説明

走行駆動装置

【課題】振動を利用して滑らかに移動させることが可能な走行駆動装置を提供する。
【解決手段】上下に延在し下端部が自由端の板状部材からなる一対の足部1aを備える。その各足部1aに対し振動を付与する一対の振動モータ2を備え、電池から電力が供給される。各足部1aは、鉛直方向Vに対し板厚方向へ傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動によって移動する機構の玩具などに適用可能な走行駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
床・テーブル等からなる平面状の面の上を滑らかに動き回る玩具としては、一般に、モータの回転トルクを歯車を介して車輪に伝達する機構から構成され、床等に直接、接触した上記車輪の回転により走行する走行玩具が知られている。
また、振動を利用して移動させる玩具としては、例えば特許文献1に記載の玩具がある。この玩具では、1つのモータによって回転駆動される回転軸の両端部にそれぞれ偏心振動子(偏心した錘)が設けられ、この対をなす偏心振動子で筐体の底板を上下に連続振動させることで、直進に走行させることが記載されている。同様な機構の技術は、特許文献2にも開示がある。
【0003】
なお、振動を利用してレールに沿って移動させる走行玩具としては、例えば特許文献3に記載のものがある。これは、振動することでレールに案内されて移動するものである。
【特許文献1】実用新案登録第3082217号公報
【特許文献2】特開2005−27842号公報
【特許文献3】登録実用新案第3020411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車輪式の走行玩具は、滑らかに走行可能ではあるものの、駆動部の小型化を図る場合に、歯車の小型化などが要求される。このため、小型化するほど要求される精度が高くなる。
また、上述のような振動を利用して移動させる玩具の場合には、走行体本体の底面全体に上下振動を付与し、その底板の上下振動によって移動する構成であり、また、単に左右一対の箇所を同期をとって上下に振動させることで移動させようとする発想のものであることから、無秩序な動きには適しているものの、直進走行性が良くない。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、振動を利用して滑らかに移動させることが可能な走行駆動装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、鉛直方向に対し所定傾斜角度だけ傾斜した斜め方向に向けて上下に延在し下端部が自由端の片持ち梁状になっていると共に上記傾斜した方向に沿ってだけ大きく弾性変形し易い異方性を有する足部を複数本、有すると共に、その各足部に対し少なくとも上記傾斜方向への振動を与える振動発生装置を備えることを特徴とする走行駆動装置を提供するものである。
【0006】
次に、請求項2に記載した発明は、上下に延在し下端部が自由端の板状部材からなる複数の足部と、その各足部に対し少なくとも上記傾斜方向への振動を与える振動発生装置と、を備え、上記足部はそれぞれ、鉛直方向に対し板厚方向へ傾斜していることを特徴とする走行駆動装置を提供するものである。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、上記足部として一対の足部を備え、その一対の足部を左右対称に配置したことを特徴とするものである。
【0007】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した構成に対して、上記各足部の鉛直方向に対する傾斜角度は、調整可能となっていることを特徴とするものである。
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した構成に対して、上記足部として一対の足部を備え、その一対の足部を左右対称に配置し、各足部毎に当該足部に振動を付与する振動モータを設けると共に各振動モータへの電力供給回路にそれぞれ可変抵抗器を介装し、
更に、上記一対の足部に対応して配置されて受光部を下方に向けた一対の光センサを備え、各光センサの受光状態に応じて上記各可変抵抗の抵抗値が変化することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、片持ち梁状であって弾性に異方性がある各足部の下端部を個別に接地面に接地させて、各足部に振動を付与すると、足部の振動を主として傾斜方向に限定させることで、各足部は主として傾斜方向に振動する。この結果、移動方向が特定させ易くなる。
またこのとき、請求項2の発明によれば、足部を板状部材から構成することで、簡便に、足部の振動方向を板厚方向に特定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態は、本件発明を適用した簡易な構造のロボット玩具である簡易移動ロボットを例にして説明する。また、以下の説明では、この簡易移動ロボットが置かれる、床、テーブル面などの面を、便宜上、走行面と呼ぶとする。
図1は、本実施形態の走行駆動装置に基づく簡易移動ロボットを示す斜視図であり、図2は、左側からみた側面視(正面左側から見た図)である。
なお、この図1及び図2では、走行駆動装置そのものだけが図示されているが、もちろん、走行駆動装置を覆って外形を形成する外形本体(ぬいぐるみ本体など)を、当該走行駆動装置に取り付けて使用しても良い。
【0010】
(構成)
本実施形態では、平板且つ長方形形状のプリント基板を本体1としている。そして、その長方形形状の本体1の2つの長辺が上下端面となる位置を基本姿勢として設定している。すなわち、下端面が走行面Sと平行に且つ上下で対向することとなる。
その本体1の左右両側の対称位置に対してそれぞれ、上下方向に延びると共に下端に開放したスリットを形成することで、本体1における、各スリットよりも外側部分を左右の足部1aとする。上記構成とすることで、各足部1aは、上端部が後述の基板本体部1bに固定されて下方に延びて、下端部が自由端の片持ち梁状態となる。
ここで、左右の足部1a以外のプリント基板部分を、基板本体部1bと呼ぶ。
【0011】
その一対の足部1aの下端部にそれぞれ、厚さ方向を上下に配置した接地板6が固定されている。その接地板6の下面が走行面Sに直接に接触する。
また、その各接地板6の下面を水平に配置した状態では、基板は、左側から見た図面である図2のように、鉛直方向Vに対し、一方の面(図2では左側を向く面、以下、前面と呼ぶ)が斜め上方を向くように所定傾斜角度θだけ傾いている。この結果、左右の足部1aは、それぞれ同一方向を向き且つ同一傾斜角度θだけ同方向に、しかも板厚方向に傾斜した状態に設定される。上記所定傾斜角度θは、例えば5度〜15度の範囲となるように傾斜させる。なお、基板本体部1bは、傾斜している必要はない。
【0012】
また、各足部1aには、振動モータ2がそれぞれ固定されている。各振動モータ2は、足部1aに沿って上下に軸を向けて足部1aに固定されたモータ本体2aと、そのモータ本体2aの回転軸に固定された偏心錘2bとから構成されている。その各振動モータ2は、駆動することで、固定されている足部1aに対して振動を入力する。
また、基板本体部1bの左右方向中央部には、電池ホルダー(不図示)が設けられ、その電池ホルダーに、電源としての電池3が着脱可能に取り付けられている。また、プリント基板の裏面には、上記電池3と左右の振動モータ2とを電気的に並列に接続する電気回路が形成されていて、上記電池3から同一の電力を左右の振動モータ2に供給可能となっている。
【0013】
また、上記電池3と各振動モータ2とを電気的に接続する回路の途中には、それぞれ可変抵抗器4が介装されていて、その可変抵抗器4による抵抗値を変えることで、両側のモータへの電力供給量に差を付けることが可能となっている。
また、各可変抵抗器4は、それぞれ光センサ5に接続され、光センサ5が受光した光が明るいほど抵抗値が小さくなるように設定されている。本実施形態では、光センサ5と上記可変抵抗器4とがCDSセンサで構成されている。このCDSは、受光する光の量で抵抗値が変化するものであり、受光した光が明るいほどCDSの抵抗値は小さくなる。
【0014】
その各可変抵抗器4に対応して設けられた一対の光センサ5は、基板本体部1bの下部に固定され、各受光部を下方に且つ走行面Sに近づけて配置されている。この一対の光センサ5の受光面は左右対称に配置される。なお、受光部が鉛直方向下方を向いている必要はなく、斜め下方を向くように設定されていても良い。
ここで、図4に上述の回路の例を示す。また、図5に光センサとしてCDSの代わりにフォトトランジスタ51を使用した別例を示す。
【0015】
(動作原理)
振動モータ2を駆動すると、回転軸に対し偏心した偏心錘2bの回転によって、振動モータ2からの振動が足部1aに入力される。
ここで、足部1aは、板状部材であるので、板厚方向に振動し易い異方性を有する。このため、振動モータ2から振動が付与されると、足部1aは、板厚方向に沿った方向に振動することになる。すなわち、足部1aの振動方向が特定されることになる。このとき、足部1aは、前面が斜め上方を向くように、板厚方向に傾斜しており、上述のように板厚方向に対して直交する方向に向けて振動するので、図2に示すように、前方側には斜め上方に向けて、後方側には斜め下方に向けて変位するように振動することになる。
【0016】
そして、次のような原理によって、前面側(図2及び図3中左側)に進むと想定される。
板状の足部1aに取り付けた振動モータ2により、足部1aは撓み方向、すなわち板厚方向に微振動を起こして前後方向の運動を行う。
この状態で、板厚方向に傾斜した足部1aに固定された振動モータ2からの加振によって、図3(a)のように、足部1aを前側に持ち上げる力F1が作用すると、足部1aは、微振動しつつ、接地板6を前方に押し出す。
【0017】
逆に、モータからの加振によって、図3(b)のように、足部1aに斜め後方への力F2が作用した場合には、垂直方向の力が接地板6を地面に押し付け、接地板6は走行面Sと接地した状態で足部1aは微振動して移動が起こらない。
この2つの状態を交互に繰り返しながら微振動することで、各足部1aが図3中左側に向けて前進する。
【0018】
そして、左右の足部1aが共に同じ振動状態で同方向に前進しようとすることで、本体1が直進移動することになる。
またこのとき、一方の振動モータ2の駆動を止めたり相対的に駆動力を小さくしたりすると、他方の振動モータ2を取り付けた足部1aの方が、相対的に多く前方に移動することで、本体1は、一方の振動モータ2側に向けて旋回するような動作を行う。
このように、前進、及び右旋回、左旋回が可能となる。
【0019】
(作用効果)
走行面Sに、図6のように、上記一対の光センサ5の受光部間の間隔よりも幅の狭い走行案内用の帯状ラインLを引く。ラインLは黒色とすることで、光センサ5の受光部がラインLと重なるほど、受光する光が暗くなる。なお、ラインL以外の走行面Sを白色とする。
そして、図6のように、2つの光センサ5の受光部を上記ラインLを跨ぐようにして配置して、作動させると、一対の光センサ5の各受光部がラインLと対向しない状態では、左右の振動モータ2への供給電力は同一であるので、ラインLに沿って直進移動する。
【0020】
更に、図7(a)のように、一方の光センサ5の受光部がラインLと上下で対向(重なる)すると、対向した側の振動モータ2への電力供給が相対的に小さくなって、本体1は、ラインLと対向した側に旋回するようにして移動する。続けて図7(b)のように、他方の受光部がラインLと上下に対向し、その対向して重なる面積の方が多くなると、反対側に旋回するように移動する。これを繰り返すことで、ラインLが曲がっていても、そのラインLに沿って本体1は移動することになる。なお、図7では、ラインLが曲線となっている部分を例示しているが、直線部分についても同様である。
【0021】
実際に、作成して実験したところ(上記傾斜角度θを10度とした)、ラインLの無い走行面Sでは、滑らかに前進することを確認した。また、上記のような黒色のラインLを楕円状の無端環状に引いて本体1を走行させたところ、ラインLに沿って本体1が移動することが確認した。
ここで、白地の黒いラインLの場合には、モータ2と光センサ5の組は、左右同一方向の組合せとし、黒地に白いラインLの場合には、モータ2と光センサ5の組は、左右反対側(例えば、モータ2が右側なら光センサ5は左側のものを組とする)に設定すれば良い。
また、走行面Sに多少の傾斜(実験では3〜4度)を有する坂道を設けても登坂することを確認した。
【0022】
(応用)
ここで、上記実施形態では、自動的にラインLに沿って走行する構成で説明しているが、リモコンで一対の可変抵抗器4の抵抗値を変更可能として、遠隔で自由に走行方向及び走行の早さを変更するようにしても良い。この場合には、光センサ5は必ずしも必要ではない。
また、上記実施形態では、足部1aと接地板6との取付け角度が固定されている場合を例示しているが、足部1aと接地板6との間の取付け角度を調整可能、つまり足部1aの傾斜角度θを調整を可能なリンク状態としても良い。このようにすると、例えば、坂道を登らせる場合に、足部1aの傾斜角度θを大きくすることで、登坂できる坂道の角度を大きくすることができる。なお、接地板6の下面を粗面としておくことが好ましい。また、上記足部1aの傾斜角度θもリモコンによって変更可能としても良い。この場合には、リンクによる角度を調整するためのシリンダ装置などのアクチュエータを設ければよい。
【0023】
また、上記実施形態では、一対の足部1aが同一平面上に配置されて、完全に同方向を向いている場合を例示しているが、これに限定されない。例えば、足部1aの下端部だけを図示した平面図である図8や図9のように、上面視でハの字となるように、左右対称に一直線A1上から前後に傾けても良い。この場合には、各足部1aは、それぞれ斜め方向に進行しようとするが、一対の足部1aが同一の駆動状態であれば、左右方向成分は一対の足部1aによって互いに打ち消し有って、前進するようになる。なお、図8のような前方に向けて間隔が広くなるハの字状に設定することで、一方の足部1aの駆動を停止若しくは小さくした際の旋回半径を小さく設定可能である。ハの字状とした場合には、ハの字の角度を余り付けると直進性が損なわれる。
【0024】
また、上記実施形態では、一対の足部1aで形成される場合を例示しているが、上記本体1を複数組、連結するなどして組み合わせて1つの装置を形成するようにしても良い。また、3個以上の足部を備えて、駆動する足部1aを選択することで移動方向を調整するようにしても良い。
また、上記実施形態では、足部1aを板状部材から構成することで軸直方向の弾性に異方性を持たせて、足部1aの主とした振動方向を板厚方向に設定させているが、材料その他によって軸直方向における一方のみに撓みやすいように異方性を設定できれば、板状に限定されず、棒状であっても良い。
【0025】
また、板状形状は、平板状に限定されず、楕円形を潰したような形状であっても良いし、板状形状は、上下方向に沿って湾曲していても良い。要は板厚方向に主として撓みやすければ良い。また、足部の上下に向けた軸が、撓みやすい方向に傾斜していれば良い。
また、振動発生装置として振動モータ2を例示しているが、圧電素子などの他の振動発生装置を各足部1aに設けても良い。
また、振動発生装置に電力を供給する電池3(電源)を共通としているが、各振動発生装置毎に個別に設けても良い。同一の電力を供給する観点からは共通化した方が良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る走行駆動装置を示す斜視図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係る走行駆動装置を示す側面図である。
【図3】動作を説明する図である。
【図4】回路例を示す図である。
【図5】回路の別例を示す図である。
【図6】走行状態を説明するための図である。
【図7】ラインLに沿って走行する状態を説明するための図である。
【図8】一対の足部をハの字状に配置する例を示す模式図である。
【図9】一対の足部をハの字状に配置する例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0027】
1 本体
1a 足部
1b 基板本体部
2 振動モータ(振動発生手段)
2a モータ本体
2b 偏心錘
3 電池
4 可変抵抗器
5 光センサ
6 接地板
S 走行面
V 鉛直方向
θ 傾斜角度
L ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に対し所定傾斜角度だけ傾斜した斜め方向に向けて上下に延在し下端部が自由端の片持ち梁状になっていると共に上記傾斜した方向に沿ってだけ大きく弾性変形し易い異方性を有する足部を複数本、有すると共に、その各足部に対し少なくとも上記傾斜方向への振動を与える振動発生装置を備えることを特徴とする走行駆動装置。
【請求項2】
上下に延在し下端部が自由端の板状部材からなる複数の足部と、その各足部に対し少なくとも上記傾斜方向への振動を与える振動発生装置と、を備え、上記足部はそれぞれ、鉛直方向に対し板厚方向へ傾斜していることを特徴とする走行駆動装置。
【請求項3】
上記足部として一対の足部を備え、その一対の足部を左右対称に配置したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した走行駆動装置。
【請求項4】
上記各足部の鉛直方向に対する傾斜角度は、調整可能となっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した走行駆動装置。
【請求項5】
上記足部として一対の足部を備え、その一対の足部を左右対称に配置し、各足部毎に当該足部に振動を付与する振動モータを設けると共に各振動モータへの電力供給回路にそれぞれ可変抵抗器を介装し、
更に、上記一対の足部に対応して配置されて受光部を下方に向けた一対の光センサを備え、各光センサの受光状態に応じて上記各可変抵抗の抵抗値が変化することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した走行駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−194070(P2008−194070A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29066(P2007−29066)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】