説明

赤血球採取方法及びソルビトール測定方法

本発明は、簡便な赤血球中ソルビトール測定方法及び測定キットを提供するものであり、そのために、遠心分離が必要ない赤血球採取方法、さらに、前記赤血球採取方法により得られた赤血球サンプルの測定に適した、簡便なソルビトール測定方法を提供することを課題とする。 血液中の赤血球を保持可能な赤血球保持層に血液を添加し、前記赤血球保持層に接触して存在する血清又は血漿を吸収できる吸収層に血清又は血漿成分を浸透させた後に、赤血球が保持された前記赤血球保持層から溶液中に赤血球を回収する方法により、全血から簡便に赤血球を回収する。ソルビトールの測定は、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、蛍光基質、NAD又はNADP、及びジアホラーゼを加えて反応させ、生成した蛍光体を測定することにより定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソルビトール測定方法と赤血球採取方法及びそれらを使用した赤血球中ソルビトールの測定方法並びにそれらのキット又は装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
臨床検査における血液検査は、主に血清、血漿又は全血が用いられている。ここで、全血が測定対象の場合は、全血をそのまま用い、血清又は血漿が測定対象の場合は、遠心分離した上清を用いている。また、簡易検査試薬では、分離膜を有効に使用して血清又は血漿を採取する方法も実施されている。一方、検査対象として赤血球を用いる場合は、遠心分離により赤血球と血清又は血漿成分を分離して上清の血清又は血漿成分を除去した後、赤血球を採取している。さらに、血清又は血漿成分を完全に除去するために、生理食塩水で数回洗浄する工程も行われている。これにはさらに数回の遠心分離操作が必要であり、操作が煩雑である。
【0003】
近年、赤血球中の測定物質として、ソルビトールが注目されている。ソルビトールは、グルコースからアルドース還元酵素の作用により生成されるポリオール代謝産物の代表的なポリオールである。ソルビトールは、糖尿病患者において、ポリオール代謝の亢進により細胞内に蓄積するとされ、このことが糖尿病合併症をもたらす要因の一つとされている。従って、組織中ソルビトールの測定は、糖尿病患者における組織内ポリオール代謝を反映する指標として用いられている。また、組織中ソルビトール量は、赤血球中ソルビトール量と相関していることも明らかになっており、このことから、赤血球中ソルビトールの測定は、糖尿病性神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病性腎症などの糖尿病合併症の診断、管理に有用であると考えられている。
【0004】
赤血球中ソルビトール測定における赤血球の採取においては、先にも述べた通り全血を遠心分離して血清又は血漿成分を除去し、沈殿として残った層を赤血球として使用している。これは、血清又は血漿中にもソルビトールが存在し、赤血球中ソルビトールを測定する場合に誤差を生じるためである。血清又は血漿成分の影響を受けないように、赤血球残査を生理食塩水で数回洗浄する場合も報告されている。すなわち、赤血球中ソルビトールの測定のために、このような非常に煩雑な操作で測定試料を採取しているのが現状である。
【0005】
赤血球中ソルビトールの測定は、ソルビトールデヒドロゲナーゼの作用により生成するNADH又はNADPHを測定する方法が一般的に用いられている。この生成するNADH又はNADPHの測定は、NADH又はNADPH自身の蛍光を測定する方法(Diabetes 29:861−864,1980、医学と薬学43(3),555,2000)、ホルマザン発色法(特開平6−189790)、NADH又はNADPHから過酸化水素を発生させて、発色(特開平6−209793)又は蛍光(特開平6−109726)等により測定する方法などが提案されているが、実用面からNADH又はNADPH自身の蛍光を測定する方法が主に用いられている。
【0006】
NADH又はNADPHが発する蛍光を直接測定する赤血球中ソルビトールの測定には多量の赤血球が必要で、測定機器は汎用の蛍光光度計と角セルを用いて実施されている。この測定操作は非常に煩雑であるため、検査室等で日常的に測定することは困難である。一方、蛍光プレートリーダーのような多量検体を同時に測定できる機器もあるが、測定対象物であるNADH又はNADPHの蛍光強度が低いため、一般の蛍光光度計よりも検出感度が低い蛍光プレートリーダーでは感度不足となり、精度良く測定できないのが実状である。
【0007】
【特許文献1】特開平6−189790
【特許文献2】特開平6−209793
【特許文献3】特開平6−109726
【非特許文献1】Diabetes 29:861−864,1980
【非特許文献2】医学と薬学 43(3),555,2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
臨床検査において、赤血球中成分の測定はほとんど実施されていない。これは、測定試料としての赤血球の採取方法が煩雑なことが原因の一つである。赤血球の採取は、遠心分離操作により実施されるため、高価な遠心分離装置が必要であり、上清の血清又は血漿成分を除去しなければならない。また、赤血球を洗浄する場合は、さらに遠心操作と上清の除去の操作とを数回繰り返す必要があり、一般検査には適していなかった。このような状況の中、糖尿病合併症の診断、管理に有用であると考えられている赤血球中ソルビトールの測定は、赤血球採取が非常に煩雑であること、そして測定方法が煩雑で多数検体の測定には適さないことにより、一般的に広く普及するまでには至っていない。
【0009】
従って、本発明の主たる目的は、簡便な赤血球中ソルビトール測定方法を提供することであり、そのために、遠心分離が必要ない赤血球採取方法を提供すること、さらに、前記赤血球採取方法により得られた赤血球サンプルの測定に適した、簡便なソルビトール測定方法を提供することをも目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、まず簡便な赤血球採取方法を考案した。即ち、血液中の赤血球を保持可能な赤血球保持層に血液を添加し、前記赤血球保持層に接触して存在する血清又は血漿を吸収できる吸収層に血清又は血漿成分を浸透させた後に、赤血球が保持された前記赤血球保持層から赤血球を回収する方法によれば、全血から簡便に赤血球を回収することが可能であることを見出した。
【0011】
一方、前記赤血球採取方法により採取できる赤血球量は少ないため、現在実用化されているソルビトール測定法では、採取された赤血球に含まれるソルビトール濃度は、感度不足で測定できなかった。そこで、極少量の赤血球で測定可能な赤血球中ソルビトール測定方法を開発するために鋭意検討した結果、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、蛍光基質、NAD又はNADP、及びジアホラーゼを使用するソルビトール測定法を見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、血液中の赤血球を保持可能な赤血球保持層に血液を添加し、前記赤血球保持層に接触して存在する血清又は血漿を吸収できる吸収層に血清又は血漿成分を浸透させた後に、赤血球が保持された前記赤血球保持層を赤血球中成分抽出液に浸して赤血球中成分を抽出し、この抽出液の除タンパク操作を行い、この除タンパク後の抽出液にソルビトールデヒドロゲナーゼ、蛍光基質、NAD又はNADP、及びジアホラーゼを加えて反応させ、生成した蛍光体の蛍光測定をすることを特徴とする、赤血球中ソルビトールの測定方法を提供するものである。
【0013】
本発明はまた、ソルビトールの測定検体に、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、蛍光基質、NAD又はNADP、及びジアホラーゼを加えて反応させ、生成した蛍光体の蛍光測定をすることを特徴とする、ソルビトールの測定方法を提供する。
【0014】
本発明は更に、血液中の赤血球を保持可能な赤血球保持層に血液を添加し、前記赤血球保持層に接触して存在する血清又は血漿を吸収できる吸収層に血清又は血漿成分を浸透させた後に、赤血球が保持された前記赤血球保持層を溶液に浸し、赤血球又は赤血球中成分を回収することを特徴とする、赤血球又は赤血球中成分の採取方法を提供する。
【0015】
また更に、本発明は、前記方法を実施するための装置及びキットを提供する。即ち、それは、血液中の赤血球を保持可能な赤血球保持層と、それに接触して存在し血清又は血漿を吸収できる吸収層とを有し、前記赤血球保持層が取り外し可能であることを特徴とする、血液中から赤血球を回収する赤血球採取装置であるとともに、ソルビトールデヒドロゲナーゼと、NAD又はNADPと、ジアホラーゼと、蛍光基質とを含む、ソルビトールの測定キットである。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明は、臨床検査において煩雑であった赤血球採取を、簡便に実施することを可能とした。さらに本発明は、従来、洗浄した赤血球を得るために数回の遠心操作が必要であったのに対して、全く遠心分離することなく極めて簡単な操作で赤血球を洗浄することができる別の有利な利点も生じる結果となった。また、本発明のソルビトール測定方法は、感度が極めて高いため、微量の赤血球でもソルビトール測定が可能である。そのため、本発明の赤血球採取方法又は装置と、本発明のソルビトールの測定方法又は測定キットとを用いることにより、赤血球中ソルビトールの測定が極めて容易になり、糖尿病性神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病性腎症などの糖尿病合併症の診断、管理が容易に実施できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】赤血球採取装置タイプAにおける断面図である。
【図2】赤血球採取装置タイプAにおいて、赤血球保持層からなるユニットを取り外した状態の断面図である。
【図3】赤血球採取装置タイプBにおける断面図である。
【図4】赤血球採取装置タイプBにおいて、赤血球保持層を取り出しやすくするための機構を設けた装置と補助具の断面図である。
【図5】実施例1における、血液量と赤血球回収量の関係を示すグラフである。
【図6】実施例2における、ソルビトール濃度と蛍光強度との関係(検量線)を示すグラフである。
【図7】実施例3における、本発明法と従来法との相関性を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、血液中の赤血球を保持可能な赤血球保持層に血液を添加し、前記赤血球保持層に接触して存在する血清又は血漿を吸収できる吸収層に血清又は血漿成分を浸透させた後に、赤血球が保持された前記赤血球保持層を赤血球中成分抽出液に浸して赤血球中成分を抽出し、この抽出液の除タンパク操作を行い、この除タンパク後の抽出液にソルビトールデヒドロゲナーゼ、蛍光基質、NAD又はNADP、及びジアホラーゼを加えて反応させ、生成した蛍光体の蛍光測定をすることを特徴とする、赤血球中ソルビトールの測定方法である。以下に、本発明の個々の構成について、詳細に説明する。
【0019】
まず、赤血球採取までのプロセスについて説明する。
赤血球保持層は、赤血球を保持可能なものであればよい。通常は、シート状の膜である血漿分離膜が使用される。血漿分離膜としては、市販されているグラスファイバー製、ポリエステル製、ポリエーテルスルホン製等の血漿分離膜などが使用可能である。さらに、赤血球保持層に赤血球を保持しやすくするために、抗赤血球抗体、レクチン等を含有させることもできる。
【0020】
吸収層は、濾紙、不織布、綿等、水溶液を吸収することができるものであればよい。そのサイズは、赤血球保持層に比べて、同じか大きい方が好ましい。尚、後述の試験紙タイプAのような形態の場合は、濾紙が好ましい。一方、ホルダータイプBのような形態であれば、濾紙、不織布、綿等が使用できる。
【0021】
赤血球保持層に添加する血液量は、赤血球保持層の体積により左右される。添加量は、実験によりあらかじめ最適な添加量を求めておけばよいが、赤血球保持層の全面が赤くなる程度より少し多めの血液量を添加するのが好ましい。通常は、血液10μL〜500μL、好ましくは50μL〜200μLの血液から赤血球を保持できるサイズの赤血球保持層とするのが適している。
【0022】
赤血球保持層に添加された血液は、赤血球保持層と吸収層とが接触していることにより、その血清又は血漿成分が吸収層に浸透する。尚、赤血球保持層と吸収層とは、それぞれ別個の装置として使用時に接触させることもできるが、最初から接触させて1装置としたものを使用するのが好ましい。即ち、後述のような本発明の赤血球採取装置を使用するのが最適である。
【0023】
赤血球保持層の保持能力以上の血液を添加した場合、吸収層にまで赤血球が達することがあるが、最大赤血球保持量は赤血球保持層の体積に依存するため、赤血球の採取には影響を与えない。また、さらに生理食塩水等の等張溶液を赤血球保持層に添加すれば、洗浄した赤血球を回収することができる。
【0024】
一方、血液の添加量が赤血球保持層の体積に対して著しく少ない場合は、血清又は血漿成分が十分に吸収層に達しないため、全血から血清又は血漿成分を除くことができないことがある。しかし、この場合は、生理食塩水等の等張溶液を赤血球保持層に添加して洗浄すれば、赤血球又は赤血球中成分のみを回収することができる。
【0025】
次に赤血球保持層から赤血球中成分を抽出する工程について説明する。赤血球保持層から赤血球中成分を回収するには、赤血球保持層を赤血球中成分抽出液が入った試験管等の容器に入れることにより実施される。ここでは、赤血球中のソルビトールを抽出することが主たる目的であり、赤血球中成分抽出液は、溶血作用を有する液を用いればよい。溶血作用を有する液としては、測定系に対する影響等を考慮すると精製水が好ましいが、塩化アンモニウム、サポニン、界面活性剤等を含有した水溶液を用いてもよい。赤血球保持層から直ちに赤血球中成分を抽出したい場合は攪拌すれば良いし、直ちに使用しない場合は、例えば冷蔵庫に放置しておけば、数時間で完全に赤血球保持層から抽出される。尚、赤血球保持層から赤血球を細胞の状態で回収したい場合は、赤血球中成分抽出液の変わりに生理食塩水等の等張溶液を用いればよい。
【0026】
抽出された液は、赤血球に含まれるヘモグロビン等を除去するため、除タンパク操作が実施される。その方法は、例えば、過塩素酸法、トリクロロ酢酸法、水酸化亜鉛法などの既存の除タンパク方法を用いればよく、特に過塩素酸法が好ましい。過塩素酸法とは、具体的には、試料と過塩素酸を含む溶液を混合して生成した沈殿を除去し、その後、上清に炭酸カリウム等を加えて過剰の過塩素酸を不溶性のカリウム塩として沈殿させて除去する方法である。
【0027】
また、本発明によれば、先に説明した赤血球中成分抽出液として、イオン交換体の懸濁液を使用すれば、赤血球採取と同時に、溶血、除タンパクを実施することが可能となり、極めて簡便に除タンパクした試料を採取することができる。用いるイオン交換体は陽イオン交換体でも陰イオン交換体でも構わないが、陰イオン交換体を用いるのが好ましい。懸濁液のpHは、ヘモグロビンやタンパクがイオン交換体に吸着してソルビトールが吸着しない条件であれば良い。陰イオン交換体を用いる場合は、中性〜pH10程度の弱アルカリ性が好ましく、用いる陰イオン交換体の性能により最適な条件を求めれば良い。例えば、ファルマシア製のDEAEセファデックスの場合はpH8〜9、ワットマン製の陰イオン交換セルロースDE53の場合は、pH調製は必要なく精製水を用いることが出来る。懸濁液中のイオン交換体の濃度は、赤血球量に応じて最適量を検討すればよい。
【0028】
次に、除タンパクされた試料に含まれるソルビトールの測定方法について説明する。試料中のソルビトールに対してNAD又はNADPの存在下でソルビトールデヒドロゲナーゼを作用させ、ソルビトールをフルクトースに変換し、この変換の際に生成するNADHに対して蛍光基質存在下でジアホラーゼを作用させると蛍光体を生じ、この蛍光を測定することにより、ソルビトールの測定が実施される。このようなソルビトールの測定法が本発明のソルビトールの測定法である。本発明のソルビトール測定法は、赤血球中ソルビトールの測定だけでなく、血清又は血漿、組織、細胞に含まれるソルビトールの微量検体でも測定でき、ヒト由来の試料だけでなく、マウス、ラットなどの動物由来の試料も精度良く測定することができる。
【0029】
本発明に用いるソルビトールデヒドロゲナーゼは、NAD又はNADP存在下、ソルビトールをフルクトースに変換して、その際、NADH又はNADPHを生成させるものであれば、由来等は特別限定されない。中でも、フラビモナス属、若しくはシュードモナス属由来のソルビトールデヒドロゲナーゼ(特開2001−061472)が、特異性に優れていることから好ましい。
【0030】
本発明に用いる蛍光基質は、NADH又はNADPHとジアホラーゼ存在下、還元されて蛍光体に変化するものであればよく、還元体の蛍光強度が強く安定なレサズリンやアラマーブルーが好ましい。また、本発明に用いるジアホラーゼは、NADH又はNADPHに作用して蛍光基質を蛍光体に変化させるものであれば、由来等は特別限定されない。
【0031】
次に、本発明の赤血球採取装置について説明する。本発明の赤血球採取装置は、血液中の赤血球を保持可能な赤血球保持層と、それに接触して存在し血清又は血漿を吸収できる吸収層とを有し、前記赤血球保持層が取り外し可能であることを特徴とする、血液中から赤血球を回収する赤血球採取装置である。前述の赤血球採取から赤血球中成分の抽出までのプロセスを実施するのに適した装置である。当該赤血球採取装置も、前述の赤血球採取までのプロセスの部分がそのまま適用されるが、ここでは、タイプAとタイプBを例に、実体的な部分について図面を用いて説明する。これらは本発明の赤血球採取装置の一例である。
【0032】
まず、タイプAについて図1、図2を用いて説明する。タイプAは、図2に示すように、ユニットB1とユニットB2から構成されている。このうち、ユニットB2は、支持部A1に吸収層A4を接着した構造をなしており、ユニットB1は、支持部A2と赤血球保持層A3から構成される。ユニットB1とユニットB2は、赤血球保持層A3と吸収層A4が接着しないで互いに重なり合った状態をしている。ユニットB1とユニットB2とは、両者が接触する一部分のみが物理的に接着されており、容易に分離することが可能な構造となっている。それぞれの接着には両面テープ、接着剤等が使用できる。また、支持部A1、A2の材質は、プラスチック製のストリップ状でポリスチレン等の薄片が好ましい。
【0033】
タイプAで赤血球を採取するには、まず、血液をユニットB1の赤血球保持層A3に添加する。添加された全血は、赤血球が血球保持層A3に保持され、血清又は血漿成分はユニットB2の吸収層A4へ移動する。その後、ユニットB2からユニットB1を取り外す。ここで、ユニットB1を赤血球中成分抽出液が入った試験管等の容器に入れれば、赤血球中成分を抽出液に回収することができる。また、等張液に入れれば、赤血球として回収することもできる。
【0034】
次に、タイプBについて図3、図4を用いて説明する。図3、図4は装置の断面図である。タイプBは、赤血球保持層A3と吸収層A4を、ホルダーA5とホルダーA6とで収容する形態を有している。赤血球保持層A3と吸収層A4は重なり合って密接しており、吸収層A4はホルダーA5とホルダーA6で挟み込まれて固定された状態となっている。一方、赤血球保持層A3はホルダーA5とホルダーA6で挟み込まれておらず、取り外しが容易に可能である。ホルダーA6には、図4に示すように、赤血球保持層A3を取り外すための補助具B5が使えるように、中央部に穴A7を開けておくことも可能である。補助具B5はホルダーB6の穴A7の大きさに入るような太さの棒で、吸収層A4を突き破り、赤血球保持層A3を押して外すためのものである。
【0035】
タイプBで赤血球を採取する場合も、基本的には、タイプAと同様である。但し、タイプBの場合は、血清又は血漿成分が吸収層A4へ移動した後に、本装置を赤血球中成分抽出液等が入った試験管等の容器に逆さまにセットして、容器内に赤血球保持層A3をはずし入れることができる。また、赤血球保持層A3をはずしにくい場合は、穴A7から補助具B5を入れてはずすことができる。
【0036】
本発明によるソルビトール測定は、次のような本発明のソルビトール測定用キットを用いて実施することもできる。
本発明のソルビトール測定用キットは、少なくとも、ソルビトールデヒドロゲナーゼと、NAD又はNADPと、ジアホラーゼと、蛍光基質とを含む。これら各成分は、全てを混合して一試薬としても良いし、各成分を適宜組み合わせて分割しても良い。具体的には、試薬(a):ソルビトールデヒドロゲナーゼとNAD又はNADPとジアホラーゼとが入った酵素反応剤と、試薬(b):蛍光基質剤とに分割して構成した方が、安定性に優れているので好ましい。これら各成分又は試薬は、溶液状あるいは凍結乾燥品としてもよく、また、上記成分以外に、pH調整のための緩衝剤、安定化剤等を含有させても良い。或いは、別の形態として、上記試薬類を試験紙等に含浸させて乾式の試験片とすることもできる。
【0037】
本発明のソルビトール測定用キットは、必要に応じて、試薬(c):除タンパク剤を追加することができる。更に、赤血球中ソルビトールの測定用とするためには、更に、試薬(d):赤血球中成分抽出液を追加することもできる。これらの成分については、いずれも既に説明済みである。
【0038】
本発明のソルビトール測定用キットは、更に、本発明の装置である、血液中の赤血球を保持可能な赤血球保持層と、それに接触して存在し血清又は血漿を吸収できる吸収層とを有し、前記赤血球保持層が取り外し可能である赤血球採取装置を追加して、同一パッケージとすることで、赤血球中ソルビトールの測定のために極めて利便性の高いキットとなる。
【0039】
本発明によるソルビトール測定は、試験管で反応させて、各セルを用いた汎用の蛍光光度計でも実施できるが、96穴マイクロプレートを用いて微量検体で同時に多くの検体が測定できる蛍光プレートリーダーを用いるのが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例をあげて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]全血から赤血球の回収
GA100(アドバンテック製)を6mmの円形に裁断したものを赤血球保持層とし、AP10吸収パット(ミリポア製)を吸収層とした赤血球採取装置を作製した。これに全血100μL〜200μLを添加して、完全に吸収されるまで放置した。その後、生理食塩水を3滴添加し完全に吸収させた後、赤血球保持層を取り出し、精製水1mLを入れた試験管に入れ赤血球中成分を回収した。対象として、全血100μL〜200μLを精製水1mLに入れたものを調製し、この溶液中のヘモグロビン濃度を測定することにより、血液量と赤血球回収量の関係を求めた。
【0042】
結果は図5に示した。図に示すように、今回作製した赤血球採取器具は、全血150μL以上でヘモグロビン濃度が最大かつ一定を示しており、遠心分離器を用いることなく赤血球を採取することができることが示された。すなわち、ヘマトクリット値が50%の場合、最大75μLの赤血球を回収することができると考えられた。
【0043】
[実施例2]ソルビトール標準液の測定
(1)試液調製
試液A:レサズリン(和光純薬製)0.3mgを精製水60mLに溶解した。
試液B:β−NAD(オリエンタル製)260mg、ジアホラーゼ(ユニチカ製)2000単位、ソルビトールデヒドロゲナーゼ(ユニチカ製)100単位をトリス緩衝液(pH8.2)100mLに溶解した。
【0044】
(2)ソルビトールの測定
0nmol/mL〜5nmol/mLのソルビトール標準液200μLに、60W/V過塩素酸溶液200μLを加えて攪拌し、遠心分離した。上清200μLに炭酸カリウム溶液50μLを加えて攪拌後、遠心分離した。白色の96穴マイクロプレート(ヌンク製)に、上清50μし、試液A50μL、及び試液B150μLを加えて攪拌後、室温で1時間反応させて、励起波長538nm、蛍光波長590nmで蛍光測定した。測定機器はフルオロスキャンアセント(大日本製薬製)蛍光プレートリーダーを使用した。
【0045】
結果を図6に示した。図より明らかなように、ソルビトール濃度と蛍光強度との間には、良好な直線性が見られたことから、本発明法によりソルビトールを測定することが可能であるとの結果を得た。
【0046】
[実施例3]赤血球中ソルビトールの測定
ヒト赤血球検体30例について、従来法と実施例2の本発明の方法を用いて、ソルビトール濃度を測定した。
【0047】
(1)測定試料の調製
30例の糖尿病患者より血液を採取し、遠心分離により赤血球を得た。本発明の方法には、赤血球20μLと精製水180μLを混合したものを測定試料として用いた。従来法には、赤血球500μLと精製水2mLを混合したものを測定試料として用いた。
【0048】
(2)赤血球中ソルビトールの測定
本発明法によるソルビトールの測定は、実施例2に準じて実施した。従来法によるソルビトールの測定は、ソルビトールデヒドロゲナーゼの酵素反応により生成するNADHの蛍光強度を測定する方法で、測定機器は角セルを用いた日立F−2500蛍光光度計で実施した。
【0049】
結果を図7に示した。図より明らかなように、本発明法と従来法との間には高い相関性が認められたことから、本発明法は従来法に代わり得る有効な方法であることが確認された。更に、本発明による方法は蛍光プレートリーダーが使用できるので、大幅な省力化となった。
【0050】
[実施例4]赤血球採取装置で採取したサンプルの測定
本発明の赤血球分離方法においては、以下のように操作を行った。健常人2例より採取した血液を、実施例1で作製した赤血球採取装置に150μL添加した。血液が完全に吸収された後、赤血球保持層を取り出し、精製水1mLを入れた試験管に入れ、赤血球中成分を回収したものを本発明法の測定試料とした。一方、従来法による赤血球分離は、全血1mLを遠心分離後上清を除去することにより行い、この赤血球500μLと精製水2mLを混合したものを測定試料として用いた。ソルビトールの測定は、本発明法、従来法とも実施例3と同様に実施した。なおソルビトール濃度は、測定試料のヘモグロビン濃度を測定してヘモグロビン1g当たりの濃度に換算して算出した。
【0051】
結果を表1に示した。赤血球分離方法及びソルビトール測定方法について、本発明法と従来法とのいくつかの組み合わせを設定して測定値を比較したところ、本発明法と従来法とは、ほぼ同等の測定値を示した。一方、赤血球採取方法を本発明法で実施し、ソルビトール測定方法を従来法で実施した場合、検体量が少ないため、測定下限付近の測定となり正確な測定値が得られなかった。赤血球中ソルビトール測定において、従来は1mL以上の血液が必要とされていたが、本発明の赤血球採取装置及び本発明のソルビトール測定方法の両者を実施することにより、わずか150μLの血液で赤血球中ソルビトールの測定が正確に実施されていることが確認された。
【0052】
【表1】

【0053】
[実施例5]イオン交換体を用いたソルビトール測定
健常人2例より採取した血液を、実施例1で作製した赤血球採取装置に150μL添加した。血液が完全に吸収された後、赤血球保持層を取り出し、イオン交換体DE53(ワットマン製)5gを精製水10mLに懸濁させて調製した懸濁液1mLを入れた試験管に入れて攪拌後、上清を測定試料とした。ソルビトールの測定は、実施例2の方法で実施した。なお、測定に際して、実施例2の測定操作中の過塩素酸溶液と炭酸カリウム溶液を添加する工程は省略した。一方、対象としては、同装置で血液が完全に吸収された後、赤血球保持層を取り出し、精製水1mLを入れた試験管に入れ、赤血球中成分を回収したものを測定試料とし、実施例2の方法に従ってソルビトールの測定を実施した。
【0054】
結果を表2に示した。表2に示したように、イオン交換懸濁液を用いた場合は、過塩素酸溶液及び炭酸カリウム液を用いた徐タンパク操作を行わなくても、すでに上清は無色透明となっていた。このため、測定の際に除タンパク操作を実施しなくとも、赤血球中ソルビトールが測定可能であった。また、両方法において、ほぼ同等の測定値が得られたことから、イオン交換体へのソルビトールの吸着はないことが分かった。このことから、本発明法は従来法に代わり得る有効な方法であることが確認された。
【0055】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液中の赤血球を保持可能な赤血球保持層に血液を添加し、前記赤血球保持層に接触して存在する血清又は血漿を吸収できる吸収層に血清又は血漿成分を浸透させた後に、赤血球が保持された前記赤血球保持層を赤血球中成分抽出液に浸して赤血球中成分を抽出し、この抽出液の除タンパク操作を行い、この除タンパク後の抽出液にソルビトールデヒドロゲナーゼ、蛍光基質、NAD又はNADP、及びジアホラーゼを加えて反応させ、生成した蛍光体の蛍光測定をすることを特徴とする、赤血球中ソルビトールの測定方法。
【請求項2】
赤血球中成分抽出液としてイオン交換体の懸濁液を使用することにより、赤血球保持層を赤血球中成分抽出液に浸して赤血球中成分を抽出する工程と、前記抽出液の除タンパク操作とを同時に行うことを特徴とする、請求項1に記載の赤血球中ソルビトールの測定方法。
【請求項3】
ソルビトールの測定検体に、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、蛍光基質、NAD又はNADP、及びジアホラーゼを加えて反応させ、生成した蛍光体の蛍光測定をすることを特徴とする、ソルビトールの測定方法。
【請求項4】
あらかじめ、ソルビトールの測定検体の除タンパク操作を行うことを特徴とする、請求項3に記載のソルビトールの測定方法。
【請求項5】
蛍光基質がレサズリン又はアラマーブルーである、請求項3又は4に記載のソルビトールの測定方法。
【請求項6】
ソルビトールデヒドロゲナーゼと、NAD又はNADPと、ジアホラーゼと、蛍光基質とを含む、ソルビトールの測定キット。
【請求項7】
ソルビトールデヒドロゲナーゼと、NAD又はNADPと、ジアホラーゼと、蛍光基質とが、同一試験紙に乾燥状態で含まれていることを特徴とする、請求項6に記載のソルビトールの測定キット。
【請求項8】
以下の試薬(a)及び試薬(b)を含む、請求項6に記載のソルビトールの測定キット。
(a)ソルビトールデヒドロゲナーゼとNAD又はNADPとジアホラーゼとが入った酵素反応剤
(b)蛍光基質剤
【請求項9】
更に、下記試薬(c)を含む、請求項8に記載のソルビトールの測定キット。
(c)除タンパク剤
【請求項10】
更に、下記試薬(d)を含み、赤血球中ソルビトールの測定用である、請求項9に記載のソルビトールの測定キット。
(d)赤血球中成分抽出液
【請求項11】
更に、下記装置(e)を含む、請求項10に記載のソルビトールの測定キット。
(e)血液中の赤血球を保持可能な赤血球保持層と、それに接触して存在し血清又は血漿を吸収できる吸収層とを有し、前記赤血球保持層が取り外し可能である赤血球採取装置
【請求項12】
血液中の赤血球を保持可能な赤血球保持層と、それに接触して存在し血清又は血漿を吸収できる吸収層とを有し、前記赤血球保持層が取り外し可能であることを特徴とする、血液中から赤血球を回収する赤血球採取装置。
【請求項13】
赤血球保持層がガラス繊維膜又は血漿分離膜であり、吸収層が濾紙、不織布又は綿である、請求項12に記載の赤血球採取装置。
【請求項14】
血液中の赤血球を保持可能な赤血球保持層に血液を添加し、前記赤血球保持層に接触して存在する血清又は血漿を吸収できる吸収層に血清又は血漿成分を浸透させた後に、赤血球が保持された前記赤血球保持層を溶液に浸し、赤血球又は赤血球中成分を回収することを特徴とする、赤血球又は赤血球中成分の採取方法。
【請求項15】
赤血球保持層としてガラス繊維膜又は血漿分離膜を、吸収層として、濾紙、不織布又は綿を使用することを特徴とする、請求項14に記載の赤血球又は赤血球中成分の採取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【国際公開番号】WO2005/012557
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512542(P2005−512542)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011045
【国際出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000144577)株式会社三和化学研究所 (29)
【Fターム(参考)】