質量分析法を利用した複数癌腫の血液検出のための方法および生物マーカー
【課題】膵癌および卵巣癌を含む複数の癌腫を対象としたヒト担癌患者の血液検出を可能とする方法を提供する。
【解決手段】ヒト担癌患者において単一の血液試料を用いて複数の癌腫を検出および同定する方法であって、(1)複数の種類の癌について各々の癌をもつヒト担癌患者由来の血液試料および非癌健常人由来の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定してタンパク質発現プロファイルを得るステップ、(2)ステップ(1)のタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、前記特定の種類のヒト癌の各々を非癌から区別可能な質量数(m/z)のピークを選択するステップ、(3)癌の種類が不明であるヒト担癌患者由来の単一の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定し、得られたタンパク質発現プロファイルをもとにステップ(2)で選択された質量数(m/z)のピークについて、非癌健常人との間の相対的な発現レベルの差を指標にして複数のヒト癌を検出し同定するステップを含む方法。
【解決手段】ヒト担癌患者において単一の血液試料を用いて複数の癌腫を検出および同定する方法であって、(1)複数の種類の癌について各々の癌をもつヒト担癌患者由来の血液試料および非癌健常人由来の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定してタンパク質発現プロファイルを得るステップ、(2)ステップ(1)のタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、前記特定の種類のヒト癌の各々を非癌から区別可能な質量数(m/z)のピークを選択するステップ、(3)癌の種類が不明であるヒト担癌患者由来の単一の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定し、得られたタンパク質発現プロファイルをもとにステップ(2)で選択された質量数(m/z)のピークについて、非癌健常人との間の相対的な発現レベルの差を指標にして複数のヒト癌を検出し同定するステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵癌および卵巣癌を含む複数癌腫をもつヒト担癌患者において癌腫の検出に有用な新規血液診断生物マーカー、ならびに、質量分析法を利用した癌腫の血液検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における悪性新生物による死亡者数は、年間約30万人にのぼり、全死亡者数のおよそ3分の1(60歳代では2人に1人)を占め、また、1980年代から一貫して増加の一途を辿っている。癌は働き盛りの中壮年世代における最大の死亡原因であり、少子高齢化が他国に先駆けて進行する日本にとっては、労働力の損失は国家的に緊急に対策を構ずるべき課題であると考えられる。さらに、高齢者人口の増加は、新規発症者数の増加につながると考えられ、実際にその傾向は顕著であり、2020年には年間約85万人が癌に罹患するとの推計も提示されている。以上の如く、いずれの観点からも抜本的な対策が急務であると考えられる。また、健康寿命の延伸、生活の質の向上は、全世界的な関心事項・希求事項であり、これらを達成するためには、より良い革新的医療サービスの提供が必須である事は明白である。今日までの精力的な医学研究の推進により、すでに白血病の様に不治の病から、適切な治療を早期に開始する事により治癒が十分望める程にまで診療体系の整った腫瘍も存在する。また、胃癌においても、早期発見・早期治療が徹底されたことにより、罹患者数では未だに圧倒的な第1位であるが、死亡者数は戦後一貫して減少し、1998年には男女合計で肺癌のそれを下回り、5年相対生存率は約60%にまで向上している。以上の様に、癌の早期診断法の開発は今後の癌対策で最重要ポイントであり、本発明者らは複数癌腫の存在診断を、血液試料を対象として簡便に行う方法の開発を進めるため、膵癌および卵巣癌の担癌患者ならびに非癌健常人からの血液試料を用いてその開発に着手した。
【0003】
胃腸や肝臓に隠れた深部臓器である膵臓に発生する膵癌は、腹部CT検査でも早期発見が困難であり、また、胃カメラやバリウム造影検査などの直接的な検査手法も存在しない。さらに、臨床症状に乏しいことも早期発見を困難にしており、多くの症例において診断時には既に治癒が見込めない状況にまで病状が進展している。現時点における膵癌診療に関するコンセンサスとしては、外科的切除が根治治療の第一選択である。然しながら、治癒が期待される外科手術が出来た症例においても、その5年生存率が20%程度と、他の癌の治療成績を大きく下回っている状況である。さらには、多くの症例において診断時には既に治癒が見込めない状況にまで病状が進展している(例えば、膵癌患者全体における5年生存率は5%前後である。)という状況は、10年前と比較してもほとんど改善はみられていない。この様に、年間発症症例数と死亡者数がほぼ等数である膵癌は、ヒト癌種の中でも最難治と考えられる。然しながら、腫瘍径が2cm以下で膵臓内に限局しているStage IIまでの段階で切除手術を受けた症例に限ると、5年生存率は60%程度に向上するとの統計も存在し、この事は、早期発見・早期治療の重要性を示唆しているものと考えられる。現在の実地臨床では、この様な段階で発見される症例は、全体のわずか5%程度と極少数例のみであり、さらには、近年その死亡者数が増加傾向にある事からも(20年前と比較し約2倍、10年前と比較し約1.5倍となっている。)、その診療体系の抜本的な変革が強く望まれており、早期膵癌診断法の新規開発が至上命題となっている。
【0004】
現在のところ、膵癌診断を目的としたスクリーニング検査には、通常、X線CT、超音波検査が用いられており、また、切除手術可能膵癌については超音波検査で見つかった症例が多いとの報告があるが、患者一人当たりに30分程度の検査時間がかかることや、超音波検査担当者の技能格差が大きいことなどから、現状では、全ての地方自治体において一般健診として超音波検査が実施されているわけではない。また、その発見頻度は非常に低く約25,000回の検査で一例程度であること、さらには、超早期の膵癌に関しては、検出が非常に困難であり、疑陰性(検診時“異常なし“であるにも拘らず半年以内に膵癌を発症する)も少なくない。以上の如くに、超音波診断の一般臨床上における有用性に関する疑問の余地は無いものの、目標を膵癌診断のみに特定して考えた場合、その有効性は低いと言わざるを得ない。このような観点からも、広く検診に応用可能な高感度且つ低侵襲で簡便且つ安価な早期発見法の確立が望まれている。
【0005】
さらにまた、卵巣は腹部深部にあり、腫瘍形成初期にはほとんど自覚症状を認めない。このため、2/3以上の症例は、転移した状態ではじめて病院を訪れる。卵巣癌に最もよくおこる転移は、腹膜播種で、卵巣の表面から腹膜全体に転位巣が拡がっていく。転移のない卵巣癌は手術だけで根治が望めるが、転移症例では、手術療法のみで全ての腫瘍を摘出不可能であり、残存腫瘍に対しては、手術後化学療法が行われる。その診断は、有症状受診で、既に腫瘍の増大を認める場合は、婦人科診察のみでも、腫瘍の存在と、子宮筋腫との鑑別は、かなりの確度で可能である。2次検査としては、超音波、X線によるCT、MRIなどの画像診断が行われ、腫瘍の発生部位、内部構造、転移の有無などが詳細に調べられる。血液中腫瘍マーカーとしては、CA125が臨床上用いられおり、転移のある卵巣癌ではほとんどのヒトがCA125陽性となる。しかしながら、早期癌では陽性率は低く、また、若い女性の中には癌がなくても軽度陽性のヒトもいるので、CA125は卵巣癌の早期発見には不十分と言える。
【0006】
近年のヒトゲノム計画の完遂やマイクロアレイ・質量分析装置を用いた網羅的発現解析技術など、様々なバイオテクノロジー技術の開発が進んだ事により、難治癌を含む癌全般の診断と治療のコンセプトに変容が促されつつある。プロテオミクス・バイオインフォマティクス融合研究の現状については、ヒトゲノム上の遺伝情報が基本的にタンパクに翻訳されて遂行されることから、大きな期待を集めつつある分野であるが、マイクロアレイという成熟した解析技術を用いるゲノミクス研究に比して黎明期ともいえる状況にあり、医療への応用を念頭に置いたプロテオミクス研究には、依然として相当な技術的な困難性が存在する事も事実である。しかしながら、世界の動向についてみてみると、すでに爆発的な進歩と発展が目前に迫っていることを示唆する研究成果は報告されつつあり、例えば、米国の癌研究所やバンダービルト大学などの研究グループは、卵巣癌・前立腺癌・肺癌の臨床病態の差異と発現プロファイルの関連性を見出すなど質の高い成果を報告している(非特許文献1〜6)。しかしながら、膵癌および卵巣癌などの複数癌腫を同時に対象とした解析の報告は皆無である。その理由は、上述の如くに詳細かつ良質で大規模なプロテオミクス解析データの取得と検証を高いレベルで遂行できる研究グループが、その技術的な困難性ゆえに未だ世界的に見ても極めて限られていること、並びに詳細な臨床情報の付帯する大規模な臨床試料バンクを有する機関が限定されることなどに起因する。
【0007】
なお、膵臓癌マーカーは、例えば特許文献1〜4に記載されており、また、卵巣癌マーカーは、例えば特許文献5に記載されている。さらにまた、マススペクトルピークからの癌マーカーのスクリーニング法に関しては、特許文献6に記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開2007−051880
【特許文献2】特開2004−248585
【特許文献3】特開2004−248575
【特許文献4】特表2000−502902
【特許文献5】特表2007−504463
【特許文献6】特開2008−076202
【非特許文献1】EF Petricoinら, Lancet 2002, 359:572−577
【非特許文献2】EF Petricoinら, J. Natl. Cancer Inst. 2002, 94:1576−1578
【非特許文献3】BL Adamら, Cancer Res. 2002, 62:3609−14
【非特許文献4】D Sidranskyら, J. Natl. Cancer Inst. 2003, 95:1711−1717
【非特許文献5】MJ Campaら, Cancer Res. 2003, 63:1652−1656
【非特許文献6】K Yanagisawaら, Lancet 2003, 362:433−439
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
深部臓器に生じる癌であって、代表的難治癌である膵癌および卵巣癌は、臨床症状に乏しく、現状では早期診断に有効な検査法が欠如しているため、血液試料を用いて高感度且つ低侵襲に、簡便で安価にこれらの難治癌を早期検出することを可能とする新規分子検査法の開発ニーズが存在する。
【0010】
このような状況において、本発明者らは、単一の遺伝子またはタンパク質による検査方法ではなく、複数のタンパク質を解析対象とした検査法の導入により、感度・精度を飛躍的に高めることが可能であると考え、ヒト膵癌・卵巣癌担癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別する事が出来る有用な生物マーカーを複数見出すこと、並びに複数癌腫の担癌患者を単回の測定により判別可能な診断アルゴリズムおよび検査方法を構築すること目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを正確に判別するために有用な指標を得る事を目的とし、また、担癌患者血液試料中のプロテオミクスプロファイルが臨床的に意味のあるツールであることを立証するために、本発明者らは、MALDI MSを使用して、訓練群として80症例の膵癌患者血漿および80例の非癌健常人血漿を含む160血液試料中のタンパク質発現プロファイルを解析し、膵癌患者血液試料を非癌健常人血液試料から正確に区別する(タンパク質)ピークを選択することができた。さらに、本発明者らは、担癌患者血液試料と非癌健常人血液試料のプロテオミクスプロファイルに基づいた判別法を、盲検群から得られた独立のデータセットに適用し、癌存在診断におけるその有用性を検証することに成功した。
【0012】
上記と同様の検討を、卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを正確に判別するために有用な指標を得ることを目的とし、本発明者らは、MALDI MSを使用して、訓練群として63症例の卵巣癌患者血漿および64例の非癌健常人血漿を含む127血液試料中のタンパク質発現プロファイルを解析し、卵巣癌患者血液試料を非癌健常人血液試料から正確に区別する(タンパク質)ピークを選択することができた。
【0013】
さらに、本発明者らは、担癌患者血液試料と非癌健常人血液試料のプロテオミクスプロファイルに基づいた判別法を、盲検群から得られた独立のデータセットに適用し、癌存在診断におけるその有用性を検証することに成功した。
【0014】
さらに、バイオインフォマティクス解析を進め、単回の試料採取、並びに測定で、上記2癌腫を含む複数の癌腫が健常人と判別可能であった。
【0015】
したがって、本発明は、要約すると、以下の特徴を有する。
(1) 複数の癌腫をもつヒト担癌患者において単一の血液試料を用いて複数の癌腫を検出および同定する方法であって、下記の(a)〜(c):
(a) 複数の特定の種類の癌について各々の特定の癌をもつヒト担癌患者由来の血液試料および非癌健常人由来の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定してタンパク質発現プロファイルを得るステップ、
(b) 上記ステップ(a)のタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、上記特定の種類のヒト癌の各々を非癌から区別可能な質量数(m/z)のピークを選択するステップ、
(c) 癌の種類が不明であるヒト担癌患者由来の単一の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定し、得られたタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、非癌健常人との間の、上記ステップ(2)で選択された質量数(m/z)のピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にして、複数のヒト癌を検出し同定するステップ
を含む、上記方法。
【0016】
(2) 上記複数の癌腫が膵癌および卵巣癌を含む、上記(1)に記載の方法。
【0017】
(3) 上記膵癌を非癌から区別可能な選択されたピークの質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択される1または2以上である、上記(2)に記載の方法。
【0018】
(4) 上記卵巣癌を非癌から区別可能な選択されたピークの質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択される1または2以上である、上記(2)に記載の方法。
【0019】
(5) 上記選択されたピークの質量数を有するタンパク質を同定することをさらに含む、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
【0020】
(6) 上記同定されたタンパク質に基づいて、それをコードする遺伝子を決定することをさらに含む、上記(5)に記載の方法。
【0021】
(7) 上記質量数(m/z)を有するタンパク質からなる群から選択されるタンパク質もしくはその変異体に対する抗体、あるいは上記タンパク質もしくはその変異体をコードするポリヌクレオチドまたはそれに相補的なポリヌクレオチドを使用して、上記発現レベルの差を測定する、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
【0022】
(8) 膵癌、卵巣癌またはその両方の癌腫を有するヒト担癌患者において単一の血液試料を用いて上記癌腫を検出する方法であって、膵癌または卵巣癌をもつ第1の担癌患者由来の血液試料および第2の非癌健常人由来の血液試料のマススペクトルを測定してタンパク質発現プロファイルを得ること、上記タンパク質発現プロファイルを示すピークについて上記第1の担癌患者からの血液試料と上記第2の非癌健常人群からの血液試料とを互いに区別可能な質量数(m/z)のピークを選択すること、ならびに、上記第1の担癌患者と第2の非癌健常人との間の上記選択された質量数(m/z)のピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にして、上記ヒト担癌患者の血液試料について癌を検出することを含み、ここで、上記選択されたピークに対応するタンパク質の各々が、膵癌に関しては、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択される1または2以上の質量数(m/z)、および、卵巣癌に関しては、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択される1または2以上の質量数(m/z)をそれぞれ有することを特徴とする、上記方法。
【0023】
(9) マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質またはその変異体の各々に対する抗体またはその断片を少なくとも1つ含む、ヒト膵癌患者の血液診断を行うための組成物。
【0024】
(10) マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらの変異体、それらにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、あるいは15以上の連続した塩基を含むそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、ヒト膵癌患者の血液診断を行うための組成物。
【0025】
(11) 上記組成物がキットまたはマイクロアレイの形態である、上記(9)または(10)に記載の組成物。
【0026】
(12) マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質またはその変異体の各々に対する抗体またはその断片を少なくとも1つ含む、ヒト卵巣癌患者の血液診断を行うための組成物。
【0027】
(13) マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらの変異体、それらにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、あるいは15以上の連続した塩基を含むそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、ヒト卵巣癌患者の血液診断を行うための組成物。
【0028】
(14) 上記組成物がキットまたはマイクロアレイの形態である、上記(12)または(13)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0029】
本発明によって、早期検出に苦慮し臨床現場において大きな問題点を有していた膵癌・卵巣癌患者を個別的に高精度に予測することが可能となり、早期治療導入によって治癒する症例群の増加並びに死亡率の低下に繋がるという現在の癌診療に対して格別の作用効果を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
定義
本明細書中で使用する用語は、以下の意味を含む。
【0031】
本明細書で使用する癌に関して「早期」とは、癌の進行度を表すステージがIおよびIIの段階を指す。
【0032】
本明細書で使用する「試料」は、ヒトから採取された血液を指す。本明細書で使用される「血液」は、全血、血清または血漿のいずれかを指すものとする。
【0033】
本発明においては、膵癌および卵巣癌を含む複数の癌腫を持つヒト患者由来の血液試料と非癌健常人由来の血液試料との間において、本発明に関わるタンパク質または核酸マーカーの発現レベルに相対的な差異が認められる。
【0034】
本明細書で使用する「変異体」は、例えば突然変異、多型性、選択的スプライシングなどの生物学的事象、遺伝暗号の縮重などに起因して生じる変異体などを包含する。変異体には、本発明に関わるタンパク質マーカーの変異体、あるいは該タンパク質マーカーをコードする遺伝子の変異体が含まれる。そのような変異体は、該タンパク質マーカーまたは核酸マーカーの配列上に1若しくは複数、好ましくは1若しくは数個、の置換、欠失、付加、挿入などの変異を有する変異体、該配列またはその部分配列と80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、98%以上、99%以上の配列同一性を有する配列からなる変異体などを含む。ここで、「数個」とは、通常、10個以下の整数、好ましくは2〜5個の整数を意味する。また、同一性(%)は、ギャップを導入したまたはギャップを導入しない、公知のBLASTやFASTAプラグラムを用いて決定することができる(S. F. Altschulら, J. Mol. Bio. 215:403−410, 1990)。一般に、2つの配列のアラインメントにおいて、最も多いアミノ酸または塩基が重なり合うようにアラインメントしたときの、全アミノ酸残基数又は全塩基数(ただし、ギャップが存在するときは、そのギャップも含める)に対する一致したアミノ酸残基数または塩基数の百分率として同一性(%)を算出できる。さらにまた、タンパク質におけるアミノ酸の変異には、保存的または非保存的アミノ酸変異が含まれる。ここで、保存的アミノ酸変異とは、構造(芳香族基、分枝など)、荷電(塩基性、酸性、中性)、極性もしくは疎水性などの点で性質の類似したアミノ酸間での置換変異を指す。
【0035】
本明細書で使用する「ストリンジェントな条件」は、以下のものに限定されないが、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有するヌクレオチド配列が互いにハイブリダイズするようなハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を意味する。このような条件の例は、1〜6×SSC、室温〜40℃でのハイブリダイゼーションの後、0.1〜1×SSC、0.1%SDS、50〜65℃での洗浄である。ここで、1×SSCは150mM塩化ナトリウムと15mMクエン酸ナトリウム水溶液(pH7.2)である。ハイブリダイゼーションについては、F.M. Ausbelら, Short Protocols in Molecular Biology(3版)A Compendium of Method s from Current Protocols in Molecular Biology, 1995年, John Wiley & Sons, Inc.(米国)に記載されている。
【0036】
詳細な説明
以下において、本発明をさらに詳細に説明する。
【0037】
1.癌関連マーカー
本発明のヒト癌関連マーカーには、少なくとも、(i)非癌健常人血液試料に比べて膵癌患者血液試料において該マーカーの発現レベルに有意の差(すなわち、増大または減少)が認められるものであって、これによって膵癌を検出することを可能にするマーカー、ならびに、(ii) 非癌健常人血液試料に比べて卵巣癌患者血液試料において該マーカーの発現レベルに有意の差(すなわち、増大または減少)が認められるものであって、これによって卵巣癌を検出することを可能にするマーカー、が含まれる。
【0038】
上記のマーカーは、上記血液試料のマススペクトルを測定し、上記血液試料間でスペクトルパターンを比較し互いに判別可能な(すなわち、発現レベルに差のある)ピークを選択し、必要に応じてそれらのピークに対応するタンパク質もしくはペプチドを同定し、さらにこれらの手順による多数の担癌患者からの血液試料における膵癌、卵巣癌などを含めた複数の癌腫の検出の確定作業に基づいたマーカーとしての信頼性と判定の再現性を確認することによって見出された。ここで、タンパク質またはペプチドの同定(配列決定を含む)は、マスフィンガープリンティング法、シークエンスタグ法などの公知の手法で行うことができる。
【0039】
マススペクトルの測定には、タンパク質の同定に使用されるものであればいずれの質量分析装置も使用できる。そのような質量分析装置の例は、表面増強レーザー脱離イオン化MS装置、マトリックス支援レーザー脱離イオン化MS装置(例えばMALDI MS)などを含む。本発明において特に好ましい質量分析装置は、MALDI MSである。この装置による具体的な分析条件は以下のとおりである。
【0040】
血液試料は、5マイクリットルを取り分け、50%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸溶液を用いて10倍に希釈を行う。10倍に希釈した血液試料5マイクリットルを取り分け、50%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸溶液溶解した30mg/ml濃度のシナピン酸を20マイクロリットルと混和する。マトリックス混和血液試料0.5マイクリットルを試料台上のwellに6箇所に滴下し試料を乾燥させる。試料台上の滴下血液試料から、マススペクトロメトリー(例えば、アプライドバイオシステムズ社製、4800型)を用いてタンパク質発現プロファイルを取得する。この際の機器の解析条件は、加速電圧;25,000V、フォーカスマス;10000、解析範囲;2,000〜20,000ダルトンである。
【0041】
上記の手法により、本発明者らは、ヒト膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料のマススペクトルを測定するとき、両試料を判別可能にするピークを見出した。このようなピークは、本発明のマーカーとしてのタンパク質またはその断片ペプチドに相当する。膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料を判別可能にする7個のピークが見出され(膵癌患者について図1〜7、非癌健常人について図8〜14参照)、これらのピークに相当するタンパク質の質量数は、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%である。ここで「±2%」は、装置や測定条件等の違いによる誤差範囲を意味する。
【0042】
さらにまた、本発明者らは、上記と同様の手法により、ヒト卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料のマススペクトルを測定するとき、両試料を判別可能にするピークを見出した。上記の該卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別可能にする7個のピークが見出され(卵巣癌患者について図15〜21、非癌健常人について図22〜28参照)、これらのピークに相当するタンパク質の質量数は、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%である。ここで、「±2%」は、上記と同様の意味を有する。
【0043】
本発明においては、癌関連マーカーとして、上記タンパク質に加えて、該タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたはそれに相補的なポリヌクレオチドも包含される。タンパク質が同定されるならば、その配列に基づいて、BLAST、FESTA検索などの検索手段によって、該タンパク質をコードする遺伝子またはDNAの一次構造(配列)を決定することができる。そのようなポリヌクレオチドの具体例には、マススペクトルにおけるピークの質量数が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%であるタンパク質、あるいは質量数が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%であるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、またはその変異体が含まれる。そのような変異体は、生体内で例えば突然変異、多型性、選択的スプライシングなどの生物学的事象の結果とし生じた変異体を含む。実際には、該核酸マーカーは、転写産物または翻訳産物として核酸レベルまたはタンパク質レベルで検出される。
【0044】
転写産物の場合、それはmRNA、cRNAまたはcDNAとして検出される。細胞または組織から公知の手法で全RNAを抽出し、オリゴdTセルロースカラム法によってポリA(+)RNAまたはmRNAを調製し、必要により、さらにmRNAからcDNA、cRNAを合成する。
【0045】
翻訳産物の場合、それは上記遺伝子またはその変異体によってコードされるタンパク質またはその断片として検出される。
【0046】
2.癌関連マーカー検出用組成物
A.膵癌を検出するための組成物
本発明は、上記のとおり、ヒト膵癌患者血液試料および非癌健常人血液試料のマススペクトルを測定して各試料中のタンパク質発現プロファイルを得ること、該タンパク質発現プロファイルを示すピークについて該膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別可能なピークを選択すること、該膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料との間の該選択されたピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にしてヒト膵癌血液試料について膵癌を検出することを含む。ここで、上記選択されたピークに対応するタンパク質は、図1〜7、図8〜14に示されるマススペクトルにおいて質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%を有するものである。
【0047】
膵癌患者由来の血液試料または非癌健常人血液試料中の、上記ピークに対応するタンパク質マーカーまたはその変異体の少なくとも1つの発現レベル、あるいは、該タンパク質またはその変異体をコードするポリヌクレオチドのレベルを、該マーカーに対応するプローブを用いて測定し、膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料との間の、上記タンパク質またはポリヌクレオチドの有意なレベル差を指標にして、癌患者において膵癌を検出することを含む。
【0048】
本発明で使用されるプローブは、上記マーカーを検出可能なものであれば特に制限されないが、通常は、ポリヌクレオチドまたは抗体である。したがって、このようなポリヌクレオチドまたは抗体を含む組成物は、患者の膵癌をインビトロで検出するために使用されうる。
【0049】
B.卵巣癌を検出するための組成物
本発明はまた、上記のとおり、ヒト卵巣癌患者血液試料および非癌健常人血液試料のマススペクトルを測定して各試料中のタンパク質発現プロファイルを得ること、該タンパク質発現プロファイルを示すピークについて該卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別可能なピークを選択すること、該卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料との間の該選択されたピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にしてヒト卵巣癌血液試料について卵巣癌を検出することを含む。ここで、上記選択されたピークに対応するタンパク質は、図15〜21、22〜28に示されるマススペクトルにおいて質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%を有するものである。
【0050】
該患者由来の卵巣癌患者血液試料または非癌健常人血液試料中の、上記ピークに対応するタンパク質マーカーまたはその変異体の少なくとも1つの発現レベル、あるいは、該タンパク質またはその変異体をコードするポリヌクレオチドのレベルを、該マーカーに対応するプローブを用いて測定し、卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料との間の、上記タンパク質またはポリヌクレオチドの有意なレベル差を指標にして、卵巣癌を検出することを含む。
【0051】
本発明で使用されるプローブは、上記マーカーを検出可能なものであれば特に制限されないが、通常は、ポリヌクレオチドまたは抗体である。したがって、このようなポリヌクレオチドまたは抗体を含む組成物は、患者の卵巣癌をインビトロで検出するために使用されうる。
【0052】
2.1 抗体プローブ
本発明においては、癌関連マーカーを検出するためのプローブとして抗体を使用することができる。
【0053】
本発明で使用されうる抗体は、以下のグループに分けられる。
(1)図1〜7、図8〜14に示されるマススペクトルにおいて質量数(m/z)8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%であるタンパク質、あるいは質量数が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%を有するタンパク質およびそれらの変異体からなる群から選択されるタンパク質またはその断片に対する抗体またはその断片。これらの抗体またはその断片は、膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別するタンパク質マーカーの発現レベルの差を測定するために使用される。
【0054】
(2)図15〜21、図22〜28に示されるマススペクトルにおいて質量数(m/z)4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%を有するタンパク質およびそれらの変異体からなる群から選択されるタンパク質またはその断片に対する抗体またはその断片。これらの抗体またはその断片は、卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを識別するタンパク質マーカーの発現レベルの差を測定するために使用される。
【0055】
上記の各グループにおいて、組成物は、少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個、さらに好ましくは3個〜全数、例えば4個〜全数、5個〜全数のプローブを含むことができる。
【0056】
変異体は、上記タンパク質の完全または部分配列と、アミノ酸レベルで通常80%以上、85%以上、好ましくは90%以上、93%以上、さらに好ましくは95%以上、98%以上、99%以上の配列同一性を有するものである。
【0057】
また、上記タンパク質は、誘導体化されていてもよく、例えば、グリコシル化、リン酸化、硫酸化、アルキル化、アシル化などの化学修飾誘導体を含むことができる。
【0058】
本発明で使用される抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗ペプチド抗体、単鎖抗体、キメラ抗体などを含む。また、抗体の断片には、Fab、(Fab’)2、Fc、Fc’、Fd、Fvなどが含まれる。これらの抗体断片は、例えばパパイン、ペプシンなどのプロテアーゼによる抗体の限定分解によって得ることができる。
【0059】
各タンパク質またはその断片を、タンパク質合成または遺伝子組換え技術を用いて合成し、その結果得られたタンパク質またはその断片を抗原としてウサギ、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの動物を免疫し、それらの抗原に対する抗体を産生し、精製する。
【0060】
ポリクローナル抗体は、上記動物を10〜300μg程度の抗原で皮下に免疫し、さらに約2週間後に追加免疫し、初回免疫から約3週間〜1か月後に採血し、抗血清から目的のポリクローナル抗体を含むIgG成分を硫安分画、イオン交換クロマトグラフィーを使用して分離することを含む方法によって作製することができる。特異性を高めるために、得られたIgGを、目的タンパク質をセルロースまたはアガロースなどの担体に結合して作製されたカラムに結合させたのち、高塩濃度のバッファーで溶出し、透析や限外ろ過などの方法で脱塩して、特異的ポリクローナル抗体を得ることができる。抗体価は、通常の免疫測定法、例えば酵素免疫測定法(EIA、ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)、蛍光抗体法などによって測定することができる。
【0061】
モノクローナル抗体は、例えば以下のような方法によって作製することができる。
標的タンパク質またはその断片を、ポリクローナル抗体の作製と同様にマウスまたはラット(例えばBalb/cマウス)の皮下に投与し、1〜4週間間隔で、約2〜4回追加免疫を行う。抗体価が頭打ちになったとき、抗原を静脈内または腹腔内に注射し、最終免疫とする。2〜5日後、抗体産生細胞(例えば脾臓細胞またはリンパ節細胞)を採取する。次いで、抗体産生細胞を骨髄腫細胞株(好ましくはヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ(HGPRT)欠損細胞株)に融合させてハイブリドーマ細胞を生成し、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)選択を行う。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地などの動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞と骨髄腫細胞株とを約1:1〜20:1の割合で混合し、ポリエチレングリコールなどの細胞融合促進剤の存在下で実施する。目的の抗体かどうかの確認は、上記の免疫測定法によって行うことができる。さらに、ハイブリドーマの増殖のために、マウスの腹腔内にハイブリドーマを投与し、ハイブリドーマを増殖させたのち、1〜2週間後に腹水を採取する。抗体の精製は、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0062】
抗ペプチド抗体は、タンパク質の表面上のリニアーなペプチドに対する抗体であり、免疫学的特異性を高めることができる。そのようなペプチドは、例えばKyte−Doolittleら(J. Mol. Biol. 157:105−132, 1982)の親水性−疎水性領域の推定法、Eminiら(J. Viol. 55:836−839, 1985)によるタンパク質分子上の特定ペプチド部位の表面に位置する確率、タンパク質鎖の折れ曲がり程度、例えばChou−Fasmanら(Adv. Enzymol. Relat. Areas Mol. Biol. 47:45−148, 1978)などのαヘリックス、βシート、ターンを表示するタンパク質の二次構造予測、等を単独でまたは組み合わせて使用して推定しうる。次いで、推定されたペプチドは、ペプチド合成機を用いて合成することができる。
【0063】
標的タンパク質の合成は、cDNAクローンを発現ベクターに組み込み、該ベクターによって形質転換またはトランスフェクションされた原核または真核宿主細胞を培養することによって該細胞または培養上清から得ることができる。発現ベクターは市販のものを使用することができる。宿主細胞は、細菌などの原核細胞(例えば大腸菌、枯草菌、シュウドモナス属細菌など)、酵母(例えばサッカロマイセス属、ピチア属など)、昆虫細胞(例えばSf細胞)、哺乳動物細胞(例えばCHO、COS、BHK、HEK293など)などを含む。また、ベクターは、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスなどからなり、標的タンパク質をコードするDNA、プロモーター、必要ならエンハンサー、ポリアデニル化シグナル、リボソーム結合部位、複製開始点、ターミネーター、選択マーカーなどを含むことができる。タンパク質の精製を容易にするために、標識ペプチド、例えば6〜10残基のヒスチジンタグ、FLAG、GFPタンパク質などをコードするDNA配列を含有させることもできる。遺伝子組換え技術については、Sambrookら(上記)、Ausbelら(上記)に記載されており、それらに記載の技術を本発明のために使用することができる。
【0064】
上記のようにして得られた標的タンパク質は、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、等電点電気泳動、電気泳動、限外ろ過、塩析、透析などを適宜組み合わせて精製することができる。
【0065】
標的タンパク質またはその断片の配列は、GenBankまたはUniGene受託番号に基づいてNCBI HomePage(米国)にアクセスすることによって入手可能である。
【0066】
本発明の実施形態により、上記組成物は、キットまたはマイクロアレイの形態であってもよく、すなわち、上記プローブは、キットまたはマイクロアレイの形態で含まれる。
【0067】
キットの場合、2つのグループの各タンパク質マーカーの1または2以上から全数のマーカーを検出することが可能な抗体を、個別にまたは2以上を組み合わせて適当な容器に包装することができる。
【0068】
抗体は、上記の方法で作製されるようなポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗ペプチド抗体などであるが、それらに限定されないものとする。抗体の種類は、いずれのタイプ、クラス、サブクラスでもよく、例えばIgG、IgM、IgE、IgD、IgA、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2などを含む。また、抗体の断片は、Fab、(Fab’)2、Fc、Fd、Fvなどを含む。
【0069】
2.2 ポリヌクレオチドプローブ
本発明に関わるポリヌクレオチドプローブは、以下のグループに分けられる。
(1)図1〜7、図8〜14に示されるマススペクトルにおいて質量数(m/z) 8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%を有するタンパク質およびそれらの変異体からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、または少なくとも15塩基からなるそれらの断片。これらのポリヌクレオチド、相補的ポリヌクレオチドまたは断片は、膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別するタンパク質マーカーの発現に対応する転写レベルの差を測定するために使用される。
【0070】
(2)図15〜21、図22〜28に示されるマススペクトルにおいて質量数(m/z) 4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%を有するタンパク質およびそれらの変異体からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、または少なくとも15塩基からなるそれらの断片。これらのポリヌクレオチド、相補的ポリヌクレオチドまたは断片は、卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別するタンパク質マーカーの発現に対応する転写レベルの差を測定するために使用される。
【0071】
上記の各グループにおいて、組成物は、少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個、さらに好ましくは3個〜全数、例えば4個〜全数、5個〜全数のプローブを含むことができる。
【0072】
本発明に関わる癌関連マーカーは、対象の癌腫によって次のように2つの群に分けることができる。すなわち、グループ1は、膵癌患者血液試料の判別に有用なものであり、一方、グループ2は、卵巣癌患者血液試料の判別に有用なものである。
【0073】
本発明において、プローブとしての変異体は、上記のグループ1またはグループ2のポリヌクレオチドの塩基配列に1若しくは複数、好ましくは1若しくは数個、の置換、欠失、付加、挿入などの変異を有する変異体、該配列と通常80%以上、85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、98%以上の同一性を有する配列からなる変異体などを含む。
【0074】
さらに、本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、上記定義のようなハイブリダイゼーション条件下で、上記のグループ1またはグループ2のポリヌクレオチドまたはその相補的ポリヌクレオチドにハイブリダイズすることが可能なものであれば、特に制限されないものとする。患者の個体によっては、突然変異、多型性、選択的スプライシングなどの生物学的事象によって変化した遺伝子をもつこともありえるために、そのようなポリヌクレオチドは、標的核酸の検出を可能にする。
【0075】
さらにまた、本発明において、ポリヌクレオチドの断片は、15塩基数〜全塩基数未満のサイズを有する。断片は、この範囲の任意の塩基数、例えば20塩基以上、30塩基以上、50塩基以上、70塩基以上、100塩基以上、150塩基以上、200塩基以上、250塩基以上などの塩基数である。
【0076】
本発明で使用されるポリヌクレオチドプローブは、慣用の化学的DNA合成技術や遺伝子組換え技術によって合成されうる。
【0077】
ポリヌクレオチドが約100塩基以下のDNA分子であれば、ホスホアミダイト法を利用するDNA自動合成装置(例えばApplied Biosystems、米国)を用いて合成することができる。
【0078】
或いは、上記ポリヌクレオチドは、cDNAクローニングによって作製することができる。対象の癌組織から全RNAを取得し、オリゴdTセルロースカラム処理によってポリA(+)RNAを得たのち、逆転転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)法によってcDNAライブラリーを作製し、このライブラリーから、GenBankやUniGeneなどのデータバンクに登録された配列検索によって入手可能な塩基配列に基づいて予め作製したプローブ(15以上、好ましくは30以上、より好ましくは、50〜100またはそれ以上の塩基長)とのハイブリダイゼーションによりcDNAクローンを得ることができる。取得したクローンは、例えば市販されるような発現ベクターに組み込んだのち大腸菌、枯草菌などの適当な宿主細胞に導入し、宿主細胞を増殖することによって、或いはデータバンクに登録された配列に基づいて予め作製したプライマー(通常15〜30塩基、好ましくは17〜25塩基長)を使用し、かつ上記cDNAクローンを鋳型とするポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、増幅することができる。cDNAクローニングおよびPCR法の具体的手順や試薬等については、市販のキット、装置、試薬を使用することができるし、また、例えばSambrook Jら, Molecular Cloning A Laboratory Manual,1989年, Cold Spring Harbor Laboratory Press(米国);F.M. Ausbelら, Short Protocols in Molecular Biology(3版)A Compendium of Method s from Current Protocols in Molecular Biology, 1995年, John Wiley & Sons, Inc.(米国)などに教示されている。
【0079】
本発明の組成物は、本発明の膵臓癌および卵巣癌関連マーカーを検出するための抗体類またはポリヌクレオチドプローブ類の少なくとも1つを含む混合物の形態であってもよいし、あるいは個々のまたは2以上のプローブを容器に入れて包装された、いわゆるキットの形態であってもよいし、あるいはマイクロアレイの形態であってもよい。
【0080】
キットにはさらに、ハイブリダイゼーションを行うための試薬類、例えばバッファー、逆転写酵素、標識二次抗体などを含有させてもよい。
【0081】
マイクロアレイの場合、アレイは、DNAマイクロアレイ(DNAチップともいう)、組織アレイまたはタンパク質マイクロアレイである。
【0082】
これらのマイクロアレイにはそれぞれ、プローブとしての上記のポリヌクレオチド或いは上記の抗体またはその断片が結合される。すなわち、アレイの表面に、上記核酸マーカーまたは転写若しくは翻訳産物を検出することができる、核酸マーカーまたはその変異体とハイブリダイズすることが可能なポリヌクレオチド、或いはそれらの遺伝子によってコードされるタンパク質、またはその変異体若しくは誘導体と特異的に結合反応することができる抗体またはその断片が、プローブとして結合される。
【0083】
アレイの基板としては、ガラスまたはポリマーが使用され、その表面に例えばポリL−リジン、シランまたは高密度化アミノ基が導入される。また、基板上へのポリヌクレオチドまたは抗体の結合は、スポット法またはインクジェット法によって行われる。
【0084】
アレイに代わる方法としてハイブリダイゼーションも可能であり、これには、DNA−DNAハイブリダイゼーション、DNA−RNAハイブリダイゼーション、RNA−RNAハイブリダイゼーション、ドットブロットなどが含まれる。
【0085】
3.検出または予測方法
本発明は、上記のとおり、複数の癌腫をもつヒト担癌患者において単一の血液試料を用いて複数の癌腫を検出および同定する方法であって、下記の(1)〜(3):
(1) 複数の種類の癌について各々の癌をもつヒト担癌患者由来の血液試料および非癌健常人由来の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定してタンパク質発現プロファイルを得るステップ、
(2) 上記ステップ(1)のタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、上記特定の種類のヒト癌の各々を非癌から区別可能な質量数(m/z)のピークを選択するステップ、
(3) 癌の種類が不明であるヒト担癌患者由来の単一の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定し、得られたタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、非癌健常人との間の、上記ステップ(2)で選択された質量数(m/z)のピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にして複数のヒト癌を検出し同定するステップ
を含む、方法を提供する。
【0086】
本発明の実施形態により、上記複数の癌腫には、膵癌および卵巣癌が含まれる。
【0087】
膵癌を非癌から区別可能な選択されたピークの質量数(m/z)は、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択される1または2以上、好ましくは全部である。
【0088】
また、卵巣癌を非癌から区別可能な選択されたピークの質量数(m/z)は、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択される1または2以上、好ましくは全部である。
【0089】
発現レベルは、血液試料中のタンパク質について、転写または翻訳産物レベルで、特定の癌腫を有する担癌患者からの血液試料と非癌健常人からの血液試料との間で、該タンパク質の相対的な発現レベルを比較したときの差(すなわち、増加または減少)を意味する。
【0090】
発現レベルの差を示す上記タンパク質を同定することによって、膵癌、卵巣癌などの癌腫をインビトロで検出することができる。
【0091】
本発明で同定されうる癌腫には、膵癌、卵巣癌に加えて、胃癌、肺癌、肝臓癌、大腸癌、直腸癌、脳腫瘍、腎癌、食道癌、前立腺癌、骨髄腫、白血病、リンパ腫などの他の癌、好ましくは深部臓器に生じる癌が非限定的に含まれる。本発明の方法によって、これらの癌の2以上、3以上、4以上の存在が、担癌患者の単一の血液試料から検出することができる。
【0092】
本発明によれば、発現レベルの差は、マーカーとしての該タンパク質またはそれに対応するポリヌクレオチド(mRNA、cDNA、cRNAなど)の存在または量を測定することによって、あるいはマススペクトル上の各タンパク質に対応するピークの強度に基づいて決定することができる。
【0093】
以下に、これらの2つの異なる方法について具体的に説明する。
3.1 ポリヌクレオチドによる方法
本発明に関わるタンパク質マーカーを検出するために、それらの各タンパク質マーカーをコードする核酸とハイブリダイズする上記ポリヌクレオチドを使用する。検出すべきマーカーの数は、グループ毎に1または2以上であり、好ましくは2以上、より好ましくは3から全数、例えば4から全数、5以上から全数である。検出すべきマーカーの数が多いほど、予測の確度が向上する。
【0094】
ハイブリダイゼーションは、マイクロアレイ法、ブロット法、例えばノーザンもしくはサザンブロット、ノーザンもしくはサザンハイブリダイゼーション法、in situハイブリダイゼーション法、定量RT−PCR法などの方法で実施することができる。好ましいハイブリダイゼーション法は、マイクロアレイ、定量RT−PCRまたはブロット法である。また、好ましいマイクロアレイの例は、DNAマイクロアレイおよびタンパク質マイクロアレイである。
【0095】
DNAマイクロアレイ法では、上記マーカー遺伝子群(1〜全数)とハイブリダイズする核酸プローブを基板に結合したDNAマイクロアレイを作製し使用する。
【0096】
DNAマイクロアレイは、核酸プローブを固相化できるものであればいずれの種類の基板も使用できる。固相には、例えばガラス、ポリマーなどが含まれ、さらに核酸を共有結合するための反応性基を含むスペーサーやクロスリンカーを導入することができる。このようなチップは市販されているため、それらを使用することが望ましい。
【0097】
核酸プローブの固相化は、特に制限はないが、一般的な方法、例えばスポッターまたはアレイヤーと呼ばれる高密度分注機を用いてDNAをスポットする方法、ノズルから液滴を噴射するインクジェット方式などの方法を用いて実施することができる。
【0098】
血液試料中のDNAまたはRNA、それから誘導されたcDNA、cRNAなどの核酸を、Cy染料(Cr3またはCy5)などの蛍光物質で標識した核酸を、DNAマイクロアレイ上のプローブとハイブリダイズさせる。レーザースキャンによる読み取り装置を用いて蛍光強度を読み取り、コンピュータでデータを解析する。
【0099】
ブロット法では、本発明の核酸プローブを放射性同位元素(例えば、32Pおよび35S)や蛍光物質(ローダミン誘導体、フルオレサミン誘導体、Cy染料など)などで標識したのち、ナイロンなどのポリマーメンブレンに転写した血液試料中のDNAまたはRNA、それから誘導されたcDNA、cRNAなどの核酸との間でハイブリダイゼーションを行う。シグナルを、放射線検出器または蛍光検出器を用いて検出し、その強度を測定する。
【0100】
定量RT―PCR法では、生物学的検体中のRNAから作製したcDNAを鋳型として標的の各遺伝子の領域が増幅できるように、プライマーをcDNAとアニーリングさせPCRを行い、得られた二本鎖DNAを検出する。プライマーを予め放射性同位元素や蛍光物質で標識しておくか、或いは、PCR産物をアガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドなどで二本鎖DNAを染色するなどの方法で、標的遺伝子を検出、定量することができる。
【0101】
PCR条件は、例えば変性:92〜94℃で30〜60秒;アニーリング:50〜55℃で30〜60秒;伸長:68〜72℃で30〜60秒を1サイクルとして30〜40サイクルの反応を含む。逆転写酵素は、市販の酵素、例えばSuperScript(登録商標)III(Invitrogen、米国)、AMV Reverse Transcriptase (Promega、米国)、M−MLV(RNaseH−)(宝酒造、京都)などを使用することができる。
【0102】
本発明において、ハイブリダイゼーションは、DNA−DNAハイブリダイゼーション、DNA−RNAハイブリダイゼーション、RNA−RNAハイブリダイゼーションのいずれでもよい。
【0103】
ハイブリダイゼーションにおけるストリンジェントな条件は、上記のとおりである。ハイブリダイゼーションの条件および方法については、例えば、Ausubelら, Curent Protocols in Molecular Biology, 1995, John Wiley and Sons, US)を参照することができる。
【0104】
3.2 抗体による方法
上記タンパク質マーカーの測定法は、免疫学的方法である。
【0105】
上記のように作製された抗体を、生物学的検体中の標的タンパク質またはその断片の検出のために使用することができる。
【0106】
多数の抗体をマイクロアレイ基板上に結合したタンパク質マイクロアレイを作製することによって、或いは、多数の抗体をPVDF膜などのフィルター上にドット状にスポットすることによって、一度に多数の標的タンパク質を検出または定量することが可能になる。或いは、慣用の免疫学的測定法、例えば酵素免疫測定法(ELISA、EIA)、蛍光抗体法、放射性免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法、免疫比濁法、ラテックス凝集反応、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応、粒子凝集反応またはウェスタンブロット法などによって、生物学的検体中の標的タンパク質またはその断片を検出または定量することができる。
【0107】
固相上で反応を行うときには、固相担体として、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンなどのポリマーの膜(フィルター)、プレート、チューブ、ストリップなど、ラテックス、磁性体などの粒子、などが含まれる。固相化は、物理的に或いは化学的に行うことができる。化学的結合のためには、例えばスクシンイミド化試薬、臭化シアンなどの試薬で固相を処理し、タンパク質のアミノ基などと反応する官能基を固相に導入することができる。
【0108】
標的の検出のために、抗体を標識してもよいし、或いは標識二次抗体を使用してもよい。標識としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなどの酵素、フルオレセイン、ローダミン、それらの誘導体などの蛍光物質、ルシフェラーゼ系、ルミノール系などの発光物質、32P、125I、35Sなどの放射性同位元素などが含まれる。標識化は、例えばグルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、クロラミンT法、ボルトンハンター法などを含む。
【0109】
3.3 マススペクトルによる方法
本発明はさらに、マススペクトルデータからの膵癌、卵巣癌などの癌腫の検出法を提供する。
【0110】
これらの方法は、ヒト膵癌患者、卵巣癌患者、または膵癌および卵巣癌を疑われる被験者からの血液試料を未処理のままで、またはEDTA−Na処理のように抗凝固前処理して得た試料を、上記のマススペクトル測定条件と同じ条件下で質量分析装置にかけてマススペクトル(例えば、m/z:2,000〜20,000の範囲)をとり、マススペクトル上の指定された質量数(m/z)のピークの強度に基づいて、対応のタンパク質の発現レベルを決定し、該サンプルの発現レベルと対照サンプルの発現レベルとの差を決定することを含む。あるいは、本発明の方法は、検体のマススペクトルのピークパターン(もしくはプロファイル)を標準サンプル、陽性サンプルまたは陰性サンプルのものと対比することを含む。
【0111】
膵癌の検出においては、例えば図1〜7に示されるような膵癌の場合のピークパターンが得られるならば、試料は膵癌患者由来であることを示し、一方、非癌の場合のピークパターン(図8〜14)が得られるならば、試料は非癌健常人であることを示す。あるいは、発現レベルの差に基づいて、膵癌患者血液試料において高発現するタンパク質(図1〜7の質量数8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%のピーク)、または非癌健常人血液試料において高発現するタンパク質(図8〜14の質量数8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%のピーク)を決定することができる。
【0112】
卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料との判別においても、上記と同様に、ピークパターンあるいは発現レベルの差に基づいて(図15〜21、図22〜28の質量数4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%のピークによって判定される。)判別することができる。
【0113】
上記のようにして決定された各タンパク質の相対的発現レベルを多数の症例について系統的かつ網羅的なクラスター解析を行うと、膵癌患者と非癌健常人、あるいは、卵巣癌患者と非癌健常人とが明瞭に判別されることがわかる。
【0114】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明の範囲は、これらの実施例によって制限されないものとする。
【実施例】
【0115】
(材料と実験)
1.調査対象
2001年1月から2005年10月までの間に愛知県がんセンター病院(名古屋)を受診された、136症例の膵癌、62症例の卵巣癌を含む一連の血液試料を、愛知県がんセンター研究所疫学予防部(名古屋)のファイルから選択した。教師・検証モデル解析のため、膵癌および卵巣癌血液試料とも教師または検証データセットのいずれかに無作為に割り付けた。さらに、2003年4月から2007年12月までの間に名古屋大学医学部付属病院並びに共同研究病院(名古屋)において取得された膵癌患者血液試料を、検証用血液試料として供与を受けた。これらのすべては、倫理審査委員会から必要な承認を得た後に取得され、測定まで−80℃で保存されていた。また、担癌患者ならびに非癌健常人の両者からインフォームドコンセントを得ている。
【0116】
2.プロテオミクス解析
血液試料は、5マイクリットルを取り分け、50%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸溶液を用いて10倍に希釈を行う。10倍に希釈した血液試料5マイクリットルを取り分け、50%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸溶液溶解した30mg/ml濃度のシナピン酸を20マイクロリットルと混和する。マトリックス混和血液試料0.5マイクリットルを試料台上のwellに6箇所に滴下し試料を乾燥させる。試料台上の滴下血液試料から、マススペクトロメトリー(アプライドバイオシステムズ社製、4800)を用いてタンパク質発現プロファイルを取得する。この際の機器の解析条件は、加速電圧;25,000V、フォーカスマス;10000、解析範囲;2,000〜20,000ダルトンである。各スペクトルからのピーク検出と帰属は、MarkerViewソフトウエア(Applied Biosystems)を用いて行い、その結果、膵癌患者判別生物マーカー探索では、教師付きデータ群に7個のユニークなシグナルが生じ、卵巣癌患者判別生物マーカー探索では、7個のユニークなシグナルが生じた。全イオン数の最大総和により、スペクトルを互いに正規化した。その最大総和数を各スペクトルの和で割り算して、各スペクトルの正規化率を求め、さらにこの正規化率を用いて各スペクトルについて各データ点を乗じた。ヒト材料を使用するMALDI MS分析の精度と再現性は、これまでの研究によって実証されている(例えばJ Natl Cancer Inst 2003, 95:1711−7; Cancer Res 2003, 63:1652−6など)。
【0117】
3.統計解析
MALDI MSにより得られたタンパク質プロファイルを、SAM法(significant analysis of microarray法;多重検定を考慮した偽発見率(FDR)を算出)を用いて解析し、癌あるいは非癌の情報を提供し得るシグナルを選択した。カットオフはFDR<1%とした。この選択基準を満たしたシグナルを以下の解析のために使用した。本発明者らは、教師付き分類として十分確立された線形判別手法である、重み付き投票アルゴリズムを用いた。重み付き投票アルゴリズムでは、各シグナルに対する重み値がシグナル対ノイズ(S/N)比として計算される。シグナル数は、種々のマイクロアレイ研究で判明しているように、予測精度に強く影響を及ぼすために、本発明者らは、10,000回のランダムな繰り返しを伴う10分割交差評価手法(10−fold cross−validation)を実施して、予測モデルに使用したシグナル数を最適化した。
【0118】
(結果)
(1)ヒト膵癌患者血液試料ならびに非癌健常人血液試料からのプロテオミクスMSシグナル
本発明者らは、教師群に属する80症例の膵癌患者および80例の非癌健常人からの血液試料160検体におけるタンパク質発現プロファイルをMALDI MSを用いて分析し、7個の異なるMSシグナルを得た。ヒト膵癌患者血液試料からのスペクトルの代表例を、図1〜7に示した。さらに、本発明者らは、膵癌患者血液試料を非癌健常人血液試料から正確に判別することが可能であるプロテオミクスプロファイルを探索し、その結果、膵癌患者血液試料(図1〜7)と非癌健常人血液試料(図8〜14)との間で有意に発現差をみとめる7個のMSシグナル(質量数(m/z)8562.262、8684.438、8765.079、9423.513、13761.49、14145.18および17250.82)を選択した(FDR<0.01)。
【0119】
(2)ヒト卵巣癌患者血液試料ならびに非癌健常人血液試料からのプロテオミクスMSシグナル
本発明者らは、63症例の卵巣癌患者および64例の非癌健常人からの血液試料127検体におけるタンパク質発現プロファイルをMALDI MSを用いて分析し、7個の異なるMSシグナルを得た。ヒト卵巣癌患者血液試料からのスペクトルの代表例を、図15〜21に示した。本発明者らはさらに、卵巣癌患者血液試料を非癌健常人血液試料から正確に判別することが可能であるプロテオミクスプロファイルを探索し、その結果、卵巣癌患者血液試料(図15〜21)と非癌健常人血液試料(図22〜28)との間で有意に発現差をみとめる7個のMSシグナル(質量数(m/z)4470.801、6940.418、8764.14、9140.222、9422.677、13879.6および13935.1)を選択した(FDR<0.01)。
【0120】
(3)独立の盲検データセットを使用することによる膵癌または卵巣癌診断法の使用可能性の確認
MALDI MSを用いるプロテオミクス解析への使用可能性を評価するためには、独立の検査データセットによる有効性が極めて重要である。したがって、本発明者らは、教師データセットに基づいて構築されたプロテオミクスプロファイルを、32症例の膵癌患者血液試料と32例の非癌健常人血液試料から得られた独立のMSシグナルデータセットに適用した。本発明者らは、膵癌または卵巣癌血液試料を非癌健常人血液試料から区別するプロテオミクスプロファイルを、検証データセットに適用し、系統的かつ網羅的クラスター解析における明瞭な区別を確認した。クラスター解析パターンは、プロテオミクスプロファイルと担癌・非癌症例との間の強い相関を反映し、膵癌判別モデルでは75.0%(60/80)の感度と、93.75%(75/80)の特異度が得られることを示し(図29)、また卵巣癌判別モデルでは74.2%(46/62)の感度、80.2%(101/126)の特異度が得られることを示した(図30)。ここで感度は癌患者の陽性判定率、特異度は健常人の陽性判定率をそれぞれ意味する。
【0121】
さらに、MALDI MSを用いたプロテオミクス解析の評価を行うため、他施設において(名古屋大学医学部付属病院)取得された独立の検証用血液試料(膵癌37症例、健常人11例)を用いて、測定を行った。その結果、上記と同様に81.1%の感度と、100%の特異度が得られることが確認された。さらに、本測定法により、膵癌と診断された患者の中に、既存の膵癌腫瘍マーカーとして汎用されるCA19−9値が正常である症例を3症例(15.8%)認めた。
【0122】
上記の結果は、本発明の上記検査法が、プロテオミクスプロファイルに基づいた、ヒト膵癌血液試料を用いた存在診断の精度と特異度の高さを示しているのみならず、早期癌の検出に有効であること、および既存スクリーニング法であるCA19−9検査と相補的に使用可能であることを示している。
【0123】
(考察)
本発明者らは、非常に少量(数マイクロリットル)の血液試料を用いて、MALDIを応用したプロテオミクスプロファイル解析を遂行し、タンパク質発現プロファイルが、膵癌並びに卵巣癌担癌患者の早期診断を高精度で可能にする十分な情報を含むことを実証した。今回本発明者らが見出した分類因子は、第一に、膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別するに有用である教師群から選択された7個の異なるピークであるが、これらは、独立の検証データセットにも応用可能であったことから、MALDI MSによる血液試料の直接的タンパク質発現プロファイルの再現性が支持された。さらには、本解析結果は、他施設において取得された完全に独立した試料セットを用いた検討においても、その有用性が確認され、なおかつ既存の腫瘍マーカーであるCA19−9が陰性の症例においても、有用であることが確認された。
【0124】
第二に、卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別するに有用である教師群から選択された7個の異なるピークであるが、これらは、独立の検証データセットにも応用可能であったことから、MALDI MSによる血液試料の直接的タンパク質発現プロファイルの再現性が支持された。
【0125】
結論として、本発明者らは、未処理の血液試料に対して直接MALDI MSを適用し、教師群と独立の検証群との両方において、膵癌並びに患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別することができる癌関連タンパク質発現プロファイルを見出した。本解析法は、診断に苦慮する膵癌並びに卵巣癌の臨床管理に将来的に使用されることが確信される。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明によって、ヒト膵癌を高い精度で検出できる。またこれに加えて、ヒト卵巣癌患者を高い精度で検出できる。このため、膵癌および卵巣癌患者の早期診断・治療導入または治療後の経過観察指標として有効に利用することが可能であると考える。このように、癌医療において、本発明は多大なる貢献をすることが可能であろう。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)8562.262のピークを示す。
【図2】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)8684.438のピークを示す。
【図3】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)8765.079のピークを示す。
【図4】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)9423.513のピークを示す。
【図5】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)13761.49のピークを示す。
【図6】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)14145.18のピークを示す。
【図7】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)17250.82のピークを示す。
【図8】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図1のピークに対応する質量数(m/z)8562.262のピークを示す。
【図9】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図2のピークに対応する質量数(m/z)8684.438のピークを示す。
【図10】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図3のピークに対応する質量数(m/z)8765.079のピークを示す。
【図11】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図4のピークに対応する質量数(m/z)9423.513のピークを示す。
【図12】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図5のピークに対応する質量数(m/z)13761.49のピークを示す。
【図13】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図6のピークに対応する質量数(m/z)14145.18のピークを示す。
【図14】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図7のピークに対応する質量数(m/z)17250.82のピークを示す。
【図15】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z) 4470.801のピークを示す。
【図16】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)6940.418のピークを示す。
【図17】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)8764.14のピークを示す。
【図18】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)9140.222のピークを示す。
【図19】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)9422.677のピークを示す。
【図20】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)13879.6のピークを示す。
【図21】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)13935.1のピークを示す。
【図22】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図15のピークに対応する質量数(m/z)4470.801のピークを示す。
【図23】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図16のピークに対応する質量数(m/z)6940.418のピークを示す。
【図24】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図17のピークに対応する質量数(m/z)8764.14のピークを示す。
【図25】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図18のピークに対応する質量数(m/z)9140.222のピークを示す。
【図26】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図19のピークに対応する質量数(m/z)9422.677のピークを示す。
【図27】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図20のピークに対応する質量数(m/z)13879.6のピークを示す。
【図28】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図21のピークに対応する質量数(m/z)13935.1のピークを示す。
【図29】ヒト膵臓癌患者から見出されたマススペクトルの質量数(m/z)8562.262、8684.438、8765.079、9423.513、13761.49、14145.18および17250.82からなる7つの特異ピークから作成された膵臓癌判別モデルのROC曲線(図29A)を示す。この判別モデルを用い、かつ(i)をカットオフした場合と(ii)をカットオフした場合について、膵臓癌患者と非癌患者とを判定した結果、(ii)のカットオフを判定基準としたとき、sensitivity(感度)およびspecificity(特異度)がより高いことを示す。また、この判別モデルを用いて膵臓癌患者と非癌健常人とを判定した結果(図29B)をそれぞれ示す。
【図30】ヒト卵巣癌患者から見出されたマススペクトルの質量数(m/z)4470.801、6940.418、8764.14、9140.222、9422.677、13879.6および13935.1からなる7つの特異ピークから作成された卵巣癌判別モデルのROC曲線(図30A)を示す。図中、矢印は判定基準としたカットオフを示す。また、この判別モデルを用いて卵巣癌患者と非癌健常人とを判定した結果(図30B)をそれぞれ示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵癌および卵巣癌を含む複数癌腫をもつヒト担癌患者において癌腫の検出に有用な新規血液診断生物マーカー、ならびに、質量分析法を利用した癌腫の血液検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における悪性新生物による死亡者数は、年間約30万人にのぼり、全死亡者数のおよそ3分の1(60歳代では2人に1人)を占め、また、1980年代から一貫して増加の一途を辿っている。癌は働き盛りの中壮年世代における最大の死亡原因であり、少子高齢化が他国に先駆けて進行する日本にとっては、労働力の損失は国家的に緊急に対策を構ずるべき課題であると考えられる。さらに、高齢者人口の増加は、新規発症者数の増加につながると考えられ、実際にその傾向は顕著であり、2020年には年間約85万人が癌に罹患するとの推計も提示されている。以上の如く、いずれの観点からも抜本的な対策が急務であると考えられる。また、健康寿命の延伸、生活の質の向上は、全世界的な関心事項・希求事項であり、これらを達成するためには、より良い革新的医療サービスの提供が必須である事は明白である。今日までの精力的な医学研究の推進により、すでに白血病の様に不治の病から、適切な治療を早期に開始する事により治癒が十分望める程にまで診療体系の整った腫瘍も存在する。また、胃癌においても、早期発見・早期治療が徹底されたことにより、罹患者数では未だに圧倒的な第1位であるが、死亡者数は戦後一貫して減少し、1998年には男女合計で肺癌のそれを下回り、5年相対生存率は約60%にまで向上している。以上の様に、癌の早期診断法の開発は今後の癌対策で最重要ポイントであり、本発明者らは複数癌腫の存在診断を、血液試料を対象として簡便に行う方法の開発を進めるため、膵癌および卵巣癌の担癌患者ならびに非癌健常人からの血液試料を用いてその開発に着手した。
【0003】
胃腸や肝臓に隠れた深部臓器である膵臓に発生する膵癌は、腹部CT検査でも早期発見が困難であり、また、胃カメラやバリウム造影検査などの直接的な検査手法も存在しない。さらに、臨床症状に乏しいことも早期発見を困難にしており、多くの症例において診断時には既に治癒が見込めない状況にまで病状が進展している。現時点における膵癌診療に関するコンセンサスとしては、外科的切除が根治治療の第一選択である。然しながら、治癒が期待される外科手術が出来た症例においても、その5年生存率が20%程度と、他の癌の治療成績を大きく下回っている状況である。さらには、多くの症例において診断時には既に治癒が見込めない状況にまで病状が進展している(例えば、膵癌患者全体における5年生存率は5%前後である。)という状況は、10年前と比較してもほとんど改善はみられていない。この様に、年間発症症例数と死亡者数がほぼ等数である膵癌は、ヒト癌種の中でも最難治と考えられる。然しながら、腫瘍径が2cm以下で膵臓内に限局しているStage IIまでの段階で切除手術を受けた症例に限ると、5年生存率は60%程度に向上するとの統計も存在し、この事は、早期発見・早期治療の重要性を示唆しているものと考えられる。現在の実地臨床では、この様な段階で発見される症例は、全体のわずか5%程度と極少数例のみであり、さらには、近年その死亡者数が増加傾向にある事からも(20年前と比較し約2倍、10年前と比較し約1.5倍となっている。)、その診療体系の抜本的な変革が強く望まれており、早期膵癌診断法の新規開発が至上命題となっている。
【0004】
現在のところ、膵癌診断を目的としたスクリーニング検査には、通常、X線CT、超音波検査が用いられており、また、切除手術可能膵癌については超音波検査で見つかった症例が多いとの報告があるが、患者一人当たりに30分程度の検査時間がかかることや、超音波検査担当者の技能格差が大きいことなどから、現状では、全ての地方自治体において一般健診として超音波検査が実施されているわけではない。また、その発見頻度は非常に低く約25,000回の検査で一例程度であること、さらには、超早期の膵癌に関しては、検出が非常に困難であり、疑陰性(検診時“異常なし“であるにも拘らず半年以内に膵癌を発症する)も少なくない。以上の如くに、超音波診断の一般臨床上における有用性に関する疑問の余地は無いものの、目標を膵癌診断のみに特定して考えた場合、その有効性は低いと言わざるを得ない。このような観点からも、広く検診に応用可能な高感度且つ低侵襲で簡便且つ安価な早期発見法の確立が望まれている。
【0005】
さらにまた、卵巣は腹部深部にあり、腫瘍形成初期にはほとんど自覚症状を認めない。このため、2/3以上の症例は、転移した状態ではじめて病院を訪れる。卵巣癌に最もよくおこる転移は、腹膜播種で、卵巣の表面から腹膜全体に転位巣が拡がっていく。転移のない卵巣癌は手術だけで根治が望めるが、転移症例では、手術療法のみで全ての腫瘍を摘出不可能であり、残存腫瘍に対しては、手術後化学療法が行われる。その診断は、有症状受診で、既に腫瘍の増大を認める場合は、婦人科診察のみでも、腫瘍の存在と、子宮筋腫との鑑別は、かなりの確度で可能である。2次検査としては、超音波、X線によるCT、MRIなどの画像診断が行われ、腫瘍の発生部位、内部構造、転移の有無などが詳細に調べられる。血液中腫瘍マーカーとしては、CA125が臨床上用いられおり、転移のある卵巣癌ではほとんどのヒトがCA125陽性となる。しかしながら、早期癌では陽性率は低く、また、若い女性の中には癌がなくても軽度陽性のヒトもいるので、CA125は卵巣癌の早期発見には不十分と言える。
【0006】
近年のヒトゲノム計画の完遂やマイクロアレイ・質量分析装置を用いた網羅的発現解析技術など、様々なバイオテクノロジー技術の開発が進んだ事により、難治癌を含む癌全般の診断と治療のコンセプトに変容が促されつつある。プロテオミクス・バイオインフォマティクス融合研究の現状については、ヒトゲノム上の遺伝情報が基本的にタンパクに翻訳されて遂行されることから、大きな期待を集めつつある分野であるが、マイクロアレイという成熟した解析技術を用いるゲノミクス研究に比して黎明期ともいえる状況にあり、医療への応用を念頭に置いたプロテオミクス研究には、依然として相当な技術的な困難性が存在する事も事実である。しかしながら、世界の動向についてみてみると、すでに爆発的な進歩と発展が目前に迫っていることを示唆する研究成果は報告されつつあり、例えば、米国の癌研究所やバンダービルト大学などの研究グループは、卵巣癌・前立腺癌・肺癌の臨床病態の差異と発現プロファイルの関連性を見出すなど質の高い成果を報告している(非特許文献1〜6)。しかしながら、膵癌および卵巣癌などの複数癌腫を同時に対象とした解析の報告は皆無である。その理由は、上述の如くに詳細かつ良質で大規模なプロテオミクス解析データの取得と検証を高いレベルで遂行できる研究グループが、その技術的な困難性ゆえに未だ世界的に見ても極めて限られていること、並びに詳細な臨床情報の付帯する大規模な臨床試料バンクを有する機関が限定されることなどに起因する。
【0007】
なお、膵臓癌マーカーは、例えば特許文献1〜4に記載されており、また、卵巣癌マーカーは、例えば特許文献5に記載されている。さらにまた、マススペクトルピークからの癌マーカーのスクリーニング法に関しては、特許文献6に記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開2007−051880
【特許文献2】特開2004−248585
【特許文献3】特開2004−248575
【特許文献4】特表2000−502902
【特許文献5】特表2007−504463
【特許文献6】特開2008−076202
【非特許文献1】EF Petricoinら, Lancet 2002, 359:572−577
【非特許文献2】EF Petricoinら, J. Natl. Cancer Inst. 2002, 94:1576−1578
【非特許文献3】BL Adamら, Cancer Res. 2002, 62:3609−14
【非特許文献4】D Sidranskyら, J. Natl. Cancer Inst. 2003, 95:1711−1717
【非特許文献5】MJ Campaら, Cancer Res. 2003, 63:1652−1656
【非特許文献6】K Yanagisawaら, Lancet 2003, 362:433−439
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
深部臓器に生じる癌であって、代表的難治癌である膵癌および卵巣癌は、臨床症状に乏しく、現状では早期診断に有効な検査法が欠如しているため、血液試料を用いて高感度且つ低侵襲に、簡便で安価にこれらの難治癌を早期検出することを可能とする新規分子検査法の開発ニーズが存在する。
【0010】
このような状況において、本発明者らは、単一の遺伝子またはタンパク質による検査方法ではなく、複数のタンパク質を解析対象とした検査法の導入により、感度・精度を飛躍的に高めることが可能であると考え、ヒト膵癌・卵巣癌担癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別する事が出来る有用な生物マーカーを複数見出すこと、並びに複数癌腫の担癌患者を単回の測定により判別可能な診断アルゴリズムおよび検査方法を構築すること目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを正確に判別するために有用な指標を得る事を目的とし、また、担癌患者血液試料中のプロテオミクスプロファイルが臨床的に意味のあるツールであることを立証するために、本発明者らは、MALDI MSを使用して、訓練群として80症例の膵癌患者血漿および80例の非癌健常人血漿を含む160血液試料中のタンパク質発現プロファイルを解析し、膵癌患者血液試料を非癌健常人血液試料から正確に区別する(タンパク質)ピークを選択することができた。さらに、本発明者らは、担癌患者血液試料と非癌健常人血液試料のプロテオミクスプロファイルに基づいた判別法を、盲検群から得られた独立のデータセットに適用し、癌存在診断におけるその有用性を検証することに成功した。
【0012】
上記と同様の検討を、卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを正確に判別するために有用な指標を得ることを目的とし、本発明者らは、MALDI MSを使用して、訓練群として63症例の卵巣癌患者血漿および64例の非癌健常人血漿を含む127血液試料中のタンパク質発現プロファイルを解析し、卵巣癌患者血液試料を非癌健常人血液試料から正確に区別する(タンパク質)ピークを選択することができた。
【0013】
さらに、本発明者らは、担癌患者血液試料と非癌健常人血液試料のプロテオミクスプロファイルに基づいた判別法を、盲検群から得られた独立のデータセットに適用し、癌存在診断におけるその有用性を検証することに成功した。
【0014】
さらに、バイオインフォマティクス解析を進め、単回の試料採取、並びに測定で、上記2癌腫を含む複数の癌腫が健常人と判別可能であった。
【0015】
したがって、本発明は、要約すると、以下の特徴を有する。
(1) 複数の癌腫をもつヒト担癌患者において単一の血液試料を用いて複数の癌腫を検出および同定する方法であって、下記の(a)〜(c):
(a) 複数の特定の種類の癌について各々の特定の癌をもつヒト担癌患者由来の血液試料および非癌健常人由来の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定してタンパク質発現プロファイルを得るステップ、
(b) 上記ステップ(a)のタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、上記特定の種類のヒト癌の各々を非癌から区別可能な質量数(m/z)のピークを選択するステップ、
(c) 癌の種類が不明であるヒト担癌患者由来の単一の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定し、得られたタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、非癌健常人との間の、上記ステップ(2)で選択された質量数(m/z)のピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にして、複数のヒト癌を検出し同定するステップ
を含む、上記方法。
【0016】
(2) 上記複数の癌腫が膵癌および卵巣癌を含む、上記(1)に記載の方法。
【0017】
(3) 上記膵癌を非癌から区別可能な選択されたピークの質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択される1または2以上である、上記(2)に記載の方法。
【0018】
(4) 上記卵巣癌を非癌から区別可能な選択されたピークの質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択される1または2以上である、上記(2)に記載の方法。
【0019】
(5) 上記選択されたピークの質量数を有するタンパク質を同定することをさらに含む、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
【0020】
(6) 上記同定されたタンパク質に基づいて、それをコードする遺伝子を決定することをさらに含む、上記(5)に記載の方法。
【0021】
(7) 上記質量数(m/z)を有するタンパク質からなる群から選択されるタンパク質もしくはその変異体に対する抗体、あるいは上記タンパク質もしくはその変異体をコードするポリヌクレオチドまたはそれに相補的なポリヌクレオチドを使用して、上記発現レベルの差を測定する、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
【0022】
(8) 膵癌、卵巣癌またはその両方の癌腫を有するヒト担癌患者において単一の血液試料を用いて上記癌腫を検出する方法であって、膵癌または卵巣癌をもつ第1の担癌患者由来の血液試料および第2の非癌健常人由来の血液試料のマススペクトルを測定してタンパク質発現プロファイルを得ること、上記タンパク質発現プロファイルを示すピークについて上記第1の担癌患者からの血液試料と上記第2の非癌健常人群からの血液試料とを互いに区別可能な質量数(m/z)のピークを選択すること、ならびに、上記第1の担癌患者と第2の非癌健常人との間の上記選択された質量数(m/z)のピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にして、上記ヒト担癌患者の血液試料について癌を検出することを含み、ここで、上記選択されたピークに対応するタンパク質の各々が、膵癌に関しては、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択される1または2以上の質量数(m/z)、および、卵巣癌に関しては、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択される1または2以上の質量数(m/z)をそれぞれ有することを特徴とする、上記方法。
【0023】
(9) マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質またはその変異体の各々に対する抗体またはその断片を少なくとも1つ含む、ヒト膵癌患者の血液診断を行うための組成物。
【0024】
(10) マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらの変異体、それらにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、あるいは15以上の連続した塩基を含むそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、ヒト膵癌患者の血液診断を行うための組成物。
【0025】
(11) 上記組成物がキットまたはマイクロアレイの形態である、上記(9)または(10)に記載の組成物。
【0026】
(12) マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質またはその変異体の各々に対する抗体またはその断片を少なくとも1つ含む、ヒト卵巣癌患者の血液診断を行うための組成物。
【0027】
(13) マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらの変異体、それらにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、あるいは15以上の連続した塩基を含むそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、ヒト卵巣癌患者の血液診断を行うための組成物。
【0028】
(14) 上記組成物がキットまたはマイクロアレイの形態である、上記(12)または(13)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0029】
本発明によって、早期検出に苦慮し臨床現場において大きな問題点を有していた膵癌・卵巣癌患者を個別的に高精度に予測することが可能となり、早期治療導入によって治癒する症例群の増加並びに死亡率の低下に繋がるという現在の癌診療に対して格別の作用効果を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
定義
本明細書中で使用する用語は、以下の意味を含む。
【0031】
本明細書で使用する癌に関して「早期」とは、癌の進行度を表すステージがIおよびIIの段階を指す。
【0032】
本明細書で使用する「試料」は、ヒトから採取された血液を指す。本明細書で使用される「血液」は、全血、血清または血漿のいずれかを指すものとする。
【0033】
本発明においては、膵癌および卵巣癌を含む複数の癌腫を持つヒト患者由来の血液試料と非癌健常人由来の血液試料との間において、本発明に関わるタンパク質または核酸マーカーの発現レベルに相対的な差異が認められる。
【0034】
本明細書で使用する「変異体」は、例えば突然変異、多型性、選択的スプライシングなどの生物学的事象、遺伝暗号の縮重などに起因して生じる変異体などを包含する。変異体には、本発明に関わるタンパク質マーカーの変異体、あるいは該タンパク質マーカーをコードする遺伝子の変異体が含まれる。そのような変異体は、該タンパク質マーカーまたは核酸マーカーの配列上に1若しくは複数、好ましくは1若しくは数個、の置換、欠失、付加、挿入などの変異を有する変異体、該配列またはその部分配列と80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、98%以上、99%以上の配列同一性を有する配列からなる変異体などを含む。ここで、「数個」とは、通常、10個以下の整数、好ましくは2〜5個の整数を意味する。また、同一性(%)は、ギャップを導入したまたはギャップを導入しない、公知のBLASTやFASTAプラグラムを用いて決定することができる(S. F. Altschulら, J. Mol. Bio. 215:403−410, 1990)。一般に、2つの配列のアラインメントにおいて、最も多いアミノ酸または塩基が重なり合うようにアラインメントしたときの、全アミノ酸残基数又は全塩基数(ただし、ギャップが存在するときは、そのギャップも含める)に対する一致したアミノ酸残基数または塩基数の百分率として同一性(%)を算出できる。さらにまた、タンパク質におけるアミノ酸の変異には、保存的または非保存的アミノ酸変異が含まれる。ここで、保存的アミノ酸変異とは、構造(芳香族基、分枝など)、荷電(塩基性、酸性、中性)、極性もしくは疎水性などの点で性質の類似したアミノ酸間での置換変異を指す。
【0035】
本明細書で使用する「ストリンジェントな条件」は、以下のものに限定されないが、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有するヌクレオチド配列が互いにハイブリダイズするようなハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を意味する。このような条件の例は、1〜6×SSC、室温〜40℃でのハイブリダイゼーションの後、0.1〜1×SSC、0.1%SDS、50〜65℃での洗浄である。ここで、1×SSCは150mM塩化ナトリウムと15mMクエン酸ナトリウム水溶液(pH7.2)である。ハイブリダイゼーションについては、F.M. Ausbelら, Short Protocols in Molecular Biology(3版)A Compendium of Method s from Current Protocols in Molecular Biology, 1995年, John Wiley & Sons, Inc.(米国)に記載されている。
【0036】
詳細な説明
以下において、本発明をさらに詳細に説明する。
【0037】
1.癌関連マーカー
本発明のヒト癌関連マーカーには、少なくとも、(i)非癌健常人血液試料に比べて膵癌患者血液試料において該マーカーの発現レベルに有意の差(すなわち、増大または減少)が認められるものであって、これによって膵癌を検出することを可能にするマーカー、ならびに、(ii) 非癌健常人血液試料に比べて卵巣癌患者血液試料において該マーカーの発現レベルに有意の差(すなわち、増大または減少)が認められるものであって、これによって卵巣癌を検出することを可能にするマーカー、が含まれる。
【0038】
上記のマーカーは、上記血液試料のマススペクトルを測定し、上記血液試料間でスペクトルパターンを比較し互いに判別可能な(すなわち、発現レベルに差のある)ピークを選択し、必要に応じてそれらのピークに対応するタンパク質もしくはペプチドを同定し、さらにこれらの手順による多数の担癌患者からの血液試料における膵癌、卵巣癌などを含めた複数の癌腫の検出の確定作業に基づいたマーカーとしての信頼性と判定の再現性を確認することによって見出された。ここで、タンパク質またはペプチドの同定(配列決定を含む)は、マスフィンガープリンティング法、シークエンスタグ法などの公知の手法で行うことができる。
【0039】
マススペクトルの測定には、タンパク質の同定に使用されるものであればいずれの質量分析装置も使用できる。そのような質量分析装置の例は、表面増強レーザー脱離イオン化MS装置、マトリックス支援レーザー脱離イオン化MS装置(例えばMALDI MS)などを含む。本発明において特に好ましい質量分析装置は、MALDI MSである。この装置による具体的な分析条件は以下のとおりである。
【0040】
血液試料は、5マイクリットルを取り分け、50%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸溶液を用いて10倍に希釈を行う。10倍に希釈した血液試料5マイクリットルを取り分け、50%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸溶液溶解した30mg/ml濃度のシナピン酸を20マイクロリットルと混和する。マトリックス混和血液試料0.5マイクリットルを試料台上のwellに6箇所に滴下し試料を乾燥させる。試料台上の滴下血液試料から、マススペクトロメトリー(例えば、アプライドバイオシステムズ社製、4800型)を用いてタンパク質発現プロファイルを取得する。この際の機器の解析条件は、加速電圧;25,000V、フォーカスマス;10000、解析範囲;2,000〜20,000ダルトンである。
【0041】
上記の手法により、本発明者らは、ヒト膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料のマススペクトルを測定するとき、両試料を判別可能にするピークを見出した。このようなピークは、本発明のマーカーとしてのタンパク質またはその断片ペプチドに相当する。膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料を判別可能にする7個のピークが見出され(膵癌患者について図1〜7、非癌健常人について図8〜14参照)、これらのピークに相当するタンパク質の質量数は、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%である。ここで「±2%」は、装置や測定条件等の違いによる誤差範囲を意味する。
【0042】
さらにまた、本発明者らは、上記と同様の手法により、ヒト卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料のマススペクトルを測定するとき、両試料を判別可能にするピークを見出した。上記の該卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別可能にする7個のピークが見出され(卵巣癌患者について図15〜21、非癌健常人について図22〜28参照)、これらのピークに相当するタンパク質の質量数は、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%である。ここで、「±2%」は、上記と同様の意味を有する。
【0043】
本発明においては、癌関連マーカーとして、上記タンパク質に加えて、該タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたはそれに相補的なポリヌクレオチドも包含される。タンパク質が同定されるならば、その配列に基づいて、BLAST、FESTA検索などの検索手段によって、該タンパク質をコードする遺伝子またはDNAの一次構造(配列)を決定することができる。そのようなポリヌクレオチドの具体例には、マススペクトルにおけるピークの質量数が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%であるタンパク質、あるいは質量数が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%であるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、またはその変異体が含まれる。そのような変異体は、生体内で例えば突然変異、多型性、選択的スプライシングなどの生物学的事象の結果とし生じた変異体を含む。実際には、該核酸マーカーは、転写産物または翻訳産物として核酸レベルまたはタンパク質レベルで検出される。
【0044】
転写産物の場合、それはmRNA、cRNAまたはcDNAとして検出される。細胞または組織から公知の手法で全RNAを抽出し、オリゴdTセルロースカラム法によってポリA(+)RNAまたはmRNAを調製し、必要により、さらにmRNAからcDNA、cRNAを合成する。
【0045】
翻訳産物の場合、それは上記遺伝子またはその変異体によってコードされるタンパク質またはその断片として検出される。
【0046】
2.癌関連マーカー検出用組成物
A.膵癌を検出するための組成物
本発明は、上記のとおり、ヒト膵癌患者血液試料および非癌健常人血液試料のマススペクトルを測定して各試料中のタンパク質発現プロファイルを得ること、該タンパク質発現プロファイルを示すピークについて該膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別可能なピークを選択すること、該膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料との間の該選択されたピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にしてヒト膵癌血液試料について膵癌を検出することを含む。ここで、上記選択されたピークに対応するタンパク質は、図1〜7、図8〜14に示されるマススペクトルにおいて質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%を有するものである。
【0047】
膵癌患者由来の血液試料または非癌健常人血液試料中の、上記ピークに対応するタンパク質マーカーまたはその変異体の少なくとも1つの発現レベル、あるいは、該タンパク質またはその変異体をコードするポリヌクレオチドのレベルを、該マーカーに対応するプローブを用いて測定し、膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料との間の、上記タンパク質またはポリヌクレオチドの有意なレベル差を指標にして、癌患者において膵癌を検出することを含む。
【0048】
本発明で使用されるプローブは、上記マーカーを検出可能なものであれば特に制限されないが、通常は、ポリヌクレオチドまたは抗体である。したがって、このようなポリヌクレオチドまたは抗体を含む組成物は、患者の膵癌をインビトロで検出するために使用されうる。
【0049】
B.卵巣癌を検出するための組成物
本発明はまた、上記のとおり、ヒト卵巣癌患者血液試料および非癌健常人血液試料のマススペクトルを測定して各試料中のタンパク質発現プロファイルを得ること、該タンパク質発現プロファイルを示すピークについて該卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別可能なピークを選択すること、該卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料との間の該選択されたピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にしてヒト卵巣癌血液試料について卵巣癌を検出することを含む。ここで、上記選択されたピークに対応するタンパク質は、図15〜21、22〜28に示されるマススペクトルにおいて質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%を有するものである。
【0050】
該患者由来の卵巣癌患者血液試料または非癌健常人血液試料中の、上記ピークに対応するタンパク質マーカーまたはその変異体の少なくとも1つの発現レベル、あるいは、該タンパク質またはその変異体をコードするポリヌクレオチドのレベルを、該マーカーに対応するプローブを用いて測定し、卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料との間の、上記タンパク質またはポリヌクレオチドの有意なレベル差を指標にして、卵巣癌を検出することを含む。
【0051】
本発明で使用されるプローブは、上記マーカーを検出可能なものであれば特に制限されないが、通常は、ポリヌクレオチドまたは抗体である。したがって、このようなポリヌクレオチドまたは抗体を含む組成物は、患者の卵巣癌をインビトロで検出するために使用されうる。
【0052】
2.1 抗体プローブ
本発明においては、癌関連マーカーを検出するためのプローブとして抗体を使用することができる。
【0053】
本発明で使用されうる抗体は、以下のグループに分けられる。
(1)図1〜7、図8〜14に示されるマススペクトルにおいて質量数(m/z)8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%であるタンパク質、あるいは質量数が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%を有するタンパク質およびそれらの変異体からなる群から選択されるタンパク質またはその断片に対する抗体またはその断片。これらの抗体またはその断片は、膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別するタンパク質マーカーの発現レベルの差を測定するために使用される。
【0054】
(2)図15〜21、図22〜28に示されるマススペクトルにおいて質量数(m/z)4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%を有するタンパク質およびそれらの変異体からなる群から選択されるタンパク質またはその断片に対する抗体またはその断片。これらの抗体またはその断片は、卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを識別するタンパク質マーカーの発現レベルの差を測定するために使用される。
【0055】
上記の各グループにおいて、組成物は、少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個、さらに好ましくは3個〜全数、例えば4個〜全数、5個〜全数のプローブを含むことができる。
【0056】
変異体は、上記タンパク質の完全または部分配列と、アミノ酸レベルで通常80%以上、85%以上、好ましくは90%以上、93%以上、さらに好ましくは95%以上、98%以上、99%以上の配列同一性を有するものである。
【0057】
また、上記タンパク質は、誘導体化されていてもよく、例えば、グリコシル化、リン酸化、硫酸化、アルキル化、アシル化などの化学修飾誘導体を含むことができる。
【0058】
本発明で使用される抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗ペプチド抗体、単鎖抗体、キメラ抗体などを含む。また、抗体の断片には、Fab、(Fab’)2、Fc、Fc’、Fd、Fvなどが含まれる。これらの抗体断片は、例えばパパイン、ペプシンなどのプロテアーゼによる抗体の限定分解によって得ることができる。
【0059】
各タンパク質またはその断片を、タンパク質合成または遺伝子組換え技術を用いて合成し、その結果得られたタンパク質またはその断片を抗原としてウサギ、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの動物を免疫し、それらの抗原に対する抗体を産生し、精製する。
【0060】
ポリクローナル抗体は、上記動物を10〜300μg程度の抗原で皮下に免疫し、さらに約2週間後に追加免疫し、初回免疫から約3週間〜1か月後に採血し、抗血清から目的のポリクローナル抗体を含むIgG成分を硫安分画、イオン交換クロマトグラフィーを使用して分離することを含む方法によって作製することができる。特異性を高めるために、得られたIgGを、目的タンパク質をセルロースまたはアガロースなどの担体に結合して作製されたカラムに結合させたのち、高塩濃度のバッファーで溶出し、透析や限外ろ過などの方法で脱塩して、特異的ポリクローナル抗体を得ることができる。抗体価は、通常の免疫測定法、例えば酵素免疫測定法(EIA、ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)、蛍光抗体法などによって測定することができる。
【0061】
モノクローナル抗体は、例えば以下のような方法によって作製することができる。
標的タンパク質またはその断片を、ポリクローナル抗体の作製と同様にマウスまたはラット(例えばBalb/cマウス)の皮下に投与し、1〜4週間間隔で、約2〜4回追加免疫を行う。抗体価が頭打ちになったとき、抗原を静脈内または腹腔内に注射し、最終免疫とする。2〜5日後、抗体産生細胞(例えば脾臓細胞またはリンパ節細胞)を採取する。次いで、抗体産生細胞を骨髄腫細胞株(好ましくはヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ(HGPRT)欠損細胞株)に融合させてハイブリドーマ細胞を生成し、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)選択を行う。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地などの動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞と骨髄腫細胞株とを約1:1〜20:1の割合で混合し、ポリエチレングリコールなどの細胞融合促進剤の存在下で実施する。目的の抗体かどうかの確認は、上記の免疫測定法によって行うことができる。さらに、ハイブリドーマの増殖のために、マウスの腹腔内にハイブリドーマを投与し、ハイブリドーマを増殖させたのち、1〜2週間後に腹水を採取する。抗体の精製は、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0062】
抗ペプチド抗体は、タンパク質の表面上のリニアーなペプチドに対する抗体であり、免疫学的特異性を高めることができる。そのようなペプチドは、例えばKyte−Doolittleら(J. Mol. Biol. 157:105−132, 1982)の親水性−疎水性領域の推定法、Eminiら(J. Viol. 55:836−839, 1985)によるタンパク質分子上の特定ペプチド部位の表面に位置する確率、タンパク質鎖の折れ曲がり程度、例えばChou−Fasmanら(Adv. Enzymol. Relat. Areas Mol. Biol. 47:45−148, 1978)などのαヘリックス、βシート、ターンを表示するタンパク質の二次構造予測、等を単独でまたは組み合わせて使用して推定しうる。次いで、推定されたペプチドは、ペプチド合成機を用いて合成することができる。
【0063】
標的タンパク質の合成は、cDNAクローンを発現ベクターに組み込み、該ベクターによって形質転換またはトランスフェクションされた原核または真核宿主細胞を培養することによって該細胞または培養上清から得ることができる。発現ベクターは市販のものを使用することができる。宿主細胞は、細菌などの原核細胞(例えば大腸菌、枯草菌、シュウドモナス属細菌など)、酵母(例えばサッカロマイセス属、ピチア属など)、昆虫細胞(例えばSf細胞)、哺乳動物細胞(例えばCHO、COS、BHK、HEK293など)などを含む。また、ベクターは、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスなどからなり、標的タンパク質をコードするDNA、プロモーター、必要ならエンハンサー、ポリアデニル化シグナル、リボソーム結合部位、複製開始点、ターミネーター、選択マーカーなどを含むことができる。タンパク質の精製を容易にするために、標識ペプチド、例えば6〜10残基のヒスチジンタグ、FLAG、GFPタンパク質などをコードするDNA配列を含有させることもできる。遺伝子組換え技術については、Sambrookら(上記)、Ausbelら(上記)に記載されており、それらに記載の技術を本発明のために使用することができる。
【0064】
上記のようにして得られた標的タンパク質は、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、等電点電気泳動、電気泳動、限外ろ過、塩析、透析などを適宜組み合わせて精製することができる。
【0065】
標的タンパク質またはその断片の配列は、GenBankまたはUniGene受託番号に基づいてNCBI HomePage(米国)にアクセスすることによって入手可能である。
【0066】
本発明の実施形態により、上記組成物は、キットまたはマイクロアレイの形態であってもよく、すなわち、上記プローブは、キットまたはマイクロアレイの形態で含まれる。
【0067】
キットの場合、2つのグループの各タンパク質マーカーの1または2以上から全数のマーカーを検出することが可能な抗体を、個別にまたは2以上を組み合わせて適当な容器に包装することができる。
【0068】
抗体は、上記の方法で作製されるようなポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗ペプチド抗体などであるが、それらに限定されないものとする。抗体の種類は、いずれのタイプ、クラス、サブクラスでもよく、例えばIgG、IgM、IgE、IgD、IgA、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2などを含む。また、抗体の断片は、Fab、(Fab’)2、Fc、Fd、Fvなどを含む。
【0069】
2.2 ポリヌクレオチドプローブ
本発明に関わるポリヌクレオチドプローブは、以下のグループに分けられる。
(1)図1〜7、図8〜14に示されるマススペクトルにおいて質量数(m/z) 8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%を有するタンパク質およびそれらの変異体からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、または少なくとも15塩基からなるそれらの断片。これらのポリヌクレオチド、相補的ポリヌクレオチドまたは断片は、膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別するタンパク質マーカーの発現に対応する転写レベルの差を測定するために使用される。
【0070】
(2)図15〜21、図22〜28に示されるマススペクトルにおいて質量数(m/z) 4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%を有するタンパク質およびそれらの変異体からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、または少なくとも15塩基からなるそれらの断片。これらのポリヌクレオチド、相補的ポリヌクレオチドまたは断片は、卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別するタンパク質マーカーの発現に対応する転写レベルの差を測定するために使用される。
【0071】
上記の各グループにおいて、組成物は、少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個、さらに好ましくは3個〜全数、例えば4個〜全数、5個〜全数のプローブを含むことができる。
【0072】
本発明に関わる癌関連マーカーは、対象の癌腫によって次のように2つの群に分けることができる。すなわち、グループ1は、膵癌患者血液試料の判別に有用なものであり、一方、グループ2は、卵巣癌患者血液試料の判別に有用なものである。
【0073】
本発明において、プローブとしての変異体は、上記のグループ1またはグループ2のポリヌクレオチドの塩基配列に1若しくは複数、好ましくは1若しくは数個、の置換、欠失、付加、挿入などの変異を有する変異体、該配列と通常80%以上、85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、98%以上の同一性を有する配列からなる変異体などを含む。
【0074】
さらに、本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、上記定義のようなハイブリダイゼーション条件下で、上記のグループ1またはグループ2のポリヌクレオチドまたはその相補的ポリヌクレオチドにハイブリダイズすることが可能なものであれば、特に制限されないものとする。患者の個体によっては、突然変異、多型性、選択的スプライシングなどの生物学的事象によって変化した遺伝子をもつこともありえるために、そのようなポリヌクレオチドは、標的核酸の検出を可能にする。
【0075】
さらにまた、本発明において、ポリヌクレオチドの断片は、15塩基数〜全塩基数未満のサイズを有する。断片は、この範囲の任意の塩基数、例えば20塩基以上、30塩基以上、50塩基以上、70塩基以上、100塩基以上、150塩基以上、200塩基以上、250塩基以上などの塩基数である。
【0076】
本発明で使用されるポリヌクレオチドプローブは、慣用の化学的DNA合成技術や遺伝子組換え技術によって合成されうる。
【0077】
ポリヌクレオチドが約100塩基以下のDNA分子であれば、ホスホアミダイト法を利用するDNA自動合成装置(例えばApplied Biosystems、米国)を用いて合成することができる。
【0078】
或いは、上記ポリヌクレオチドは、cDNAクローニングによって作製することができる。対象の癌組織から全RNAを取得し、オリゴdTセルロースカラム処理によってポリA(+)RNAを得たのち、逆転転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)法によってcDNAライブラリーを作製し、このライブラリーから、GenBankやUniGeneなどのデータバンクに登録された配列検索によって入手可能な塩基配列に基づいて予め作製したプローブ(15以上、好ましくは30以上、より好ましくは、50〜100またはそれ以上の塩基長)とのハイブリダイゼーションによりcDNAクローンを得ることができる。取得したクローンは、例えば市販されるような発現ベクターに組み込んだのち大腸菌、枯草菌などの適当な宿主細胞に導入し、宿主細胞を増殖することによって、或いはデータバンクに登録された配列に基づいて予め作製したプライマー(通常15〜30塩基、好ましくは17〜25塩基長)を使用し、かつ上記cDNAクローンを鋳型とするポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、増幅することができる。cDNAクローニングおよびPCR法の具体的手順や試薬等については、市販のキット、装置、試薬を使用することができるし、また、例えばSambrook Jら, Molecular Cloning A Laboratory Manual,1989年, Cold Spring Harbor Laboratory Press(米国);F.M. Ausbelら, Short Protocols in Molecular Biology(3版)A Compendium of Method s from Current Protocols in Molecular Biology, 1995年, John Wiley & Sons, Inc.(米国)などに教示されている。
【0079】
本発明の組成物は、本発明の膵臓癌および卵巣癌関連マーカーを検出するための抗体類またはポリヌクレオチドプローブ類の少なくとも1つを含む混合物の形態であってもよいし、あるいは個々のまたは2以上のプローブを容器に入れて包装された、いわゆるキットの形態であってもよいし、あるいはマイクロアレイの形態であってもよい。
【0080】
キットにはさらに、ハイブリダイゼーションを行うための試薬類、例えばバッファー、逆転写酵素、標識二次抗体などを含有させてもよい。
【0081】
マイクロアレイの場合、アレイは、DNAマイクロアレイ(DNAチップともいう)、組織アレイまたはタンパク質マイクロアレイである。
【0082】
これらのマイクロアレイにはそれぞれ、プローブとしての上記のポリヌクレオチド或いは上記の抗体またはその断片が結合される。すなわち、アレイの表面に、上記核酸マーカーまたは転写若しくは翻訳産物を検出することができる、核酸マーカーまたはその変異体とハイブリダイズすることが可能なポリヌクレオチド、或いはそれらの遺伝子によってコードされるタンパク質、またはその変異体若しくは誘導体と特異的に結合反応することができる抗体またはその断片が、プローブとして結合される。
【0083】
アレイの基板としては、ガラスまたはポリマーが使用され、その表面に例えばポリL−リジン、シランまたは高密度化アミノ基が導入される。また、基板上へのポリヌクレオチドまたは抗体の結合は、スポット法またはインクジェット法によって行われる。
【0084】
アレイに代わる方法としてハイブリダイゼーションも可能であり、これには、DNA−DNAハイブリダイゼーション、DNA−RNAハイブリダイゼーション、RNA−RNAハイブリダイゼーション、ドットブロットなどが含まれる。
【0085】
3.検出または予測方法
本発明は、上記のとおり、複数の癌腫をもつヒト担癌患者において単一の血液試料を用いて複数の癌腫を検出および同定する方法であって、下記の(1)〜(3):
(1) 複数の種類の癌について各々の癌をもつヒト担癌患者由来の血液試料および非癌健常人由来の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定してタンパク質発現プロファイルを得るステップ、
(2) 上記ステップ(1)のタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、上記特定の種類のヒト癌の各々を非癌から区別可能な質量数(m/z)のピークを選択するステップ、
(3) 癌の種類が不明であるヒト担癌患者由来の単一の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定し、得られたタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、非癌健常人との間の、上記ステップ(2)で選択された質量数(m/z)のピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にして複数のヒト癌を検出し同定するステップ
を含む、方法を提供する。
【0086】
本発明の実施形態により、上記複数の癌腫には、膵癌および卵巣癌が含まれる。
【0087】
膵癌を非癌から区別可能な選択されたピークの質量数(m/z)は、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択される1または2以上、好ましくは全部である。
【0088】
また、卵巣癌を非癌から区別可能な選択されたピークの質量数(m/z)は、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択される1または2以上、好ましくは全部である。
【0089】
発現レベルは、血液試料中のタンパク質について、転写または翻訳産物レベルで、特定の癌腫を有する担癌患者からの血液試料と非癌健常人からの血液試料との間で、該タンパク質の相対的な発現レベルを比較したときの差(すなわち、増加または減少)を意味する。
【0090】
発現レベルの差を示す上記タンパク質を同定することによって、膵癌、卵巣癌などの癌腫をインビトロで検出することができる。
【0091】
本発明で同定されうる癌腫には、膵癌、卵巣癌に加えて、胃癌、肺癌、肝臓癌、大腸癌、直腸癌、脳腫瘍、腎癌、食道癌、前立腺癌、骨髄腫、白血病、リンパ腫などの他の癌、好ましくは深部臓器に生じる癌が非限定的に含まれる。本発明の方法によって、これらの癌の2以上、3以上、4以上の存在が、担癌患者の単一の血液試料から検出することができる。
【0092】
本発明によれば、発現レベルの差は、マーカーとしての該タンパク質またはそれに対応するポリヌクレオチド(mRNA、cDNA、cRNAなど)の存在または量を測定することによって、あるいはマススペクトル上の各タンパク質に対応するピークの強度に基づいて決定することができる。
【0093】
以下に、これらの2つの異なる方法について具体的に説明する。
3.1 ポリヌクレオチドによる方法
本発明に関わるタンパク質マーカーを検出するために、それらの各タンパク質マーカーをコードする核酸とハイブリダイズする上記ポリヌクレオチドを使用する。検出すべきマーカーの数は、グループ毎に1または2以上であり、好ましくは2以上、より好ましくは3から全数、例えば4から全数、5以上から全数である。検出すべきマーカーの数が多いほど、予測の確度が向上する。
【0094】
ハイブリダイゼーションは、マイクロアレイ法、ブロット法、例えばノーザンもしくはサザンブロット、ノーザンもしくはサザンハイブリダイゼーション法、in situハイブリダイゼーション法、定量RT−PCR法などの方法で実施することができる。好ましいハイブリダイゼーション法は、マイクロアレイ、定量RT−PCRまたはブロット法である。また、好ましいマイクロアレイの例は、DNAマイクロアレイおよびタンパク質マイクロアレイである。
【0095】
DNAマイクロアレイ法では、上記マーカー遺伝子群(1〜全数)とハイブリダイズする核酸プローブを基板に結合したDNAマイクロアレイを作製し使用する。
【0096】
DNAマイクロアレイは、核酸プローブを固相化できるものであればいずれの種類の基板も使用できる。固相には、例えばガラス、ポリマーなどが含まれ、さらに核酸を共有結合するための反応性基を含むスペーサーやクロスリンカーを導入することができる。このようなチップは市販されているため、それらを使用することが望ましい。
【0097】
核酸プローブの固相化は、特に制限はないが、一般的な方法、例えばスポッターまたはアレイヤーと呼ばれる高密度分注機を用いてDNAをスポットする方法、ノズルから液滴を噴射するインクジェット方式などの方法を用いて実施することができる。
【0098】
血液試料中のDNAまたはRNA、それから誘導されたcDNA、cRNAなどの核酸を、Cy染料(Cr3またはCy5)などの蛍光物質で標識した核酸を、DNAマイクロアレイ上のプローブとハイブリダイズさせる。レーザースキャンによる読み取り装置を用いて蛍光強度を読み取り、コンピュータでデータを解析する。
【0099】
ブロット法では、本発明の核酸プローブを放射性同位元素(例えば、32Pおよび35S)や蛍光物質(ローダミン誘導体、フルオレサミン誘導体、Cy染料など)などで標識したのち、ナイロンなどのポリマーメンブレンに転写した血液試料中のDNAまたはRNA、それから誘導されたcDNA、cRNAなどの核酸との間でハイブリダイゼーションを行う。シグナルを、放射線検出器または蛍光検出器を用いて検出し、その強度を測定する。
【0100】
定量RT―PCR法では、生物学的検体中のRNAから作製したcDNAを鋳型として標的の各遺伝子の領域が増幅できるように、プライマーをcDNAとアニーリングさせPCRを行い、得られた二本鎖DNAを検出する。プライマーを予め放射性同位元素や蛍光物質で標識しておくか、或いは、PCR産物をアガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドなどで二本鎖DNAを染色するなどの方法で、標的遺伝子を検出、定量することができる。
【0101】
PCR条件は、例えば変性:92〜94℃で30〜60秒;アニーリング:50〜55℃で30〜60秒;伸長:68〜72℃で30〜60秒を1サイクルとして30〜40サイクルの反応を含む。逆転写酵素は、市販の酵素、例えばSuperScript(登録商標)III(Invitrogen、米国)、AMV Reverse Transcriptase (Promega、米国)、M−MLV(RNaseH−)(宝酒造、京都)などを使用することができる。
【0102】
本発明において、ハイブリダイゼーションは、DNA−DNAハイブリダイゼーション、DNA−RNAハイブリダイゼーション、RNA−RNAハイブリダイゼーションのいずれでもよい。
【0103】
ハイブリダイゼーションにおけるストリンジェントな条件は、上記のとおりである。ハイブリダイゼーションの条件および方法については、例えば、Ausubelら, Curent Protocols in Molecular Biology, 1995, John Wiley and Sons, US)を参照することができる。
【0104】
3.2 抗体による方法
上記タンパク質マーカーの測定法は、免疫学的方法である。
【0105】
上記のように作製された抗体を、生物学的検体中の標的タンパク質またはその断片の検出のために使用することができる。
【0106】
多数の抗体をマイクロアレイ基板上に結合したタンパク質マイクロアレイを作製することによって、或いは、多数の抗体をPVDF膜などのフィルター上にドット状にスポットすることによって、一度に多数の標的タンパク質を検出または定量することが可能になる。或いは、慣用の免疫学的測定法、例えば酵素免疫測定法(ELISA、EIA)、蛍光抗体法、放射性免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法、免疫比濁法、ラテックス凝集反応、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応、粒子凝集反応またはウェスタンブロット法などによって、生物学的検体中の標的タンパク質またはその断片を検出または定量することができる。
【0107】
固相上で反応を行うときには、固相担体として、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンなどのポリマーの膜(フィルター)、プレート、チューブ、ストリップなど、ラテックス、磁性体などの粒子、などが含まれる。固相化は、物理的に或いは化学的に行うことができる。化学的結合のためには、例えばスクシンイミド化試薬、臭化シアンなどの試薬で固相を処理し、タンパク質のアミノ基などと反応する官能基を固相に導入することができる。
【0108】
標的の検出のために、抗体を標識してもよいし、或いは標識二次抗体を使用してもよい。標識としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなどの酵素、フルオレセイン、ローダミン、それらの誘導体などの蛍光物質、ルシフェラーゼ系、ルミノール系などの発光物質、32P、125I、35Sなどの放射性同位元素などが含まれる。標識化は、例えばグルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、クロラミンT法、ボルトンハンター法などを含む。
【0109】
3.3 マススペクトルによる方法
本発明はさらに、マススペクトルデータからの膵癌、卵巣癌などの癌腫の検出法を提供する。
【0110】
これらの方法は、ヒト膵癌患者、卵巣癌患者、または膵癌および卵巣癌を疑われる被験者からの血液試料を未処理のままで、またはEDTA−Na処理のように抗凝固前処理して得た試料を、上記のマススペクトル測定条件と同じ条件下で質量分析装置にかけてマススペクトル(例えば、m/z:2,000〜20,000の範囲)をとり、マススペクトル上の指定された質量数(m/z)のピークの強度に基づいて、対応のタンパク質の発現レベルを決定し、該サンプルの発現レベルと対照サンプルの発現レベルとの差を決定することを含む。あるいは、本発明の方法は、検体のマススペクトルのピークパターン(もしくはプロファイル)を標準サンプル、陽性サンプルまたは陰性サンプルのものと対比することを含む。
【0111】
膵癌の検出においては、例えば図1〜7に示されるような膵癌の場合のピークパターンが得られるならば、試料は膵癌患者由来であることを示し、一方、非癌の場合のピークパターン(図8〜14)が得られるならば、試料は非癌健常人であることを示す。あるいは、発現レベルの差に基づいて、膵癌患者血液試料において高発現するタンパク質(図1〜7の質量数8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%のピーク)、または非癌健常人血液試料において高発現するタンパク質(図8〜14の質量数8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%のピーク)を決定することができる。
【0112】
卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料との判別においても、上記と同様に、ピークパターンあるいは発現レベルの差に基づいて(図15〜21、図22〜28の質量数4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%のピークによって判定される。)判別することができる。
【0113】
上記のようにして決定された各タンパク質の相対的発現レベルを多数の症例について系統的かつ網羅的なクラスター解析を行うと、膵癌患者と非癌健常人、あるいは、卵巣癌患者と非癌健常人とが明瞭に判別されることがわかる。
【0114】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明の範囲は、これらの実施例によって制限されないものとする。
【実施例】
【0115】
(材料と実験)
1.調査対象
2001年1月から2005年10月までの間に愛知県がんセンター病院(名古屋)を受診された、136症例の膵癌、62症例の卵巣癌を含む一連の血液試料を、愛知県がんセンター研究所疫学予防部(名古屋)のファイルから選択した。教師・検証モデル解析のため、膵癌および卵巣癌血液試料とも教師または検証データセットのいずれかに無作為に割り付けた。さらに、2003年4月から2007年12月までの間に名古屋大学医学部付属病院並びに共同研究病院(名古屋)において取得された膵癌患者血液試料を、検証用血液試料として供与を受けた。これらのすべては、倫理審査委員会から必要な承認を得た後に取得され、測定まで−80℃で保存されていた。また、担癌患者ならびに非癌健常人の両者からインフォームドコンセントを得ている。
【0116】
2.プロテオミクス解析
血液試料は、5マイクリットルを取り分け、50%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸溶液を用いて10倍に希釈を行う。10倍に希釈した血液試料5マイクリットルを取り分け、50%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸溶液溶解した30mg/ml濃度のシナピン酸を20マイクロリットルと混和する。マトリックス混和血液試料0.5マイクリットルを試料台上のwellに6箇所に滴下し試料を乾燥させる。試料台上の滴下血液試料から、マススペクトロメトリー(アプライドバイオシステムズ社製、4800)を用いてタンパク質発現プロファイルを取得する。この際の機器の解析条件は、加速電圧;25,000V、フォーカスマス;10000、解析範囲;2,000〜20,000ダルトンである。各スペクトルからのピーク検出と帰属は、MarkerViewソフトウエア(Applied Biosystems)を用いて行い、その結果、膵癌患者判別生物マーカー探索では、教師付きデータ群に7個のユニークなシグナルが生じ、卵巣癌患者判別生物マーカー探索では、7個のユニークなシグナルが生じた。全イオン数の最大総和により、スペクトルを互いに正規化した。その最大総和数を各スペクトルの和で割り算して、各スペクトルの正規化率を求め、さらにこの正規化率を用いて各スペクトルについて各データ点を乗じた。ヒト材料を使用するMALDI MS分析の精度と再現性は、これまでの研究によって実証されている(例えばJ Natl Cancer Inst 2003, 95:1711−7; Cancer Res 2003, 63:1652−6など)。
【0117】
3.統計解析
MALDI MSにより得られたタンパク質プロファイルを、SAM法(significant analysis of microarray法;多重検定を考慮した偽発見率(FDR)を算出)を用いて解析し、癌あるいは非癌の情報を提供し得るシグナルを選択した。カットオフはFDR<1%とした。この選択基準を満たしたシグナルを以下の解析のために使用した。本発明者らは、教師付き分類として十分確立された線形判別手法である、重み付き投票アルゴリズムを用いた。重み付き投票アルゴリズムでは、各シグナルに対する重み値がシグナル対ノイズ(S/N)比として計算される。シグナル数は、種々のマイクロアレイ研究で判明しているように、予測精度に強く影響を及ぼすために、本発明者らは、10,000回のランダムな繰り返しを伴う10分割交差評価手法(10−fold cross−validation)を実施して、予測モデルに使用したシグナル数を最適化した。
【0118】
(結果)
(1)ヒト膵癌患者血液試料ならびに非癌健常人血液試料からのプロテオミクスMSシグナル
本発明者らは、教師群に属する80症例の膵癌患者および80例の非癌健常人からの血液試料160検体におけるタンパク質発現プロファイルをMALDI MSを用いて分析し、7個の異なるMSシグナルを得た。ヒト膵癌患者血液試料からのスペクトルの代表例を、図1〜7に示した。さらに、本発明者らは、膵癌患者血液試料を非癌健常人血液試料から正確に判別することが可能であるプロテオミクスプロファイルを探索し、その結果、膵癌患者血液試料(図1〜7)と非癌健常人血液試料(図8〜14)との間で有意に発現差をみとめる7個のMSシグナル(質量数(m/z)8562.262、8684.438、8765.079、9423.513、13761.49、14145.18および17250.82)を選択した(FDR<0.01)。
【0119】
(2)ヒト卵巣癌患者血液試料ならびに非癌健常人血液試料からのプロテオミクスMSシグナル
本発明者らは、63症例の卵巣癌患者および64例の非癌健常人からの血液試料127検体におけるタンパク質発現プロファイルをMALDI MSを用いて分析し、7個の異なるMSシグナルを得た。ヒト卵巣癌患者血液試料からのスペクトルの代表例を、図15〜21に示した。本発明者らはさらに、卵巣癌患者血液試料を非癌健常人血液試料から正確に判別することが可能であるプロテオミクスプロファイルを探索し、その結果、卵巣癌患者血液試料(図15〜21)と非癌健常人血液試料(図22〜28)との間で有意に発現差をみとめる7個のMSシグナル(質量数(m/z)4470.801、6940.418、8764.14、9140.222、9422.677、13879.6および13935.1)を選択した(FDR<0.01)。
【0120】
(3)独立の盲検データセットを使用することによる膵癌または卵巣癌診断法の使用可能性の確認
MALDI MSを用いるプロテオミクス解析への使用可能性を評価するためには、独立の検査データセットによる有効性が極めて重要である。したがって、本発明者らは、教師データセットに基づいて構築されたプロテオミクスプロファイルを、32症例の膵癌患者血液試料と32例の非癌健常人血液試料から得られた独立のMSシグナルデータセットに適用した。本発明者らは、膵癌または卵巣癌血液試料を非癌健常人血液試料から区別するプロテオミクスプロファイルを、検証データセットに適用し、系統的かつ網羅的クラスター解析における明瞭な区別を確認した。クラスター解析パターンは、プロテオミクスプロファイルと担癌・非癌症例との間の強い相関を反映し、膵癌判別モデルでは75.0%(60/80)の感度と、93.75%(75/80)の特異度が得られることを示し(図29)、また卵巣癌判別モデルでは74.2%(46/62)の感度、80.2%(101/126)の特異度が得られることを示した(図30)。ここで感度は癌患者の陽性判定率、特異度は健常人の陽性判定率をそれぞれ意味する。
【0121】
さらに、MALDI MSを用いたプロテオミクス解析の評価を行うため、他施設において(名古屋大学医学部付属病院)取得された独立の検証用血液試料(膵癌37症例、健常人11例)を用いて、測定を行った。その結果、上記と同様に81.1%の感度と、100%の特異度が得られることが確認された。さらに、本測定法により、膵癌と診断された患者の中に、既存の膵癌腫瘍マーカーとして汎用されるCA19−9値が正常である症例を3症例(15.8%)認めた。
【0122】
上記の結果は、本発明の上記検査法が、プロテオミクスプロファイルに基づいた、ヒト膵癌血液試料を用いた存在診断の精度と特異度の高さを示しているのみならず、早期癌の検出に有効であること、および既存スクリーニング法であるCA19−9検査と相補的に使用可能であることを示している。
【0123】
(考察)
本発明者らは、非常に少量(数マイクロリットル)の血液試料を用いて、MALDIを応用したプロテオミクスプロファイル解析を遂行し、タンパク質発現プロファイルが、膵癌並びに卵巣癌担癌患者の早期診断を高精度で可能にする十分な情報を含むことを実証した。今回本発明者らが見出した分類因子は、第一に、膵癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別するに有用である教師群から選択された7個の異なるピークであるが、これらは、独立の検証データセットにも応用可能であったことから、MALDI MSによる血液試料の直接的タンパク質発現プロファイルの再現性が支持された。さらには、本解析結果は、他施設において取得された完全に独立した試料セットを用いた検討においても、その有用性が確認され、なおかつ既存の腫瘍マーカーであるCA19−9が陰性の症例においても、有用であることが確認された。
【0124】
第二に、卵巣癌患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別するに有用である教師群から選択された7個の異なるピークであるが、これらは、独立の検証データセットにも応用可能であったことから、MALDI MSによる血液試料の直接的タンパク質発現プロファイルの再現性が支持された。
【0125】
結論として、本発明者らは、未処理の血液試料に対して直接MALDI MSを適用し、教師群と独立の検証群との両方において、膵癌並びに患者血液試料と非癌健常人血液試料とを判別することができる癌関連タンパク質発現プロファイルを見出した。本解析法は、診断に苦慮する膵癌並びに卵巣癌の臨床管理に将来的に使用されることが確信される。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明によって、ヒト膵癌を高い精度で検出できる。またこれに加えて、ヒト卵巣癌患者を高い精度で検出できる。このため、膵癌および卵巣癌患者の早期診断・治療導入または治療後の経過観察指標として有効に利用することが可能であると考える。このように、癌医療において、本発明は多大なる貢献をすることが可能であろう。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)8562.262のピークを示す。
【図2】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)8684.438のピークを示す。
【図3】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)8765.079のピークを示す。
【図4】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)9423.513のピークを示す。
【図5】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)13761.49のピークを示す。
【図6】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)14145.18のピークを示す。
【図7】ヒト膵癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)17250.82のピークを示す。
【図8】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図1のピークに対応する質量数(m/z)8562.262のピークを示す。
【図9】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図2のピークに対応する質量数(m/z)8684.438のピークを示す。
【図10】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図3のピークに対応する質量数(m/z)8765.079のピークを示す。
【図11】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図4のピークに対応する質量数(m/z)9423.513のピークを示す。
【図12】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図5のピークに対応する質量数(m/z)13761.49のピークを示す。
【図13】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図6のピークに対応する質量数(m/z)14145.18のピークを示す。
【図14】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図7のピークに対応する質量数(m/z)17250.82のピークを示す。
【図15】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z) 4470.801のピークを示す。
【図16】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)6940.418のピークを示す。
【図17】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)8764.14のピークを示す。
【図18】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)9140.222のピークを示す。
【図19】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)9422.677のピークを示す。
【図20】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)13879.6のピークを示す。
【図21】ヒト卵巣癌患者血液試料からのマススペクトルにおける質量数(m/z)13935.1のピークを示す。
【図22】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図15のピークに対応する質量数(m/z)4470.801のピークを示す。
【図23】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図16のピークに対応する質量数(m/z)6940.418のピークを示す。
【図24】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図17のピークに対応する質量数(m/z)8764.14のピークを示す。
【図25】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図18のピークに対応する質量数(m/z)9140.222のピークを示す。
【図26】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図19のピークに対応する質量数(m/z)9422.677のピークを示す。
【図27】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図20のピークに対応する質量数(m/z)13879.6のピークを示す。
【図28】ヒト非癌患者血液試料からのマススペクトルにおける、図21のピークに対応する質量数(m/z)13935.1のピークを示す。
【図29】ヒト膵臓癌患者から見出されたマススペクトルの質量数(m/z)8562.262、8684.438、8765.079、9423.513、13761.49、14145.18および17250.82からなる7つの特異ピークから作成された膵臓癌判別モデルのROC曲線(図29A)を示す。この判別モデルを用い、かつ(i)をカットオフした場合と(ii)をカットオフした場合について、膵臓癌患者と非癌患者とを判定した結果、(ii)のカットオフを判定基準としたとき、sensitivity(感度)およびspecificity(特異度)がより高いことを示す。また、この判別モデルを用いて膵臓癌患者と非癌健常人とを判定した結果(図29B)をそれぞれ示す。
【図30】ヒト卵巣癌患者から見出されたマススペクトルの質量数(m/z)4470.801、6940.418、8764.14、9140.222、9422.677、13879.6および13935.1からなる7つの特異ピークから作成された卵巣癌判別モデルのROC曲線(図30A)を示す。図中、矢印は判定基準としたカットオフを示す。また、この判別モデルを用いて卵巣癌患者と非癌健常人とを判定した結果(図30B)をそれぞれ示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の癌腫をもつヒト担癌患者において単一の血液試料を用いて複数の癌腫を検出および同定する方法であって、下記の(1)〜(3):
(1) 複数の特定の種類の癌について各々の特定の癌をもつヒト担癌患者由来の血液試料および非癌健常人由来の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定してタンパク質発現プロファイルを得るステップ、
(2) 前記ステップ(1)のタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、前記特定の種類のヒト癌の各々を非癌から区別可能な質量数(m/z)のピークを選択するステップ、
(3) 癌の種類が不明であるヒト担癌患者由来の単一の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定し、得られたタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、非癌健常人との間の、前記ステップ(2)で選択された質量数(m/z)のピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にして、複数のヒト癌を検出し同定するステップ
を含む、上記方法。
【請求項2】
前記複数の癌腫が膵癌および卵巣癌を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記膵癌を非癌から区別可能な選択されたピークの質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択される1または2以上である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記卵巣癌を非癌から区別可能な選択されたピークの質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択される1または2以上である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記選択されたピークの質量数を有するタンパク質を同定することをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記同定されたタンパク質に基づいて、それをコードする遺伝子を決定することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記質量数(m/z)を有するタンパク質からなる群から選択されるタンパク質もしくはその変異体に対する抗体、あるいは前記タンパク質もしくはその変異体をコードするポリヌクレオチドまたはそれに相補的なポリヌクレオチドを使用して、前記発現レベルの差を測定する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
膵癌、卵巣癌またはその両方の癌腫を有するヒト担癌患者において単一の血液試料を用いて前記癌腫を検出する方法であって、膵癌または卵巣癌をもつ第1の担癌患者由来の血液試料および第2の非癌健常人由来の血液試料のマススペクトルを測定してタンパク質発現プロファイルを得ること、前記タンパク質発現プロファイルを示すピークについて前記第1の担癌患者からの血液試料と前記第2の非癌健常人群からの血液試料とを互いに区別可能な質量数(m/z)のピークを選択すること、ならびに、前記第1の担癌患者と第2の非癌健常人との間の前記選択された質量数(m/z)のピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にして、前記ヒト担癌患者の血液試料について癌を検出することを含み、ここで、前記選択されたピークに対応するタンパク質の各々が、膵癌に関しては、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択される1または2以上の質量数(m/z)、および、卵巣癌に関しては、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択される1または2以上の質量数(m/z)をそれぞれ有することを特徴とする、上記方法。
【請求項9】
マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質またはその変異体の各々に対する抗体またはその断片を少なくとも1つ含む、ヒト膵癌患者の血液診断を行うための組成物。
【請求項10】
マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらの変異体、それらにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、あるいは15以上の連続した塩基を含むそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、ヒト膵癌患者の血液診断を行うための組成物。
【請求項11】
前記組成物がキットまたはマイクロアレイの形態である、請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質またはその変異体の各々に対する抗体またはその断片を少なくとも1つ含む、ヒト卵巣癌患者の血液診断を行うための組成物。
【請求項13】
マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらの変異体、それらにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、あるいは15以上の連続した塩基を含むそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、ヒト卵巣癌患者の血液診断を行うための組成物。
【請求項14】
前記組成物がキットまたはマイクロアレイの形態である、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項1】
複数の癌腫をもつヒト担癌患者において単一の血液試料を用いて複数の癌腫を検出および同定する方法であって、下記の(1)〜(3):
(1) 複数の特定の種類の癌について各々の特定の癌をもつヒト担癌患者由来の血液試料および非癌健常人由来の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定してタンパク質発現プロファイルを得るステップ、
(2) 前記ステップ(1)のタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、前記特定の種類のヒト癌の各々を非癌から区別可能な質量数(m/z)のピークを選択するステップ、
(3) 癌の種類が不明であるヒト担癌患者由来の単一の血液試料中のタンパク質のマススペクトルを測定し、得られたタンパク質発現プロファイルを示すピークについて、非癌健常人との間の、前記ステップ(2)で選択された質量数(m/z)のピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にして、複数のヒト癌を検出し同定するステップ
を含む、上記方法。
【請求項2】
前記複数の癌腫が膵癌および卵巣癌を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記膵癌を非癌から区別可能な選択されたピークの質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択される1または2以上である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記卵巣癌を非癌から区別可能な選択されたピークの質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択される1または2以上である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記選択されたピークの質量数を有するタンパク質を同定することをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記同定されたタンパク質に基づいて、それをコードする遺伝子を決定することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記質量数(m/z)を有するタンパク質からなる群から選択されるタンパク質もしくはその変異体に対する抗体、あるいは前記タンパク質もしくはその変異体をコードするポリヌクレオチドまたはそれに相補的なポリヌクレオチドを使用して、前記発現レベルの差を測定する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
膵癌、卵巣癌またはその両方の癌腫を有するヒト担癌患者において単一の血液試料を用いて前記癌腫を検出する方法であって、膵癌または卵巣癌をもつ第1の担癌患者由来の血液試料および第2の非癌健常人由来の血液試料のマススペクトルを測定してタンパク質発現プロファイルを得ること、前記タンパク質発現プロファイルを示すピークについて前記第1の担癌患者からの血液試料と前記第2の非癌健常人群からの血液試料とを互いに区別可能な質量数(m/z)のピークを選択すること、ならびに、前記第1の担癌患者と第2の非癌健常人との間の前記選択された質量数(m/z)のピークに対応するタンパク質の相対的な発現レベルの差を指標にして、前記ヒト担癌患者の血液試料について癌を検出することを含み、ここで、前記選択されたピークに対応するタンパク質の各々が、膵癌に関しては、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択される1または2以上の質量数(m/z)、および、卵巣癌に関しては、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択される1または2以上の質量数(m/z)をそれぞれ有することを特徴とする、上記方法。
【請求項9】
マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質またはその変異体の各々に対する抗体またはその断片を少なくとも1つ含む、ヒト膵癌患者の血液診断を行うための組成物。
【請求項10】
マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、8562.262±2%、8684.438±2%、8765.079±2%、9423.513±2%、13761.49±2%、14145.18±2%および17250.82±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらの変異体、それらにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、あるいは15以上の連続した塩基を含むそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、ヒト膵癌患者の血液診断を行うための組成物。
【請求項11】
前記組成物がキットまたはマイクロアレイの形態である、請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質またはその変異体の各々に対する抗体またはその断片を少なくとも1つ含む、ヒト卵巣癌患者の血液診断を行うための組成物。
【請求項13】
マススペクトル測定におけるピークの質量数(m/z)が、4470.801±2%、6940.418±2%、8764.14±2%、9140.222±2%、9422.677±2%、13879.6±2%および13935.1±2%からなる群から選択されるものであるタンパク質をコードするポリヌクレオチド、それに相補的なポリヌクレオチド、それらの変異体、それらにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、あるいは15以上の連続した塩基を含むそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、ヒト卵巣癌患者の血液診断を行うための組成物。
【請求項14】
前記組成物がキットまたはマイクロアレイの形態である、請求項12または13に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2010−66225(P2010−66225A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235216(P2008−235216)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(507094267)株式会社Oncomics (1)
【出願人】(304031427)愛知県 (36)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(507094267)株式会社Oncomics (1)
【出願人】(304031427)愛知県 (36)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]