説明

赤外線イメージングビデオボロメーター、赤外線イメージングビデオボロメーター用金属薄膜体、及び赤外線イメージングビデオボロメーター用フレーム部材

【課題】
感度を向上することができる赤外線イメージングビデオボロメーター、金属薄膜体及びフレーム部材を提供する。
【解決手段】
赤外線イメージングビデオボロメーターの金属薄膜体40は、第1金属薄膜41熱絶縁層)と、第1金属薄膜41上に積層されるとともに互いにギャップGを介して配置された複数の第2金属薄膜42(輻射吸収層)とを含むように構成されている。フレーム部材は金属薄膜体40が熱伝導物質からなる前面フレームと裏面フレームにより挟まれた状態で光シールドチューブに対して取付けされ、各フレームには金属薄膜体40のサイズよりわずかに小さな1つの窓が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線イメージングビデオボロメーター、赤外線イメージングビデオボロメーター用金属薄膜体、及び赤外線イメージングビデオボロメーター用フレーム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線イメージングボロメーターは、入射エネルギーのボロメーター計測を目的としており、その測定領域は可視、紫外、極端紫外及び、高エネルギー粒子束を含む広い波長領域が想定されている。例えば、核融合プラズマ実験においては、このような輻射エネルギー束は非常に重要な測定対象である。
【0003】
赤外線イメージングボロメーター(以下、IRIBという)の基本原理は次の通りである。まず、輻射や粒子のエネルギーを金属薄膜で吸収し、その金属薄膜の温度上昇をIR検出器により非接触で計測する。そして、得られた薄膜の温度上昇から入射パワーを計算する。
【0004】
IRIBは金属薄膜の温度変化からプラズマ放射光量を測定する検出器として生み出された(非特許文献1、非特許文献2)。薄膜の温度変化の測定のためにIRカメラを用いる方法は、動作中の薄膜温度、波長、SN比の関係について述べた非特許文献3で最初に提案されている。又、吸収材の温度上昇を投影するために2次元に分割されたマトリクスを利用した2次元のIRIBの概念は、非特許文献4により開示されている。
【0005】
そして、非特許文献5,特許文献1によりこの金属薄膜の2次元アレイへの進展がさらになされて、設計、組立、及び実験テストが行われ、IRIBとして認知されている(非特許文献6)。
【0006】
他の多くのボロメータ検出器と同様にIRIBにも以下のような性能基準がある。
(1)波長一様性、すなわち、入射した輻射パワーに対して、その種類(波長)によらない反応性を持つこと。
【0007】
(2)感度、すなわち、可能な限り小さな入射パワーに対して良好な感度を持つこと。
(3)早い時間応答性を持つこと。
(4)良好な空間分解能を有すること、すなわち、検出領域の最小化ができること。
【0008】
(5)検出器間でのクロストークがないこと。
最初に実現された多チャンネルIRIB100については、特許文献1に開示されている。ここでは、図11(a)に示すようにフレーム部材110は、2次元アレイ状に複数の孔101を開けてホールパターンが設けられた2枚の同一形状の金属マスク102間で薄膜103を挟み、両金属マスク102の孔101から前記薄膜103の両面をそれぞれ露出させている。そして、図11(b)に示すように、フレーム部材110の片面は、ピンホール112又はスリットを介してプラズマに面している。一方、IRカメラ120は、表面を黒化されたフレーム部材110の裏面を観測し、薄膜103表面から入射した放射により生じた各ピクセルの温度上昇を観測する。金属マスク102は、各ピクセルに対するヒートシンクの役割を果たし、サイズや厚さ、熱伝導特性により各ピクセルの係数(すなわち、感度)Kと熱拡散時間τが決定される。薄膜103の厚みtfは想定される最高エネルギー光子を吸収できるように決定される。薄膜103の直径は、各ピクセルの熱拡散時間τがカメラのフレーム間隔Δtに合うように決定される。
【0009】
ピクセルの直径dpix とのその熱拡散時間τとの関係は(1)式によって与えられる。
【0010】
【数1】

(1)式中、κは薄膜の金属特性による熱拡散係数である。
【0011】
なお、仮に、熱拡散時間τの値が大きすぎる場合は、測定時間間隔が十分ではなく、次回の測定前に前回吸収された熱量が基準値までに低下しない問題が生ずるが、反対に熱拡散時間τの値が小さすぎれば熱拡散は急速に起こりすぎることになる。
【0012】
又、IRIBの空間分解能はピンホールとカメラの幾何学的配置によって決定される。
各ピクセルは、出力パワーが既知で、ある周波数でチョッパーされたHe−Neレーザ光を黒化された薄膜面へ入射し、熱拡散時間τと熱拡散係数κの値を得ることで信号較正ができる。各ピクセルへの放射光のパワーは(2)式で与えられる。
【0013】
【数2】

(2)式中、Tは、抵抗型金属フイルムボロメーターの場合と同じように、マスクの温度を考慮した金属薄膜の温度である。Kは、K=τ/Cであり、Cは金属薄膜の熱容量である。
【0014】
上記のような従来のボロメーターにおいては、様々な問題がセグメントに分離されたマトリクス状のマスクから生じる。第一の問題は、金属マスクに凹みがあるとピクセル端部で金属マスクと金属薄膜の接触が十分でなく、マスクがヒートシンクの役割を果たさずに、隣接するピクセル間で熱がクロストークのように本来信号のないピクセルにマスクを越えて漏れ出すことである。第二の問題は、マスクが厚みを持つため、ピクセル端部の一部分がマスクの縁の部分の影となることである。第三の問題は上記の影から発生するが、黒化させるために使用している炭素スプレーを金属薄膜上に吹き付ける際、金属薄膜とその上の銅マスクの表面が同一面でないために、スプレーによるカーボン膜が均一にならないことである。
【0015】
加えて、多数のピクセルがセグメントに分離されているマスクによって固定され、マスクを覆う金属薄膜の一部がマスクの影となって使用できない構造になるので、空間分解能が低下することである。
【0016】
次に、非特許文献7、及び非特許文献8に開示された赤外線イメージングビデオボロメーター(以下、IRVBという)が提案されている。この内容は、特許文献2により既に特許となっている。IRVBは、IRIBからピクセルを分離するマスクを取り除き、図12に示すように大きな金属薄膜202を保持するための銅のフレーム200を使用するように改良が加えられたものである。特許文献2のIRVBでは、従来のIRIBよりも検出可能面積が約60%増え、空間分解能を約25%上げることができた。上記で述べたマスク上の凹部分の問題は、銅のフレーム200とフレーム200のエッジ近くでネジ(図示しない)によって確固に固定し、銅フレームを金属薄膜と密に接触させることによって解消され、インジウム・ガスケットの使用によりさらなる改良が可能である。
【0017】
又、IRIBにおける銅マスクによる金属薄膜への影も防ぐことができる。さらに、IRVBは感度を信号強度に適応させるために、実験の状況によりボロメーターピクセルのサイズや数を変えられるという実験上の柔軟性を備えている。加えて、IRIBのイメージが分割されたものであるのに対し、IRVBではプラズマ放射光のフルビデオイメージが得られるという特徴がある。
【非特許文献1】TFR Group(presented by A. L. Pecquet), Journal of Nuclear Materials, 93-94, 377(1980)
【非特許文献2】J. C. Ingraham and G. Miller, Rev. Sci. Instrum. 54, 673(1983)
【非特許文献3】G. Apruzzese and G. Tonini,Rev. Sci. Instrum. 61, 2976(1990)
【非特許文献4】G. A. Wurden,in Diagnostics for Experimental Thermonuclear Fusion Reactors, edited by P.E. Stott et al,(Plenum,New York,1996),pp,603-606.
【非特許文献5】G. A. Wurden,B.J.Peterson and Sudo, Rev.Sci.Instrum.68,766(1997).
【非特許文献6】G. A. Wurden, and B.J.Peterson, Rev.Sci.Instrum.70,255(1999).
【非特許文献7】B.J.Peterson, Rev.Sci.Instrum.71,3696(2000).
【非特許文献8】B.J.Peterson, Rev.Sci.Instrum.74,2040(2003).
【特許文献1】米国特許第5861625号明細書
【特許文献2】特許第3390913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、従来のIRVBでは、下記の問題があることが分かった。第一には、入射パワーが局所的なボロメーターピクセルの温度のみの単純な関数になっておらず、温度拡散を考慮する必要がある。この温度拡散は隣接するピクセルとの温度差から計算される。しかし、入射パワーによる温度上昇に比べ、隣接するピクセルとの温度差は小さい。このため、入射パワーの計算の際に近い値どうしの引き算が含まれ誤差の要因となる。この結果、感度が低下する問題がある。
【0019】
第二には、金属薄膜が銅フレームに固定されているため、入射パワーの多くがフレームを通して損失してしまう。このため、入射パワーのうち薄膜の温度上昇に費やされない部分が多くなる。又、高エネルギーの光子を吸収するために金属薄膜は十分な厚さ(10ミクロン程度)が必要であるが、薄膜を厚くすると熱伝導による損失が増大する。これによってもIRVBの感度が低下する。
【0020】
本発明の第1の目的は、感度を向上することができる赤外線イメージングビデオボロメーターを提供することにある。又、本発明の第2の目的は、感度を向上することができる赤外線イメージングビデオボロメーターに使用される金属薄膜体を提供することにある。又、本発明の第3の目的は、感度を向上することができる赤外線イメージングビデオボロメーターに使用されるフレーム部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、プラズマが閉じ込められる真空容器に取り付けられ、プラズマからの光反射を避けるために黒化された光シールドチューブと、前記光シールドチューブの端面に設けられ、前記真空容器に取り付けられた赤外線真空窓と、前記赤外線真空窓とは反対側の前記光シールドチューブの端面に設けられるとともに、プラズマからの光を取り入れるピンホール或いはスリットを有しているプレートと、前記プレートに平行になるように前記光シールドチューブ内に取り付けられた金属薄膜体と、前記赤外線真空窓を介して前記薄膜体を眺める赤外線ビデオカメラと、を有する赤外線イメージングボロメータにおいて、前記金属薄膜体は、熱絶縁層と、前記熱絶縁層上に積層されるとともに互いにギャップを介して配置された複数の輻射吸収層とを含むことを特徴とする赤外線イメージングビデオボロメーターを要旨とするものである。
【0022】
請求項2の発明は、請求項1において、前記熱絶縁層において、前記輻射吸収層が積層された領域が、前記ギャップが設けられた熱絶縁層の領域よりも薄くされていることを特徴とする。
【0023】
請求項3の発明は、請求項1において、前記熱絶縁層において、前記輻射吸収層が積層された領域が除去されて、前記輻射吸収層の一部が露出されていることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項において、前記金属薄膜体が、熱伝導物質からなる2つのフレームにより挟まれた状態で前記光シールドチューブに対して取付けされ、前記各フレームには前記金属薄膜体のサイズよりわずかに小さな1つの窓が設けられていて、前記金属薄膜体が前記窓を覆うようにプラズマ側と赤外線カメラ側に露出するように保持されていて、前記金属薄膜体と前記2つのフレームによりフレーム部材が構成されていることを特徴とする。
【0024】
請求項5の発明は、熱絶縁層と、前記熱絶縁層上に積層されるとともに互いにギャップを介して配置された複数の輻射吸収層とを含むことを特徴とする赤外線イメージングビデオボロメーター用金属薄膜体を要旨とするものである。
【0025】
請求項6の発明は、請求項4において、前記熱絶縁層において、前記輻射吸収層が積層された領域が、前記ギャップが設けられた熱絶縁層の領域よりも薄くされていることを特徴とする。
【0026】
請求項7の発明は、請求項5において、前記熱絶縁層において、前記輻射吸収層が積層された領域が除去されて、前記輻射吸収層の一部が露出されていることを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の金属薄膜体と、熱伝導物質からなる2つのフレームであって、各フレームには、前記金属薄膜体のサイズよりわずかに小さな1つの窓が設けられていて、前記金属薄膜体が前記窓を覆うように前記フレームに挟まれて、プラズマ側と赤外線カメラ側に露出するように保持されているフレームと、を備えたことを特徴とする赤外線イメージングビデオボロメーター用フレーム部材を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0027】
請求項1乃至請求項4の発明によれば、光子を吸収することにより生じた輻射吸収層での熱の移動は、熱絶縁層により抑制されるため、IRVBの感度を向上することができる。
【0028】
請求項5乃至請求項7の発明は、IRVBの感度を向上することができる赤外線イメージングビデオボロメーターに使用される金属薄膜体を提供することができる。
請求項8の発明は、感度を向上することができる赤外線イメージングビデオボロメーターに使用されるフレーム部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を具体化した赤外線イメージングビデオボロメーターを図1〜10を参照して説明する。
図1に示すように赤外線イメージングビデオボロメーター(IRVB)10は、プラズマを閉じ込める真空容器1に設けられている。真空容器1には赤外線イメージングビデオボロメーター10の光シールドチューブ3の端部が取り付けられている。光シールドチューブ3の内面は、プラズマからの光反射を避けるために炭素のスプレイにより黒化されている。前記光シールドチューブ3において、前記端部端面には赤外線真空窓5が設けられている。赤外線真空窓5とは反対側の光シールドチューブ3の端面にはプレート7が設けられている。プレート7には、ピンホール或いはスリット9が形成されており、ピンホール或いはスリット9を介してプラズマからの光を光シールドチューブ3に取り入れている。
【0030】
又、光シールドチューブ3内には、前記プレート7に平行となるようにフレーム部材(マスク)11が設けられ、プレート7から離隔して配置されている。このフレーム部材11には図2に示すように金属薄膜体40が設けられている。又、真空容器1の外部には前記赤外線真空窓5に近接して赤外線ビデオカメラ13が設けられ、同赤外線ビデオカメラ13により赤外線真空窓5を介してフレーム部材11の薄膜を眺めることができるようになっている。
【0031】
次に、IRVBの金属薄膜体40を含むフレーム部材11の構成を図3、図4を参照して説明する。
図3に示すようにフレーム21は、前面フレーム21aと裏面フレーム21bの2つの円形をなすフレームからなり、下記のような孔を持つ熱伝導物質としての無酸化銅で作られていている。フレーム21の材質は、無酸化銅に限定されるものではなく、熱伝導性に優れた材質であるならば限定されるものではない。又、このフレーム21の中央部分には金属薄膜体40よりわずかに小さなサイズを有する四角い窓29が設けられている。なお、窓29の形状は、四角に限定されるものではなく、金属薄膜体40の外形形状に応じた形状であればよく、金属薄膜体40が例えば円形状であれば、わずかに小さなサイズて円形等の他の形状であってもよい。
【0032】
又、前面フレーム21aと裏面フレーム21bには、軽いシールドのフレーム21を取り付けるためにエッジに沿って4つの孔、即ち組立ボルト用ホール23が等間隔に配置されている。
【0033】
さらに、ボルトを固く締めるために前面フレーム21aと裏面フレーム21bの上下左右各辺には4つの固定ボルト用ホール25が開けられている。この結果、後述する金属薄膜体40が固定され、金属薄膜体40とフレーム21間に十分な熱的接触がもたらされる。
【0034】
さらに前面フレーム21aと裏面フレーム21bには、空気の通り抜けができるように、図3、図4に示すようなベントホール31が作成され、ベントホール31により金属薄膜体40の両側で空気圧が異ならないようにされている。
【0035】
ベントホール31は、ベントホール(孔)31から直接光が通過せず、どちらの面から見てもベントホール31を介して他方を見ることのできないよう、その構造は断面から見ると図4に示すようにクランク型となっている。
【0036】
前記組立ボルト用ホール23、固定ボルト用ホール25には、ステンレス・スチールからなる図示しないボルトがステンレス・スチールからなるワッシャーを介して貫通して取着され、図示しないナットと協働して、前面フレーム21aと裏面フレーム21bの間に金属薄膜体40を挟み込みして固定する。
【0037】
図5(a)、(b)に示すように金属薄膜体40は熱絶縁層を構成する第1金属薄膜41と、第1金属薄膜41上に積層された輻射吸収層を構成する複数の第2金属薄膜42とから構成されている。第1金属薄膜41は、窓29に張られるため高抗張力のものが好ましく、又、互いにギャップGを介して隣接する第2金属薄膜42間の熱の移動を抑制するため、第2金属薄膜42よりも低熱伝導の材質が好ましい。このため、第1金属薄膜41としては、例えば、ステンレス鋼や、或いはチタン等のように高抗張力性を有し、低熱伝導性を有するものから選択される。
【0038】
又、第1金属薄膜41の膜厚は、1〜10μmが好ましいが、この範囲に限定されるものてはない。
複数の第2金属薄膜42は、図2、及び図5(a)に示すようにマトリクス状に配置され、互いにギャップを介して離間している。第2金属薄膜42は、プラズマからの光子を吸収することにより、赤外線を発生する金属であればよく、この材質としては光子減衰係数(a photon attenuation coefficient)が高い、例えばAu(金)、Pt(白金)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Hf(ハフニウム)、Pb(鉛)を挙げることができる。
【0039】
又、第2金属薄膜42は、膜厚が異なると吸収可能な光子のエネルギー領域が異なるため、測定したいエネルギー領域をもった測定対象(光子)に応じた膜厚を用意することにより、入射する輻射や粒子エネルギーの分別が可能である。
【0040】
又、第2金属薄膜42のブロックの形状は、平面視した時に正方形でもよく、或いは長方形でもよく、又、さらに他の形状であってもよく、形状が限定されるものではない。第2金属薄膜42は、図5(a)、(b)に示すように互いにギャップGを介して離間して配置されている。第2金属薄膜42のギャップGは、フォトレジストにより後に第2金属薄膜42となる領域をマスクした状態で、マスクされなかった領域をドライエッチングで除去することにより形成することができる。
【0041】
なお、図5(a)、(b)で示す第2金属薄膜42を積層する第1金属薄膜41では、第1金属薄膜41全体が同じ膜厚で形成されているが、この構成に限定されるものではない。図6に示すように、第2金属薄膜42を積層する第1金属薄膜41の一部の領域を除去してもよい。たとえば、図6に示す例では、第1金属薄膜41と第2金属薄膜42とのオーバーラッピング領域OVを残して、第2金属薄膜42よりも小さいサイズの露出窓41aが形成されて第2金属薄膜42のプラズマ側の面が露出するようにされている。
【0042】
なお、第2金属薄膜42のプラズマ側の面を露出する場合には、例えばイオンビームエッチングにより第1金属薄膜41を削って露出窓41aを形成する。
赤外線ビデオカメラ13側の金属薄膜体40とフレーム21は、金属薄膜体40の放射率を高くするために炭素スプレーで黒く塗装され、感度が改善されている。なお、金属薄膜体40とフレーム21間には図示しないインジウム・ガスケットが介在して配置され、金属薄膜体40とフレーム21の熱的接触を改善するために使用されている。
【0043】
(作用)
次に、上記のように構成された第2金属薄膜42での温度分布について説明する。
第2金属薄膜42(以下では、吸収ブロックともいう)の温度分布は、有限要素法により入射パワーの関数として計算することができる。
【0044】
この場合、薄膜要素の要素サイズLは、吸収ブロック自体の大きさに対して十分に小さく選び、又、時間ステップΔtは、吸収ブロックの応答時間より十分小さくする。このように設定されることにより、有限要素法によって個々の薄膜要素の温度上昇は以下の式(3)で与えられる。
【0045】
【数3】

上記のようにして個々の薄膜要素の温度上昇について得られることから、ここで、放射フラックスが入射し始める時刻(t=0)での温度を300K(すなわち、Tx,y=300K)と仮定し、t=1000ms後における吸収ブロックの温度分布の計算結果を図7に示す。
【0046】
図7において、z軸は温度(単位K)、x,y軸は要素番号であり、各薄膜要素のサイズは0.525mmとしている。又、この場合、金属薄膜体40の構成は、第1金属薄膜41を膜厚1μmのステンレス鋼とし、露出窓41aのサイズを4.2 mm×4.2mmとし、吸収ブロック(第2金属薄膜42)のサイズを2.5μm×6.3mm×6.3mmとし、ギャップGを1.05mmとした。又、Prad(入射する輻射パワー)を3mW/cm2とした。
【0047】
図7に示すように、吸収ブロックの温度上昇に比べて、吸収ブロック中における領域での温度変化が小さいことが分かる。従って、吸収ブロックは熱的に絶縁されており、一様な温度分布を持つと考えることができる。
【0048】
なお、ボロメータでの較正を行うためには、IRIBと同様に、入射パワーが既知で任意の広がりを持つ輻射の下で、吸収ブロックの温度の時間反応を計測すればよい。
なお、式(2)を用いて、入射パワーを近似することができる。係数Kと熱拡散時間τは数学的な手法により、フィッティングから求めることができる。このフィッティングについて説明する。
【0049】
図10に示すように、金属薄膜に対して既知のパワーPlaserでレーザをチョッパーで照射して、同レーザの照射により同金属薄膜の温度変化を測定する。レーザ照射によって、金属薄膜の温度が上昇して飽和時の温度を最大温度Tmaxとし、一方、レーザ照射を停止した状態で金属薄膜の温度が下降した際、飽和時の温度を最低温度Trefとする。なお、Trefは金属薄膜の周囲の雰囲気温度である。
【0050】
このとき、
K=Tmax/Plaser
であり、又、
T−Tref=Tmax(1−e-t/τ
であることから、上記の2つの式で、係数Kと熱拡散時間τとを求めることができる。
【0051】
次に、本実施形態の変換効率を図8を参照して説明する。
図8には、入射した輻射エネルギーの分配が示されており、実線は入射エネルギーを示し、点線は赤外線放射を示し、一点鎖線は熱伝導損失を示している。図8中、y軸はエネルギー比率(%)を示し、x軸は要素番号を示している。実施形態における薄膜要素のサイズは0.525mmである。
【0052】
金属薄膜体40の構成は、図6に示す構成である。具体的には第1金属薄膜41を膜厚1μmのステンレス鋼とし、露出窓41aのサイズを4.2 mm×4.2mmとし、吸収ブロック(第2金属薄膜42)のサイズを2.5μm×6.3mm×6.3mmとし、ギャップGを1.05mmとした。又、Prad(入射する輻射パワー)を3mW/cm2とした。
【0053】
図9は、比較例における入射した輻射エネルギーの分配が示されており、実線は入射エネルギーを示し、点線は赤外線放射を示し、一点鎖線は熱伝導損失を示している。図9中、y軸はエネルギー比率(%)を示し、x軸は要素番号を示している。比較例における薄膜要素のサイズは0.525mmである。
【0054】
又、図9での金属薄膜体は、従来(すなわち、特許文献2)の一層の金属薄膜で構成したものである。具体的には、金属薄膜を膜厚2.5μmのAu(金)で構成したものである。又、Prad(入射する輻射パワー)を3mW/cm2とした。
【0055】
本実施形態の場合は、図8に示すように入射パワーの35%〜45%が赤外線放射に変換され、65%〜55%が熱伝導により失われている。
一方、これまでのIRVBでは、図9に示すようにわずかに1%〜1.5%が赤外線放射に変換され、98.5%〜99%が熱伝導により失われている。
【0056】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 本実施形態の赤外線イメージングビデオボロメーター10では、金属薄膜体40は、第1金属薄膜41(熱絶縁層)と、第1金属薄膜41上に積層されるとともに互いにギャップGを介して配置された複数の第2金属薄膜42(輻射吸収層)とを含むように構成されている。
【0057】
このように複数の第2金属薄膜42が互いに離間して配置されるとともに、第1金属薄膜41が第2金属薄膜42よりも熱伝導が小さいため、ブロック間の熱伝導を特許文献2の技術よりも1/20〜1/100に低減することが可能である。
【0058】
本実施形態によれば、赤外線として放射されるエネルギーに対して、熱伝導による損失を非常に小さくすることができ、この結果、IRVBの感度を向上することができる。
(2) 本実施形態の図6に示す構成では、第1金属薄膜41(熱絶縁層)において、第2金属薄膜42(輻射吸収層)が積層された領域の一部が除去されて、第2金属薄膜42(輻射吸収層)の一部が露出されている。
【0059】
この結果、第2金属薄膜42(輻射吸収層)の入射した輻射パワーによる温度上昇の時間スケールは、第1金属薄膜41(熱絶縁層)の熱容量の影響が少なくなり、第2金属薄膜42(輻射吸収層)の熱容量に依存することになる。
【0060】
一方、図5(b)で示す構成では、第2金属薄膜42(輻射吸収層)を積層している第1金属薄膜41(熱絶縁層)の熱容量との影響を受けて、入射した輻射パワーによる温度上昇の時間スケールは、第1金属薄膜41と第2金属薄膜42の熱容量の合計に依存することになる。
【0061】
従って、図6に示す構成の方が、入射した輻射パワーが同じの場合、同輻射パワーによる温度上昇を早くすることができ、早い時間応答性を持つことができる。
(3) 本実施形態のフレーム部材11では、前記金属薄膜体40が、熱伝導物質からなる前面フレーム21aと裏面フレーム21bにより挟まれた状態で光シールドチューブ3に対して取付けされ、各フレームには金属薄膜体40のサイズよりわずかに小さな1つの窓29が設けられている。そして、金属薄膜体40が窓29を覆うようにプラズマ側と赤外線カメラ側に露出するように保持されていて、金属薄膜体40と2つの前記フレームによりフレーム部材11が構成されている。このように構成されていることにより、上記(1)又は(2)の効果を有するIRVBを提供できる。
【0062】
(4) 本実施形態の赤外線イメージングビデオボロメーター用の金属薄膜体40では、第1金属薄膜41(熱絶縁層)と、第1金属薄膜41上に積層されるとともに互いにギャップGを介して配置された複数の第2金属薄膜42(輻射吸収層)とを含むように構成されている。
【0063】
この結果、IRVBの感度を向上することができる赤外線イメージングビデオボロメーターに使用される金属薄膜体を提供することができる。
(5) 本実施形態の赤外線イメージングビデオボロメーター用の金属薄膜体40では、第1金属薄膜41(熱絶縁層)において、第2金属薄膜42(輻射吸収層)が積層された領域が除去されて、第2金属薄膜42の一部が露出されているようにした。
【0064】
この結果、輻射パワーによる温度上昇を早くすることができ、早い時間応答性を持つ赤外線イメージングビデオボロメーターに使用される金属薄膜体を提供することができる。
(6) 本実施形態のフレーム部材11は、前記金属薄膜体40と、熱伝導物質からなる前面フレーム21a,裏面フレーム21bを備えている。そして、各フレームには、前記金属薄膜体40のサイズよりわずかに小さな1つの窓29が設けられていて、前記金属薄膜体40が前記窓29を覆うように前記フレームに挟まれて、プラズマ側と赤外線カメラ側に露出するように保持されているようにした。
【0065】
この結果、感度を向上することができる赤外線イメージングビデオボロメーターに使用されるフレーム部材を提供することができる。
(7) 従来のIRIBと比較した場合、本実施形態の二層からなる金属薄膜体は、下記1)〜3)の長所を有する。
【0066】
1)感度が5〜20倍高くなる。
2)ビクセルの一部が影になる、不十分な接触によりマスクがヒートシンクとして機能しない等の、マスク使用による不具合がなくなる。
【0067】
3) 空間分解能が最大25%高くなる。
(8) 又、従来のIRIB及びIRVBと比較した場合、本実施形態の二層からなる金属薄膜体は、下記1)及び2)の長所を有する。
【0068】
1) 50〜1000msの時間スケールにおいて、感度が3〜10倍高くなる。
2) 較正手続が簡便にできる。
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
【0069】
○ 前記実施形態の構成中、第1金属薄膜41(熱絶縁層)において、第2金属薄膜42を積層する領域の膜厚を第1金属薄膜41間にギャップGが設けられた領域の膜厚よりも薄く形成してもよい。このように構成しても、赤外線として放射されるエネルギーに対して、熱伝導による損失を非常に小さくすることができ、この結果、IRVBの感度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明を具体化した一実施形態のIRVBの全体構成を示す図。
【図2】本発明の一実施形態の赤外線イメージングボロメータのフレーム部材の斜視図。
【図3】同じく一実施形態の赤外線イメージングボロメータのフレームの分解した図。
【図4】同じく一実施形態の赤外線イメージングボロメータのフレームのベントホールの切り欠き断面図。
【図5】(a)は同じく金属薄膜体の斜視図、(b)は断面図。
【図6】他の実施形態の金属薄膜体の断面図。
【図7】吸収ブロックの温度分布を示す図。
【図8】本実施形態における入射した輻射エネルギーの分配を示す図。
【図9】比較例における入射した輻射エネルギーの分配を示す図。
【図10】レーザの照射と、金属薄膜の温度変化を示すグラフ。
【図11】(a)は従来のフレーム部材の分解斜視図、(b)は従来のIRIB100の概略斜視図。
【図12】他の従来のフレーム部材の正面図。
【符号の説明】
【0071】
1…真空容器、3…光シールドチューブ、5…赤外線真空窓、
7…プレート、9…ピンホール或いはスリット、
10…赤外線イメージングビデオボロメーター、11…フレーム部材、
13…赤外線ビデオカメラ、21…フレーム、21a…前面フレーム、
21b…裏面フレーム21b、29…窓、40…金属薄膜体、
41…第1金属薄膜(熱絶縁層)、42…第2金属薄膜(輻射吸収層)、
G…ギャップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマが閉じ込められる真空容器に取り付けられ、プラズマからの光反射を避けるために黒化された光シールドチューブと、
前記光シールドチューブの端面に設けられ、前記真空容器に取り付けられた赤外線真空窓と、
前記赤外線真空窓とは反対側の前記光シールドチューブの端面に設けられるとともに、プラズマからの光を取り入れるピンホール或いはスリットを有しているプレートと、
前記プレートに平行になるように前記光シールドチューブ内に取り付けられた金属薄膜体と、
前記赤外線真空窓を介して前記薄膜体を眺める赤外線ビデオカメラと、を有する赤外線イメージングボロメータにおいて、
前記金属薄膜体は、熱絶縁層と、前記熱絶縁層上に積層されるとともに互いにギャップを介して配置された複数の輻射吸収層とを含むことを特徴とする赤外線イメージングビデオボロメーター。
【請求項2】
前記熱絶縁層において、前記輻射吸収層が積層された領域が、前記ギャップが設けられた熱絶縁層の領域よりも薄くされていることを特徴とする請求項1に記載の赤外線イメージングビデオボロメーター。
【請求項3】
前記熱絶縁層において、前記輻射吸収層が積層された領域が除去されて、前記輻射吸収層の一部が露出されていることを特徴とする請求項1に記載の赤外線イメージングビデオボロメーター。
【請求項4】
前記金属薄膜体が、熱伝導物質からなる2つのフレームにより挟まれた状態で前記光シールドチューブに対して取付けされ、
前記各フレームには前記金属薄膜体のサイズよりわずかに小さな1つの窓が設けられていて、前記金属薄膜体が前記窓を覆うようにプラズマ側と赤外線カメラ側に露出するように保持されていて、前記金属薄膜体と前記2つのフレームによりフレーム部材が構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の赤外線イメージングビデオボロメーター。
【請求項5】
熱絶縁層と、前記熱絶縁層上に積層されるとともに互いにギャップを介して配置された複数の輻射吸収層とを含むことを特徴とする赤外線イメージングビデオボロメーター用金属薄膜体。
【請求項6】
前記熱絶縁層において、前記輻射吸収層が積層された領域が、前記ギャップが設けられた熱絶縁層の領域よりも薄くされていることを特徴とする請求項4に記載の赤外線イメージングビデオボロメーター用金属薄膜体。
【請求項7】
前記熱絶縁層において、前記輻射吸収層が積層された領域が除去されて、前記輻射吸収層の一部が露出されていることを特徴とする請求項5に記載の赤外線イメージングビデオボロメーター用金属薄膜体。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の金属薄膜体と、
熱伝導物質からなる2つのフレームであって、
各フレームには、前記金属薄膜体のサイズよりわずかに小さな1つの窓が設けられていて、前記金属薄膜体が前記窓を覆うように前記フレームに挟まれて、プラズマ側と赤外線カメラ側に露出するように保持されているフレームと、
を備えたことを特徴とする赤外線イメージングビデオボロメーター用フレーム部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−209216(P2008−209216A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45711(P2007−45711)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年12月5日 インターネットアドレス「http://www.nins.jp/」「http://www.nifs.ac.jp/index−j.html」「http://itc.nifs.ac.jp/index.html」に発表
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】