説明

超メソ多孔性Yゼオライト

本発明は、超メソ多孔性Y(「EMY」)ゼオライトの組成物および合成ならびに有機化合物の接触転化でのその使用に関する。特に、本発明は、高い大きなメソ孔細孔容積対小さなメソ孔細孔容積比を有するY型骨組ゼオライトに関する。得られた新規ゼオライトは、石油精製および石油化学プロセスでの使用のための有益な構造上の特徴を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超メソ多孔性Y(「EMY」)ゼオライトの組成物および合成ならびに有機化合物の接触転化におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
天然および合成の両方の、ゼオライト材料は、吸着材として実用性を有すること、および様々なタイプの炭化水素転化反応のための触媒活性を有することがこれまでに実証されてきた。ある種のゼオライト材料は、X線回折によって測定されるように一定の結晶性構造を有する規則正しい、多孔質の結晶性メタロシリケートであり、その内部に多数のさらにより小さなチャンネルまたは細孔によって相互接続されていてもよい数多くのより小さな空洞がある。これらの空洞および細孔は、特有のゼオライト材料内では寸法が一様である。これらの細孔の寸法は、ある寸法の吸着分子を受容するが、より大きな寸法のものを拒絶する等から、これらの材料は、「分子篩」として知られるようになり、これらの特性を活用するために様々な方法で利用されている。
【0003】
天然および合成の両方の、かかる分子篩には、多種多様な正イオン含有結晶性シリケートが含まれる。これらのシリケートは、四面体が酸素原子の共有によって架橋し、それによって全IIIA族元素およびケイ素原子対酸素原子の比が1:2である、SiO四面体と任意選択的に周期表IIIA族元素酸化物、例えば、AlOの四面体との剛性三次元骨組として説明することができる。IIIA族元素を含有する四面体のイオン原子価は、カチオン、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属カチオンの結晶への包含によってバランスがとられている。これは、IIIA族元素、例えば、アルミニウム対、Ca/2、Sr/2、Na、KまたはLiなどの、様々なカチオンの数の比が1に等しいと表現することができる。一タイプのカチオンは、従来方法でのイオン交換技法を利用して別のタイプのカチオンと完全にかまたは部分的にかのどちらかで交換されてもよい。かかるカチオン交換を用いて、カチオンの好適な選択によって所与のシリケートの特性を変えることがこれまで可能であった。
【0004】
先行技術技法は、多種多様な合成ゼオライトの形成をもたらしてきた。これらのゼオライトの多くは、数例を挙げるにすぎないが、ゼオライトA(特許文献1);ゼオライトX(特許文献2);ゼオライトY(特許文献3);ゼオライトZK−5(特許文献4);ゼオライトZK−4(特許文献5);ゼオライトZSM−5(特許文献6);ゼオライトZSM−11(特許文献7);ゼオライトZSM−12(特許文献8);ゼオライトZSM−20(特許文献9);ZSM−35(特許文献10);ゼオライトZSM−23(特許文献11);ゼオライトMCM−22(特許文献12);およびゼオライトMCM−35(特許文献13)で例示されるように、文字または他の便利な記号によって示されてきた。
【0005】
タイプ「Y」ゼオライトは、非特許文献1に記載されているフォージャサイト(「FAU」)骨組タイプのものであり、純結晶形では12員環の三次元チャンネルからなる。結晶性ゼオライトYは、特許文献3に記載されている。ゼオライトYおよび超安定Y(「USY」または「US−Y」)(特許文献14)などの改良されたY型ゼオライトは、形状選択的反応のための所望の骨組を提供するのみならず、高温での水蒸気の存在下で並外れた安定性を示し、それはこのゼオライト構造が多くの接触石油精製および石油化学プロセスで利用されるという結果をもたらしてきた。さらに、Y型ゼオライトなどの、フォージャサイト骨組ゼオライトの三次元細孔チャンネル構造は、苛酷な熱水条件下に高い表面積を保持するそれらの比較的良好な能力および製造するためのそれらの概して低いコストと組み合わせて、これらのゼオライトを、石油精製および石油化学プロセスでの流動接触分解(「FCC」)触媒用の好ましい成分にする。
【0006】
純ゼオライト結晶では、孔径は典型的には直径が数オングストロームの範囲にある。Y型ゼオライトは、純結晶形で約7.4オングストローム(Å)の孔径を示す。しかしながら、製造において、結晶性構造のおよび特に結晶間界面の欠陥が、Y型ゼオライトを含む、ゼオライトの結晶性構造に発生する。さらに、調製および/または使用のある種の方法によって、望ましいおよび望ましくない構造変化の両方をゼオライト結晶に加えることができる。それは、接触プロセスに利用されるときに有益な特性を有する可能性があるゼオライトの特有の特性につながるこれらの「欠陥」である。
【0007】
特許文献14によって教示されるように、穏和な水蒸気か焼によって調製された従来型超安定Y(USY)ゼオライトは、30〜50Å領域にメソ孔を含有する。30〜50Å範囲の孔径の細孔は、本明細書では「小さなメソ孔」と定義される。別のタイプのYゼオライト安定化は、骨組アルミニウム原子を除去するための化学プロセスを利用している。かかるプロセスから得られるYゼオライトの一例は、LZ−210である(特許文献15)。LZ−210では、除去されたアルミニウム原子の空孔は、ケイ素原子で置き換えられ、それ故、メソ孔の非常に少ない形成でYゼオライトのほぼ完全な結晶構造を保持している。しかしながら、FCC用途では、かかる完全な、すなわち、メソ孔なしのYゼオライトは、重質炭化水素の低い転化率につながる。FCC供給原料はより重質になりつつあるので、大きなメソ多孔性領域により多くのメソ孔を有するゼオライトを所有していることがより望ましい。ここで、「大きなメソ孔」は50Åより大きく500Åまでの領域の孔径の細孔と定義される。大きなメソ孔のゼオライトは重質炭化水素の転化率を高めることができると考えられる。この工業界に存在する問題は、多くのY型ゼオライト(例えば、Na−Yゼオライト)が、この工業界で広く使用されているが、大きなメソ孔範囲(50〜500Å孔径)に関係した顕著な細孔容積を全く示さずに小さなメソ孔範囲(30〜50Å孔径)に「ピーク」を示すことである。逆に、他のY型ゼオライト(例えば、USYゼオライト)は、幾つかの大きなメソ孔が存在するときに小さなメソ孔範囲(30〜50Å孔径)に顕著な「ピーク」を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】U.S. Patent No. 2,882,243
【特許文献2】U.S. Patent No. 2,882,244
【特許文献3】U.S. Patent No. 3,130,007
【特許文献4】U.S. Patent No. 3,247,195
【特許文献5】U.S. Patent No. 3,314,752
【特許文献6】U.S. Patent No. 3,702,886
【特許文献7】U.S. Patent No. 3,709,979
【特許文献8】U.S. Patent No. 3,832,449
【特許文献9】U.S. Patent No. 3,972,983
【特許文献10】U.S. Patent No. 4,016,245
【特許文献11】U.S. Patent No. 4,076,842
【特許文献12】U.S. Patent No. 4,954,325
【特許文献13】U.S. Patent No. 4,981,663
【特許文献14】U.S. Patent No. 3,375,065
【特許文献15】US. Patent No. 4,711,770
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Atlas of Zeolitic Framework Types (Ch. Baerlocher, W. M. Meier, and D. H. Olson editors、5th Rev. Ed., Elsevier Science B.V., 2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それ故、当該技術分野で必要とされるものは、小さなメソ孔範囲(30〜50Å孔径)で測定される細孔に関係した「小さなメソ孔ピーク」の大きさを抑えながら改良された大きなメソ多孔性容積と小さなメソ多孔性容積との比の構造を有する改良されたY型ゼオライトである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、先行技術のYゼオライトよりも改善されたメソ多孔性特性を有する超メソ多孔性Yゼオライト(本明細書では「EMY」ゼオライトと称される)、ならびにこのゼオライトの製造方法および接触炭化水素処理でのその使用を含む。
【0012】
本発明の一実施形態は、少なくとも約0.03cm/gの大きなメソ孔容積および約0.15cm/g未満の小さなメソ孔ピークを含むYゼオライトである。好ましい実施形態では、このゼオライトは、約24.37オングストローム〜約24.47オングストロームの単位格子寸法を有する。さらにより好ましい実施形態では、このゼオライトは、少なくとも約4.0の大きな細孔と小さな細孔との容積比(又は小さな細孔容積に対する大きな細孔容積の比)を有する。これらの用語の定義は、本明細書で提供される。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、このゼオライトの大きなメソ孔容積および上記ゼオライトの小さなメソ孔ピークについての値は、製造されたままのゼオライト(すなわち、高温水蒸気か焼後に得られたゼオライト)で測定される。さらにより好ましい実施形態では、本発明のゼオライトは、少なくとも約5.0の大きな細孔と小さな細孔との容積比、約0.13cm/g未満の小さなメソ孔ピーク、および少なくとも0.05cm/gの大きなメソ孔容積を有する。
【0014】
さらに、本発明の好ましい実施形態では、
a)Na−Yゼオライトをアンモニウム交換して約2〜約5重量%のNaO含有率のゼオライト前駆体を得る工程と;
b)このゼオライト前駆体を、約1200°F〜約1500°Fの温度での高温水蒸気か焼(カ焼又は焼成)にかける工程であって、ゼオライト前駆体の温度が、5分未満で高温水蒸気か焼温度の50°F内にある工程と
を含む、超メソ多孔性ゼオライトの製造方法であり、
このゼオライトが少なくとも約0.03cm/gの大きなメソ孔容積および約0.15cm/g未満の小さなメソ孔ピークを有する方法である。
【0015】
製造方法の他の好ましい実施形態では、ゼオライト前駆体のNaO含有率は、無水ベースで約2.2〜約4重量%内に保持される。他の好ましい実施形態では、高温水蒸気か焼工程中のゼオライト前駆体の温度は2分未満で高温水蒸気か焼温度の50°F内にされる。
【0016】
さらに、本発明の好ましい実施形態では、
a)石油精製プロセス(又は方法)で、炭化水素含有供給原料をYゼオライトと接触させる工程と;
b)炭化水素含有供給原料より低い平均分子量を有する少なくとも1つの生成物流れを生成する工程と
を含む、炭化水素含有供給原料の転化のための超メソ多孔性ゼオライトの使用方法であって、
このゼオライトが少なくとも約0.03cm/gの大きなメソ孔容積および約0.15cm/g未満の小さなメソ孔ピークを有する方法である。
【0017】
好ましい実施形態では、石油精製方法(又はプロセス)は、接触分解法(又はプロセス)、流動接触分解法(又はプロセス)、水素化分解法(又はプロセス)、水素化脱硫法(又はプロセス)、改質法(又はプロセス)、アルキル化法(又はプロセス)、オリゴマー化法(又はプロセス)、脱ロウ法(又はプロセス)、および異性化法(又はプロセス)から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】商業的に入手可能なアンモニウム−YゼオライトからのUSYゼオライトのBJH N脱着プロットである。
【図2】イオン交換/か焼工程および1400°Fで16時間の長期失活水蒸気処理にかけられた後の図1のUSYゼオライトのBJH N脱着プロットである。
【図3】本発明の超メソ多孔性Y(「EMY」)ゼオライトの実施形態のBJH N脱着プロットである。
【図4】イオン交換/か焼工程および1400°Fで16時間の長期失活水蒸気処理にかけられた後の本発明の超メソ多孔性Y(「EMY」)ゼオライトの実施形態のBJH N脱着プロットである。
【図5】EMYゼオライト前駆体のBJH N脱着プロットである。
【図6】100%水蒸気中1000°Fで1時間高温水蒸気か焼されたEMYゼオライト前駆体であって、高温水蒸気か焼中のEMYゼオライト前駆体温度が2分以内に高温水蒸気か焼温度の50°F内に上げられたEMYゼオライト前駆体のBJH N脱着プロットである。
【図7】100%水蒸気中1200°Fで1時間高温水蒸気か焼されたEMYゼオライト前駆体であって、高温水蒸気か焼中のEMYゼオライト前駆体温度が2分以内に高温水蒸気か焼温度の50°F内に上げられたEMYゼオライト前駆体のBJH N脱着プロットである。
【図8】100%水蒸気中1300°Fで1時間高温水蒸気か焼されたEMYゼオライト前駆体であって、高温水蒸気か焼中のEMYゼオライト前駆体温度が2分以内に高温水蒸気か焼温度の50°F内に上げられたEMYゼオライト前駆体のBJH N脱着プロットである。
【図9】100%水蒸気中1400°Fで1時間高温水蒸気か焼されたEMYゼオライト前駆体であって、高温水蒸気か焼中のEMYゼオライト前駆体温度が2分以内に高温水蒸気か焼温度の50°F内に上げられたEMYゼオライト前駆体のBJH N脱着プロットである。
【図10】100%水蒸気中1500°Fで1時間高温水蒸気か焼されたEMYゼオライト前駆体であって、高温水蒸気か焼中のEMYゼオライト前駆体温度が2分以内に高温水蒸気か焼温度の50°F内に上げられたEMYゼオライト前駆体のBJH N脱着プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の超メソ多孔性Y(「EMY」)ゼオライトは、ゼオライトの「大きなメソ孔」(50Åより大きく500Åまでの孔径)において細孔の実質的な容積を維持しながら、市販のY型ゼオライトの「小さなメソ孔」(30〜50Å孔径)に関係して一般に見られる抑制された「小さなメソ孔ピーク」を有するY型ゼオライトを生成する。International Union of Pure and Applied Chemistry(国際純正応用化学連合)(「IUPAC」)標準は、「メソ孔」を20Åより大きく500オングストローム(Å)未満の孔径を有するものと定義している。しかしながら、本明細書で用いられるような標準窒素脱着測定は、約22Åより下の細孔容積データを提供しない。さらに、Yゼオライトで見いだされる「小さなメソ孔ピーク」は30〜50Å範囲に実質的に限定されるので、本発明の目的のための測定可能なメソ多孔性孔径範囲を30〜500オングストローム(Å)の孔径と定義することは十分である。
【0020】
それ故、本明細書で利用されるところでは、用語「小さなメソ孔」または「小さなメソ多孔性」は、30〜50オングストローム(Å)の孔径のゼオライト結晶でのそれらの細孔構造と定義される。同様に、本明細書で利用されるような用語「大きなメソ孔」または「大きなメソ多孔性」は、50Åより大きく500オングストローム(Å)までの孔径のゼオライト結晶でのそれらの細孔構造と定義される。用語「メソ孔」または「メソ多孔性」は、単独で(すなわち、形容詞「小さな」または「大きな」と併せずに)本明細書で用いられるとき、30〜500オングストローム(Å)の孔径のゼオライト結晶でのそれらの細孔構造と定義される。特に記載のない限り、本明細書でメソ多孔性孔径について用いられる測定の単位はオングストローム(Å)単位である。
【0021】
本明細書で使用されるような材料の用語「小さなメソ孔容積」または「小さなメソ多孔性容積」は、それらの全てが参照により本明細書に援用される、ASTM Standard D 4222「Determination of Nitrogen Adsorption and Desorption Isotherms of Catalysts and Catalyst Carriers by Static Volumetric Measurements」;ASTM Standard D 4641「Calculation of Pore Size Distributions of Catalysts from Nitrogen Desorption Isotherms」;ならびに「The Determination of Pore Volume and Area Distributions in Porous Substances,I.Computations from Nitrogen Isotherms」,by Barrett,E.P.;Joyner,L.S.;and Halenda,P.P.;Journal of American Chemical Society;vol.73,pp.373−380(1951)によって測定され、計算されるように小さなメソ孔範囲での単位質量当たりの細孔の全細孔容積と定義される。特に記載のない限り、メソ孔容積についての測定の単位はcm/g単位である。
【0022】
本明細書で使用されるような材料の用語「大きなメソ孔容積」または「大きなメソ多孔性容積」は、ASTM Standard D 4222「Determination of Nitrogen Adsorption and Desorption Isotherms of Catalysts and Catalyst Carriers by Static Volumetric Measurements」;ASTM Standard D 4641「Calculation of Pore Size Distributions of Catalysts from Nitrogen Desorption Isotherms」;ならびに「The Determination of Pore Volume and Area Distributions in Porous Substances,I.Computations from Nitrogen Isotherms」,by Barrett,E.P.;Joyner,L.S.;and Halenda,P.P.;J.Amer.Chem.Soc.;vol.73,pp.373−380(1951)によって測定され、計算されるように大きなメソ孔範囲での単位質量当たりの細孔の全細孔容積と定義される。特に記載のない限り、メソ孔容積についての測定の単位はcm/g単位である。
【0023】
本明細書で使用されるような材料の用語「大きな細孔と小さな細孔との容積比」または「LSPVR」は、小さなメソ孔の容積に対する大きなメソ孔の容積の比(無次元)と定義される。
【0024】
本明細書で用いられるような用語「BJH N脱着プロット」は、メソ多孔性材料の孔径の関数としてのメソ多孔性材料の単位容積の変化のプロットと定義される。本明細書では、「BJH N脱着プロット」は、上の定義で言及されたようなASTM Standard D 4222、ASTM Standard D 4641、および「The Determination of Pore Volume and Area Distributions in Porous Substances,I.Computations from Nitrogen Isotherms」,by Barrett,E.P.;Joyner,L.S.;and Halenda,P.P.;Journal of American Chemical Society;vol.73,pp.373−380(1951)(すなわち、多孔質物質の細孔分布を計算するための「BJH法」)によって測定されるようにdV/dlogD(cm/g単位)対孔径(ナノメートル単位)として計算される細孔容積として示される。BJH N脱着プロットは、3〜50ナノメートル(30〜500Å)の値の孔径(ナノメートル)の対数x軸上でおおよそ等距離の位置でのおおよそ15〜30個のデータ点から作成されるべきである。プロットのy軸上の細孔容積値は、孔径の対数の増分変化、dlogD(ここで、Dはナノメートル単位であり、dlogDは無次元である)で割られた容積の増分変化、dV(ここで、Vはcm単位であり、dVはcm単位である)の補間値として工業機器で一般に計算され、グラム単位のサンプルの単位重量に調整されている。それ故、BJH N脱着プロットのy軸上に示されるような(工業界で用いられる一般用語である)「細孔容積」は、単位質量当たりの増分細孔容積としてより適切に記載されてもよく、単位cm/gで本明細書では表される。BJH N脱着プロットのy軸上の「細孔容積」値は、孔径の範囲にわたっての計算された単位細孔容積である上記のような「小さなメソ孔容積」および「大きなメソ孔容積」と同義ではないことが指摘されるべきである。しかしながら、本明細書で用いられるようなこれらの計算および用語は、当業者によく知られている。本明細書で利用されるような全ての測定およびデータプロットは、Micromeritics(登録商標)Tristar 3000(登録商標)分析器で行われた。
【0025】
本明細書で使用されるような材料についての用語「小さなメソ孔ピーク」は、30Å〜50Å孔径範囲(x軸)での上記のようなBJH N脱着プロット(孔径に対する細孔容積)でdV/dlogD(y軸)として計算される最大細孔容積値と定義される。特に記載のない限り、小さなメソ孔ピークについての測定の単位はcm/g単位である。
【0026】
本明細書で使用されるような材料についての用語「大きなメソ孔ピーク」は、50Å〜500Å孔径範囲(x軸)での上記のようなBJH N脱着プロット(孔径に対する細孔容積)でdV/dlogD(y軸)として計算される最大細孔容積値と定義される。特に記載のない限り、大きなメソ孔ピークについての測定の単位はcm/g単位である。
【0027】
本明細書で使用されるような材料についての用語「BET表面積」は、ASTM Specification D 3663によって測定されるような表面積と定義される。特に記載のない限り、表面積についての測定の単位はm/g単位である。
【0028】
本明細書で使用されるような材料についての用語「単位格子寸法」は、ASTM Specification D 3942によって測定されるような単位格子寸法と定義される。特に記載のない限り、本明細書で単位格子寸法について用いられる測定の単位はオングストローム(Å)単位である。
【0029】
純結晶性Y型ゼオライト構造の格子の孔径は、12員環ゼオライト環構造によって規定されるように直径がおおよそ7.4Åであるが、大きな細孔構造または大きな細孔(すなわち、メソ多孔性)直径として働く全体構造中に欠陥を含有する傾向がある。Y型ゼオライトが有するこれらのより大きな細孔構造は、多くの工業プロセスでサイズ選択的な分解部位を提供する上で有益であることができる。ある種のメソ多孔性細孔構造(特に直径が50〜500Åのもの)は、接触分解、流動接触分解、水素化分解、水素化脱硫、改質、アルキル化、オリゴマー化、脱ロウ、および異性化などの、しかしそれらに限定されないある種の石油精製または石油化学転化プロセスに有益であることができる。
【0030】
Y型ゼオライトの一般的な一使用は、ガスオイルおよびより重質の沸点範囲(約450〜約1050°Fの沸点範囲)中のかなりの量の炭化水素を含有する炭化水素プロセス供給原料の、より軽質の燃料生成物、特にガソリン、ナフサ、および留出物への転化のための一種の流動接触分解プロセスでの触媒成分としてである。この石油精製プロセスは、「流動接触分解」または「FCC」と一般に称され、ゼオライト含有分解触媒を利用し、この触媒は、炭化水素プロセス供給原料をFCC装置に接触させる前に流動化される。Y型ゼオライト、特に超安定Y(「USY」)ゼオライトは、ガソリン生成物へのそれらの高い活性および選択性ならびに高温水蒸気の存在下でのそれらの強い表面積安定性のためにこれらのプロセスで特に有用である。
【0031】
石油製油所および石油化学プラントへの粗供給物および供給原料の需要が増加してきたので、関係する分離および転化装置の多くで、より重質の、より高い分子量の供給原料を処理しようとするより大きな動機が存在していた。特に、全体供給組成物がより重質の分子量炭化水素供給原料に向かう傾向があるので、これらのより重質の供給物を接触分解して(「ボトム分解」とも称される)いっそう多くのこれらの成分を高価値液体生成物へ転化することが引き続きより望ましくなっている。
【0032】
上述のように、Y型ゼオライト、特に超安定Y(「USY」)ゼオライトは、それらの酸性分解活性、それらの3次元構造、それらの高い表面積熱水安定性、およびそれらの比較的低いコスト生産のために多くの触媒での好ましいゼオライト構成要素である。Yゼオライトの超安定バージョンは、高温水蒸気(約1200°Fより上)の存在下でのそれらの高い分解抵抗性のために流動接触分解用途向けに特に好ましい。従来型USYゼオライトは、1000〜1200°Fの名目温度での部分アンモニウム交換Na−Yゼオライトの水蒸気か焼によって調製される。生じたUSYゼオライトは、約24.50〜約24.58Åの範囲の単位格子寸法を典型的に示す。
【0033】
これらの従来型USYゼオライトは、BJH法で読み取られるように標準窒素吸着−脱着試験によって容易に観察される、30〜50Å直径の範囲の細孔に関係したかなりの容積を含有する。図1は、典型的なUSYゼオライトの典型的なBJH N脱着プロットを示す。図1で理解できるように、USYは、「小さなメソ多孔性」範囲(30〜50Å孔径)に細孔の高い容積、ならびにこの小さなメソ孔範囲に約0.20cm/g以上のBJH N脱着プロットでの顕著な「小さなメソ孔ピーク」を示す。BJH N脱着プロットの30〜50Å孔径範囲でのこの高いピークは、メソ多孔性範囲(30〜500Å孔径)に顕著な細孔容積を有するYゼオライト材料に共通の特徴である。YゼオライトのBJH N脱着プロットに示されるこのピークは、本明細書ではゼオライトの「小さなメソ孔ピーク」と称され、上に定義されている。いかなる理論にも制約されることなく、この現象は、分圧がこの小さなメソ孔ピークポイントに関係したポイントの下に下がるまで、内部細孔空洞の内側の窒素のかなりの量が試験の脱着段階中に放出され得ない、インク−ボトル効果を生み出すゼオライト中のメソ多孔性構造の幾つかの「ボトルネッキング」のために起こると考えられる。典型的には標準窒素吸着/脱着試験で、このピークは、約0.4〜約0.45の相対窒素圧(P/P)での脱着ブランチのポイントで関係する。参照により本明細書に援用される、「Characterization of Porous Solids and Powders:Surface Area,Pore Size and Density」、by Lowell,S.,Shield,J.E.,Thomas,M.A.,and Thommes,M.,pp.117−123(Springer,Netherlands 2006)を参照されたい。
【0034】
図1でさらに理解できるように、USYゼオライトの大きなメソ多孔性構造(50〜500Å孔径範囲)に関係した有意な「大きなメソ孔ピーク」は全くない。この例のUSYサンプルは、実施例1でさらに記載される。USYゼオライトは製造時に(50〜500Å直径範囲に)大きなメソ孔の有意な容積を持たないが、それらは、高温での水蒸気処理時にこれらの大きなメソ孔を成長させることができる。工業界での共通試験は、ゼオライトを高温水蒸気(例えば、1400°Fで16時間100%分圧水蒸気)と接触させてゼオライトの熱水安定性を測定することである。この試験は、触媒が高温の水蒸気に典型的には暴露されるFCC装置の水蒸気処理条件をシミュレートするように設計されている。この試験の主な理由は、高温で水蒸気に暴露されたときに表面積を保持するゼオライトの能力を測定するためである。しかしながら、苛酷な水蒸気処理時に、Y型ゼオライトはまた、大きなメソ孔に関係した細孔容積を増加させる傾向があり、ゼオライトの表面積は、水蒸気処理条件がより苛酷になるにつれて減少する傾向がある。
【0035】
実施例1の詳細に従って、上記のようなおよび図1に示される従来型USYサンプルはさらに、これらの熱水条件下でのUSYゼオライトの生じた細孔分布および表面積安定性を測定するために3回アンモニウムイオン交換され、次に1400°Fで16時間水蒸気処理された。図2は、長期失活水蒸気処理後のイオン交換USYゼオライトのBJH N脱着プロットを示す。図2から理解できるように、水蒸気処理されたUSYは、ゼオライトの大きなメソ多孔性構造(50〜500Å孔径範囲)に「大きなメソ孔ピーク」を成長させる。しかしながら、図2でまた理解できるように、水蒸気処理されたUSYの30〜50Å孔径範囲の細孔に関係した、「小さなメソ孔ピーク」は、図1に示されるような水蒸気処理していないUSYサンプルの小さなメソ孔ピークと比べて有意に減少していない。ここで、水蒸気処理されたUSYの小さなメソ孔ピークは、約0.19cm/gである。
【0036】
いかなる理論にも制約されることなく、ゼオライトの小さなおよび大きなメソ多孔性細孔構造は、ゼオライト結晶性構造の欠陥および/または崩壊によって生成し、それによってゼオライトの合成されたままの(純結晶)構造のそれらより寸法が大きな構造上の欠陥空隙(または等価の「細孔」)を生成すると考えられる。
【0037】
本発明で発見されたものは、大きなメソ孔(50〜500Å孔径範囲)の高い容積を維持しながら、製造されたままのおよび水蒸気処理されたままの状態の両方で著しく抑制された小さなメソ孔ピークを有する高熱水安定性のYゼオライトである。本発明の別の実施形態では、大きな対小さなメソ多孔性容積の高い比を維持しながら、製造されたままのおよび水蒸気処理されたままの状態の両方で著しく抑制された小さなメソ孔ピークを有する高熱水安定性のYゼオライトである。本発明のゼオライトは、本明細書では「超メソ多孔性Y」(または「EMY」)ゼオライトと称される。
【0038】
本発明のEMYゼオライトの実施形態では、出発原料は、約10〜15重量%の酸化ナトリウム(NaO)含有率の通常のNa−Y型ゼオライトである。本発明の実施形態では、EMYゼオライト前駆体は、NaO含有率をEMYゼオライトの製造のための所望のレベルに下げるためにアンモニウム交換される。一般に、約1〜約3回のアンモニウム交換が、典型的なNa−Y前駆体のNaO含有率をEMYゼオライトの製造のための所望のレベルに下げるために必要とされる。製造試験に基づいて、EMY前駆体のナトリウムレベルはEMYゼオライトを得るために特定の範囲に維持されなければならないと本発明人によってこの時点では考えられている。本発明の好ましい実施形態では、アンモニウム交換Na−Yゼオライト前駆体のNaO含有率は、約2.0〜約5.0重量%NaOにされる。より好ましくは、アンモニウム交換Na−YゼオライトのNaO含有率は、約2.3〜約4.0重量%NaOにされる。この好ましい実施形態では、行われるイオン交換工程の数は、EMY前駆体のNaO含有率が所望の範囲内にある限りEMYの形成にとって極めて重要であるわけではないと考えられる。特に記載のない限り、NaO含有率は、高温水蒸気か焼前にゼオライト前駆体に関して測定される通りであり、無水ベースで報告される。
【0039】
EMY前駆体または最終EMYゼオライトはまた、希土類交換EMYまたは「RE−EMY」ゼオライトを得るために希土類交換されてもよい。ゼオライトは、当該技術分野で公知の任意のイオン交換手順に従って希土類交換されてもよい。本明細書で用いられる重量百分率はゼオライト材料の乾燥重量を基準としていることがまた指摘されるべきである。
【0040】
こうして得られたアンモニウム交換Na−Y前駆体は、非常に急速な高温水蒸気か焼にかけられる。この高温水蒸気か焼プロセスでは、水蒸気の温度は約1200〜約1500°Fである。より好ましくは水蒸気の温度は、約1200〜約1450°F、より好ましくは約1250〜約1450°F、さらにより好ましくは約1300〜約1450°Fである。EMYゼオライトの製造のためのこれらの高温水蒸気か焼温度は一般に、約1000〜約1200°Fの温度で高温水蒸気か焼され、かつ、本発明のEMYゼオライトのように高温か焼工程で急速な加熱を受けない従来型EMYゼオライトの製造に用いられるものより高い。
【0041】
ゼオライト前駆体が非常に急速なやり方で所望の水蒸気処理温度の近くにされることがEMYゼオライト構造を達成するのに重要であることが発見された。水蒸気処理プロセス中のゼオライトの温度は、EMYゼオライト前駆体の床に埋め込まれた熱電対で測定されてもよい。
【0042】
本発明のEMYゼオライトの製造の好ましい実施形態では、ゼオライトの温度は、約5分未満で高温水蒸気か焼工程中に標準的な事前のか焼温度から水蒸気温度の50°F(27.8℃)内まで上げられる。本発明のEMYゼオライトの製造のより好ましい実施形態では、ゼオライトの温度は、約2分未満で高温水蒸気か焼工程中に標準的な事前のか焼温度から水蒸気温度の50°F(27.8℃)内まで上げられる。
【0043】
本発明の製造方法にとって決定的に重要というわけではなく、かつ、本発明で特許を請求する発明に関し、それほど限定するものではないが、Y型ゼオライト製造方法での典型的な事前のか焼温度は約50°F〜約300°Fである。いかなる理論にも制約されるものではないが、急速高温水蒸気か焼前に約300°Fより高い温度に、EMY前駆体を保持する場合、最終的なEMY材料の形成が妨げられるかもしれない。
【0044】
本明細書での実施例2は、超メソ多孔性Y(「EMY」)ゼオライトの一実施形態の合成を記載する。図3は、追加のアンモニウム交換および長期失活水蒸気処理前の実施例2からのEMYゼオライトサンプルのBJH N脱着プロットを示す。図3から理解できるように、EMYゼオライトは、「小さなメソ多孔性」範囲(30〜50Å孔径)に細孔の非常に低い容積ならびにこの小さなメソ孔範囲に約0.09cm/gの非常に低い「小さなメソ孔ピーク」を示す。図1(USYゼオライト)と図3(EMYゼオライト)との比較で、この「小さなメソ孔ピーク」がEMYゼオライトでは実質的に低下したことが指摘されるべきである。この小さなメソ孔ピークは、図3に示されるようなEMYについての約0.09cm/gの小さなメソ孔ピークと比べてUSYについては約0.20cm/gであることを図1で理解することができる。
【0045】
図3でさらに理解できるように、EMYゼオライトの大きなメソ多孔性構造(50〜500Å孔径範囲)に主として関係した著しい「大きなメソ孔ピーク」が有益にも存在する。これを図1でのUSYゼオライトのBJH N脱着プロットと比較すると、図3でのEMYゼオライトは約0.19cm/gの著しい大きなメソ孔ピークを示すが、図1でのUSYゼオライトはこの範囲に著しく匹敵する大きなメソ孔ピークを全く示さないことを理解することができる。
【0046】
これらの範囲、30〜50オングストロームならびに50〜500オングストロームのそれぞれでの細孔容積は、BJH N脱着試験からの細孔容積データを利用し、そしてこのデータを必要な終点に補間することによって求められた。細孔容積のこの計算方法は、実施例1で詳細に説明され、細孔容積の同じ計算方法が本明細書の全実施例の全体にわたって利用された。その中に記載されるような方法は、規定の孔径範囲のそれぞれ内のゼオライトの細孔容積値を解釈するおよび計算する方法を明確にする。
【0047】
それぞれ、図1および3のUSYおよびEMYゼオライトについての「小さなメソ孔」および「大きなメソ孔」細孔容積ならびにBET表面積が測定され、次の通り表1に示される。
【0048】
【表1】

【0049】
図1および3、ならびに表1のデータは、高温水蒸気か焼工程後および任意のその後の処理前のUSYおよびEMYゼオライトサンプルを反映していることが指摘されるべきである。表1で理解できるように、小さなメソ孔の容積は、EMYゼオライトでよりUSYゼオライトで大きい。しかしながら、EMYゼオライトでの大きなメソ孔の容積はUSYゼオライトでの大きなメソ孔の容積より著しく大きいこともまた理解することができる。議論されたように、小さなメソ孔範囲で細孔容積の量を低くし、かつ、ゼオライトの大きなメソ孔範囲で細孔容積の量を増加させることが望ましい。それ故、ゼオライトの重要な特性は、対象となるゼオライトの大きなメソ孔容積(「LMV」)と小さなメソ孔容積(「SMV」)との比である。LMV:SMVであるこの比は、ゼオライトの「大きな細孔と小さな細孔との容積比」または「LSPVR」と称される。
【0050】
表1から理解できるように、サンプルUSYゼオライトの大きな細孔と小さな細孔との容積比または「LSPVR」は約1.01であり、ここでサンプルEMYゼオライトのLSPVRは約6.79である。これは、本発明によって得られた大きな細孔と小さな細孔との容積比の顕著なシフトである。好ましい実施形態では、EMYのLSPVRは、少なくとも約4.0、より好ましくは少なくとも約5.0、さらにより好ましくは、EMYのLSPVRは、本明細書に記載されるような第1高温水蒸気か焼工程直後に少なくとも約6.0である。
【0051】
さらに、本発明のEMYゼオライトは、高温熱水条件への暴露にさらされないプロセスに使用されてもよい。本発明のEMYゼオライトの注目に値する態様の1つは、それらが先行技術の匹敵するUSYと比べて非常に高い大きなメソ孔容積を示すことであることを表1から理解することができる。本発明のEMYゼオライトのこの特性は、多くの商業プロセスにとって貴重であることができる。好ましい実施形態では、本発明の製造されたままのEMYゼオライトは、少なくとも0.03cm/g、より好ましくは少なくとも0.05cm/g、さらにより好ましくは少なくとも0.07cm/gの大きなメソ孔容積を有する。
【0052】
本明細書で用いるところでは、用語「製造されたままの」とは、高温水蒸気か焼工程後に得られたゼオライトと定義される。当業者に公知であるように、本明細書で言及される「長期失活水蒸気処理」は、製造されたままのゼオライトの熱水条件に耐える能力を試験するための手段として一般に利用され、ゼオライトの製造の一部とは考えられない。
【0053】
長期失活水蒸気処理が典型的なYゼオライトの大きなメソ孔容積を増加させる傾向があろうことは当業者には明らかであることもまた指摘されるべきである。しかしながら、長期失活水蒸気処理前にかかる著しく増加した大きなメソ孔容積を有するという本発明のEMYゼオライトのこの異常な態様は、高温熱水条件が存在しないプロセスで、またはさらにより重要なことには製造されたゼオライトが長期水蒸気失活することが望ましくないプロセスで有用であることができる。製造されたままのEMYゼオライトは、長期水蒸気失活後のBET表面積と比べてより高いBET表面積を有し、製造されたままのEMYゼオライトは、長期水蒸気失活後に得られたEMYゼオライトより幾つかの用途で安定である可能性がある。
【0054】
図1(USYゼオライトサンプル)と図3(EMYゼオライトサンプル)との比較から、30〜50Å孔径範囲での小さなメソ孔ピークはUSYゼオライトよりEMYゼオライトについて著しく低いことをまた理解することができる。好ましい実施形態では、高温水蒸気か焼後に得られた製造されたままのEMYゼオライトは、約0.15cm/g未満の小さなメソ孔ピークを示す。より好ましい実施形態では、EMYゼオライトは約0.13cm/g未満の小さなメソ孔ピークを有し、さらにより好ましい実施形態では、EMYの小さなメソ孔ピークは約0.11cm/g未満である。前に定義されたように小さなメソ孔容積ピークは、30〜50オングストローム(Å)孔径範囲にBJH N脱着プロットで示される細孔容積値(dV/dlogD、y軸)の最大値(またはピーク)である。
【0055】
加えて、本発明のEMY材料は、単一高温水蒸気か焼工程を受けた類似のUSY材料と比べてより小さな単位格子寸法を示す。表1で理解できるように、実施例1のUSYゼオライトは約24.55Åの単位格子寸法を有するが、類似の出発原料から調製されたEMYゼオライトは約24.42Åの有意により低い単位格子寸法を有する。
【0056】
好ましい実施形態では、これらの製造されたままのEMYゼオライトは、本明細書に記載されるような第1高温水蒸気か焼工程後に約24.37〜約24.47Åに及ぶ単位格子寸法を示すことが発見された。さらにより好ましい実施形態では、製造されたままのEMYゼオライトは、本明細書に記載されるような第1高温水蒸気か焼工程後に約24.40〜約24.45Åに及ぶ単位格子寸法を有するであろう。このより小さな単位格子寸法は一般に、EMYゼオライトのより低い単位格子寸法で反映されるより高い骨組シリカ/アルミナ比のためにより安定なゼオライト立体配置をもたらす。
【0057】
実施例1に記載され、図1のBJH N脱着プロットに示されるようなUSYゼオライトサンプルならびに実施例2に記載され、図3のBJH N脱着プロットに示されるようなEMYゼオライトサンプルは、USYおよびEMYゼオライトの長期熱水安定性を測定するためにさらにアンモニウムイオン交換され、次にUSYおよび1400°Fで16時間長期失活水蒸気処理された。図2は、長期失活水蒸気処理後の先行技術のイオン交換USYゼオライトのBJH N脱着プロットを示す。図4は、長期失活水蒸気処理後の本発明の実施形態のイオン交換EMYゼオライトのBJH N脱着プロットを示す。図4から理解できるように、EMYゼオライトの大きなメソ孔ピークは、約0.19cm/g(図3に示されるように)から長期失活水蒸気処理後に約0.36cm/g(図4に示されるように)に望ましくも増加した。ちょうど望ましいように、EMYゼオライトの長期失活水蒸気処理後に、EMYゼオライトの小さなメソ孔ピークは有意に増加しなかった。EMYゼオライトの小さなメソ孔ピークは、約0.10cm/gで本質的に一定のままであった(図3および4に示されるように)。
【0058】
対照的に、先行技術の匹敵するUSYゼオライトでは、小さなメソ孔ピークは、長期失活水蒸気処理後に約0.19cm/gで望ましくもなく高いままであった(図2を参照されたい)。
【0059】
実施例1および2での長期失活水蒸気処理後に得られたゼオライトの物理的特性は、下の表2にまとめられる。下の表2で、それぞれ、図2および4に例示されるUSYおよびEMYゼオライトについて「小さなメソ孔容積」、「大きなメソ孔容積」、「大きな細孔と小さな細孔との容積比」、および小さなメソ孔ピーク、ならびに3回のアンモニウムイオン交換および1400°Fで16時間の長期失活水蒸気処理後に測定されるような関連BET表面積および単位格子寸法が示される。
【0060】
【表2】

【0061】
本発明のEMYゼオライトの別の利益は表面積安定性である。表2で理解できるように、長期失活水蒸気処理されたEMYゼオライトサンプルについてのBET表面積は、USYサンプルについてのBET表面積より大きかった。さらに、EMYは、3回のアンモニウムイオン交換および1400°Fで16時間の長期失活水蒸気処理後に表面積のより高い百分率を保持した。表1と表2とを比較すると、USYは、その元の表面積の約70%を保持し、EMYはその元の表面積の約95%を保持し、本発明のEMYゼオライトの優れた水安定性を示した。本発明の好ましい実施形態では、EMYゼオライトは、1400°Fで16時間の長期失活水蒸気処理前または1400°Fで16時間の長期失活水蒸気処理後のどちらかに測定されるように少なくとも500m/gのBET表面積を有する。
【0062】
好ましい実施形態では、EMYの「大きな細孔と小さな細孔との容積比」(または「LSPVR」)は、少なくとも約10.0、より好ましくは少なくとも約12.0であり、さらにより好ましくは、EMYのLSPVRは、1400°Fで16時間の長期失活水蒸気処理後に少なくとも約15.0である。
【0063】
実施例3は、EMYゼオライトを製造しようとする試みで高温水蒸気か焼温度を変えることの異なる影響を示す。前駆体および高温水蒸気か焼工程の詳細は、実施例3でさらに説明される。実施例3での6つのゼオライトサンプル(表示サンプル3A〜3F)についてのBJH N脱着プロットがそれぞれ図5〜10に示される。下の表3はまた、この実施例での試験から得られたゼオライト生成物の重要な特性の幾つかをまとめる。
【0064】
【表3】

【0065】
表3で理解できるように、前駆体(サンプル3A)は、30〜50Å孔径範囲に険しい小さなメソ孔ピークを全く持たず、50〜500Å孔径範囲に有意な大きなメソ孔ピーク(図5を参照されたい)を全く持たない。この前駆体(未水蒸気処理)サンプル3Aは、他のサンプル3B〜3Fの比較基準として使用される。この前駆体が100%分圧水蒸気で、1000°Fで1時間サンプル3Bにおいて高温水蒸気か焼されたとき、ゼオライトは、30〜50Å範囲での小さなメソ孔ピークの増加(0.09cm/gから0.16cm/gへ)を経験し、有意な大きな細孔容積増加はなかった(図6を参照されたい)。このサンプルは、本発明のEMYゼオライトに必要な特性を満たさなかった。
【0066】
サンプル3Cの前駆体は、100%分圧水蒸気で、1200°Fで1時間高温水蒸気か焼された。サンプル3Cの条件下に得られたゼオライトは、サンプル3Bと比べて30〜50Å孔径範囲での小さなメソ孔ピークに著しい減少(0.16cm/gから0.11cm/gへ)ならびに大きなメソ孔容積の同時の著しい増加を経験した(図7、ならびに表3を参照されたい)。このサンプルは、本発明のEMYゼオライトの好ましい実施形態の所望の特性内であった。
【0067】
サンプル3Dの前駆体は、100%分圧水蒸気で、1300°Fで1時間高温水蒸気か焼された。ここで、得られたゼオライトがサンプル3Bと比べて30〜50Å孔径範囲での小さなメソ孔ピークの同様な低下を経験したことを表3ならびに図8で理解することができる。しかしながら、より重要なことには、サンプル3Dの大きなメソ孔容積はサンプル3Bおよび3Cと比べて著しく増加した(図8、ならびに表3を参照されたい)。表3で理解できるように、大きな細孔と小さな細孔との容積比(「LSPVR」)は、本発明のEMYゼオライトに望まれるようにおおよそ4.55に増加した。
【0068】
EMYゼオライトの所望の特性は、サンプル3Eでさらにより明白であった。サンプル3Eでは、前駆体は、100%分圧水蒸気で、1400°Fで1時間高温水蒸気か焼された。表3および図9の検討で、大きなメソ孔容積は先行サンプルと比べてさらに増加し、そしてまた重要なことには、大きな細孔と小さな細孔との容積比(「LSPVR」)は望ましいように最終ゼオライトで7.58に増加したことを理解することができる。加えて、サンプル3Eについての小さなメソ孔ピーク(図9)は、本発明のEMYゼオライトのより好ましい実施形態の限界内の、0.09cm/gにさらに低下したことを理解することができる。
【0069】
最後に実施例3のサンプルから、図10は、100%分圧水蒸気で、1500°Fで1時間高温水蒸気か焼されたサンプル3Fで前駆体から得られたゼオライトについてのBJH N脱着プロットを示す。ここで、生成物ゼオライトが高温水蒸気か焼温度でより多く分解しているように見えることを理解することができる。大きなメソ孔容積はこのゼオライトでさらに増加したが、小さなメソ孔ピークがまたサンプル3Fについて増加した(図10)。サンプル3Fについてのこの小さなメソ孔ピークの値(0.21cm/g)は、EMYゼオライトの実施形態の限界を越えている。
【0070】
本発明の好ましい実施形態では、本発明のYゼオライト(すなわち、「EMY」)は、
a)石油精製プロセスで炭化水素含有供給原料をYゼオライトと接触させる工程と;
b)炭化水素含有供給原料より低い平均分子量を有する少なくとも1つの生成物流れを生成する工程と
を含む、炭化水素含有供給原料の転化プロセスであって、
ゼオライトが少なくとも約0.03cm/gの大きなメソ孔容積および約0.15cm/g未満の小さなメソ孔ピークを有するプロセスに利用される。
【0071】
好ましい実施形態では、本発明のEMYゼオライトは、接触分解、流動接触分解、水素化分解、水素化脱硫、改質、アルキル化、オリゴマー化、脱ロウ、および異性化から選択される石油精製または石油化学転化プロセスに利用される。好ましい実施形態では、本発明のEMYゼオライトは接触分解プロセスに利用される。より好ましい実施形態では、本発明のEMYゼオライトは流動接触分解プロセスに利用される。
【0072】
本発明は、特定の実施形態の観点から記載されてきたが、それはそのように限定されるものではない。特定の条件下での操作についての好適な変更および修正は当業者には明らかであろう。それ故、以下のクレームは、本発明の真の精神および範囲内に入るような全てのかかる変更および修正を含むと解釈されることが意図される。
【0073】
下の実施例は、本発明のEMYゼオライトが合成された方法を例示し、かつ、改善された製品品質およびこうして得られる本発明の特定の実施形態からの利益を例示するために提供される。これらの実施例は、本発明の特定の実施形態を例示するにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図されるものではない。
【実施例】
【0074】
実施例1
低いナトリウム含有率の市販のアンモニウム交換Yゼオライト(ZeolystTMからのCBV−300(登録商標)、SiO/Alモル比=5.3、NaO 無水ベースで3.15重量%)を、1000°Fの温度でおよび50%水蒸気+50%Nの流れにある水平か焼炉で1時間水蒸気処理した。生じた生成物は、超安定Y(USY)ゼオライトであり、77.35°Kでの窒素吸着/脱着による細孔径分布特性を測定するためにMicromeritics(登録商標)Tristar 3000(登録商標)分析器で分析した。本明細書に記載されるようなBJH法をN吸着/脱着等温線に適用してゼオライトの細孔径分布を得た。dV/dlogD対平均孔径のプロットを図1に示す。
【0075】
このゼオライトサンプルについてのN吸着/脱着等温線から生成するBJH法によって生成する関連データのコピーを下の表4に複製する。この試験方法および提示されるような生成データの関連フォーマットは、当業者によく知られている。
【0076】
【表4】

【0077】
表4で理解できるように、計算される累積細孔容積(cm/g)は、この試験が試験サンプルから窒素を徐々に脱着するので孔径(nm)の範囲と関係がある。増分細孔容積を次にこれらの範囲のそれぞれについて計算する。ある範囲(例えば、表4で提示されるような5〜50nmに等しい、50〜500Åの範囲)内の細孔容積は、5nmでの累積細孔容積から50nmでの累積細孔容積を差し引くことによって計算することができる。必要な場合、特定の細孔径での累積細孔容積は、その範囲内のデータを補間することによって計算することができる。この方法を本明細書の実施例の全てについて利用した。
【0078】
例えば、5nm〜50nmの孔径に関係した全細孔容積を求めるために、先ず50nmに関係した累積細孔容積を、表に示される(強調表示される)ような62.8〜41.5nm孔径範囲で62.8nmと50.0nmとの差に関係した増分細孔容積(強調表示される)の量を補間し、そしてこの量を先行範囲からの累積細孔容積(強調表示される)に加えることによって計算した。50nm孔径に関係した累積細孔容積についての計算は、上の表4のデータから次の通り計算した:
((62.8−50.0)/(62.8−41.5)×0.0032)+0.0085=0.0104cm/g
【0079】
計算を次に、5nm孔径に関係した累積細孔容積について同様に行う。この計算は次の通りであった:
((5.3−5.0)/(5.3−4.6)×0.0031)+0.0286=0.0299cm/g
【0080】
この例のUSYの5nm〜50nm(50Å〜500Å)の孔径範囲に関係した全細孔容積は従って、次の通り謹んで5nmおよび50nmに関係した累積細孔容積の差に等しい:
0.0299cm/g−0.0104cm/g=0.0195cm/g
【0081】
この値が表1に示されるような、このUSYサンプルについての大きなメソ孔容積である。特定の孔径範囲に関係した全ての他の細孔容積を、同じ基本的方法によって本明細書で計算することができ、計算した。
【0082】
従って、このUSYゼオライトの次の特性がデータから得られた:
小さなメソ多孔性容積(範囲:3.0nm〜5.0nm):0.0193cm/g
大きなメソ多孔性容積(範囲:5.0nm〜50.0nm):0.0195cm/g
(大きなメソ孔容積)/(小さなメソ孔容積)の比:1.01
小さなメソ孔ピーク(3.9nmでのdV/dlogD):0.20cm/g
【0083】
さらに、USYゼオライトサンプルは、811m/gのBET表面積、および24.55オングストロームの単位格子寸法を示した。
【0084】
上記の調製されたUSYゼオライトのサンプルをさらに、80グラムのこのゼオライトを70℃で800mlのNHNO(1M)溶液に加え、1時間かき混ぜることからなるアンモニウムイオン交換にかけ、これに漏斗上での濾過および1000mlの脱イオン水でのフィルターケーキの洗浄が続いた。水リンスしたゼオライトケーキを、漏斗上で空気を通過させることによって、次にオーブン中120℃で2時間にわたって空気中で乾燥させた。乾燥したゼオライトのICPによる化学分析は、0.48重量%のNaO(無水ベース)を示した。約0.50重量%のNaO含有率を目標とした。乾燥したゼオライトを、その熱水安定性を測定するために、1400°Fで16時間、100%水蒸気で長期失活水蒸気処理にかけた。
【0085】
長期失活水蒸気処理後に得られたゼオライトを同様に、Micromeritics(登録商標)Tristar 3000(登録商標)分析器で分析した。BJH法を、N吸着/脱着等温線に適用してゼオライトの細孔径分布を得た。dV/dlogD対平均孔径のプロットを図2に示す。この長期失活水蒸気処理USYゼオライトの次の特性がデータから得られた:
小さなメソ多孔性容積(範囲:3.0nm〜5.0nm):0.0112cm/g
大きなメソ多孔性容積(範囲:5.0nm〜50.0nm):0.1211cm/g
(大きなメソ孔容積)/(小さなメソ孔容積)の比:10.85
小さなメソ孔ピーク(3.9nmでのdV/dlogD):0.19cm/g
【0086】
さらに、長期失活水蒸気処理後のUSYゼオライトは、565m/gのBET表面積、および24.27オングストロームの単位格子寸法を示した。
【0087】
実施例2
この実施例では、超メソ多孔性Y(「EMY」)ゼオライトの実施形態を次の通り調製した:
【0088】
実施例1でのような低いナトリウム含有率の同じ市販のアンモニウム交換Yゼオライト(CBV−300(登録商標))(SiO/Alモル比=5.3、NaO 無水ベースで3.15重量%)を水平の石英管に入れ、それを、大気圧で100%水蒸気中1400°Fで予め平衡させた水平炉中へ挿入した。この手順を利用して、ゼオライト前駆体の温度を5分以内に高温水蒸気か焼温度の50°F内に(すなわち、1350°Fに)上げた。水蒸気を、ゼオライト粉末中を通過させた。1時間後に、この管を水平炉から取り出し、生じたEMYゼオライト粉末を集めた。選択される出発原料(すなわち、EMY前駆体ゼオライト)が低ナトリウム含有率Yゼオライトであったことが指摘されるべきである。本明細書で上に記載されたように、EMYゼオライトの製造は、高温水蒸気か焼前の適切なゼオライトナトリウム含有率に依存すると考えられる。ナトリウム含有率が本明細書に記載されるような規格内にない場合、出発Yゼオライトは先ず、EMYゼオライトを生成するための高温水蒸気か焼前にEMYゼオライト前駆体のナトリウム含有率を受け入れられるレベルに下げるためにアンモニウム交換または当該技術分野で知られるような方法を必要とする可能性がある。
【0089】
生じたEMYゼオライトを、実施例1で用いられたようなMicromeritics(登録商標)Tristar 3000(登録商標)分析器によって分析した。本明細書に記載されるようなBJH法をN吸着/脱着等温線に適用してゼオライトの細孔径分布を得た。dV/dlogD対平均孔径のプロットを図3に示す。このEMYゼオライトの次の特性が得られた:
小さなメソ多孔性容積(範囲:3.0nm〜5.0nm):0.0109cm/g
大きなメソ多孔性容積(範囲:5.0nm〜50.0nm):0.0740cm/g
(大きなメソ孔容積)/(小さなメソ孔容積)の比:6.79
小さなメソ孔ピーク(3.9nmでのdV/dlogD):0.09cm/g
【0090】
さらに、EMYゼオライトサンプルは、619m/gのBET表面積、および24.42オングストロームの単位格子寸法を示した。
【0091】
上記のEMYゼオライトのサンプルをさらに、100グラムのEMYゼオライトを70℃で1000mlのNHNO(1M)溶液に加え、1時間かき混ぜることからなるアンモニウムイオン交換にかけ、これに漏斗上での濾過および1000mlの脱イオン水でのフィルターケーキの洗浄が続いた。水リンスしたゼオライトケーキを、漏斗上で空気を通過させることによって、次にオーブン中120℃で2時間にわたって空気中で乾燥させた。アンモニウムイオン交換を、70℃で600mlのNHNO(1M)溶液中の60gの乾燥EMYゼオライトを使用し、1時間かき混ぜて繰り返し、これに漏斗上での濾過および1000mlの脱イオン水でのフィルターケーキの洗浄が続いた。水リンスしたゼオライトケーキを、漏斗上で空気を通過させることによって、次にオーブン中120℃で2時間にわたって空気中で乾燥させた。乾燥したゼオライトのICPによる化学分析は、0.64重量%のNaO(無水ベース)を示した。約0.50重量%のNaO含有率を目標とした。このゼオライトを次に、その熱水安定性を測定するために、1400°Fで16時間、100%水蒸気で長期失活水蒸気処理にかけた。
【0092】
長期失活水蒸気処理後に得られたEMYゼオライトをまた、Micromeritics(登録商標)Tristar 3000(登録商標)分析器によって分析した。BJH法をN吸着/脱着等温線に適用してゼオライトの細孔径分布を得た。dV/dlogD対平均孔径のプロットを図4に示す。長期失活水蒸気処理後のEMYゼオライトの次の特性がこうしてデータから得られた:
小さなメソ多孔性容積(範囲:3.0nm〜5.0nm):0.0077cm/g
大きなメソ多孔性容積(範囲:5.0nm〜50.0nm):0.1224cm/g
(大きなメソ孔容積)/(小さなメソ孔容積)の比:15.97
小さなメソ孔ピーク(3.9nmでのdV/dlogD):0.10cm/g
【0093】
さらに、長期失活水蒸気処理後のEMYゼオライトの表面積をBET試験で分析した。このゼオライトは、587m/gのBET表面積、および24.27オングストロームの単位格子寸法を示した。
【0094】
実施例3
この実施例では、実施例1および2でと同じアンモニウム交換した市販のYゼオライトCBV−300(登録商標)を、次の通り異なる高温水蒸気か焼工程にかけ、生じたサンプル3A〜3Fのそれぞれを、実施例1および2と同様なMicromeritics(登録商標)Tristar 3000(登録商標)分析器を用いて分析した。
【0095】
サンプル3Aは、実施例1および2でのような出発Yゼオライト(CBV−300(登録商標))前駆体である。サンプル3AについてのBJH N脱着プロットを図5に示す。
【0096】
サンプル3Bは、サンプル3Aの出発Yゼオライト前駆体を、100%水蒸気中1000°Fで1時間高温水蒸気か焼にかけることによって得られた。高温水蒸気か焼中の温度を2分以内に高温水蒸気か焼温度の50°F内に上げた。サンプル3BについてのBJH N脱着プロットを図6に示す。
【0097】
サンプル3Cは、サンプル3Aの出発Yゼオライト前駆体を、100%水蒸気中1200°Fで1時間高温水蒸気か焼にかけることによって得られた。高温水蒸気か焼中の温度を2分以内に高温水蒸気か焼温度の50°F内に上げた。サンプル3CについてのBJH N脱着プロットを図7に示す。
【0098】
サンプル3Dは、サンプル3Aの出発Yゼオライト前駆体を、100%水蒸気中1300°Fで1時間高温水蒸気か焼にかけることによって得られた。高温水蒸気か焼中の温度を2分以内に高温水蒸気か焼温度の50°F内に上げた。サンプル3DについてのBJH N脱着プロットを図8に示す。
【0099】
サンプル3Eは、サンプル3Aの出発Yゼオライト前駆体を、100%水蒸気中1400°Fで1時間高温水蒸気か焼にかけることによって得られた。高温水蒸気か焼中の温度を2分以内に高温水蒸気か焼温度の50°F内に上げた。サンプル3EについてのBJH N脱着プロットを図9に示す。
【0100】
サンプル3Fは、サンプル3Aの出発Yゼオライト前駆体を、100%水蒸気中1500°Fで1時間高温水蒸気か焼にかけることによって得られた。高温水蒸気か焼中の温度を2分以内に高温水蒸気か焼温度の50°F内に上げた。サンプル3FについてのBJH N脱着プロットを図10に示す。
【0101】
サンプル3A〜3Fのそれぞれについての小さなメソ多孔性容積(cm/g)、大きなメソ多孔性容積(cm/g)、小さなメソ孔ピーク(cm/g)、ならびに大きな細孔と小さな細孔との容積比(「LSPVR」)を本明細書の表3に示す。BET表面積および単位格子寸法もまた、サンプル3A〜3Fのそれぞれについて表3に示す。
【0102】
図5から理解できるように、ゼオライトサンプル3A(すなわち、出発アンモニウム交換Yゼオライト(CBV−300(登録商標))は、約0.09cm/gの小さなメソ孔ピークを示しながら、大きなメソ多孔性細孔範囲に関係した感知できるピークを全く持たなかった。
【0103】
図6から理解できるように、出発アンモニウム交換Yゼオライト前駆体の高温水蒸気か焼後に得られたゼオライトサンプル3Bは、50〜500Å孔径範囲にマイナーの大きなメソ孔ピークを示したにすぎず、それによって約1.58の所望より下の大きな細孔と小さな細孔との容積比をもたらした。サンプル3Bは、小さなメソ多孔性細孔範囲(30〜50Å孔径範囲)での僅かにより高い小さなメソ孔ピーク(約0.16cm/g)のために、本発明のEMYゼオライトへ完全には成長しなかった。
【0104】
図7は、サンプル3CのBJH N脱着プロットを示す。ここで、EMYゼオライトの特性が成長し始めており、得られたゼオライトは著しく増加した大きなメソ孔ピークおよび増加した大きなメソ孔容積を示す。同時に、小さなメソ孔ピークおよび小さなメソ孔容積の両方とも低下している。サンプル3Cの大きなメソ孔容積および小さなメソ孔ピークは、本発明のEMYゼオライトの範囲内にあった。
【0105】
図8は、サンプル3DのBJH N脱着プロットを示す。ここで、EMYゼオライト構造は、大きなメソ孔ピークの増加および大きなメソ多孔性容積の増加で、小さなメソ多孔性ピークおよび小さなメソ孔容積の同時低下で成長している。サンプル3Dの大きなメソ孔容積および小さなメソ孔ピークは、本発明のEMYゼオライトの範囲内にあった。さらに、この実施形態では、大きな細孔と小さな細孔との容積比は、本発明のEMYゼオライトの所望の好ましい実施形態範囲内へ著しく増加した。
【0106】
図9は、1400°F、1時間の急上昇高温水蒸気か焼を受けたサンプル3EのBJH N脱着プロットを示す。サンプル3EのEMYゼオライトは、約7.58の大きな細孔と小さな細孔との容積比(「LSPVR」)の著しく改善された細孔構造を示すことを理解することができる。表3のデータから理解できるように、サンプルEは、この比較例におけるサンプルの全てのうちで最大のLSPVRならびにこの比較例の受け入れられるEMYゼオライトのうちで最大の大きな細孔容積(0.0722cm/g)を有する。さらに、このEMYゼオライトサンプルは、0.09cm/gという非常に低い値の小さなメソ孔ピークを維持した。サンプル3Eの大きなメソ孔容積および小さなメソ孔ピークは、本発明のEMYゼオライトの範囲内にあり、このサンプルは、比較例のうちでEMYゼオライトの最も好ましい全体特性を示した。
【0107】
サンプル3C〜3Eとは対照的に、1500°F、1時間の高温水蒸気か焼にかけられたサンプル3Fで得られたゼオライトは、顕著な分解を経験した。サンプル3FのBJH N脱着プロットを図10に示す。サンプル3Fがかなりの量の大きなメソ孔容積を維持しながら、得られたゼオライトの小さなメソ孔ピークが0.21cm/gに著しく望ましくもなく増加したことを、表3に提示されるデータだけでなく図10から理解することができる。このように、サンプル3Fは、EMYゼオライトの必要な特性を満たさない。それ故、本発明の好ましい実施形態では、EMY前駆体はEMYゼオライトを得るためには約1500°F未満の高温水蒸気か焼にかけられることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも約0.03cm/gの大きなメソ孔容積および約0.15cm/g未満の小さなメソ孔ピークを含むYゼオライト。
【請求項2】
前記ゼオライトの単位格子寸法が約24.37オングストローム〜約24.47オングストロームである、請求項1に記載のゼオライト。
【請求項3】
少なくとも約4.0の大きな細孔と小さな細孔との容積比を有する、請求項1に記載のゼオライト。
【請求項4】
前記ゼオライトの前駆体は、約1200°F〜約1500°Fの温度での高温水蒸気か焼工程にかけられ、前記ゼオライト前駆体の温度は、5分未満で高温水蒸気か焼温度の50°F内である、請求項1に記載のゼオライト。
【請求項5】
前記高温水蒸気か焼工程前の前記ゼオライトの前駆体のNaO含有率が無水ベースで全前駆体重量の約2〜約5重量%である、請求項4に記載のゼオライト。
【請求項6】
前記ゼオライトの前記小さなメソ孔容積ピークが約0.13cm/g未満である、請求項1に記載のゼオライト。
【請求項7】
前記ゼオライトの前記大きなメソ孔容積が少なくとも約0.05cm/gである、請求項6に記載のゼオライト。
【請求項8】
前記ゼオライトの前記大きなメソ孔容積および前記ゼオライトの前記小さなメソ孔ピークが、製造されたままのゼオライトで測定される、請求項1に記載のゼオライト。
【請求項9】
前記ゼオライトの前記大きなメソ孔容積および前記ゼオライトの前記小さなメソ孔ピークが、前記製造されたままのゼオライトで測定される、請求項7に記載のゼオライト。
【請求項10】
前記ゼオライトの大きな細孔と小さな細孔との容積比が少なくとも約5.0である、請求項3に記載のゼオライト。
【請求項11】
前記ゼオライトの単位格子寸法が約24.40オングストローム〜約24.45オングストロームである、請求項10に記載のゼオライト。
【請求項12】
前記ゼオライト前駆体が、約1250°F〜約1450°Fの温度での高温水蒸気か焼工程にかけられ、前記ゼオライト前駆体の温度が、5分未満で前記高温水蒸気か焼温度の50°F内にある、請求項4に記載のゼオライト。
【請求項13】
前記高温水蒸気か焼工程前の前記ゼオライトの前駆体の前記NaO含有率が無水ベースで前記全前駆体重量の約2.3〜約4重量%である、請求項12に記載のゼオライト。
【請求項14】
希土類元素からなる、請求項1に記載のゼオライト。
【請求項15】
少なくとも500m/gのBET表面積を有する、請求項1に記載のゼオライト。
【請求項16】
1400°Fで16時間長期失活水蒸気処理した後に、前記ゼオライトが、少なくとも約10.0の大きな細孔と小さな細孔との容積比、約0.15cm/g未満の小さなメソ孔ピーク、および少なくとも0.07cm/gの大きなメソ孔容積を有する、請求項1に記載のゼオライト。
【請求項17】
少なくとも約5.0の大きな細孔と小さな細孔との容積比、約0.13cm/g未満の小さなメソ孔ピーク、および少なくとも0.05cm/gの大きなメソ孔容積を有する、請求項8に記載のゼオライト。
【請求項18】
少なくとも約6.0の大きな細孔と小さな細孔との容積比、および約0.11cm/g未満の小さなメソ孔ピークを有する、請求項17に記載のゼオライト。
【請求項19】
a)Na−Yゼオライトをアンモニウム交換して無水ベースで約2〜約5重量%のNaO含有率のゼオライト前駆体を得る工程と;
b)前記前ゼオライト駆体を、約1200°F〜約1500°Fの温度での高温水蒸気か焼にかける工程であって、前記ゼオライト前駆体の温度が5分未満で前記高温水蒸気か焼温度の50°F内にある工程と
を含む、Yゼオライトの製造方法であって、
前記ゼオライトが、少なくとも約0.03cm/gの大きなメソ孔容積、および約0.15cm/g未満の小さなメソ孔ピークを有する方法。
【請求項20】
前記ゼオライト前駆体が、前記ゼオライト前駆体を高温水蒸気か焼にかける工程の前に希土類交換される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ゼオライトが少なくとも約4.0の大きな細孔と小さな細孔との容積比を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記ゼオライトの前記大きなメソ孔容積および前記ゼオライトの前記小さなメソ孔ピークが、前記製造されたままのゼオライトで測定される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記ゼオライトの前記大きなメソ孔容積、前記ゼオライトの前記小さなメソ孔ピーク、および前記ゼオライトの前記大きな細孔と小さな細孔との容積比が、前記製造されたままのゼオライトで測定される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記ゼオライトが約24.37オングストローム〜約24.47オングストロームの単位格子寸法を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記高温水蒸気か焼の温度が約1250°F〜約1450°Fであり、前記ゼオライト前駆体の温度が2分未満で前記高温水蒸気か焼温度の50°F内にある、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記ゼオライト前駆体の前記NaO含有率が無水ベースで約2.3〜約4重量%である、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記ゼオライトが、少なくとも約5.0の大きな細孔と小さな細孔との容積比および約0.13cm/g未満の小さなメソ多孔性容積ピークを有する、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記高温水蒸気か焼の温度が約1250°F〜約1450°Fであり、前記ゼオライト前駆体の温度が2分未満で前記高温水蒸気か焼温度の50°F内にある、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
a)石油精製方法で、炭化水素含有供給原料をYゼオライトと接触させる工程と;
b)前記炭化水素含有供給原料より低い平均分子量を有する少なくとも1つの生成物流れを生成する工程と
を含む、炭化水素含有供給原料の転化方法であって、
前記ゼオライトが、少なくとも約0.03cm/gの大きなメソ孔容積および約0.15cm/g未満の小さなメソ孔ピークを有する方法。
【請求項30】
前記石油精製方法が、接触分解法、流動接触分解法、水素化分解法、水素化脱硫法、改質法、アルキル化法、オリゴマー化法、脱ロウ法、および異性化法から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記石油精製方法が流動接触分解法である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ゼオライトの前記単位格子寸法が約24.37オングストローム〜約24.47オングストロームである、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記ゼオライトが少なくとも約4.0の大きな細孔と小さな細孔との容積比を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記ゼオライトの前記小さなメソ孔容積ピークが約0.13cm/g未満である、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記ゼオライトの前記大きなメソ孔容積が少なくとも約0.05cm/gである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記ゼオライトの前記大きなメソ孔容積および前記ゼオライトの前記小さなメソ孔ピークが、前記製造されたままのゼオライトで測定される、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
前記ゼオライトの前記大きなメソ孔容積および前記ゼオライトの前記小さなメソ孔ピークが、前記製造されたままのゼオライトで測定される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記ゼオライトが少なくとも約5.0の大きな細孔と小さな細孔との容積比を有する、請求項37に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−502876(P2012−502876A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527821(P2011−527821)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/005186
【国際公開番号】WO2010/033202
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】