説明

超音波プローブおよび超音波診断装置

【課題】より低電圧駆動で超音波トランスデューサの送受信感度を向上させる。
【解決手段】超音波トランスデューサ(UT)27は、ソフト・リラクサー系の第1圧電体(Ps)35と、ハード系の第2圧電体(Ph)36と、第1、第2電極37、38、およびPs35の上面電極とPh36の下面電極を兼ねる第3電極39とを備える。第1電極37には第1スイッチ(SWa)41を介してパルサ44が、第2電極38には第2スイッチ(SWb)42を介して受信アンプ45が、第3電極39には第3スイッチ(SWc)43を介してグランドがそれぞれ接続される。超音波の送信時は、パルサ44からPs35のみに励振パルスが印加される。超音波の受信時は、Ps35、Ph36が直列接続され、各検出信号の和が受信アンプ45に入力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波プローブおよび超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波プローブを利用した医療診断が盛んに行われている。超音波プローブの先端には、超音波トランスデューサ(以下、UTと略す)が配されている。UTは、バッキング材、圧電体およびこれを挟む電極、音響整合層、および音響レンズから構成される。UTから被検体(人体)に超音波を照射し、被検体からの反射波をUTで受信する。これにより出力される検出信号を超音波観測器で電気的に処理することによって、超音波画像が得られる。
【0003】
また、超音波を走査しながら照射することにより、超音波断層画像を得ることも可能である。超音波断層画像を得る方法としては、UTを機械的に回転あるいは揺動、もしくはスライドさせるメカニカルスキャン走査方式や、複数のUTをアレイ状に配列(以下、UTアレイという)し、駆動するUTを電子スイッチ等で選択的に切り替える電子スキャン走査方式が知られている。
【0004】
被検体のより深部を高精細な画像で観察したいという要求が高まっている。この要求に応えるためには、UTの送受信感度を高めることが必要である。従来、UTの送受信感度を高めるための対策として、UTの部材の材料選定、最適化が行われてきた。例えば1−3複合圧電体や単結晶圧電体(PMN−PT、PZN−PT等)、積層圧電体を用いたり、音響整合層、音響レンズの音波減衰を低減させたりしている。また、別の対策として、UTに印加する電圧を上げて超音波の送信パワーを増大させることも考えられる。
【0005】
しかしながら、前者の材料選定、最適化の対策は、改善がいきつくところまでいった感があり、その効果も頭打ちの状況である。現況では飛躍的なUTの送受信感度向上は見込めない。また、後者の超音波の送信パワーを増大させる対策は、人体への影響を考えると好ましくない。
【0006】
特許文献1には、圧電体の電極を複数に分割した超音波プローブが開示されている。電極を分割したので、1個の圧電体を複数の圧電体として扱うことができ、超音波の送信時には複数の圧電体を並列接続し、反射波の受信時は直列接続することで送受信感度の向上を達成している。送信時のパワー不足を補うため、UTに印加する電圧を上げることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平03−110998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、超音波の送信時のパワー不足を補うためにUTに印加する電圧を上げている。印加電圧を上げると電圧印加回路(パルサ)の規模が大きくなるし、電力消費も嵩む。電圧印加回路を内蔵するタイプの超音波プローブでは、電圧印加回路の規模が大きくなると超音波プローブが大型化し、超音波プローブに最も必要な操作性が阻害される。特に、電圧印加回路を内蔵する無線タイプの超音波プローブは、印加電圧が高くなると超音波プローブが大型化することに加え、バッテリ駆動であるため耐用時間が短くなり、使い勝手が悪くなる。
【0009】
本発明は、上記背景を鑑みてなされたものであり、その目的は、より低電圧駆動で超音波トランスデューサの送受信感度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の超音波プローブは、超音波の送信能力および反射波の受信感度が異なり、超音波および反射波の送受波面に平行な方向に並べられた複数の圧電体、並びに隣り合う圧電体の一方の上面電極および他方の下面電極を兼ねる兼用電極を含む電極を有し、該電極により複数の圧電体が直列接続された超音波トランスデューサと、1個以外の圧電体に電極を介して駆動電圧を印加して超音波を発生させ、且つ反射波を受信して圧電体から出力される検出電圧が全ての圧電体の分加算されるよう、前記超音波トランスデューサの駆動を制御する駆動制御手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
なお、「超音波の送信能力および反射波の受信感度が異なる複数の圧電体」とは、複数の圧電体の1個1個が互いに異なる場合と、複数の圧電体のうち、少なくとも1個が他と異なる場合を含む。
【0012】
複数の圧電体は、超音波および反射波の送受波面の法線方向に分極されている。また、複数の圧電体は、等価圧電定数d33、電圧出力係数g33、または超音波および反射波の送受波面の面積比率が異なる。
【0013】
直列接続の一方の端の第1圧電体と、前記第1圧電体よりも超音波の送信能力が低く反射波の受信感度が高く、超音波および反射波の送受波面の面積比率が低い直列接続の他方の端の第2圧電体と、前記第1圧電体の兼用電極ではない電極に接続され、駆動電圧を供給するパルサと、前記第2圧電体の兼用電極ではない電極に接続され、検出電圧を増幅する増幅器と、前記第1圧電体、前記第2圧電体の電極と前記パルサおよび前記増幅器の接続のオン/オフを切り替える切り替えスイッチとを備えることが好ましい。前記駆動制御手段は、前記第2圧電体以外の圧電体に駆動電圧が印加され、且つ全ての圧電体からの検出信号の和が前記増幅器に入力されるよう、前記切り替えスイッチを動作させる。
【0014】
前記増幅器と前記第2圧電体の電極は、電気容量性の伝送線路を介さずに直接接続されている。前記増幅器は、電圧帰還型または電荷蓄積型等が考えられる。
【0015】
前記第2圧電体は、前記第1圧電体よりも等価圧電定数d33が低く、電圧出力係数g33が高く、超音波および反射波の送受波面の面積比率が小さい。例えば、前記第1圧電体はソフト・リラクサー系、前記第2圧電体はハード系の圧電セラミックスである。
【0016】
前記超音波トランスデューサは、複数アレイ状に配列されている。この場合、圧電体に駆動電圧を供給するパルサと、前記パルサを駆動させ、超音波を走査させる走査制御手段と、前記増幅器で増幅された検出電圧をデジタルの検出信号とするA/D変換器と、検出信号から超音波画像を生成するための信号処理を実行する信号処理手段と、各部を統括的に制御する主制御手段とを備えることが好ましい。
【0017】
超音波および反射波を送受波する前記超音波トランスデューサを選択的に切り替えるマルチプレクサを備えてもよい。さらに、各部に電源を供給する電源供給手段と、超音波画像を表示する超音波観測器に信号処理後の検出信号を無線送信する無線送信手段とを備えてもよい。
【0018】
本発明の超音波診断装置は、超音波の送信能力および反射波の受信感度が異なり、超音波および反射波の送受波面に平行な方向に並べられた複数の圧電体、並びに隣り合う圧電体の一方の上面電極および他方の下面電極を兼ねる兼用電極を含む電極を有し、該電極により複数の圧電体が直列接続された超音波トランスデューサ、および1個以外の圧電体に電極を介して駆動電圧を印加して超音波を発生させ、且つ反射波を受信して圧電体から出力される検出電圧が全ての圧電体の分加算されるよう、前記超音波トランスデューサの駆動を制御する駆動制御手段を備える超音波プローブと、前記超音波プローブと接続され、超音波画像を表示する超音波観測器とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、超音波の送信能力および反射波の受信感度が異なり、兼用電極を含む電極により直列接続された複数の圧電体を有する超音波トランスデューサを、1個以外の圧電体に電極を介して駆動電圧を印加して超音波を発生させ、且つ反射波を受信して圧電体から出力される検出電圧が全ての圧電体の分加算されるよう駆動するので、超音波トランスデューサの送受信感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】超音波診断装置の構成を示す外観図である。
【図2】超音波トランスデューサアレイの構成を示す斜視図である。
【図3】超音波トランスデューサの構成を示す拡大断面図である。
【図4】(A)超音波の送信時および(B)反射波の受信時の超音波トランスデューサの等価回路を示す説明図である。
【図5】第1、第2圧電体の合成静電容量比と面積比率の関係を示すグラフである。
【図6】超音波診断装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図7】別の例の超音波トランスデューサの構成を示す拡大断面図である。
【図8】別の例の超音波診断装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図9】マルチプレクサを接続したさらに別の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1において、超音波診断装置2は、携帯型超音波観測器10と体外式の超音波プローブ11とで構成される。携帯型超音波観測器10は、装置本体12とカバー13とからなる。装置本体12の上面には、携帯型超音波観測器10に種々の操作指示を入力するための複数のボタンやトラックボールが設けられた操作部14が配されている。カバー13の内面には、超音波画像をはじめとして様々な操作画面を表示するモニタ15が設けられている。
【0022】
カバー13は、ヒンジ16を介して装置本体12に取り付けられており、操作部14とモニタ15とを露呈させる図示する開き位置と、装置本体12の上面とカバー13の内面を対面させて、操作部14とモニタ15を互いに覆って保護する閉じ位置(図示せず)との間で回動自在である。装置本体12の側面には、グリップ(図示せず)が取り付けられており、装置本体12とカバー13を閉じた状態で携帯型超音波観測器10を持ち運ぶことができる。装置本体12のもう一方の側面には、超音波プローブ11が着脱自在に接続されるプローブ接続部17が設けられている。
【0023】
超音波プローブ11は、術者が把持して被検体にあてがう走査ヘッド18と、プローブ接続部17に接続されるコネクタ19と、これらを繋ぐケーブル20とからなる。走査ヘッド18の先端部には、超音波トランスデューサアレイ(以下、UTアレイと略す)21が内蔵されている。
【0024】
図2において、UTアレイ21は、ガラス−エポキシ樹脂等の平板状の台座25上に、バッキング材26、超音波トランスデューサ(以下、UTと略す)27、音響整合層28a、28b、および音響レンズ29が順次積層された構造を有する。
【0025】
バッキング材26は、例えばエポキシ樹脂やシリコーン樹脂からなり、UT27から台座25側に発せられる超音波を吸収する。バッキング材26は、エレベーション方向(以下、EL方向と略す)に垂直な断面が略蒲鉾様に形成された凸状である(図1も参照)。
【0026】
UT27は、EL方向に長い短冊状をしており、EL方向と直交するアジマス方向(以下、AZ方向と略す)に複数等間隔で配列されている。各UT27の隙間およびその周囲には、充填材30が充填されている。
【0027】
音響整合層28a、28bは、UT27と被検体との間の音響インピーダンスの差異を緩和するために設けられている。音響レンズ29は、シリコーン樹脂等からなり、UT27から発せられる超音波を被検体内の被観察部位に向けて集束させる。なお、音響レンズ29は無くてもよく、音響レンズ29の代わりに保護層を設けてもよい。後述する第1電極37とパルサ44との間に遅延線を設け、励振パルスをUT27に与えるタイミングをずらすことで、電気的に超音波を集束させてもよい。
【0028】
図3において、UT27は、第1圧電体(以下、Psと略す)35、第2圧電体(以下、Phと略す)36、および第1、第2、第3電極37、38、39から構成される(台座25、音響整合層28a、28b、および音響レンズ29は図示せず)。
【0029】
Ps35は、一般にソフト・リラクサー系と呼ばれる圧電セラミックスであり、例えばPb(Mn、Nb)O−PbTiO、Pb(Ni、Nb)O−PbTiO、Pb(Zn、Nb)O−PbTiO等を主体とする。Ph36は、Ps35とは異なり、一般にハード系と呼ばれる圧電セラミックスであり、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系である。Ps35とPh36は、ともに同じ方向(矢印で示す下から上の方向)に分極している。
【0030】
Ps35とPh36は、AZ方向に平行な線で分断されている。Ps35は、EL方向の長さがPh36よりも長く、従ってその上面である送受波面の面積はPh36よりも大きい。送受波面の面積比率は、例えばPs:Ph=4:1である。
【0031】
本例では、Ps35として富士セラミックス社製の型番C−92Hを、Ph36として同社製の型番C−5を用いる。表1に示すように、Ps35に用いる型番C−92Hは、比誘電率ε33が5300、等価圧電定数d33が770、電圧出力係数g33が16.4である。一方、Ph36に用いる型番C−5は、比誘電率ε33が1170、等価圧電定数d33が333、電圧出力係数g33が32.1である。型番C−5は、等価圧電定数d33が型番C−92Hの約0.43倍、電圧出力係数g33が約1.95倍である。等価圧電定数d33が大きいほど超音波の送信能力が高く、電圧出力係数g33が大きいほど反射波の受信感度が高いので、Ps35はPh36よりも送信能力が高く、Ph36はPs35よりも受信感度が高いといえる。
【0032】
【表1】

【0033】
第1電極37、第2電極38はそれぞれ、Ps35の下面電極、Ph36の上面電極である。第3電極39は、Ps35の上面電極とPh36の下面電極を兼ねる。第3電極39は、Ps35とPh36の分断箇所で略乙字状に屈曲した接続部40を有する。接続部40は、Ps35の上面電極の部分とPh36の下面電極の部分を繋ぐ。Ps35とPh36の外側面および接続部40があるPs35とPh36の分断箇所には、充填材30が充填されている。なお、第1電極37、第2電極38をそれぞれ、Ps35の上面電極、Ph36の下面電極とし、第3電極39がPs35の下面電極とPh36の上面電極を兼ねる構成としてもよい。
【0034】
第1〜第3電極37〜39には、第1、第2、第3スイッチ(以下、SWa、SWb、SWcという)41、42、43がそれぞれ接続されている。SWa41は二股のスイッチであり、第1電極37とパルサ44またはグランドとを選択可能に繋ぐ。SWb42、SWc43はそれぞれ、第2電極38と電圧帰還型または電荷蓄積型の受信アンプ45、第3電極39とグランドの接続をオン/オフする。第2電極38、SWb42、および受信アンプ45は、電気容量性の伝送線路を介さずに互いに直接接続されている。
【0035】
表2に示すように、SWa〜SWc41〜43は、超音波の送信時と反射波の受信時で選択状態が変わる。超音波の送信時、SWa41は、パルサ44側に倒される。また、SWb42はオフ、SWc43はオンとなる。図3に示す状態と同じである。この場合の等価回路は、図4(A)に示すようになる。すなわち、パルサ44と第1電極37、第3電極39とグランドが繋がれる。そして、第1電極37と第3電極39に挟まれたPs35にパルサ44からの励振パルス(駆動電圧)が印加され、Ps35の上面から超音波(点線矢印で示す)が発せられる。SWb42がオフなので、第2電極38と第3電極39に挟まれたPh36には励振パルスは印加されず、従ってPh36から超音波は発せられない。
【0036】
一方、反射波の受信時、SWa41は、グランド側に倒される。また、SWb42はオン、SWc43はオフとなる。この場合の等価回路は、図4(B)に示すように、グランドと第1電極37、第2電極38と受信アンプ45が繋がれる。Ps35とPh36は、各電極37〜39によって受信アンプ45に直列接続される。Ps35とPh36の上面に反射波(点線矢印で示す)が入射すると、これに応じた検出信号(検出電圧)がPs35とPh36から出力される。Ps35とPh36は、ともに矢印で示す同じ方向に分極しているため、各検出信号も同極性で打ち消し合わない。また、Ps35とPh36は直列接続されているため、第2電極38、SWb42を介して受信アンプ45に入力される検出信号は、Ps35とPh36から出力された各検出信号の和である。
【0037】
【表2】

【0038】
なお、表2の「active」は駆動、「inactive」は非駆動を示す。超音波の送信時はPs35のみから超音波が発せられるので、Ps35は「active」、Ph36は「inactive」である。反射波の受信時は、Ps35とPh36両方で反射波を受けて検出信号を出力するので、両方とも「active」である。
【0039】
超音波の送信時は比較的送信能力が高いPs35で超音波を発し、反射波の受信時はPs35と、比較的受信感度が高いPh36で反射波を受けるので、Ps35、Ph36の互いの長所を活かした(短所を補った)駆動方法であるといえる。
【0040】
Ps35として富士セラミックス社製の型番C−92Hを、Ph36として同社製の型番C−5を用いた場合、これらを直列接続したときの合成静電容量は、Ps35とPh36の送受波面の面積比率に応じて図5のように変化する。縦軸はPs35単体を1としたときの合成静電容量の比、横軸はPs35の送受波面の面積比率である。
【0041】
いま、例えばPs35の送受波面の面積比率を80%(Ph36の送受波面の面積比率20%)としたとき、合成静電容量の比は、グラフから0.055と読み取れる。腹部用の超音波プローブに用いられる圧電体の静電容量は、通常200〜300pF程度である。本例の圧電体の静電容量は、200〜300×0.055=11〜16.5pF程度となり低下する。本例では、この静電容量低下に伴う電圧降下の影響を極力抑えるため、受信アンプ45をUT27の直近に配置して、第2電極38、SWb42、および受信アンプ45を互いに直接接続し、伝送線路による電圧降下を低減している。
【0042】
また、送受信感度は、(送波面の面積比率)×{(Ps35の受信感度)+(Ph36の受信感度)}=(送波面の面積比率)×{1+(Ps35に対するPh36の電圧出力係数g33の比)}=0.80×(1+1.95)=2.36(=+7.46dB)となる。単純に同じ種類の圧電体を直列接続した場合、送受信感度は圧電体の個数倍にしかならないが、本例では個数倍以上に送受信感度が向上する。
【0043】
図6において、受信アンプ45にはレシーバ50が接続され、レシーバ50にはA/D変換器(以下、A/Dと略す)51が接続されている。レシーバ50は、受信アンプ45で増幅された検出信号を受信する。A/D51は、レシーバ50からの検出信号にデジタル変換を施し、検出信号をデジタル化する。このレシーバ50、A/D51と、前述のパルサ44、受信アンプ45は、ここでは1組しか図示していないが、1個のUT27に対して1個ずつ、つまりUT27の個数分設けられている。
【0044】
パルサ44は、CPU52の制御の下、走査制御部53によって駆動制御される。走査制御部53は、複数のパルサ44の中から、駆動させるパルサ44を選択して、これを所定の時間間隔で順次切り替える。具体的には、例えばUT27が128個配されている場合、128個のUT27のうち、隣接する48個のUT27を1つのブロックとして各UT27に任意の遅延差を与えて駆動させるように選択し、超音波および反射波の1回の送受信毎に、駆動させるUT27を1〜数個ずつずらす。パルサ44は、走査制御部53から送信される駆動信号に基づいて、UT27に超音波を発生させるための励振パルスを送信する。
【0045】
また、走査制御部53は、SWa〜SWc41〜43のスイッチング動作を制御する。
【0046】
A/D51は、ビームフォーマ(以下、BFと略す)54と接続している。BF54は、A/D51でデジタル化された検出信号に対して、位相整合演算を施す。検波Log圧縮回路55は、BF54から出力される検出信号の振幅を検波し、Log圧縮を施す。検波Log圧縮回路55から出力された検出信号は、メモリ(図示せず)に一旦格納される。
【0047】
携帯型超音波観測器10は、デジタルスキャンコンバータ(以下、DSCと略す)60を有する。DSC60は、コネクタ19、プローブ接続部17等を介して超音波プローブ11のメモリからデジタルの検出信号を受け取る。DSC60は、CPU61の制御の下、検出信号をテレビ信号に変換する。DSC60で変換されたテレビ信号は、D/A変換器(図示せず)でD/A変換が施され、モニタ15に超音波画像として表示される。
【0048】
CPU61は、携帯型超音波観測器10の各部の動作を統括的に制御する。CPU61は、操作部14からの操作入力信号に基づいて各部を動作させる。また、CPU61は、電源供給部62を駆動制御し、超音波プローブ11への電源供給を行わせる。
【0049】
上記構成を有する超音波診断装置2の作用について説明する。まず、超音波プローブ11のコネクタ19を携帯型超音波観測器10のプローブ接続部17に挿入固定し、携帯型超音波観測器10と超音波プローブ11の電気的機械的接続を得る。そして、操作部14を操作して携帯型超音波観測器10の電源を立ち上げるとともに、電源供給部62から超音波プローブ11に電源を供給する。術者は、超音波プローブ11の走査ヘッド18を被検体に押し当てながら、携帯型超音波観測器10のモニタ15に表示される超音波画像を観察して診断を行う。
【0050】
超音波プローブ11では、走査制御部53によって選択されたパルサ44からUT27に励振パルスが送信され、UT27から被検体に超音波が照射される。走査制御部53により駆動されるパルサ44は、超音波および反射波の1回の送受信毎に順次切り替えられる。これにより被検体に超音波が走査される。
【0051】
このとき、走査制御部53により、超音波を照射するUT27のSWa41がパルサ44側に倒され、SWb42がオフ、SWc43がオンされる。パルサ44からの励振パルスは、第1電極37と第3電極39を介してPs35に印加され、Ps35から被検体に向けて超音波が発せられる。Ph36からは超音波は発せられない。
【0052】
Ps35から発せられた超音波は被検体で反射され、その反射波に応じた検出信号がUT27から出力される。このとき、走査制御部53により、反射波を受信するUT27のSWa41がグランド側に倒され、SWb42がオン、SWc43がオフされる。各電極37〜39によって、Ps35とPh36が受信アンプ45に直列接続される。受信アンプ45には、Ps35とPh36から出力された各検出信号の和が入力される。
【0053】
UT27からの検出信号は、受信アンプ45で増幅された後、レシーバ50に受信され、A/D51でA/D変換されてデジタル化される。A/D51でデジタル化された検出信号は、BF54に送られてBF54で位相整合演算され、さらに検波Log圧縮回路55で検波、Log圧縮された後、メモリに一旦格納される。
【0054】
検波、Log圧縮後の検出信号は、コネクタ19、プローブ接続部17等を介して携帯型超音波観測器10のDSC60に送信され、DSC60でテレビ信号に変換される。DSC60で変換されたテレビ信号は、D/A変換されてモニタ15に超音波画像として表示される。
【0055】
以上説明したように、比較的送信能力に長けたPs35と比較的受信感度が高いPh36を各電極37〜39で直列接続し、超音波の送信時はPs35を用い、反射波の受信時はPs35とPh36の両方で検出信号を出力してその和を受信アンプ45に入力するので、従来よりもさらに送受信感度を向上させることができる。送受信感度が向上すれば、UT27に与える駆動電圧を上げる必要がなくなり、低電圧駆動が可能となる。
【0056】
上記実施形態では、Ps35とPh36の2個の圧電体を有するUT27を例示したが、圧電体の個数は2個以上でもよい。例えば図7に示すUT70のように、ソフト・リラクサー系のPs35とハード系のPh36に、もう1個ハード系の第3圧電体(以下、Ph’と略す)71を追加した構成としてもよい。上記実施形態と同様、Ps35、Ph36、およびPh’71は、同じ方向に分極している。また、Ph36とPh’71の送受波面の面積は同じであり、送受波面の面積比率は、例えばPs:Ph:Ph’=4:1:1である。
【0057】
この場合、上記実施形態の第3電極39に加えて、Ph36の上面電極とPh’71の下面電極を兼ね、第3電極39の接続部40と同様の接続部73を有する第4電極72を形成する。また、上記実施形態の第2電極38をPh’71の上面電極とする。第1、第2電極37、38とSWa41、SWb42との接続は上記実施形態と同じである。第3電極39の代わりに第4電極72にSWc43が接続されている点が上記実施形態と異なる。超音波の送信時と反射波の受信時のSWa〜SWc41〜43の選択状態は、表2と同じである。
【0058】
超音波の送信時は、Ps35とPh36から超音波が発せられる。Ph’71からは発せられない。反射波の受信時には、Ps35、Ph36、およびPh’71が受信アンプ45に直列接続される。直列接続する圧電体が多くなる分、合成静電容量は低下するが、送受信感度は向上する。なお、第3電極39がPs35の上面電極とPh36の下面電極となっているので、Ps35とPh36から発せられる超音波は逆位相となるが、Ph36の送受波面の面積がPs35に比して小さく、等価圧電定数d33もPh36の方が小さいので、Ph36の超音波によるPs35の超音波のキャンセル量は軽微である。
【0059】
UTを構成する圧電体の個数がn個(nは2以上の自然数)であった場合、隣り合う圧電体の一方の上面電極および他方の下面電極を兼ねる、第3電極39や第4電極72等の兼用電極はn−1個必要である。兼用電極を含む電極の総数はn+1個であり、兼用電極以外の電極は第1電極37と第2電極38の2個である。
【0060】
上記実施形態では、携帯型超音波観測器10と超音波プローブ11がケーブル20で有線接続される例を挙げたが、図8に示す超音波診断装置80のように、携帯型超音波観測器81と超音波プローブ82間のデータの送受信を無線で行うものに適用してもよい。
【0061】
図8において、携帯型超音波観測器81と超音波プローブ82にはそれぞれ、A/D変換後の検出信号を無線で遣り取りするための無線受信部83と無線送信部84が設けられている。また、超音波プローブ82には、バッテリ85が内蔵されており、バッテリ85からの電源が電源供給部86を介して超音波プローブ82の各部に供給される。
【0062】
本発明によれば、比較的低い電圧でUTを駆動しても、比較的高い送受信感度が得られるので、超音波プローブ82のようにバッテリ85で駆動するタイプの耐用時間を従来よりも長引かせることができる。また、低電圧駆動であるためパルサ等の回路規模を小さくすることができ、ひいては超音波プローブの小型化にも寄与することができる。
【0063】
なお、図9に示すように、UTアレイ21とパルサ44およびレシーバ50の間に、駆動するUT27を選択的に切り替えるマルチプレクサ(以下、MUXと略す)90を介挿してもよい。例えばUT27が128個で、隣接する48個のUT27を1つのブロックとして各UT27に任意の遅延差を与えて駆動させる場合、MUX90で駆動させる48個を選択する。こうすれば、一度に駆動するUT27の個数分(この場合は48個分)、パルサ44とレシーバ50を用意すればよいので、超音波プローブをさらに小型化することができる。
【0064】
上記実施形態では、隣り合う圧電体の一方の上面電極および他方の下面電極を兼ねる兼用電極である第3電極39や第4電極72に接続部40、73を設けているが、接続部の代わりにワイヤボンディング等で隣り合う圧電体の一方の上面電極および他方の下面電極を導通させてもよい。
【0065】
上記実施形態では、EL方向に沿って各圧電体を並べているが、AZ方向に沿って並べても構わない。また、ハード系の圧電セラミックスの代わりに、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等の圧電樹脂を用いてもよい。
【0066】
上記実施形態では、いわゆるコンベックス電子走査型の体外式の超音波プローブを例示したが、ラジアル電子走査型、あるいは1個のUTを機械的に回転あるいは揺動、もしくはスライドさせるメカニカルスキャン走査方式の超音波プローブでもよい。電子内視鏡の鉗子チャンネルに挿入される体内式の超音波プローブや、電子内視鏡と一体化された超音波内視鏡についても本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
2、80 超音波診断装置
10、81 携帯型超音波観測器
11、82 超音波プローブ
21 超音波トランスデューサアレイ(UTアレイ)
27、70 超音波トランスデューサ(UT)
35 第1圧電体(Ps)
36 第2圧電体(Ph)
37〜39 第1〜第3電極
40、73 接続部
41〜43 第1〜第3スイッチ(SWa〜SWc)
44 パルサ
45 受信アンプ
51 A/D変換器(A/D)
52 CPU
53 走査制御部
54 ビームフォーマ(BF)
55 検波Log圧縮回路
71 第3圧電体(Ph’)
72 第4電極
84 無線送信部
85 バッテリ
90 マルチプレクサ(MUX)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送信能力および反射波の受信感度が異なり、超音波および反射波の送受波面に平行な方向に並べられた複数の圧電体、並びに隣り合う圧電体の一方の上面電極および他方の下面電極を兼ねる兼用電極を含む電極を有し、該電極により複数の圧電体が直列接続された超音波トランスデューサと、
1個以外の圧電体に電極を介して駆動電圧を印加して超音波を発生させ、且つ反射波を受信して圧電体から出力される検出電圧が全ての圧電体の分加算されるよう、前記超音波トランスデューサの駆動を制御する駆動制御手段とを備えることを特徴とする超音波プローブ。
【請求項2】
複数の圧電体は、超音波および反射波の送受波面の法線方向に分極されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項3】
複数の圧電体は、等価圧電定数d33、電圧出力係数g33、または超音波および反射波の送受波面の面積比率が異なることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波プローブ。
【請求項4】
直列接続の一方の端の第1圧電体と、
前記第1圧電体よりも超音波の送信能力が低く反射波の受信感度が高く、超音波および反射波の送受波面の面積比率が低い直列接続の他方の端の第2圧電体と、
前記第1圧電体の兼用電極ではない電極に接続され、駆動電圧を供給するパルサと、
前記第2圧電体の兼用電極ではない電極に接続され、検出電圧を増幅する増幅器と、
前記第1圧電体、前記第2圧電体の電極と前記パルサおよび前記増幅器の接続のオン/オフを切り替える切り替えスイッチとを備え、
前記駆動制御手段は、前記第2圧電体以外の圧電体に駆動電圧が印加され、且つ全ての圧電体からの検出信号の和が前記増幅器に入力されるよう、前記切り替えスイッチを動作させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の超音波プローブ。
【請求項5】
前記増幅器と前記第2圧電体の電極は、電気容量性の伝送線路を介さずに直接接続されていることを特徴とする請求項4に記載の超音波プローブ。
【請求項6】
前記増幅器は、電圧帰還型または電荷蓄積型であることを特徴とする請求項4または5に記載の超音波プローブ。
【請求項7】
前記第2圧電体は、前記第1圧電体よりも等価圧電定数d33が低く、電圧出力係数g33が高く、超音波および反射波の送受波面の面積比率が小さいことを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の超音波プローブ。
【請求項8】
前記第1圧電体はソフト・リラクサー系、前記第2圧電体はハード系の圧電セラミックスであることを特徴とする請求項4ないし7のいずれかに記載の超音波プローブ。
【請求項9】
前記超音波トランスデューサは、複数アレイ状に配列されており、
圧電体に駆動電圧を供給するパルサと、
前記パルサを駆動させ、超音波を走査させる走査制御手段と、
前記増幅器で増幅された検出電圧をデジタルの検出信号とするA/D変換器と、
検出信号から超音波画像を生成するための信号処理を実行する信号処理手段と、
各部を統括的に制御する主制御手段とを備えることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の超音波プローブ。
【請求項10】
超音波および反射波を送受波する前記超音波トランスデューサを選択的に切り替えるマルチプレクサを備えることを特徴とする請求項9に記載の超音波プローブ。
【請求項11】
各部に電源を供給する電源供給手段と、
超音波画像を表示する超音波観測器に信号処理後の検出信号を無線送信する無線送信手段とを備えることを特徴とする請求項9または10に記載の超音波プローブ。
【請求項12】
超音波の送信能力および反射波の受信感度が異なり、超音波および反射波の送受波面に平行な方向に並べられた複数の圧電体、並びに隣り合う圧電体の一方の上面電極および他方の下面電極を兼ねる兼用電極を含む電極を有し、該電極により複数の圧電体が直列接続された超音波トランスデューサ、および1個以外の圧電体に電極を介して駆動電圧を印加して超音波を発生させ、且つ反射波を受信して圧電体から出力される検出電圧が全ての圧電体の分加算されるよう、前記超音波トランスデューサの駆動を制御する駆動制御手段を備える超音波プローブと、
前記超音波プローブと接続され、超音波画像を表示する超音波観測器とからなることを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−56103(P2011−56103A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210223(P2009−210223)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】