説明

超電導コイル装置

【課題】冷却液体中に発生する気泡に起因する超電導コイルと容器との短絡を防止できる超電導コイル装置を提供する。
【解決手段】超電導コイル10と、超電導コイル10及び超電導コイル10の超電導状態を維持する冷却液体20を収納する容器30と、超電導コイル10の上面及び側面を覆って、容器30内の冷却液体20中に配置された導電性材料からなるシールド40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導材料を用いた超電導コイルを冷却液体中に配置した超電導コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力需要の増大に伴って電力系統が大規模化しているため、短絡故障の際に流れる故障電流も増加している。このため、故障電流の大きさが遮断器の容量を超えないように、故障電流を抑制するための限流器の性能向上が求められている。例えば、超電導体の超電導状態と常電導状態間の転位(S/N転位)を利用する超電導限流器(SFCL)が提案されている。
【0003】
超電導限流器として、超電導材料を用いた超電導コイルを冷却液体中に配置した超電導コイル装置を用いる方法が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。超電導限流器は、通常時は超電導状態である超電導コイルが故障時に常電導状態に転位することにより、通常時は低インピーダンスであるが、故障時には高インピーダンスであるという限流器への要求を満たす。超電導コイルは、通常時に超電導状態を維持するために、液体窒素や液体ヘリウムなどの冷却液体中に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−273740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超電導コイル装置の超電導コイルが超電導状態から常電導状態に転位した場合に、超電導コイルに生じた電気抵抗と超電導コイルに流れる電流とによって、超電導コイルが発熱する。この超電導コイルの発熱によって冷却液体が蒸発し、気泡が発生する。
【0006】
このため、超電導コイル装置において、冷却液体が蒸発して発生した気泡を介して超電導コイルと冷却液体を収納する容器とが短絡してフラッシュオーバーが起こり、絶縁破壊が生じるという問題があった。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、冷却液体中に発生する気泡に起因する超電導コイルと容器との短絡を防止できる超電導コイル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、(イ)超電導コイルと、(ロ)超電導コイル、及び超電導コイルの超電導状態を維持する冷却液体を収納する容器と、(ハ)超電導コイルの上面及び側面を覆って、容器内の冷却液体中に配置された導電性材料からなるシールドとを備える超電導コイル装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却液体中に発生する気泡に起因する超電導コイルと容器との短絡を防止できる超電導コイル装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る超電導コイル装置の構造を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る超電導コイル装置の模式的な平面図である。
【図3】超電導コイルと容器間に発生する気泡の例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係る超電導コイル装置において気泡が発生した例を示す模式図である。
【図5】本発明の実施形態に係る超電導コイル装置の超電導コイルが分割されている例を示す模式図である。
【図6】本発明の実施形態に係る超電導コイル装置が冷却システムを有する例を示す模式図である。
【図7】本発明の実施形態に係る超電導コイル装置を超電導限流器に適用した例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
本発明の実施形態に係る超電導コイル装置1は、図1に示すように、超電導コイル10と、超電導コイル10及び超電導コイル10の超電導状態を維持する冷却液体20を収納する容器30と、超電導コイル10の上面及び側面を覆って、容器30内の冷却液体20中に配置された導電性材料からなるシールド40とを備える。
【0013】
超電導コイル10は、例えば円筒状の絶縁物11の外周に超電導線材12を巻きつけた構造である。一般に、超電導線材12が電気抵抗のある状態(常電導状態)から超電導状態にS/N転位する温度を臨界温度という。また、超電導状態で超電導線材12に流せる電流の大きさを臨界電流値という。
【0014】
冷却液体20は、例えば液体窒素や液体ヘリウムである。冷却液体20は、その沸点が超電導コイル10に使用される超電導線材12がS/N転位する臨界温度以下である液体が採用される。このため、超電導コイル10に流れる電流が臨界電流値未満である場合に、冷却液体20中の超電導線材12は超電導状態である。例えば、超電導コイル10の超電導線材12として液体窒素温度で超電導状態である高温超電導体を使用した場合には、冷却液体20に液体窒素を採用できる。
【0015】
容器30は導電性材料からなり、使用時には接地される。冷却液体20は絶縁物であるため、容器30とシールド40とは電気的に絶縁されている。
【0016】
シールド40には導電性の金属材料などが採用可能である。例えば、安価で軽量なアルミニウム(Al)などがシールド40の材料に好適である。後述するように、超電導コイル10の発熱によって冷却液体20が蒸発して発生した気泡は、シールド40の内側に留まる。
【0017】
図2に、超電導コイル装置1の平面図を示す。図1は、図2のI−I方向に沿った断面図である。
【0018】
シールド40は、図2に示すように上方から見た形状は円形であり、図1に示すように側面から見た形状は逆U字型である。つまり、シールド40は上面が閉ざされた中空の円筒形状であり、超電導コイル10の上面及び側面を覆っている。なお、図1、2ではシールド40の形状が円筒形状である例を示したが、気泡がシールド40の内側に留まり、シールド40の外側に気泡が漏れない形状であれば、シールド40はどのような形状であってもよい。例えば、シールド40が立方体形状であってもよい。
【0019】
ここで、超電導コイル10に過大電流が流れる場合を考える。例えば、超電導コイル装置1を用いた電力系統の短絡故障時などにおいて、超電導コイル10に流れる電流の大きさが超電導コイル10の臨界電流値を超えると、超電導コイル10は超電導状態から常電導状態に転位する。その結果、超電導コイル10に電気抵抗が発生する。超電導体に電気抵抗が発生する現象はクエンチと呼ばれている。
【0020】
超電導コイル10に電気抵抗が発生した場合、以下の式(1)に示す熱量Qが超電導コイル10に発生する:

Q=I2×R×t ・・・・・(1)

式(1)で、Iは超電導コイル10に流れる電流値、Rは超電導コイル10に発生した電気抵抗の大きさ、tは超電導コイル10に電流が流れる時間である。
【0021】
超電導コイル10での発熱により、超電導コイル10の周囲で冷却液体20が蒸発し、冷却液体20内に気泡が発生する。気泡は、冷却液体20中を上昇する。
【0022】
容器30は使用状態で接地されている。このため、例えば図3に示すように容器30内にシールド40が配置されていない場合には、超電導コイル10に電圧が印加されている状態で超電導コイル10と容器30間で気泡21が冷却液体20中に発生すると、矢印で示すように気泡21を介して超電導コイル10と容器30の側面との間が短絡されてフラッシュオーバーが起きる。
【0023】
しかし、超電導コイル装置1では、超電導コイル10の発熱によって超電導コイル10の周囲に気泡21が発生した場合に、図4に示すように、気泡21と容器30の側面との間には導電体のシールド40が存在する。このため、超電導コイル装置1ではフラッシュオーバーが起こらない。
【0024】
超電導コイル10と容器30間には、数万〜数十万Vの電位差が生じている場合も多く、超電導コイル10の周囲に気泡21が発生した直後にフラッシュオーバーが起こることがある。しかし、超電導コイル装置1においては、気泡21と容器30間にシールド40が存在するため、超電導コイル10の側面で気泡21が発生した直後においてもフラッシュオーバーは起こらない。
【0025】
また、超電導コイル装置1では、超電導コイル10の上面及び側面全体を覆うようにシールド40が設けられているため、超電導コイル10の周囲で発生した気泡21は冷却液体20中で散らばらない。つまり、気泡21は、シールド40の内側を上昇し、シールド40の上部の下方に集まる。シールド40内に溜まった気泡21は、周囲の冷却液体20との熱交換などにより冷却され、再凝縮する。
【0026】
したがって、気泡21は超電導コイル10とシールド40との間に保持され、気泡21が冷却液体20の表面まで上昇することはない。このため、超電導コイル装置1では、超電導コイル10と容器30とが冷却液体20の表面において気泡21を介して短絡することはなく、フラッシュオーバーは起こらない。
【0027】
更に、シールド40と容器30の間に気泡21は存在しえない。このため、絶縁性の冷却液体20によってシールド40と容器30の間の電気的な絶縁は保たれる。
【0028】
なお、図5に示すように超電導コイル10が、超電導コイル10a〜10cに分割して冷却液体20中に配置されている場合は、超電導コイル10a〜10cそれぞれの上面及び側面が、シールド40a〜40cによってそれぞれ覆われる。
【0029】
超電導コイル装置1がシールド40の冷却システム50を有する例を、図6に示す。図6に示した冷却システム50は、容器30の外部に配置された冷却装置51と、シールド40の上面に配置されて冷却装置51に接続する冷却パイプ52とを有する。
【0030】
冷却装置51によって冷却パイプ52を冷却することにより、シールド40を介して、シールド40の下方に溜まった気泡21を効率よく冷却できる。例えば、冷却液体20が液体窒素である場合に、冷却パイプ52を50K程度に冷却することにより、気泡21が過冷却される。これにより、気泡21は液体に戻り、冷却液体20の一部として容器30内に収納される。そのため、シールド40には熱伝導性のよい材料を使用することが好ましい。
【0031】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る超電導コイル装置1では、超電導コイル10の発熱によって冷却液体20が蒸発して生じた気泡21は、シールド40の内側に溜められる。このため、気泡21に起因する超電導コイル10と容器30間でのフラッシュオーバーは起こらない。つまり、冷却液体20中に発生する気泡21に起因する超電導コイル10と容器30との短絡を防止できる超電導コイル装置1を実現できる。
【0032】
実施形態に係る超電導コイル装置1は、例えば図7に示す超電導限流器100に使用される。超電導限流器100について、以下に説明する。
【0033】
図7に示した超電導限流器100は、超電導コイル装置1と転流スイッチ2とが直列に接続され、超電導コイル装置1と転流スイッチ2の直列接続と並列に並列コイル3が接続された構成を有する分流型超電導限流器である。
【0034】
既に説明したように、超電導限流器は超電導体のS/N転位を利用する限流器であり、通常時は低インピーダンスであるが、故障時には高インピーダンスである超電導コイル装置を使用する。また、超電導限流器100では、過大電流が並列コイル3に流れるときに発生するエネルギーを用いて転流スイッチ2を開極することにより、超電導コイル装置1に流れる電流を遮断する。
【0035】
転流スイッチ2には、例えば図7に示したような真空バルブ210と電磁反発板220を直列接続した構成を採用可能である。真空バルブ210は、超電導コイル装置1に接続する固定部211と、電磁反発板220に接続する可動部212とを有する。
【0036】
超電導限流器100の動作を以下に説明する。通常通電時は、超電導コイル装置1の超電導コイル10は超電導状態にあり、超電導コイル装置1及び転流スイッチ2を介する電路に電流が流れる。短絡事故などによって超電導コイル装置1に過大電流が流れると、超電導コイル10は超電導状態から非超電導状態(高抵抗状態)に転位する。その結果、超電導限流器100は高インピーダンスになる。
【0037】
また、通常状態では、真空バルブ210の固定部211と可動部212が接触し、転流スイッチ2に電流が流れる。しかし、過大電流が超電導コイル装置1に流れて超電導コイル10が常電導状態になると、並列コイル3に過大電流が流れる。この場合に、並列コイル3との間に発生する電磁反発力によって、電磁反発板220が真空バルブ210から離れる方向に移動する。このため、真空バルブ210の固定部211と可動部212が分離して転流スイッチ2が開極し、超電導コイル装置1に電流が流れない。
【0038】
つまり、図7に示した超電導限流器100では、短絡故障時などに過大電流が並列コイル3に流れることによって並列コイル3に生じるエネルギーが、転流スイッチ2を開極させるエネルギーとして使用される。これにより、超電導コイル装置1に流れる電流を遮断することによって、超電導コイル装置1での消費エネルギーが低減される。
【0039】
なお、並列コイル3に生じるエネルギーによって転流スイッチ2が開極するため、並列コイル3に流れる交流の半波程度の短時間で超電導コイル装置1に流れる電流が遮断される。
【0040】
上記のように、超電導限流器100には転流スイッチ2駆動用の外部電源が不要である。このため、超電導限流器100は、転流スイッチ2の開極用の複雑な操作機構を必要とせず、かつ高速動作が可能である。
【0041】
図7に示した超電導限流器100において、例えば落雷や電力系統のケーブル間の接触などの故障により、臨界電流値以上の電流が超電導コイル装置1の超電導コイル10に流れた場合、超電導コイル10が超電導状態から常電導状態に転位する。その結果、超電導コイル10が発熱し、超電導コイル10の周囲で冷却液体20が蒸発して気泡21が生じる。しかし、発生した気泡21と容器30との間にシールド40が配置されている超電導コイル装置1を超電導限流器100に使用することにより、超電導コイル10と容器30間で起きるフラッシュオーバーを防止できる。このため、超電導限流器100の信頼性を向上することができる。
【0042】
都市部などの電力需要が伸びている地域の電力系統では、電源容量の増強によって短絡電流が既設電力機器の定格を超えることが予測される。このため、遮断器の遮断電流の増加や系統分割などによる対策が採られている。しかし、将来の短絡電流の増加に対しては、より根本的な対策として、超電導限流器の設置により短絡電流を抑制する方法も検討されている。超電導限流器が電力系統に適用されることになれば、系統保護遮断器の容量の増大や系統分離・再編成といった対策をとるためのコストが大幅に軽減される。そして、超電導限流器を電力系統に適用することにより、信頼性向上及び系統安定度確保などの有用な効果を期待できる。
【0043】
本発明の実施形態に係る超電導コイル装置1を使用した例えば図7に示すような超電導限流器100によれば、気泡21に起因する超電導コイル10と容器30との短絡が防止された超電導限流器を、転流スイッチ2駆動用の外部電源なしで生成できる。このため、超電導限流器100のコストが低減される。
【0044】
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。即ち、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことはもちろんである。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0045】
1…超電導コイル装置
2…転流スイッチ
3…並列コイル
10…超電導コイル
11…絶縁物
12…超電導線材
20…冷却液体
21…気泡
30…容器
40…シールド
50…冷却システム
51…冷却装置
52…冷却パイプ
100…超電導限流器
210…真空バルブ
211…固定部
212…可動部
220…電磁反発板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導コイルと、
前記超電導コイル、及び前記超電導コイルの超電導状態を維持する冷却液体を収納する容器と、
前記超電導コイルの上面及び側面を覆って、前記容器内の前記冷却液体中に配置された導電性材料からなるシールド
とを備えることを特徴とする超電導コイル装置。
【請求項2】
前記超電導コイルが分割して前記冷却液体中に配置され、分割された前記超電導コイルそれぞれの上面及び側面が、複数の前記シールドによってそれぞれ覆われていることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル装置。
【請求項3】
前記シールドを冷却する冷却システムを更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の超電導コイル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−146821(P2012−146821A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4017(P2011−4017)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(800000068)学校法人東京電機大学 (112)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】