説明

超電導線材、それを用いる超電導多芯線およびそれらの製造方法

臨界電流密度が高く、かつ製造工程において縦割れおよび断線が発生する傾向が低い、超電導線材を提供する。このため、本発明の超電導線材は、酸化物超電導体と、この酸化物超電導体を被覆する被覆金属と、を備える酸化物超電導線材であって、この被覆金属の材料の応力−歪み特性試験における破断点歪み率が30%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材に関する。さらに詳しくは、本発明は、酸化物超電導体と被覆金属とを備える超電導線材に関する。また、本発明は、複数の上記の超電導線材と第2の被覆金属とを備える超電導多芯線に関する。
【0002】
さらに、本発明は、上記の超電導線材の製造方法に関する。また、本発明は、上記の超電導多芯線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、酸化物高温超電導線材としては、ビスマス系多芯線が開発されている。ビスマス系多芯線の製造方法としては、パウダーインチューブ法により、(BiPb)SrCaCu相(Bi−2223相)などの酸化物超電導体を長尺のテープ状線材に形成する技術が知られている。この方法では、たとえば、まず超電導相の原料粉末を金属パイプに充填する。次に、この金属パイプを伸線加工してクラッド線とする。複数のクラッド線を束ねて再度金属パイプに挿入し、伸線加工して多芯線とする。この多芯線を圧延加工して、金属シース中に多数の超電導フィラメントが含まれるテープ線材とする。
【0004】
この方法では、さらに、テープ線材に一次熱処理を施して目的の超電導相を生成させる。続いて、このテープ線材を再度圧延してから二次熱処理を施して、超電導相の結晶粒同士を接合させる。これら2回の塑性加工と熱処理は1回しか行わない場合もある。
【0005】
ここで、Bi−2223相をはじめとするビスマス系酸化物超電導体は、セラミックスであるため脆く可とう性に乏しい傾向があるので、金属シースで覆う構造とすることが一般的である。しかし、金属シースに用いる金属の種類によっては、ビスマス系酸化物超電導体の超電導性能に悪影響を及ぼすことが知られている。その観点から、上記の金属シースには、ビスマス系酸化物超電導体の超電導性能に影響がないことが知られている銀が用いられている場合が多い。
【0006】
そして、同じ断面積を有し、酸化物超電導体の臨界電流密度が等しい線材で比較した場合、酸化物超電導相の占有率が高い超電導線材ほど臨界電流値が大きくなる。そのため、臨界電流特性の観点からは、できるだけ酸化物超電導体の占有率の高い超電導線材を作製する方が好ましい。しかし、酸化物超電導体の占有率が高い超電導線材を製造する場合、強度が低く脆い部分が増加するために、加工途中で超電導線材に縦割れが発生したり、断線が発生する傾向があった。そして、超電導線材の縦割れが発生した箇所をそのまま加工し続けた場合、縦割れが発生した箇所の内部が乱れ臨界電流密度が大幅に低下する傾向がある。そのため、良好な特性を有する超電導線材の製造が困難になる問題があった。
【0007】
そこで、優れた特性を有する超電導線材の製造を可能とするために、超電導線材の製造方法について多くの技術開発がなされている。たとえば、超電導相の原料粉末を金属パイプに充填し、この金属パイプに少なくとも1回の塑性加工および熱処理を施して線材を得る工程と、前記熱処理温度よりも低い温度で、かつ大気よりも低酸素雰囲気にて前記線材を加熱する低酸素熱処理工程とを含む、超電導線材の製造方法が開示されている(特許文献1参照)。この製造方法を用いれば、従来公知の製造方法よりも、超電導線材の臨界電流を向上できる。
【0008】
しかし、この製造方法によっても、酸化物超電導体の占有率が高い超電導線材を製造する場合、強度が低く脆い部分が増加するために、加工途中で超電導線材に縦割れが発生したり、断線が発生する傾向を防ぐことは困難である。
【0009】
また、超電導相の原料粉末を金属パイプに充填する工程と、この金属パイプを伸線加工してクラッド線とする工程と、複数のクラッド線を束ねて再度金属パイプ内に多角形に配置されるように挿入し、伸線加工して多芯線とする工程と、この多芯線を圧延加工して、金属シース中に多数の超電導フィラメントが含まれるテープ線材とする、超電導多芯線の製造方法であって、多芯線を圧延加工する際、圧延方向を多角形に配置されたクラッド線の対角方向または対辺方向とする、超電導多芯線の製造方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0010】
しかし、この製造方法によっても、酸化物超電導体の占有率が高い超電導線材を製造する場合、強度が低く脆い部分が増加するために、加工途中で超電導線材に縦割れが発生したり、断線が発生する傾向を防ぐことは困難である。
【特許文献1】特開2003−203532号公報
【特許文献2】特開2003−242847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、酸化物超電導体の占有率が高い超電導線材を製造する場合、強度が低く脆い部分が増加するために、加工途中で超電導線材に縦割れが発生したり、断線が発生する問題は、未だ完全に解決されたわけではない。
【0012】
よって、本発明の課題は、酸化物超電導体の占有率が大きいため臨界電流密度が高く、かつ製造工程において縦割れおよび断線が発生する傾向が低い、超電導線材を提供することである。
【0013】
また、本発明の別の課題は、酸化物超電導体の占有率が大きいため臨界電流密度が高く、かつ製造工程において縦割れおよび断線が発生する傾向が低い、超電導多芯線を提供することである。
【0014】
さらに、本発明の他の課題は、酸化物超電導体の占有率が大きいため臨界電流密度が優れる超電導線材を、縦割れおよび断線を発生させることなく製造することのできる、超電導線材の製造方法を提供することである。
【0015】
そして、本発明のもう一つの課題は、酸化物超電導体の占有率が大きいため臨界電流密度が優れる超電導多芯線を、縦割れおよび断線を発生させることなく製造することのできる、超電導多芯線の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の課題を解決するためには、従来着目されてこなかった銀パイプなどの被覆金属の機械的特質について検討を加えればよいとの着想を得、各種の材料や構造などを有する超電導線材および超電導多芯線を試作して、酸化物超電導体の占有率が大きいため臨界電流密度が優れる超電導多線材および超電導多芯線を、縦割れおよび断線を発生させることなく製造することのできる被覆金属の材料や条件を検討した。
【0017】
その結果、本発明者は、上記の縦割れおよび断線の発生の原因は、酸化物超電導体の占有率が大きくなると、実質、超電導線材および超電導多芯線の構造材となっている被覆金属の材料の占める割合が低くなるため、構造材が加工における応力や歪みなどに耐えることができなくなる問題があるためであることを見出した。
【0018】
そして、本発明者は、被覆金属の材料の応力−歪み特性試験における破断点歪み率を特定の範囲に調整することにより、酸化物超電導体の占有率が大きいため臨界電流密度が優れる超電導多線材および超電導多芯線を、縦割れおよび断線を発生させることなく製造することができることを見出し、上記の問題を克服して、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明は、酸化物超電導体と、この酸化物超電導体を被覆する被覆金属と、を備える酸化物超電導線材であって、この被覆金属の材料の応力−歪み特性試験における破断点歪み率が30%以上である、超電導線材である。
【0020】
ここで、この破断点歪み率は30%〜58%の範囲内であることが好ましい。あるいは、この破断点歪み率は45%〜58%の範囲内であることがより好ましい。また、この酸化物超電導体の占有率は25%〜70%の範囲内であることが望ましい。そして、この被覆金属の材料の応力−歪み特性試験における最大点応力は180MPa以上であることが好ましい。
【0021】
また、この被覆金属の材料は、銀および/または銀合金を含むことが望ましい。さらに、この酸化物超電導体の材料は、ビスマス系酸化物超電導体を含むことが好ましい。特に、被覆金属の材料は、不純物濃度が10ppm〜500ppmの銀が好ましい。不純物濃度も加工割れ発生のバロメータであり、被覆金属の不純物濃度を管理することにより、加工割れの発生する頻度をさらに低減することができる。
【0022】
そして、本発明の超電導多芯線は、複数の上記の超電導線材と、この超電導線材を被覆する第2被覆金属と、を備える、超電導多芯線である。ここで、この超電導多芯線はテープ状の形状を有することが好ましい。
【0023】
また、本発明の超電導線材の製造方法は、酸化物超電導体の材料となる材料を含む原料粉末を、応力−歪み特性試験における破断点歪み率が30%〜58%の範囲内である被覆金属材料からなる金属筒に充填するステップと、この原料粉末を充填されたこの金属筒に1回以上の塑性加工および熱処理を施すステップと、を備える、超電導線材の製造方法である。超電導線材の製造において使用する被覆金属の材料は、加工割れを低減する観点から、不純物濃度が10ppm〜500ppmの銀が好ましい。
【0024】
そして、本発明の超電導多芯線の製造方法は、酸化物超電導体の材料となる材料を含む原料粉末を、応力−歪み特性試験における破断点歪み率が30%〜58%の範囲内である被覆金属材料からなる金属筒に充填するステップと、この原料粉末を充填されたこの金属筒に1回以上の塑性加工を施して線材を得るステップと、複数のこの線材を、第2被覆金属材料となる金属筒に充填するステップと、この複数のこの線材を充填されたこの金属筒に1回以上の塑性加工および熱処理を施して超電導多芯線を得るステップと、を備える、超電導多芯線の製造方法である。超電導多芯線の製造においても、被覆金属の材料は、不純物濃度が10ppm〜500ppmの銀が好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の超電導線材は、下記に示すように、酸化物超電導体の占有率が大きいため臨界電流密度が高く、かつ被覆金属の材料の応力−歪み特性試験における破断点歪み率が特定の範囲にあるため、製造工程において縦割れおよび断線が発生する傾向が低い、優れた臨界電流密度および加工性を有する超電導線材である。
【0026】
また、本発明の超電導多芯線は、酸化物超電導体の占有率が大きいため臨界電流密度が高く、かつ被覆金属の材料の応力−歪み特性試験における破断点歪み率が特定の範囲にあるため、製造工程において縦割れおよび断線が発生する傾向が低い、優れた臨界電流密度および加工性を有する、超電導多芯線である。さらに、本発明の超電導線材の製造方法は、酸化物超電導体の占有率が大きいため臨界電流密度が優れる超電導線材を、縦割れおよび断線を発生させることなく製造することのできる、超電導線材の製造方法である。
【0027】
そして、本発明の超電導多芯線の製造方法は、酸化物超電導体の占有率が大きいため臨界電流密度が優れる超電導多芯線を、縦割れおよび断線を発生させることなく製造することのできる、超電導多芯線の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の超電導線材の製造方法の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明の超電導多芯線の製造方法の一例を示すフロー図である。
【図3】本発明の実施例および比較例に用いた銀および/または銀合金パイプの応力−歪み特性試験の様子を示す写真図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、実施の形態を示して本発明をより詳細に説明する。
【0030】
<定義>
本明細書において、超電導線材とは、超電導相と、この超電導相を被覆する被覆材と、を備える線材を意味するものとする。ここで、この超電導相は、1本の超電導線材内に1本しか含まれていなくてもよいが、1本の超電導線材内に複数本含まれていてもよい。
【0031】
また、本明細書において、超電導多芯線とは、複数本の超電導相と、この超電導相を被覆する被覆材と、を備える線材を意味するものとする。ここで、この被覆材は、単層であってもよいが、複層であってもよい。
【0032】
そして、本明細書において、超電導線材とは、超電導多芯線を含む、より広い概念を意味するものとする。よって、上記の定義によれば、超電導多芯線内には複数本の超電導線材が含まれる場合があるが、この場合でも、この超電導多芯線は超電導線材であることに変わりはないものとする。
【0033】
<超電導線材および超電導多芯線の製造方法>
通常、超電導線材の製造方法は、酸化物超電導体の原料粉末の調整をするステップと、原料粉末の金属パイプへの充填をするステップと、原料粉末の充填された金属パイプの塑性加工を行うステップと、塑性加工された原料粉末の充填された金属パイプを熱処理するステップと、を備えることが好ましい。
【0034】
より詳しく説明すると、上記の超電導線材の製造方法が、超電導多芯線の製造方法である場合には、上記の塑性加工を行うステップには、クラッド線を作製するステップと、多芯線を作製するステップと、多芯線を圧延してテープ線材を作製するステップと、が含まれることが好ましい。また、上記の塑性加工を行うステップと、熱処理するステップとは、各々2回以上行われてもよい。
【0035】
上記の超電導線材の製造方法が、ビスマス系多芯線の製造方法である場合には、パウダーインチューブ法により、(BiPb)SrCaCu相(Bi−2223相)などの酸化物超電導体を長尺のテープ状線材に形成することが好ましい。
【0036】
この方法では、たとえば、まず超電導相の原料粉末を金属パイプに充填する。次に、この金属パイプを伸線加工してクラッド線とする。複数のクラッド線を束ねて再度金属パイプに挿入し、伸線加工して多芯線とする。この多芯線を圧延加工して、金属シース中に多数の超電導フィラメントが含まれるテープ線材とする。
【0037】
この方法では、さらに、テープ線材に一次熱処理を施して目的の超電導相を生成させる。続いて、このテープ線材を再度圧延してから二次熱処理を施して、超電導相の結晶粒同士を接合させる。これら2回の塑性加工と熱処理は1回しか行わない場合もある。
【0038】
図1は、本発明の超電導線材の製造方法の一例を示すフロー図である。ここで、本発明の超電導線材の製造方法においても、上記の通常の超電導線材の製造方法と同様の製造方法を用いることができるが、図1に示すように、酸化物超電導体の材料となる材料を含む原料粉末を、応力−歪み特性試験における破断点歪み率が特定の範囲内である材料を含む、被覆金属の材料となる金属筒に充填するステップ(S101)と、この原料粉末を充填されたこの金属筒に1回以上の塑性加工および熱処理を施すステップ(S103)と、を備える、超電導線材の製造方法を用いることが特に好ましい。
【0039】
図2は、本発明の超電導多芯線の製造方法の一例を示すフロー図である。また、本発明の超電導多芯線の製造方法においても、上記の通常の超電導多芯線の製造方法と同様の製造方法を用いることができるが、図2に示すように、酸化物超電導体の材料となる材料を含む原料粉末を、応力−歪み特性試験における破断点歪み率が特定の範囲内である材料を含む、被覆金属の材料となる金属筒に充填するステップ(S201)と、この原料粉末を充填されたこの金属筒に1回以上の塑性加工を施して線材を得るステップ(S203)と、複数のこの線材を、第2被覆金属の材料となる金属筒に充填するステップ(S205)と、この複数の線材を充填されたこの金属筒に1回以上の塑性加工および熱処理を施して超電導多芯線を得るステップ(S207)と、を備える、超電導多芯線の製造方法を用いることが特に好ましい。
【0040】
<原料粉末>
本発明に用いる酸化物超電導体の原料粉末としては、最終的に77K以上の臨界温度を持ち得る超電導相が得られるように配合した原料粉末が好適である。この原料粉末には、複合酸化物を所定の組成比となるように混合した粉末のみならず、その混合粉末を焼結し、これを粉砕した粉末も含まれる。
【0041】
また、本発明の酸化物超電導体の材料として、最終的にビスマス系(たとえば、Bi2223系)酸化物超電導体を含む材料を用いる場合には、出発原料粉末には、Bi、PbO、SrCO、CaCO、CuOの粉末を含む混合原料粉末を用いることが好ましい。これらの混合原料粉末を700〜800℃、10〜40時間、大気圧または減圧雰囲気下にて少なくとも1回熱処理することにより、Bi2223相よりもBi2212相が主体となった原料粉末を得ることができ、本発明の酸化物超電導体の原料粉末として好適に使用可能である。
【0042】
上記の出発原料粉末の具体的な組成比は、BiPbSrCaCuで(a+b):c:d:e=1.7〜2.8:1.7〜2.5:1.7〜2.8:3を満たすことが好ましい。これらの中でも、(Biまたは(Bi+Pb)):Sr:Ca:Cu=2:2:2:3を中心とする組成比が特に好適である。とりわけ、Biは1.8付近、Pbは0.3〜0.4、Srは2付近、Caは2.2付近、Cuは3.0付近であることが好ましい。
【0043】
本発明に用いる金属筒に充填する原料粉末は、最大粒径が2.0μm以下であり、平均粒径が1.0μm以下であることが好ましい。このよう微粉末を用いることで、高温酸化物超電導体を生成しやすくなるからである。
【0044】
<金属筒>
本発明に用いる金属筒(金属パイプ)の材料としては、Ag、Cu、Fe、Ni、Cr、Ti、Mo、W、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osからなる群より選択される1種以上の金属および/またはこれらの金属をベースとする合金を用いることが好ましい。これらの中でも、酸化物超電導体との反応性や加工性の面からは、銀および/または銀合金を用いることが特に好ましい。
【0045】
ここで、本発明の超電導線材を製造する際に用いる被覆金属の材料となる金属筒の材料としては、破断点歪みが十分に大きい材料を用いることにより、圧延加工などの加工途中で発生する縦割れや断線を抑制することができる。破断点歪みが大きいということはその材料は良く伸びることになり、伸びが大きい材料ほど変形能が高いため、縦割れや断線をしにくいと考えられるからである。
【0046】
そして、本発明に用いる金属筒の材料の応力−歪み特性試験における破断点歪み率は、30%以上であることが好ましく、特に45%以上であることがより好ましい。また、この破断点歪み率は、銀または銀合金においては、58%以下であることが好ましい。
【0047】
加工性の点では破断点歪み率は大きいほど良いが、一方で最大応力値が低くなる傾向があるため、加工性と超電導体の性能を両立させる面から、上記の範囲内にあることが好ましいからである。なお、金属筒の材料が銀および/または銀合金の場合には、下記の最大点応力が180MPaとなる際の破断点歪み率が約58%であるため、破断点歪み率58%を上限とすることが望ましい。
【0048】
また、破断点歪みだけでなく、応力−歪み特性試験における最大点応力が高い方が酸化物超電導体の緻密化および内部断面形状の均一化が進むため、より効果的である。被覆材における最大点応力(特に0.2%耐力)が高い方が被覆材を含め、その後の加工時に、より大きな力を酸化物超電導体に加えられる。加工時に酸化物超電導体に加えられる最大の力は被覆金属の材料の最大点応力で決まるからである。そして、加える力が大きければ大きいほど、この点で有利になると考えられる。
【0049】
よって、本発明に用いる金属筒の材料の応力−歪み特性試験における最大点応力は、180MPa以上であることが好ましく、最大点応力(最大応力値)が高いほど、超電導線材および超電導多芯線の加工時に酸化物超電導体に加える力を大きくすることができ、酸化物超電導体の緻密化および内部断面形状の均一化を達成できるため、上記の最大点応力は180MPa以上であることが好ましい。また、銀および/または銀合金を材料とする金属筒の最大点応力が180MPa程度であり、実際に最大点応力が180MPa以上の金属筒を使用して良好な超電導線材および超電導多芯線が得られるからである。
【0050】
そして、一般的な金属および/または合金では、破断点歪み率を大きくすると、最大点応力は小さくなる傾向にある。しかし、酸化物超電導体の緻密化、均一化のためには、最大点応力(特に0.2%耐力)を大きくした方が有利である。したがって、本発明に用いる金属筒の材料としては、硬くて伸びる材料を用いるのが好ましい。
【0051】
本発明に用いる金属筒の材料として、上記の特性を有する材料を用いることは、超電導線材および超電導多芯線中の酸化物超電導体の占有率が30%以上の場合により効果的である。
【0052】
上記の特性を有する材料は、伸びが大きく、加工時に縦割れや断線が生じにくいからである。また、超電導線材および超電導多芯線中の酸化物超電導体の占有率が小さければ、被覆金属の占める割合が増えることになり、金属筒の材料の伸びが小さくともボリュームが大きいため問題なく加工できるが、酸化物超電導体の占有率を30%以上に大きくしていくと、加工割れ問題が顕著になるため、伸びのよい金属筒の材料を用いる必要性が大きくなるからである。
【0053】
<塑性加工>
本発明の超電導線材および超電導多芯線の製造方法における、塑性加工には、種々の減面加工が含まれる。具体的には、伸線加工、圧延加工、プレス加工、スウェージなどが挙げられる。
【0054】
本発明の超電導多芯線の製造方法においては、塑性加工を一回しか行わない場合には、塑性加工の具体的内容としては、原料粉末を充填した金属筒を減面加工してクラッド線を作製すること、クラッド線を束ねて挿入した金属筒を減面加工して多芯線を製造すること、多芯線をテープ状に加工することが含まれることが好ましい。
【0055】
多芯線をテープ状に加工する理由は、最終的に形成される超電導多芯線の結晶の向きを揃えるためである。一般に、酸化物系の超電導多芯線は結晶の方向により流すことができる電流密度に大きな違いがあり、結晶方向を揃えることでより大きな電流密度を得ることができるからである。
【0056】
<熱処理>
本発明の超電導線材および超電導多芯線の製造方法における、熱処理は、代表的には一次熱処理と二次熱処理の二回以上行われることが好ましい。一次熱処理は、主としてBi2223相などの酸化物超電導体を生成させることを目的として行われる。二次熱処理は、主としてBi2223相などの酸化物超電導体の結晶粒同士を強固に結合させるために行う。
【0057】
本発明の超電導線材および超電導多芯線の製造方法における、熱処理の際の処理温度は、一次熱処理および二次熱処理ともに、815℃以上であることが好ましく、特に830℃以上であることがより好ましい。また、この処理温度は、860℃以下であることが好ましく、特に850℃以下であることがより好ましい。
【0058】
上記の温度条件の中でも、特に一次熱処理を840℃〜850℃の範囲内とし、二次熱処理を830℃〜840℃の範囲内とすることが非常に好適である。さらに、二次熱処理を上記の温度範囲内の異なる温度で多段階(特に二段階)にわたって行ってもよい。
【0059】
本発明の超電導線材および超電導多芯線の製造方法における、熱処理の際の処理温度は、一次熱処理および二次熱処理ともに、50時間以上であることが好ましい。また、この処理温度は、250時間以下であることが好ましい。上記の処理時間の中でも、特に二次熱処理の処理時間を100時間以上とすることが非常に好適である。
【0060】
本発明の超電導線材および超電導多芯線の製造方法における、熱処理の際の雰囲気は、一次熱処理および二次熱処理ともに、大気雰囲気にて行うことができる。また、大気と同成分からなる気流中で熱処理を施すことがより好ましい。その際、熱処理雰囲気における水分の含有率を低下させることが好ましい。
【0061】
<超電導線材>
本発明の超電導線材は、酸化物超電導体と、この酸化物超電導体を被覆する被覆金属と、を備える酸化物超電導線材であって、この被覆金属の材料の応力−歪み特性試験における破断点歪み率が特定の範囲内である、超電導線材である。
【0062】
ここで、上記の破断点歪み率は、30%以上であることが好ましく、特に45%以上であることがより好ましい。また、この破断点歪み率は、58%以下であることが好ましい。上記の本発明の超電導線材の製造方法の説明と同様の理由によるものである。
【0063】
また、本発明に用いる被覆金属の材料の応力−歪み特性試験における最大点応力は、180MPa以上であることが好ましい。上記の本発明の超電導線材の製造方法の説明と同様の理由によるものである。
【0064】
さらに、本発明に用いる被覆金属として、上記の特性を有する材料を用いることは、本発明の超電導線材の酸化物超電導体の占有率が30%以上の場合により効果的である。より詳細には、上記の特性を有する材料を用いることが好適な超電導線材および超電導多芯線中の酸化物超電導体の占有率は、30%以上であることが好ましい。上記の本発明の超電導線材の製造方法の説明と同様の理由によるものである。
【0065】
そして、本発明に用いる被覆金属の材料は、Ag、Cu、Fe、Ni、Cr、Ti、Mo、W、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osからなる群より選択される1種以上の金属および/またはこれらの金属をベースとする合金を用いることが好ましい。これらの中でも、酸化物超電導体との反応性や加工性の面からは、銀および/または銀合金を用いることが特に好ましい。上記の本発明の超電導線材の製造方法の説明と同様の理由によるものである。
【0066】
また、本発明に用いる酸化物超電導体の材料は、ビスマス系酸化物超電導体を含むことが好ましい。たとえば、上記の本発明の超電導線材の製造方法の説明と同様に、Bi、PbO、SrCO、CaCO、CuOの粉末を含む混合原料粉末などから得られるビスマス系酸化物超電導体を含むことが好ましい。本発明の超電導線材の製造方法などの適切な製造方法により製造されれば、最終的に77K以上の高温の臨界温度を持ち得る超電導相が得られるからである。
【0067】
<超電導多芯線>
本発明の超電導多芯線は、複数の上記の超電導線材と、この超電導線材を被覆する第2被覆金属と、を備える、超電導多芯線である。ここで、本発明の超電導多芯線は、テープ状の形状を有することが好ましい。上記の本発明の超電導多芯線の製造方法の説明と同様の理由によるものである。
【0068】
また、本発明の超電導多芯線に用いる、被覆金属および酸化物超電導体の特性は、上記の本発明の超電導線材に用いる被覆金属および酸化物超電導体と同様であることが好ましい。上記の本発明の超電導線材の説明と同様の理由によるものである。
【0069】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0070】
まず、Bi、PbO、SrCO、CaCO、CuOの各粉末を1.8:0.3:1.9:2.0:3.0の割合で混合した。次いで、混合粉末を大気中にて700℃×8時間、800℃×10時間、840℃×8時間の熱処理を順次行った。各熱処理後にはそれぞれ粉砕を行った。
【0071】
この原料粉末を外径36mm、内径33.5mm、長さ1000mm、酸素含有量50ppm、炭素含有量20ppm、銀純度4Nの銀パイプに挿入して、これを直径3.7mmまで伸線してクラッド線を作製した。このクラッド線を55本束ねて六角形となるように配置し、外径36mm、内径28mm、長さ1000mmの銀合金パイプに挿入して、これを直径1.6mmまで伸線して多芯線を得た。さらに、この多芯線を圧延(一次圧延)し、テープ状の多芯線に加工した。
【0072】
そして、得られたテープ状の多芯線に大気雰囲気にて840℃〜850℃×50時間の一次熱処理を施した。一次熱処理後のテープ状の多芯線を幅4.0mm、厚さ0.2mmになるように再圧延(二次圧延)した。次いで、再圧延後のテープ状の多芯線に大気雰囲気にて840℃〜850℃×50時間〜150時間の二次熱処理を施して、超電導多芯線を得た。続いて、得られた超電導多芯線の製造工程中に生じた伸線加工割れ発生数を目視にて確認した。伸線加工割れ発生数の結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
(実施例2〜5および比較例1〜5)
実施例2〜5および比較例1〜5においては、上記の表1に示す特性を有する被覆金属を用いて、酸化物超電導体の占有率が上記の表1に示す割合になるようにした点を除いては、実施例1と同様にして、超電導多芯線を得た。
【0075】
<銀および/または銀合金パイプの応力−歪み特性試験の方法>
上記の実施例1〜5および比較例1〜5で用いた銀および/または銀合金パイプの応力−歪み特性試験は、引張試験機を用いて、試験速度:3mm/min、掴み具間距離:110mmの条件にて行い、それぞれの銀および/または銀合金パイプについて破断点歪み率(%)と最大点応力(MPa)とを求めた。破断点歪み率(%)と最大点応力(MPa)との測定結果を表1に示す。
【0076】
なお、図3は、本発明の実施例および比較例に用いた銀および/または銀合金パイプの応力−歪み特性試験の様子を示す写真図である。
【0077】
上記の結果から分かるように、破断点歪み率が30%未満の銀および/または銀合金パイプを用いた比較例1〜5の超電導多芯線では、その製造工程において多くの伸線加工割れが発生した。一方、破断点歪み率が30%以上の銀および/または銀合金パイプを用いた実施例1〜5の超電導多芯線では、その製造工程において全く伸線加工割れが発生しなかった。
【0078】
よって、実施例1〜5の超電導多芯線は、被覆金属材料の破断点歪み率が大きいため、製造工程中における伸線加工割れが発生しにくい点において、比較例1〜5の超電導多芯線よりも優れた超電導多芯線であることがわかった。
【0079】
(実施例6〜10)
実施例1では、銀純度4N(99.99%)の銀パイプを使用した。銀純度4Nの銀パイプの不純物濃度は、100ppmに相当する。本実施例では、被覆金属の不純物濃度と加工割れとの相関を調査するために、不純物濃度が、5ppm(実施例6)、10ppm(実施例7)、50ppm(実施例8)、500ppm(実施例9)と1000ppm(実施例10)である銀パイプを使用し、他の条件は実施例1と同様にして、超電導多芯線を製造した。なお、不純物は、Al、Fe、Cu、Ni、SiとZnなどであった。
【0080】
製造工程中に発生した伸線加工割れを目視により確認すると、不純物濃度が、5ppm(実施例6)と1000ppm(実施例10)であるときに、加工割れが発生した。これらの結果と、銀パイプの不純物濃度が100ppmであった実施例1の結果とを併せて考慮すると、不純物濃度も加工割れ発生のパロメータであり、不純物濃度を管理することにより、加工割れ発生の頻度を低減できること、また、被覆金属は不純物濃度が10ppm〜500ppmである銀が好ましいことがわかった。
【0081】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導体と、前記酸化物超電導体を被覆する被覆金属と、を備える酸化物超電導線材であって、前記被覆金属の材料の応力−歪み特性試験における破断点歪み率が30%以上である、超電導線材。
【請求項2】
前記破断点歪み率が30%〜58%の範囲内である、請求の範囲第1項に記載の超電導線材。
【請求項3】
前記破断点歪み率が45%〜58%の範囲内である、請求の範囲第1項に記載の超電導線材。
【請求項4】
前記酸化物超電導体の占有率が25%〜70%の範囲内である、請求の範囲第1項に記載の超電導線材。
【請求項5】
前記被覆金属の材料の応力−歪み特性試験における最大点応力が180MPa以上である、請求の範囲第1項に記載の超電導線材。
【請求項6】
前記被覆金属の材料は、銀および/または銀合金を含む、請求の範囲第1項に記載の超電導線材。
【請求項7】
前記酸化物超電導体の材料は、ビスマス系酸化物超電導体を含む、請求の範囲第1項に記載の超電導線材。
【請求項8】
前記被覆金属の材料は、不純物濃度が10ppm〜500ppmの銀である、請求の範囲第1項に記載の超電導線材。
【請求項9】
請求の範囲第1項に記載の複数の超電導線材と、該超電導線材を被覆する第2被覆金属と、を備える、超電導多芯線。
【請求項10】
テープ状の形状を有する、請求の範囲第9項に記載の超電導多芯線。
【請求項11】
酸化物超電導体の材料となる材料を含む原料粉末を、応力−歪み特性試験における破断点歪み率が30%〜58%の範囲内である被覆金属材料からなる金属筒に充填するステップ(S101)と、
前記原料粉末を充填された前記金属筒に1回以上の塑性加工および熱処理を施すステップ(S103)と、
を備える、超電導線材の製造方法。
【請求項12】
前記被覆金属の材料は、不純物濃度が10ppm〜500ppmの銀である、請求の範囲第11項に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項13】
酸化物超電導体の材料となる材料を含む原料粉末を、応力−歪み特性試験における破断点歪み率が30%〜58%の範囲内である被覆金属材料からなる金属筒に充填するステップ(S201)と、
前記原料粉末を充填された前記金属筒に1回以上の塑性加工を施して線材を得るステップ(S203)と、
複数の前記線材を、第2被覆金属材料となる金属筒に充填するステップ(S205)と、
前記複数の前記線材を充填された前記金属筒に1回以上の塑性加工および熱処理を施して超電導多芯線を得るステップ(S207)と、
を備える、超電導多芯線の製造方法。
【請求項14】
前記被覆金属の材料は、不純物濃度が10ppm〜500ppmの銀である、請求の範囲第13項に記載の超電導多芯線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/050674
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515568(P2005−515568)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015905
【国際出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】