赤外分光光度計
【課題】赤外分光光度計内の乾燥室に設けられた光透過窓の窓材として、潮解性を有するが安価な材料を用い、かつ、前記潮解性材料からなる光透過窓が潮解しないようにする。
【解決手段】 ヒータ22により光透過窓8の密閉室1の外面側近傍の空気の温度を上昇させる。そうすると、当該部分の空気の温度が通常の大気中の温度と比べて上昇し、相対湿度が低下するため、潮解性光学材料を用いた光透過窓8の潮解を防止することができる。また、光透過窓8の密閉室外面側の外周部を囲う囲い部21を設け、ヒータ22が光透過窓8の密閉室1の外面側近傍の空気の温度を上昇させ易くすることで、当該部分の空気の湿度を低湿度にし易くすると共に、試料の交換時等に装置内の空気の流れに乱れが生じた場合でも光透過窓8近傍の空気の乱れを防止し、光透過窓9の近傍を低湿度に維持する。
【解決手段】 ヒータ22により光透過窓8の密閉室1の外面側近傍の空気の温度を上昇させる。そうすると、当該部分の空気の温度が通常の大気中の温度と比べて上昇し、相対湿度が低下するため、潮解性光学材料を用いた光透過窓8の潮解を防止することができる。また、光透過窓8の密閉室外面側の外周部を囲う囲い部21を設け、ヒータ22が光透過窓8の密閉室1の外面側近傍の空気の温度を上昇させ易くすることで、当該部分の空気の湿度を低湿度にし易くすると共に、試料の交換時等に装置内の空気の流れに乱れが生じた場合でも光透過窓8近傍の空気の乱れを防止し、光透過窓9の近傍を低湿度に維持する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過窓の材料に潮解性を有する材料を用いた赤外分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外分光光度計には、ビームスプリッタ等の光学素子においてKBr(臭化カリウム)等の潮解性の材料(空気中の水分を吸収して溶解する性質を有する光学材料)が用いられている。潮解性の材料からなる光学素子が一度でも高湿度に暴露されれば表面が潮解して回復不可能なダメージを受け、その結果として装置が全く稼動しなくなる。したがって、この光学材料が潮解してしまうのを防ぐために、そのような光学素子を密閉室内に収容するとともに、その室内には水蒸気を除去することができるシリカゲル等の乾焼剤を内蔵し、低湿度に保つ方法が使用されてきた(例えば、特許文献1)。このように、赤外分光光度計においては、ビームスプリッタに潮解性材料を用いているため、乾燥室を設置する必要がある。
【0003】
上記の乾燥室中では、スペクトロ測定を行うために、赤外光源から射出された赤外光の干渉赤外光が生成され、生成された干渉赤外光は、光透過窓を通って密閉室から射出され、光路上に配置された試料を通過し、赤外光検出器へ集光される。このように、検出器や試料測定部は乾燥室外に設定されていることから、乾燥室内の光を外部へ導く必要がある。そのため、乾燥室には最低一箇所、外部へ光を透過する窓を設置する必要がある。この光透過窓の窓材としては、赤外分光分析に用いる波長範囲でフラットな透過率特性を有する材料としてKRS-5(臭沃化タリウム/ヨウ化タリウム)等がよく用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−108970
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、KRS-5は光透過率が低いため(約70%)、光量のロスが多く、また、毒性も強いことから窓材の部材として使用することは好ましくない。
【0006】
一方、窓材にKRS-5を使うことの代替として、例えば、KBrを窓材に使用することが考えられる。KBrは、赤外分光分析に用いる波長範囲でフラットな透過率特性を有し、光透過率も90%と高く、また、比較的安全な材料であるため、光透過窓の窓材として望ましい。
【0007】
しかし、光透過窓は、外部に光を導出する必要があることから、その位置は、乾燥室のカバーの外側に暴露する面に設けなければならない。そうすると、カバーの外側に暴露する面はどうしても外気に触れる可能性が残るため、窓材に潮解性のKBrを使用した場合、KBrが外気中の水分を吸収して溶解してしまう問題がある。また、KBrを用いた光透過窓に耐湿保護コーティングを施しても万全ということができないし、赤外分光光度計内には試料を出し入れする必要があるため、赤外分光光度計全体を完全密閉することもできない。
【0008】
そこで、本発明においては、赤外分光光度計内の乾燥室に設けられた光透過窓の窓材として、潮解性を有する材料を用い、かつ、前記潮解性材料からなる光透過窓が潮解しないような赤外分光光度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、乾燥手段及び赤外線光源が入れられた密閉室と、前記赤外光源から射出された赤外光を前記密閉室外部に導く役割を果す光透過窓とを備えた赤外分光光度計において、前記光透過窓は潮解性光学材料からなり、前記光透過窓の前記密閉室の外側面近傍の空気の温度を上昇させることができる加熱手段を、前記赤外光を遮らない位置に設けるとともに、前記光透過窓の前記密閉室の外側面近傍を囲う囲い部を備えたことを特徴とする赤外分光光度計である。
【0010】
前記課題を解決するためになされた第2の発明は、第1の発明において、前記光透過窓を前記密閉室外の空気と遮断することが可能なカバーAと、前記光透過窓の前記密閉室の外側面を前記密閉室内の空気と接触させるために設けられた通過穴と、前記通過穴を覆うことが可能なカバーBとを有することを特徴とする赤外分光光度計である。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明は、加熱手段により光透過窓の密閉室の外側面近傍の空気の温度を上昇させることで、当該空気の温度を通常の大気中の温度と比べて上昇させることができるため、当該空気の相対湿度を下げることができる。そして、潮解性光学材料を用いた光透過窓の潮解を防止することができる。また、光透過窓の密閉室の外側面近傍を囲う囲い部を設けることにより、加熱手段が光透過窓の密閉室の外側面近傍の空気の温度を上昇させ易くし、低湿度にし易くすると共に、試料の交換時等に装置内の空気の流れに乱れが生じた場合でも光透過窓の密閉室の外側面の空気の乱れを防止し、光透過窓の密閉室の外側面近傍を低湿度に維持することができる。このようにすれば、光透過窓に潮解性光学材料を用いることができるため、光透過窓の性能を向上させることが可能になる。
【0012】
第1の発明の場合、光透過窓の密閉室の外側面近傍の空気を低湿度に維持するためには、装置を使用しない時でも常に加熱状態を保ち続ける必要があるため、省エネの観点からは望ましくない。そこで、第2の発明は、装置を使用しない時には加熱を不要にすることができるものである。装置使用時には、カバーAを開いた状態にし、光透過窓から赤外光を透過可能な状態にする。また、カバーBは閉じた状態にし、光透過窓と密閉室内側の空気を遮断し、さらに加熱手段を起動する。このようにすれば、装置使用時には、光透過窓を通る光路上に、カバーAが存在しないため、装置の使用が可能になると共に、光透過窓の密閉室の外側面近傍の空気が加熱され低湿度になるため、光透過窓を潮解から保護できる。また、カバーBを閉め、密閉室内の低湿度を維持することが可能になる。
【0013】
一方、装置不使用時は、カバーAを閉じた状態にし、光透過窓を密閉室外側の空気と遮断すると共に、カバーBを開いた状態にし、光透過窓の密閉室の外側面と密閉室外側の空気を接触させ、さらに加熱手段を休止させる。不使用時には、加熱を停止しても、カバーAにより外気との接触を防止する。また、カバーBを開くことにより、光透過窓は、密閉室内の乾燥した空気と接触するため、密閉室内に設置されたのと同様の状態になり、光透過窓の密閉室の外側面近傍の空気を低湿度に保つことが可能になる。以上のようにして、装置を使用しない時には加熱手段による加熱を停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例である赤外分光光度計の干渉計部分を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施例である赤外分光光度計の光透過窓周辺の拡大図である。
【図3】本発明の実施例である赤外分光光度計の光透過窓周辺の三次元図である。
【図4】本発明の変形実施例である赤外分光光度計の測定時における光透過窓周辺の拡大図である。
【図5】本発明の変形実施例である赤外分光光度計の休止時における光透過窓周辺の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明の一実施例である赤外分光光度計の干渉計部分を概略的に表した構成図を示す。図1において、干渉計は密閉室1に設置されており、密閉室1内には、乾燥手段2、赤外光源3、移動鏡4、固定鏡5、ビームスプリッタ6が設けられている。
【0016】
赤外光源3から射出された赤外光は、ビームスプリッタ6に照射され、ビームスプリッタ6において移動鏡4と固定鏡5の二方向に分割される。そして、移動鏡4、固定鏡5で反射した光は、ビームスプリッタ6で再び合一され、対物面鏡11へ向かう光路7に送られる。このとき、移動鏡5は前後に往復移動しているため、合一された光は時間的に振幅が変動する干渉光となる。
【0017】
ビームスプリッタ6には、潮解性を有する光学材料であるKBr等が用いられる。KBrは高湿度に暴露されると表面が潮解して回復不可能なダメージを受け、その役割を果たせなくなるため、乾燥手段2が密閉室1内に設けられている。
【0018】
ここで、乾燥手段2には、例えば、シリカゲル等の乾燥剤やペルチェ素子を利用した乾燥機を用いること等が考えられるが、本発明においては、密閉室内を乾燥させることができる手段であれば、いかなる手段を用いて密閉室内を乾燥させても構わない。
【0019】
そして、光路7へ送られた干渉光は、光透過窓8を透過して、密閉室1内から外部へ出てき、対物面鏡11にて集光され、試料9を通過し、検出器10へ送られスペクトロ分析が行われる。光透過窓8は、パッキン32を介して押さえ板33によりネジ(図示しない)止めされ、密閉室1と密着保持される。
【0020】
本発明においては、光透過窓8の材料として、例えばKBrを用いる。光透過窓8は、赤外分析に用いる波長範囲においてフラットな透過率特性を有し、かつ、透過率が高いものが、光量のロスがなく望ましい。KBrは、赤外分析に用いる波長範囲においてフラットな透過率特性を有し、かつ、透過率も90%と高く、光透過窓8の材料として望ましい。しかし、KBrは潮解性を有するため、湿度が高い状況では使用することができないことから、光透過窓8の密閉室1の外側面近傍の空気を乾燥させる必要がある。なお、本発明における光透過窓8の材料は、赤外分光分析に用いる波長範囲でフラットな透過率特性を有し、潮解性があれば、限定されない。例えば、CsIや、NaClであってもよい。
【0021】
光透過窓8が空気と接触する面は、密閉室1内側面と外側面とがあるが、密閉室1内側面については、乾燥手段2が設けられ、密閉されているため、湿度は低く保たれている。
【0022】
一方、光透過窓8の密閉室1の外側面近傍の空気は、光透過窓8の密閉室1の外側面近傍にヒータ22を設けて、当該部分の空気の温度を上昇させる。KBrの潮解湿度は、相体湿度は約60%であるため、例えば、外気温30℃で、相対湿度が80%の場合は、潮解してしまう。しかし、ヒータ22を用いて、例えば、同じ水分量で気温のみを45度へ上昇させると相対湿度が約35%になるため、KBrの潮解湿度を下回る。このようにして、ヒータ22を用いることによって、光透過窓8の密閉室1の外面側近傍の空気の相対湿度を減少させ、KBrからなる光透過窓8の潮解を防ぐことが可能になる。ヒータ22の位置は、光透過窓8の密閉室1の外側面近傍の空気を加熱できる位置にあればよく、例えば、光透過窓8自体を加熱できるような位置にヒータ22を配置しても構わないが、赤外光を遮らない位置に設ける必要がある。
【0023】
さらに、本願発明においては、図2及び図3に示すように、光透過窓8の密閉室1の外側面近傍を囲う囲い21を設ける。囲い21は、密閉室1にくぼむように設けられている。囲い21を設けることによって、囲い21に囲われた空気は、囲い21に囲われていない部分に存在する空気と混ざり難くなるため、ヒータ22を用いて囲い21に囲われた空気を加熱すると、当該部分の空気の温度が上昇し易くなり、また、温度が上昇して相対湿度が低くなった空気が、光透過窓8の密閉室1の外面側に滞留し易くなる。試料の交換時等に装置内の空気の流れに乱れが生じた場合でも光透過窓の密閉室1の外側面の空気の乱れを防止し、光透過窓8の密閉室1の外面側近傍の空気を低湿度に維持することができる。
【0024】
また、ヒータ22により加熱するだけでも良いが、望ましくは、透過窓8の密閉室1の外面側近傍に、温度センサ31を設けて、透過窓8の密閉室1の外面側近傍の空気を潮解性材料が潮解しない一定温度に保つように制御するとよい。このように、装置の使用時・不使用時を問わず、加熱状態を保ち続けることにより、潮解性材料を保護することが可能になる。
【0025】
図4、図5には本発明の変形実施例を示す。本実施例においては、囲い21の入口に丁番42により開閉可能なカバー41を設ける。カバー41と密閉室1の間にはパッキン32を設けて、カバー41を閉めた場合、カバー41と密閉室1を密着保持できるようにする。そして、装置使用時には、カバー41を開け、光透過窓8から射出された光を検出器10へ導きスペクトル分析を可能にする。一方、装置不使用時には、カバー41を閉じ、囲い21から外の空気と透過窓8が接触することを防ぐ。
【0026】
また、透過窓8の乾燥室1外側面近傍の空気と乾燥室1内の空気と接触させることを可能にするために、密閉室1に通過穴46を設ける。通過穴46の位置は、カバー41を閉じたときに、形成される透過窓8の密閉室1の外面側の密閉空間内であればいずれの位置であってもよい。また、丁番44により開閉可能なカバー43を通過穴46を覆うように設けて、通過穴46を塞ぐことを可能にする。カバー43と密閉室1の間にはパッキン32を設けて、カバー43を閉めた場合、カバー43と密閉室1を密着保持できるようにする。そして、装置使用時には、カバー43を閉め、乾燥室1内と外気の接触を断つが、装置不使用時には、カバー43を開け、透過窓8の乾燥室1外側面近傍の空気にも乾燥手段2により乾燥させられることにする。
【0027】
以上をまとめると、装置使用時には、図4に示すように、カバー41を開け、カバー43を閉める。そうすると、透過窓8を透過してくる光を検出器10へ導くことが可能になると共に、密閉室1内の乾燥状態を維持することができる。この場合、透過窓8が外気に暴露することになるが、透過窓8の乾燥室1外側面近傍の空気はヒータ22により乾燥させられるため、透過窓8は潮解しない。一方、装置不使用時は、図5に示すように、カバー41を閉め、カバー43を開ける。そうすることで、外気との接触を断ち、透過窓8の乾燥室1の外側面近傍の空気を密閉室1内と同様に乾燥手段2により乾燥させることができるため、ヒータ22の電源を切ったとしても、透過窓8が潮解しない。このようにして、不使用時はヒータ22の電源を落としても、潮解を防ぐことができるため、エネルギーの節約が可能になる。
【0028】
カバー41、43の開閉動作は、手動で行ってもよいが、装置の電源ON時と装置の電源OFF時等のタイミングをトリガーに、自動行うことが望ましい。その場合は、カバー41、43の開閉手段としてソレノイド等を用いて(図示しない)、電源OFF時にはカバー41を閉め、カバー43を開けるという動作を自動的に行い、電源ON時にはカバー41を開け、カバー43を閉めるという動作を自動的に行う。また、万全を期するためには、
光透過窓8の密閉室1の外側面近傍に湿度センサ45を設けて、電源ONにする際は、湿度センサ45によって、透過窓8の乾燥室1外側面近傍の空気の湿度は透過窓8が潮解しない湿度になったことを確認してから、カバー41を開けるとよい。
【符号の説明】
【0029】
1 密閉室
2 乾燥手段
3 赤外光源
4 移動鏡
5 固定鏡
6 ビームスプリッタ
7 光路
8 光透過窓
9 試料
10 検出器
11 対物面鏡
21 囲い
22 ヒータ
31 温度センサ
32 パッキン
33 押さえ板
41 カバー
42 丁番
43 カバー
44 丁番
45 湿度センサ
46 通過穴
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過窓の材料に潮解性を有する材料を用いた赤外分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外分光光度計には、ビームスプリッタ等の光学素子においてKBr(臭化カリウム)等の潮解性の材料(空気中の水分を吸収して溶解する性質を有する光学材料)が用いられている。潮解性の材料からなる光学素子が一度でも高湿度に暴露されれば表面が潮解して回復不可能なダメージを受け、その結果として装置が全く稼動しなくなる。したがって、この光学材料が潮解してしまうのを防ぐために、そのような光学素子を密閉室内に収容するとともに、その室内には水蒸気を除去することができるシリカゲル等の乾焼剤を内蔵し、低湿度に保つ方法が使用されてきた(例えば、特許文献1)。このように、赤外分光光度計においては、ビームスプリッタに潮解性材料を用いているため、乾燥室を設置する必要がある。
【0003】
上記の乾燥室中では、スペクトロ測定を行うために、赤外光源から射出された赤外光の干渉赤外光が生成され、生成された干渉赤外光は、光透過窓を通って密閉室から射出され、光路上に配置された試料を通過し、赤外光検出器へ集光される。このように、検出器や試料測定部は乾燥室外に設定されていることから、乾燥室内の光を外部へ導く必要がある。そのため、乾燥室には最低一箇所、外部へ光を透過する窓を設置する必要がある。この光透過窓の窓材としては、赤外分光分析に用いる波長範囲でフラットな透過率特性を有する材料としてKRS-5(臭沃化タリウム/ヨウ化タリウム)等がよく用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−108970
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、KRS-5は光透過率が低いため(約70%)、光量のロスが多く、また、毒性も強いことから窓材の部材として使用することは好ましくない。
【0006】
一方、窓材にKRS-5を使うことの代替として、例えば、KBrを窓材に使用することが考えられる。KBrは、赤外分光分析に用いる波長範囲でフラットな透過率特性を有し、光透過率も90%と高く、また、比較的安全な材料であるため、光透過窓の窓材として望ましい。
【0007】
しかし、光透過窓は、外部に光を導出する必要があることから、その位置は、乾燥室のカバーの外側に暴露する面に設けなければならない。そうすると、カバーの外側に暴露する面はどうしても外気に触れる可能性が残るため、窓材に潮解性のKBrを使用した場合、KBrが外気中の水分を吸収して溶解してしまう問題がある。また、KBrを用いた光透過窓に耐湿保護コーティングを施しても万全ということができないし、赤外分光光度計内には試料を出し入れする必要があるため、赤外分光光度計全体を完全密閉することもできない。
【0008】
そこで、本発明においては、赤外分光光度計内の乾燥室に設けられた光透過窓の窓材として、潮解性を有する材料を用い、かつ、前記潮解性材料からなる光透過窓が潮解しないような赤外分光光度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、乾燥手段及び赤外線光源が入れられた密閉室と、前記赤外光源から射出された赤外光を前記密閉室外部に導く役割を果す光透過窓とを備えた赤外分光光度計において、前記光透過窓は潮解性光学材料からなり、前記光透過窓の前記密閉室の外側面近傍の空気の温度を上昇させることができる加熱手段を、前記赤外光を遮らない位置に設けるとともに、前記光透過窓の前記密閉室の外側面近傍を囲う囲い部を備えたことを特徴とする赤外分光光度計である。
【0010】
前記課題を解決するためになされた第2の発明は、第1の発明において、前記光透過窓を前記密閉室外の空気と遮断することが可能なカバーAと、前記光透過窓の前記密閉室の外側面を前記密閉室内の空気と接触させるために設けられた通過穴と、前記通過穴を覆うことが可能なカバーBとを有することを特徴とする赤外分光光度計である。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明は、加熱手段により光透過窓の密閉室の外側面近傍の空気の温度を上昇させることで、当該空気の温度を通常の大気中の温度と比べて上昇させることができるため、当該空気の相対湿度を下げることができる。そして、潮解性光学材料を用いた光透過窓の潮解を防止することができる。また、光透過窓の密閉室の外側面近傍を囲う囲い部を設けることにより、加熱手段が光透過窓の密閉室の外側面近傍の空気の温度を上昇させ易くし、低湿度にし易くすると共に、試料の交換時等に装置内の空気の流れに乱れが生じた場合でも光透過窓の密閉室の外側面の空気の乱れを防止し、光透過窓の密閉室の外側面近傍を低湿度に維持することができる。このようにすれば、光透過窓に潮解性光学材料を用いることができるため、光透過窓の性能を向上させることが可能になる。
【0012】
第1の発明の場合、光透過窓の密閉室の外側面近傍の空気を低湿度に維持するためには、装置を使用しない時でも常に加熱状態を保ち続ける必要があるため、省エネの観点からは望ましくない。そこで、第2の発明は、装置を使用しない時には加熱を不要にすることができるものである。装置使用時には、カバーAを開いた状態にし、光透過窓から赤外光を透過可能な状態にする。また、カバーBは閉じた状態にし、光透過窓と密閉室内側の空気を遮断し、さらに加熱手段を起動する。このようにすれば、装置使用時には、光透過窓を通る光路上に、カバーAが存在しないため、装置の使用が可能になると共に、光透過窓の密閉室の外側面近傍の空気が加熱され低湿度になるため、光透過窓を潮解から保護できる。また、カバーBを閉め、密閉室内の低湿度を維持することが可能になる。
【0013】
一方、装置不使用時は、カバーAを閉じた状態にし、光透過窓を密閉室外側の空気と遮断すると共に、カバーBを開いた状態にし、光透過窓の密閉室の外側面と密閉室外側の空気を接触させ、さらに加熱手段を休止させる。不使用時には、加熱を停止しても、カバーAにより外気との接触を防止する。また、カバーBを開くことにより、光透過窓は、密閉室内の乾燥した空気と接触するため、密閉室内に設置されたのと同様の状態になり、光透過窓の密閉室の外側面近傍の空気を低湿度に保つことが可能になる。以上のようにして、装置を使用しない時には加熱手段による加熱を停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例である赤外分光光度計の干渉計部分を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施例である赤外分光光度計の光透過窓周辺の拡大図である。
【図3】本発明の実施例である赤外分光光度計の光透過窓周辺の三次元図である。
【図4】本発明の変形実施例である赤外分光光度計の測定時における光透過窓周辺の拡大図である。
【図5】本発明の変形実施例である赤外分光光度計の休止時における光透過窓周辺の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明の一実施例である赤外分光光度計の干渉計部分を概略的に表した構成図を示す。図1において、干渉計は密閉室1に設置されており、密閉室1内には、乾燥手段2、赤外光源3、移動鏡4、固定鏡5、ビームスプリッタ6が設けられている。
【0016】
赤外光源3から射出された赤外光は、ビームスプリッタ6に照射され、ビームスプリッタ6において移動鏡4と固定鏡5の二方向に分割される。そして、移動鏡4、固定鏡5で反射した光は、ビームスプリッタ6で再び合一され、対物面鏡11へ向かう光路7に送られる。このとき、移動鏡5は前後に往復移動しているため、合一された光は時間的に振幅が変動する干渉光となる。
【0017】
ビームスプリッタ6には、潮解性を有する光学材料であるKBr等が用いられる。KBrは高湿度に暴露されると表面が潮解して回復不可能なダメージを受け、その役割を果たせなくなるため、乾燥手段2が密閉室1内に設けられている。
【0018】
ここで、乾燥手段2には、例えば、シリカゲル等の乾燥剤やペルチェ素子を利用した乾燥機を用いること等が考えられるが、本発明においては、密閉室内を乾燥させることができる手段であれば、いかなる手段を用いて密閉室内を乾燥させても構わない。
【0019】
そして、光路7へ送られた干渉光は、光透過窓8を透過して、密閉室1内から外部へ出てき、対物面鏡11にて集光され、試料9を通過し、検出器10へ送られスペクトロ分析が行われる。光透過窓8は、パッキン32を介して押さえ板33によりネジ(図示しない)止めされ、密閉室1と密着保持される。
【0020】
本発明においては、光透過窓8の材料として、例えばKBrを用いる。光透過窓8は、赤外分析に用いる波長範囲においてフラットな透過率特性を有し、かつ、透過率が高いものが、光量のロスがなく望ましい。KBrは、赤外分析に用いる波長範囲においてフラットな透過率特性を有し、かつ、透過率も90%と高く、光透過窓8の材料として望ましい。しかし、KBrは潮解性を有するため、湿度が高い状況では使用することができないことから、光透過窓8の密閉室1の外側面近傍の空気を乾燥させる必要がある。なお、本発明における光透過窓8の材料は、赤外分光分析に用いる波長範囲でフラットな透過率特性を有し、潮解性があれば、限定されない。例えば、CsIや、NaClであってもよい。
【0021】
光透過窓8が空気と接触する面は、密閉室1内側面と外側面とがあるが、密閉室1内側面については、乾燥手段2が設けられ、密閉されているため、湿度は低く保たれている。
【0022】
一方、光透過窓8の密閉室1の外側面近傍の空気は、光透過窓8の密閉室1の外側面近傍にヒータ22を設けて、当該部分の空気の温度を上昇させる。KBrの潮解湿度は、相体湿度は約60%であるため、例えば、外気温30℃で、相対湿度が80%の場合は、潮解してしまう。しかし、ヒータ22を用いて、例えば、同じ水分量で気温のみを45度へ上昇させると相対湿度が約35%になるため、KBrの潮解湿度を下回る。このようにして、ヒータ22を用いることによって、光透過窓8の密閉室1の外面側近傍の空気の相対湿度を減少させ、KBrからなる光透過窓8の潮解を防ぐことが可能になる。ヒータ22の位置は、光透過窓8の密閉室1の外側面近傍の空気を加熱できる位置にあればよく、例えば、光透過窓8自体を加熱できるような位置にヒータ22を配置しても構わないが、赤外光を遮らない位置に設ける必要がある。
【0023】
さらに、本願発明においては、図2及び図3に示すように、光透過窓8の密閉室1の外側面近傍を囲う囲い21を設ける。囲い21は、密閉室1にくぼむように設けられている。囲い21を設けることによって、囲い21に囲われた空気は、囲い21に囲われていない部分に存在する空気と混ざり難くなるため、ヒータ22を用いて囲い21に囲われた空気を加熱すると、当該部分の空気の温度が上昇し易くなり、また、温度が上昇して相対湿度が低くなった空気が、光透過窓8の密閉室1の外面側に滞留し易くなる。試料の交換時等に装置内の空気の流れに乱れが生じた場合でも光透過窓の密閉室1の外側面の空気の乱れを防止し、光透過窓8の密閉室1の外面側近傍の空気を低湿度に維持することができる。
【0024】
また、ヒータ22により加熱するだけでも良いが、望ましくは、透過窓8の密閉室1の外面側近傍に、温度センサ31を設けて、透過窓8の密閉室1の外面側近傍の空気を潮解性材料が潮解しない一定温度に保つように制御するとよい。このように、装置の使用時・不使用時を問わず、加熱状態を保ち続けることにより、潮解性材料を保護することが可能になる。
【0025】
図4、図5には本発明の変形実施例を示す。本実施例においては、囲い21の入口に丁番42により開閉可能なカバー41を設ける。カバー41と密閉室1の間にはパッキン32を設けて、カバー41を閉めた場合、カバー41と密閉室1を密着保持できるようにする。そして、装置使用時には、カバー41を開け、光透過窓8から射出された光を検出器10へ導きスペクトル分析を可能にする。一方、装置不使用時には、カバー41を閉じ、囲い21から外の空気と透過窓8が接触することを防ぐ。
【0026】
また、透過窓8の乾燥室1外側面近傍の空気と乾燥室1内の空気と接触させることを可能にするために、密閉室1に通過穴46を設ける。通過穴46の位置は、カバー41を閉じたときに、形成される透過窓8の密閉室1の外面側の密閉空間内であればいずれの位置であってもよい。また、丁番44により開閉可能なカバー43を通過穴46を覆うように設けて、通過穴46を塞ぐことを可能にする。カバー43と密閉室1の間にはパッキン32を設けて、カバー43を閉めた場合、カバー43と密閉室1を密着保持できるようにする。そして、装置使用時には、カバー43を閉め、乾燥室1内と外気の接触を断つが、装置不使用時には、カバー43を開け、透過窓8の乾燥室1外側面近傍の空気にも乾燥手段2により乾燥させられることにする。
【0027】
以上をまとめると、装置使用時には、図4に示すように、カバー41を開け、カバー43を閉める。そうすると、透過窓8を透過してくる光を検出器10へ導くことが可能になると共に、密閉室1内の乾燥状態を維持することができる。この場合、透過窓8が外気に暴露することになるが、透過窓8の乾燥室1外側面近傍の空気はヒータ22により乾燥させられるため、透過窓8は潮解しない。一方、装置不使用時は、図5に示すように、カバー41を閉め、カバー43を開ける。そうすることで、外気との接触を断ち、透過窓8の乾燥室1の外側面近傍の空気を密閉室1内と同様に乾燥手段2により乾燥させることができるため、ヒータ22の電源を切ったとしても、透過窓8が潮解しない。このようにして、不使用時はヒータ22の電源を落としても、潮解を防ぐことができるため、エネルギーの節約が可能になる。
【0028】
カバー41、43の開閉動作は、手動で行ってもよいが、装置の電源ON時と装置の電源OFF時等のタイミングをトリガーに、自動行うことが望ましい。その場合は、カバー41、43の開閉手段としてソレノイド等を用いて(図示しない)、電源OFF時にはカバー41を閉め、カバー43を開けるという動作を自動的に行い、電源ON時にはカバー41を開け、カバー43を閉めるという動作を自動的に行う。また、万全を期するためには、
光透過窓8の密閉室1の外側面近傍に湿度センサ45を設けて、電源ONにする際は、湿度センサ45によって、透過窓8の乾燥室1外側面近傍の空気の湿度は透過窓8が潮解しない湿度になったことを確認してから、カバー41を開けるとよい。
【符号の説明】
【0029】
1 密閉室
2 乾燥手段
3 赤外光源
4 移動鏡
5 固定鏡
6 ビームスプリッタ
7 光路
8 光透過窓
9 試料
10 検出器
11 対物面鏡
21 囲い
22 ヒータ
31 温度センサ
32 パッキン
33 押さえ板
41 カバー
42 丁番
43 カバー
44 丁番
45 湿度センサ
46 通過穴
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥手段及び赤外線光源が入れられた密閉室と、前記赤外光源から射出された赤外光を前記密閉室外部に導く役割を果す光透過窓とを備えた赤外分光光度計において、
前記光透過窓は潮解性光学材料からなり、
前記光透過窓の前記密閉室の外側面近傍の空気の温度を上昇させることができる加熱手段を、前記赤外光を遮らない位置に設けるとともに、
前記光透過窓の前記密閉室の外側面近傍を囲う囲い部を備えたことを特徴とする赤外分光光度計。
【請求項2】
前記光透過窓を前記密閉室外の空気と遮断することが可能なカバーAと、
前記光透過窓の前記密閉室の外側面を前記密閉室内の空気と接触させるために設けられた通過穴と、
前記通過穴を覆うことが可能なカバーBとを有することを特徴とする請求項1に記載された赤外分光光度計。
【請求項1】
乾燥手段及び赤外線光源が入れられた密閉室と、前記赤外光源から射出された赤外光を前記密閉室外部に導く役割を果す光透過窓とを備えた赤外分光光度計において、
前記光透過窓は潮解性光学材料からなり、
前記光透過窓の前記密閉室の外側面近傍の空気の温度を上昇させることができる加熱手段を、前記赤外光を遮らない位置に設けるとともに、
前記光透過窓の前記密閉室の外側面近傍を囲う囲い部を備えたことを特徴とする赤外分光光度計。
【請求項2】
前記光透過窓を前記密閉室外の空気と遮断することが可能なカバーAと、
前記光透過窓の前記密閉室の外側面を前記密閉室内の空気と接触させるために設けられた通過穴と、
前記通過穴を覆うことが可能なカバーBとを有することを特徴とする請求項1に記載された赤外分光光度計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2010−237168(P2010−237168A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87929(P2009−87929)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
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