説明

走磁性細菌から抽出され交流磁場に供されたマグネトソームの様々な鎖により生成される熱の放出により誘導される、癌または腫瘍の治療

本開示には、熱の生成によるそれを必要とする対象における腫瘍または腫瘍細胞または癌の治療のための方法が記載されている。熱は、走磁性細菌全体から抽出され、交流磁場に供されたマグネトソーム鎖により生成される。それらのマグネトソーム鎖は効率的な抗腫瘍活性をもたらす一方、鎖から分離したマグネトソームまたは細菌全体内に残ったマグネトソームが生じる抗腫瘍活性は乏しいか、または生じない。キレート剤および/または遷移金属等の様々な化学物質を細菌の増殖培地中に導入することにより、マグネトソーム鎖の加熱特性が改善される。更に、脂質小胞へのマグネトソーム鎖の挿入もまた示唆され、これは、in vivoでのマグネトソーム鎖の回転を助長し、従ってマグネトソーム鎖の加熱能力を助長する。小胞は、マグネトソーム鎖と共に抗腫瘍剤を含有し得る。この場合、該薬剤は小胞を加熱することにより腫瘍中に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、交流磁場に供された磁性要素によりその場所で生成された熱を用いる、細胞または組織、特に腫瘍または腫瘍細胞のin vivo熱治療に関する。本発明は特に、ハイパーサーミアまたは熱アブレーションを用いる熱療法に関する。本開示に記載される磁性要素の種類は、生物学的プロセスを通じて合成される酸化鉄ナノ粒子の鎖である。
【0002】
発明の要旨:
本発明は、癌、腫瘍、または腫瘍細胞を破壊するために用いられ得る温熱療法を記載する。熱は、走磁性細菌から抽出された細菌マグネトソームの鎖により生成される。該温熱療法で用いられるマグネトソーム鎖は、以下の様々な条件で細菌を培養することにより得られ得る:
(1)標準的な増殖培地(例、ATCC Medium 1653、またはATCC 700274株を生育するために好適なATCC Medium 1653に類似した増殖培地)中で走磁性細菌(例、ATCC 700274)を培養する。
(2)(1)で述べたもの等の標準的な増殖培地および好ましくは、遷移金属である添加物を含有する増殖培地中で走磁性細菌を培養する。用いられ得る遷移金属の例としては、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マンガン、およびクロムである。
(3)(1)で述べたもの等の標準的な増殖培地および好ましくは、キレート剤である添加物を含有する増殖培地中で走磁性細菌を培養する。キレート剤は、鉄または他のいずれかの遷移金属に由来するカチオンと錯体を形成できる単座または多座のリガンドである有機化合物を好ましくは意味する。
(4)(1)で述べたもの等の標準的なATCC増殖培地ならびに(2)および(3)で述べた2つの添加物を含有する増殖培地中で走磁性細菌を培養する。
【0003】
細菌増殖培地中に添加物が存在することにより、マグネトソームの加熱効率(溶液中および生体内においての両方)の向上がもたらされる。(1)から(4)に記載の4つの異なる増殖培地のいずれか1つで細菌を合成することにより得られる抽出されたマグネトソーム鎖は、活性成分の存在下または非存在下で脂質小胞内に封入し、それを温熱療法で用いることもできる。
【背景技術】
【0004】
背景:
最近、振動磁場が印加されたときに熱の産生を誘導でき(Duguet et al., Nanomed., 2006, 1, 157-168)、かつ磁場を用いて容易に操作できる磁性ナノ粒子を合成するための多大な努力が為されている。これらの特徴は、ハイパーサーミアまたは熱アブレーションを通じた腫瘍の破壊または除去において磁性ナノ粒子が役立ち得るという着想、または身体の特定の局所領域において薬物を放出するためにそれらを使用できるという着想をもたらした。この研究分野はしばしば、交流磁場(AMF)ハイパーサーミアと表される。ナノ粒子による熱の産生を誘導するために交流磁場の印加を必要とするためである。以前の研究では、熱は、主に超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPION)の形態である、化学的に合成されたナノ粒子を用いて誘導されてきた。該ナノ粒子は、溶液中に混合されるか、細胞と混合されるか、または生体に投与される。これらの加熱されたナノ粒子の抗腫瘍活性はまた、動物モデルおよびヒトでの臨床の両方において評価されている。以前に行われた研究の概説は、以下に挙げる参考文献中に提示されている(Bae et al., J. Controlled Release, 2007, 122, 16-23; Ciofani et al., Med. Hypotheses, 2009, 73, 80-82; De Nardo, Clin. Cancer Res., 2005, 11, 7087s-7092s; De Nardo et al., J.Nucl. Med., 2007, 48, 437-444; Higler et al., Radiology, 2001, 218, 570-575; Ito et al., Cancer. Sci., 2003, 94, 308-313; Ito et al., J. Biosci. Bioeng., 2003, 96, 364-369; Ito et al, Cancer Lett, 2004, 212, 167-175; Ito et al., Cancer Immunol. Immun., 2006, 55, 320-328; Johannsen et al., Int. J. Hyperthermia, 2005, 21, 637-647; Johannsen et al., Int. J. Hyperthermia, 2007, 52, 1653-1662; Jordan et al., Int. J. Hyperthermia, 1993, 9, 51-68; Kawai et al., Prostate, 2005, 64, 373-381; Kawai et al., Prostate, 2008, 68, 784-792; Kikumori et al., Breast Cancer Res. Treat, 2009, 113, 435-441, Maier-Hauff et al., J. Neurooncol., 2007, 81, 53-60; Oberdorster et al., Environ. Health Persp., 2005, 113, 823-839; Ponce et al., Int. J. Hyperthermia, 2006, 22, 205-213; Tai et al., Nanotechnology, 2009, 20, 135101; Thisen et al., Int. J. Hyperthermia, 2008, 24, 467-474)。
【0005】
現時点で、磁性ナノ粒子を交流磁場に暴露したときに磁性ナノ粒子により生成される熱を用いる癌治療を開発している企業が少なくとも3つある。これらの企業としては、Sirtex(オーストラリアの企業)、Magforce(ドイツの企業)、およびAspen Medisys(米国の企業であり、以前のAduro BiotechおよびTriton Biosystem)である。これらの企業により出版されているパターン(pattern)には、化学的に合成された磁性ナノ粒子により生成される熱を癌治療のために用いる様々な方法が記載されている(Sirtex: US2006167313またはWO 2004/064921; Triton Biosystems、現在はAspen Medisys, LLC: US2003/0028071; Magforce: US2008/0268061)。
【0006】
ナノ粒子癌治療の領域で著しい進歩が為されてきたが、化学的に合成されたナノ粒子が身体内に存在することにより惹起される毒性に関する懸念が生じている(Habib et al., J. Appl. Phys., 2008, 103, 07A307-1-07A307-3)。臨床治療の間に生じる潜在的な副作用を最小化するために、投与されるナノ粒子の量は、所望の効果をなお保持しながら可能な限り少ない必要がある。そのために、磁性ナノ粒子は、十分に多量の熱を生成する必要がある(即ち、大きな比吸収率(SAR))。
【0007】
従って、化学的に合成されたナノ粒子で通常得られるよりも高い加熱能力を有する磁性ナノ粒子に対する必要性が存在する。これは、生物の組織または細胞を加熱するために必要とされる磁性材料の量を低減するために有用であろう。これは、大きな体積または高い磁気結晶異方性のいずれかを有するナノ粒子を用いることにより達成できる(Hergt et al., J. Phys. Condens. Matter, 2006, 18, S2919-S2934)。
【0008】
そのような良好な特性と、組織または細胞を標的化する能力とを有し得る磁性ナノ粒子を開発する必要性も存在する。
【0009】
部分的には大きな体積に起因して、走磁性細菌により合成されるマグネトソームは、振動磁場に供されたときに、化学的に合成されたナノ粒子よりも多量の熱を産生する。このことは、溶液中に混合された細菌マグネトソームについて示されている(Hergt et al., J. Phys. Condens. Matter, 2006, 18, S2919-S2934; Hergt et al., J. Magn. Magn. Mater., 2005, 293, 80-86; Timko et al., J. Mag. Mag. Mat., 2009, 321, 1521-1524)。上記の参照文献では、実験を行うために用いられた細菌マグネトソームの種類が明確には特定されていない。
【0010】
マグネトソームは、細胞内にある、膜に結合した、酸化鉄マグネタイト(Fe304)または硫化鉄グレイジャイト(FeS4)のナノメートルサイズの単一磁区の結晶であり、走磁性細菌により合成される。マグネタイトから構成されるマグネトソームは、細菌からの抽出後、マグヘマイトに酸化され得る。マグネトソームは通常、細菌内で鎖状に配置されているが、個々のマグネトソームも見ることができる。細菌は、地磁気中でナビゲートし、場所を決めて増殖および生存のために最適な条件を維持する助けとするためにマグネトソームを用いているようである(Bazylinski et al., Nat. Rev. Microbiol., 2004, 2, 217-230)。マグネトソームおよびマグネトソームマグネタイト結晶は、科学的、商業的、および健康上の多くの用途において有用であることが示されている。例えば、単一ヌクレオチド多型を検出するため、DNAを抽出するため、または生体分子の相互作用を磁気的に検出するためにそれらを使用できる。免疫測定法および受容体結合アッセイ、または細胞分離においてそれらを用いることもできる(Arakaki et al., J. R. Soc. Interface, 2005, 5, 977-999)。薬物送達の目的のために細菌マグネトソームをリポソーム内に挿入し得ることが示唆されている(パターン番号US6251365B1)。しかしながら、このパターンでは実験的証明が殆ど与えられておらず、そのようなリポソームの加熱能力は実証も示唆もされていない。細菌マグネトソームおよびドキソルビシンにより形成された錯体の抗癌活性が実験的に示されている(Sun et al., Cancer Lett, 2007, 258, 109-117)。この場合、抗癌活性はドキソルビシンの存在に起因し、熱により誘導される治療に起因するものではない。結局のところ、細菌マグネトソームが腫瘍または癌細胞のin vitroまたはin vivo熱治療のために有用であることは証明されていない。
【0011】
最後に、2つの最近の研究は、ラットにおける細菌マグネトソームの潜在的な毒性により生じる問題に簡単に取り組んでいるが、毒性の何らの徴候も報告していない(Sun et al., J. Nanosci. Nanotechnol., 2009, 9, 1881-1885; Sun et al, Sun et al, Nanotoxicology, 2010, 4, 271-283)。
【発明の概要】
【0012】
発明の説明
異なる種類の細菌マグネトソーム(鎖状に組織されたものまたはされていないもの、および細菌内に含有されたものまたは細菌から抽出されたもの)が、交流磁場に暴露されたときに溶液中で熱を生成するために効率的であり得る。しかしながら、本開示で実証されるように、鎖状に組織され、かつ走磁性細菌から単離されたマグネトソームのみが、効率的な抗腫瘍活性を生じる。実際、走磁性細菌AMB-1全体内に含有された細菌マグネトソームおよび個々のマグネトソーム(細菌から抽出され、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)および熱で処理されたもの)も研究した。溶液中での良好な加熱特性にも関わらず、これらの2種類の細菌マグネトソームは、in vivoで抗腫瘍活性をもたらさないか、または本発明によるマグネトソーム鎖よりもはるかに小さいin vivoでの抗腫瘍活性をもたらすようであった。温熱療法の効率に対する細菌マグネトソームの鎖状の組織化の効果は、本発明の重要な寄与である。
【0013】
本発明は、走磁性細菌全体から単離・抽出されたマグネトソーム鎖によりその場所で生成された熱を用いる、組織または細胞、特に腫瘍または腫瘍細胞のin vivo治療に関する。治療され得る腫瘍の種類としては、優先的には固形腫瘍である。それらの鎖は、そのまま用いられてもよいし、小胞内に封入されてもよい。熱は、マグネトソーム鎖を交流磁場(振動磁場とも呼ばれる)に供することにより産生される。
【0014】
本発明は、熱治療による腫瘍の治療、優先的には固形腫瘍の治療において用いるためのマグネトソーム鎖にも関する。鎖は、そのまま用いられてもよいし、小胞内に封入されてもよい。
【0015】
本発明は、薬物、特には抗腫瘍治療用の薬物としてのマグネトソーム鎖にも関する。鎖は、そのまま用いられてもよいし、小胞内に封入されてもよい。
【0016】
本発明は、特にはin vivoでの生体組織または生体細胞の、加熱の手段としてのマグネトソーム鎖の使用にも関する。
【0017】
本発明は、加熱方法を通じた腫瘍および/または腫瘍細胞の治療を可能にする薬物としてのマグネトソーム鎖の使用にも関する。
【0018】
実施形態および特徴の以下の説明は、治療方法およびマグネトソーム鎖の使用にあてはまる。
【0019】
必要とする患者にマグネトソーム鎖を投与することに本発明が関することを指摘することは重要である。しかしながら、生物への投与後に少量のマグネトソーム鎖が変化されることがあり得る。これらのマグネトソーム鎖の変化は、投与されたものより長いまたは短い鎖の形成、およびより低い可能性としては個々のマグネトソームの出現をもたらし得る。
【0020】
治療の間に投与されるマグネトソームは、マグネトソームの鎖の形態である。定義により、これらのマグネトソーム鎖は走磁性細菌から単離される。これは、それらが細菌内に含有されていないことを意味する。好ましくは、鎖は、その産生のために用いた細菌から抽出され、細胞断片から単離されている。これらのマグネトソーム鎖は、2〜30個のマグネトソーム、典型的には4〜20個のマグネトソームを含有することが好ましい。これらの鎖に属するマグネトソームの殆どは、鎖延長の方向に配向した結晶方位および好ましくは容易軸も有し、それは通常[1 1 1]である(Alphandery et al., ACS Nano., 2009, 3, 1539-1547)。結果的に、マグネトソーム鎖は、個々のマグネトソームよりも強い磁気異方性を有する。その結果、マグネトソーム鎖の強い凝集が防止される。典型的には4〜20個のマグネトソームを含有するいくつかのマグネトソーム鎖が相互作用するとき、典型的には4〜20個よりも多いマグネトソームを含有するより長いマグネトソーム鎖の形成をもたらされる。マグネトソーム鎖の長さは、好ましくは1200nm未満、より好ましくは600nm未満、最も好ましくは300nm未満である。マグネトソームの鎖状の配置は、in vivoでの加熱のために有利であるいくつかの特性を生じる。鎖状の配置のため、マグネトソームは凝集しにくく、また安定した磁気モーメントを有する。これらの特性の両方共、マグネトソーム鎖の回転を助け、従ってこの機構を通じた熱の産生を助ける。マグネトソームの鎖状の配置は真核細胞との相互作用も提供し、これはそれらの凝集が低レベルであるため有利である。この相互作用は、真核細胞内におけるマグネトソーム鎖の内在化を生じる。例えば、実施例4により詳細に記載されるように、交流磁場が印加されながらマグネトソーム鎖が細胞と混合されたとき、かなりの割合の細胞が磁性となる。一つの実施形態では、交流磁場が印加されたときにマグネトソーム鎖は真核細胞内に入り、それにより、細胞内ハイパーサーミアの機構を通じて細胞の破壊を可能にする。この機構は細胞を内部から破壊するため、潜在的に細胞外ハイパーサーミアよりも効率的である。一方、交流磁場が印加されながら個々のマグネトソームの存在下で細胞が混合されたときには、非常に小さい割合の磁性細胞が得られる。このことは、個々のマグネトソームは真核細胞の外側に留まり、効率の低い細胞破壊の機構をもたらすことを示唆する。
【0021】
マグネトソームは、マグネタイト、マグヘマイト、またはマグヘマイトとマグネタイトとの中間体である組成物から作られた磁性酸化鉄ナノ粒子として定義される。マグネトソームはまた、それを取り囲む生体膜の存在によっても特徴付けられる。マグネトソーム膜の表面におけるアミノ基の存在により、様々な生物活性の巨大分子とのカップリングが可能となり、また生体適合性が生じる(Xiang et al., Lett. Appl. Microbiol. , 2007, 6, 75-81; Sun et al., Cancer Lett., 2007, 258, 109-117; Sun et al., Biotech. Bioeng., 2008, 101, 1313-1320)。
【0022】
一つの実施形態では、鎖に属するマグネトソームは、生体膜により取り囲まれる。マグネトソームは、その構造がA. Komeili, Ann. Rev. Biochem. 2007, 76, 351-366により部分的にのみ知られている生体フィラメントを介して互いに結合され得る。
【0023】
一つの実施形態では、マグネトソームは、Magnetospirillum magneticum AMB-1株、走磁性球菌MC-1株、3種の通性嫌気性ビブリオMV-1株、MV-2株、およびMV-4株、Magnetospirillum magnetotacticum MS-1株、Magnetospirillum gryphiswaldense MSR-1株、通性嫌気性走磁性spirillum、Magnetospirillum magneticum MGT-1株、および偏性嫌気性菌Desulfovibrio magneticus RS-1等の走磁性細菌により生物学的に合成される。
【0024】
マグネトソーム鎖内に含有される個々のマグネトソームのサイズまたは平均サイズは、特に細菌株、細菌の増殖培地、および/または細菌の増殖条件に応じて変動し得る。最も頻繁には、マグネトソームは、約10nm〜約120nm、好ましくは10nm〜70nm、最も高い可能性では30nm〜50nmのサイズであるモノドメインナノ粒子である(即ち、一つの磁区のみを有する)。マグネトソームのサイズ分布は、細菌株および細菌の増殖条件に応じてかなり大幅に変動し得る。AMB-1種では、大部分のマグネトソームは30nm〜50nmのサイズを有する。マグネトソームの産生が本発明に記載されるもの等の一つまたはいくつかの添加物の存在下で行われたときに、サイズの増大が得られ得る。マグネトソームの大きなサイズは、治療の間に到達される温度においてフェリ磁性挙動を生じる。それは、熱的に安定した磁気モーメントももたらす。従って、生物中でのマグネトソームの運動は、外部磁場の印加により潜在的に制御され得る。安定した磁気モーメントに起因して、マグネトソームは、医療用途のために現在用いられている、熱的に不安定な磁気モーメントを有するより小さい超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPION)よりも良好な磁性反応を生じるはずである。大きいモノドメインナノ粒子であるマグネトソームはまた、溶液中に懸濁され交流磁場に暴露されたときに、殆どの化学的に合成されたナノ粒子(通常、SPIONの形態)よりも良好な加熱特性を有する。
【0025】
一つの実施形態では、走磁性細菌が最適条件下で生育されたときに、マグネトソームは狭いサイズ分布を有する。
【0026】
一つの実施形態では、サイズ選択の工程は、様々な強度の磁場(0.05-1T)、サイズ選択クロマトグラフィー技術(例えば、Sephacryl S1000の型のカラムを用いる)、または、上清中に残っている最小のマグネトソームを除去できる遠心分離技術のいずれかを用いて行うことができる。所与の範囲にあるサイズを有するマグネトソームを用いることも、例えば所与のサイズの小胞中にそれらを導入するために有益であり得る。
【0027】
特定の実施形態では、本発明の方法は、小胞、特に脂質小胞内に封入されたマグネトソーム鎖を用いる。マグネトソーム鎖の封入は、加熱特性の改善をもたらし、そしてまた、マグネトソーム鎖と生物との直接的な接触を妨げることにより毒性のリスクを低減する。in vivoでのマグネトソーム鎖の回転は、脂質小胞または類似の種類の構造内にそれらを封入することにより改善され得る。
【0028】
一つの実施形態では、脂質小胞は、低減された量の小さいマグネトソーム鎖を含有する小さい単層の小胞(SUV, 直径 <100nm)である。より大きい小胞と比較して、SUVはいくつかの利点を有する。例えば、それらは、マクロファージによってより認識され得ない(Gene et al., Langmuir, 2009, 25, 12604-12613)。
【0029】
別の実施形態では、脂質小胞は、大きい単層の小胞(LUV, 100nm〜1μmの直径)または巨大な単層の小胞(GUV, 直径 >1pm)である。静脈注射のためには、LUVがより好ましい。LUVまたはGUVの場合、マグネトソームの取り込み容量がSUVよりも著しく大きく、従って加熱効率がより高い。
【0030】
一つの実施形態では、脂質小胞は多層のリポソームである。
【0031】
一つの実施形態では、脂質小胞は、DOPC(1-オレオイル-2-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)、DMPC(ジミリストイルホスファチジルコリン)、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)、DSPC(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)、DMPE(ジミリストイルホスファチジルエタノールアミンまたはDPPE(ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン)等の中性電荷を有する単一の脂質から構成される。
【0032】
別の実施形態では、脂質小胞は、上記のもの等の中性の脂質と、DOPG(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)])、DPPG(ジパルミトイルホスファチジルグリセロール)等の帯電した脂質との混合から構成される。小胞の表面電荷を最適化するために、様々な電荷を有する脂質が混合される。実際、小胞の表面電荷は、小胞でのマグネトソーム鎖の封入のため、および細胞内における小胞の内在化のための重要なパラメータである(Martina et al., J. Am. Chem. Soc, 2005, 127, 10676; Tai et al., Nanotechnology, 2009, 20, 13501)。
【0033】
本方法は、ハイパーサーミアおよび熱アブレーションを含むin vivo熱治療を提供することを目的とする。
【0034】
一つの実施形態では、本発明に記載される方法は、腫瘍中の温度を生理的温度(37℃)を10℃未満上回るように上昇させることにより、腫瘍細胞または腫瘍を部分的にまたは全体的に破壊する方法を示す。ハイパーサーミアと通常呼ばれる技術である。好ましい実施形態では、ハイパーサーミアの間に到達される腫瘍中の温度は、約37℃〜約45℃、好ましくは約40℃〜約45℃、より好ましくは約43℃である。
【0035】
別の実施形態では、本発明の方法は、腫瘍中の温度を生理的温度(37℃)を約10℃よりも大きく上回るように上昇させることにより、腫瘍細胞または腫瘍を破壊する方法を示す。熱アブレーションと通常呼ばれる技術である。熱アブレーションの間に到達される温度は、約45℃〜約100℃、より好ましくは約45℃〜約70℃である。
【0036】
好ましい実施形態では、熱アブレーションの間に到達される腫瘍中の温度は、約45℃〜約55℃、好ましくは約50℃〜約55℃、最も好ましくは約53℃、54℃、または55℃である。
【0037】
熱は非常に局所的に産生されるため(ナノメートルのスケール)、治療の間、比較的高い温度が局所的に到達され得る。
【0038】
上記の温度は、腫瘍内、腫瘍組織内、および/またはそれらの環境内で到達される温度である。腫瘍細胞内の温度(即ち、内部化されたマグネトソームの近く)はより高くあり得る。
【0039】
本発明の一つの目的は、腫瘍細胞または腫瘍を部分的または全体的に破壊するための方法である。本発明に記載される熱治療が腫瘍細胞に適用されたときに、腫瘍細胞は殺され得るか、または無制限に増殖する能力を失い得る。腫瘍細胞は正常細胞よりも熱に対して感受性であるため(例えば、Overgaard et al., Cancer, 1977, 39, 2637-2646を参照)、本開示に記載される温熱療法は、腫瘍細胞を選択的に破壊し得る。
【0040】
本発明の方法は、腫瘍細胞および/または腫瘍の部分的または全体的な破壊を誘導する熱治療を記載する。該熱治療は、交流磁場の印加により生成される。この磁場は、マグネトソーム鎖(封入されているまたは小胞中にない)による熱の産生を誘導する。
【0041】
一つの実施形態では、治療の間に印加される交流磁場は、約50kHz〜約1000kHz、好ましくは約100kHz〜約500kHz、より好ましくは約100kHz〜約200kHzにある周波数により特徴付けられる。
【0042】
別の実施形態では、磁場は、約0.1mT〜約200mT、好ましくは約1mT〜約100mT、より好ましくは約10mT〜約60mT、典型的には約10mT〜約50mTにある強度により特徴付けられる。
【0043】
磁場強度の最大値は、生物にとって毒性となる値(即ち、本質的にはフーコー電流を生成するとき)により決定される。毒性がないことが示されれば、200mTよりも高い強度の磁場が治療において用いられ得る。
【0044】
別の実施形態では、本発明の方法は、磁場が印加される期間により特徴付けられる。この期間は、約1秒〜約6時間、好ましくは約1分〜約1時間、好ましくは0.5分〜30分、最も好ましくは1分〜30分であり得る。
【0045】
熱治療は、麻酔された患者に適用されることが好ましい。従って、治療が行われる時間は、麻酔の期間と同等またはそれ未満であり得る。従って、患者が例えば6時間より長い間麻酔されている場合、熱治療は潜在的に、6時間より長い間行われ得る。
【0046】
別の実施形態では、本発明の方法は、治療の間に用いられるマグネトソームの量により特徴付けられる。このマグネトソームの量は、マグネトソーム鎖の懸濁液中に含有される酸化鉄の量に関係する。この量は、注入されたマグネトソーム鎖の懸濁液中に存在する酸化鉄の量を測定することにより見積もられる。この量は、約0.001mg〜約100mgの酸化鉄、好ましくは約0.01mg〜約100mgの酸化鉄、より好ましくは約0.01mg〜約10mgの酸化鉄、より好ましくは0.1mg〜10mgの酸化鉄、典型的には0.1mg〜1mgの酸化鉄である。注入されることが必要なマグネトソームの量は、本質的には、治療される腫瘍の体積、治療の間に必要とされる温度、および注入方法に依存する。最大の腫瘍体積および最高の腫瘍温度について、最も多量のマグネトソームの投与が必要となる。また、マグネトソームが静脈内に(または腫瘍の場所の外側から)投与される場合、腫瘍内に直接またはその近くに投与される場合よりも多くのマグネトソーム鎖が必要であり得る。
【0047】
別の実施形態では、マグネトソーム鎖の投与は、標的化される腫瘍、および投与されるマグネトソーム鎖の懸濁液の濃度に応じて、異なる早さで行われ得る。例えば、脳腫瘍内に直接的にマグネトソーム鎖の懸濁液を投与するには、静脈注射よりもまたは皮膚表面に限局する腫瘍内への注入よりも遅い注入の早さが必要とされ得る。より濃縮されたマグネトソーム鎖の懸濁液の注入は、より濃縮されていないマグネトソーム鎖の懸濁液よりも遅い早さの注入を必要とし得る。注入の早さは、好ましくは0.1μl/分〜1リットル/分、より好ましくは1μl/分〜100ml/分、最も好ましくは1μl/分〜10ml/分であり、示した体積は、投与されるマグネトソーム鎖の懸濁液の体積である。
【0048】
別の実施形態では、マグネトソーム鎖の懸濁液の濃度は、典型的には1μg/ml〜100mg/ml、好ましくは10μg/ml〜50mg/mlであり、この濃度は、懸濁液中に含有される酸化鉄(優先的にはマグヘマイト)の量を表す。別の実施形態では、マグネトソーム鎖は、マグネトソーム鎖を安定化させる溶媒と混合される。懸濁液のpHを調整してもよく、かつ/または陽イオンおよび/または陰イオンをマグネトソーム鎖を含有する懸濁液に添加してこの懸濁液を安定化させてもよい。
【0049】
別の実施形態では、患者へのマグネトソーム鎖の投与は繰り返される。繰り返しの回数は、一度に投与されるマグネトソームの量に依存する。少量のみのマグネトソーム鎖が一度に投与される場合、所望の量のマグネトソームが患者に投与されるまで投与工程が数回繰り返され得る。
【0050】
別の実施形態では、交流磁場の印加により開始される熱治療が繰り返される。所与の量のマグネトソーム鎖の投与後に適用される連続する熱治療を熱サイクルと呼ぶ。各熱サイクルのために用いられる所与の量のマグネトソームは、単回投与を通じて、または上で説明したような数回の連続する投与を通じて投与され得る。熱サイクル内の異なる熱治療は、休止期間により互いに分離されている。休止期間は、1秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは10分以上、好ましくは30分以上であり得る。
【0051】
一つの実施形態では、熱サイクル内の異なる熱治療は、上記よりも長い休止期間により互いに分離されている。この休止期間は、1日〜15日であり得る。
【0052】
一つの実施形態では、熱サイクルは、1回〜648000回、特には1回〜1000回、更に特には1回〜100回、典型的には1回〜10回繰り返される。648000回という最も大きい繰り返し速度は、治療が非常に短い期間(典型的には約1秒)、非常に短い休止期間(典型的には、各治療を分離する約1秒の休止期間)と共に15日間行われるという仮定により見積もられている。治療の繰り返し回数は治療期間に依存する。治療の他のパラメータ(印加される磁場の強度およびまたは周波数等)が固定されていれば、優先的には、治療が長くなるほど、必要とされる繰り返しは少なくなる。
【0053】
本発明によれば、一つのセッション(cession)は、所与の量のマグネトソーム鎖を患者に投与することおよび磁場の印加を通じて熱を生成することの連続(ならびに、後述する他のオプションの連続)を含む。異なるセッション(cessions)が同一の患者に対して行われてもよい。これらのセッション(cessions)は、十分に長い期間により互いに分離されてもよい。この期間は、1日以上、好ましくは15日以上、より好ましくは1ヶ月以上であり得る。
【0054】
温熱療法の効率を最適化するために、以下のパラメータ、即ち、治療の間に用いられるマグネトソーム鎖の量、印加される磁場の周波数および/または強度、治療期間、一つの「セッション(cession)」の間に繰り返される治療の回数、および「セッション(cessions)」の回数を調節する必要がある。これらのパラメータは、標的化される腫瘍の具体的な特性(即ち、例えば、サイズ、温熱療法に対する抵抗性、および粘性)に依存し得る。大きな体積、および/または温度に対する高い抵抗性、および/または高い粘性を有する腫瘍のために、注入されるマグネトソームの量および/または印加される磁場の強度/周波数、および/または治療の繰り返しの回数を増加させることが考慮され得る。この場合、熱の産生を助けるべく、小胞内に細菌マグネトソームを封入することも考慮され得る。一つの実施形態では、温熱療法のパラメータは、治療される腫瘍の治療効率を最適化するように調節される。
【0055】
更に別の実施形態では、これらのパラメータの値は、腫瘍の個数、および治療される必要がある転移の存在にも依存する。進行癌の状態の患者、即ち、転移および/または重要な数の腫瘍を伴う患者のために必要とされるマグネトソーム鎖の量は、単一の腫瘍のためよりも大きいであろう。投与されるマグネトソームの量を増加させる代わりに、治療期間、(より高い温度に達するために)治療の間に印加される磁場の強度、または治療が繰り返される回数を増加させることも考慮され得る。
【0056】
本方法は、癌、より好ましくは固形腫瘍を治療することを目的とする。この種の温熱療法で治療され得る癌の例としては、前立腺癌(Kawai et al., Prostate, 2008, 68, 784-792)、食道癌、膵臓癌、乳癌(Kikumori et al., Breast Cancer Res. Treat., 2009, 113, 435-441)、脳癌(Thiesen et al., Int. J. Hyperthermia, 2008, 24, 467-474)、および皮膚癌(Ito et al., Cancer Sci., 2003, 94, 308-313)が挙げられる。
【0057】
本方法の別の目的は、マグネトソーム鎖を製造するための方法であり、該方法では、鉄源(キナ酸鉄溶液等)、および添加物(鉄以外の遷移金属、および/または本明細書で定義されるキレート剤等)を少なくとも含有する増殖培地中で走磁性細菌が培養される。一例として、増殖培地は、実施例1で述べる成分を含有する。これらの添加物は、特定の条件において、マグネトソームのサイズ、および/またはマグネトソーム鎖の長さの増加を生じさせる。それらは結果的に、交流磁場に暴露されたときのマグネトソーム鎖の加熱能力を向上させる。
【0058】
一つの実施形態では、走磁性細菌は、AMB-1種について実施例1に記載されるもの等の走磁性細菌の標準的な増殖培地、および例えば、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マンガン、クロム、またはこれらの金属の2種以上の混合等の遷移金属である添加物を含有する増殖培地中で培養される。
【0059】
一つの実施形態では、約0.02μM〜1mM、好ましくは0.02μM〜200μM、好ましくは1μM〜100μM、好ましくは2〜20μMの遷移金属(例、コバルト)の溶液を走磁性細菌の増殖培地中に添加することにより、遷移金属(例、コバルト)でのマグネトソームのドーピングが行われる。このような溶液は例えば、Staniland等(S. Staniland et al., Nature Nanotech. 2008, 3, 158-162)により用いられた方法と同じ方法に従って走磁性細菌(例、AMB-1種(ATCC 70027))の標準的な増殖培地に添加されるキナ酸コバルト溶液であり得る。コバルト(例、キナ酸コバルト)または他の遷移金属の存在下で合成された走磁性細菌は、コバルトドーピングの割合が2%より低い場合でさえも、改善された磁性特性を有する(S. Staniland et al., Nature Nanotech., 2008, 3, 158-162)。Staniland等による上記の研究では、コバルトの存在下における磁性特性の変化が走磁性細菌全体について観察されたが、走磁性細菌から抽出されたマグネトソーム鎖については観察されていない。鎖状に配置され、走磁性細菌から抽出されたCoドープされたマグネトソームの磁性特性の改善は加熱能力の改善をもたらし、このことは本発明の寄与である。化学的に合成されたナノ粒子については、約10%より大きいCoドーピングの割合が磁性特性の大きな変化を観察するために通常必要である(A. Franco et al., J. Mag. Mag. Mat, 2008, 320, 709-713; R. Tackett et al., J. Mag. Mag Mat, 2008, 320, 2755-2759)。このことは、低い割合のコバルトドーピングについてさえ、Coドープされたマグネトソームが、ドープされていないマグネトソームと比較して改善された加熱能力を有し得ることを示している。
【0060】
別の実施形態では、走磁性細菌はキレート剤の存在下で培養される。理論により完全に説明されるわけではないが、鉄または添加物として用いられる他の遷移金属のいずれか一つに由来する陽イオンにキレート剤が結合し、結果的に、走磁性細菌内への鉄および/または別の遷移金属の進入を改善させると考えられる。このプロセスにより、改善された加熱特性を有するマグネトソームが生じる。
【0061】
一つの実施形態では、約0.02μM〜1mM、好ましくは0.02μM〜400μM、好ましくは0.02〜200μM、好ましくは1μM〜100μM、最も好ましくは2〜20μMの鉄キレート剤を含有する懸濁液が増殖培地に添加される。
【0062】
一つの実施形態では、キレート剤は、1個または数個のカルボン酸官能基を含有する分子、例えば、ALA(アルファリポ酸)、カルセイン、カルボキシフルオレセイン、デフェラシロクス、ジピコリン酸、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、EDTA(エチレンジアミン五酢酸)、葉酸またはビタミンB9、乳酸、ローダミンB、カルボキシメチル-デキストラン(ポリマー)、ジピコリン酸またはシュウ酸、クエン酸またはクエン酸官能基、例えば、BAPTA(アミノフェノキシエタン五酢酸)、CDTA(シクロヘキサン-1,2-ジアミン五酢酸)、EDDHMA(エチレンジアミンジ-(o-ヒドロキシ-p-メチルフェニル)酢酸)、CaNa2-EDTA、EDTCA(エチレンジアミン五酢酸 + セタブロン(アンモニウム界面活性剤))、EDDA(エチレンジアミン-N,N'-ジ酢酸)、EDDHA(エチレンジアミン-N,N'-ビス(2-ヒドロキシフェニル酢酸)、EGTA(エチレングリコールビス-(β-アミノ-エチルエーテル)N,N,N',N'-五酢酸)、HEDTA(N-(2-ヒドロキシエチル)-エチレンジアミントリ酢酸)、HEEDTA(ヒドロキシ-2-エチレンジアミントリ酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)またはフェノール酸である。
【0063】
別の実施形態では、キレート剤は、1個または数個のアルコール官能基を含有する分子、例えば、カテコールもしくはその誘導体、または1個または数個のアミノアルコール官能基を含有する分子、例えば、ドーパミン、デフェリプロン、デフェロキサミン、デスフェリオキサミン、または1個または数個のアミノカルボン酸またはケトン官能基を含有する分子、例えば、ドキソルビシン、カフェイン、D-ペニシラミン、ピロロキノリン、HEIDA(ヒドロキシエチルイミノ-N,N-ジエタン酸)である。
【0064】
一つの実施形態では、キレート剤は、ホスホン酸塩またはホスホン酸官能基を含有する分子、例えば、AEPN(2-アミノエチルホスホン酸)、AMP(アミノ-トリス-(メチレン-ホスホン酸))、ATMP(アミノトリス(メチレンホスホン酸))、CEPA(2-カルボキシエチルホスホン酸)、DMMP(ジメチルメチルホスホン酸ジメチル)、DTPMP(ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸))、EDTMP(エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸))、HEDP(1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸)、HDTMP(ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸))、HPAA(2-ヒドロキシホスホノカルボン酸)、PBTC(ホスホノブタン-トリカルボン酸)、PMIDA(N-(ホスホノメチル)イミノジ酢酸)、TDTMP(テトラメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸))、ADP(アデノシンジリン酸)または1-{12-[4-(ホウ素ジピロメテンジフルオリド)ブタノイル]アミノ}ドデカノイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-リン酸塩、L-α-ホスファチジン酸 ナトリウム塩、1-パルミトイル-2-(ホウ素ジピロメテンジフルオリド)ウンデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン) ナトリウム塩を含有する分子である。
【0065】
別の実施形態では、キレート剤は、ビス、トリス、もしくはテトラホスホン酸塩、またはビス、トリス、もしくはテトラホスホン酸官能基を含有する分子、例えば、1-ヒドロキシメチレン-ビスホスホン酸、プロパントリホスホン酸、(ニチロトリス(nitilotris)(メチレン))トリスホスホン酸(trisphophonic acid)、(ホスフィニリジントリス(メチレン))トリスホスホン酸である。1-ヒドロキシメチレン-ビスホスホン酸の例としては、アレンドロン酸(fosamax(登録商標))、パミドロン酸、ゾレドロン酸、リセドロン酸、ネリドロン酸、イバンドロン酸(bondronat(登録商標))、ミノドロン酸、および文献(L. Wilder et al, J. Med. Chem., 2002, 45, 3721-3728; M. Neves, N. Med. Biol., 2002, 29, 329-338; H. Shinoda et al, Calcif. Tissue Int., 1983, 35, 87-89; M. A. Merrel, Eur. J. Phramacol., 2007, 570, 27-37)に記載される他の化合物が挙げられる。細菌増殖培地に導入された0.4μMまたは4μMのネリドロン酸、アレンドロン酸、およびレシドロン酸(residronic acid)について、45nmより大きいマグネトソームの割合が、ビスホスホン酸の非存在下で合成されたマグネトソームについてよりも大きくなることが本明細書で観察されている。これらの条件下で合成されたマグネトソーム鎖は結果的に、改善された加熱特性を有する。
【0066】
別の実施形態では、キレート剤は、スルホン酸もしくはスルホン酸官能基もしくはBAL(ジメルカプロール)を含有する分子、例えば、BPDS(バトフェナントロリンジスルホン酸塩または4,7-ジ(4-フェニルスルホン酸塩)-1,10-フェナントロリン)、DMPS(ジメルカプトプロパン(propoane)スルホン酸塩または2,3-ジメルカプト-1-プロパンスルホン酸)、スルホローダミン101、DMSA(ジメルカプトコハク酸(Dimercatptosuccinic acid))である。
【0067】
キレート剤の他の例としては多座のリガンドであり、例えば、ヘモグロビン、クロロフィル、ポルフィリン、およびピロール環(pyrolic rings)を含有する有機化合物である。
【0068】
別の実施形態では、走磁性細菌は、キレート剤および遷移金属の両方を含有する増殖培地中で培養される。
【0069】
好ましい実施形態では、コバルトが遷移金属として用いられ、好ましくは、ビスホスホン酸(ネリドロン酸、アレンドロン酸、またはリセドロン酸)、ローダミンまたはEDTAから選択されるキレート剤との組み合わせで用いられる。
【0070】
本発明の治療方法は以下の工程を含む。
(i)マグネトソーム鎖を哺乳動物に与えること;
(ii)任意に、治療される組織、腫瘍、および/または腫瘍細胞中にマグネトソーム鎖を標的化すること;
(iii)任意に、治療される組織、腫瘍、または腫瘍細胞中のマグネトソーム鎖を検出すること;
(iv)交流磁場の印加により加熱すること;
(v)任意に、組織、腫瘍、腫瘍細胞、および/または身体からマグネトソーム鎖を除去すること。
【0071】
以下の実施形態および好ましい実施形態の全てにおいて、マグネトソーム鎖は、小胞中に封入されてもよいし、されなくてもよい。
【0072】
工程(iii)および(iv)はまた、任意の順序で行うことができる。例えば;
- 工程(iii)の後に工程(iv);または
- 工程(iv)の後に工程(iii)。
【0073】
工程(ii)、(iii)、および(iv)は同時に行われてもよいし、順次行われてもよい。
【0074】
工程(ii)および(iv)は同時に行われてもよい。
【0075】
工程(iii)および(iv)は同時に行われてもよい。
【0076】
哺乳動物は、ヒトも含む任意の哺乳動物を意味することが意図される。
【0077】
一つの実施形態では、工程(i)のマグネトソーム鎖は、身体中に存在するマグネトソーム鎖であってもよく、例えば、最初の治療サイクル後に残るマグネトソーム鎖である。
【0078】
別の実施形態では、マグネトソーム鎖を哺乳動物に投与する工程(i')が工程(i)に先行してもよい。
【0079】
一つの実施形態では、治療される細胞または組織の遠くからマグネトソーム鎖が投与されるようにして工程(i')が行われる。例えば、それらは血液中に静脈注射され、または腫瘍を含有する臓器とは別の臓器に投与される。
【0080】
一つの実施形態では、治療される細胞または組織の近くにマグネトソーム鎖が投与されるようにして工程(i')が行われる。
【0081】
更に別の実施形態では、治療される細胞および/または腫瘍内にマグネトソーム鎖が投与されるようにして工程(i')が行われる。
【0082】
マグネトソーム鎖の懸濁液の投与の位置と腫瘍の位置との距離は、腫瘍内にマグネトソームを直接的に注入できるか否かに応じて変動し得る。例えば、腫瘍は、重要臓器のあまりに近く位置しているかもしれない。この場合、腫瘍へのマグネトソーム鎖の直接注入はできないであろう。
【0083】
本発明の方法は、治療される腫瘍細胞または腫瘍を標的化する第2の工程も含み得る。この工程は、マグネトソーム鎖(小胞中に封入されているまたはされていない)の投与が腫瘍内に直接的に行われない場合に特に重要である。選ばれた注入の種類が静脈内であるときにこれはよくあることである。標的化工程の目的は、腫瘍細胞および/または腫瘍の環境内、ならびに/あるいは腫瘍細胞および/または腫瘍内にマグネトソーム鎖を配置させることである。
【0084】
一つの実施形態では、腫瘍細胞および/または腫瘍の環境内、ならびに/あるいは腫瘍細胞および/または腫瘍内にマグネトソーム鎖(小胞中に封入されているまたはされていない)を導く磁場を用いて標的化工程が行われる。この種類の標的化を磁性標的化と表す。
【0085】
更に別の実施形態では、2つの異なるアプローチに従って、腫瘍の環境内および/または腫瘍それ自体内に磁気的にマグネトソーム鎖を導いてもよい。一方では、磁場が患者の身体外部に印加され、マグネトソーム鎖が腫瘍の位置に達するまでそれらが正しい経路に従うことを可能とするように磁場の方向が調整される。この種類の磁性標的化を「能動的」標的化と表す。標的化工程の間に印加される磁場の特徴を変化および調整することを必要とし得るためである。患者または磁場のいずれかを任意の方向に方向付けることができる適したMRI機器がこの標的化工程のために用いられ得る。一方、腫瘍および/または腫瘍環境内にマグネトソーム鎖を引き寄せるために、腫瘍の位置内またはその近くに磁石を配置してもよい。この場合、磁性標的化は本質的に受動的(即ち、基本的には、腫瘍および/または腫瘍環境内にマグネトソーム鎖が蓄積するのを待つことになるであろう)であろう。
【0086】
別の実施形態では、腫瘍を標的化する工程は、マグネトソーム鎖またはマグネトソーム鎖を含有する小胞に、腫瘍を標的化する生物学的および/または化学的な標的化分子を取り付けることにより実現される。この標的化分子は、腫瘍細胞を特異的に認識するものである。この種類の標的化を分子標的化と表す。
【0087】
一つの実施形態では、この標的化分子は、腫瘍細胞を特異的に認識する抗体である。
【0088】
別の実施形態では、PEGまたは葉酸が標的化分子として用いられる。
【0089】
一つの実施形態では、マグネトソーム鎖の表面またはマグネトソーム鎖を含有する小胞の表面のコーティングは、ポリ(エチレングリコール)PEG、および/または葉酸、および/または抗体を用いることにより実現される。これらの分子の存在は、特定の細胞を標的化することを可能にし得るのみならず、細胞内への取り込みを助け得、かつ/またはマクロファージによるマグネトソーム鎖の認識を回避することを可能にし得る(Allen et al, Trends in Pharmacological Sciences 1994, 15, 215-220; Blume et al., Biochim.Biophys. Acta 1990, 1029, 91-97; Gabizon et al., Biochim. et Biophys. Acta, 1992, 1103, 94-100; Zhang et al., Biomaterials 2002, 23, 1553-1561)。
【0090】
腫瘍を標的化する工程は、上記の両方の技術の組み合わせを用いることによって実現され得る。
- 磁性標的化;
- 分子標的化;または、
- 磁性標的化および分子標的化。
【0091】
一つの実施形態では、生物内(即ち、腫瘍内または他の場所)の細菌マグネトソームを検出する方法は、MRI、または蛍光等の他の技術のいずれかを用いる。そのような技術は、熱により誘導される治療が開始される前に、対象とする部位にマグネトソーム鎖(小胞中に封入されているまたはされていない)が到達したことを確認するため、および/または腫瘍を標的化するための道筋にマグネトソーム鎖があることを確認するため、および/またはそれらが適切に取り除かれることを確認するため、および/またはそれらの投与が成功したことを確認するためのいずれかのために用いられる。
【0092】
非常に興味深い実施形態では、磁場、特に加熱のために用いられる磁場は、マグネトソーム鎖を腫瘍細胞内に内在化させるためまたは該内在化を改善するために用いられる。
【0093】
熱により誘導される治療の間に最大の加熱効率および/または抗腫瘍活性に到達するために、マグネトソーム鎖が腫瘍中または腫瘍細胞中にあるときに、「最後のアプローチ」として磁場を用いてマグネトソーム鎖(小胞中に封入されているまたはされていない)の位置を腫瘍内に調整することも可能である。
【0094】
更に別の実施形態では、マグネトソーム鎖(小胞中に封入されているまたはされていない)はMRIにより検出される。MRIによる走磁性細菌全体の検出は実証されている(R. Benoit et al., Clin. Cancer. Res. 2009, 15, 5170-5177)。この実施形態は、マグネトソーム鎖の検出に関する。
【0095】
一つの実施形態では、マグネトソーム鎖は造影剤として用いられ、該造影剤は、その特定の特性(酸化鉄の組成および/または良好な結晶化度)に起因してMRIにより容易に検出され得る。
【0096】
更に別の実施形態では、マグネトソーム鎖は蛍光検出技術を用いて検出される。この場合、マグネトソーム鎖は蛍光分子または蛍光タグの存在により修飾される。蛍光分子または蛍光タグは、表面に、および/または表面の近くに、および/またはマグネトソーム鎖に属する1個または数個の細菌マグネトソーム内に配置される。このような蛍光分子は、ローダミン、カルセイン、フルオレセイン、エチジウムブロマイド、緑色または黄色蛍光タンパク質、クマリン、シアニン、またはこれらの挙げた分子の誘導体であり得る。
【0097】
別の実施形態では、蛍光分子は、蛍光分子の存在下で走磁性細菌を培養することにより、マグネトソーム内、その表面、またはその表面の近くに配置される。例えば、蛍光マグネトソームは、約0.1μM〜約1mMの蛍光分子の溶液の存在下で走磁性細菌を培養することにより得られる。蛍光マグネトソームは、例えば、約40μM〜約400μMのローダミン溶液の存在下で走磁性細菌を培養することにより得られ得る。
【0098】
別の実施形態では、蛍光分子は、マグネトソーム鎖に結合されている。これは、マグネトソームの表面に蛍光分子を化学的に取り付けることにより行い得る。
【0099】
更に別の実施形態では、マグネトソームは、その表面に結合し、かつその内部に含有される蛍光分子を有する。これは、上記の両方の技術を用いて蛍光マグネトソームを製造することにより得られ得る。
【0100】
更に別の実施形態では、細菌マグネトソームを含有する小胞は、小胞の表面に蛍光分子を取り付けることにより蛍光化される。
【0101】
一つの実施形態では、マグネトソーム鎖の蛍光は、生物の外部に配置されるような励起/検出スキームを用いて励起および検出される。この種類の励起/検出スキームは、腫瘍が皮膚表面近くに位置する場合に用いられるであろう。例えば光ファイバーが皮膚表面近くの腫瘍のすぐ上に置かれ、修飾されたマグネトソームを励起し、かつそれらにより放出された光を収集することができるであろう。
【0102】
別の実施形態では、修飾されたマグネトソームの励起および/または検出は、一片の器具(光ファイバー等)を生物内に挿入することにより行われ、該器具は、腫瘍および/または腫瘍環境に到達し、かつ修飾されたマグネトソームを励起し、その蛍光を検出できる。
【0103】
一つの実施形態では、工程(v)は、組織、腫瘍、腫瘍細胞、および/または身体からマグネトソームを除去する工程である。マグネトソーム鎖を生物の外に導く技術が用いられる。細菌マグネトソームは、腫瘍から直接的に除去される(例えば、外科的に穴を作り、その穴が、細菌マグネトソームが腫瘍の位置を離れて生物の外に到達するための経路を提供する)。あるいはまた、細菌マグネトソームは、腫瘍の位置から除去され、肝臓等の他の臓器に向けて追い出されて身体から除去され得る。
【0104】
更に別の実施形態では、上記実施形態に記載の技術は、腫瘍の外および身体外部にマグネトソームを追い出す磁場を用いる。
【0105】
更に別の実施形態では、腫瘍の位置からのマグネトソーム鎖の除去は、マグネトソーム鎖の荷電表面を調節することにより行われる。
【0106】
更に別の実施形態では、マグネトソーム鎖は負に帯電する。
【0107】
一つの実施形態では、フルオロフォアもまたキレート剤であり、走磁性細菌の増殖およびマグネトソームの産生の間に添加物として用いられる。好ましい実施形態では、ローダミンがキレート剤およびフルオロフォアとして用いられる。
【0108】
治療方法は従って、上述したような熱治療それ自体を含む。この方法は従って、腫瘍および/または腫瘍細胞の局所的な治療を可能にし、かつ正常細胞の破壊を最小化する。従って、腫瘍細胞を通常特異的に標的化せずに破壊する化学療法または他の癌治療技術と比較して、改善が提供される。
【0109】
別の実施形態では、熱治療が化学療法と併用される。
【0110】
このような2種の治療の併用は、活性成分(抗腫瘍物質または抗癌物質)の存在下でマグネトソーム鎖を小胞(好ましくは脂質小胞)内に封入することにより行われ得る。この場合、小胞を形成する脂質は、20℃〜60℃の相転移温度(小胞を形成する脂質が2層の構成を失う温度)により特徴付けられる。活性成分は、交流磁場の印加の下でマグネトソーム鎖、従って小胞を加熱することにより、腫瘍細胞中または腫瘍中または腫瘍細胞の環境中または腫瘍の環境中に放出される。
【0111】
本発明に従うマグネトソーム鎖、および場合により本発明に従う活性成分を含有する小胞、特に脂質小胞もまた本発明の目的である。
【0112】
X線および/または放射性療法および/または化学療法および/または外科手術および/または別の種類の癌治療と組み合わせて本発明の方法を行うことも可能である。
【0113】
一つの実施形態では、腫瘍および/または腫瘍の環境を部分的にまたは全体的に除去するために外科手術が行われる。マグネトソーム鎖の懸濁液が外科手術後に残っている空洞内に投与され、外部磁場を印加することにより温熱療法が開始される。この場合、温熱療法は、外科手術の間に除去することができなかった腫瘍の部分を破壊するため、および/または腫瘍が外科手術後に再び成長するのを防止するために用いられる。
【0114】
更に別の実施形態では、外科手術の間に空洞が腫瘍内および/または腫瘍環境内に作られ、マグネトソーム鎖による熱の産生のために腫瘍組織よりも望ましい環境(即ち、例えば、粘性がより低い環境)を作る。この実施形態では、マグネトソーム鎖がこの空洞に投与される。
【0115】
本発明はまた、上述のマグネトソーム鎖および/またはマグネトソーム鎖を含有する小胞を、特に生体組織または生体細胞をin vivoで加熱する手段として用いることにも関する。
【0116】
本発明はまた、マグネトソーム鎖(封入されているまたは小胞中にない)を、薬物、特に抗腫瘍治療(特に抗腫瘍熱治療)のための薬物として用いることにも関する。
【0117】
一つの実施形態では、マグネトソーム鎖(小胞中に封入されているまたはされていない)は、加熱方法を通じた腫瘍および/または腫瘍細胞の治療を可能にする薬物として用いられる。
【0118】
これらの使用では、小胞は活性成分を含有してもよく、該活性成分は例えば抗腫瘍薬物である。
【0119】
一つの実施形態では、マグネトソーム鎖および任意に活性成分を含有する小胞は、活性成分の放出を誘導する加熱方法を通じた腫瘍細胞または腫瘍の治療を可能にする薬物として用いられる。
【0120】
別の実施形態では、マグネトソーム鎖(小胞中に封入されているまたはされていない)は、交流磁場である医療用デバイスにより活性化される薬物として用いられる。
【0121】
本発明は、マグネトソーム鎖および/またはマグネトソーム鎖を含有する小胞ならびに任意に活性成分を、腫瘍および/または腫瘍細胞の治療のために特に設計された医療用デバイスとして用いることにも関する。
【0122】
一つの実施形態では、マグネトソーム鎖(小胞中に封入されているまたはされていない)は、腫瘍または腫瘍細胞のいずれかの磁性治療を可能にする医療用デバイスとして用いられる。
【0123】
一つの実施形態では、マグネトソーム鎖(小胞中に封入されているまたはされていない)は、腫瘍もしくは腫瘍細胞またはそれらの環境のいずれかの加熱を可能にする医療用デバイスとして用いられる。
【0124】
一つの実施形態では、マグネトソーム鎖またはマグネトソーム鎖を含有する小胞は活性成分と組み合わせられて、腫瘍、腫瘍細胞、またはそれらの環境内への活性成分の送達を可能にする医療用デバイスとして用いられる。
【0125】
一つの特徴によれば、マグネトソーム鎖の磁性励起を誘導して医療用デバイスを遂行するために用いられるデバイスが使用される。
【0126】
本発明はまた、マグネトソーム鎖(小胞中に封入されているまたはされていない)、および熱により誘導される癌または腫瘍の治療のために必要とされる特徴を有する磁場を生成できるデバイスを含むキットにも関する。
【0127】
一つの実施形態では、キットに属する小胞は、小胞内に封入された活性成分と組み合わせて用いられる。
【0128】
これより本発明を以下の非限定的な例を用いて更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】(a)Magnetospirillum magneticum AMB-1株の1細胞の透過型電子顕微鏡法(TEM)顕微鏡写真である。矢印はマグネトソーム鎖の局在を示す。(b)細菌から抽出されたマグネトソーム鎖のTEM顕微鏡写真である。(c)鎖から分離した個々のマグネトソームのTEM顕微鏡写真である。(d)化学的に合成されたナノ粒子(SPION@Citrate)のTEM顕微鏡写真である。(e)マグネトソーム鎖(CM)および個々のマグネトソーム(IM)の表面電荷を、これら2種類の細菌マグネトソームを含有する懸濁液のpHの関数として測定したものである。(f)マグネトソーム鎖(CM)および個々のマグネトソーム(IM)の赤外線スペクトルである。
【図2】(a)周波数108kHzおよびAMF振幅23mTの交流磁場(AMF)に懸濁液を供したときの、時間の関数としてのインタクトな走磁性細菌細胞の懸濁液の温度変化である。線はそれぞれ水(懸濁液)中および2%アガロースゲル(ゲル)中の細胞懸濁液に対応する。(b)AMF振幅88mTについての(a)と同様のものである。(c)23mT(四角)または88mT(ヒステリシス)で測定された細菌全体のマイナーヒステリシスループである。(d)水中またはゲル中のいずれかに含有された走磁性細菌の懸濁液の、AMF振幅の関数としての比吸収率(SAR)である。ゲル中に含有された走磁性細菌の懸濁液のマイナーヒステリシスループの面積からヒステリシス損が測定される。(e):23mTおよび88mTにおいて測定されたインタクトな細胞のSARのカラムバー状のプロットである。ボックスは、ヒステリシス損に起因する観察された温度上昇への寄与を表す。
【図3】Magnetospirillum magneticum AMB-1株の細胞から抽出されたマグネトソーム鎖の特性である。(a)周波数108kHzおよびAMF振幅23mTのAMFの存在下での時間の関数としてのマグネトソーム鎖の温度上昇である。線は、それぞれ水(溶液)中または2%アガロースゲル(ゲル)中に懸濁されたマグネトソーム鎖の加熱速度を示す。(b)AMF振幅88mTについての(a)と同様のものである。(c)23mT(四角)および88mT(線)におけるマグネトソーム鎖のマイナーヒステリシスループである。(d)AMF振幅の関数としての、水(懸濁液)中またはゲル(ゲル)中に懸濁されたマグネトソーム鎖の加熱速度の22℃における傾斜から測定されたSARである。ゲル(ヒステリシス)中に含有されたマグネトソーム鎖の懸濁液のマイナーヒステリシスループの面積からヒステリシス損が測定される。(e):23mTおよび88mTで測定されたマグネトソーム鎖のSARのカラムバー状のプロットである。ボックスは、ヒステリシス損およびマグネトソーム鎖の回転にそれぞれ起因する観察された温度上昇への寄与を表す。
【図4】Magnetospirillumm Magneticum AMB-1株の細胞から抽出され、SDSおよび熱により更に処理された個々のマグネトソームの特性である。(a)周波数108kHzおよび振幅23mTのAMFが印加されたときの、時間の関数としての個々のマグネトソームの温度上昇である。線は、それぞれ水(懸濁液)中または2%アガロースゲル(ゲル)中に懸濁された個々のマグネトソームの温度変化を示す。(b)AMF振幅88mTについての(a)と同様のものである。(c):23mT(四角)および88mT(線)で測定された個々のマグネトソームのマイナーヒステリシスループである。(d)AMF振幅の関数としての、水(懸濁液)中またはゲル(ゲル)中のいずれかに含有された個々のマグネトソームの加熱速度の22℃における傾斜から測定されたSARである。ゲル(ヒステリシス)中に含有された個々のマグネトソームのマイナーヒステリシスループの面積からヒステリシス損が測定される。(e):23mTおよび88mTで測定された個々のマグネトソームのSARのカラムバー状のプロットである。ボックスは、ヒステリシス損および個々のマグネトソームの回転にそれぞれ起因する観察された温度上昇への寄与を表す。
【図5】(a-c):キレート剤および/または鉄以外の遷移金属の非存在下で合成された、走磁性細菌から抽出されたマグネトソーム鎖の特性である。ヒストグラムは、この種類のマグネトソームの、マグネトソームのサイズ(a)およびマグネトソーム鎖の長さ(b)の分布を示している。(c):周波数が183kHz、磁場強度が43mTまたは80mTのいずれかである交流磁場にこの懸濁液を暴露したときの、406μg/mlのマグヘマイトを含有するこの種類のマグネトソームの懸濁液の温度の時間変化である。(d-f):0.4μM EDTAの存在下で合成され、走磁性細菌から抽出されたマグネトソーム鎖の特性である。ヒストグラムは、この種類のマグネトソームの、マグネトソームのサイズ(d)およびマグネトソーム鎖の長さ(e)の分布を示している。(f):周波数が183kHz、磁場強度が43mTまたは80mTのいずれかである交流磁場に懸濁液を暴露したときの、406μg/mlのマグヘマイト濃度を有するこの種類のマグネトソームを含有する懸濁液の温度の時間変化である。
【図6】(a)異なるキレート剤(4μM EDTA、4μM ローダミンB、4μM ドーパミン、4μM アレンドロン酸塩)および406μg/mlのマグヘマイトの存在下で合成された異なる種類のマグネトソーム鎖を含有するいくつかの懸濁液を、周波数が183kHz、磁場強度が43mTまたは80mTのいずれかである交流磁場に供したときの、時間の関数としてのこれらの懸濁液の温度変化である。(b)ドープされていないおよびCoドープされた鎖状に組織されたマグネトソームを含有する2つの懸濁液の温度の、時間の関数としての変化である。これらの懸濁液の濃度は1.52mg/mLであり、またこれらは周波数183kHzおよび磁場強度80mTの交流磁場に暴露される。
【図7】様々な濃度(0.125mg/ml < CγFe203 < 1mg/mL、ここでCγFe203は懸濁液のマグヘマイト濃度を表す)の抽出されたマグネトソーム鎖の非存在下または存在下で培養され、周波数183kHzおよび様々な強度(0mT < B < 60mT、ここでBは印加された磁場の強度を表す)の交流磁場に暴露された懸濁されたMDA-MB-231細胞の特性である。(a):様々な濃度のマグネトソーム鎖の懸濁液の培養についての、磁場強度の関数としての生存MDA-MB-231細胞の割合である。(b)-(d):様々な濃度(0.125mg/ml < CγFe203 < 1mg/mL)のマグネトソーム鎖の非存在下または存在下で培養されたMDA-MB-231細胞を含有する懸濁液に対してB=20mT(b)、B=43mT(c)、またはB=60mT(d)の交流磁場を印加したときの、これらの懸濁液の温度変化である。
【図8】(a)-(c):20分間、1回印加される磁場(0mT < B < 60mT)の強度の関数としての、生存接着MDA-MB-231細胞の割合である。様々な濃度(0.125mg/mL < CγFe203 < 1mg/mL)の抽出されたマグネトソーム鎖の非存在下または存在下のいずれかで細胞を24時間(D1)(a)、48時間(D2)(b)、または72時間(D3)培養する。(d)20分間、2回印加される磁場の強度(0mT < B < 60mT)の関数としての、生存接着MDA-MB-231細胞の割合である。様々な濃度(0.125mg/mL < CγFe203 < 1mg/mL)の抽出されたマグネトソーム鎖の非存在下または存在下のいずれかで細胞を72時間培養する。
【図9】(a-c)マグネトソーム鎖(CM)、個々のマグネトソーム(IM)、クエン酸イオンで被覆したSPION(SPION@Citrate)、PEG分子で被覆したSPION(SPION@PEG)を含有する4つの異なる懸濁液のマグヘマイト濃度の関数としての、これらの4つの懸濁液の存在下で培養されたMDA-MB-231細胞の阻害の割合である。(d)上記の4つの懸濁液(0.125mg/mL < CγFe203 < 1mg/mL)をMDA-MB-231細胞の存在下で培養し、183kHzおよび強度43mTの交流磁場を印加したときの、培養時間の関数としての磁性となる細胞の割合である。
【図10】(a)マウスを治療するために用いた実験的構成である。該構成は、様々な強度(20mTから80mTで変動する)のAMFが印加される直径6.7cmのコイルを備えたAmbrell(ゾウルツ、フランス)の10kW EasyHeat電源を含んでいる。治療のためにマウスがコイル内に配置される。(b)加熱された腫瘍、および温度の赤外線測定の間に記録される腫瘍を横切る位置を示す略図である。(c)-(f):個々のマグネトソームの懸濁液で治療されたマウスの研究である(マウス1〜4)。(c)治療の間に磁場が印加されたときの腫瘍および直腸の温度の変化である。これらの温度は、治療された異なるマウス(マウス1〜3)にわたって平均化されている。(d)典型的な挙動を示したマウスについて、治療開始から10分後に、治療された腫瘍を横切って測定された温度分布である。(e)個々のマグネトソームの懸濁液を注射された腫瘍(マウス1〜3)についての正規化された腫瘍体積の変化である。腫瘍の体積は、治療時における腫瘍の体積により正規化されている。(f)PBSのみが注射されたいわゆるコントロール腫瘍についての(e)と同様のものである。マウス4では個々のマグネトソームの懸濁液が注射されたが、磁場は印加されなかった。
【図11】個々のマグネトソームで治療されたマウスの研究である(マウス1〜4)。(a)治療直後(DO)、治療から14日後(D14)、または治療から30日後(D30)におけるマウス1の治療された腫瘍の写真である。(b)マウス2において治療から30日後に回収した腫瘍組織の顕微鏡写真である。(c)細菌マグネトソーム(青色または暗色のコントラスト)の存在を示す(b)の領域の拡大図である。(d)マグネトソームの凝集を示す(c)の領域の拡大図である。
【図12】マグネトソーム鎖を含有する懸濁液で治療されたマウスの研究である(マウス5〜9)。(a)治療の間に磁場が印加されたときの腫瘍および直腸の温度の変化である(マウス5〜8)。温度は異なるマウス(マウス5〜8)にわたって平均化されている。(b)典型的な挙動を示したマウスについて、治療開始から10分後の治療された腫瘍を横切って測定された温度分布である。(c)マグネトソーム鎖を含有する懸濁液を注射された腫瘍についての正規化された腫瘍体積の進展である。治療された腫瘍の体積は、治療時における腫瘍の体積により正規化されている。(d)PBSのみを注射されたコントロール腫瘍についての(c)と同様のものである。マウス9では、マグネトソーム鎖を含有する懸濁液を注射したが、磁場はマウスに印加されなかった。
【図13】マグネトソーム鎖の懸濁液で治療されたマウス(マウス5〜9)の研究である。(a)治療直後(DO)、治療から14日後(D14)、治療から30日後(D30)におけるマウス5の治療された腫瘍の写真である。(b)マウス5において治療から30日後に回収した腫瘍組織の顕微鏡写真であり、細菌マグネトソーム(青色または暗色のコントラスト)の存在を示している。(c)(b)の拡大図である。(d)細胞を示す(c)の拡大図であり、その核が細菌マグネトソームにより取り囲まれている。
【図14】(a)、(c)、(e)、(g):標準的なマグネトソーム鎖(a)、マグネトソーム-EDTA(c)、SPION@Citrate(e)、またはSPION@PEG(g)を含有する懸濁液を腫瘍内に投与し、周波数183kHzおよび強度43mTの交流磁場を20分間印加したときの腫瘍および直腸の温度の変化である。治療は、異なる治療間の1日の休止と共に3回繰り返す。(b)、(d)、(f)、(h):標準的なマグネトソーム鎖(b)、マグネトソーム-EDTA(d)、SPION@Citrate(f)、またはSPION@PEG(h)について、治療後の日の間の正規化された腫瘍体積(即ち、治療から2〜30日後に測定された腫瘍体積を治療の日の間に測定された腫瘍体積で除したもの)の変化である。(b)、(d)、(f)、および(h)では、エラーバーは、各マウスの正規化された腫瘍体積を考慮することにより見積もられた標準偏差である。
【図15】(a)、(c)、(e)、(g):標準的なマグネトソーム鎖(a)、マグネトソーム-EDTA(c)、SPION@Citrate(e)、またはSPION@PEG(g)を用いて行った治療について、熱により誘導される治療から30日後に最良の抗腫瘍活性を示したマウスの写真である。(b)、(d)、(f)、(h):最良の抗腫瘍活性を示し、かつ標準的なマグネトソーム鎖(b)、マグネトソーム-EDTA(d)、SPION@Citrate(f)、およびSPION@PEG(h)で治療されたマウスについて、治療後の日の間の正規化された腫瘍体積の変化である。
【図16】マグネトソーム鎖(a),(b)、個々のマグネトソーム(c),(d)、SPION@Citrate(e),(f)、およびSPION@PEG(g),(h)のいずれかを含有する懸濁液の腫瘍内投与について、注射の時点(DO)、注射から3日後(D3)、注射から6日後(D6)、および注射から14日後(D14)における、腫瘍中((a)、(c)、(e)、(g))および糞便中((b)、(d)、(f)、(h))のナノ粒子の割合である。
【図17】ビスホスホン酸の非存在下(a)、4μM リセドロン酸塩の存在下(b)、または4μM アレンドロン酸塩の存在下で合成された走磁性細菌についてのマグネトソームのサイズ分布を示すヒストグラムである。ビスホスホン酸の非存在下(d)、4μM リセドロン酸塩の存在下(e)、または4μM アレンドロン酸塩の存在下(f)で合成された走磁性細菌についてのマグネトソーム鎖の長さの分布を示すヒストグラムである。ビスホスホン酸(bisphosophonic acid)の非存在下(g)、4μM リセドロン酸塩の存在下(h)、または4μM アレンドロン酸塩の存在下(i)で合成されたマグネトソーム鎖を含有する懸濁液に強度43mTまたは80mTの交流磁場を印加したときの、時間の関数としての温度変化である。
【図18】SPIONで治療したマウスについての温度および腫瘍サイズの進展である(マウス10〜13)。(a)治療の間の腫瘍および直腸の温度の進展である。温度は、治療された異なるマウス(マウス10〜12)にわたって平均化されている。(b)典型的な挙動を示したマウスについて、治療開始から10分後に、治療された腫瘍を横切って測定した温度分布である。(c)SPION@Citrateの懸濁液を注射された腫瘍(マウス10〜13)についての正規化された腫瘍体積の進展である。治療された腫瘍の体積は、治療時における腫瘍の体積により正規化されている。(d)PBSのみを注射されたコントロール腫瘍についての(c)と同様のものである。マウス14では、SPION溶液が注射されたが、磁場はマウスに印加されなかった。
【実施例】
【0130】
実施例の説明
【0131】
実施例1:
加熱源として用いられる異なる種類の粒子の作製:
本実施例では、加熱源として用いられる異なる種類の粒子を作製する方法を説明する。これらの粒子は、走磁性細菌全体内に含有される粒子、走磁性細菌から抽出されたマグネトソーム鎖、走磁性細菌から抽出され、熱処理およびSDS処理により鎖から分離された個々のマグネトソーム、クエン酸イオンで被覆された化学的に合成された超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPION@Citrate)、またはPEG分子で被覆された市販の化学的に合成されたナノ粒子(SPION@PEG)である。SPION@PEGはドイツの企業Micromodから購入した(商品名:Nanomag(登録商標)-D-spio、商品番号:79-00-201)。
【0132】
SPION@Citrateを標準的なナノ粒子として用いた。磁性ハイパーサーミア(例えば、Johannsen et al, European Urology 2007, 52, 1653-1662、またはこのパターンの出願の冒頭に挙げた他の参考文献を参照)、およびナノ粒子を安定化させるが何らの抗腫瘍活性も産生しないはずである化学コーティングのために用いられる殆どのナノ粒子よりも、SPION@Citrateは類似のサイズを有するためである。
【0133】
SPION@PEGも標準的なナノ粒子として用いた。SPION@PEGは市販されており、かつ磁性ハイパーサーミアを行うためにDeNardoのグループにより用いられたものと同じだからである(例えば、De Nardo et al, Clin. Cancer Res. 2005, 11, 7087s-7092sを参照)。温熱療法におけるマグネトソーム鎖の効率を、それら2つの標準(SPION@CitrateおよびSPION@PEG)の効率と比較した。
【0134】
Magnetospirillum magneticum AMB-1株はATCC(ATCC 700274)から購入した。わずかに変更した修正MSGM培地(ATCC Medium 1653)中での液体培養で細胞を微嫌気的に室温(約25℃)で生育した。この増殖培地は、1リットル中に、0.68gの一塩基性リン酸カリウム、0.85gのコハク酸ナトリウム、0.57gの酒石酸ナトリウム、0.083gの酢酸ナトリウム、225μlの0.2%レサズリン、0.17gの硝酸ナトリウム、0.04gのL-アスコルビン酸、2mlの10mM キナ酸鉄溶液、10mlのWoolfのビタミン、および5mlのWoolfの鉱物を含有する。キナ酸鉄溶液は、0.19gのキナ酸および0.29gのFeCl3.6H20を100ミリリットルの蒸留水中に溶解することにより調製した。Woolfの鉱物の溶液は、1リットルの蒸留水中に、0.5gのニトリロトリ酢酸(NTA, C6H9N06)、1.5gの硫酸マグネシウムヘプタ(MgS04.7H20)、1gの塩化ナトリウム、0.5gの硫酸マンガン(MnS04・H20)、100mgの硫酸第一鉄7水和物(FeSO4.7H20)、100mgのコバルト硝酸塩(CO(N03)2・7H20)、100mgの塩化カルシウム(CaCl2)、100mgの硫酸亜鉛7水和物(ZnSO4・7H20)、10mgの水和硫酸銅(CuS04・5H20)、10mgの硫酸アルミニウムカリウム12水和物(AIK(SO4) 12H20)、10mgのホウ酸(H3B03)、10mgのモリブデン酸ナトリウム(Na2Mo04 2H20)、2mgの亜セレン酸ナトリウム(Na2Se03)、10mgのタングステン酸ナトリウム2水和物(Na2W04 2H20)、および20mgの塩化ニッケル(NiCl2 6H20)を含有した。Woolfのビタミンの溶液は、1リットルの蒸留水中に、2.2mgの葉酸(ビタミンB9)、10.2mgのピリドキシン(ビタミンB6)、5.2mgのリボフラビン(ビタミンB2)、2.2mgのビオチン(ビタミンHまたはB7)、5.2mgのチアミン(ビタミンB1)、5.2mgのニコチン酸(ビタミンB3またはPP)、5.2mgのパントテン酸(ビタミンB5)、0.4mgのビタミンB12、5.2mgのアミノ安息香酸、5.2mgのチオクト酸(thiotic acid)、および900mgのリン酸カリウムを溶解することにより調製した。増殖培地のpHは、5M 水酸化ナトリウム溶液を用いて6.85に調整した。静止期の細胞を後述するようにして回収した。培地が完全に還元されたときに(その指標は、増殖培地の色がピンク色から無色に変化することである)、静止期は生じた。
【0135】
M. Magneticumのインタクトな細胞全体から3つの異なる種類の試料を調製した。8000rpmでの15分間の遠心分離により静止期の細胞を回収した。上清(使用済みの増殖培地)を廃棄し、細胞を3mlの脱イオン水中に再懸濁した。インタクトな細胞全体の懸濁液のために、この試料を更に処理しなかった。図1(a)のTEM顕微鏡写真は、いくつかのマグネトソーム鎖を含有する典型的なAMB-1走磁性細菌を示す。
【0136】
マグネトソーム鎖を抽出するために、1mlの細胞懸濁液を再び遠心分離し、10mM Tris・HCl緩衝液(pH 7.4)中に再懸濁した。次いで、30Wで120分間超音波処理して細胞を溶解させ、マグネトソーム鎖を放出させた。60分および180分の超音波処理時間も試したところ、細菌からマグネトソーム鎖を抽出することが可能であった。60分未満の超音波処理時間では走磁性細菌は全て溶解せず、180分より長い超音波処理時間では、個々の凝集したマグネトソームの存在に起因して凝集が観察され始めた。
【0137】
超音波処理後、ネオジムの強力な磁石(0.1-1T)をチューブの隣に置くことによりマグネトソーム鎖の懸濁液を磁気的に分離し、磁性材料をペレットとして回収した。細胞破片および他の有機物質を含有する上清を除去した。マグネトソーム鎖をこのように10mM Tris・HCl緩衝液(pH 7.4)で10回洗浄し、最後に無菌の脱イオン水中に再懸濁した。細菌全体から抽出されたマグネトソーム鎖の典型的な集合を図1(b)のTEM顕微鏡写真に示す。マグネトソーム鎖の表面電荷を動的光散乱測定(NanoZetaSizer, Malvern instruments Ltd)を用いてpHの関数として測定した。図1(e)は、生理的pHにおいて、マグネトソーム鎖の表面電荷が-22mVで負であることを示している。Nicolet 380 FT IR Thermo Electroを用いて赤外線測定を行った。マグネトソーム鎖の懸濁液の赤外線吸収スペクトルも記録した。それは官能基カルボン酸、アミン、アミド、リン酸(P-O)から生じるピークを示し、マグネトソーム鎖の懸濁液中にタンパク質とリン脂質の両方が存在することを明らかにした。この結果は、マグネトソームを取り囲む膜とマグネトソームを結合するフィラメントの両方がこの試料中に存在することを示唆する(D. Faivre et al, Chem. Rev., 2008, 108, 4875-4898)。
【0138】
脱イオン水中の1% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の存在下90℃で5時間マグネトソーム鎖の懸濁液を加熱して、マグネトソームを取り囲む生物学的物質の殆ど(即ち、マグネトソームを取り囲むマグネトソーム膜および各鎖におけるマグネトソームの配列に関与する細胞骨格の殆ど)を除去することにより、個々のマグネトソーム(即ち、鎖状に組織されていないマグネトソーム)を得た(D. Faivre, Chem. Rev., 2008, 108, 4875-4898)。マグネトソーム鎖について説明したようにして個々のマグネトソームを洗浄し、脱イオン水中に再懸濁した。図1(c)のTEM顕微鏡写真は、個々のマグネトソームの典型的な集合を示す。個々のマグネトソームはマグネトソーム鎖とは異なる特性を有する。それらは、凝集したナノ粒子の集合を形成する(図1(c))。それらは、凝集のレベルに強く依存する表面電荷を有する。個々のマグネトソームを超音波処理し水中に分散したとき、それらは、pH 7において、マグネトソーム鎖と比較して類似した表面電荷を有する。しかしながら、個々のマグネトソームは凝集したときに正荷電を有する(pH 7で10mV, 図1(e))。個々のマグネトソームは、リン脂質酸により取り囲まれているが(図1(f)の赤外線吸収スペクトルにおけるP-Oピークの存在)、タンパク質によっては取り囲まれておらず(図1(f)の赤外線吸収スペクトルにおけるアミドの不在)、マグネトソームを取り囲む生物学的物質が完全には除去されていないが十分に変性し、鎖状に組織されない個々のマグネトソームをもたらしたことを示唆する。
【0139】
化学的に合成されたナノ粒子(SPION@Citrate)を以前に記載されたプロトコルに従って調製した(Lalatonne et al., Phys. Rev. E, 2005, 71, 011404-1, 011404-10)。被覆されていないγFe203粒子を作製するために、塩基(ジメチルアミン)の溶液をドデシル硫酸鉄(Fe(DS)2)の水性ミセル溶液にまず添加し、混合した。最終反応物濃度は、Fe(DS)2およびジメチルアミンについて、それぞれ1.3x10-2mol L-1および8.5x10-1mol L-1であった。次いで溶液を28.5℃で2時間激しく撹拌し、生成した被覆されていないナノ結晶の沈殿物を遠心分離により上清から単離した。第2の工程では、溶液がpH=2に達するまで、酸性溶液(HN03, 10-2mol.L-1)で沈殿物を洗浄した。水中に溶解したクエン酸ナトリウム([Na3C607H5] = 1.5x10-2mol L-1)を用いてナノ粒子を被覆した。溶液を90℃での2時間の超音波処理に供し、アセトンの添加によりナノ結晶の沈殿を誘導した。大過剰のアセトンでの洗浄後、沈殿物を空気中で乾燥した。最後に、クエン酸イオンで被覆されたナノ結晶を水中に分散した。水酸化ナトリウムNaOH溶液(10-1mol.L-1)を添加することにより、最初に約2であったpHを7.4まで徐々に上昇させた。SPION@Citrateはマグヘマイトから構成され、約10nmの平均サイズを有する。SPION@CitrateのTEM顕微鏡写真を図1(d)に示す。
【0140】
SPION@PEGの詳細な性質は企業Micromodから得ることができる。Micromodにより提供される情報シート(製品番号:79-00-201)には、SPION@PEGは34emu/gの飽和磁化、約20nmのサイズ、20%未満の多分散性を有すること、およびpH > 4の水性緩衝液中で安定であることが示されている。
【0141】
実施例2:
振動磁場に暴露された細菌マグネトソームによる熱産生
本実施例では、走磁性細菌によりバイオミネラル化されたマグネトソームによる熱産生の機序の詳細な研究を提供する。異なる試料を加熱するために用いた磁場周波数(108 kHz)および磁場振幅(23-88mT)の値は、高周波数高振幅AMF(交流磁場)ハイパーサーミアを行うために用いられる磁場パラメータの範囲内にある(Ivkov et al, Clin. Cancer Res., 2005, 11, 7093s-7103s; De Nardo et al, Clin. Cancer Res., 2005, 11, 7087s-7092s; De Nardo et al, The J. Nucl. Med., 2007, 48, 437-444)。AMFハイパーサーミアについて、推奨される磁場周波数は50kHz〜1MHzであり、磁場振幅は100mTより低いままである必要がある(Mornet et al, J. Mater. Chem., 2004, 14, 2161-2175)。我々は3つの異なる種類のマグネトソームの構成の熱産生特性を比較する(Alphandery et al, J. Phys. Chem. C, 2008, 112, 12304-12309; Alphandery et al, ACS Nano, 2009, 3, 1539-1547): 1)インタクトなAMB-1走磁性細菌内に含有されたマグネトソーム鎖; 2)マグネトソーム膜を保持した、細菌から抽出されたマグネトソーム鎖;および3)マグネトソーム膜が殆ど除去された、個々のマグネトソームの結晶。
【0142】
大きいフェロ磁性ナノ粒子について主に2つの熱産生の機序があることが知られている。一つ目は磁場中での磁性ナノ粒子の物理的回転によるものであり、二つ目はヒステリシス損の結果である(Hergt et al, IEEE Trans. Mag., 1998, 34, 3745-3754)。これらの機序のいずれが上記3つの異なる種類のマグネトソームの構成による熱産生に関与しているかを決定するために、我々は、細胞およびマグネトソームの回転が可能である水中での試料の加熱速度を、回転が妨げられるゲル中に存在するそれらと比較した。このようにして、細菌またはマグネトソームの回転により生成される熱の量、およびヒステリシス損から生じる熱の量を決定することができる。ゲル中で産生された熱がヒステリシス損に起因することを確かめるために、磁性測定を用いて独立にヒステリシス損を測定した。
【0143】
材料および方法:
100kVで作動するJEOLのモデルJEM 1011透過型電子顕微鏡(JEOL Ltd., 東京)を用いて試料を調べた。2x10-4重量%のマグネトソームを含有する5マイクロリットルの溶液を、カーボン被覆した銅グリッド上に堆積し、グリッドを試験の前に乾燥させた。同じ相対量のマグネトソームを全ての試料の調製に用いたため、特定の試料における凝集はマグネトソーム濃度の差異に起因するものではなかった。
【0144】
振動試料磁力計(VSM, Quantum design, サンディエゴ, CA)を用いて磁性測定を行った。磁性測定のために、2.10-3重量%のマグネトソームを含有する走磁性細菌細胞、マグネトソーム鎖、または個々のマグネトソームの液体懸濁液25マイクロリットルをシリカ基板上に堆積した。次いで、硬ゼラチンから作られたカプセルの内部に試料を磁場に平行な方向で配置した。飽和残留磁化(SIRM)およびメジャーまたはマイナーヒステリシスループの3種類の磁性測定を行った。以前に記載された(Alphandery et al., J. Phys. Chem. C, 2008, 112, 12304-12309)ものと同様の方法に従ってSIRM測定を用い、マグネトソームの組成を決定したところ、マグネトソーム中のマグネタイトはほぼ完全にマグヘマイトに酸化されていることが示された。我々の磁性材料の懸濁液は新たに調製したものではなく、かつマグネトソーム中のマグネタイトは時間と共にマグヘマイトに酸化されることが知られていたため(Chen et al., Earth Planet. Sci. Lett, 2005, 240, 790-802)、この結果は予期されないものではなかった。マグヘマイトおよびマグネタイトは、室温で非常に類似した磁性特性を有する(Alphandery et al., J. Phys. Chem. C, 2008, 112, 12304-12309)。マグネトソームのマグネタイトがマグヘマイトに変換したという事実は、このパターンで導出された結論を実質的に変えない。マグヘマイトおよびマグネタイトは、室温で非常に類似した磁性特性を有するためである(Alphandery et al., J. Phys. Chem. C, 2008, 112, 12304-12309)。試料中に含有されるマグヘマイトの量を決定するために、メジャーヒステリシスループ測定を300Kで行った。マグヘマイトの量は、試料の飽和磁化をマグヘマイトの飽和磁化で除することにより決定した。マグネトソーム結晶と同じくらい大きいナノ粒子について、飽和磁化はバルク物質(この場合、バルクのマグヘマイト)のそれである。最後に、-H0〜H0(ここでH0は、23mT、36mT、66mT、または88mTである)で印加される連続磁場の関数として試料の磁化を記録することにより、マイナーヒステリシスループの測定も行った。
【0145】
超純粋脱イオン水(18.6MΩ)中または水性アガロースゲル(2重量%)中のいずれかに懸濁された細菌全体、マグネトソーム鎖、および個々のマグネトソームを用いてこれらの実験を行った。マグヘマイトの濃度は、細胞全体を含有する液体懸濁液について457μg ml-1、マグネトソーム鎖を含有する液体懸濁液について435μg ml-1、個々のマグネトソームを含有する液体懸濁液について380μg ml-1であった。これら3つの懸濁液の各250μlをポリプロピレンチューブ内に注ぎ、周波数108kHz、磁場振幅が23mT、36mT、66mT、または88mTで固定された振動磁場を作るコイルの中心に配置した。交流電流を生成するためにコイルを発電機(Celes inductor C97104)に接続し、光ファイバープローブ(Luxtron STF-2, BFi OPTiLAS SAS)を用いて温度を測定した。
【0146】
結果および考察:
図1(a)は、Magnetospirillum magneticum AMB-1株の細胞の透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示し、典型的なマグネトソーム鎖を示している。細胞全体においてマグネトソームが占める体積はかなり小さく、典型的には約0.02%である。M. magneticumのインタクトな細胞全体を含有する水性懸濁液を、周波数ν=108kHz、場の振幅H0=23mTおよびH0=88mTである振動磁場に供した。23mTから88mTに磁場強度を増加させたとき、液体中に懸濁された細胞の加熱速度は増加した(図2(a)および2(b))。22℃で測定された温度の時間変化の傾き(ΔT/δT)から、下記式1(Mornet et al., J. Mater. Chem., 2004, 14, 2161-2175; Hergt et al., J. Magn. Magn. Matter., 2005, 293, 80-86):
【0147】

【0148】
(式中、Cwaterは水の比熱容量であり(Cwater=4.184J/g.K)、xmは溶媒(水)1mlあたりの鉄(g)の濃度である)を用いて、液体中に懸濁されたインタクトな細胞のSARを見積もった。上記式を用いて、磁場振幅を23mTから88mTに増加させたときに、細菌全体の懸濁液のSARが108±32W/gFeから864±130W/gFeに増加したことを推定した。走磁性細菌全体により生成される熱量(SAR)が細菌全体の回転に起因するのか、ヒステリシス損に起因するのか、それともこれらの機序の両方に起因するのかを決定するために、インタクトな細胞全体のマイナーヒステリシスループの面積を測定した(図2(c))。該面積は、細胞全体のヒステリシス損の見積値を提供する。Hergtら(Hergt et al., J. Magn. Magn. Matter., 2005, 293, 80-86)の方法を用いて、図2(c)に示すマイナーヒステリシスループの面積から、インタクトな細胞のヒステリシス損が23mTにおける54±25W/gFeから88mTにおける810±121W/gFeに増加したことを推定した。これらのSAR値は、懸濁液中の細菌細胞について測定されたものと同様である(図(2d))。予想外なことに、アガロースゲル中に固定された細胞について決定されたSARは、マイナーヒステリシスループの面積よりも著しく小さく、ヒステリシス損の良好な見積値を提供しないようであった(図2(d))。これは、ゲルの調製の間に細菌細胞の一部が損失し、他の試料におけるよりも低いマグネトソーム濃度を生じたことに起因している可能性がある。これらの結果から、インタクトな細菌細胞の回転はこの場合、熱産生に寄与しないと我々は結論する。大きな重さおよび体積に起因して、M. magneticumのインタクトな細胞は、熱を生成するために外部磁場の印加の下で十分によく回転できない。回転の寄与がないことは、細菌細胞の回転に起因するSAR(SARrot)を見積もることにより確認できる。後者は、下記式2(Hergt et al., IEEE Trans. Mag. 1998, 34, 3745-3754)を用いて見積もられる。
【0149】

【0150】
(2)において、ブラウン緩和時間τbはニール緩和時間τnよりはるかに小さいことを仮定している(ここで、τb=3ηV/KbTであり、τn0exp(Ea/KbT)である)。異なる試料について、τbは2.5 10-5秒から0.3秒の間にある(Mornet et al, J. Mater. Chem., 2004, 14, 2161-2175)。τ0 約10-9秒、マグネトソーム鎖の異方性エネルギーと熱エネルギーとの比Ea/KbT 約480とすると(Alphandery et al., ACS Nano 2009, 3, 1539-1547)、τn 約3. 1038秒であり、従ってτbn<<1となる。これは、SARを測定するために(2)を用いることを正当化する。式2において、ω=2πf(ここで、f=108kHzは振動磁場の周波数である)であり、Msはマグヘマイトの飽和磁化であり(Ms=390emu/cm3)、Hoは印加された磁場の振幅であり(23mT < H0< 88mT)、V 約20 10-17cm3は典型的なマグネトソーム鎖の体積であり(Alphandery et al., J. Phys. Chem. C, 2008, 112, 12304-12309)、ρ 約5g/cm3はマグヘマイトの比重であり、Kb 約1.38 10-23J/Kはボルツマン定数であり、τb 約10秒は水中でのインタクトな細菌細胞のブラウン緩和時間である。ブラウン緩和時間は、式τb=3ηVh/KbT(式中、Vhは流体力学的体積である)を用いて推定される。走磁性細菌全体について、Vh=4/3πr3(式中、rは細菌の典型的な長さの半分(1.5μm)である)と考えられる。これらの値を用いると、SARrotは、23mTおよび88mTの間のH0値について5.10-2W/gFeおよび7.10-1W/gFeの間になる。これらの値は、ヒステリシス損に起因する測定されたSAR(23mTにおいて約82±58W/gFeおよび88mTにおいて約841±153W/gFe(図2(d);これらの値は、溶液中の加熱速度から推定されるSARとマイナーヒステリシスループの測定値から推定されるSARとの間の平均である)よりはるかに小さい。従って、細菌細胞全体の回転は、観察された温度上昇に寄与しないようである。図2(d)に示されるように、SARは完全にヒステリシス損に起因するようである。これらの損失は、23mT(SAR 約82±58W/gFe)におけるよりも、より高い磁場振幅(88mTにおいてSAR 約841±153W/gFe)においてはるかにより顕著になる。磁場振幅の増加に伴うヒステリシス損の増加というこの知見は、化学的に合成されたマグネタイトナノ粒子について以前に観察されている(Hergt et al., IEEE Trans. Mag., 1998, 34, 3745-3754)。懸濁液中の細胞全体のサイクルあたりのSAR(これは、振動磁場の周波数によりSARを除したものとして定義される)は、0.7±0.5J/kgFeおよび7.8±1.4J/kgFeの間にある。これらの値は、化学的に合成された磁性ナノ粒子で得られる値の殆どよりも高い。化学的に合成された磁性ナノ粒子で得られる値は、典型的には、広範な磁性ナノ粒子サイズおよび組成物、ならびに磁場の周波数および振幅について広い選択に対して、0.001JkgFeおよび1.2J/kgFeの間にある(Dutz et al, J. Magn. Magn. Mater., 2007, 308, 305-312; Ma et al., J. Magn. Magn. Mater., 2004, 268, 33-39; Jordan et al., J. Nano. Res., 2003, 5, 597-600; Brusentsov et al., J. Magn. Magn. Mater., 2001, 225, 113-117; Chan et al., Scientific and clinical applications of magnetic carriers, Hafeli et al. (eds.), Plenum Pres, NY, 1997, 607-618)。走磁性細菌全体の懸濁液は、我々の実験条件において、殆どの化学的に合成された磁性ナノ粒子よりも多量の熱を産生すると我々は結論する。
【0151】
マグネトソーム鎖は細菌細胞から抽出され、回転を妨げる細胞構造を有さずに、磁場中での回転を増進したと推測される。マグネトソームが実際に細菌から抽出されたこと、および、それらが鎖のままであることを検証するために、電子顕微鏡法を用いた。図1(b)はマグネトソーム鎖の典型的な集合を示し(Alphandery et al., ACS Nano., 2009, 3, 1539-1547; Alphandery et al., J. Phys. Chem. C, 2008, 112, 12304-12309)、塊に凝集していないが、鎖として互いに十分に近く、磁気的に相互作用している。マグネトソーム鎖の熱産生速度を23mTおよび88mTの磁場強度についてそれぞれ図3(a)および3(b)に示す。溶液中で、それらは、23mTにおいて1500秒の期間で約43℃の増加(図3(a))、および88mTにおいて同じ期間で約48℃の増加(図3(b))により特徴付けられる。これらの加熱速度は、細胞全体で得られるよりも約2倍から約10倍大きい(図2(a)、2(b)、4(a)、および4(b))。これは、マグネトソーム鎖はインタクトな細菌細胞よりも大きなヒステリシス損を生じること、または振動磁気中でのそれらの回転は熱産生に寄与すること、あるいはそれらの両方のいずれかを示唆する。もしそうであれば、より大きな熱産生速度に関与するのはこれらの説明のいずれであるかを識別するために、マグネトソーム鎖のヒステリシス損を決定した。図3(c)は、23mTおよび88mTにおける鎖のマイナーヒステリシスループを示す。マグネトソーム鎖についてのマイナーヒステリシスループの面積は、インタクトな細菌細胞で得られたよりも小さかった(図2(c))。この減少は、マグネトソーム鎖間の磁性相互作用に起因するらしく(Alphandery et al., J. Phys. Chem. C, 2008, 112, 12304-12309)、従って、液体中に懸濁されたインタクトな細菌細胞と比較してマグネトソーム鎖について観察されたより高い熱産生速度は、ヒステリシス損の増加に起因するのではなく、鎖の回転に起因すると我々は結論する。マグネトソーム鎖による熱産生に対する回転の寄与は、液体中に懸濁されたマグネトソーム鎖のSARを見積もることにより更に確認できる。式(1)および懸濁液中のマグネトソーム鎖についてのΔT/δTの値(図3(a)および3(b))を用いると、SARは23mTにおける約864±86W/gFeから88mTにおける約1242±124W/gFeに増加することになる(図3(d))。これらのSARの値は、ゲル中のマグネトソーム鎖のSAR(23mTにおいてSAR 約54±22W/gFeおよび88mTにおいてSAR 約487±97W/gFe)またはマイナーヒステリシスループの面積(23mTにおいてSAR 約108±41W/gFeおよび88mTにおいてSAR 約486±97W/gFe)のいずれかから推定されるヒステリシス損より大きい。マグネトソーム鎖の熱産生機構に対する回転の寄与を確認するために、ブラウン緩和時間を織り込んだ式2を用いてSARrotを決定した。この式は、SARが場の振幅に強く依存する飽和領域より下でのみ適用できる(Hergt et al., IEEE Trans. Mag., 1998, 34, 3745-3754)。飽和は約36mTよりも上で生じるため(図3(d))、23mTにおけるSARのみ測定した。ブラウン緩和時間τB 約1.2 10-4秒を用いると、23mTにおけるSARrotは約3600W/gFeとなり、これは、液体中に懸濁されたマグネトソーム鎖のSAR(864±86W/gFe)とヒステリシス損に起因するSAR(90±59W/gFe)との差を測定することにより実験的に測定された774±145W/gFeというSARより大きい。理論的予測と実験的観察との間の差異は、マグネトソーム鎖の部分的な凝集により説明され得る。回転はマグネトソーム鎖の加熱機構に寄与すること、および、この寄与は23mTにおけるSARの90±10%から88mTにおける同じSARの40±10%まで減少することを我々は結論する(図3(c))。この減少は、磁場中でのマグネトソーム鎖の回転に起因するSARよりも、磁場振幅の増加に伴うヒステリシス損がより強く増強されるということにより、説明され得る(Hergt et al., IEEE Trans. Mag. 1998, 34, 3745-3754)。
【0152】
我々が試験した最後の試料は、個々のマグネトソームの懸濁液であり、その膜が、熱と脂質を溶解する界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)との組み合わせを用いて殆ど除去されたものである。これらの結晶は、図1(c)に示されるような鎖状のままではない。図1(b)に示す膜を有するマグネトソームとは異なり、これらのナノ結晶は相互作用し、個々のナノ結晶のコンパクトな集合内に組織される(Alphandery et al., ACS Nano., 2009, 3, 1539-1547, Alphandery et al., J. Phys. Chem., 2008, 112, 12304-12309; Kobayashi et al., Earth Planet. Sci. Lett, 2006, 245, 538-555)。これらの個々のマグネトソームを含有する液体懸濁液の加熱速度を、23mTおよび88mTの磁場振幅について図4(a)および4(b)に示す。それらは、23mTと88mTの両方において、液体中に懸濁されたマグネトソーム鎖について観察されたよりも低い(図3(a)、3(b)、4(a)、および4(b))。マグネトソーム鎖と個々のマグネトソームとの間で観察された溶液の加熱速度の差異は、マグネトソームの回転またはヒステリシス損のSARに対する寄与の差異、あるいは両者の組み合わせのいずれかに起因し得る。マイナーヒステリシスループの面積(図4(c))(これは、23mTにおける270±100W/gFeから88mTにおける427±85W/gFeまでのSAR値を与える。)、またはゲル中での個々のマグネトソームの加熱速度(図4(a)および4(b))(これは、23mTにおける135±70W/gFeから88mTにおける432±86W/gFeまでのSAR値を与える。)のいずれかからヒステリシス損を見積もった。上記2つの方法のいずれかにより見積もられたヒステリシス損(図4(d))は、マグネトソーム鎖について見積もられたものと類似する(図3(d))。従って、マグネトソーム鎖と液体中に懸濁された個々のマグネトソームとの間で観察されたSARの差異は、構造が磁場中で回転する能力の差異に起因するはずである。液体中に懸濁された個々のマグネトソームの回転に起因するSARは、マグネトソーム鎖について推定されたもの(23mTにおいてSARrot 約3600W/gFe)と同様のはずであることが式2により予測される。従って、個々のマグネトソームについて観察されたより低い加熱速度は、マグネトソーム鎖よりも個々のマグネトソームは塊に凝集しやすいという事実に起因する可能性が最も高い。個々のマグネトソームの凝集は電子顕微鏡法を用いることで明確に分かり(図1(c))、また液体懸濁液中に視覚的に観察することもできる。それにより、これらのマグネトソームがマグネトソーム鎖と同じくらい容易に回転するのが防止される。
【0153】
これらの結果から、以下の結論を導出できる:
(i)3つの磁性試料(走磁性細菌全体、マグネトソーム鎖、および個々のマグネトソーム)のそれぞれのSARは、より小さい超常磁性ナノ粒子について報告されたSARより大きい。
(ii)インタクトな細菌細胞による熱産生への主な寄与はヒステリシス損であるようであり、一方、物理的な回転およびヒステリシス損の両方がマグネトソーム鎖および溶液中に混合された個々のマグネトソームについての熱の生成に関与する。
(iii)溶液中での挙動に比べ、マグネトソーム鎖および個々のマグネトソームは、in vivoでより回転できないはずである。従って、それらがin vivoで生成するはずの熱量は、それらのヒステリシス損を測定することにより予測し得る。マグネトソーム鎖および個々のマグネトソームは類似のヒステリシス損を有するため、それらは両方とも、in vivo熱治療のための同等に良好な候補であると推測される。
【0154】
実施例3:
様々なキレート剤および/または遷移金属の存在下で走磁性細菌を合成することにより得られた抽出されたマグネトソーム鎖の改善された加熱効率
本実施例では、水中に懸濁された抽出されたマグネトソーム鎖の加熱効率を改善するための様々な方法を記載する。これらの方法は、AMB-1走磁性細菌の増殖培地内に導入される様々な添加物を用いる。これらの添加物は、ビスホスホン酸塩分子、ドーパミン、ローダミン、EDTA、またはコバルトなどの遷移金属等のキレート剤である。
【0155】
材料および方法:
最初に、実施例1に記載したのと同様の方法に従い、走磁性細菌の増殖培地を調製した。次いで以下の添加物の1つを走磁性細菌の増殖培地に添加した:0.4μM、4μMまたは40μMの異なる種類のビスホスホン酸(アレンドロン酸塩、リセドロン酸塩またはネリドロン酸塩)、4μM、20μMまたは400μMのローダミン溶液、0.4μMまたは4μMのEDTA溶液、0.4μM、4μMまたは40μMのドーパミン溶液、2μMまたは20μMのキナ酸コバルト溶液。走磁性細菌の懸濁液1mLを上記の増殖培地1リットルに入れ、細菌を10日間増殖させた。10日間の増殖後、細菌を回収し、実施例1に記載のものと同様のプロトコルに従って細菌マグネトソーム鎖を細菌から抽出した。2x10-4重量%のマグネトソームを含有する細菌マグネトソーム鎖の懸濁液5マイクロリットルを、透過型電子顕微鏡(TEM)解析のためにカーボングリッド上に置いた。TEMを用いてマグネトソームのサイズを測定し、鎖の長さを評価した。各種の抽出されたマグネトソーム鎖の加熱特性を評価するために、後者を水中に混合した。異なる懸濁液の濃度を1ミリリットルあたりのマグヘマイト量として見積もった。濃度は、いくつかのビスホスホン酸の存在下で合成されたマグネトソームを含有する懸濁液について0.3mg/mL、Coドープされたマグネトソームを含有する懸濁液について1.52mg/mL、EDTA、ローダミン、ドーパミン、またはアレンドロン酸塩の存在下で合成されたマグネトソームを含有する懸濁液について0.406mg/mLであった。懸濁液を周波数183kHz、強度43mTまたは80mTの交流磁場の印加の下で加熱した。これらの懸濁液の温度変化を熱電対マイクロプローブ(IT-18, Physitemp, クリフトン, USA)を用いて測定した。
【0156】
結果および考察:
この節では、標準的な条件下、即ちキレート剤および/または遷移金属(transition mestals)の非存在下で走磁性細菌を培養することにより得られたマグネトソーム鎖(CMコントロール)の特性を、0.4μM EDTAの存在下で走磁性細菌を培養することにより得られたマグネトソーム(CM-EDTA)の特性と比較する。CM-EDTAの結果を示す。CM-EDTAは、マグネトソーム特性の最も重要な変化、即ち、CMコントロールと比べてマグネトソームのサイズ、マグネトソーム鎖の長さ、および加熱効率における最大の増加を生じるためである。
【0157】
図5(a)および5(d)のヒストグラムに示されるように、CMコントロールおよびCM-EDTAの両方について、マグネトソームのサイズ分布は二峰性であるようであり、小さいマグネトソームよりも大きいマグネトソームの割合が高い。大きいマグネトソームの割合は、CMコントロールについて(図5(a))よりもCM-EDTAについて(図5(d))、より高い。また、マグネトソームのサイズ分布の適合は、大きいマグネトソームのサイズは、CMコントロールについての約42nm(図5(a))から、CM-EDTAについての最大約60nm(図5(d))まで増加することを示している。小さいマグネトソーム(< 30nm)の割合はCMコントロールについて顕著であるが(> 25%、図5(a))、CM-EDTAについては小さい(< 10%、図5(d))ことも観察される。図5(b)および5(e)に示されるヒストグラムの比較により観察できるように、マグネトソーム鎖の長さの平均もまた、CMコントロールについての約150nm(図5(b))から、CM-EDTAについての最大約300nm(図5(e))まで増加する。長いマグネトソーム鎖(> 800nmの長さ)は、CM-EDTAについてのみ存在する(図5(e))。CM-EDTAを含有する懸濁液に交流磁場を印加したとき、温度上昇が生じる。温度上昇は、43mTおよび80mTの両方の磁場強度について、CMコントロールよりもCM-EDTAの方が大きい(図5(c)および5(f))。また、CM-EDTAについての飽和温度(35℃、43mT、および45℃、80mT、図5(f))は両方とも、CMコントロールについて得られた飽和温度(43mTで28℃、80mTで35℃、図5(c))よりも高い。これらの特徴は、CMコントロールと比較してCM-EDTAの加熱能力がより高いことを明らかにしており、これは、マグネトソームのサイズおよび/またはマグネトソーム鎖の長さの増加に起因する可能性がある。
【0158】
細菌増殖培地中に導入された他の一連のキレート剤について、0.4μM EDTAで観察されたのと同じ傾向が観察できるが、その効果はより目立たない。図6(a)に示されるように、温度は、強度43mTまたは80mTの交流磁場の印加の下、CMコントロールについてよりも、様々なキレート剤(4μM ローダミンB、4μM ドーパミン、4μM アレンドロン酸塩)の存在下で培養された細菌から出たマグネトソーム鎖について、より迅速に増加する。
【0159】
4μM リセドロン酸塩または4μM アレンドロン酸塩の存在下でマグネトソームを合成したとき、45nmよりも大きいサイズのマグネトソームの割合は、ビスホスホン酸の非存在下で合成されたマグネトソームの場合よりも大きくなる(図17(a)、17(b)、および17(c))。400nmより大きい長さの鎖の割合も、ビスホスホン酸の非存在下で合成されたマグネトソームについて(図17(d))よりも、ビスホスホン酸の存在下で合成されたマグネトソームについて、より高い(図17(e)および17(f))。これらの挙動のため、磁場の印加により誘導される温度変化は、ビスホスホン酸の非存在下で合成されたマグネトソームについて(図17(g))よりも、4μM リセドロン酸塩(図17(h))または4μM アレンドロン酸塩(図17(i))の存在下で合成されたマグネトソーム(図17(i))について、より大きい。40mTおよび80mTの両方の磁場強度について、この挙動は観察される。増殖培地に導入された0.4μMの濃度のビスホスホン酸について、4μMの濃度について得られたのと同様の結果が観察された。対照的に、細菌増殖培地に導入された40μMのビスホスホン酸濃度については、細菌マグネトソーム鎖の特性は、標準的な条件下で合成された細菌マグネトソームの特性と有意に異ならなかった。これらの結果は、最適な加熱効率に達するために必要なビスホスホン酸濃度は、0.1〜40μM、特には0.1〜10μM、典型的には0.4〜4μMであることを示唆する。第3のビスホスホン酸(ネリドロン酸)も試したところ、アレンドロン酸またはリセドロン酸で得られたのと同様の結果が得られた。
【0160】
ATCC Medium 1653の化学物質および20μMまたは400μMのローダミン溶液を含有する増殖培地中でもAMB-1走磁性細菌を培養した。ローダミンの存在下で合成され、1ミリリットルの水中に混合されたマグネトソーム鎖55μgを43mTの交流磁場に供したとき、懸濁液の温度は30分で3度上昇した。ローダミンの非存在下で合成されたマグネトソーム鎖については、同一の実験条件において観察された温度上昇は1度のみであった。これは、増殖培地中のローダミンの存在がマグネトソーム鎖の加熱能力の改善をもたらすことを示す。
【0161】
20μMのキナ酸コバルト溶液を細菌増殖培地中に導入することにより合成された抽出されたマグネトソーム鎖の加熱効率も試験した。一部のマグネトソーム内にコバルトの存在が電子エネルギー損失分光法(EELS)測定を用いて検出された。この結果は、同様の条件で合成された走磁性細菌についてマグネトソーム内のコバルトの存在を同様に示したStaniland et al (S. Staniland et al, Nature Nanotech., 2008, 3, 158-162)の結果と一致する。図6(b)に示されるように、Coドープされたマグネトソームを含有する懸濁液(CγFe203=1.52mg/mL)を強度80mT、周波数183kHzの交流磁場に暴露したとき、懸濁液の温度は、CMコントロールを含有する懸濁液よりも増加した。ドープされていないマグネトソームおよびCoドープされたマグネトソームについて、マグネトソームのサイズおよびマグネトソーム鎖の長さは非常に似ていることが示されている。そのため、Coドープされたマグネトソームの加熱効率の向上は磁気結晶異方性の増加により説明できる可能性がある。
【0162】
これらの結果から、以下の結論を導出できる:
(i)0.1μM〜1mMの濃度の鉄キレート剤をAMB-1細菌増殖培地中に導入することにより、溶液中に混合された抽出されたマグネトソーム鎖の加熱特性の改善がもたらされる。この挙動は、該細菌をこれらの条件で培養したときにマグネトソームのサイズおよび/またはグネトソーム鎖の長さが増加することに起因すると考えられる。
(ii)0.1μM〜1mMの濃度のキナ酸コバルトをAMB-1細菌増殖培地中に導入することによっても、溶液中に混合された抽出されたマグネトソーム鎖の加熱特性の改善がもたらされる。この挙動は、コバルトでドープされたマグネトソームの磁気結晶異方性の増加に起因すると考えられる。
(iii)鉄キレート剤および/またはキナ酸コバルトを細菌増殖培地中に導入することにより、マグネトソーム鎖の加熱効率を高める方法が提供される。これは、これらのマグネトソーム鎖を温熱療法においてより少量で用いて、マグネトソーム鎖の存在により誘導される毒性のリスクを低減する道を開く。
【0163】
実施例4:
in vitroで評価した温熱療法の効率
【0164】
材料および方法:
MDA-MB-231細胞をAmerican Type Culture Collections(ATCC)から入手した。細胞株を、10% ウシ胎児血清(FCS)、2mM l-グルタミン、1mM ピルビン酸ナトリウム、50U/ml ストレプトマイシン(全てLife Technologies Inc.から購入)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)サプリメント中で培養した。全てのin vitro実験は、インキュベーター中、5% C02、37℃で行った。
【0165】
細胞の生存をいわゆるMTT(マイクロカルチャー・テトラゾリウム測定法;T. Mosmann, 1983, J. Immunol. Methods, 65, 55-63)を用いて評価した。この技術は、ミトコンドリア酵素が3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(Sigma, セントルイス, MO, USAから購入)を紫色のホルマザン結晶に還元する能力を測定する。96ウェル平底プレート(Falcon, ストラスブール, フランス)中、ウェルあたり2 104細胞の密度で細胞を播種し、培養培地中で24時間培養した。その後培地を除去し、異なるマグヘマイト濃度(0.125mg/mL < CγFe203 < 1mg/mL)で様々なナノ粒子(マグネトソーム鎖、個々のマグネトソーム、SPION@Citrate、およびSPION@PEG)を含有する10% FCS培地で交換した。これらの懸濁液を周波数183kHzおよび強度43mTの交流磁場に暴露した(あるいは、コントロールについては暴露しなかった)。この処理を20分間、1回または2回行った。72時間の培養後、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(Life TechnologiesからのPBS)で洗浄し、37℃で更に4時間、0.1mLのMTT(2mg/mL)と共に培養した。次に、不溶性産物(本質的にホルマザンから構成される)を100μlのDMSO(Sigma-Aldrich)の添加により溶解した。可溶化したホルマザンの570nmでの吸光度をLabsustem Multiscan MSマイクロプレート・リーダーを用いて測定した。それにより、機能的なミトコンドリアの数の見積値(生存細胞数に比例する数)が得られた。次いで、死細胞(即ち、アポトーシスした細胞)数を全細胞数で割ることで阻害率を見積もった。
【0166】
毒性研究のために、細胞をペトリ皿(直径30nm、ペトリ皿あたり50000細胞)に播種し、24時間増殖させた。この最初の増殖期間後、24時間、48時間、または72時間、研究した各種のナノ粒子の存在下(またはコントロールについては非存在下)で細胞を培養した。培養期間の終了時に、細胞を周波数183kHz、強度20mT、43mT、または60mTの交流磁場に暴露した(あるいは、コントロールについては暴露しなかった)。この処理を20分間、1回または2回行った。該処理の後、細胞をPBSで2回洗浄した。次いで、細胞を回収するために、250μlのトリプシン-EDTAを接着細胞に添加した。750μlの液体培地を回収した細胞に添加し、懸濁液をホモジナイズした。次いで懸濁液を700Gで3分間遠心分離して上清を除去し、細胞を1mLのPBS中に再懸濁した。生存細胞の割合を評価するために、5μlのヨウ化プロピジウム(PI)(1mg/mL、エタノール中に混合、Sigma Aldrich)を細胞懸濁液に添加した。PIは死細胞内のみに進入するため、蛍光の測定により死細胞の割合の見積値が得られる。この見積値から生存細胞の割合を推定し得る。PIの蛍光を測定するために、細胞をフローサイトメーター(Beckton Dickinson FACSCalibur 3C)で分析した。フローサイトメーターは、488nmの放射のアルゴンレーザー、および該レーザーにより励起されたPIの蛍光を検出できる検出器FL3-Hを含む。試料あたり10000の細胞を測定し、生存細胞の割合を決定した。
【0167】
細胞懸濁液の加熱特性をin vitroで測定するために、接着細胞について上述したのと本質的に同一の実験を懸濁液中の細胞に対して行った。この場合の唯一の違いは、細胞が直ちにマグネトソーム鎖と混合され、磁場の印加により処理されたことである。巨視的に(即ち、各個々の細胞内の温度ではなく、細胞懸濁液全体の温度)温度を測定する熱電対マイクロプローブ(IT-18, Physitemp, クリフトン, USA)を用いて温度を測定した。
【0168】
磁性細胞数を見積もるために、懸濁液中の細胞について上述したのと本質的に同一のプロトコルに従った。上記の液体培地中に含有される50000細胞を5〜20分間、様々なナノ粒子の存在下で培養した。培養の間、周波数183kHz、および磁場強度43mTの交流磁場を印加した。処理後、0.6mTの強力な磁石を懸濁液中の細胞の近くに置くことにより、磁性細胞を回収した。非磁性細胞を含有する上清を除去し、磁石に引き付けられた細胞を1mlのPBS中に再懸濁した。その後、フローサイトメーターを用いて磁性細胞の割合を見積もった。
【0169】
結果および考察:
懸濁液中の細胞の処理のために、最初に、細胞を様々な濃度のマグネトソーム鎖の懸濁液の存在下で数分間培養した。それと同時に、周波数183kHz、様々な強度(0mT < B < 60mT)の交流磁場を印加した。次いで、異なる磁場強度について、生存細胞の割合をフローサイトメーターで測定した。図7(a)は、異なる強度の印加された磁場について、生存細胞の割合は高い(> 80%)ことを示し、毒性が低いことを示している。これは、細胞は処理の直後にはアポトーシスの状態に至らないという事実により説明できる可能性がある。様々な量のマグネトソーム鎖の存在下で数分間培養された細胞について、交流磁場の印加に起因する懸濁液の温度変化を、それぞれ20mT(図7(b))、43mT(図7(c))、および60mT(図7(d))の磁場強度について図7(b)、7(c)、および7(d)に示す。図7(b)に示されるように、20mTの磁場強度は温度の上昇を生じるには低すぎる。対照的に、図7(d)は、60mTの磁場強度は大きな温度上昇を誘導することを示している。後者は、マグネトソーム鎖の非存在下で培養された細胞についてさえ起こり、温度上昇がフーコー電流に起因することを示している。強度43mTの磁場は許容できる挙動を提供し、即ち、マグネトソーム鎖の非存在下では温度変化がなく、培養されるマグネトソーム鎖の量の増加に伴い、上昇する温度が増加する(図7(c))。
【0170】
数分より長く培養された接着細胞について、生存MDA-MB-231細胞の割合も磁場強度の関数として測定した(図8)。様々な濃度のマグネトソーム鎖の懸濁液の存在下、細胞を24時間(D1、図8(a))、48時間(D2、図8(b))、または72時間(D3、図8(c)および8(d))培養した。熱により誘導される処理を1回(図8(a)〜8(c))または2回(図8(d))行った。磁場の非存在下で、マグネトソーム鎖の存在は、48時間または72時間培養されたマグネトソーム鎖1mgについて毒性である(50%未満の生存細胞)。試験した他の全ての条件について、マグネトソーム鎖の存在は低い毒性を示している(50%を上回る生存細胞)。磁場の存在下において、図8(a)〜8(c)は、43mT以上の磁場および0.5mgを上回る培養されたマグネトソーム量について、生存細胞の割合が有意に減少することを示している。図8(d)は、処理を2回繰り返すことにより処理の効率を向上できることを示しており、後者は、少量のマグネトソームを用いて破壊される生存細胞の高い割合により定義される。実際、20%の生存細胞の割合に達するのが、1回行われた処理(B=43mT)では0.5mg(図8(c))であるのに対し、2回行われた処理では、0.25mgのマグネトソーム鎖を用いた場合(B=43mT)となっている(図8(d))。
【0171】
上記の各種のナノ粒子の存在下で培養されたMDA-MB-31細胞の阻害率についても、磁場の非存在下(図9(a))、または43mTの磁場の存在下で1回(図9(b))または2回(図9(c))行った処理に関して見積もった。試験した全ての条件において、細胞の阻害率は、他の全ての種類のナノ粒子(個々のマグネトソーム、SPION@Citrate、およびSPION@PEG)の存在下で培養されたMDA-MB-31細胞についてよりも、マグネトソーム鎖の存在下で培養されたMDA-MB-31細胞について大きい。処理のための最良の条件(即ち、磁場の存在下で高い阻害率を生じ、磁場の非存在下で低い阻害率を生じる条件)は、0.125mgの最小量のマグネトソーム鎖を用い、かつ1回より多く行った処理について得られる(図9(a)および9(c))。
【0172】
図9(d)は、43mTの交流磁場が0〜20分間印加されながら各種のナノ粒子の存在下で培養されたときに磁性となるMDA-MD-231細胞の割合を示す。磁性細胞の割合は、マグネトソーム鎖の存在下およびSPION@Citrateの存在下で培養された細胞について高い。該割合は、交流磁場がどれだけ長く印加されるかに応じて、40%から90%の間にある(図9(d))。図9(d)はまた、MDA-MD-231細胞内における個々のマグネトソームの内在化の割合が低い(< 20%)ことも示す。これは、個々のマグネトソームが凝集し、細胞内に進入するのを妨げる傾向により説明され得る。図9(d)に示されるように、SPION@PEGは、MDA-MD-231細胞内における非常に低い内在化率を有し、代替磁気(alternative magnetic)の印加後の真核細胞内における磁性ナノ粒子の内在化率は用いたナノ粒子の種類に強く依存することを示す。
【0173】
これらの結果から、以下の結論を導出できる:
(i)処理がないとき、1mgより少ない量のマグネトソーム鎖について、マグネトソーム鎖の細胞毒性は低い。
(ii)様々な濃度のマグネトソーム鎖の存在下で懸濁されたMDA-MB-231細胞について、43mTの磁場強度は最良の加熱特性をもたらす。
(iii)最少量のマグネトソーム鎖を培養し(0.125mg)、かつ処理を2回繰り返す場合に最良の条件は到達される。
(iv)個々のマグネトソームと比べてマグネトソーム鎖について到達されるより高い阻害率は、MDA-MD-231細胞内における個々のマグネトソームの内在化と比較して、マグネトソーム鎖のそれが良好であることに起因し得る。
(v)SPION@Citrateの存在下で培養された細胞について観察される阻害率よりも、マグネトソーム鎖の存在下で培養された細胞について観察される阻害率が高いことは、マグネトソーム鎖のSARがより高いこと、またはマグネトソーム鎖の加熱がより均一であること、あるいはそれら両方の特性の組み合わせのいずれかにより説明され得る。
【0174】
実施例5:
様々な細菌マグネトソームおよびSPION@Citrateの加熱効率および抗腫瘍活性
本実施例では、マグネトソーム鎖、個々のマグネトソーム、SPION@Citrate、および走磁性細菌全体のin vivoでの加熱効率および抗腫瘍活性を比較する。
【0175】
材料および方法:
全ての動物実験は、"Centre Leon Berard, Ecole normale superieure, Plateau de Biologie Experimental de la Souris, リヨン, フランス"の委員会により検討されたプロトコルの承認後に行った。
【0176】
Charles Rivers Laboratories, アルブレル, フランスで購入した6週齢の30匹のヌードマウスに対して、in vivo加熱実験を行った。腫瘍を有する動物を作製するために、マウスを最初にガンマ線照射した。次いで、100μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の約200万のMDA MB 231ヒト乳癌細胞を、注射器(26G針)を用いてマウスの左右両方の脇腹に皮下注射した。キャリパーを用いて3日毎に腫瘍サイズを測定した。腫瘍体積の見積もりは、式V = AxB2/2(式中、Aは腫瘍の長径であり、Bは腫瘍の短径である)(Sun et al., Cancer Lett., 2007, 258, 109-117)を用いて行った。腫瘍は21日の期間内に約100mm3の体積に達するまで成長した。
【0177】
治療開始前にマウスをケタミン/キシラジン(100/6mg kg-1, i.p.)で麻酔した。その結果、マウスの体温は37℃から、マウスによって30-36℃まで減少した。3匹のマウスは最初の治療工程の間に死亡した。これは、麻酔薬の投与量を過剰に見積もったことに起因する可能性が最も高い。検視後、それらのマウスの臓器は、明らかな全身鬱血または梗塞を示さなかった。麻酔下、無菌水中に溶解した化学的に合成されたナノ粒子または各種の細菌マグネトソームのいずれかを含有する注射器の針をマウスの腫瘍内に縦方向に挿入した。次いでマウスを直径6.7cmのコイル内に配置し、マウスに交流磁場を印加した。交流磁場を作るために、Ambrell(ゾウルツ、フランス)の10kW EasyHeat電源を用いてコイル内に交流電流を生成した。図10(a)の概略図は、実験を行うために用いた実験的構成を示す。埋め込み可能な熱電対マイクロプローブ(IT-18, Physitemp, クリフトン, USA)を用いて温度測定を行い、直腸温度、または腫瘍の中央部の温度の局所的な見積値を得た。直腸温度の変化をモニタリングし、腫瘍温度の上昇は局所的であって、マウスの全身では起こっていないことを確認した。赤外線カメラ(Moblr2, Optophase, リヨン、フランス)を用いて、腫瘍および腫瘍環境の温度変化のより大域的な像を得た。温度を測定した横断面を図10(b)の概略図において線で示す。最初の治療から30日間の腫瘍サイズの変化を、加熱されなかった腫瘍および加熱された腫瘍の両方について測定した。
【0178】
各マウスの両脇腹の皮下に成長した腫瘍のサイズ変化に従い、抗腫瘍活性を試験した。マウスを無作為に選択し、5つの群に分けた。最初の4群を以下の通りに治療した。個々のマグネトソーム(懸濁液1、マウス1〜3)、マグネトソーム鎖(懸濁液2、マウス5〜8)、SPION(懸濁液3、マウス 10〜13)、および走磁性細菌全体(懸濁液4、マウス15および16)を含有する懸濁液100マイクロリットルをマウスの右脇腹に限局する腫瘍に投与した。異なる懸濁液の注射後、マウスを周波数183KHz、磁場強度約43mT(マウス1、2、3、5、6、7、8、10、11、12、13)または約80mT(マウス15および16)の交流磁場に20分間供した。3日間隔で治療を3回繰り返した。マグネトソーム鎖の懸濁液を与えられたマウスについては、腫瘍内の温度が50℃を超えるのを避けるために、磁場を約5mTだけ低くする必要があった。細菌全体を与えられたマウスについては、腫瘍内での温度上昇を観察するために磁場強度を約80mTまで増加する必要があった。第5群はコントロール群と考えられ、交流磁場の印加に供されなかった。この群は、右脇腹に限局する腫瘍に、100μlの生理水(マウス17および18)、100μlの懸濁液1(マウス4、19および20)、100μlの懸濁液2(マウス9、21および22)、100μlの懸濁液3(マウス14、23および24)、および100μlの懸濁液4(マウス25、26、27)を与えられたマウスから構成される。最後に、各マウスの左脇腹に限局する27の腫瘍を内部コントロールとして用い、生理水のみを与えた。
【0179】
水中で同様の加熱特性を生じるように、異なる懸濁液の濃度(懸濁液1および3については10mg ml-1、懸濁液2については20mg ml-1)を選択した。これらの濃度は、水1ミリリットル中に含有されるマグヘマイト量を示す。異なる懸濁液の480nmにおける吸収を測定すること、凍結乾燥後のナノ粒子またはマグネトソームの量の重さを量ること、または、SQUID磁力計測定を用いて、基板上に置かれた各懸濁液20μlの飽和磁化を測定すること(Alphandery et al., J. Phys. Chem. C, 2008, 112, 12304-12309)の3つの異なる方法のいずれかにより濃度を見積もった。これら3種類の異なる測定により、個々のマグネトソームを含有する懸濁液およびSPIONを含有する懸濁液の濃度について同一の見積値が得られた。マグネトソーム鎖を含有する懸濁液について、細菌マグネトソーム周囲の生物学的物質の存在は、吸収および凍結乾燥によりマグヘマイト濃度を過大に見積もることに繋がった。そのため、この懸濁液の濃度は、SQUID測定を用いて決定した。走磁性細菌全体での治療について、注射した細菌濃度は100μl中に108細胞であった。懸濁液2の酸化鉄濃度と同じ酸化鉄濃度を生じるように細菌細胞の濃度を選択した。
【0180】
最初の注射から30日後に回収した皮下腫瘍、肝臓、腎臓、および肺において組織学的検査を行った。試料を10% ホルマリン溶液中に固定し、パラフィン包埋し、厚さ4μMのスライスに分割した。切片をヘマトキシリン・エオジン(HE)およびベルリンブルーで染色し、青色に染色された細菌マグネトソームの存在を検出した。腫瘍性細胞の壊死、壊死していない領域のx400倍像において無作為に選んだ3つの視野あたりの有糸分裂の回数、および着色細胞の量を、マウスの右脇腹に限局する腫瘍の病理切片において評価した。
【0181】
組織学的検査を明らかにし、腫瘍細胞内におけるマグネトソームの内在化を研究するために、5.105の乳癌細胞(MDA-MB-231株)を顕微鏡スライドカバーに播種しておいた。細胞を5% CO2、37℃において48時間生育した。マグネトソームの様々な懸濁液の存在下、0.6mTの磁場の無しまたは有りで、細胞を1〜24時間更に処理した。細胞増殖培地中に混合された個々のマグネトソームまたはマグネトソーム鎖のいずれかを含有するマグネトソームの2つの懸濁液2ミリリットルを用いた。細胞の高すぎる細胞毒性を回避するために、マグネトソームの2つの懸濁液の酸化鉄濃度を約130μg.ml-1と低く保った。処理後、細胞をPBSで洗浄し、細胞周囲の細菌マグネトソームを除去した。次いで、細胞を5% パラホルムアルデヒドを用いて固定し、鉄の存在下でプルシアンブルーの色になる溶液の存在下で培養した。この溶液は5% フェロシアン酸カリウムおよび10% 塩酸(等量)を含有する。次いで、空気対物レンズ(x100)を用いて細胞を観察した。対物レンズの焦点を調整し、細胞表面ではなく細胞内に鉄の存在を検出した。
【0182】
結果および考察:
第1のマウス集団において、個々のマグネトソームを含有する懸濁液を注射し、交流磁場を印加した。その結果、腫瘍マウス内の温度は31℃から35℃まで4℃上昇した(図10(c))。10分の加熱後、腫瘍内の温度の広がりは約0.5cmであることが赤外線測定により示された。この距離は、図10(d)に示す温度分布の半値全幅の測定による見積値である。治療した腫瘍のサイズの進展を図10(e)に示す。腫瘍のサイズは、治療後の30日間においてマウス1〜3で増加し、抗腫瘍活性がないことを示した。治療した腫瘍のサイズの増加はまた、治療の日(DO)、治療の14日後(D14)、および治療の30日後(D30)の間に撮られた3枚の写真のセットを検討することにより、マウス3において観察できる(図11(a))。これらのマウスにおいて抗腫瘍活性がなかったことは、個々のマグネトソームを与えられなかった腫瘍の挙動によっても更に確かめられた(図10(f))。それらの腫瘍のサイズは、治療した腫瘍と同様の早さで増加した(図10(e)および10(f))。磁場を印加せずに懸濁液1を注射した場合も(マウス4および他の2匹のマウス)、腫瘍サイズは増加した(図10(f))。これらの結果をあわせると、個々のマグネトソームの存在も、それらが磁場の存在下で生成する熱も抗腫瘍活性を生み出さないことが示される。
【0183】
マウス2の右脇腹に限局する腫瘍の病理学的検査によって、この結論を更に確かめた。検査により、最初の治療の30日後に採取した腫瘍中に多量の壊死細胞が示された。多数の有糸分裂があり、腫瘍増殖活性が大きいことを示した(選択した300μm2サイズの視野あたり平均で12の有糸分裂)。右の腫瘍から得られた病理切片のベルリンブルー染色は、拡散した暗い染みの存在を示した(図11(b))。これらの染みは、拡大図(図11(c)および11(d))で示されるようなマグネトソームの凝集から生じたものと推測される。臓器の組織学的分析により、肝臓、腎臓、および肺において個々のマグネトソームは見られないことが示された。これらの臓器内に個々のマグネトソームが存在しないことは、個々のマグネトソームは、恐らくは凝集する傾向のために、注射から30日後に腫瘍内に限局したままであることを示唆する。
【0184】
個々のマグネトソームが癌腫細胞内に進入するかどうかを研究するために、後者を個々のマグネトソームの懸濁液の存在下で培養した。1時間の培養後、磁場の非存在下および存在下の両方において、細胞内に位置する個々のマグネトソームはわずかである。24時間の細胞培養後、磁場の非存在下および存在下の両方において、個々のマグネトソームはもはや観察されなかった。このことは、個々のマグネトソームは腫瘍細胞内に容易には進入しないことを示唆する。進入した場合、個々のマグネトソームは長期間腫瘍細胞内に限局したままとならない。
【0185】
第2のマウス集団において、マグネトソーム鎖を含有する懸濁液を注射した。予想外なことに、磁場の印加により、第1のマウス集団において観察されたよりも大きな温度上昇が生じた。20分で腫瘍内の温度は33℃から43℃まで10℃上昇した(図12(a))。また、赤外線像は、腫瘍横断面を通じた温度のより大きな広がりを示す。図12(b)は温度分布の半値全幅は0.75cmであることを示し、マグネトソーム鎖について、個々のマグネトソームについてよりも均一な腫瘍内の温度分布を示す。個々のマグネトソームで観察された挙動に比べ、この場合、抗腫瘍活性は明白であった。図12(c)は、治療された腫瘍のサイズが、治療されなかった腫瘍について観察されたようには(図12(d))大きく増加しなかったことを示す。治療された腫瘍は、マウス5において完全に消失し、マウス6において非常に顕著にサイズが低減した(図12(c))。マウス5における治療された腫瘍の消失は、治療の日(DO)、治療の14日後(D14)、および治療の30日後(D30)に撮られた3枚の写真のセットを検討することにより、見ることができる(図13(a))。また、組織学的検査により、マウス5において腫瘍組織が残存していないことが示された。治療された腫瘍の病理学的検査は、観察された有糸分裂の回数は少ない(選択された300μm2の視野で平均4回)ことを示し、これは腫瘍増殖活性の減少を示している。磁場の印加を伴わずにマグネトソーム鎖の懸濁液を注射されたマウス9および他の2匹のマウスにおいて、腫瘍サイズは、最初の治療後の30日間で大きく増加した(図12(d))。これは、抗腫瘍活性が、交流磁場に暴露されたときにマグネトソーム鎖により放出された熱に起因していたことを示す。腫瘍組織の顕微鏡写真は、個々のマグネトソームの分布と比べて、マグネトソーム鎖の分布がより均一であることを示している(図11(d)および13(b))。また、図13(c)および13(d)に示される図13(b)の拡大図は、細胞核周囲の黒色領域を示している。これは、マグネトソーム鎖が細胞内に進入したことを示唆している(実施例4で導かれた結論と合致する結果)。臓器の組織学的検査は、散在性のマグネトソーム鎖の存在も示唆しており、散在性のマグネトソーム鎖は、肝細胞および血管周囲肝細胞において検出されたが、腎臓および肺においては検出されなかった。肝細胞中にマグネトソーム鎖が蓄積していたにも関わらず、肝臓で損傷は観察されなかった。
【0186】
組織学的検査で得られた結果を確かめるために、マグネトソーム鎖を癌腫細胞の存在下、in vitroで培養した。1時間の培養後、細胞内におけるマグネトソーム鎖の存在は、磁場の非存在下および存在下の両方において、個々のマグネトソームの存在よりもはっきりと観察された。24時間の細胞培養期間では、細胞内のマグネトソーム鎖の存在は更により顕著になる。磁場の存在下、マグネトソーム鎖は細胞核周囲に限局し、磁場の非存在下では、マグネトソーム鎖は異なる細胞区画内により無作為に分散する。これらの結果は、マグネトソーム鎖を用いて磁場により腫瘍細胞を標的化し得ることを示唆する。
【0187】
第3のマウス集団において、SPIONの懸濁液をマウスの右脇腹に限局する腫瘍に注射した。磁場の印加により、マグネトソーム鎖で観察されたよりもわずかに低い温度上昇が生じた。20分で腫瘍内の温度は36℃から最高42℃まで6℃上昇した(図18(a))。赤外線測定により見積もった温度分布の半値全幅(0.75cm、図18(b))は、マグネトソーム鎖で観察されたものと同じであった。この場合、治療された腫瘍のサイズは、マウス10および12において非常に強く減少したが(図18(c))、組織学的な試験は、腫瘍周囲リンパ節の存在を示し、これらのマウスにおいて抗腫瘍活性はごく部分的であったことを示唆する。マウス11および13において、治療されなかった腫瘍および治療された腫瘍のサイズは同様の早さで増加し、明らかな抗腫瘍活性を示さなかった(図18(c)および18(d))。磁場を印加せずにSPIONを注射したマウス14および他の2匹のマウスにおいて、注射から30日の期間内に腫瘍サイズの大きな増加が観察された(図18(d))。マグネトソーム鎖の懸濁液を注射された第2のマウス集団と同様、有糸分裂の平均回数は少なく(選択された300μm2の視野で平均5回)、壊死活性はコントロール群で観察されたのと同等であった。ベルリンブルー染色によれば、青色に染色されたSPIONは、肝臓、クッパー細胞、マクロファージ、および肺リンパ節の洞で見られた。肺にSPIONが存在することは既に観察されている(Zhou et al., Biomaterials, 2006, 27, 2001-2008)。それは潜在的な毒性の徴候であり、従って本開示に記載されるような温熱療法の開発のためには不利である。
【0188】
第4のマウス集団において、100μlのPBS中に含有された108細胞を、マウスの右脇腹に限局する腫瘍中に注射し、約80mTの磁場を印加した。これらの条件では、温度は20分で33℃から37℃まで4℃のみ上昇した。赤外線測定を用いても温度上昇が観察された。個々のマグネトソームで治療された群と同様、治療された腫瘍のサイズは、治療後の30日間に増加した。組織学的検査により、治療された腫瘍において、高い有糸分裂活性を有する着色領域が明らかになり(選択された300μm2の視野で平均15回の有糸分裂)、抗腫瘍活性がないことが示された。肝臓、腎臓、および肺では走磁性細菌は見られなかった。
【0189】
これらの結果から、以下の結論を導出できる:
(i)磁場を印加せずに、個々のマグネトソーム、マグネトソーム鎖、およびSPION@Citrateを含有する懸濁液をマウスの腫瘍に注射したとき、抗腫瘍活性は観察されなかった。
(ii)個々のマグネトソームを腫瘍内に投与して治療を開始した場合、観察されたin vivo加熱能力は低く、抗腫瘍活性は観察されなかった。これは、溶液中で観察された加熱能力(実施例2)を考慮すれば予想外である。
(iii)対照的に、マグネトソーム鎖を腫瘍内に投与して治療を開始した場合、それらを加熱したときに有意な抗腫瘍活性が観察された。この挙動は、高いin vivo加熱効率、マウスの腫瘍内におけるそれらの均一な分布、そしてまた、腫瘍細胞内に進入するそれらの能力により説明され得る。
(iv)現在ハイパーサーミア治療で用いられているSPIONもまた、抗腫瘍活性を示した。しかしながら、SPIONの抗腫瘍活性は、マグネトソーム鎖で観察されたものより顕著でなかった。また、マグネトソーム鎖を含有する懸濁液で用いた酸化鉄濃度の2倍の酸化鉄濃度を有するSPIONの懸濁液についての実験データも得られた。同様の酸化鉄濃度を有する2つの懸濁液について、SPIONを含有する懸濁液の投与では、マグネトソーム鎖を含有する懸濁液の投与よりもはるかに低い加熱効率および抗腫瘍効率が観察される(実施例6)。
【0190】
実施例6:
SPION@PEGおよびSPION@Citrateと比較した、EDTAの非存在下または存在下のいずれかで走磁性細菌を培養することにより調製されたマグネトソーム鎖の加熱効率および抗腫瘍活性
【0191】
本実施例では、キレート剤の非存在下または0.4μM EDTAの存在下のいずれかで走磁性細菌を培養することにより調製された、該細菌から抽出されたマグネトソーム鎖の加熱効率および抗腫瘍活性を比較する。更に、これら2種類の細菌マグネトソームの加熱効率および抗腫瘍活性を、磁性ハイパーサーミアを行うために他のグループにより用いられたSPION@PEGおよびSPION@Citrateの加熱効率および抗腫瘍活性とも比較する。
【0192】
材料および方法:
この場合、治療の最初に一度だけ異なる種類のナノ粒子を注射したことを除いて、実験プロトコルは実施例5に記載したのと非常に類似したものである。酸化鉄中、10mg/mlの異なる種類のナノ粒子を含有する4つの異なる懸濁液100μlを、マウスの右脇腹に位置する腫瘍内に先ず注射した。マウスの左脇腹に位置する腫瘍を内部コントロールとして用いた。周波数183kHz、磁場振幅43mTの交流磁場を印加することにより、熱により誘導される治療を開始した。一つの場合、即ちEDTAの存在下で調製されたマグネトソームについては、温度が50℃を超えるのを避けるために、磁場強度を43mTより低くに下げた。治療を3日間隔で3回繰り返した。腫瘍のサイズを治療後の30日間測定し、治療の効率を評価した。
【0193】
抽出されたマグネトソーム鎖、SPION@PEG、およびSPION@Citrateを含有する懸濁液を実施例1に記載したように調製した。AMB-1走磁性細菌を0.4μM EDTAの存在下または非存在下のいずれかで培養し、マグネトソーム鎖を実施例1に記載したのと同一のプロトコルに従って抽出した。EDTAの非存在下で走磁性細菌を培養することにより調製されたマグネトソーム鎖を「標準マグネトソーム鎖」またはCMと表し、0.4μM EDTAの存在下で走磁性細菌を培養することにより調製されたマグネトソーム鎖をマグネトソーム-EDTAまたはCM(EDTA 0.4μM)と表す。マグネトソーム-EDTAは、実施例3に示されるように、CMより大きいマグネトソーム、より長いマグネトソーム鎖、およびより高い加熱能力(水中に混合された場合)により特徴付けられる。
【0194】
結果および考察:
CMを含有する懸濁液1mgを腫瘍内に注射し、交流磁場を印加した場合、4分の治療後に腫瘍内の温度が50℃に達することを図14(a)は示している。治療後の30日間、治療された異なるマウスにわたって平均化した正規化された腫瘍体積は、治療されなかった腫瘍の体積よりも増加がはるかに小さいことを図14(b)は示している。最も効率的に治療されたマウスについて、このマウスにおける腫瘍体積の変化(図15(b))および治療の30日後に撮られたこの腫瘍の写真(図15(a))により示されるように、腫瘍が完全に消失する。明らかな抗腫瘍活性がCMで観察され、従って実施例5で示した結果が確認される。マグネトソーム-EDTAの懸濁液を腫瘍内に投与し、磁場を印加した場合、図14(a)と図14(c)との比較により観察されるように、腫瘍内の温度はCMの投与後よりも迅速に上昇する。この挙動は、溶液中に混合されたときに、マグネトソーム-EDTAはCMよりも高い加熱能力を有するという事実(実施例3)と合致する。しかしながら、マグネトソーム-EDTAはCMよりも良好なin vivoでの加熱能力を示すという事実にも関わらず、マグネトソーム-EDTAの抗腫瘍活性はより低い。実際、図14(d)は、マグネトソーム-EDTAで治療された腫瘍の体積は、CMで治療された腫瘍の体積(図14(b))よりも増加することを示している。
【0195】
図15は、各群において治療が最も効率的であったマウスの挙動を示す。腫瘍の完全な消失がCMおよびマグネトソーム-EDTAで観察され(図15(c)および15(d))、様々な長さのマグネトソーム鎖についての抗腫瘍活性を示唆した。
【0196】
SPION@Citrateを含有する懸濁液1mgを腫瘍内に投与し、43mTの交流磁場を印加した場合、温度は2分以内に4℃上昇することを図14(e)は示しており、これはCM(2分以内に12℃)またはマグネトソーム-EDTA(2分以内に20℃)で観察された温度上昇よりもはるかに小さい。この場合、治療された腫瘍の体積は、治療後の日の間、治療されなかった腫瘍と同じ早さで増加し(図14(f))、いずれのマウスについても治療後の30日間に腫瘍の完全な消失を示さない。SPION@Citrateで治療された典型的なマウスについて、治療の30日後においてもなお腫瘍が存在する(図15(e)および15(f))。これは、マグネトソーム鎖を伴う治療よりも治療効率が低いことを示している。SPION@PEGの注射について、図14(g)に示されるように、マウスの腫瘍内の温度は磁場の印加後に全く上昇せず、いずれの腫瘍も治療後の日の間にサイズが減少しない(図14(h)、15(g)、および15(h))。
【0197】
これらの結果から、以下の結論を導出できる:
(i)同一量の酸化鉄を含有するナノ粒子の様々な懸濁液を投与した場合、抽出されたマグネトソーム鎖を含有する懸濁液は、SPION@PEGを含有する懸濁液およびSPION@Citrateを含有する懸濁液よりも良好な加熱効率および抗腫瘍活性を示す。
(ii)マグネトソーム-EDTAと比較したCMにより生じるより高い抗腫瘍活性は、マグネトソーム-EDTAより良好なCMの細胞内取り込みにより説明され得る。これは、これら2種類のマグネトソーム間の鎖の長さの差異に起因する可能性が最も高い。細胞内ハイパーサーミアは細胞外ハイパーサーミアよりも効率的な細胞破壊の機構であると考えられるため、これら2種類のマグネトソーム間の内在化の差異は、抗腫瘍活性の差異を説明し得る。
【0198】
実施例7:
様々な細菌マグネトソームのマウスにおける生体内分布
【0199】
本実施例では、注射直後、注射から3日後、6日後、または14日後にマウスの異なる臓器内に含有される各種の粒子(マグネトソーム鎖、個々のマグネトソーム、SPION@citrate、およびSPION@PEG)の生体内分布を研究する。この研究のために、上述した各種類のナノ粒子1mgを含有する様々な懸濁液を腫瘍内注射、即ちマウスの腫瘍内に直接注射した。マウスの腫瘍内および糞便内の粒子の割合のみを示す。粒子は実質的にそれらに見られたためである。腫瘍内における粒子の割合の見積もりのために、2種類の磁性測定を行った(MIAtekおよびSQUID)。これら2種類の測定に加えて、交流磁場の印加の下で加熱された腫瘍について、様々な粒子の比吸収率(SAR)をex-vivoで測定した。SARは加熱された粒子の量に反比例するため(実施例2を参照)、この測定により、腫瘍内に注射された粒子の量を見積もることが可能となる。
【0200】
材料および方法:
ヒト乳癌の導入を実施例5において以前に報告したようにして行った。簡潔に述べれば、6週齢の54匹の雌のスイスヌードマウス(Charles River, ラルブレル, フランス)の左右の両脇腹に、200万のMDAMB231ヒト乳癌細胞(Cailleau et al., J. Natl. Cancer Inst., 1974, 53, 661-674)を皮下注射により与えた。各種の粒子の注射を腫瘍移植の14日後に行った。マグネトソーム鎖、個々のマグネトソーム、SPION@citrate、およびSPION@PEG(Micromod, ロストック・ヴァルネミュンデ, ドイツ)の懸濁液は10mg Fe/mLの濃度で調製した。これらの懸濁液100μlを、1mgのマグヘマイトの投与量で右脇腹に限局する腫瘍内に直接注射した。マウスの異なる臓器内に含有されるマグヘマイトの量を、注射の日(0日目、DO)、注射から3日後(3日目、D3)、注射から6日後(6日目、D6)、注射から14日後(14日目、D14)の間に測定した。異なる日(DO、D3、D6、またはD14)に頸椎脱臼により動物を安楽死させ、対象とする組織または臓器(血液、肝臓、脾臓、肺、腎臓、腫瘍、糞便)を直ちに回収し、重さを量り、分析まで4℃で凍結した。最初に、各種の粒子を含有し、異なる日に回収された異なる腫瘍の加熱効率をex-vivoで試験した。そのために、腫瘍組織をチューブ内に挿入し、それをコイル内に配置し、コイルに周波数183kHz、磁場強度43mTの交流磁場を20分間印加した(EasyHeat 10 kW, Ambrell, ゾウルツ, フランス)。腫瘍内の温度を埋め込み可能な熱電対マイクロプローブ(IT-18, Physitemp, クリフトン, USA)を用いて測定した。第二に、Magnisense社により開発された機器MIAtek(登録商標)(Nikitin et al., 2007, J. Magn. Mater. 311, 445)を用いてマグヘマイトの量を決定した。この技術は、生体標的中の磁性ナノ粒子の高感度の検出および正確な定量化を可能とする。MIAtek(登録商標)での測定のために、超純水中での機械的なホモジナイズにより組織を調製した(糞便の湿重量16%、即ち、100mlのPBS中に糞便16gを希釈、腫瘍の湿重量25%、腎臓、肺、脾臓の湿重量50%、肝臓の湿重量100%)。このようにして調製された組織100μLを検出システム(MIAtek(登録商標))内に入れた。水中に混合されたマグネトソーム鎖、個々のマグネトソーム、SPION@CitrateおよびSPION@PEGを含有する懸濁液のMIAtek(登録商標)信号をこれらの懸濁液のマグヘマイト濃度(15μg/mL〜125μg/mL)の関数として測定することにより、軟正を行った。MIAtek(登録商標)でのマグヘマイト濃度の見積値を検証するために、最も高い割合でマグヘマイトを含有する試料(腫瘍および糞便)に対してSQUID測定を行った。そのために、各種の粒子を含有する異なる腫瘍および糞便の飽和磁化を見積もった。この見積値から、バルクのマグヘマイトの飽和磁化(80emu/g)を用いて異なる試料中に存在するマグヘマイトの量を推定できた。MIAtek(登録商標)での測定から推定された見積値をSQUIDでの測定から得られた見積値と比較した。最後に、各種の粒子を含有する異なる腫瘍を周波数183kHz、磁場強度43mTの交流磁場の印加の下、ex vivoで加熱した。加熱曲線から、25℃における勾配の測定によりSARを推定することができ、従って異なる腫瘍内に含有されるマグヘマイトの量を推定することができた(実施例2)。
【0201】
腫瘍内の粒子のホモジナイズ後に腫瘍の全体積の五分の一を回収することにより、異なる腫瘍内に含有されるマグヘマイト量の見積値を得た。最も恐らくはホモジナイズが均一でないために、回収された腫瘍は、注射された各種の粒子の量の五分の一を含有しない。これは測定値における大きなエラーバーを生じ、場合によっては、注射された量より多くの粒子が腫瘍内に検出される。しかしながら、これらの不確かさにも関わらず、この研究において導出された主な結論は妥当なままである。
【0202】
結果および考察:
図16(a)は、注射直後(DO)、注射から3日後(D3)、注射から6日後(D6)、および注射から14日後(D14)における腫瘍内のマグネトソーム鎖の生体内分布を示す(組織1グラムあたりに注射された用量のパーセントとしての見積値)。3種類の測定(MIAtek(登録商標)、SAR、およびSQUID)は、注射後の日の間の、腫瘍内に含有されたマグネトソーム鎖の割合の迅速な減少という、本質的に同一の傾向を示している(図16(a))。実際、マグネトソーム鎖の90%より多くが注射から14日後には除去されている。マグネトソーム鎖は、基本的に糞便中に見られ、注射後の最初の日には糞便中に10-15%、注射の3日後、6日後、および14日後には15-20%であった(図16(b))。マグネトソーム鎖の除去の経路は、本質的には糞便であることが示された。注射の3日後および6日後において、マグネトソーム鎖のごくわずか(< 0.1% ID/(組織1g))のみが肺、腎臓、肝臓、および脾臓に見られた。血中にはマグネトソーム鎖は見られなかった。これらの結果は、マグネトソーム鎖はネイティブな形態で迅速に排出されたことを示唆する。
【0203】
個々のマグネトソームの注射について、注射後の異なる日における組織1グラムあたりの注射量(I.D.)の割合を図16(c)に示す。マグネトソーム鎖について、3種類の異なる測定(MIAtek(登録商標)、SAR、およびSQUID)間で比較的良好な一致がある。腫瘍中に含有された個々のマグネトソームの割合は、治療後の日の間、マグネトソーム鎖よりはるかに低い顕著さで減少するようである(図16(a)および16(c))。マグネトソーム鎖と同様、個々のマグネトソームが糞便中に見られたが、その割合はより低かった(D3、D6、およびD14において5〜10%)。個々のマグネトソームの除去の経路もまた、(少なくとも部分的には)糞便中排出であるようである。
【0204】
化学的に合成されたSPION@CitrateおよびSPION@PEGの生体内分布も研究した。図16(e)および16(g)に示すように、SPION@CitrateおよびSPION@PEGは、注射の14日後に腫瘍中に残っているようである。腫瘍内のナノ粒子の割合は、治療後の日の間に、マグネトソーム鎖と同様には有意に減少していない。また、SPION@CitrateおよびSPION@PEGはマウスの糞便中に検出された。これらの結果は、SPION@citrateおよびthe SPION@PEGは遊離の鉄に代謝され、従ってナノ粒子として糞便中に除去されないという事実により説明され得る。これはむしろ、マグネトソームと比べたこれらの化学的に合成されたナノ粒子の欠点であろう。遊離の鉄は酸化ストレスを惹起し得るためである(Puntarulo et al., 2005, Mol. Aspects, Med., 299-312)。
【0205】
これらの結果から、以下の結論が導出できる:
マグネトソーム鎖は迅速に腫瘍を離れ、糞便中に除去されるようである。これらの特性の両方共、本開示に記載の温熱療法の開発のために好都合である。マグネトソーム鎖は強く凝集しないという事実により、この挙動を一応説明できるかもしれない。マグネトソーム鎖と比べ、大部分の個々のマグネトソームが注射14日後の腫瘍中に残り、それを迅速に除去するのは生物にとってより困難であるかもしれないことを示唆する。個々のマグネトソームは凝集するという事実により、この挙動を一応説明できるかもしれない。大部分の化学的に合成されたナノ粒子(SPION@CitrateおよびSPION@PEG)は注射14日後の腫瘍中に残り、いずれも糞便中に見られない。これは、これらの化学的に合成されたナノ粒子は迅速に腫瘍を離れないこと、および、鉄に代謝されること、および/または尿中に排出されることを示唆する。これらの特徴により、これらの化学的に合成されたナノ粒子は潜在的にマグネトソーム鎖よりも魅力のない薬物候補となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱治療による腫瘍、優先的には固形腫瘍の治療において使用するための細菌マグネトソーム鎖。
【請求項2】
該マグネトソーム鎖が交流磁場に供されて熱の生成をもたらす熱療法による腫瘍の治療において使用するための、請求項1に記載の鎖。
【請求項3】
該マグネトソーム鎖が、少なくとも2個のマグネトソーム、好ましくは2〜30個のマグネトソーム、より好ましくは4〜20個のマグネトソームを含有する、請求項1または2に記載の鎖。
【請求項4】
該鎖内に含有されるマグネトソームが、10〜120nmのサイズを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項5】
該マグネトソーム鎖が、鉄、および/または、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マンガン、クロム等の他の遷移金属を含有する増殖培地中で培養された走磁性細菌から得られたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項6】
該マグネトソーム鎖が、キレート剤を含有する増殖培地中で培養された走磁性細菌から得られたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項7】
該キレート剤が、ビスホスホン酸塩、ローダミンおよびEDTAから選択される、請求項6に記載の鎖。
【請求項8】
該マグネトソーム鎖が、該マグネトソームに結合している、および/または該マグネトソーム内に組み込まれている試薬を有し、該試薬は該マグネトソーム鎖を視覚化するために使用されるものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項9】
該試薬がフルオロフォアである、請求項8に記載の鎖。
【請求項10】
該試薬がフルオロフォアおよびキレート剤、好ましくはローダミンである、請求項8に記載の鎖。
【請求項11】
該マグネトソーム鎖が小胞内に封入されている、先行する請求項のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項12】
該小胞が活性成分と併用されている、請求項9に記載の鎖。
【請求項13】
該腫瘍細胞または腫瘍の治療がハイパーサーミアである、先行する請求項のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項14】
該治療の温度が、37℃〜45℃、好ましくは40℃〜45℃、最も好ましくは43℃である、請求項13に記載の鎖。
【請求項15】
該腫瘍細胞または腫瘍の治療が熱アブレーションである、先行する請求項のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項16】
該治療の温度が、約45℃〜約100℃、好ましくは約45℃〜約70℃、より好ましくは約45℃〜約55℃、最も好ましくは約50℃〜約55℃である、請求項15に記載の鎖。
【請求項17】
該磁場の周波数が50〜1000kHzである、先行する請求項のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項18】
該磁場の振幅が0.1〜200mT、好ましくは1〜100mT、より好ましくは10〜50mTである、先行する請求項のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項19】
該磁場が、1秒〜6時間、好ましくは1分〜1時間、最も好ましくは1分〜30分間の期間の間印加される、先行する請求項のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項20】
該加熱処理が繰り返される、先行する請求項のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項21】
該マグネトソーム鎖による該腫瘍または該腫瘍細胞の標的化が磁場を用いて行われる、先行する請求項のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項22】
該腫瘍または該腫瘍細胞の標的化が、該マグネトソーム鎖または該マグネトソーム鎖を含有する小胞に結合した、抗体および/または葉酸および/またはPEGを用いることにより行われ、該抗体および/または葉酸および/またはPEGは、該腫瘍および/または該腫瘍細胞を特異的に認識するものである、先行する請求項のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項23】
該交流磁場が印加され、該腫瘍細胞への該マグネトソーム鎖の進入が改善される、先行する請求項のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項24】
熱の生成により誘導される治療を用いることにより、必要とする対象における対象とする細胞または組織を治療するための方法であって、マグネトソーム鎖が使用され、かつ該マグネトソーム鎖が交流磁場に供されて熱の生成をもたらす、前記方法。
【請求項25】
該細胞または組織が腫瘍細胞または腫瘍である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
該マグネトソーム鎖が少なくとも2個のマグネトソームを含有する、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
該鎖内に含有されるマグネトソームが、10〜120nm、好ましくは10nm〜70nm、最も好ましくは30nm〜50nmのサイズを有する、請求項24〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
該マグネトソーム鎖が、鉄、および/または、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マンガン、クロム等の他の遷移金属を含有する増殖培地中で培養された走磁性細菌から得られたものである、請求項24〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
該マグネトソーム鎖が、キレート剤を含有する増殖培地中で培養された走磁性細菌から得られたものである、請求項24〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
該キレート剤が、ビスホスホン酸塩、ローダミンおよびEDTAから選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
該マグネトソーム鎖が、該マグネトソームに結合している、および/または該マグネトソーム内に組み込まれている試薬を有し、該試薬は該マグネトソーム鎖を視覚化するために使用されるものである、請求項24〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
該試薬がフルオロフォアである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
該試薬がフルオロフォアおよびキレート剤、好ましくはローダミンである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
該マグネトソーム鎖が小胞内に封入されている、請求項24〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
該小胞が活性成分と併用される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
該腫瘍細胞または該腫瘍の治療がハイパーサーミアである、請求項24〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
該治療の温度が、37℃〜45℃、好ましくは40℃〜45℃、最も好ましくは43℃である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
該腫瘍細胞または該腫瘍の治療が熱アブレーションである、請求項24〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
該治療の温度が、約45℃〜約100℃、好ましくは約45℃〜約70℃、より好ましくは約45℃〜約55℃、最も好ましくは約50℃〜約55℃である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
該磁場の周波数が50〜1000kHzである、請求項24〜39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
該磁場の振幅が0.1〜200mT、好ましくは1〜100mT、より好ましくは10〜50mTである、請求項24〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
該磁場が、1秒〜6時間、好ましくは1分〜1時間、最も好ましくは1分〜30分間の期間の間印加される、請求項24〜41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
該加熱処理が繰り返される、請求項24〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
該マグネトソーム鎖による該腫瘍または該腫瘍細胞の標的化が磁場を用いて行われる、請求項24〜43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
該腫瘍または該腫瘍細胞の標的化が、該マグネトソーム鎖もしくは該マグネトソーム鎖を含有する小胞に結合した、抗体および/または葉酸および/またはPEGを用いることにより行われ、該抗体および/または葉酸および/またはPEGは、該腫瘍および/または該腫瘍細胞を特異的に認識するものである、請求項24〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
該交流磁場が印加され、該腫瘍細胞への該マグネトソーム鎖の進入が改善される、請求項24〜45のいずれか1項に記載の鎖。
【請求項47】
細菌マグネトソーム、および交流磁場を生成できるデバイスを有する、キット。
【請求項48】
該マグネトソーム鎖が小胞内に封入されている、請求項47に記載のキット。
【請求項49】
走磁性細菌中でマグネトソーム鎖を製造するための方法であって、該走磁性細菌が、鉄源、およびキレート剤、および/またはコバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マンガン、クロム等の鉄以外の遷移金属を含有する増殖培地中で培養され、該マグネトソームのサイズおよび該鎖の長さを増加させること、ならびにそれらの加熱特性を向上させることが可能である、前記方法。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図14】
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【図18】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2013−511491(P2013−511491A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539330(P2012−539330)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067765
【国際公開番号】WO2011/061259
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(512131003)
【Fターム(参考)】