説明

赤外線反射材料及びその製造方法並びにそれを含有した塗料、樹脂組成物

【課題】十分な赤外線反射能を有し、熱安定性、耐熱性にも優れ、安全性、環境問題に懸念がない材料を提供する。
【解決手段】本発明の赤外線反射材料は、少なくともアルカリ土類金属元素と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素とを含み、必要に応じてマンガン及び/又は鉄の元素、アルミニウム、ガリウム等の周期表IIIa族の元素、亜鉛元素等を含むペロブスカイト型複合酸化物である。本発明の赤外線反射材料は、アルカリ土類金属化合物とチタン化合物と、更に必要に応じてマンガン化合物及び/又は鉄化合物、周期表IIIa族の化合物、亜鉛化合物等を所定量混合し、焼成するなどの方法で製造することができ、得られた複合酸化物は粉末状であるため塗料や樹脂組成物に配合して、種々の用途、例えば建築物の屋根や外壁に塗装したり、道路や歩道に塗装したりして、ヒートアイランド現象の緩和等に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型複合酸化物系赤外線反射材料及びその製造方法に関する。また、その赤外線反射材料を含有した塗料、樹脂組成物、更には、前記の塗料を用いた赤外線反射材に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線反射材料は、太陽光等に含まれる赤外線を反射する材料であって、アスファルトやコンクリート等で覆われた地表面、建築物等が吸収する赤外線量を減少させることができるため、ヒートアイランド現象の緩和や夏場の建築物の冷房効率のアップなどに利用されている。
赤外線反射材料としては例えば、黒色系材料としてCr、Cu−Cr複合酸化物、Fe−Cr複合酸化物、Co−Fe−Cr複合酸化物、Cu−Cr−Mn複合酸化物などのクロムを含有する化合物が知られている(特許文献1を参照)。また、Ca−Mn複合酸化物、Ba−Mn複合酸化物、更には二酸化チタン4重量%をドープしたBa−Mn複合酸化物等のアルカリ土類金属元素とマンガンの複合酸化物(特許文献2を参照)、Y−Mn複合酸化物等の希土類元素とマンガンの複合酸化物(特許文献3を参照)等のクロムを含有しない化合物も知られている。また、白色系材料として棒状酸化チタン(特許文献4を参照)等の化合物の開発も進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−72990号公報
【特許文献2】USP6416868
【特許文献3】特開2002−038048号公報
【特許文献4】特開2006−126468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
黒色系赤外線反射材料の多くは、Cu、Cr、Co等の重金属を含有しているが、このような重金属を含む材料の使用を控える傾向が強くなっている。特にCrの安全性への懸念から、Crを使用しない材料の開発が急務である。しかしながら、アルカリ土類金属元素とマンガンの複合酸化物は、アルカリ土類金属の水溶出量が多く、溶出に伴い赤外線反射能が低下するという問題がある。希土類元素とマンガンの複合酸化物は、高価な希土類元素を原料として使用するため高コストであるという問題点が指摘されている。また、白色系赤外線反射材料の一つである棒状酸化チタンでは赤外線領域の長波長側の反射率のより一層の改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは新規赤外線反射材料の開発を進めたところ、アルカリ土類金属元素と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素とを含むペロブスカイト型複合酸化物が優れた赤外線反射能を有することを見出した。また、この複合酸化物に更にマンガン元素及び/又は鉄元素を含有させた複合酸化物は十分な赤外線反射能を有する黒色系材料となることを見出した。更に、前記の二種の複合酸化物にアルミニウム、ガリウム等の周期表IIIa族の元素や亜鉛元素を含有させると一層優れた赤外線反射能を有することを見出した。
また、前記の赤外線反射材料はアルカリ土類金属化合物と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素の化合物とを混合し、焼成して製造することができること、更にマンガン元素及び/又は鉄元素あるいは周期表IIIa族の元素や亜鉛元素を含有させる場合は、アルカリ土類金属化合物と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素の化合物とを混合する際に、更にマンガン化合物及び/又は鉄化合物あるいは周期表IIIa族の元素の化合物や亜鉛化合物を混合し、焼成して製造することができることを見出した。このようにして得られたペロブスカイト型複合酸化物は粉末状であるため塗料や樹脂組成物に配合して、種々の用途に用いることができることなどを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、少なくともアルカリ土類金属元素と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素とを含むペロブスカイト型複合酸化物であることを特徴とする赤外線反射材料である。また、前記の複合酸化物に更にマンガン元素及び/又は鉄元素を含むペロブスカイト型複合酸化物であることを特徴とする赤外線反射材料である。更に、前記の二種の複合酸化物に更にアルミニウム、ガリウム等の周期表IIIa族の元素や亜鉛元素を含むペロブスカイト型複合酸化物であることを特徴とする赤外線反射材料などである。
また、本発明は、前記のペロブスカイト型複合酸化物系赤外線反射材料の製造方法、それを含有することを特徴とする塗料、樹脂組成物であり、更に、前記の塗料が塗布されていることを特徴とする赤外線反射材などである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の赤外線反射材料は、少なくともアルカリ土類金属元素と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素とを含むペロブスカイト型複合酸化物であって、十分な赤外線反射能を有する。また、この複合酸化物に更にマンガン元素及び/又は鉄元素を含有させると、十分な赤外線反射能を有する黒色系材料となる。更に、前記の二種のペロブスカイト型複合酸化物にアルミニウム、ガリウム等の周期表IIIa族の元素や亜鉛元素を含有させると一層優れた赤外線反射能を有する。
このような赤外線反射材料は、熱に安定な無機成分を使用していることから、熱安定性、耐熱性にも優れ、クロムを含有していないことから、安全性、環境問題に懸念がない。また、水にも溶けにくく、溶出による赤外線反射能の低下も少ない。
そのため、建築物の屋根や外壁に塗装したり、道路や歩道に塗装したりして、ヒートアイランド現象の緩和等に利用することができる。
しかも、高価な原料を使用せず、大気中で製造することができるために比較的安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例33で得られた試料gの粒子形状を表す電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例35で得られた試料iの粒子形状を表す電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例36で得られた試料jの粒子形状を表す電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例33で得られた試料g(図中■で表す)と実施例35で得られた試料i(図中●で表す)の粒度分布を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の赤外線反射材料は、少なくともアルカリ土類金属元素、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素及び酸素元素を含むペロブスカイト型複合酸化物である。ペロブスカイト型構造は、ABO型構造(ここで、Aは1種又は2種以上のアルカリ土類金属元素、Bはチタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素、Oは酸素元素である。)、層状ペロブスカイト型構造(n(ABO)・AO(ここで、A、B、Oは前記と同じであり、An+13n+1と表すことができ、2つのABOのペロブスカイトユニットの間にAO層が入るような構造である。具体的には、CaTi、CaTi10等が挙げられる。))などである。このため、アルカリ土類金属元素の含有量、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素の含有量は、所望のペロブスカイト型構造を形成する量となるように適宜調整する。アルカリ土類金属元素としては、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選ばれる少なくとも一種が赤外線反射能に優れ、ペロブスカイト型構造を有する複合酸化物を形成するため好ましい。マグネシウムはアルカリ土類金属元素であるが、単独で用いると一般にペロブスカイト型構造を形成できず、イルメナイト型構造となるため好ましくない。しかしながら、アルカリ土類金属元素として、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のマグネシウム以外のアルカリ土類金属元素とマグネシウム元素とを併用すると、ペロブスカイト型構造の複合酸化物となり、しかも、マグネシウムを添加しないものに比べても優れた赤外線反射能を有し、特に優れた近赤外線反射能を有するため、好ましい。マグネシウムの含有量は、赤外線反射能等の所望の性能に応じて適宜設定することができ、マグネシウムの元素(Mg)とマグネシウム以外のアルカリ土類金属(A)の原子比(各原子の個数の比であり、モル比ということもある)が1.0×10−6≦Mg/A≦0.20であることが好ましく、1.0×10−6≦Mg/A≦0.12が更に好ましい。ここで、「Mg」はマグネシウムの元素のモル数を表し、「A」はマグネシウム以外のアルカリ土類金属の元素のモル数を表す。
【0010】
また、本発明の赤外線反射材料は、前記のアルカリ土類金属元素、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素及び酸素元素を含むペロブスカイト型複合酸化物において、更にホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の周期表IIIa族の元素を含有させる。周期表IIIa族の元素を含有させると、それを添加しないものに比べても優れた赤外線反射能を有するため、より好ましく、周期表IIIa族のうちアルミニウム、ガリウムから選ばれる少なくとも一種を含有させると、特に優れた近赤外線反射能を有することからより好ましい。周期表IIIa族の元素は、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子表面及び/又は粒子内部に存在すれば良く、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子内部に存在するのが好ましい。周期表IIIa族の元素の含有量は、所望の赤外線反射能等の性能に応じて適宜設定することができ、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素(B)と周期表IIIa族の元素(Al)の原子比(モル比)が0.0005≦Al/B≦1.5となる量を含有させるのが好ましい。ここで、「Al」は周期表IIIa族の元素のモル数を表し、「B」はチタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素のモル数を表し、それらの原子比(モル比)Al/Bの値が0.0005〜1.5の範囲であると、優れた赤外線反射能を有するため好ましく、より好ましくは0.001≦Al/B≦0.45であり、更に好ましくは0.005≦Al/B≦0.35であり、最も好ましくは0.005≦Al/B≦0.25である。Al/Bの値が0.0005より小さくなると添加効果が十分でないため好ましくなく、Al/Bの値が1.5より大きくなると、別相の生成が開始されるため好ましくない。
【0011】
また、本発明の赤外線反射材料は、前記のアルカリ土類金属元素、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素及び酸素元素を含むペロブスカイト型複合酸化物、あるいは、更に周期表IIIa族の元素を含有させたペロブスカイト型複合酸化物において、更に亜鉛元素を含有させる。亜鉛元素を含有させると、それを添加しないものに比べても優れた赤外線反射能を有するため好ましい。亜鉛元素は、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子表面及び/又は粒子内部に存在すれば良く、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子内部に存在するのが好ましい。亜鉛元素の含有量は、所望の赤外線反射能等の性能に応じて適宜設定することができ、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素(B)と亜鉛元素(Zn)の原子比(モル比)が1.0×10−6≦Zn/B≦0.20となる量を含有させるのが好ましい。ここで、「Zn」は亜鉛元素のモル数を表し、「B」はチタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素のモル数を表し、それらの原子比(モル比)Zn/Bの値が1.0×10−6〜0.20の範囲であると、優れた赤外線反射能を有するため好ましく、より好ましくは1.0×10−6≦Zn/B≦0.15であり、更に好ましくは0.005≦Zn/B≦0.12である。Zn/Bの値が1.0×10−6より小さくなると添加効果が十分でないため好ましくなく、Zn/Bの値が0.20より大きくなると、別相の生成の開始や粉体色の大幅な変化が見られるため好ましくない。
【0012】
本発明の赤外線反射材料が、ABO型ペロブスカイト型構造を有する場合は、前記のアルカリ土類金属元素の含有量をαモルとし、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素、周期表IIIa族の元素及び亜鉛元素の含有合量をβモルとするとき、それらの比α/βが通常1になるように調整されるが、1<α/β≦1.5となるような組成、すなわち、アルカリ土類金属元素の含有量を1倍よりも多く、1.5倍以下にすると、α/β=1のものに比べて、優れた赤外線反射能を有し、特に優れた近赤外線反射能を有するため、より好ましいものである。更により好ましい範囲は、1<α/β<1.1である。
【0013】
少なくともアルカリ土類金属元素と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素とを含むペロブスカイト型複合酸化物であり、後述のマンガン元素及び/又は鉄元素を含まない複合酸化物は白色系材料であり、反射率が高い。具体的には近赤外線反射能を太陽光中の波長700〜2100nmの範囲の近赤外線の反射率(以下、日射反射率といい、JIS R 3106に準じて、分光反射率に太陽光のエネルギー分布を表現する重価係数をかけて算出する)で表して、日射反射率は好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。前記の複合酸化物の白色度はCIE 1976 Lab(L表色系)の明度指数L値(L値が大きいほど白色度が強い)で表して75以上が好ましく、80以上がより好ましく、85以上が更に好ましい。このように本発明の赤外線反射材料は、明度指数L値を高くすることができるため、白色系顔料として用いることができる。
また、L値と同様にして求められるL表色系のa値、b値は色相彩度を表す指数であり、a値が正側に大きくなるほど赤味が強く負側に大きくなるほど緑味が強いことを示し、b値が正側に大きくなるほど黄味が強く負側に大きくなるほど青味が強いことを示す。前記の複合酸化物においては例えばa値が−3〜10程度に赤味を抑えることができ、b値が−1〜10程度に黄色味を抑えることができる。
【0014】
また、本発明の赤外線反射材料は、前記のアルカリ土類金属元素、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素及び酸素元素を含むペロブスカイト型複合酸化物において、更にマンガン元素及び/又は鉄元素を含有させる。マンガン元素及び/又は鉄元素を含有させると黒色度が強くなる。マンガン元素、鉄元素は、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子表面及び/又は粒子内部に存在すれば良く、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子内部に存在するのが好ましい。マンガン元素、鉄元素の含有量は、所望の赤外線反射能、黒色度等の性能に応じて適宜設定することができる。マンガン元素を含有させる場合は、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素(B)とマンガン(Mn)の原子比(モル比)が0.01≦Mn/B≦3.0となる量を含有させるのが好ましい。ここで、「Mn」はマンガン元素のモル数を表し、「B」はチタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素のモル数を表し、それらの原子比(モル比)Mn/Bの値が0.01〜3.0の範囲であると、赤外線反射能と黒色度の観点から好ましく、より好ましくは0.05≦Mn/B≦3.0であり、更に好ましくは0.1≦Mn/B≦3.0であり、最も好ましくは0.3≦Mn/B≦3.0である。Mn/Bの値が0.01より小さくなると添加効果が十分でなく黒色度が十分でないため好ましくなく、Mn/Bの値が3.0より大きくなると、アルカリ土類金属が溶出し易くなるため好ましくない。また、鉄元素を含有させる場合は、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素(B)と鉄(Fe)の原子比(モル比)が0.01≦Fe/B≦1.0となる量を含有させるのが好ましい。ここで、「Fe」は鉄元素のモル数を表し、「B」はチタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素のモル数を表し、それらの原子比(モル比)Fe/Bの値が0.01〜1.0の範囲であると、赤外線反射能と黒色度の観点から好ましく、より好ましくは0.05≦Fe/B≦0.8であり、更に好ましくは0.07≦Fe/B≦0.8である。Fe/Bの値が0.01より小さくなると添加効果が十分でなく黒色度が十分でないため好ましくなく、Fe/Bの値が1.0より大きくなると、単相として合成できなくなるため好ましくない。マンガン元素及び鉄元素の両方を含有することもでき、夫々の含有量は前記の範囲であれば、赤外線反射能と黒色度の観点から好ましい。マンガン元素、鉄元素を含有させる場合、アルカリ土類金属元素としては、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選ばれる少なくとも一種が赤外線反射能に優れるため好ましく、また、ペロブスカイト型構造を有する複合酸化物を形成することができるため好ましい。アルカリ土類金属元素として、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のマグネシウム以外のアルカリ土類金属元素とマグネシウム元素とを併用すると、ペロブスカイト型構造の複合酸化物となり、しかも、マグネシウムを添加しないものに比べても優れた赤外線反射能を有し、特に優れた近赤外線反射能を有するため、より好ましい。マグネシウムの含有量は、所望の赤外線反射能等の性能に応じて適宜設定することができ、マグネシウムの元素(Mg)とマグネシウム以外のアルカリ土類金属(A)の原子比(モル比)が1.0×10−6≦Mg/A≦0.20であることがより好ましく、1.0×10−6≦Mg/A≦0.12が更に好ましい。ここで、「Mg」はマグネシウムの元素のモル数を表し、「A」はマグネシウム以外のアルカリ土類金属の元素のモル数を表す。
【0015】
また、本発明の赤外線反射材料は、前記のアルカリ土類金属元素、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素、酸素元素及びマンガン元素及び/又は鉄元素を含有させたペロブスカイト型複合酸化物において、更にホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の周期表IIIa族の元素を含有させる。周期表IIIa族の元素を含有させると、それを添加しないものに比べても優れた赤外線反射能を有するため、より好ましく、周期表IIIa族のうちアルミニウム、ガリウムから選ばれる少なくとも一種を含有させると、特に優れた近赤外線反射能を有することからより好ましい。周期表IIIa族の元素は、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子表面及び/又は粒子内部に存在すれば良く、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子内部に存在するのが好ましい。周期表IIIa族の元素の含有量は、所望の赤外線反射能等の性能に応じて適宜設定することができ、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素(B)と周期表IIIa族の元素(Al)の原子比(モル比)が0.0005≦Al/B≦1.5となる量を含有させるのが好ましい。ここで、「Al」は周期表IIIa族の元素のモル数を表し、「B」はチタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素のモル数を表し、それらの原子比(モル比)Al/Bの値が0.0005〜1.5の範囲であると、赤外線反射能と黒色度の観点から好ましく、より好ましくは0.001≦Al/B≦1.3であり、更に好ましくは0.005≦Al/B≦1.0である。Al/Bの値が0.0005より小さくなると添加効果が十分でないため好ましくなく、Al/Bの値が1.5より大きくなると、別相が生成したり粉体色が大きくずれるため好ましくない。
【0016】
また、本発明の赤外線反射材料は、前記のアルカリ土類金属元素、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素、酸素元素、マンガン元素及び/又は鉄元素を含有させたペロブスカイト型複合酸化物、あるいは、更にホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の周期表IIIa族の元素を含有させたペロブスカイト型複合酸化物において、更に亜鉛元素を含有させる。亜鉛元素を含有させると、それを添加しないものに比べても優れた赤外線反射能を有するため好ましい。亜鉛元素は、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子表面及び/又は粒子内部に存在すれば良く、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子内部に存在するのが好ましい。亜鉛元素の含有量は、所望の赤外線反射能等の性能に応じて適宜設定することができ、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素(B)と亜鉛元素(Zn)の原子比(モル比)が1.0×10−6≦Zn/B≦0.20となる量を含有させるのが好ましい。ここで、「Zn」は亜鉛元素のモル数を表し、「B」はチタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素のモル数を表し、それらの原子比(モル比)Zn/Bの値が1.0×10−6〜0.2の範囲であると、優れた赤外線反射能を有するため好ましく、より好ましくは1.0×10−6≦Zn/B≦0.15であり、更に好ましくは1.0×10−6≦Zn/B≦0.12である。Zn/Bの値が1.0×10−6より小さくなると添加効果が十分でないため好ましくなく、Zn/Bの値が0.20より大きくなると、別相の生成の開始や粉体色の大幅な変化が見られるため好ましくない。
【0017】
本発明の赤外線反射材料が、ABO型ペロブスカイト型構造を有する場合は、前記のアルカリ土類金属元素の含有量をαモルとし、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素、マンガン元素及び/又は鉄元素、周期表IIIa族の元素及び亜鉛元素の含有合量をβモルとするとき、それらの比α/βが通常1になるように調整されるが、1<α/β≦1.5となるような組成、すなわち、アルカリ土類金属元素の含有量を1倍よりも多く、1.5倍以下にすると、α/β=1のものに比べて、優れた赤外線反射能を有し、特に優れた近赤外線反射能を有するため、より好ましいものである。更により好ましい範囲は、1<α/β<1.1である。
【0018】
少なくともアルカリ土類金属元素、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素及びマンガン元素及び/又は鉄元素とを含むペロブスカイト型複合酸化物では、粉体色が黒色系に変化する。その黒色度は前記と同じCIE 1976 Lab(L表色系)の明度指数L値(L値が小さいほど黒色度が強い)で表して45以下が好ましく、40以下がより好ましく、32以下が更に好ましい。このように本発明の赤外線反射材料は、明度指数L値を低くすることができるため、黒色系顔料として用いることができる。
また、L値と同様にして求められるL表色系のa値、b値は、例えばa値が0〜20程度に赤味を抑えることができ、b値が−1〜10程度に黄色味を抑えることができる。赤外線反射能は粉体色に応じて変化し、赤外線を吸収し易い黒色系では、赤外線を反射する白色系に比べて赤外線反射能は比較的低い。このことから、マンガン元素及び/又は鉄元素を含有させた複合酸化物は、前記の日射反射率で表して10%以上が好ましく、12%以上がより好ましく、15%以上が更に好ましく、20%以上が更により好ましく、25%以上が最も好ましい。
【0019】
複合酸化物に含まれるアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素、マンガン、鉄の元素、周期表IIIa族の元素や亜鉛元素の量は蛍光X線分析から求め、それらの成分の価数から電荷バランスを維持するのに必要な酸素の量を算出する。また、複合酸化物の結晶構造はX線回折により確認することができる。
【0020】
本発明の赤外線反射材料は、ペロブスカイト型複合酸化物の格子点にある溶媒原子(具体的にはアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の原子)が溶質原子(具体的にはマンガン、鉄の原子、周期表IIIa族の原子、あるいは亜鉛原子)と置換した置換型固溶体を形成したり、あるいは、ペロブスカイト型複合酸化物の格子間隙に溶質原子が入った侵入型固溶体を形成したりして、複合酸化物の粒子内部及び/又は粒子表面内部に溶質原子が固溶し含有されていると考えられる。更に詳細にはチタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の溶媒原子に前記のマンガン及び/又は鉄、周期表IIIa族、あるいは亜鉛の溶質原子が置換した固溶体を形成していると推察している。複合酸化物は、ペロブスカイト型構造を維持しているのが好ましく、ABO型構造では、マンガン元素を前記の0.01≦Mn/B≦3.0の範囲含有させると、原子比(モル比)でA:B:O:マンガン原子=1:1−X:3:Xで表すとXはほぼ0.01〜0.75の範囲となる。また、鉄元素を含有させる場合は、前記の含有量0.01≦Fe/B≦1.0では、原子比(モル比)でA:B:O:鉄原子=1:1−Y:3:Yで表すとYはほぼ0.01〜0.5の範囲となる。マンガン元素、鉄元素、周期表IIIa族の元素、あるいは亜鉛元素を含有していることはX線回折の結果から複合酸化物以外の別相のピークが現れないことで確認することができる。
【0021】
本発明の赤外線反射材料には、不可避的に各種原料由来の不純物が混入している場合があるが、Crはできる限り含有していないのが好ましく、不純物として含有していても1重量%以下であり、特に安全性の懸念があるCr6+の含有量は10ppm以下であるのが好ましい。
【0022】
本発明の赤外線反射材料は、製造条件を変更することにより、種々の粒子形状や粒子径を有するものとすることができる。粒子形状としては例えば板状、粒状、略球状、針状、不定形状等であってもよく、電子顕微鏡写真から測定される平均粒子径(粒子1個の最大径の算術平均値)としては0.02〜20.0μm程度のものが好ましい。平均粒子径が20.0μmを超える場合には、粒子サイズが大きすぎるため、着色力が低下する。平均粒子径が0.02μm未満の場合には、塗料中への分散が困難となる場合がある。このため、平均粒子径は好ましくは0.1〜5.0μm、より好ましくは0.2〜4.5μmであり、更に好ましくは0.3〜4.0μmである。
また、本発明の赤外線反射材料のBET比表面積値(窒素吸着による一点法)は0.05〜80m/g程度が好ましい。BET比表面積値が0.05m/g未満の場合には、粒子が粗大であったり、粒子及び粒子相互間で焼結が生じた粒子となっており、着色力が低下する。より好ましくは0.2〜15m/g、更に好ましくは0.3〜5m/gである。BET比表面積の測定は、モノソーブMS−18(ユアサアイオニクス社製)で行うことができる。このBET比表面積値から、下記式1により球状に見なした平均粒子径を算出することができる。BET比表面積値から算出される平均粒子径は0.02〜30μm程度が好ましいが、粒子形状、粒度分布等の影響により、前記の電子顕微鏡写真から算出される平均粒子径とは異なる場合がある。
式1:L=6/(ρ・S)
ここで、Lは平均粒子径(μm)、ρは試料の密度(g/cm)、Sは試料のBET比表面積値(m/g)である。
【0023】
本発明の赤外線反射材料は、塗料、インキ、プラスチック、セラミック、電子材料などに用いることができるが、配合する溶剤、樹脂への分散性を高めるなどのために、必要に応じて粒子表面に無機化合物及び/又は有機化合物を被覆してもよい。無機化合物としては、例えば、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、アンチモン、リン及びスズから選ばれる少なくとも一種の化合物が好ましく、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、アンチモン及びスズは酸化物、水和酸化物又は水酸化物の化合物がより好ましく、リンはリン酸又はリン酸塩の化合物がより好ましい。有機化合物としては、例えば、有機ケイ素化合物、有機金属化合物、ポリオール類、アルカノールアミン類又はその誘導体、高級脂肪酸類又はその金属塩、高級炭化水素類又はその誘導体等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0024】
また、本発明の赤外線反射材料は、アルカリ土類金属元素、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素を含んでおり、また、必要に応じてマンガン元素及び/又は鉄元素、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の周期表IIIa族の元素、亜鉛元素を含有しているが、アルカリ土類金属元素、マンガン元素、鉄元素等は水に溶出する場合があり、特に酸性の水に溶出し易い。このため水溶出性を抑制する必要がある場合は、赤外線反射材料の粒子表面に無機化合物を被覆させるのが有効である。このような無機化合物としては、例えば、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、アンチモン、リン及びスズから選ばれる少なくとも1つの化合物が挙げられ、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、アンチモン及びスズは酸化物、水和酸化物又は水酸化物の化合物がより好ましく、リンはリン酸又はリン酸塩の化合物がより好ましい。特に、ケイ素、アルミニウムの酸化物、水和酸化物又は水酸化物が好ましい。ケイ素の酸化物、水和酸化物又は水酸化物(以下、シリカという場合がある)は、高密度シリカ又は多孔質シリカを形成するのがより好ましい。シリカ被覆処理の際のpH範囲に応じて、被覆されるシリカが多孔質となったり、非多孔質(高密度)となったりするが、高密度シリカであると緻密な被覆を形成し易いため、赤外線反射材料の水溶出性の抑制効果が高くより好ましい。そのため、赤外線反射材料の粒子表面に高密度シリカの第一被覆層を存在させ、その上に多孔質シリカの第二被覆層あるいはアルミニウムの酸化物、水和酸化物、水酸化物(以下、アルミナという場合がある)を存在させてもよい。シリカ被覆は電子顕微鏡で観察することができる。無機化合物の被覆量は適宜設定することができ、例えば、赤外線反射材料に対して0.1〜50重量%が好ましく、1.0〜20重量%がより好ましい。無機化合物の量は蛍光X線分析、ICP発光分析等の通常の方法で測定することができる。
【0025】
本発明の赤外線反射材料は、ペロブスカイト型複合酸化物を製造するための従来の方法を用いて製造することができる。具体的には、アルカリ土類金属化合物と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の化合物とを混合し、電気炉やロータリーキルン等を使用して焼成するいわゆる固相合成法、アルカリ土類金属と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種とのシュウ酸塩を水系で合成した後、焼成するいわゆるシュウ酸塩法、アルカリ土類金属と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種とのクエン酸塩を水系で合成した後、焼成するいわゆるクエン酸塩法、アルカリ土類金属化合物、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の化合物の水溶液とアルカリ水溶液とを混合し、水熱処理した後、濾過し、洗浄し、乾燥するいわゆる水熱合成法などの方法を用いることができる。また、マンガン元素及び/又は鉄元素、周期表IIIa族の元素、あるいは亜鉛元素を含有させる場合は、アルカリ土類金属化合物とチタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の化合物を混合する際に、マンガン化合物、鉄化合物、周期表IIIa族の化合物、あるいは亜鉛化合物を添加し混合したり、シュウ酸塩等を水系で合成する際に、マンガン化合物、鉄化合物、周期表IIIa族の化合物、あるいは亜鉛化合物を添加し混合したり、あるいはアルカリ土類金属化合物とチタン化合物の混合物、合成物の焼成の際に、マンガン化合物、鉄化合物、周期表IIIa族の化合物、あるいは亜鉛化合物を添加し焼成したりすることができる。
【0026】
本発明においては、アルカリ土類金属化合物と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の化合物とを混合し、焼成する固相合成法が適度な粒子径を有するペロブスカイト型複合酸化物が得られるため好ましい。また、アルカリ土類金属元素として、マグネシウム以外のアルカリ土類金属元素とマグネシウム元素とを併用する場合は、これらのアルカリ土類金属化合物と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の化合物とを混合し、焼成する固相合成法が適度な粒子径を有するペロブスカイト型複合酸化物が得られるため好ましい。また、マンガン元素及び/又は鉄元素を含有させる場合は、アルカリ土類金属化合物と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の化合物とを混合する際に、マンガン化合物及び/又は鉄化合物を添加し混合し、焼成する方法が適度な粒子径を有するペロブスカイト型複合酸化物が得られるため好ましい。また、周期表IIIa族の元素、あるいは亜鉛元素を含有させる場合は、アルカリ土類金属化合物と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の化合物とあるいは必要に応じてマンガン化合物及び/又は鉄化合物とを混合する際に、周期表IIIa族の化合物、あるいは亜鉛化合物を添加し混合し、焼成する方法が適度な粒子径を有するペロブスカイト型複合酸化物が得られるため好ましい。アルカリ土類金属化合物とチタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の化合物とを混合する際に、マンガン化合物、鉄化合物、周期表IIIa族の化合物、あるいは亜鉛化合物を添加し混合すると、マンガン元素、鉄元素、周期表IIIa族の元素、あるいは亜鉛元素がペロブスカイト型複合酸化物の粒子内部に存在し易く、好ましい。
【0027】
前記の固相合成法において、アルカリ土類金属化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩等を用いることができ、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の化合物としては酸化物、水酸化物、炭酸塩等を用いることができる。マンガン化合物、鉄化合物、周期表IIIa族の化合物、あるいは亜鉛化合物としては、それぞれの酸化物、水酸化物、炭酸塩等を用いることができる。次に、前記のそれぞれの原料化合物を秤量し、混合する。混合方法は、粉体の状態で混合する乾式混合、スラリーの状態で混合する湿式混合のいずれでもよく、撹拌混合機等の従来の混合機を用いて行うことができる。また、各種の粉砕機、噴霧乾燥機、造粒機、成形機等を用いて、粉砕、乾燥、造粒、成形の際に混合することもできる。マンガン化合物、鉄化合物、周期表IIIa族の化合物、あるいは亜鉛化合物を混合する場合であってこれらの化合物の量が少量である場合は、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の化合物の粒子表面及び/又は粒子内部に予め存在させると固相合成反応が均一に行われ均質な赤外線反射材料が得られ易いため好ましい。このようなことから、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の酸化物、水和酸化物、水酸化物等の化合物の粒子表面に、マンガン化合物、鉄化合物、周期表IIIa族の化合物、あるいは亜鉛化合物を予め析出させ存在させたり、粒子内部に予め存在させると、マンガン元素、鉄元素、周期表IIIa族の元素、あるいは亜鉛元素がペロブスカイト型複合酸化物の粒子内部に存在し易く、好ましい。方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0028】
次いで、原料化合物の混合物を必要に応じて造粒、成形した後、焼成する。焼成の温度は少なくとも原料化合物が固相反応する温度であればよく、例えば1000〜1500℃の範囲の温度であればよい。焼成時の雰囲気はいずれの雰囲気でも行えるが、十分な赤外線反射能を保持するためには空気中で焼成するのが好ましい。焼成の際に、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の融剤を添加してもよい。焼成時間は適宜設定することができるが、0.5〜24時間が好ましく、1.0〜12時間がより好ましい。0.5時間より短いと反応が十分に進まないことが多く、一方、24時間より長いと焼結により粒子の硬度が高くなったり、異常に粗大な粒子が生成する場合がある。
【0029】
また、前記の固相合成法において、焼成反応をより均一に行うため、あるいは赤外線反射材料の粒子径をより均一にするために焼成処理剤(粒度調整剤)を原料化合物の混合物に添加して焼成してもよい。このような焼成処理剤としては例えば、アルカリ金属化合物、シリカ、ケイ酸塩等のケイ素化合物、酸化スズ、水酸化スズ等のスズ化合物等や、前記のホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の周期表IIIa族の元素の化合物も用いることができるが、これに限定されるものではなく、種々の無機化合物又は有機化合物を用いることができる。焼成処理剤(粒度調整剤)の添加量は、適宜設定することができるが、赤外線反射能を低減させない程度の量が好ましい。特に、アルカリ金属化合物を原料化合物の混合物に添加し焼成すると、赤外線反射材料の粒子径がより均一なものが得られ易いため好ましい。しかも、アルカリ金属化合物を添加すると、焼成後の粉砕が比較的容易になるなどの利点もある。また、得られた赤外線反射材料にアルカリ金属化合物が残存していても赤外線反射能への悪影響は認められず、水洗により溶解して除去することもできる。アルカリ金属化合物としては、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム等のカリウム化合物、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物などを用いることができる。アルカリ金属化合物の添加量は、原料化合物の混合物100重量部に対して、アルカリ金属を酸化物(KO、NaO、LiOなど)に換算して0.01〜15重量部が好ましく、0.1〜6重量部がより好ましい。
【0030】
前記の方法、特に前記の固相合成法により得られた複合酸化物を再度焼成すると、複合酸化物の結晶性がより高くなり、それによりアルカリ土類金属元素、マンガン元素、鉄元素等の水溶出性を抑制することができるため好ましい。再度焼成の温度は200〜1500℃の範囲が好ましく、400〜1200℃がより好ましい。再度焼成時の雰囲気はいずれの雰囲気でも行えるが、十分な赤外線反射能を保持するためには空気中で焼成するのが好ましい。再度焼成の時間は適宜設定することができるが、0.5〜24時間が好ましく、1.0〜12時間がより好ましい。
【0031】
このようにして得られた赤外線反射材料の粒子表面に、無機化合物や有機化合物を被覆するには、二酸化チタン顔料等の従来の表面処理方法を用いることができ、具体的には赤外線反射材料のスラリーに無機化合物や有機化合物を添加し被覆するのが好ましく、スラリー中で無機化合物や有機化合物を中和し析出させて被覆するのがより好ましい。また、赤外線反射材料の粉末に、無機化合物や有機化合物を添加し混合して被覆させてもよい。
具体的に赤外線反射材料の粒子表面に高密度シリカ被覆を行うには、まず、赤外線反射材料の水性スラリーをアルカリ化合物例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどによりpHを8以上、好ましくは8〜10に調整した後、加温して70℃以上、好ましくは70〜105℃とする。次いで、赤外線反射材料の水性スラリーに対してケイ酸塩を添加する。ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどの種々のケイ酸塩を使用することができる。ケイ酸塩の添加は、通常15分間以上かけて行うのが好ましく、30分間以上がより好ましい。次いで、ケイ酸塩の添加終了後必要に応じて更に充分に撹拌し混合した後、スラリーの温度を好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上に維持しながら、酸で中和する。ここで使用する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸などが挙げられ、これらによりスラリーのpHを好ましくは7.5以下、より好ましくは7以下に調整して、赤外線反射材料の粒子表面に高密度シリカを被覆することができる。
【0032】
また、赤外線反射材料の粒子表面に多孔質シリカ被覆を行うには、まず、赤外線反射材料の水性スラリーに、例えば硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸などの酸を添加してpHを1〜4、好ましくは1.5〜3に調整する。スラリー温度は50〜70℃に調整するのが好ましい。次に、スラリーpHを前記範囲に保持しながら、ケイ酸塩と酸とを添加して多孔質シリカの被覆を形成する。ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどの種々のケイ酸塩を使用することができる。ケイ酸塩の添加は、通常15分間以上かけて行うのが好ましく、30分間以上がより好ましい。ケイ酸塩の添加終了後必要に応じて、アルカリ化合物を添加し、スラリーのpHを6〜9程度に調整して、赤外線反射材料の粒子表面に多孔質シリカを被覆することができる。
【0033】
一方、赤外線反射材料の粒子表面にアルミナ被覆を行うには、まず、赤外線反射材料のスラリーを水酸化ナトリウム等のアルカリでpHを8〜9に中和した後50℃以上の温度に加熱し、次に、アルミニウム化合物と酸性水溶液とを同時並行に添加するのが好ましい。アルミニウム化合物としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム等のアルミン酸塩を好適に用いることができ、酸性水溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸等の水溶液を好適に用いることができる。前記の同時並行添加とは、アルミニウム化合物と酸性水溶液のそれぞれを別々に少量ずつ連続的あるいは間欠的に反応器に添加する方法をいう。具体的には反応器内のpHを8.0〜9.0に保ちながら両者を10分〜2時間程度かけて同時に添加するのが好ましい。アルミニウム化合物と酸性水溶液を添加後、酸性水溶液を更に添加しpHを5〜6程度に調整するのが好ましい。
【0034】
前記の無機化合物や有機化合物を被覆した複合酸化物を再度焼成すると、複合酸化物の結晶性がより高くなり、それによりアルカリ土類金属元素、マンガン元素、鉄元素等の水溶出性を抑制することができるため好ましい。再度焼成の温度は200〜1500℃の範囲が好ましく、400〜1200℃がより好ましい。再度焼成時の雰囲気はいずれの雰囲気でも行えるが、十分な赤外線反射能を保持するためには空気中で焼成するのが好ましい。再度焼成の時間は適宜設定することができるが、0.5〜24時間が好ましく、1.0〜12時間がより好ましい。
【0035】
前記の方法により得られた複合酸化物は、粉末、成形体等種々の形態で使用することができるが、粉末として用いる場合には、必要に応じて適宜粉砕して粒度を整えてもよく、成形体として用いる場合は、粉末を適当な大きさ、形に成形してもよい。粉砕機は例えば、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、ローラーミル、パルベライザー等の摩砕粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機を用いることができる。成形機は例えば押出し成形機等の汎用の成形機、造粒機を用いることができる。
【0036】
また、本発明の赤外線反射材料は、十分な赤外線反射能を有するが、その他の赤外線反射能を有する化合物又は赤外線遮蔽(吸収)能を有する化合物を混合すると、より一層赤外線反射能を高めることができ、あるいは、特定波長の反射能を補完することができる。赤外線反射能を有する化合物又は赤外線遮蔽(吸収)能を有する化合物としては、従来から使用されているものを用いることができ、具体的には二酸化チタン、アンチモンドープ酸化スズ、酸化タングステン、ホウ化ランタン等の無機化合物、金属銀粉、金属銅粉等の金属粉などが挙げられ、二酸化チタン、金属粉がより好ましい。赤外線反射能を有する化合物又は赤外線遮蔽(吸収)能を有する化合物の種類、混合割合は、その用途に応じて適宜選定することができる。
【0037】
また、本発明の赤外線反射材料は、白色系あるいは黒色系の色調を持つが、これにその他の顔料を混合すると、白色度あるいは黒色度をより強くしたり、赤色、黄色、緑色、青色、それらの中間色等の色彩を有するものとすることができる。前記の顔料としては、無機顔料、有機顔料、レーキ顔料等を使用することができ、具体的には、無機顔料としては二酸化チタン、亜鉛華、沈降性硫酸バリウム等の白色顔料、酸化鉄等の赤色顔料、ウルトラマリン青、プロシア青(フェロシアン化鉄カリ)等の青色顔料、カーボンブラック等の黒色顔料、アルミニウム粉等の顔料が挙げられる。有機顔料としては、アントラキノン、ペリレン、フタロシアニン、アゾ系、アゾメチアゾ系等の有機化合物が挙げられる。顔料の種類、混合割合は、色彩・色相に応じて適宜選定することができる。
【0038】
次に、本発明は、前記の赤外線反射材料を含有することを特徴とする塗料であって、本発明の塗料には、インキやインクといわれる組成物を含む。また、本発明は、前記の赤外線反射材料を含有することを特徴とする樹脂組成物である。また、本発明は、前記の赤外線反射材料を配合してなる塗料が基材上に塗布されていることを特徴とする赤外線反射材である。
【0039】
本発明の赤外線反射材料は、塗料、インキやフィルム等のプラスチック成形物などの樹脂に含有すると、その優れた赤外線反射能を利用した組成物とすることができる。塗料、インキ、樹脂組成物には、樹脂に対して赤外線反射材料を任意の量を含有することができ、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上、更に好ましくは10重量%以上である。また、そのほかにそれぞれの分野で使用される組成物形成材料を配合し、更に各種の添加剤を配合してもよい。
【0040】
具体的には、塗料やインキとする場合、塗膜形成材料又はインキ膜形成材料のほかに、溶剤、分散剤、顔料、充填剤、骨材、増粘剤、フローコントロール剤、レベリング剤、硬化剤、架橋剤、硬化用触媒などを配合することができる。塗膜形成材料としては例えば、アクリル系樹脂、アルキド系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アミノ系樹脂などの有機系成分や、オルガノシリケート、オルガノチタネート、セメント、石膏などの無機系成分を用いることができる。インキ膜形成材料としては、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩酢ビ系樹脂、塩素化プロピレン系樹脂などを用いることができる。これらの塗膜形成材料、インキ膜形成材料には、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂など各種のものを制限なく用いることができ、モノマーやオリゴマーの紫外線硬化性樹脂を用い、光重合開始剤や光増感剤を配合し、塗布後に紫外光を照射して硬化させると、基材に熱負荷を掛けず、硬度や密着性の優れた塗膜が得られるので好ましい。
【0041】
本発明の塗料は基材上に塗布して赤外線反射材を製造することができる。この赤外線反射材は赤外線の遮蔽材として、更には遮熱材としても用いることができる。基材としては、種々の材料、材質のものを用いることができる。具体的には各種建材や土木材料等を使用することができ、製造された赤外線反射材は、家屋や工場等の屋根材、壁材又は床材、あるいは、道路や歩道を構成する舗装材などとして使用することができる。赤外線反射材の厚みは、各種の用途に応じて任意に設定でき、例えば、屋根材として用いる場合には、概ね0.1〜0.6mm、好ましくは0.1〜0.3mmとし、舗装材として用いる場合には、概ね0.5〜5mm、好ましくは1〜5mmとする。基材上に塗布するには、塗布、吹き付けによる方法や、コテによる方法が可能であり、塗布後必要に応じて乾燥したり、焼付けしたり、養生したりしてもよい。
【0042】
また、樹脂組成物とする場合、樹脂のほかに、顔料、染料、分散剤、滑剤、酸化防止材、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、殺菌剤などを本発明の赤外線反射材料とともに練り込み、フィルム状、シート状、板状などの任意の形状に成形する。樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリ乳酸系樹脂などの熱可塑性樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。このような樹脂組成物は、フィルム、シート、板等の任意の形状に成形して、工業用、農業用、家庭用等の赤外線反射材として用いることができる。また、赤外線を遮蔽して遮熱材としても用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例、比較例により説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.68g、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)2.94gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間の焼成を行って、ペロブスカイト型構造のチタン酸カルシウム(CaTiO)(試料A)を得た。
試料Aの比表面積は1.03m/gであり、その値から算出した平均粒子径は0.72μmであった。なお、クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0045】
実施例2
炭酸ストロンチウムSrCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)4.02g、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)2.18gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間の焼成を行って、ペロブスカイト型構造のチタン酸ストロンチウム(SrTiO)(試料B)を得た。
試料Bの比表面積は1.33m/gであった。なお、クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0046】
実施例3
炭酸バリウムBaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)4.23g、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)1.71gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間の焼成を行って、ペロブスカイト型構造のチタン酸バリウム(BaTiO)(試料C)を得た。
試料Cの比表面積は1.39m/gであった。なお、クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0047】
実施例4
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.68g、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)2.94gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間の焼成を行って、ペロブスカイト型構造のチタン酸カルシウム(CaTiO)(試料D)を得た。
試料Dの比表面積は0.59m/gであり、その値から算出した平均粒子径は1.23μmであった。なお、クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0048】
実施例5
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)2.79g、酸化ジルコニウム(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.43gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間の焼成を行って、ペロブスカイト型構造のジルコン酸カルシウム(CaZrO)(試料E)を得た。なお、クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0049】
実施例6
炭酸ストロンチウムSrCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.25g、酸化ジルコニウム(高純度化学研究所製、純度99.99%)2.72gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間の焼成を行って、ペロブスカイト型構造のジルコン酸ストロンチウム(SrZrO)(試料F)を得た。なお、クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0050】
実施例7
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)6.87g、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)3.65gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、融剤として、塩化ナトリウムNaCl(高純度化学研究所製、純度99.99%)及び塩化カリウムKCl(高純度化学研究所製、純度99.99%)を夫々5.26gずつ入れ、更にメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した。その後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間の焼成を行なった後、水洗を行い、層状ペロブスカイト型構造のチタン酸カルシウム(CaTi)(試料G)を得た。なお、クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0051】
実施例8
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.68g、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)2.93g及び酸化アルミニウムAl(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.01gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間の焼成を行って、ペロブスカイト型構造のアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Al)(試料H)を得た。なお、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.005であった。クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0052】
実施例9
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.70g、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)2.86g及び酸化アルミニウムAl(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.06gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間の焼成を行って、ペロブスカイト型構造のアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Al)(試料I)を得た。
試料Iの比表面積は0.13m/gであり、その値から算出した平均粒子径は11μmであった。なお、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.03であった。クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0053】
実施例10〜16
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)及び二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)について夫々表1に記載の量を分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン含有チタン酸カルシウム(試料J〜P)を得た。
試料J〜Pのマンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は、蛍光X線分析(RIX2100、リガク製)の結果から夫々0.11、0.25、0.41、0.67、0.96、1.5、2.22であった。なお、いずれの試料もクロムの含有量は測定検出限界以下であった。また、試料J、L、N、Pの比表面積、その値から算出した平均粒子径を表1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例17〜20
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)及び三酸化二鉄Fe(高純度化学研究所製、純度99.99%)について夫々表2に記載の量を分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造の鉄含有チタン酸カルシウム(試料Q〜T)を得た。
試料Q〜Tの鉄とチタンの原子比(モル比)(Fe/Ti)は、蛍光X線分析(RIX2100、リガク製)の結果から夫々0.12、0.28、0.43、0.70であった。なお、いずれの試料もクロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0056】
【表2】

【0057】
実施例21
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.59g、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)2.02g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.94g及び酸化マグネシウム(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.01gを分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン及びマグネシウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Mg)(試料U)を得た。なお、マグネシウムとカルシウムの原子比(モル比)(Mg/Ca)は0.01であり、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は0.43であった。クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0058】
実施例22
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.62g、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)2.02g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.94g及びα−アルミナα−Al(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.01gを分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料V)を得た。
試料Vの比表面積は0.50m/gであり、その値から算出した平均粒子径は2.86μmであった。なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は0.43であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.007であった。クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0059】
実施例23
実施例22において、α−アルミナ0.01gを0.02gに代えたこと以外は、実施例22と同様にして、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料W)を得た。なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は0.43であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.014であった。クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0060】
実施例24
実施例22において、α−アルミナ0.01gに代えて酸化ガリウム(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.03gを用いたこと以外は、実施例22と同様にして、ペロブスカイト型構造のマンガン及びガリウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Ga)(試料X)を得た。なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は0.43であり、ガリウムとチタンの原子比(モル比)(Ga/Ti)は0.014であった。クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0061】
実施例25
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.59g、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)1.43g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)1.56g及びα−アルミナα−Al(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.01gを分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料Y)を得た。
試料Yの比表面積は0.74m/gであり、その値から算出した平均粒子径は1.88μmであった。なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は1.01であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.01であった。クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0062】
実施例26
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.64g、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)1.16g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)1.27g及びα−アルミナα−Al(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.19gを分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料Z)を得た。なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は1.25であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.25であった。クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0063】
実施例27
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.60g、高純度二酸化チタン(石原産業製PT−301、純度99.99%)1.87g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.94g及び酸化亜鉛ZnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.15gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間の焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン及び亜鉛含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Zn)(試料a)を得た。なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は0.77であり、亜鉛とチタンの原子比(モル比)(Zn/Ti)は0.08であった。クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0064】
実施例28
炭酸ストロンチウムSrCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.31g、酸化ジルコニウム(高純度化学研究所製、純度99.99%)2.48g及び二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.19gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間の焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン含有ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO:Mn)(試料b)を得た。なお、マンガンとジルコニウムの原子比(モル比)(Mn/Zr)は0.11であった。クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0065】
実施例29
炭酸ストロンチウムSrCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.31g、酸化ジルコニウム(高純度化学研究所製、純度99.99%)2.48g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.19g及びα−アルミナα−Al(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.01gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1400℃で4時間の焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO:Mn、Al)(試料c)を得た。なお、マンガンとジルコニウムの原子比(モル比)(Mn/Zr)は0.11であり、アルミニウムとジルコニウムの原子比(モル比)(Al/Zr)は0.006であった。クロムの含有量は測定検出限界以下であった。
【0066】
実施例30
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)7.18g、二酸化チタン(石原産業製TTO−55A、水酸化アルミニウムを粒子表面に存在させた二酸化チタン(Al/Ti=0.03))2.83g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.12g及びα−アルミナα−Al(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.02gを分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料d)を得た。
なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は1.01であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.040であった。チタン、マンガン、アルミニウムの合計量1モルに対して、カルシウムは1モルであった。
【0067】
実施例31
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)7.48g、二酸化チタン(石原産業製TTO−55A、水酸化アルミニウムを粒子表面に存在させた二酸化チタン(Al/Ti=0.03))2.79g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.07g及びα−アルミナα−Al(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.02gを分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料e)を得た。
なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は1.01であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.040であった。チタン、マンガン、アルミニウムの合計量1モルに対して、カルシウムは1.06モルであった。
【0068】
実施例32
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)7.67g、二酸化チタン(石原産業製TTO−55A、水酸化アルミニウムを粒子表面に存在させた二酸化チタン(Al/Ti=0.03))2.76g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.03g及びα−アルミナα−Al(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.02gを分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料f)を得た。
なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は1.01であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.040であった。チタン、マンガン、アルミニウムの合計量1モルに対して、カルシウムは1.10モルであった。
【0069】
実施例33
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)2.87g、二酸化チタン(石原産業製TTO−55A、水酸化アルミニウムを粒子表面に存在させた二酸化チタン(Al/Ti=0.03))1.13g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)1.25g及び水酸化アルミニウムAl(OH)(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.01gを分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した。得られた混合物を水でスラリーにした後、蒸発乾固した。次いで、得られた固体をメノウ乳鉢で粉砕した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料g)を得た。
なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は1.01であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.040であった。
【0070】
実施例34
実施例33において、水酸化アルミニウムを粒子表面に存在させた二酸化チタンに代えて、水酸化アルミニウムを粒子表面に存在させていない二酸化チタン(石原産業製TTO−55N)1.11gを用いること、水酸化アルミニウムAl(OH)(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.04gを用いること以外は実施例33と同様にして、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料h)を得た。
なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は1.01であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.040であった。
【0071】
実施例35
実施例33において、混合物のスラリーに炭酸カリウムKCO(キシダ化学社製、純度99.5%)0.31gを加えた後、蒸発乾固すること以外は、実施例33と同様にして、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料i)を得た。
なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は1.01であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.040であった。
【0072】
実施例36
実施例33において、混合物のスラリーに炭酸リチウムLiCO(キシダ化学社製、純度99.99%)0.17gを加えた後、蒸発乾固すること以外は、実施例33と同様にして、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料j)を得た。
なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は1.01であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.040であった。
【0073】
実施例37
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)7.00g、二酸化チタン(石原産業製TTO−55A、水酸化アルミニウムを粒子表面に存在させた二酸化チタン(Al/Ti=0.03))2.46g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.04g、水酸化アルミニウムAl(OH)(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.03g及び二酸化スズSnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.53gを分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン、アルミニウム及びスズ含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al、Sn)(試料k)を得た。
なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は1.12であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.040であり、スズとチタンの原子比(モル比)(Sn/Ti)は0.11であった。
【0074】
実施例38
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)7.07g、二酸化チタン(石原産業製TTO−55A、水酸化アルミニウムを粒子表面に存在させた二酸化チタン(Al/Ti=0.03))2.51g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.07g、水酸化アルミニウムAl(OH)(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.03g及び二酸化ジルコニウムZrO(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.44gを分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン、アルミニウム及びジルコニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al、Zr)(試料l)を得た。
なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は1.12であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.040であり、ジルコニウムとチタンの原子比(モル比)(Zr/Ti)は0.11であった。
【0075】
実施例39
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、純度99.99%)7.19g、二酸化チタン(石原産業製TTO−55A、水酸化アルミニウムを粒子表面に存在させた二酸化チタン(Al/Ti=0.03))2.78g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.12g、水酸化アルミニウムAl(OH)(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.03g及び二酸化ケイ素SiO(高純度化学研究所製、純度99.99%)0.04gを分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間焼成を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン、アルミニウム及びケイ素含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al、Si)(試料m)を得た。
なお、マンガンとチタンの原子比(モル比)(Mn/Ti)は1.03であり、アルミニウムとチタンの原子比(モル比)(Al/Ti)は0.040であり、ケイ素とチタンの原子比(モル比)(Si/Ti)は0.021であった。
【0076】
実施例40
実施例33で得られた試料gを純水に懸濁させ、超音波分散を10分間実施し、スラリーを調製した。
このスラリーを加温し、75℃に保持しながら撹拌下、ケイ酸ナトリウムをSiOとして10重量%の量を60分間かけて添加した後、90℃で30分間撹拌した。その後、2%硫酸を用いてpH8となるまで80分間かけて添加した。設定温度を60℃に設定した後、熟成60分間行った。
次いで、スラリーのpHを9に調整した後、スラリー温度を60℃でアルミン酸ナトリウムをAlとして2重量%の量を硫酸と同時に添加し、60分間かけて実施した。熟成30分間行った後、ろ過洗浄し、乾燥して、第一層目に10重量%のシリカ、第二層目に2重量%のアルミナを被覆したペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料n)を得た。
【0077】
実施例41
実施例40で得られた試料nをアルミナルツボに所定量いれ、700℃で1時間再度焼成を行って、シリカ、アルミナを被覆したペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料o)を得た。
【0078】
実施例42
実施例33の試料gをアルミナルツボに所定量いれ、900℃で4時間再度焼成処理を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料p)を得た。
なお、BET比表面積値は1.23m/gであった。
【0079】
実施例43
実施例33の試料gをアルミナルツボに所定量いれ、800℃で2時間再度焼成処理を行って、ペロブスカイト型構造のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム(CaTiO:Mn、Al)(試料q)を得た。
【0080】
比較例1
石原産業製二酸化チタン(近赤外線反射用白色系材料)を比較試料rとした。
【0081】
比較例2
酸化イットリウムY(高純度化学研究所製、純度99.99%)2.94g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、純度99.99%)2.27gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間の焼成を行って、マンガン酸イットリウム(YMnO)(比較試料s)を得た。
【0082】
比較例3
市販の赤外線反射酸化物系黒色系材料、Pigment Black 17<Cr2O3>、Pigment Black 27<(Co、Fe)(Fe、Cr)2O4>を夫々比較試料t、比較試料uとした。
【0083】
実施例で得た試料(A〜Z、a〜q)のX線回折の結果、試料fを除いて、それぞれの組成の化合物だけが確認でき、単相であることがわかった。
【0084】
実施例、比較例で得た試料(A〜I、r)をメノウ乳鉢で十分に粉砕した後、30mmφのアルミリングに試料をいれ、9.8MPaの加重をかけ、プレス成型し、白色度計NW−1(日本電色工業社製)で粉体の色を測定し、その結果を表3に示した。
また、実施例、比較例で得た試料(A〜I、r)を専用セルに入れ、紫外可視近赤外分光光度計V−570(日本分光社製、標準反射板としてスペクトラロン<Labsphere社製>を使用)で分光反射率(波長350〜2100nmの光の反射率)を測定し、次いで、JIS R 3106に準じて日射反射率(太陽光中の波長700〜2100nmの範囲の近赤外線の反射率)を計算し、表3に示した。
実施例で得られた試料A〜IのL値は75以上を有し、十分な白色性を有することがわかった。また、試料A〜F、H、IのL値は90以上を有し、比較試料rと同程度以上であり、優れた白色性を有することがわかった。しかも、a値は−3〜10程度であり、b値は1〜10程度の色相を示すことから、本発明は白色系材料として使用が可能であることがわかった。
また、実施例で得られた試料A〜Iの日射反射率は比較試料rの値よりいずれも高く、比較試料rの日射反射率を100とした相対値で表すと109〜124であり、十分な赤外線反射能を有することがわかった。また、アルミニウムを含有することにより、日射反射率の向上が認められた。
【0085】
【表3】

【0086】
実施例、比較例で得た試料(J〜Z、a〜c、s〜u)の粉体の色を前記の方法で測定し、その結果を表4に示した。また、前記の方法で日射反射率(太陽光中の波長700〜2100nmの範囲の近赤外線の反射率)を計算し、表4に示した。
実施例で得られた試料J〜P(マンガン含有チタン酸カルシウム)は十分な黒色度を有しており、特に試料K〜PではL値が40以下であり、しかも、a値は0〜20程度であり、b値は−1〜10程度の色相を示すことから、本発明は黒色系材料として用いられるものであることがわかった。また、試料J〜Pの日射反射率は比較試料uの値よりいずれも高く、比較試料uの日射反射率を100とした相対値で表すと試料K〜Pでは117〜249であり、十分な赤外線反射能を有することがわかった。また、試料K〜Mは、比較試料s、tと比べても遜色なく、優れた赤外線反射能を有する黒色系材料であることがわかった。
また、実施例で得られた試料Q〜T(鉄含有チタン酸カルシウム)は十分な黒色度を有しており、L値が40以下であり、しかも、a値は0〜10程度であり、b値は1〜5程度の色相を示すことから、本発明は黒色系材料として用いられるものであることがわかった。また、試料Q〜Tの日射反射率は比較試料uを越えることがなかったが、クロムを含有していない点で有利であり、特に試料Qは、比較試料uと同程度の日射反射率、黒色度を有することがわかった。
また、マンガン含有チタン酸カルシウムにおいて、マグネシウム、アルミニウム、ガリウム、亜鉛を含有させた試料U〜Z、aは、マグネシウム、アルミニウム、ガリウム、亜鉛を含有させることにより、日射反射率の向上が認められた。
また、ジルコン酸ストロンチウムにおいても、マンガンを含有させることにより黒色化を図ることができること、更にアルミニウムを含有させることにより、日射反射率の向上を図ることができることを確認した。
【0087】
【表4】

【0088】
実施例で得た試料(d〜f)を用いて前記の方法で日射反射率(太陽光中の波長700〜2100nmの範囲の近赤外線の反射率と太陽光中の波長300〜2100nmの範囲の反射率)を計算し、表5に示した。また、試料d〜fの粉体の色を前記の方法で測定し、その結果を表6に示した。
試料e(α/β=1.06のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム)の日射反射率は、試料d(α/β=1.00のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム)の日射反射率を100とした相対値で表すと104程度であり、より優れた赤外線反射能を有する黒色系顔料であることがわかった。一方、試料f(α/β=1.10のマンガン及びアルミニウム含有チタン酸カルシウム)は、日射反射率は高いものの、別相での生成が認められた。
【0089】
【表5】

【0090】
【表6】

【0091】
実施例で得た試料(g〜j)を用いて前記の方法で日射反射率(太陽光中の波長700〜2100nmの範囲の近赤外線の反射率)を計算し、表7に示した。
試料gと試料hとを比較すると、予め二酸化チタンの粒子表面に水酸化アルミニウムを存在させたものを用いた試料gのほうが、日射反射率が良く、赤外線反射能が高くなることがわかった。
試料i(カリウム化合物を添加したもの)、試料j(リチウム化合物を添加したもの)の日射反射率は、試料g(カリウム化合物、リチウム化合物を添加していないもの)に比べて同程度であった。
試料g、i、jの電子顕微鏡写真を図1〜図3に示す。試料i、jは、試料gに比べて、粒子径がより均一になっていることがわかった。また、試料i、試料gの粒度分布を画像処理装置(ルーゼックスAP、セイシン企業製)で測定した結果を図4に示す。試料i(図中●で表す)は、試料g(図中■で表す)と比べて粒度分布が狭く、しかも、試料gの平均粒子径が1.65μmに対して試料iの平均粒子径は1.23μmと小さくなっていることがわかった。
【0092】
【表7】

【0093】
実施例で得た試料(k〜m)を用いて前記の方法で日射反射率(太陽光中の波長700〜2100nmの範囲の近赤外線の反射率と太陽光中の波長300〜2100nmの範囲の反射率)を計算し、表8に示した。
試料k〜mは、比較試料u(Pigment Black 27<(Co、Fe)(Fe、Cr)2O4>)に比べて、より優れた赤外線反射能を有する黒色系顔料であることがわかった。
【0094】
【表8】

【0095】
実施例33で得た試料gを用いて、比較試料r(二酸化チタン近赤外線反射用白色系材料)と所定量混合して、混合物を得た。また、比較として市販のカーボンブラック(比較試料v、高純度化学研究所製)と比較試料rとを所定量混合して、比較混合物を得た。これらの混合物の日射反射率(太陽光中の波長700〜2100nmの範囲の近赤外線の反射率と太陽光中の波長300〜2100nmの範囲の反射率)を前記の方法で計算し、表9に示した。また、混合物の粉体の色を前記の方法で測定し、その結果を表10に示した。
試料gに比較試料r(二酸化チタン)を混合すると、比較試料rの割合が高くなるにともない日射反射率は徐々に高くなるものの、L値も徐々に高くなる。また、カーボンブラック(比較試料v)に比較試料r(二酸化チタン)を混合しても同じような結果であるが、L値が72〜74のものを比較すると、試料gを混合したものが日射反射率が高くなることがわかった。
【0096】
【表9】

【0097】
【表10】

【0098】
実施例12で得られた試料Lと下記の方法で調製したマンガン酸カルシウム(CaMnO)の水溶出性を下記の方法で評価した。
夫々の試料5gを、塩酸でpH3に調整した水溶液500mlに入れ、pHコントローラー(FD−02、東京硝子器械社製)を使用してpH3に維持しながら、10分後、40分後、120分後、330分後にサンプリングを行った。サンプリングしたスラリーはメンブランフィルター(A045A047A、アドバンテック社製)で濾過し、ろ液を回収した。回収したろ液に含まれるカルシウムイオン濃度を、マルチICP発光分光分析装置(バリアン テクノロジーズ ジャパン リミテッド社製、730−ES型)で測定し、10分後のカルシウムイオン濃度を初期値として、40分後、120分後、330分後の夫々のカルシウムイオン濃度から初期値を差し引いた値を表11に示す。
実施例12の試料Lの水溶出量はマンガン酸カルシウムに比べ大幅に低く、耐水溶出性に優れていることが確認できた。
【0099】
マンガン酸カルシウムの調製方法
炭酸カルシウムCaCO(高純度化学研究所製、99.99%)を5.03g、二酸化マンガンMnO(高純度化学研究所製、99.99%)を2.18g、それぞれ分取し、メノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間焼成を行って、マンガン酸カルシウム(CaMnO)を合成した。
【0100】
【表11】

【0101】
実施例で得られた試料g、n〜qの700〜2100nmにおける日射反射率の結果を表12に示す。また試料g、o、pの水溶出性を前記の方法で評価した結果を表13に示す。
試料n〜qの日射反射率は試料gに比べてそん色がないことがわかった。また、試料g、o、pのカルシウムの水溶出量は実施例33の試料gに比べ大幅に低く、耐水溶出性に優れていることが確認できた。
【0102】
【表12】

【0103】
【表13】

【0104】
更に、実施例で得られた試料g、p、qの水溶出性を下記の方法で評価した結果を表14に示す。
夫々の試料5gを、0.2モル/Lに調整した塩酸水溶液500mL中にいれ(濃度;10g/L)、40℃の温度を維持しながら、2時間の撹拌を行った後、そのスラリーをメンブランフィルター(A045A047A、アドバンテック社製)でろ過し、ろ液を回収した。回収したろ液に含まれるカルシウムイオン濃度を、マルチICP発光分光分析装置(バリアン テクノロジーズ ジャパン リミテッド社製、730−ES型)で測定した(1回目)。
次に、メンブランフィルターに残った粉体を60℃で2時間乾燥し、再度0.2モル/Lに調整した塩酸水溶液500mL中にいれ(濃度;10g/L)、40℃で2時間の撹拌を行い、メンブランフィルターで粉体とろ液を回収して、ろ液は、上記ICP発光分光分析装置でカルシウムイオン濃度を測定した(2回目)。
続いて、この操作を繰り返して、全部で4回のカルシウムイオン濃度を測定し、試料gのカルシウムイオン濃度の測定値から試料p、qのカルシウムイオン濃度の測定値を引いた差分値を表14に示す。
この結果、試料p、qのカルシウムの水溶出量は試料gに比べて低く、耐水溶出性に優れていることが確認できた。
【0105】
【表14】

【0106】
実施例で得られた試料A〜Z、a〜qはいずれも粉末であるため塗料や樹脂組成物に配合できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の赤外線反射材料は、少なくともアルカリ土類金属元素と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素を含み、必要に応じてマンガン及び/又は鉄の元素、周期表IIIa族の元素、亜鉛元素等を含むペロブスカイト型複合酸化物であって、十分な赤外線反射能を有し、しかも、熱安定性、耐熱性にも優れ、安全性、環境問題に懸念がないなど、優れた特徴を有することから、種々の赤外線反射用途に利用することができる。
特に、水にも溶けにくく、溶出による赤外線反射能の低下も少ないため、建築物の屋根や外壁に塗装したり、フィルム、シート等の樹脂組成物としたり、道路や歩道に塗装したりして、ヒートアイランド現象の緩和等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともアルカリ土類金属元素と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素とを含むペロブスカイト型複合酸化物であることを特徴とする赤外線反射材料。
【請求項2】
アルカリ土類金属元素がカルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線反射材料。
【請求項3】
少なくともマグネシウム元素とマグネシウム以外のアルカリ土類金属元素と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素とを含むペロブスカイト型複合酸化物であることを特徴とする赤外線反射材料。
【請求項4】
更にマンガン元素及び/又は鉄元素を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の赤外線反射材料。
【請求項5】
更に周期表IIIa族の元素を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の赤外線反射材料。
【請求項6】
周期表IIIa族の元素がアルミニウム及びガリウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項5に記載の赤外線反射材料。
【請求項7】
更に亜鉛元素を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の赤外線反射材料。
【請求項8】
前記のアルカリ土類金属元素の含有量をαモルとし、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素、マンガン元素及び/又は鉄元素、周期表IIIa族の元素及び亜鉛元素の含有合量をβモルとするとき、1<α/β≦1.5であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の赤外線反射材料。
【請求項9】
層状ペロブスカイト型構造を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の赤外線反射材料。
【請求項10】
ペロブスカイト型複合酸化物の粒子表面に無機化合物及び/又は有機化合物を被覆していることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の赤外線反射材料。
【請求項11】
無機化合物が、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、アンチモン、リン及びスズから選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項10に記載の赤外線反射材料。
【請求項12】
少なくともアルカリ土類金属化合物と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素の化合物とを混合し、焼成することを特徴とするペロブスカイト型複合酸化物系赤外線反射材料の製造方法。
【請求項13】
少なくともマグネシウム化合物とマグネシウム以外のアルカリ土類金属化合物と、チタン、ジルコニウム及びニオブから選ばれる少なくとも一種の元素の化合物とを混合し、焼成することを特徴とするペロブスカイト型複合酸化物系赤外線反射材料の製造方法。
【請求項14】
更にマンガン化合物及び/又は鉄化合物を混合し、焼成することを特徴とする請求項12又は13に記載のペロブスカイト型複合酸化物系赤外線反射材料の製造方法。
【請求項15】
更に周期表IIIa族の元素の化合物を混合し、焼成することを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載のペロブスカイト型複合酸化物系赤外線反射材料の製造方法。
【請求項16】
更に亜鉛化合物を混合し、焼成することを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載のペロブスカイト型複合酸化物系赤外線反射材料の製造方法。
【請求項17】
更にアルカリ金属化合物を混合し、焼成することを特徴とする請求項12〜16のいずれか一項に記載のペロブスカイト型複合酸化物系赤外線反射材料の製造方法。
【請求項18】
請求項12〜17のいずれか一項に記載のペロブスカイト型複合酸化物を再度焼成することを特徴とするペロブスカイト型複合酸化物系赤外線反射材料の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の赤外線反射材料を含有することを特徴とする塗料。
【請求項20】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の赤外線反射材料を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項21】
基材上に請求項19に記載の塗料が塗布されていることを特徴とする赤外線反射材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−202489(P2010−202489A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123042(P2009−123042)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】