98重量%に限定され、60〜95重量%が好ましく、70〜90重量%がより好ましい。
【0037】
膏体層には、本発明の効果を損なわない範囲内で、可塑化剤、溶解剤、吸収促進剤、安定化剤、充填剤などの添加剤が添加されてもよい。
【0038】
可塑化剤は、貼付剤の粘着力や、膏体層における遊離塩基性薬物の拡散性を向上させる目的で添加される。このような可塑化剤としては、例えば、流動パラフィンなどの炭化水素;ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチルなどの脂肪族カルボン酸と一価又は多価アルコールとのエステル;ラノリン、オリーブ油などの天然物由来の油脂などが挙げられ、膏体層中に1〜10重量%添加されればよい。
【0039】
又、溶解剤は、膏体層中の薬物の溶解量を更に高める目的で添加される。このような溶解剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール等が挙げられ、膏体層中1〜10重量%添加されればよい。
【0040】
そして、吸収促進剤は、皮膚に作用してアゼラスチンの皮膚透過性を高めるために使用され、角質層を柔軟にするものや角質層の水和性を高めるものが用いられる。このような吸収促進剤としては、ポリソルベート、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラウロイルサルコシン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどの界面活性剤などが挙げられ、膏体層中に0.05〜10重量%添加されればよい。
【0041】
又、上記安定化剤は、薬物の酸化や分解を抑える目的で添加される。このような安定化剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン、酢酸トコフェロールなどの酸化防止剤、シクロデキストリン、エチレンジアミン四酢酸などが挙げられ、膏体層中に0.05〜10重量%添加されればよい。
【0042】
更に、充填剤は、貼付剤の粘着力や、遊離塩基性薬物の経皮吸収性を調節するために添加される。このような充填剤としては、例えば、無水ケイ酸、酸化チタン、等の無機充填剤、炭酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の有機金属塩類、乳糖、結晶セルロース、エチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、ビニルピロリドンや、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸誘導体を単量体とする高分子等が挙げられる。これらの充填剤は膏体層中に1〜15重量%添加されればよい。
【0043】
膏体層の厚さは、10〜250μmが好ましく、20〜200μmがより好ましい。これは、上記膏体層の厚さが10μmよりも薄いと、膏体層に所望の薬物血中濃度を得るのに必要な量の遊離塩基性薬物を含有できなくなることがある一方、250μmよりも厚いと、貼付剤の保存時や貼付時に、膏体層が貼付剤からはみ出しやすくなる、貼付剤を貼付した際の貼付感が悪化してしまう、更に、貼付剤を後述する溶剤塗工により製造した際に溶剤の除去に長時間を要し製造効率が低下するなどの問題が生じることがあるからである。
【0044】
そして、上記膏体層と積層一体化されて本発明の貼付剤を構成する支持体は、膏体層中の薬物の損失を防ぎ、膏体層を保護するものであると共に、貼付剤に自己支持性を付与するための強度を有しつつ、貼付剤の良好な貼付感を付与するための柔軟性を有していることが求められる。
【0045】
このような支持体としては、特に限定されず、例えば、樹脂シート、発泡樹脂シート、不織布、織布、編布、アルミニウムシートなどが挙げられ、単層からなるものでも、複数層が積層一体化されてなるものでもよい。
【0046】
そして、上記樹脂シートを構成する樹脂としては、例えば、酢酸セルロース、エチルセルロース、レーヨン、ポリエチレンテレフタレート、可塑化酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、ナイロン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、可塑化ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデンなどが挙げられ、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0047】
上記支持体としては、その柔軟性や薬物の損失防止効果の観点から、ポリエチレンテレフタレートシートと、不織布や柔軟な樹脂シートとが積層一体化されてなるものが好ましく、ポリエチレンテレフタレートシートと不織布とが積層一体化されてなるものがより好ましい。上記不織布を構成する素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、ナイロン、ポリエステル、ビニロン、SIS共重合体、SEBS共重合体、レーヨン、綿などが挙げられ、ポリエステルが好ましい。なお、これらの素材は単独で用いられても2種以上が併用されてもよい。
【0048】
本発明の貼付剤の膏体層中の薬物の損失防止や膏体層を保護する目的で、貼付剤の膏体層の表面に剥離紙を剥離可能に積層一体化させておくのが好ましい。
【0049】
上記剥離紙としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどからなる樹脂フィルムや紙などが挙げられ、膏体層と対向させる面に離型処理が施されていることが好ましい。なお、上記剥離紙は単層からなるものであっても、複数層からなるものであってもよい。
【0050】
又、上記剥離紙のバリア性を向上させる目的で、剥離紙にアルミ箔やアルミ蒸着の層を設けたものであってもよい。更に、上記剥離紙が紙からなる場合、剥離紙のバリア性を向上させる目的で、剥離紙にポリビニルアルコールなどの樹脂を含浸させてもよい。
【0051】
次に、本発明の貼付剤の製造方法を説明する。上記貼付剤の製造方法は、特に限定されないが、例えば、遊離塩基性薬物、粘着剤、脂肪酸及び必要に応じて添加される添加剤を酢酸エチルなどの溶剤中に加え、均一になるまで攪拌して得られた膏体層溶液を、支持体の一面に塗工した後に乾燥させることにより支持体の一面に膏体層を積層一体化し、必要に応じて、膏体層に剥離紙を、剥離紙の離型処理が施された面が膏体層に対向した状態となるように積層一体化させる方法や、上述のような塗工法によって、剥離紙の離型処理が施された面上に膏体層溶液を塗工し、乾燥させることにより、剥離紙上に膏体層を形成し、この膏体層に支持体を積層一体化させる方法などが挙げられる。
【発明の効果】
【0052】
本発明の貼付剤は、その膏体層中に、炭素数が8〜22の脂肪族炭化水素基を有する脂肪酸を所定量含有していることから、膏体層中の抗ヒスタミン作用を有する遊離塩基性薬物の保存安定性を損ねることなく、抗ヒスタミン作用を有する遊離塩基性薬物の溶解性及び拡散性を向上させて経皮吸収性を高めており、膏体層中に充分な量の抗ヒスタミン作用を有する遊離塩基性薬物が拡散された状態で含有されているため、持続的な抗ヒスタミン作用を有する遊離塩基性薬物の経皮投与が可能である。
【0053】
更に、本発明の貼付剤は、その貼付時において皮膚から不測に剥離するようなことがないだけでなく、その剥離時において皮膚に糊残りを生じさせることがほとんどないという貼付剤として適度な粘着力を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
本発明の貼付剤の粘着剤として用いるアクリル系粘着剤A,Bの調製を下記の要領で行ない、実施例1〜8及び比較例1〜8の貼付剤を製造した。
【0055】
(アクリル系粘着剤Aの調製)
ドデシルメタクリレート13重量部、2−エチルヘキシルメタクリレート78重量部、2−エチルヘキシルアクリレート9重量部、及び、酢酸エチル50重量部からなる反応液を40リットルの重合機へ投入し、重合機内を80℃の窒素雰囲気とした。そして、上記反応液にベンゾイルパーオキサイド0.5重量部をシクロヘキサン50重量部に溶解させてなる重合開始剤溶液を24時間かけて加えながら重合させ、重合後更に酢酸エチルを加えて、アクリル系粘着剤A含有量35重量%のアクリル系粘着剤A溶液を得た。
【0056】
(アクリル系粘着剤Bの調製)
2−エチルヘキシルアクリレート100重量部、エチルアクリレート80重量部、ビニルピロリドン20重量部、及び、酢酸エチル200重量部からなる反応液をセパラブルフラスコに投入した後、このセパラブルフラスコ内を80℃の窒素雰囲気とした。そして、この反応液にベンゾイルパーオキサイド1重量部を酢酸エチル100重量部に溶解させてなる重合開始剤溶液を27時間かけて加えながら重合させ、重合後更に酢酸エチルを加えて、アクリル系粘着剤B含有量32重量%のアクリル系粘着剤B溶液を得た。
【0057】
(実施例1〜8、比較例1〜8)
膏体層におけるアゼラスチン、アゼラスチン塩酸塩、脂肪酸、脂肪酸エステル及びアクリル系粘着剤A,Bの重量組成が表1、2に示した割合となるように、アゼラスチン、アゼラスチン塩酸塩、脂肪酸、脂肪酸エステル及びアクリル系粘着剤A,B溶液を配合し、固形分の濃度が22重量%になるように酢酸エチルを加えた後、均一になるまで混合して、膏体層溶液を調製した。表1、2の脂肪酸の欄において、化合物の右横の括弧内には、脂肪族炭化水素基の炭素数を記載した。
【0058】
次に、シリコン離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し、このポリエチレンテレフタレートフィルムのシリコン離型処理面に、上記膏体層溶液を塗布し、60℃で30分間乾燥させることにより、ポリエチレンテレフタレートフィルムのシリコン離型処理面に表1、2に示す厚さの膏体層が形成された積層体を作製した。
【0059】
そして、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを支持体として用意し、この支持体の一面と、上記積層体の膏体層とが対向するように重ね合わせて、積層体の膏体層を支持体に積層一体化させることによって貼付剤を製造した。
【0060】
実施例及び比較例で得られた貼付剤の保存安定性を下記の要領で測定し、その結果を表1、2に示した。実施例1、5及び比較例1、4〜6で得られた貼付剤について下記の要領で透過性試験を行なってアゼラスチンの累積皮膚透過量を測定し、その結果を表3及び図1、2に示した。実施例2〜4及び比較例2、3で得られた貼付剤について同様の要領で透過性試験を行なってアゼラスチンの累積皮膚透過量を測定し、その結果を表4及び図3に示した。実施例6〜8及び比較例7、8についてアゼラスチン移行量を下記要領で測定し、その結果を表5に示した。
【0061】
(保存安定性)
貼付剤の製造直後において、目視及び顕微鏡で膏体層表面を観察し、結晶の析出状態を観察した。更に、貼付剤から一辺が10cmの試験片を切り出し、この試験片を遮光した包材に密封して室温にて6カ月間に亘って保存した。6カ月後に再び、膏体層表面を観察して結晶の析出状態を目視及び顕微鏡で観察した。膏体層の表面に結晶が析出していなかった場合を「○」、結晶が析出していた場合を「×」とした。
【0062】
(透過性試験)
実施例1、5及び比較例1、4〜6で得られた製造直後の貼付剤から直径2cmの平面円形状の試験片(貼付面積:3.14cm2)を切り出す一方、37℃に保持されたFranzの拡散セルに、ヘアレスマウス(雄、8〜10週齢)の背部摘出皮膚を固定し、この皮膚の上端部に試験片をその膏体層によって貼付した。なお、pH7.2に調整した生理食塩水をリセプター液とし、このリセプター液中に皮膚の下端部を浸漬した。
【0063】
試験片を皮膚に貼付してから6、21及び24時間後に、皮膚下側のリセプター液を採取し、アゼラスチン濃度をHPLCを用いて測定した。なお、試験片を3枚用意し、各試験片毎に6、21及び24時間後におけるアゼラスチン濃度を上記要領で測定した。そして、経過時間毎に、アゼラスチン濃度とリセプター液量から求められるアゼラスチン透過量を算出し、試験片毎に算出されたアゼラスチン透過量を経過時間毎に相加平均し、その値をアゼラスチンの累積皮膚透過量とした。なお、21及び24時間後におけるアゼラスチン透過量を算出するにあたっては、それ以前にリセプター液を採取しているので、このリセプター液の採取量について補正を加えた。
【0064】
更に、貼付剤を遮光した包材に密封して室温にて6カ月間に亘って保存した後、この貼付剤について上述と同様の要領でアゼラスチンの累積皮膚透過量を測定した。
【0065】
実施例2〜4及び比較例2、3で得られた製造直後の貼付剤について上述と同様の要領で透過性試験を行ない、アゼラスチンの累積皮膚透過量を測定した。
【0066】
(ラット貼付試験による経皮吸収性の評価)
実施例6〜8及び比較例7、8について、皮膚に対する薬物吸収性を評価する目的で、ラット貼付試験におけるアゼラスチン移行量を以下の方法で評価した。
【0067】
先ず、各々の貼付剤から面積3cm2の試験片を5片切り出し、3片について膏体層中の成分を抽出し、得られた抽出液についてHPLC測定を行なうことにより、抽出液中のアゼラスチン含有量を定量し、その相加平均値をアゼラスチン含有量W1(μg)とした。
【0068】
次に、残り2片の試験片を予め背部の毛を除去しておいたラット(wistar 雄、7週齢)の背部の皮膚に貼付し、24時間後に剥離させた。そして、この貼付後の試験片の膏体層の成分を抽出し、HPLC測定により、上記抽出液中におけるアゼラスチン含有量W2(μg)を定量し、下記式(1)を用いて試験片毎にアゼラスチン移行量(μg/cm2/24h)を算出した。試験片毎に算出された値を相加平均して貼付剤のアゼラスチン移行量とした。なお、表5では「アゼラスチン移行量」を単に「移行量」と表記した。
アゼラスチン移行量(μg/cm2/24h)=(W1−W2)/3 ・・・式(1)
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】


【0073】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1、5及び比較例1、4〜6で得られた製造直後の貼付剤について透過性試験を行なって得られたアゼラスチンの累積皮膚透過量を示したグラフである。
【図2】実施例1、5及び比較例1、4〜6で得られた貼付剤を6カ月保存した後、貼付剤について透過性試験を行なって得られたアゼラスチンの累積皮膚透過量を示したグラフである。
【図3】実施例2〜4及び比較例2、3で得られた製造直後の貼付剤について透過性試験を行なって得られたアゼラスチンの累積皮膚透過量を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、この支持体の一面に積層一体化された膏体層とを備えた貼付剤であって、上記膏体層は、遊離塩基性薬物1〜30重量%と、炭素数が8〜22の脂肪族炭化水素基を有する脂肪酸1〜30重量%と、粘着剤50〜98重量%とを含有することを特徴とする貼付剤。
【請求項2】
遊離塩基性薬物が抗ヒスタミン作用を有することを特徴とする請求項1に記載の貼付剤。
【請求項3】
脂肪酸が、炭素数が10〜20の脂肪族炭化水素基を有することを特徴とする請求項1に記載の貼付剤。
【請求項4】
脂肪酸が、直鎖状又は分岐鎖状脂肪族炭化水素基を有することを特徴とする請求項1に記載の貼付剤。
【請求項5】
脂肪酸が、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸及びウンデシレン酸からなる群から選ばれた一種以上の脂肪酸を含有していることを特徴とする請求項1に記載の貼付剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−242303(P2009−242303A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91157(P2008−91157)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
【Fターム(参考)】