説明

起伏式防水扉装置

【課題】電気設備が不要で、浸水を検知した時に自動的に防水扉を起立させることが出来るもの、即ち人が不在となる夜間等の急激な増水に対し、確実に浸水を防止することができ、しかも駆動源設備がコンパクトで、その設置の自由度が大きく、且つ比較的安価に提供することが出来るばかりでなく市販のガスボンベ組立体を駆動源として使用できる起伏式防水扉を提供する。
【解決手段】防水扉1を起立させる空気圧シリンダー6と炭酸ガスボンベ組立体12間の圧力ガス供給回路中に前記炭酸ガスボンベ組立体12側から順次減圧タンク18、弁26、チーズ27、流量調整弁22及びチーズ23を接続し、前記チーズ23には排気用流量調整弁24を、前記チーズ27には弁28を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水害時において、ビル、地下街、地下駐車場、地下鉄等の公共的な施設から、更には一般家庭の出入口に、浸水防止のために設置され、駆動源として市販の炭酸ガスボンベ組立体を用いた起伏式防水扉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模で気象状況が大きく変化しており、この日本では予測困難で極めて局地的な「ゲリラ豪雨」といわれる集中豪雨が頻発してきている。
【0003】
このような状況の中で、出願人は様々なタイプ、例えば、手動又は駆動手段として空気圧シリンダーや油圧シリンダー或いはゴム製の袋体を用いたもの、歯車装置を用いたもの等の起伏式防水扉装置を開発してきたが、これら従来装置には次の問題があった。
【0004】
(1)手動式の場合、操作には人が介在しているので、急激な増水に対する操作遅れや、人の対応が困難となる夜間等の対応に問題があった。
(2)動力発生に電力を利用する方式の場合は、電気設備が必要となり、停電時の対応や、設備費が高価になるという問題があった。
(3)特許文献1に開示されるような市販の窒素ガスボンベを用いる方式の場合は、ガスボンベが大きいため設置場所に問題があるばかりでなく、圧力ガス供給管路の途中に圧力計やパイロット弁等の付属設備を必要とするため、その調整やメンテナンスを必要とし、面倒であった。
【0005】
前記(3)の窒素ガスボンベを駆動源として用いる場合、供給圧力ガス圧を1Mpa(メガ・パスカル)以下にして使用される。窒素ガスボンベのボンベ内圧力は通常15Mpaであるから、出力ガス圧を1Mpa以下に低下させなければならない。
【0006】
窒素ガスボンベの圧力ガスを用いる場合、ガス容量が大きいので、通常付属されている圧力メータと減圧弁を用いて、使用ガス圧を1Mpa以下に調整して、試運転を行い、そのまま、浸水時に対応することが出来る。ところが、市販の小容量の6Mpaの炭酸ガスボンベ組立体を用いようとした場合、ガス容量が小さく、そしてその構造上、短時間で全量が放出されてしまうので、供給ガス圧の調整、即ち防水扉の開披動作の調整は不可能である。
【0007】
そのため、従来、特許文献1に開示されるように、圧力ガスを駆動源に用いる起伏式防水扉装置に市販の炭酸ガスボンベ組立体を用いることがあっても、それは弁を開披することに利用したもので、炭酸ガスボンベ組立体の圧力ガスのみで防水扉を起立させるものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−35879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、電気設備が不要で、浸水を検知した時に自動的に防水扉を起立させることが出来るもの、即ち人が不在となる夜間等の急激な増水に対し、確実に浸水を防止することができ、しかも駆動源設備がコンパクトで、その設置の自由度が大きく、且つ比較的安価に提供することが出来る市販のガスボンベ組立体を駆動源として使用できる起伏式防水扉を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、本発明者は種々試験研究の結果、空気圧シリンダー又は袋体から成る防水扉を開披駆動する駆動手段と、炭酸ガスボンベ組立体間に減圧タンクを設け且つ試運転・調整用ガス供給源を随時接続して、圧力ガス供給回路を調整設定するという方法を採用することにより駆動源として市販の炭酸ガスボンベ組立体を用いる起伏式防水扉装置の実用化に成功したものである。
【0011】
適切な大きさの減圧タンクを設けることにより減圧タンクの出力ガス圧を1Mpa以下に低下させることが出来るので、減圧タンクの容量が適切な値になるように設計することにより、駆動手段を駆動するのに必要な圧力ガスを供給することが出来る。
【0012】
ガス供給量を微調整可能とするため、減圧タンクの出力側と前記駆動手段との間に流量調整弁を設けることが好ましい。そして、その調整により防水扉の起立速度を適正な速度に設定することが出来る。
【0013】
前記流量調整弁の調整は、後述するガス容量の大きい窒素ガスボンベを用いた試運転、調整用ガス供給源を駆動手段への圧力ガス供給回路に、臨時に接続するように構成することにより炭酸ガスボンベ組立体を使用せずに調整を行うことが出来る。
【0014】
本発明で用いる炭酸ガスボンベ組立体としては、浸水時に炭酸ガスボンベを開披させる浸水検知カートリッジを具備したもの、又はこの浸水検知カートリッジと炭酸ガスボンベを開披させる手動用作動索を具備したものが用いられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明において設けた減圧タンクの出力側は1Mpa以下とすることが出来るため減圧タンクと駆動手段間の圧力ガス供給管として可撓性のチューブを用いることが出来るので、圧力ガス供給設備の設置位置の自由度が大きく、また炭酸ガスボンベ組立体は小型であるので、設計の自由度に優れ且つ防水扉装置を安価に提供できる。
【0016】
圧力ガスの供給は、浸水を検知して自動的に行われるので、人が不在となる夜間等の急激な増水に対し、確実に浸水を防止することができる。なお、炭酸ガスボンベ組立体として手動用作動索を具備した場合は、いつでも防水扉を起立させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】手動で防水扉を起立させた時の本発明実施例の起立設備の配置を示す概略平面図。
【図2】防水扉倒伏時の本発明実施例の縦断側面図。
【図3】防水扉起立時の本発明実施例の縦断側面図。
【図4】本発明実施例の扉体開閉装置の圧力ガス供給回路図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を駆動手段として空気圧シリンダーを用いた場合の実施例について説明する。しかし、本発明は駆動手段としてゴム製袋体を使用する場合にも適用し得ることは勿論である。
【実施例】
【0019】
図1は手動で防水扉を起立させた時の本発明の実施例の起立設備の配置を示す概略平面図、図2は防水扉倒伏時の本発明の実施例の縦断側面図、図3は防水扉起立時の本発明の実施例の縦断側面図で、1はピット2の左側に枢着された防水扉、3は軸4に取付けられた連結アーム5を介して空気圧シリンダー6により前記防水扉1を起立させる駆動アームである。
【0020】
この駆動アーム3の先端にはローラ7が取り付けられており、前記空気シリンダー6に、後述の圧力ガスが挿入されると、駆動アーム3はローラ7を介して防水扉1を自動的に起立させる。尚、実施例の空気圧シリンダー6の作動ガス圧は0.5Mpaである。
【0021】
8,8は起立に要する人力を軽減させるための起立補助機構で、手動で防水扉1を起立させる時、起立角度が75°〜80°附近までコイルバネを内装した起立補助シリンダー9により、先端にローラ10を付した駆動アーム11が起立して追従し、手動による防水扉1の引上げを補助し、力のない人でも容易に防水扉1を起立させ、又倒伏させる時は急激に防水扉1が倒伏することを防止するように構成されている。
【0022】
図4は圧力ガス供給回路を示し、12はソケット13、炭酸ガスボンベ14、浸水検知カートリッジ15及び手動用作動索16からなる市販の炭酸ガスボンベ組立体で、炭酸ガスボンベ14と浸水検知カートリッジ15はソケット13に着脱自在に取付けられ、浸水動作後、使用済みのものは交換することができる。又梅雨時や台風シーズン以外の豪雨の虞がない期間は、誤作動防止のためにカートリッジ15及び炭酸ガスボンベ14を取外しておくことができる。
【0023】
なお、浸水検知カートリッジ15は、浸水時、ソケット13に設けられた撃針を作動させて炭酸ガスボンベ14の封板を開口させる。又ロックピン17を外し、手動用作動索16を引張ることにより、撃針を作動させ、手動で炭酸ガスボンベ14の封板を開口させることができる。
【0024】
18は空気圧シリンダー6と炭酸ガスボンベ組立体12間の圧力ガス供給回路19間に設けた減圧タンクで、炭酸ガスボンベ14の入力ガス圧(6Mpa)を出力側のガス圧が1Mpaになるように体積が設計されている。実施例の減圧タンク18は円筒状のものである。
【0025】
炭酸ガスボンベ組立体12と減圧タンク18間は鋼管20で連結され、減圧タンク18と空気圧シリンダー6間は取扱いガス圧が1Mpaであるので、可撓性のチューブ21で接続している。
【0026】
減圧タンク18と空気圧シリンダー6間の圧力ガス供給回路19には、防水扉1の起立速度を調整するための流量調整弁22が設けられており、この流量調整弁22と空気圧シリンダー6間にはチーズ23(T型継手)を介して排気用流量調整弁24が設けられている。この排気用流量調整弁24は、防水扉1の倒伏が適切に行い得るように調整しておく。
【0027】
また試運転・調整用ガス供給源25を接続するため、減圧タンク18の出力側に弁26を、また前記弁26と流量調整弁22間に、チーズ27(T型継手)を介して、前記試運転・調整ガス供給源25を接続するための弁28が接続されている。なお、実施例では弁26,28としてボールバルブを用いた
【0028】
前記試運転・調整用ガス供給源25は、この種の従来装置で使用されていたガス圧が15Mpaのガス圧メータ29付の窒素ガスボンベ30と、減圧弁31と、該減圧弁31の出力ガス圧を検出するためのガス圧メータ32とで構成されている。
【0029】
次に本発明実施例装置の用法と動作について説明する。前述のように、本発明の圧力ガス供給方式は一回限りの使用のものであるから、防水扉1の起立速度が安全性確保のため急激のものではなく、適正な速度となるように圧力ガス供給回路19を調整して空気圧シリンダー6に送入する圧力ガスの流量を調整しておかなければならない。
【0030】
そのため、先ず工場又は現場において、弁28に試運転・調整用ガス供給源25を接続し、次いで弁26を閉じ、減圧弁31を調整してガス圧メータ32を見ながら出力ガス圧を1Mpaとした後、弁28を開き、次いで流量調整弁22を調整して防水扉1の起立速度が適正になるように空気圧シリンダー6に送入する流量を調整する。
【0031】
この試運転・調整が終了したならば、弁28を閉じた後弁28から試運転・調整用ガス供給源25を外し、次いで弁26を開ければ準備完了である。
【0032】
次に浸水時の動作について説明する。今、浸水検知カートリッジ15が浸水すると、炭酸ガスボンベ14の封板が撃針により開口し、炭酸ガスボンベ14内の6Mpaの炭酸ガスは一気に噴出し、減圧タンク18で減圧され1Mpaになり、弁26、チーズ27、流量調整弁22、チーズ23を経て空気圧シリンダー6に流入する。
【0033】
その結果空気圧シリンダー6が動作し、軸4に取付けられた連結アーム5と駆動アーム3及びローラ10を介して防水扉1を設定された適正な速度で起立させる。なお、ロックピン17を外し、手動用作動索16を引張っても防水扉1を起立させることが出来る。
【0034】
防水扉1が起立すると、ヒンジ機構36により、防水扉1は起立状態を維持され、排気用流量調整弁24からガスが排出するが、手で倒伏させない限り防水扉1が倒伏することはない。
【0035】
通常、試運転時に調整すれば、流量調整弁22は変動しないので、炭酸ガスボンベ14と浸水検知カートリッジ15とを新品と交換するだけで再度防水扉1を動作させることが出来る。
【0036】
炭酸ガスボンベ14と浸水検知カートリッジ15は消耗品として安価に提供されているので、使い勝手が良い。また、炭酸ガスボンベ組立体12は勿論のこと、減圧タンク18も小型であるばかりでなく、減圧タンク18のガス出力側の圧力ガス供給回路19に可撓性のチューブ21を用いることが出来るので、実施例ではこれらの圧力ガス供給設備を圧力ガス供給設備収納ピット33に収納するようにしたが、使い勝手の良い場所に設置することが出来る。
【0037】
なお、この実施例では救命用浮体の膨張装置用として、手軽で安価に入手し得る市販の炭酸ガスボンベ組立体12(炭酸ガスボンベキットとも呼ばれている)を用いたが、特製のものであってもよいことは勿論である。
【0038】
この実施例装置では、防水扉1を倒伏させる場合、手動で行うものであるが、段落〔0021〕に記載したように起立補助機構8,8により防水扉1が急激に倒伏することはなく安全である。
【符号の説明】
【0039】
1 防水扉
2 ピット
3 駆動アーム
4 軸
5 連結アーム
6 空気圧シリンダー
7 ローラ
8 起立補助機構
9 起立補助シリンダー
10,34 ローラ
11 駆動アーム
12 炭酸ガスボンベ組立体
13 ソケット
14 炭酸ガスボンベ
15 浸水検知カートリッジ
16 手動用作動索
17 ロックピン
18 減圧タンク
19 圧力ガス供給回路
20 鋼管
21 チューブ
22 流量調整弁
23,27 チーズ
24 排気用流量調整弁
25 試運転・調整用ガス供給源
26,28 弁
29,32 ガス圧メータ
30 窒素ガスボンベ
31 減圧弁
33 圧力ガス供給設備収納ピット
35 位置決め用突起
36 ヒンジ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気圧シリンダー又は袋体を防水扉起立の駆動手段として用いる起伏式防水扉において、前記駆動手段の駆動源として炭酸ガスボンベ組立体を用い、該炭酸ガスボンベ組立体と前記駆動手段間の圧力ガス供給回路中に減圧タンクを設けたことを特徴とする起伏式防水扉装置。
【請求項2】
前記減圧タンクと前記駆動手段間の圧力ガス供給回路に流量調整弁を設けたことを特徴とする請求項1記載の起伏式防水扉装置。
【請求項3】
前記流量調整弁と前記駆動手段間の圧力ガス供給回路にチーズを介して排気用流量調整弁を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の起伏式防水扉装置。
【請求項4】
前記減圧タンクと前記流量調整弁間に圧力ガス供給回路に弁とチーズを順次接続すると共に、前記チーズに試運転・調整用ガス供給源を接続する弁を設けたことを特徴とする請求項3記載の起伏式防水扉装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−96093(P2013−96093A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237760(P2011−237760)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000207403)大同機工株式会社 (14)
【Fターム(参考)】