説明

超伝導体を冷却するための多槽装置及び方法

【解決手段】 超伝導体を冷却するための多槽装置及び方法は、第1寒剤を備えている冷却槽と第2寒剤を備えている遮蔽槽の両方を含んでいる。冷却槽は、超伝導素子を取り囲んでおり、遮蔽槽は冷却槽を取り囲んでいる。冷却槽は、第1圧力に維持され、過冷却されており、一方、遮蔽槽は、第2圧力に維持され、飽和している。冷却槽と遮蔽槽は、互いに熱的関係にあり、第1圧力は第2圧力より高い。望ましくは、第1寒剤は液体窒素であり、超伝導体は、電流制限器の様な高温超伝導体である。超伝導体への熱破壊に続き、超伝導体を超伝導状態に復帰させるために、冷却槽に第1圧力が復旧され、遮蔽槽に第2圧力が復旧される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概括的には超伝導体に関し、より具体的には、超伝導体を冷却するための多槽装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温超伝導(HTS)素子は、広い温度範囲に亘って作動することができるが、通常は、自身の臨界遷移温度より低い温度で最も良く作動する。多くのHTS素子では、それら好適な作動温度は液体窒素の標準沸点(77.4K)よりも低い。
【0003】
超伝導体は、その超伝導状態と非超伝導状態の間の電気伝導能力の固有差ゆえに、理想的な電流制限器として広く認識されている。故障電流制限器(FCL)は、強い故障電流を回路遮断器の様な従来の装置が安全に取り扱うことのできる弱いレベルまで下げる、よく知られた装置である。典型的且つ理想的には、FCLは、例えば、配電網の様な全体システムの背景の中で、故障電流事象が発生するまでは目に見えないように作動している。その様な事象が発生すると、電流制限器は、下流の回路遮断器が当該事象を安全に取り扱うことができるように事象の強さを下げる。事象が過ぎ去ってしまうと、回路遮断器とFCLはリセットされ、通常の透明な作動状態に戻る。
【0004】
超伝導体は、その超伝導状態で作動しているときには、電気抵抗を殆ど或いは全く生じない。しかしながら、超伝導体が、その非超伝導状態で作動すると、その電気抵抗は劇的に増加する。これら相反する状態の結果として、超伝導体は、電流制限器に理想的に適しており、超伝導(即ち、ほぼ完璧な電気伝導体)状態から非超伝導(即ち、標準的電気抵抗)状態への遷移はクエンチングと呼ばれている。FCLの観点では、クエンチングは故障電流が発生したときに起こり、超伝導体の超伝導状態から非超伝導状態への遷移が起こる。
【0005】
超伝導FCLは、一般的に、正常作動時には、作動電流が規定の閾値又はそれ以下に留まり、その間、超伝導体は作動中の電力損失(即ち、lR)を殆ど或いは全く被らないように設計されている。しかしながら、故障電流が起こると、超伝導FCLは突然高いインピーダンスを生じる。この特性により、超伝導FCLは、急速にその商業的実施可能性が広まり且つよく認識されるようになっている。
【0006】
上で指摘したように、HTS素子は窒素の標準沸点(77.4K)より低い温度で最も良く作動する。窒素は、通常、費用と設計効率の点から、HTS素子を冷却する際に選択される媒体なので、通常、それら素子は、窒素の標準沸点と標準凝固点(63.2K)の間の温度まで冷却される。
【0007】
知られているように、凝固(又は三重)点より高い何れの特定の作動温度でも、臨界圧力より低い場合は、液相には飽和圧力と呼ばれる固有の最低作動圧力が存在する。作動温度を一定に保ちながら、作動圧力を、飽和圧力を越えて高くしていくと、液体窒素は過冷却液体になる。過冷却され加圧された液体窒素は、超伝導FCLを冷却するのみならず、高電圧環境内部の抵抗を超えて電気火花を提供するのにも、優れた媒体である。しかしながら、一旦、超伝導FCLに1つ又は複数の故障電流事象によるクエンチングが起こってしまうと、超伝導状態の復旧は決して迅速且つ効率的には行えないことが証明されている。更に、加圧され過冷却された液体窒素を使用することの利点は、過冷却の均一性を壊す故障電流事象後に維持するのは難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
要するに、超伝導FCLは、電流制限器のインピーダンスを、理想的には正常作動時のゼロからより高い電流制限値へと変化させる(例えば、上昇させる)ことにより故障電流の影響を少なくする。超伝導体は、その超伝導状態と非超伝導状態の間の固有差ゆえに、この機能を実行するには理想的である。しかしながら、FCLとして効果的且つ再起的に使用できるようにするには、超伝導体は、1つ又は複数の故障電流事象後に迅速且つ効率的なやり方でその超伝導状態に戻らねばならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
超伝導体を冷却するための多槽装置と方法は、第1寒剤を備えている冷却槽であって、超伝導素子を取り囲み第1圧力に維持されている冷却槽と、第2寒剤を備えている遮蔽槽であって、冷却槽を取り囲み第2圧力に維持されている遮蔽槽とを含んでおり、冷却槽と遮蔽槽は互いに熱的関係にあり、第1圧力は一般に第2圧力を上回っている。望ましくは、第1寒剤は過冷却されており、第2寒剤は飽和しており、寒剤は、例えば、液体窒素であり、超伝導素子は、例えば、故障電流制限器の様な高温超伝導素子である。超伝導素子への熱破壊に続き、冷却槽には第1圧力が復旧され、遮蔽槽には第2圧力が復旧される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の装置の利点と特徴並びに同装置により提供されている代表的な機構の各種構造及び作動態様の明白な概念は、本明細書の一部を成す以下の例示的、代表的、及び非制限的な図解を参照することにより容易に明白になるが、その際、幾つかの図面中、同様の符号は概ね同じ要素を表している。
【0011】
さて図1は、第1の好適な実施形態に基づき本発明の装置を具体化した極低温システム10を描いている。より具体的には、図1は、故障電流制限器の様な超伝導素子12、変圧器、モーター、発電器などを含む、その最も基本的な要素を備えている極低温システム10の概略図である。
【0012】
超伝導素子12は、冷却槽又は内槽20を画定している内容器18の内部壁16の中に入れられている第1寒剤14に、少なくとも部分的に、望ましくは全体的に、取り囲まれ、浸されている。同様に、内容器18は、内容器18の外部壁24と遮蔽槽又は外槽30を画定している低温保持装置28の内部壁26とによって、そして両者の間に入れられている第2寒剤22に、少なくとも部分的に、望ましくは全体的に、取り囲まれ、浸されている。詳しく説明すると、冷却槽20と遮蔽槽30は、互いに熱的接触状態(即ち、熱交換関係)にあるが、それ以外には互いに接続されておらず、即ち、一方の寒剤が他方の寒剤と混ざり合うことはない。冷却槽20は、本質的に受動的であり、即ち、それは超伝導素子12又は遮蔽槽30の何れかの温度変化に反応するのみである。望ましくは、冷却槽20の適正寸法は、超伝導素子12を適切に冷却することができるように選定され、同様に、遮蔽槽30の適正寸法は、冷却槽20を適切に冷却することができるように選定されるが、上記寸法には、必要に応じて、両槽の間の適正比も含まれる。而して、冷却槽20は、超伝導体12に概ね均一的な冷却を付与し、遮蔽槽30は、冷却槽20に概ね均一的な冷却を付与する。
【0013】
望ましくは、低温保持装置28は、標準的な低温材料で形成されており、これには、例えば、冷却槽20と遮蔽槽30を低温保持装置28の外部の雰囲気33から断熱するために、低温保持装置28の内部壁26にこれを取り囲んで形成されている真空断熱層32が含まれる。同様に、内容器18も、標準的な低温材料で形成されているのが望ましく、これには、例えば、銅又はステンレス鋼の様な好適な金属材料、或いは同じく非金属材料が含まれる。
【0014】
図示のように、冷却槽20は第1寒剤14を備えており、遮蔽槽30は第2寒剤22を備えている。必ずというわけではないが、第1寒剤14と第2寒剤22は、窒素の様な同じ低温流体の液体形態であるのが望ましいが、何れ詳しく説明するように、それらは異なる熱力学状態に保たれているのが望ましい。他の適した低温流体としては、空気、ネオンなどが挙げられ、第1寒剤14と第2寒剤22は、異なる低温流体で形成されていてもよい。このこととは別に、第1寒剤14は、第2寒剤22の温度に対応する飽和圧力に比べてより高い圧力に維持されているのが望ましい。両寒剤14と22が同じ低温流体(例えば、窒素)を備えている場合は、第1寒剤14の圧力は第2寒剤22に比べ高くなる。その結果、第1寒剤は過冷却されており、一方、第2寒剤22は飽和している。要約すると下表のようになる。
【0015】
【表1】

【0016】
外槽30の圧力は、第2寒剤が飽和状態にあるので、外槽の温度により決まり、即ち、この圧力は、第2寒剤22を特定の温度に維持するような圧力である。内槽20の圧力は、超伝導体の電気的要件により決まり、即ち、この圧力は、第1寒剤14が高電圧環境による放電の機会を防止又は低減するような圧力である。これとは別に、第1寒剤14の温度は、これは概ね第2寒剤22の温度とほぼ同じであるが、この温度は、超伝導素子12の超伝導特性及び要件に従って決まる。要求圧力を維持すること以外には、第1寒剤14の均一的な過冷却を実現するのに必要なものは何もない。
【0017】
内容器18は、その表面36から伸張している延長パイプ34と流体連通していて、そのパイプには寒剤14が自由に流入し、延長パイプ34は低温保持装置28の表面38に達しこれを貫通して伸長しているのが望ましい。好適な配管設備40を通して、延長パイプ34は、貯蔵されている液体寒剤46の上方にタンク上方空間42を有している寒剤貯蔵タンク44のタンク上方空間42(即ち、気体を含んでいる領域)と開放連通している。より具体的には、通常の待機動作の間、第1弁Vは開いており、内容器18の延長パイプ34と寒剤貯蔵タンク44のタンク上方空間42の間を繋いでいる。冷却槽20の圧力は、従って維持されており、寒剤貯蔵タンク44内の圧力と概ね等しくなっている。
【0018】
寒剤貯蔵タンク44内に貯蔵されている液体寒剤46は、第1寒剤14及び第2寒剤22と同じであるのが望ましい。液面52は、遮蔽槽30の液体/気体界面を画定している。液面52は、超伝導素子12の頂部よりも上に維持され、好適な液面は、システムの配管系統と内部設備によって異なる。好適な配管設備40は、寒剤貯蔵タンク44内に貯蔵されている液体寒剤46と遮蔽槽30との間に流体連通を提供している。第2弁Vは、寒剤貯蔵タンク44内に貯蔵されている液体寒剤46と低温保持装置28の低温保持装置上方空間50の間を繋いでいるのが望ましい。弁Vは、液面52を復旧又は維持することが必要になると開かれる。好適な設備40では、寒剤46、14、及び22が同じ流体である場合に、貯蔵タンク44は、一般に、第2寒剤22よりも圧力が高くなっており、これにより、弁Vが開かれたときは何時も、貯蔵容器44から遮蔽槽30へ確実に流れるようになっている。
【0019】
図示のように、超伝導素子12は、冷却槽20を画定している内容器18の内部壁16内に入れられている第1寒剤14に、少なくとも部分的に、望ましくは全体的に、取り囲まれ、浸されている。更に、超伝導素子12は、低温保持装置28の中へ伸びて超伝導素子12に接続されている2つ又はそれ以上の高電圧配線54(例えば、10〜200kV)を通して配電網などの様な1つ又はそれ以上の高電圧電源(図示得ず)と電気的に連通している。高電圧配線54は、高電圧ブッシングインターフェース(図示せず)を使用するなど、周知の技法により、低温保持装置28を貫通して超伝導素子12に接続されている。
【0020】
冷却槽20と遮蔽槽30の間の物理的な、従って熱的な接続(その表面接触は、図示しないフィン又は機能的に同様の面を使用することにより強化される)により、2つの槽は、通常は超伝導素子12に求められる作動特性に基づいて選択される同じ近似温度に維持されている。先に説明したように、システム10は、一般に、冷却槽20を遮蔽槽30より高い圧力に維持しているので、第1寒剤14は自然に過冷却される。
【0021】
寒剤貯蔵タンク44のタンク上方空間42内の加圧気体は、冷却槽20内の寒剤及び延長パイプ34内の加圧気体と同種の物質であるのが望ましい。冷却槽20の圧力は、遮蔽槽の圧力を上回るレベルに維持されている。冷却槽20の圧力は、寒剤貯蔵タンク44のタンク上方空間42と開放連通している延長パイプ34を通して維持されるのが望ましい。正常作動時、弁Vは開いており、従って、冷却槽20の圧力は、基本的に寒剤貯蔵タンク44の圧力に等しく維持されている。
【0022】
遮蔽槽30は、1つ又は複数の圧力維持装置を使用して、特定の温度(従って、圧力)に維持されているのが望ましい。その様な装置の1つは、低温保持装置28の低温保持装置上方空間50と熱的に接している(即ち、熱交換関係にある)冷却装置58(例えば、機械式冷蔵庫、低温クーラーなど)である。第2寒剤液22に熱負荷が加えられると、液は沸騰する。冷却装置58は、第2寒剤気体を凝縮して液体に戻す。換言すると、冷却装置58により提供される冷却によって、遮蔽槽30の要求圧力(従って、温度)が維持される。
【0023】
代わりに、システム10は、冷却装置58を使用すること無しに、遮蔽槽30を特定の圧力(従って、温度)と液面52に維持することもでき、この場合は、i)弁Vにより作動させる真空ブロワー60(別の圧力維持装置)に連結されている換気配管70と組み合わせて、弁Vの開閉動作とブロワー60の速度を時間、速度、及び量について、望ましくは適用可能な制御論理(図示せず)により制御して、遮蔽槽30の所望の圧力を維持するか、ii)好適な配管設備40の弁Vにより作動させる、寒剤貯蔵タンク44内に貯蔵されている液体寒剤4からの液補充と組み合わせて、弁Vの開閉動作を時間、速度、及び量について、望ましくは適用可能な制御論理(図示せず)により制御して、遮蔽槽30の第2寒剤22の所望の液面62を維持するようにしてもよい。真空ブロワー60は、遮蔽槽30の要求圧力が低温保持装置28の外部の雰囲気33の圧力よりも低い場合にのみ必要となる。
【0024】
冷却槽20と遮蔽槽30の間の物理的、従って熱的接続のため、冷却槽20内の第1寒剤14の液面56は、少なくとも遮蔽槽30内の第2寒剤22の液面52まで自然に上昇することになる。この点に関して、外槽30に比べ、内槽20は受動的である。而して、液面56は、延長パイプ34内の、冷却槽20の液体/気体界面を画定する。別の言い方をすれば、延長パイプ34へ入っている配管40は、延長パイプ34内の上方空間のための気体加圧手段である。正常作動時、弁Vは、常に開いており、而して、延長パイプ34内の上方空間は貯蔵タンク44内の上方空間42と同じ圧力になっている。上方空間42の圧力は、何らかの従来手段によって別途維持される。これにより、今度は、内槽の冷却に、大量貯蔵タンクの周知の圧力技法を利用することができるようになり、上方空間42の本来的安定性により、システムの大きな安定性が得られ好都合である。最終的に、第1寒剤が、自身の圧力が高くなったせいで、より高い飽和温度まで温められると、冷却槽20の第1寒剤14の液面56は、内容器18の延長パイプ34内で、第2寒剤22の液面52よりも高いレベルまで上昇することになる。第1液体寒剤14が沸騰するか、延長パイプ34からの加圧気体が凝縮して受動的に液面56を液面52よりも上に維持するかの何れかになるはずなので、液面56の積極的な制御は必要ない。
【0025】
延長パイプ34と接続されている配管40の主な機能は、加圧気体を第1寒剤に提供することである。配管40の二次的な機能は、凝縮して冷却槽20の液面56を作り出すことになる気体を提供することである。しかしながら、高圧気体貯蔵タンクを圧力調整器(図示せず)と組み合わせると、その様な加圧気体を提供することはできるが、これを設けても、液体寒剤貯蔵タンクの比較的大きな上方空間の場合と同じ安定性レベルを提供することはできない。
【0026】
通常、寒剤貯蔵タンク44内に貯蔵されている液体寒剤46の温度(従って、圧力)は遮蔽槽30の第2寒剤の温度(従って、圧力)よりも高くなるので、貯蔵されている液体寒剤46が遮蔽槽30に取り込まれることにより、或る一定の量の流出が生じる。そのままにしておくと、この流出気体は、遮蔽槽30に容認できない圧力上昇を引き起こしかねない。通常、この流出気体は、冷却装置58の動作により凝縮し、遮蔽槽30内の圧力は維持される。必要に応じて、弁Vと真空ブロワー60を協働させてそれらの影響を緩和するようにしてもよい。
【0027】
内槽の熱破壊状態からの正常な復旧は遮蔽槽を介して行われる。先に各図について説明したように、超伝導体12は、低温保持装置28の中へ伸びて超伝導素子12に接続されている2つ又はそれ以上の高電圧配線54(例えば、10〜200kV)を通して、配電網などと電気的に連通している。而して、配電網などに熱破壊(例えば故障電流事象)が発生すると、超伝導素子12は、非超伝導状態に遷移する。これが起こると、発生した熱は第1寒剤14に放出されて吸収され、第1寒剤14は過冷却される。より厳密には、冷却槽20内の第1寒剤14は、温度が自然に上昇し、一部は気化し、超伝導体12からの熱エネルギー放出を受け入れる。冷却槽20の温度上昇によって、冷却槽20から遮蔽槽30の第2寒剤22への熱の伝達が自然に増加する。第2寒剤22は飽和しているので、この熱伝達の増加に伴って、遮蔽槽30内で起こっている気化が対応して増加することになる。熱破壊による遮蔽槽30内の気化の増加は、圧力(従って温度)が上がることになるほど大きい。
【0028】
超伝導素子12をその超伝導状態に戻すために、熱破壊の間又はその直ぐ後に、低温保持装置28内の環境をできるだけ早く復旧して、別の起こりそうな事象に備えるのが望ましい。迅速に状態を復旧するには、一般に、第1寒剤14と第2寒剤22の温度を、単に超伝導状態を復旧するのに厳密に要求される温度よりも低い温度に下げる必要がある。換言すると、第1寒剤14と第2寒剤22を、それぞれ過冷却され飽和していた元の作動状態に戻すのが望ましい。冷却装置58及び/又は真空ブロワー60は、熱的事象の後に正常に機能して、低温保持装置28の以前の熱環境を復旧することができるようになっている。システムに冷却装置58とブロワー60が共に装備されている場合は、両方を動作させて回復の速度を上げることができる。この回復モードの間はVを閉じて、貯蔵されている液体寒剤46が遮蔽槽30に流入して起こる流出を回避することは、回復過程に役立つ。
【0029】
超伝導素子12から冷却槽20に流れ込んだ過剰な発熱の一部又は全部は、弁Vを閉じて弁Vを開くと、冷却槽20の過剰な圧力(従って温度)の一部又は全部が放散されるので、素早く放散させることができるが、これは、内容器18からの延長パイプ34と直接通じている弁Vと連通している真空ブロワー(図示せず)などを使用することによっても円滑に行うことができる。過剰圧力(従って温度)を除去し易くするために冷却槽20を減圧するのは、超伝導素子12と高電圧環境が、復旧過程の間に、圧力の損失及びこれに伴う電気放電に対する抵抗の低下を許容する状態にある場合にのみ許される。
【0030】
熱破壊の間、第1寒剤14の一部は流出して失われるが、正しい制御を通して、第1寒剤14の液面56は、低温保持装置28内の超伝導素子12の正常な冷却動作を妨げることになるほど低下させてはならない。冷却槽20の第1寒剤14の液面56は、蒸気損失により熱破壊以前よりも低くなるかもしれないが、冷却槽20から出て延長パイプ34内にある上方空間蒸気が凝縮することにより自然に回復し、最終的には第1寒剤14の以前の液面が復旧される。同様に、遮蔽槽30の第2寒剤22の液面52も、流出により熱破壊以前よりも低くなるかもしれないが、寒剤貯蔵タンク44内の貯蔵されている液体寒剤46からの供給量を補充するために弁Vを開くことにより復旧され、最終的には第2寒剤22の以前の液面52が復旧される。換言すると、必要に応じて、冷却槽20から出た蒸気が延長パイプ34内で凝縮されることにより第1寒剤14が補充され、貯蔵されている液体寒剤46により第2寒剤22が補充される。
【0031】
図1のシステム10の模式的配置は、例示のみを目的としている。結果的に、本発明の範囲内で数多くの代替配置が考えられる。例えば、図2に示すように、延長パイプ34を寒剤貯蔵タンク44のタンク上方空間42と弁Vを通して開放連通するように配置するのではなく、代わりの配管設備40’により、貯蔵されている液体寒剤46を気体に変えて冷却槽20用の延長パイプ34の所望の圧力を維持するために、延長パイプ34を、気化装置62、第5弁V、及び圧力調整器63を通して寒剤貯蔵タンク44内に貯蔵されている液体寒剤46と流体連通させて配置してもよい。圧力調整器63は、貯蔵タンク44を、冷却槽20よりも高い任意の圧力で作動させることができるようにする随意的な要素である。代わりに、加圧気体源は、第1寒剤14と同種の物質又はヘリウムの様な非凝縮性気体である純粋気体用の更に別の貯蔵タンク(図示せず)から得てもよい。好適ではあるが、液体寒剤が入っている貯蔵タンクは、遮蔽槽30内の第2寒剤22の在庫管理を維持又は復旧する必要はない。冷却装置58を採用して、第2寒剤22と同じ物質の任意の気体源を凝縮してもよい。最後に、分かり易くするために1つしか示していないが、寒剤貯蔵タンク44は、必要に応じて2つ以上の低温保持装置28と開放及び流体連通していてもよく、低温保持装置28は、2つ以上の寒剤貯蔵タンク44により維持されていてもよい。また、低温保持装置28は、2つ以上の超伝導素子12を保有していてもよい。
【0032】
熱破壊からの回復のための更に別の代わりの配置では、低温保持装置28には、追加の配管71と74(図2)が装備されている。これら配管の目的は、全ての寒剤が窒素である場合を例にとって説明するのが最も分かり易い。この例では、第2寒剤22の所望作動温度は70Kであり、これは0.39bar,abs(−9.1psig)の圧力に相当する。故障電流事象が発生すると、第2寒剤22の温度は80Kに上昇するが、これは、1.37bar,abs(5.2psig)の圧力に相当する。この時点で、段階的な圧力回復が実施される。先ず、配管74の第6弁Vを開き、圧力を約0psigまで下げた後、再度閉じる。第7弁Vを開き、第2真空ブロワー73を作動させて圧力を約−5psigまで下げる。代わりに、第2真空ブロワー73は、機能的に同様な多数の装置の内の何れか、例えば、エジェクタ又はジェットポンプ、に置き換えてもよい。圧力が約−5psigまで下がった後、弁Vを閉じ、第2真空ブロワー73を停止させる。次いで、配管70の弁Vと真空ブロワー60を作動させて、圧力を所望の元の−9.1psig(従って所望温度)まで下げる。
【0033】
個別の段階的過程を使って説明したが、各段階は場合によっては重なることもあるのは自明である。例えば、真空ブロワー60は、第2真空ブロワー73の始動と同時に作動させてもよい。また、充填弁Vは、先に論じたように、回復動作中は、流出気体を最小限にするために作動を遅らせてもよい。この代わりの配置では、弁Vと第2真空ブロワー73は、熱的事象からの回復に要する時間を大幅に短縮するための安価な手段となっている。
【0034】
なお、容易に理解頂けるように、本明細書は、本発明の配置の例示的、代表的、及び非制限的な実施形態を説明している。従って、本発明の範囲は、それら実施形態の何れにも限定されない。むしろ、それら実施形態の詳細及び特性は、必要に応じて開示したものである。而して、当業者には自明のように、多くの変更及び修正は、本発明の精神を逸脱すること無く、本発明の範囲内にあり、本発明の配置は必然的にそれらを包含している。従って、本発明の範囲と精神を公に通告するために、特許請求の範囲を作成している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】極低温システムの概略図であり、発明の装置は第1の好適な実施形態に基づいて具体化されている。
【図2】極低温システムの概略図であり、発明の装置は第2の好適な実施形態に基づいて具体化されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導素子を冷却するための多槽装置において、
A.第1寒剤を備えている冷却槽であって、前記超伝導体素子を取り囲んでおり、第1圧力に維持されている、冷却槽と、
B.第2寒剤を備えている遮蔽槽であって、前記冷却槽を取り囲んでおり、第2圧力に維持されている、遮蔽槽と、を備えており、
前記冷却槽と前記遮蔽槽は、互いに熱的関係にあり、前記第1圧力は前記第2圧力を上回っている、装置。
【請求項2】
前記第1寒剤は過冷却されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第2寒剤は飽和している、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第1寒剤は過冷却されており、前記第2寒剤は飽和している、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1寒剤と前記第2寒剤は同じである、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第1寒剤又は前記第2寒剤の少なくとも一方は液体窒素である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記超伝導素子は、高温超伝導体を備えている、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記超伝導素子は、故障電流制限器である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記第2圧力を維持するための圧力維持装置を更に備えている、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記圧力維持装置は、前記遮蔽槽と熱的関係にある冷却装置である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記圧力維持装置は、前記遮蔽槽と流体関係にある真空装置である、請求項9に記載の装置。
【請求項12】
更に、前記遮蔽槽と熱的関係にある冷却装置と、前記遮蔽槽と流体関係にある真空装置の両方を備えている、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記冷却槽又は前記遮蔽槽の少なくとも一方と流体連通している寒剤貯蔵タンクを更に備えている、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記寒剤貯蔵タンクには、気体又は第3寒剤の少なくとも一方が入っている、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記気体は前記冷却槽と流体連通している、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記気体は前記第1圧力を維持している、請求項14に記載の装置。
【請求項17】
前記気体と前記第1寒剤は同じである、請求項14に記載の装置。
【請求項18】
前記第3寒剤は前記遮蔽槽と流体連通している、請求項14に記載の装置。
【請求項19】
前記第3寒剤は前記遮蔽槽内の液面を維持している、請求項14に記載の装置。
【請求項20】
前記第2寒剤と前記第3寒剤は同じである、請求項14に記載の装置。
【請求項21】
超伝導素子を冷却する方法において、
A.前記超伝導素子を、第1圧力に維持されている冷却槽からの第1寒剤で取り囲む段階と、
B.前記冷却槽を、第2圧力に辞されている遮蔽槽からの第2寒剤で取り囲む段階と、から成り、
前記冷却槽と前記遮蔽槽は、互いに熱的関係にあり、前記第1圧力は前記第2圧力を上回っている、方法。
【請求項22】
前記第1寒剤を過冷却する段階を更に含んでいる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第2寒剤を飽和状態に維持する段階を更に含んでいる、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記第1寒剤を過冷却し、前記第2寒剤を飽和状態に維持する段階を更に含んでいる、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記第1寒剤と前記第2寒剤は同じである、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記第1寒剤と前記第2寒剤の少なくとも一方は液体窒素である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記超伝導素子は高温超伝導体を備えている、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記超伝導体は故障電流制限器である、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記第2圧力を維持するために、少なくとも1つの圧力維持装置を作動させる段階を更に含んでいる、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記圧力維持装置の少なくとも1つは、前記遮蔽槽と熱的関係にある冷却装置である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記圧力維持装置の少なくとも1つは、前記遮蔽槽と流体関係にある真空装置である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記圧力維持装置の少なくとも1つは、前記遮蔽槽と流体関係にある通気孔である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記第2圧力を維持するために、2つ又はそれ以上の圧力維持装置を作動させる段階を更に含んでいる、請求項21に記載の方法。
【請求項34】
前記2つ又はそれ以上の圧力維持装置は、前記第2圧力を維持するために、同時又は段階的の何れかのやり方で作動させる、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記冷却槽又は前記遮蔽槽の少なくとも一方と流体連通している寒剤貯蔵タンクを提供する段階を更に含んでいる、請求項21に記載の方法。
【請求項36】
気体又は第3寒剤の少なくとも一方を前記寒剤貯蔵タンク内に貯蔵する段階を更に含んでいる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記気体は前記冷却槽と流体連通している、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記第1圧力を前記気体で維持する段階を更に含んでいる、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記気体と前記第1寒剤は同じである、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記第3寒剤は前記遮蔽槽と流体連通している、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記第3寒剤を使用して、前記遮蔽槽の液面を維持する段階を更に含んでいる、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
前記第2寒剤と前記第3寒剤は同じである、請求項35に記載の装置。
【請求項43】
電気的システムを故障電流事象から防護するための方法において、
A.前記電気的システムに故障電流制限器を設ける段階と、
B.前記故障電流制限器を、第1寒剤を備えており第1圧力を有している冷却槽に、少なくとも部分的には浸す段階と、
C.前記冷却槽を、第2寒剤を備えており第2圧力を有している遮蔽槽に、少なくとも部分的には浸す段階であって、前記冷却槽と前記遮蔽槽は互いに熱的関係にある、段階と、
D.前記冷却槽と前記遮蔽槽を、前記第1圧力が前記第2圧力よりも高くなるように維持する段階と、から成る方法。
【請求項44】
前記電気的システムは配電網であり、前記故障電流制限器は高温超伝導素子である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記第1及び第2寒剤は液体窒素である、請求項43に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−529239(P2009−529239A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558296(P2008−558296)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/004976
【国際公開番号】WO2008/030270
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(508040968)リンデ・インコーポレーテッド (10)
【Fターム(参考)】