説明

超微細炭素繊維の製造方法

【課題】分岐構造の無い超微細炭素繊維を、生産性良く製造する方法を提供する。
【解決手段】(1)熱可塑性樹脂100質量部と、熱可塑性炭素前駆体1〜150質量部とからなる樹脂組成物を100℃〜400℃の雰囲気温度下で成形して、前駆体成形体を得る工程、
(2)前駆体成形体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成形体を形成する工程、
(3)安定化前駆体成形体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程、
(4)繊維状炭素前駆体を不活性ガス雰囲気下で炭素化または黒鉛化して極細炭素繊維を得る工程、
(5)上記極細炭素繊維を含む液体を100MPa以上の高圧噴射流で衝突させる工程、
を経ることを特徴とする、超微細炭素繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超微細炭素繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
極細炭素繊維(カ−ボンナノマテリアル)は高結晶性、高導電性、高強度、高弾性率、軽量等の優れた特性を有していることから、高性能複合材料のナノフィラ−として使用されている。その用途は、従来からの機械的強度向上を目的とした補強用ナノフィラ−に留まらず、炭素材料に備わった高導電性を生かし、各種電池への電極添加材料、キャパシタへの電極添加材料、電磁波シ−ルド材、静電防止材用の導電性樹脂ナノフィラ−として、あるいは樹脂への静電塗料のためのナノフィラ−としての用途が期待されている。また炭素材料としての化学的安定性、熱的安定性と微細構造との特徴を生かし、フラットディスプレ−等の電界電子放出材料としての用途も期待されている。
【0003】
このような、高性能複合材料としての極細炭素繊維の製造法として、1)気相法を用いた炭素繊維(Vapor Grown carbon Fiber;以下VGCFと略す)製造法、2)樹脂組成物の溶融紡糸から製造する方法の2つが報告されている。
【0004】
気相法を用いた製造法としては、例えばベンゼン等の有機化合物を原料とし、触媒としてフェロセン等の有機遷移金属化合物をキャリア−ガスとともに高温の反応炉に導入し、基盤上に生成させる方法(例えば、特許文献1を参照)、浮遊状態でVGCFを生成させる方法(例えば、特許文献2を参照)、あるいは反応炉壁に成長させる方法(例えば、特許文献3を参照)等が開示されている。しかし、これらの方法で得られる極細炭素繊維は高強度、高弾性率を有するものの、繊維の分岐が多く、補強用フィラ−としては性能が低いといった問題があった。また、生産性からコスト高になるといった問題もあった。更に、気相法を用いた製造法では、VGCF中に金属触媒や不純物炭素質が共存することから、その応用分野によっては精製が必要となり、この精製のためのコスト負担が大きくなるという問題もあった。
【0005】
一方、樹脂組成物の溶融紡糸から炭素繊維を製造する方法としては、フェノ−ル樹脂とポリエチレンとの複合繊維から極細炭素繊維を製造する方法(例えば、特許文献4を参照)が開示されている。該方法の場合、分岐構造の少ない極細炭素繊維が得られるが、フェノ−ル樹脂は完全非晶であるため、配向形成しにくく、かつ難黒鉛化性であるため得られる極細炭素繊維の強度、弾性率の発現は期待できない等の問題があった。
また、いずれの製造法で作製した極細炭素繊維も繊維長が長いため、電極添加材料等へ用いると均質なコーティングが困難になるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−27700号公報(公報第2−3頁)
【特許文献2】特開昭60−54998号公報(公報第1−2頁)
【特許文献3】特許第2778434号公報(公報第1−2頁)
【特許文献4】特開2001−73226号公報(公報3−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題を解決し、分岐構造の無い超微細炭素繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
1.(1)熱可塑性樹脂100質量部と、熱可塑性炭素前駆体1〜150質量部とからなる樹脂組成物を100℃〜400℃の雰囲気温度下で成形して、前駆体成形体を得る工程、
(2)前駆体成形体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成形体を形成する工程、
(3)安定化前駆体成形体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程、
(4)繊維状炭素前駆体を不活性ガス雰囲気下で炭素化または黒鉛化して極細炭素繊維を得る工程、
(5)上記極細炭素繊維を含む液体を100MPa以上の高圧噴射流で衝突させる工程、
を経ることを特徴とする、超微細炭素繊維の製造方法。
2.繊維長が8μm以下の超微細炭素繊維を与える、上記1.の製造方法。
3.繊維径が0.05〜1μmの超微細炭素繊維を与える、上記1.又は2.に記載の製造方法。
4.安定化前駆体成型体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程にて、熱可塑性樹脂の除去を減圧下400℃以上に加熱して行う、上記1.から3.のいずれかに記載の製造方法。
5.前駆体成型体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成型体を形成する工程と、安定化前駆体成型体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程とを、前駆体成形体を目付け100g/m以下の不織布状にして、600℃以上の耐熱性を有する支持基材に保持した状態で行う、上記1.から4.のいずれかに記載の製造方法。
6.前駆体成形体が、溶融紡糸法により成形された前駆体繊維である、上記1.から5.のいずれかに記載の製造方法。
7.熱可塑性炭素前駆体が石油系メソフェ−ズピッチ、石炭系メソフェ−ズピッチ、合成液晶ピッチからなる群より選ばれる少なくとも一種である、上記1.から6.のいずれかに記載の製造方法。
8.熱可塑性樹脂が、ポリオレフィンである、上記1.から7.のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の超微細炭素繊維の製造方法は、従来知られていた極細炭素繊維より繊維長が短い超微細炭素繊維を簡便に得ることが出来る。この方法によって得られた超微細炭素繊維は、各種電池への電極添加材料、キャパシタへの電極添加材料、電磁波シ−ルド材、静電防止材用の導電性樹脂ナノフィラ−として、あるいは樹脂への静電塗料のためのナノフィラ−として優れた特性を有する。更に、フェノ−ル樹脂とポリエチレンとの複合繊維から得られる炭素繊維に比べ、優れた機械特性を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、(1)熱可塑性樹脂100質量部と、熱可塑性炭素前駆体1〜150質量部とからなる樹脂組成物を100℃〜400℃の雰囲気温度下で成形して、前駆体成形体を得る工程、(2)前駆体成形体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成形体を形成する工程、(3)安定化前駆体成形体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程、(4)繊維状炭素前駆体を不活性ガス雰囲気下で炭素化または黒鉛化して極細炭素繊維を得る工程、(5)上記極細炭素繊維を含む液体を100MPa以上の高圧噴射流で衝突させる工程、を経ることを特徴とする。
【0011】
(a)熱可塑性樹脂
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、安定化前駆体成型体を製造後、容易に除去される必要がある。このような熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート系ポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルカーボネート、ポリサルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリ乳酸等が好ましく使用される。これらの中でも、ポリオレフィンが好ましく挙げられる。
ポリオレフィンの具体的な例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1およびこれらを含む共重合体が挙げられ、ポリエチレンとしては、高圧法低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどが挙げられる。
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、熱可塑性炭素前駆体と容易に溶融混練できるという点から、非晶性の場合、ガラス転移温度が250℃以下、結晶性の場合、融点が300℃以下であることが好ましい。
【0012】
(b)熱可塑性炭素前駆体
次に、本発明で使用する熱可塑性炭素前駆体について説明する。熱可塑性炭素前駆体としては、極細炭素繊維を形成できれば特に限定されないが、ピッチが好ましく、ピッチのなかでも一般的に高結晶性、高導電性、高強度、高弾性率の期待されるメソフェ−ズピッチが好ましい。ここでメソフェ−ズピッチとは溶融状態において光学的異方性相(液晶相)を形成しうる化合物を指す。具体的には、石油残渣油を水素添加・熱処理を主体とする方法ないし水素添加・熱処理・溶剤抽出を主体とする方法で得られる石油系メソフェ−ズピッチ、コ−ルタ−ルピッチを水素添加・熱処理を主体とする方法ないし水素添加・熱処理・溶剤抽出を主体とする方法で得られる石炭系メソフェ−ズピッチ、更にナフタレン、アルキルナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素を原料として超強酸(HF、BFなど)の存在下で重縮合させて得られる合成液晶ピッチ等を用いるのが好ましい。
【0013】
(c)樹脂組成物の製造
本発明で使用する樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体から製造される。熱可塑性炭素前駆体の使用量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜150質量部、好ましくは5〜100質量部である。熱可塑性炭素前駆体の使用量が150質量部を超えると所望の分散径を有する前駆体成形体が得られず、1質量部未満であると目的とする超微細炭素繊維を安価に製造することができない等の問題が生じるため好ましくない。熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体とからなる樹脂組成物を製造する方法は、溶融状態における混練が好ましい。熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体の溶融混練は公知のものを必要に応じて用いることができ、例えば一軸押出機、二軸押出機、ミキシングロ−ル、バンバリ−ミキサ−等が挙げられる。これらの中で上記熱可塑性炭素前駆体を熱可塑性樹脂に良好にミクロ分散させるという目的から、同方向二軸押出機が好ましく使用される。溶融混練温度としては100℃〜400℃で行うのが好ましい。溶融混練温度が100℃未満であると、熱可塑性炭素前駆体が溶融状態にならず、熱可塑性樹脂とのミクロ分散が困難であるため好ましくない。一方、400℃を越える場合、熱可塑性樹脂及び熱可塑性炭素前駆体の分解が進行するため、いずれも好ましくない。溶融混練温度のより好ましい範囲は150℃〜350℃である。また、溶融混練の時間としては0.5〜20分間、好ましくは1〜15分間である。溶融混練の時間が0.5分間未満の場合、熱可塑性炭素前駆体のミクロ分散が困難であるため好ましくない。一方、20分間を越える場合、超微細炭素繊維の生産性が著しく低下し好ましくない。本発明では、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体からなる溶融混練により樹脂組成物を製造する際に、酸素含有量10%未満のガス雰囲気下で溶融混練することが好ましい。本発明で使用する熱可塑性炭素前駆体は酸素と反応することで溶融混練時に熱変性・不融化してしまい、熱可塑性樹脂中へのミクロ分散を阻害することがある。このため、不活性ガスを流通させながら溶融混練を行い、できるだけ酸素ガス含有量を低下させることが好ましい。より好ましい溶融混練時の酸素ガス含有量は5体積%未満、更に好ましくは1体積%未満である。
【0014】
上記の方法で得た樹脂組成物は、熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径が0.01μm〜50μmとなるのが好ましい。樹脂組成物中で熱可塑性炭素前駆体は島相を形成し、球状あるいは楕円状となる。ここで言う分散径とは樹脂組成物中に含まれる熱可塑性炭素前駆体の球形の直径または楕円体の長軸径を意味する。
【0015】
熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径が0.01μm〜50μmの範囲を逸脱すると、高性能複合材料用としての超微細炭素繊維フィラ−を製造することが困難となることがある。熱可塑性炭素前駆体の分散径のより好ましい範囲は0.01μm〜30μmである。また、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体からなる樹脂組成物を、300℃で3分間保持した後、熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径が0.01μm〜50μmであることが好ましい。
【0016】
一般に、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体との溶融混練で得た樹脂組成物を、溶融状態のままで保持しておくと時間と共に熱可塑性炭素前駆体が凝集する。熱可塑性炭素前駆体の凝集により、分散径が50μmを超えると、高性能複合材料用としての超微細炭素繊維フィラ−を製造することが困難となることがある。熱可塑性炭素前駆体の凝集速度の程度は、使用する熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体の種類により変動するが、より好ましくは300℃で5分間、更に好ましくは300℃で10分間以上、0.01μm〜50μmの分散径を維持していることが好ましい。
【0017】
(d)樹脂組成物から超微細炭素繊維を製造する方法
樹脂組成物から、超微細炭素繊維を得るにあたっては、まず樹脂組成物から前駆体成形体を100℃〜400℃の雰囲気下で成形する。該前駆体成形体としては、特に形状を問わないがハンドリングの観点から繊維状であることが好ましい(本発明において、繊維状の前駆体成形体を前駆体繊維と称することがある)。なお、ここで言う繊維状とは繊維径0.5μm〜300μm、繊維軸方向の長さ1mm以上の形態を指す。
【0018】
ここで、繊維状の前駆体成形体(前駆体繊維)を得る方法としては、溶融混練した樹脂組成物を紡糸口金より溶融紡糸することにより、熱可塑性炭素前駆体を含有した複合繊維形態として前駆体成形体を得る方法が好ましいものとして挙げられる。溶融紡糸する際の紡糸温度としては150℃〜400℃、好ましくは180℃〜400℃、より好ましくは230℃〜400℃である。紡糸引き取り速度としては3m/分〜2000m/分であることが好ましい。上記範囲を逸脱すると所望の繊維状前駆体成形体が得られないため好ましくない。熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体とを溶融混練して得た樹脂組成物を、紡糸口金より溶融紡糸する際、溶融状態のままで配管内を送液し紡糸口金より溶融紡糸することが好ましく、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体の溶融混練から紡糸口金までの移送時間は10分間以内であることが好ましい。また、成形体として繊維状とするのに、溶融混練した樹脂組成物をメルトブロ−法によって溶融紡糸する方法も有効である。特に、メルトブロ−法では、前駆体成形体を不織布で得ることができるという利点がある。
【0019】
次いで、得られた前駆体成形体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化処理し安定化前駆体成形体を形成する。この工程は、熱可塑性炭素前駆体の安定化は炭素化もしくは黒鉛化により極細炭素繊維を得るために必要であり、これを実施せず次工程である熱可塑性樹脂の除去を行った場合、熱可塑性炭素前駆体が熱分解したり融着したりするなどの問題が生じる。安定化の方法としては空気、酸素、オゾン、二酸化窒素、ハロゲンなどのガス気流処理、酸性水溶液などの溶液処理など公知の方法で行うことができるが、生産性の面からガス気流下での安定化が好ましい。使用するガス成分としては取り扱いの容易性から空気、酸素それぞれ単独か、あるいはこれらを含む混合ガスであることが好ましい。ガス気流下での安定化の具体的な方法としては、温度50℃〜350℃、好ましくは60℃〜300℃で、5時間以下、好ましくは3.5時間以下で所望のガス雰囲気に曝すことが好ましい。
【0020】
また、上記安定化により前駆体成形体中に含まれる熱可塑性炭素前駆体の軟化点は著しく上昇し、所望の極細炭素繊維を得るという目的から軟化点が400℃以上となることが好ましく、500℃以上であることが更に好ましい。
【0021】
次いで安定化前駆体成形体中に含まれる熱可塑性樹脂を除去し、繊維状炭素前駆体のみを分離するが、この工程では、繊維状炭素繊維前駆体の熱分解をできるだけ抑え、かつ熱可塑性樹脂を分解・除去し、繊維状炭素前駆体のみを分離する必要がある。熱可塑性樹脂を分解・除去する方法としては、例えば溶剤により熱可塑性樹脂を溶融・除去させる方法、熱分解により熱可塑性樹脂を分解・除去する方法を例示することができる。
【0022】
本発明の製造方法では、前駆体成型体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成型体を形成する工程と、安定化前駆体成型体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程とを、600℃以上の耐熱性を有する支持基材により、目付け100g/m以下の前駆体成形体を保持した状態で行うことが好ましい。
【0023】
支持基材により前駆体成形体を保持することによって、「前駆体成型体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成型体を形成する工程」において、加熱処理による前駆体成形体の凝集を抑制することができ、前駆体成形体間の通気性を保つことが可能となる。これを実施せず「前駆体成型体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成型体を形成する工程」の処理を行った場合、前駆体成形体中の熱可塑性炭素前駆体を安定化が不十分となり、熱可塑性炭素前駆体が熱分解したり融着したりするなどの問題が生じることがある。使用する支持基材としては、「前駆体成型体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成型体を形成する工程」の加熱処理による前駆体成形体の凝集を抑制することができれば、所望の支持基材を使用することができるが、空気中での加熱によって変形・腐食を受けないことが必要である。耐熱温度としては、「安定化前駆体成形体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程」の処理温度により、変形しないことが必要であることから、600℃以上の耐熱性が必要である。このような材質としては、ステンレスなどの金属材料やアルミナ、シリカなどのセラミックスを挙げることができる。
【0024】
また、支持基材の形態としては、「前駆体成形体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成形体を形成する工程」での、前駆体成形体間の通気性を保つ効果が求められることから、面垂直方向の通気性のある形状が好ましい。この様な形状としては、好ましくは網目構造が挙げられる。網目構造を支持基材として使用する場合、網目の目開きとしては、0.1mmから5mmであることが好ましい。網目の目開きが5mmよりも大きい場合、「前駆体成形体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成形体を形成する工程」において、加熱処理により網目の線上に前駆体成形体が凝集する程度が大きくなり、熱可塑性炭素前駆体の安定化が不十分となることが考えられるため、好ましくない。一方、網目の目開きが0.1mmよりも小さい場合、支持基材の開孔率の減少により、支持基材の通気性が低下することが考えられることから好ましくない。
【0025】
つぎに、熱可塑性樹脂を除いた繊維状炭素前駆体を不活性ガス雰囲気中で、炭素化もしくは黒鉛化して極細炭素繊維を製造する。その際の容器としては、黒鉛製のルツボ状のものが好ましい。得られる極細炭素繊維の繊維径としては0.1μm〜1μmであり、0.1μm〜0.5μmであることが好ましい。
【0026】
上記の極細繊維状炭素前駆体の炭素化または黒鉛化において使用される不活性ガスとしては窒素、アルゴン等が挙げられ、温度は500℃〜3500℃、好ましくは800℃〜3000℃である。なお、炭素化もしくは黒鉛化する際の、不活性ガス中の酸素濃度は20体積ppm以下、更には10体積ppm以下であることが好ましい。
【0027】
本発明は、高圧湿式微粒化装置等により、前記極細炭素繊維を含む液体を100MPa以上の高圧噴射流で衝突させることが肝要である。該液体を構成する溶媒としては、極細炭素繊維を分散させることが出来れば特に限定されないが、作業性や安全性から水が好ましい。
【0028】
該高圧噴射流の圧力としては、100MPa以上が必要である。100MPa未満の圧力では、極細炭素繊維の短繊維化が不十分であり、好ましくない。より好ましくは120MPa以上である。高圧噴射流の圧力の上限は特に限定されないが、高圧噴射流発生装置のコストから、250MPa以下が好ましい。
【0029】
該高圧噴射流を衝突させる対象は、高圧噴射流によって破壊されなければ特に限定されないが、セラミックが好ましい。また、高圧噴射流を噴射するノズルを対向させて極細炭素繊維同士を衝突させても良い。なお、該高圧噴射流を、衝突させるのではなく、スリットを通過させる方式の装置によっても、せん断力によって同様の効果が得られる。
【0030】
上記の極細炭素繊維を含む液体を100MPa以上の高圧噴射流で衝突させることにより、繊維長を8μm以下の超微細炭素繊維を得ることができる。また、この高圧噴射流で衝突させる処理を経ても、炭素化または黒鉛化処理により得られた直後の極細炭素繊維の繊維径0.05μm〜1μm(好ましくは、0.1μm〜0.5μm)は維持されている。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものでは無い。なお、実施例中の各値は以下の方法に従って求めた。
本実施例において、熱可塑性樹脂中の熱可塑性炭素前駆体の分散粒子径および炭素繊維の繊維径、繊維長は、走査型電子顕微鏡S−2400(株式会社日立製作所製)にて観察・測定した。
【0032】
[実施例1]
熱可塑性樹脂として高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー社製、ハイゼックス5000SR)90質量部と熱可塑性炭素前駆体としてメソフェーズピッチAR−MPH(三菱ガス化学株式会社製)10部を同方向二軸押出機(東芝機械株式会社製TEM−26SS、バレル温度310℃、窒素気流下)で溶融混練して樹脂組成物を作製した。この条件で得られた樹脂組成物における、熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径は0.05〜2μmであった。次いで、上記樹脂組成物を用いて、シリンダー式単孔紡糸機により、紡糸温度390℃の条件にて、繊維径100μmの長繊維(前駆体成形体)を作製した。次に、この前駆体成形体からなる30g/mの目付けの不織布を、水を用いた抄紙法により調製し、ステンレス製の金網上に置き、215℃の熱風乾燥機の中で3時間保持させることにより、安定化前駆体成形体を作製した。なお、この際使用の金網は、目開きが1.46mm、直径が0.35mmの綾織りのステンレス製金網を使用し、金網の間隔は、10mmであった。
【0033】
次に、前記の安定化前駆体成形体を真空ガス置換炉中で、窒素ガス雰囲気下で加熱することにより、繊維状炭素前駆体からなる不織布を作製した。加熱条件は、昇温速度5℃/分にて500℃まで昇温後、同温度で60分間保持を行った。
この繊維状炭素前駆体からなる不織布をエタノール溶媒中に加え、超音波発振器により30分間、振動を加えることによって、溶媒中に繊維状炭素前駆体を分散させた。溶媒中に分散させた繊維状炭素前駆体を濾過することによって、繊維状炭素前駆体を分散させた不織布を作製した。
【0034】
この繊維状炭素前駆体を分散させた不織布をアルゴンガス雰囲気下、室温から3時間で2800℃まで昇温することで極細炭素繊維を作製した。得られた極細炭素繊維の繊維径は300〜600nm(0.3〜0.6μm)であり、繊維が融着した繊維集合体がほとんどなく、非常に分散性に優れた極細炭素繊維であった。得られた極細炭素繊維の電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0035】
この得られた極細炭素繊維を水に分散させた液体(極細炭素繊維1質量%分散液)を作製し、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製、スターバーストミニ)を用いて、245MPaの高圧噴射流をセラミックボールに衝突させた。これを20回繰り返すことにより、超微細炭素繊維を得た。
得られた超微細炭素繊維の電子顕微鏡写真を図2に示す。8μmを超過する繊維長の超微細炭素繊維、および繊維径が0.05〜1μmの範囲に入らない超微細炭素繊維は観察されなかった。
【0036】
[比較例1]
水溶液を作製して、高圧噴射流をセラミックボールに衝突させる代わりに、ジェットミル(株式会社セイシン企業、A−Oジェットミル)を用いて、0.1MPaの空気流に炭素繊維をのせて、セラミック壁に衝突させることで短繊維長化を試みた。
ジェットミルによる処理にて得られた極細炭素繊維の電子顕微鏡写真を図3に示す。繊維長5μm以上の極細繊維が多く観察され、短繊維化がほとんど起こっていないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1の操作において高圧噴射流処理を行う前の極細炭素繊維を電界放射型走査電子顕微鏡(日立製FE−SEM、S−4800)により撮影した写真図(8,000倍)である。
【図2】実施例1の操作によって得られた超微細炭素繊維を電界放射型走査電子顕微鏡(日立製FE−SEM、S−4800)により撮影した写真図(8,000倍)である。
【図3】比較例1の操作によって得られた極細炭素繊維を電界放射型走査電子顕微鏡(日立社製FE−SEM、S−4800)により撮影した写真図(8,000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)熱可塑性樹脂100質量部と、熱可塑性炭素前駆体1〜150質量部とからなる樹脂組成物を100℃〜400℃の雰囲気温度下で成形して、前駆体成形体を得る工程、
(2)前駆体成形体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成形体を形成する工程、
(3)安定化前駆体成形体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程、
(4)繊維状炭素前駆体を不活性ガス雰囲気下で炭素化または黒鉛化して極細炭素繊維を得る工程、
(5)上記極細炭素繊維を含む液体を100MPa以上の高圧噴射流で衝突させる工程、
を経ることを特徴とする、超微細炭素繊維の製造方法。
【請求項2】
繊維長が8μm以下の超微細炭素繊維を与える請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
繊維径が0.05〜1μmの超微細炭素繊維を与える、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
安定化前駆体成型体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程にて、熱可塑性樹脂の除去を減圧下400℃以上に加熱して行う、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前駆体成型体に含まれる熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体成型体を形成する工程と、安定化前駆体成型体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程とを、前駆体成形体を目付け100g/m以下の不織布状にして、600℃以上の耐熱性を有する支持基材に保持した状態で行う、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前駆体成形体が、溶融紡糸法により成形された前駆体繊維である、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
熱可塑性炭素前駆体が石油系メソフェ−ズピッチ、石炭系メソフェ−ズピッチ、合成液晶ピッチからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂が、ポリオレフィンである、請求項1から7記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−13742(P2010−13742A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172170(P2008−172170)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】