説明

超電導線の臨界電流測定装置および臨界電流測定方法

【課題】超電導線の臨界電流値を短時間で測定することができる超電導線の臨界電流測定装置および臨界電流測定方法を提供することである。
【解決手段】超電導線20の臨界電流測定装置1は、臨界電流測定部2とホール素子部6とを有している。臨界電流測定部2は、超電導線20の長手方向Xに沿って延びる被測定区間3の両端に接して電圧を測定することにより被測定区間3の臨界電流値を測定するためのものである。ホール素子部6は、被測定区間3よりも長手方向Xの一方側および他方側の少なくともいずれかに配置され、かつ超電導線20によって変化した磁場を測定するためのものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線の臨界電流測定装置および臨界電流測定方法に関し、特に、ホール素子部を有する超電導線の臨界電流測定装置および臨界電流測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導線材の重要な特性の一つとして臨界電流値(Ic)があり、臨界電流値は超電導線材の重要な保証項目の一つである。
【0003】
特開平10−239260号公報(特許文献1)には、超電導線の所定の区間に電流を流して所定の区間の電圧を測定することにより臨界電流値を求める方法が記載されている。
【0004】
T. Kono et al., "Evaluation of magnetic homogeneities of Gd-Ba-Cu-O bulk superconductors by different Hall probe scanning methods"(非特許文献1)には、バルクの超電導体の上をホール素子でスキャンすることによって、超電導体によって磁場がシールドされる様子を観察する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−239260号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Kono et al., "Evaluation of magnetic homogeneities of Gd-Ba-Cu-O bulk superconductors by different Hall probe scanning methods", Physica C 426-431 (2005) 632-638
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開平10−239260号公報に記載されている超電導体の臨界電流値を測定する方法によれば、所定の区間ごとに超電導線の臨界電流値が測定され、ある区間に基準値を下回る臨界電流値を有する部分が発見された場合、その区間の超電導線は欠陥を有すると判断されていた。そして、欠陥を有すると判断された区間の超電導線は廃棄処分となるが、その場合、欠陥を有さない超電導線の部分も一緒に廃棄されることになるので、超電導線の歩留まりが良くなかった。
【0008】
一方、上記の廃棄する部分の量を減らすために臨界電流値を測定する区間の長さが短くされると、長尺状の超電導線の臨界電流値が全ての区間において測定されるためには長い時間を要することになり作業効率が良くなかった。
【0009】
上記の超電導線の臨界電流測定装置では、超電導線の欠陥検出は臨界電流値を測定することによって行われている。そのため、測定時間を短くするためには、長区間の超電導線の臨界電流が測定されることが有効である。一方、超電導線に欠陥が見つかった場合は長区間の超電導線が廃棄されるため歩留まりが悪くなるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、超電導線の臨界電流値を短時間で測定することができる超電導線の臨界電流測定装置および臨界電流測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る超電導線の臨界電流測定装置は、臨界電流測定部と、ホール素子部とを備えている。臨界電流測定部は、超電導線の長手方向に沿って延びる被測定区間の両端に接して電圧を測定することにより被測定区間の臨界電流値を測定するためのものである。ホール素子部は、被測定区間よりも長手方向の一方側および他方側の少なくともいずれかに配置され、かつ超電導線によって変化した磁場を測定するためのものである。
【0012】
本発明に係る超電導線の臨界電流測定装置によれば、超電導線の欠陥検出はホール素子部により行われている。ホール素子部は超電導線に接触することなく、超電導線を相対移動させながら超電導線の欠陥を検出することができるため、短時間で超電導線の欠陥を検出することができる。また臨界電流測定部により超電導線の臨界電流の測定も可能である。それゆえ、トータルで見たときの超電導線の臨界電流値の測定時間を短縮することができる。
【0013】
上記の超電導線の臨界電流測定装置において好ましくは、長手方向に移動させるための移動装置をさらに備えている。
【0014】
この移動装置により、ホール素子部および臨界電流測定部に対して超電導線を相対的に移動させることが可能となる。
【0015】
上記の超電導線の臨界電流測定装置において好ましくは、ホール素子部は、移動装置による超電導線の移動方向において被測定区間よりも上流側に配置された上流側ホール素子部を含んでいる。
【0016】
これにより、超電導線の臨界電流を測定する前に上流側ホール素子部によって超電導線の欠陥の有無を検出することができる。そのため、超電導線の欠陥の有無の情報を利用することにより、臨界電流測定部により臨界電流値を測定する区間を効率的に決めることができ、欠陥を有しており廃棄する必要のある超電導線の量を少なくすることができるので、超電導線の歩留まりが向上する。
【0017】
上記の超電導線の臨界電流測定装置において好ましくは、ホール素子部は、移動装置による超電導線の移動方向において被測定区間よりも下流側に配置された下流側ホール素子部を含んでいる。
【0018】
これにより、超電導線の臨界電流を測定した後に下流側ホール素子部によって超電導線の欠陥の有無を検出することができる。臨界電流値を測定するために電極を超電導線に押し付けたときに超電導線にダメージを与えることがある。下流側ホール素子部によって、臨界電流の測定によってダメージを受けた超電導線の欠陥の有無を検出することができる。
【0019】
上記の超電導線の臨界電流測定装置において好ましくは、臨界電流測定部は、被測定区間内に位置する複数の短区間の各々の電圧を測定することにより臨界電流値を測定することができる複数の短区間測定部を含んでいる。
【0020】
これにより、短い区間の超電導線の臨界電流値を測定することができるので、より細かい精度で超電導線の臨界電流値を測定することができる。
【0021】
上記の超電導線の臨界電流測定装置において好ましくは、ホール素子部は、一方側および他方側の少なくともいずれかにおいて超電導線の長手方向に並んだ複数のホール素子を含んでいる。
【0022】
これにより、一方のホール素子にノイズが発生した場合でも、他のホール素子により超電導線の欠陥を正確に検出したことができる。
【0023】
上記の超電導線の臨界電流測定装置において好ましくは、ホール素子部は、一方側および他方側の少なくともいずれかにおいて超電導線の幅方向に並んだ複数のホール素子を含んでいる。
【0024】
これにより、超電導線の幅方向にわたって超電導線の欠陥を検出することができる。
本発明に係る超電導線の臨界電流測定方法は、臨界電流値を測定する工程と磁場を測定する工程とを備えている。臨界電流値を測定する工程は、超電導線の長手方向に沿って延びる被測定区間の両端に電極を当接させて被測定区間の電圧を測定することにより行われる。磁場を測定する工程は、被測定区間よりも長手方向の一方側および他方側の少なくともいずれかに配置されたホール素子部により超電導線によって変化した磁場を測定することにより行われる。
【0025】
本発明に係る超電導線の臨界電流測定方法によれば、超電導線の欠陥検出はホール素子部により行われている。ホール素子部は超電導線に接触することなく、超電導線を相対移動させながら超電導線の欠陥を検出することができるため、短時間で超電導線の欠陥を検出することができる。また臨界電流測定部により超電導線の臨界電流の測定も可能である。それゆえ、トータルで見たときの超電導線の臨界電流値の測定時間を短縮することができる。
【0026】
上記の超電導線の臨界電流測定方法において好ましくは、臨界電流値を測定する工程と磁場を測定する工程との間に、超電導線を長手方向に移動させる工程をさらに備えている。
【0027】
この超電導線を長手方向に移動させる工程により、ホール素子部および臨界電流測定部に対して超電導線を相対的に移動させることが可能となる。
【0028】
上記の超電導線の臨界電流測定方法において好ましくは、ホール素子部は、被測定区間に対して超電導線の移動方向の上流側に位置する上流側ホール素子部を含む。磁場を測定する工程は、上流側ホール素子部で超電導線によって変化した磁場を測定する工程を含む。上流側ホール素子部で磁場を測定した後に、臨界電流値を測定する工程が行われる。
【0029】
これにより、超電導線の臨界電流を測定する前に上流側ホール素子部によって超電導線の欠陥の有無を検出することができる。そのため、超電導線の欠陥の有無の情報を利用することにより、臨界電流測定部により臨界電流値を測定する区間を効率的に決めることができ、欠陥を有しており廃棄する必要のある超電導線の量を少なくすることができるので、超電導線の歩留まりが向上する。
【0030】
上記の超電導線の臨界電流測定方法において好ましくは、ホール素子部は、被測定区間に対して超電導線の移動方向の下流側に位置する下流側ホール素子部を含む。磁場を測定する工程は、下流側ホール素子部で超電導線によって変化した磁場を測定する工程を含む。下流側ホール素子部で磁場を測定する前に、臨界電流値を測定する工程が行われる。
【0031】
これにより、超電導線の臨界電流を測定した後に下流側ホール素子部によって超電導線の欠陥の有無を検出することができる。臨界電流値を測定するために電極を超電導線に押し付けたときに超電導線にダメージを与えることがある。下流側ホール素子部によって、臨界電流の測定によってダメージを受けた超電導線の欠陥の有無を検出することができる。
【0032】
上記の超電導線の臨界電流測定方法において好ましくは、臨界電流値を測定する工程は、超電導線の被測定区間内に位置する複数の短区間の各々の電圧を測定することにより複数の短区間の各々の臨界電流値を測定することができる工程を含んでいる。
【0033】
これにより、短区間の各々の臨界電流値を測定することができるので、より細かい精度で超電導線の臨界電流値を測定することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、超電導線の欠陥検出はホール素子部により行われている。ホール素子部は超電導線に接触することなく、超電導線を相対移動させながら超電導線の欠陥を検出することができるため、短時間で超電導線の欠陥を検出することができる。また臨界電流測定部により超電導線の臨界電流の測定も可能である。それゆえ、トータルで見たときの超電導線の臨界電流値の測定時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る超電導線の臨界電流測定装置の実施の形態1を示す概略模式図である。
【図2】本発明に係る超電導線の臨界電流測定装置のホール素子部が被測定区間よりも下流側に配置されている状態を示す概略模式図である。
【図3】本発明に係る超電導線の臨界電流測定装置のホール素子部が被測定区間よりも上流側に配置されている状態を示す概略模式図である。
【図4】本発明に係る超電導線の臨界電流測定装置のホール素子部が超電導線の長手方向に複数配置されている状態を示す概略模式図である。
【図5】本発明に係る超電導線の臨界電流測定装置のホール素子部が超電導線の幅方向に複数配置されている状態を示す概略模式図である。
【図6】本発明に係る超電導線の臨界電流測定装置の実施の形態2を示す概略模式図である。
【図7】実施の形態1に係る超電導線の臨界電流測定方法を示すステップ図である。
【図8】実施の形態2に係る超電導線の臨界電流測定方法を示すフローチャートである。
【図9】超電導線によって変化した磁場と超電導線の移動距離との関係を示す図である。
【図10】超電導線に流した電流と超電導線の電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1における超電導線の臨界電流測定装置の構成について、図1〜図5を用いて説明する。
【0037】
図1に示すように、超電導線20の臨界電流測定装置1は、臨界電流測定部2と、ホール素子部6と、移動装置9、11と、液体窒素容器12とを主に有している。臨界電流測定部2は、超電導線20の長手方向Xに沿って延びる被測定区間3の臨界電流値を測定するための部分である。
【0038】
臨界電流測定部2は、1対の電圧電極4、4と、1対の電流電極5、5と、電圧計14と、電流源15と、PC(Personal Computer)16とを有している。1対の電圧電極4、4の各々は、超電導線20の被測定区間3の両端に当接可能に設けられている。1対の電流電極5、5の各々は、超電導線20の被測定区間3よりも少し外側に配置されており、かつ超電導線20に当接可能に設けられている。電圧計14は、1対の電圧電極4、4の各々と電気的に接続されており、被測定区間3に電流を流したときの被測定区間3の電圧を測定するためのものである。電流源15は、1対の電流電極5、5の各々と電気的に接続されており、被測定区間3に電流を流すためのものである。PC16は、電圧計14および電流源15よりなる計測装置部17を制御可能に設けられている。たとえば、PC16は、電流源15により被測定区間3に流される電流値を調整できるように設けられている。
【0039】
ホール素子部6は、被測定区間3よりも長手方向Xの一方側および他方側の少なくともいずれかに配置されている。図1の構成では、ホール素子部6は、たとえば被測定区間3の上流側7(一方側)および下流側8(他方側)の双方に配置されている。ホール素子部6は、超電導線20によって変化した磁場を測定するためのものである。
【0040】
移動装置9、11は、送りローラ9と、受けローラ11とを有している。送りローラ9には、臨界電流を測定する前の超電導線20が巻きつけられている。送りローラ9は、超電導線20を送り出す部分である。受けローラ11は、臨界電流を測定した後の超電導線20を巻き取る部分である。PC16は、送りローラ9および受けローラ11の動作を制御可能に設けられている。たとえば、PC16は、超電導線20を送る距離や速度を制御したり、送る方向(順方向や逆方向)を制御可能である。
【0041】
液体窒素容器12は、内部に液体窒素13を貯めるためのものである。超電導線20が、液体窒素容器12に貯められた液体窒素13内に浸漬可能に液体窒素容器12は配置されている。液体窒素容器12に貯められた液体窒素13によって、測定対象物である超電導線20が臨界温度以下に冷却されて超電導線20が超電導状態になる。
【0042】
上記の臨界電流測定装置1においては、被測定区間3の上流側7と下流側8との双方にホール素子部6が設けられた場合について説明したが、図2に示すように被測定区間3よりも下流側8のみにホール素子部6があってもよく、図3に示すように被測定区間3よりも上流側7のみにホール素子部6があってもよい。
【0043】
ここで、下流側8とは、超電導線20の長手方向Xにおいて、被測定区間3よりも受けローラ11側のことである。言い換えれば、下流側8とは超電導線20が臨界電流測定部2から流れて出て行く場合の、臨界電流測定部2よりも下流側8のことである。また、上流側7とは、超電導線20の長手方向Xにおいて、被測定区間3よりも送りローラ9側のことである。言い換えれば、上流側7とは超電導線20が臨界電流測定部2に流れてくるときの、臨界電流測定部2よりも上流側7のことである。
【0044】
また、図1に示す上流側7および下流側8のホール素子部6の各々は、図4に示すように超電導線20の長手方向Xに並んで配置された複数(たとえば2個)のホール素子19を有していてもよい。また、図1に示す上流側7および下流側8のホール素子部6の各々は、図5に示すように超電導線20の幅方向Yに並んで配置された複数(たとえば2個)のホール素子19を有していてもよい。なお、ホール素子部6が有するホール素子19と超電導線20との距離は、たとえば0.5〜1.0mmである。
【0045】
次に、本実施の形態の超電導線20の臨界電流測定方法について、図1および図6を用いて説明する。
【0046】
図1および図6に示すように、超電導線20が送りローラ9から送り出されると共に受けローラ11で巻き取られることにより、超電導線20の長手方向Xに沿って移動する。これにより超電導線20はホール素子部6および臨界電流測定部2に対して相対的な移動を開始する(ステップS1:図6)。超電導線20が移動している状態で、臨界電流測定部2の上流側7に配置されたホール素子部6により超電導線20によって変化する磁場が測定される(ステップS2:図6)。この上流側7のホール素子部6の磁場の測定により、超電導線20の欠陥の有無が検出される。
【0047】
ここで、ホール素子部6により超電導線20によって変化した磁場を測定する方法について説明する。
【0048】
ホール素子19は磁場を検出するセンサーとして広く利用されている。一般に超電導体が臨界温度以下に冷却されて超電導状態になると、理想的な超電導体はマイスナー効果によって完全反磁性状態になる。完全反磁性状態とは、超電導体が持つ性質の一つであり、超電導体内部への外部磁場の侵入を完全に排除して内部磁場がゼロになる状態である。
【0049】
図9は、超電導線20によって変化した磁場が超電導線20の線材の移動距離に対して変化する様子を示している。正常な超電導線20の場合、超電導体のマイスナー効果によって磁場が超電導体の内部からはじかれるので、ホール素子19により検出される磁場の強度はホール素子19の上方に配置された永久磁石の磁場よりも小さくなる。図9において、磁場の強度が低く安定している部分が正常な超電導線20の部分である。一方、超電導体の欠陥を有する部分においては、超電導線20が臨界温度以下に冷却されても完全な反磁性状態にならないために磁場を外部にはじくことができない。そのため、ホール素子19で検出される磁場はホール素子19の上方に配置されている永久磁石の磁場の強度に近くなる。図9において、磁場のピークがみられる位置P付近の磁場の大きさは、ホール素子19の上方に配置されている永久磁石の大きさに近くなっている。それゆえ、位置P付近の超電導線20は欠陥を有していると考えられる。つまり、超電導線20の位置に対する磁場の変化をホール素子部6によって検出することによって、超電導線20の欠陥の有無を検出することができる。
【0050】
次に、上記の磁場の測定が完了すると、図7に示すように超電導線20の移動が停止する(ステップS3:図6)。超電導線20が停止した状態で、上流側7のホール素子部6で欠陥の有無の検出が行なわれた超電導線20の部分の臨界電流値が臨界電流測定部2により測定される(ステップS4:図6)。この臨界電流値の測定においては、電流源15によって被測定区間3に電流が流されときの電圧が電圧計14によって測定されることにより、臨界電流値が測定される。
【0051】
ここで、超電導線20の臨界電流値を測定する方法について説明する。
臨界電流値とは、超電導体に流すことができる最大の電流値のことである。理想的な超電導体では抵抗値が0なので電流を流しても電圧は0である。しかし現実の超電導線20では、電流を流すと僅かながら電圧が検出される。
【0052】
臨界電流値は、たとえば図10に示すように、被測定区間3に電流が流されたときの電圧を測定することによって求めることができる。被測定区間3に流す電流値は低い値から徐々に高い値へ変化させることができる。各々の電流値に対する電圧が、図10に示すようにプロットされる。電流値を徐々に大きくしていくと電圧が急激に大きくなるところがある。ある基準となる電圧の閾値(点線で示す基準電圧)を決めて、その閾値の電圧になる電流が臨界電流(Ic)として決定される。
【0053】
上記の臨界電流値の測定が終了した後、図1に示すように超電導線20が下流側8へ移動される(ステップS5:図6)。超電導線20が移動している状態で、下流側8のホール素子部6により超電導線20によって変化する磁場が測定される(ステップS6:図6)。この下流側8のホール素子部6の磁場の測定により、超電導線20の欠陥の有無が検出される。
【0054】
上記のように本実施の形態1の超電導線20の臨界電流測定方法は、臨界電流値を測定する工程と、磁場を測定して欠陥を検出する工程とを有している。
【0055】
臨界電流値を測定する工程は、超電導線20の長手方向Xに沿って延びる被測定区間3の両端に電圧電極4、4を当接させて被測定区間3の電圧を測定することによって行われる。
【0056】
磁場を測定する工程は、被測定区間3よりも長手方向の上流側(一方側)および下流側(他方側)の少なくともいずれかに配置されたホール素子部6により超電導線20によって変化した磁場を測定することによって行われる。
【0057】
次に、本実施の形態1の超電導線20の臨界電流測定装置1および臨界電流測定方法の作用効果について説明する。
【0058】
実施の形態1に係る臨界電流測定装置1および臨界電流測定方法によると、超電導線20の欠陥検出はホール素子部6により行われている。ホール素子部6は超電導線20に接触することなく、超電導線20を相対移動させながら超電導線20の欠陥を検出することができるため、短時間で超電導線20の欠陥を検出することができる。また臨界電流測定部2により超電導線20の臨界電流の測定も可能である。それゆえ、トータルで見たときの超電導線20の臨界電流値の測定時間を短縮することができる。
【0059】
また、下流側8にホール素子部6を有する臨界電流測定装置1および下流側8に設けられたホール素子部6を使った臨界電流測定方法によると、超電導線20の臨界電流を測定した後に下流側8のホール素子部6によって超電導線20の欠陥の有無を検出することができる。臨界電流値を測定するために電圧電極4、4や電流電極5、5を超電導線20に押し付けたときに超電導線20にダメージを与えることがある。下流側8のホール素子部6によって、臨界電流の測定によってダメージを受けた超電導線20の欠陥の有無を検出することができる。
【0060】
また、上流側7に設けられたホール素子部6を有する臨界電流測定装置1および上流側7に設けられたホール素子部6を使った臨界電流測定方法によると、超電導線20の臨界電流を測定する前に上流側7に設けられたホール素子部6によって超電導線20の欠陥の有無を検出することができる。そのため、超電導線20の欠陥の有無の情報を利用することにより、臨界電流値を測定する区間を効率的に決めることができる。たとえば、超電導線20のある被測定区間3が欠陥を有している場合は、被測定区間3を細かく分割して、どこにどの程度の欠陥があるかを詳細に調べることができる。一方、超電導線20が欠陥を有していない場合は、被測定区間3の臨界電流値を1回だけ測定する。これにより、トータルの臨界電流値の測定時間を短縮することができる。また、超電導線の欠陥の有無の情報を利用して、臨界電流測定部する区間を長区間にするか短区間にするかを決めることができるので、欠陥を有しており廃棄する必要のある超電導線の量を少なくすることができるので、超電導線の歩留まりが向上する。
【0061】
また、図4に示すようにホール素子部6が、超電導線20の長手方向Xに並んだ複数のホール素子19を有している場合、たとえば突発的に発生するノイズによって一方のホール素子19が超電導線20によって変化した磁場を正確に測定できない場合においても、他のホール素子19により超電導線20の欠陥を正確に検出することができる。
【0062】
また、図5に示すようにホール素子部6が、超電導線20の幅方向Yに並んだ複数のホール素子19を有している場合、超電導線20の幅方向Yにおける磁場の分布を測定することができるので、超電導線20の幅方向Yのどの部分に欠陥が存在するかを検出でき、より精度良く超電導線20の欠陥を検出することができる。
【0063】
また、図5に示すようにホール素子部6が幅方向Yに並んだ複数のホール素子19を有することにより、超電導線20の電流密度Jの情報を得ることもできる。つまり、数式(1)に示すマクスウェル方程式によれば、磁束密度Bを距離xで微分した値は電流密度Jに比例することが分かる。ここで、Bは磁束密度、xは幅方向の距離、Jは電流密度、μは真空の透磁率である。言い換えれば、幅方向Yにある距離x移動したときの磁束密度Bの変化量が電流密度Jに比例する。これにより、超電導線20の幅方向に配置されたホール素子19によって、幅方向Yの磁束密度Bの分布を求めることで超電導線20の電流密度Jの情報を得ることができる。
【0064】
【数1】

【0065】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における超電導線の臨界電流測定装置の構成について、図7を用いて説明する。
【0066】
図7に示すように、本実施の形態2の構成は、実施の形態1の構成と比較して臨界電流測定部2が短区間測定部18を有している点において異なっている。この短区間測定部18は、被測定区間3内に位置する複数の短区間の各々の電圧を測定可能に設けられ、複数の短区間の各々の臨界電流値を測定可能に設けられている。短区間測定部18は、1対の電圧電極41、42と電圧計141とを主に有している。この1対の電圧電極41、42によって挟まれた区間(短区間1)の電圧が電圧計141によって可能に設けられており、短区間1の臨界電流値が測定可能である。また、電圧電極42、43によって挟まれた短区間(短区間2)の電圧が電圧計142によって測定可能に設けられおり、短区間2の臨界電流値が測定可能である。短区間1および短区間2に電流が流れるように、電流源15および電極5、5が設けられている。
【0067】
これ以外の実施の形態2の構成は、上述した実施の形態1の構成と同様であるため、同一の要素については同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0068】
次に、本実施の形態2の超電導線20の臨界電流測定方法について、図7および図8を用いて説明する。
【0069】
図7および図8に示すように、超電導線20が送りローラ9と受けローラ11により移動されながら、ホール素子部6によって超電導線20により変化した磁場が測定される(ステップS10:図8)。ホール素子部6により測定された磁場の値により、超電導線20が欠陥を有するか否かが判断される(ステップS11:図8)。
【0070】
上記磁場測定の結果、超電導線20が欠陥を有していない(欠陥無)と判断された場合は、超電導線20の所定の長い区間の臨界電流値が測定される(S14)。一方、超電導線20の一部に欠陥があると判断された場合は、被測定区間3内に位置する複数の短区間の臨界電流を測定する。たとえば、被測定区間3の一部である短区間1の臨界電流値を測定する(S12)。次に、被測定区間3の一部であって短区間1とは別の短区間2の臨界電流値を測定する(S13)。たとえば、短区間1の臨界電流値は正常であり、短区間2の臨界電流値に異常がある場合は、短区間2の部分だけが廃棄され、短区間1は廃棄されない。
【0071】
超電導線20の臨界電流値が測定された後、超電導線20が長手方向Xに移動される(S15)。そして、次の被測定区間3の臨界電流値が測定される。
【0072】
次に、実施の形態2に係る超電導線20の臨界電流測定装置1および臨界電流測定方法の作用効果について説明する。
【0073】
本実施の形態2の超電導線20の臨界電流測定装置1および臨界電流測定方法によると、より短い区間の超電導線20の臨界電流値を測定することができる。また、上流側7にホール素子部6を有する場合には、被測定区間3の臨界電流値を測定する前に、上流側7のホール素子部6によって予め被測定区間3が欠陥を有するかどうかを知ることができる。上流側7のホール素子部6によって、被測定区間3の一部が欠陥を有していると判断された場合は、短区間測定部18を使用して、より詳細にその短区間ごとの臨界電流値が測定される。これにより、被測定区間3内に位置する複数の短区間の内の、どの短区間が欠陥を有しており、どの短区間が欠陥を有していないのかを区別することができる。これにより、欠陥を有していて廃棄する必要がある超電導線20の量を減らすことができる。
【0074】
また従来の方法のように、超電導線20の臨界電流値を測定して超電導線20の欠陥の有無を判断する方法では、超電導線20が欠陥を有していた場合に、長区間の超電導線20の臨界電流値を測定した後に、たとえば2つの短区間の超電導線20の臨界電流値を測定する必要があった。一方、実施の形態2に係る超電導線20の臨界電流測定装置1および臨界電流測定方法によれば、予めホール素子部6によって超電導線20の欠陥の有無を判断しているために、長区間の超電導線20の測定をする必要がなく、たとえば2つの短区間の超電導線20の測定をするだけでよい。つまり、本実施の形態2の超電導線20の臨界電流測定装置1および臨界電流測定方法は、従来の装置や方法と比較して臨界電流値の測定を1回少なくすることができるため、超電導線20のトータルの臨界電流の測定時間を短縮することができる。
【0075】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、超電導線の臨界電流測定装置および臨界電流測定方法に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 超電導線の臨界電流測定装置、2 臨界電流測定部、3 被測定区間、4 電圧端子、5 電流端子、6 ホール素子部、7 上流側、8 下流側、9 送りローラ、11 受けローラ、12 液体窒素容器、13 液体窒素、14 電圧計、15 電流源、16 PC、17 計測装置部、18 短区間測定部、19 ホール素子、20 超電導線、141,142 電圧計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線の長手方向に沿って延びる被測定区間の両端に接して電圧を測定することにより前記被測定区間の臨界電流値を測定するための臨界電流測定部と、
前記被測定区間よりも前記長手方向の一方側および他方側の少なくともいずれかに配置され、かつ前記超電導線によって変化した磁場を測定するためのホール素子部とを備えた、超電導線の臨界電流測定装置。
【請求項2】
前記超電導線を前記長手方向に移動させるための移動装置をさらに備えた、請求項1に記載の超電導線の臨界電流測定装置。
【請求項3】
前記ホール素子部は、前記移動装置による前記超電導線の移動方向において前記被測定区間よりも上流側に配置された上流側ホール素子部を含む、請求項2に記載の超電導線の臨界電流測定装置。
【請求項4】
前記ホール素子部は、前記移動装置による前記超電導線の移動方向において前記被測定区間よりも下流側に配置された下流側ホール素子部を含む、請求項2または3に記載の超電導線の臨界電流測定装置。
【請求項5】
前記臨界電流測定部は、前記被測定区間内に位置する複数の短区間の各々の電圧を測定することにより臨界電流値を測定することができる複数の短区間測定部を含む、請求項1に記載の超電導線の臨界電流測定装置。
【請求項6】
前記ホール素子部は、前記一方側および前記他方側の少なくともいずれかにおいて前記超電導線の前記長手方向に並んだ複数のホール素子を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の超電導線の臨界電流測定装置。
【請求項7】
前記ホール素子部は、前記一方側および前記他方側の少なくともいずれかにおいて前記超電導線の幅方向に並んだ複数のホール素子を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の超電導線の臨界電流測定装置。
【請求項8】
超電導線の長手方向に沿って延びる被測定区間の両端に電極を当接させて前記被測定区間の電圧を測定することにより臨界電流値を測定する工程と、
前記被測定区間よりも前記長手方向の一方側および他方側の少なくともいずれかに配置されたホール素子部により前記超電導線によって変化した磁場を測定する工程とを備えた、超電導線の臨界電流測定方法。
【請求項9】
前記臨界電流値を測定する工程と前記磁場を測定する工程との間に、前記超電導線を前記長手方向に移動させる工程をさらに備えた、請求項8に記載の超電導線の臨界電流測定方法。
【請求項10】
前記ホール素子部は、前記被測定区間に対して前記超電導線の移動方向の上流側に位置する上流側ホール素子部を含み、
前記磁場を測定する工程は、前記上流側ホール素子部で前記超電導線によって変化した磁場を測定する工程を含み、
前記上流側ホール素子部で磁場を測定した後に、前記臨界電流値を測定する工程が行われる、請求項8または9に記載の超電導線の臨界電流測定方法。
【請求項11】
前記ホール素子部は、前記被測定区間に対して前記超電導線の移動方向の下流側に位置する下流側ホール素子部を含み、
前記磁場を測定する工程は、前記下流側ホール素子部で前記超電導線によって変化した磁場を測定する工程を含み、
前記下流側ホール素子部で磁場を測定する前に、前記臨界電流値を測定する工程が行われる、請求項8〜10のいずれかに記載の超電導線の臨界電流測定方法。
【請求項12】
前記臨界電流値を測定する工程は、前記超電導線の前記被測定区間内に位置する複数の短区間の各々の電圧を測定することにより前記複数の短区間の各々の臨界電流値を測定することができる工程を含む、請求項8〜11のいずれかに記載の超電導線の臨界電流測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−32936(P2013−32936A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168415(P2011−168415)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】