説明

超音波トランスデューサ及び超音波プローブ

【課題】送受信感度が向上しながらも構成および製造が比較的簡単な超音波トランスデューサを提供する。
【解決手段】UTアレイ21は、ガラス−エポキシ樹脂等の平板状の台座25上に、バッキング材26、下部電極27、超音波および反射波を送受信する送受信用圧電体28aからなる第一圧電体層28、第一音響整合層29、反射波を受信する受信用圧電体30a〜30eからなる第二圧電体層30、上部電極31、第二音響整合層32及び音響レンズ33が順次積層された構造を有する。第一音響整合層29は導電性を有しており、送受信用圧電体28a及び受信用圧電体30a〜30eに共通する電極を兼ねる。受信用圧電体30a〜30eは、EL方向に等間隔で配列され、これら一式でEL方向に長い短冊状をなしている。受信用圧電体30a〜30eは、第二圧電体層30に沿う反射波の受信面の面積が順に小さくなっており、互いに異なる体積を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の送信と反射波の受信を別の圧電体で行う超音波トランスデューサ、及びこれを用いた超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波プローブを利用した医療診断が盛んに行われている。超音波プローブの先端には、超音波トランスデューサ(以下、UTと略す)が配されている。UTは、バッキング材、圧電体およびこれを挟む電極、音響整合層、並びに音響レンズから構成される。UTから被検体(人体)に超音波を照射し、被検体からの反射波をUTで受信する。これにより出力される検出信号を超音波観測器で電気的に処理することによって、超音波画像が得られる。
【0003】
また、超音波を走査しながら照射することにより、超音波断層画像を得ることも可能である。超音波断層画像を得る方法としては、UTを機械的に回転あるいは揺動、もしくはスライドさせるメカニカルスキャン走査方式や、複数のUTをアレイ状に配列(以下、UTアレイという)し、駆動するUTを電子スイッチ等で選択的に切り替える電子スキャン走査方式が知られている。
【0004】
従来、同じ圧電体で超音波および反射波を送受信することが普通であったが、最近、超音波の送信と反射波の受信を別の圧電体で行うものが提案されている。送信用には、電気機械結合定数k33が比較的大きく、超音波の送信パワーに優れた無機系の圧電セラミックスが、受信用には、送信定数d33は小さいものの、受信定数g33が比較的大きく、反射波の受信感度に優れた有機系の高分子圧電体がそれぞれ用いられる。
【0005】
特許文献1では、音響レンズの底面(被検体と反対側の面)に送信用圧電体を、音響レンズの表面(被検体側の面)の凹部に複数の受信用圧電体をそれぞれ配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−148154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
被検体とUTとは、音響インピーダンスに大きな差がある。このため、音響整合層を設けて音響インピーダンス差を段階的に変化させて超音波の伝播損失を抑えている。しかしながら、特許文献1には、被検体とUTとの間の音響インピーダンス差の緩和を考慮した記載がない。
【0008】
また、特許文献1に記載のUTは、音響レンズの表面に凹部を形成して、凹部に複数の受信用UTを配置する等、構成が複雑で製造コストが嵩む。
【0009】
さらに、UTから被検体に照射される超音波は、伝播するうちに歪んだ波形となり、基本波の周波数の整数倍である高調波成分を含んでいるが、特許文献1に記載のUTには、高調波成分を受信する工夫はない。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、より簡単な構成で製造コストも掛からず、さらに超音波の送信感度、および反射波、特にその高調波成分の受信感度を向上させることができる超音波トランスデューサ、及びこれを用いた超音波プローブを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の超音波トランスデューサは、被検体に超音波を送信する送信用圧電体の第一圧電体層と、被検体からの反射波を受信する互いに体積の異なる複数の受信用圧電体が配列された第二圧電体層と、前記第一及び第二圧電体層の間に設けられ、前記第一及び第二圧電体層に共通する電極を兼ねた音響整合層とを積層したことを特徴とする。
【0012】
前記第二圧電体層は、前記第一圧電体層よりも被検体側に位置することが好ましい。各受信用圧電体は、前記第二圧電体層に沿う反射波の受信面の面積が互いに異なることが好ましく、また、前記受信面に直交する方向の厚みが互いに異なることが好ましい。
【0013】
前記第一圧電体は、無機材料からなり、前記第二圧電体は、有機材料からなることが好ましい。または、前記第二圧電体は、有機材料に無機材料を分散させた複合圧電体であることが好ましい。
【0014】
前記音響整合層は、有機材料に金属を含有した複合体であることが好ましく、前記金属は、金属ナノ粒子であることが好ましい。または、前記音響整合層は、相対的に導電性の低い材料、又は導電性のない材料の表面を導電性のある材料で覆ったものであることが好ましい。
【0015】
本発明の超音波プローブは、上記の超音波トランスデューサを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の超音波トランスデューサ及び超音波プローブによれば、第一及び第二圧電体の共通電極を兼ねた音響整合層を有するとともに、反射波を受信する第二圧電体層が、互いに体積の異なる複数の受信用圧電体で構成されるので、より簡単な構成で製造コストも掛からず、さらに超音波の送信感度、および反射波、特にその高調波成分の受信感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】超音波診断装置の構成を示す概略図である。
【図2】超音波トランスデューサアレイを示す一部破断斜視図である。
【図3】超音波トランスデューサアレイ及び電気的構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1において、超音波診断装置2は、携帯型超音波観測器10と体外式の超音波プローブ11とで構成される。携帯型超音波観測器10は、装置本体12とカバー13とからなる。装置本体12の上面には、携帯型超音波観測器10に種々の操作指示を入力するための複数のボタンやトラックボールが設けられた操作部14が配されている。カバー13の内面には、超音波画像をはじめとして様々な操作画面を表示するモニタ15が設けられている。
【0019】
カバー13は、ヒンジ16を介して装置本体12に取り付けられており、操作部14とモニタ15とを露呈させる図示する開き位置と、装置本体12の上面とカバー13の内面を対面させて、操作部14とモニタ15を互いに覆って保護する閉じ位置(図示せず)との間で回動自在である。装置本体12の側面には、グリップ(図示せず)が取り付けられており、装置本体12とカバー13を閉じた状態で携帯型超音波観測器10を持ち運ぶことができる。装置本体12のもう一方の側面には、超音波プローブ11が着脱自在に接続されるプローブ接続部17が設けられている。
【0020】
超音波プローブ11は、術者が把持して被検体にあてがう走査ヘッド18と、プローブ接続部17に接続されるコネクタ19と、これらを繋ぐケーブル20とからなる。走査ヘッド18の先端部には、超音波トランスデューサアレイ(以下、UTアレイと略す)21が内蔵されている。
【0021】
図2において、UTアレイ21は、ガラス−エポキシ樹脂等の平板状の台座25上に、バッキング材26、下部電極27、送受信用圧電体28aからなる第一圧電体層28、第一音響整合層29、受信用圧電体30a〜30eからなる第二圧電体層30、上部電極31、第二音響整合層32、及び音響レンズ33が順次積層された構造を有する。
【0022】
バッキング材26は、超音波を放射する際の送受信用圧電体28aの自由振動を規制して、超音波の進行方向の分解能を向上させる。バッキング材26には、振動を吸収できる様々な材料を用いることができ、無機材料、有機材料いずれも適用可能である。特に、エポキシ系樹脂などの樹脂材料や、塩素化ポリエチレンゴム、天然ゴム、SBRなどのゴム系材料は、音響インピーダンスが小さく、感度を落とさずに振動を吸収できるため、好ましい。
【0023】
送受信用圧電体28aは、EL方向に長い短冊状をしており、EL方向と直交するアジマス方向(以下、AZ方向と略す)に複数等間隔で配列されている。各送受信用圧電体28aの隙間およびその周囲には、充填剤34が充填されている。
【0024】
送受信用圧電体28aは、厚みが0.1mm〜0.5mm程度であり、第一音響整合層29及び下部電極27によって上下から挟み込まれている。第一音響整合層29は導電性を有し、送受信用圧電体28aの上部電極を兼ねている。下部電極27は、例えば金薄膜からなる。第一音響整合層29及び下部電極27には、リード線(図示省略)がそれぞれ接続されている。下部電極27、送受信用圧電体28aからなる第一圧電体層28、及び第一音響整合層29は、これら一式で送受信用の超音波トランスデューサを構成する。
【0025】
第一音響整合層29に接続されたリード線は、接地されている(図3参照)。一方、下部電極27に接続されたリード線は、携帯型超音波観測器10に接続されている。携帯型超音波観測器10には送受信回路(図3参照)41が内蔵されており、この送受信回路41から送受信用圧電体28aにパルス電圧が印加されると、送受信用圧電体28aが振動して超音波を発生し、これにより被検体の被観察部位に超音波が照射される。また、被観察部位からの反射波を受信すると、送受信用圧電体28aが振動して電圧を発生し、この電圧が受信信号として出力される。
【0026】
送受信用圧電体28aには、圧電性を示す様々な無機材料を用いることができる。PZTを主体とするPb系の圧電材料が非常に好ましい。特に、近年巨大圧電定数を示す材料として用途が広がっているPMN−PTやPZN−PTなどのリラクサ系の圧電単結晶が好ましい。これらは、電気機械結合定数kが大きく、印加された電圧に対する超音波の出力の割合(変換効率)が比較的高い。
【0027】
受信用圧電体30a〜30eからなる第二圧電体層30は、音響整合層を兼ねており、第一、第二音響整合層29、32とともに、送受信用圧電体28aと人体との音響インピーダンスの差を段階的に緩和し、超音波の送受信感度を向上させる。また、第二音響整合層32は、人体と受信用圧電体30a〜30eとの音響インピーダンスの差を段階的に緩和し、超音波の受信感度を向上させる。
【0028】
第一音響整合層29には、音響インピーダンスが送受信用圧電体28aよりも小さくかつ受信用圧電体30a〜30eより大きい様々な導電性材料を用いることができる。具体的には、第一音響整合層29は、金属ナノ粒子(直径1nm〜100nm程度の金属粒子)と、接着性を有する樹脂とからなる混合物を焼成したものである。金属ナノ粒子として、銀ナノ粒子を含み、さらに好ましくは、金属ナノ粒子の全てが銀ナノ粒子である。銀ナノ粒子は、金属ナノ粒子のうち比較的樹脂に対する高分散性を有しているため、好適である。金属ナノ粒子含有樹脂を焼成すると、樹脂内で粒子が結合して導電性パスを形成する。これにより、高い導電性を得ることができる。なお、第一音響整合層29は、相対的に導電性の低い材料や導電性のない材料の表面を導電性のある材料で覆った形態であってもよい。
【0029】
受信用圧電体30a〜30eは、EL方向に等間隔で配列され、これら一式でEL方向に長い短冊状をなしている。受信用圧電体30a〜30eは、第二圧電体層30に沿う反射波の受信面の面積が順に小さくなっており、互いに異なる体積を有している。つまり、各受信用圧電体30a〜30eは、体積や形状等に起因する固有振動数を有しており、固有振動数に対応する振動数の反射波を感度良く受信する。
【0030】
受信用圧電体30a〜30eの一式は、送受信用圧電体28a同様、AZ方向に複数等間隔で配列されている。各受信用圧電体30a〜30eの隙間およびその周囲には、充填剤35が充填されている。
【0031】
受信用圧電体30a〜30eは、厚みが0.05mm〜0.3mm程度であり、上部電極31及び第一音響整合層29によって上下から挟み込まれている。上述のように第一音響整合層29は導電性を有し、送受信用圧電体28aの上部電極を兼ねているが、第一音響整合層29は、さらに、受信用圧電体30a〜30eの下部電極を兼ねている。つまり、第一音響整合層29は、送受信用圧電体28a及び受信用圧電体30a〜30eに共通する電極を兼ねている。上部電極31は、例えば金薄膜からなり、リード線(図示省略)が接続されている。
【0032】
上部電極31に接続されたリード線は、携帯型超音波観測器10に接続されている。受信用圧電体30a〜30eが反射波を受信すると、携帯型超音波観測器10に内蔵された送受信回路41(図3参照)に受信信号が入力される。第一音響整合層29、受信用圧電体30a〜30eからなる第二圧電体層30、及び上部電極31は、これら一式で受信用超音波トランスデューサを構成する。
【0033】
受信用圧電体30a〜30eは、互いに同じ材料からなる。材料には、音響インピーダンスが第一音響整合層29より小さくて第二音響整合層32より大きく、圧電性を示す様々な有機材料を用いることができる。PVDFやP(VDF−TrFE)などのフッ化系材料が好ましい。これらは、受信定数gが大きく、超音波の受信感度が比較的高い。なお、受信用圧電体30a〜30eには、有機材料に無機材料を分散させた複合圧電体を用いることもできる。
【0034】
第二音響整合層32には、音響インピーダンスが受信用圧電体30a〜30eより小さく人体より大きい様々な材料を用いることができる。具体的には、エポキシ系樹脂が挙げられる。
【0035】
音響レンズ33は、送受信用圧電体28aから発せられる超音波を被観察部位に集束させる。音響レンズ33は、例えばシリコーンゴムからなり、厚みは最大で1mm程度である。
【0036】
UTアレイ21の各層を積層させる際に用いる接着剤には、様々な材料を適用することができる。特に、エポキシ系樹脂は、音響透過性と接合強度に優れ、また、コスト的にも安価であるため好ましい。
【0037】
図3に示すように、送受信回路41には、パルサ42、レシーバ43、第一A/D44、画像生成部45、Tx/Rx46、レシーバ47、第二A/D48などが設けられている。
【0038】
パルサ42は、Tx/Rx46を介して下部電極27に接続されている。パルサ42は、下部電極27に対し、送受信用圧電体28aに超音波を発生させるための励振パルス(パルス電圧)を送信する。
【0039】
レシーバ43は、Tx/Rx46を介して下部電極27に接続されている。レシーバ43には、被観察部位で反射した超音波に基づく送受信用圧電体28aからの受信信号が入力され、これを増幅する。
【0040】
第一A/D44は、レシーバ43からの受信信号に対してA/D変換を施し、受信信号をデジタル化する。第一A/D44でデジタル化された受信信号は、画像生成部45に入力される。
【0041】
Tx/Rx46には、パルサ42及びレシーバ43が接続されており、これらの入出力を選択的に切り替える。
【0042】
レシーバ47は、上部電極31に接続されている。レシーバ47は、レシーバ43同様、受信用圧電体30a〜30eからの受信信号を増幅する。
【0043】
第二A/D48は、レシーバ47からの受信信号に対してA/D変換を施し、受信信号をデジタル化する。第二A/D48でデジタル化された受信信号は、画像生成部45に入力される。画像生成部45は、第一及び第二A/D44、48から入力された受信信号に基づいて超音波画像を生成し、モニタ15に出力する。なお、送受信回路41を構成する画像生成部45以外の各部は、一組の送受信用圧電体28a、受信用圧電体30a〜30e毎にある。
【0044】
このように、導電性を有する第一音響整合層29を、送受信用圧電体28a及び受信用圧電体30a〜30eに共通する電極として用いることで、別々の電極を用いた場合と比較して、構成が簡単で製造コストも掛からないUTアレイを容易に作製することができる。また、第一音響整合層29は、金属ナノ粒子含有樹脂が用いられているから、高い導電性を示し、共通電極として十分に機能する。
【0045】
さらに、第一音響整合層29に用いられる樹脂は熱硬化性であり、受信用圧電体30a〜30eの接着剤として機能するから、第一音響整合層の成膜後、接着剤を塗布して受信用圧電体30a〜30eを積層する従来の工程に比べて、工程数の増加を抑えて、UTアレイを容易に作製することができる。また、比較的薄層の電極数の増加も抑えられ、歩留まりの悪化が防止される。
【0046】
超音波は、伝播する被検体(生体組織)の物理的特性(硬さなど)の影響を受けて歪んだ波形となり、基本波の周波数の整数倍である高調波成分(非線形成分)を含むこととなる。基本波および各高調波の周波数に対応する固有振動数となるように、受信用圧電体30a〜30eの第二圧電体層30に沿う反射波の受信面の面積や形状等を設定しておくことで、反射波、特にその高調波成分(第二次高調波、第三次高調波、第四次高調波など)を感度良く受信することができる。
【0047】
また、受信した基本波や高調波成分の割合から、生体組織がどの程度非線形現象を起こすかを示す非線形パラメータ(B/Aパラメータ)を取得することができる。このB/Aパラメータは、主に生体組織の硬さを反映した数値であり、診断指標として用いることが期待されていたが、本発明によれば確証のある値を容易に取得できる。
【0048】
なお、超音波を送信する超音波トランスデューサとして、超音波の受信も行う送受信用圧電体28aを備えた場合を例に説明したが、送受信用圧電体28aに代えて、超音波の送信のみを行う送信用超音波トランスデューサを備えていてもよい。
【0049】
受信用圧電体30a〜30eの第二圧電体層30に沿う反射波の受信面の面積が、端から順に小さくなる場合を例に説明したが、互いに異なっていればよく、中央から両端に向けて順に小さくなるようにしてもよい。また、受信用圧電体30a〜30eの体積が互いに異なっていればよく、面積が順に小さくなることに代えて、あるいは加えて、第二圧電体層30の反射波の受信面に直交する方向の厚みが互いに異なるようにしてもよい。その厚みは、1/n(n:自然数)にすることで固有振動数はn倍になる。例えば、半分にすることで固有振動数は2倍になる。
【0050】
上部電極31とレシーバ(増幅器)47を接続する伝送線路が長くなると、伝送線路の持つ容量性抵抗により、上部電極31とレシーバ47との間の受信信号の電圧降下量が大きくなる。受信信号の電圧降下量が大きくなると、受信用圧電体30a〜30eで受信した超音波に基づく超音波画像の画質が劣化し、受信用圧電体30a〜30eに受信感度が高いものを用いた効果が半減する。
【0051】
このため、上部電極31とレシーバ47を接続する伝送線路は、できるだけ短いことが好ましく、上部電極31とレシーバ47とを直近に配置することが好ましい。具体的には、レシーバ47を、上記実施形態のように携帯型超音波観測器10ではなく、走査ヘッド18に内蔵する。
【0052】
[実施例1]
次に、UTアレイ21の各層を積層した実施例1を説明する。バッキング材26には、1cm厚に切り出した塩素化ポリエチレンゴムを用いた。バッキング材26上に、熱硬化型のエポキシ樹脂を用いてFPC(フレキシブルプリント回路)を接着した。
【0053】
送受信用圧電体28aには、PZT系圧電セラミックスであるC92H(株式会社富士セラミックス製)を用いた。送受信用圧電体28aの両面を研磨して、その厚さを260μmにした。送受信用圧電体28aの片面にTi、Pt、Auを順次スパッタリングして金属膜を形成した。送受信用圧電体28aの金属膜側を、バッキング材26上のFPCに接着した。接着剤には、銀ナノ粒子を含有した樹脂を用い、熱硬化させた。送受信用圧電体28aの音響インピーダンスは、約31Mraylであった。なお、バッキング材26上に接着されたFPCと、送受信用圧電体28a上に形成されたTi、Pt、Auの金属膜とは、下部電極27を構成する。
【0054】
送受信用圧電体28a上に、第一音響整合層29として、銀ナノ粒子を含有した樹脂(住友電気工業株式会社製)を厚さがλ/4(λ:超音波の波長)となるように塗布した。第一音響整合層29の塗布後、約180℃の大気中で1時間の加熱により硬化させた。加熱後、第一音響整合層29の音響インピーダンスは、約12Mraylであった。
【0055】
受信用圧電体30a〜30eには、音響インピーダンスが4.5MraylのPVDFを用いた。受信用圧電体30a〜30eをλ/4の厚さに成型し、その片面にベタ電極(金属膜)を形成した。受信用圧電体30a〜30eをベタ電極の反対側で、第一音響整合層29に接着した。接着剤には、銀ナノ粒子を含有した樹脂を用いた。なお、受信用圧電体30a〜30eに形成されたベタ電極は、上部電極31を構成する。
【0056】
そして、音響インピーダンスが2Mraylのエポキシ系樹脂を、その厚さがλ/4となるように研磨してから、第二音響整合層32として上部電極31上に、熱硬化型のエポキシ系接着剤を用いて接着した。同様に、第二音響整合層32上に音響レンズ33を接着した。
【0057】
なお、以下の例では、実施例1と同様の構成を省略して異なる部分を説明する。
【0058】
[実施例2]
送受信用圧電体28aには、リラクサ系圧電単結晶であるPMN−PT(Pb(Mg,Nb)O−PbTiO系材料、JFEミネラル株式会社製)を用いた。送受信用圧電体28aの両面研磨により、その厚さを240μmにした。送受信用圧電体28aの音響インピーダンスは、約22Mraylであった。
【0059】
実施例1と同様、第一音響整合層29を積層してから、約160℃の大気中で1時間の加熱により硬化させた。加熱後、第一音響整合層29の音響インピーダンスは、約11Mraylであった。
【0060】
[比較例1]
送受信用圧電体28aの両面にTi、Pt、Auを順次スパッタリングして金属膜を形成した。両面に金属膜が形成された送受信用圧電体28aを、バッキング材26上のFPCに接着した。接着剤には、銀ナノ粒子を含有した樹脂を用い、100℃の大気中で1時間加熱して熱硬化を行った。送受信用圧電体28aの音響インピーダンスは、約31Mraylであった。
【0061】
比較例1では、第一音響整合層29を積層せず、その代わり、送受信用圧電体28aの上面に形成した金属膜を上部電極とした。また、受信用圧電体30a〜30eを積層せず、その代わり、音響インピーダンスが8Mraylのジルコニア粒子分散エポキシ系樹脂を、その厚さがλ/4となるように研磨してから、音響整合層として送受信用圧電体28a上に積層した。接着剤には、熱硬化型のエポキシ系のものを用い、加熱により硬化させた。
【0062】
さらに、音響インピーダンスが3Mraylのエポキシ系樹脂を、その厚さがλ/4となるように研磨してから、第二音響整合層32として、熱硬化型のエポキシ系接着剤を用いて接着した。
【0063】
【表1】

【0064】
上記表1は、すでに説明した、各実施例及び比較例1における各層の材料と音響インピーダンス[Mrayl]との関係をまとめたものである。送受信用圧電体28aは、実施例2だけが22Mraylの音響インピーダンスを有したリラクサ系圧電単結晶を材料とするが、その他の例では、31Mraylの音響インピーダンスを有したPZT系圧電セラミックスを材料とする。
【0065】
第一音響整合層29は、実施例1、2では、銀ナノ粒子含有樹脂を材料とする。その音響インピーダンスは、実施例1では12Mraylであり、実施例2では11Mraylである。一方、比較例1では、第一音響整合層29を備えていない。
【0066】
受信用圧電体30a〜30eは、実施例1、2では、4.5MraylのPVDFを材料とする。一方、比較例1では、受信用圧電体30a〜30eの代わりに、8Mraylの音響インピーダンスを有したジルコニア粒子分散エポキシ系樹脂を備えている。
【0067】
第二音響整合層32は、全ての例でエポキシ系樹脂を材料とする。その音響インピーダンスは、比較例1だけが3Mraylであるが、その他の例では2Mraylである。
【0068】
各実施例及び比較例1で作製したUTアレイ21の受信感度を調べる試験を行った。各実施例では、基本波に加えて、高調波成分を感度良く受信した。
【0069】
これに対し、比較例1では、送信周波数が所定以上の場合、基本波を受信することができたが、高調波成分を受信することはできなかった。なお、送信周波数を下げることで、高調波成分を受信することも可能であったが、このときの送信周波数は、超音波撮像を行うためには不十分であった。
【0070】
このように、送受信用圧電体28aとは別に、互いに体積の異なる複数の受信用圧電体30a〜30eを備えたことで、基本波に加えて高調波成分を感度良く受信することが可能となった。
【0071】
上記実施形態では、いわゆるコンベックス電子走査型の体外式の超音波プローブを例示したが、ラジアル電子走査型、あるいは1個のUTを機械的に回転あるいは揺動、もしくはスライドさせるメカニカルスキャン走査方式の超音波プローブでもよい。電子内視鏡の鉗子チャンネルに挿入される体内式の超音波プローブや、電子内視鏡と一体化された超音波内視鏡についても本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
2 超音波診断装置
11 超音波プローブ
21 超音波トランスデューサアレイ(UTアレイ)
27 下部電極
28 第一圧電体層
28a 送受信用圧電体
29 第一音響整合層
30 第二圧電体層
30a〜30e 受信用圧電体
31 上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に超音波を送信する送信用圧電体の第一圧電体層と、
被検体からの反射波を受信する互いに体積の異なる複数の受信用圧電体が配列された第二圧電体層と、
前記第一及び第二圧電体層の間に設けられ、前記第一及び第二圧電体層に共通する電極を兼ねた音響整合層とを積層したことを特徴とする超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記第二圧電体層は、前記第一圧電体層よりも被検体側に位置することを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
各受信用圧電体は、前記第二圧電体層に沿う反射波の受信面の面積が互いに異なることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項4】
各受信用圧電体は、前記受信面に直交する方向の厚みが互いに異なることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の超音波トランスデューサ。
【請求項5】
前記送信用圧電体は、無機材料からなり、
前記受信用圧電体は、有機材料からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超音波トランスデューサ。
【請求項6】
前記送信用圧電体は、無機材料からなり、
前記受信用圧電体は、有機材料に無機材料を分散させた複合圧電体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超音波トランスデューサ。
【請求項7】
前記音響整合層は、有機材料に金属を含有した複合体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の超音波トランスデューサ。
【請求項8】
前記金属は、金属ナノ粒子であることを特徴とする請求項7に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項9】
前記音響整合層は、相対的に導電性の低い材料、又は導電性のない材料の表面を導電性のある材料で覆ったものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の超音波トランスデューサ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の超音波トランスデューサを備えたことを特徴とする超音波プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−67485(P2011−67485A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222007(P2009−222007)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】