質量分析装置及びカバー板
【課題】長時間に亘り安定に高感度分析が実現し、再現性の高いデータを取得できるガス噴霧支援型のインターフェースを有する質量分析装置を提供する。
【解決手段】気体状のイオンを細孔に導く穴又は穴構造を、細孔のイオン導入口側に取り付けた質量分析装置を提案する。ここでの穴又は穴構造は、気体状のイオンが導入される側の断面積が導出される側の断面積よりも大きい構造を有する。
【解決手段】気体状のイオンを細孔に導く穴又は穴構造を、細孔のイオン導入口側に取り付けた質量分析装置を提案する。ここでの穴又は穴構造は、気体状のイオンが導入される側の断面積が導出される側の断面積よりも大きい構造を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機分子及び生体関連分子等を高感度に分離・分析する質量分析装置及び気体化されたイオンを真空状態に管理された空間内に導入する細孔のカバー板に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置は、混合物をその構成成分に分離する技術と組み合わされて使用される。分離技術は、ガスクロマトグラフと液体クロマトグラフに分類することができ、質量分析装置は、分離技術との組み合わせにより表記される。例えば液体クロマトグラフと質量分析装置を組み合わせたシステム構成はLC/MSと表記され、ガスクロマトグラフと質量分析装置を組み合わせたシステム構成はGC/MSと表記される。
【0003】
ガス支援エレクトロスプレーイオン化法(特許文献1)やソニックスプレーイオン化法(特許文献2)などの噴霧イオン化法を用いたLC/MSインターフェースは、液体のガス噴霧によるイオンの生成を大気圧下で実施する。
【0004】
例えば前者のイオン化法の場合、キャピラリーの末端部において液相状態の正負イオンが分離され、次に、キャピラリーの外周に沿って流されるガス流の支援により正又は負に帯電した帯電液滴が大気中に噴霧される。この帯電液滴から溶媒分子が蒸発することにより、気体化されたイオンが生成される。
【0005】
ところが、大気圧下で生成されたイオンを質量分析するには、溶媒分子とともにイオンを、直径0.3mm程度の細孔を通じて真空装置内に導入する必要がある。しかし、真空装置に導入されたイオンや分子は、圧力の急減により断熱膨張に伴う冷却を必ず受ける。そのため、特に熱が与えられない限り、溶媒分子がイオンに多数結合(凝集)した巨大質量を有するイオンが真空装置内で形成される。このように巨大質量を有するイオンは、真空中での脱溶媒が困難である。このため、イオンの実質的な分析感度が低下する。
【0006】
そこで、細孔を120℃程度に加熱しておくことにより、真空装置内に導入されるイオンや溶媒分子を予め加熱し、イオンへの溶媒分子の凝集を抑制する手法が広く行われている。
【0007】
また、イオン源で生成されるイオンを含むガス流の向きを細孔の中心線に対して傾斜又は直交させ、電界によりイオンだけを優先的に細孔に導入することにより、巨大質量を有するイオンの形成を抑制する方法も提案されている(特許文献3、4)。
【0008】
さらに、加熱された細孔が形成された金属ブロックとイオン源の間にカバー板を設置してガス流が細孔に直接当たるのを回避し、細孔自体の温度低下を防止する仕組みが提案されている(特許文献5)。
【0009】
さらに、分析感度の向上には、大気圧下で生成されるイオンを真空装置内に極力多く導入することが重要である。そこで、細孔自体のイオン源側の直径を漏斗状に拡大する構造も提案されている(特許文献6)。
【0010】
このように、液体サンプルの高感度分析には、イオン源や細孔を含むクロマトグラフと質量分析装置のインターフェース部分の開発が極めて重要になっている。
【0011】
ところで、ガス支援による噴霧イオン化法は、生成される帯電液滴が気化することよりイオンの生成が促進されるだけでなく、熱的に不安定なイオンの解離を抑制することができる。結果的に、気相化したイオン分子の反応による不純物イオンの生成を抑制することができる。
【0012】
典型例として、イオン源に流量200マイクロL/分で導入されるサブスタンスP(substance-P)溶液から得られる質量スペクトルを図1に示す。
【0013】
(a)は、ガス支援のないエレクトロスプレーイオン化法(ナノスプレー)で得られた質量スペクトルである。図に示すように、3個のプロトンが付加された3価イオンよりも、2個のプロトンが付加された2価イオンの強度の方が強く検出されている。
【0014】
(b)は、ガス噴霧を用いるイオン化法で得られた質量スペクトルである。図に示すように、3価イオンの方が2価イオンの強度より高いうえ、質量スペクトルが比較的単純である。
【0015】
この質量スペクトルの違いは、ガス支援のないイオン化法とガス支援のあるイオン化法で発生する反応の違いに起因する。
【0016】
ガス支援のないイオン化法においては、帯電液滴からイオンが生成される際に、イオンが帯電液滴から熱を奪う。このため、生成されたイオンには、過剰なエネルギーが蓄積される。その結果、比較的不安定なサブスタンスPの3価イオンの場合、イオンの解離(フラグメント化)によりエネルギーの緩和が生じ易くなる。さらに、多価イオンの場合、気相イオンの分子反応により、イオンの電荷(この場合はプロトン)が他の(不純物)分子に奪われ易くなる。この分子反応が発生すると、液体サンプル由来のイオン強度は低減し、多数の不純物イオンが生成される。
【0017】
一方、ガス噴霧を用いるイオン化法においては、帯電液滴からイオンが生成される際に付与された過剰な内部エネルギーは、ガス流の分子衝突により速やかに緩和される。従って、イオンの解離が起こり難い。さらに、このガス噴霧を用いるイオン化方法は、真空装置に対するイオンの導入時間が短く済む。このため、気相イオンの分子反応の影響も受け難い。結果的に、ガス噴霧を用いるイオン化法は、比較的不安定なイオンにおいても、高感度分析を安定かつ容易に実現することができる。
【0018】
ところで、衝突誘起解離(CID)や電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)等によるタンデム型の質量分析では、選択される前駆体イオンの電荷数が高いほど、より多くの分子構造情報が得られる傾向がある。そのため、3価のプロトン付加分子を高感度に検出できることは、構造解析において特に重要である。因みに、プロトンが2個付加したサブスタンスP分子は、比較的安定なイオンである。
【0019】
液体流量が1マイクロリットル/分以上の領域では、液体は一定の内径と外径を有するキャピラリーに導入され、その末端部から噴霧されてイオン化されることが多い。
【0020】
ところが、液体流量が1マイクロリットル/分以下の領域では、キャピラリー末端での液体の蒸発やガス流による液体の吸引が、イオンの生成に悪影響を及ぼすことがある。そこで、このような微小流量の液体がイオン源に導入される場合には、末端部の内径と外径が小さくなった(末端が細くなった)キャピラリーがしばしば用いられる(特許文献7、8)。このようなキャピラリーは、末端部が肉薄である上、末端部に存在する液体の体積も微小である。このため、熱容量が低く、周囲の温度から影響を受け易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第4861988号
【特許文献2】米国特許第5898175号
【特許文献3】特許第03554732号
【特許文献4】米国特許第7385189号
【特許文献5】米国特許第6147347号
【特許文献6】特開2003−222612号公報
【特許文献6】米国特許55720237号
【特許文献7】特開2002−257251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
前述したように、ガス噴霧を用いるイオン化法では、キャピラリーの外周に沿ってガスが噴出し、そのガス流の中にイオンや溶媒分子が生成される。ところが、ガス流は細孔周辺で加熱された後、その一部がキャピラリーの末端に向けて戻る(撥ね返る)ことがある。
【0023】
前述したように、液体流量が1マイクロリットル/分以下の場合、キャピラリーの末端は一般的に細い。このため、細孔で加熱され撥ね返ったガス流は、キャピラリーの末端温度を容易に上昇させてしまう。このように温度上昇したキャピラリーの末端で液体が気化すると、液相での正負イオンの分離過程等に支障が生じ、イオンの生成効率が顕著に低減(分析感度が低減)する。さらに、加熱された細孔からの赤外線輻射もキャピラリーの末端温度を上昇させる可能性がある。
【0024】
イオンの生成効率の変動(低減)は、特に揮発性の高い有機溶媒を用いる場合に顕著に発生し易く、長時間に亘り繰り返し分析を継続するLC/MS分析において最も深刻な影響を及ぼす。例えば分析開始後2時間程度はイオンの生成が安定していても、キャピラリーの末端が次第に加熱される結果、7時間後にイオンの生成が急減することがある。
【0025】
因みに、ガス噴霧を併用しないエレクトロスプレーイオン化法(ナノスプレー)の場合には、このような問題が発生しない。従って、赤外線輻射による液体の気化についても無視することができる。その一方で、ガス噴霧を併用しないエレクトロスプレーイオン化法では、キャピラリーの末端部の汚れや細孔周辺の汚れ具合がイオン生成に影響する。このため、検出されるイオン強度が最大となるように、分析開始時にイオン源の位置をマニュアルで微調節する必要がある。そのため、ユーザーにはイオン源の位置調節に関するスキルが要求され、初心者には扱い難いという側面がある。
【0026】
本発明者は、この技術課題を鋭意検討した結果、長時間に亘り安定的に高感度分析を実現でき、しかも再現性の高いデータを取得することができるガス噴霧支援によるインターフェースを有する質量分析装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0027】
このため、本発明者は、ガス噴霧支援により質量分析装置内にイオンを導入するための細孔の入り口側に、気体状のイオンが導入される側の断面積が導出される側の断面積よりも大きい穴を形成したカバー板を配置する構造を提案する。また、本発明者は、細孔が形成された構造体として、気体状のイオンが導入される側の断面積が前記細孔に連結する側の断面積よりも大きく形成された穴構造を有するものを提案する。いずれの場合も、噴霧に用いられるガスの流量よりも細孔を通じて真空状態に管理された空間内に吸入されるガスの流量の方が多いものを想定する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、イオン源から噴出されたガス流を、気体状のイオンが導入される側の断面積が導出される側の断面積よりも大きい穴を通じて効率的に細孔内に導入することができる。このように、ガス流は、一次的には穴又は穴構造に衝突するため、細孔の温度低下を防止できる。また、細孔で加熱されガス流の反射や細孔からの赤外線輻射を抑制でき、キャピラリーの末端温度の上昇を防止できる。また、気体状のイオンが導入される側の穴の断面積が大きいため、イオンを含むガスを細孔に導入する際の位置調整の煩雑さも無くすことができる。結果的に、長時間に亘り安定的に高感度分析が可能で、再現性の高いデータの取得が可能な質量分析装置を実現できる。
【0029】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ガス噴霧支援の有無による質量スペクトルの違いを示す図。
【図2】本発明を適用した一形態例に係るLC/MS装置のインターフェースの構成例を示す図。
【図3】形態例に係るLC/MS装置のシステム構成を示す図。
【図4】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図5】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図6】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図7】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図8】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図9】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図10】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図11】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本発明は、後述する形態例に限定されるものでなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0032】
[形態例1]
以下、形態例1に係るガス噴霧支援型のインターフェースを有する質量分析装置について説明する。
【0033】
[インターフェースの断面構成]
図2に、インターフェースの断面構成例を示す。イオン源のハウジング1には、ガラス製のキャピラリー2が固定されている。キャピラリー2の外径は例えば0.36mm程度である。キャピラリー2の末端(液体の導入側とは反対側)の内径は、例えば10ミクロン程度である。このように、キャピラリー2の末端は先端ほど細く形成される。キャピラリー2は樹脂製のスリーブ3を介してフィッティング4に装着され、当該フィッティング4を介してハウジング1に固定される。
【0034】
キャピラリー2の末端部は、ハウジング1のオリフィス部5から僅かに突出している。この構造が、ガス支援によるイオン生成に重要である。ガス噴霧に用いるガスは、ハウジング1の側面に形成されたガス導入口6からハウジング1内に形成された空洞に一定の流量にて導入される。ハウジング1の空洞内に導入されたガスは、空洞内のスリーブ3に沿ってオリフィス部5の方向に流れ、キャピラリー2に沿うようにオリフィス部5の外部へと噴出される。なお、キャピラリー2の導入端には、200ナノL/分程度で液体サンプルが導入される。液体サンプルは、ガス支援により、キャピラリー2の末端から噴霧される。このとき、噴霧されたガス流には、帯電液滴、イオン及び溶媒分子が含まれる。これらは、質量分析装置側のイオンの導入口である細孔7に向けて輸送される。
【0035】
形態例に係るインターフェースは、装置筺体10の一端面に形成された開口凹部に嵌め込むように取り付けられた金属ブロック8と、金属ブロック8の全体を覆うように装置筺体10に取り付けられたカバー板11とで構成される。
【0036】
この形態例の場合、金属ブロック8のイオン源側は円錐形状に加工され、装置筐体10に対する取付面側は円柱形状に加工されている。細孔7は、前述した円錐形状の母線に沿って形成されている。細孔7の直径は0.3mm程度である。金属ブロック8には、細孔7の外周部分にヒーター9が埋め込まれている。金属ブロック8は、ヒーター9により110℃程度に加熱される。
【0037】
液体サンプルとオリフィス部5又は液体サンプルと細孔7の間には、キロボルト(kV)オーダーの電圧を印加する。電圧の印加により、帯電液滴やイオンの電流量を増加させることができる。また、印加電圧の増減により、帯電液滴やイオンの電流量を調整することができる。細孔7を通過したイオンは真空装置内に導入され、質量分析される。
【0038】
カバー板11のうち金属ブロック8との対面側は、金属ブロック8の円錐面と相似形状を有している。一方、カバー板11のイオン源側は、細孔7の中心線を回転軸とする円錐台形状に形成されている。なお、円錐台の上底面には漏斗形状の穴12が形成されている。この形態例の場合、穴12のイオン源側の直径は1mm程度である。穴12の開口断面はイオン源の側(イオンの導入側)ほど大きく、奥側(イオンの導出側)ほど小さくなる。一方、穴12の奥側(イオンの導出側)の直径は、細孔7の直径以上である。すなわち、0.3mm以上である。この形態例の場合、漏斗形状に形成された穴12の回転軸は、細孔7の中心線と一致する。穴12は、装置筺体側の出口において、細孔7に連結されている。
【0039】
この穴構造を有するカバー板11を装置筺体10の表面に取り付けたことにより、オリフィス部5から噴出されるガス流が細孔7に衝突するのを防ぐことができる。細孔7がガス流に直接晒されないため、細孔7の温度低下を防止又はかなり抑制することができる。
【0040】
キャピラリー2の末端からガス噴霧を伴って生成されるイオンは、ガス流に乗って細孔7に向けて移動する。
【0041】
ただし、イオンの密度は、キャピラリー2の末端から離れるほど、ガス流が拡散するため低減する。具体的には、キャピラリー2の末端と細孔7の開口端との距離Lが7mm以上であると、細孔7から取り込まれるイオンの量は著しく低減する。従って、距離Lは、7mm以下であることが望ましい。
【0042】
前述したように、液体サンプルとオリフィス部5又は液体サンプルと細孔7の間には、キロボルト(kV)オーダーの電圧が印加されている。このため、距離Lが1mm以下になると放電が発生する。また、キャピラリー2の末端と細孔7の距離Lが近すぎると、加熱される細孔7の熱がキャピラリー2に伝わり、イオン生成に支障をきたすことがある。そのため、距離Lには最適値が存在する。
【0043】
前述したように、穴12のイオン源側(大気側)は、漏斗(円錐)状に開口断面が大きく、先端ほどその開口断面は小さくなっている。このため、キャピラリー2の末端からガス噴霧を伴って生成されるイオンを効率良く細孔7に導入することができる。
【0044】
穴12の中心線に垂直な断面に対する円錐面の角度θは、キャピラリー2の末端に向けて撥ね返るガス流を無視できる程度に急である必要がある。具体的には、角度θは、45°以上であることが望ましい。換言すると、円錐面と穴12の中心線とが成す角(=90°−θ)は、45°以下であることが望ましい。
【0045】
なお、その前提として、オリフィス部5から噴出されるガス流の流量に対して、細孔7から真空装置内に吸入されるガスの流量が大きいことが必要である。さもなければ、オリフィス部5から噴出されるガス流の全てを真空装置内に導入することができず、その一部が大気側に撥ね返えされてしまう。その場合、撥ね返されたガス流はキャピラリー2の末端を加熱し、イオンの生成に影響を与えてしまう。従って、インターフェースは、穴12の構造に加え、前述した角度θとガスの流量に関する条件を満たす必要がある。
【0046】
なお、穴12のイオン源側(大気側)の開口の直径は2mm以上であることが望ましい。オリフィス部5から噴出するイオンを含んだガス流は、ガス流量やオリフィス部5のサイズに依存する。ガス流の中心線に垂直な断面におけるガス流の直径は、1.5mm以下であることが多いためである。
【0047】
カバー板11の温度は、ヒーター9により加熱される金属ブロック8(細孔7)の温度よりも明らかに低いことが望ましい。この温度条件を満たすことで、オリフィス部5の温度上昇が抑制され、キャピラリー2の先端部における液体の気化を防止することができる。そのため、カバー板11と金属ブロック8の接触面積を必要最小に限定することが有効である。図1の場合、カバー板11と金属ブロック8の間に空気層を設けている。因みに、カバー板11と金属ブロック8の間に断熱材を挟み、伝熱効率を低下させることも有効である。
【0048】
[システム構成]
図3に、形態例に係るインターフェース(図2)を有する質量分析装置と液体クロマトグラフとで構成されるLC/MSシステムの構成を示す。当該システムは、イオン源31と質量分析装置32で構成される。
【0049】
イオン源31には、ガス流量調節部43からガスが供給される。ガス流量調節部43は、ガス供給部42から供給されるガスを定められた流量又は圧力に調節する。
【0050】
送液部39は、一定流量で液体(移動相)を送る。試料導入部40は、送液部39から供給された液体に試料を導入する。試料が導入された液体が液体サンプルである。分離部41は、試料を液体サンプルから分離(LC分離)してイオン源31に導入する。イオン源31は、ガス噴霧により液体試料から生成されたイオンをカバー板11の穴12に導入する。
【0051】
イオンは、細孔7を通じて質量分析装置32の差動排気部33に導入される。ここでの差動排気部33が前述した真空装置に対応する。この形態例の場合、差動排気部33は、200Pa程度の真空度に保持されている。差動排気部33に導入されたイオンは、真空度がより高い質量分離部34に導入され、質量分離される。質量分離されたイオンは検出部35で検出され、その検出出力はデータ処理部37を経て、最終的にデータ記録部38に保存される。システム全体の制御はシステム制御部36で行われる。
【0052】
真空状態に管理される差動排気部33の圧力は、質量分離部34の圧力より何桁も高い。このため、差動排気部33の排気は、質量分離部34の排気とは独立に実行される。これらの排気は、真空ポンプ等により行われる。差動排気部33に接続される真空ポンプ等は、実質上、細孔7から差動排気部33に吸入されるガスの排気に用いられる。
【0053】
差動排気部33を排気する真空ポンプ等の排気速度をS、差動排気部33の真空圧力をP1、大気圧をP0とすると、細孔7から差動排気部33内に吸入されるガスの流量Qは、以下の式により見積もることができる。
【0054】
[数1]
Q=S×P1/P0 …(式1)
【0055】
ここで、差動排気部33の排気系コンダクタンスは無視することができる。従って、差動排気部33の実行排気速度は、真空ポンプの排気速度Sで決定されると仮定した。例えば、差動排気部33を排気する真空ポンプの排気速度Sが500L/分、差動排気部33の圧力P1が200Paの場合、大気圧P0は101325Paであるので、ガスの流量Qは、式1から約1.0L/分と見積もることができる。
【0056】
先に述べたように、オリフィス部5から噴出されるガス流の流量Qに対して、細孔7から差動排気部33内に吸入されるガスの流量(すなわちS)の方が多いことが必要条件である。即ち、イオン源31に導入されるガスの流量が式1で計算されるQよりも低いことが必要条件である。実際、イオン源31に導入されるガスの流量が1.4Qの場合では6時間のLC/MS分析でイオン生成の急減が観測されることがあり、1.7Qの場合は3時間で急減が観測されることがある。一方、イオン源31に導入されるガスの流量が0.8Qに設定されると、長時間安定してLC/MS分析を行うことができる。
【0057】
ただし、イオン源31に導入されるガスの流量がQよりも低いという条件を満たしていても、カバー板11の形状やイオン源31の向き、距離Lによっては、キャピラリー2の末端の加熱が無視されない場合がある。特に、液体流量が低く、末端径が細くなったキャピラリー2を使用する場合等には、キャピラリー2の末端が比較的加熱され易い。それでも、イオン源31に導入されるガスの流量がQの1/3以下に設定されると、確実に安定したイオン生成を行うことができる。
【0058】
図1(b)に示す質量スペクトルは、オリフィス部5から噴出されるガスの流量がQの約1/3という条件下で取得されたものである。この条件下では、44時間以上は安定してLC/MS分析を行うことができた。
【0059】
一方、オリフィス部5から噴出されるガスの流量が極めて低く設定される場合、図1で比較されるような優位性は失われ、ガス噴霧支援がない場合と同様の結果しか得られない。そのため、オリフィス部5から噴出されるガスの流量は、一定の値より高く設定される必要がある。厳密にはオリフィス部5やキャピラリー2のサイズや構造に依存するが、ガス流量の下限は、キャピラリー2に導入される液体流量の十万倍が目安である。液体が完全に気化すると、その体積は液体時の約1000倍に増加する。
【0060】
さらに、生成イオンの速やかな冷却を実現するには、オリフィス部5から噴出されるガスの流量は、完全に気化された液体よりも充分に(約100倍)高く設定されることが必要である。例えば、液体流量が1マイクロL/分の場合、ガスの流量は0.1L/分以上に設定されることが望ましい。結局、ガスの流量は、これまで述べた範囲で検出イオン強度が最大となる値に最適化されることになる。
【0061】
[まとめ]
以上説明したように、本形態例に係る質量分析装置の場合、細孔7の入り口側に漏斗状の穴12を形成したカバー板11を配置することにより、イオン源31から放射状に噴出されたガス流を効率的に細孔7内に導入することができる。このように、ガス流は、一次的にカバー板11の穴12に衝突し、細孔7に直接衝突することがない。従って、細孔7の温度低下を防止することができる。また、本形態例の場合、細孔7で加熱されたガス流の反射や温度の高い細孔7からの赤外線輻射を防ぐことができる。このため、キャピラリーの末端温度が上昇するのを効果的に防止することができる。また、漏斗状の穴12にイオンを含むガスを導入するため、オリフィス部5と細孔7との間の位置調整の煩雑さも無くすことができる。また、カバー板11や細孔7の開口端周辺に汚れ等の経時変化があったとしても、イオンの生成にほとんど影響を与えることがない。結果的に、長時間に亘り安定的に高感度分析が可能で再現性の高いデータ取得が可能な質量分析装置を実現することができる。
【0062】
[形態例2]
以下では、形態例2に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0063】
前述した形態例の場合、カバー板11のイオン源側に、漏斗状の穴12を設ける場合について説明した。しかし、穴12の形状はこれに限らない。例えば図4に示すように、穴12の内表面に螺旋状又は渦巻き状の溝を形成しても良い。この場合、イオンを含むガスは、穴12の内表面に沿って渦を巻きながら底部へと吸い込まれる。このとき、大気成分の分子よりもサイズが大きいイオンは、流れの中心部に効率的に収束させることができる。結果的に、イオンが金属性のカバー板11に接触して電荷が失われることを防止し、効率良くイオンを細孔7に導入することができる。このため、形態例1に比してより高感度での検出が可能になる。
【0064】
なお、図4に示すように、穴12の形状が漏斗状であれば、細孔7が形成される金属ブロック8は直方体形状でも構わない。
【0065】
[形態例3]
以下では、形態例3に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0066】
前述したように、カバー板11のイオン源側に形成する穴12の形状は漏斗状であることが望ましい。また、前述したいずれの構造例の場合にも、穴12のイオン源側の開口端とオリフィス5の間に隙間を設ける場合について説明した。しかし、図5に示すように、カバー板11の穴12を、オリフィス部5を覆えるほど開口径を大きく、かつ、深く形成しても良い。この構造の場合、細孔7に吸引される空気は、オリフィス部5の外周面と穴12の内周面の隙間に沿って流れることになる。
【0067】
また、カバー板11の温度が室温に近い場合、オリフィス部5の外周温度もほぼ室温となる。このため、キャピラリー2の先端部における液体の温度上昇を効果的に抑制することができる。そのため、安定したイオン生成を実現させることができる。
【0068】
[形態例4]
以下では、形態例4に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0069】
前述の形態例の場合には、穴12が円錐形状である場合について説明した。すなわち、穴12の導出口から導入口への距離に比例して断面の直径が大きくなる形状を採用した。
【0070】
しかし、カバー板11の穴12のイオン源側の構造は、その中心線に対して垂直な断面の面積が導出口(最小開口部)から導入口(最大開口部)までの距離に応じて単調増加していれば、どのような構造であっても構わない。
【0071】
図6及び図7に、本形態例に係る穴12の構造例を示す。図6及び図7に示す穴12は、その中心線に垂直な断面の直径が穴12の最小開口部から最大開口部までの距離に対して非線形である。このような場合にも、前述した形態例1の場合と同様の効果を実現することができる。
【0072】
[形態例5]
以下では、形態例5に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0073】
前述した形態例の場合、カバー板11に形成した穴12の中心線と、キャピラリー2の中心線と、細孔7の中心線とを一致させる場合について説明した。
【0074】
しかし、図8に示すように、細孔7の中心線とキャピラリー2の中心線(穴12の中心線)とが一定の角度を有していても良い。なお、図8の場合、キャピラリー2は、イオンを含むガスが斜め上方に噴出されるように配置している。その理由は、以下の現象を想定するためである。例えば液体の送液が急増する場合、液体の全てが霧状にならず、一部が噴水状に噴き出す事態が考えられる。そのような場合でも、図8に示すようにガスが斜め上方に噴出されるのであれば、噴出した液体が細孔7から差動排気部33内に直接導入され難い。このため、差動排気部33の汚染を抑制することができる。
【0075】
[形態例6]
以下では、形態例6に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0076】
前述した形態例の場合、金属ブロック8のイオン源側の表面が平坦に構成され、カバー板11にのみ漏斗状の穴12を形成する場合について説明した。
【0077】
しかし、図9に示すように、細孔7のイオン源側の端面構造と、カバー板11の穴12の構造とが一体的に1つの漏斗形状を構成するように、金属ブロック8と穴12を形成しても良い。
【0078】
なお、金属ブロック8のイオン源側の表面形状とカバー板11の穴12の内表面形状との組み合わせにより構成される凹形状は、オリフィス部5から噴出されるガス流がイオン源側で撥ね返され難い構造であれば、その形状は前述の通り任意で良い。
【0079】
なお、厳密には、イオン源31のオリフィス部5の中心線と、カバー板11に形成された穴12のイオン源側の中心線とが一致する必要はなく、1mm以内のズレであれば、イオンの生成にほとんど影響しない。前述した他の形態例の場合も同様である。また、細孔7の開口端周辺に汚れ等の経時変化が見られたとしても、イオンの生成にほとんど悪影響を及ぼすことがない。
【0080】
その結果、イオン源31の最適な位置を一旦決定すれば、測定開始前にイオン源31の位置の微調整を行うことは不要であり、再現良くデータの取得を繰り返すことができる。このことにより、ユーザーのスキルや負荷が著しく低減される。前述した他の形態例についても同様である。
【0081】
[形態例7]
以下では、形態例7に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0082】
前述した形態例で説明したように、細孔7が形成された金属ブロック8の外表面がイオン源側に突出していても、平坦であっても、漏斗状に窪んだ構成であっても構わない。
【0083】
しかし、イオン源31に対して導入されるガスの流量が、細孔7から差動排気部33に吸入されるガスの流量Qより充分に低い場合、細孔7のイオン源側にカバー板11を必ずしも設置する必要はない。
【0084】
図10に、カバー板11を設置しないインターフェースの構造例を示す。すわなち、装置筐体10が、気体状のイオンが導入される側の断面積が細孔7に連結する側の断面積よりも大きく形成された穴12を有するように構成する。なお、漏斗状の穴12は、装置筐体10の外壁に対してイオン源側に突出するように形成する。この構造により、穴12の深さと細孔7に必要な距離を確保する。図10の場合、ヒーター9は装置筐体10を加熱する。
【0085】
イオン源31に対して導入されるガスの流量が細孔7から差動排気部33に吸入されるガスの流量Qより充分に低い場合、イオン源31のオリフィス部5から噴出されるガス流が細孔7のイオン源側に接触して加熱されたとしても、ガス流のほとんどを差動排気部33内に吸入することができる。その結果、細孔7のイオン源側におけるガス流の撥ね返しを無視することができる。すなわち、キャピラリー2の先端部が、撥ね返されたガス流のために加熱されることもなく、噴霧される液体の温度も上昇しない。また、ガスの流量がそもそも少ないので、細孔7の温度低下も防止できる。
【0086】
[形態例8]
以下では、形態例8に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0087】
キャピラリー2の末端部における内径が10ミクロン程度に細くなったものを利用する場合、キャピラリー2に導入される液体流量が100ナノL/分から800ナノL/分の範囲であれば、同一の分析条件において高感度分析が実現することができる。液体流量が1マイクロL/分では、細孔7の温度を120℃程度に上昇させると問題ない。
【0088】
しかし、液体流量が0.8マイクロL/分を超える場合、噴霧により生成される帯電液滴が必ずしも十分に気化しない。このため、気化しなかった液滴が、細孔7から差動排気部33内に導入されることがある。差動排気部33内に導入された帯電液滴は、電極を汚し、装置の感度低下の原因になり得る。そこで、帯電液滴を極力大気圧下で気化させることが、高感度分析のみならず分析装置のロバスト性の観点からも重要である。
【0089】
液体流量が0.8マイクロL/分以上の場合、図11に示すカバー板11の利用が効果的である。図11には、カバー板11の断面構造と正面図の両方を示している。図11に示すカバー板11は、漏斗状に形成された複数個の穴12が細孔7に対して同心円周上に配置されている。図11は、8個の穴12を細孔7の同心円上に配置した例を表している。なお、8個の穴12の中心側の斜面は、イオン源側である一点に集束している。この形態例の場合、この点は、細孔7の中心線上に位置決めされる。
【0090】
イオン源31のオリフィス部5から噴出されるイオンを含むガス流は、カバー板11に設けられた8個の穴12の中心に設けられた盛り上がった点又はその周辺の斜面に衝突した後、その周囲に位置する多数の穴12に分散するように導入される。この後、イオン源31のオリフィス部5から生成されるイオンを含むガス流は、同一円周上に配置された複数の穴12の斜面に沿って最底部に流れ込み、カバー板11の裏面と金属ブロック8の間の隙間を流れる間に加熱される。最終的に、複数の穴12に流れ込んだガス流は、カバー板11の裏面側に形成された通路を通じて細孔7の開口端部へと収束される。そして、イオンを含むガス流は、加熱されながら細孔7の中を流れ、最終的に差動排気部33へと流出される。
【0091】
この形態例に係る構造の場合、帯電液滴がカバー板11との衝突の衝撃により微細化される上、細孔7に導入されるまでの間に加熱され、積極的に気化される。このような構造のカバー板11を用いると、ガスの撥ね返しによりキャピラリー2の末端が加熱されることを抑制するとともに、生成される帯電液滴の気化を促進することができる。
【0092】
[他の形態例]
前述した形態例の場合、細孔7を金属ブロック8に形成する場合について説明した。しかし、細孔7は、加熱可能な構造体であれば、金属ブロック8に形成しなくても良い。また、細孔7は、板状の構造体に形成しても良い。
【0093】
本発明は上述した形態例に限定されず、様々な変形例を含む。例えば、上述した形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある形態例の一部を他の形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある形態例の構成に他の形態例の構成を加えることも可能である。また、各形態例の構成の一部について、他の構成を追加、削除又は置換することも可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 ハウジング
2 キャピラリー
3 スリーブ
4 フィッティング
5 オリフィス部
6 ガス導入口
7 細孔
8 金属ブロック
9 ヒーター
10 装置筺体
11 カバー板
12 穴
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機分子及び生体関連分子等を高感度に分離・分析する質量分析装置及び気体化されたイオンを真空状態に管理された空間内に導入する細孔のカバー板に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置は、混合物をその構成成分に分離する技術と組み合わされて使用される。分離技術は、ガスクロマトグラフと液体クロマトグラフに分類することができ、質量分析装置は、分離技術との組み合わせにより表記される。例えば液体クロマトグラフと質量分析装置を組み合わせたシステム構成はLC/MSと表記され、ガスクロマトグラフと質量分析装置を組み合わせたシステム構成はGC/MSと表記される。
【0003】
ガス支援エレクトロスプレーイオン化法(特許文献1)やソニックスプレーイオン化法(特許文献2)などの噴霧イオン化法を用いたLC/MSインターフェースは、液体のガス噴霧によるイオンの生成を大気圧下で実施する。
【0004】
例えば前者のイオン化法の場合、キャピラリーの末端部において液相状態の正負イオンが分離され、次に、キャピラリーの外周に沿って流されるガス流の支援により正又は負に帯電した帯電液滴が大気中に噴霧される。この帯電液滴から溶媒分子が蒸発することにより、気体化されたイオンが生成される。
【0005】
ところが、大気圧下で生成されたイオンを質量分析するには、溶媒分子とともにイオンを、直径0.3mm程度の細孔を通じて真空装置内に導入する必要がある。しかし、真空装置に導入されたイオンや分子は、圧力の急減により断熱膨張に伴う冷却を必ず受ける。そのため、特に熱が与えられない限り、溶媒分子がイオンに多数結合(凝集)した巨大質量を有するイオンが真空装置内で形成される。このように巨大質量を有するイオンは、真空中での脱溶媒が困難である。このため、イオンの実質的な分析感度が低下する。
【0006】
そこで、細孔を120℃程度に加熱しておくことにより、真空装置内に導入されるイオンや溶媒分子を予め加熱し、イオンへの溶媒分子の凝集を抑制する手法が広く行われている。
【0007】
また、イオン源で生成されるイオンを含むガス流の向きを細孔の中心線に対して傾斜又は直交させ、電界によりイオンだけを優先的に細孔に導入することにより、巨大質量を有するイオンの形成を抑制する方法も提案されている(特許文献3、4)。
【0008】
さらに、加熱された細孔が形成された金属ブロックとイオン源の間にカバー板を設置してガス流が細孔に直接当たるのを回避し、細孔自体の温度低下を防止する仕組みが提案されている(特許文献5)。
【0009】
さらに、分析感度の向上には、大気圧下で生成されるイオンを真空装置内に極力多く導入することが重要である。そこで、細孔自体のイオン源側の直径を漏斗状に拡大する構造も提案されている(特許文献6)。
【0010】
このように、液体サンプルの高感度分析には、イオン源や細孔を含むクロマトグラフと質量分析装置のインターフェース部分の開発が極めて重要になっている。
【0011】
ところで、ガス支援による噴霧イオン化法は、生成される帯電液滴が気化することよりイオンの生成が促進されるだけでなく、熱的に不安定なイオンの解離を抑制することができる。結果的に、気相化したイオン分子の反応による不純物イオンの生成を抑制することができる。
【0012】
典型例として、イオン源に流量200マイクロL/分で導入されるサブスタンスP(substance-P)溶液から得られる質量スペクトルを図1に示す。
【0013】
(a)は、ガス支援のないエレクトロスプレーイオン化法(ナノスプレー)で得られた質量スペクトルである。図に示すように、3個のプロトンが付加された3価イオンよりも、2個のプロトンが付加された2価イオンの強度の方が強く検出されている。
【0014】
(b)は、ガス噴霧を用いるイオン化法で得られた質量スペクトルである。図に示すように、3価イオンの方が2価イオンの強度より高いうえ、質量スペクトルが比較的単純である。
【0015】
この質量スペクトルの違いは、ガス支援のないイオン化法とガス支援のあるイオン化法で発生する反応の違いに起因する。
【0016】
ガス支援のないイオン化法においては、帯電液滴からイオンが生成される際に、イオンが帯電液滴から熱を奪う。このため、生成されたイオンには、過剰なエネルギーが蓄積される。その結果、比較的不安定なサブスタンスPの3価イオンの場合、イオンの解離(フラグメント化)によりエネルギーの緩和が生じ易くなる。さらに、多価イオンの場合、気相イオンの分子反応により、イオンの電荷(この場合はプロトン)が他の(不純物)分子に奪われ易くなる。この分子反応が発生すると、液体サンプル由来のイオン強度は低減し、多数の不純物イオンが生成される。
【0017】
一方、ガス噴霧を用いるイオン化法においては、帯電液滴からイオンが生成される際に付与された過剰な内部エネルギーは、ガス流の分子衝突により速やかに緩和される。従って、イオンの解離が起こり難い。さらに、このガス噴霧を用いるイオン化方法は、真空装置に対するイオンの導入時間が短く済む。このため、気相イオンの分子反応の影響も受け難い。結果的に、ガス噴霧を用いるイオン化法は、比較的不安定なイオンにおいても、高感度分析を安定かつ容易に実現することができる。
【0018】
ところで、衝突誘起解離(CID)や電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)等によるタンデム型の質量分析では、選択される前駆体イオンの電荷数が高いほど、より多くの分子構造情報が得られる傾向がある。そのため、3価のプロトン付加分子を高感度に検出できることは、構造解析において特に重要である。因みに、プロトンが2個付加したサブスタンスP分子は、比較的安定なイオンである。
【0019】
液体流量が1マイクロリットル/分以上の領域では、液体は一定の内径と外径を有するキャピラリーに導入され、その末端部から噴霧されてイオン化されることが多い。
【0020】
ところが、液体流量が1マイクロリットル/分以下の領域では、キャピラリー末端での液体の蒸発やガス流による液体の吸引が、イオンの生成に悪影響を及ぼすことがある。そこで、このような微小流量の液体がイオン源に導入される場合には、末端部の内径と外径が小さくなった(末端が細くなった)キャピラリーがしばしば用いられる(特許文献7、8)。このようなキャピラリーは、末端部が肉薄である上、末端部に存在する液体の体積も微小である。このため、熱容量が低く、周囲の温度から影響を受け易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第4861988号
【特許文献2】米国特許第5898175号
【特許文献3】特許第03554732号
【特許文献4】米国特許第7385189号
【特許文献5】米国特許第6147347号
【特許文献6】特開2003−222612号公報
【特許文献6】米国特許55720237号
【特許文献7】特開2002−257251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
前述したように、ガス噴霧を用いるイオン化法では、キャピラリーの外周に沿ってガスが噴出し、そのガス流の中にイオンや溶媒分子が生成される。ところが、ガス流は細孔周辺で加熱された後、その一部がキャピラリーの末端に向けて戻る(撥ね返る)ことがある。
【0023】
前述したように、液体流量が1マイクロリットル/分以下の場合、キャピラリーの末端は一般的に細い。このため、細孔で加熱され撥ね返ったガス流は、キャピラリーの末端温度を容易に上昇させてしまう。このように温度上昇したキャピラリーの末端で液体が気化すると、液相での正負イオンの分離過程等に支障が生じ、イオンの生成効率が顕著に低減(分析感度が低減)する。さらに、加熱された細孔からの赤外線輻射もキャピラリーの末端温度を上昇させる可能性がある。
【0024】
イオンの生成効率の変動(低減)は、特に揮発性の高い有機溶媒を用いる場合に顕著に発生し易く、長時間に亘り繰り返し分析を継続するLC/MS分析において最も深刻な影響を及ぼす。例えば分析開始後2時間程度はイオンの生成が安定していても、キャピラリーの末端が次第に加熱される結果、7時間後にイオンの生成が急減することがある。
【0025】
因みに、ガス噴霧を併用しないエレクトロスプレーイオン化法(ナノスプレー)の場合には、このような問題が発生しない。従って、赤外線輻射による液体の気化についても無視することができる。その一方で、ガス噴霧を併用しないエレクトロスプレーイオン化法では、キャピラリーの末端部の汚れや細孔周辺の汚れ具合がイオン生成に影響する。このため、検出されるイオン強度が最大となるように、分析開始時にイオン源の位置をマニュアルで微調節する必要がある。そのため、ユーザーにはイオン源の位置調節に関するスキルが要求され、初心者には扱い難いという側面がある。
【0026】
本発明者は、この技術課題を鋭意検討した結果、長時間に亘り安定的に高感度分析を実現でき、しかも再現性の高いデータを取得することができるガス噴霧支援によるインターフェースを有する質量分析装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0027】
このため、本発明者は、ガス噴霧支援により質量分析装置内にイオンを導入するための細孔の入り口側に、気体状のイオンが導入される側の断面積が導出される側の断面積よりも大きい穴を形成したカバー板を配置する構造を提案する。また、本発明者は、細孔が形成された構造体として、気体状のイオンが導入される側の断面積が前記細孔に連結する側の断面積よりも大きく形成された穴構造を有するものを提案する。いずれの場合も、噴霧に用いられるガスの流量よりも細孔を通じて真空状態に管理された空間内に吸入されるガスの流量の方が多いものを想定する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、イオン源から噴出されたガス流を、気体状のイオンが導入される側の断面積が導出される側の断面積よりも大きい穴を通じて効率的に細孔内に導入することができる。このように、ガス流は、一次的には穴又は穴構造に衝突するため、細孔の温度低下を防止できる。また、細孔で加熱されガス流の反射や細孔からの赤外線輻射を抑制でき、キャピラリーの末端温度の上昇を防止できる。また、気体状のイオンが導入される側の穴の断面積が大きいため、イオンを含むガスを細孔に導入する際の位置調整の煩雑さも無くすことができる。結果的に、長時間に亘り安定的に高感度分析が可能で、再現性の高いデータの取得が可能な質量分析装置を実現できる。
【0029】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ガス噴霧支援の有無による質量スペクトルの違いを示す図。
【図2】本発明を適用した一形態例に係るLC/MS装置のインターフェースの構成例を示す図。
【図3】形態例に係るLC/MS装置のシステム構成を示す図。
【図4】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図5】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図6】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図7】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図8】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図9】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図10】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【図11】形態例に係るLC/MS装置の他のインターフェースの構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本発明は、後述する形態例に限定されるものでなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0032】
[形態例1]
以下、形態例1に係るガス噴霧支援型のインターフェースを有する質量分析装置について説明する。
【0033】
[インターフェースの断面構成]
図2に、インターフェースの断面構成例を示す。イオン源のハウジング1には、ガラス製のキャピラリー2が固定されている。キャピラリー2の外径は例えば0.36mm程度である。キャピラリー2の末端(液体の導入側とは反対側)の内径は、例えば10ミクロン程度である。このように、キャピラリー2の末端は先端ほど細く形成される。キャピラリー2は樹脂製のスリーブ3を介してフィッティング4に装着され、当該フィッティング4を介してハウジング1に固定される。
【0034】
キャピラリー2の末端部は、ハウジング1のオリフィス部5から僅かに突出している。この構造が、ガス支援によるイオン生成に重要である。ガス噴霧に用いるガスは、ハウジング1の側面に形成されたガス導入口6からハウジング1内に形成された空洞に一定の流量にて導入される。ハウジング1の空洞内に導入されたガスは、空洞内のスリーブ3に沿ってオリフィス部5の方向に流れ、キャピラリー2に沿うようにオリフィス部5の外部へと噴出される。なお、キャピラリー2の導入端には、200ナノL/分程度で液体サンプルが導入される。液体サンプルは、ガス支援により、キャピラリー2の末端から噴霧される。このとき、噴霧されたガス流には、帯電液滴、イオン及び溶媒分子が含まれる。これらは、質量分析装置側のイオンの導入口である細孔7に向けて輸送される。
【0035】
形態例に係るインターフェースは、装置筺体10の一端面に形成された開口凹部に嵌め込むように取り付けられた金属ブロック8と、金属ブロック8の全体を覆うように装置筺体10に取り付けられたカバー板11とで構成される。
【0036】
この形態例の場合、金属ブロック8のイオン源側は円錐形状に加工され、装置筐体10に対する取付面側は円柱形状に加工されている。細孔7は、前述した円錐形状の母線に沿って形成されている。細孔7の直径は0.3mm程度である。金属ブロック8には、細孔7の外周部分にヒーター9が埋め込まれている。金属ブロック8は、ヒーター9により110℃程度に加熱される。
【0037】
液体サンプルとオリフィス部5又は液体サンプルと細孔7の間には、キロボルト(kV)オーダーの電圧を印加する。電圧の印加により、帯電液滴やイオンの電流量を増加させることができる。また、印加電圧の増減により、帯電液滴やイオンの電流量を調整することができる。細孔7を通過したイオンは真空装置内に導入され、質量分析される。
【0038】
カバー板11のうち金属ブロック8との対面側は、金属ブロック8の円錐面と相似形状を有している。一方、カバー板11のイオン源側は、細孔7の中心線を回転軸とする円錐台形状に形成されている。なお、円錐台の上底面には漏斗形状の穴12が形成されている。この形態例の場合、穴12のイオン源側の直径は1mm程度である。穴12の開口断面はイオン源の側(イオンの導入側)ほど大きく、奥側(イオンの導出側)ほど小さくなる。一方、穴12の奥側(イオンの導出側)の直径は、細孔7の直径以上である。すなわち、0.3mm以上である。この形態例の場合、漏斗形状に形成された穴12の回転軸は、細孔7の中心線と一致する。穴12は、装置筺体側の出口において、細孔7に連結されている。
【0039】
この穴構造を有するカバー板11を装置筺体10の表面に取り付けたことにより、オリフィス部5から噴出されるガス流が細孔7に衝突するのを防ぐことができる。細孔7がガス流に直接晒されないため、細孔7の温度低下を防止又はかなり抑制することができる。
【0040】
キャピラリー2の末端からガス噴霧を伴って生成されるイオンは、ガス流に乗って細孔7に向けて移動する。
【0041】
ただし、イオンの密度は、キャピラリー2の末端から離れるほど、ガス流が拡散するため低減する。具体的には、キャピラリー2の末端と細孔7の開口端との距離Lが7mm以上であると、細孔7から取り込まれるイオンの量は著しく低減する。従って、距離Lは、7mm以下であることが望ましい。
【0042】
前述したように、液体サンプルとオリフィス部5又は液体サンプルと細孔7の間には、キロボルト(kV)オーダーの電圧が印加されている。このため、距離Lが1mm以下になると放電が発生する。また、キャピラリー2の末端と細孔7の距離Lが近すぎると、加熱される細孔7の熱がキャピラリー2に伝わり、イオン生成に支障をきたすことがある。そのため、距離Lには最適値が存在する。
【0043】
前述したように、穴12のイオン源側(大気側)は、漏斗(円錐)状に開口断面が大きく、先端ほどその開口断面は小さくなっている。このため、キャピラリー2の末端からガス噴霧を伴って生成されるイオンを効率良く細孔7に導入することができる。
【0044】
穴12の中心線に垂直な断面に対する円錐面の角度θは、キャピラリー2の末端に向けて撥ね返るガス流を無視できる程度に急である必要がある。具体的には、角度θは、45°以上であることが望ましい。換言すると、円錐面と穴12の中心線とが成す角(=90°−θ)は、45°以下であることが望ましい。
【0045】
なお、その前提として、オリフィス部5から噴出されるガス流の流量に対して、細孔7から真空装置内に吸入されるガスの流量が大きいことが必要である。さもなければ、オリフィス部5から噴出されるガス流の全てを真空装置内に導入することができず、その一部が大気側に撥ね返えされてしまう。その場合、撥ね返されたガス流はキャピラリー2の末端を加熱し、イオンの生成に影響を与えてしまう。従って、インターフェースは、穴12の構造に加え、前述した角度θとガスの流量に関する条件を満たす必要がある。
【0046】
なお、穴12のイオン源側(大気側)の開口の直径は2mm以上であることが望ましい。オリフィス部5から噴出するイオンを含んだガス流は、ガス流量やオリフィス部5のサイズに依存する。ガス流の中心線に垂直な断面におけるガス流の直径は、1.5mm以下であることが多いためである。
【0047】
カバー板11の温度は、ヒーター9により加熱される金属ブロック8(細孔7)の温度よりも明らかに低いことが望ましい。この温度条件を満たすことで、オリフィス部5の温度上昇が抑制され、キャピラリー2の先端部における液体の気化を防止することができる。そのため、カバー板11と金属ブロック8の接触面積を必要最小に限定することが有効である。図1の場合、カバー板11と金属ブロック8の間に空気層を設けている。因みに、カバー板11と金属ブロック8の間に断熱材を挟み、伝熱効率を低下させることも有効である。
【0048】
[システム構成]
図3に、形態例に係るインターフェース(図2)を有する質量分析装置と液体クロマトグラフとで構成されるLC/MSシステムの構成を示す。当該システムは、イオン源31と質量分析装置32で構成される。
【0049】
イオン源31には、ガス流量調節部43からガスが供給される。ガス流量調節部43は、ガス供給部42から供給されるガスを定められた流量又は圧力に調節する。
【0050】
送液部39は、一定流量で液体(移動相)を送る。試料導入部40は、送液部39から供給された液体に試料を導入する。試料が導入された液体が液体サンプルである。分離部41は、試料を液体サンプルから分離(LC分離)してイオン源31に導入する。イオン源31は、ガス噴霧により液体試料から生成されたイオンをカバー板11の穴12に導入する。
【0051】
イオンは、細孔7を通じて質量分析装置32の差動排気部33に導入される。ここでの差動排気部33が前述した真空装置に対応する。この形態例の場合、差動排気部33は、200Pa程度の真空度に保持されている。差動排気部33に導入されたイオンは、真空度がより高い質量分離部34に導入され、質量分離される。質量分離されたイオンは検出部35で検出され、その検出出力はデータ処理部37を経て、最終的にデータ記録部38に保存される。システム全体の制御はシステム制御部36で行われる。
【0052】
真空状態に管理される差動排気部33の圧力は、質量分離部34の圧力より何桁も高い。このため、差動排気部33の排気は、質量分離部34の排気とは独立に実行される。これらの排気は、真空ポンプ等により行われる。差動排気部33に接続される真空ポンプ等は、実質上、細孔7から差動排気部33に吸入されるガスの排気に用いられる。
【0053】
差動排気部33を排気する真空ポンプ等の排気速度をS、差動排気部33の真空圧力をP1、大気圧をP0とすると、細孔7から差動排気部33内に吸入されるガスの流量Qは、以下の式により見積もることができる。
【0054】
[数1]
Q=S×P1/P0 …(式1)
【0055】
ここで、差動排気部33の排気系コンダクタンスは無視することができる。従って、差動排気部33の実行排気速度は、真空ポンプの排気速度Sで決定されると仮定した。例えば、差動排気部33を排気する真空ポンプの排気速度Sが500L/分、差動排気部33の圧力P1が200Paの場合、大気圧P0は101325Paであるので、ガスの流量Qは、式1から約1.0L/分と見積もることができる。
【0056】
先に述べたように、オリフィス部5から噴出されるガス流の流量Qに対して、細孔7から差動排気部33内に吸入されるガスの流量(すなわちS)の方が多いことが必要条件である。即ち、イオン源31に導入されるガスの流量が式1で計算されるQよりも低いことが必要条件である。実際、イオン源31に導入されるガスの流量が1.4Qの場合では6時間のLC/MS分析でイオン生成の急減が観測されることがあり、1.7Qの場合は3時間で急減が観測されることがある。一方、イオン源31に導入されるガスの流量が0.8Qに設定されると、長時間安定してLC/MS分析を行うことができる。
【0057】
ただし、イオン源31に導入されるガスの流量がQよりも低いという条件を満たしていても、カバー板11の形状やイオン源31の向き、距離Lによっては、キャピラリー2の末端の加熱が無視されない場合がある。特に、液体流量が低く、末端径が細くなったキャピラリー2を使用する場合等には、キャピラリー2の末端が比較的加熱され易い。それでも、イオン源31に導入されるガスの流量がQの1/3以下に設定されると、確実に安定したイオン生成を行うことができる。
【0058】
図1(b)に示す質量スペクトルは、オリフィス部5から噴出されるガスの流量がQの約1/3という条件下で取得されたものである。この条件下では、44時間以上は安定してLC/MS分析を行うことができた。
【0059】
一方、オリフィス部5から噴出されるガスの流量が極めて低く設定される場合、図1で比較されるような優位性は失われ、ガス噴霧支援がない場合と同様の結果しか得られない。そのため、オリフィス部5から噴出されるガスの流量は、一定の値より高く設定される必要がある。厳密にはオリフィス部5やキャピラリー2のサイズや構造に依存するが、ガス流量の下限は、キャピラリー2に導入される液体流量の十万倍が目安である。液体が完全に気化すると、その体積は液体時の約1000倍に増加する。
【0060】
さらに、生成イオンの速やかな冷却を実現するには、オリフィス部5から噴出されるガスの流量は、完全に気化された液体よりも充分に(約100倍)高く設定されることが必要である。例えば、液体流量が1マイクロL/分の場合、ガスの流量は0.1L/分以上に設定されることが望ましい。結局、ガスの流量は、これまで述べた範囲で検出イオン強度が最大となる値に最適化されることになる。
【0061】
[まとめ]
以上説明したように、本形態例に係る質量分析装置の場合、細孔7の入り口側に漏斗状の穴12を形成したカバー板11を配置することにより、イオン源31から放射状に噴出されたガス流を効率的に細孔7内に導入することができる。このように、ガス流は、一次的にカバー板11の穴12に衝突し、細孔7に直接衝突することがない。従って、細孔7の温度低下を防止することができる。また、本形態例の場合、細孔7で加熱されたガス流の反射や温度の高い細孔7からの赤外線輻射を防ぐことができる。このため、キャピラリーの末端温度が上昇するのを効果的に防止することができる。また、漏斗状の穴12にイオンを含むガスを導入するため、オリフィス部5と細孔7との間の位置調整の煩雑さも無くすことができる。また、カバー板11や細孔7の開口端周辺に汚れ等の経時変化があったとしても、イオンの生成にほとんど影響を与えることがない。結果的に、長時間に亘り安定的に高感度分析が可能で再現性の高いデータ取得が可能な質量分析装置を実現することができる。
【0062】
[形態例2]
以下では、形態例2に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0063】
前述した形態例の場合、カバー板11のイオン源側に、漏斗状の穴12を設ける場合について説明した。しかし、穴12の形状はこれに限らない。例えば図4に示すように、穴12の内表面に螺旋状又は渦巻き状の溝を形成しても良い。この場合、イオンを含むガスは、穴12の内表面に沿って渦を巻きながら底部へと吸い込まれる。このとき、大気成分の分子よりもサイズが大きいイオンは、流れの中心部に効率的に収束させることができる。結果的に、イオンが金属性のカバー板11に接触して電荷が失われることを防止し、効率良くイオンを細孔7に導入することができる。このため、形態例1に比してより高感度での検出が可能になる。
【0064】
なお、図4に示すように、穴12の形状が漏斗状であれば、細孔7が形成される金属ブロック8は直方体形状でも構わない。
【0065】
[形態例3]
以下では、形態例3に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0066】
前述したように、カバー板11のイオン源側に形成する穴12の形状は漏斗状であることが望ましい。また、前述したいずれの構造例の場合にも、穴12のイオン源側の開口端とオリフィス5の間に隙間を設ける場合について説明した。しかし、図5に示すように、カバー板11の穴12を、オリフィス部5を覆えるほど開口径を大きく、かつ、深く形成しても良い。この構造の場合、細孔7に吸引される空気は、オリフィス部5の外周面と穴12の内周面の隙間に沿って流れることになる。
【0067】
また、カバー板11の温度が室温に近い場合、オリフィス部5の外周温度もほぼ室温となる。このため、キャピラリー2の先端部における液体の温度上昇を効果的に抑制することができる。そのため、安定したイオン生成を実現させることができる。
【0068】
[形態例4]
以下では、形態例4に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0069】
前述の形態例の場合には、穴12が円錐形状である場合について説明した。すなわち、穴12の導出口から導入口への距離に比例して断面の直径が大きくなる形状を採用した。
【0070】
しかし、カバー板11の穴12のイオン源側の構造は、その中心線に対して垂直な断面の面積が導出口(最小開口部)から導入口(最大開口部)までの距離に応じて単調増加していれば、どのような構造であっても構わない。
【0071】
図6及び図7に、本形態例に係る穴12の構造例を示す。図6及び図7に示す穴12は、その中心線に垂直な断面の直径が穴12の最小開口部から最大開口部までの距離に対して非線形である。このような場合にも、前述した形態例1の場合と同様の効果を実現することができる。
【0072】
[形態例5]
以下では、形態例5に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0073】
前述した形態例の場合、カバー板11に形成した穴12の中心線と、キャピラリー2の中心線と、細孔7の中心線とを一致させる場合について説明した。
【0074】
しかし、図8に示すように、細孔7の中心線とキャピラリー2の中心線(穴12の中心線)とが一定の角度を有していても良い。なお、図8の場合、キャピラリー2は、イオンを含むガスが斜め上方に噴出されるように配置している。その理由は、以下の現象を想定するためである。例えば液体の送液が急増する場合、液体の全てが霧状にならず、一部が噴水状に噴き出す事態が考えられる。そのような場合でも、図8に示すようにガスが斜め上方に噴出されるのであれば、噴出した液体が細孔7から差動排気部33内に直接導入され難い。このため、差動排気部33の汚染を抑制することができる。
【0075】
[形態例6]
以下では、形態例6に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0076】
前述した形態例の場合、金属ブロック8のイオン源側の表面が平坦に構成され、カバー板11にのみ漏斗状の穴12を形成する場合について説明した。
【0077】
しかし、図9に示すように、細孔7のイオン源側の端面構造と、カバー板11の穴12の構造とが一体的に1つの漏斗形状を構成するように、金属ブロック8と穴12を形成しても良い。
【0078】
なお、金属ブロック8のイオン源側の表面形状とカバー板11の穴12の内表面形状との組み合わせにより構成される凹形状は、オリフィス部5から噴出されるガス流がイオン源側で撥ね返され難い構造であれば、その形状は前述の通り任意で良い。
【0079】
なお、厳密には、イオン源31のオリフィス部5の中心線と、カバー板11に形成された穴12のイオン源側の中心線とが一致する必要はなく、1mm以内のズレであれば、イオンの生成にほとんど影響しない。前述した他の形態例の場合も同様である。また、細孔7の開口端周辺に汚れ等の経時変化が見られたとしても、イオンの生成にほとんど悪影響を及ぼすことがない。
【0080】
その結果、イオン源31の最適な位置を一旦決定すれば、測定開始前にイオン源31の位置の微調整を行うことは不要であり、再現良くデータの取得を繰り返すことができる。このことにより、ユーザーのスキルや負荷が著しく低減される。前述した他の形態例についても同様である。
【0081】
[形態例7]
以下では、形態例7に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0082】
前述した形態例で説明したように、細孔7が形成された金属ブロック8の外表面がイオン源側に突出していても、平坦であっても、漏斗状に窪んだ構成であっても構わない。
【0083】
しかし、イオン源31に対して導入されるガスの流量が、細孔7から差動排気部33に吸入されるガスの流量Qより充分に低い場合、細孔7のイオン源側にカバー板11を必ずしも設置する必要はない。
【0084】
図10に、カバー板11を設置しないインターフェースの構造例を示す。すわなち、装置筐体10が、気体状のイオンが導入される側の断面積が細孔7に連結する側の断面積よりも大きく形成された穴12を有するように構成する。なお、漏斗状の穴12は、装置筐体10の外壁に対してイオン源側に突出するように形成する。この構造により、穴12の深さと細孔7に必要な距離を確保する。図10の場合、ヒーター9は装置筐体10を加熱する。
【0085】
イオン源31に対して導入されるガスの流量が細孔7から差動排気部33に吸入されるガスの流量Qより充分に低い場合、イオン源31のオリフィス部5から噴出されるガス流が細孔7のイオン源側に接触して加熱されたとしても、ガス流のほとんどを差動排気部33内に吸入することができる。その結果、細孔7のイオン源側におけるガス流の撥ね返しを無視することができる。すなわち、キャピラリー2の先端部が、撥ね返されたガス流のために加熱されることもなく、噴霧される液体の温度も上昇しない。また、ガスの流量がそもそも少ないので、細孔7の温度低下も防止できる。
【0086】
[形態例8]
以下では、形態例8に係るインターフェースを有する質量分析装置について説明する。なお、インターフェース以外の装置構成は、形態例1と同様である。従って、以下では、本形態例に特有のインターフェースの構造のみを説明する。
【0087】
キャピラリー2の末端部における内径が10ミクロン程度に細くなったものを利用する場合、キャピラリー2に導入される液体流量が100ナノL/分から800ナノL/分の範囲であれば、同一の分析条件において高感度分析が実現することができる。液体流量が1マイクロL/分では、細孔7の温度を120℃程度に上昇させると問題ない。
【0088】
しかし、液体流量が0.8マイクロL/分を超える場合、噴霧により生成される帯電液滴が必ずしも十分に気化しない。このため、気化しなかった液滴が、細孔7から差動排気部33内に導入されることがある。差動排気部33内に導入された帯電液滴は、電極を汚し、装置の感度低下の原因になり得る。そこで、帯電液滴を極力大気圧下で気化させることが、高感度分析のみならず分析装置のロバスト性の観点からも重要である。
【0089】
液体流量が0.8マイクロL/分以上の場合、図11に示すカバー板11の利用が効果的である。図11には、カバー板11の断面構造と正面図の両方を示している。図11に示すカバー板11は、漏斗状に形成された複数個の穴12が細孔7に対して同心円周上に配置されている。図11は、8個の穴12を細孔7の同心円上に配置した例を表している。なお、8個の穴12の中心側の斜面は、イオン源側である一点に集束している。この形態例の場合、この点は、細孔7の中心線上に位置決めされる。
【0090】
イオン源31のオリフィス部5から噴出されるイオンを含むガス流は、カバー板11に設けられた8個の穴12の中心に設けられた盛り上がった点又はその周辺の斜面に衝突した後、その周囲に位置する多数の穴12に分散するように導入される。この後、イオン源31のオリフィス部5から生成されるイオンを含むガス流は、同一円周上に配置された複数の穴12の斜面に沿って最底部に流れ込み、カバー板11の裏面と金属ブロック8の間の隙間を流れる間に加熱される。最終的に、複数の穴12に流れ込んだガス流は、カバー板11の裏面側に形成された通路を通じて細孔7の開口端部へと収束される。そして、イオンを含むガス流は、加熱されながら細孔7の中を流れ、最終的に差動排気部33へと流出される。
【0091】
この形態例に係る構造の場合、帯電液滴がカバー板11との衝突の衝撃により微細化される上、細孔7に導入されるまでの間に加熱され、積極的に気化される。このような構造のカバー板11を用いると、ガスの撥ね返しによりキャピラリー2の末端が加熱されることを抑制するとともに、生成される帯電液滴の気化を促進することができる。
【0092】
[他の形態例]
前述した形態例の場合、細孔7を金属ブロック8に形成する場合について説明した。しかし、細孔7は、加熱可能な構造体であれば、金属ブロック8に形成しなくても良い。また、細孔7は、板状の構造体に形成しても良い。
【0093】
本発明は上述した形態例に限定されず、様々な変形例を含む。例えば、上述した形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある形態例の一部を他の形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある形態例の構成に他の形態例の構成を加えることも可能である。また、各形態例の構成の一部について、他の構成を追加、削除又は置換することも可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 ハウジング
2 キャピラリー
3 スリーブ
4 フィッティング
5 オリフィス部
6 ガス導入口
7 細孔
8 金属ブロック
9 ヒーター
10 装置筺体
11 カバー板
12 穴
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを用いた噴霧により生成される気体状のイオンを、真空状態に管理された空間内に導入する細孔であり、噴霧に用いられるガスの流量よりも前記空間内に吸入されるガスの流量が多い細孔と、
前記気体状のイオンが導入される側の断面積が導出される側の断面積よりも大きく形成された穴を通じ、前記気体状のイオンを前記細孔に導くカバー板と、
前記細孔から前記空間内に導入された前記気体状のイオンを質量分析する質量分析部と
を有することを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記穴が円錐状である
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の質量分析装置において、
前記穴を構成する円錐面が、前記穴の中心線から45°以下の角度に保たれる
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析装置において、
噴霧に用いられるガスの流量が前記空間内に吸入されるガスの流量の0.8倍以下である
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の質量分析装置において、
噴霧に用いられるガスの流量が前記空間内に吸入されるガスの流量の1/3以下である
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記気体状のイオンが導入される側における前記穴の開口部の直径が2mm以上である
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記穴の表面には螺旋状又は渦巻き状の溝が形成されている
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記穴は、前記気体状のイオンを噴出するイオン源の噴出口の外周を覆うように配置される
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項9】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記穴の中心線は、前記細孔の中心線に対して斜め下方から交差する
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項10】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記細孔が形成される構造体の前記気体状のイオンが導入される側の端面構造と、前記カバー板に形成された前記穴の構造が一体的に一つの円錐形状を構成する
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項11】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記カバー板は前記穴を複数有し、
前記複数の穴は、前記細孔の中心線に対して同心円状に配置される
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項12】
ガスを用いた噴霧により生成される気体状のイオンを、真空状態に管理された空間内に導入する細孔と、前記気体状のイオンが導入される側の断面積が前記細孔に連結する側の断面積よりも大きく形成された穴構造とを有し、噴霧に用いられるガスの流量よりも前記細孔を通じて前記空間内に吸入されるガスの流量の方が多い構造体と、
前記細孔から前記空間内に導入された前記気体状のイオンを質量分析する質量分析部と
を有することを特徴とする質量分析装置。
【請求項13】
請求項12に記載の質量分析装置において、
前記穴構造が円錐状である
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項14】
請求項12に記載の質量分析装置において、
前記穴構造は、真空状態に管理された前記空間の外壁に対して外方に突出した位置に形成される
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項15】
ガスを用いた噴霧により生成される気体状のイオンを真空状態に管理された空間内に導入する細孔が形成された構造体に取り付けられるカバー板であり、前記気体状のイオンが導入される側の断面積が導出される側の断面積よりも大きく形成された穴を有する
ことを特徴とするカバー板。
【請求項1】
ガスを用いた噴霧により生成される気体状のイオンを、真空状態に管理された空間内に導入する細孔であり、噴霧に用いられるガスの流量よりも前記空間内に吸入されるガスの流量が多い細孔と、
前記気体状のイオンが導入される側の断面積が導出される側の断面積よりも大きく形成された穴を通じ、前記気体状のイオンを前記細孔に導くカバー板と、
前記細孔から前記空間内に導入された前記気体状のイオンを質量分析する質量分析部と
を有することを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記穴が円錐状である
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の質量分析装置において、
前記穴を構成する円錐面が、前記穴の中心線から45°以下の角度に保たれる
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析装置において、
噴霧に用いられるガスの流量が前記空間内に吸入されるガスの流量の0.8倍以下である
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の質量分析装置において、
噴霧に用いられるガスの流量が前記空間内に吸入されるガスの流量の1/3以下である
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記気体状のイオンが導入される側における前記穴の開口部の直径が2mm以上である
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記穴の表面には螺旋状又は渦巻き状の溝が形成されている
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記穴は、前記気体状のイオンを噴出するイオン源の噴出口の外周を覆うように配置される
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項9】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記穴の中心線は、前記細孔の中心線に対して斜め下方から交差する
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項10】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記細孔が形成される構造体の前記気体状のイオンが導入される側の端面構造と、前記カバー板に形成された前記穴の構造が一体的に一つの円錐形状を構成する
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項11】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記カバー板は前記穴を複数有し、
前記複数の穴は、前記細孔の中心線に対して同心円状に配置される
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項12】
ガスを用いた噴霧により生成される気体状のイオンを、真空状態に管理された空間内に導入する細孔と、前記気体状のイオンが導入される側の断面積が前記細孔に連結する側の断面積よりも大きく形成された穴構造とを有し、噴霧に用いられるガスの流量よりも前記細孔を通じて前記空間内に吸入されるガスの流量の方が多い構造体と、
前記細孔から前記空間内に導入された前記気体状のイオンを質量分析する質量分析部と
を有することを特徴とする質量分析装置。
【請求項13】
請求項12に記載の質量分析装置において、
前記穴構造が円錐状である
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項14】
請求項12に記載の質量分析装置において、
前記穴構造は、真空状態に管理された前記空間の外壁に対して外方に突出した位置に形成される
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項15】
ガスを用いた噴霧により生成される気体状のイオンを真空状態に管理された空間内に導入する細孔が形成された構造体に取り付けられるカバー板であり、前記気体状のイオンが導入される側の断面積が導出される側の断面積よりも大きく形成された穴を有する
ことを特徴とするカバー板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−252957(P2012−252957A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126548(P2011−126548)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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