説明

超音波センサ

【課題】超音波振動子の周囲温度が低温時においても残響振動の持続時間を短くすることのできる超音波センサを提供する。
【解決手段】超音波を送受波する超音波振動子1と、超音波振動子1と並列に接続されて超音波振動子1の残響振動の持続時間を調整する調整用コイルL1とを備え、調整用コイルL1を、超音波振動子1の周囲温度の常温時において超音波振動子1の残響振動の持続時間が最も短くなるインダクタンスよりも5〜15%大きいインダクタンスに設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、超音波振動子から超音波を送波し、物体からの反射波を超音波振動子で受波し、送波した超音波と受波した反射波との間の時間差に基づいて超音波振動子から物体までの距離を検出する超音波センサが知られており、例えば特許文献1に開示されている。この特許文献1に記載の従来例は、超音波振動子と並列接続されたコイルと、直流電源である電源回路とコイルとの間に挿入され電源回路から供給された直流電力をスイッチングすることにより高周波パルス信号を生成するスイッチング回路とを備える。そして、この従来例では、高周波パルス信号を超音波振動子とコイルとの並列回路に与えることにより超音波振動子から超音波を間欠的に送波させている。
【0003】
ここで、超音波振動子から超音波が送波された後にも残響振動による信号が出力され、この残響振動の持続時間が長くなると、残響振動の影響により超音波振動子の極近傍に位置する物体を検出することができなくなる。そこで、この従来例では、超音波振動子と並列にコイルを接続している。コイルには可変コイルを用いており、コイルのインダクタンスを調節すれば、超音波振動子の電極間容量とコイルとにより構成される並列共振回路の共振周波数を超音波振動子の残響振動の周波数と一致させることができる。この条件に設定すると、残響振動の持続時間を短くすることができ、結果的に超音波振動子の極近傍に位置する物体の検出が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−304850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来例のような超音波センサでは、超音波振動子の電極間容量が周囲温度の変化によって変動する。この電極間容量の変動を補償するために、温度補償用のコンデンサを超音波振動子と並列に接続することが一般的である。但し、実際には、温度補償用のコンデンサを用いても超音波振動子の電極間容量は周囲温度の変化により変動してしまう。そこで、上記従来例のような超音波センサでは、周囲温度が常温(例えば、25℃)時において残響振動の持続時間が最も短くなるようにコイルのインダクタンスを調整する。
【0006】
しかしながら、上記のように常温時に合わせてコイルのインダクタンスを調整した場合には、常温以外の周囲温度、特に低温(例えば、−30℃)時における残響振動の持続時間が延びてしまう。このため、周囲温度が低温である場合に、残響振動によって超音波センサが誤って作動したり、超音波振動子の極近傍に位置する物体の検出精度が低下したりするという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みて為されたもので、超音波振動子の周囲温度が低温であっても残響振動の持続時間を短くすることのできる超音波センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超音波センサは、超音波を送受波する超音波振動子と、前記超音波振動子と並列に接続されて前記超音波振動子の残響振動の持続時間を調整する調整用コイルとを備え、前記調整用コイルは、前記超音波振動子の周囲温度の常温時において前記超音波振動子の残響振動の持続時間が最も短くなるインダクタンスよりも5〜15%大きいインダクタンスに設定されることを特徴とする。
【0009】
この超音波センサにおいて、前記調整用コイルは、前記超音波振動子の周囲温度の常温時において前記超音波振動子の残響振動の持続時間が最も短くなるインダクタンスよりも5〜10%大きいインダクタンスに設定されることが好ましい。
【0010】
この超音波センサにおいて、前記調整用コイルは、そのインダクタンスが固定値であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、超音波振動子の周囲温度が低温時においても残響振動の持続時間を短くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る超音波センサの実施形態を示す図で、(a)は回路概略図で、(b)は調整用コイルのインダクタンスを基準値よりも5〜10%大きくした場合の残響時間と温度との相関図で、(c)は調整用コイルのインダクタンスを基準値とした場合の残響時間と温度との相関図で、(d)は調整用コイルのインダクタンスを基準値よりも10〜15%大きくした場合の残響時間と温度との相関図である。
【図2】同上の超音波センサにおいて温度補償用コンデンサを除いた構成を示す回路概略図である。
【図3】同上の超音波センサにおいて温度補償用コンデンサを除いた構成での測定結果を示す図で、(a)は調整用コイルのインダクタンスを基準値よりも5〜10%大きくした場合の残響時間と温度との相関図で、(b)は調整用コイルのインダクタンスを基準値とした場合の残響時間と温度との相関図で、(c)は調整用コイルのインダクタンスを基準値よりも10〜15%大きくした場合の残響時間と温度との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る超音波センサの実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態は、図1(a)に示すように、超音波を送受波する超音波振動子1と、超音波振動子1を駆動して超音波を送波させる送波回路2と、超音波振動子1で受波した物体(図示せず)からの反射波を処理する受波回路3とを備える。また、本実施形態は、温度補償用コンデンサC1と、抵抗R1と、調整用コイルL1とをそれぞれ超音波振動子1と並列に接続している。
【0014】
送波回路2は、所定の周波数(例えば、72kHz)で所定の時間幅のパルス状の高周波信号を間欠的に出力することにより、超音波振動子1から超音波を送波させる。送波回路2では、高周波信号を出力するタイミングを設定するための同期パルスが発振回路(図示せず)で生成され、高周波信号の時間幅を設定するゲート回路(図示せず)により同期パルスのタイミングで間欠的に出力される高周波信号が生成される。そして、この高周波信号が送波回路2の増幅回路(図示せず)で超音波振動子1を駆動できるレベルまで増幅される。
【0015】
超音波振動子1は、送波回路2から出力される高周波信号に基づいて振動することにより超音波を外部空間に送波し、物体からの反射波を含む超音波を受波する。そして、超音波振動子1は、受波した超音波の音圧変化を電圧変化に変換した信号を受波回路3に出力する。
【0016】
受波回路3は、超音波振動子1から出力される信号を増幅回路(図示せず)で増幅した後、検波回路(図示せず)に入力する。検波回路は、増幅回路から出力される信号の包絡線を検波することで、超音波振動子1が受波した反射波の音圧レベルに比例した電圧信号を得て、この電圧信号を処理回路(図示せず)に入力する。処理回路は、検波回路で得た電圧信号の出力電圧と予め設定された基準電圧とを比較し、出力電圧が基準電圧を上回る期間をハイレベルとする2値信号を受波信号として出力する。
【0017】
受波回路3から出力される受波信号は、例えば外部に設けられた制御装置(図示せず)に入力される。制御装置では、送波回路2の発振回路が出力する同期パルスと、受波信号とに基づいて超音波振動子1から物体までの距離を演算し、この距離を例えば外部に設けられた表示装置(図示せず)に表示させる。
【0018】
ここで、物体からの反射波を受波する際に、超音波振動子1では、反射波以外の信号レベルの低いノイズも受波することになる。このノイズは反射波と共に増幅されるため、ノイズにより反射波の処理精度が落ちる可能性がある。そこで、本実施形態では、比較的インピーダンスの低い抵抗R1を超音波振動子1に並列に接続し、ノイズの低減を図っている。
【0019】
温度補償用コンデンサC1は、セラミックコンデンサから成り、超音波振動子1の周囲温度(以下、単に「周囲温度」と呼ぶ)が低くなるにつれて容量が大きくなる温度特性を有する。ここで、超音波振動子1は、周囲温度が低くなるにつれて電極間容量が小さくなる温度特性を有する。したがって、温度補償用コンデンサC1を超音波振動子1に並列に接続することで、周囲温度の変化に伴って超音波振動子1を含む回路全体の容量が変動するのを抑制している。
【0020】
調整用コイルL1は、そのインダクタンスを調整可能な可変コイルから成る。そして、超音波振動子1及び温度補償用コンデンサC1と調整用コイルL1とで構成される並列共振回路の共振周波数と、超音波振動子1の残響振動の周波数とを一致させることで、超音波振動子1の残響振動の持続時間を調整して短くすることができる。なお、以下の説明では、超音波振動子1の残響振動の持続時間を「残響時間」と呼ぶものとする。
【0021】
ここで、従来では、超音波振動子1の電極間容量を1500pF、温度補償用コンデンサC1の容量を1500pFとした場合に、調整用コイルL1のインダクタンスを1.6mHに設定している。すなわち、周囲温度が常温(例えば、25℃)時において残響時間が最も短くなるように調整用コイルL1のインダクタンスを調整している。この調整用コイルL1のインダクタンスを、以下の説明では「基準値」と呼ぶものとする。
【0022】
本実施形態では、調整用コイルL1のインダクタンスを基準値よりも5〜15%大きいインダクタンスに設定することで、低温(例えば、−30℃)時における残響時間を短くしている。なお、本実施形態では、基準値よりも5〜10%大きいインダクタンスとして、調整用コイルL1のインダクタンスを1.7mH、基準値よりも10〜15%大きいインダクタンスとして、調整用コイルL1のインダクタンスを1.8mHに設定している。
【0023】
ここで、本実施形態を車両(図示せず)のバンパーに取り付け、且つ氷点下又は炎天下で使用されることを想定して、周囲温度を−30℃から65℃まで変化させた場合の残響時間の測定結果を図1(b)〜(d)に示す。なお、図1(b)〜(d)は、それぞれ調整用コイルL1のインダクタンスを基準値よりも5〜10%大きくした場合、調整用コイルL1のインダクタンスを基準値にした場合、調整用コイルL1のインダクタンスを基準値よりも10〜15%大きくした場合を示す。また、図1(b)〜(d)において、実線は測定した残響時間の平均値、破線は測定した残響時間の平均値+3σ(σは標準偏差)を示している。
【0024】
図1(c)に示すように、調整用コイルL1のインダクタンスを基準値に設定した場合には、常温及び常温よりも高い周囲温度では残響時間が短くなるものの、常温から低温にかけて周囲温度が変化すると、残響時間の伸びが大きくなってしまう。一方、図1(b),(d)に示すように、調整用コイルL1のインダクタンスを基準値よりも5〜15%大きい値に設定した場合には、常温から低温にかけて周囲温度が変化しても残響時間の伸びが小さく、周囲温度の低温時における残響時間が短くなっている。
【0025】
上述のように、本実施形態では、調整用コイルL1のインダクタンスを基準値よりも5〜15%大きい値に設定することで、超音波振動子1の周囲温度が低温であっても残響振動の持続時間を短くすることができる。したがって、周囲温度が低温である場合に、残響振動によって超音波センサが誤って作動したり、超音波振動子1の極近傍に位置する物体の検出精度が低下したりするのを防止することができる。
【0026】
また、本実施形態では、上述のように調整用コイルL1のインダクタンスを設定することで、図1(b),(d)に示すように、低温から常温、更には常温よりも高い温度までの広範囲に亘る周囲温度の変化に対して良好な残響時間の温度特性を得ることができる。このため、周囲温度の変化に応じて調整用コイルL1のインダクタンスを変更する必要がない。したがって、調整用コイルL1のインダクタンスを基準値よりも5〜15%大きい値に固定してもよい。この場合、調整用コイルL1を可変コイルにする必要がないため、加工費用や部品に掛かるコストを低減することができる。
【0027】
ところで、本実施形態では、上述のように超音波振動子1と並列に温度補償用コンデンサC1を接続しているが、図2に示すように、温度補償用コンデンサC1を除いた構成であってもよい。この構成では、温度補償用コンデンサC1を除くことにより、超音波振動子1と調整用コイルL1とで構成される並列共振回路の容量が3000pFから1500pFと半分になる。したがって、温度補償用コンデンサC1を除いた構成では、調整用コイルL1のインダクタンスは、温度補償用コンデンサC1を備えた構成におけるインダクタンスの約2倍である3.7mHに設定している。
【0028】
ここで、温度補償用コンデンサを除いた構成において、周囲温度を−30℃から65℃まで変化させた場合の残響時間の測定結果を図3(a)〜(c)に示す。なお、図3(a)〜(c)は、それぞれ調整用コイルL1のインダクタンスを基準値よりも5〜10%大きくした場合、調整用コイルL1のインダクタンスを基準値にした場合、調整用コイルL1のインダクタンスを基準値よりも10〜15%大きくした場合を示す。また、図3(a)〜(c)において、実線は測定した残響時間の平均値、破線は測定した残響時間の平均値+3σを示している。
【0029】
図3(b)に示すように、調整用コイルL1を基準値に設定した場合には、温度補償用コンデンサC1を備える場合と比較して、周囲温度の低温時における残響時間が大幅に延びてしまう。一方、調整用コイルL1のインダクタンスを基準値よりも5〜10%大きい値に設定した場合には、図3(a)に示すように、温度補償用コンデンサC1を備える場合と比較しても残響時間の温度特性に大きな変化が見られない。
【0030】
したがって、調整用コイルL1のインダクタンスを基準値よりも5〜10%大きい値に設定した場合には、温度補償用コンデンサC1を除くことができるので、部品に掛かるコストを低減することができる。特に、温度補償用コンデンサC1は、周囲温度が低くなるにつれて容量が大きくなる特殊な温度特性を有するためにコストが高い。このため、温度補償用コンデンサC1を除くことによるコスト低減の効果は大きくなる。
【0031】
なお、調整用コイルL1のインダクタンスは、基準値よりも10〜15%大きい値に設定する場合と比較して、基準値よりも5〜10%大きい値に設定する場合の方が望ましい。図3(a),(c)に示すように、周囲温度が−30℃時の残響時間だけを見れば前者の方が特性は良いが、前者の場合には、周囲温度の上昇に比例して残響時間が延びてしまう。これに対して、後者では、常温及び常温よりも高い温度範囲においても残響時間が大きく延びることがないので、好ましい。
【符号の説明】
【0032】
1 超音波振動子
L1 調整用コイル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受波する超音波振動子と、前記超音波振動子と並列に接続されて前記超音波振動子の残響振動の持続時間を調整する調整用コイルとを備え、前記調整用コイルは、前記超音波振動子の周囲温度の常温時において前記超音波振動子の残響振動の持続時間が最も短くなるインダクタンスよりも5〜15%大きいインダクタンスに設定されることを特徴とする超音波センサ。
【請求項2】
前記調整用コイルは、前記超音波振動子の周囲温度の常温時において前記超音波振動子の残響振動の持続時間が最も短くなるインダクタンスよりも5〜10%大きいインダクタンスに設定されることを特徴とする請求項1記載の超音波センサ。
【請求項3】
前記調整用コイルは、そのインダクタンスが固定値であることを特徴とする請求項1又は2記載の超音波センサ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate