説明

走査機構およびそれを用いる走査型プローブ顕微鏡

【課題】
走査機構を三角波駆動信号で高速に走査すると、三角波の高調波成分が共振周波数で加振して不要な振動を生じてしまったり、変位の振幅が小さくなってしまったりする問題があった。また、図13に示すように、積層型圧電体の電圧と変位の関係も非線形でヒステリシスを生じる問題があった。
【解決手段】
積層型圧電体を有する走査型プローブ顕微鏡用走査機構において、XY走査の少なくとも1方向は正弦波駆動信号により走査され、前記正弦波駆動信号の周波数は前記走査機構の機械的共振周波数より低い周波数であって、前記正弦波駆動信号によって走査される方向の座標における試料の高さ情報を、前記高さ情報を取得するタイミングの走査方向座標点と高さ情報表示画面上の座標点とが一致する位置に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡用走査機構に関わる。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、機械的探針を機械的に走査して試料表面の情報を得る走査型顕微鏡であり、走査型トンネリング顕微鏡(STM)、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型磁気力顕微鏡(MFM)、走査型電気容量顕微鏡(SCaM)、走査型近接場光顕微鏡(SNOM)、走査型熱顕微鏡(SThM)などを含む。最近では試料表面にダイヤモンド製の探針を押しつけて圧痕をつけ、その圧痕のつき具合を解析して試料の固さなどを調べるナノインデンテータ等もこのSPMの一つと位置づけられており、前述の各種の顕微鏡と共に広く普及している。
【0003】
最近では、例えば特開2001−330425で提案されているような、液体中の生きた生物試料の動く様子が観察可能な生体動画観察用AFMが注目を集めている。この生体動画観察用AFMは、1枚の画像を取得するのに要する時間は遅くとも1秒以下であり、従来の生体用AFMが1枚の画像を取得するのに数分〜数十分要することを考えると,比較にならないほど高速であることが分かる。
【0004】
高速に画像を取得するための一つに、走査機構の高速化が必要となる。高速に動作する走査機構として例えば特開2004−333335で提案されているような走査機構がある。
走査型プローブ顕微鏡で用いられる走査機構は、たとえば機械的探針と試料とを相対的にXY方向にラスター走査し所望の試料領域の表面情報を、機械的探針を介して得て、モニターテレビ上にマッピング表示する。具体的には、図10に示すようにX方向、Y方向にそれぞれ異なる周波数の三角波状の駆動信号を圧電体に印加することで、走査機構の可動テーブルは図11に示すようなラスター走査を行なう。
【特許文献1】特開2001−330425
【特許文献2】特開2004−333335
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図12に示すように、走査機構を三角波駆動信号で高速に走査すると、三角波の高調波成分が共振周波数で加振して不要な振動を生じてしまったり、変位の振幅が小さくなってしまったりする問題があった。また、図13に示すように、積層型圧電体の電圧と変位の関係も非線形でヒステリシスを生じる問題があった。
【0006】
本発明の目的は、上記問題を解決し、高速走査における振動発生を低減させ、XY方向の線形性が高く高品質なAFM像が得られる走査型プローブ顕微鏡用走査機構と、それを用いる走査型プローブ顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、積層型圧電体を有する走査型プローブ顕微鏡用走査機構において、XY走査の少なくとも1方向は正弦波駆動信号により走査され、前記正弦波駆動信号の周波数は前記走査機構の機械的共振周波数より低い周波数であって、前記正弦波駆動信号によって走査される方向の座標における試料の高さ情報を、前記高さ情報を取得するタイミングの走査方向座標点と高さ情報表示画面上の座標点とが一致する位置に表示することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、積層型圧電体を有する走査型プローブ顕微鏡用走査機構において、XY走査の少なくとも1方向は正弦波駆動信号により走査され、前記正弦波駆動信号の周波数は前記走査機構の機械的共振周波数より低い周波数であって、試料の高さ情報を取得する時間間隔は、前記正弦波駆動による走査方向の変位間隔が一定となるように変化されることを特徴とする。
【0009】
これらにより、走査機構変位に不要な振動は発生せず、変位振幅の減少も無く、駆動信号に対して線形性の高い変位が得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、振動発生が低減され、変いい振幅の減少も小さく、観察像のゆがみが少ない高速走査が可能な走査型プローブ顕微鏡用走査機構を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の第1の実施の形態について図1〜図6を用いて説明する。図1は走査型プローブ顕微鏡の画像を生成するシステムの一部を示しており、図2は走査機構詳細図である。
【0012】
まず、走査機構100について説明する。本提案の走査機構は、固定台1の中にXYステージ固定部5が接着もしくはねじ締結で固定されている。可動部4はZ方向をZ弾性部材7A〜7Dにより固定台5に対して支持されている。Z弾性部材7A〜7D の配置位置は可動部4の中心からほぼ等距離であり、可動部4の重心は可動部4のほぼ中心付近に位置している。可動部4はXY方向をXY弾性部材6A〜6Dにより固定台5に対して支持されている。また、XY弾性部材6A〜6DはXY各駆動軸に対して対象に配置されている。Y軸上に配置された一対のXY弾性部材の中で、一方のXY弾性部材6Dには圧電体2Aを当接させる押圧部8Aが設けられている。また、X軸上に配置された一対のXY弾性部材の中で、一方のXY弾性部材6Cには圧電体2Bを当接させる押圧部8Bが設けられている。ここで、可動部4、XY弾性部材6A〜6D、Z弾性部材7A〜7B、固定部5からなるXYステージは一体の部品から切り出されたものであり、例えばアルミニウムなどの材料でできている。XYステージを固定している固定台1はXYステージと同質材でも構わないが、ステンレス鋼などのようにアルミニウムよりもヤング率の高い材料で作られているとよりよい。
【0013】
Y方向駆動用圧電体2Aの一端は押圧部8Aに当接しており、他端は固定台1に固定されている。圧電体2AにはY軸にそって所定の予圧がかかるように配置されており、圧電体2Aの中心線は可動部4のほぼ重心を通る。また、X方向駆動用圧電体2Bの一端は押圧部8Bに当接しており、他端は固定台1に固定されている。圧電体2BにはX軸にそって所定の予圧がかかるように配置されており、圧電体2Bの中心線は可動部4のほぼ重心を通る。可動部4の上面には圧電体3が固定されており、圧電体3の中心線は可動部4のほぼ重心を通る。さらに、試料台は圧電体3上に保持されることになる。
【0014】
続いて走査機構100を用いた走査型プローブ顕微鏡画像生成システム構成について図1を基に説明する。
【0015】
走査機構100に取付けられた試料台9に対向してカンチレバー103が配置されている。カンチレバー103近傍には振動子104が設けられていて振動子104は励振回路109と接続されている。走査機構100はX走査ドライバ105とY走査ドライバ106、Z走査ドライバ107に接続されている。また、X走査ドライバとY走査ドライバは、波形発生器108に接続されている。カンチレバー103の変位は対物レンズ102を通してカンチレバー変位センサ101によって光学的に検出される。カンチレバー変位センサ101は振幅検出回路110に接続され、振幅検出回路110はZ制御回路111に接続されている。さらにZ制御回路111はZ走査ドライバ及び画像情報取得回路112と接続されている。また、画像情報取得回路112は取り込み指令発生器113と接続されている。ここでは、波形発生器108、励振回路109、振幅検出回路110、Z制御回路111、画像情報取得回路112取り込み指令発生器113をあわせて画像生成用コントローラ114と呼ぶ。画像生成用コントローラ114にて生成された画像は表示装置115に表示される。
【0016】
次に作用について説明する。波形発生器108によりX走査信号とY走査信号が生成される。この走査信号はX走査ドライバ105及びY走査ドライバ106を通して走査機構100に与えられる。具体的には図3に示すようにX走査信号は正弦波であり、Y走査信号は三角波であって、X走査信号の周波数はY走査信号よりおおよそ2桁高い周波数となっている。ただしX走査信号は、機械的な共振を避けるために、走査機構100の共振周波数より低い周波数である。X走査信号は圧電体2Bに印加され、Y走査信号は圧電体2Aに印加される。このようにしてラスター走査が可能となる。ここで、周波数の高いX走査信号を正弦波とすることで、可動部4の変位は図4に示すような変位となる。高い走査周波数であっても変位波形の乱れは無く、振幅の減少も生じない。また、走査駆動信号と変位の関係を示す図5に示すグラフを見ると、ヒステリシスは無く電圧と変位の関係の線形性が良好であることがわかる。このことから、走査信号から可動部の実際の変位を知ることが可能となる。このため、変位センサなどを必要としない。
【0017】
励振回路109は、カンチレバー103の共振周波数近傍の周波数の励振信号を出力する。この信号を受けて振動子104は電気信号を機械的振動に変換する。この振動によりカンチレバー103はたわみ振動を起こす。このたわみをカンチレバー変位センサ101が光学的に検出し、振幅検出回路110が振幅情報に変換する。
【0018】
また、カンチレバーのたわみは試料台9との距離により変化する。例えば、試料台9がカンチレバー103に接近するとカンチレバーの振幅は小さくなり、離れるとカンチレバー103の振幅は大きくなる。走査機構がラスター走査をしているとき、試料台9表面に起伏があればカンチレバー103と試料台9表面との距離はラスター走査に従って変化する。このため、カンチレバー103の振幅も変化する。試料台9表面とカンチレバー103との距離はZ圧電体9を伸縮させることで可能となる。Z制御回路はZ圧電体9を伸縮させて振幅検出回路110で得た振幅が常に一定になるような制御を行う。このため、Z圧電体3は起伏高さと一致した伸縮をすることになる。このため、Z圧電体3に印加された電圧を観察対象の高さ情報として用いることができる。この高さ情報は画像情報取得回路112によって獲得される。高さ情報取得のタイミングは、取り込み指令発生器113により制御される。取り込み指令発生器113の指令に従って、高さ情報取得すると同時に、波形発生器から出力されたXY走査信号に基づくXY変位座標が取得される。
【0019】
高さ情報をある一定の時間間隔で取得すると図6に示すようになる。模式的な図で、厳密なものではないが、X方向変位は正弦波的に変化する。このため、表示装置115に高さ情報を表示させる場合は、XY表示座標とXY変位座標とが一致する座標上に高さ情報を表示する。以上のようにすることでひずみの少ない良好な観察像が得られる。
【0020】
また、XY走査速度を早くしていくと、駆動信号出力に対する可動部の変位は走査ドライバや積層型圧電体、ガイドなどの影響で遅れが大きくなる。このような時は、走査速度に対する可動部の遅れ時間をあらかじめ測定しておき、高さ情報の取得を開始する時間をこの遅れ時間分ずらす。このようにすると、さらに高速な走査で画像取得を行った場合でも、ひずみの少ない良好な観察像が得られる。
【0021】
本発明の第2の実施の形態について図8を基に説明する。装置構成については第1の実施の形態と同様である。本実施の形態においては図7に示すとおりX方向走査信号、Y方向走査信号ともに正弦波である。また、一定の時間間隔で高さ情報を取得する場合は、X方向Y方向ともに正弦波的に変位が変化する。このため表示装置115に高さ情報を表示させる場合は、XY表示座標とXY変位座標とが一致する座標上に高さ情報を表示する。
【0022】
このような走査信号とすることで、Y方向走査においても三角波の高調波成分による不要な振動発生や振幅の減少を抑えることができ、高い線形性を得ることが可能となる。
【0023】
本発明の第3の実施の形態について図9を基に説明する。装置構成については第1実施の形態と同様である。本実施の形態においては走査信号は第1の実施例と同様である。また、高さ情報取得時間間隔は、図9に示すように変位間隔が一定となるように変化させる。このようにすれば、表示装置への高さ情報表示するXY座標は一定間隔となる。このため、XY座標上での高さ情報表示密度の差はなく、データの取り扱いが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】走査型プローブ顕微鏡の画像を生成するシステムの一部を示す図である。
【図2】走査機構詳細図である。
【図3】積層型圧電体の駆動信号を示す図である。
【図4】可動部の変位波形を示す図である。
【図5】駆動信号と変位の関係を示す図である。
【図6】一定の時間間隔で取得する場合の高さ情報の分布を示す図である。
【図7】XYとも正弦波駆動する積層型圧電体の駆動信号を示す図である。
【図8】一定の時間間隔で取得する場合の高さ情報の分布を示す図である。
【図9】変化する時間間隔で取得する場合の高さ情報の分布を示す図である。
【図10】背景技術の走査波形を示す図である。
【図11】ラスター走査を示す図である。
【図12】振動振幅の減少を示す図である。
【図13】積層型圧電体の非線形性を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 固定台
2A〜2B XY用圧電体
3 Z用圧電体
4 可動部
5 固定台
6A〜6D XY弾性部材
7A〜7D Z弾性部材
8A〜8D 押圧部
9 試料台
100 走査機構
101 カンチレバー変位センサ
102 対物レンズ
103 カンチレバー
104 振動子
105 X走査ドライバ
106 Y走査ドライバ
107 Z走査ドライバ
108 波形発生器
109 励振回路
110 振幅検出回路
111 Z制御回路
112 画像情報取得回路
113 取り込み指令発生器
114 画像生成用コントローラ
115 表示装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層型圧電体を有する走査型プローブ顕微鏡用走査機構において、
XY走査の少なくとも1方向は正弦波駆動信号により走査され、
前記正弦波駆動信号の周波数は前記走査機構の機械的共振周波数より低い周波数であって、
前記正弦波駆動信号によって走査される方向の座標における試料の高さ情報を、前記高さ情報を取得するタイミングの走査方向座標点と高さ情報表示画面上の座標点とが一致する位置に表示することを特徴とする走査型プローブ顕微鏡用走査機構。
【請求項2】
XY走査方向の走査において、高速走査される方向の駆動は正弦波駆動され、
これと直行する方向の駆動は三角波の高調波成分をカットした波形信号により駆動されることを特徴とする請求項1記載の走査機構。
【請求項3】
XY方向ともに正弦波駆動することを特徴とする請求項1記載の走査機構。
【請求項4】
前記走査機構は、
観察試料を保持する試料台と、
前記試料台をZ方向に移動させるZ積層型圧電体と、
可動テーブルと、
固定台と、
前記可動テーブルをX方向に移動し、一端が前記固定台に固定されたX積層型圧電体と、
前記可動テーブルをY方向に移動し、一端が前記固定台に固定されたY積層型圧電体とからなることを特徴とする請求項1記載の走査機構。
【請求項5】
積層型圧電体を有する走査型プローブ顕微鏡用走査機構において、
XY走査の少なくとも1方向は正弦波駆動信号により走査され、
前記正弦波駆動信号の周波数は前記走査機構の機械的共振周波数より低い周波数であって、
試料の高さ情報を取得する時間間隔は、前記正弦波駆動による走査方向の変位間隔が一定となるように変化されることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡用走査機構。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一つに記載の走査型プローブ顕微鏡用走査機構を有する走査型プローブ顕微鏡。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−300592(P2006−300592A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119650(P2005−119650)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】