説明

超臨界二酸化炭素によるポリプロピレン繊維の加工方法

【課題】本発明は、ポリプロピレン繊維について超臨界二酸化炭素を利用した染色加工方法により加工する際に、低分子量型ヒンダードアミン系安定剤をポリプロピレン繊維中に注入することで、超臨界二酸化炭素加工後においても、実用十分な耐光強度保持率を維持できるポリプロピレン繊維を提供する方法に関するものである。
【解決手段】超臨界二酸化炭素流体を利用して、ポリプロピレン繊維中に分子量が1000以下の低分子量型ヒンダードアミン系安定剤を注入する加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン繊維を超臨界二酸化炭素により加工する際に、低分子量型ヒンダードアミン系安定剤をポリプロピレン繊維中に注入する加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリプロピレン繊維は、難染性繊維として知られており、ポリエステルやナイロン繊維のように、染色加工により色付けすることが難しい素材である。従って、顔料などを紡糸段階で練り込む方法により使用されることが一般的である。しかしながら、顔料などを練り込む方法では単糸繊度の小さい原糸を品質良く得ることが難しいことや、色の変更毎に顔料の種類を変更し押出機中のポリマーを置き換える必要があるために、生産の機会損失が大きく、市場での小ロットニーズに対応できない等問題があり、ポリプロピレン繊維を染色加工する方法が鋭意検討されてきた。
【0003】
このような中で、ポリプロピレン繊維を染色する方法の一つとして、超臨界二酸化炭素を利用した染色加工が検討されるようになった。しかし、超臨界二酸化炭素を利用した染色加工方法を検討する過程で、耐光安定性を付与するためにポリプロピレン繊維中に添加されているヒンダードアミン系安定剤が超臨界二酸化炭素により抽出脱離を受け、実用十分な耐光強度保持率を維持できないという問題が発生した。
【0004】
一方、特許文献1には、超臨界二酸化炭素を利用する方法により、酸化防止剤や耐光安定剤等、種々の機能剤を含浸処理する方法が記載されている。しかしながら、耐光安定剤について詳細な記載はない。
【特許文献1】特開2004−249175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリプロピレン繊維を超臨界二酸化炭素により加工する際に、低分子量型ヒンダードアミン系安定剤(以下HALSと標記)をポリプロピレン繊維中に注入することで、実用十分な耐光強度保持率を維持できるポリプロピレン繊維を提供する方法にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は、超臨界二酸化炭素流体を利用して、ポリプロピレン繊維中に分子量が1000以下の低分子量型HALSを注入する加工方法にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、ポリプロピレン繊維を超臨界二酸化炭素により加工する際に、安定剤の利用効率を上げ、原糸に必要な耐光強度保持率を与えるために、超臨界処理段階で低分子量型のHALSを注入する方法について検討した。
【0008】
分子量が1000以下の低分子量型HALSで、かつ構造中のテトラメチルピペリジン基上の窒素の置換基が、水素またはメチル基であるヒンダードアミン系安定剤を、超臨界二酸化炭素を利用して注入することにより、超臨界加工後も高濃度にHALSを含有し、耐光強度保持率の優れた原糸を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に使用されるポリプロピレン繊維は、原料となるポリプロピレンはホモポリプロピレンであることが好ましい。エチレン共重合コポリマー等、プロピレンを主成分とした共重合体を原料として使用、またはホモポリプロピレンとブレンドして使用すると、超臨界二酸化炭素処理を行った際に、ポリプロピレンの収縮が大きくなるために好ましくない。
【0010】
ポリプロピレンのメルトフローレート(以下MFRと標記)は、7g/minから60g/minにあることが製糸安定性の点から好ましく、特に制限されるものではない。
【0011】
本発明のポリプロピレン繊維に紡糸段階で添加されている機能剤は、特に制限されることはない。例えば、原糸の風合いを変えるために、酸化チタンやシリカなどの粒子が添加されていてもよい。ポリプロピレン繊維の繊度、及び単糸繊度などは特に制限されることはない。同様に断面形状なども特に制限されることがなく、使用が可能である。
【0012】
本発明に使用されるポリプロピレン繊維には、製糸段階から超臨界加工段階にいたる間の耐光安定性を確保するため、高分子量型HALSが予め添加されていてもよい。高分子量型HALSとは、分子量2000以上のヒンダードアミン系安定剤のことであり、N,N‘,N“,N’‘’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアジン、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N‘−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重合縮合物などの化合物を使用することができる。
【0013】
予め添加されている高分子量型HALSは、超臨界処理段階で70.0質量%程度が抽出脱離されるため、経済性も考慮して、高分子量型HALSの添加量は0.05から1.0質量%の範囲にあることが好ましい。0.05重量%未満の場合には、耐光安定剤としての効果が不十分である。なお、製糸段階で予め添加する耐光安定剤として、低分子量型HALSを用いる場合は、耐熱性に乏しく、紡糸ノズルからの揮発や、延撚工程でのブリードアウトなど問題があるために好ましくない。
【0014】
超臨界二酸化炭素による処理段階で注入を行う場合には、低分子量型HALSの方が効率よく行うことができる。低分子量型HALSとは、分子量が1000以下のものをいい、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケートの混合物などと言った化合物が好適に使用される。分子量が1000より大きい場合は、超臨界流体に十分溶解せず、注入が進まないために好ましくない。
【0015】
また、注入されるHALSの化学構造では、テトラメチルピペリジン基上の窒素原子に配位している置換基が、水素またはメチル基であることが望ましい。窒素原子上に配位しているその他の置換基としては、アルキルオキシ基などがあるが、超臨界二酸化炭素の処理工程で注入することが困難であった。超臨界二酸化炭素流体とポリプロピレン繊維の分配率が、置換基の構造によっても変わるために、HALSの化学構造は限定されなければならない。
【0016】
超臨界二酸化炭素を利用した処理条件は、超臨界加工の目的にあった条件を任意に設定可能であるが、安定剤を注入するためには、槽内温度100〜120℃、超臨界二酸化炭素の圧力が18〜25MPaの範囲にあることが好ましい。槽内温度が100℃より低い場合には、ポリプロピレン繊維への注入が十分に進まないために好ましくなく、120℃を超える場合には、ポリプロピレン繊維が溶融するなどの問題を起こすために好ましくない。超臨界二酸化炭素の圧力では、圧力が18MPaより小さくなる場合には、注入に進みにくくなるために好ましくなく、圧力が25MPaより高い場合には、耐圧力がさらに高い設備が必要になるために、経済的に好ましくない問題が生じる。超臨界処理時間は特に制限をされないが、15〜60分の範囲であるとより好ましい。
【0017】
なお各評価は以下の方法に従った。
(超臨界処理方法)
日阪製作所製2.6L小型超臨界処理装置を使用して超臨界処理を行った。サンプルは約30gをビーム管に捲きつけた状態で装置内に装填し、密閉状態にしてから超臨界処理槽に、1.13kg二酸化炭素を充填した。120℃に加温して槽内を循環させながら、60分超臨界状態で処理した。この時の槽内圧力は25MPaとなった。超臨界処理が終わった後は、二酸化炭素を排出して、槽内を減圧しサンプルを取り出した。
【0018】
(ポリプロピレン繊維サンプル)
MFR30のホモポリプロピレン(プライムポリマー社製、製品名:Y−3005G)を使用して、高分子量型ヒンダードアミン系安定剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、製品名:CHIMASSORB 119FL)が0.05質量%添加されている繊度190dtex、フィラメント数48fのポリプロピレン捲縮糸を準備した。該ポリプロピレン繊維よりスムースニットを製編し、サンプルAとした。
【0019】
なお、CHIMASSORB 119FLの分子量は2286であり、テトラメチルピペリジン基の窒素原子上に、窒素原子が置換されている構造であった。
【0020】
サンプルAと同様の方法で、高分子量型HALSが2.0質量%添加されているものをサンプルBとした。
【0021】
(高分子量型ヒンダードアミン系安定剤の定量方法)
CHN有機元素分析法により、相対比較を行った。エレメンタール社製 元素分析装置Vario EL III を用いTCD検出器を使用して、サンプルを燃焼管温度950〜1200℃で焼成して、N元素の含まれる割合を求めた。サンプルBと超臨界処理後のサンプルのN元素割合を相対評価し、超臨界処理後の高分量型HALSの残存量を算出した。
【0022】
(低分子量型ヒンダードアミン系安定剤の定量方法)
溶媒としてクロロホルムを使用し、ソックスレー抽出により繊維中から低分子量型HALSを抽出した。抽出を行ったクロロホルム溶液をロータリーエバポレーター使用して濃縮し、ガスクロマトグラフ用のサンプル溶液とした。Perkin Elmer社製ガスクロマトグラフを使用して、クロロホルム中に抽出された低分子量型ヒンダードアミン系安定剤の定量を行い、繊維中の低分子量型HALSの含有量を算出した。
【0023】
(耐光強度保持率測定方法)
超臨界処理後のニットサンプルから繊維を抜糸し、20cm長でかせ荷重0.003g/dtexとなるように引き揃えた状態にし、サンプルの中心部10cmに紫外線暴露を行った。紫外線暴露は、スガ試験機株式会社製 紫外線ロングライフフェードメーター FAL−45型により、カーボンアークの放電電圧約140Vで、露光中のブラックパネル温度は63±3℃に調整した状態で行った。1000時間露光した後、サンプルの強度を測定した。強度測定は、試長10cm、引張り速度50%/minの条件で行った。サンプルは5回測定し、その平均値を求めた。紫外線暴露を行っていないサンプルと比較して強度保持率を算出した。
【実施例】
【0024】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。
【0025】
(実施例1)
ポリプロピレン繊維サンプルAを46gと、低分子量型HALS(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、製品名:TINUVIN770DF)1.4g(サンプルAに対して3質量%)を超臨界染色槽に装填し、前記超臨界処理条件により、超臨界処理を行った。
【0026】
TINUVIN770DFの分子量は481であり、テトラメチルピペリジン基の窒素原子に置換している分子は水素である。
【0027】
低分子量型HALSは、1.61質量%が注入されていた。
【0028】
耐光強度保持率を測定した結果、1000時間での耐光強度保持率が、86.8%であり高い強度保持率が得られた。
【0029】
(実施例2)
ポリプロピレン繊維サンプルAを33gと、低分子量型HALS(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、製品名:TINUVIN765)1.0g(サンプルAに対して3.0質量%)を超臨界染色槽に装填し、前記超臨界処理条件により、超臨界処理を行った。
【0030】
TINUVIN765の分子量は509であり、テトラメチルピペリジン基の窒素原子上にメチル基が置換されている構造である。
【0031】
低分子量型HALSは、1.81質量%が注入されていた。
【0032】
耐光強度保持率を測定した結果、1000時間での耐光強度保持率が、85.4%と高い強度保持率が得られた。
【0033】
(比較例1)
サンプルB33gを超臨界染色槽に装填し、前記超臨界処理条件により、超臨界処理を行った。
【0034】
高分子量型HALSの添加量の残存量は0.58質量%であり、超臨界処理条件によりポリプロピレン繊維中に添加された高分子量型HALSの約70%が抽出されていた。
【0035】
耐光強度保持率を測定したところ、1000時間での耐光強度保持率は、53.9%となり、耐光強度保持率が低い値となった。
【0036】
(比較例2)
サンプルAを33gと、テトラメチルピペリジンの窒素上の置換基がアルコキシ基である低分子量型HALS(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、製品名:TINUVIN123)1.0g(サンプルAに対して3質量%)を超臨界染色槽に装填し、前記超臨界処理条件により、超臨界処理を行った。
【0037】
TINUVIN123の分子量は737であり、テトラメチルピペリジン基の窒素原子上にはオクチルオキシ基が置換されている構造である。
【0038】
前記超臨界処理を施したサンプルAの内装とビーム管に大量のTINUVIN123が付着していた。付着物を除き定量を行ったところ、安定剤が注入されていないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界二酸化炭素流体を利用して、ポリプロピレン繊維中に分子量が1000以下の低分子量型ヒンダードアミン系安定剤を注入する加工方法
【請求項2】
低分子量型ヒンダードアミン系安定剤が、テトラメチルピペリジン基の窒素原子に水素、またはメチル基が置換されている請求項1に記載のある加工方法

【公開番号】特開2008−19522(P2008−19522A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191478(P2006−191478)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】