説明

超電導ケーブル線路の設計方法及び超電導ケーブル線路

【課題】接続箇所の損傷を低減することができ、布設作業性に優れる超電導ケーブル線路及びその設計方法を提供する。
【解決手段】線路Lに冷媒を導入した際に、超電導ケーブルの熱収縮により各中間接続構造Jの導体接続部に生じる応力に基づいて各接続部の移動量を求め、各接続部をケースに固定するか否かを決定する。線路Lに具える全ての中間接続構造Jの導体接続部がケースに対して相対的に移動可能な状態と仮定した場合の各接続部の移動量を演算する。得られた複数の移動量と閾値との比較結果を利用して、各導体接続部を固定接続部とするか移動接続部とするかを決定する。この判定により、固定接続部の数を少なくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブルの超電導導体同士を接続する導体接続部を複数具える超電導ケーブル線路の設計方法、及び超電導ケーブル線路に関する。特に、冷却時に超電導ケーブルが熱収縮することで接続箇所などが移動した際に線路構成部材の損傷を抑制することができ、布設作業性に優れる超電導ケーブル線路の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォーマと、超電導導体と、電気絶縁層とを具えるケーブルコアを断熱管内に具えた超電導ケーブルが実用されつつある。超電導ケーブルは、断熱管内に充填した冷媒でケーブルコアを冷却し、超電導導体を超電導状態にして電力供給に利用される。
【0003】
超電導ケーブルを用いて長距離に亘る電力供給線路を構築する場合、隣り合うケーブル同士を接続する中間接続構造を線路途中に設ける必要がある。中間接続構造は、ケーブルコア同士を接続するケーブル接続部と、この接続部を収納するケースとを具える(特許文献1,2参照)。図6は、ケーブル接続部の概略構成図である。ケーブル接続部140は、接続する一対のケーブルコア101A,101Bにそれぞれ具える超電導導体102A,102B同士を接続する導体接続部120と、導体接続部120の外周に設けられる補強絶縁部130とを具える(特許文献1参照)。導体接続部120は、代表的には、超電導導体102の端部と、超電導導体102の端部同士を接続する接続部材110とを具える。補強絶縁部130は、代表的には、合成紙やクラフト紙といった絶縁材を導体接続部120の外周に巻回して形成する。
【0004】
ケーブルコア、特に、フォーマや超電導導体といった金属含有部材は、液体窒素といった冷媒により冷却されると、最大で0.3%程度熱収縮する。この熱収縮により、超電導導体に繋がる導体接続部が移動しようとする。特許文献1に記載の中間接続構造は、この移動によりケースに対する導体接続部の位置がずれないようにするために、導体接続部をケースに固定する構成である。一方、特許文献2に記載の中間接続構造は、ケース内を摺動できる保持具によりケーブルコアを支持し、かつケーブル接続部をケースに固定しない構成である。この構成により、導体接続部は、超電導ケーブルの冷却時の熱収縮に伴ってケース内を移動できる。
【0005】
【特許文献1】特開2005-210834号公報
【特許文献2】特開2005-32698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
長距離の超電導ケーブル線路には、複数の中間接続構造の構築が必要である。しかし、従来、複数の中間接続構造を具える線路を構築するための設計手法が十分に検討されていない。特許文献1,2は、中間接続構造の具体的な構成を開示しているものの、複数の中間接続構造を具える線路を構築する場合に各中間接続構造をそれぞれどのような構成にするかを検討していない。
【0007】
例えば、線路に具える全ての中間接続構造を特許文献1に記載されるような構成、即ち、導体接続部をケースに固定する構成(以下、この構成を固定構造と呼ぶ)とすることが考えられる。或いは、全ての中間接続構造を特許文献2に記載されるような構成、即ち、導体接続部をケースに固定しない構成(以下、この構成を可動構造と呼ぶ)とすることが考えられる。
【0008】
可動構造は、固定構造よりも比較的簡易な構成であり、比較的短時間で組み立てられることから、布設作業性に優れる。しかし、線路に設ける全ての中間接続構造を可動構造とすると、超電導ケーブルの冷却時の熱収縮により、必要以上に大きく移動する導体接続部が生じる恐れがある。導体接続部が大きく移動すると、その外周に設けられた補強絶縁部などが損傷する可能性がある。特に、電気性能の劣化を招くような大きな損傷を生じる可能性もある。
【0009】
図6に示すケーブル接続部140のように、合成紙や絶縁紙などの絶縁材を導体接続部120の外周に巻回してなる補強絶縁部130は、超電導ケーブルの冷却時の熱収縮に伴う導体接続部120の移動に追従し難い。そのため、導体接続部120が移動することで、特に、超電導導体102と補強絶縁部130との境界近傍(図6中、破線の小丸印で示す箇所)やケーブルコア101(電気絶縁層)と補強絶縁部130との境界近傍(図6中、破線の大丸印で示す箇所)で補強絶縁部130がずれたりして損傷し、電気絶縁性能が劣化する恐れがある。
【0010】
特に、線路全体を冷却する時間を短縮するために冷却速度を大きくする場合、冷媒の導入側と未導入側との温度勾配が大きくなることから、大きく移動する導体接続部が生じ易く、接続箇所を損傷する可能性が高くなる。このような損傷を防止するために導体接続部の移動量を低減する、或いは導体接続部を実質的に移動しないように冷却速度を小さくすると、線路全体を冷却するまでに非常に時間が掛かり、現実的には難しい。
【0011】
仮に補強絶縁部などが導体接続部の移動に追従してずれなどが生じなくても、導体接続部の移動量が大きいと、ケーブル接続部がケースに当たって損傷する恐れがある。ケースを大きくすればケーブル接続部がケースに当たることを防止できるが、ケースは、マンホールなどの大きさが限られた箇所に設置されることがあり、このような場合、大型なケースは好ましくない。
【0012】
ここで、断熱管にケーブルコアを複数条具える多心超電導ケーブルでは、熱収縮代を有するようにコアを撓ませて撚り合わせることで、ケーブルの冷却時の熱収縮に伴う導体接続部の移動量を低減できる。そのため、線路の全ての中間接続構造を可動構造としても、接続箇所の損傷を抑制できる可能性がある。しかし、断熱管内にケーブルコアを1条具える単心超電導ケーブルでは、撚り合わせにより熱収縮代を採れない。そのため、線路の全ての中間接続構造を可動構造とすると、移動量が大きな中間接続構造が生じて、接続箇所が損傷したりケースに当たる恐れがある。
【0013】
一方、固定構造は、超電導ケーブルの冷却時の熱収縮に伴う導体接続部の移動が規制されることから、上述のような補強絶縁部の損傷などの問題が生じない。しかし、固定構造は、可動構造よりも比較的複雑であり、組立に時間が掛かるため、数が多いと布設作業性の低下を招く。
【0014】
以上から、複数の中間接続構造を具える線路を構築するにあたり、線路全体としての布設作業性と、冷却時の熱収縮に伴う移動による線路構成部材の損傷の低減とを考慮した線路の設計方法を開発することが望まれる。
【0015】
そこで、本発明の目的の一つは、複数の中間接続構造を具える超電導ケーブル線路において、布設作業性に優れ、線路構成部材の損傷を低減することができる線路の設計方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記設計方法に基づき構築した超電導ケーブル線路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明超電導ケーブル線路の設計方法は、超電導ケーブルの冷却時の熱収縮に伴って導体接続部に生じる応力に基づいて、固定構造の最小数を決定することで上記目的を達成する。
【0017】
具体的には、本発明超電導ケーブル線路の設計方法は、冷媒によって冷却される超電導導体を有する複数の超電導ケーブルと、隣接するケーブルの超電導導体同士を接続する複数の導体接続部と、各導体接続部を収納する複数のケースとを具える線路を設計する設計方法であり、以下の工程を具える。
1. 各導体接続部がそれぞれケースに対して相対的に移動可能な状態と仮定した場合に、冷却により超電導ケーブルが熱収縮する際に各導体接続部が移動する移動量を演算する工程。
上記各導体接続部の移動量の演算は、当該線路への冷媒の導入方向に応じて各接続部に生じる応力に基づいて行う。
2. 得られた複数の移動量と閾値との比較結果を利用して、各導体接続部を固定接続部とするか移動接続部とするかを決定する工程。
上記固定接続部は、冷却により超電導ケーブルが熱収縮する際、ケースに対して相対的に移動不可能にケースに固定される導体接続部とし、上記移動接続部は、冷却により超電導ケーブルが熱収縮する際、ケースに対して相対的に移動可能にケースに収納される導体接続部とする。
【0018】
本発明設計方法は、当該線路に冷媒を導入した際、超電導ケーブルが冷却されて熱収縮するときに各導体接続部に生じる応力に基づいて各接続部の移動量を算出し、得られた各移動量と閾値との比較により、各接続部をそれぞれケースに固定するか固定しないかを決定する。この構成により、本発明設計方法は、線路に具える複数の中間接続構造において、比較的組立に時間がかかる構造、即ち導体接続部をケースに固定する構造の数を低減できる。かつ、本発明設計方法は、上記移動量を閾値と比較することで、移動量が大きいと思われる導体接続部を固定接続部に選別し易く、接続部の移動に伴う補強絶縁部の損傷などを抑制できる。従って、本発明設計方法を利用することで、線路の布設作業性に優れ、かつ線路構成部材の損傷による電気性能の劣化を低減し、電気性能に優れる超電導ケーブル線路を提供することができる。以下、本発明をより詳しく説明する。
【0019】
本発明設計方法は、超電導ケーブル及び導体接続部を収納するケースの設置位置及び数が予め決められた状態で、即ち、線路の概略形状が決められた状態で、個々の接続部を移動接続部にするか固定接続部にするかを決定する。従って、本発明設計方法を利用するにあたり、予め、線路を構築する現場の地理的状況(布設レイアウト)に応じて、線路を構築する経路(ルート)を決定しておく。そして、経路に則って、線路に利用する超電導ケーブルの長さや数、ケースの数、及びこれらの設置位置を決定して、線路の概略形状を形成しておく。
【0020】
そして、線路中に具える各導体接続部をそれぞれ移動接続部及び固定接続部のいずれにするかの決定は、超電導ケーブルが主に冷却時に熱収縮する際に各接続部が移動するときの移動量、特に、ケーブルの長手方向の移動量を求め、この移動量を用いて行う。この移動量は、線路に冷媒を導入する方向により変化する。例えば、超電導ケーブル線路の一端側から冷媒を導入して冷却していく場合、一端側(導入側)と他端側との間で温度勾配が生じ、冷媒で先に冷却される導入側が他端側よりも先に収縮する。このとき、導体接続部は、先に収縮する導入側に引っ張られるように移動する。そして、温度差が大きな箇所に位置する導体接続部は、移動量が大きくなる。このように冷媒の導入方向によって、導体接続部の挙動が異なり、移動量も変化する。そこで、本発明設計方法は、線路に冷媒を導入する方向を考慮して移動量を求める。
【0021】
また、移動量は、布設レイアウトによっても変化する。例えば、線路のルートプロフィールには、曲がり箇所や高低差など様々な状態が考えられる。一般に、電力ケーブルの曲がり箇所近傍は、熱収縮などでの移動が大きく、電力ケーブルに高低差のある場合は、重力によって高所側部分が低所側に向かって滑落しようとする。このようにルートプロフィールによっても移動量が変化することから、上記冷媒の導入方向に加えて、ルートプロフィールに基づく布設レイアウトをも考慮して移動量を求めることが好ましい。具体的には、布設レイアウトに依存する物性値、例えば、ケーブルの曲がり部分の曲率、重力などを考慮して、移動量を求める。更に、移動量の演算は、超電導ケーブルの仕様、特にケーブルコアと断熱管との摩擦や、ケースや導体接続部といった中間接続構造の仕様などといった設計条件を考慮して行うことが好ましい。
【0022】
本発明設計方法の詳しい手順は後述し、概要を以下に述べる。
まず、各導体接続部の移動量をそれぞれ演算する。
線路に設ける全ての導体接続部を固定接続部と仮定すると、各接続部はそれぞれ、超電導ケーブルの冷却時の熱収縮に伴う移動が規制される。そのため、各導体接続部にはそれぞれ上記熱収縮に伴う応力が生じる。この応力は、冷却時の温度変化の大きさに応じて異なり、演算により求められる。そして、全ての導体接続部を移動接続部と仮定して、各導体接続部に加わる応力を解放した場合の移動量も演算により求められる。
【0023】
次に、得られた移動量を利用して、固定接続部か移動接続部かの決定を行う。
得られた移動量が許容範囲内であれば、この導体接続部は、ケースに対して相対的に移動可能にケースに収納しても性能劣化の恐れが少なく、許容範囲外であれば、ケースに対して相対的に移動不可能にケースに固定することが望まれる。そこで、本発明設計方法は、得られた移動量と閾値とを比較し、この比較結果を用いて、固定接続部か移動接続部かを決定する。例えば、閾値未満のとき、その導体接続部を移動接続部とし、閾値以上のとき、固定接続部と決定する。閾値は、ケースの大きさなどを考慮して予め設定する。
【0024】
具体的には、移動量が最も大きい導体接続部を移動接続部及び固定接続部のいずれかを判定する。移動量が最大の導体接続部が移動接続部と判定された場合、その他の全ての導体接続部も移動接続部としても損傷などの問題がないと考えられる。従って、この場合、線路に具える全ての導体接続部を移動接続部に決定する。一方、移動量が最大の導体接続部が固定接続部と判定された場合、次に、この固定接続部が存在する状態の線路を仮定し、この固定接続部を除く各導体接続部の移動量を改めて演算し、同様に移動量が最大の導体接続部について移動接続部か固定接続部かの判定を行う。このように固定接続部を一つ決定したら、順次移動か固定かの判定を行う。そして、移動量が最大の導体接続部が移動接続部と判定されるまで、固定接続部の選別を繰り返し行う。このような判定を行うことで、本発明設計方法は、効率よく固定接続部を選別し、固定接続部の数を低減することができる。
【0025】
なお、各移動量と閾値とをそれぞれ比較し、移動量が閾値以上である全ての導体接続部を固定接続部としてもよい。この場合、固定接続部の数が多くなるものの、接続箇所の損傷を確実に防止することができる。
【0026】
固定接続部の決定により、その設置位置が自動的に決定されるが、移動量が大きくケースへの固定が望まれる場合でも、布設レイアウトによっては固定接続部の構築が難しいことが考えられる。例えば、導体接続部を固定するケースの布設スペースや施工スペースが設置位置に十分に無い場合が考えられる。このような場合、当該固定接続部の近傍の導体接続部を固定接続部にしてもよい。また、高所と低所との双方に固定接続部を具える線路の場合、冷却時の熱収縮に伴う移動量が少なくても高所側の導体接続部を固定接続部とすれば、高所側の導体接続部が重力により低所側に落下することを防止し易い。このように冷却時の熱収縮に伴う移動だけでなく、布設レイアウトをも加味することで、良好な布設作業性や接続箇所の損傷低減をより確実に図ることができる。
【0027】
本発明設計方法により構築された線路に具える各導体接続部は、固定接続部及び移動接続部の少なくとも一方である。即ち、本発明線路は、冷媒によって冷却される超電導導体を有する複数の超電導ケーブルと、隣接するケーブルの超電導導体同士を接続する複数の導体接続部と、各導体接続部を収納する複数のケースとを具える線路であり、固定接続部と移動接続部とが混在する線路である。なお、本発明設計方法により形成された線路は、全ての導体接続部が移動接続部である線路或いは固定接続部である場合を許容する。
【0028】
超電導ケーブルは、例えば、Bi系酸化物超電導材料といった超電導材料からなる超電導導体と、その外周に設けられる電気絶縁層とを具えるケーブルコアを断熱管内に収納した構成が代表的である。ケーブルコアは、単心でも複数心でもよい。複数心のケーブルコアを具える多心ケーブルは、コアを撚り合わせることで各コアが曲がりを有し、この曲がった状態で断熱管に収納される。このため、各ケーブルコアは、冷却による熱収縮時、断熱管との間の摩擦によりケーブルの長手方向の移動がある程度抑制されることで、接続箇所の損傷が生じ難くなる。特に、ケーブルコアを撓ませて、この撓みを熱収縮の吸収代とすると、冷却による熱収縮時、ケーブルコアがケーブルの長手方向に移動することをより規制できる。これに対し、単心のケーブルコアを具える単心ケーブルでは、撚り合わせられないため、例えば、断熱管内で曲がりを有するように(スネーク状に)断熱管内に収納させることが考えられる。しかし、供給電力の容量の増大に伴い、導体径が大きくなると、スネーク状の収納では、十分な吸収代を有することが難しい。そのため、単心超電導ケーブル線路では、固定接続部が必須となることから、本発明線路の設計方法は、特に、単心ケーブルを具える線路に有用である。
【0029】
導体接続部は、超電導ケーブルの端部から引き出したケーブルコアの端部を段剥ぎして超電導導体を露出し、接続部材を用いて超電導導体の端部同士を接続して構築する。この外周に設けられる補強絶縁部は、エポキシユニットといった樹脂の一体成形体からなる固体絶縁部を利用したり、合成紙やクラフト紙といった絶縁材を導体接続部の外周に巻回してなる積層絶縁部を利用したり、双方を組み合わせた構成を利用することができる。一体成形体は、接続部材に予め一体に設けておくと、導体接続部の組立作業性に優れる。
【0030】
ケーブルコアを収納する断熱管や導体接続部を収納するケースは、冷媒が充填される内管又は内ケースと、その外周を覆う外管又は外ケースとを具える二重構造のものが挙げられる。内外管又は内外ケース間は、断熱材を配置したり、真空にして断熱構造とする。冷媒は、例えば、液体窒素が挙げられる。
【0031】
移動接続部は、超電導ケーブルが冷却により熱収縮する際、ケースに対して相対的に移動できるように収納する。例えば、ケース内を摺動可能な保持具であって、超電導ケーブルの長手方向に移動できるものでケーブルコアや導体接続部を支持することで、導体接続部は、ケース内をケーブルの長手方向に移動できる。このとき、ケースは、大地に固定させてもよいし、ケース自体が実質的に移動しない場合、例えば、ケースが水平な箇所に設置される場合などでは、大地に固定させなくてもよく、単に大地に置くだけでもよい。ケースの設置箇所の状態に応じて、ケース自体の大地への固定、非固定を決定することができる。
【0032】
固定接続部は、超電導ケーブルの冷却による熱収縮時、当該ケースに対して相対的に移動できないように収納する。例えば、導体接続部をケースに固定して移動できないようにする。具体的には、導体接続部の外周に設けられた上述の固体絶縁部や積層絶縁部といった補強絶縁部をケースに固定することが挙げられる。固体絶縁部は、それ自体が強度に優れるため、ケースに直接固定してもよい。例えば、固体絶縁部を保持する保持部材をケースに固定し、この保持部材に固体絶縁部を固定することで、固体絶縁部をケースに固定する。積層絶縁部は、固体絶縁部よりも強度が弱いため、ケースに直接固定すると損傷する恐れがある。そこで、積層絶縁部の外周にステンレスやFRPといった強度に優れる材料で構成した補強支持部を設けておき、この補強支持部をケースに固定する。ケースには、補強支持部を固定するための支持片を設けておく。保持部材や支持片は、導体接続部が移動しようとする際の力に十分耐え得る強度を有するように構成する。例えば、ステンレスやFRPで構成する。また、保持部材や支持片は、ケースに一体に形成してもよい。
【0033】
保持部材や支持片は、ケース内の冷媒の流通を妨げない構成とすることができる。例えば、保持部材は、流通孔を有する板状材としたり、複数の支持片を支持片間に隙間ができるようにケース内に配置し、これら隙間を冷媒の流通に利用することが挙げられる。
【0034】
或いは、保持部材は、ケース内の冷媒を流通させない構成とすることができる。ここで、複数のケースを具えた線路において、冷媒を供給する区間(以下、冷媒区間と呼ぶ)を一つにする、つまり、線路の一端側から冷媒を導入し、超電導ケーブルやケースを経て、他端側から冷媒を排出する構成を考える。このとき、線路の一部、特に、導入側近傍には、所望の冷却能力を持つ冷媒が供給されても、線路の他部、特に、排出側近傍には、高い冷却能力を持つ冷媒が十分に供給されない恐れがある。長尺な線路では、ケースや断熱管とケーブルコアなどとの摩擦による流通圧力の低下、侵入熱による冷媒温度の上昇などにより、所望の冷却能力を持つ冷媒が流通され難くなる。このような線路では、一つの線路において冷媒区間を複数に区切ることが望まれる。そこで、このような線路には冷媒区間の区切りを少なくとも一つ設け、冷媒区間を複数にする。例えば、保持部材を、流通孔を有さない板状材とし、この部材を冷媒の流通を遮る仕切部に利用することで冷媒区間を区切ることができる。
【0035】
なお、積層絶縁部は、冷媒が浸漬するのに対し、固体絶縁部は、冷媒が浸漬しない。そのため、固体絶縁部を有する導体接続部を収納するケースに冷媒区間の区切りを設ける場合、冷媒の流通を完全に分断することができ、各区間の冷媒の圧力を調整し易い。従って、冷媒区間の区切りは、固体絶縁部を有する導体接続部を収納するケースに適用することが好ましい。
【0036】
固定接続部は、ケースに固定されるため、冷却時の熱収縮以外の場合も移動が規制される。これに対し、移動接続部は、常に、ケース内を移動可能であるが、この移動をある程度規制することが望まれる場合がある。例えば、高低差や曲がりなどを有する布設レイアウトである場合、導体接続部が一時的に移動する恐れがある。このような一時的な移動を規制するために、移動接続部を一時的に固定可能な構成を具える線路とすることが好ましい。例えば、一時的に移動する恐れがある移動接続部を収納するケース内に充填される冷媒を固化可能な冷却装置を線路に具えておく。そして、ケース内の冷媒を固化することで、導体接続部の移動を規制することが挙げられる。この移動規制は、固化した冷媒を昇温して溶かすことで簡単に解除することができる。このように冷媒の状態を変化させることで、一時的な移動の規制及び解除を容易に行える。一時的な固定が望まれる導体接続部の選別は、布設レイアウトや設計条件に基づいて決定できる。上記冷却装置は、線路に少なくとも一つ具えるとよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明超電導ケーブル線路の設計方法は、ケーブルの冷却時の熱収縮に伴う接続箇所の損傷を抑制でき、かつ固定接続部の数を少なくして布設作業性に優れる線路を設計することができる。また、本発明超電導ケーブル線路は、電気性能及び布設作業性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、超電導ケーブル線路を設計し、この設計に従い線路を構築する手順を具体的に説明する。
<設計例1>
図1の中央の図は、複数の中間接続構造を具える超電導ケーブル線路の概略形状を模式的に示す平面図、図1の上方のグラフは、この線路に沿った温度分布を示すグラフ、図1の下方のグラフは、この線路に沿った応力分布を示すグラフである。この例では、説明を簡単にするために、布設レイアウトとして、曲がり及び高低差がない直線状のルートを利用する。
【0039】
(1) 線路の概略形状の形成
まず、線路を構築する経路に基づき、線路を設ける箇所に必要とされる所定長の超電導ケーブルの数、中間接続構造の数、及びこれらの設置位置を検討し、線路の概略形状を決定する。ここでは、A地点からB地点に及ぶ線路Lを6条の超電導ケーブルCと5箇所の中間接続構造Jとで構築し、図1に示すように設置する場合を考える。線路Lの両端部(A地点及びB地点)には、終端接続構造Ta,Tbを設ける。終端接続構造Ta,Tbは、通常、大地に固定する。各中間接続構造Jは、隣接する超電導ケーブルCの端部から引き出したケーブルコア(図示せず)に具える超電導導体(図示せず)同士を接続する導体接続部(図示せず)と、この導体接続部を収納するケース(図示せず)とを具える。
【0040】
(2) 温度分布と応力分布の検討
次に、線路の一端側から冷媒を導入した場合の線路の温度分布及び応力分布を検討する。ここでは、線路L全体を一つの冷媒区間とし、A地点から冷媒を導入する場合を考える。即ち、冷媒導入方向をA地点からB地点に向かう方向とする。冷媒導入方向に加えて、冷媒の温度、流量、流速といった冷媒導入条件、及び超電導ケーブルCの仕様(超電導導体、ケーブルコアや断熱管などの物性値や大きさなど)や中間接続構造Jの仕様(導体接続部の物性値や大きさ、ケースの大きさなど)に応じて、時間毎の温度分布が求められる。
【0041】
ここで、超電導導体や導体接続部の収縮量は温度により異なる。そのため、線路の冷却時の温度勾配(温度差)が大きいほど、線路の各地点での収縮量が異なり、導体接続部が高温側から低温側に移動する量が大きくなる。そこで、得られた複数の温度分布のうち、温度勾配が最も大きいときの温度分布を選択する。選択した温度分布は、図1の上グラフに示すようにA地点に近いほど、冷媒温度(冷媒が液体窒素の場合、77K近傍)に近く、B地点に近いほど、常温に近くなり、B地点近傍は、常温である。
【0042】
線路を構成する全てのケーブル及び全ての中間接続構造Jについて、ケーブルコア及び導体接続部が断熱管及びケースに対して相対的に移動不可能な構成であると仮定すると、上記選択した温度分布に基づく線路の応力分布は、図1の下グラフのように表わされる。図1に示すように応力は、冷媒による冷却により線路の各地点に負荷され、A地点に近いほど大きく、B地点に近いほど小さく、常温であるB地点近傍は、冷媒の冷却による影響を実質的に受けないため、負荷されない。線路の各地点に働く応力は、冷媒導入条件や超電導ケーブルCの仕様に応じて求められる。
【0043】
(3) 移動量の演算
線路を構成する全てのケーブル及び全ての中間接続構造Jについて、ケーブルコア及び導体接続部が断熱管及びケースに対して相対的に移動可能な構成であり、摩擦係数を0と仮定する。このとき、線路に負荷されていた上記応力が解放されて、各導体接続部がそれぞれ移動する。移動量は、応力によって異なり、例えば、中間接続構造J1の導体接続部が最も大きい。ここでは、摩擦係数を考慮しなかったが、厳密には摩擦係数を考慮して応力を演算する。なお、図1の応力分布グラフにおいて、左側のハッチング領域S1と右側のハッチング領域S2は、同面積であり、領域S1が収縮量、領域S2は伸び量に相当する。
【0044】
ここで、温度差Δtによって対象物に負荷される応力Fは、対象物のヤング率をE、断面積をA、線膨張係数をαとするとき、F=E×A×α×(Δt)で表わされる。α×(Δt)は、熱収縮量であり、この熱収縮量により、導体接続部の移動量が求められる。
【0045】
従って、各導体接続部に負荷される応力と、各導体接続部のヤング率及び断面積とを用い、摩擦係数を考慮して熱収縮量をそれぞれ求め、得られた熱収縮量により、各導体接続部の移動量(超電導ケーブルの長手方向における移動量)を求める。摩擦係数を考慮することでより現実的な移動量が求められる。
【0046】
(4) 移動接続部又は固定接続部の決定
得られた導体接続部の移動量が許容できる場合、例えば、ケースが十分な大きさを有しており、導体接続部がこの移動量分だけケース内を移動してもケースに当たらない場合などでは、導体接続部をケースに対して相対的に移動可能な状態に収納していても問題ないと考えられる。そこで、この導体接続部は、ケースに対して相対的に移動可能にケースに収納される移動接続部とする。
【0047】
一方、得られた導体接続部の移動量が許容できない場合、即ち、導体接続部がこの移動量分だけケース内を移動するとケースに当たったり、接続箇所が損傷する恐れがある場合などでは、導体接続部をケースに対して移動不可能に収納する必要がある。そこで、この導体接続部は、ケースに対して相対的に移動不可能にケースに固定される固定接続部とする。
【0048】
各導体接続部のそれぞれを移動接続部にするか固定接続部にするかの判定は、以下のように行う。まず、各中間接続構造の移動量を比較し、最大の移動量を選び出す。次に、ケースの大きさなどを考慮して、予め設定しておいた閾値と最大の移動量とを比較する。例えば、この移動量が閾値以上の場合、移動量が最大である当該導体接続部は、固定接続部とし、移動量が閾値未満の場合、当該接続部は、移動接続部とする。
【0049】
上記当該導体接続部が移動接続部と決定された場合、他の導体接続部も移動接続部でよいと考えられる。従って、この場合、線路に具える全ての導体接続部を移動接続部に決定する。一方、上記当該導体接続部が固定接続部と決定された場合、この固定接続部が存在する状態の線路を仮定し、線路に具える導体接続部のうち、この固定接続部を除く各導体接続部の移動量を改めて演算する。即ち、固定接続部が一つ存在する線路において、各導体接続部の移動量を改めて演算する。そして、上記と同様に最大の移動量と閾値とを比較して、移動量が最大である当該導体接続部を固定接続部とするか移動接続部とするかを判定する。このように固定接続部を順次決定してき、この決定により固定接続部が存在する線路を仮定して最大の移動量を改めて演算し、最大の移動量が閾値未満となるまで、この手順を繰り返す。閾値は、同じものを使用し続けてもよいし、適宜、補正を加えてもよい。
【0050】
なお、施工スペースが十分に取れないなどの事情があり、固定接続部とすることが困難な導体接続構造については、予め移動接続部と決定して上述の手順を行ってもよい。
【0051】
上記の手順は、記憶手段、演算手段、比較手段、判定手段などを具えるコンピュータを用いて行うことができる。例えば、以下のようにコンピュータの各手段を動作させる。
【0052】
まず、冷媒の温度、流量、流速といった冷媒導入条件、超電導導体や断熱管の物性値(ヤング率、線膨張係数、断熱管とケーブルコアとの間の摩擦係数など)や大きさ(断面積、長さ、容積)といった超電導ケーブルの仕様、導体接続部の物性値(ヤング率、線膨張係数など)や大きさ、ケースの大きさといった中間接続構造の仕様をデータ記憶手段に予め入力しておく。また、線路の概略形状(布設レイアウトに沿った超電導ケーブルの長さ及び数、中間接続構造の数)も、データ記憶手段に予め入力しておく。
【0053】
温度演算手段は、上記データ記憶手段から呼び出したデータを利用して温度分布を演算し、応力演算手段は、得られた温度分布と、上記データ記憶手段から呼び出したデータとを利用して、各導体接続部に負荷される応力を演算する。第1移動量演算手段は、得られた応力と、上記データ記憶手段から呼び出したデータとを利用して、冷却時の熱収縮に伴う各導体接続部の移動量を演算する。移動量は、ケーブルコアと断熱管との間の摩擦係数を考慮して演算することが好ましい。
【0054】
第1移動量比較手段は、得られた移動量の大小関係を比較し、最大移動量を選出する。ケースの大きさなどを考慮して設定した閾値を閾値記憶手段に入力しておき、第1閾値比較手段は、最大移動量と閾値記憶手段から呼び出した閾値とを比較し、第1ケース判定手段は、最大移動量が閾値以上のとき、この導体接続部を固定接続部と判定し、最大移動量が閾値未満のとき、移動接続部と判定する。当該導体接続部が移動接続部と判定されたら、第1ケース判定手段は、全ての導体接続部を移動接続部と判定する。
【0055】
固定接続部と判定されたら、第2移動量演算手段は、この固定接続部を除く各導体接続部の移動量を演算する。このとき、第2移動量演算手段は、上記固定接続部が存在する線路を想定して各導体接続部の移動量を演算するように構成しておく。第2移動量比較手段は、改めて得られた移動量から最大移動量を選出し、第2閾値比較手段は、選出された最大移動量と閾値とを比較し、第2ケース判定手段は、最大移動量である導体接続部を固定接続部とするか移動接続部とするかを判定し、決定する。以下、ケース判定手段が移動接続部と判定するまで(最大移動量が閾値未満になるまで)、同様に繰り返す。このようにコンピュータを利用することで、線路の設計を簡単に行える。
【0056】
(5) 線路の構築
上記設計に基づき、超電導ケーブルを布設すると共に、中間接続構造を構築し、超電導ケーブル線路を構築する。構築された線路は、例えば、固定接続部と移動接続部とが混在する線路となる。
【0057】
上述した設計方法に基づけば、超電導ケーブル線路に設ける固定接続部や移動接続部の適切な数を簡単に求められる。従って、この設計方法は、冷却時の熱収縮により接続箇所が損傷して電気性能が劣化することを抑制できると共に、比較的複雑な構成である固定接続部を具える中間接続構造の数を低減できるため、線路の布設作業性に優れる。
【0058】
特に、この設計方法は、固定接続部を一つずつ決定していくことで、固定接続部の数を最小限にすることができる。また、固定接続部に繋がる超電導導体は冷却時の熱収縮に伴う移動が規制されるため、固定接続部の近傍、特に冷媒導入方向から見て固定接続部の上流側に位置する導体接続部は、上記超電導導体の移動規制により冷却時の熱収縮に伴う移動が少なくなる。従って、選出した固定接続部近傍の導体接続部は、移動量が少なくなることから、移動接続部と判定される可能性が高められる。そのため、この設計方法は、固定接続部の数を効果的に低減できる。
【0059】
<設計例2 布設レイアウトの利用>
《曲がり、高低差》
図2(I)は、曲がりを有する超電導ケーブル線路の模式平面図、(II)は、高低差を有する超電導ケーブル線路の模式側面図である。上記設計例1では、簡易な布設レイアウトで検討したが、実際には、図2に示すように曲がりBや高低差を有する場合がある。このような布設レイアウトの場合、導体接続部の移動量が増える。
【0060】
例えば、図2(I)に示すように布設レイアウトが曲がりBを有する場合、冷却により超電導ケーブルが熱収縮すると、曲がり部Bから中間接続構造J2に向かってケーブルコアが送り出され、その分コアの移動量が大きくなる。従って、冷媒導入方向から見て、曲がりBの上流側に位置する中間接続構造J2の導体接続部は、移動量が大きくなり、固定接続部と判定される可能性が高くなる。
【0061】
或いは、図2(II)に示すように布設レイアウトに高低差がある場合、高所側に存在する中間接続構造J3の導体接続部は、冷却により超電導ケーブルが熱収縮すると、この熱収縮により低所側に移動すると共に、重力により低所側に移動しようとする。従って、中間接続構造J3の導体接続部は、移動量が大きくなり、固定接続部と判定される可能性が高くなる。
【0062】
そこで、冷媒導入方向に加えて布設レイアウトをも考慮して、導体接続部の移動量を求めることで、固定接続部の数をより適切に選出することができる。
【0063】
なお、この設計例において移動量の演算をコンピュータで行う場合、布設レイアウトを利用して移動量の演算が行えるように、曲がりの曲率や落差などの布設レイアウト条件をデータ記憶手段に予め入力しておく。そして、呼び出したデータを利用して移動量を演算するように演算手段を構成する。
【0064】
《その他》
固定接続部と決定した場合であっても、布設レイアウトによって、例えば、布設スペースの不足などで固定接続部を構築することが難しいことが考えられる。そこで、固定接続部と判定した場合、更に、布設レイアウトを参照して、固定接続部を構築可能か否かを判定する構成を付加してもよい。例えば、以下のように構成する。
【0065】
まず、設計例1で説明した手順に従い、固定接続部と判定した場合、布設レイアウトを参照し、固定接続部を構築可能か否かを判定し、構築可能な場合、固定接続部と決定する。固定接続部が構築困難な場合、移動接続部と決定し、この移動接続部近傍の導体接続部、例えば、冷媒導入方向から見て上流側の導体接続部を固定接続部にできるか否かを判定し、固定接続部が構築できる導体接続部が選出されるまで、この判定を行う。或いは、上記決定した移動接続部の近傍に固定接続部が存在するか否かを判定してもよい。このように本来固定接続部が望ましいと判定された導体接続部の近傍に固定接続部が存在するようにすることで、当該導体接続部の移動量を低減することができる。
【0066】
なお、この設計例において上記手順をコンピュータで行う場合、各導体接続部の構築箇所の状態などといった布設レイアウト条件をデータ記憶手段に予め入力しておく。そして、ケース判定手段により、固定接続部と判定されたら、第1構築判定手段は、呼び出したデータを参照して、固定接続部の構築が可能か否かを判定し、可能な場合、固定接続部と決定し、不可能な場合、移動接続部と決定する。そして、第2構築判定手段は、移動接続部と判定された導体接続部の近傍の導体接続部を固定接続部とすることが可能か否かを判定する。
【0067】
<設計例3 冷媒区間の区切り>
設計例1では、一つの線路全体を一つの冷媒区間とする構成を説明した。一つの線路が複数の冷媒区間を有していてもよい。冷媒区間の区切りは、固体接続部を収納するケースに設ける。
【0068】
例えば、設計例1に則って固体接続部を決定した後、この固体接続部を収納するケースに冷媒区間の区切りを設けるか否かを判定する。固体接続部が複数有る場合は、それぞれのケースについて冷媒区間の区切りの有無を判定する。区切られた各冷媒区間にはそれぞれ、冷媒供給システム(冷媒貯留槽や冷凍機、ポンプなど)を構築する。
【0069】
この判定をコンピュータで行う場合、固定接続部が決定した後、冷媒区間判定手段は、この固定接続部を収納するケースに冷媒区間の区切りを設けるか否かを判定する。冷媒区間が区切られると、線路全体として冷媒の導入状態(冷媒導入方向など)が変化し、この変化に伴い、線路全体の温度分布も変化する。即ち、新たな冷媒区間ができることで、先に冷媒区間を一つとしていた場合と導体接続部の移動量が異なる。そこで、冷媒区間を区切ると判定した場合、第n移動量演算手段は(nは2以上の任意の自然数)、新たな冷媒区間に対して、各導体接続部の移動量を演算する。即ち、複数の区間ごとに導体接続部の移動量を演算する。このとき、新たな冷媒区間に関する情報(冷媒の温度、流量、流速、冷媒導入方向、区間の範囲など)をデータ記憶手段に入力する。
【0070】
<設計例4 経時的移動>
上述した設計例1〜3では、移動接続部の移動を許容する。しかし、布設レイアウトに曲がりや高低差がある場合、経時的に導体接続部の移動量が多くなることが考えられ、移動量がある程度大きい場合、一時的に導体接続部を固定することが望まれる。そこで、移動接続部と決定された場合に、更に、布設レイアウトを参照して、経時的な移動の有無を判定すると共にその移動量を演算し、一時的な固定が必要な場合は、一時的な固定が可能な構成を設ける。一時的な固定には、例えば、ケース内の冷媒を固化することが挙げられる。そこで、このような移動接続部が存在する場合、冷媒を固化するための冷却装置を設置しておく。
【0071】
この判定をコンピュータで行う場合、移動接続部が決定した後、経時移動判定手段は、布設レイアウトを参照して、経時的な移動の有無を判定し、移動がある場合、経時移動演算手段は、布設レイアウトに基づくデータを利用して、移動量を演算する。そして、経時固定比較手段は、演算した移動量と予め設定した閾値とを比較し、経時固定判定手段は、移動量が閾値以上の場合、一時的な固定が必要であると判定する。
【0072】
このように本発明設計方法は、線路運転前の冷却時における導体接続部の移動だけでなく、線路運転時における導体接続部の移動も抑制可能な線路を設計することができる。
【0073】
<超電導ケーブル>
線路に利用する超電導ケーブルは、断熱管内に単心又は複数心のケーブルコアが収納された単心ケーブル、多心ケーブルのいずれも利用することができる。ケーブルコアは、中心から順にフォーマ、超電導導体、電気絶縁層を具える構成が挙げられる。電気絶縁層の内側に内部半導電層、外側に外部半導電層を具える構成でもよい。
【0074】
フォーマは、例えば、銅撚り線で構成する。超電導導体は、例えば、銀シース中にBi系酸化物超電導材料が内包されたテープ線材をフォーマ上に1層以上巻回して形成する。超電導導体を多層にする場合、層間にクラフト紙などの絶縁材からなる層間絶縁層を設けてもよい。電気絶縁層は、例えば、PPLP(登録商標)などの半合成絶縁紙やクラフト紙などの絶縁紙を巻回して構成する。更に、電気絶縁層の外周に上記テープ線材などからなる外部超電導層を具えたり、外部超電導層の外周にクラフト紙などからなる保護層を具えるケーブルコアとしてもよい。
【0075】
断熱管は、例えば、SUSコルゲート管からなる内管と外管とからなる二重構造管が利用できる。内管は、ケーブルコアを収納すると共に、コアを冷却する冷媒を充填する。両管の間は、真空にしたり、スーパーインシュレーションなどの断熱材を配置させた断熱構造とする。冷媒は、液体窒素が代表的である。断熱管の外周にポリ塩化ビニルなどからなる防食層を設けてもよい。
【0076】
<中間接続構造>
図3は、超電導ケーブル線路に具える中間接続構造の概略構成図である。以下、図において同一符号は同一物を示す。図3では、3心超電導ケーブルを示すが、単心でもよい。
【0077】
線路に設けられる中間接続構造は、隣接する超電導ケーブル100A,100B同士を接続するものであり、例えば、以下のようにして構築される。接続する一対の超電導ケーブル100A,100Bの端部からケーブルコア101A,101Bを引き出し、コア101A,101Bの端部を段剥ぎして超電導導体102A,102Bを露出させ、銅やアルミニウムといった良導電性材料からなる接続部材110を介して両導体102A,102Bの端部を接続し、導体接続部120を構成する。接続部材110は、例えば、中実の棒状材で、両端に超電導導体及びフォーマ(図示せず)が挿入可能な穴(図示せず)を有する構成であり、各穴に超電導導体及びフォーマをそれぞれ挿入し、例えば、ハンダで超電導導体を接合する。導体接続部120の外周には、合成紙といった絶縁材を巻回して、補強絶縁部130を構築する。適宜、外部超電導層(図示せず)の短絡処理や接続を行ってケーブル接続部140を構築することができる。
【0078】
ケース200に導入したケーブルコア101や、導体接続部120及び補強絶縁部130を有するケーブル接続部140は、ケース200(内ケース201)に接触して損傷したりしないように保持具150にて保持する。保持具150は、3心のケーブルコア101を離間した状態で保持する構成である。移動接続部を保持する保持具150は、ケース200内でケーブルの長手方向に移動可能な構成のものを利用する。
【0079】
上記ケーブル接続部140の外周にケース200を組み立てることで中間接続構造を構築することができる。ケース200は、例えば、SUS製の内ケース201と外ケース202とからなる二重構造であり、上述した超電導ケーブルの断熱管と同様に断熱構造を有するものが利用できる。特に、ケース200は、ケーブルの長手方向に分離可能な一対の分割片を組み合わせて一体になる構成であり、接続部などを組み立て易い。また、ケース200は、3心超電導ケーブルのケーブル接続部を一括して収納する構成であり、接続部を収納するケースの数が最小限である。
【0080】
《固定接続部 固体絶縁部を具える構造》
導体接続部を固定接続部とする場合、ケースに固定できるようにケーブル接続部を構成する。例えば、強度に優れる固体絶縁部を具えるケーブル接続部の場合、以下のようにして導体接続部をケースに固定する。
【0081】
図4は、固体絶縁部を具えるケーブル接続部の概略構成図である。図4では、単心超電導ケーブルを示すが、多心でもよい。この点は、図5に示す例についても同様である。このケーブル接続部141は、接続部材111の外周にエポキシ樹脂からなる固体絶縁部(ストレスコーンエポキシユニット)11を一体に具えており、後述する板状材(保持部材)13に固体絶縁部11を固定し、この板状材13をケース200(内ケース201)に固定することで、導体接続部121をケース201に固定する。
【0082】
接続部材111は、接続部材110と類似の構成であり、外周に固体絶縁部11を具える。固体絶縁部11は、中央部から両端部に向かって先細りした紡錘状材であり、その中央部に外方に突出するリング状のフランジ12を具える。板状材13は、SUS製で内ケース201の内周に沿った外形を有しており、中央部に貫通孔を有しており、固体絶縁部11がこの貫通孔に挿通配置される。この板状材13の一面にフランジ12を接させて、板状材13とリング状の押さえ材14とでフランジ12を挟み、板状材13と押さえ材14とをボルト・ナットで締め付けることで、固体絶縁部11は、板状材13に固定される。この板状材13は、内ケース201に溶接により固定される。この固定により、導体接続部121は、内ケース201に固定される。なお、超電導導体102A,102B、接続部材111、固体絶縁部11の外周には、適宜、絶縁材を巻回した積層絶縁部131を形成する。
【0083】
板状材13は、導体接続部が移動しようとするときの力を受けるため、この力に十分耐え得ることができるように構成する。また、板状材13には、冷媒を流通するための流通孔13hを設けている。このケース200に冷媒区間の区切りを設ける場合、板状材に流通孔を設ける必要はない。
【0084】
《固定接続部 積層絶縁部を具える構造》
固体絶縁部を具えていないケーブル接続部の場合、以下のようにして導体接続部をケースに固定する。図5は、補強支持部を具えるケーブル接続部の概略構成図である。ケーブル接続部142は、接続部材110及び絶縁材を巻回して積層させてなる補強絶縁部130を具える点は、図3に示すケーブル接続部140と同様であり、異なる点は、補強絶縁部130の外周に補強支持部160を具える点にある。
【0085】
補強支持部160は、FRP製で、補強絶縁部130の外周を覆う筒状部161と、筒状部161の外周面から外方に突出するフランジ部161fとを具える。筒状部161は、補強絶縁部130に沿った形状であり、中央部から両端部に向かって先細りしており、ケーブルの長手方向に分割可能な一対の分割片を組み合わせて一体になる構成である。各分割片の両縁にフランジ部161fを具えており、補強絶縁部130の外周に両分割片を配置し、両分割片のフランジ部161fを接合させてボルト・ナットで締め付けることで、筒状部161は、補強絶縁部130の外周に固定される。内ケース201の内周面には、支持片201aが突出しており、フランジ部161fをボルト・ナットで固定することで、補強支持部160を内ケース201に固定する。この固定により、ケーブル接続部142が内ケース201に固定され、導体接続部120が内ケース201に固定される。
【0086】
支持片は、導体接続部120が移動しようとするときの力を受けるため、この力に十分耐え得ることができるように構成する。また、支持片は、内ケース201の内周面の全周に亘って一体に設けられる構成としてもよいが、複数の支持片が内周面に設けられる構成としてもよい。特に、支持片間に隙間を有するように各支持片を設けることで、この隙間を利用して冷媒を流通させることができる。
【0087】
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明超電導ケーブル線路の設計方法は、交流送電用又は直流送電用の電力供給路の設計に好適に利用することができる。また、本発明超電導ケーブル線路は、交流送電用又は直流送電用の電力供給路に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】超電導ケーブル線路の設計方法の説明に用いる説明図であり、図の中央は、線路の概略形状を模式的に示す平面図、図の上方のグラフは、この線路に沿った温度分布のグラフ、図の下方のグラフは、この線路に沿った応力分布のグラフである。
【図2】(I)は、曲がりを有する超電導ケーブル線路の模式平面図、(II)は、高低差を有する超電導ケーブル線路の模式側面図である。
【図3】超電導ケーブル線路に具える中間接続構造の一例を示す概略構成図である。
【図4】固体絶縁部を具えるケーブル接続部の部分概略構成図である。
【図5】補強支持部を具えるケーブル接続部の部分概略構成図である。
【図6】ケーブル接続部の部分概略構成図である。
【符号の説明】
【0090】
11 固体絶縁部 12 フランジ 13 板状材 13h 流通孔 14 押さえ材
100A,100B 超電導ケーブル 101,101A,101B ケーブルコア
102,102A,102B 超電導導体 110,111 接続部材 120,121 導体接続部
130 補強絶縁部 131 積層絶縁部 140,141,142 ケーブル接続部
150 保持具 160 補強支持部 161 筒状部 161f フランジ部
200 ケース 201 内ケース 201a 支持片 202 外ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒によって冷却される超電導導体を有する複数の超電導ケーブルと、隣接するケーブルの超電導導体同士を接続する複数の導体接続部と、各導体接続部を収納する複数のケースとを具える線路を設計する超電導ケーブル線路の設計方法であって、
各導体接続部がそれぞれケースに対して相対的に移動可能な状態と仮定した場合に、冷却により超電導ケーブルが熱収縮する際に各導体接続部が移動する移動量を演算する工程と、
得られた複数の移動量と閾値との比較結果を利用して、各導体接続部を固定接続部とするか移動接続部とするかを決定する工程とを具え、
前記各導体接続部の移動量は、当該線路への冷媒の導入方向に応じて各接続部に生じる応力に基づいて演算し、
前記固定接続部は、冷却により超電導ケーブルが熱収縮する際、ケースに対して相対的に移動不可能にケースに固定される導体接続部であり、
前記移動接続部は、冷却により超電導ケーブルが熱収縮する際、ケースに対して相対的に移動可能にケースに収納される導体接続部であることを特徴とする超電導ケーブル線路の設計方法。
【請求項2】
前記各導体接続部の移動量は、線路の布設レイアウトに基づいて演算することを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブル線路の設計方法。
【請求項3】
冷媒によって冷却される超電導導体を有する複数の超電導ケーブルと、隣接するケーブルの超電導導体同士を接続する複数の導体接続部と、各導体接続部を収納する複数のケースとを具える超電導ケーブル線路であって、
各導体接続部は、固定接続部及び移動接続部の少なくとも一方であり、
前記固定接続部は、冷却により超電導ケーブルが熱収縮する際、ケースに対して相対的に移動不可能にケースに固定される導体接続部であり、
前記移動接続部は、冷却により超電導ケーブルが熱収縮する際、ケースに対して相対的に移動可能にケースに収納される導体接続部であることを特徴とする超電導ケーブル線路。
【請求項4】
前記固定接続部の外周には、一体成形体からなる固体絶縁部が設けられており、
前記固体絶縁部がケースに固定されることで、前記固定接続部はケースに固定されることを特徴とする請求項3に記載の超電導ケーブル線路。
【請求項5】
前記固定接続部の外周には、絶縁材を巻回してなる積層絶縁部が設けられ、この積層絶縁部の外周に更に補強支持部が設けられており、
前記補強支持部がケースに固定されることで、前記固定接続部はケースに固定されることを特徴とする請求項3に記載の超電導ケーブル線路。
【請求項6】
線路は、固定接続部を収納するケース内に充填された冷媒を固化する冷却装置を具え、
前記固定接続部は、冷却装置により固化した冷媒によりケースに固定されることを特徴とする請求項3に記載の超電導ケーブル線路。
【請求項7】
固定接続部を収納するケース内に線路内の冷媒区間を線路の長手方向に区切る仕切部を具えることを特徴とする請求項3又は4に記載の超電導ケーブル線路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−211878(P2008−211878A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44680(P2007−44680)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】