説明

超電導導体及び超電導導体を備えた超電導ケーブル

【課題】超電導線材として、磁性基板上に成膜した超電導線材を使用した、交流損失を低減させることが可能な超電導導体及び超電導導体を備えた超電導ケーブルを提供する。
【解決手段】磁性基板11を有した超電導線材10を中心部材31上に巻きつけて、2層の超電導集合体32からなる超電導導体30が形成されるとき、第2層32bの超電導線材10は超電導層13を外向きに巻き付けて、第1層32aの超電導線材10は超電導層13を内向きに巻きつけて形成する。また、2層以上の超電導集合体32からなる超電導導体30が形成されるとき、最外層の超電導線材10は超電導層10を外向きに巻きつけ、最外層を除く少なくとも1層を形成する超電導線材10は超電導層10を内向きに巻きつけて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材によって形成される超電導導体及び超電導導体を備えた超電導ケーブルに関する。特に、超電導線材として、磁性基板を用いた超電導線材である配向基板超電導線材を使用した、交流損失を低減させることが可能な超電導導体及び超電導導体を備えた超電導ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
RE123系酸化物超電導(RE−Ba−Cu−Oで示される)は薄膜超電導線材と呼ばれ、金属テープ基板上に、結晶粒の揃ったRE123系多結晶膜を数μmの厚さに設けて超電導化したものである。但し、REはLa,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu及びYから選択される。RE123系酸化物超電導のうち、代表的なものとして、Y系超電導線材(以下、Y系線材と呼ぶ)が知られている。Y系線材は、外部磁界に対して強く、強磁界内でも高い電流密度を維持することができるため、超電導ケーブル等の交流電力機器への応用が期待されている。薄膜超電導線材に流れる電流容量には限界があるため、交流電力機器等への応用の際には、電流容量を上げるために、超電導線材を複数本束ねた集合導体を構成する必要がある。
【0003】
この集合導体は、交流磁界を印加すると交流損失と呼ばれる電力損失を発生する。そのため、この交流損失を低減するための様々な方法が提案されている。
【0004】
特許文献1では、2枚のテープ線材を互いに対向させて電気的に接続し、空間で互いに交差する少なくとも2本の電流路を形成することにより、交流損失を低減させる方法が、提案されている。
【0005】
薄膜超電導線材は、金属基板上に超電導薄膜を成膜することにより得られる。薄膜超電導線材を製作するプロセスには、超電導薄膜を形成できる基体を生成するプロセス(基板と中間層を生成する工程)と、その基体に超電導を形成するプロセス(超電導層を形成する工程)に分けられる。基体を生成するプロセスとして、大きく2つの方法がある。
1つは、特殊な成膜法により中間層を配向させる技術でIBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法と呼ばれる技術であり、もう1つは、金属基板(主にNi基を使用した磁性基板)を配向させる技術でRABiTS(Rolling Assisted Bi−axially Textured Substrate)法と呼ばれる技術である。また、IBAD法によって作成された線材はIBAD線材と、RABiTS法によって作成された線材は配向基板線材(配向基板超電導線材)と呼ばれている。
【特許文献1】特開2005−85612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したRABiTS法は、金属基板が安価であることからコストを低く抑えることができるという大きな利点を持っているが、配向金属として代表的なものはNi基をベースとしたものであり、この場合、金属基板そのものが磁化しているため、RABiTS法により作成した線材を使用して超電導ケーブルを製作して、交流下において使用したときに、非常に大きな交流損失を発生させてしまうという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたもので、磁性基板上に超電導層を形成した超電導線材を使用した超電導導体の交流損失を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は上述した従来の問題点について鋭意研究を重ねた。その結果、超電導層と磁性基板を有した超電導線材を中心部材上に巻きつけて、2層以上の超電導集合体を形成した超電導導体によって形成された超電導ケーブルにおいて、最外層の前記超電導線材を中心部材の径方向において前記超電導層が前記磁性基板に対して外向きになるように巻きつけることにより、交流損失が低減されることが判明した。更に、最外層の磁性基板を有した超電導線材よりも内層に配置された磁性基板を有した超電導線材のうちの1つを、磁性基板が最外層の超電導線材の磁性基板と対向するように巻きつけることにより、更に交流損失が低減されることが判明した。また、前記超電導集合体の少なくとも1層を磁性基板を有した超電導線材の代わりに、IBAD線材等の磁化していない基板を使用した超電導線材を使用することにより、更に交流損失が低減されることが判明した。
【0009】
本発明の第1の態様にかかる超電導導体は、円筒形状の中心部材と、基板と、前記基板の上に形成される超電導層と安定化層からなる層部材、または、中間層及び超電導層と安定化層からなる層部材とを備えた超電導線材を、前記中心部材上に巻きつけて形成される少なくとも2層以上の超電導集合体と、を有した超電導導体であって、少なくとも1層の前記超電導集合体を形成する前記超電導線材の前記基板は、磁性基板であり、最外層の前記超電導集合体を形成する前記超電導線材の前記基板と、前記最外層を除く少なくとも1層の前記超電導集合体を形成する前記超電導線材の前記基板が、対向するように配置されていることを特徴とする。ここで、「磁性基板」とは、超電導導体を使用する環境温度(代表的には77K)以下において、飽和磁化を有する金属基板のことを意味し、特に、使用時の飽和磁化が0.15T以上のものの場合に本発明の効果を発揮する。なお、磁性金属としては、具体的には、Fe,Co,Ni等を代表とした強磁性体や、これらを基とした合金が挙げられる。
【0010】
ここで、「層部材」とは、例えば、超電導線材が、基板、超電導層、安定化層の3層から構成されている場合は、超電導層、安定化層をまとめた総称であり、超電導材が、基板、中間層、超電導層及び安定化層の4層から構成されている場合は、中間層、超電導層及び安定化層をまとめた総称である。
【0011】
また、「前記超電導集合体の少なくとも1層を形成する前記超電導線材の前記基板には磁性基板が使用され」とは、超電導集合体が2層の場合、磁性基板を使用した超電導線材によって形成される層は、「磁性基板を使用した超電導線材によって形成される超電導集合体の層は第1層のみである場合」、「磁性基板を使用した超電導線材によって形成される超電導集合体の層は第2層のみである場合」、「磁性基板を使用した超電導線材によって形成される超電導集合体の層が第1層と第2層である場合」の3通りの場合が含まれている。
【0012】
また、「最外層の前記超電導集合体を形成する前記超電導線材の前記基板と、前記最外層を除く少なくとも1層の前記超電導集合体を形成する前記超電導線材の前記基板が、対向するように配置されている」とは、超電導集合体が2層であるとき、「超電導集合体の第1層の超電導線材は超電導層が中心部材の径方向において内向きになるように巻きつけ、かつ、第2層の超電導線材は超電導層が中心部材の径方向において外向きになるように巻きつける」場合である。
【0013】
本発明の第2の態様にかかる超電導導体は、本発明の第1にかかる超電導導体において、前記超電導集合体を形成する前記超電導線材の前記層部材が前記基板よりも前記中心部材の径方向において外側に配置されている場合、前記超電導線材の前記基板に、磁化していない基板を使用することを特徴とする。
【0014】
本発明の第3の態様にかかる超電導導体は、本発明の第2の態様にかかる超電導導体において、前記磁化していない基板を使用した前記超電導線材が、IBAD線材であることを特徴とする。
【0015】
本発明の第1の態様にかかる超電導ケーブルは、本発明の第1から第3のいずれか1つ
の態様にかかる超電導導体の外周に電気絶縁層、保護層および断熱管を有していることを特徴とする。
【0016】
本発明の第2の態様にかかる超電導ケーブルは、本発明の第1から第3のいずれか1つ
の態様にかかる超電導導体と、前記超電導導体の外側に形成される電気絶縁層と、更に前記電気絶縁層の外側に、前記超電導集合体と同じ構造を有する超電導シールドと、前記超電導シールド層の外側に、保護層および断熱層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、超電導線材として磁性基板を有した超電導線材を使用し、その超電導線材により形成される超電導導体及び超電導導体を備えた超電導ケーブルを、交流下で使用したときに、交流損失を低減させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施態様は説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。従って、当業者であればこれらの各要素もしくは全要素をこれと均等なもので置換した実施態様を採用することが可能であるが、これらの実施態様も本発明の範囲に含まれる。
【0019】
図1は、本発明に使用する磁性基板上に成膜した超電導線材の構造の一例を示す図である。超電導線材10は、磁性基板11の上に中間層12が形成され、中間層12の上に超電導層13が形成されている。また、超電導層13の上に安定化層(銀)14が形成され、安定化層14の上に導電テープ15が半田接着されている。ここで、超電導線材10における層部材は、中間層12、超電導層13、安定化層14及び導電テープ15により構成された部材である。
【0020】
図2は、本発明による超電導導体の一例を示す図であり、図2(a)は、超電導導体の概略斜視図であり、図2(b)は、概略断面図である。
【0021】
図2に示すように、超電導導体30は、中心部材31と超電導集合体32とにより構成されている。超電導集合体32は、2層導体であり、第1層32aと第2層32bから構成されている。ここで、第1層32aが最内層に相当し、第2層32bが最外層に相当する。
【0022】
また、超電導集合体32は、超電導線材10を中心部材31上に、第1層32aは、超電導層13が中心部材31の径方向において内向きになるように巻きつけられて、第2層32bは、超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつけられて、形成されている。即ち、第1層32aにおいては、超電導導体32の最外層側が磁性基板11となり、中心部材31側が導電テープ15となるように、超電導線材10が巻きつけられている。第2層32bにおいては、超電導集合体32の最外層側が導電テープ15となり、中心部材31側が磁性基板11となるように、超電導線材10が巻きつけられている。
【0023】
2層導体(多層導体)の超電導集合体32の場合、第2層32b(最外層)を超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように超電導線材10を巻きつけることにより、交流損失を低減できる。また、第2層32b(最外層)の超電導線材10のスパイラルピッチを大きくすることにより、更に、交流損失を低減できる。また、第1層32a(最内層)を超電導層13が中心部材31の径方向において内向きになるように超電導線材10を巻きつけることにより、更に、交流損失を低減できる。また、第1層32a(最内層)の超電導線材10のスパイラルピッチを大きくすることにより、更に、交流損失を低減できる。
【0024】
次に、本発明の好適ないくつかの実施例を説明する。
【実施例】
【0025】
(多層導体)
本実施例では、図2のように中外径20mmのFRP(繊維強化プラスチック)からなる中心部材31の周りに、幅約5mmの超電導線材10を2層に巻きつけて形成した2層導体の超電導集合体32からなる超電導導体30に基づいて説明する。なお、本実施例において用いた超電導線材10は、磁性基板11はNi−3at%W配向基板を用い、CeO2シード層、YSZバリア層及びCeO2キャップ層からなる中間層12、YBCO膜からなる超電導層13、Agからなる安定化層14によって形成された磁性基板超電導線材である。また、Ni−3at%W配向基板の飽和磁化は、0.42Tであった。
【0026】
図3は、超電導集合体32の第1層32aと第2層32bの超電導線材10の巻きつけ方法の違いによる交流損失の比較を示した図である。図3の横軸及び縦軸は、電流(交流50Hzの最大値)を臨界電流で割った値(以下、It/Icという)であり、縦軸は、交流損失として測定された値を臨界電流の2乗で割った値である。
【0027】
超電導集合体32の第1層32aと第2層32bを形成する超電導線材10の巻きつけ方法の異なる4つの超電導導体について、交流損失を比較した。異なる4つの超電導導体は、(1)超電導集合体32の第1層を超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつけ、第2層32bを超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつける場合(1層外2層外)、(2)超電導集合体32の第1層32aを超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつけ、第2層32bを超電導層13が中心部材31の径方向において内向きになるように巻きつける場合(1層外2層内)、(3)超電導集合体32の第1層32aを超電導層13が中心部材31の径方向において内向きになるように巻きつけ、第2層32bを超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつける場合(1層内2層外)、(4)超電導集合体32の第1層32aを超電導層13が中心部材31の径方向において内向きになるように巻きつけ、第2層32bを超電導層13が中心部材31の径方向において内向きになるように巻きつける場合(1層内2層内)である。なお、このときの超電導線材のスパイラルピッチは無限大(ストレート)である。
【0028】
図3に示したように、超電導集合体32の第2層32bは超電導層13が中心部材31の径方向において内向きになるように巻きつける場合(1層外2層内、1層内2層内)の超電導導体の損失値は、いずれも、理論値よりも高い損失値になることがわかった。また、1層内2層外の超電導導体の損失値は、横軸のIt/Icが0.42以上のとき、理論値よりも低い損失値になり、1層外2層外の超電導導体の損失値は、横軸のIt/Icが0.57以上のとき、理論値よりも低い損失値になることがわかった。また、横軸のIt/Icが0.85以上のとき、1層内2層外の超電導導体の損失値と1層外2層外の超電導導体の損失値とは、ほぼ同じ損失値となることがわかった。このことから、第2層32bを形成する超電導線材10の超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつけて形成すると、交流損失の低減ができることがわかった。なお、理論値は、Norrisの楕円モデルにより算出した損失値である。
【0029】
図4は、超電導集合体32の第1層32aと第2層32bのスパイラルピッチ及び巻きつけ方法の違いによる交流損失の比較を示す図である。図4の横軸及び縦軸は図3と同様である。
【0030】
超電導集合体32の第1層32aと第2層32bのスパイラルピッチの異なる場合の、第1層32aと第2層32bの巻きつけ方法の違いが交流損失に与える影響を調べた。異なる2つの超電導導体は、(1)超電導集合体32の第1層32aを超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつけ、第2層32bを超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつける場合(1層外2層外)、(2)超電導集合体32の第1層32aを超電導層13が中心部材31の径方向において内向きになるように巻きつけ、第2層32bを超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつける場合(1層内2層外)である。また、2つの超電導導体は、超電導集合体32の第1層32aのスパイラルピッチが400mmであり、第2層32bのスパイラルピッチが−250mmである。ここで、「−」の意味は、第2層の巻き方向が第1層32aの巻き方向と逆方向という意味である。以下同様に表記する。
【0031】
図4に示したように、横軸のIt/Icが0.57以上のとき、1層外2層外の超電導導体の損失値と1層内2層外の超電導導体の損失値とは、ほぼ同じ損失値となり、0.85以上のとき、理論値とほぼ同等となることがわかった。また、スパイラルピッチを小さくすることで、図3に示したスパイラルピッチが無限大(ストレート)の場合よりも交流損失の低減の効果が小さくなることが分かった。
【0032】
図5は、第1層32aを超電導層13が中心部材31の径方向において内向きになるように巻きつけ、第2層32bを超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるようにまきつける場合の、第1層のスパイラルピッチの大きさに違いによる交流損失の比較を示す図である。図5の横軸及び縦軸は図3と同様である。
【0033】
超電導集合体32の第1層32aを形成する超電導線材10の巻きつけ方法及びスパイラルピッチの異なる2つの超電導導体について、交流損失を比較した。異なる2つの超電導導体は、(1)第1層32aのスパイラルピッチが400mmで、第2層32bのスパイラルピッチが−250mmの場合(1層内400mm2層外−250mm)、(2)第1層32aのスパイラルピッチが800mmで、第2層32bのスパイラルピッチが−300mmの場合(1層内800mm2層外−300mm)である。
【0034】
図5に示したように、1層内800mm2層外−300mmの超電導導体の損失値は、1層内400mm2層外−250mmの超電導導体の損失値に比較して、低電流領域で、損失が低減していることがわかった。また、横軸のIt/Icが0.57のとき、1層内800mm2層外−300mmの超電導導体の損失値は、1層内400mm2層外−250mmの超電導導体の損失値の約1/3に小さくなっており、横軸のIt/Icが0.67のとき、約2/3に小さくなっている。また、It/Icは理論値に対して、15%高いレベルに押さえることができている。このように、スパイラルピッチを大きくすることで、スパイラルピッチが小さい場合の図4に比べて、図3に示したスパイラルピッチが無限大(ストレート)の場合の交流損失に近づけることができる。
【0035】
図6は、超電導集合体32の第1層32aを超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつけ、第2層32bを超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつける場合の、第1層のスパイラルピッチの大きさに違いによる交流損失の比較を示す図である。図6の横軸及び縦軸は図3と同様である。
【0036】
超電導集合体32の第1層32aを形成する超電導線材10の巻きつけ方法及びスパイラルピッチの異なる2つの超電導導体について、交流損失を比較した。異なる2つの超電導導体は、(1)超電導集合体32の第1層32aのスパイラルピッチが400mmで、第2層32bのスパイラルピッチがー250mmの場合(1層外400mm2層外−250mm)、(2)超電導集合体32の第1層32aのスパイラルピッチが800mmで、第2層32bのスパイラルピッチがー300mmの場合(1層外800mm2層外−300mm)、である。
【0037】
図6に示すように、1層外800mm2層外−300mmの超電導導体の損失値と、1層外400mm2層外−250mmの超電導導体の損失値とは、ほぼ同じであり、第1層32aのスパイラルピッチの違いによる交流損失の違いはないことがわかった。つまり、図5の1層内、2層外と比べて、図6の1層外、2層外では、この程度のスパイラルピッチを大きくしただけでは、図3に示したスパイラルピッチが無限大(ストレート)の場合の交流損失に近づけることができないことがわかった。
【0038】
実際に超電導ケーブルとして通電する場合は、このときの通電電流ItはIcの0.5倍以上であることが求められるため、図3〜6の交流損失の結果において、It/Icが0.5以上のときの結果に基づいて、以下のことが分かった。
図3〜6の結果のうち、最も交流損失が低い超電導線材10の巻きつけ方は、スパイラルピッチが無限大の場合は、図3の1層内、2層外の巻きつけ方であり、スパイラル巻きの場合には、図5の第1層32aのスパイラルピッチが800mm、第2層32bのスパイラルピッチが300mmであって、1層内、2層外の巻きつけ方であった。このことから、第1層32aと第2層32bの巻きつけ方としては、1層内、2層外の巻きつけ方が最適であることが分かった。また、図5から分かるように、第1層32aと第2層32bのスパイラルピッチを大きくした方が交流損失の低減が大きい。しかし、図3において2番目に交流損失が低かった1層外2層外に関して、同様にスパイラルピッチを変化させた結果の図6では、スパイラルピッチを大きくしてもほとんど交流損失は低減していない。
【0039】
交流損失のみの観点からでは、スパイラルピッチを無限大に第1層32aと第2層32bの巻きつけ方を1層外2層外とすることが最適ではあるが、通常、超電導ケーブルにおいてはケーブル全体における均流化と機械的特性の点から、超電導線材をスパイラル状にして巻きつけることが好ましく、外側の層ほどスパイラルピッチを小さくする。そうすれば、インピーダンスが高くなり、見かけ上の抵抗が上がり、電流が流れにくい層を外側に、流れやすい層を内側に配置することで、ケーブル全体として均流化を図っている。そのため、超電導ケーブルとして考えた場合には、磁性基板超電導線材10は、超電導集合体32の第1層32aと第2層32bの巻きつけ方を、1層内、2層外とし、スパイラルピッチを出来るだけ大きくすることで、交流損失を効果的に低減することできる。ただし、ストレート配置にはしないことが好ましい。
【0040】
また、2層の超電導集合体32を、多層の超電導集合体32に拡張して、超電導集合体32の最外層を形成する超電導線材10を超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつけ、更にスパイラルピッチを大きくした超電導導体を使用することにより、交流損失を効果的に低減することできる。また、超電導集合体32のうち、最外層を除く少なくとも1層を形成する超電導線材10を超電導層13が中心部材31の径方向において内向きになるように巻きつけた超電導導体を使用することにより、更に、交流損失を効果的に低減することできる。また、超電導層13が中心部材31の径方向において内向きになるように巻きつけた配向基盤超電導線材のスパイラルピッチを大きくした超電導導体を使用することにより、更に、交流損失を効果的に低減することできる。
【0041】
また、超電導外向き巻き付けされた配向基板超電導線材のスパイラルピッチが500mm未満になると、磁性基板の磁化の影響が大きくなる。そこで、超電導線材10に代わり、基板が磁化していない線材であるIBAD線材等を使用したときの超電導導体の交流損失を検証する。ここで用いたIBAD線材の構成は、基板は無磁性のハステロイ(登録商標)を使用し、中間層はIBAD法によるGZO(Gd2Zr2O7)と、その上にPLD法でCeO2層を成膜したもので、超電導層は、PLD法からなるYBCO膜であり、安定化層は、Agからなっている。
【0042】
図7は、超電導集合体32の第1層32aを形成する超電導線材を超電導層13が中心部材31の径方向において内向きになるように巻きつけ、更にスパイラルピッチが800mmであり、第2層を形成する超電導線材を超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつけ、更にスパイラルピッチが−300mmのとき、第2層32bを形成する超電導線材の線材種の違いによる交流損失の比較を示す図である。図7の横軸及び縦軸は図3と同様である。
【0043】
超電導集合体32の第2層32bを形成する超電導線材の線材種の異なる2つの超電導導体について、交流損失を比較した。異なる2つの超電導線材は、(1)超電導集合体32の第2層32bを形成する超電導線材が超電導線材10の場合(1層内800mm2層外−300mm)、(2)超電導集合体32の第2層32bを形成する超電導線材がIBAD線材の場合(1層内800mm2層IBAD−300mm)である。
【0044】
図7に示したように、1層内800mm2層IBAD−300mmの超電導導体の損失値は、1層内800mm2層外−300mmの超電導導体の損失値に比較して、横軸のIt/Icが0.43以上のとき、理論値よりも低い損失値になることがわかった。
【0045】
図8は、超電導集合体32の第1層32aを形成する超電導線材を超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつけ、更にスパイラルピッチが800mmであり、第2層を形成する超電導線材を超電導層13が中心部材31の径方向において外向きになるように巻きつけ、更にスパイラルピッチが−300mmとなるようにしたときの、第2層32bを形成する超電導線材の線材種の違いによる交流損失の比較を示す図である。図8の横軸及び縦軸は図3と同様である。
【0046】
超電導集合体32の第2層32bを形成する超電導線材の線材種の異なる2つの超電導導体について、交流損失を比較した。異なる2つの超電導導体は、(1)第2層32bが超電導線材10の場合(1層外800mm2層外−300mm)、(2)第2層32bがIBAD線材の場合(1層外800mm2層IBAD−300mm)である。このときのIBADの巻き方は、超電導層が中心部材の径方向において外向きになるように巻きつけている。
【0047】
図8に示したように、1層外800mm2層IBAD−300mmの超電導導体の損失値は、1層外800mm2層外−300mmの超電導導体の損失値に比較して、横軸のIt/Icが0.57以上のとき、理論値よりも低い損失値になることがわかった。
【0048】
以上のことから、超電導集合体の第2層(最外層)を、超電導層が中心部材の径方向において外向きになるように超電導線材を巻きつけた場合に、スパイラルピッチが小さい超電導線材で形成された超電導集合体の層(500mm未満になるような場合)において、第2層(最外層)を形成する超電導線材として、超電導線材10の代わりに、基板の磁化していない線材であるIBAD線材等を使用して、超電導集合体を形成することにより、超電導導体の交流損失を効果的に低減することできる。
【0049】
また、図9は、本発明による超電導シールドを備えた超電導ケーブルの構造の一例を示す図である。図9に示すように、超電導ケーブル50の構造は、金属製(例えば銅製)の中心部材31の周りに超電導線材10が複数層らせん状に巻き付けられた超電導導体30、その上に絶縁層51(材質は紙若しくは半合成紙)、次いで超電導シールド層52、その上に保護層53(例えば、導電性の紙あるいは銅の編組線からなる)が形成されたケーブルコアが可撓性のある金属製(例えば、ステンレス製またはアルミニウム製)二重断熱管の中に配置された構造である。二重断熱管は内管55と外管56及び内管55と外管56の間に配置された断熱層54からなる。また、この二重断熱管の外側に更に防食層を設けてもよい。ここで、超電導シールド層52をなす導体は特に限定はされないが、好ましくは超電導線材10と同様の超電導線材を用いることが望ましい。このように、超電導ケーブルが超電導シールド層を備えているとき、超電導シールド層の2層または複数層を形成する超電導線材の配置は、超電導集合体の超電導線材の配置と同様である。すなわち、(1)超電導シールド層が2層以上の場合にはその最外層を外向きに巻きつけ、その内層に位置する超電導シールド層の少なくとも1つは内向きに巻きつける。また、(2)スパイラルピッチが500mm未満であって、超電導集合体の第2層(最外層)の超電導線材を超電導層が中心部材の径方向において外向きに巻きつけた場合には、第2層(最外層)の超電導線材の基板は、非磁性基板を用いる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に使用する磁性基板上に成膜した超電導線材の構造の一例を示す図である。
【図2】本発明による超電導ケーブルの一例を示す図であり、図2(a)は、超電導導体の概略斜視図であり、図2(b)は、概略断面図である。
【図3】第1層と第2層の磁性基板を有した超電導線材の巻きつけ方法の違いによる交流損失の比較を示した図である。
【図4】第1層と第2層のスパイラルピッチ及び巻きつけ方法の違いによる交流損失の比較を示す図である。
【図5】第1層を超電導層が中心部材の径方向において内向きになるように巻きつけ、第2層を超電導層が前記中心部材の径方向において外向きになるようにまきつけた場合の、第1層のスパイラルピッチの大きさに違いによる交流損失の比較を示す図である。
【図6】第1層を超電導層が中心部材の径方向において外向きになるように巻きつけ、第2層を超電導層が前記中心部材の径方向において外向きになるように巻きつけた場合の、第1層のスパイラルピッチの大きさに違いによる交流損失の比較を示す図である。
【図7】第1層を超電導層が中心部材の径方向において内向きになるように巻きつけ、更にスパイラルピッチが800mmであり、第2層を超電導層が前記中心部材の径方向において外向きになるように巻きつけ、更にスパイラルピッチが−300mmのとき、第2層の線材種の違いによる交流損失の比較を示す図である。
【図8】第1層を超電導層が中心部材の径方向において外向きになるように巻きつけ、更にスパイラルピッチが800mmであり、第2層を超電導層が前記中心部材の径方向において内向きになるように巻きつけ、更にスパイラルピッチがー300mmのとき、第2層の線材種の違いによる交流損失の比較を示す図である。
【図9】本発明による超電導シールドを備えた超電導ケーブルの構造の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10 超電導線材
11 磁性基板
12 中間層
13 超電導層
14 安定化層(銀)
15 導電テープ
30 超電導導体
31 中心部材
32 超電導集合体
50 超電導ケーブル
51 絶縁層
52 超電導シールド層
53 保護層
54 断熱層
55 内管
56 外管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の中心部材と、
基板と、前記基板の上に形成される超電導層と安定化層からなる層部材、または、中間層及び超電導層と安定化層からなる層部材とを備えた超電導線材を、前記中心部材上に巻きつけて形成される少なくとも2層以上の超電導集合体とを有した超電導導体であって、
少なくとも1層の前記超電導集合体を形成する前記超電導線材の前記基板は、磁性基板であり、
最外層の前記超電導集合体を形成する前記超電導線材の前記基板と、前記最外層を除く少なくとも1層の前記超電導集合体を形成する前記超電導線材の前記基板が、対向するように配置されていることを特徴とする超電導導体。
【請求項2】
前記超電導集合体を形成する前記超電導線材の前記層部材が前記基板よりも前記中心部材の径方向において外側に配置されている場合、前記超電導線材の前記基板に、磁化していない基板を使用することを特徴とする請求項1に記載の超電導導体。
【請求項3】
前記磁化していない基板を使用した前記超電導線材が、IBAD線材であることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導導体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の前記超電導導体の外周に電気絶縁層、保護層および断熱管を有している超電導ケーブル。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の前記超電導導体と、
前記超電導導体の外側に形成される電気絶縁層と、
更に前記電気絶縁層の外側に、前記超電導集合体と同じ構造を有する超電導シールドと、
前記超電導シールド層の外側に、保護層および断熱層を有することを特徴とする超電導ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−47519(P2008−47519A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187011(P2007−187011)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】