説明

超電導線材および超電導線材の製造方法

【課題】交流損失の増大を抑制し、かつ臨界電流密度の低下を抑制する超電導線材および超電導線材の製造方法を提供する。
【解決手段】超電導線材10は、超電導体11と、第1のパイプ12と、バリア部13とを備えている。超電導体11は、Bi2223相を主相とし、残部が不可避的不純物である。第1のパイプ12は、超電導体を被覆する。バリア部13は、第1のパイプ12を被覆し、かつBi2223相を主相とし、残部が不可避的不純物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導線材および超電導線材の製造方法に関し、より特定的にはBi2223超電導線材およびBi2223超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビスマス(Bi)系の酸化物は110Kの高い臨界温度で超電導特性を示すことが報告され、この超電導体を利用して超電導技術の実用化が促進されている。Bi系の超電導体は、比較的安価で入手できる液体窒素中で超電導特性を示すため、実用化が期待されている。
【0003】
Bi系の超電導体に、たとえば電力供給用の交流電流を流すためには、Bi系の超電導体を銀(Ag)シースで被覆し、その銀シースを絶縁体で被覆し、その絶縁体をさらに金属で被覆するようなBi系の超電導線材が用いられている。
【0004】
このようなBi系の超電導線材は、たとえば特許第3783538号(特許文献1)に開示されている。この特許文献1には、以下の方法によりBi系の超電導線材が製造されることが開示されている。具体的には、まず、酸化物超電導フィラメントの原料となる粉末を成形してロッドを形成する。ロッドを銀からなる内部銀シースに挿入して銀被覆ロッドを得る。セラミックスとバインダを混合したものを銀シース上に塗布してセラミックス被覆層を形成することにより、セラミックス/銀被覆ロッドとする。複数のセラミックス/銀被覆ロッドを束ねて外部銀シースに挿入することにより多芯ビレットを形成する。その後、多芯ビレットを塑性加工で線引きして多芯丸線とする。多芯丸線に熱処理を行なうと、酸化物超電導線材を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3783538号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の超電導線材では、絶縁体としてセラミックスを用いている。この絶縁体の加工性が悪いことを本発明者は見い出した。
【0007】
塑性加工などをすると、絶縁体が破れる場合がある。絶縁体が破れた部分では抵抗が低下するので、超電導線材の交流損失が大きくなるという問題がある。
【0008】
また、セラミックスは絶縁体であるので、超電導線材の端末から超電導フィラメントに電流が流れ込むためには、外周銀シースと内部銀シースとを部分的につなげるために、セラミック被覆層に破れがあることが必要である。この場合、フィラメント間の抵抗を上げることができないので、超電導線材の交流損失が大きくなるという問題がある。
【0009】
また、塑性加工などをすると、絶縁体の加工性が悪いことに起因して、シースが破れる場合がある。シースが破れた部分を有する状態で、熱処理をすると、超電導体と絶縁体とが反応して、超電導体の臨界電流密度Jcが低下するという問題が生じる。
【0010】
したがって、本発明の目的は、交流損失の増大を抑制し、かつ臨界電流密度の低下を抑制する超電導線材および超電導線材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の超電導線材は、超電導体と、第1のパイプと、バリア部とを備えている。超電導体は、Bi2223相を主相とし、残部が不可避的不純物である。第1のパイプは、超電導体を被覆する。バリア部は、第1のパイプ部を被覆し、かつBi2223相を主相とし、残部が不可避的不純物である。
【0012】
本発明の超電導線材によれば、バリア部に、超電導体と同じ材料であるBi2223相を用いている。Bi2223相は、BiとO(酸素)とが互いに隣接したBiO−BiO二重層で劈開する性質を有している。このため、Bi2223相は、加工性が良いという特性を有している。その結果、バリア部が破れることを抑制することができる。したがって、バリア部は高抵抗を維持することができるので、交流損失の増大を抑制することができる。
【0013】
さらに、バリア部のBi2223相は絶縁体でなく、高抵抗体である。このため、バリア部の破れを形成しなくても、超電導線材の端末から超電導体に電流を流し込むことができる。したがって、バリア部の破れによる交流損失の増大を抑制することができる。
【0014】
また、仮に超電導体間に位置する第1のパイプが破れてバリア部がフィラメントと接触した場合であっても、バリア部と超電導体とは構成元素が同じである。したがって、仮にバリア部と超電導体とが接触しても、不純物が形成されないので、超電導体の臨界電流密度Jcが低下することを抑制することができる。
【0015】
以上より、本発明の超電導線材は、交流損失の増大を抑制し、かつ臨界電流密度Jcの低下を抑制することができる。
【0016】
本発明の超電導線材の製造方法は、以下の工程を備えている。第1のパイプに、熱処理によりBi2223相を主相とする超電導体となる原料粉末を充填する。原料粉末を充填した第1のパイプに、Bi223相を主相とし、残部が不可避的不純物であるバリア部を形成することにより、単芯線を得る。単芯線を第2のパイプ内に配置する。原料粉末を超電導体にするための熱処理をする。
【0017】
本発明の超電導線材の製造方法によれば、第1のパイプの外周面と第2のパイプの内周面との間に、Bi2223相を主相とし、残部が不可避的不純物である粉末を充填している。Bi2223相は、BiとO(酸素)とが互いに隣接したBiO−BiO二重層で劈開する性質を有している。このため、Bi2223相は、加工性が良いという特性を有している。その結果、塑性加工の際に、バリア部が破れることを抑制することができる。したがって、高抵抗を維持したバリア部を形成することができるので、製造する超電導線材の交流損失の増大を抑制することができる。
【0018】
また、Bi2212相を主相とする超電導体にするための熱処理の際に、原料粉末はBi2223相へ相変態する一方、バリア部となる粉末はすでに反応が終了しているので、結晶同士が接合されない。このため、バリア部は実質的に高抵抗体として機能するので、交流損失の増大を抑制することができる。
【0019】
また、仮に、塑性加工の際に第1のパイプが破れて、バリア部と、原料粉末または超電導体とが接触した場合、バリア部はBi2223相への反応が終了しているため、原料粉末または超電導体の内部まで反応が進行することを抑制できる。このため、超電導体間は高抵抗となるので、交流損失の増大を抑制することができる。
【0020】
さらに、絶縁体でなく、高抵抗体であるBi2223相を用いてバリア部を形成している。このため、バリア部の破れを形成しなくても、超電導線材の端末から超電導体に電流を流し込むことができる。したがって、バリア部の破れによる交流損失の増大を抑制することができる。
【0021】
また、仮に塑性加工の際に超電導体間に位置する第1のパイプが破れてバリア部がフィラメントと接触した場合であっても、バリア部と超電導体とは構成元素が同じである。したがって、バリア部と超電導体とが接触しても、不純物が形成されないので、超電導体の臨界電流密度Jcが低下することを抑制することができる。
【0022】
以上より、本発明の超電導線材の製造方法によれば、交流損失の増大を抑制し、かつ臨界電流密度Jcの低下を抑制する超電導線材を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の超電導線材および超電導線材の製造方法によれば、交流損失の増大を抑制し、かつ臨界電流密度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態における超電導線材を概略的に示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態における超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】比較例の超電導線材を説明するための模式図である。
【図4】本発明の実施の形態における超電導線材の効果を説明するための模式図であり、図1における線分IV−IVに沿った断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0026】
図1を参照して、本発明の実施の形態における超電導線材10を説明する。図1に示すように、実施の形態における超電導線材10は、長手方向に延びる複数本の超電導体(フィラメント)11と、第1のパイプ(シース部)12と、バリア部13と、第2のパイプ14とを備えている。第1のパイプ12は、複数本の超電導体11と接触して、複数本の超電導体11の外表面を被覆している。バリア部13は、第1のパイプ12と接触して、第1のパイプ12の外表面を被覆している。第2のパイプ14は、バリア部13に接触して、バリア部13を被覆している。
【0027】
なお、上記「外表面」とは、超電導線材10の延びる方向におけるそれぞれの表面を意味する。
【0028】
超電導線材10は、テープ状に延びる線材である。超電導体11、第1のパイプ12、バリア部13および第2のパイプ14は所定の方向に延びるように偏平形状に形成されている。
【0029】
複数本の超電導体11の各々の材質は、(ビスマスと鉛(Pb)):ストロンチウム(Sr):カルシウム(Ca):銅(Cu)の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表されるBi2223相を主相とし、残部が不可避的不純物である。なお、上記「主相」とは、超電導体11においてBi2223相が60%以上含まれていることを意味する。
【0030】
第1および第2のパイプ12、14の材質は、たとえば銀や銀合金などの金属よりなっていることが好ましい。
【0031】
バリア部13は、Bi2223相を主相とし、残部が不可避的不純物である。なお、上記「主相」とは、バリア部13においてBi2223相が90%以上含まれていることを意味する。つまり、バリア部13は、超電導体11と同様の材質よりなる。ただし、バリア部13内は各結晶のつながりが悪い。つまり、バリア部13内は結晶同士の電気的な接触が小さい。このため、バリア部13は、超電導体11の運転温度において実質的に高抵抗体となる。つまり、超電導体11は長手方向に臨界電流以下ではゼロ抵抗で電流が流れるが、バリア部13は抵抗が発生する。たとえば、バリア部13は、第1のパイプ12の比抵抗の10倍以上、好ましくは100倍以上の比抵抗を有している。
【0032】
続いて、図1および図2を参照して、本実施の形態における超電導線材10の製造方法について説明する。
【0033】
まず、図2を参照して、熱処理によりBi2223相を主相とする超電導体となる原料粉末を準備する(ステップS1)。ステップS1では、Bi2212相((BiPb)2Sr2Ca1Cu2ZまたはBi2Sr2Ca1Cu2Z)を主相とし、残部がBi2223相((BiPb)2Sr2Ca2Cu3Z相)と、Ca原子、Cu原子などを含む非超電導相とである原料粉末を準備する。非超電導相としては、たとえば(CaSr)2PbO4、(CaSr)14Cu24x等の化合物を含む混相を用いることができる。
【0034】
次に、第1のパイプ12に、準備した原料粉末を充填する(ステップS2)。第1のパイプ12は特に限定されないが、加工性が良いこと、超電導体11との反応性が低いこと、およびクエンチ現象による発熱を速やかに取り去ることができる観点から、第1のパイプ12は熱伝導率の高い銀や銀合金を用いることが好ましく、銀を用いることがより好ましい。
【0035】
また、このステップS2では、たとえば充填密度を1.0g/cm3以上2.0g/cm3以下として、第1のパイプ12に原料粉末を充填する。
【0036】
次に、原料粉末を充填した第1のパイプ12を塑性加工する(ステップS3)。これにより、原料粉末と、この原料粉末を被覆した第1のパイプ12とを備えた長尺の単芯セグメントが得られる。
【0037】
次に、Bi2223相を主相とし、残部が不可避的不純物である粉末を準備する(ステップS4)。この粉末は、バリア部13となる。
【0038】
具体的には、上述したステップS1で準備する原料粉末と同様の粉末を準備する。この粉末を、たとえば大気圧で、800℃以上900℃以下の温度で熱処理する。これにより、Bi2212相が結晶成長し、Bi2223相に相変態させることができる。その結果、Bi2223相を主相とし、残部が不可避的不純物である粉末を準備することができる。なお、熱処理によって粉末のBi2212相がBi2223相に変わりきらないため、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の元素比がほぼ2:2:1:2よりなるBi2212相を含む場合もある。
【0039】
なお、Bi2212相から相変態させて得られたBi2223相を主相とする粉末を、さらに微粉化してもよい。
【0040】
次に、原料粉末を充填した第1のパイプ12に、Bi223相を主相とし、残部が不可避的不純物であるバリア部を形成することにより、単芯線(バリア部13を形成した単芯セグメント)を得る(ステップS5)。このステップS5では、たとえば、ステップS3で得られた単芯セグメントに、ステップS4で準備した粉末を、押出し、または、ディップコートなどの方法により、バリア部13を形成できる。なお、バリア部13を形成するために、結合剤等の添加剤を用いてもよい。
【0041】
次に、単芯線(単芯セグメント)を複数本束ねて、第2のパイプ14内に充填して、多芯ビレットを形成する(ステップS6)。
【0042】
ステップS5またはS6では、バリア部13を形成するための添加剤を熱分解処理により、除去する。
【0043】
次に、多芯ビレットを塑性加工して、線材化(テープ線、または丸線)にし、テープ線にする前にツイスト加工する(ステップS7)。
【0044】
次に、線材に熱処理を加えて、原料粉末からBi2223相にする(ステップS8)。このステップS8では、原料粉末の全てをBi2223相にせずに、Bi2212層と非超電導相とが残った状態で留めておく。
【0045】
次に、線材に圧縮加工を加えて、超電導体の密度を高める(ステップS9)。
次に、熱処理をして、ステップS8で残ったBi2212層をBi2223相にし、原料粉末内のBi2223結晶を接合する(ステップS10)。これにより、原料粉末を超電導体11にすることができる。
【0046】
ステップS8およびS10では、バリア部13を構成する粉末は既に反応が終了しているので、部分溶融が起こりにくい。このため、バリア部13内では、超電導結晶ではあるが、各結晶のつながりが非常に悪い。つまり、ステップS8およびS10でバリア部13は反応せず、粒同士が繋がらないので、バリア部13は高抵抗となる。熱処理(ステップS8およびS10)後のバリア部13の比抵抗は、液体窒素中で、銀の約10倍以上であるという知見を本発明者は得ている。
【0047】
なお、熱処理をするステップS10後に、さらに塑性加工および熱処理(2次熱処理)を施してもよい。
【0048】
以上の工程(S1〜S10)を実施することにより、図1に示す超電導線材10を製造することができる。
【0049】
続いて、図3および図4を参照して、本実施の形態における超電導線材10およびその製造方法の効果について説明する。
【0050】
まず、図3を参照して、比較例の超電導線材100およびその製造方法を説明する。図3に示す比較例の超電導線材100およびその製造方法は、バリア部113が上記特許文献1に開示のセラミックスである点において、本実施の形態と異なる。
【0051】
比較例の超電導線材100では、超電導体11の周囲に配置されたバリア部113の加工性が悪い。このため、その後の塑性加工(ステップS7)、圧縮加工(ステップS9)などを実施すると、図3に示すように、バリア部113が破れてしまう部分113aが生じる。この部分113aでは、抵抗が低下するので、超電導線材100の交流損失が大きくなってしまう。
【0052】
また、バリア部113の厚みの大きい部分では、超電導体11を被覆している第1のパイプ12が圧縮される。このため、その後の塑性加工(ステップS7)、圧縮加工(ステップS9)などを実施すると、図3に示すように、第1のパイプ12が破れる部分12aが生じる。第1のパイプ12が破れた状態で、熱処理(ステップS8、S10)を実施すると、超電導体11(または原料粉末)とバリア部113とが接触し、超電導体11を構成するBi2223相の純度が低下する。このため、超電導体11の臨界電流密度Jcが低下するという問題が生じる。
【0053】
一方、本実施の形態では、バリア部13にBi2223相を用いている。Bi2223は、BiとO(酸素)とが互いに隣接したBiO−BiO二重層で劈開する性質を有している。このため、Bi2223相は、加工性が良いという特性を有している。これにより、バリア部13が破れることを抑制して、薄く加工することができる。このため、隣り合う超電導体11の間に高抵抗を維持したバリア部13を形成することができる。この場合、交流磁場に曝されたときに電磁誘導によって超電導体11間に流れる結合電流を速やかに減衰させることができる。したがって、超電導線材10の交流損失の増大を抑制することができる。
【0054】
また、Bi2212相を主相とする超電導体にするための熱処理(ステップS8)の際に、超電導体11の原料粉末はBi2223相へ相変態する一方、バリア部13となる粉末はすでに反応が終了しているので、結晶同士が接合されない。このため、バリア部13は実質的に高抵抗体として機能するので、交流損失の増大を抑制することができる。
【0055】
さらに、絶縁体でなく、高抵抗体であるBi2223相を用いてバリア部13を形成している。このため、バリア部13の破れを形成しなくても、超電導線材10の端末から超電導体11に電流を流し込むことができる。したがって、バリア部13の破れによる交流損失の増大を抑制することができる。
【0056】
また、Bi2223相を含む粉末を充填した(ステップS6)後に、塑性加工(ステップS7)、圧縮加工(ステップS9)などを実施すると、第1のパイプ12が破れることを抑制できる。このため、超電導体11の臨界電流密度Jcが低下することを抑制できる。
【0057】
また、仮に超電導体間に位置する第1のパイプ12が破れてバリア部13がフィラメントと接触した場合であっても、バリア部13と超電導体11とは構成元素が同じである。したがって、仮にバリア部13と超電導体11とが接触しても、不純物が形成されないので、超電導体の臨界電流密度Jcが低下することを抑制することができる。
【0058】
以上より、本実施の形態の超電導線材10の製造方法によれば、交流損失の増大を抑制し、かつ臨界電流密度Jcの低下を抑制する超電導線材を製造することができる。
【実施例】
【0059】
本実施例では、Bi2223相を主相とするバリア部を形成することによる効果について調べた。
【0060】
(本発明例1)
本発明例1では、基本的には上述した実施の形態における超電導線材の製造方法に従った。具体的には、まず、Bi−2212、Ca2PbO4、Ca2CuO3、(Ca,Sr)14Cu2441からなる原料粉末を準備した(ステップS1)。
【0061】
次に、原料粉末を第1のパイプ12に充填した(ステップS2)。第1のパイプ12は、銀を用いた。また、第1のパイプは、36mmφの外径と、32mmφの内径とを有していた。
【0062】
次に、原料粉末を充填した第1のパイプを、外径が4mmφとなるように、伸線加工した(ステップS3)。この伸線加工された第1のパイプを切断して、37本の単芯線を準備した。
【0063】
次に、バリア部13となるべきBi2223相を含む粉末を準備した(ステップS4)。このステップS4では、ステップS1の原料粉末と同様の粉末を準備し、840℃、50時間、酸素濃度8%の条件で熱処理を行ない、粉砕混合した後に、同じ条件で2回目の熱処理を行なった。これにより、Bi2223相を主相とし、残部が不可避的不純物である粉末を準備した。
【0064】
次に、第1のパイプ12にステップS4で準備した粉末を押出法により、形成した(ステップS5)。これにより、バリア部13を形成した。
【0065】
次に、バリア部13を形成した37本の第1のパイプ12を、第2のパイプ14に充填した(ステップS6)。第2のパイプ14は銀を用いた。また、第2のパイプ14は、36mmφの外径と、30mmφの内径とを有していた。
【0066】
次に、ステップS5の第2のパイプを外径が1.0mmで、かつツイストピッチが7mmになるように伸線加工し、厚さが0.22mmで、ツイストピッチが10mmになるように圧延(ステップS7)をした。
【0067】
次に、熱処理をした(ステップS8)。熱処理の条件は、窒素−8%酸素混合気流中において835℃、20時間であった。
【0068】
次に、圧縮加工をした(ステップS9)。圧縮加工の条件は、圧下率6%であった。
次に、熱処理をした(ステップS10)。熱処理の条件は、全圧30MPa、酸素分圧8kPaの高温高圧雰囲気中で835℃、50時間であった。これにより、本発明例1の超電導線材10を製造した。
【0069】
(比較例1)
比較例1の超電導線材の製造方法は、基本的には本発明例1と同様であったが、バリア部13を形成しなかった点において異なっていた。つまり、バリア部となるべきBi2223相を含む粉末を準備するステップS4およびバリア部を形成するステップS5を実施せず、第2のパイプ14にステップS3の37本の第1のパイプ12のみを充填した。
【0070】
(比較例2)
比較例2の超電導線材の製造方法は、基本的には本発明例1と同様であったが、SrCO3よりなるバリア部を形成した点において異なっていた。つまり、バリア部となるべきBi2223相を含む粉末を準備するステップS4の代わりにSrCO3よりなる粉末を準備し、バリア部を形成するステップS5では、SrCO3よりなるバリア部を形成した。
【0071】
(測定方法)
本発明例1、比較例1および比較例2の超電導線材について、超電導体の接触数と、交流損失と、臨界電流密度Jcとを測定した。これらの結果を下記の表1に示す。
【0072】
超電導体の接触数は、それぞれの超電導線材の長手方向に直交する10箇所の断面において、第1のパイプが破れることによる、バリア部がない場合には隣り合う超電導体同士が接触する数、バリア部がある場合には超電導体とバリア部とが接触する数を測定し、1断面当たりの平均の数を求めた。
【0073】
交流損失は、それぞれの超電導線材に磁場振幅0.2Tで、周波数50Hz、テープ面に垂直な交流外部磁界を印加して、磁化法で測定した。交流損失は、次に示す臨界電流Icで規格化した。
【0074】
臨界電流Icは、それぞれの超電導線材から長さ10cmの試料を切出し、直流4端子法によって液体窒素温度(約77K)における外部磁場0T下で測定した。臨界電流密度Jcは、測定した臨界電流Icを37本の超電導体の合計断面積で割って求めた。
【0075】
【表1】

【0076】
(測定結果)
表1に示すように、バリア部にBi2223相を用いた本発明例1は、8mW/A・mの低い交流損失であった。このことから、バリア部の加工性が良好であったことがわかった。
【0077】
また、バリア部にBi2223相を用いた本発明例1は、410A/mm2の臨界電流密度を維持できた。第1のパイプが破れて超電導体11とバリア部13とが接触していたものの、バリア部13を設けなかった比較例1とほぼ同様の高い臨界電流密度Jcを維持できた。このことから、バリア部13を超電導体11と同じBi2223相を用いたことにより、バリア部13と超電導体11(原料粉末)との反応を抑制できたため、臨界電流密度Jcの低下を抑制でできることがわかった。
【0078】
一方、バリア部を形成しなかった比較例1の超電導線材では、臨界電流密度Jcは高かったものの、交流損失が非常に高かった。
【0079】
また、バリア部としてSrCO3を用いた比較例2の超電導線材では、交流損失が比較例1よりも低かったものの、本発明例1よりも高かった。このことから、バリア部を形成することで、交流損失の増大を多少抑制できるものの、バリア部に加工性の悪い材質を用いると、交流損失の増大を十分に抑制できないことがわかった。
【0080】
また、バリア部としてSrCO3を用いた比較例2の超電導線材では、本発明例1よりも臨界電流密度Jcが非常に低かった。このことから、第1のパイプが破れた部分では、超電導体とバリア部とが反応して、超電導体のBi2223相の純度が低下したことがわかった。
【0081】
以上より、本実施例によれば、Bi2223相を主相とするバリア部を形成することにより、交流損失の増大を抑制し、かつ臨界電流密度Jcの低下を抑制する超電導線材を実現することができることが確認できた。
【0082】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0083】
10 超電導線材、11 超電導体、12 第1のパイプ、12a,17 部分、13 バリア部、14 第2のパイプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi2223相を主相とし、残部が不可避的不純物である超電導体と、
前記超電導体を被覆する第1のパイプと、
前記第1のパイプを被覆し、かつBi2223相を主相とし、残部が不可避的不純物であるバリア部とを備えた、超電導線材。
【請求項2】
第1のパイプに、熱処理によりBi2223相を主相とする超電導体となる原料粉末を充填する工程と、
前記原料粉末を充填した前記第1のパイプに、Bi223相を主相とし、残部が不可避的不純物であるバリア部を形成することにより、単芯線を得る工程と、
前記単芯線を第2のパイプ内に配置する工程と、
前記原料粉末を超電導体にするための熱処理をする工程とを備えた、超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−251006(P2010−251006A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97000(P2009−97000)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】