説明

走査装置及び走査型光学装置

【課題】信頼性を向上させることが可能な走査装置及び走査型光学装置を提供すること。
【解決手段】内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって入射されたレーザ光を走査する光学素子13と、該光学素子13の対向する2つの面にそれぞれ配置された第1電極11及び第2電極12と、光学素子13に時間的に電界の方向が一方向Aと該一方向と反対の他方向Bに生じるように、第1電極11及び第2電極12のうち少なくとも一方に印加する電圧を制御する制御部20とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査装置及び走査型光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光などのビーム状の光を被投射面上でラスタースキャンして画像を表示する走査型画像表示装置が提案されている。この装置では、レーザ光の供給を停止することで完全な黒を表現できるため、例えば液晶ライトバルブを用いたプロジェクタ等に比べて高コントラストの表示が可能である。また、レーザ光を使用した画像表示装置は、レーザ光が単一波長であるために色純度が高い、コヒーレンスが高いためにビームを整形しやすい(絞りやすい)等の特性を持つことから、高解像度、高色再現性を実現する高画質ディスプレイとして期待されている。また、走査型画像表示装置は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどと異なり、固定された画素を持たないため、画素数という概念がなく、解像度を変換し易いという利点も持っている。
【0003】
走査型画像表示装置で画像を生成するには、ポリゴンミラー、ガルバノミラーなどのスキャナを用いて光を2次元に走査する必要がある。1個のスキャナを水平方向、垂直方向の2方向に振りつつ光を2次元に走査する方法もあるが、その場合、走査系の構成や制御が複雑になるという問題がある。そこで、光を1次元に走査するスキャナを2組用意し、各々に水平走査と垂直走査を受け持たせるようにした走査型画像表示装置が提案されている。従来は、双方のスキャナともにポリゴンミラーやガルバノミラーを使用するのが普通であり、双方のスキャナに回転多面鏡(ポリゴンミラー)を用いた投写装置が下記の特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平1−245780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1ではポリゴンミラーを用いた装置が紹介されているが画像フォーマットの高解像度化に伴い、スキャン周波数も高くなってきており、ポリゴンミラーやガルバノミラーでは限界を迎えつつある。そこで、近年、高速側のスキャナにMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用したシステムが発表されている。MEMS技術を利用したスキャナ(以下、単にMEMSスキャナという)とは、シリコン等の半導体材料の微細加工技術を用いて製作するものであり、トーションバネ等で支持したミラーを静電力等により駆動するものである。このスキャナは、静電力とバネの復元力との相互作用でミラーを往復運動させて、光を走査することができる。MEMSスキャナを用いることにより、従来のスキャナに比べて高周波数、大偏角のスキャナを実現することができる。これにより、高解像度の画像を表示することが可能になる。
【0005】
ところで、高速のMEMSスキャナを実現するには、ミラーを共振点で往復運動させなければならないため、光利用効率などを考えると、走査線が視聴者から見て左から右へスキャンした後に、次の走査線は右から左にスキャンする(両側スキャン)システムとなる。
一方、画像信号はCRT(Cathode Ray Tube)をベースに規格が決まっているため、左から右へスキャンした後は短い時間で左に戻り、再度右へスキャンする(片側スキャン)に合わせたフォーマットとなっている。したがって、MEMSスキャナの場合、一部のデータは入力された信号の順番を反転して表示しなければならないため、信号の制御が複雑となる。
そこで、MEMSスキャン以外の走査手段としては、電気光学(EO:Electro Optic)スキャナが考えられる。EOスキャナとはEO結晶に電圧を加えることにより、その結晶中を透過する光の進行方向を変える素子である。このようにEOスキャナでは、電圧によりスキャン角を制御できるので、CRTと同様に片側スキャンによる描画が可能となる。
【0006】
また、EOスキャナとは、EO結晶が一対の電極に挟持されており、この電極に電圧を印加することにより電子が注入され電子の分布に偏りが生じる。そのため、カー効果による屈折率変化にも分布が生じ、入射された光が屈折率の高い側に曲がっていくので、光の走査を可能にしている。また、EO結晶内部の屈折率分布の傾きが、電子注入量、つまり、印加電圧によるため、印加電圧を変化させることで、EO結晶から射出される光のスキャン角度を制御することができる。
しかしながら、EOスキャナにより光を走査させる場合、EO結晶の内部の電子の分布に偏りを生じさせているため、電圧の印加の仕方により、EO結晶の内部に電子が偏り続けてしまう。このように、EO結晶の内部に電子が偏り続けると、電極の導通破壊等の不具合が生じ、信頼性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、信頼性を向上させることが可能な走査装置及び走査型光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の走査装置は、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって入射されたレーザ光を走査する光学素子と、該光学素子の対向する2つの面にそれぞれ配置された第1電極及び第2電極と、前記光学素子に時間的に前記電界の方向が一方向と該一方向と反対の他方向に生じるように、前記第1電極及び前記第2電極のうち少なくとも一方に印加する電圧を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る走査装置は、制御部により第1電極及び第2電極に電圧を印加することで光学素子に電界が生じる。この電界により、光学素子の屈折率分布が一方向に向かって連続的に増加あるいは減少する。このため、光学素子の内部に生じる電界と垂直な方向に進行するレーザ光は、屈折率が低い側から高い側に向かって曲げられる。
このとき、制御部により、光学素子に時間的に電界の方向が一方向と該一方向と反対の他方向に生じるように電圧が印加される。すなわち、光学素子に、例えば、一方向の電界が生じる電圧のみ印加すると、内部において電子の偏りが生じてしまう。しかしながら、本発明のように、他方向に電界が生じる電圧を光学素子に印加することにより、光学素子の内部の電子の偏りを緩和することが可能となる。したがって、電子の偏りによる電極の導通破壊等の不具合を抑えることができるため、装置の寿命が長くなり、装置全体の信頼性を向上させることが可能となる。
【0010】
本発明の走査装置は、前記制御部が、前記光学素子に前記一方向及び前記他方向の電界が交互に生じるように電圧を制御することが好ましい。
本発明に係る走査装置は、電界方向が一方向に生じるように、光学素子に電圧が印加される。その後、電界方向が他方向に生じるように、光学素子に電圧が印加される。このように、光学素子に一方向及び他方向の電界が交互に生じることにより、電子の偏りを小まめに緩和することができるため、より効率良く電子の偏りを抑制することが可能となる。
【0011】
本発明の走査装置は、前記制御部が、前記光学素子に前記一方向の電界が生じたときの印加電圧の時間積分値と、前記他方向の電界が生じたときの印加電圧の時間積分値とが同じになるように電圧を制御することが好ましい。
本発明に係る走査装置は、光学素子に一方向の電界が生じたときの印加電圧の時間積分値と、他方向の電界が生じたときの電界強度の印加電圧とが同じであるため、光学素子の内部の電子の偏りを最も小さくすることが可能となる。
【0012】
本発明の走査装置は、前記光学素子がKTa1−xNb3の組成を有することが好ましい。
本発明に係る走査装置は、光学素子が、高い誘電率を有する誘電体材料であるKTa1−xNb3(タンタル酸ニオブ酸カリウム)の組成を有する結晶である(以下、KTN結晶と称す)。KTN結晶は、立方晶から正方晶さらに菱面体晶へと温度により結晶系を変える性質を有しており、立方晶においては、大きい2次の電気光学効果を有することが知られている。特に、立方晶から正方晶への相転移温度に近い領域では、比誘電率が発散する現象が起こり、比誘電率の自乗に比例する2次の電気光学効果はきわめて大きい値となる。したがって、KTa1−xNb3の組成を有する結晶は、他の結晶に比べて屈折率を変化させる際に必要になる印加電圧を低く抑えることが可能となる。これにより、省電力化を実現可能な走査装置を提供することが可能となる。
【0013】
本発明の走査型光学装置は、レーザ光を射出する光源装置と、該光源装置から射出したレーザ光を被投射面に向けて走査する走査手段とを備え、該走査手段が、上記の走査装置を有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る走査型光学装置では、光源装置から射出されたレーザ光は、走査手段により被投射面に向けて走査される。このとき、上述したように、信頼性の高い走査装置を用いることにより、装置全体の信頼性も向上させることが可能となる。したがって、信頼性の向上を図るとともに、画質の劣化を生じさせることなく画像をより鮮明に被投射面に表示できる走査型光学装置を得ることが可能となる。
【0015】
本発明の走査型光学装置は、前記走査手段が、水平走査を行うことが好ましい。
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子が水平走査を行い、垂直走査として例えば、安価なポリゴンミラー等を用いることにより、安価かつ高性能な走査型光学装置を実現することができる。
なお、ここで言う「水平走査」とは、2方向の走査のうち、高速側の走査であり、垂直走査とは低速側の走査である。
【0016】
本発明の走査型光学装置は、前記被投射面に射出されるレーザ光の水平帰線期間に、前記光学素子に前記電界の方向が前記一方向あるいは前記他方向に生じるように電圧が印加されることが好ましい。
【0017】
水平帰線期間とは、レーザ光が被投射面(例えば、スクリーン)上の左端から右端まで走査した後、再び左端に戻る時間である。
本発明に係る走査型光学装置では、光学素子に、例えば、一方向の電界を生じさせたとき、被投射面にレーザ光が射出される。そして、水平帰線期間では、レーザ光が走査ラインの先頭に戻るため、レーザ光を消灯することにより、レーザ光は被投射面に投射されない。このように、水平帰線期間において、他方向に電界が生じるように光学素子に電圧を印加することにより、電子の偏りが緩和する。したがって、走査型光学装置を例えば画像表示装置として用いた場合、画像の品質に悪影響を及ぼすことなく、装置の信頼性を向上させることが可能となる。
【0018】
本発明の走査型光学装置は、前記被投射面に射出されるレーザ光の垂直帰線期間に、前記光学素子に前記電界の方向が前記一方向あるいは前記他方向に生じるように電圧が印加されることが好ましい。
【0019】
垂直帰線期間とは、レーザ光が被投射面(例えば、スクリーン)上の上端から下端まで走査した後、再び上端に戻る時間である。
本発明に係る走査型光学装置では、水平帰線期間に比べて長い垂直帰線期間で、光学素子に電子の偏りが緩和する一方向あるいは他方向に電界が生じるように電圧を印加することにより、電界が他方向に生じる時間を長くとることができる。これにより、上述の時間積分値を揃えようとした場合、電子の偏りが緩和するように水平帰線期間に電圧を印加する場合に比べて、垂直帰線期間に電圧を印加した方が電極に印加する電圧を小さくすることができる。したがって、第1電極及び第2電極への負担を抑えることが可能となる。
また、水平帰線期間には、電界が他方向に生じるようにある程度の電圧を印加し、さらに、垂直帰線期間において電界が他方向に生じるように電圧を印加することで、第1電極及び第2電極への負担をさらに抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る走査装置及び走査型光学装置の実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0021】
[第1実施形態]
走査装置1は、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、内部を進行するレーザ光を走査するものである。具体的には、走査装置1は、図1に示すように、第1電極11と、第2電極12と、光学素子13と、制御部20とを備えている。
【0022】
光学素子13は、電気光学効果を有する誘電体結晶(電気光学結晶)であり、本実施形態ではKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1−xNb3)の組成を有する結晶材料で構成されている。また、KTN結晶はカー効果(等方性材料に電場をかけると複屈折性が生じる現象であり、印加電圧により発生した電界の強さの二乗に比例する)を利用した結晶である。
また、光学素子13は、直方体形状であり、光学素子13の上面13aには第1電極11が配置され、下面13bには第2電極12が配置されている。この第1電極11及び第2電極12には、電圧を印加する電源Eが接続されている。また、第1電極11及び第2電極12は、図1に示すように、光学素子13内を進行するレーザ光Lの進行方向の寸法がほぼ同じである。これにより、第1電極11と第2電極12との間の光学素子13に電界が生じるようになっている。例えば、第2電極12より第1電極11に高い電圧が印加されると、第1電極11から第2電極12に向かって(矢印Aに示す方向)電界が生じる。その結果、電気光学結晶の屈折率は第1電極11から第2電極12に向かって高くなる。
【0023】
また、光学素子13は、図1に示すように、走査装置1の入射端面1aの第1電極11に近い側からレーザ光を入射させるように配置されている。これにより、本実施形態の走査装置1は、入射したレーザ光を基準に片側に走査する片側走査を行う。つまり、走査装置1の屈折率分布により、光学素子13に入射したレーザ光は第2電極12側のみに曲げられるため、光学素子13の第1電極11に近い側からレーザ光を入射させることにより、スキャン範囲を大きく取ることが可能となっている。
【0024】
次に、走査装置の動作について説明する。
第2電極12には、電源Eにより例えば−100Vの電圧が印加され、第1電極11には、電源Eにより例えば0Vの固定電圧が印加される。第1,第2電極11,12に電圧を印加することで、光学素子13には第1電極11から第2電極12に向かって電界が生じる。これにより、図1に示すように、光学素子13の屈折率は、第1電極11側が低くなり、第2電極12側に向かって屈折率が徐々に高くなる。これにより、光学素子13の内部に生じる電界方向Aと垂直な方向に進行するレーザ光は、偏向する。具体的には、走査装置1の入射端面1aから入射したレーザ光Lは、光学素子13の屈折率が高い第2電極12側に向かって曲げられる。
【0025】
また、電源Eには制御部20が設けられている。この制御部20は、第1電極11及び第2電極12に印加する電圧を制御する。すなわち、光学素子13に電界の方向が第1電極11から第2電極12に向かう方向(一方向)A及び方向Aと逆方向の第2電極12から第1電極11に向かう方向(他方向)Bに生じるように電圧を制御するようになっている。具体的には、制御部20は、光学素子13に方向A及び方向Bの電界が交互に生じるように、第1電極11及び第2電極12に印加する電圧を制御している。
【0026】
次に、走査装置から射出されるレーザ光の走査について説明する。
第2電極12に印加される電圧の波形は、例えば、図2に示すように、鋸歯状の波形である。制御部20により、初期電圧値S1(0V)の電圧が第2電極12に印加されると、図1に示すように、光学素子13を進行するレーザ光L1は直進し走査装置1の射出端面1bから射出される。
【0027】
また、制御部20により、第2電極12に印加する電圧値を、図2の電圧の波形に示すように徐々に上げると、光学素子13の屈折率勾配が大きくなる。これにより、第1電極11に印加する電圧を時間t1で徐々に最大電圧値S2(−100V)まで上げると、図1に示すように、光学素子13を進行するレーザ光L2は、光学素子13内において印加電圧の上昇とともに徐々に大きく屈折する。これにより、走査装置1の射出端面1bから射出される光は、スキャン範囲において電界方向Aと同じ方向に走査される。
【0028】
このように、制御部20により、第2電極12に最大電圧値S2(−100V)が印加された後、リフレッシュ電圧値S3(+150V)が時間t2の間印加される。そして、時間t2後に、第2電極12に再び初期電圧値S1から最大電圧値S2まで電圧が印加される。すなわち、レーザ光が走査されている間、第1電極11から第2電極12の方向Aに電界が生じ、第1電極11側に電子の偏りが発生する。そこで、第2電極12から第1電極11の方向Bに電界が生じるように第2電極12にリフレッシュ電圧値S3が印加されることにより、第2電極12側に偏った電子が、第1電極11側に戻ろうとするため、光学素子13の内部の電子の偏りが緩和される。
【0029】
ここで、リフレッシュ電圧値S3及び時間t2は、レーザ光の走査時に、第2電極12に印加される初期電圧値S1,最大電圧値S2,初期電圧値S1から最大電圧値S2までの時間t1による時間積分値Mによって決められる。具体的には、リフレッシュ電圧値S3及び時間t2は、リフレッシュ電圧値S3及び時間t2による時間積分値Nと時間積分値Mとがほぼ同じになるように決められている。すなわち、光学素子13に、方向Aに電界が生じているときの印加電圧の時間積分値Mと、方向Bに電界が生じているときの印加電圧の時間積分値Nとは、ほぼ同じになっている。
また、制御部20は、リフレッシュ電圧が印加されている間、すなわち、方向Bに電界が生じるように第2電極12に電圧が印加されている間は、レーザ光を射出する光源(図示略)の駆動を停止するように制御している。
【0030】
本実施形態に係る走査装置1では、制御部20により、レーザ光を走査しているときに、電界の方向Aと反対の方向Bとに電界が生じるように、電源Eの制御を行っている。これにより、光学素子13の内部に生じる電子の偏りを緩和することが可能となる。したがって、電子の偏りに起因する第1電極11及び第2電極12の導通破壊等の不具合を抑えることができる。この結果、装置全体の寿命が長くなり、信頼性を向上させることが可能となる。
つまり、本実施形態の走査装置1は、信頼性を向上させることが可能である。
なお、制御部20が、第1電極11及び第2電極12に印加する電圧を制御するとしたが、第1電極11及び第2電極12のうちいずれか一方をGNDとし、残りの一方の電極に印加する電圧を制御しても良い。また、制御部20により第1電極11及び第2電極12のいずれの電極に印加される電圧を変化させても良い。
【0031】
また、光学素子13に方向Aに電界が生じているときの印加電圧の時間積分値Mと、方向Bに電界が生じているときの印加電圧の時間積分値Nとは、ほぼ同じになっているようにしたが、必ずしも同じになっていなくても良い。すなわち、光学素子13に方向Bに電界が生じるように、ある程度の電圧を印加するだけでも、電子の偏りを抑制することができる。つまり、リフレッシュ電圧値S3及び時間t2は、光学素子13として用いる結晶の特性によって適宜変更が可能である。
【0032】
[第2実施形態]
次に、本発明に係る第2実施形態について、図3及び図4を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、上述した第1実施形態に係る走査装置1と構成を共通とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略することにする。
本実施形態では、上記第1実施形態の走査装置1を走査手段として備える画像表示装置(走査型光学装置)30について説明する。
【0033】
本実施形態に係る画像表示装置30は、図3に示すように、赤色のレーザ光を射出する赤色光源装置(光源装置)30Rと、緑色のレーザ光を射出する緑色光源装置(光源装置)30Gと、青色のレーザ光を射出する青色光源装置(光源装置)30Bと、クロスダイクロイックプリズム31と、クロスダイクロイックプリズム31から射出されたレーザ光をスクリーン(被投射面)35の水平方向に走査する走査装置1と、走査装置1から射出されたレーザ光をスクリーン35の垂直方向に走査するガルバノミラー(走査手段)32と、ガルバノミラー32から走査されたレーザ光が投影されるスクリーン35とを備えている。このガルバノミラー32は、回転軸Qを中心に揺動可能となっている。
また、電源E及び赤色,緑色,青色光源装置30R,30G,30Bには制御部36が設けられている。
【0034】
走査装置1は、スクリーン35上において2方向(垂直方向v、水平方向h)の走査のうち、光源装置30R,30G,30Bから射出される光を水平方向(一方向)vに走査する水平走査用スキャナであり、ガルバノミラー32は、走査装置1から射出される光を垂直方向(一方向と異なる方向)hに走査する垂直走査用スキャナである。
なお、ここで言う「水平走査用スキャナ」は、2方向の走査のうち、高速側の走査を担うスキャナであり、「垂直走査用スキャナ」は、低速側の走査を担うスキャナである。
【0035】
次に、走査装置に印加する電圧波形及びガルバノミラーの回転角の時間関係についてタイミングチャートを用いて説明する。
走査装置1の電極に印加される電圧の波形は、第1実施形態と同様であり、図4に示すように、初期電圧値S1から最大電圧値S2まで徐々に上がる波形である。
また、ガルバノミラー32の回転角は、図4に示すように、走査装置1の第2電極12に印加される電圧が変化している間、揺動していない波形である。また、走査装置1の第2電極12に印加される電圧が最大電圧値S2から初期電圧値S1に戻る間に、ガルバノミラー32の回転角が1ステップ大きくなっている。
【0036】
また、第2電極12にリフレッシュ電圧値S3が印加される時間t2は、図4に示すように、レーザ光が第1電極11側に戻る時間、所謂水平帰線期間となっている。また、制御部36により、この水平帰線期間では、赤色,緑色,青色光源装置(光源装置)30R,30G,30Bの駆動を停止するように制御している。すなわち、水平帰線期間はスクリーン35に何も描画されないため、水平帰線期間に走査装置1の第2電極12に電圧を印加しても画像に悪影響を及ぼすことはない。
【0037】
次に、以上の構成からなる本実施形態の画像表示装置30を用いて、画像をスクリーン35に投射する方法について説明する。
各光源装置30R,30G,30Bから射出されたレーザ光は、図3に示すように、クロスダイクロイックプリズム31で合成され走査装置1に入射する。走査装置1に入射したレーザ光は、スクリーン35の水平方向に走査され、ガルバノミラー32により垂直方向に走査されてスクリーン35に投影される。
【0038】
本実施形態に係る画像表示装置30では、レーザ光が走査されている間、第1電極11側に生じる電子の偏りを水平帰線期間において緩和している。すなわち、水平帰線期間で、走査装置1の光学素子13に電界が方向Bに生じるように電圧を印加することにより、画像の品質に悪影響を及ぼすことなく電子の偏りに起因する第1電極11及び第2電極12の導通破壊等の不具合を抑えることができる。したがって、画像表示装置30の信頼性を向上させることが可能となる。
【0039】
[第3実施形態]
次に、本発明に係る第3実施形態について、図3及び図5を参照して説明する。
本実施形態に係る画像表示装置40の全体構成は、図3に示す画像表示装置と同様であり、走査装置1の第2電極12に印加する電圧の点で第2実施形態と異なるため、この点を説明する。
【0040】
赤色,緑色,青色光源装置30R,30G,30Bから射出されたレーザ光の走査について説明する。
走査装置45から射出されたレーザ光は、図3に示すように、ガルバノミラー32により、スクリーン35上の上端35aから下端35bまで走査された後、再びスクリーン35の上端に戻る。このように、レーザ光がスクリーン35の下端35bから上端35aまで戻る時間、すなわち、ガルバノミラー32の回転角が最大となる位置から初期位置に戻る時間が垂直帰線期間である。この垂直帰線期間に、光学素子13に方向Bに電界が生じるように、第2電極12にリフレッシュ電圧値S5(+100V)が時間t3の間印加される。
また、走査装置45におけるレーザ光の走査時に、第2電極12に印加される電圧の波形は、図5に示すように、リフレッシュ電圧値がS3より小さいリフレッシュ電圧値S4(+100V)である点において、図4に示す電圧波形と異なる。
【0041】
また、垂直帰線期間に印加するリフレッシュ電圧値S5及び時間t3は、1フレームにおいて各走査ラインPにおける時間積分値N1の和と、リフレッシュ電圧値S4及び時間t2による時間積分値N2との総和が、1フレームにおいて各走査ラインPにおける時間積分値Mの和とほぼ同じになっている。
また、ガルバノミラー32の回転角と時間との関係は、図4に示すグラフと同じである。
【0042】
本実施形態に係る画像表示装置40では、垂直帰線期間は、水平帰線期間に比べて長いので、光学素子13に電界が方向Bに生じるように電圧を印加する時間を長くとることができる。すなわち、垂直帰線期間に電界が方向Bに生じるように電圧を印加することで、第2電極12に印加する電圧を第2実施形態の画像表示装置30のリフレッシュ電圧値S3に比べて、本実施形態のリフレッシュ電圧値S4を小さくすることが可能となる。これにより、第2電極12への負担を抑えることが可能となる。
【0043】
なお、走査ラインPごとにリフレッシュ電圧を印加しないで、垂直帰線期間にのみリフレッシュ電圧を印加しても良い。このとき、垂直帰線期間に印加するリフレッシュ電圧値及び時間は、1フレームにおいて各走査ラインPにおける時間積分値Mの和とほぼ同じなるように決定すれば良い。この構成は、1フレーム内の走査ラインPの本数が多く、水平帰線期間が短い場合に効果的であり、このように垂直帰線期間のみにリフレッシュ電圧を印加することで、鮮明な画像をスクリーン35に表示することが可能となる。
【0044】
[第4実施形態]
次に、本発明に係る第4実施形態について、図6及び図7を参照して説明する。
第2,第3実施形態の画像表示装置30,40では、入射したレーザ光を基準に片側に走査する片側走査を行ったが、本実施形態の画像表示装置50では、入射したレーザ光を基準に両側に走査する両側走査について説明する。なお、画像表示装置50の全体構成は、図3に示す画像表示装置と同様であり、走査装置51によるレーザ光の走査のみ異なるため、この点を説明する。また、走査装置51は、第1電極52と第2電極53と、光学素子54とを有している。
【0045】
まず、走査装置51によるレーザ光の走査について図6を参照して説明する。なお、図6は、光源装置から射出されたレーザ光の光路図を分り易く説明するために、クロスダイクロイックプリズム31及びガルバノミラー32を省略し、光源装置30Gを1つだけ取り上げ、直線配置としている。
走査装置51は、図6に示すように、光源装置30Gから射出されたレーザ光を入射端面51aの中央部から若干第2電極53側に入射させるように配置されている。つまり、本実施形態の走査装置51は、入射したレーザ光を第2電極53側に比べて、第1電極52側に大きく偏向させるため、中央部より若干第2電極53側からレーザ光を入射させることにより、スキャン範囲を大きく取ることが可能になっている。
【0046】
次に、走査装置51の第1電極52及び第2電極53に印加される電圧について説明する。また、電源Eには制御部55が設けられている。
第1電極52には、電源Eにより例えば0Vの固定電圧が印加される。また、第2電極53に印加される電圧は、例えば、図7に示すように、制御部55により、時間taで初期電圧値Sa(例えば、−100V)から0Vまで徐々に上がる電圧が印加され、時間taの約2倍の時間tbで0Vから最大電圧値Sb(例えば、+200V)まで徐々に上がる電圧が印加される。
【0047】
次に、走査装置から射出されるレーザ光の走査について説明する。
第2電極53に、初期電圧値Saから0Vまで徐々に上がる電圧が印加されると、図6に示すように、走査装置51には、方向Aの電界が生じる。これにより、走査装置51から射出されるレーザ光L1は、第2電極53側に曲げられ射出端面51bから射出される。
そして、時間taで第2電極53に印加される電圧が0Vとなると、走査装置51の射出端面51bから射出されたレーザ光L2は、光路O上を進行しスキャン範囲の中央部分を照射する。
さらに、時間tbで0Vから最大電圧値Sbまで徐々に上がる電圧が印加されると、走査装置51には、方向Bの電界が生じる。これにより、走査装置51から射出されるレーザ光L3は、第1電極52側に曲げられ射出端面51bから射出される。このような電圧印加により、本実施形態の画像表示装置50の走査装置51から射出されるレーザ光は、スクリーン35を左右非対称に走査される。
【0048】
そして、第2電極53に印加される電圧が最大電圧値Sbになると、図7に示すように、制御部55により、リフレッシュ電圧値Sc(−100V)が時間tcの間印加される。すなわち、第1電極52側にレーザ光を走査する場合の方が、第2電極53に印加される電圧が大きく、時間も長いため、第2電極53側に電子の偏りが発生する。そこで、第1電極52から第2電極53に電界が生じるように、第2電極53にリフレッシュ電圧値Scが印加されることにより、第1電極52側に偏った電子が、第2電極53側に戻ろうとするため、走査装置51の内部の電子の偏りが緩和される。
【0049】
ここで、リフレッシュ電圧値Sc及び時間tcは、レーザ光の第2電極53側に走査する時に、第2電極12に印加される初期電圧値Sa及び時間taによる時間積分値M1によって決められる。具体的には、リフレッシュ電圧値Sc及び時間tcは、リフレッシュ電圧値Sc及び時間tcによる時間積分値M2と時間積分値M1との和が、0Vから最大電圧値Sbまでの時間tbによる時間積分値Nとほぼ同じになるように決められている。すなわち、光学素子13に、方向Aに電界が生じているときの印加電圧の時間積分値M1と時間積分値M2との和と、方向Bに電界が生じているときの印加電圧の時間積分値Nとは、ほぼ同じになっている。
【0050】
また、第2電極53にリフレッシュ電圧値Scが印加される時間tcは、図7に示すように、レーザ光が第2電極53側に戻る時間、所謂水平帰線期間となっている。また、制御部55により、この水平帰線期間では、赤色,緑色,青色光源装置(光源装置)30R,30G,30Bの駆動を停止するように制御している。すなわち、水平帰線期間はスクリーン35に何も描画されないため、第2実施形態と同様に、水平帰線期間に走査装置51の第2電極53に電圧を印加しても画像に悪影響を及ぼすことはない。
【0051】
本実施形態に係る画像表示装置50では、レーザ光を両側に走査する場合においても、制御部55により、光学素子54の内部の電子の偏りを緩和するように、電源Eの制御を行っている。これにより、光学素子54の内部に生じる電子の偏りを緩和することが可能となる。したがって、電子の偏りに起因する第1電極52及び第2電極53の導通破壊等の不具合を抑えることができる。この結果、装置全体の寿命が長くなり、信頼性を向上させることが可能となる。
【0052】
なお、上記実施形態では、走査装置51から射出されたレーザ光を左右非対称に走査するように、第2電極53に電圧を印加させたが、図8に示すように、左右対称に走査する画像表示装置60にも適用可能である。この画像表示装置60の走査装置61は、入射したレーザ光を基準に第1電極62側、第2電極63側の両側に走査する両側走査装置である。また、第2電極63に印加する電圧の波形としては、図9に示すように、初期電圧値Sa1から0Vまでの時間ta1の時間積分値Maと、0Vから最大電圧値Sb1までの時間tb1の時間積分値Naとがほぼ同じになる波形となっている。これにより、走査装置61の内部に生じる電子の偏りを緩和することが可能となる。
【0053】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記各実施形態において、光学素子としてKTN結晶を例に挙げて説明したが、これに限ることはなく、屈折率が線形的に変化する素子であれば良い。例えば、LiNbO(ニオブ酸リチウム)等の電気光学効果を有する誘電体結晶であっても良いが、LiNbO3等の組成を有する結晶は、KTN結晶に比べて走査偏角が小さく、また、駆動電圧が高いため、KTN結晶を用いることが好ましい。
また、第2〜第4実施形態において走査装置を画像表示装置に用いた例を挙げて説明したが、これに限るものではなく、光スキャナ等に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施形態に係る走査装置を示す平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る走査装置の電極に印加する電圧の波形を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る画像表示装置を示す斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る画像表示装置の走査装置の電極に印加する電圧の波形を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る画像表示装置の走査装置の電極に印加する電圧の波形を示す図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る画像表示装置を示す平面図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る画像表示装置の電極に印加する電圧の波形を示す図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係る画像表示装置の変形例を示す平面図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係る画像表示装置の変形例の電極に印加する電圧の波形を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1…走査装置、11…第1電極、12…第2電極、13…光学素子、20…制御部、30,40,50…画像表示装置(走査型光学装置)、30R…赤色光源装置(光源装置)、30G…緑色光源装置(光源装置)、30B…青色光源装置(光源装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって入射されたレーザ光を走査する光学素子と、
該光学素子の対向する2つの面にそれぞれ配置された第1電極及び第2電極と、
前記光学素子に時間的に前記電界の方向が一方向と該一方向と反対の他方向に生じるように、前記第1電極及び前記第2電極のうち少なくとも一方に印加する電圧を制御する制御部とを備えることを特徴とする走査装置。
【請求項2】
前記制御部が、前記光学素子に前記一方向及び前記他方向の電界が交互に生じるように電圧を制御することを特徴とする請求項1に記載の走査装置。
【請求項3】
前記制御部が、前記光学素子に前記一方向の電界が生じたときの印加電圧の時間積分値と、前記他方向の電界が生じたときの印加電圧の時間積分値とが同じになるように電圧を制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の走査装置。
【請求項4】
前記光学素子がKTa1−xNb3の組成を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の走査装置。
【請求項5】
レーザ光を射出する光源装置と、
該光源装置から射出したレーザ光を被投射面に向けて走査する走査手段とを備え、
該走査手段が、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の走査装置を有することを特徴とする走査型光学装置。
【請求項6】
前記走査手段が、水平走査を行うことを特徴とする請求項5に記載の走査型光学装置。
【請求項7】
前記被投射面に射出されるレーザ光の水平帰線期間に、前記光学素子に前記電界の方向が前記一方向あるいは前記他方向に生じるように電圧が印加されることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の走査型光学装置。
【請求項8】
前記被投射面に射出されるレーザ光の垂直帰線期間に、前記光学素子に前記電界の方向が前記一方向あるいは前記他方向に生じるように電圧が印加されることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の走査型光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−129053(P2008−129053A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310216(P2006−310216)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】