説明

走査型顕微鏡装置

【課題】様々な観察条件に対して手間を掛けずに短時間で最適な観察方法を実現する。
【解決手段】レーザ光を走査させる走査部23と、走査部23により走査されるレーザ光を反射する励起DM26が取り付けられる複数の取付位置を有する切替機構27と、レーザ光が走査された標本Sの走査位置から戻る蛍光を検出する光検出器63Aと、いずれかの取付位置に対応する走査部23による走査位置を基準走査位置として、他の取付位置に対応する走査部23による走査位置の基準走査位置からのずれを補正する補正量を取付位置ごとに対応づけて記憶する記憶部65と、新たな励起DM26を取付位置に取り付けて光路上に配置した場合に、その取付位置に対応づけられた補正量に基づいて、走査部23による走査位置が基準走査位置に一致するように走査部23を制御する制御部67とを備える走査型顕微鏡装置100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光路上に配置される一部の光学素子を交換して観察方法を切り替えた場合に、光路のずれにより生じる走査位置のずれを補正し、所望の位置にレーザ光を照射する走査型レーザ顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の走査型レーザ顕微鏡は、励起ダイクロイックミラー(以下、励起DMという。)や合成ダイクロイックミラー(以下、合成DMという。)等の複数の光学素子を光路に切換え挿入可能に保持する切換え手段と、切換え手段により光学素子を切替えた場合に発生する走査手段の走査位置の相対位置ずれに関する補正情報を組み合わせて記憶する記憶手段とを備え、光学素子を切替えた場合にその補正情報に基づいて走査手段の走査位置を補正することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−308985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の走査型レーザ顕微鏡は、切換え手段により保持されている光学素子を実際に用いて走査手段の走査位置の補正情報を取得する調整を行い、これらの光学素子についてのみの補正情報を記憶している。そのため、観察時に新たな光学素子を追加する場合は、その都度新たな光学素子を用いて走査手段の走査位置の補正情報を取得する調整を行う必要があり、様々な観察条件に対して最適な観察方法を実現するには時間や手間が掛かるという不都合がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、様々な観察条件に対して手間を掛けずに短時間で最適な観察方法を実現することができる走査型顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、光源から発せられた照明光を標本上で走査させる走査部と、該走査部により前記標本上で走査される前記照明光を反射する光学素子が取り付けられる複数の取付位置を有し、該取付位置に取り付けられた複数の前記光学素子を前記照明光の光路上に選択的に配置可能な素子切替部と、前記走査部により前記照明光が走査された前記標本の走査位置から戻る戻り光を検出する検出部と、前記素子切替部のいずれかの前記取付位置に対応する前記走査部による走査位置を基準走査位置として、他の前記取付位置に対応する前記走査部による走査位置の前記基準走査位置からのずれを補正する補正量を示す補正情報を前記取付位置ごとに対応づけて記憶する記憶部と、新たな光学素子を前記取付位置に取り付けて前記光路上に配置した場合に、該新たな光学素子が取り付けられた前記取付位置に対応づけられて前記記憶部に記憶されている補正情報に基づいて、前記走査部による走査位置が前記基準走査位置に一致するように該走査部を制御する走査制御部とを備える走査型顕微鏡装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、素子切替部により照明光の光路上に選択的に配置した光学素子により、光源から発せられた照明光を反射して走査部により標本上で走査し、標本の走査位置から戻る戻り光を検出部により検出することで、照明光の走査範囲における標本の画像情報を取得することができる。ここで、素子切替部により光路上に配置する光学素子を切り替えると、素子切替部の取付位置ごとの加工ばらつき等に起因する誤差に起因して、走査部により走査される照明光の走査位置にずれが生じる。
【0008】
本発明は、記憶部に記憶した補正情報により、素子切替部のいずれかの取付位置に対応する走査部の基準走査位置からの、他の取付位置に対応する走査部による走査位置のずれを補正する補正量が分かる。したがって、新たな光学素子を取付位置に取り付けて光路上に配置した場合に、走査制御部により、その取付位置に対応づけられた補正情報に基づいて、走査部による走査位置が基準走査位置に一致するように走査部を制御することで、素子切替部の取付位置の誤差に起因する走査位置のずれを補正し、標本上で照明光を精度よく走査させることができる。
【0009】
これにより、素子切替部に新たな光学素子を追加する際に、その光学素子に対応した走査部による走査位置の補正量を取得するための調整を行う必要がなく、予め設定した補正情報に基づいて、様々な観察条件に対して手間を掛けずに短時間で最適な観察方法を実現することができる。
【0010】
上記発明においては、前記素子切替部が複数設けられ、新たな光学素子を少なくとも1つの前記素子切替部の前記取付位置に取り付けて前記光路上に配置した場合に、各前記素子切替部の前記光路上に配置されている前記取付位置に対応づけられて前記記憶部に記憶されている補正情報を合成する合成部を備え、前記走査制御部が、前記合成部により合成された補正情報に基づいて前記走査部を制御することとしてもよい。
【0011】
このように構成することで、いずれかの素子切替部の取付位置に新たな光学素子を取り付けて光路上に配置した場合に、合成部により合成された補正情報に基づいて、光路上に配置されている各素子切替部の取付位置の誤差に起因する走査位置のずれを補正し、標本上で照明光を精度よく走査させることができる。したがって、複数の素子切替部を用いた比較的複雑な観察条件に対しても、簡易かつ迅速に最適な観察方法を実現することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記素子切替部が、前記複数の取付位置を同心円状に配置した回転ターレットであることとしてもよい。
このように構成することで、回転ターレットを回転させるだけで、光路上に配置する光学素子を切り替えることができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記素子切替部が、前記複数の取付位置を直線状に配置したスライド機構であることとしてもよい。
このように構成することで、スライド機構を一方向にスライドさせるだけで、光路上に配置する光学素子を切り替えることができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記補正情報が、前記基準走査位置の画像情報に対する前記他の取付位置に対応する前記走査部の走査位置の画像情報のずれ量を前記補正量に換算して得られた値であることとしてもよい。
このように構成することで、予め素子切替部の各取付位置に同一の光学素子を取り付けて得られた画像情報どうしを比較するだけで、取付位置ごとの補正情報を得ることができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記補正情報が、前記いずれかの取付位置に取り付けた前記光学素子により反射される照明光の角度を示す角度データに対する、前記他の取付位置に取り付けた同一の前記光学素子により反射される照明光の角度を示す角度データの差分を前記補正量に換算して得られた値であることとしてもよい。
このように構成することで、走査型顕微鏡装置を用いて実際に画像情報を取得することなく、取付位置ごとの角度データを用いて補正情報を得ることができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記光学素子が、前記光源から発せられた照明光を反射し前記標本から戻る戻り光を透過するダイクロイックミラーであり、該ダイクロイックミラーを透過した前記戻り光を通過させるピンホールと、前記補正情報に基づいて、前記戻り光の光軸と前記ピンホールとが略一致するように、該戻り光の光軸とピンホールとの相対位置を調整する調整部とを備えることとしてもよい。
【0017】
このように構成することで、調整部により、ダイクロイックミラーが取り付けられる素子切替部の取付位置ごとの誤差に起因するピンホールの像位置のずれも補正することができる。これにより、ピンホールを通過させた標本の焦点位置からの戻り光を精度よく検出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、様々な観察条件に対して手間を掛けずに短時間で最適な観察方法を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る走査型顕微鏡装置の概略構成図である。
【図2】図1の切替機構の概略構成図である。
【図3】記憶部に記憶させる切替機構の取付位置ごとに対応づけた補正情報の一例を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る走査型顕微鏡装置の概略構成図である。
【図5】図4の2つ目の切替機構の概略構成図である。
【図6】図5の取付位置の縦断面図を示す図である。
【図7】本発明の実施形態の第1変形例に係る切替機構の取付位置の角度データを取得する構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る走査型顕微鏡装置について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る走査型顕微鏡装置100は、図1に示すように、レーザユニット10と、レーザ走査型顕微鏡20と、記憶部65と、制御部67(走査制御部)とを備えている。
【0021】
レーザユニット10は、レーザ光を発生する光源11と、光源11において発生したレーザ光のオンオフおよび波長選択を行う音響光学素子(AOTF)13A,13Bと、光源11から発せられ音響光学素子13A,13Bを通過したレーザ光をレーザ走査型顕微鏡20へ導く光ファイバ15A,15Bとを備えている。
【0022】
レーザ走査型顕微鏡20は、観察光学系21と、光刺激光学系31と、これら観察光学系21および刺激光学系31の光路を合流させる合成ダイクロイックミラー(以下、「合成DM」という。)41と、合成DM41により合流された光路上に配置される結像レンズ43、ミラー45および対物レンズ47と、標本Sにおいて発生した蛍光を検出する検出ユニット51とを備えている。符号49は標本Sを搭載するステージである。
【0023】
観察光学系21は、一方の光ファイバ15Aにより導光されてきたレーザ光を2次元的に走査する走査部23と、走査部23により走査されたレーザ光を集光して中間像を結像させる瞳投影レンズ25と、レーザ光が走査された標本Sから瞳投影レンズ25および走査部23を介して戻る蛍光をレーザ光から分岐する励起ダイクロイックミラー(以下、「励起DM」という。)26が取り付けられる切替機構(素子切替機構)27とを備えている。
【0024】
切替機構27としては、例えば、図2に示すような円盤状の回転ターレットを用いることができる。切替機構27には、励起DM26が取り付けられる複数の取付位置28が同心円状に配置されている(同図において、符合28a〜28h。)。これらの取付位置28a〜28hには、標本Sに標識する蛍光色素と観察方法に合わせた分光特性を持つ複数種類の励起DM26を取り付けることができるようになっている。この切替機構27は、軸回りに回転することにより、レーザ光の光路上にいずれかの取付位置28a〜28hを選択的に配置することができるようになっている。
【0025】
走査部23は、例えば、相互に直交する軸線周りに揺動可能に支持された2枚のガルバノミラー24a,24bが対向して配置されて構成されている。2枚のガルバノミラー24a,24bの揺動角度を調節することにより、標本Sにおける観察用のレーザ光の照射位置を光軸に交差する方向に2次元的に移動させることができるようなっている。
【0026】
刺激光学系31は、他方の光ファイバ15Bにより導光されてきたレーザ光を光軸に交差する方向に2次元的に走査させる走査部33と、走査部33により走査されたレーザ光を集光して中間像を結像させる瞳投影レンズ35とを備えている。
走査部33は、走査部23と同様に、2枚のガルバノミラー34a,34bにより構成されている。
【0027】
検出ユニット51は、励起DM26によりレーザ光から分岐された蛍光を集光する集光レンズ53と、集光レンズ53により集光された蛍光の光軸位置を調整する平行平板のような補正機構(調整部)55と、蛍光の通過を制限するピンホール(ピンホール)57と、ピンホール57を通過した蛍光を波長に応じて反射または透過する分光ダイクロイックミラー(以下、「分光DM」という。)59と、分光DM59により分光された蛍光にそれぞれ含まれてくるレーザ光を遮断するバリアフィルタ61A,61Bと、バリアフィルタ61A,61Bによりレーザ光が除去された蛍光をそれぞれ検出する光検出器(検出部)63A,63Bとを備えている。ピンホール57は、対物レンズ47の焦点面と光学的に共役な位置関係に配置されている。
【0028】
記憶部65は、走査部23による走査位置のずれを補正する補正情報を記憶するようになっている。具体的には、切替機構27により光路上に配置する励起DM26を切り替えると、光路上に配置した励起DM26が取り付けられている取付位置28a〜28hごとの加工ばらつきや回転時の面ぶれ等による誤差に起因して、走査部23により走査されるレーザ光の走査位置にずれが生じることとがある。この場合において、励起DM26等の光学素子単体の加工ばらつき等に起因する誤差は、走査部23による走査位置のずれに対して無視できる程度である。
【0029】
本実施形態においては、切替機構27のいずれかの取付位置28a〜28h、例えば、取付位置28aに対応する走査部23による走査位置を基準走査位置とする。そして、基準走査位置に対する他の取付位置28b〜28hに対応する走査部23による走査位置のずれを補正する補正量を示す補正情報を、取付位置28a〜28hごとに対応づけて記憶部65に記憶するようになっている。補正情報は、例えば、図3に示すように、取付位置28aに対応する走査部23のガルバノミラー24a,24bの揺動角度(秒)に対する取付位置28b〜28cに対応する走査部23のガルバノミラー24a,24bの揺動角度(秒)の差分とする。
【0030】
また、補正情報には、例えば、切替機構27の取付位置28aに取り付けた基準ミラーを介して走査部23により走査されたレーザ光の走査位置の画像情報に対する、他の取付位置28b〜28hに取り付けた同一の基準ミラーを介して走査部23により走査されたレーザ光の走査位置の画像情報のずれ量を補正量に換算して得られた値を用いることができる。
【0031】
制御部67は、切替機構27が回転しレーザ光の光路上に配置される取付位置28が切り替えられると、光路上に配置された取付位置28の記憶部65に記憶されている補正情報に基づいて、走査部23による走査位置が基準走査位置に一致するように走査部23を制御するようになっている。
【0032】
このように構成された本実施形態に係る走査型顕微鏡装置100の作用について以下に説明する。
最初に、標本Sの観察および光刺激の前提として、切替機構27の取付位置28a〜28hごとの走査部23による走査位置の補正情報を記憶部65に記憶させる手順について説明する。
まず、対物レンズ47によりステージ49上に照射されるレーザ光の照射位置に、画像の中心が分かる基準サンプル(図示略)を載置し、切替機構27の全ての取付位置28a〜28hに同一の基準ミラー(図示略)をそれぞれ取り付ける。
【0033】
任意に選択したいずれか1つの取付位置28(本実施形態においては取付位置28a。)を基準とし、取付位置28aに取り付けてある基準ミラーを光路上に配置する。そして、光源11からレーザ光を発して走査部23による基準サンプル上の走査位置(基準走査位置)の座標を取得する。
【0034】
続いて、切替機構27を回転させて他の取付位置28bに取り付けてある基準ミラーを光路上に配置し、走査部23による走査位置を調整して、基準走査位置との相対位置ずれがなくなるような走査部23の補正情報を取得し、記憶部65に記憶させる。他の全ての取付位置28c〜28hについても同様にして走査部23の補正情報を取得し記憶部65に記憶させる。取付位置28a〜28hに取り付けた基準ミラーは外しておく。記憶部65に補正情報を記憶させる作業は、製造メーカにより走査型顕微鏡装置100の出荷前に予め行っておくことが望ましい。
【0035】
次に、観察光学系21および刺激光学系31による標本Sの観察について説明する。
まず、所定の蛍光色素を標識した標本Sをステージ49上に載置し、標本Sの上方に対物レンズ47を配置する。そして、切替機構27の取付位置28aに取り付けられている励起DM26を光路上に配置し、光源11から観察用のレーザ光を発生させる。
【0036】
観察用のレーザ光は、音響光学素子13Aによりそのオンオフ状態の切り替えおよび波長選択が行われ、光ファイバ15Aにより観察光学系21へ導光される。観察光学系21に導光されてきたレーザ光は、励起DM26により反射されて走査部23に入射され、走査部23により2次元的に走査される。
【0037】
走査部23により走査されたレーザ光は、瞳投影レンズ25および合成DM41を透過し、結像レンズ43により略平行光に変換された後、ミラー45を介して対物レンズ47に入射される。対物レンズ47に入射されたレーザ光は焦点面に集光され、焦点位置に配置された標本Sに照射される。これにより、標本S内部に存在する蛍光物質が励起され蛍光が発生する。
【0038】
標本Sにおいて発生した蛍光は、観察用のレーザ光とは逆の経路を辿って戻る。すなわち、蛍光は、対物レンズ47により集光され、ミラー45、結像レンズ43、合成DM41、瞳投影レンズ25および走査部23を介して戻り、励起DM26によってレーザ光から分岐される。
【0039】
レーザ光から分岐された蛍光は、集光レンズ53により集光された後、補正機構55を介してピンホール57に入射され、対物レンズ47の焦点面近傍において発生したものみがピンホール57を通過する。ピンホール57を通過した蛍光は、波長に応じて分光DM59により分光される。分光DM59により反射された蛍光はバリアフィルタ61Aを介して光検出器63Aにより検出され、分光DM59を透過した蛍光はバリアフィルタ61Bを介して光検出器63Bにより検出される。
【0040】
走査部23を構成するガルバノミラー24a,24bの揺動角度に対応して決定される標本S上の2次元位置と光検出器63A、63Bにより検出された蛍光の強度とをそれぞれ対応づけて記録していくことにより、対物レンズ47の焦点面に広がる標本S内部の2次元的な蛍光画像を取得することができる。
【0041】
標本Sを刺激する場合は、光源11から刺激用のレーザ光を発生させる。刺激用のレーザ光は、音響光学素子13Bによりそのオンオフ状態の切り替えおよび波長選択が行われ、光ファイバ14Bにより刺激光学系31へ導光される。
【0042】
刺激光学系31に導光されてきたレーザ光は、走査部33より走査され、瞳投影レンズ35により中間像を結像する。中間像を結像したレーザ光は、合成DM41により反射され結像レンズ43により略平行光とされた後、ミラー45を介して対物レンズ47に入射される。
【0043】
対物レンズ47に入射されたレーザ光は焦点面に集光され、焦点位置に配置された標本Sに照射される。走査部33の揺動角度を調節し、焦点を結ぶ位置を観察視野内で2次元的に調整することで、標本Sに対してレーザ光の走査範囲に光刺激を与えることができる。
これにより、刺激光学系31により標本Sに光刺激を与え、観察光学系21により標本Sを観察することができる。
【0044】
ここで、切替機構27を回転させ、光路上に配置する取付位置28を取付位置28aから他の取付位置28b〜28hに変更すると、制御部67の作動により、光路上に配置された取付位置28b〜28hに対応する走査部23の補正情報が読み出され、その補正情報に基づいて、走査部23による走査位置が基準走査位置に一致するように走査部23が制御される。
【0045】
例えば、切替機構27の取付位置28b〜28hに既に取り付けられている励起DM26と新たな励起DM26とを入れ替えたり、切替機構27の空いている取付位置28b〜28hに新たな励起DM26を取り付けたりし、切替機構27を回転させて新たな励起DM26を光路上に配置すると、制御部67の作動により、光路上に配置された取付位置28に対応づけられて記憶されている走査部23の補正情報が記憶部65から読み出される。
【0046】
そして、制御部67により、読み出した補正情報に基づいて、取付位置28b〜28hに対応する走査部23による走査位置が、取付位置28aに対応する走査部23による基準走査位置に一致するように走査部23が制御される。これにより、新たな励起DM26が取り付けられた取付位置28b〜28hの誤差による走査部23の走査位置のずれが補正され、標本S上でレーザ光を精度よく走査させることができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る走査型顕微鏡装置100によれば、新たな励起DM26を切替機構27に取り付けて光路上に配置した場合に、制御部67により、新たな励起DM26が取り付けられた取付位置28b〜28hに対応づけられた補正情報に基づいて走査部23が制御されて走査位置のずれが補正されるので、新たな励起DM26を切替機構27に追加する度に走査部23による走査位置の補正情報を取得するための調整を装置の整備技術者やユーザが行わないで済む。したがって、様々な観察条件に対して手間を掛けずに短時間で最適な観察方法を実現することができる。
【0048】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る走査型顕微鏡装置について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る走査型顕微鏡装置200は、図4に示すように、2つ目の切替機構127および計算部(合成部)169等を備える点で、第1実施形態と異なる。
以下、第1実施形態に係る光走査型内視鏡装置100と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0049】
切替機構127は、ミラー45に代えて、ミラー45と同一の位置に配置されている。切替機構127としては、例えば、図5および図6に示すように、蛍光キューブ171を取り付けることができる複数の取付位置128(図5において、符合128a〜128h)を備えるキューブターレットを用いることができる。この切替機構27にはキューブ切替装置(図示略)が設けられており、キューブ切替装置を必要に応じて作動させることにより、切替機構127を回転させて、光路上に配置する蛍光キューブ171を切り替えることができるようになっている。
【0050】
蛍光キューブ171としては、例えば、結像レンズ43により略平行光とされたレーザ光を対物レンズ47に向けて反射する一方、標本Sから対物レンズ47を介して戻る蛍光を結像レンズ43に向けて反射する反射ミラー(図示略)を備えるものや、結像レンズ43により略平行光とされたレーザ光を対物レンズ47に向けて反射する一方、標本Sから対物レンズ47を介して戻る蛍光を透過させる励起DM126(図6参照)を備えるものが挙げられる。
【0051】
蛍光キューブ171を透過した蛍光の光路上には、結像レンズ143、ミラー145、6連高速FW(フィルタホイール)147、CCDのような撮像装置(検出部)149が備えられている。
【0052】
記憶部65には、切替機構27の各取付位置28a〜28hに対応づけた補正情報と、切替機構127の各取付位置128a〜128hに対応づけた補正情報を記憶させるようになっている。これらの補正情報は、例えば、切替機構27の取付位置28aと切替機構127のいずれかの取付位置128(例えば、取付位置128a。)とを光路上に配置したときの走査部23による走査位置を基準走査位置として、この基準走査位置に対する切替機構27の取付位置28a〜28hおよび替機構27の取付位置128b〜128hをそれぞれ切り替えたときの走査部23による走査位置のずれを補正する補正量を示すものとする。
【0053】
また、補正情報には、切替機構127の取付位置128aに取り付けた基準ミラーを介して走査部23により走査されたレーザ光の走査位置の画像情報に対する、他の取付位置128b〜128hに取り付けた同一の基準ミラーを介して走査部23により走査されたレーザ光の走査位置の画像情報のずれ量を補正量に換算して得られた値を用いることができる。
【0054】
計算部169は、制御部67に接続されている。この計算部169は、光路上に配置された切替機構27の取付位置28a〜28hの補正情報と切替機構27の取付位置128a〜128hの補正情報をそれぞれ記憶部65から読み出して合成するようになっている。計算部169により合成された補正情報は制御部67に送られるようになっている。
制御部67は、計算部169により合成された補正情報に基づいて走査部23を制御するようになっている。
【0055】
このように構成された本実施形態に係る走査型顕微鏡装置200の作用について以下に説明する。
まず、標本Sの観察および光刺激の前提として、切替装置27の取付位置28a〜28hごとの走査部23の補正情報と、切替機構127の取付位置128a〜128hごとの走査部23の補正情報を記憶部65に記憶させる手順について説明する。
【0056】
まず、切替機構27の全ての取付位置28a〜28hと切替機構127の全ての取付位置128a〜128hにそれぞれ同一の基準ミラー(図示略)を取り付ける。切替機構27の取付位置28aと、切替機構127の取付位置128aをそれぞれ基準とする。取付位置128aの基準ミラーを光路上に配置して切替機構128を固定した状態で、切替機構27の全ての取付位置28a〜28hを順に光路上に配置しながら、切替機構27の各取付位置28a〜28hにそれぞれ対応する走査部23の補正情報を取得して記憶部65に記憶させる。
【0057】
次に、取付位置28aの基準ミラーを光路上に配置して切替機構28を固定した状態で、切替機構127の全ての取付位置128a〜128hを順に光路上に配置しながら、切替機構127の各取付位置128a〜128hにそれぞれ対応する走査部23の補正情報を取得して記憶部65に記憶させる。この作業も、製造メーカにより走査型顕微鏡装置200の出荷前に予め行っておくことが望ましい。
【0058】
観察光学系21および刺激光学系31による標本Sの観察方法は第1の実施形態と同様である。本実施形態においては、例えば、切替機構127の取付位置128aに励起DM126を備える蛍光キューブ171を取り付けると、結像レンズ43により略平行光とされたレーザ光を蛍光キューブ171により反射して対物レンズ47により標本Sに照射させることができる。また、標本Sにおいて発生し対物レンズ47を介して戻る蛍光を蛍光キューブ171を透過させて、結像レンズ143により略平行光とした後、ミラー145および6連高速FW147を介して撮像装置149に入射させ、撮像装置149により標本Sの走査位置における2次元画像を取得することができる。
【0059】
ここで、切替機構27に新たな励起DM26を追加し、切替機構27を回転させて新たな励起DM26を光路上に配置するか、切替機構127に新たな蛍光キューブ171を追加し、切替機構127を回転させて新たな蛍光キューブ171を光路上に配置すると、計算部169の作動により、光路上に配置された切替機構27の取付位置28a〜28hに対応づけられた補正情報と切替機構127の取付位置128a〜128hに対応づけられた補正情報とが記憶部65から読み出されて合成される。
【0060】
そして、制御部67により、計算部169によって合成された補正情報に基づいて、走査部23による走査位置が基準走査位置に一致するように走査部23が制御される。これにより、励起DM26または蛍光キューブ171の切り替えによって光路上に配置された切替機構27の取付位置28a〜28hの誤差および切替機構127の取付位置128a〜128hの誤差に起因する走査部23の走査位置のずれが補正され、標本S上でレーザ光を精度よく走査させることができる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態に係る走査型顕微鏡装置200によれば、切替機構27や切替機構127に新たな光学素子を取り付けて光路上に配置した場合に、光路上に配置されている切替機構27の取付位置28a〜28hに対応づけられた補正情報と切替機構127の取付位置128a〜128hに対応づけられた補正情報とが計算部169により合成されて、制御部67により走査部23の走査位置のずれが補正されるので、切替機構27,127の取付位置28a〜28h,128a〜128hの補正情報を予め組み合せて記憶させておかないで済む。したがって、複数の切替機構27,127を用いた比較的複雑な観察条件に対しても簡易かつ迅速に最適な観察方法を実現することができる。
【0062】
本実施形態においては、素子切替部として2つの切替機構27,127を例示して説明したが、3つ以上の素子切替部を用いることとしてもよい。この場合、全ての素子切替部の取付位置に対応する走査部23の補正情報を記憶部65に記憶させることとすればよい。また、光路上に配置された全ての素子切替部の取付位置の補正情報を計算部169により記憶部65から読み出して合成し、制御部67によりその合成された補正情報に基づいて走査部23を制御することとすればよい。
【0063】
第1実施形態および第2実施形態は、以下のように変形することができる。
走査部23による走査位置のずれは、素子切替部の光学素子により反射されるレーザ光の角度ずれにより決まる。そこで、上記各実施形態においては走査部23の補正情報を画像情報により求めることとしたが、第1変形例としては、切替機構27の取付位置28a〜28hに同一の基準ミラー(図示略)を取り付けたときのレーザ光の反射角度を示す角度データを予め求めておき、基準とする取付位置28aのレーザ光の反射角度に対する他の取付位置28b〜28hのレーザ光の反射角度の差分を補正量に換算して得られた値を補正情報としてもよい。このようにすることで、走査型顕微鏡装置100,200を用いて実際に画像情報を取得することなく、切替機構12の取付位置28a〜28hごとの補正情報を得ることができる。切替機構127についても同様である。
【0064】
本変形例において、取付位置28a〜28h,128a〜128hの角度データは、例えば、図7のように、光電コリメータのような角度測定器171を用いて、切替機構27,127ごとに求めることとしてもよい。具体的には、角度測定器171と、測定用パソコン173と、記憶部175を有するモータ制御部177と、治具電源179とを用意する。また、測定用パソコン173には、角度測定器171を接続するとともに、モータ制御部177を介して治具電源179を接続する。
【0065】
切替機構27のすべての取付位置28a〜28hに基準ミラー(図示略)を取り付け、モータ制御部177により切替機構27を回転させて、角度測定器171により取付位置28a〜28hの基準ミラーにより反射されるレーザ光の互いに直交するX軸方向およびY軸方向の角度を測定用パソコン173により測定する。
【0066】
そして、取付位置28aの基準ミラーによるレーザ光の反射角度に対する取付位置28b〜28hの基準ミラーによるレーザ光の反射角度の差分を補正量に換算して記憶部175に記憶させることとすればよい。同様にして、切替機構27に代えて切替機構127の取付位置128a〜128hについても、角度測定器171を用いて角度データを取得することとすればよい。
【0067】
また、第2変形例としては、走査部23の補正情報に基づいて、レーザ光の光軸とピンホール57とが一致するように、補正機構55によりレーザ光の光軸位置を調整することとしてもよい。このようにすることで、補正機構55により、励起DM26が取り付けられた取付位置28a〜28hの誤差に起因するピンホールの像位置のずれも補正することができる。これにより、ピンホール57を通過させた標本Sの焦点位置からの蛍光を精度よく検出することができる。本変形例においては、補正機構55によりレーザ光の光軸位置を調整することとしたが、例えば、図示しない調整部により、ピンホール57の位置をレーザ光の光軸の位置に合わせて調整することとしてもよい。
【0068】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記の各実施形態に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。また、上記各実施形態においては、切替機構27,127がそれぞれ8個の取付位置28a〜28h、128a〜128hを備えることとしたが、取付位置の数は複数であればこれに限定されるものではない。
【0069】
また、上記各実施形態においては、補正情報として走査部23のガルバノミラー24a,24bの揺動角度(秒)の差分を用いることとしたが、これに代えて、例えば、切替機構27の取付位置28ごとに対応する走査部23のガルバノミラー24a,24bの補正した状態の揺動角度(秒)そのものであってもよい。
【0070】
また、上記各実施形態においては、素子切替部として、回転ターレットの切替機構27、キューブターレットの切替機構127を例示して説明したが、これに代えて、例えば、複数の取付位置を直線状に配置したスライド機構を切替機構として採用することとしてもよい。このようにすることで、スライド機構を一方向にスライドさせるだけで、光路上に配置する励起DM26等の光学素子を切り替えることができる。
【符号の説明】
【0071】
11 光源
23 走査部
26 励起DM:励起ダイクロイックミラー(光学素子)
27 切替機構(素子切替部)
28a〜28h 取付位置
55 補正機構(調整部)
59 合成DM:合成ダイクロイックミラー(光学素子)
63A,63B 光検出器(検出部)
65 記憶部
67 制御部(走査制御部)
100 走査型顕微鏡装置
127 切替機構(素子切替部)
128a〜128h 取付位置
149 撮像部(検出部)
169 計算部(合成部)
S 標本

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から発せられた照明光を標本上で走査させる走査部と、
該走査部により前記標本上で走査される前記照明光を反射する光学素子が取り付けられる複数の取付位置を有し、該取付位置に取り付けられた複数の前記光学素子を前記照明光の光路上に選択的に配置可能な素子切替部と、
前記走査部により前記照明光が走査された前記標本の走査位置から戻る戻り光を検出する検出部と、
前記素子切替部のいずれかの前記取付位置に対応する前記走査部による走査位置を基準走査位置として、他の前記取付位置に対応する前記走査部による走査位置の前記基準走査位置からのずれを補正する補正量を示す補正情報を前記取付位置ごとに対応づけて記憶する記憶部と、
新たな光学素子を前記取付位置に取り付けて前記光路上に配置した場合に、該新たな光学素子が取り付けられた前記取付位置に対応づけられて前記記憶部に記憶されている補正情報に基づいて、前記走査部による走査位置が前記基準走査位置に一致するように該走査部を制御する走査制御部とを備える走査型顕微鏡装置。
【請求項2】
前記素子切替部が複数設けられ、
新たな光学素子を少なくとも1つの前記素子切替部の前記取付位置に取り付けて前記光路上に配置した場合に、各前記素子切替部の前記光路上に配置されている前記取付位置に対応づけられて前記記憶部に記憶されている補正情報を合成する合成部を備え、
前記走査制御部が、前記合成部により合成された補正情報に基づいて前記走査部を制御する請求項1に記載の走査型顕微鏡装置。
【請求項3】
前記素子切替部が、前記複数の取付位置を同心円状に配置した回転ターレットである請求項1または請求項2に記載の走査型顕微鏡装置。
【請求項4】
前記素子切替部が、前記複数の取付位置を直線状に配置したスライド機構である請求項1または請求項2に記載の走査型顕微鏡装置。
【請求項5】
前記補正情報が、前記基準走査位置の画像情報に対する前記他の取付位置に対応する前記走査部の走査位置の画像情報のずれ量を前記補正量に換算して得られた値である請求項1から請求項4のいずれかに記載の走査型顕微鏡装置。
【請求項6】
前記補正情報が、前記いずれかの取付位置に取り付けた前記光学素子により反射される照明光の角度を示す角度データに対する、前記他の取付位置に取り付けた同一の前記光学素子により反射される照明光の角度を示す角度データの差分を前記補正量に換算して得られた値である請求項1から請求項4のいずれかに記載の走査型顕微鏡装置。
【請求項7】
前記光学素子が、前記光源から発せられた照明光を反射し前記標本から戻る戻り光を透過するダイクロイックミラーであり、
該ダイクロイックミラーを透過した前記戻り光を通過させるピンホールと、
前記補正情報に基づいて、前記戻り光の光軸と前記ピンホールとが略一致するように、該戻り光の光軸とピンホールとの相対位置を調整する調整部とを備える請求項1から請求項6のいずれかに記載の走査型顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−237862(P2012−237862A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106500(P2011−106500)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】