説明

超臨界水熱反応による金属・合金ナノ粒子の合成法

【課題】様々な特有の優れた性状・特性・機能を示すナノ粒子は、超臨界・亜臨界水反応場を利用して、有利に合成できるが、超臨界水条件の反応場では水の酸化力のため、金属酸化物系ナノ粒子の合成に限られるという問題があり、これを解決することが求められていた。
【解決手段】高温高圧水存在条件の反応場で、ナノ粒子前駆体からナノ粒子を合成するにあたり、その反応場に、有機修飾剤及び還元剤を共存せしめて、ナノ粒子合成反応及びナノ粒子表面修飾反応を行い、生成ナノ粒子の表面に有機基が結合している金属又は合金ナノ粒子を得る。これにより、簡単な手法で、表面修飾金属又は合金ナノ粒子が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界・亜臨界水中での水熱反応を利用した金属・合金ナノ粒子の合成法に関する。特に、本発明は、超臨界・亜臨界水条件下での、有機基で表面が修飾された金属・合金ナノ粒子の合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメーターサイズの粒子(ナノ粒子)は、様々な特有の優れた性状・特性・機能を示すことから、材料・製品のすべてに対して、現状よりも高精度で、より小型化、より軽量化の要求を満たしている技術を実現するものとして期待されている。このようにナノ粒子は、セラミックスのナノ構造改質材、光機能コーティング材、電磁波遮蔽材料、二次電池用材料、蛍光材料、電子部品材料、磁気記録材料、研摩材料などの産業・工業材料、医薬品・化粧品材料などの高機能・高性能・高密度・高度精密化を可能にするものとして且つ21世紀の材料として注目されている。最近のナノ粒子に関する基礎研究から、ナノ粒子の量子サイズ効果による超高機能性や新しい物性の発現、新物質の合成などの発見も相次いでいることから産業界からも大きな関心を集めている。
【0003】
ナノ粒子合成法は、様々な方法が提案されている。しかし、多くの場合、ナノ粒子の表面エネルギーが極めて高いために凝集しやすく、そのためナノ粒子本来の機能が発現されないことが多い。一度凝集したナノ粒子は再分散させることはできず、その段階で界面活性剤等を用いても、ナノ粒子を分散させることはできない。
こうした問題を解決する技術として、阿尻らは、超臨界水熱合成場が、有機修飾剤と原料水溶液との均一相を形成することに着目し、超臨界水中で反応を行えば、有機修飾を行いつつナノ粒子合成が可能であることを示してきた。本手法によれば、高温安定相も合成でき、また単に有機修飾剤が吸着しているのではなく、高温反応のため化学結合も生じている〔特許第3925932号(特許文献1)及び特許第3925936号(特許文献2)〕。しかし、超臨界合成できるナノ粒子系は、水の酸化力のため、金属酸化物系に限られてきた。
磁性ナノ粒子は、磁性流体や高密度記録材料、医療診断材料など多くの応用が期待され、幅広い研究が行われている。これまでに、有機溶媒中での合成を含め様々な合成手段の研究が行われてきたが、水中で鉄などの酸化されやすい金属ナノ粒子を合成することは困難であった。
【0004】
【特許文献1】特許第3925932号
【特許文献2】特許第3925936号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らのグループは、有機修飾剤を共存させた超臨界水(SCW)場のバッチ式リアク
ター内で様々な金属酸化物のナノ結晶を合成する技術を提供している。しかし、超臨界水(SCW)場でのナノ粒子合成法は、エレガントで且つ環境に優しい反応媒体を利用した技術
ではあるが、鉄などの水中で酸化されやすい金属では、金属酸化物のものを得ることは可能であるが、金属や合金からなるナノ粒子を得ることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、有機修飾剤を共存させた超臨界水(SCW)場のバッチ式リアクター内での微
粒子合成系を利用した技術を発展利用することを念頭に鋭意研究を行った。その結果、低環境負荷媒質である水を利用し、還元剤と表面修飾剤の存在下でナノ粒子前駆体を高温高圧の水が存在する条件下、例えば、超臨界水又は亜臨界水条件下、特には、超臨界水(SCW
)条件下に置くことにより金属又は合金ナノ粒子の合成に成功し、本発明を完成した。例
えば、本発明では、低環境負荷媒質である水を利用し、還元剤と表面修飾剤の存在下で鉄ないし鉄系合金ナノ粒子の合成を実現することに成功している。
【0007】
本発明は、次のものを提供している。
〔1〕高温高圧水存在条件の反応場でのナノ粒子合成法であり、ナノ粒子前駆体からナノ粒子を合成する反応場に、有機修飾剤及び還元剤を共存せしめて、ナノ粒子合成反応及びナノ粒子表面修飾反応を行い、生成ナノ粒子の表面に有機基が結合している金属又は合金ナノ粒子を得ることを特徴とする表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔2〕高温高圧水存在条件の反応場が、亜臨界又は超臨界水であることを特徴とする上記〔1〕に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔3〕還元剤がガス状態であることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔4〕還元剤が、ギ酸、水素ガス、一酸化炭素ガス、合成ガス、水性ガス及びそれらの混合物からなる群から選択されたものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔5〕ナノ粒子合成反応が、温度及び/又は圧力が二成分系臨界点又はその近傍以上で行われることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔6〕金属又は合金ナノ粒子の合成反応場に有機修飾剤を同時共存させるかあるいは金属又は合金ナノ粒子の合成直後に有機修飾剤を反応場に導入することを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔7〕ナノ粒子表面修飾反応を、200℃以上、好ましくは、250℃以上の温度で行うことを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔8〕有機修飾剤が、カルボン酸類、アミン類、チオール類、フォスフォン酸及びその誘導体から選択されたものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔9〕有機修飾剤が、カルボン酸類から選択されたものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔8〕のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔10〕上記〔1〕〜〔9〕のいずれか一記載の合成法で合成された、ナノ粒子の表面に有機基が化学結合している金属又は合金ナノ粒子であることを特徴とする表面修飾金属又は合金ナノ粒子。
〔11〕ナノ粒子の表面と修飾有機基との結合が、有機修飾剤の沸点よりも高い温度で安定で強い結合であることを特徴とする上記〔10〕に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子。〔12〕TEM及び/又はXRDデータに基づいた表面修飾金属又は合金ナノ粒子の平均粒子径が、約1〜50nmであることを特徴とする上記〔10〕又は〔11〕に記載の表面修飾金属又は合
金ナノ粒子。
〔13〕上記〔10〕〜〔12〕のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子を磁性体として含有することを特徴とする磁性材料組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明で、超臨界・亜臨界水中での水熱反応を利用して金属・合金ナノ粒子を合成できるので、簡単な手法で工業的に利用するのに適した金属・合金ナノ粒子を得ることが可能である。本発明では、超臨界・亜臨界水条件下で、安価に、有機基で表面が修飾された金属・合金ナノ粒子を合成できる。得られた金属・合金ナノ粒子は、様々な用途に利用可能である。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されて
いるものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、高温高圧条件下、例えば、亜臨界又は超臨界水条件下の反応場で還元剤共存下にナノ粒子前駆体からナノ粒子を合成する技術を提供している。本発明のナノ粒子合成法では、亜臨界又は超臨界水を反応場としてナノ粒子合成を行っているが、その反応場に還元剤や有機修飾剤を共存させることにより、媒質への分散性に優れた金属ナノ粒子や合金ナノ粒子を、極めて簡単な手法で効率よく合成できる。当該反応場に還元剤を存在せしめることにより、実質的に金属から構成されるナノ粒子であってその表面が有機基で修飾せしめられているナノ粒子や、実質的に合金金属から構成されるナノ粒子であってその表面が有機基で修飾せしめられているナノ粒子を、工業的に利用可能な規模で合成することを可能にする。
【0010】
本発明では、ナノ粒子前駆体を含有する水性液状混合系からナノメーターサイズの粒子を形成させる反応場、そして、ナノ粒子前駆体と還元剤とを含有する水性液状混合系からナノメーターサイズの粒子を形成させる反応場は、通常、高温高圧下でなされ、典型的な状態としては、超臨界状態又は亜臨界状態である水を溶媒とする系である。超臨界状態とは、ある物質の臨界点以上の温度や圧力にある領域にある状態を指していて、気体と液体の境界線がなくなって区別がつかないような状態になっていることを言っている。超臨界状態では、一般的には、粘度が低くなっており、液体よりも容易に拡散するが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を言う。例えば、密封容器中に原料を充填後に超臨界状態として、原料を溶解し、均一相を形成し、次にナノ粒子の核が形成されると共に亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用して、ナノ粒子形成・成長を行うことも可能である。
【0011】
超臨界状態でナノ粒子製造を行うためには、一般に溶媒である水の臨界点よりも高い温度に保持する。超臨界水の場合、臨界点は臨界温度647K(374℃)、臨界圧力22.064MPa(218気圧)であるが、臨界温度以下の温度でも圧力が臨界圧力をはるかに越えるような状
態が存在する。例えば、オートクレーブ(耐圧容器)に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力をはるかに越える。ここでいう超臨界状態とはこのような臨界圧力を越えた状態を含んでいてよい。反応混合物は一定容積(容器容積)内に封入されているので、温度上昇は、流体の圧力を増大する。一般に、温度TはT>Tc(Tc:溶媒の臨界温度)および圧力P>Pc(Pc:溶媒の臨界圧力)であれば、超臨界状態にある。反応混
合物はある程度高圧にされた後、一定容積(容器容積)内に封入され、次いで、温度上昇せしめられて、流体の圧力が増大するようにされていてよい。実際に、溶媒中に導入された原料の溶解度は、亜臨界条件と超臨界条件との間で極めて異なるので、超臨界条件では、ナノ粒子の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に、原料ナノ粒子前駆体の反応性、有機修飾剤の反応性および熱力学的パラメーター、即ち、温度および圧力の数値に依存する。
【0012】
ナノ粒子形成場は、高温高圧の条件を達成できる装置中で得ることができ、そうした装置であれば特に限定されず、当該分野で当業者に広く知られている装置から選択して使用できるが、例えば、回分式装置(バッチ式装置)を使用できる。通常、オートクレーブ(耐圧反応器)などを使用できる。本発明では、好適に、オートクレーブ式リアクターを使用することができる。そうしたリアクターは、温度制御可能とされているものであってよ
い。例えば、ナノ粒子前駆体の投入後と、生成ナノ粒子を取り出す前の時点とで、反応場の温度が異なっていてよいし、また、反応場の温度をそれぞれ変えることにより微粒子の核生成段階と有機修飾剤の反応による微粒子の成長段階制御とを可能にするものであってよい。さらに、リアクター内の反応場の温度変化は、例えば、昇温後一定に保持したり、連続的に変化させてもよいし、不連続的に高温とそれよりは温度の低い低温に一旦した後、次に高温にするといったものの、いずれであってもよい。
【0013】
オートクレーブ内などの反応場の温度範囲は、充填率により適切な値を選択できるが、例えば、下限として、通常、約150℃、好ましくは約200℃、より好ましくは約250℃、あ
る場合には約275℃であり、さらに好ましくは約300℃で、より好ましくは約350℃であり
、上限として、通常、約800℃、好ましくは約650℃、さらに好ましくは約550℃、より好
ましくは約500℃、ある場合には約450℃が挙げられ、そして該反応場の温度範囲は上記したような上限と下限の範囲内とすることが望ましい。代表的な場合では、オートクレーブ内の温度範囲は、約200〜475℃で、好適な結果を得ることができるし、別の場合では約250〜450℃で、好適な結果を得ることができ、さらには、約350〜425℃で、好適な結果を得ることができる。上記温度範囲は、目的とするナノ粒子の種類、組成に応じて選択することも可能である。当該オートクレーブ内の温度範囲は、単体金属ナノ粒子を得る場合では、例えば、約250〜450℃、好ましくは約250〜425℃、さらに好ましくは約270〜400℃で、半導体ナノ粒子を得る場合では、例えば、約200〜450℃、好ましくは約250〜400℃、さらに好ましくは約275〜375℃で、より好ましくは約300〜375℃で、磁性体ナノ粒子を得る場合では、例えば、約200〜475℃、好ましくは約225〜450℃、さらに好ましくは約250〜425℃で、より好ましくは約275〜400℃で、さらに、部分的に水熱合成反応も利用してナノ粒子を得る場合では、より高温域とし、例えば、約300〜550℃、好ましくは約325〜525℃、さらに好ましくは約340〜500℃、より好ましくは約350〜475℃とすることができる。
【0014】
オートクレーブ内などの反応場の圧力範囲は、使用原料により適切な値を選択できるが、例えば、通常は、液体状の反応混合物をリアクターに収容後オートクレーブに入れて密封した後、上記所定の温度に昇温することで得られるものが挙げられる。オートクレーブ内などの反応場の圧力範囲は、例えば、約4MPa〜600MPaの範囲の圧力に保持することができ、例えば、下限として通常5MPa、好ましくは7MPa、特に好ましくは10MPa、上限として
通常500MPa、好ましくは400MPa、特に好ましくは200MPaに保持することができるが、これらに限定されるものではなく、上記密封条件下で所定の温度に昇温することで得られるものであり且つ目的の反応が生起するものであれば特に限定されない。
【0015】
オートクレーブ内などの反応器中の上記の温度範囲、圧力範囲を達成するための水、ナノ粒子前駆体、還元剤、有機修飾剤などの注入の割合、すなわち充填率は、容器内部のフリー容積、すなわち、オートクレーブに入れるナノ粒子前駆体などを含有する水性溶液の体積をオートクレーブの全容積から差し引いて残存する容積に対する原料などを含有する水性溶液の容積を基準として、通常、10〜98%、好ましくは20〜95%、さらに好ましくは10〜85%とすることができるが、所定の目的を達成できるならば特に限定されず適切に選択できる。
反応用出発混合物中のナノ粒子前駆体と還元剤との比率は、所望のナノ粒子生成物が得られるよう、適宜、実験を行うなどして決定でき、特には限定されないが、例えば、そのナノ粒子前駆体:還元剤の比率を、モル比で、約1:1,000〜約1,000:1、好ましくは約1:250〜約250:1、さらに好ましくは約1:100〜約100:1、ある場合には約1:50〜約50:1であり、
さらに好ましくは、約1:25〜約25:1、より好ましくは約1:15〜約15:1、もっと好ましくは約1:5〜約5:1とすることができる。反応用出発混合物中のナノ粒子前駆体:有機修飾剤と
の比率は、所望のナノ粒子生成物が得られるよう、適宜、実験を行うなどして決定でき、特には限定されないが、例えば、そのナノ粒子前駆体: 有機修飾剤の比率を、モル比で、約1:1,000〜約1,000:1としたり、約1:100〜約100:1としたり、約1:50〜約50:1としたり、
約1:25〜約25:1としたり、約1:10〜約10:1としたり、約1:5〜約5:1としたり、約1:2〜約2:1としたりしてもよい。
【0016】
本発明の製造方法では、予め加熱しておいたナノ粒子前駆体の水性液を反応場に供給し、そこに予め加熱してある還元剤水性液又はガス状還元剤を導入することもできる。
所定の温度に達した後の反応時間については、目的とするナノ粒子の種類、用いる原料、還元剤、有機修飾剤の種類、製造するナノ粒子の大きさや量によっても異なるが、通常、数分間から数ヶ月とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温または降温させることもできる。所望のナノ粒子を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内にオートクレーブを設置したまま放冷してもかまわないし、オートクレーブを電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することもできる。本発明の方法では、反応時間、前駆体:還元剤の比率、修飾基に存在する炭素鎖の長
さ、反応温度などのパラメーターを変えることで、100nm以下の粒子サイズのナノ粒子を
、それぞれ得ることができる。5〜50 nmの幅を有する棒状ナノ粒子やワイアー状ナノ粒子を得ることもでき、さらに、均一な大きさのキューブ状ナノ粒子を取得することもできる。
【0017】
原料であるナノ粒子前駆体は、使用する水性溶媒、例えば、水、及び/又は、水と有機修飾剤との混合物などに溶解するものを好ましく使用できるが、製造操作上の簡便性の理由で液状であるものを好適に使用できる。原料物質は、水溶液、あるいは必要に応じて適当な有機溶媒と水の混合物の溶液としても構わないが、原料物質自身が常温で液体であればそのまま使用して良い。本発明では、ナノ粒子前駆体は、反応場で均一系を形成可能であるものを、好適に使用できる。また、本発明では、反応場で均一系を形成可能であり、水溶性の原料前駆体を好適に使用できる。
【0018】
ナノ粒子前駆体としては、所望のナノ粒子を与えるものを好適に使用でき、それらは所望のナノ粒子が得られる限り任意の物質を使用することができる。したがって、製造しようとするナノ粒子に含有される元素を含有する単体や化合物から適切なものを任意に選択して使用することができる。好ましくは、市販されており容易に入手できるもの、あるいは、それから容易に導くことができるものを使用する。例えば、金属元素を含有するナノ粒子の場合には、金属ナノ粒子(合金ナノ粒子を包含する)前駆体としては、例えば、金属ハロゲン化物、金属炭酸塩、金属カルボン酸塩、金属アルコキシド、金属アルキルキサントゲン酸塩、金属カルボニル化合物などの金属錯体化合物、金属水酸化物などが挙げられる。代表的な金属ナノ粒子前駆体としては、例えば、金属アルコキシド、金属水酸化物、金属酢酸塩、金属クエン酸塩、金属グリコール酸塩、金属オキザロ酸塩、金属グリオキザロ酸塩、金属グリセリン酸塩、金属アミン錯体、金属アセトン錯体、金属アセチルアセトネートなどが好適に用いられる。該前駆体は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。前駆体は、反応液中においてどのような状態で存在していても良いが、通常は、前駆体は反応系内で溶解した状態で存在する。さらには、所望のナノ粒子の構成元素供与体として、当該構成元素を含有している化合物を共存させるようにして使用できる。
【0019】
本発明の一つの典型的な態様では、ナノ粒子前駆体としては、水可溶性塩を好適に使用でき、例えば、鉄ハロゲン化物(塩化鉄、臭化鉄など)、鉄硝酸塩、鉄炭酸塩、鉄カルボン酸塩(鉄酢酸塩、鉄クエン酸塩など)、鉄アセチルアセトナート、鉄水酸化物、白金ハロゲン化物(塩化白金、臭化白金など)、白金硝酸塩、白金炭酸塩、白金カルボン酸塩(白金酢酸塩、白金クエン酸塩など)、白金アセチルアセトナート、白金水酸化物などを使用できる。好適には、酢酸鉄水溶液、硝酸鉄水溶液、水酸化鉄水溶液、鉄アセチルアセトネート水溶液、白金酢酸塩水溶液、白金クエン酸塩水溶液、白金アセチルアセトナート水
溶液、あるいはそれらの混合物液を使用できる。酸性塩を使用した場合、アルカリ水溶液、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液により処理して、pHを約7〜10とすることもできる。ナノ粒子前駆体を含有する溶液は、所望のナノ粒子合成を可能と
するように、適宜、その液のpHを調整しておくことも可能であるし、ある場合には好ましい。なお、原料に由来するその他の不可避的な不純物元素を含有することは許容される。
【0020】
本発明のナノ粒子を構成する「金属」としては、典型的にはナノ粒子を製造することが可能なものであれば特に限定されず、当業者に知られたものから選択して使用できる。代表的な金属としては、元素の周期表で第13族のホウ素(B)-第14族のケイ素(Si)-第15族の
ヒ素(As)-第16族のテルル(Te)の線を境界としてその線上にある元素並びにその境界より
、長周期型周期表において左側ないし下側にあるものが挙げられ、例えば、第8, 8, 10族の元素ではFe, Co, Ni, Ru, Rh, Pd, Os, Ir, Ptなど、第11族の元素ではCu, Ag, Auなど、第12族の元素ではZn, Cd, Hgなど、第13族の元素ではB, Al, Ga, In, Tlなど、第14族
の元素ではSi, Ge, Sn, Pbなど、第15族の元素ではAs, Sb, Biなど、第16族の元素ではTe, Poなど、そして第1〜7族の元素などが挙げられる。第7族の元素では、Mn, Tc, Reなど
、第6族の元素では、Cr, Mo, Wなど、第5族の元素では、V, Nb, Taなど、第4族の元素で
は、Ti, Zr, Hf など、第3族の元素では、Sc, Y, ランタノイド(例えば、La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Yb, Luなど)、アクチノイド(Ac, Thなど)、ミッシ
ュメタルなど、第2族の元素では、Be, Mg, Ca, Sr, Ba など、第1族の元素では、Li, Na,
K, Rb, Csなどが挙げられる。なお、元素の周期律表は、IUPC (International Union of
Pure and Applied Chemistry) 無機化学命名法改訂版(1989)に基づくものである。
【0021】
本発明のナノ粒子は、(a)金属であるナノ粒子、(b)すくなくとも2種類以上の金属からなる合金のナノ粒子、(c)金属ナノ粒子又は合金ナノ粒子に金属酸化物又は複合金属酸化
物が複合しているもの、(d)金属又は合金に金属酸化物又は複合金属酸化物が分散してい
るナノ粒子、(e)金属酸化物又は複合金属酸化物に金属又は合金が分散しているナノ粒子
、(f)周期表第15族元素を含有する半導体化合物であるナノ粒子、(g) 周期表第16族元素
を含有する半導体化合物であるナノ粒子などを包含する。本発明のナノ粒子は、結晶ナノ粒子であるものも包含する。
【0022】
本発明では、ナノ粒子前駆体と水とを含有する液状混合系からナノメーターサイズの粒子を合成(形成)させる反応場に、還元剤と有機修飾剤とを共存させることができる。
該還元剤は、亜臨界水又は超臨界水条件で金属酸化物を還元できるもの、及び/又は、亜臨界水又は超臨界水条件で金属からなるナノ粒子又は合金からなるナノ粒子の形成を可能とするものが挙げられる。還元剤は、好適には、水溶液、及び/又は、ガス状のものを反応場に導入できるが、ガスと液体との混合物も使用可能である。代表的な還元剤としては、ギ酸、水素ガス、一酸化炭素ガス、合成ガス、水性ガス、水素と一酸化炭素との混合物、それらの混合物などが挙げられる。本発明の一つの好適な態様では、ギ酸水溶液、水素と一酸化炭素とのガス状混合物などを使用できる。還元剤は、予めナノ粒子前駆体含有の水性媒質に添加した後、その得られた混合物を反応場に添加するものであっても、あるいは、反応場に存在するナノ粒子前駆体含有の水性媒質の中に添加するものであってもよい。
【0023】
該有機修飾剤としては、微粒子の表面に有機分子残基を結合せしめることのできるものであれば特には限定されず、好適には、微粒子の表面に有機分子残基を化学結合せしめることのできるもので、有機化学の分野、無機材料分野、高分子化学の分野を含めてナノ粒子の応用が期待されている分野で広く知られている有機物質(又は有機分子)から選択することができる。該有機修飾剤としては、例えば、エーテル結合、エステル結合などを含むO原子を介した結合、アミノ結合又はアミド結合を含むN原子を介した結合、S原子を介
した結合、金属-C-を介した結合、金属-C=を介した結合、金属-(C=O)-を介した結合、P原
子を介した結合、-O-P-を介した結合、リン酸エステル結合、亜リン酸結合、フォスフォ
ン酸結合、亜フォスフォン酸結合、フォスフィン酸結合、亜フォスフィン酸結合などの化学結合を形成することを許容するものが挙げられる。有機残基(有機分子残基)としては、特には限定されず、当該分野で知られたもの、及び/又は、有機合成の分野で知られたものが挙げられ、例えば、炭化水素基、あるいはそれを含有する基などが挙げられる。
【0024】
有機残基としては、置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基、置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルケニル基、置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキニル基、置換されていてもよく且つ飽和又は不飽和の環式アルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよい飽和又は不飽和の複素環式基などが挙げられる。該炭化水素としては、その炭素数は特に限定されず、炭素数1や2のものも使用できるが、本発明の特徴を生かす観点からは、炭素数3あるいはそれ以上の鎖を有する長鎖炭化水素であるものは好ましく、例えば、炭素数3〜30の直鎖又は分岐鎖、あるいは環状の炭化水素などが挙げられる。該炭化水素は、置換されていてもよいし、非置換のものであってもよい。該置換基としては、有機化学の分野、無機材料分野、高分子化学の分野などで広く知られた官能基の中から選択されたものであってよく、該置換基は1又はそれ以上が存在していてもよいし、複数の場合互いは同じでも異なっていてもよい。
【0025】
該置換基としては、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、直鎖又は分岐鎖のアルケニル基、直鎖又は分岐鎖のアルキニル基、環式アルキル基、アリール基、アラルキル基、飽和又は不飽和の複素環式基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン、カルボキシ基、エステル基、アシル基、アミド基、イミノ基、アシルアミノ基、ケトン基、ホルミル基、エーテル基、水酸基、アシロキシ基、スルフヒドリル基、アミノ基、スルホニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、アジド基などが挙げられる。該置換基としては、-O-、-S-、-N-、-P-などの結合を含有するものを挙げることもできる。
【0026】
有機修飾剤としては、例えば、アミン類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、エステル類、アミド類、オキシム類、ホスゲン、エナミン類、アミノ酸類、ペプチド類、糖類、リン酸エステル、亜リン酸エステル、フォスフォン酸エステル、亜フォスフォン酸エステル、フォスフィン酸エステル、亜フォスフィン酸エステル、フォスフィン、フォスフィンオキシドなどの有機リン化合物類、チオール類、チオカルボン酸などのそれらの硫黄類縁体などが挙げられる。
本発明において、ナノ粒子合成の反応場に添加する有機修飾剤としては、生成されるナノ粒子に化学結合し、有機配位子として金属(合金)ナノ粒子の表面の少なくとも一部を覆うものであれば、特に限定されることはなく、例えば、当該分野で知られたものを使用できる。好適には、該修飾剤は、有機分子であり、形成するナノ粒子を安定化する作用のあるものを好適に使用できるし、高温高圧の水相で有機修飾剤として機能するものを好適に使用できる。
【0027】
該アミン類としては、例えば、有機アミン類が挙げられる。有機アミン類としては、1級アミン類、2級アミン類及び3級アミン類のいずれであってもよいが、好ましくは1級アミン類、2級アミン類が挙げられる。有機アミン類としては、例えば、脂肪族アミン類などが挙げられ、1級脂肪族アミン類、2級脂肪族アミン類を挙げることができる。アミン類の炭素数は、本発明の目的効果を著しく損なわない限り特に限定されないが、例えば、通常は8以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上で、また、通常24以下、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。代表的な脂肪族アミン類としては、例えば、オレイルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ジオクチルアミン等のアルキルアミン類、アニリン
等の芳香族アミン、メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン等の水酸基含有アミン類、さらにそれらの誘導体などが挙げられる。
【0028】
該カルボン酸類としては、例えば、有機カルボン酸類あるいはそれらの硫黄類縁体などが挙げられる。有機カルボン酸類としては、本発明の目的効果を著しく損なわない限り特に限定されないが、例えば、脂肪族カルボン酸類、脂環式カルボン酸類、芳香族カルボン酸類などが挙げられ、好適には脂肪族カルボン酸類から選択されて使用できる。カルボン酸類の炭素数は、本発明の目的効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5以上、ある場合には8以上、あるいは14以上、別の場合には16以上、また、通常24以下、好ましくは20以下、より好ましくは18以下であってよい。カルボン酸類としては、例えば、ヘキサン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、カプリル酸(オクタン酸)、カプリン酸、ラウリン酸、ベヘン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、アラキドン酸、エルカ酸などが挙げられる。
【0029】
該アルコール類としては、例えば、上記有機カルボン酸類に対応するものが挙げられる。同様に、アルデヒド類、ケトン類、エステル類、アミド類なども、例えば、上記有機カルボン酸類に対応するものを挙げることができる。チオール類などのそれらの硫黄類縁体も、例えば、上記有機カルボン酸類に対応するものであってよい。
【0030】
該有機リン化合物類としては、例えば、リン酸エステル類、フォスフィン類、フォスフィンオキシド類、トリアルキルフォスフィン類、亜リン酸エステル類、フォスフォン酸エステル類、亜フォスフォン酸エステル類、フォスフィン酸エステル類、亜フォスフィン酸エステルなどを包含していてよい。当該有機リン化合物類としては、上記した炭化水素基から選択されたものを有機基として含有しているものが挙げられる。代表的な有機リン化合物類としては、例えば、トリブチルフォスフィン、トリヘキシルフォスフィン、トリオクチルフォスフィン等のトリアルキルフォスフィン類、トリブチルフォスフィンオキシド、トリヘキシルフォスフィンオキシド、トリオクチルフォスフィンオキシド(TOPO)、トリデシルフォスフィンオキシド等のトリアルキルフォスフィンオキシド類などが挙げられる。有機リン化合物類としては、分子中に炭素−リン単結合を有する化合物を、好適に使用することもできる。
【0031】
代表的な有機修飾剤としては、例えば、ペンタノール、ペンタナール、ペンタン酸、ペンタンアミド、ペンタンチオール、ヘキサノール、ヘキサナール、ヘキサン酸、ヘキサンアミド、ヘキサンチオール、ヘプタノール、ヘプタナール、ヘプタン酸、ヘプタンアミド、ヘプタンチオール、オクタノール、オクタナール、オクタン酸、オクタンアミド、オクタンチオール、デカノール、デカナール、デカン酸、デカンアミド、デカンチオールなどが挙げられる。原料として使用する有機修飾剤(有機分子)は、水可溶性のものが好適に使用できる。該有機修飾剤は、水溶液として使用されるが、必要に応じて有機溶媒と水との混合溶媒の溶液などとして使用されてもよい。
【0032】
原料として反応場に導入されるナノ粒子前駆体含有水溶液や有機修飾剤として反応場に導入される有機分子含有水溶液に有機溶媒を共存させる場合、該有機溶媒としては、水と混和性のもの、あるいは、親水性のものを好適に使用でき、例えば、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類、ニトリル類、ラクタム類、オキシム類、アミド類、尿素類、アミン類、スルフィド類、スルホキシド類、リン酸エステル類、カルボン酸類又はカルボン酸誘導体であるエステル類、炭酸又は炭酸エステル類、エーテル類などが挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、シクロペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノ
ール、シクロヘプタノール、オクタノール、シクロオクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ヘプタデカノール、シクロヘプタノール、メトキシエタノール、クロロエタノール、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロプロパノール、フェノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。
【0033】
ケトン類又はアルデヒド類として、例えば、アセトン、2-ブタノン、3-ペンタノン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ブチルメチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等が挙げられる。ニトリル類として、例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。ラクタム類として、例えば、ε-カプロラクタム
等が挙げられる。オキシム類として、例えば、シクロヘキサノンオキシム等が挙げられる。アミド類ないしは尿素類として、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N'-ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、N,N'-ジメチルエチレン尿素、N,N'-ジメチルプロピレン尿素、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。アミン類として、例えば、キノリン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。スルホキシド類として、例えば、スルホラン等が挙げられる。リン酸エステル類として、ヘキサメチレンフォスホリックアシッド等が挙げられる。カルボン酸類又はエステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、プロピレンカーボネート等が挙げられる。還元剤であるギ酸を有機溶媒として使用してもよい。エーテル類としては、例えば、ジグライム、ジエチルエーテル、アニソール等が挙げられる。
【0034】
本発明に従いナノ粒子合成せしめられた反応生成物は、反応後、通常、室温にまで冷却せしめられる。反応混合物からの生成ナノ粒子の分離は、当該分野で知られた方法を適用して行うことができ、物理的な手法や化学的な手法を利用して行うこともできる、本発明で得られるナノ粒子は、その表面が有機基で修飾されているので、その修飾基により様々な物性を付与可能であり、当該修飾基の性質を利用して単離することもできる。一般的には、水と親水性又は疎水性などの有機溶媒を利用して、相分離又は相分配などを施して、夾雑物などや原料物質などから分離することも可能である。好適には、溶媒抽出、クロマトグラフィーなども使用できる。
【0035】
本発明で得られる金属・合金ナノ粒子生成物は、安定に分散された状態に維持できるもので、例えば、適当な有機溶剤(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、ドデカン、オクタデカン等の長鎖アルカン類を含めたアルカン類、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の環式炭化水素等)を媒体とした分散液として、安定に維持できる。したがって、本発明のナノ粒子分散物は、バインダーと配合するなどして様々な工業材料、例えば、塗布型磁気記録媒体用材料とした場合にも、均一な磁性層を形成することが可能であり、さらには、極薄の層の形成も可能であり、優れている。
【0036】
本明細書中、用語「ナノ粒子」とは、上記したように、ナノメーターサイズの粒子を指しており、例えば、その平均粒子径が1 μm(1,000 nm)以下のサイズのものを指しており
、好ましくはその平均粒子径が 200 nm 以下のサイズのものを指し、また、好ましくは150 nm以下のサイズのものが挙げられる。ある場合には、該ナノ粒子は、その平均粒子径が100 nm以下のサイズのもの、また別の場合にはその平均粒子径が50 nm 以下のサイズのものであってよい。また好適な場合には、該ナノ粒子は、その平均粒子径が20 nm 以下のサイズのもの、また別の場合にはその平均粒子径が10 nm 以下のサイズのものあるいは5 nm以下のサイズのものであってよい。該ナノ粒子は、0.1〜50nmの粒子、1〜50nmの粒子、
好ましくは1〜25nmの粒子、さらに好ましくは1〜20nmの粒子、より好ましくは5〜20nmの粒子、さらにより好ましくは5〜10nmの粒子である。
【0037】
また好適な場合には、該ナノ粒子の粒子サイズは均一なものが好ましいが、一定の割合でその粒子サイズの異なるものの混合しているものが好ましい場合もある。本発明の技術では、5 nmの粒子サイズのもの、2〜7 nmの粒子サイズのもの、2〜2.5 nmの粒子サイズのもの、さらにはナノ粒子集団の70%又はそれ以上、80%又はそれ以上、90%又はそれ以上、95%又はそれ以上が、5 nmの粒子サイズのもの、2〜7 nmの粒子サイズのもの、あるい
は、2〜2.5 nmの粒子サイズのものであるものが得られる。本発明の手法で得られるナノ
粒子集団としては、1〜5nmの粒子、5〜10nmの粒子、10〜15nmの粒子、15〜20nmの粒子、20〜30nmの粒子、30〜50nmの粒子、1〜3nmの粒子、3〜5nmの粒子、5〜7nmの粒子、7〜10nmの粒子、10〜13nmの粒子、13〜16nmの粒子、16〜20nmの粒子、又は、20〜25nmの粒子であって、且つ、ナノ粒子集団の70%又はそれ以上、80%又はそれ以上、90%又はそれ以上、95%又はそれ以上が当該サイズのものとして含んでいるものが挙げられる。
【0038】
当該金属・合金ナノ粒子は、例えば、動的光散乱(Dynamic Light Scattering, DLS)で
測定したその平均粒子径が9〜50nmのサイズ又はそれ以下のもの、好ましくはその平均粒
子径が10〜40nmのサイズ又はそれ以下のもの、あるいは、X線回折(X-Ray Diffraction, XRD)で測定したその平均粒子径が25nmのサイズ又はそれ以下のもの、又は、15nmのサイズ又はそれ以下のものを指しているものでよい。さらに、該ナノ粒子は、XRDデータに基づ
いた金属・合金ナノ粒子の平均粒子径が、約5〜25nmであるもの、好ましくは約7〜25nmであるもの、さらに好ましくは約8〜25nmであるもの、もっと好ましくは約8〜15nmであるものであってよい。ある場合には、該ナノ粒子は、その平均粒子径が15nm以下のサイズのもの、また別の場合にはその平均粒子径が10 nm 以下のサイズのものであってよい。
【0039】
上記サイズは、ナノ粒子の形状が、棒体、円柱体、直方体、楕円柱体などの場合は、短軸のサイズが上記粒子サイズの小さな値とし、長軸のサイズをその短軸のサイズより大きな値としものであってよい。ナノ粒子は、球体、立方体、六面体、八面体などの多角形立方体、棒体、円柱体、卵形状体、正方晶、六方晶、三方晶、斜方晶、単斜晶、三斜晶、ウルツ鉱型結晶、単一壁または複数壁ナノチューブの形状、あるいはその他のナノスケールの形状であってもよい。それらは、非常に興味深い磁気的・電気的・光学的特性を現わすものである。
粒子径の測定は当該分野で知られた方法によりそれを行うことができ、例えば、TEM、
吸着法、光散乱法(DLSを含む)、SAXSなどにより測定できる。TEMでは電子顕微鏡で観察するが、粒子径分布が広い場合には、視野内に入った粒子が全粒子を代表しているか否かに注意を払う必要がある。吸着法は、N2吸着などによりBET 表面積を評価するものである。
【0040】
本発明の合成法では、金属単体からなるナノ粒子、2種以上の金属元素からなる合金ナノ粒子(例えば、二元系合金ナノ粒子、三元系合金ナノ粒子、四元系合金ナノ粒子、多元系合金ナノ粒子など)、半導体ナノ粒子、磁性体ナノ粒子、蛍光体ナノ粒子、導電体ナノ粒子、顔料ナノ粒子などを、簡単な手法で、有利に、大量に、及び/又は、安価に、そして、均一に分散しているとか、均質なものといった高品質のものを製造できる。したがって、当該ナノ粒子を使用して、高度な性能を有する製品を製造することを可能にする。
【0041】
本発明の合成法で製造される金属ナノ粒子、合金ナノ粒子としては、上記金属から選択されたものであり、例えば、Cu, Ag, Auなどの長周期型周期表第11族の元素(銅族元素)、Fe, Co, Ni, Ru, Rh, Pd, Os, Ir, Ptなどの周期表第8〜10族の元素(鉄族元素及び/
又は白金族元素)、Zn, Cd, Hgなどの周期表第12族の元素(亜鉛族元素)、Mn, Tc, Reなどの周期表第7族の元素(マンガン族元素)、Cr, Mo, Wなどの周期表第6族の元素(クロ
ム族元素)、V, Nb, Taなどの周期表第5族の元素(土酸金属元素)、Ti, Zr, Hf などの
周期表第4族の元素(チタン族元素)、Sc, Y, ランタノイド(例えば、La, Ce, Pr, Nd,
Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Yb, Luなど)、アクチノイド(Ac, Thなど)、ミッシュメタルなどの周期表第3族の元素(希土類元素を含む)、B, Al, Ga, In, Tlなどの周期表第13族の元素(アルミニウム族元素)、Si, Ge, Sn, Pbなどの周期表第14族の元素(炭素族元素)、As, Sb, Biなどの周期表第15族の元素、Te, Poなどの第16族の元素、Mg, Ca, Sr, Ba などの周期表第2族の元素などから選択された元素で構成されるものが挙げられる。当該ナノ粒子は、単独でも、あるいは、複数の元素を含むものであってよい。また、合金では、上記の元素から選択されたものを二種以上含有するものが挙げられてよい。
【0042】
本発明の合成法で製造される半導体ナノ粒子としては、周期表第14族元素の単体、例えば、炭素(C)〔例えば、ダイアモンドなど〕、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)〔
例えば、α-Snなど〕、鉛(Pb)など、周期表第15族元素の単体、例えば、リン(黒リン)、
ヒ素(As) 、アンチモン(Sb)など、例えば、セレン(Se)、テルル(Te)など、複数の周期表
第14族元素からなる化合物、例えば、SiC、Si1-xGexなど、周期表第14族元素と周期表第15族元素との化合物、例えば、Si3N4など、周期表第14族元素とS, Se, Teなどとの化合物
、例えば、硫化錫(II)(SnS)、硫化錫(IV)(SnS2)、硫化錫(II,IV)(Sn(II)Sn(IV)S3)、セレン化錫(II)(SnSe)、テルル化錫(II)(SnTe)、硫化鉛(PbS)、セレン化鉛(PbSe)、テルル化
鉛(PbTe)など、周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物、例えば、窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、AlxGa1-xN、AlxGa1-xAs、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、GaInP2、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、InxGa1-xAs、アンチモン化インジウム(InSb)、Ga-Al-In-Asなど、周期表第13族
元素とS, Se, Teなどとの化合物、例えば、硫化アルミニウム(Al2S3)、セレン化アルミニウム(Al2Se3)、硫化ガリウム(Ga2S3)、セレン化ガリウム(Ga2Se3)、テルル化ガリウム(Ga2Te3)、硫化インジウム(In2S3)、セレン化インジウム(In2Se3)、テルル化インジウム(In2Te3)など、
【0043】
周期表第12族元素と周期表第15族元素との化合物、例えば、Cd3P2など、周期表第12族元
素とS, Se, Teなどとの化合物、例えば、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)など、周期表第15族元素とS, Se, Teなどとの化合物、例えば、硫化アンチモン(III)(Sb2S3)、セレン化アンチモ
ン(III)(Sb2Se3)、テルル化アンチモン(III)(Sb2Te3)、硫化ビスマス(III)(Bi2S3)、セレン化ビスマス(III)(Bi2Se3)、テルル化ビスマス(III)(Bi2Te3)など、周期表第11族元素とS, Se, Teなどとの化合物、例えば、Cu2S、Ag2Sなど、周期表第4族元素、周期表第5族元
素、周期表第6族元素、周期表第7族元素及び周期表第8〜10族元素(鉄族元素及び白金族元素を含む)からなる群から選択されたものとS, Se, Teなどとの化合物、例えば、硫化モリブデン(IV)(MoS2)、硫化コバルト(II)(CoS)、硫化鉄(II)(FeS)、Fe2Sなど、周期表第2族
元素とS, Se, Teなどとの化合物、例えば、硫化マグネシウム(MgS)、セレン化マグネシウム(MgSe)など、さらには、カルコゲンスピネル類、例えば、CdCr2Se4、CuCr2S4、CuIn2S2、CuIn2Se2、HgCr2Se4など、YSi2などが挙げられる。
【0044】
これらのうち、重要な半導体としては、例えば、Si、Ge、SnS2、SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、PbTe、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、Al2S3、Al2Se3、Ga2S3、Ga2Se3、Ga2Te3、In2S3、In2Se3、In2Te3、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe、HgTe、Sb2S3、Sb2Se3、Sb2Te3、Bi2S3、Bi2Se3、Bi2Te3、MgS、MgSeな
どである。
本発明の製造方法で得られる半導体ナノ粒子は、その主要ナノ粒子構成成分に対して、任意の付活物質がドープ(故意に添加する事を意味する)されていても構わない。かかる付活物質の例としては、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、マンガン、ホウ素、アルミ
ニウム、ガリウム、インジウム、タリウムなどのアルミニウム族元素、炭素、スズ、ゲルマニウムなどの炭素族元素、リン、砒素、アンチモン、ビスマスなどの窒素族元素、銅、銀などの銅族元素、イットリウム、セリウム、ユーロピウム、テルビウム、エルビウム、ツリウムなどのランタノイドを含めた希土類元素、塩素、フッ素などのハロゲン元素などが挙げられるが、それに限定されず当該分野で使用されるものの中から選択されて使用される。
【0045】
本発明の合成法で製造される磁性体ナノ粒子としては、鉄族又はマンガン族元素を必須成分とする金属又は合金類を含有するナノサイズの粒子からなるものが挙げられる。代表的な磁性体としては、Fe、Co、Niの金属類、FePt、CoPt、FePd、M1nAl、FePtM1、CoPtM1
、FePdM1、M1nAlM1からなる群から選択される合金類(化学式中、M1は金属元素を表し、M1としては、例えば、Li、Mg、Al、Si、P、S、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Au、Tl、Bi、Po、Atが含まれる)が挙げられる。代表的なものとしては、FeNi、FePd、FePt、FeRh、CoNi、CoPt、、CoPd、CoRh、CoAu、Ni3Fe、FePd3、Fe3Pt
、FePt3、CoPt3、Ni3Pt、CrPt3、Ni3Mn、FeNiPt、FeCoPt、CoNiPt、FeCoPd、FeNiPd、FePtCu、FePtIn、FePtPb、FePtBi、FePtAg、CoPtCu、FePdCu、FeCoPtCu、FeNiPtCu、FePtCuAg、FeNiPdCuなどが包含されていてよい。磁性体としては、Ni-Fe合金(パーマロイ)、Fe又はFe-Co合金、Fe-Cr-Co合金、アルニコ磁石合金、希土類コバルト金属間化合物、Nd-Fe-B金属間化合物なども包含されてよい。
【0046】
本発明の技術を利用すれば、高い結晶性のナノ粒子を得ることができ、また、有機修飾されたものを得ることが可能である。
高い結晶性は、電子回折法、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope: TEM)、電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)、走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope: STEM)などの電子顕微鏡写真の解析、エックス線回折(XRD)、熱重量分析などにより確認できる。例えば、電子回折では、単結晶であれば回折干渉像としてドットが得られ、多結晶ではリング、そしてアモルファスではハローが得られる。電子顕微鏡写真では、単結晶であれば結晶面がしっかり出ており、粒子の上からさらに結晶が現れるような形状であれば、多結晶である。多結晶の一次粒子が小さく多くの粒子が凝集して二次粒子をつくっている場合球状になる。アモルファスであれば必ず球状である。エックス線回折では単結晶であればシャープなピークが得られる。Sherreの式を利用してX 線のピークの1/2 高さの幅から結晶子サイズを評価できる。該評価により得られた結晶子サイズが電子顕微鏡像から評価される粒子径と同一であれば、単結晶と評価される。
【0047】
熱重量分析では、熱天秤により、乾燥不活性ガス中で加熱すると、100℃付近で吸着し
ていた水分の蒸発による重量減少が、また、さらに250℃程度までで粒子内からの脱水に
よる重量減少がみられる。有機物質を含む場合には、250〜400℃においてさらに大きな重量減少が観察される。本発明の技術で得られた粒子の場合、400℃まで昇温しても、結晶
内部からの脱水による重量減少は最大10% 以下であり、低温で合成されたナノ粒子の場合と大きく異なる。かくして、本発明にしたがって得られる有機修飾金属微粒子の微粒子の特徴としては、高い結晶性、例えば、X 線回折でシャープなピークを有している、電子線回折でドットあるいはリングが観察される、熱重量分析で結晶水の脱水が乾粒子あたり10% 以下、及び/又は電子顕微鏡写真で一次粒子が結晶面を持っているなどが挙げられる。本発明のナノ粒子は、結合の強さが、熱重量分析において有機分子の沸点よりも高く、熱分解温度と同程度以上である。
【0048】
ナノ粒子は、例えば、CuやAgやAlは電極、触媒材料などの用途に、Niは電極、磁性材料、触媒材料などの用途に、CoやFeは磁性材料、触媒材料などの用途に、Ag/Cu は電極、触媒材料などの用途に、さらにB4C, AlN, TiB2などは高温材料、高強度材料などの用途に応
用される。
ナノ粒子やナノ粒子を特定の配列で有する薄膜はそれぞれ特有の優れた特性を示すことが認められている。例えば、ナノ粒子を単層配列したものでは、磁性ナノ粒子などのように緻密化充填を可能にし、近接場記憶素子として優れた機能を示すことが知られており、磁気テープなどに応用されて優れた特性を示し有用である。また,分散系パターンに配列されたものでは,例えば、ナノ蛍光体などでは,量子サイズ効果が得られることから、量子効果蛍光体、量子効果発光体、LSI高密度実装基盤などの製品を提供できる。ナノ粒子
を多層同時配列したようなものでは、低光散乱や光触媒効果など優れた機能を示し、湿式光電変換素子、高機能光触媒コーティングなどとなる。粒子分散膜では、補強効果や難燃効果など優れた機能を持つものが提供でき、半導体封止剤などにできる。
本発明で得られるナノ粒子は、ユーザーニーズに適合した粒子として機能する。例えば、半導体パッケージング用高濃度ナノ粒子分散樹脂、インクジェット用ナノ粒子分散インク、電池材料、触媒材料、潤滑剤などとして有用である。
【0049】
本発明で得られた金属・合金ナノ粒子は、プラスチックやゴムなどのバインダーと混合した製品、例えば、ボンディッド磁石などとすることも可能である。本発明はさらに磁性体である当該ナノ粒子がバインダー中に分散された磁性層を有する塗布型磁気記録媒体も包含する。該バインダーとしては、通常、NBRゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩
化ポリエチレン、ナイロン6、ナイロン12などのポリアミド樹脂などが挙げられる。本発
明の金属・合金ナノ粒子は、樹脂、金属、ゴムなどの各種バインダーと混練され、磁場中又は無磁場中で成形されることもできる。成形物は、必要に応じて、硬化せしめられてボンディッド磁石とされてもよい。また、当該金属・合金ナノ粒子をバインダーと混練せしめ塗料化し、これをプラスチック樹脂などからなる基体に塗布し、必要に応じて、硬化せしめて磁性層を形成し、塗布型磁気記録媒体としてもよい。さらに、当該金属・合金ナノ粒子は、焼結磁石、セラミックの製造に使用することも可能である。
本発明には、薄膜磁性層を有する磁気記録媒体も包含される。この薄膜磁性層は、上記した本発明の金属・合金ナノ粒子に加え、従来知られた酸化物磁性材料を含有しているものであってよい。
【0050】
本発明の金属・合金ナノ粒子材料を用いた製品は、適宜、必要に応じて所定の形状に加工され、下記に示すような幅広い用途に使用される。例えば、フュエールポンプ、パワーウインド、ABS、ファン、ワイパ、パワーステアリング、アクティブサスペンション、ス
タータ、ドアロック、電動ミラー等のための自動車用モータ;FDDスピンドル、VTRキャプスタン、VTR回転ヘッド、VTRリール、VTRローディング、VTRカメラキャプスタン、VTRカ
メラ回転ヘッド、VTRカメラズーム、VTRカメラフォーカス、ラジカセ等キャプスタン、CD、LD、MDスピンドル、CD、LD、MDローディング、CD、LD光ピックアップ等のためのOA、AV機器用モータ;エアコンコンプレッサー、冷蔵庫コンプレッサー、電動工具駆動、扇風機、電子レンジファン、電子レンジプレート回転、ミキサ駆動、ドライヤーファン、シェーバー駆動、電動歯ブラシ等のための家電機器用モータ;ロボット軸、関節駆動、ロボット主駆動、工作機器テーブル駆動、工作機器ベルト駆動等のためのFA機器用モータ;その他、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁
場発生装置、CD-ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オ
イルレベルセンサ、マグネットラッチ等の各種の電気・電子機械や部品・装置、光学機器・器具や部品・装置、各種の回路・配線等に好適に使用される。
本発明の金属・合金ナノ粒子が磁性材料の場合、それは、磁気ディスク、磁気カード、磁気テープ、メモリーカード用に使用できて有用であり、クレジットカード、身分証明書カード、情報記録媒体の用途に使用されても有用である。
【0051】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発
明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0052】
(1) グローブボックス内において、内容積 5mL の耐圧反応器中に、原料である酢酸鉄(II)水溶液、還元剤として用いたギ酸、合成した粒子の表面修飾を期待する有機修飾剤であるヘキサン酸を加えた。これを震とう式電気炉で400℃に加熱して反応させた。反応後、
生成物をX 線回折装置(XRD)、透過型電子顕微鏡(TEM)などで評価した。本実施例では、電気炉で加熱を始めた時刻を反応時間0 分と定義した。
(2) 酢酸鉄0.01M、ギ酸0.4M、水密度0.523g/mLの条件で、0.1M のヘキサン酸添加の影響を評価した。生成物のXRD パターンより、ヘキサン酸未添加の場合はマグネタイトのみが生成される一方、ヘキサン酸添加の場合は、マグネタイトに加え、鉄のピークが確認できた(図1)。
(2) 上記(2)の結果を元に、ギ酸濃度および水密度の最適化を試みた。その結果、水密度0.167g/mL、ギ酸濃度が3.0Mの時に、最も多く鉄ナノ粒子を合成できることが明らかとな
った。この条件でのマグネタイトと鉄の組成比は、9:1 であった。
金属酸化物の安定性の議論に使われるEllingham 図から判断すると、今回用いた条件では鉄ナノ粒子は生成されないと予想されたが、実際には生成された。その理由の1つは、ヘキサン酸により生成されたナノ粒子の表面がキャッピングされるためであると考えられる。
【0053】
(3) 続いて、鉄粒子の合成機構を明らかにするため、反応時間を1, 2, 3, 5, 10, 60分と変え、生成物を同定した。水密度が臨界密度(0.315g/mL)以下である0.167g/mLの場合、マグネタイト、鉄粒子は、それぞれ反応時間が2 分および3 分の時点で形成された。鉄の生成量は、反応時間が5 分、10 分と経過するにつれ、増加した。一方、水密度が0.523g/mL の場合、マグネタイト、鉄粒子はそれぞれ反応時間が3分および10分の時点で形成された。別途検討した結果、水密度が0.167g/mLの場合は反応時間が3 分の時点で水は全て蒸
発し、ギ酸の99%は分解して水素を発生している。従って、鉄ナノ粒子は、水の蒸発に伴
い未反応のまま残された酢酸鉄が、水素により還元されて生成されたと考えられる。
一方、水密度が0.523g/mLの場合、反応開始後5分で水の臨界温度に達して超臨界状態となるため、5分までは液相中の酢酸鉄は還元されず、鉄ナノ粒子は生成されない。超臨界
状態で均一になってから、未反応の酢酸鉄が還元され鉄が生成されると考えられる。
【実施例2】
【0054】
本実施例では、実施例1での鉄ナノ粒子の合成に加えて、FePt ナノ粒子の合成にも取
り組んだ。これまでに述べた鉄ナノ粒子の合成をもとに、酢酸鉄(II)、白金アセチルアセトネート(II)、ギ酸を原料としてFePt 粒子の合成を試みた。グローブボックス内におい
て、内容積 5mL の耐圧反応器中に、原料水溶液、還元剤、有機修飾剤であるオレイン酸
を加えた。これを震とう式電気炉で400℃に加熱して反応させた。反応後、生成物をX 線
回折装置(XRD)、透過型電子顕微鏡(TEM)などで評価した。
その結果、表面修飾を期待して添加したオレイン酸の存在下ではFePtが合成されることが示された。粒子の平均粒径は、4.9nmであった。図2に、修飾剤存在下で合成したFePt
ナノ粒子のTEM像を示す。また、合成した粒子は溶媒へも良分散することから、オレイン
酸が粒子表面と結合することでFePt相を保護するとともに、疎水性を付与していると考えられる。
以上より、水素を還元剤とした水熱合成場において、表面修飾剤の共存下で、鉄ナノ粒子、FePtナノ粒子を合成できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により、簡単且つ低コストで有用性の高い金属・合金ナノ粒子を合成することができるので、電気・電子材料、磁気材料、光学材料などの工業用材料としてその応用・適用が期待される。本発明により得られた金属・合金ナノ粒子は、その表面が修飾されており、媒質中での分散性にも優れており、応用範囲が広く、様々な用途においてそれの有する特異な特性を利用するのに便利なものであるので、工業材料としても優れている。本発明の方法は、セラミックスのナノ構造改質材、光機能コーティング材、電磁波遮蔽材料、二次電池用材料、蛍光材料、電子部品材料、磁気記録材料、研摩材料などの産業・工業材料、医薬品・化粧品材料などの高機能・高性能・高密度・高度精密化材料として有用なナノ粒子合成法である。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】有機修飾剤(ヘキサン酸)共存下/非共存下での超臨界水熱合成で得られた生成粒子のXRDパターンを示す。
【図2】有機修飾剤(オレイン酸)の存在下での超臨界水熱合成で得られたFePt ナノ粒子のTEM像(図面代用写真)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温高圧水存在条件の反応場でのナノ粒子合成法であり、ナノ粒子前駆体からナノ粒子を合成する反応場に、有機修飾剤及び還元剤を共存せしめて、ナノ粒子合成反応及びナノ粒子表面修飾反応を行い、生成ナノ粒子の表面に有機基が結合している金属又は合金ナノ粒子を得ることを特徴とする表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項2】
高温高圧水存在条件の反応場が、亜臨界又は超臨界水であることを特徴とする請求項1に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項3】
還元剤がガス状態であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項4】
還元剤が、ギ酸、水素ガス、一酸化炭素ガス、合成ガス、水性ガス及びそれらの混合物からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項5】
ナノ粒子合成反応が、温度及び/又は圧力が二成分系臨界点又はその近傍以上で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項6】
金属又は合金ナノ粒子の合成反応場に有機修飾剤を同時共存させるかあるいは金属又は合金ナノ粒子の合成直後に有機修飾剤を反応場に導入することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項7】
ナノ粒子表面修飾反応を、200℃以上、好ましくは、250℃以上の温度で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項8】
有機修飾剤が、カルボン酸類、アミン類、チオール類、フォスフォン酸及びその誘導体から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項9】
有機修飾剤が、カルボン酸類から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一記載の合成法で合成された、ナノ粒子の表面に有機基が化学結合している金属又は合金ナノ粒子であることを特徴とする表面修飾金属又は合金ナノ粒子。
【請求項11】
ナノ粒子の表面と修飾有機基との結合が、有機修飾剤の沸点よりも高い温度で安定で強い結合であることを特徴とする請求項10に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子。
【請求項12】
TEM及び/又はXRDデータに基づいた表面修飾金属又は合金ナノ粒子の平均粒子径が、約1
〜50nmであることを特徴とする請求項10又は11に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか一に記載の表面修飾金属又は合金ナノ粒子を磁性体として含有することを特徴とする磁性材料組成物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−46625(P2010−46625A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214244(P2008−214244)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】