説明

赤外線放射によるプラスチック加熱の改善

少なくとも1つの電磁放射線源によってプラスチックを加熱するプロセスであって、該プロセスは、前記電磁放射線を、赤外線域において、以下の範囲:
1110〜1160 nm、
1390〜1450 nm、
1610〜1650 nm、
1675〜1700 nm、
1880〜2100 nm、
2170〜2230 nm、
の1つに含まれる波長または波長スペクトルで出射すること、を特徴とするプロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック、特には熱可塑性プラスチックの加熱に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性プラスチックの加熱は、多くの分野で使用されている。産業界で最も使用されるのは、部品成形である。しかしながら複数の成形技法があり、技法によって異なる種類の加熱が必要である。
【0003】
特定の成形技法では、熱可塑性プラスチックを、該プラスチックの溶融点より高温で加熱し、それにより流動性を持たせ、流動性を有する状態から成形する。例として、押出成形、射出成形または他の回転成形(ロトモールディング)が、挙げられるであろう。
【0004】
他の技法では、熱可塑性プラスチックを、ガラス転移温度より高温だが、溶融点未満で加熱し、それにより材料に延性を与え、該材料を成形可能にする。例として、熱成形またはブロー成形、特には、射出ブロー成形または二軸配向射出ブロー成形が挙げられる。これらの技法では、材料の加熱を上述した他の技法より緩やかに行うが、それは加熱を正確に制御することが必須なためである。こうした加熱は、一般的に炉内において放射によって行われ、被加熱体を加熱要素と接触させない。
【0005】
産業状況では、言うまでもなく、加熱時間が重要なパラメータとなるが、これは生産に課せられる生産速度が一般的に極めて速いためである。このため、他のパラメータ、特に加熱の均一性、材料内部への放射熱の貫通、及びエネルギ効率を損なうこと無く、加熱時間をできるだけ短縮することが望ましいと考えられる。
【0006】
スペクトル全体の内、赤外線放射のみが、加熱に真に有用なことが知られている。
【0007】
産業界、特に熱可塑性プラスチック製ブランク(プリフォームまたは中間容器)からの容器製造業では、ハロゲンランプを備えたオーブンを使用するが、該ランプには、強力であるという長所があるが、スペクトル全体に亘り放射し、それにより消費パワーの一部を純損失として放射してしまい、オーブンの全体的な効率が、相対的に低下するという短所がある。
【0008】
加熱時間を短縮しつつ、オーブンの効率を高めるために、本出願者は、国際出願第WO 2006/056673号において、コヒーレントなビーム、特には単色の電磁ビーム、更に詳細には、レーザダイオードから出射してもよいレーザを使用し、それによりプリフォームの加熱を行うようにすることについて、近年提案した。
【0009】
この技法は有望で、改善する価値がある、というのも本発明者らは、そのようにして行った加熱では、選択材料によっては一定の成果を得られないことに、気付いたためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1目的は、従って、加熱の汎用性を向上でき、それにより様々な異なる材料に対して、加熱時間、加熱の均一性、及びエネルギ効率の間で妥協できるようにする、解決方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのために、本発明では、少なくとも1つの電磁放射線源によってプラスチックを加熱するプロセスを提供し、そのために該放射線を赤外線域において、以下の範囲の1つに含まれる波長で、または波長スペクトルで出射する:
1110〜1160 nm、
1390〜1450 nm、
1610〜1650 nm、
1675〜1700 nm、
1880〜2100 nm、
2170〜2230 nm、
及び、好適には以下の範囲の1つとする:
1110〜1150 nm、
1400〜1430 nm、
1627〜1647 nm、
1680〜1695 nm、
1890〜1906 nm、
1920〜1950 nm、
2074〜2094 nm、
2188〜2216 nm。
【0012】
好適実施例によれば、赤外線の放射波長の値を、以下の値の1つと略等しくしてもよい:
1130 nm、
1414 nm、
1637 nm、
1688 nm、
1898 nm、
1935 nm、
2084 nm、
2205 nm。
【0013】
更に、特定の1実施例では、複数の放射線を異なる波長、または異なるスペクトルで出射してもよく、該各波長は上記範囲の1つに含まれる、または上記で挙げた値の1つを有する。
【0014】
電磁放射線を、好適には、単色または準単色とする。電磁放射線源については、例えば、レーザとする。
【0015】
このプロセスを、特に:
ブランクから容器を製造するために該ブランクを加熱すること、或は
熱成形により被成形物を製造するためにホイルまたはシートを加熱すること、
に適用してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の他の対象及び効果については、以下の実施例に関する記述に照らして、明らかになるであろう。
【0017】
本提案プロセスでは、完成品を得るための次なる変形を視野に入れて、熱可塑性プラスチック製の中間被成形物を加熱することを、目的としている。該中間被成形物を、特に広口容器(例えば、箱)等の被成形物を得るために、熱成形することを意図した薄いシート、或は狭口容器(瓶等)を得るために、ブロー成形または延伸ブロー成形することを意図したプリフォームとしてもよい。
【0018】
想定される材料の内、特に挙げられるのは、ポリエチレン・テレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)及びポリ乳酸(PLA)であり、これらの主な熱的特性について、下表1に示す。注目すべき点は、これらの材料が、容器製造において広く使用されている点である。

【0019】
本発明者らは、一定の放射スペクトル及び一定のパワーでは、加熱によって一般的に同じ結果が、選択した材料によっては出ないものがあり、加熱速度は材料ごとに異なるという観察から開始した。特に、大きな違いが、一方のPETと他方のPPとの間で観察された。
【0020】
実験を、複数の材料について、スペクトル全体に対して、これらの材料全てを産業的に加熱するのに適する可能性がある波長を選択するために、全く同一の電磁放射線源を保持した状態で行った。
【0021】
実験条件は以下の通りである。
【0022】
検査試料は、以下の材料から製造した厚さ3mmの薄いシートである:
PET EASTMAN 9921
PET DAK Laser+
PLA NATUREWORKS 7000D
PP NOVOLEN 3348
PET/ナイロン2%混合物。
【0023】
これらの試料に一方的に(即ち、入射面として知られる、片面に対して)、赤外線を入射させるが、該赤外線のパワーを2W/cmとし、波長の選択範囲を800nm〜2500nmとした。
【0024】
各試料について、各選択波長で、以下を測定した:
- 放射線吸収率ρ、即ち試料が吸収したパワーに対する入射パワーの割合、
- 入射面(換言すると、深さ約100μm)での材料加熱速度V1、及び
- 反対面(換言すると、また深さ約100μm)での材料加熱速度V2。
【0025】
測定結果を、各試料について、以下の表2.1〜表2.5で照合した。
【0026】
(表1.1) PET Eastman 9921

【0027】
(表1.2)PET DAK Laser+

【0028】
(表1.3) PLA 7000D

【0029】
(表1.4) PP NOVOLEN 3348

【0030】
(表1.5) PET ナイロン2%

【0031】
一定数の波長に関して、効率(十分に高い)とV1/V2の熱勾配(十分に低い)との間で、良好に妥協できたことが観察されたが、これは、比較的均一で汎用性のある加熱であることを証明している。
【0032】
一方、上表でアスタリスクで印をした他の波長に関しては、少なくとも1つの選択材料について、この妥協を獲得できなかったことが観察された。
【0033】
例えば、880nmでは、効率が、PET EASTMAN9921に対しては、低過ぎた。
【0034】
1662nmでは、熱勾配が、PET DAK Laser+及びPETナイロンに対しては、高過ぎた。
【0035】
1736nmでは、熱勾配が、PP NOVOLEN3348に対しては、高過ぎた。
【0036】
2136nmでは、熱勾配が、PETナイロンも含む、全てのPETに対して、高過ぎた。
【0037】
この分析の結果、熱可塑性プラスチックの加熱に使用する線源からの電磁放射線に関して、以下の波長(単位nm)を選択することを、導き出した:1130、1414、1637、1688、1898、1935、2084及び2205。
【0038】
これらの波長を、先に挙げた波長から夫々選択した異なる値を有する複数の線源を並置して、組み合わせることが、想定できる。
【0039】
実際には、市販の赤外線放射線源が出射した電磁放射線を、単一の波長に集中させず、おおよそ広域スペクトル(数nmから数十nm)に拡散する。
【0040】
その結果、様々な組立体を介して(ハロゲンランプの前に干渉フィルタを間置する等)、単一の波長(単色)で、または数ナノメートル(準単色)の許容差を有して、放射するように出射する放射線のスペクトルを限定可能だが、より合理的には、安価な線源(強力なレーザダイオード等)を選択して、該線源から出射するスペクトルに選択波長を含み、1つ(または複数)の不所望な波長には拡散させないようにする。
【0041】
以下に、選択波長の反対側に示すのは、許容可能な差、即ち、選択線源により出射する波長またはスペクトルが入る波長範囲である。
【0042】
表3.1では、比較的厳しい許容差の第1組を示す。表3.2では、より広い許容差の第2組を示す。これらの許容差外では、出射放射線は、上記で説明した対象物を獲得できないと考えられる。
【0043】
(表2.1)

【0044】
(表2.2)

【0045】
前述したように、複数の波長または複数のスペクトルを、例えば、複数の線源を並置して夫々が選択した範囲の1つで(単色で、準単色で、または1スペクトルに亘り)出射することにより、混合すると、有利かもしれない。
【0046】
上記で提案したように、赤外線域において、選択波長の1つまたは選択範囲の1つに含まれるスペクトルで出射する電磁放射線を使用して、材料に照射することから成る、熱可塑性プラスチックを加熱するプロセスを、容器を製造するためのブランク(プリフォーム、または中間容器でもよい)の加熱に、うまく適用してもよい。
【0047】
また、このプロセスを、熱成形で被成形物を製造するための、シートまたはホイルの加熱に、適用してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電磁放射線源によってプラスチックを加熱するプロセスであって、該プロセスは、前記電磁放射線を、赤外線域において、以下の範囲:
1110〜1160 nm、
1390〜1450 nm、
1610〜1650 nm、
1675〜1700 nm、
1880〜2100 nm、
2170〜2230 nm、
の1つに含まれる波長または波長スペクトルで出射すること、を特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記赤外線放射の前記波長または前記スペクトルが、以下の範囲:
1110〜1150 nm、
1400〜1430 nm、
1627〜1647 nm、
1680〜1695 nm、
1890〜1906 nm、
1920〜1950 nm、
2074〜2094 nm、
2188〜2216 nm、
の1つに含まれること、を特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記赤外線放射の波長を、約1130nmとすること、を特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記赤外線放射の波長を、約1414nmとすること、を特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記赤外線放射の波長を、約1637nmとすること、を特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記赤外線放射の波長を、約1688nmとすること、を特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項7】
前記赤外線放射の波長を、約1898nmとすること、を特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項8】
前記赤外線放射の波長を、約1935nmとすること、を特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項9】
前記赤外線放射の波長を、約2084nmとすること、を特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項10】
前記赤外線放射の波長を、約2205nmとすること、を特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項11】
複数の放射線を、異なる波長で、または異なるスペクトルに亘り出射し、夫々が前記範囲に含まれる、或は前記値の1つを有すること、を特徴とする請求項1ないし10の1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記電磁放射線を単色または準単色とすること、を特徴とする請求項1ないし11の1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記電磁放射線源をレーザとすること、を特徴とする請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
ブランクから容器を製造するために前記ブランクを加熱する、請求項1ないし13の1項に記載のプロセスの用途。
【請求項15】
熱成形によって被成形物を製造するためにホイルまたはシートを加熱する、請求項1ないし13の1項に記載のプロセスの用途。

【公表番号】特表2010−520084(P2010−520084A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551235(P2009−551235)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000145
【国際公開番号】WO2008/113908
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(508356548)シデル パーティシペイションズ (33)
【Fターム(参考)】