説明

超音波エンボス加工機

【課題】 汎用広巾製品を安定して生産することができる超音波エンボス加工機を提供すること。
【解決手段】
1本のエンボスローラに複数の超音波発信機を用い、1個の超音波発信機ホーン部のホーン巾が100mm以上、ホーン先端部の厚さが3mm以上であり、個々の超音波発信機ホーン部に移動用のアクチュエータと位置決め調整装置を備えた超音波エンボス加工機であって、前記位置決め調整装置は、10ミクロン以下の精度で位置決めが可能であり、エンボスローラとして、円筒度が10ミクロン以下、かつローラ径がローラ有効面長の1/8より大きく、1/2より小さいエンボスローラを用い、エンボスローラのウエブ出口側張力がウエブ導入側張力より大きくなるように制御できることを特徴とする超音波エンボス加工機により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波エンボス加工機に関する。さらに詳しくは、1本のエンボスローラに複数の超音波発信機を用い、一個の超音波発信機ホーン部のホーン巾が100mm以上、ホーン先端部の厚さが3mm以上であり、個々の超音波発信機ホーン部に移動用のアクチュエータと位置決め調整装置を備えた超音波エンボス加工機であって、前記位置決め調整装置は、10ミクロン以下の精度で位置決めが可能であり、エンボスローラとして、円筒度が10ミクロン以下、かつローラ径がローラ有効面長の1/8より大きく、1/2より小さいエンボスローラを用い、エンボスローラのウエブ出口側張力がウエブ導入側張力より大きくなるように制御可能な張力制御装置を有する超音波エンボス加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年超音波による連続エンボス加工が実施されるようになったが、それらは小さな溶着加工やキルティング加工であり、汎用的な広巾エンボス加工には採用されていない。今まで広巾エンボス加工が実現できなかったのは、超音波発信機が高価なこともあるが、技術的に安定な運転ができる加工設備が実現できなかったからである。エンボス加工も原理的には従来の連続溶着加工などと変わるものではないが、広巾に渡り均一な模様を付けると云う品質を確保するためには、高度な設備技術が要求され、設備構造や設備精度などの面から実用化が困難なため実現ができなかったのである。なお、超音波発信機ホーンは大型品の製作が困難なため、広巾製品の加工のためには複数台の超音波発信機を並列採用せざるを得ないと云う制約もある。
【0003】
しかしながら、超音波エンボス加工を採用することによって、従来活用されなかった樹脂が活用できる可能性、または新規な風合いの製品が生産できる可能性があるので、広巾エンボス加工技術の開発は、休み無く続けられて来た。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したように、小物部品やキルティングの超音波連続エンボス加工、いわゆる小型のエンボス加工は実施可能であるが、広巾製品を対象とした超音波エンボス加工機は、単に、小型のエンボス加工設備をそのまま大きくするだけでは実現できないことから、未だ存在していないのが実情である。したがって、本発明の目的は、汎用広巾製品加工を目的とした超音波エンボス加工機の開発、すなわち機械的構造の面、精度の面、強度の面などに関する諸問題を解決し、汎用広巾製品を安定して生産できる超音波エンボス加工機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のように、汎用広巾製品を対象とした超音波エンボス加工設備を実現するためには、種々の複雑な要素を解析し解決する必要がある。本発明者は上記目的を達成するため、種々の複雑な要素を丹念に解析した結果、とくに超音波発信機ホーン部とエンボスローラとのクリアランスと、エンボスローラ径が重要であることに到達し、かかる観点から汎用広巾エンボスを実施可能な超音波エンボス加工機を得るためさらに検討し、超音波発信機ホーン部とエンボスローラとのクリアランスを一定にするため、超音波発信機ホーン部(以下、単にホーン部ということがある)の位置決め精度、特にホーンとローラとの平行度を確保する設備が重要であり、さらに最適なエンボスローラ径が重要であることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち本発明は、1本のエンボスローラに複数の超音波発信機を用い、一個の超音波発信機ホーン部のホーン巾が100mm以上、ホーン先端部の厚さが3mm以上であり、個々の超音波発信機ホーン部に移動用のアクチュエータと位置決め調整装置を備えた超音波エンボス加工機であって、前記位置決め調整装置は、10ミクロン以下の精度で位置決めが可能であり、エンボスローラとして、円筒度が10ミクロン以下、かつローラ径がローラ有効面長の1/8より大きく、1/2より小さいエンボスローラを用い、エンボスローラのウエブ出口側張力がウエブ導入側張力より大きくなるように制御可能な張力制御装置を有することを特徴とする超音波エンボス加工機である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、1本のエンボスローラに複数の超音波発信機を用い、一個の超音波発信機ホーン部のホーン巾が100mm以上、ホーン先端部の厚さが3mm以上であり、個々の超音波発信機ホーン部に移動用のアクチュエータと位置決め調整装置を備えた超音波エンボス加工機であって、前記位置決め調整装置は、10ミクロン以下の精度で位置決めが可能であり、エンボスローラとして、ローラ円筒度が10ミクロン以下、かつローラ径がローラ有効面長の1/8より大きく、1/2より小さいエンボスローラを用い、エンボスローラのウエブ出口側張力がウエブ導入側張力より大きくなるように制御制御可能な張力制御装置を有する超音波加工機を提供することができる。本発明の超音波加工機によれば、これまで不可能であった広巾エンボス加工を実現し得るものであり、汎用広巾製品を安定して生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の最大の特徴は、これまで不可能とされてきた広巾エンボス加工を可能にしたことにあり、本発明の超音波加工機においては、広巾エンボス加工を実現するために、1本のエンボスローラに複数の超音波発信機が用いられる。各々の発信機は、後述する図1又は図2に示されるように、相互に5〜30°程度傾け、位置をずらして、隣り合う発信機と少しだけ重ねて設けることにより、発信機の継ぎ目が模様に出るのを防ぐことができ、また隣り合う発信機同士がぶつからないようにすることができ、このように配置するのが好ましい。
【0009】
各々の発信機のホーン部には移動用のアクチュエータと位置決め調整装置を備える。ホーン部のホーン巾や先端部の厚さは大きい方が有利であるが、発信機の能力から考えて、大きさには限界があり、本発明において、ホーン部のホーン巾100mm以上、ホーン先端部の厚さは3mm以上が必要である。あまり小さなホーンを用いるとコスト面で不利となるので、実用的ではない。
【0010】
超音波発信機ホーン部に取り付けられる移動用のアクチュエータとしては、エネルギーを与えることで運動を発生するものであればとくに制限はなく、例えば、モータ駆動式、モータの回転運動を直線運動に変換する方式、エアーシリンダ方式など種々のものを採用することができる。極厚製品を加工対象とする大型機械の場合は、油圧や電動のアクチェータを採用すればよい。
【0011】
超音波発信機ホーンの振巾は片側で20ミクロン〜30ミクロンである。従ってエンボス加工をするためにはホーンとエンボスローラとのクリアランスの精度が重要である。すなわちホーンの全巾に渡ってクリアランスは均一でなければならない。クリアランスはホーンの位置決め精度とエンボスローラの製作精度で決まる。クリアランス精度はできるだけ上げた方がよいが、あまり高い精度にするとコスト面で不利となる。
【0012】
本発明において、位置決め調整装置は10ミクロン以下、好ましくは2ミクロン以下の精度で位置決め可能なものを採用する必要があり、かかる位置決め調整装置を備えることが本発明の第1の特徴である。位置決め調整装置とは、後述する図2の14で示されるものであり、エンボスローラの撓みに合わせて巾方向で調整できる構造になっており、スキミゲーギを用いてマニュアルでクリアランスを設定する機能を有する。
【0013】
エンボスローラは非常に高価なため、コスト面ではできるだけ小さいローラ径に設定することが必要であるが、エンボスローラ径が小さくなると撓みが大きくなり、撓みが大きくなると均一な製品加工ができなくなり、逆に、エンボスローラ径の撓みを小さくするためには径を大きくする必要があるという相反する面があり、エンボスローラは、このような相反する両面から検討し最適な径を設定する必要がある。かかる観点から、エンボスローラとしては、円筒度が10ミクロン以下、好ましくは2ミクロン以下であり、ローラ径は、ローラ有効面長の1/8より大きく、1/2よりも小さいものを使用することが本発明の第2の特徴である。なお、円筒度とは、理想円筒と比べたときの歪みをいう。
【0014】
エンボスローラの軸受け部にはガタがあり、それが原因でエンボスローラが振動し、均一な製品加工ができなくなることがあるが、このようなエンボスローラの振動を防止する観点から、エンボスローラの両端に、常に一方向に荷重を印加する装置を備えるのが好ましい。駆動側に駆動ベルトがあって張力が掛かるようになっている場合には、エンボスローラの駆動側の反対側に駆動側と同一方向に張力装置などを設けることにより、簡単な設備で荷重を印加することができる。
【0015】
本発明の超音波エンボス加工機において、エンボスローラのウエブ出口側張力はウエブ導入側張力より大きくなるように制御可能な張力制御装置を有することが本発明の第3の特徴である。具体的には、エンボスローラのウエブ導入側と出口側に、別々に張力計(ロードセル)をつけて、駆動機又はブレーキにフィードバックすることによって張力制御すればよい。フィードバックしない場合は、一定ブレーキやダンサーロールなどを使用すればよい。
【0016】
さらに、エンボスローラの入口側と、エンボスローラの出口側に、押さえローラまたはガイドローラを取り付けることによって安定な運転を実現にすることができる。
【0017】
エンボスローラ入口では詰まりが発生する恐れがあるが、放置すれば設備が破損するので瞬時に設備を停止しなければならない。停止させるために詰まり検出装置を取り付けるのが好ましい。検出装置としてはビームスイッチや近接スイッチが簡便である。さらには設備の破損個所にシェアーピンなどをセットし予め破損個所を設定しておくのが良い。実生産機では2重の安全装置が望ましい。
【0018】
長時間に及ぶ連続安定運転をするにはエンボスローラやホーン部の温度を一定に保つための温度調節装置や冷却装置が取り付けるのが好ましい。装置としては設備に温風または冷風を吹き付ける程度で十分である。
【0019】
長期安定運転、すなわち超音波ホーンの磨耗減少やエンボス部での詰まりの削減に対して効果があり、このような与圧ローラを取り付けるのが好ましい。エンボスローラのウエブ導入側の与圧ローラ(押さえローラ)はローラ径が大きい方が良い。与圧ローラ設備の大きさは被加工物の厚みや枚数、張力によるので、被加工物に合わせて与圧ローラ設備を設計し、与圧ローラ設備の大きさに合わせて設備フレームを設計する必要があるが、与圧ローラは、エンボスローラ径の1/5より大きくエンボスローラ径より小さい径の可動式予圧ローラを取り付けるのが好ましい。また、エンボスローラのウエブ出口側にも、押さえローラまたはガイドローラを取り付けることによって、さらに安定に加工することができるので好ましい。
【0020】
エンボスローラの模様は加工速度に影響するが、エンボスローラの表面積に対する加工部分の面積、つまり溶着部分の面積が小さい方が当然加工速度は早くなり、経済的な観点から、超音波加工部分の面積が、エンボスローラ表面積の1/2以下となるようなエンボス模様を有するエンボスローラを用いるのが好ましい。
【0021】
以下、本発明の超音波加工機を図によってさらに具体的に説明する。図1は本発明の超音波加工機の側面図、図2は出口側立面図、図3は入り口側立面図である。1はエンボスローラで、面長1400mm、径310mmである。2は超音波発信機ホーン部、出力2.4kw/固、本設備では発信機は4セット用いている。3は入口側予圧ローラ、4は出口側押さえローラであり、5は冷却ノズル、6は加工前ウエブ、7は加工後ウエブである。8はエンボスローラ冷却装置、9は駆動機、10はローラ荷重印加装置、11は超音波発信機ホーン部アクチュエータ、12は予圧ローラアクチュエータ、13は超音波発信機ホーン部取り付けブラケットである
【0022】
エンボス加工の対象となるウエブは、樹脂製の不織布またはフィルムが採用される場合が多い。また原反は4層までの加工実績があり、厚みにして200ミクロンまで加工が可能であった。
【0023】
本発明の超音波加工機に用いられるエンボスローラは非常に高価なものである。従って実用面ではコスト削減のため小さな径のローラが要求される。ローラの撓みから計算し最適径として310mmとした。検討結果ではエンボスローラ径が、ローラ有効面長の1/5前後が設備コスト面から最も妥当である。なお、エンボスローラの円筒度は特殊加工ノウハウにより2ミクロン以下まで精度を上げることができた。
【0024】
エンボスローラの入口側に、エアーシリンダー作動による、予圧ローラを取り付けるが、設備配置上、また設備コストの面から大型の予圧ローラは取り付けが困難な場合は、本予圧ローラを2段、3段と取り付けることにより安定化を図ることができる。
【0025】
超音波発信機ホーン部に取り付けた移動用のアクチュエータは、最も安価なエアーシリンダ方式を用いた。本設備では超音波発信機ホーン位置決め調整装置の精度はミクロン単位で調整が可能である。位置決め調整装置はエンボスローラの撓みに合わせて巾方向で調整できる構造になっている。要求精度としては全巾を通じて、10ミクロン以下、好ましくは2ミクロン以下である。
【0026】
添付図面には記載がないが、実生産設備ではエンボス加工前のウェブの巻き出し装置や加工後ウエブの巻き取り装置があることは云うまでもない。それらの装置は本発明に直接は関係がないが、安定生産のためにはウエブ張力の安定や蛇行調整が必要なことは当然であり、それは巻き出し装置や巻き取り装置の役割である。但し本エンボス加工に要求されるウエブ張力の安定度や蛇行調整の要求精度は、通常の技術で対応が十分であり、特別な技術は必要ない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
従来熱エンボス加工を実施していたウエブにおいて、相溶性が認められる大部分のウエブは、熱エンボス加工から超音波エンボス加工への転換が可能になり、大巾なコストダウンと品位の向上を図ることができ、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の超音波エンボス加工機の側面図である。
【図2】本発明の超音波エンボス加工機の出口側立面図である。
【図3】本発明の超音波エンボス加工機の入口側立面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 エンボスローラ
2 超音波発信機ホーン部
3 入口側予圧ローラ
4 出口側押さえローラ
5 冷却ノズル
6 加工前ウエブ、
7 加工後ウエブ
8 ローラ冷却ダクト
9 駆動機
10 ローラ荷重印加装置
11 超音波発信機ホーン部アクチュエータ
12 入口側予圧ローラアクチュエータ
13 超音波発信機ホーン部取り付けブラケット
14 ホーン位置決め調整装置
15 全体フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本のエンボスローラに複数の超音波発信機を用い、1個の超音波発信機ホーン部のホーン巾が100mm以上、ホーン先端部の厚さが3mm以上であり、個々の超音波発信機ホーン部に移動用のアクチュエータと位置決め調整装置を備えた超音波エンボス加工機であって、前記位置決め調整装置は、10ミクロン以下の精度で位置決めが可能であり、エンボスローラとして、円筒度が10ミクロン以下、かつローラ径がローラ有効面長の1/8より大きく、1/2より小さいエンボスローラを用い、エンボスローラのウエブ出口側張力がウエブ導入側張力より大きくなるように制御可能な張力制御装置を有することを特徴とする超音波エンボス加工機。
【請求項2】
該エンボスローラの両端に、一方向に荷重を印加する装置を備えた請求項1記載の超音波エンボス加工機。
【請求項3】
該エンボスローラのウエブ導入側に、詰まり検出装置を取り付けた請求項1又は2記載の超音波エンボス加工機。
【請求項4】
該エンボスローラおよび超音波発信機ホーン部に冷却装置を取り付けた請求項1〜3いずれかに記載の超音波エンボス加工機。
【請求項5】
該エンボスローラのウエブ導入側に、エンボスローラ径の1/5より大きくエンボスローラ径より小さい径の可動式予圧ローラを取り付けた請求項1〜4いずれかに記載の超音波エンボス加工機。
【請求項6】
該エンボスローラのウエブ出口側に、押さえローラまたはガイドローラを取り付けた請求項1〜5いずれかに記載の超音波エンボス加工機。
【請求項7】
超音波加工部分の面積が、エンボスローラ表面積の1/2以下となるようなエンボス模様を有するエンボスローラを用いた請求項1〜6いずれかに記載の超音波エンボス加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−196095(P2009−196095A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36992(P2008−36992)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(305039909)クラレ機工株式会社 (23)
【Fターム(参考)】