説明

起伏ゲート式防波堤の給排気設備

【課題】排気時に吸い込んだ水が給排気管内に滞留し、排気を阻害することがないようにする。
【解決手段】基端側の回転軸2bを支点として起伏揺動すべく、水路又は港湾に設けられた基礎部8に設置された扉体2の起立により前記水路又は港湾を締め切る起伏ゲート式防波堤の前記扉体2に給気、或いは扉体2から排気を行う設備である。扉体2には、倒伏状態にある場合の下面側の、起立状態にある場合の下方を開放した浮力室2aが、頂部側に形成されている。地上に設置された給排気装置と扉体2の浮力室2aを繋ぐ給排気管5の、地上部分に給排気弁6を設けると共に水中部分に排水槽9を設ける。
【効果】扉体を倒伏する際の排気時に、給排気管に水を吸い込んだ場合も、吸い込まれた水を排水槽に溜めることができるので、排気経路を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高潮対策として港湾に設置される起伏ゲート式防波堤の給排気設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の起伏ゲート式防波堤として、浮力によって扉体の起伏を行うものがある(例えば特許文献1)。
【0003】
このような起伏ゲート式防波堤では、扉体に設けた浮力室に給気し、浮力室内の海水を排水することで、扉体を浮上させる。また、浮力室の空気を排気し、海水を注入することで扉体を倒伏させる。これら一連の動作に給排気設備が必要である。
【0004】
この給排気設備として、特許文献1では、図6に示すように、浮力室2aへの給気は給気専用の給気管1を介して行い、浮力室2aからの排気は扉体2の先端に取り付けた排気弁3を開くことにより行うものを開示している。
【0005】
しかしながら、このような給排気設備の場合、排気弁は水中で動作する必要があるので、排気弁の信頼性に不安がある。なお、図6中の4は給気管1に設けられた給気弁を示す。
【0006】
一方、図7に示すように、途中に給排気弁6を介設した給排気管5を扉体2の浮力室2aに接続して浮力室2aへの給気、浮力室2aからの排気を行うものもある。この場合、特許文献1のように水中で動作する排気弁は不要である。
【0007】
しかしながら、扉体2の倒伏に際し、給排気弁6を開放して浮力室2aの空気を排気する時に、空気と共に吸い込んでしまった水7が給排気管5の最低部又は局部的な低部に滞留し、排気を阻害する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−207220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、水中で動作する排気弁が不要な、給排気管を扉体の浮力室に接続して浮力室への給排気を行う給排気設備では、排気時に吸い込んだ水が給排気管内に滞留し、排気を阻害する場合があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の起伏ゲート式防波堤の給排気設備は、
給排気管を扉体の浮力室に接続して浮力室への給排気を行う給排気設備であっても、排気時に吸い込んだ水が給排気管内に滞留し、排気を阻害することがないようにするために、
基端側の回転軸を支点として起伏揺動すべく、水路又は港湾に設けられた基礎部に設置された扉体の起立により前記水路又は港湾を締め切る起伏ゲート式防波堤の前記扉体への給気、或いは扉体から排気を行う設備であって、
前記扉体は、倒伏状態にある場合の下面側の、起立状態にある場合の下方を開放した浮力室が、頂部側に形成され、
地上に設置された給排気装置と前記扉体の浮力室を繋ぐ給排気管の、地上部分に給排気弁を設けると共に水中部分に排水槽を設けたことを最も主要な特徴としている。
【0011】
本発明は、給排気管の水中部分に排水槽を設けるので、扉体を倒伏する際の排気時に、給排気管に吸い込まれた水は、排水槽に溜まることになって、排気を阻害することがなくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、給排気管の水中部分に排水槽を設けることで、扉体を倒伏する際の排気時に、給排気管に水を吸い込んだ場合も、吸い込まれた水を排水槽に溜めることができるので、排気経路を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は本発明の給排気設備を備えた起伏ゲート式防波堤の排気時(倒伏操作時)を説明する概略図、(b)は同じく給気時(起立操作時)を説明する概略図である。
【図2】(a)は扉体の起立完了時の状態を説明する図、(b)は津波、高潮が来襲して立ち上がった直立状態を説明する図である。
【図3】排水槽に溜まった水を給気圧により排水する作用を説明する図である。
【図4】排気経路の確保に必要な排水槽内の空気層高さを得るための絞りの圧損を説明する図である。
【図5】扉体の他の構造を説明する図で、(a)は空気弁が連通部を開放している状態の図、(b)は空気弁が連通部を閉じている状態の図である。
【図6】給気管を介して給気し、扉体の先端に取り付けた排気弁を開いて排気する給排気設備を説明する図である。
【図7】扉体の浮力室に接続した給排気管を用いて浮力室への給排気を行う給排気設備を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、給排気管を扉体の浮力室に接続して浮力室への給排気を行う給排気設備であっても、排気時に吸い込んだ水が給排気管内に滞留し、排気を阻害することがないようにするという目的を、給排気管の水中部分に排水槽を設けることで実現した。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図4を用いて詳細に説明する。
図1(a)は本発明の給排気設備を備えた起伏ゲート式防波堤の排気時(倒伏操作時)を説明する概略図、(b)は同じく給気時(起立操作時)を説明する概略図である。
【0016】
図1において、2は水路又は港湾に設けられた基礎部8に設置された扉体であり、基端側の回転軸2bを支点として起伏揺動するようになされている。この扉体2は、その頂部側に浮力室2aが形成されており、この浮力室2aは、倒伏状態にある場合の下面側の、起立状態にある場合の下方を外部に開放する開放部2aaを有している。
【0017】
5は地上に設置された図示省略した給排気装置(レシーバタンクとコンプレッサ)と前記扉体2の浮力室2aを繋ぐ給排気管であり、一方端は図示省略した前記給排気装置に接続し、他方端は前記浮力室2aの頂部側に位置するように設けられている。なお、この給排気管5の扉体2への挿入部近傍はフレキシブルホース5aで形成され、扉体2の起伏動作による位置の変化を吸収できるようになっている。
【0018】
前記給排気管5の、地上部分には給排気弁6が、また、同じく水中部分には排水槽9がそれぞれ設けられている。この排水槽9は、排気中に吸い込まれた水7が排水槽9内に溜まるように、給排気管5の例えば最も低い位置(最低部)に設けられている。また、この排水槽9への給排気管5の接続位置は、排気中に吸い込まれた水7が排水槽9内に溜まった場合でも、排気経路を確保できるように、排水槽9の上方で接続している。
【0019】
上記構成の給排気設備を備えた起伏ゲート式防波堤は、浮力室2aに給気することにより発生する浮力によって起立している。起立完了時は、図2(a)に示すように、扉体2の先端が水面より少し突出した位置であり、給排気弁6を閉塞して起立状態を維持している。
【0020】
この状態で、津波、高潮が来襲した場合は、押波(港外側と港内側の水位差)によって、扉体が図2(b)に示す直立状態まで立ち上がる。津波、高潮が収まったときは、港外側の水位が低下し、港内側との水位差がなくなるので、図2(a)の位置に戻る。
【0021】
前記起立状態からの倒伏操作は、以下のように行う。
先ず、給排気弁6を開放する。この給排気弁6の開放により、水圧によって生じる圧力差により浮力室2a内の空気が排気され、開放部2aaより浮力室2a内に水7が侵入し、扉体2が浮力を失って倒伏する(図1(a)参照)。
【0022】
この倒伏時、給排気弁6を開放した排気中に、給排気管5内に水7が吸い込まれた場合でも、図1(a)に示すように、吸い込まれた水7は排水槽9に溜まるので、給排気管5内に水7が溜まらず、排気を阻害することがなくなる。
【0023】
一方、扉体2の起立操作時には、給排気弁6を開放して給排気装置から給排気管5に空気を送り込めば、空気は排水槽9を経て浮力室2aに送り込まれ、浮力室2a内に溜まった水を開放部2aaから押し出して扉体2を起立させる(図1(b))。
【0024】
この給気時、図1の例のように、排水槽9の底部にドレン管10を設けておけば、給気圧がドレン管10の排出側の水圧よりも高い場合には、排水槽9への前記給気により排水槽9内に溜まった水7を、ドレン管10を通して排出することが可能になる。
【0025】
この際、図1の例のように、排水槽9と浮力室2aを繋ぐ給排気管5部に絞り11を設けておけば、この絞り11の作用によって図3に示すように排水槽9内の圧力が上昇するので、前記ドレン管10からの排水がより効率良く行えるようになる。
【0026】
前記ドレン管10を設ける場合は、ドレン管10の途中に逆止弁12を設けておけば、水中の水7が排水槽9に侵入することを防ぐことができる。また、排水槽9と浮力室2aを繋ぐ給排気管5部に前記絞り11を設ける場合、図1に示すように、この絞り11と並列に逆止弁13を設けておけば、排気時の排気が良好に行えるようになる。
【0027】
ところで、給気時、排水槽9内に溜まった水7が前記ドレン管10から排出された後は、浮力室2aへの給気の一部がドレン管10を介して水中に排出され、給気効率が悪くなる。
【0028】
従って、ドレン管10を介して水中に排出される前記給気の一部を浮力室2aに導くように、ドレン管10の排出側端面10aを、図1(b)のように、倒伏状態にある扉体2の前記浮力室2aの開放部2aaと相対するように位置させておくことが望ましい。
【0029】
ところで、前記絞り11を設置する場合、必要とする圧損ΔP1は、以下のように計算することができる。
【0030】
先ず、図4に示すように、水面から倒伏時の扉体2の下面側までの距離をh1’、 水面からドレン管10の排出側端面10aまでの距離をh2’、水面から排水槽9の上面までの距離をhT、排気経路の確保に必要な排水槽9内の空気層高さをhXとする。また、倒伏時の扉体2の浮力室2a内の水7の高さをh1、逆止弁12の圧損をΔP2、水の比重をρ、重力加速度をgとする。
【0031】
倒伏時の扉体2の浮力室2aの開放部2aaにおける水圧PWは、PW=ρgh1’、ドレン管10の排出側端面10aにおける水圧PW’は、PW’=ρgh2’、給気圧Pは、P=PW−ρgh1+ΔP1=PW’ −ρg(h2’ −hX−hT)+ΔP2で求めることができる。
【0032】
従って、倒伏時の扉体2の浮力室2a内の水7の高さh1を0とした場合、前記給気圧Pを求める式より、前記絞り11が必要とする圧損ΔP1は、PW’ ―PW―ρg(h2’ −hX−hT)+ΔP2で求めることができる。
【0033】
前記圧損ΔP1を求める式中のPWにρgh1’を、PW’にρgh2’を代入して整理すると、ρg(h2’ −h1’ )−ρg(h2’ −hX−hT)+ΔP2=ρg(hX+hT−h1’ )+ΔP2となる。
【0034】
よって、前記絞り11としては、ρg(hX+hT−h1’ )+ΔP2以上の圧損ΔP1を有するものを設置すればよい。
【0035】
起伏ゲート式防波堤を構成する扉体2が複数基並設されている場合、給排気弁6は複数基の扉体2で共通としても良いが、給排気管5、排水槽9、絞り11、逆止弁12、13等の水中に配置するものは扉体2ごとに設置する。当然、給排気弁6を扉体2ごとに設置しても良い。
【0036】
本発明は、図1〜図4で説明した例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0037】
例えば扉体2の浮力室2aを、図5に示すように、給排気管5の他方端を導いた部分とその他の部分に区画し、これら区画した両部分の連通部2abを、空気弁14により密閉又は開放するようにしても良い。
【0038】
すなわち、基端側を回転自在に支持したリンク部材15の先端側にフロート16を、中央部分に空気弁14を取り付けることで、浮力室2a内に侵入した水7の水位によって、浮力室2aの連通部2abを空気弁14で塞いだり、開放したりさせるのである。なお、図5中の17は空気弁14の開放位置を規制するストッパである。
【0039】
つまり、給気時には、給排気弁6を開放して給気すれば、排水槽9、絞り11を介して浮力室2aに送り込まれた空気は、空気弁14を押し、連通孔2abを開放して浮力室2a内に至り、浮力室2a内の水7を開放部2aaから排水する。給気が終了した扉体2の起立状態時は、空気弁14はフロート16の重力により浮力室2aの連通部2abを開いた状態を維持している。
【0040】
一方、起立状態から排気して扉体2を倒伏させる時は、給排気弁6を開放すれば、水圧差により浮力室2a内の空気が排気され、開放部2aaより浮力室2a内に水7が侵入し、扉体2が倒伏する。
【0041】
扉体2の倒伏が進んで浮力室2a内に所定量の水7が侵入すると、フロート15の浮力により、空気弁14は図5(a)の状態から図5(b)の状態に連通部2abを閉塞し、倒伏が終了する。
【0042】
つまり、この図5の構成の扉体2を採用した場合、排気時に給排気管5に水7が吸い込まれることを可及的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0043】
2 扉体
2a 浮力室
2aa 開放部
2b 回転軸
5 給排気管
6 給排気弁
7 水
8 基礎部
9 排水槽
10 ドレン管
10a 排出側端面
11 絞り
12、13 逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端側の回転軸を支点として起伏揺動すべく、水路又は港湾に設けられた基礎部に設置された扉体の起立により前記水路又は港湾を締め切る起伏ゲート式防波堤の前記扉体に給気、或いは扉体から排気を行う設備であって、
前記扉体は、倒伏状態にある場合の下面側の、起立状態にある場合の下方を開放した浮力室が、頂部側に形成され、
地上に設置された給排気装置と前記扉体の浮力室を繋ぐ給排気管の、地上部分に給排気弁を設けると共に水中部分に排水槽を設けたことを特徴とする起伏ゲート式防波堤の給排気設備。
【請求項2】
前記排水槽は、前記給排気管の最低部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の起伏ゲート式防波堤の給排気設備。
【請求項3】
前記排水槽の底部に、排水槽内の水を放出させるドレン管が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の起伏ゲート式防波堤の給排気設備。
【請求項4】
前記ドレン管の途中に逆止弁が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の起伏ゲート式防波堤の給排気設備。
【請求項5】
前記ドレン管の排出側端面は、倒伏状態にある扉体の前記浮力室の開放部と相対するように設けられていることを特徴とする請求項3又は4に記載の起伏ゲート式防波堤の給排気設備。
【請求項6】
前記排水槽と前記浮力室を繋ぐ給排気管部に絞りが設けられていることを特徴とする請求項3〜5の何れかに記載の起伏ゲート式防波堤の給排気設備。
【請求項7】
前記絞りと並列に逆止弁が設けられていることを特徴とする請求項6に記載の起伏ゲート式防波堤の給排気設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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