説明

走査プローブ型顕微鏡の探針洗浄方法

【課題】 SPM装置で使用する探針において、観察や加工などで探針先端に付着した物質を、SPM装置内で除去し、探針先端を洗浄することを課題とする。
【解決手段】 異物4が付着した探針1を、サンプル3に押しつける。この時カンチレバー側のスキャナー5とサンプル台6の間で、相対的に水平振動10と垂直振動11を発生させる。探針先端への適切な摩擦を発生することにより、探針1の先端をに付着した異物4を取り除き、洗浄することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探針で測定試料を相対走査して測定試料の情報を取得する走査型プローブ顕微鏡(SPM)の探針先端に付着した物質の除去および移動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、電子材料などの試料を微少領域において測定し、試料の表面形状の観察、物性情報などの計測を行う装置として、走査型プローブ顕微鏡(SPM)が用いられている。
【0003】
走査型プローブ顕微鏡としては、種々のタイプが提供されているが、そのなかの一つにカンチレバーの先端に設けた探針を用いて試料表面の観察を行う方法がある。(非特許文献1)
しかしながら前記した従来の走査型プローブ装置では、表面に多量の異物が存在するサンプルを観察した場合、異物が探針先端に付着し正確な形状測定が行えなくなることがある。また、探針でサンプルの加工を行う方法もあるが、異物が付着していると加工を行えなくなるという問題点があった。(特許文献1参照)
【非特許文献1】G. Binnig, C. F. Quate, and Ch. Gerber, Phys. Rev. Lett. 56, 930 (1986)
【特許文献1】T. Amano, M. Nishiguchi, H. Hashimoto, Y. Morikawa, N. Hayashi, R. White, R. Bozak, and L. Terrill, Proc. of SPIE 5256 538-545(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題点を解決し、探針に付着した異物の除去を行い探針を再度利用できるようにし、また、探針を加工に用いる場合、探針に付着した異物を除去することで安定した加工を行えるようにすることを課題とする。さらに、探針を洗浄するために他の真空装置などを使用することなく、観察や加工に使用していたSPM装置の内部で探針先端を洗浄することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明による走査型プローブ顕微鏡の探針洗浄方法にあっては、まず第一に、試料の観察時あるいは加工時に探針に付着した物質を、前記探針を試料の非観察あるいは非加工部分に押圧しながら相対的に振動させることにより除去する。
【0006】
第二に、前記振動は、水平方向及び垂直方向に行う。
【0007】
第三に、前記水平方向の振動の振動幅は100nm以下、垂直方向の振動の振動幅は1μm以下とする。
【0008】
第四に、試料の観察時あるいは加工時に探針に付着した物質を、前記探針を前記探針よりやわらかい物質でできた部材に押圧しながら相対的に振動させることにより除去する。
【0009】
第四に、前記探針は、材質がダイヤモンドとし、前記やわらかい物質は軟金属とする。
【0010】
第五に、前記やわらかい物質は樹脂とする。
【0011】
第六に、前記やわらかい物質を導電性物質とした。
(作用)
【0012】
試料の観察時あるいは加工時に探針に付着した物質を、前記探針を試料の非観察あるいは非加工部分に押圧しながら相対的に振動させることにより、効率よく摩擦を発生させることができる。この摩擦により発生する熱と物理的力により、探針に付着した異物をサンプルに脱離させることで、探針先端の異物除去を行うことができる。
【0013】
垂直振動と水平振動を同時に発生させることで、探針先端に付着した異物がサンプルと強く接触し、効率よく異物を除去することができる。
【0014】
上記水平方向の振動の振動幅は100nm以下とする、すなわち、水平振動振幅は一般的な探針先端径と同じかそれ以下とすることで、探針先端部分の摩耗の進行を抑える。
【0015】
垂直方向の振動の振動幅は200nmから1μm程度まで垂直振動幅を大きくし、摩擦を大きくすることで、効率よく異物除去を行う。垂直振動幅を大きくしても、水平振動幅を大きくするのに比べて、探針先端径を摩耗の程度はそれ程すすまない。
【0016】
試料の観察時あるいは加工時に探針に付着した物質を、前記探針を前記探針よりやわらかい物質でできた部材に押圧しながら相対的に振動させることで、より効率よく除去できる。すなわち、探針を探針よりやわらかいサンプルに強く接触させ、この状態で水平及び垂直方向に振動を加えることにより、探針に異物が付着していた場合、探針とサンプルに挟まれた異物は、振動により発生した摩擦熱と振動による物理的力により、異物がサンプルに脱離し、これにより探針先端の異物を除去することができる。
【0017】
導電性サンプルを用いることで、AFM、SPM探針先端に発生した静電気を、探針先端から数nm〜umの部分まで除去することができる。静電気を除去できる範囲は、探針を接触させた時の探針の押し込み深さと垂直振動幅に依存する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、探針に付着した異物の除去を行い探針を再度利用でき、また、探針を加工に用いる場合、探針に付着した異物を除去することで安定した加工を行える。さらに、探針を洗浄するために他の真空装置などを使用することなく、観察や加工に使用していたSPM装置の内部で探針先端を洗浄できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態について以下図面を参照して説明する。
【0020】
図1は本発明における、SPM探針先端の異物除去を行うときの模式図である。一般に、SPM等の探針でサンプル表面の観察を行う場合、サンプル表面にはnm〜ミクロンサイズ、または目視可能なmmサイズの異物があることがほとんどである。これらの異物のあるサンプルを観察する場合、観察する探針に異物が付着することがある。また、SPM探針でサンプルを加工する場合、探針にサンプルの加工屑が付着する。このような異物が探針に付着すると、SPMでは正常な像観察を行うことができなくなることがある。そこで、本発明による探針先端の異物除去例を図1に示す。
【0021】
図1において異物4が付着した探針1を、サンプル3に接触させ、押しつける。この状態で水平振動10と垂直振動11を同時に加える。振動の機構は、カンチレバー2を振動させる方法、またはサンプル3を振動させる方法、この両者を組み合わせる方法がある。具体的にはカンチレバーを支持するカンチレバー側のスキャナー5や、サンプル3を固定するサンプル台6に振動を発生させることのできる発振器9を設置する。水平および垂直振動はカンチレバー側のスキャナー5、カンチレバー側の発振器8、サンプル台側のスキャナー7、サンプル台側の発振器9のいずれかで発生させ、組み合わせて発生させてもよい。ここで探針1をサンプルに押しつける強さと、垂直振動11の振幅量により探針1に付着した異物4の除去可能範囲が定まる。さらに水平振動10を加えるとことで、異物4がより強くサンプル3と接触し、効率よく探針1に付着した異物4を除去することができる。
【0022】
具体的な例として探針1にダイヤモンド、サンプル3に銅を用いた場合について述べる。図2は異物が付着した後のダイヤモンド探針の先端の写真である。この探針1を、銅板からなるサンプル3に押しつける。この状態で垂直振動11を500Hz、垂直振動振幅200nm、水平振動10を10Hz、水平振動振幅を15nm、にて除去を5秒間実行したところ、図3に示す写真のようになった。ダイヤ先端から約700nm分の探針の洗浄を行うことができた。この時同時に、異物を銅の特定の場所に付着させることができた。さらに探針先端の静電気を除去することもできた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による、走査型プローブ装置の探針先端を洗浄を示す模式図である。
【図2】本発明における、異物除去前の探針先端写真である。
【図3】本発明における、異物除去後の探針先端写真である。
【符号の説明】
【0024】
1 探針
2 カンチレバー
3 サンプル
4 異物
5 カンチレバー側のスキャナー
6 サンプル台
7 サンプル台側スキャナー
8 カンチレバー側の発振器
9 サンプル台側の発振器
10 水平振動
11 垂直振動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の観察時あるいは加工時に探針に付着した物質を、前記探針を試料の非観察あるいは非加工部分に押圧しながら相対的に振動させることにより除去する走査型プローブ顕微鏡の探針洗浄方法。
【請求項2】
前記振動は、水平方向及び垂直方向に行う請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡の探針洗浄方法。
【請求項3】
前記水平方向の振動の振動幅は100nm以下、垂直方向の振動の振動幅は1μm以下である請求項2記載の走査型プローブの探針洗浄方法。
【請求項4】
試料の観察時あるいは加工時に探針に付着した物質を、前記探針を前記探針よりやわらかい物質でできた部材に押圧しながら相対的に振動させることにより除去する走査型プローブ顕微鏡の探針洗浄方法。
【請求項5】
前記探針は、材質がダイヤモンドであり、前記やわらかい物質は軟金属である請求項4記載の走査型プローブ型顕微鏡の探針洗浄方法。
【請求項6】
前記やわらかい物質は樹脂である請求項4記載の走査型プローブ顕微鏡の探針洗浄方法。
【請求項7】
前記やわらかい物質が導電性物質である請求項4記載の走査型プローブ顕微鏡の探針洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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