説明

赤外線吸収能繊維及び赤外線吸収能付与方法

【課題】
染めにより赤外線吸収能を付与した繊維であっても、さまざまな色模様のスポーツウエア、レオタード及び水着用の色彩に染めることができる赤外線吸収能繊維を提供する。
【解決手段】
鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8を用いて濃度0.5〜1.5%o.w.fで該顔料を繊維に吸着させてなり、CIELAB座標における明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満となっているポリエステル、アクリル、ビニロン及びポリエステルを含有する複合素材から一種選ぶ赤外線吸収能繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線撮影における衣服の透過を防止できる赤外線吸収能繊維及び赤外線吸収能付与方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、赤外線カメラ・ビデオを用いて衣服を透けた状態で撮影する赤外線盗撮(透撮)が社会問題になっており、近赤外線領域の吸収が高い染料を使用して繊維を染色する方法や赤外線吸収剤を合成繊維に練り込んだり、コーティングする方法等により、繊維に赤外線を吸収する性能を付与する技術開発が進んでいる。
【0003】
本発明者等は、金属媒染染料を用いて鉄媒染によって染色することにより黒色又は黒色系以外の色に染める赤外線吸収能付与処理方法を提案している(特許文献1参照)。また、赤外線波長を反射又は吸収する顔料を混合したインキを用いて絵柄等を印刷することにより赤外線吸収能を付与した衣服が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−62652号公報
【特許文献2】特開2008−266834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の赤外線吸収能付与方法では、赤外線吸収能を有する色調に限りがあり、当該色調に染色された赤外線吸収能繊維を裏地やインナーとして用いる場合には衣服の使用箇所や色構成に制限され、スポーツウエア、レオタード及び水着等に採用される奇抜な色彩や模様等の図柄に染色することができないという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、染めにより赤外線吸収能を付与した繊維であっても、さまざまな色模様のスポーツウエア、レオタード及び水着用の色彩に染めることができる赤外線吸収能繊維を得ることを技術的課題として、その具現化をはかるべく研究・実験を重ねた結果、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を用いて該顔料を繊維に吸着させれば、良好な赤外線吸収能を有する繊維を得ることができ、さらに、薄い色相になるように吸着させても波長750nm〜900nm領域の近赤外分光反射率が40%未満となって良好な赤外線吸収能を得ることができ、薄く染まっているので重ねて所望色彩の染料・顔料等で染色する染色加工を施すことができるから、さまざまな色展開が可能になるという刮目すべき知見を得、前記技術的課題を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって解決できる。
【0008】
即ち、本発明に係る赤外線吸収能繊維は、繊維に鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を吸着させてなるものである。
【0009】
また、本発明に係る赤外線吸収能繊維は、繊維に鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を吸着させてなり、CIELAB座標における明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満となっているものである。
【0010】
また、本発明に係る赤外線吸収能繊維は、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を吸着してCIELAB座標における明度L*が60以上となっている繊維を所望の色に染色して波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満となっているものである。
【0011】
また、本発明は、前記いずれかの赤外線吸収能繊維において、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を濃度0.1〜2.0%o.w.f で吸着させてなるものである。
【0012】
また、本発明は、前記赤外線吸収能繊維において、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度が0.1〜0.5%o.w.f であって、繊維がナイロン及びウールから選ばれるものである。
【0013】
また、本発明は、前記赤外線吸収能繊維において、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度が0.5〜1.5%o.w.fであって、繊維がポリエステル、アクリル、ビニロン及びポリエステルを含有する複合素材から一種選ばれるものである。
【0014】
また、本発明は、前記赤外線吸収能繊維において、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度が1.75%o.w.f以上であって、繊維がシルクのものである。
【0015】
また、本発明に係る赤外線吸収能繊維は、ナイロン繊維又はウール繊維に鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を濃度0.3〜0.5%o.w.fで吸着させてなり、CIELAB座標における明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満となっているものである。
【0016】
また、本発明に係る赤外線吸収能繊維は、濃度0.3〜0.5%o.w.fの鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を吸着してCIELAB座標における明度L*が60以上となっているナイロン繊維又はウール繊維を所望の色に染色して波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満となっているものである。
【0017】
また、本発明に係る赤外線吸収能繊維は、ポリエステル繊維に鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を濃度1.0〜1.5%o.w.fで吸着させてなり、CIELAB座標における明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満となっているものである。
【0018】
また、本発明に係る赤外線吸収能繊維は、濃度1.0〜1.5%o.w.fの鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を吸着してCIELAB座標における明度L*が60以上となっているポリエステル繊維を所望の色に染色して波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満となっているものである。
【0019】
また、本発明に係る赤外線吸収能繊維は、シルク繊維に鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8を濃度1.75%o.w.f以上で吸着させてなり、CIELAB座標における明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満となっているものである。
【0020】
また、本発明に係る赤外線吸収能繊維は、濃度1.75%o.w.f以上の鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8を吸着してCIELAB座標における明度L*が60以上となっているシルク繊維を所望の色に染色して波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満となっているものである。
【0021】
また、本発明に係る赤外線吸収能付与方法は、鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8を繊維に吸着させるものである。
【0022】
また、本発明に係る赤外線吸収能付与方法は、鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8を溶解させた浴に繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満になる吸着加工を施す工程を含んでいるものである。
【0023】
また、本発明は、前記いずれかの赤外線吸収能付与方法において、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を濃度0.1〜2.0%o.w.f で吸着させるものである。
【0024】
また、本発明は、前記赤外線吸収能付与方法において、鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8の濃度を0.1〜0.5%o.w.f とし、繊維をナイロン及びウールから選ぶものである。
【0025】
また、本発明は、前記赤外線吸収能付与方法において、鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8の濃度を0.5〜1.5%o.w.fとし、繊維をポリエステル、アクリル、ビニロン及びポリエステルを含有する複合素材から一種選ぶものである。
【0026】
また、本発明は、前記赤外線吸収能付与方法において、鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8の濃度を1.75%o.w.f以上とし、繊維をシルクとしたものである。
【0027】
また、本発明に係る赤外線吸収能付与方法は、鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8を用いてナイロン繊維又はウール繊維に赤外線吸収能を付与する赤外線吸収能付与方法であって、当該Pigment Green 8の濃度が0.3〜0.5%o.w.fとなっている浴にナイロン繊維又はウール繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満になる吸着加工を施す工程を含んでいるものである。
【0028】
また、本発明に係る赤外線吸収能付与方法は、鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8を用いてポリエステル繊維に赤外線吸収能を付与する赤外線吸収能付与方法であって、当該Pigment Green 8の濃度が1.0〜1.5%o.w.fとなっている浴にポリエステル繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満になる吸着加工を施す工程を含んでいるものである。
【0029】
また、本発明に係る赤外線吸収能付与方法は、鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8を用いてシルク繊維に赤外線吸収能を付与する赤外線吸収能付与方法であって、当該Pigment Green 8の濃度が1.75%o.w.f以上となっている浴にシルク繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満になる吸着加工を施す工程を含んでいるものである。
【0030】
また、本発明は、前記いずれかの赤外線吸収能付与方法において、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を繊維に吸着させて該鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8に含まれる鉄分を担持した該繊維を所望の色に染色するものである。
【0031】
また、本発明は、前記赤外線吸収能付与方法において、吸着加工を施す工程の後に、所望の色に染色する工程を備えているものである。
【0032】
また、本発明は、前記赤外線吸収能付与方法において、吸着加工を施す工程と所望の色に染色する工程とを一つの工程として実施するものである。
【0033】
さらに、本発明は、前記赤外線吸収能付与方法において、吸着加工を施す工程と所望の色に染色する工程とを同浴にて同時に行うものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を用いて該顔料を繊維に吸着させて該繊維に鉄分が担持する加工(吸着加工)を施したので、波長750nm〜900nmの波長830nmを含む領域において赤外線反射能を有する繊維を得ることができる。
【0035】
また、本発明によれば、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を濃度0.1〜2.0%o.w.f で吸着させたので、繊維が薄い色相に染色されてCIELAB座標における明度L*が60以上であって、かつ、波長750nm〜900nmの波長830nmを含む領域において赤外線反射率が40%未満となっている繊維を得ることができる。
【0036】
また、本発明によれば、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を吸着させる繊維としてナイロン又はウールを使用した場合には、濃度0.1〜0.5%o.w.fにおいて繊維に吸着させれば、CIELAB座標における明度L*が60以上に染まって色相は薄い緑色を呈していても波長830nmを含む領域において赤外線反射率を40%未満にすることができる。
【0037】
また、本発明によれば、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を吸着させる繊維としてポリエステル、アクリル、ビニロン及びポリエステルを含有する複合素材から一種選ばれるものを使用した場合には、濃度0.5〜1.5%o.w.fにおいて繊維に吸着させれば、CIELAB座標における明度L*が60以上に染まって色相は薄い緑色を呈していても波長830nmを含む領域において赤外線反射率を40%未満にすることができる。
【0038】
また、本発明によれば、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を吸着させる繊維としてシルクを使用した場合には、濃度1.75%o.w.f以上において繊維に吸着させれば、CIELAB座標における明度L*が60以上に染まって色相は薄い緑色を呈していても波長830nmを含む領域において赤外線反射率を40%未満にすることができる。
【0039】
さらに、本発明によれば、赤外線吸収能繊維が薄い色相に染まるから、所望色彩の染料・顔料等で染色する加工を施すことができ、さらに、赤外線反射率の性能が保持されるから、さまざまな色展開を可能にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
先ず、赤外線吸収能繊維について説明する。
【0041】
本実施の形態に係る赤外線吸収能繊維は、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を繊維に吸着させて該繊維に鉄分を担持させる加工を施したものであり、鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8の濃度は0.1〜2.0%o.w.f とするのが良い。
【0042】
前記赤外線吸収能繊維は、波長750nm〜900nmの波長830nmを含む近赤外線領域における赤外線反射率(近赤外分光反射率)が40%未満のものが良く、さらに、染まった被処理繊維の色相はCIELAB座標の明度L*が60以上の薄い色相のものが良い。
【0043】
被処理繊維は、レオタードや水着の素材として主流になっている薄質でストレッチ性のあるポリエステルが最も適しているが、アクリル及びビニロン、であってもよく、さらに、ポリエステルとの混紡・交繊素材(複合素材)であってもよい。ポリエステルとの混紡・交繊素材ではポリエステルが70〜80%含まれていれば、アクリル、ビニロンはもちろんのこと、ウール、ナイロン、シルク、レーヨン及び綿(セルロース系繊維)にも使用できる。なお、シルク単独の場合は、赤外線反射率が40%台のものが含まれているが、十分に赤外線吸収能を有し、CIELAB座標(CIELAB表色系)の明度L*は60以上の値であるから、赤外線吸収能付与処理後の色展開が可能である。
【0044】
被処理繊維としてナイロン又はウールを使用する場合には、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度を0.1〜0.5%o.w.fにすれば、 CIELAB座標における明度L*が60以上に染まって色相は薄い緑色を呈し、波長830nmを含む領域において赤外線反射率が40%未満となる。さらに、濃度0.3〜0.5%o.w.fでは、赤外線反射率が30%未満(特に、ナイロン繊維においては20%未満)となるので好ましい。
【0045】
また、被処理繊維としてポリエステル、アクリル、ビニロン及びポリエステルを含有する複合素材から一種選ばれる繊維を使用する場合には、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度を0.5〜1.5%o.w.fにすれば、CIELAB座標における明度L*が60以上に染まって色相は薄い緑色を呈し、波長830nmを含む領域において赤外線反射率が40%未満となる。鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8の濃度が0.5%o.w.f未満では赤外線反射率が40%を超え、濃度が1.5%o.w.fを超えればCIELAB座標の明度L*が60未満になって繊維が暗い色に染まっているので、濃度0.5〜1.5%o.w.fが好ましく、ポリエステル繊維においては、濃度1.0〜1.5%o.w.fであれば、CIELAB座標の明度L*を60以上の値に維持して赤外線反射率30%未満を実現できるので、特に好ましい。
【0046】
また、被処理繊維としてシルクを使用する場合には、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度を1.75%o.w.f以上にすれば、 CIELAB座標における明度L*が60以上に染まって色相は薄い緑色を呈し、波長830nmを含む領域において赤外線反射率が40%未満となる。具体的には濃度2.0%o.w.f以上では顔料が析出するので、1.75〜2.0%o.w.fで十分である。
【0047】
次に、赤外線吸収能付与方法について説明する。
【0048】
本実施の形態に係る赤外線吸収能付与方法は、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を用いて該顔料を繊維に薄い色相になるように吸着させて該顔料に含まれている鉄分を該繊維に担持させる加工を施す吸着工程を備えている。
【0049】
より具体的には、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を溶解させた処理浴に繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満になる吸着加工を施す。
【0050】
吸着加工を施す鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度は、ナイロン繊維やウール繊維に対しては0.1〜0.5%o.w.fとすればよく、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維及びポリエステル繊維を含有する複合素材に対しては0.5〜1.5%o.w.fとすればよく、シルク繊維に対しては1.75%o.w.f以上とすればよい。
【0051】
即ち、ナイロン繊維に赤外線吸収能を付与する赤外線吸収能付与方法では、Pigment Green 8の濃度が0.3〜0.5%o.w.fとなっている処理浴にナイロン繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満(20%未満)になる吸着加工を施す吸着工程を含んでおり、ウール繊維に赤外線吸収能を付与する赤外線吸収能付与方法では、PigmentGreen 8の濃度が0.3〜0.5%o.w.fとなっている処理浴にウール繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満になる吸着加工を施す吸着工程を含んでおり、ポリエステル繊維に赤外線吸収能を付与する赤外線吸収能付与方法では、PigmentGreen 8の濃度が1.0〜1.5%o.w.fとなっている処理浴にポリエステル繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満になる吸着加工を施す吸着工程を含んでおり、シルク繊維に赤外線吸収能を付与する赤外線吸収能付与方法では、PigmentGreen 8の濃度が1.75〜2.0%o.w.fとなっている処理浴にシルク繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が70以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満になる吸着加工を施す吸着工程を含んでいる。
【0052】
本実施の形態に係る赤外線吸収能付与方法は、鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を液中に分散させてキャリアー剤、酢酸及び酢酸ナトリウムを調合した処理浴に被処理繊維を浸漬して常圧又は加圧下で該顔料をCIELAB座標の明度L*が60以上になるように吸着させれば、波長750nm〜900nm領域における赤外線反射率が40%未満となり、CIELAB座標の明度L*は60以上の薄い緑色を呈しているので、商品化において色調制限のない呈色を得ることができる。
【0053】
例えば、鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8をタモール系分散剤とポリビニルピロリドンとを用いて、若しくはノニオン系活性剤(エパン485:第一工業製薬株式会社製)を用いて分散させて、ノニオン系活性剤(SNスパース70:サンノプコ株式会社製)をキャリヤー剤としてC.I.Pigment Green 8濃度0.5〜1.5%o.w.fの浴・常圧100℃下にて被処理繊維(ポリエステル素材)に前記顔料を吸着させればよい。
【0054】
前記吸着加工を施したポリエステル素材は、CIELAB座標の明度L*が60以上の薄い緑色(JIS L 0808 標準染色濃度表3号(1/6)色票記号12と同等)の色相を呈し、且つ、近赤外線領域830nmの分光反射率が40%未満である。
【0055】
また、鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8をタモール系分散剤とポリビニルピロリドンとを用いて分散させ、キャリヤー剤(濃度1%o.w.fキャリヤジンCD-W:日成化成株式会社製)と90%酢酸0.2g/Lと酢酸ナトリウム0.2g/Lとを調合してポリエステル素材対浴(以下、「浴比」という。)1:20で130℃下30分間加圧処理した後、85℃下20分の還元剤洗浄処理してもよい。
【0056】
鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8濃度1.0〜1.5%o.w.fにおいて吸着加工を施したポリエステル素材は薄い緑色の色相を呈し、且つ、近赤外線領域830nmの分光反射率が30%未満となっているので、鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8を吸着させて該鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8に含まれる鉄分を担持させた繊維を所望色彩の各種カチオン染料により染色加工を施すことによって、オリーブ色、茶色、紅色、赤紫色、青紫色、青色及び黒色等へ色展開することができる。
【0057】
前記染色加工を施す所望の色に染色する工程は、吸着加工を施す工程の後に別浴にて実施する場合、吸着加工を施す工程と所望の色に染色する工程とを一つの工程として実施する場合、及び、吸着加工を施す工程と所望の色に染色する工程とを同浴にて同時に実施する場合があるが、いずれの処理方法であっても同様の色展開をするができる。
【実施例】
【0058】
実施例1
分散処理工程:鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8(Chempro Exports/Chem India Pigments製)と分散剤(デモールRN:北広ケミカル株式会社製)とポリビニルピロリドンとを重量比1:1:1の比率で水中に分散させた。
【0059】
赤外線吸収能付与処理工程(吸着加工を施す工程):前記分散液にキャリヤー剤(キャリヤジンCD-W)1%o.w.fと90%酢酸0.2g/Lと酢酸ナトリウム0.2g/Lとを加えた浴に被処理繊維としてカチオン可染ポリエステル地(CDP)を浴比1:20の割合で浸漬し、130℃下30分間の加圧処理を行って前記顔料を吸着させた。C.I.Pigment Green 8の濃度は1.0%o.w.fであった。
【0060】
洗浄処理工程:その後、前記カチオン可染ポリエステル地をラッコールSMパウダー(明成化学工業株式会社製)1.0g/Lとハイドロサルファイト1.0g/Lとからなる浴内において浴比1:20で85℃下20分間の還元処理を行って洗浄した。
【0061】
処理後のカチオン可染ポリエステル地の色合いを目視により判断してCIELAB座標により色を数値化し、色相をJIS L 0808 標準染色濃度表3号(標準濃度の1/6)と比較した。また、スペクトル測定方法によって830nm及び960nmにおける赤外線反射率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0062】
なお、前記CIELAB(L*a*b*色素系)座標値はJISZ 8729に準拠して求めた。測定には分光光度計(datacolor SF-600plus)と数値化ソフト(CHROMA CALC)を用いて実施した。また、前記スペクトル測定方法は、分光光度計(V-570:日本分光株式会社製)を使用してサンプル染色布を白色板に密着させて貼付して当該サンプル布表面をスペクトル測定する方法によった。
【0063】
実施例2:浴のC.I.Pigment Green 8濃度を1.5%o.w.fとした外、実施例1と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地に顔料を吸着させた。結果を表1に示す。
【0064】
実施例3:被処理繊維をポリトリメチレンテレフタレート地(PTT)とし、浴のC.I. Pigment Green 8濃度を1.5%o.w.fとした外、実施例1と同様の方法によりポリトリメチレンテレフタレート地に顔料を吸着させた。結果を表1に示す。
【0065】
比較例1:染料としてKayacrylYellow 3RL-ED(C.I. Basic Yellow 67:日本化薬株式会社製)0.171%o.w.f、Kayacryl Blue BG-ED(日本化薬株式会社製)0.036%o.w.f及びC.D.P.N.Red GL-ID(C.I. Basic Red 46:日本化薬株式会社製)0.0196%o.w.fの三種類を配合し、染色助剤としてデスパロン100AW-N(日成化成株式会社製)1.0%o.w.fと、90%酢酸0.2g/Lと酢酸ナトリウム0.2g/Lとを加えて配合した染浴にカチオン可染ポリエステル地を浴比1:20の割合で浸漬し、110℃下30分間染色した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
本実施例1〜3によれば、C.I. Pigment Green 8を使用して該顔料をポリエステルに吸着加工を施して鉄分を担持させることにより、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満となって、赤外線吸収能が付与されていた。また、C.I.Pigment Green 8による被処理繊維の色相は薄い緑を呈し、CIELAB座標のL*値は60台であった。なお、比較例1は、実施例1と略同等のCIELAB座標値となるように染料を配合してカチオン可染ポリエステル地を染色したものであるが、赤外線反射率は96.9%であり、ほとんど赤外線吸収能を示さなかった。
【0068】
CIELAB座標値は、明度をL*、色度をa*、b*で表し、L*値がプラスである程、白方向を示し、マイナスである程、黒方向を示し、a*値がプラスである程、赤方向を示し、マイナスである程、緑方向を示し、b*値がプラスである程、黄方向を示し、マイナスである程、青方向を示すので、L*値が60より大きい程、明度は明るいから、様々な色展開が可能となり、L*値が60より小さい程、明度は暗いから、黒や紺、焦げ茶、濃い緑等に配合色が限定され、色展開が難しく、L*60は赤外線吸収能付与処理後の色展開が可能な薄い緑色の色相の基準とすることができることを確認した。
【0069】
また、標準染色濃度表3号における色目の近い色票記号11〜14のCIELAB座標値を測定したところ、表2に示すように、L*60以上の値であった。これにより、色票記号11〜14はL*値が60以上であり、赤外線吸収能付与処理後の色展開が可能な薄い緑色の色相の基準とすることができることを確認した。
【0070】
【表2】

【0071】
実施例4
分散処理工程:C.I.Pigment Green 8(Chempro Exports/Chem India Pigments製)と分散剤(エパン485:第一工業製薬株式会社製)とを重量比1:1の比率で水中に分散させた。
【0072】
赤外線吸収能付与処理工程:前記分散液に90%酢酸0.5%o.w.fと酢酸ナトリウム0.5%o.w.fとを加えた浴にカチオン可染ポリエステル地を浴比1:60の割合で浸漬し、40℃から60℃まで1℃/分の速度で昇温し、60℃に達した時点でキャリヤー剤(SNスパース70:サンノプコ株式会社製)10.0%o.w.fを投入し、さらに、1℃/分の速度で100℃まで昇温し、その後、100℃下90分間の常圧処理を行って前記顔料を吸着させた。C.I.Pigment Green 8の濃度は0.25%o.w.fであった。結果を表3に示す。
【0073】
実施例5:C.I.Pigment Green 8濃度を0.5%o.w.fとした外、実施例4と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地に吸着加工を施した。結果を表3に示す。
【0074】
実施例6:C.I.Pigment Green 8濃度を1.0%o.w.fとした外、実施例4と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地に吸着加工を施した。結果を表3に示す。
【0075】
実施例7:C.I.Pigment Green 8濃度を1.5%o.w.fとした外、実施例4と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地に吸着加工を施した。結果を表3に示す。
【0076】
実施例8
分散処理工程:C.I.Pigment Green 8(Chempro Exports/Chem India Pigments製)と分散剤(デモールRN:北広ケミカル株式会社製)とポリビニルピロリドンとを重量比1:1:1の比率で水中に分散させた。
【0077】
赤外線吸収能付与処理工程:前記分散液に90%酢酸0.5%o.w.fと酢酸ナトリウム0.5%o.w.fとを加えた浴にカチオン可染ポリエステル地を浴比1:60の割合で浸漬し、40℃から60℃まで1℃/分の速度で昇温し、60℃に達した時点でキャリヤー剤(SNスパース70:サンノプコ株式会社製)10.0%o.w.fを投入し、さらに、1℃/分の速度で100℃まで昇温し、その後、100℃下90分間の常圧処理を行って前記顔料を吸着させた。C.I.Pigment Green 8の濃度は1.5%o.w.fであった。結果を表3に示す。
【0078】
実施例9:C.I.Pigment Green 8濃度を2.0%o.w.fとした外、実施例4と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地に吸着加工を施した。結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
実施例4〜9によれば、C.I. Pigment Green 8の濃度を高くするほど、近赤外線領域の分光反射率が下がり(赤外線吸収能が高まり)、透撮防止効果が良好であるが、赤外線吸収能付与処理後のL*値が下がり(色相が濃くなり)、用途に応じたその後の色展開のための染色加工を施すことが難しくなる。従って、赤外線吸収能とその後の色展開との両方を満足させる条件は、C.I.Pigment Green 8濃度0.5〜1.5%o.w.f、さらに良いのは1.0〜1.5%o.w.fであった。
【0081】
実施例10
分散処理工程:C.I.Pigment Green 8(Chempro Exports/Chem India Pigments製)と分散剤(デモールRN:北広ケミカル株式会社製)とポリビニルピロリドンとを重量比1:1:1の比率で水中に分散させた。
【0082】
赤外線吸収能付与処理工程:当該分散液にキャリヤー剤(キャリヤジンCD-W)3.0%o.w.fと、90%酢酸0.2g/Lと酢酸ナトリウム0.2g/Lとを加えた浴にカチオン可染ポリエステル地を浴比1:20の割合で浸漬し、120℃下30分間の加圧処理を行って前記顔料を吸着させた。C.I.Pigment Green 8濃度は1.5%o.w.fであった。カチオン可染ポリエステル地のCIELAB座標値における明度L*は60.63であった。
【0083】
染色処理工程(所望の色に染色する工程):染料としてC.I. Basic Yellow 28(Nichilon Golden Yellow GL:日成化成株式会社製)4.0%o.w.f、染色助剤としてアボランUL75(バイエル社製)1.0g/L、さらに、90%酢酸0.2g/Lと酢酸ナトリウム0.2g/Lとを加えて配合した染浴に前記赤外線吸収能付与処理を施したカチオン可染ポリエステル地を浴比1:20の割合で浸漬し、110℃下30分間染色した。結果を表4に示す。
【0084】
比較例2
カチオン可染ポリエステル地を染料C.I. Basic Yellow 28(Nichilon Golden Yellow GL:日成化成株式会社製)4.0%o.w.f、染色助剤(アボランUL75:バイエル社製)1.0g/L、90%酢酸0.2g/L及び酢酸ナトリウム0.2g/Lを加えて配合した染浴に浴比1:20の割合で浸漬し、110℃下30分間染色した。結果を表4に示す。
【0085】
実施例11:染色処理工程における染料をNichilon Red RS(日成化成株式会社製)4.0%o.w.fとした外、実施例10と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表4に示す。
【0086】
比較例3:染料をNichilonRed RS(日成化成株式会社製)4.0%o.w.fとした外、比較例2と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表4に示す。
【0087】
実施例12:染色処理工程における染料をAstorazon Blue FGRL micro(DyStar社製)4.0%o.w.fとした外、実施例10と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表4に示す。
【0088】
比較例4:染料をAstorazonBlue FGRL micro(DyStar社製)4.0%o.w.fとした外、比較例2と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表4に示す。
【0089】
実施例13:染色処理工程における染料をAstorazon Black FDL 200%(DyStar社製)2.5%o.w.fとした外、実施例10と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表4に示す。
【0090】
比較例5:染料をAstorazonBlack FDL 200%(DyStar社製)2.5%o.w.fとした外、比較例2と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表4に示す。
【0091】
実施例14:染色処理工程における染料をKayacryl Yellow 3RL-ED(日本化薬株式会社製)3.0%o.w.f、染色助剤をデスパロン100AW-N(高松油脂株式会社製)1.0%o.w.fとした外、実施例10と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表4に示す。
【0092】
比較例6:染料をKayacrylYellow 3RL-ED(日本化薬株式会社製)3.0%o.w.f、染色助剤をデスパロン100AW-N濃度1.0%o.w.fとした外、比較例2と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表4に示す。
【0093】
実施例15:染色処理工程における染料をC.I. Basic Red 46(C.D.P.N. Red GRL-ID)3.0%o.w.f、染色助剤をデスパロン100AW-N濃度1.0%o.w.fとした外、実施例10と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表4に示す。
【0094】
比較例7:染料をC.I.Basic Red 46(C.D.P.N. Red GRL-ID)3.0%o.w.f、染色助剤をデスパロン100AW-N濃度1.0%o.w.fとした外、比較例2と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表4に示す。
【0095】
実施例16:染色処理工程における染料をKayacryl Blue BG-ED(日本化薬株式会社製)3.0%o.w.f、染色助剤をデスパロン100AW-N濃度1.0%o.w.fとした外、実施例10と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表4に示す。
【0096】
比較例8:染料をKayacrylBlue BG-ED(日本化薬株式会社製)3.0%o.w.f、染色助剤をデスパロン100AW-N濃度1.0%o.w.fとした外、比較例2と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表4に示す。
【0097】
【表4】

【0098】
実施例10〜16によれば、ポリエステルをC.I. Pigment Green 8により処理すれば、さまざまな染料を用いて用途に応じたその後の色展開のための染色加工を施しても近赤外線領域830nmの分光反射率は40%未満であった。
【0099】
実施例17
分散処理工程:C.I.Pigment Green 8(Chempro Exports/Chem India Pigments製)と分散剤(デモールRN:北広ケミカル株式会社製)とポリビニルピロリドンとを重量比1:1:1の比率で水中に分散させた。
【0100】
赤外線吸収能付与処理工程:当該分散液に水道水を加え、被処理繊維としてアクリル(アクリルジャージー:株式会社色染社製)を投入して浴比1:60の処理液を調製した後、40℃から100℃まで1℃/分の速度で昇温し、100℃下60分間常圧処理を実施した。C.I. PigmentGreen 8の濃度は1.0%o.w.f、処理浴のpHは7〜8であった。結果を表5に示す。
【0101】
実施例18
分散処理工程:C.I.Pigment Green 8(Chempro Exports/Chem India Pigments製)と分散剤(デモールRN:北広ケミカル株式会社製)とポリビニルピロリドンとを重量比1:1:1の比率で水中に分散させた。
【0102】
赤外線吸収能付与処理工程:当該分散液に90%酢酸0.5%o.w.f及び酢酸ナトリウム0.5%o.w.fを加え、被処理繊維としてアクリル(アクリルジャージー:株式会社色染社製)を投入して浴比1:60の処理液を調製した後、40℃から60℃まで1℃/分の速度で昇温し、60℃に達した時点でキャリヤー剤(キャリヤジンCD-W)10.0%o.w.fを投入し、さらに、1℃/分の速度で100℃まで昇温し、100℃下60分間常圧処理を実施した。C.I.Pigment Green 8の濃度は1.0%o.w.f、処理浴のpHは5付近であった。結果を表5に示す。
【0103】
実施例19,20:被処理繊維をビニロン(ビニロンブロード:株式会社色染社製)とした外、実施例19は実施例17と同様の方法により処理し、実施例20は実施例18と同様の方法により処理した。結果を表5に示す。
【0104】
【表5】

【0105】
実施例17〜20によれば、繊維素材としてポリエステルに加えて、アクリル及びビニロンをも選択できる。
【0106】
実施例21〜25
分散処理工程:C.I.Pigment Green 8(Chempro Exports/Chem India Pigments製)と分散剤(デモールRN:北広ケミカル株式会社製)とポリビニルピロリドンとを重量比1:1:1の比率で水中に分散させた。
【0107】
赤外線吸収能付与処理工程:当該分散液に90%酢酸0.5%o.w.f、酢酸ナトリウム0.5%o.w.f及び水道水を加え、被処理繊維として絹(精華パレス:株式会社色染社製)を入れて浴比1:60の処理液を調製した後、40℃から60℃まで1℃/分の速度で昇温し、60℃に達した時点でキャリヤー剤(キャリヤジンCD-W)10.0%o.w.fを投入し、さらに、1℃/分の速度で100℃まで昇温し、100℃下60分間常圧処理を実施した。処理浴のpHは5付近であった。C.I.Pigment Green 8の濃度及び結果を表6に示す。
【0108】
実施例26〜30
分散処理工程:C.I.Pigment Green 8(Chempro Exports/Chem India Pigments製)と分散剤(デモールRN:北広ケミカル株式会社製)とポリビニルピロリドンとを重量比1:1:1の比率で水中に分散させた。
【0109】
赤外線吸収能付与処理工程:当該分散液に90%酢酸0.5%o.w.f、酢酸ナトリウム0.5%o.w.f及び水道水を加え、被処理繊維としてナイロン(ナイロン66ジャージー:株式会社色染社製)を入れて浴比1:60の処理液を調製した後、40℃から100℃まで1℃/分の速度で昇温し、100℃下60分間常圧処理を実施した。処理浴のpHは5付近であった。C.I.Pigment Green 8の濃度及び結果を表6に示す。
【0110】
実施例31〜35
被処理繊維を羊毛(羊毛サージ:株式会社色染社製)とした外、実施例21〜25と同様の方法により処理した。C.I. Pigment Green 8の濃度及び結果を表6に示す。
【0111】
【表6】

【0112】
実施例21〜25によれば、C.I. Pigment Green 8の濃度1.75〜2.0%o.w.fにおいてCIELAB座標の明度L*が60以上、且つ、波長750nm〜900nm領域である近赤外線領域830nmにおける赤外線反射率40%未満を示し、濃度1.0〜1.5%o.w.fでは、近赤外線領域830nmの分光反射率が40%未満ではないが、40%台を示していた。
【0113】
実施例26〜30によれば、C.I. Pigment Green 8の濃度0.3〜0.5%o.w.fにおいてCIELAB座標の明度L*が60以上、近赤外線領域830nmにおける赤外線反射率30%未満(20%未満)を示すと共に、濃度0.1%o.w.fにおいてCIELAB座標の明度L*が60以上、近赤外線領域830nmにおける赤外線反射率40%未満を示していた。また、濃度0.7〜1.0%o.w.fでは、近赤外線領域830nmにおける赤外線反射率30%未満(20%未満)を示したが、CIELAB座標の明度L*は50台であった。
【0114】
実施例31〜35によれば、C.I. Pigment Green 8の濃度0.3〜0.5%o.w.fにおいてCIELAB座標の明度L*が60以上、近赤外線領域830nmにおける赤外線反射率30%未満を示すと共に、濃度0.1%o.w.fにおいてCIELAB座標の明度L*が60以上、近赤外線領域830nmにおける赤外線反射率40%未満を示していた。また、濃度0.7〜1.0%o.w.fでは、近赤外線領域830nmにおける赤外線反射率30%未満(20%未満)を示したが、CIELAB座標の明度L*は50台であった。
【0115】
これにより、C.I. Pigment Green 8の使用量は、吸着が困難な繊維においてはシルクに見るように高い濃度を必要とするが、ナイロン及び羊毛を例とする吸着しやすい繊維においては濃度0.5%o.w.f以下でも赤外線吸収能を有する処理条件とできることを確認した。
【0116】
実施例36(別浴処理)
先ず、C.I. Pigment Green 8(Chempro Exports/Chem India Pigments製)と分散剤(デモールRN:北広ケミカル株式会社製)とポリビニルピロリドンとを重量比1:1:1の比率で水中に分散させた(分散処理工程)。
【0117】
続いて、前記分散液にキャリヤー剤(キャリヤジンCD-W)3.0%o.w.fと90%酢酸0.2g/Lと酢酸ナトリウム0.2g/Lとを加えた吸着処理浴に被処理繊維としてカチオン可染ポリエステル地(CDP)を浴比1:20の割合で浸漬し、120℃下30分間の加圧処理を行って前記顔料を吸着させた(吸着処理工程)。C.I.Pigment Green 8の濃度は1.5%o.w.fであった。
【0118】
この後、別浴にて、染料としてNichilon Golden Yellow GL(C.I. Basic Yellow 28)4.0%o.w.f、染色助剤としてアボランUL75(バイエル社製)1.0g/L、さらに、90%酢酸0.2g/Lと酢酸ナトリウム0.2g/Lとを加えて配合して染浴とし、該染浴に前記赤外線吸収能付与処理を施したカチオン可染ポリエステル地を浴比1:20の割合で浸漬し、110℃下30分間染色した(染色処理工程)。結果を表7に示す。
【0119】
実施例37(同浴処理)
先ず、実施例36と同様に、C.I. Pigment Green 8と分散剤(デモールRN)とポリビニルピロリドンとを重量比1:1:1の比率で水中に分散させた(分散処理工程)。
【0120】
次いで、前記分散液に、染料としてNichilon Golden Yellow GL(C.I. Basic Yellow 28)4.0%o.w.f、染色助剤としてアボランUL75(バイエル社製)1.0g/L、キャリヤー剤としてキャリヤジンCD-Wを3.0%o.w.f、さらに、90%酢酸0.2g/Lと酢酸ナトリウム0.2g/Lとを加えて配合した吸着・染色処理浴に被処理繊維としてカチオン可染ポリエステル地(CDP)を浴比1:20の割合で浸漬し、120℃下30分間の加圧処理を行った(吸着・染色処理工程)。C.I.Pigment Green 8の濃度は1.5%o.w.fであった。結果を表7に示す。
【0121】
比較例9
先ず、染料として0.171%o.w.fのKayacryl Yellow 3RL-ED、0.036%o.w.f のKayacryl Blue BG-ED及び0.0196%o.w.f のC.D.P.N.Red GL-ID(C.I. Basic Red 46)の三種類を配合し、染色助剤として1.0%o.w.fのデスパロン100AW-Nと、90%酢酸0.2g/Lと酢酸ナトリウム0.2g/Lとを加えて配合した染浴にカチオン可染ポリエステル地を浴比1:20の割合で浸漬し、110℃下30分間染色した。
【0122】
次いで、別浴にて、染料としてNichilon Golden Yellow GL(C.I. Basic Yellow 28)4.0%o.w.f、染色助剤としてアボランUL75(バイエル社製)1.0g/L、さらに、90%酢酸0.2g/Lと酢酸ナトリウム0.2g/Lとを加えて配合し、前記染浴で染色したカチオン可染ポリエステル地を浴比1:20の割合で浸漬し、110℃下30分間染色した。結果を表7に示す。
【0123】
実施例38(別浴処理):染色処理工程における染料Nichilon Golden Yellow GLに代えて4.0%o.w.f のNichilon Red RSとした外、実施例36と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表7に示す。
【0124】
実施例39(同浴処理):吸着・染色処理工程における染料Nichilon Golden Yellow GLに代えて4.0%o.w.f のNichilon Red RSとした外、実施例37と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表7に示す。
【0125】
比較例10:別浴におけるNichilon Golden Yellow GLに代えて4.0%o.w.f のNichilon Red RSとした外、比較例9と同様の方法にてカチオン可染ポリエステル地を処理した。結果を表7に示す。
【0126】
【表7】

【0127】
表7によれば、繊維への吸着処理と染色処理とを別浴にて行った実施例36及び実施例38と、吸着加工を施す工程と所望の色に染色する工程とを一つの工程として繊維への吸着処理と染色処理とを同浴にて同時に行った実施例37及び実施例39とにおける赤外線吸収能付与効果と色相再現性とは、ほぼ同等の結果であった。従って、吸着処理と染色処理とを同浴にて実施すれば、コストダウンを図ることができ、実用性にも適した方法といえる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明によれば、波長750nm〜900nm領域である近赤外線領域830nmにおける赤外線反射率が40%未満であって、CIELAB座標の明度L*が60以上の薄い緑色を呈するので、色展開が可能となり、奇抜な色彩や模様等の図柄に染色する染色加工を施すことができるから、さまざまな色彩の色模様デザインを施した赤外線吸収能スポーツウエア、レオタード及び水着を提供できる。
【0129】
従って、本発明の産業上利用性は非常に高いといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維に鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を吸着させてなる赤外線吸収能繊維。
【請求項2】
繊維に鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を吸着させてなり、CIELAB座標における明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満であることを特徴とする赤外線吸収能繊維。
【請求項3】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を吸着してCIELAB座標における明度L*が60以上となっている繊維を所望の色に染色してなる、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満である赤外線吸収能繊維。
【請求項4】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を濃度0.1〜2.0%o.w.f で吸着させてなる請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の赤外線吸収能繊維。
【請求項5】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度が0.1〜0.5%o.w.f であって、繊維がナイロン又はウールである請求項4記載の赤外線吸収能繊維。
【請求項6】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度が0.5〜1.5%o.w.fであって、繊維がポリエステル、アクリル、ビニロン及びポリエステルを含有する複合素材から一種選ばれる請求項4記載の赤外線吸収能繊維。
【請求項7】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度が1.75%o.w.f以上であって、繊維がシルクである請求項4記載の赤外線吸収能繊維。
【請求項8】
ナイロン繊維又はウール繊維に鉄含金顔料C.I. PigmentGreen 8を濃度0.3〜0.5%o.w.fで吸着させてなり、CIELAB座標における明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満であることを特徴とする赤外線吸収能繊維。
【請求項9】
濃度0.3〜0.5%o.w.fの鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8を吸着してCIELAB座標における明度L*が60以上となっているナイロン繊維又はウール繊維を所望の色に染色してなる、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満である赤外線吸収能繊維。
【請求項10】
ポリエステル繊維に鉄含金顔料C.I. PigmentGreen 8を濃度1.0〜1.5%o.w.fで吸着させてなり、CIELAB座標における明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満であることを特徴とする赤外線吸収能繊維。
【請求項11】
濃度1.0〜1.5%o.w.fの鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8を吸着してCIELAB座標における明度L*が60以上となっているポリエステル繊維を所望の色に染色してなる、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満である赤外線吸収能繊維。
【請求項12】
シルク繊維に鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を濃度1.75%o.w.f以上で吸着させてなり、CIELAB座標における明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満であることを特徴とする赤外線吸収能繊維。
【請求項13】
濃度1.75%o.w.f以上の鉄含金顔料C.I.Pigment Green 8を吸着してCIELAB座標における明度L*が60以上となっているシルク繊維を所望の色に染色してなる、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満である赤外線吸収能繊維。
【請求項14】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を繊維に吸着させることを特徴とする赤外線吸収能付与方法。
【請求項15】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を溶解させた浴に繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満になる吸着加工を施す工程を含んでいる請求項14記載の赤外線吸収能付与方法。
【請求項16】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を濃度0.1〜2.0%o.w.f で吸着させる請求項14又は請求項15記載の赤外線吸収能付与方法。
【請求項17】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度が0.1〜0.5%o.w.f であって、繊維がナイロン又はウールである請求項16記載の赤外線吸収能付与方法。
【請求項18】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度が0.5〜1.5%o.w.fであって、繊維がポリエステル、アクリル、ビニロン及びポリエステルを含有する複合素材から一種選ばれる請求項16記載の赤外線吸収能付与方法。
【請求項19】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8の濃度が1.75%o.w.f以上であって、繊維がシルクである請求項16記載の赤外線吸収能付与方法。
【請求項20】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を用いてナイロン繊維又はウール繊維に赤外線吸収能を付与する赤外線吸収能付与方法であって、当該PigmentGreen 8の濃度が0.3〜0.5%o.w.fとなっている浴にナイロン繊維又はウール繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満になる吸着加工を施す工程を含んでいることを特徴とする赤外線吸収能付与方法。
【請求項21】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を用いてポリエステル繊維に赤外線吸収能を付与する赤外線吸収能付与方法であって、当該PigmentGreen 8の濃度が1.0〜1.5%o.w.fとなっている浴にポリエステル繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が30%未満になる吸着加工を施す工程を含んでいることを特徴とする赤外線吸収能付与方法。
【請求項22】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を用いてシルク繊維に赤外線吸収能を付与する赤外線吸収能付与方法であって、当該PigmentGreen 8の濃度が1.75%o.w.f以上となっている浴にシルク繊維を漬浸してCIELAB座標の明度L*が60以上であって、かつ、波長830nmにおける赤外線反射率が40%未満になる吸着加工を施す工程を含んでいることを特徴とする赤外線吸収能付与方法。
【請求項23】
鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8を繊維に吸着させて該鉄含金顔料C.I. Pigment Green 8に含まれる鉄分を担持した該繊維を所望の色に染色する請求項15乃至請求項22のいずれかに記載の赤外線吸収能付与方法。
【請求項24】
吸着加工を施す工程の後に、所望の色に染色する工程を備えている請求項23記載の赤外線吸収能付与方法。
【請求項25】
吸着加工を施す工程と所望の色に染色する工程とを一つの工程として実施する請求項23記載の赤外線吸収能付与方法。
【請求項26】
吸着加工を施す工程と所望の色に染色する工程とを同浴にて同時に行う請求項23記載の赤外線吸収能付与方法。

【公開番号】特開2012−26045(P2012−26045A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162858(P2010−162858)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(596054467)朝倉染布株式会社 (7)
【出願人】(000179306)山田化学工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】