説明

超音波データ処理装置

【課題】ボリュームデータ内の注目組織の特定精度を高められるようにする。
【解決手段】ボリュームデータに対して二値化処理が適用されて二値化ボリュームデータが生成される。一方、三次元データ空間内に三次元配置された球アレイの中から、二値化ボリュームデータに基づいて注目組織内に位置する球のみが残される。各球に対して膨張処理および合体処理が適用される。1又は複数の球から中間的に生じるオブジェクトの形状が注目組織の形状に一致するまでそのような処理が繰り返し実行される。その結果、各注目組織を模擬した模擬図形が生成される。それに対して三次元画像処理および計測が適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波データ処理装置に関し、特に、二次元又は三次元のデータ空間内における注目組織データの抽出処理に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波データ処理装置は、生体に対する超音波の送受波によって得られた超音波データを処理する装置であり、一般に、超音波データ処理装置は、送受波機能を備えた超音波診断装置として構成され、あるいは、そこから出力されるデータを処理するコンピュータシステムとして構成される。
【0003】
一般に、超音波データ処理装置は、注目組織(注目組織データ)を抽出する機能、注目組織のサイズ、面積、体積等を計測する機能、注目組織を画像化する機能、等を備えている。注目組織の計測や画像化のためにはそれに先だって注目組織が適切に分離・抽出されている必要があるが、超音波データにおいては、組織間の境界が不鮮明であったり、ノイズが存在していたりして、注目組織の抽出を的確に行えない場合もある。特に、相互接触している複数の組織部分(例えば卵胞)を個別抽出することは非常に難しいとされている。従来において注目組織の抽出法としてラベリング法が知られている。しかし、個々の注目組織が完全に分離抽出されていない超音波データに対してラベリング法を適用することは困難である。特許文献1には、従来の注目組織抽出法の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−299341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
注目組織の計測又は画像化のためには、注目組織データを的確に抽出する必要があるが、換言すれば、注目組織の形状を正確に特定する必要があるが、従来法では満足できる結果が得られない場合があった。特に、密集あるいは散在する複数の注目組織を個別的に計測しあるいは画像化する手法の実現が望まれていた。
【0006】
なお、婦人科の検診においては、個々の卵胞のサイズを計測する必要がある。従来においては断層画像上において、2つのマーカーを画面上に登場させ、マニュアル(手作業)でそれらのマーカーを卵胞の両端に位置決めすることにより、卵胞のサイズが計測され、そのような過程が繰り返し実行されていた。よって、作業負担、操作負担が大きいという問題があった。また、面積や体積を簡便に計測できないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、注目組織を正確に特定できるようにすることにある。
【0008】
本発明の他の目的は、複数の注目組織について個別的に抽出を行えるようにすることにある。
【0009】
本発明の他の目的は、超音波データ空間内における注目組織の二次元形状又は三次元形状を特定する新しい方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る装置は、二次元又は三次元のデータ処理空間内において、注目組織の内部に1又は複数の原始図形を配置する初期処理手段と、前記データ処理空間内において、前記1又は複数の原始図形に対して膨張処理を含む形状適合処理を施すことにより、前記注目組織の形状を模擬した模擬図形を生成する模擬処理手段と、前記模擬図形に対して計測を実行し、あるいは、前記模擬図形を表した画像を表示する手段と、を含むことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、データ処理空間内において、注目組織の内部に存在する原始図形を膨張、変形(必要に応じて合体)させることにより、注目組織の形状を模擬した模擬図形をコンピュータグラフィック(CG)データとして生成することが可能となる。これはたとえて言うならば注目組織の内部で膨張変形可能な風船を膨らませてそれを注目組織外郭の内面に貼り付けるような処理である。実データを加工して組織外形を抽出するのではなく、実データを参照しつつも人工的図形を成長、変形させて組織外形を特定できるから、エコーの部分的な抜けやノイズ等に強い処理を実現でき、また外形の特定精度を高められる。複数の注目組織が併存している場合においても個々の注目組織に対して形状適合処理を適用することが可能であり、それらの一括抽出を行える。例えば複数の卵胞が接しているような場合においても、それらの内部から外形を探知できるから、それらを複数の模擬図形として正確に特定することが可能となる。探知条件については注目組織や要求精度等に応じて適宜定めることができる。生成されるCGデータは明確な形状データであるから、そのサイズや体積を計測することは容易であり、またそれを画像化することも容易である。このように実組織データをCGデータに置換してCGデータを計測対象あるいは表示対象とすることにより、今までには得られない各種利点を得られるのである。
【0012】
データ処理空間は人工的なCGデータだけが存在する空間であってもよいし、実データとCGデータの両者が存在する空間であってもよい。三次元のデータ処理空間が前提となる場合、原始図形、そこから派生する中間図形、終局的な模擬図形のそれぞれは三次元オブジェクト(3Dグラフィック要素)として観念される。その場合、原始図形は例えば球であり、それは望ましくは複数の頂点あるいは複数の面によって規定される多面体として定義される。二次元のデータ処理空間が前提となる場合、原始図形、そこから派生する中間図形、終局的な模擬図形のそれぞれは二次元オブジェクト(2Dグラフィック要素)として観念される。その場合、原始図形は例えばリングであり、それは望ましくは複数の線分の連なりとしてあるいは複数の連結点によって定義される。1つの原始図形だけを利用するようにしてもよい。その場合には合体処理は不要となる。形状適合処理に当たっては望ましくは実データ又は加工済み実データ(例えば二値化データ)が参照される。本発明に係る超音波データ処理装置は超音波診断装置、コンピュータ等によって構成される。
【0013】
望ましくは、前記初期処理手段は、前記データ処理空間内に複数の原始図形を配列する手段と、前記配列された複数の原始図形の中で、注目組織の外部に存在する初期図形を除外する除外処理を実行する手段と、を含み、前記除外処理後に残留した1又は複数の原始図形から前記模擬図形が生成される。この構成によれば注目組織が存在する位置が不明であってもいずれか1又は複数の初期図形を注目組織内に位置させることが容易となる。注目組織外に存在する初期図形は除外排除される。変形例として、注目組織外にある原始図形だけを残留させてその膨張処理、変形処理等によって注目組織外形を特定する処理を想起しうるが、その場合には複数の注目組織を個別認識することが困難となる。複数の原始図形は二次元配列又は三次元配列される。注目組織の内部に少なくとも1つの原始図形が確実に入るように初期状態において原始図形を微小化し且つ密集化するのが望ましい。変形例としては注目組織内部への原始図形の配置をマニュアルで行うことが考えられる。また注目組織を取り囲む大きな原始図形を生成しその縮小処理によって注目組織形状を模擬することも考えられるが、その場合、複数の注目組織を個別抽出することが困難となる。
【0014】
望ましくは、前記模擬処理手段は、処理対象図形に対して膨張処理を施す膨張処理手段と、複数の処理対象図形が相互接触した場合にそれらを合体する合体処理を実行する合体処理手段と、を含み、前記処理対象図形は原始図形及びそれから派生した中間図形である。膨張過程において複数の図形(通常、中間図形)が接触した場合においてはそれらが合体(連結)されて単一の図形に置換される。接触の判定及び合体処理に当たっては各種の公知技術を利用可能である。最終的には基本的に単一の中間図形が注目組織内部に存在することになりその形状が注目組織形状にフィッティングされる。もっとも、相互に入り込むことがない複数の図形の凝集体として注目組織が模擬されてもよい。そのような凝集体も模擬図形の一種であると言いうる。但し計測や表示処理に際しては模擬図形が単一図形(単一オブジェクト)として構成されていた方が望ましい。
【0015】
望ましくは、前記処理対象図形はその外形を表す複数の頂点によって定義され、前記形状適合処理では前記注目組織の表面上に到達するまで各頂点の位置が段階的に更新される。各図形の形状がポリゴン配列体として表されるのが望ましい。1つのポリゴン(多角形、望ましくは三角形)は複数の頂点によって定義されるものである。通常、膨張処理は現図形の状態から各頂点を外側へ(法線方向へ)移動させる処理に相当する。望ましくは、前記膨張処理には頂点間距離の増大に応じて頂点を追加する処理が含まれる。この構成によれば形状模擬精度(模擬分解能)を高められる。
【0016】
望ましくは、前記注目組織は卵胞であり、前記データ処理空間内に同時に存在する複数の卵胞が複数の模擬図形によって個別的に模擬される。勿論、他の組織を注目組織としてもよい。その例として、心腔、腫瘍等をあげることができる。
【0017】
本発明に係る装置は、生体内の三次元実空間から取得されたボリュームデータを処理するこよにより、注目組織相当部分が識別された三次元識別データを生成する手段と、前記三次元実空間に対応する三次元データ処理空間内に三次元配列をもった球アレイを配置する手段と、前記三次元識別データに基づいて、前記球アレイの内で注目組織の内部に位置する1又は複数の球を特定する手段と、前記三次元識別データに基づいて、前記注目組織の内部に位置する1又は複数の球に対して膨張処理を含む形状適合処理を施すことにより、前記注目組織の形状を模擬した三次元グラフィックデータを生成する手段と、を含むことを特徴とする。望ましくは三次元グラフィックデータに基づいて計測が実行される。それはサイズ計測、体積計測、個数計測、等であってもよい。望ましくは三次元グラフィックデータに基づいて画像が形成される。画像には三次元画像、断層画像等が含まれる。注目組織に着色が施されたカラー画像を表示するようにしてもよい。個々の注目組織を異なる色で表現することも容易である。例えば、卵胞の体積やサイズを大きい順で(又は小さい順で)数値表示するようにしてもよい。数字と画像内のグラフィック要素とを配色によって対応付けることもできる。三次元画像及び断層画像ともグラフィックデータをソースデータとするものであるから、組織形状を明確に表現できる。
【0018】
望ましくは、前記形状適合処理においては、前記三次元識別データが表す注目組織相当部分を超えて膨張させない条件の下で、前記注目組織の内部に位置する1又は複数の球に対して段階的な膨張処理が施される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、注目組織の形状を正確に特定できる。あるいは、複数の注目組織について個別的にその形状を特定できる。あるいは、二次元形状又は三次元形状の新しいトレース法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る超音波データ処理装置としての超音波診断装置を示すブロック図である。
【図2】図1に示す装置の動作例を示すフローチャートである。
【図3】二値化処理を説明するための図である。
【図4】初期処理を説明するための図である。
【図5】膨張処理および合体処理を説明するための図である。
【図6】ポリゴンの成長と頂点の付加を説明するための図である。
【図7】オブジェクト管理テーブルの例を示す図である。
【図8】移動対象となった頂点とその近傍に存在する複数の頂点との関係を示す図である。
【図9】頂点の移動に際しての制限を説明するための図である。
【図10】表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1には、本発明の好適な実施形態が示されており、図1は超音波診断装置を示すブロック図である。この超音波診断装置は超音波データ処理装置である。
【0022】
3Dプローブ10は本実施形態において二次元アレイ振動子を有している。二次元アレイ振動子は第1方向および第2方向に整列した複数の振動素子からなるものであり、二次元アレイ振動子により超音波ビームが二次元走査され、これによって生体内に三次元空間(三次元エコーデータ取り込み空間)が形成される。そのような三次元空間から取得されるデータが三次元データとしてのボリュームデータである。望ましくはボリュームデータは複数のフレームデータの集合体として構成される。フレームデータは一般に複数のビームデータにより構成されるものである。1つのフレームデータが1つの走査面に対応し、1つの走査面は超音波ビームの電子走査により形成される。電子走査方式としては電子セクタ走査等が知られている。
【0023】
本実施形態においては二次元電子走査方式が採用されているが、もちろん電子走査と機械走査等を組み合わせて超音波ビームを二次元走査するようにしてもよい。また、本発明に係る手法は、三次元データを取得する場合に限らず、二次元データを取得する場合においても適用可能なものである。3Dプローブ10は本実施形態において生体の表面上に当接して用いられるものであるが、もちろん体腔内に挿入して用いられるタイプのプローブが利用されてもよい。
【0024】
送信部12は送信ビームフォーマとして機能し、送信時において、送信部12から2Dアレイ振動子に対して複数の送信信号が供給される。これにより送信ビームが形成される。受信部14は受信ビームフォーマとして機能するものである。受信時において、生体内からの反射波が二次元アレイ振動子にて受波され、これによって生じた複数の受信信号が受信部14へ出力される。受信部14においては複数の受信信号に対して整相加算処理が実行され、これによって電子的に受信ビームが形成される。そのように形成されたビームデータが3Dメモリ16へ出力される。ビームデータは複数のエコーデータからなるものである。
【0025】
3Dメモリ16は、生体内に形成された三次元空間(実空間)に対応する三次元の記憶空間を備えており、3Dメモリ16にはボリュームデータが格納される。ボリュームデータは超音波ビームの二次元走査によって取得された複数のビームデータの集合体として構成されるものである。3Dメモリ16へのデータの書き込み時あるいは3Dメモリ16からのデータの読み出し時において座標変換が実行される。なお図1においてビームデータを処理する各種回路については図示省略されている。ビームデータはドプラ情報によって構成されるデータであってもよい。
【0026】
二値化部18はボリュームデータに対して二値化処理を適用することにより、二値化ボリュームデータを生成するモジュールであり、その二値化ボリュームデータが3Dメモリ20に格納される。二値化処理にあたっては、例えば卵胞などの注目組織に相当するデータが1となり、それ以外のデータが0となるように処理が実行される。すなわち反転二値化処理が実行される。二値化処理にあたっては卵胞データとそれ以外とを識別するために閾値が利用される。もちろん輝度、分散値、テクスチャ等の他の指標に基づいて組織弁別が行われるようにしてもよい。複数の卵胞が連なっているような場合そのような凝集体あるいは密集体に相当するデータ群が生成されることになる。二値化処理に先立ってノイズ除去や平滑化処理が適用されてもよい。二値化処理後のボリュームデータにおいて、複数の卵胞に相当するデータの固まりが相互に空間的に分離されている必要はない。
【0027】
模擬体生成部22は、注目組織の形状を模擬した模擬体(コンピュータグラフィックデータ)を生成するモジュールであり、これは例えばソフトウエアの機能として実現される。後に詳述するように、三次元データ処理空間内において、注目組織の内部に相当する位置に原始オブジェクトが配置され、その原始オブジェクトに対する膨張処理等によって注目組織の形状にフィッティングされた模擬オブジェクトが生成される。それが模擬体である。模擬体は具体的には3Dグラフィックデータとして構成され、それが3Dメモリ24に格納される。3Dグラフィックデータは複数のボクセルからなるデータであってもよいし、関数表現されたデータであってもよい。通常はいわゆるポリゴンデータとして構成される。
【0028】
三次元画像形成部26は、ボリュームレンダリング法やサーフェースレンダリング法などを用いて、もととなる三次元データから三次元画像を形成するモジュールである。本実施形態において三次元画像形成部26はボリュームデータに基づいて三次元画像を形し、また、3Dグラフィックデータに基づいて三次元画像を形成している。もちろん、2つの三次元画像を空間的に合成して表示するようにしてもよい。断層画像形成部28は三次元空間を表す1または複数の断面に相当する1または複数の断層画像を形成するモジュールである。本実施形態においてはボリュームデータに基づいておよび3Dグラフィックデータに基づいて断層画像を形成することが可能である。断層画像の形成にあたっては、3Dグラフィックデータに含まれる模擬オブジェクトを中実データとしてもよいし表面形状データとしてもよい。計測部30は3Dグラフィックデータに基づいて注目組織に対する計測を実行するモジュールである。長さや直径などのサイズの計測、体積演算などが実行される。本実施形態においては複数の注目組織が抽出、特定された場合、各注目組織ごとに計測が実行される。例えば複数の卵胞に対して上述した模擬体生成処理がされた場合、3Dグラフィックデータとして複数のグラフィックオブジェクトが生成されることになり、各グラフィックオブジェクトごとに計測が実行される。実際の卵胞データに対して計測を行う場合には不鮮明さやノイズの影響を受けて正確な計測を行えない場合であっても、その計測対象が3Dグラフィックデータであれば計測精度を飛躍的に高めることが可能である。それを三次元画像として表示した場合にもその画像の品質を極めて高めることが可能である。
【0029】
表示処理部32は各画像を必要に応じて合成するモジュールであり、また表示処理部32は必要に応じて色付け処理を実行する。表示部34には表示処理部32から出力された画像データに基づく画像が表示される。制御部33は本実施形態においてCPUおよび動作プログラムにより構成され、図1に示される各構成の動作制御を行っている。入力部35は本実施形態において操作パネルにより構成され、それは具体的にはキーボードやトラックボールなどを含むものである。
【0030】
次に、図2を用いて模擬体の生成処理について具体的に説明する。図2には一連の処理プロセスがフローチャートとして示されている。まず各ステップの概略を説明した上で、各ステップの内容を具体的に説明することにする。
【0031】
S101では、取得されたボリュームデータに対する二値化処理が実行される。注目組織データに対して1が与えられ、それ以外のデータに対して0が与えられるように適切な閾値が設定される。これによって二値化ボリュームデータが生成される。S102においては、三次元データ処理空間内に三次元配列をもった球アレイが配置される。球アレイはX方向、Y方向およびZ方向に並んだグラフィック要素あるいはオブジェクトとしての球からなるものであり、各球は原始図形と言い得るものである。本実施形態では後に説明するように三次元空間内において多数の球が密集するように球アレイが生成されている。もっとも、注目組織の内部に相当する座標が既知であればその座標へ1つの球を配置することも可能である。ちなみに三次元空間は実データが存在する空間であってもよいし、それとは別の同じ座標系を持った空間であってもよい。
【0032】
S103においては球アレイの中で注目組織すなわち対象組織に属する球のみが残され、対象組織外の球が削除される。この場合において、完全に注目組織内に含まれている球だけを残すようにしてもよいし、一部がはみ出している球も残すようにしてもよい。ただし後者の場合には、はみ出し部分に対する別途の処理が必要となる。S104においては、球あるいはそこから生成された中間図形に対して膨張処理および合体処理が実行される。その場合においては、二値化ボリュームデータにおける注目組織部分が参照され、注目組織部分を超えないように各球に対する膨張処理が適用される。また複数のオブジェクトが互いに接触しあるいは互いに入り込みそうになった場合にはそれらのオブジェクトをひとつのオブジェクトにまとめる合体処理が適用される。膨張処理および合体処理それぞれ公知技術と言えるものである。
【0033】
以上の処理がS105においてすべて完了と判断されるまで繰り返される。すなわち各オブジェクトを膨らませながら必要に応じて合体させ、これによって注目組織の内部に基本的に単一のオブジェクトだけが残されるようになり、そのオブジェクトの形状が対象組織の形状にいフィッティングされる。後に説明するようにオブジェクトを定義する複数の頂点がいずれも注目組織の表面上に到達したと判断された場合にS105以降の工程が実行される。
【0034】
S106においては以上のように構成された三次元グラフィックデータに基づいて三次元画像が形成される。また必要に応じて1または複数の断層画像が形成される。一方、S107では三次元グラフィックデータに基づいて個々の注目組織に相当する三次元オブジェクト(模擬図形)を対象としてサイズや体積の計測が実行される。そして複数の注目組織が存在している場合、複数の体積値等が演算されることになり、それらが昇順あるいは降順でリスト化される。S108では上述した三次元画像、断層画像等が画面上に表示され、また計測結果が表示される。望ましくは複数の数値を表したリストが表示される。例えば卵胞の計測にあたっては複数の卵胞について計測された複数の体積値が大きなものから小さなものにかけて順番に並べられることになる。したがって医師はそのようなリストを観察することにより疾病診断を行うことが可能となる。
【0035】
次に、上述した各ステップの内容について具体的に説明する。図3には二値化処理が示されている。符号36は二値化処理前のボリュームデータを表しており、ボリュームデータ36は三次元空間としての実データ空間37内に存在するものである。ボリュームデータ36には卵胞集合データ38が含まれ、ここで符号38aは個々の卵胞データを表している。
【0036】
このようなボリュームデータ36に対して二値化処理を適用した結果として二値化ボリュームデータ40が得られる。すなわち卵胞集合データ42には値1をもったデータの集合として構成されており、それ以外のデータの値は0とされている。卵胞集合データ42は複数の卵胞データの集合体として表現されており、個々の卵胞データが42aで表されている。それらは三次元的に密集しているものであり、通常、そのような個々の卵胞データを直接計測することは困難である。しかしながら本実施形態においては個々の卵胞データを図形として見ることができ、個々の図形を計測することにより、直接的に卵胞の計測が困難な場合であっても個々の卵胞について信頼性ある計測結果を得ることが可能となる。
【0037】
図4には初期処理が示されている。ちなみに符号40は図3に示した二値化ボリュームデータを表している。初期処理においては、三次元空間であるグラフィックデータ空間44内に球アレイ46が配置される。球アレイ46はX方向、Y方向およびZ方向に並んだ多数の球48からなるものであり、図示される例において各球の直径はmであり、隣接する球間の間隔すなわちピッチもmである。後に説明するように各球はポリゴンデータとして表現されており、すなわち複数の頂点の座標として管理されており、その場合における各ポリゴンの一辺の長さはm/nである。ここでnは整数である。このように球アレイ46を生成するのは注目組織が三次元空間内のどこに組織に存在するのかが不明であるためであり、注目組織の個々の中に少なくとも1つの球を確実に配置するためである。よって注目組織の存在位置が既知であるような場合にはそこに1つの球を配置する処理を行うようにしてもよい。球アレイ46の配置によれば三次元空間内に複数の注目組織が存在している場合であっても、個々の注目組織ごとに少なくとも1つの球を取り込ませることが容易であるという利点を得られる。
【0038】
球アレイ46に対しては除外処理が適用される。すなわち注目組織内に位置している球のみが残され、それ以外の球が除外される。その処理結果が符号50で表されており、それは内部球の集合として表現されている。その集合50の生成にあたっては二値化生成データ40が参照され、特に値1を持った卵胞集合データ42が参照され、そのデータ領域を超える球が消去されている。本実施形態においては注目組織内に完全に取り込まれている球のみが残されているが、これについては各種の変形例が考えられる。例えば一部のはみ出しを許容してもよい。ただしそのようなはみ出し部分については膨張処理とは逆の収縮処理を適用する必要がある。本実施形態においては多数の球が生成されていたが、原始図形として他の形状を生成するようにしてもよい。
【0039】
図5には膨張処理、合体処理が示されている。符号52はデータ空間44内に存在する球集合を表しており、それは複数の球52aからなるものである。本実施形態においては各球ごとに膨張処理が実行され、その膨張過程において複数の球が互いに接触した場合にはそれらを1つの図形すなわち1つのオブジェクトに合体させる処理も実行される。各球の膨張にあたっては対象となる注目組織の外部にはみ出ないことを条件としてその処理が実行されており、すなわち注目組織内において図形の膨張と合体とが繰り返し行われることになる。符号54は中間的な過程にある図形集合を表しており、それは複数の中間図形54aにより構成されている。中間図形54aは既に球の形状を有しておらずそこから変形した形状をもっている。合体処理により注目組織の内部に存在するオブジェクト数は徐々に少なくなり、最終的には1つの注目組織内に基本的に1つのオブジェクトだけが存在するようになる。そして当該オブジェクトの膨張処理によりその形状が注目組織形状にフィッティングされる。その段階の様子が符号56で示されている。符号56aは最終的なオブジェクト形状を示しており、それは模擬図形である。その模擬図形は図3に示した注目組織形状すなわち卵胞形状に合致しているものである。ちなみに隣接する卵胞間においては一定の隙間あるいはデータの不連続領域が認められるため、通常は膨張処理が発散してしまうことはない。後に説明するようにバネ係数を利用した形状変形制限があるので、部分的に卵胞データに繋がりが生じていても、膨張処理がそのような繋がりをもって必要以上に拡大してしまうことが防止されている。
【0040】
図6には各オブジェクトがポリゴンデータとして表現される場合における1つのポリゴン62が示されている。すなわち各図形(原始図形、中間図形、模擬図形)は多面体として定義されており、具体的にはそれは複数の頂点60によって定義されている。換言すれば多数の面(ポリゴン)62として定義されている。上述した膨張処理においては各頂点を移動させる操作が実行され、膨張後のポリゴンが符号64で示されている。ただし一辺の長さが一定値を超えた場合、複数の頂点の間に追加の頂点66が新たに配置され、これによって1つの大きなポリゴン64が複数のポリゴン70〜72に分割される。このような処理それ自体は公知である。
【0041】
図7には各オブジェクトを管理するためのテーブル100の例が示されている。(A)は初期状態を示している。各オブジェクトすなわち各原始図形はオブジェクトID102によって管理され、各オブジェクトは複数の頂点によって定義されおり、それが頂点座標104である。膨張処理および合体処理を繰り返した後の状態が(B)に示されている。そのような過程においてオブジェクトIDが振り直されてもよいし、合体においていずれか一方のIDを選択的に採用するようにしてもよい。この段階では各オブジェクトを構成する頂点の個数が増大している。それとは逆にオブジェクトの個数は減少している。
【0042】
図7に示したテーブル100はもちろん一例であって、多様な管理形態を採用し得る。
面のデータを管理するようにしてもよい。また後に説明するバネ係数を管理するようにしてもよい。
【0043】
図8および図9には移動制限処理が模式的に示されている。現在移動対象となっている頂点が図8において符号76で表され、その近傍に複数の頂点74が存在している。頂点74と各頂点74との間には仮想バネ78が存在しており、すなわち仮想的なバネ係数が定義されている。
【0044】
図9においては、(A)に移動前の状態が示されており、(B)に移動後の状態が示されている。頂点76の移動方向は法線ベクトル80として定義され、そのような法線ベクトル80はグローシェーディング法という公知の手法等において定義されるものである。法線ベクトル80の方向へ頂点76を移動させる場合に、近傍の各頂点との間におけるバネ係数が作用し、(B)に示すように頂点76Aは一定以上外側へ移動しないように制限される。このような処理が各頂点ごとに実行されることになる。もちろん、頂点の移動にあたっては注目組織の表面を超えて移動が行われないように制限されており、結果として各頂点は基本的に全て注目組織の表面上に位置することになる。ちなみに上述したようなバネ係数に基づく移動制限それ自体は公知技術である。
【0045】
図10には表示例が示されている。画面82上には三次元グラフィックデータに基づく三次元画像84が表されており、それは符号86で示されるように卵胞集合を模擬した人工的なグラフィック要素集合を含むものである。そのような三次元形状に対する3つの切断面に対応するのが3つの断層画像88,90,92である。それぞれの断層画像88,90,92においてはグラフィック要素の断面が現れている。このような断層画像の表示には各グラフィック要素の中身を件データとして表現するのが望ましい。そのような複数の画像とともに計測結果がリスト94として表されている。このリスト94は複数の卵胞について計測された複数の体積値を大きなものから並べたものである。このような数値リストを参照することにより疾病診断を行うことが可能となる。また従来において行っていた手作業による計測を自動化することが可能であるから医師における作業負担を大幅に軽減でき、しかも計測精度を高められるという利点がある。
【0046】
上述したような人工的な画像とともに実データに基づく三次元画像や断層画像をあわせて表示するようにしてもよい。またグラフィックデータの表示にあたっては着色処理を施すようにしてもよく、例えば個々のグラフィック要素(卵胞)に対して異なる色を割り当て、体積値の表示にあたってもそれぞれの数値に対して対応する色を割り当てるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
16 3Dメモリ、18 二値化部、20 3Dメモリ、22 模擬体生成部、24 3Dメモリ、36 ボリュームデータ、40 二値化ボリュームデータ、46 球アレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元又は三次元のデータ処理空間内において、注目組織の内部に1又は複数の原始図形を配置する初期処理手段と、
前記データ処理空間内において、前記1又は複数の原始図形に対して膨張処理を含む形状適合処理を施すことにより、前記注目組織の形状を模擬した模擬図形を生成する模擬処理手段と、
前記模擬図形に対して計測を実行し、あるいは、前記模擬図形を表した画像を表示する手段と、
を含むことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記初期処理手段は、
前記データ処理空間内に複数の原始図形を配列する手段と、
前記配列された複数の原始図形の中で、注目組織の外部に存在する初期図形を除外する除外処理を実行する手段と、
を含み、
前記除外処理後に残留した1又は複数の原始図形から前記模擬図形が生成される、
ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の装置において、
前記模擬処理手段は、
処理対象図形に対して膨張処理を施す膨張処理手段と、
複数の処理対象図形が相互接触した場合にそれらを合体する合体処理を実行する合体処理手段と、
を含み、
前記処理対象図形は原始図形及びそれから派生した中間図形である、
ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記処理対象図形はその外形を表す複数の頂点によって定義され、
前記形状適合処理では前記注目組織の表面上に到達するまで各頂点の位置が段階的に更新される、
ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項5】
請求項3記載の装置において、
前記膨張処理には頂点間距離の増大に応じて頂点を追加する処理が含まれる、
ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の装置において、
前記注目組織は卵胞であり、
前記データ処理空間内に同時に存在する複数の卵胞が複数の模擬図形によって個別的に模擬される、
ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項7】
生体内の三次元実空間から取得されたボリュームデータを処理するこよにより、注目組織相当部分が識別された三次元識別データを生成する手段と、
前記三次元実空間に対応する三次元データ処理空間内に三次元配列をもった球アレイを配置する手段と、
前記三次元識別データに基づいて、前記球アレイの内で注目組織の内部に位置する1又は複数の球を特定する手段と、
前記三次元識別データに基づいて、前記注目組織の内部に位置する1又は複数の球に対して膨張処理を含む形状適合処理を施すことにより、前記注目組織の形状を模擬した三次元グラフィックデータを生成する手段と、
を含むことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置において、
前記形状適合処理においては、前記三次元識別データが表す注目組織相当部分を超えて膨張させない条件の下で、前記注目組織の内部に位置する1又は複数の球に対して段階的な膨張処理が施される、
ことを特徴とする超音波データ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−224143(P2011−224143A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96703(P2010−96703)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】