説明

超電導膜の臨界電流密度測定方法及び装置

【課題】臨界電流密度Jと膜厚d の積J×d が大きい長尺超電導厚膜テープ線材や大面積超電導膜の微小領域における臨界電流密度をJを非破壊に測定すること。
【解決手段】高透磁率極細線コア1を内装した励磁コイル2と検出コイル5の軸が共通なるように並べるとともに前記両コイル間に超電導膜3を挟み、励磁コイル2に交流電流を流すことにより発生する局所的な集中磁界を超電導膜3に印加して、励磁電流を徐々に増加させ、超電導膜3の超電導遮蔽電流密度が臨界電流に到達したときに超電導膜3を貫通する交流磁界を、検出コイル5により電圧信号として計測し、検出コイル5に電圧が発生し始めるときの励磁コイル2の電流値から臨界電流密度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大面積超電導膜や長尺超電導テープ線材等の超電導膜における局所的な臨界電流密度を非破壊的に測定する測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有限なエネルギー資源を有効に利用するために、省エネ性、環境性といった観点で対処することが重要になっている。例えば、世界の電力利用において配電線における抵抗によるジュール発熱は、箇々の電力会社では無視できる損失であっても、世界全体で見れば膨大な電力が日々、失われていることになる。超電導現象の最大の魅力は、ほぼ無損失で大電流を送電できる点にあり、電力・産業機器等の高エネルギー効率化、低損失化、コンパクト化等を実現する上で極めて重要である。
【0003】
近年、研究開発段階であるが、PLD法(パルス・レーザー蒸着法)やTFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩塗布熱分解法)等の成膜法により、高い臨界電流密度J(=1×1010〜3×1010A/m)を有する希土類系高温超電導大面積膜や数百メートル級の長尺テープ線材が製作されるようになった。
【0004】
希土類高温超電導薄膜導体は、液化窒素温度の−196℃で実用化し得る超電導特性を示す材料であり、高温超電導送電ケーブルや超電導限流器、超電導マグネット、超電導軸受け、超電導電動機など、電力・産業機器への応用が期待されている。
【0005】
これらの電力・産業機器へ超電導体を応用する際の性能を決める重要な超電導特性として、高温超電導膜の臨界電流密度Jがある。臨界電流密度Jは、超電導体に無損失に直流通電できる電流密度の最大値であり、超電導体の輸送電流の上限値を決定する上で重要である。
【0006】
下記非特許文献1〜3及び下記特許文献1〜2には、超電導テープ線材や大面積薄膜の超電導膜において、製造工程におけるプロセス測定法として使える臨界電流密度Jの非破壊かつ非接触な測定方法及び測定装置が提案されている。
【0007】
また、下記非特許文献1には、非破壊に超電導膜の臨界電流密度Jを測定する方法の1つとして、第3高調波誘導電圧測定法が提案されている。この方法は、超電導膜上に配置した小コイルに交流電流を流して交流磁界を印加し、交流電流を徐々に増加させて、超電導膜の超電導遮蔽電流密度が臨界電流密度Jに達して非線形な電圧応答を生じた時に励磁コイル両端に発生する第3高調波電圧を検出し、第3高調波電圧が発生し始める時の励磁コイル電流の値(閾値)Ithが、臨界電流密度Jと膜厚dの積、並びに、超電導膜表面に印加される磁界の強度2Hの両者に比例することから、膜厚dと磁界解析による表面磁界強度2Hとが既知であれば臨界電流密度Jを求めることができる。
【0008】
また、下記非特許文献2及び下記特許文献1には、同様に非破壊で臨界電流密度Jを測定する方法として、励磁コイルに対向して検出コイルを軸が共通になるように並べ、その間に超電導膜を配置して挟み込み、励磁コイルから交流磁界を印加し、この交流磁界が超電導遮蔽電流の完全磁気シールドを破り超電導膜を貫通するときの検出コイルによる磁界を検出し、このときの励磁コイル電流の値(閾値)Ithより、第3高調波電圧誘導法におけるJの決定法と同様に膜厚dと磁界解析による表面磁界強度2Hを用いて臨界電流密度Jを求めることができる。
【0009】
また、下記特許文献2には、膜の上下に1対の励磁コイルと検出コイルとを配置し、検出コイルに誘導される起電力を自動キャンセルするための打ち消しコイルを用いた改良型プローブにより、測定感度を飛躍的に高める方法も提案されている。
【非特許文献1】J.H.Claassen, M.E.Reeves and R.J.Soulen,Jr.,“A contactless method for measurement of the critical current density and critical temperature of superconducting films”,Rev.Sci.Instrum. 62, 996 (1991)
【非特許文献2】H.Hochmuth and M.Lorenz,“Inductive determination of the critical current density of superconducting thin films without lateral structuring”,Physica C 220,209 (1994)
【非特許文献3】H.Yamasaki,Y.Mawatari,Y.Nakagawa,“Nondestructive determination of current−voltage charactoeristics of superconducting films by inductive critical current density measurements as a function of frequency“,Applied Physics Letters 82, 3275 (2003)
【非特許文献4】C.P.Bean,“Magnetization of hard superconductors”,PhysicalReview Letters 8, 250 (1962)
【特許文献1】特開平4−115155号公報
【特許文献2】特開平7−198770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記非特許文献1に示すように、従来の第3高調波誘導電圧測定法では、J×dが大きな超電導膜では超電導磁気遮蔽が強くなるため、超電導遮蔽電流の限界に達するためにはより強い磁界の印加が必要となり、これを満足しようとすると、空心励磁コイルにより大きなコイル電流を通電する必要があり、ジュール発熱が起こり、試料の温度上昇が無視できなくなるという問題がある。ここで、空芯コイルを用いる理由は、高透磁率コアを使用するとコア材の磁化ヒステリシス特性による波形歪みにより高調波電圧が発生し、超電導膜からの非線形応答による第3高調波電圧測定が困難になるためである。
【0011】
また、上記非特許文献2及び特許文献1〜2に示すように、励磁コイルと検出コイルにより超電導膜を挟んで超電導磁気遮蔽の崩れるときの励磁コイルの電流値(閾値)から臨界電流密度Jを求める相互誘導測定手法においても、空心励磁コイルのジュール発熱により試料が温度上昇する問題がある。
【0012】
本発明の目的は、上記の問題点に鑑み、臨界電流密度Jと膜厚d の積J×dが大きい長尺超電導テープ線材や大面積超電導膜における微小領域の臨界電流密度Jを小さいコイル負荷電流で非破壊的に測定することを可能にした超電導膜の臨界電流密度の測定方法及び測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明では、上述の課題を解決するために以下の手段を用いた。
第1の手段は、高透磁率極細線コアを内装した励磁コイルと検出コイルの軸が共通なるように並べるとともに前記両コイル間に超電導膜を挟み、上記励磁コイルに交流電流を流すことにより発生する局所的な集中磁界を上記超電導膜に印加して、励磁電流を徐々に増加させ、上記超電導膜の超電導遮蔽電流密度が臨界電流に到達したときに上記超電導膜を貫通する交流磁界を、上記検出コイルにより電圧信号として計測し、上記検出コイルに電圧が発生し始めるときの上記励磁コイルの電流値から臨界電流密度を測定することを特徴とする超電導膜の臨界電流密度測定方法である。
第2の手段は、第1の手段において、上記超電導膜が、長尺の超電導テープ線材であって、該超電導テープ線材に対して上記両コイルを面内走査、又は上記両コイルに対して上記超電導テープ線材を移動させることによって、微小領域の臨界電流密度を測定することを特徴とする超電導膜の臨界電流密度測定方法である。
第3の手段は、高透磁率極細線コアを内装した励磁コイルと、該励磁コイルと軸が共通になるように並べられた検出コイルと、上記励磁コイルと上記検出コイルとの間に配置された超電導膜とからなり、上記励磁コイルに交流電流を流すことにより発生する局所的な集中磁界を上記超電導膜に印加して、励磁電流を徐々に増加させ、上記超電導膜の超電導遮蔽電流密度が臨界電流に到達したときに上記超電導膜を貫通する交流磁界を、上記検出コイルにより電圧信号として計測し、上記検出コイルに電圧が発生し始めるときの上記励磁コイルの電流値から臨界電流密度を測定することを特徴とする超電導膜の臨界電流密度測定装置である。
第4の手段は、第3の手段において、上記超電導膜が、長尺の超電導テープ線材であって、該超電導テープ線材に対して上記両コイルを面内走査、又は上記両コイルに対して上記超電導テープ線材を移動させることによって、微小領域の臨界電流密度を測定することを特徴とする超電導膜の臨界電流密度測定装置である。
【発明の効果】
【0014】
本願発明によれば、高透磁率極細線コアを内装した励磁コイルを使用した相互誘導による臨界電流密度の測定方法又は測定装置において、臨界電流密度Jと膜厚dの積J×dの大きな超電導テープ線材や大面積膜の微小領域におけるJを非破壊に測定することができる。
また、本願発明によれば、長尺の超電導テープ線材や大面積膜の超電導膜に対してコイルを走査、又は超電導膜を移動させて測定することにより、微小領域の臨界電流密度Jを製造ラインにおいて測定することが可能となり、同時に検査における空間分解能が向上することによりクラックや損傷部などの小さな臨界電流密度J低下部位をより確実に検知ですることができる。
さらに、本願発明によれば、低い励磁コイル電流値Iinであっても、臨界電流密度Jの測定に十分な局所集中磁界を発生することができ、励磁コイルのジュール発熱R×Iinによる被測定対象の温度上昇を抑えることができ、適性な測定温度環境を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
上記非特許文献4に示すように臨界状態モデルにおいては、上記非特許文献3に示すように励磁コイルの作る磁界が超電導膜の厚さd程度まで侵入した閾状態では、膜表面に印加される平行磁界成分Hcos2πft の最大値振幅2HとJには、J×d=2Hの近似式が成り立つ。なお、ここでHを2倍しているのは、超電導膜が磁界を反射しているためで超電導膜が存在しないときの磁界はHとなる。また、検出コイルに電圧が発生し始めるときの励磁コイル電流(閾値)IthはJ×dに比例し、比例定数をkとするとJ×d=2H=k・Ithの関係式が成り立つ。
これより、膜厚dと磁界の最大値2Hが既知であれば、閾値電流値Ithから微小領域の臨界電流密度Jを測定することができる。臨界電流密度Jを励磁コイルに対して小さい負荷電流Iinで測定ができるので、励磁コイルの発熱量R×Iinを小さくすることができる。
【0016】
上述の関係式における膜表面の最大磁界2Hは、有限要素磁界解析法等を用いて、コイルの巻き方や形状、配置、閾状態におけるコイル電流値から容易に解析的に求めることができる。
【0017】
なお、高透磁率コアを用いる場合には、軟磁性コアであっても磁化ヒステリシスがあるため、解析に際しては注意を要する。また、高透磁率コアとしては飽和磁束密度が高いものがよく、飽和磁束密度以下で使用する場合は注意を要する。
【0018】
励磁コイルと検出コイルを対で用いる相互誘導測定では、測定の再現性の面から両コイルの軸合わせが重要であり、臨界電流密度J測定前に軸合わせのためのキャリブレーションとして、超電導膜が常電導状態のときに両コイルで挟み、励磁コイルから一定振幅の交流磁界を印加しながら検出コイルを微動させ、検出コイルに最大の電圧が誘導される位置で最終的に合わせる手法が好適である。この軸合わせのキャリブレーション法は、高透磁率極細線コアを内装した励磁コイルを用いたときにも同様に好適である。
【実施例】
【0019】
図1は、本発明に係る超電導膜の臨界電流密度を測定する電流密度測定装置の基本構成を示す図である。
同図に示すように、この電流密度測定装置は、高透磁率極細線コア1を内装した励磁コイル2と磁界検出用空芯コイル5とからなる相互誘導臨界電流密度測定センサーから構成され、高透磁率極細線コア1を内装した励磁コイル2を、超電導膜3の上に磁界が有効に加わる高さに配置し、励磁コイル2と軸が同じになるように空芯の検出コイル5を超電導膜3裏の基板4直下に配置する。
なお、励磁コイル2の高透磁率極細線コア1としては、硬化熱処理を施した軟磁性高透磁率極細線コアを使用して強い磁界を集中的に発生させるとよい。
【0020】
また、好適には、高透磁率極細線コア1は励磁コイル2の巻端部からできるだけ突き出さないようにする。さらに、高透磁率極細線コア1の先端部と超電導膜3との距離はレーザー変位計等で制御しながら、できるだけ一定かつ短くするのがよい。
【0021】
また、好適には、励磁コイルのコアとしては、硬化熱処理処理を施した軟磁性高透磁率極細線を使用して強い磁界を集中的に印加し、検出コイルとして超電導膜を貫通する磁界をより広範囲に捕捉して検出することができる内径の大きな空心コイルを用いて、微小領域の臨界電流密度Jを測定してもよい。
【0022】
上記励磁コイル2に電流 Iin cos2πftを振幅スイープしながら入力して、検出コイル5に発生する相互誘導電圧Vout cos2πftの振幅Voutを測定する。
【0023】
図2は、本発明と対比するために、空芯励磁コイルを用いた場合における超電導膜直上の0.001mmに発生する磁界の膜面に平行な強度 H の径方向分布の有限要素磁界解析結果である。解析では励磁コイルの寸法は、外形5mm、内径2mm、高さ1mmであり、励磁周波数fは1kHz、コイルへの電流密度は1×10A/mである。
【0024】
図2に示すように、空芯励磁コイルを用いた場合の解析結果によれば、超電導膜表面の平行磁界強度Hは、コイル巻の外巻付近の2.3mmで最大となり、5.5×10A/m と計算された。
【0025】
図3は、本発明に係る臨界電流密度測定装置における、超電導膜直上の0.001mmに発生する平行な磁界強度Hの径方向分布についての有限要素磁界解析結果である。この磁界解析では、励磁コイル2の寸法は、外形5mm、高さ1mmでありコアに直巻とし、高透磁率極細線コア1の直径dは0.1、0.2、0.4mmで解析を行った。ここでは、高透磁率極細線コア1の有限要素解析に用いた材料は、鋼鉄材(比透磁率μ=3000)を用いた。また、励磁コイル2の巻端部からの高透磁率極細線コア1の突き出し長さs 、及び高透磁率極細線コア1と超電導膜3とのギャップ長gとは、高透磁率極細線コア1の直径d に対して比率で s:g:d = 0.25:0.5:1になるようにした。励磁周波数fは1kHzとし、コイル電流密度は1×10A/mとし、空芯励磁コイルへの通電条件と同様に設定した。
【0026】
図3に示すように、高透磁率極細線コア1を内装した励磁コイル2を用いた解析結果として、超電導膜3表面における表面磁界強度Hの最大値は、高透磁率極細線コア1の直径d=0.4mmのときで1.6×10A/m、d=0.2mmのときで1.9×10A/m、さらにd=0.1mmのときで3.0×10A/mとなり、空芯励磁コイルの時と比べて、順番に2.8倍、3.5倍、5.5倍と計算され、高透磁率極細線コア1を極細化することにより格段に印加磁界強度を増大させることが明らかとなった。
【0027】
また、図3から明らかなように、表面磁界強度Hが最大となる半径は、コア半径d/2=0.2mmの場合で0.28mm、d/2=0.1mmの場合で0.14mm、d/2=0.05mmの場合で0.068mmとなり、空芯励磁コイルの場合の半径d/2=2.31mmに比べて、順番に0.12倍、0.061倍、0.03倍となると計算され、高透磁率極細線コアの極細化により印加磁界の半径を飛躍的に小さくすることが明らかとなった。
【0028】
図4は、本発明に係る電流密度測定装置の具体的構成を示す図である。高透磁率極細線コアを内装する励磁コイル9を励磁するために任意信号発信器6から周波数fの正弦波交流を出力し、増幅器7及びシャント抵抗8を介して通電する。励磁コイル9への入力電流値 Iin はシャント抵抗8の両端の電圧を電圧計11にて測定し求める。励磁コイル9の両端の電圧 Vin は電圧計12にて測定する。超電導膜を貫通する磁界を検出するためのコイル10に誘導される電圧 Vout は、好適にはバンド・パス・フィルタ13付きのロック・イン・アンプ14に入力される。また、ロック・イン・アンプ14に、任意信号発信器6から参照波を入力する。ロック・イン・アンプ14、任意信号発信器6、及び電圧計11と電圧計12の出力は、好適には、パーソナルコンピュータ15等でプログラム制御する。
【0029】
任意信号発信器6からは、典型的には正弦波交流を掃引発信するが、コンピュータの処理速度が十分早ければ、誘導測定での基本正弦波(fHz)を十分に低い周波数 fAMの3角波などで振幅変調し、1秒間にfAM 回測定することができる。
【0030】
この振幅変調による測定法は、長尺の超電導テープ線材等における長手方向の臨界電流密度J分布測定などで、高速な測定、又は検査ができる。
【0031】
図5は、従来技術に係る第3高調波誘導電圧測定法により、空心コイルを用いて臨界電流密度Jを測定する入力コイル電流 Iin/√2に対する第3高調波電圧V/√2の特性、及び本発明に係る臨界電流密度測定装置により、高透磁率極細線コア内装励磁コイルによる相互誘導法を用いて測定したときの、1次側入力コイル電流 Iin/√2に対する2次側検出電圧Vout/√2の両特性を示す図である。
測定に使用した励磁コイルの周波数f を1kHzとした。また測定に使用した超電導膜は、15mm角、厚さd=0.6μmのYBaCuであり、測定温度は77.3Kである。また、実施試験に用いたコイルは、第3高調波誘導電圧測定法では外径5mm、内径2mm、高さ1mm、巻数330ターンの空芯コイルを用い、高透磁率極細線コア内装コイルの諸元は外径5mm、内径0.4mm、高さ1mm、巻数380ターンであり、直径0.4mmの鋼鉄を高透磁率極細線コアとして用いた。図5のそれぞれの測定カーブにおいて V/√2あるいはVout/√2が0.1mV となるコイル電流値を閾電流値 Ith と定義した。また、J×d=2H=k・Ithの関係式より、Jを求めた。
【0032】
図5の極細線コアを用いた結果から求めたコイル電流閾値 Ith は14.0mAであり、この閾電流値での膜表面の最大磁界振幅2Hは5100A/mと磁界解析から計算され、膜厚d=300nmより臨界電流密度Jは1.70×1010 A/mとなった。また、第3高調波電圧誘導法の結果から求めた Ith は50.7mAであり、この閾電流値での2Hは5200A/mと磁界解析から計算され、臨界電流密度Jは1.73×1010 A/mとなり、両手法から求めた臨界電流密度Jは良い一致を示した。
【0033】
ここで、両手法から求まるコイル電流閾値 Ithを比較すると、極細線コアを用いた場合のIthは第3高調波電圧誘導法に対しておよそ1/3倍であり、極細線鉄心を用いることによりコイル電流値を約1/3倍に抑えながら超電導膜の臨界電流密度Jを測定することができた。さらに、同じ大きさのコイル電流を極細線コア内装コイルに流せば、局所的に磁界の印加強度を約3倍に向上することができるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る超電導膜の臨界電流密度を測定する電流密度測定装置の基本構成を示す図である。
【図2】内径2mmの空芯励磁コイルを用いた場合における超電導膜直上に発生する膜面に平行な磁界強度Hの径方向分布を示す図である。
【図3】直径0.1〜0.4mmの高透磁率極細線コアを内装した励磁コイルを用いた場合における超電導膜直上に発生する膜面に平行な磁界強度Hの径方向分布を示す図である。
【図4】本発明に係る電流密度測定装置の具体的構成を示す図である。
【図5】従来技術に係る第3高調波電圧誘導測定法を用いて測定した入力コイル電流 Iin/√2に対する第3高調波電圧V/√2の特性、及び本発明に係る臨界電流密度測定方法による入力コイル電流 Iin/√2に対する2次側検出コイル電圧Vout/√2の特性を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 高透磁率極細線コア
2 励磁コイル
3 超電導膜
4 基板
5 磁界検出用空芯コイル
6 任意信号発信器
7 増幅器
8 シャント抵抗
9 励磁コイル
10 コイル
11 電圧計
12 電圧計
13 バンド・パス・フィルタ
14 ロック・イン・アンプ
15 パーソナルコンピュータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高透磁率極細線コアを内装した励磁コイルと検出コイルの軸が共通なるように並べるとともに前記両コイル間に超電導膜を挟み、上記励磁コイルに交流電流を流すことにより発生する局所的な集中磁界を上記超電導膜に印加して、励磁電流を徐々に増加させ、上記超電導膜の超電導遮蔽電流密度が臨界電流に到達したときに上記超電導膜を貫通する交流磁界を、上記検出コイルにより電圧信号として計測し、上記検出コイルに電圧が発生し始めるときの上記励磁コイルの電流値から臨界電流密度を測定することを特徴とする超電導膜の臨界電流密度測定方法。
【請求項2】
上記超電導膜が、長尺の超電導テープ線材であって、該超電導テープ線材に対して上記両コイルを面内走査、又は上記両コイルに対して上記超電導テープ線材を移動させることによって、微小領域の臨界電流密度を測定することを特徴とする請求項2に記載の超電導膜の臨界電流密度測定方法。
【請求項3】
高透磁率極細線コアを内装した励磁コイルと、該励磁コイルと軸が共通になるように並べられた磁界検出コイルと、上記励磁コイルと上記検出コイルとの間に配置された超電導膜とからなり、上記励磁コイルに交流電流を流すことにより発生する局所的な集中磁界を上記超電導膜に印加して、励磁電流を徐々に増加させ、上記超電導膜の超電導遮蔽電流密度が臨界電流に到達したときに上記超電導膜を貫通する交流磁界を、上記検出コイルにより電圧信号として計測し、上記検出コイルに電圧が発生し始めるときの上記励磁コイルの電流値から臨界電流密度を測定することを特徴とする超電導膜の臨界電流密度測定装置。
【請求項4】
上記超電導膜が、長尺の超電導テープ線材であって、該超電導テープ線材に対して上記両コイルを面内走査、又は上記両コイルに対して上記超電導テープ線材を移動させることによって、微小領域の臨界電流密度を測定することを特徴とする請求項3に記載の超電導膜の臨界電流密度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−78500(P2007−78500A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266349(P2005−266349)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】