説明

質量分析用試料スプレー装置

【課題】被験試料を所定温度で噴霧してイオン化させる質量分析用試料スプレー装置において、スプレー用ガスの温度損失を低減させることと設計の自由度を高めることとを両立させること、スプレー用ガスを設定温度に加温調節する電熱ヒータの消費電力低減と安定かつ高精度な温度制御を可能にすること、装置全体のサイズ規模を小型化すること、保守性を高めること、これらを互いに背反することなく、達成する。
【解決手段】冷却用液体窒素32を収容する断熱容器31と、スプレーノズル51に近接して設置された熱交換器36と、この断熱容器36内の液体窒素32を熱交換器36の冷却流路に導く断熱配管35と、熱交換器36の被冷却流路にスプレー用ガスを供給するガス供給手段21と、その被冷却流路で冷却されたガスをスプレーノズル51の直前で任意の設定温度に加温する可変加温手段40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験試料を質量分析にかけるために利用する質量分析用試料スプレー装置に関し、とくにエレクトロスプレーイオン化装置に適用して有効なものに関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析用試料スプレー装置は、スプレーノズルに、冷却と加温によって乾燥および温度調節されたスプレー用ガスを供給することにより、スプレーノズルに導入された被験試料を所定温度で噴霧してイオン化させるものであって、たとえば蛋白質、核酸などの生体高分子などの被験試料を破壊することなく質量分析にかける場合に用いられる(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
図5は、従来の質量分析用試料スプレー装置201の概略を示す。同図に示す装置201は、スプレー用ガス供給源21、真空断熱容器(デュアービン)31、熱交換器26、温度調節装置40、スプレーノズル51などによって構成されている。
【0004】
スプレー用ガス供給源21はスプレー用ガス(ネブライジングガス)として高圧の窒素ガスを発生する。このスプレー用ガスは流量制御弁22を介して熱交換器26の被冷却路に供給される。
【0005】
真空断熱容器31は冷却媒体である液体窒素32を収容する。熱交換器26はコイル状の導管で構成され、液体窒素32中に浸漬されている。スプレー用ガス供給源21から供給されたスプレー用ガスは、熱交換器26のコイル状導管内を通過させられることにより極低温まで冷却される。
【0006】
冷却されたスプレー用ガスは、ガス導管261を通って温度調節装置40まで運ばれた後、そこで所定温度に加温されてスプレーノズル51に供給される。温度調節装置40は、温度制御装置41、電熱ヒータ42、および温度センサ43を有し、スプレーノズル51に供給されるガスが所定温度となるような温度フィードバック制御を行いながら加温する。
【0007】
高圧のスプレー用ガスは、上述した冷却手段と加温手段によって所定の設定温度に調温されるとともに乾燥されてスプレーノズル51に供給される。スプレーノズル51には、図示を省略するが、高圧電界が印加されているとともに、試料供給源60から試料溶液が供給されるようになっている。この試料溶液はスプレー用ガス流とともにスプレーノズル51から噴霧される。この噴霧の過程で試料がイオン化されて質量分析装置10に導入される。
【0008】
【特許文献1】特開2003−157793
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来の装置は次のような問題のあることが本発明者らによってあきらかとされた。すなわち、
(a)スプレー用ガスは液体窒素32中の熱交換器26によっていったん極低温に冷却されるが、冷却したガスは断熱容器31を出た瞬間から外気(環境温度)で温められる。この温度損失(冷熱損失)の大きさは、断熱容器31とスプレーノズル51間のガス輸送距離が長いほど大きくなる。したがって、温度損失を小さくするためには、断熱容器31をスプレーノズル51にできるだけ近接させて設置することが望ましい。
【0010】
しかし、スプレーノズル51は、質量分析装置に付属する形で設置されて使用されるものであるため、そのスプレーノズル51の周辺はスペース制約が厳しく、液体窒素32と熱交換器26を収容するような断熱容器31を設置するスペース余裕はほとんどない。このため、断熱容器31をスプレーノズル51に近接して配置すると、断熱容器31の形状やサイズに大きな制約が生じてしまう。つまり、スプレー用ガスの温度損失を低減させようとすると、設計の自由度が著しく阻害されてしまうという背反する問題が生じる。
【0011】
(b)スプレーノズルから噴霧されるガスの温度は被験試料のイオン化効率に大きく影響する。そのガスの最適温度は試料ごとに異なる。このため、スプレー用ガスの温度は、スプレーノズル51の手前で試料に応じた最適温度に加温調節される。この加温調節は電熱ヒータ42と温度センサ43を用いて行われる。
【0012】
この加温調節を確実に行わせるためには、ガス輸送中での温度損失の大きさおよび温度変動を見込んでスプレー用ガスの冷却を行う必要がある。スプレー用ガスの冷却は、上述したように、液体窒素32中で行われる、その冷却量は、ガス流量、配管の熱伝導率、熱交換効率などによって決定されるが、これらのパラメータを可変操作して冷却量を制御することは、極めて困難である。
【0013】
このため、スプレー用ガスの温度制御は、スプレーノズル51手前の加温調節で行うしかない。この加温調節を確実に行わせるためには、加温調節される前のスプレー用ガスが設定温度よりも常に低温となるように冷却されていなければならない。
【0014】
このため、熱交換器26でのガス冷却は、ガス輸送中の不確定な温度損失および設定温度の変更等を見込んで、どのような場合でも常に過剰となるように行われる。このため、設定温度よりも著しく過剰に冷却されたガスを加温調節しなければならない場合が生じる。この場合は、加温負荷が著しく増大し、電熱ヒータの消費電力が大きくなるとともに、安定かつ高精度な温度制御が困難になるといった問題が生じる。
【0015】
(c)熱交換器26は、上記のような過剰冷却を行うために十分に大きな冷却容量を持つ必要がある。このために、熱交換器26が大型化し、これ伴って断熱容器31も大型化して、装置全体のサイズが大規模化してしまうという問題もあった。
【0016】
(d)スプレー用ガスには通常、窒素ガスが使用されるが、使用量が多いことから、一般的には窒素ガス発生装置が使用される。この場合のガス純度は99%程度であり、露天が十分に低くない場合は、液体窒素32中の熱交換器26内配管を通過中に水分が凝結・凍結して配管内に蓄積されることよりガスの流れが妨害され、安定動作が困難となる。この場合、凍結した水分を除去しなければならない。
【0017】
しかし、その除去作業は、液体窒素32が入った断熱容器31から熱交換器26を含むすべての配管を取り出すか、あるいは断熱容器31内の液体窒素32をすべて除去しないと行うことができないので、非常に面倒であるとともに、その作業のために装置の稼動を長時間停止させなければならなかった。つまり、熱交換器26の保守性が悪いという問題があった。
【0018】
本発明は以上のような問題を鑑みてなされたものであって、その目的は、スプレー用ガスの温度損失を低減させることと設計の自由度を高めることとを両立させること、スプレー用ガスを設定温度に加温調節する電熱ヒータの消費電力低減と安定かつ高精度な温度制御を可能にすること、装置全体のサイズ規模を小型化すること、保守性を高めること、これらを互いに背反することなく、達成することにある。
【0019】
本発明の上記以外の目的および構成については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明が提供する手段は次のとおりである。
【0021】
(1)スプレーノズルに、冷却と加温によって乾燥および温度調節されたスプレー用ガスを供給することにより、上記スプレーノズルに導入された被験試料を所定温度で噴霧してイオン化させる質量分析用試料スプレー装置において、冷却用液体窒素を収容する断熱容器と、上記スプレーノズルに近接して設置された熱交換器と、上記断熱容器内の液体窒素を上記熱交換器の冷却流路に導く断熱配管と、上記熱交換器の被冷却流路にスプレー用ガスを供給するガス供給手段と、上記被冷却流路で冷却されたガスを上記スプレーノズルの直前で任意の設定温度に加温する可変加温手段とを備えたことを特徴とする質量分析用試料スプレー装置。
【0022】
(2)上記手段(1)において、上記断熱配管が、液体窒素の輸送管をフレキシブルな外套管で囲んだ真空断熱管を用いて構成されていることを特徴とする質量分析用試料スプレー装置。
【0023】
(3)上記手段(1)または(2)において、上記熱交換器と上記可変加温手段が構造上一体化されていることを特徴とする質量分析用試料スプレー装置。
【0024】
(4)上記手段(1)〜(3)のいずれかにおいて、上記熱交換器と上記可変加温手段が上記スプレーノズルと構造上一体化されていることを特徴とする質量分析用試料スプレー装置。
【0025】
(5)上記手段(1)〜(4)のいずれかにおいて、上記熱交換器での液体窒素流量を制御する流量制御弁を設けたことを特徴とする質量分析用試料スプレー装置。
【0026】
(6)上記手段(1)〜(5)のいずれかにおいて、上記熱交換器は、内筒と外筒が同軸状に配置されるとともに両筒の間に環状断面流路が形成される多重筒によって形成され、外筒はスプレー用ガスを上記環状断面流路の一端から他端へ通過させるように形成され、内筒は蛇腹状凹凸による放熱部が形成されるとともに上記断熱配管を通して供給された液体窒素を筒内で筒長方向で循環させる導入管および導出管が設けられていることを特徴とする質量分析用試料スプレー装置。
【発明の効果】
【0027】
スプレー用ガスの温度損失を低減させることと設計の自由度を高めることとを両立させること、スプレー用ガスを設定温度に加温調節する電熱ヒータの消費電力低減と安定かつ高精度な温度制御を可能にすること、装置全体のサイズ規模を小型化すること、保守性を高めること、これらを互いに背反することなく、達成することができる。
【0028】
これにより、多種多様な被験試料の質量分析を適正かつ効率良く行わせることが可能になり、たとえば質量分析器をクロマトグラフと組合せて使用する場合に、時々刻々変化する試料種別に応じて最適のスプレー条件を連続的に可変設定することも可能になる。
【0029】
上記以外の作用/効果については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、本発明による質量分析用試料スプレー装置の一実施形態を概略系統図によって示す。
【0031】
同図に示す質量分析用試料スプレー装置20は、スプレーノズル51に、冷却と加温によって乾燥および温度調節されたスプレー用ガスを供給することにより、スプレーノズル51に導入された被験試料を所定温度で噴霧してイオン化させるものであって、たとえば蛋白質、核酸などの生体高分子などの被験試料を破壊することなく質量分析にかける場合に用いられる。
【0032】
この実施形態の質量分析用試料スプレー装置20はエレクトロスプレーイオン化装置として構成され、スプレー用ガス供給源21、真空断熱容器(デュアービン)31、真空断熱配管35、熱交換器36、温度調節装置40、スプレーノズル51などにより構成されている。
スプレー用ガス供給源21には窒素ガス発生装置が使用されている。このガス供給源21から高圧の窒素ガスが流量制御弁22および熱交換器36を介してスプレーノズル51にスプレー用ガス(ネブライジングガス)として供給されるようになっている。
【0033】
真空断熱容器31には液体窒素32が収容され、この液体窒素32には真空断熱配管35の輸送管33が挿入されている。真空断熱配管35は、液体窒素32の輸送管(可撓チューブ)33をフレキシブルな外套管34で囲んだ二重管構造であって、両管33,34の間は真空断熱されている。この真空断熱配管35によって容器31内の液体窒素32を熱交換器36へ輸送する。
【0034】
熱交換器36は温度調節装置40と同一のケーシングあるいはベース部材に設置されて構造上一体化された状態で、スプレーノズル51の直前に近接設置されている。この熱交換器36は、液体窒素とスプレー用ガス間での熱交換を行わせるための冷却流路と被冷却流路を有する。
【0035】
熱交換器36の冷却流路は、流入側が断熱配管35に接続され、流出側がガス流量制御弁37を介して吸引ポンプ38に接続されていて、真空断熱容器31内の液体窒素32が断熱配管35を介して所定流量で流れるようになっている。冷却媒体である液体窒素は熱交換により気化し、ガス流量制御弁37を介して吸引ポンプ38により吸引・排気される。液体窒素の流量すなわち冷却量は、ガス流量制御弁37での流量調節により可変制御することができる。
【0036】
熱交換器36の被冷却流路には、スプレー用ガス供給源21から発生されるスプレー用ガス(乾燥窒素ガス)がガス流量制御弁22を介して導入される。導入されたガスは、冷却流路の液体窒素と熱交換されることにより冷却される。冷却されたスプレー用ガスは直ちに、温度調節装置40によって設定温度に加温調節される。
【0037】
温度調節装置40は可変加温手段をなすものであって、温度制御装置41、電熱ヒータ42、および温度センサ43を有し、スプレーノズル51に供給されるガスが設定温度となるような温度フィードバック制御を行いながら加温する。
【0038】
高圧のスプレー用ガスは、上述した冷却手段と加温手段によって所定の設定温度に調温されるとともに乾燥されてスプレーノズル51に供給される。スプレーノズル51には、図示を省略するが、高圧電界が印加されているとともに、試料供給源60から試料溶液が供給されるようになっている。この試料溶液はスプレー用ガス流とともにスプレーノズル51から噴霧される。この噴霧の過程で試料の溶媒が気化・分離されるとともに、試料がイオン化されて質量分析装置10に導入される。
【0039】
上述した装置20では、熱交換器36が、液体窒素32が入った断熱容器31内ではなく、スプレーノズル51に近接して設置されているが、これにより、液体窒素で冷却されたスプレー用ガスが外気(環境温度)で温められることによる温度損失および温度変動を従来よりも大幅に小さくすることができる。
【0040】
断熱容器31内の液体窒素32は真空断熱管35によって熱交換器36の冷却流路に導かれるため、その断熱容器31は熱交換器36に近接して配置する必要がなく、任意位置に設置することができる。これにより、断熱容器31の形状やサイズに制約が生ぜず、スプレー用ガスの温度損失を低減させることと設計の自由度を高めることとを両立して達成させることが可能になっている。
【0041】
スプレー用ガスは、いったん冷却したガスを加温することによって被験試料に応じた設定温度に調節されるが、上記のように、本発明では冷却後の温度損失および温度変動を小さくすることができるので、過剰冷却量を従来よりも大幅に小さくすることができる。これにより、加温負荷が軽減されて、電熱ヒータの消費電力を低減させることができるとともに、温度制御を安定かつ高精度に行わせることができるようになる。
【0042】
上記により、加温調節前の温度と設定温度との間の温度幅を小さくできるが、これにより、その設定温度に加温調節されるまでの制御応答性を向上させることができる。さらに、上記実施形態では、熱交換器36での液体窒素流量を制御する流量制御弁37を設けてあるが、この流量制御弁37の制御流量を温度調節制御に連動する形で可変制御することにより、冷却量を簡単かつ迅速に可変制御することが可能になる。
【0043】
これにより、設定温度の可変範囲(ダイナミックレンジ)を拡大できるとともに、どの設定温度でも円滑かつ迅速に温度調節を行わせることが可能になる。したがって、たとえば質量分析器をクロマトグラフと組合せて使用する場合に、時々刻々変化する試料種別に応じて最適のスプレー条件を連続的に可変設定することが可能になる、という効果が得られる。
【0044】
また、上記により、熱交換器36の冷却容量は従来よりも大幅に小さくすることができる。これにより、熱交換器36の小型化および構造の単純化が可能になり、装置全体のサイズ規模も小型化することができる。
【0045】
熱交換器36内にはスプレー用ガスの水分が凝結・凍結するが、本発明の装置では、上記のように、熱交換器36の小型化および構造の単純化により、凍結によるガス流の妨げは従来よりも低頻度にすることができる。
【0046】
凍結によるガス流障害が生じた場合でも、液体窒素32の供給を止めることにより、除去作業は簡単かつ短時間に行わせることができる。つまり、保守性にすぐれている。
【0047】
以上のように、上述した実施形態の質量分析用試料スプレー装置20は、冷却用液体窒素32を収容する断熱容器31、スプレーノズル51に近接して設置された熱交換器36、断熱容器31内の液体窒素32を熱交換器36の冷却流路に導く断熱配管35、熱交換器36の被冷却流路にスプレー用ガスを供給するガス供給源21、熱交換器36の被冷却流路で冷却されたガスをスプレーノズル51の直前で任意の設定温度に加温する温度調節装置40により、スプレー用ガスの温度損失を低減させることと設計の自由度を高めることとを両立させること、スプレー用ガスを設定温度に加温調節する電熱ヒータの消費電力低減と安定かつ高精度な温度制御を可能にすること、装置全体のサイズ規模を小型化すること、保守性を高めること、これらを互いに背反することなく、達成することができる。
【0048】
これにより、多種多様な被験試料の質量分析を適正かつ効率良く行わせることが可能になり、たとえば質量分析器をクロマトグラフと組合せて使用する場合に、時々刻々変化する試料種別に応じて最適のスプレー条件を連続的に可変設定することができる。
【0049】
また、断熱配管35として、液体窒素の輸送管33をフレキシブルな外套管34で囲んだ真空断熱管を用いることにより、断熱容器31と熱交換器36間の距離が離れていても、熱交換器36での冷却に必要な液体窒素を無駄なく供給することができる。
【0050】
熱交換器36での液体窒素流量を制御する流量制御弁37を設けたことにより、冷却量の可変制御を円滑かつ迅速に行うことができる。流量制御弁37を温度調節装置40の制御に連動させれば、冷却量と加温量の最適化制御により、液体窒素の消費量と電熱ヒータの消費電力を共に最小化するとともに、温度調節の設定範囲を大幅に拡大することができる。
【0051】
さらに、熱交換器36と温度調節装置40とが構造上一体化されることにより、熱交換器36で冷却されたスプレー用ガスが外気によって暖められる温度損失を最小限に抑えることができ、これにより、上記効果をさらに高めることができる。
【0052】
図2は、熱交換器36と温度調節装置40とスプレーノズル51を構造上一体化した実施形態を示す。同図に模式的に示すように、熱交換器36と温度調節装置40とスプレーノズル51は、同一のケーシングに集約して構造上一体化されることができる。
【0053】
上記の構成によれば、スプレー用ガスの温度損失をさらに低減させるとともに、その温度調節の制御精度および応答性も一層向上させることができる。
【0054】
図3は、上記熱交換器36の具体的実施例を示す。同図に示す熱交換器36は、内筒362と外筒361からなり、外筒361の先端に細径筒部が軸方向に延長され、この延長筒部の外側に電熱ヒータ42が環状に取り巻く形で設けられている。
【0055】
内筒362と外筒361は同軸状に配置されて多重(二重)筒を形成する。両筒362,361の間には環状断面の流路が形成されている。外筒361はスプレー用ガスを環状断面流路の一端から他端へ通過させるように形成されている。内筒362は蛇腹状凹凸による放熱部が形成されるとともに、上記断熱配管35を通して供給された液体窒素を筒362内で筒長方向に循環させる導入管363および導出管364が設けられている。
【0056】
この実施例の熱交換器36は、スプレー用ガスの流れ方向が筒軸方向にほぼ一定なのでガスの流れが円滑であり、また、内筒362の蛇腹状凹凸によって広い放熱面積(熱伝導面積)が確保されているので熱交換効率も良好であるという利点を有する。さらに、構造が単純なので、水分の凍結によるガス流の阻害が生じにくく、仮に生じたとしても簡単に除去できる。いわゆる保守性が良好である。
【0057】
図4は、本発明の別の実施形態を示す。この実施形態では、ガスの冷却および加温機構が2系統設けられている。第1の系統ではスプレーノズル51へ設定温度のスプレー用ガスを供給し、第2の系統ではイオン導入チューブ71の導入口部分に必要な乾燥ガスを供給する。イオン導入チューブ71は電熱ヒータ72と温度センサ73を用いて所定温度にフィードバック温度制御されるようになっている。スプレーノズル51から噴霧された試料は、イオン導入チューブ71を介して後続機器である質量分析装置10に導入される。
【0058】
第1の系統は、前述した実施形態と同様、スプレー用ガス供給源21、ガス流量制御弁22A、真空断熱容器(デュアービン)31、真空断熱配管35A、熱交換器36A、ガス流量制御弁36A、吸引ポンプ38、温度調節装置40Aを有し、冷却と加温によって温度調節されたガスをスプレーノズル51に供給する。
【0059】
第2の系統は、スプレー用ガス供給源21、真空断熱容器31および吸引ポンプ38を第1の系統と共通に使用し、これにガス流量制御弁22B、真空断熱配管35B、熱交換器36B、ガス流量制御弁36B、温度調節装置40Bを設けることにより、所定温度の乾燥ガスをイオン導入チューブ71の導入口部分に供給する。
【0060】
上記装置でも、スプレー用ガス、乾燥ガス共に、−150℃付近から+200℃程度の広い範囲で高安定の温度制御が可能である。また、コールドスプレー等の低温使用後は、イオン導入口付近に吸着された不純物を、イオン導入用チューブ71に装着されたヒータ72で加熱することにより除去させることができる。この加熱処理の後、イオン導入用チューブ71は極低温の乾燥ガスを供給することにより急速に冷却させることができるので、次の測定を迅速に行わせることが可能である。
【0061】
このように、本発明の装置20は、液体窒素32が入った真空断熱容器31および吸引ポンプ38を共通に使用して、複数系統のガス供給系統を構築することが可能である。
【0062】
以上、本発明をその代表的な実施例に基づいて説明したが、本発明は上述した以外にも種々の態様が可能である。たとえば、スプレー用ガスは窒素ガス以外の不活性ガスであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
被験試料を所定温度で噴霧してイオン化させる質量分析用試料スプレー装置において、スプレー用ガスの温度損失を低減させることと設計の自由度を高めることとを両立させること、スプレー用ガスを設定温度に加温調節する電熱ヒータの消費電力低減と安定かつ高精度な温度制御を可能にすること、装置全体のサイズ規模を小型化すること、保守性を高めること、これらを互いに背反することなく、達成することができる。
【0064】
これにより、多種多様な被験試料の質量分析を適正かつ効率良く行わせることが可能になり、たとえば質量分析器をクロマトグラフと組合せて使用する場合に、時々刻々変化する試料種別に応じて最適のスプレー条件を連続的に可変設定することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明による質量分析用試料スプレー装置の一実施形態を示す概略系統図である。
【図2】本発明に係る熱交換器と温度調節器とスプレーノズルの構成例を示す模式化図である。
【図3】本発明に係る熱交換器の構成例を示す省略断面図である。
【図4】本発明による質量分析用試料スプレー装置の一実施形態を示す概略系統図である。
【図5】従来の質量分析用試料スプレー装置の構成を示す概略系統図である。
【符号の説明】
【0066】
10 質量分析装置
20 質量分析用試料スプレー装置
21 スプレー用ガス供給源
22 ガス流量制御弁
31 真空断熱容器(デュアービン)
32 液体窒素
33 輸送管
34 外套管
35 真空断熱配管
36 熱交換器
361 外筒
362 内筒
363 導入管
364 導出管
37 ガス流量制御弁
38 吸引ポンプ
40 温度調節装置(可変加温手段)
41 温度制御装置
42 電熱ヒータ
43 温度センサ
51 エレクトロスプレー
60 試料供給源
71 イオン導入チューブ
72 電熱ヒータ
73 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレーノズルに、冷却と加温によって乾燥および温度調節されたスプレー用ガスを供給することにより、上記スプレーノズルに導入された被験試料を所定温度で噴霧してイオン化させる質量分析用試料スプレー装置において、冷却用液体窒素を収容する断熱容器と、上記スプレーノズルに近接して設置された熱交換器と、上記断熱容器内の液体窒素を上記熱交換器の冷却流路に導く断熱配管と、上記熱交換器の被冷却流路にスプレー用ガスを供給するガス供給手段と、上記被冷却流路で冷却されたガスを上記スプレーノズルの直前で任意の設定温度に加温する可変加温手段とを備えたことを特徴とする質量分析用試料スプレー装置。
【請求項2】
請求項1において、上記断熱配管が、液体窒素の輸送管をフレキシブルな外套管で囲んだ真空断熱管を用いて構成されていることを特徴とする質量分析用試料スプレー装置。
【請求項3】
請求項1または2において、上記熱交換器と上記可変加温手段が構造上一体化されていることを特徴とする質量分析用試料スプレー装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、上記熱交換器と上記可変加温手段が上記スプレーノズルと構造上一体化されていることを特徴とする質量分析用試料スプレー装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、上記熱交換器での液体窒素流量を制御する流量制御弁を設けたことを特徴とする質量分析用試料スプレー装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかにおいて、上記熱交換器は、内筒と外筒が同軸状に配置されるとともに両筒の間に環状断面流路が形成される多重筒によって形成され、外筒はスプレー用ガスを上記環状断面流路の一端から他端へ通過させるように形成され、内筒は蛇腹状凹凸による放熱部が形成されるとともに上記断熱配管を通して供給された液体窒素を筒内で筒長方向で循環させる導入管および導出管が設けられていることを特徴とする質量分析用試料スプレー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−117850(P2007−117850A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311642(P2005−311642)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(505400783)ブルカー・ダルトニクス株式会社 (1)
【出願人】(502284162)日本サーマルエンジニアリング株式会社 (3)
【Fターム(参考)】