説明

超砥粒工具

【課題】めっき法により超硬質砥粒をNi系のボンド層で固着したものであっても、長寿命化を図ることができると共に被研削体の品質低下を防止できる超砥粒工具を提供する。
【解決手段】ボンド層13よりも高い硬度を有するダイヤモンドライクカーボンからなる保護層16で当該ボンド層13の表面を覆うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき法により超硬質砥粒をNi系のボンド層で固着した超砥粒工具に関する。
【背景技術】
【0002】
研削加工等に使用される超砥粒工具は、例えば、電気Niめっきや無電解Ni−Pめっきや無電解Ni−Bめっき等のようなめっき法によって、S45CやS25C等の炭素鋼等からなる基材にボンド層(めっき層)を形成してダイヤモンドやcBN等からなる超硬質砥粒を固着することにより、製造されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−221978号公報
【特許文献2】特開2001−001266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したようなNi系のボンド層で超硬質砥粒を固着した超砥粒工具においては、当該ボンド層の硬度が低いことから(Hv約150〜550)、研削加工等の際に発生した切屑が当該ボンド層と接触することにより、当該ボンド層が摩耗して、当該ボンド層から超硬質砥粒が脱落してしまい、寿命が短くなってしまうという問題があった。
【0005】
さらに、研削加工等のときにS45C等のような炭素鋼からなる被研削体と上記ボンド層とが接触すると、当該被研削体に焼き付きを生じて、当該被研削体の表面粗さが粗くなってしまい、品質低下を引き起こす場合があった。
【0006】
このようなことから、本発明は、めっき法により超硬質砥粒をNi系のボンド層で固着したものであっても、長寿命化を図ることができると共に被研削体の品質低下を防止することができる超砥粒工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決するための、第一番目の発明に係る超砥粒工具は、めっき法により超硬質砥粒をNi系のボンド層で固着した超砥粒工具において、少なくとも前記ボンド層の表面を覆うように設けられて当該ボンド層よりも高い硬度を有する保護層を備えていることを特徴とする。
【0008】
第二番目の発明に係る超砥粒工具は、第一番目の発明において、前記保護層が、前記超硬質砥粒も覆うように設けられていることを特徴とする。
【0009】
第三番目の発明に係る超砥粒工具は、第一番目又は第二番目の発明において、前記保護層が、ダイヤモンドライクカーボンであることを特徴とする。
【0010】
第四番目の発明に係る超砥粒工具は、第一番目から第三番目の発明のいずれかにおいて、少なくとも前記ボンド層と前記保護層との間に設けられて当該ボンド層よりも高い硬度を有すると共に当該保護層よりも高い靱性を有する中間層を備えていることを特徴とする。
【0011】
第五番目の発明に係る超砥粒工具は、第四番目の発明において、前記中間層が、前記超硬質砥粒を覆うように設けられた前記保護層と当該超硬質砥粒との間にも設けられていることを特徴とする。
【0012】
第六番目の発明に係る超砥粒工具は、第四番目又は第五番目の発明において、前記中間層が、Cr及びTiの少なくとも一方の金属、又は、当該金属の窒化物、炭化物、炭窒化物のうちの少なくとも一つの化合物からなることを特徴とする。
【0013】
第七番目の発明に係る超砥粒工具は、第一番目から第六番目の発明のいずれかにおいて、前記ボンド層の下方に下地層を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る超砥粒工具によれば、ボンド層よりも高い硬度を有する保護層を当該ボンド層の表面を覆うように設けたことから、研削加工等の際に発生した切屑と保護層とが接触しても、当該保護層が高耐摩耗性を有して非常に摩耗しにくいので、ボンド層から超硬質砥粒が脱落してしまうことを大幅に抑制できると共に、研削加工等のときに炭素鋼からなる被研削体と保護層とが接触しても、当該被研削体に焼き付きを生じることがないので、当該被研削体の表面粗さが粗くなってしまうことを防止できる。その結果、長寿命化を図ることができると共に被研削体の品質低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る超砥粒工具の実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明は図面に基づいて説明する以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0016】
[主な実施形態]
本発明に係る超砥粒工具の主な実施形態を図1に基づいて説明する。図1は、超砥粒工具の要部の概略構成図である。
【0017】
図1に示すように、S45CやS25C等の炭素鋼等からなる基材11上には、Niめっきからなる下地層12(厚さ:約0.5〜5μm)が設けられている。この下地層12上には、Ni系めっきからなるボンド層13が設けられている。このボンド層13には、ダイヤモンドやcBN等からなる超硬質砥粒14(平均粒径:約50〜300μm)が先端側を露出(約30〜40%)させるように植設されている。そして、上記ボンド層13及び上記超硬質砥粒14上には、当該ボンド層13及び当該超硬質砥粒14を覆うようにして中間層15(約0.1〜0.5μm)が設けられている。この中間層15上には、保護層16(約0.1〜2.0μm)が設けられている。
【0018】
前記ボンド層13(Hv150〜550程度)は、前記超硬質砥粒14を前記基材11に対して固定するために設けられるものであって、電気Niめっきや無電解Ni−Pめっきや無電解Ni−Bめっき等のようなめっき法によって形成されるNi系めっき層であるが、「ワット浴」(硫酸ニッケルと塩化ニッケルとホウ酸との水溶液)や「スルファミン酸ニッケル浴」(スルファミン酸ニッケルとホウ酸との水溶液)を用いた電気めっきによって形成されるめっき層であると、厚い厚さでも比較的短時間で効率よく形成できると共に、内部に加わる応力を小さくすることができるため、非常に好ましい。
【0019】
前記下地層12は、前記基材11と前記ボンド層13との密着性を高めるために設けられるものであって、当該密着性を高める材質であれば特に限定されるものではないが、「ウッド浴」(塩化ニッケルと塩酸との水溶液)を用いた電気めっきによって形成されるNiめっき層であると、電解の際に基材11の表面に多量に発生する水素ガスにより当該基材11の表面が還元雰囲気となって、当該基材11の表面の酸化物が還元されながら当該基材11の表面に形成されることから、当該基材11の表面との密着性が高くなって、非常に好ましい。
【0020】
前記保護層16は、前記ボンド層13よりも高い硬度(Hv1000以上)を有するものであって、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:DLC)等の硬質炭素材料からなり、ダイヤモンド構造(立方晶)とグラファイト構造(六方晶)との中間的な結晶構造を有する、すなわち、炭素を主成分として水素を若干含みながらダイヤモンド結合(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)との両結合を有するアモルファス構造を有している。このような保護層16は、スパッタリング法、プラズマCVD法、イオン化蒸着法等によって容易に形成することができる。このとき、内部の水素濃度をできるだけ低くすると(少なくとも20原子%以下)、硬度をさらに高くすることができ、SiやCrやTi等の金属成分を含有させると(約1〜5原子%)、内部の応力を緩和して、剥離性を大きく低下させることができるので、非常に好ましい。
【0021】
前記中間層15は、前記ボンド層13よりも高い硬度(Hv700以上)を有すると共に前記保護層よりも高い靱性を有するものであって、Cr及びTiの少なくとも一方の金属、又は、当該金属の窒化物、炭化物、炭窒化物のうちの少なくとも一つの化合物からなり、スパッタリング法、プラズマCVD法、イオン化蒸着法等によって、CrやTiの金属の蒸着層(Hv約700)や、これら金属の窒化物や炭化物や炭窒化物の蒸着層(Hv1500以上)として設けることができる。
【0022】
つまり、本実施形態に係る超砥粒工具10は、めっき法により超硬質砥粒12をNi系のボンド層13で固着した超砥粒工具10において、前記ボンド層13及び前記超硬質砥粒12の表面を覆うように設けられて当該ボンド層13よりも高い硬度を有する保護層16と、前記ボンド層13及び前記超硬質砥粒12と前記保護層16との間に設けられて当該ボンド層13よりも高い硬度を有すると共に当該保護層16よりも高い靱性を有する中間層15と、前記ボンド層13の下方に設けられた下地層12とを備えているのである。
【0023】
このような本実施形態に係る超砥粒工具10の製造方法を次に説明する。
【0024】
まず、前処理工程として、基材11において超硬質砥粒14を設ける必要のない箇所にマスキング剤を塗布して乾燥させたら、アルカリ水溶液中に浸漬して脱脂処理した後に水洗し、塩酸水溶液中に浸漬処理して活性化処理した後に水洗する。
【0025】
次に、上記基材11を「ウッド浴」(塩化ニッケルと塩酸との水溶液)中(pH1.5以下)で電気めっきしてNiめっき層の下地層12を形成した後に水洗したら、当該基材11を「ワット浴」(硫酸ニッケルと塩化ニッケルとホウ酸との水溶液)中(pH4.5)で超硬質砥粒14と共に電気めっきしてNi系めっき層のボンド層13を介して超硬質砥粒14の先端側を露出させるように当該超硬質砥粒14を基材11の所定箇所に固着させた後に水洗し、乾燥させる。
【0026】
続いて、上記基材11に対してスパッタリング法等によりCr等をターゲットにしてCrN等の中間層15を前記ボンド層13及び前記超硬質砥粒12の表面に形成した後、当該基材11に対してスパッタリング法等によりグラファイト等をターゲットにしてダイヤモンドライクカーボン等の保護層16を上記中間層15の表面に形成することにより、超砥粒工具10を得ることができる。
【0027】
このような本実施形態に係る超砥粒工具10においては、ボンド層13よりも高い硬度(Hv1000以上)を有する保護層16を当該ボンド層13の表面を覆うように設けたことから、研削加工等の際に発生した切屑と保護層16とが接触しても、当該保護層16が高耐摩耗性を有して非常に摩耗しにくいので、ボンド層13から超硬質砥粒12が脱落してしまうことを大幅に抑制できると共に、研削加工等のときに炭素鋼からなる被研削体と保護層16とが接触しても、当該被研削体に焼き付きを生じることがないので、当該被研削体の表面粗さが粗くなってしまうことを防止できる。
【0028】
したがって、本実施形態に係る超砥粒工具10によれば、長寿命化を図ることができると共に被研削体の品質低下を防止することができる。
【0029】
また、ボンド層13よりも高い硬度(Hv700以上)を有すると共に保護層16よりも高い靱性を有する中間層15を当該ボンド層13と当該保護層16との間に設けたことから、当該保護層16の割れや剥離を大幅に防止することができる。
【0030】
なぜなら、ダイヤモンドライクカーボンからなる保護層16は、硬度が高くて脆く、Ni系めっき層からなるボンド層13は、硬度が低くて軟らかいことから、研削加工等の際に応力が加わって、ボンド層13に歪を生じてしまうと、当該歪に保護層16が追従できずに割れや剥離を生じてしまう可能性があるものの、上記中間層15を設けることにより、研削加工等の際に応力が加わっても、当該中間層15がバッファとなって、上記保護層16の割れや剥離が防止されるようになるからである。
【0031】
[他の実施形態]
なお、前述した実施形態においては、スパッタリング法等により前記中間層15をボンド層13と保護層16との間及び保護層16と超硬質砥粒14との間に設けた超砥粒工具10の場合について説明したが、他の実施形態として、例えば、図2に示すように、めっき法を適用して、Crめっき層の中間層25を、保護層16と超硬質砥粒14との間に設けることなく、ボンド層13と保護層16との間のみに設けた超砥粒工具20であっても、前述した実施形態の場合と同様な作用効果を得ることができる。
【0032】
また、前述した実施形態においては、下地層12及び中間層15,25を設けた超砥粒工具10,20の場合について説明したが、他の実施形態として、例えば、研削条件等の各種条件によっては、図3に示すように、下地層12を省略した超砥粒工具30(図3A参照)や、中間層15,25を省略した超砥粒工具40(図3B参照)や、下地層12及び中間層15,25を省略した超砥粒工具50(図3C参照)を適用することも可能である。
【0033】
また、前述した実施形態においては、超硬質砥粒14の先端側の表面にも保護層16が設けられている場合について説明したが、本発明はこれに限らず、少なくともボンド層の表面を覆うように保護層が設けられていれば、前述した実施形態の場合と同様な作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る超砥粒工具は、長寿命化を図ることができると共に被研削体の品質低下を防止することができるので、金属加工産業等において、極めて有益に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る超砥粒工具の主な実施形態の要部の概略構成図である。
【図2】本発明に係る超砥粒工具の他の実施形態の要部の概略構成図である。
【図3】本発明に係る超砥粒工具のさらに他の実施形態の要部の概略構成図である。
【符号の説明】
【0036】
10,20,30,40,50 超砥粒工具
11 基材
12 下地層
13 ボンド層
14 超硬質砥粒
15,25 中間層
16 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき法により超硬質砥粒をNi系のボンド層で固着した超砥粒工具において、
少なくとも前記ボンド層の表面を覆うように設けられて当該ボンド層よりも高い硬度を有する保護層を備えている
ことを特徴とする超砥粒工具。
【請求項2】
請求項1に記載の超砥粒工具において、
前記保護層が、前記超硬質砥粒も覆うように設けられている
ことを特徴とする超砥粒工具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の超砥粒工具において、
前記保護層が、ダイヤモンドライクカーボンである
ことを特徴とする超砥粒工具。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の超砥粒工具において、
少なくとも前記ボンド層と前記保護層との間に設けられて当該ボンド層よりも高い硬度を有すると共に当該保護層よりも高い靱性を有する中間層を備えている
ことを特徴とする超砥粒工具。
【請求項5】
請求項4に記載の超砥粒工具において、
前記中間層が、前記超硬質砥粒を覆うように設けられた前記保護層と当該超硬質砥粒との間にも設けられている
ことを特徴とする超砥粒工具。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の超砥粒工具において、
前記中間層が、Cr及びTiの少なくとも一方の金属、又は、当該金属の窒化物、炭化物、炭窒化物のうちの少なくとも一つの化合物からなる
ことを特徴とする超砥粒工具。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の超砥粒工具において、
前記ボンド層の下方に下地層を備えている
ことを特徴とする超砥粒工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−89177(P2010−89177A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259226(P2008−259226)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】