説明

超微粒子の製造方法

【課題】超微粒子の表面への気相薄膜形成を効率的に行い、粒径や形状の均一性が高レベルで実現可能な、薄膜を被覆した超微粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】減圧下で、超微粒子製造用材料を熱プラズマ炎中に導入することにより気相状態の混合物にし、この気相状態の混合物を急冷するのに十分な供給量で、反応性ガスと冷却用気体とを前記熱プラズマ炎の尾部(終端部)に向けて導入して、超微粒子を生成させ、この生成した超微粒子と前記反応性ガスとを接触させて、表面に炭素単体物および/または炭素化合物からなる薄膜を被覆した超微粒子を製造することを特徴とする超微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜を被覆した超微粒子の製造方法に関し、より詳細には、熱プラズマ法を用いて超微粒子の表面に炭素単体物および/または炭素化合物からなる薄膜を形成した超微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物微粒子,窒化物微粒子,炭化物微粒子等の微粒子は、半導体基板,プリント基板,各種電気絶縁部品などの電気絶縁材料や、ダイス,軸受などの高硬度・高精度の機械工作材料、粒界コンデンサ,湿度センサなどの機能性材料、精密焼結成形材料などの焼結体の製造や、エンジンバルブなどのような高温耐摩耗性が要求される材料などの溶射部品製造、さらには燃料電池の電極や電解質材料および各種触媒などの分野で用いられている。このような微粒子を用いることにより、焼結体や溶射部品などにおける異種セラミックス同士や異種金属同士の接合強度や緻密性、あるいは機能性を向上させている。
【0003】
このような微粒子を製造する方法の一つに、気相法がある。気相法には、各種のガス等を高温で化学反応させる化学的方法と、電子やレーザなどのビームを照射して物質を分解・蒸発させ、微粒子をさせる物理的方法とがある。
【0004】
上記気相法の中の一つとして、熱プラズマ法がある。熱プラズマ法は、熱プラズマ中で原材料を瞬時に蒸発させた後、急冷凝固させ、微粒子を製造する方法であり、また、クリーンで生産性が高く、高温で熱容量が大きいため高融点材料にも対応可能であり、他の気相法に比べて複合化が比較的容易であるといった多くの利点を有する。このため、熱プラズマ法は、微粒子を製造する方法として積極的に利用されている。
【0005】
特許文献1には、粉末状にされた原材料を熱プラズマ炎中に導入する従来技術に関し、金属微粒子と被覆層との両粉末材料を複合化し、原材料混合物を不活性または還元性雰囲気の熱プラズマ(熱プラズマ炎)中に供給して原材料を蒸発させて気相状態の混合物にした後、この混合物を急冷して、酸化物金属被覆微粒子を製造する方法が開示されている。
【0006】
ところで、近年、上述のような各種の微粒子については、その材質を問わず、より小さいサイズのものが要求される状況になってきている。
これは、微粒子が用いられる対象物それ自体が小サイズ化することに起因しているが、ここで問題となるのは、微粒子のサイズが小さくなるに従って表面活性が高くなり、この高い表面活性は逆に微粒子の安定性を低下させるという点である。
【0007】
例えば、鉄や銅などの金属を微粒子化した場合、その粒径が数μmオーダーであれば、徐々に酸化することにより表面に酸化被膜を形成することはよく知られているが、これが数nm〜数十nmオーダー(以下、従来の感覚に基づく微粒子と区別するために、超微粒子という)になると、酸化が急激に起こって危険でさえあるという状態になる。
【0008】
また、金や銀などの低融点金属を微粒子化した場合、数nmオーダーになると融点が急激に低下することが知られているが、数十nmオーダーでも粒子同士が容易に融着し、それぞれが独立した超微粒子を得ることができない状態になる。
【0009】
そこで、このような超微粒子を安定に、かつ、効率的に製造する方法を確立することが必要になってきている。
これに関しては、例えば、特許文献2に記載されている技術が参考になる。
【0010】
特許文献2に記載されている技術は、反応性ガスの存在下での真空蒸着により、超微粉体(コアとなるもの)の表面に均一な厚さ(数原子層〜数十原子層程度という超薄層)の炭素原子層を形成するというものである。
【0011】
【特許文献1】特開2000−219901号公報
【特許文献2】特公平5−43791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の特許文献2に記載された「炭素超薄膜を被覆した超微粉体」の製造方法は、予め形成されている粒径数十nmの超微粉体を蒸着雰囲気内に供給し、この超微粉体の表面に、雰囲気内に存在する反応性ガスの分解により発生する原子状の炭素(炭素原子)を均一に付着させるというものである。
【0013】
前述のように、微粒子のサイズが小さくなるに従って表面活性が高くなり、この高い表面活性は逆に微粒子の安定性を低下させることから、粒径が数nm程度のさらに小さな超微粒子を形成し、形成された超微粒子の表面に薄膜を被覆するというような一貫した製造工程により、種々の機能性材料,精密焼結成形材料などを効率的に製造することが望まれているが、従来はこのような一貫製造工程により表面に薄膜を被覆した超微粒子を製造することはできなかった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、前記従来技術に基づく問題点を解消した、高表面活性と新機能性が期待される超微粒子の表面への気相薄膜形成を効率的に行い、粒径や形状の均一性が高レベルで実現可能な、一貫製造工程により表面に薄膜を被覆した超微粒子の製造方法を提供することにある。
【0015】
より詳細には、本発明は、炭素単体物および/または炭素化合物からなる薄膜を被覆した超微粒子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、このような高表面活性と新機能性が期待される超微粒子を安定に、かつ効率的に製造する方法を確立することが必要になってきていることに鑑みて、上記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、超微粒子製造用材料を気相状態の混合物にする熱プラズマ炎の終端部に反応性ガスと冷却用気体とを導入することにより、表面に反応性ガスの成分による薄膜を被覆した超微粒子を製造することができることを知見し、本発明に至ったものである。
【0017】
すなわち、本発明に係る薄膜を被覆した超微粒子の製造方法は、減圧下で、超微粒子製造用材料を熱プラズマ炎中に導入して、気相状態の混合物にし、この気相状態の混合物を急冷するのに十分な供給量で、反応性ガスと冷却用気体とを前記熱プラズマ炎の終端部(尾部)に向けて導入して、超微粒子を生成させ、この生成した超微粒子と前記反応性ガスとを接触させて、表面に薄膜を被覆した超微粒子を製造することを特徴とする。
【0018】
ここで、前記超微粒子製造用材料を熱プラズマ炎中に導入する過程が、前記超微粒子製造用材料を、キャリアガスを用いて分散させ、この分散させた超微粒子製造用材料を前記熱プラズマ炎中に導入するものであることが好ましい。
【0019】
また、前記反応性ガス,前記キャリアガスもしくは前記冷却用気体の少なくとも一つの供給量を変化させることにより、前記超微粒子の粒径を制御することが好ましい。
あるいは、また、前記反応性ガス,前記キャリアガスもしくは前記冷却用気体の少なくとも一つの供給量を変化させることにより、前記超微粒子の表面に被覆される薄膜の膜厚を制御することが好ましい。
【0020】
また、前記反応性ガスとして炭化水素ガスを用い、また、前記キャリアガスとして不活性ガスを用いて、前記超微粒子の表面に被覆される薄膜を、炭素単体物および/または炭素化合物からなる薄膜とすることが好ましい。
また、前記超微粒子製造用材料を構成する成分は、原子番号12,13,26〜30,46〜50,62および78〜83の元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む金属、合金、単体酸化物、複合酸化物、複酸化物、酸化物固溶体、水酸化物、炭酸化合物、ハロゲン化物、硫化物、窒化物、炭化物、水素化物、金属塩、または金属有機化合物であることが好ましい。
【0021】
なお、本発明に係る薄膜を被覆した超微粒子の製造方法において、前記気相状態の混合物を急冷するのに十分な前記冷却用気体の供給量とは、以下の通りのものである。すなわち、前記気相状態の混合物を急冷するために形成される空間を冷却室(チャンバ)と呼ぶが、そこに導入される気体の冷却室内における平均流速(チャンバ内流速)を、0.001〜60m/secとすることが好ましく、0.01〜10m/secとすることがより好ましい。
【0022】
また、前記気体の前記冷却室内への導入方向としては、前記冷却室内において、熱プラズマ炎の尾部(終端部)に対して、垂直上方を0°とした場合の角度αが90°<α<240°(より好ましくは100°<α<180°)の範囲、気体射出口から見た熱プラズマ炎の方向を0°とした場合の角度βが−90°<β<90°(より好ましくは−45°<β<45°)の範囲であるのがよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高表面活性と新機能性が期待される超微粒子の表面への気相薄膜形成を効率的に行い、粒径や形状の均一性が高レベルで実現可能な、薄膜を被覆した超微粒子の製造方法を実現できるという顕著な効果を奏する。
【0024】
より具体的には、本発明によれば、減圧下で、超微粒子製造用材料を熱プラズマ炎中に導入することにより気相状態の混合物にし、この気相状態の混合物を急冷するのに十分な供給量で、反応性ガスと冷却用気体とを前記熱プラズマ炎の尾部(終端部)に向けて導入して、超微粒子を生成させ、この生成した超微粒子と前記反応性ガスとを接触させるようにしたことにより、効率的に超微粒子(コア)を生成させる工程と、生成した超微粒子(コア)表面に反応性ガスの分解・反応により生ずる炭素単体物および/または炭素化合物を付着させる工程とを一緒に行わせることで、薄膜を被覆した超微粒子を製造することが可能になるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明に係る超微粒子の製造方法を詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る薄膜を被覆した超微粒子の製造方法を実施するための超微粒子製造装置10の全体構成を示す模式図である。また、図2は、図1中に示したプラズマトーチ12付近の部分拡大図で、図3は、図1中に示した材料供給装置14の拡大図、また、図4は、図1中に示したチャンバ16の天板17、およびこの天板17に備えられた気体射出口28aおよび気体射出口28b付近を拡大した断面図である。
【0027】
図1に示す超微粒子製造装置10は、熱プラズマ炎を発生させるプラズマトーチ12と、超微粒子製造用材料(粉末材料)をプラズマトーチ12内へ供給する材料供給装置14と、超微粒子18を生成させるための冷却室としての機能を有するチャンバ16と、生成した超微粒子18を回収する回収部20と、冷却用の気体をチャンバ16内に導入し、熱プラズマ炎24に向けて射出する気体導入装置28とを含んで構成されている。
【0028】
図2に示すプラズマトーチ12は、石英管12aと、その外側を取り巻く高周波発振用コイル12bとで構成されている。プラズマトーチ12の上部には、超微粒子製造用材料とキャリアガスとをプラズマトーチ12内に導入するための後述する導入管14aがその中央部に設けられており、プラズマガス導入口12cがその周辺部(同一円周上)に形成されている。
【0029】
プラズマガスは、プラズマガス供給源22からプラズマガス導入口12cへ送り込まれる。プラズマガスとしては、例えば、アルゴン,窒素,水素等が挙げられる。プラズマガス供給源22には、例えば、2種類のプラズマガスが準備されている。プラズマガスは、プラズマガス供給源22からリング状のプラズマガス導入口12cを介して、矢印Pで示されるようにプラズマトーチ12内に送り込まれる。そして、高周波発振用コイル12bに高周波電流が供給されて、熱プラズマ炎24が発生する。
【0030】
なお、石英管12aの外側は、同心円状に形成された管(図示されていない)で囲まれており、この管と石英管12aとの間に冷却水を循環させて石英管12aを水冷し、プラズマトーチ12内で発生した熱プラズマ炎24により石英管12aが高温になりすぎるのを防止している。
【0031】
材料供給装置14は、図3にその拡大図を示したように、主に、粉末材料を貯蔵する貯蔵槽142と、粉末材料を定量搬送するスクリューフィーダ160と、スクリューフィーダ160で搬送された超微粒子が最終的に散布される前に、これを一次粒子の状態に分散させる分散部170とから構成されている。
【0032】
貯蔵槽142には、図示されていないが、排気用配管および給気用配管が設けられる。また、貯蔵槽142はオイルシール等で密封された圧力容器であり、内部の雰囲気を制御することができるように構成されている。また、貯蔵槽142の上部には粉末材料を導入する導入口(図示されていない)が設けられており、粉末材料144が導入口から貯蔵槽142内部に投入され、貯蔵される。
【0033】
貯蔵槽142の内部には、貯蔵された粉末材料144の凝集を防止するために、攪拌軸146とそれに接続された攪拌羽根148とが設けられる。攪拌軸146は、オイルシール150aと軸受け152aとによって、貯蔵槽142内で回転可能に配設されている。
また、貯蔵槽142外部にある攪拌軸146の端部は、モータ154aに接続されており、図示しない制御装置によってその回転が制御される。
【0034】
貯蔵槽142の下部には、スクリューフィーダ160が設けられ、粉末材料144の定量的な搬送を可能にする。スクリューフィーダ160は、スクリュー162と、スクリュー162の軸164と、ケーシング166と、スクリュー162の回転動力源であるモータ154bとを含み構成されている。スクリュー162および軸164は、貯蔵槽142内の下部を横切って設けられている。軸164は、オイルシール150bと軸受け152bとによって貯蔵槽142内で回転可能に配設されている。
【0035】
また、貯蔵槽142外部にある軸164の端部は、モータ154bに接続されており、図示しない制御装置によってその回転が制御される。さらに、貯蔵槽142の下部の開口部と、後述する分散部170とを接続し、スクリュー162を包む筒状通路であるケーシング166が設けられる。ケーシング166は、後述する分散部170の内部途中まで延設されている。
【0036】
図3に示すように、分散部170は、ケーシング166の一部に外挿固定された外管172と、軸164の先端部に植設された回転ブラシ176を有し、スクリューフィーダ160によって定量搬送された粉末材料144を一次分散させることができる。
外管172の外挿固定された端部と反対の端部は、その形状が円錐台形状であり、その内部にも円錐台形状の空間である粉体分散室174を有する。また、その端部には分散部170で分散された粉末材料を搬送する搬送管182が接続される。
【0037】
ケーシング166の先端が開口し、その開口部を越えて外管172内部の粉体分散室174まで軸164が延設され、軸164の先端には回転ブラシ176が設けられる。外管172の側面にはキャリアガス供給口178が設けられており、また、ケーシング166の外壁と外管172の内壁とによって設けられる空間は、導入されたキャリアガスが通過するキャリアガス通路180としての機能を有する。
【0038】
回転ブラシ176は、ナイロン等の比較的柔軟な材質、あるいは鋼線等の硬質な材質からなる針状部材で、ケーシング166の先端部近傍の内部から粉体分散室174の内部まで、軸164の径外方に延出して密集植設されることによって形成される。このときの上記針状部材の長さは、ケーシング166内の周壁に針状部材の先端部が当接する程度の長さである。
【0039】
分散部170では、分散・搬送用の気体が、キャリアガス供給源15からキャリアガス供給口178、キャリアガス通路180を通って回転ブラシ176の径方向外側から回転ブラシ176に噴出され、定量的に搬送される粉末材料144が、回転ブラシ176の針状部材間を通過することで一次粒子に分散される。
【0040】
ここで、粉体分散室174の円錐台形の母線と軸164とのなす角度は、30°程度の角度をなすように設けられている。また、粉体分散室174の容積は小さいほうが好ましく、容積が大きいと回転ブラシ176で分散された粉末材料144が搬送管182に入る前に分散室の内壁に付着し、これが再飛散するために供給される分散粉体の濃度が一定しなくなるという問題を生じる。
【0041】
搬送管182は、その一端は外管172と接続され、他端はプラズマトーチ12に接続される。また、搬送管182は、その管径の10倍以上の管長を有し、少なくとも途中に分散粉体を含む気流が流速20m/sec以上になる管径部分を設けることが好ましい。これにより分散部170で一次粒子の状態に分散された粉末材料144の凝集を防止し、上記の分散状態を維持したまま、粉末材料144をプラズマトーチ12内部に散布することができる。
【0042】
押し出し圧力がかけられたキャリアガスが、キャリアガス供給源15から粉末材料144と共に、図2中に矢印Gで示されるように導入管14aを介してプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中へ供給される。導入管14aは、粉末材料をプラズマトーチ内の熱プラズマ炎24中に噴霧するためのノズル機構を有しており、これにより、粉末材料144をプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に噴霧する。キャリアガスには、アルゴン,窒素,水素等が単独または適宜組み合わせて用いられる。
【0043】
一方、図1に示したように、チャンバ16が、プラズマトーチ12の下方に隣接して設けられている。プラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に噴霧された粉末材料144は、蒸発して気相状態の混合物になり、その直後に上記気相状態の混合物がチャンバ16内で急冷され、超微粒子18が生成する。つまり、チャンバ16は、冷却室としての機能と反応室としての機能とを有する。
【0044】
ところで、本発明に係る超微粒子製造装置は、上記気相状態の混合物を急冷することを主たる目的とする気体導入装置を備えることを特徴としている。以下、この気体導入装置について説明する。
【0045】
図1および図4に示す気体導入装置28は、第1の気体供給源28d,第2の気体供給源28f、並びにそれらを接続する管28c,28eから構成されている。
ここでは、第1の気体供給源28dには、冷却用ガスとしてのアルゴンが、また、第2の気体供給源28fには、反応性ガスとしてのメタンが貯蔵されている。
ここで、冷却用ガスとしては、アルゴンの他、例えば、窒素,水素,酸素,空気,二酸化炭素,水蒸気,メタンなどの炭化水素ガス等、およびこれらの混合ガスが挙げられる。
【0046】
また、気体導入装置28は、熱プラズマ炎24の尾部に向かって、前述のような所定の角度で気体A(ここでは、一例として冷却用ガスとしてのアルゴンと反応性ガスとしてのメタンとの混合ガスとする)を射出する気体射出口28aと、チャンバ16内の、生成した超微粒子18がチャンバ16内部に付着するのを防止する目的で、チャンバ16内側壁に沿って、上方から下方に向かって気体B(ここでは、一例としてアルゴンとする)を射出する気体射出口28bとを備えている。
ここで、熱プラズマ炎の尾部とは、プラズマガス導入口12cと反対側の熱プラズマ炎の端、つまり、熱プラズマ炎の終端部である。
【0047】
なお、上記気体Aとしては、アルゴンの他、例えば、窒素,水素,酸素,空気,二酸化炭素,水蒸気,メタンなどの炭化水素ガス等、およびこれらの混合ガスを好適に用いることができ、気体Bとしては、アルゴンの他、例えば、窒素,水素,酸素,空気,二酸化炭素,水蒸気,メタンなどの炭化水素ガス等、およびこれらの混合ガスを好適に用いることができる。
【0048】
なお、図1中28g,28iは、上記第1の気体供給源28dからのガス供給圧力を制御する圧力制御弁を、また、28hは、上記第2の気体供給源28fからのガス供給圧力を制御する圧力制御弁を示している。また、上記管28eは、第1の気体供給源28dと第2の気体供給源28fから送出されるガスを圧力調整の上混合してチャンバ16に挿通するものであり、管28cは、第1の気体供給源28dからのガスを直接チャンバ16に挿通するものである。
【0049】
図4に示すように、気体射出口28aと28bとは、チャンバ16の天板17に形成されている。天板17は、円錐台形状で上側の一部が円柱である内側部天板部品17aと、円錐台形状の孔を有する下部天板部品17bと、内側部天板部品17aを垂直に移動させる移動機構を有する上部外側部天板部品17cとを含み構成されている。
【0050】
ここで、内側部天板部品17aと上部外側部天板部品17cとが接する部分(内側部天板部品17aでは上部の円柱部分)にはネジが切ってあり、内側部天板部品17aを回転させることで垂直方向に位置を変えることができ、内側部天板部品aは、下部天板部品17bとの距離を調節できる。また、内側部天板部品17aの円錐部分の勾配と、下部天板部品17bが有する孔の円錐部分の勾配は同一であり、相互に組み合わされる構造になっている。
【0051】
また、気体射出口28aとは、内側部天板部品17aと下部天板部品17bとが形成した間隙、つまり、スリットのことであり、その幅が調節可能であって、天板と同心である円周状に形成されている。ここで、気体射出口28aは、熱プラズマ炎24の尾部に向かって気体(ここでは、アルゴンとメタンとの混合ガス)を射出することができる形状であればよく、上述のようなスリット形状に限定されるものではなく、例えば、円周上に多数の孔を配したものでもよい。
【0052】
上部外側部天板部品17cの内部には、管28eを介して送られる気体A(アルゴンおよびメタン)が通過するための通気路17dと、気体B(アルゴン)が通過するための通気路17eと、が設けられている。管28eを介して送られる気体A(アルゴンおよびメタン)は、通気路17dを通過し、上述した内側部天板部品17aと下部天板部品17bとが形成するスリットである気体射出口28aを通過して、チャンバ16内に送り込まれる。管28cを介して送られる気体B(アルゴン)は、通気路17eを通過し、同じくスリットである気体射出口28bを通過して、チャンバ16内に送り込まれる。
【0053】
気体射出口28aに送られた前述の気体A(アルゴンおよびメタン)は、図4中の矢印Sで示す方向から、通気路17dを通って、図1および図4中の矢印Qで示される方向、すなわち、熱プラズマ炎の尾部(終端部)に向かって、前述のように、所定の供給量および所定の角度で射出される。また、気体射出口28bに送られた気体B(ここでは、アルゴン)は、図4中の矢印Tで示す方向から、通気路17eを通って、図1および図4中の矢印Rで示される方向に射出され、生成した超微粒子18がチャンバ16内壁面に付着するのを防止するように供給される。
【0054】
ここで、上記気体A(アルゴンおよびメタン)の所定の供給量について説明する。前述のように、前記気相状態の混合物を急冷するのに十分な供給量として、例えば前記気相状態の混合物を急冷するのに必要な空間を形成するチャンバ16において、そこに導入される気体のチャンバ16内における平均流速(チャンバ内流速)が、0.001〜60m/secとなるように供給することが好ましく、0.01〜10m/secとなるように供給することがより好ましい。このような平均流速範囲は、熱プラズマ炎24中に噴霧された粉末材料などが蒸発した、気相状態の混合物を急冷し超微粒子を生成させ、生成した超微粒子同士の衝突による凝集を防止するのに十分な気体の供給量である。
【0055】
なお、この供給量は、気相状態の混合物を急冷して凝固させるのに十分な量であり、また、生成した直後の超微粒子同士が衝突することで凝集し凝固しないように気相状態の混合物を希釈するのに十分な量である必要があり、チャンバ16の形状や大きさによりその値を適宜定めるのがよい。
ただし、この供給量は、熱プラズマ炎の安定を妨げることのないように制御されることが好ましい。
【0056】
なお、気体A中の反応性ガス(ここでは、メタン)の供給量としては、熱プラズマ炎24中に噴霧された所定量の粉末材料(144)から生成された超微粒子の表面に炭素単体物および/または炭素化合物からなる薄膜を形成できれば、特に制限的ではないが、例えば、気体A中のアルゴンの量に対して、0.1〜10%程度含まれることが好ましい。
【0057】
次に、図5を用いて、気体射出口28aがスリット形状の場合における、上記所定の角度について説明する。図5(a)に、チャンバ16の天板17の中心軸を通る垂直方向の断面図を、また、図5(b)に、天板17を下方から見た図を示す。なお、図5(b)には、図5(a)に示した断面に対して垂直な方向が示されている。ここで、図5中に示す点Xは、通気路17dを介して第1の気体供給源28dおよび第2の気体供給源28f(図1参照)から送られた混合気体が、気体射出口28aからチャンバ16内部へ射出される射出点である。実際は、気体射出口28aが円周状のスリットであるため、射出時の気体は帯状の気流を形成している。従って、点Xは、仮想的な射出点である。
【0058】
図5(a)に示すように、通気路17dの開口部の中心を原点として、垂直上方を0°、紙面で反時計周りに正の方向をとり、矢印Qで示される方向に気体射出口28aから射出される気体の角度を角度αで表す。この角度αは、上述した、熱プラズマ炎の頭部(始端部)から尾部(終端部)への方向(通常は鉛直方向)となす角度である。
【0059】
また、図5(b)に示すように、上記仮想的な射出点Xを原点として、熱プラズマ炎24の中心に向かう方向が0°、紙面で反時計回りを正の方向として、熱プラズマ炎24の頭部(始端部)から尾部(終端部)への方向に対して垂直な面方向における、矢印Qで示される方向に気体射出口28aから射出される気体の角度を角度βで表す。この角度βは、上述した、熱プラズマ炎の頭部(始端部)から尾部(終端部)への方向に対して直交する面内(通常は水平面内)で、熱プラズマ炎の中心部に対する角度である。
【0060】
上述した角度α(通常は鉛直方向の角度)および角度β(通常は水平方向の角度)を用いると、前記所定の角度、すなわち、前記気体の前記チャンバ内への導入方向は、前記チャンバ16内において、熱プラズマ炎24の尾部(終端部)に対して、角度αが90°<α<240°(より好ましくは100°<α<180°の範囲、最も好ましくはα=135°)、角度βが−90°<β<90°(より好ましくは−45°<β<45°の範囲、最も好ましくはβ=0°)であるのがよい。
【0061】
上述したように、熱プラズマ炎24に向かって所定の供給量および所定の角度で射出された気体により、上記気相状態の混合物が急冷され、超微粒子18が生成する。上述の所定の角度でチャンバ16内に射出された気体は、チャンバ16内に発生する乱流等の影響により必ずしもその射出された角度で熱プラズマ炎24の尾部に到達するわけではないが、気相状態の混合物の冷却を効果的に行い、かつ熱プラズマ炎24を安定させて効率よく超微粒子製造装置10を動作させるためには、上記角度に決定するのが好ましい。なお、上記角度は、装置の寸法,熱プラズマ炎の大きさ等の条件を考慮して、実験的に決定すればよい。
【0062】
一方、気体射出口28bは、下部天板部品17b内に形成されたスリットである。気体射出口28bは、生成した超微粒子18がチャンバ16内壁へ付着することを防止するために、上記気体をチャンバ16内に導入するものである。
気体射出口28bは、天板17と同心である、円周状に形成されたスリットである。ただし、上記の目的を十分に達成する形状であれば、スリットである必要はない。
【0063】
ここで、第1の気体供給源28dから管28cを介して天板17(詳しくは、下部天板部品17b)内に導入された気体は、通気路17eを介して気体射出口28bからチャンバ16の内側壁に沿って上方から下方に向かって、図1,図4に示す矢印Rの方向に射出される。
【0064】
この作用は、前記超微粒子が回収される過程(工程)において、前記超微粒子がチャンバ16の内側壁に付着するのを防止する効果をもたらす。気体射出口28bから射出される気体の量は、その目的を達成するに足りる量であれば不必要に大量でなくてよく、超微粒子がチャンバ16の内側壁に付着するのを防止するのに十分な量でよい。
すなわち、気体Bの供給量は、熱プラズマ炎24のサイズおよび状態と、チャンバ16のサイズやチャンバ16内壁面のサイズおよび状態に応じて、適宜設定すればよいが、例えば、気体Aの1.5〜5倍程度の量であるのがこのましい。
【0065】
なお、図1に示したチャンバ16の側壁に設けられている圧力計16pは、チャンバ16内の圧力を監視するためのものであり、主として、前述のようにチャンバ16内に供給されるガス量の変動等を検知し、系内の圧力を制御するためにも用いられる。
【0066】
図1に示すように、チャンバ16の側方には、生成した超微粒子18を回収する回収部20が設けられている。回収部20は回収室20aと、回収室20a内に設けられたフィルター20bと、回収室20a上部に設けられた管20cを介して接続された真空ポンプ(図示されていない)と、を備える。生成した超微粒子は、上記真空ポンプで吸引されることにより、回収室20a内に引き込まれ、フィルター20bの表面で留まった状態になって回収される。
【0067】
次に、上述した超微粒子製造装置10の作用を述べつつ、この超微粒子製造装置10を用いて、本発明の一実施形態に係る超微粒子の製造方法、およびこの製造方法により生成する超微粒子について説明する。
【0068】
本実施形態に係る超微粒子の製造方法では、まず、超微粒子製造用材料である粉末材料を材料供給装置14に投入する。
また、ここで、使用する粉末材料の粒径は、例えば、10μm以下であることが好ましい。
【0069】
ここで、粉末材料は、熱プラズマ炎により蒸発させられるものであれば、その種類を問わないが、好ましくは、以下のものがよい。すなわち、原子番号12,13,26〜30,46〜50,62,78〜83の元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む金属、合金、単体酸化物、複合酸化物、複酸化物、酸化物固溶体、水酸化物、炭酸化合物、ハロゲン化物、硫化物、窒化物、炭化物、水素化物、金属塩または金属有機化合物を適宜選択すればよい。
【0070】
なお、単体酸化物とは酸素以外に1種の元素からなる酸化物をいい、複合酸化物とは複数種の酸化物から構成されるものをいい、複酸化物とは2種以上の酸化物からできている高次酸化物をいい、酸化物固溶体とは異なる酸化物が互いに均一に溶け合った固体をいう。また、金属とは1種以上の金属元素のみで構成されるものをいい、合金とは2種以上の金属元素から構成されるものをいい、その組織状態としては、固溶体,共融混合物,金属間化合物あるいはそれらの混合物をなす場合がある。
【0071】
また、水酸化物とは水酸基と1種以上の金属元素から構成されるものをいい、炭酸化合物とは炭酸基と1種以上の金属元素から構成されるものをいい、ハロゲン化物とはハロゲン元素と1種以上の金属元素から構成されるものをいい、硫化物とは硫黄と1種以上の金属元素から構成されるものをいう。また、窒化物とは窒素と1種以上の金属元素から構成されるものをいい、炭化物とは炭素と1種以上の金属元素から構成されるものをいい、水素化物とは水素と1種以上の金属元素から構成されるものをいう。また、金属塩は少なくとも1種以上の金属元素を含むイオン性化合物をいい、金属有機化合物とは1種以上の金属元素と少なくともC,O,N元素のいずれかとの結合を含む有機化合物をいい、金属アルコキシドや有機金属錯体等が挙げられる。
【0072】
次に、キャリアガスを用いて超微粒子製造用材料を気体搬送し、プラズマトーチ12内に導入するための導入管14aを介して熱プラズマ炎24中に導入して蒸発させ、気相状態の混合物にする。つまり、熱プラズマ炎24中に導入された粉末材料は、プラズマトーチ12内に供給されることにより、プラズマトーチ12内に発生している熱プラズマ炎24中に導入され、蒸発する結果、気相状態の混合物となる。
【0073】
なお、上記粉末材料が熱プラズマ炎24中で気相状態になる必要があるため、熱プラズマ炎24の温度は、粉末材料の沸点よりも高いことが必要である。一方、熱プラズマ炎24の温度が高いほど、容易に原材料が気相状態となるので好ましいが、特に温度は限定されず、原材料に応じて温度を適宜選択してよい。例えば、熱プラズマ炎24の温度を6000℃とすることもできるし、理論上は、10000℃程度に達するものと考えられる。
【0074】
また、プラズマトーチ12内における圧力雰囲気は、大気圧以下であることが好ましい。ここで、大気圧以下の雰囲気については、特に限定されないが、例えば0.5〜100kPaとすることが考えられる。
【0075】
次に、熱プラズマ炎24中で粉末材料が蒸発し気相状態となった混合物を、チャンバ16内で急冷することにより、超微粒子18が生成する。詳しくは、熱プラズマ24中で気相状態となった混合物が、気体射出口28aを介して所定の角度および供給量で熱プラズマ炎に向かって矢印Qで示される方向に射出される気体によって急冷され、超微粒子18が生成する。
【0076】
生成直後の超微粒子同士が衝突し、凝集体を形成することで粒径の不均一が生じると、品質低下の要因となる。これに対し、本発明に係る超微粒子の製造方法においては、気体射出口28aを介して所定の角度および供給量で熱プラズマ炎の尾部(終端部)に向かって矢印Qで示される方向に射出される気体Aが、超微粒子18を希釈することで、超微粒子同士が衝突し凝集することを防止する。
【0077】
また、チャンバ16内の温度・圧力条件により、気体Aに含まれる反応性ガスが分解・反応し、生成した超微粒子18の表面上で、炭素単体物および/または炭素化合物を生成し、もしくは生成した炭素単体物および/または炭素化合物が超微粒子18の表面上に吸着することで、超微粒子同士の凝集・融着および酸化を防止する。
【0078】
つまり、気体射出口28aから射出された気体が、上記気相状態の混合物を急冷し、さらに、生成した超微粒子の凝集を防止すると同時に、射出された気体に含まれる反応性ガスに由来する炭素単体物および/または炭素化合物で超微粒子の表面が被覆されることで、粒子径の微細化、および粒子径の均一化および粒子同士の凝集・融着および酸化を防止するように作用しており、このことは本発明の大きな特徴である。
【0079】
ところで、気体射出口28aから射出される気体は、熱プラズマ炎24の安定性に少なからず悪影響を与える。しかし、装置全体を連続的に運転するためには熱プラズマ炎を安定させる必要がある。このため、本実施形態に係る超微粒子製造装置10における気体射出口28aは、円周状に形成されたスリットとなっており、そのスリット幅を調節することで気体の供給量および射出速度を調節することができ、中心方向に均一な気体を射出することができるので、熱プラズマ炎を安定させるのに好ましい形状を有するといえる。また、この調節は、射出される気体の供給量を変えることでも行える。
【0080】
一方、第2の導入気体は、気体射出口28bを介してチャンバ16の内側壁に沿って上方から下方に向かって、図1,図4に示す矢印Rの方向に射出される。これによって、超微粒子の回収の過程において、超微粒子18がチャンバ16の内壁に付着することを防止し、生成した超微粒子の収率を向上させることができる。最終的に、チャンバ16内で生成した超微粒子は、管20cに接続された真空ポンプ(図示されていない)により吸引され、回収部20のフィルター20bで回収される。
【0081】
ここで、キャリアガスまたは噴霧ガスとしては、一般には、空気,酸素,窒素,アルゴンまたは水素等の使用が考えられるが、生成する超微粒子が金属超微粒子の場合には、キャリアガスまたは噴霧ガスとしてアルゴンを用いるとよい。
【0082】
第1の導入気体に含まれる反応性ガスとしては、熱プラズマ中で分解・反応して原子レベルの炭素を発生させ得るものであれば、各種のものが用い得る。例えば、上述のメタンの他、例えば、エタン,プロパン,ブタン,アセチレン,エチレン,プロピレン,ブテン等の炭素数4以下の各種の炭化水素ガス等が好適に用い得る。また、上述の原子レベルの炭素は、前述の生成する超微粒子表面で生成、もしくは、表面に吸着しやすいものであることが好ましい。
【0083】
本実施形態に係る製造方法により製造される超微粒子は、その粒度分布幅が狭い、すなわち、均一な粒径を有し、粗大粒子の混入が少なく、具体的には、その平均粒径が1〜100nmである。本実施形態に係る超微粒子の製造方法では、例えば単体無機物,単体酸化物,複合酸化物,複酸化物,酸化物固溶体,金属,合金,水酸化物,炭酸化合物,燐酸化合物,ハロゲン化物,硫化物,単体窒化物,複合窒化物,単体炭化物,複合炭化物または水素化物等の超微粒子の表面に、薄膜を形成することができる。
【0084】
本実施形態における反応性ガスの作用は、チャンバ16内の温度・圧力条件によりこれが分解・反応して、生成した超微粒子18の表面上で、炭素単体物および/または炭素化合物を生成し、もしくは、生成した炭素単体物および/または炭素化合物が超微粒子18の表面上に吸着することによって、炭素単体物および/または炭素化合物に表面を被覆された超微粒子を生成させる点にある。
【0085】
すなわち、前述のように、本実施形態に係る超微粒子製造方法により生成する超微粒子は、その粒径が上述したように小さいので、その表面活性が極めて大きくなり、上述のような炭素単体物および/または炭素化合物による超微粒子の表面被覆は、短時間のうちに迅速に行われるようになる。
【0086】
なお、上記射出される気体Aは、気相状態の混合物が急冷され凝固することによって生成する超微粒子同士が、衝突して凝集することを防ぐことができる。つまり、本発明に係る超微粒子の製造方法は、気相状態の混合物を急冷する過程、並びに生成した超微粒子の表面が炭素単体物および/または炭素化合物で被覆されることで、凝集・融着および酸化を防ぐと同時に、粒径が微細かつ均一で、品質の良い高純度の超微粒子を高い生産性で製造する過程を有しているために、上記過程で生成した超微粒子の表面に反応性ガスの分解・反応に由来する炭素単体物および/または炭素化合物を均一に付着させることができるものである。
【0087】
また、本実施形態に係る超微粒子の製造方法では、プラズマガス,キャリアガス,供給原材料に由来するガスおよび反応性ガスからなり、回収部に備えられた真空ポンプの排気動作等によりチャンバ16内に生み出される気流によって、熱プラズマ炎から気相状態の混合物を十分に離れた場所に導くことで実現される冷却のみならず、熱プラズマ炎の尾部(終端部)に向けて射出される気体により、気相状態の混合物を急冷することができるという作用をも有している。
【0088】
以下に、上記実施形態に係る装置を用いた実施例を説明する。
【0089】
〔実施例1〕
まず、銀の超微粒子を製造し、粒子同士の凝集・融着を防止した実施例を示す。
原料として、平均粒径4.5μmの銀粉末を用いた。
また、キャリアガスとしては、アルゴンを用いた。
【0090】
プラズマトーチ12の高周波発振用コイル12bには、約4MHz,約80kVAの高周波電圧を印加し、プラズマガス供給源22からは、プラズマガスとして、アルゴン80リットル/min,水素5リットル/minの混合ガスを導入し、プラズマトーチ12内にアルゴン・水素熱プラズマ炎を発生させた。なお、ここでは、反応温度が約8000℃になるように制御し、材料供給装置14のキャリアガス供給源15からは、10リットル/minのキャリアガスを供給した。
【0091】
銀粉末を、キャリアガスであるアルゴンとともにプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に導入した。
気体導入装置28によって、チャンバ16内に導入される気体としては、気体射出口28aから射出されるガスにはアルゴン150リットル/minと反応性ガスであるメタン2.5リットル/minとを混合したものを用い、また、気体射出口28bから射出されるガスにはアルゴン50リットル/minを使用した。このときのチャンバ内流速は、0.25m/secであった。なお、チャンバ16内の圧力は、50kPaとした。
【0092】
上記のような製造条件で生成された銀超微粒子の比表面積(1グラム当たりの表面積)から換算した粒子径は、70nmであった。図6,図7に、粒子の電子顕微鏡写真を示す。図6は走査型電子顕微鏡による写真で、この銀超微粒子の表面を観察したところでは、粒子同士の融着は殆んど発生していなかった。また、図7は透過型電子顕微鏡による写真で、超微粒子表面に形成されている被膜が観察される。図8は、炭素単体物および/または炭素化合物で被覆されている銀ナノ粒子からクロロホルムを用いて表面被覆物を抽出し、それらの赤外吸収スペクトルを測定した結果である。
【0093】
図8に示されるように、1350〜1450cm−1および2800〜3100cm−1には、−CH−を初めとしたパラフィン,オレフィン系の原子団に由来する吸収が、700〜900cm−1および1450〜1650cm−1には、ベンゼン環を初めとした芳香族系の原子団に由来する吸収が、また、1200〜1300cm−1および1650〜1750cm−1には、カルボン酸系の原子団(−COOH)に由来する吸収が現れていることから、超微粒子の表面被覆膜は、炭素化合物(炭化水素化合物)で構成されていることが確認できる。
なお、本実施例で生成された超微粒子の収率は、投入した粉末材料100g当たりに回収された前記銀超微粒子の量が40gであったことから、40%であった。
【0094】
〔実施例2〕
次に、実施例1と同じく銀の超微粒子を製造し、反応性ガス量を変え、粒子径を制御した実施例を示す。
原料として、平均粒径4.5μmの銀粉末を用いた。
また、キャリアガスとしては、アルゴンを用いた。
【0095】
ここで、プラズマトーチ12に印加した高周波電圧、プラズマガスの供給量等は、実施例1と同じにして、プラズマトーチ12内にアルゴン・水素熱プラズマ炎を発生させた。なお、反応温度も約8000℃になるように制御し、材料供給装置14のキャリアガス供給源15からのキャリアガス供給量も、10リットル/minとした。
【0096】
銀粉末を、キャリアガスであるアルゴンとともにプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に導入した。
気体導入装置28によって、チャンバ16内に導入される気体としては、気体射出口28aから射出されるガスにはアルゴン150リットル/minと反応性ガスであるメタン5.0リットル/minとを混合したものを用い、また、気体射出口28bから射出されるガスにはアルゴン50リットル/minを使用した。このときのチャンバ内流速は、0.25m/secであった。なお、チャンバ16内の圧力は、50kPaとした。
【0097】
上記のような製造条件で生成された銀超微粒子の比表面積から換算した粒子径は、40nmであった。図9に、粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す。また、透過型電子顕微鏡でこの銀超微粒子の表面を観察すると、炭素単体物および/または炭素化合物の層状被膜が確認でき、粒子同士の融着は殆んど発生していなかった。また、生成された超微粒子の収率は、投入した粉末材料100g当たりに回収された前記銀超微粒子の量が45gであったことから、45%であった。
【0098】
〔実施例3〕
次に、銅の超微粒子を製造し、粒子同士の凝集・融着を防止した実施例を示す。
原料として、平均粒径5.0μmの銅粉末を用いた。
また、キャリアガスとしては、アルゴンを用いた。
【0099】
ここで、プラズマトーチ12に印加した高周波電圧、プラズマガスの供給量等は、実施例1,実施例2と同じにして、プラズマトーチ12内にアルゴン・水素熱プラズマ炎を発生させた。なお、反応温度も約8000℃になるように制御し、材料供給装置14のキャリアガス供給源15からのキャリアガス供給量も、10リットル/minとした。
【0100】
銅粉末を、キャリアガスであるアルゴンとともにプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に導入した。
気体導入装置28によって、チャンバ16内に導入される気体としては、気体射出口28aから射出されるガスにはアルゴン150リットル/minと反応性ガスであるメタン5.0リットル/minとを混合したものを用い、また、気体射出口28bから射出されるガスにはアルゴン50リットル/minを使用した。このときのチャンバ内流速は、0.25m/secであった。なお、チャンバ16内の圧力は、35kPaとした。
【0101】
上記のような製造条件で生成された銅超微粒子の比表面積から換算した粒子径は、20nmであった。透過型電子顕微鏡でこの銅超微粒子の表面を観察すると、炭素単体物および/または炭素化合物の層状被膜が確認でき、粒子同士の融着は殆んど発生していなかった。また、生成直後の超微粒子は、X線回折による分析で銅であることが確認できた。
図10は、本方法で調製した銀ナノ粒子表面の被覆膜を、透過型電子顕微鏡を組み合わせた電子エネルギー損失分光法で測定した結果である。
本測定によれば、σ結合だけでなくπ結合も同時に確認できることから、超微粒子の表面被覆膜には、赤外吸収スペクトルによる測定で確認した炭素化合物(図8参照)だけでなく、グラファイト等の炭素単体物も含まれていることが確認できる。
【0102】
また、この銅超微粒子は、3週間大気中に放置したものでも、酸化は殆んど生じなかった。
なお、生成された前記超微粒子の収率は、投入した粉末材料100g当たりに回収された前記銅超微粒子の量が40gであったことから、40%であった。
【0103】
なお、実施例1〜実施例3の結果から、超微粒子製造時の、前述の気体Aおよび気体Bの流量を制御することにより、生成する超微粒子の大きさおよびその表面に形成される被覆薄膜の膜厚を所望の値に設定することが可能であることがわかる。
ただし、この制御条件は、他の条件との関係もあるので一概には決められず、今のところは、試行錯誤的に決定する必要がある。
【0104】
〔比較例〕
次に、比較例として、実施形態に係る装置を用いて、反応性ガスを気体射出口28aからではなく、キャリアガスに混合して、銀の超微粒子を製造した例を示す。
原料として、平均粒径4.5μmの銀粉末を用いた。
また、キャリアガスとしては、アルゴン9.0リットル/minと反応性ガスであるメタン1.0リットル/minを混合したものを用いた。
【0105】
ここでも、プラズマトーチ12に印加した高周波電圧、プラズマガスの供給量等は、実施例1〜実施例3と同じにして、プラズマトーチ12内にアルゴン・水素熱プラズマ炎を発生させた。なお、反応温度も約8000℃になるように制御し、材料供給装置14のキャリアガス供給源15からのキャリアガス供給量も、10リットル/minとした。
【0106】
銀粉末を、キャリアガスであるアルゴンとメタンの混合ガスによりプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に導入した。
気体導入装置28によって、チャンバ16内に導入される気体としては、気体射出口28aから射出されるガスにはアルゴン150リットル/minを用い、また、気体射出口28bから射出されるガスにはアルゴン50リットル/minを使用した。このときのチャンバ内流速は、0.25m/secであった。なお、チャンバ16内の圧力は、50kPaとした。
【0107】
上記のような製造条件で生成された銀超微粒子を走査型電子顕微鏡で観察すると、超微粒子だけでなく、溶け残った原料由来の大きな粒子や、反応性ガスであるメタンに由来するグラファイトが確認され、粒子径や形状の均一性を実現することは不可能であった。図11に、粒子の電子顕微鏡写真を示す。
【0108】
表1に、実施例1〜2に示したと同様の銀の超微粒子を製造する際における、チャンバ16内に導入される気体としての混合ガス(アルゴンとメタン)の流量を変更した場合に生成する超微粒子の粒径の変化についてのその後の実験結果をまとめた。ここでは、アルゴンの流量を100リットル/minと150リットル/minに、メタンの流量を0.5リットル/min〜5.0リットル/minに変更している。
なお、表1において、BETは前述の比表面積を、DBETはこれから算出した超微粒子の粒径を示している。
【0109】
【表1】

【0110】
なお、上記実施形態並びに実施例は、本発明の一例を示したものであり、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更や改良を行ってもよいことはいうまでもない。
【0111】
例えば、プラズマ炎を安定化するために、超微粒子製造用材料を熱プラズマ炎中に導入する際に、自身が燃焼する可燃性材料を添加・混合することも有効である。この場合、粉末材料と可燃性材料との質量比は、一例として95:5とすることが考えられるが、これに限られるものではない。
【0112】
また、チャンバ16内への冷却用ガス並びに反応性ガスの供給方法についても、図4中の気体射出口28a,28bを冷却用ガス専用の射出口とし、反応性ガス専用の射出口を例えば射出口28aの外側近傍に新たに設ける方法、または、天板17内で気体射出口28aの途中に反応性ガスを送り込む方法等も採用し得るなど、種々の変更・組み合わせが可能である。この場合には、各ガスをチャンバ16に供給するまで混合せずに導くことになるので、配管途中での混合操作が不要になるという利点がある。
【0113】
また、本発明に係る薄膜を被覆した超微粒子の製造方法の変形例としては、比較例として示したような、反応性ガスをキャリアガスと混合して用いる方法も考えられるが、この場合には、粉末材料の粗大粒子が残存する可能性があるものの、後処理工程として分級操作等を加えることを容認すれば、実用に供することも不可能ではない。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の一実施形態に係る超微粒子の製造方法を実施するための超微粒子製造装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】図1中のプラズマトーチ付近の断面図である。
【図3】粉末材料供給装置の概略構成を示す断面図である。
【図4】図1中のチャンバの天板およびこの天板に備えられた気体射出口付近を拡大して示す断面図である。
【図5】射出される気体の角度を示す説明図であり、(a)はチャンバの天板の中心軸を通る垂直方向の断面図、(b)は天板を下方から見た下面図である。
【図6】実施例1に係る粒子の電子顕微鏡写真である(倍率5万倍)。
【図7】実施例1に係る粒子の電子顕微鏡写真である(倍率200万倍)。
【図8】実施例1に係る粒子表面被覆膜の赤外吸収スペクトルである。
【図9】実施例2に係る粒子の電子顕微鏡写真である(倍率5万倍)。
【図10】実施例3に係る粒子表面被覆膜の電子エネルギー損失分光法による測定結果である。
【図11】比較例に係る粒子の電子顕微鏡写真である(倍率5千倍)。
【符号の説明】
【0115】
10 (超微粒子)製造装置
12 プラズマトーチ
12a 石英管
12b 高周波発振用コイル
12c プラズマガス導入口
14 材料供給装置
14a 導入管
15 キャリアガス供給源
16 チャンバ
16p 圧力計
17 天板
17a 内側部天板部品
17b 下部天板部品
17c 上部外側部天板部品
17d,17e 通気路
18 超微粒子
20 回収部
20a 回収室
20b フィルター
20c 管
22 プラズマガス供給源
24 熱プラズマ炎
26 管
28 気体導入装置
28a,28b 気体射出口
28c,28e 管
28d 第1の気体供給源
28f 第2の気体供給源
28g,28h,28i 圧力制御弁
142 貯蔵槽
144 粉末材料
146 攪拌軸
148 攪拌羽根
150a,150b オイルシール
152a,152b 軸受け
154a,154b モータ
160 スクリューフィーダ
162 スクリュー
164 軸
166 ケーシング
170 分散部
172 外管
174 粉体分散室
176 回転ブラシ
178 キャリアガス供給口
180 キャリアガス通路
182 搬送管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧下で、超微粒子製造用材料を熱プラズマ炎中に導入して、気相状態の混合物にし、
この気相状態の混合物を急冷するのに十分な供給量で、反応性ガスと冷却用気体とを前記熱プラズマ炎の終端部(尾部)に向けて導入して、超微粒子を生成させ、
この生成した超微粒子と前記反応性ガスとを接触させて、表面に薄膜を被覆した超微粒子を製造することを特徴とする超微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記超微粒子製造用材料を熱プラズマ炎中に導入する過程が、
前記超微粒子製造用材料を、キャリアガスを用いて分散させ、
この分散させた超微粒子製造用材料を前記熱プラズマ炎中に導入するものである請求項1に記載の超微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記反応性ガス,前記キャリアガスもしくは前記冷却用気体の少なくとも一つの供給量を変化させることにより、前記超微粒子の粒径を制御する請求項2に記載の超微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記反応性ガス,前記キャリアガスもしくは前記冷却用気体の少なくとも一つの供給量を変化させることにより、前記超微粒子の表面に被覆される薄膜の膜厚を制御する請求項2または3に記載の超微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記反応性ガスとして炭化水素ガスを用い、また、前記キャリアガスとして不活性ガスを用いて、前記超微粒子の表面に被覆される薄膜を炭素単体物および/または炭素化合物からなる薄膜とする請求項2〜4のいずれかに記載の超微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記超微粒子製造用材料を構成する成分は、原子番号12,13,26〜30,46〜50,62および78〜83の元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む金属、合金、単体酸化物、複合酸化物、複酸化物、酸化物固溶体、水酸化物、炭酸化合物、ハロゲン化物、硫化物、窒化物、炭化物、水素化物、金属塩または金属有機化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の超微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−138287(P2007−138287A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278609(P2006−278609)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000226998)株式会社日清製粉グループ本社 (125)
【出願人】(000226954)日清エンジニアリング株式会社 (30)
【Fターム(参考)】