説明

超電導磁場発生装置及びスパッタリング成膜装置

【課題】超電導体から出る強い磁場の分布を調整するのに有利な超電導磁場発生装置及びスパッタリング成膜装置を提供する。
【解決手段】超電導磁場発生装置1は、超電導遷移温度以下で外部に磁場を発する超電導体3と、超電導体3を冷却する冷却装置4と、超電導体3を収容する断熱容器5と、電流を通電して超電導体3から発せられる磁場分布400の形状を制御する磁場制御コイル9とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導磁場発生装置及びスパッタリング成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導バルク磁石を用いた超電導磁場発生装置が特許文献1に報告されている。従来使用されている永久磁石の代わり、超電導バルク磁石をスパッタガンに用いたマグネトロンスパッタリング成膜装置が特許文献2,3,4に報告されている。この装置の特徴は、従来の10倍以上の強力な磁場をターゲットの表面に生成してプラズマをターゲット表面に集中させることにより、高速成膜、低スパッタガス圧成膜、低ダメージ成膜などができることである。これらの特徴は、磁場が強いほどより顕著となる。
【0003】
超電導バルク磁石で形成されている超電導体は通常の永久磁石とは異なり、磁場を発生するのに超電導遷移温度以下に冷却する必要があるため、超電導体は、断熱が取れる真空容器に収納されて冷凍機で冷却される。超電導体を中央磁極とし、この周囲に軟磁性体を配置することにより、中央磁極から出て周囲磁極に入る磁場分布がこれら磁極の前面に形成される。
【0004】
スパッタガンは、薄膜の材料となるターゲットを取り付けるバッキングプレートの背面に中央磁極と周縁磁極とを配置することにより形成されており、ターゲットの前面に上述した磁場分布を形成してプラズマを集中させる。バッキングプレートは、成膜を行う成膜用真空チャンバに取付けられ、ターゲットの表面でプラズマを発生させる真空空間(この真空空間には通常はAr等のスパッタガスが大気圧以下で導入される)を保つための真空チャンバを形成する壁の一部としての機能も併せもつ。
【特許文献1】特開平10−12429号公報
【特許文献2】特開平10−72667号公報
【特許文献3】特開2004−91872号公報
【特許文献4】特開2005−57219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記した超電導体は、従来の永久磁石に比較してかなり強い磁場を発生させる。このため、軟磁性材等を超電導体の近くに配置したとしても、超電導体の磁場は、軟磁性材等が吸収できる磁場(飽和磁化、残留磁化)よりもかなり大きい。このため軟磁性材等では、超電導体の磁場を制御するには限界があった。このため、超電導体の磁場の一部が外側に発散してしまい、超電導体による強磁場による効果が必ずしも充分に得られない。
【0006】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、超電導体からの強い磁場の分布を調整するのに有利な超電導磁場発生装置及びスパッタリング成膜装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1様相に係る超電導磁場発生装置は、超電導遷移温度以下で外部に磁場を発する超電導体と、超電導体を冷却する冷却装置と、超電導体を収容する断熱容器と、電流を通電して超電導体から発せられる磁場分布を制御する磁場制御導電部材とを具備していることを特徴とする。
【0008】
(2)第2様相に係る超電導磁場発生装置は、超電導遷移温度以下で外部に磁場を発する超電導体と、超電導体を冷却する冷却装置と、超電導体を収容する断熱容器と、電流を通電して超電導体から発せられる磁場分布を制御する磁場制御導電部材と、磁場の分布を補正する強磁性体とを具備しており、
強磁性体は超電導体と磁場制御導電部材との間に配置されていることを特徴とするものである。
【0009】
様相1、2によれば、磁場制御導電部材に電流を通電して磁場制御導電部材により磁場を発生させることにより、超電導体から発せられる磁場分布を制御することができる。ここで、磁場制御導電部材に通電する電流の向きを変えれば、超電導体から発せられる磁場分布の形状を制御することができる。
【0010】
即ち、超電導体の着磁方向と逆向きの磁場を磁場制御導電部材が発生するように、磁場制御導電部材に電流を通電することができる。この場合、超電導体の磁場の形状が制御される。また、超電導体の着磁方向と同じ向きの磁場を磁場制御導電部材が発生するように、磁場制御導電部材に電流を通電することができる。この場合にも、超電導体の磁場の形状が制御される。
【0011】
更に、磁場制御導電部材に通電する電流の大きさを変えれば、超電導体から発せられる磁場分布の形状を更に制御することができる。
【0012】
様相2によれば、更に、超電導体と磁場制御導電部材との間に強磁性体(軟磁性材または永久磁石)を配置すれば、超電導体から発せられる磁場の分布の形状を補正することができる。
【0013】
(3)第3様相に係るスパッタリング成膜装置は、成膜原料を含むターゲットを保持するターゲットホルダと成膜対象物を保持する成膜対象物ホルダとを有する減圧チャンバと、ターゲットの表面の近傍の領域にプラズマを集中させる磁場を発生させるスパッタガンとを具備しており、
ターゲットから放出される成膜原料を成膜対象物の表面に被着させて成膜対象物に薄膜を形成するスパッタリング成膜装置において、
スパッタガンは、様相1または2からなる超電導磁場発生装置を有することを特徴とする。
【0014】
様相3によれば、様相1,2で得られる効果が得られる。即ち、超電導体の着磁方向と逆向きの磁場を磁場制御導電部材が発生するように、磁場制御導電部材に電流を通電すれば、強い磁場で捕獲されるプラズマをターゲットの前面の近くで閉じ込めることもでき、ターゲットから放出される構成材料を調整することができ、スパッタリング成膜を良好に行うことができる。また、超電導体の着磁方向と同じ向きの磁場を磁場制御導電部材が発生するように、磁場制御導電部材に電流を通電すれば、磁場を基板等の成膜対象物に向けて飛ばすことができる。従って、基板等の成膜対象物をプラズマに晒しつつ、基板等の成膜対象物に成膜することができる。更に、磁場制御導電部材に通電する電流の大きさを変えれば、超電導体から発せられる磁場分布の形状を更に制御することができ、成膜条件を更に制御することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る超電導磁場発生装置、スパッタリング成膜装置によれば、磁場制御導電部材に通電する電流の向きおよび大きさの少なくとも一方を調整すれば、超電導体から発せられる磁場分布を制御するのに有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る超電導磁場発生装置は、超電導遷移温度以下で外部に磁場を発する超電導体と、超電導体を冷却する冷却装置と、超電導体を収容する断熱容器と、電流を通電して超電導体から発せられる磁場分布の形状を制御する磁場制御導電部材とを有する。
【0017】
ここで、超電導体は、主成分がRE−Ba−Cu−O(REはY,La,Nd,Sm,Eu,Gd,Er,Yb,Dy,Hoのうちの1種以上)で表され超電導バルク磁石である形態を例示できる。この場合、超電導体の構成材料を一旦融点以上に加熱して溶融し再び凝固させる溶融凝固法で、超電導体は合成されている。この製法によれば、超電導体において結晶粒が粗大で、かつ、超電導となる母相に絶縁相が微細に分散した組織を有することができる。このように微細に分散した絶縁相が磁場のピン止め点として働くため、捕捉磁場の大きい超電導体が得られ、超電導磁場発生装置としての性能が向上する利点が得られる。この超電導体は、超電導遷移温度以下に冷却して着磁すると、磁場を捕捉して強力な磁場を発生する磁石となる。
【0018】
冷却装置は、超電導体を冷却するものであれば何でも良く、GM冷凍機、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機などを例示することができる。
【0019】
磁場制御導電部材は、電流を通電して超電導体から発せられる磁場分布の形状を制御する。磁場制御導電部材は、超電導体の外周部に対してほぼ同軸的または非同軸的にコイル状に配置された磁場制御コイルとすることができる。磁場制御導電部材は、通電する電流の大きさおよび電流の向きの少なくとも一方を制御することができる。磁場制御導電部材に通電する電流の向きを一方向に制御すれば、超電導体から発せられる磁場を、超電導体付近のアーケード形状にすることができる。また磁場制御導電部材に通電する電流の向きを他方向に制御すれば、超電導体から発せられる磁場を超電導体から遠くに飛ばす形状に制御することができる。
【0020】
本発明によれば、磁場の分布を補正する強磁性体を設けることができる。強磁性体は超電導体と磁場制御コイルとの間に配置されている。本明細書では、強磁性体は永久磁石及び軟磁性体のうちの1種または2種をいう。これにより超電導体から発せられる強力な磁場(磁束線)を強磁性体により効果的に案内することができる。故に、断熱容器の中央と周囲とでバランスが取れた磁場分布が超電導体の前方にできる。永久磁石は残留磁束密度が大きい。軟磁性体は残留磁束密度が小さい。
【0021】
本発明によれば、強磁性体は超電導体の周囲に配置されており、超電導体と強磁性体とは互いに逆向きに磁化されており、断熱容器前方に形成される磁場分布は、超電導体から出た磁場が強磁性体に戻るアーケード形状である形態が例示される。なお、逆向きに磁化とは、強磁性体の磁極同士を繋ぐ仮想線が超電導体の磁極同士を繋ぐ仮想線に平行である形態と、傾いている形態とを含む。
【0022】
断熱容器前方に形成される磁場分布は、磁場ベクトルの向きが断熱容器の先端部に平行となる位置を空間的につないで形成される仮想面が断熱容器の前方で閉じている形態が例示される。このように超電導体の近傍にプラズマを閉じこめるのに有利となり、スパッタリングの成膜速度を高めることができる。
【0023】
図7〜図9は磁場解析した実施形態例を示す。図7〜図9は、超電導体3の中央線よりも右半分を示す。図7〜図9において、磁場制御導電部材として機能する磁場制御コイル9が超電導体3の近傍に配置されており、超電導体3の径方向(矢印D方向)において、超電導体3と磁場制御コイル9との間にリング形状の強磁性体6が配置されている。
【0024】
図7は磁場制御コイル9に流れる電流が0アンペアである場合を示す。図8、図9、図10は、磁場制御コイル9に通電する電流の大きさを順にI1,I2,I3(I1<I2<I3)に増加していった場合を示す。図7〜図10に示すように、超電導体3の前方において、磁場分布400は、超電導体3から出た磁場が強磁性体6に戻るアーケード形状とされている。
【0025】
ここで、図7〜図10においては、磁場制御コイル9に一方向に電流が流れると、磁場制御コイル9は、超電導体3の磁極の着磁方向に対して逆向き(矢印Y1方向)の磁場を発生する。このとき、超電導体3の外側に存在する強磁性体6は、基本的には超電導体3の磁極と逆向きに磁化される。そして超電導体3の磁場が、磁場発生装置の前方から超電導体3の周囲の強磁性体6に戻るアーケード形状とされる。このように超電導体3から出た磁場が強磁性体6に戻るアーケード形状であれば、プラズマを超電導体3の先端面3cの近傍に閉じこめるのに有利となる。図7、図8,図9に示すように、磁場制御コイル9に通電する電流の大きさを調整すれば、磁場制御コイル9が発生する磁場が変化するため、超電導体3から発せられる磁場の分布の形状を制御することができる。図7によれば、Bz=0を示す仮想線W1は、超電導体3から離れるにつれて、つまり矢印Y2方向に向かうにつれて、超電導体3の径外方向(矢印D2方向)に拡開している。また図9および図10によれば、Bz=0を示す仮想線W1は、超電導体3の先端面3cから離れるにつれて、つまり矢印Y2方向に向かうにつれて、超電導体3の径内方向(矢印D1方向)に移行しており、閉じている。
【0026】
これに対して磁場制御コイル9に逆方向に電流が流れると、磁場制御コイル9は、超電導体3の磁極の着磁方向に対して同じ向き(矢印Y2方向)の磁場を発生する。この場合、超電導体3から発せられる磁場は、超電導体3から離れるように遠ざかる方向(矢印Y2方向)に向く。このためスパッタリング装置に適用した場合には、超電導体3から矢印Y2方向の先方に基板が存在すれば、磁束線ひいてはプラズマが基板側に移行することになる。この場合、基板をプラズマに晒しつつ基板に成膜でき、成膜条件を調整することができる。即ち、磁場制御コイル9に通電する電流の方向を調整すれば、超電導体3から発せられる磁場の分布を容易に制御することができる。
【0027】
図7〜図10に示す実施形態によれば、超電導体3の磁極の先端面3cを延長しつつ通る仮想線をMAとし、仮想線MAの位置を0位置とし、仮想線MAよりも超電導体3の先端面3cから基板側に離れる方向(矢印Y2方向)に離れる位置を正の位置とし、仮想線MAよりも超電導体3の内部に近づく方向(矢印Y1方向)を負の位置とすると、磁場制御コイル9の表面90、表面90に背向する第2表面91は、仮想線MAに対して正の位置に配置されている。なおこれに限らず、磁場制御コイル9の表面90は仮想線MAに対して負の位置に配置されていても良い。また、表面90および第2表面91が仮想線MAに対して負の位置に配置されていても良い。
【0028】
ここで、磁場制御コイル9により超電導体3から出る磁場を効果的に制御するにあたり、図7に示すように、磁場制御コイル9の高さをHとし、磁場制御コイル9の表面90と仮想線MAとの距離をLとするとき、Lの大きさを調整すれば、矢印Y1,Y2方向における磁場制御コイル9と超電導体3との相対距離が調整され、磁場制御コイル9が超電導体3の磁場を制御する磁場制御効果を適宜調整することができる。
【0029】
ここで、Lの大きさが過剰であると、磁場制御コイル9と超電導体3との距離が過剰に増大し、磁場制御コイル9による磁場制御効果が薄れることがある。そこで、磁場制御コイル9の表面90が正の位置にある場合には、L≦3Hの関係、あるいは、L≦2Hの関係、あるいは、L≦Hの関係に磁場制御コイル9が配置されていることが好ましい。また、磁場制御コイル9の表面90が負の位置にある場合には、L≦3Hの関係、あるいは、L≦2Hの関係、あるいは、L≦Hの関係に磁場制御コイル9が配置されていることが好ましい。上記した範囲内であれば、磁場制御コイル9が発生する磁場により、超電導体3の磁場を効果的に制御することができる。但し、超電導体の種類、超電導磁場発生装置の用途等によっては、L>3Hの関係であっても良い。
【実施例1】
【0030】
以下、本発明の実施例1について図1を参照して具体的に説明する。図1では複雑化を避けるため、ハッチングを適宜省略している。本実施例に係る超電導磁場発生装置1は中央磁極2を有する。中央磁極2は、超電導遷移温度以下で磁場を捕捉することにより外部に磁場を発する超電導体3と、超電導体3を冷却する冷却装置4と、超電導体3を収容する真空断熱室50をもつ断熱容器5とを有する。
【0031】
上記した冷却装置4は、冷凍機40と、断熱容器5の真空断熱室50内に配置された寒冷部として機能するコールドヘッド41とをもつ。冷凍機40としては、無冷媒で冷却が可能な冷凍機、あるいは、冷媒で冷却が可能な冷凍機を例示することができる。冷凍機40としては具体的にはGM冷凍機、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機などを例示することができる。
【0032】
超電導体3は円盤形状をなしており、その主成分がRE−Ba−Cu−Oの組成式で表されるバルク状(塊状)の超電導バルク磁石で形成されている。REはY,La,Nd,Sm,Eu,Gd,Er,Yb,Dy,Hoのうちの1種または2種以上を意味する。この場合、超電導体3の構成材料を一旦融点以上に加熱して溶融し再び凝固させる溶融凝固法で、超電導体3は合成されている。この製法によれば、超電導体3において結晶粒が粗大で、かつ、超電導となる母相に絶縁相が微細に分散した組織を有することができる。このように微細に分散した絶縁相が磁場のピン止め点として働くため、捕捉磁場の大きい超電導体3が得られ、超電導磁場発生装置1としての性能が向上する利点が得られる。この超電導体3は、超電導遷移温度以下に冷却して着磁すると、磁場を捕捉して強力な磁場を発生する磁石となる。超電導体3は上下方向に磁極を有する。具体的には本実施例では、図1に示すように、超電導体3の上面である先端端3cの磁極はN極とされ、超電導体3の下面である背向面3eの磁極はS極とされている。なお、磁極の極性は逆としても良い。
【0033】
図1に示すように、断熱容器5は、真空断熱室50を形成する筒状部5aと、筒状部5aの先端に設けられた先端部5cとをもつ。超電導体3は、断熱容器5の真空では断熱室50内において冷却装置4のコールドヘッド41に強磁性体としての下ヨーク42(軟磁性体)を介して固定されている。下ヨーク42は上記した超電導体3の下側に設けられている。下ヨーク42の材質は、飽和磁束密度または残留磁束密度の大きいものが好ましい。具体的には、下ヨーク42の材質としては、パーメンジュール(Fe−Co−V系)、電磁軟鉄(Fe)、珪素鋼板(Fe−Si系)、センダスト(Fe−Si−Al系)などの高透磁率材料を用いることができる。なお上記した強磁性体としての下ヨーク42としては、場合によっては、Nd−Fe−B系、Sm−Co系などの永久磁石材料を用いることができる。
【0034】
図1に示すように、周縁磁極として機能できる強磁性体6は、中央磁極2の周囲にリング形状に同軸的またはほぼ同軸的に配置されている。強磁性体6は断熱容器5の外方に位置するように超電導体3および下ヨーク42の側方に配置されている。強磁性体6の材質は下ヨーク42と同様な軟磁性体で形成されている。強磁性体6は、断熱容器5の外方に配置されており、超電導体3及び下ヨーク42に対して同軸的とされている。なお本明細書では軟磁性体は高透磁率材料を意味する。強磁性体6は軟磁性体で形成されている。強磁性体6の材質は飽和磁束密度が大きいものが好ましい。強磁性体6を構成する軟磁性体の材質としては、具体的には、パーメンジュール(Fe−Co−V系)、電磁軟鉄(Fe)、珪素鋼板(Fe−Si系)、センダスト(Fe−Si−Al系)などの高透磁率材料を用いることができる。
【0035】
超電導体3の外周側には、超電導体3の近傍に位置するように、リング形状の磁場制御コイル9(磁場制御導電部材)がほぼ同軸的に設けられている。超電導体3の径方向(矢印D方向)において、磁場制御コイル9と超電導体3との間には、リング形状の強磁性体6が設けられている。磁場制御コイル9は、電流を通電して超電導体3から発せられる磁場分布400の形状を制御する。
【0036】
図1において、超電導体3の中心線と平行な方向を矢印Y方向とすると、矢印Y方向において磁場制御コイル9は超電導体3の近くに配置されている。即ち、図1に示すように、超電導体3の磁極の先端面3cを延長しつつ通る仮想線をMAとする。仮想線MAの位置を0位置とする。仮想線MAよりも超電導体3の先端面3cから基板側に離れる方向(矢印Y2方向)に離れる位置を正の位置とする。仮想線MAのよりも超電導体3の内部に近づく方向(矢印Y1方向)を負の位置とする。すると、磁場制御コイル9のうち断熱容器5に近い側の表面90は、仮想線MAに対して負の位置に配置されている。磁場制御コイル9のうち表面90に背向する第2表面91は、正の位置に配置されている。このように磁場制御コイル9の表面90が、仮想線MAに対して負の位置に配置されているため、超電導体3よりも上方の空間を磁場生成空間として広く使用することができる。ここで、超電導体3の軸芯が延びる方向における磁場制御コイル9の高さをHとし、磁場制御コイル9の表面90と仮想線MAとの距離をLとすると、L≦Hの関係に設定されている。
【0037】
図1は、超電導体3の着磁方向と逆向きの磁場を磁場制御コイル9が発生するように、磁場制御コイル9に電流を流したときにおける磁場分布400の形態を示す。磁場制御コイル9に通電する電流の方向として『○の内に・を配置したマーク・』『○の内に×を配置したマーク』を示す。『○の内に・を配置したマーク』は、図1の紙面の裏側から紙面の表側に向けて流れる方向を意味する。『○の内に×を配置したマーク』は、図1の紙面の表側から紙面の裏側に向けて流れる方向を意味する。図1に示すように磁場制御コイル9に通電されると、磁場制御コイル9は、超電導体3の磁極と反対向きの磁極を形成する磁場を生成する。強磁性体6は、超電導体3の磁極と逆向きに磁化され、磁場発生装置1の前方に、超電導体3から出た磁束線が強磁性体6に戻るアーケード状の磁場分布400が形成される。
【0038】
図1において、仮想線W1は、磁場が超電導体3の磁場発生面(ターゲットの表面)に対して平行(垂直成分Bz=0)となる位置を空間的に繋いで形成された線を示す。仮想線W2は、磁束線の回転の向きが逆となる境界(ベクトルポテンシャルA=0)となる位置を示す。仮想線W2で包囲された空間内では、超電導体3から出た磁束線が超電導体3の径方向(矢印D方向)に曲がり、その全ての磁束線が図1の左右の二点鎖線W2で挟まれた内側の空間に戻ってくる。なお、全ての磁束線が当該空間に戻ることは磁気センサで確認できる。
【0039】
本実施例によれば、図1に示すように、仮想線W1,W2は、超電導体3から離れるにつれて、超電導体3の径外方向(矢印D2方向)に広がる向きとされている。この場合、仮想線W2で包囲される空間の内部にプラズマが存在する。このため、超電導体3から離れる方向に間隔を隔てて超電導体3の先端面3cに対面する基板(成膜対象物)が配置されていれば、この基板側に磁束線ひいてはプラズマを移行させるのに有利となる。故に、基板をプラズマに晒しつつ、基板に対して成膜できる。
【0040】
なお、図1に示すように、断熱容器5の先端部5c、強磁性体6の上面62、磁場制御コイル9の第2表面91は、実質的に同一の高さに設定された同一高さ面とされている。
【0041】
以上説明したように本実施例によれば、磁場制御コイル9に電流を通電して超電導体3から発せられる磁場分布400の形状を制御することができる。ここで、磁場制御コイル9に通電する電流の大きさを変えれば、超電導体3から発せられる磁場分布400の形状を適宜制御することができる。また、磁場制御コイル9に通電する電流の向きを変えれば、超電導体3から発せられる磁場分布400の形状を制御することができる。
【0042】
更に、超電導体3と磁場制御コイル9との間に配置されている強磁性体6は、磁束線を透過させて案内する。このため、強磁性体6は、超電導体3から発せられる磁場の分布の形状を制御することができる。ここで、超電導体3の周囲に強磁性体6が存在していなくても、磁場制御コイル9によりアーケード形状の磁場分布400が得られる。しかしこの場合、同じアーケード形状の磁場分布400を得るために大きな電流を磁場制御コイル9に通電する必要がある。この点本実施例によれば、超電導体3の径方向(矢印D方向)において、超電導体3と磁場制御コイル9との間に強磁性体6が配置されているため、強磁性体6が磁束線を案内でき、磁場制御コイル9に通電する電流を小さくできる利点が得られる。
【実施例2】
【0043】
図2は実施例2を示す。本実施例は基本的には実施例1と同様の構成、作用効果を有する。以下、相違する部分を中心として説明する。強磁性体6Cは軟磁性体ではなく、永久磁石とされており、超電導体3と同じ方向に磁極を有する。ここで、強磁性体6Cは、超電導体3の磁極の向きと逆の向きに着磁されている。故に、強磁性体6Cの磁極の極性は、超電導体3の磁極の極性と逆とされている。従って強磁性体6Cの上面6uはS極とされ、強磁性体6Cの下面6dはN極とされている。これによりアーケード形状の磁場分布400が得られる。
【0044】
永久磁石で形成されている強磁性体6Cは、自発磁化を有するため、軟磁性体を用いる場合に比較して、磁場制御コイル9に通電する電流を小さくしても、同じアーケード形状の磁場分布400を形成できる。強磁性体6Cは、Nd−Fe−B系、Sm−Co系などの永久磁石材料を用いることができる。
【0045】
本実施例においても、実施例1と同様に、磁場制御コイル9に電流を通電して超電導体3から発せられる磁場分布400を制御することができる。ここで、磁場制御コイル9に通電する電流の大きさを変えれば、超電導体3から発せられる磁場分布400の形状を制御することができる。また磁場制御コイル9に通電する電流の向きを変えれば、超電導体3から発せられる磁場分布400の形状を制御することができる。更に、超電導体3と磁場制御コイル9との間に配置されている強磁性体6Cの位置を調整すれば、超電導体3から発せられる磁場の分布の形状を制御することができる。
【実施例3】
【0046】
図3および図4は実施例3を示す。本実施例は基本的には実施例1と同様の構成、作用効果を有する。以下、相違する部分を中心として説明する。本実施例の超電導磁場発生装置1はスパッタリング成膜装置のスパッタガンに適用されている。
【0047】
図3に示すように、バッキングプレートとも呼ばれるプレート7は、中央磁極2の超電導体3とほぼ同軸的な盤状をなしている。プレート7は仕切部材として機能しており、中央磁極2と強磁性体6とが存在する空間WBと、プラズマ500が発生する磁場作用空間WAとを仕切る。図4に示すように、プレート7には凹状の窪み70が形成されている。窪み70は、中央磁極2の先端部に存在する超電導体3の先端面3cに対面する部分を収容できる深さを有する。 なお図3に示すように、強磁性体6の上面62、磁場制御コイル9の第2表面91は、実質的に同一の高さに設定された同一高さ面とされている。しかしながら断熱容器5の先端部5cは、窪み70内に進入しているため、強磁性体6の上面62、磁場制御コイル9の第2表面91よりも上方に突出し、ターゲット80側に位置している。
【0048】
本実施例によれば、図4において、プレート7のうち超電導体3に対面する部分である中央部71の厚みをt1とし、中央部71以外の厚みをt2とすると、t1はt2よりも厚みが薄く設定されている。ここでt2/t1=2〜50、2〜20、殊に3〜10に設定されている。なお、プレート7において、超電導体3に対面する部分である中央部71の前面71f(上面)、中間部72の前面72f(上面)、周縁部73の前面73f(上面)は、同一の高さを有する平坦面とされている。
【0049】
プレート7のうち超電導体3に対面する薄肉化された中央部71は、非磁性体で形成されている。これにより中央磁極2の超電導体3から出た磁場を、プレート7の前面7fに透過させ易くなっており、プレート7の前面7f側にプラズマ500を形成させるのに有利となる。本明細書に係る非磁性体としては、オーステナイト系の合金鋼(ステンレス鋼等)、あるいは、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、場合によってはセラミックス等を例示できる。但しこれに限定されるものではない。
【0050】
図4に示すように、プレート7は、非磁性体で形成された中央部71の他に、当該中央部71の外周側に設けられた強磁性体6(軟磁性体)からなるリング形状の中間部72と、中間部72の外周側に設けられた非磁性体からなるリング形状の周縁部73とを備えている。このようにプレート7の周縁部73が非磁性体で形成されているため、超電導体3から発せられた磁束線が外方に広く飛散することが抑制される。図3に示すように、中間部72の外径は強磁性体6の外径とほぼ一致しており、中間部72の内径は強磁性体6の内径とほぼ一致している。故に、中間部72の外周面は強磁性体6の外周面とほぼ一致しており、中間部72の内周面は強磁性体6の内周面とほぼ一致している。この場合、磁束線が強磁性体6(軟磁性体)に案内され、超電導体3から出た磁場の分布をアーケード状にするのに有利である。
【0051】
上記したようにプレート7を構成する中央部71、中間部72、周縁部73は一体化されているため、プレート7を真空チャンバの隔壁の一部として利用したときであっても、プレート7を介しての真空リークが抑えられる。
【0052】
本実施例では、図3に示すように、超電導磁場発生装置1の対象物として機能する成膜処理用のターゲット80がプレート7の前面7fの上に取り付けられている。故にプレート7はターゲットホルダとして機能できる。ターゲット80はプレート7のうち中央部71から周縁部73にかけて到達しており、ターゲット80の外周80pは周縁部73に対面している。
【0053】
図3に示すように、超電導体3の外周側にリング形状の磁場制御コイル9が同軸的に設けられている。超電導体3の径方向(矢印D方向)において、磁場制御コイル9と超電導体3との間には、リング形状の強磁性体6が設けられている。磁場制御コイル9は、電流を通電して超電導体3から発せられる磁場分布400の形状を制御するものである。図3は、超電導体3の着磁方向と逆向きの磁場を磁場制御コイル9が発生するように、磁場制御コイル9に電流を流したときにおける磁場分布400を示す。図3において、磁場制御コイル9に通電する電流の方向として『○の内に・を配置したマーク・』『○の内に×を配置したマーク・×』を示す。このように磁場制御コイル9に通電すれば、強磁性体6は、超電導体3の磁極と逆向きに磁化され、ターゲットの前方にアーケード形状の磁場分布400が形成される。
【0054】
本実施例においても、図3に示すように、超電導体3の中心線と平行な方向を矢印Y方向とすると、矢印Y方向において磁場制御コイル9は超電導体3の近くに配置されている。即ち、超電導体3の磁極の先端面3cを延長しつつ通る仮想線をMAとし、仮想線MAの位置を0位置とし、仮想線MAよりも超電導体3の先端面3cから離れる方向(矢印Y2方向)に離れる位置を正の位置とし、仮想線MAのよりも超電導体3の内部に近づく方向(矢印Y1方向)を負の位置とすると、磁場制御コイル9の表面90および第2表面91は、仮想線MAに対して負の位置に配置されている。このため、ターゲット80よりも上方の空間には磁場制御コイル9が配置されていないため、ターゲット80よりも上方の空間をスパッタリングのために広く使用することができる。ここで、磁場制御コイル9の高さをHとし、磁場制御コイル9の表面90と仮想線MAとの距離をLとするとき、L≦2Hの関係に設定されている。
【0055】
図3は、超電導体3の着磁方向と逆向きの磁場を磁場制御コイル9が発生するように、磁場制御コイル9に電流を流したときにおける磁場分布400を示す。このとき強磁性体6は、超電導体3の磁極と逆向きに磁化され、磁場発生装置1の前方に、超電導体3から出た磁束線が強磁性体6に戻るアーケード状の磁場分布400が形成される。
【0056】
図3において、Bz=0を示す仮想線W1、A=0を示す仮想線W2は、超電導体3の先端面3cから離れるにつれて、超電導体3の径外方向(D1方向)において広がる向きとされている。
【0057】
図3に示すように、A=0を示す仮想線W2がターゲット80と仮想交差部80xで交差している。このためターゲット80の中央から出た超電導体3の磁場が全てターゲット80の外縁部内に戻ってくるという完全に閉じた磁場分布400がターゲット80の上に形成されていることがわかる。このため、密度が高いプラズマ雰囲気をターゲット80の近傍に生成するのに有利である。その結果、ターゲット80の付近の雰囲気をより低い圧力としても、安定した放電が可能となり、成膜速度が向上する。
【0058】
また本実施例によれば、Bz=0を示す仮想線W1は、ターゲット80から基板側に離れるにつれて、超電導体3の径外方向つまり矢印D2方向に広がる磁場分布400となっている。
【実施例4】
【0059】
図5は実施例4を示す。本実施例は基本的には実施例3と同様の構成、作用効果を有する。超電導磁場発生装置1をスパッタリング成膜装置のスパッタガンに適用した例である。図5に示すように、超電導体3の外周側にリング形状の磁場制御コイル9がほぼ同軸的に設けられている。超電導体3の径方向(矢印D方向)において、磁場制御コイル9と超電導体3との間には、リング形状の強磁性体6が設けられている。磁場制御コイル9は、電流を通電して超電導体3から発せられる磁場分布400の形状を制御するものである。図5は、超電導体3の着磁方向と逆向きの磁場を磁場制御コイル9が発生するように、磁場制御コイル9に電流を流したときにおける磁場分布400を示す。このとき強磁性体6は、超電導体3の磁極と逆向きに磁化され、ターゲット80の前方にアーケード形状の磁場分布400が形成される。
【0060】
本実施例では、前記した実施例3に比較して、磁場制御コイル9に通電する電流の大きさを増加させた。この結果、Bz=0を示す仮想線W1、A=0を示す仮想線W2が超電導体3の前方つまりターゲット80の前方で閉じるような、磁場分布400がターゲット80の前面側に形成される。従って、A=0を示す仮想線W2で包囲される空間内に、プラズマ500の生成範囲を制限できる。このためプラズマダメージが少ない成膜処理を基板に実行したい場合には、仮想線W2で包囲される空間の外部W20に基板210a(成膜対象物)を設置すれば良い。この場合、基板210aがプラズマ500に晒されることが防止され、プラズマダメージが少ない成膜を基板210aに行うことができる。
【0061】
また本実施例によれば、プラズマを積極的に利用して成膜したい場合には、仮想線W2で包囲される空間の内部に基板210c(成膜対象物)を設置すれば良い。この場合、基板210cがプラズマ500に晒されるため、プラズマを積極的に利用して成膜を基板210cに行うことができる。このように成膜条件に応じて対処することができる。
【実施例5】
【0062】
図6は実施例5を示す。本実施例は基本的には実施例2と同様の構成、作用効果を有する。超電導磁場発生装置1をマグネトロンスパッタリング成膜装置に適用した例である。以下、異なる部分を中心として説明する。超電導磁場発生装置1は中央磁極2を有する。中央磁極2は、超電導遷移温度以下で磁場を捕捉するとこにより外部に磁場を発する超電導体3と、超電導体3を冷却する冷却装置4と、超電導体3を収容する断熱容器5とを有する。更に、超電導体3の周囲に配置された軟磁性体で形成された強磁性体6が設けられている。中央磁極2と強磁性体6とが存在する空間WBと、磁場作用空間WAとを仕切るプレート7が設けられている。冷却装置4は断熱容器5の下部に設けられている。
【0063】
図6に示すように、スパッタリング成膜装置200は、基台201と、基台201の上側に設置され図略のポンプにより減圧状態(例えば10−4〜10−5Torr程度)に維持される成膜室202をもつ減圧チャンバ203と、磁場の作用でターゲット80の表面の近傍の領域にプラズマ500を集中させるスパッタガンとなる超電導磁場発生装置1を具備する。減圧チャンバ203は、成膜原料を含むターゲットなるターゲット80を保持するように成膜室202の下部に設けられたターゲット80を保持するターゲットホルダとして機能するプレート7と、対象物としての基板210を保持するように成膜室202の上部に設けられた対象物ホルダとしての基板ホルダ211とを有する。
【0064】
成膜時には、先ず、図略の真空排気装置により、成膜室202を不純物ガスが残留しないように高真空(例えば10−6Torr台)に排気する。次に、真空排気をしながら図略のガス導入ポートからスパッタガスを導入し、例えば数ミリTorrのスパッタガスの雰囲気にする。この状態で、ターゲット80と基板210との間に所定の電圧(例えば数kV)を印加する。この場合、一般的には、ターゲット80をマイナスとし、基板210をプラスとなるように電圧を印加させる。これにより成膜室202内においてプラズマ放電を発生させる。プラズマ500中の電子は磁場によって運動をしながら、スパッタガス分子(一般的にはアルゴンであるが、これに限定されるものではない)をイオン化する。このプラズマ状のスパッタガスイオンは、ターゲット80の表面において集束されるため、加速されてターゲット80の表面に衝突する。これによりターゲット80の表面よりターゲット80の構成物質をスパッタさせて、基板210の表面に堆積させ、大きな成膜速度で薄膜を成膜することができる。
【0065】
この場合、超電導体32の強磁場によりプラズマ500をターゲット80付近に集中させることができる利点が得られる。このため成膜室202において高真空での放電が可能となり、成膜速度の向上を図ることができ、薄膜中の不純物が低減し、薄膜の成膜品質の向上、生産性の向上を図ることができる。
【0066】
なおターゲット80をマイナスとし、基板210をプラスとなるように電圧を印加させるとしているが、これに限らず、ターゲット80と基板210(成膜ターゲット)との間に交流電圧を印加することにしても良い。磁場制御コイル9に通電する電流としては直流でも交流でも良い。成膜中に電流値や電流波形を変えることができる。
【0067】
図6に示すように、磁場制御コイル9は、ターゲット80の背面(下面)ではなく、ターゲット80の上面側に位置するようにチャンバ203内に配置されている。磁場制御コイル9は、ターゲット80の外周80pよりも径外方向に位置している。
【0068】
ここで、前述したように、超電導体3の磁極の先端面3cを延長しつつ通る仮想線をMAとし、仮想線MAよりも超電導体3から矢印Y2方向に離れる位置を正の位置とし、仮想線MAよりも超電導体3に矢印Y1方向に近づく位置を負の位置とすると、磁場制御コイル9の表面90および第2表面91は、仮想線MAに対して正の位置に配置されており、チャンバ203内に配置されている。磁場制御コイル9の高さをHとし、磁場制御コイル9の表面90と仮想線MAとの距離をLとするとき、磁場制御コイル9が正の位置にあり、L≦Hの関係に設定されている。
【0069】
本実施例によれば、超電導体3の着磁方向と逆向きの磁場を磁場制御コイル9が発生するように、磁場制御コイル9に電流を流したときにおける磁場分布400を示す。このとき強磁性体6は、超電導体3の磁極と逆向きに磁化され、磁場発生装置1の前方に、超電導体3から出た磁束線が強磁性体6に戻るアーケード状の磁場分布400が形成される。
【0070】
本実施例によれば、図6に示すように、磁場制御コイル9が正の位置に配置されており、チャンバ203内に配置されている。このため、磁場制御コイル9が負の位置に存在する場合よりも、チャンバ203内の容積が制約されるものの、ターゲット80の前方に位置する磁場分布400(例えば形状)を細かく制御することができる。
【0071】
また、超電導体3の着磁方向と同じ向きの磁場を磁場制御コイル9が発生するように、磁場制御コイル9に電流を通電すれば、基板210をプラズマに晒しつつ、基板210に成膜することができる。更に、磁場制御コイル9に通電する電流の大きさを変えれば、超電導体3から発せられる磁場分布400の形状を制御することができ、成膜条件を制御することができる。このように磁場制御コイル9に通電する電流の方向、更には大きさを変えれば、磁場分布400を制御することができ、プラズマを利用した種々間成膜が可能となる。
【0072】
本発明は上記し且つ図面に示した実施例のみに限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更して実施できる。上記した記載から次の技術的思想が把握される。
(付記項)請求項1または2に係る超電導磁場発生装置で形成されているスパッタリング用のスパッタガン。
【0073】
本発明は超電導体による磁場発生源を有する分野に利用することができる。例えば、スパッタリング成膜装置、エッチング装置に限らず、例えば、プラズマ源、イオン源等に利用可能な超電導体による磁場発生装置に適用でき、例えば、磁気分離装置、磁場プレス機、核磁気共鳴装置、発電機、モータ等の強磁場利用装置にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1に係り、超電導体をもつ超電導磁場発生装置の断面図である。
【図2】実施例2に係り、超電導体をもつ超電導磁場発生装置の断面図である。
【図3】実施例3に係り、超電導体をもつ超電導磁場発生装置の断面図である。
【図4】実施例3に係り、プレートの断面図である。
【図5】実施例4に係り、超電導体をもつ超電導磁場発生装置をスパッタリングガンとして使用している状態を示す断面図である。
【図6】実施例5に係り、超電導体をもつ中央磁極を有する超電導磁場発生装置をスパッタリング成膜装置に組み付けた状態を示す断面図である。
【図7】磁場制御コイルに通電する電流が0アンペアのときにおける磁場解析の図である。
【図8】磁場制御コイルに通電する電流がI1のときにおける磁場解析の図である。
【図9】磁場制御コイルに通電する電流がI2のときにおける磁場解析の図である。
【図10】磁場制御コイルに通電する電流がI3のときにおける磁場解析の図である。
【符号の説明】
【0075】
図中、1は超電導磁場発生装置、2は中央磁極、3は超電導体、4は冷却装置、5は断熱容器、6は強磁性体、7はプレート(ターゲットホルダ)、70は窪み、71は中央部、72は中間部、73は周縁部、80はターゲット、9は磁場制御コイル(磁場制御導電部材)、200はスパッタリング成膜装置、211は基板ホルダ(対象物ホルダ)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導遷移温度以下で外部に磁場を発する超電導体と、前記超電導体を冷却する冷却装置と、前記超電導体を収容する断熱容器と、電流を通電して前記超電導体から発せられる磁場分布を制御する磁場制御導電部材とを具備していることを特徴とする超電導磁場発生装置。
【請求項2】
超電導遷移温度以下で外部に磁場を発する超電導体と、前記超電導体を冷却する冷却装置と、前記超電導体を収容する断熱容器と、電流を通電して前記超電導体から発せられる磁場分布を制御する磁場制御導電部材と、前記磁場分布を補正する強磁性体とを具備しており、
前記強磁性体は前記超電導体と前記磁場制御導電部材との間に配置されていることを特徴とする超電導磁場発生装置。
【請求項3】
請求項2において、前記強磁性体は永久磁石または軟磁性材で形成されていることを特徴とする超電導磁場発生装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項において、前記超電導体の着磁方向と逆向きの磁場を前記磁場制御導電部材が発生するように、前記磁場制御導電部材は通電されることを特徴とする超電導磁場発生装置。
【請求項5】
請求項1〜3のうちのいずれか一項において、前記超電導体の着磁方向と同じ向きの磁場を前記磁場制御導電部材が発生するように、前記磁場制御導電部材は通電されることを特徴とする超電導磁場発生装置。
【請求項6】
請求項2〜5のうちのいずれか一項において、前記超電導体と前記強磁性体とは互いに逆向きに磁化されており、前記断熱容器の前方に形成される磁場分布は、前記超電導体から出た磁場が前記強磁性体に戻るアーケード形状であることを特徴とする超電導磁場発生装置。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項において、前記断熱容器前方に形成される磁場分布は、前記超電導体から出た磁場が前記強磁性体に戻るアーケード形状であることを特徴とする超電導磁場発生装置。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれか一項において、前記断熱容器前方に形成される磁場分布は、磁場ベクトルの向きが前記断熱容器の先端部に平行となる位置を空間的につないで形成される仮想面が前記断熱容器の前方で閉じていることを特徴とする超電導磁場発生装置。
【請求項9】
請求項1〜8のうちのいずれか一項において、前記超電導体は、主成分がRE−Ba−Cu−O(REはY,La,Nd,Sm,Eu,Gd,E r,Yb,Dy,Hoのうちの1種以上)で表される超電導バルク磁石であることを特徴とする超電導磁場発生装置。
【請求項10】
成膜原料を含むターゲットを保持するターゲットホルダと成膜対象物を保持する成膜対象物ホルダとを有する減圧チャンバと、
前記ターゲットの表面の近傍の領域にプラズマを集中させる磁場を発生させるスパッタガンとを具備しており、
前記ターゲットから放出される成膜原料を前記成膜対象物の表面に被着させて前記成膜対象物に薄膜を形成するスパッタリング成膜装置において、
前記スパッタガンは、請求項1〜請求項9のうちのいずれか一項からなる超電導磁場発生装置を有することを特徴とするスパッタリング成膜装置。
【請求項11】
請求項10において、前記磁場分布は前記ターゲットの前方に形成され、前記磁場分布は、前記ターゲットの中央部から出た磁束線が前記ターゲットの周縁部に戻るアーケード形状をなしていることを特徴とするスパッタリング成膜装置。
【請求項12】
請求項10または11において、前記磁場分布では、前記ターゲットの中央部を介して前記超電導体から出た磁束線が全て前記ターゲットの外周よりも内側に透過することを特徴とするスパッタリング成膜装置。
【請求項13】
請求項10〜12のうちのいずれか一項において、前記磁場分布では、磁場ベクトルの向きが前記ターゲットに平行となる位置を空間的につないで形成される仮想面が、前記ターゲットの前方で閉じていることを特徴とするスパッタリング成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−258447(P2007−258447A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80895(P2006−80895)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】