説明

超音波探傷方法、超音波探傷プログラム

【課題】全エコー波形を収録する探傷方法を採用しつつ、裏波ビードのような形状に起因する反射エコーと、欠陥に起因する反射エコーとを、精度よく区別することのできる超音波探傷方法を得る。
【解決手段】超音波を用いて被検査物の溶接部における欠陥を検査する方法であって、超音波を検査対象部に入射してその反射エコーを検出する検出手段を設け、前記検出手段を検査対象範囲で走査して反射エコーを検出する検出ステップと、前記検出ステップで検出した反射エコーに基づき、超音波の入射箇所に対応する位置の欠陥を平面上に投影したセルを作成するセル作成ステップと、前記検出ステップで検出した反射エコーに基づき、前記平面上における欠陥位置を開口合成法により特定する欠陥特定ステップと、を有し、前記欠陥特定ステップで得られた欠陥位置を、前記セル作成ステップで作成したセルに反映することにより、前記溶接部の形状に起因するエコーの影響を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて被検査物の溶接部における欠陥を検査する方法、及びそのプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波探傷技術に関し、『欠陥検査の精度を高めると共に、データ処理の時間を短くする。』ことを目的とした技術として、『被検査物3からの反射エコーに対応する位置の不連続部を同一面に投影し、同一面上で不連続部が連続する範囲をセルとして作成するセル作成手段21、作成されたセルの分布から欠陥が存在すると判断される欠陥存在エリアを設定する欠陥存在エリア設定手段22、欠陥存在エリア内の不連続部に対応する反射エコーが欠陥エコーか否かを識別する欠陥エコー識別手段23、欠陥存在エリア及び欠陥エコーを表示する表示手段24、欠陥存在エリア設定手段22及び欠陥エコー識別手段23の出力を補正する補正手段25を備えた。』というものが提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、『開口合成手法を用いた超音波探傷において、探触子の走査時における上下動及び傾斜動などによる、検査精度の低下。』を課題とした技術として、『探触子の上下動及び傾斜動などによって生じた時間差などの影響を含んだ超音波データについて、探触子の上下動等の外乱情報を測定し、その情報を用いて超音波データを補正することにより、その外乱の影響を無くし、開口合成超音波探傷精度を向上させる。』というものが提案されている(特許文献2)。
【0004】
また、超音波を用いた溶接部の探傷方法が規格化されている(非特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−82766号公報(要約)
【特許文献2】特開2006−105657号公報(要約)
【非特許文献1】JGA指210−04、”ガス導管円周溶接部の超音波自動探傷方法”、日本ガス協会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超音波を用いて被検査物の溶接部における欠陥の有無を検査する際に、溶接部の反対面に生じる裏波ビードから反射されたエコーと、欠陥部から反射されたエコーとの区別がつかない場合がある。
上記特許文献1に記載の技術では、裏波ビードからの反射エコーと欠陥部からの反射エコーを区別することなく、全ての反射エコー波形を収録し、セル作成を行い、収録完了後に両者の別を判定していたため、欠陥検知精度の低下の可能性があり、また非常に作業コストがかかるという課題があった。
一方、上記特許文献2に記載の開口合成法は、超音波探傷においてしばしば用いられる技術であり、精度よく欠陥を特定することができるが、同法単独では、全エコー波形を収録することを要求する規格に対応することができないという課題がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、全エコー波形を収録する探傷方法を採用しつつ、裏波ビードのような形状に起因する反射エコーと、欠陥に起因する反射エコーとを、精度よく区別することのできる超音波探傷方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る超音波探傷方法は、超音波を用いて被検査物の溶接部における欠陥を検査する方法であって、超音波を検査対象部に入射してその反射エコーを検出する検出手段を設け、前記検出手段を検査対象範囲で走査して反射エコーを検出する検出ステップと、前記検出ステップで検出した反射エコーに基づき、超音波の入射箇所に対応する位置の欠陥を平面上に投影したセルを作成するセル作成ステップと、前記検出ステップで検出した反射エコーに基づき、前記平面上における欠陥位置を開口合成法により特定する欠陥特定ステップと、を有し、前記欠陥特定ステップで得られた欠陥位置を、前記セル作成ステップで作成したセルに反映することにより、前記溶接部の形状に起因するエコーの影響を除去するものである。
【0009】
また、本発明に係る超音波探傷方法は、前記セル作成ステップと前記欠陥特定ステップを平行して実行するものである。
【0010】
また、本発明に係る超音波探傷プログラムは、上記の方法をコンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る超音波探傷方法によれば、全エコー波形を収録する探傷方法を採用しつつ、裏波ビードのような形状に起因する反射エコーと、欠陥に起因する反射エコーとを、精度よく区別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る超音波探触子1が、検査対象材の溶接部における欠陥を検査している様子を示すものである。
図1において、2は超音波探触子1が検査対象範囲に入射する超音波、3は溶接ビード、4は裏波ビードである。
溶接ビード3は、溶接により作られた溶接金属(溶接中に溶融凝固した金属)である。
裏波ビード4は、片側溶接において、溶接部と反対側(裏面)にできるビードである。図1では、溶接ビード3の反対面にできている。
超音波探触子1は、溶接ビード3に沿ってジグザグに走査しながら超音波2を溶接部に向けて入射し、その反射エコーを検出することにより、検査対象材の内部に存在する欠陥を検知する。
【0013】
なお、超音波探触子1は、超音波を検査対象範囲に入射する手段とその反射エコーの検出手段、さらには反射エコー波形データを収録する記憶手段を適宜備えることとする。
また、超音波探触子1は、超音波探触子1の動作を制御する制御部を備える。制御部はCPUやマイコン等の演算装置で構成することができる。制御部は、動作制御に加えて後述の開口合成法によるデータ処理等の演算を実施する。
【0014】
図2は、検出した反射エコーに基づき検知した欠陥を3次元描画した様子を示すものである。
超音波探触子1は、図2のy軸に沿って移動している際に反射エコーを検出し、これをx軸方向に対して所定のピッチで繰り返し実行することにより、検査対象範囲内における全反射エコー波形を収録する。
全反射エコーの波形収録を終えると、そのデータに基づき、図2に示すように内部欠陥をyz平面上に投影した描画セルを作成する。描画セルを目視確認することにより、内部に存在する欠陥5の位置や大きさ等を特定することができる。
【0015】
図3は、裏波ビード4で超音波が反射することにより、存在しない欠陥を誤検知してしまう様子を説明するものである。
以下、誤検知の過程をステップ毎に簡単に説明する。
【0016】
(1)超音波探触子1は、超音波を検査対象の方向に向けて入射する。このときの反射エコーが所定の条件に合致した場合は、同方向に欠陥が存在するものと判定できる。
【0017】
(2)ところが、超音波ビームは波であるため、一定の範囲で広がりが生じてしまう。したがって、検知対象方向の周辺の一定の範囲にも、超音波ビームが到達することになる。
この広がりの範囲に裏波ビード4が存在する場合、裏波ビード4で反射したエコーが、検知対象方向で反射したエコーとして、超音波探触子1に検知されることになる。
【0018】
(3)すると、超音波探触子1は、検知対象方向に欠陥が存在するものと誤検知する場合がある。
誤検知するか否かは裏波ビード4の形状等にも依拠するため、必ずしも誤検知が生ずるとは限らないものの、検知精度の低下をもたらす可能性はある。
【0019】
上記特許文献1に記載の技術では、このような誤検知の可能性を折り込み済みで走査を実行している。
そのため、探傷の実施後は、(1)欠陥が実際よりも多めに検知される可能性を折り込み、安全側に倒した設計を行う、(2)描画セルの目視確認により誤検知の有無を判断する、といった措置を取る必要がある。
【0020】
このように、欠陥の誤検知が生じる可能性がある事は、精度のみならず作業コスト等の観点からも好ましくないことは明らかである。
そこで、本発明では、図2におけるy軸方向の走査中に検出される反射エコーに開口合成法を適用し、反射エコーの位置を特定して裏波ビード4の影響を除去して正確な欠陥検知を行うことを提案する。
【0021】
図4は、超音波探触子1が探傷を実施する様子を示すものである。
超音波探触子1は、y軸方向に走査している際に検出した反射エコーについて、開口合成法を適用する。
従来は、単に反射エコー波形を収録していたのみであったが、開口合成法を適用することにより、アンテナの径を大きくしたものと同様の効果を発揮できるため、図3で説明したような超音波ビームの広がりに起因する問題を低減することができ、欠陥の位置の精度が向上する。
【0022】
図5は、反射エコーを全て検知・収録することによる欠陥検知結果と、開口合成法による欠陥検知結果との対比を示すものである。
図3で説明したように、単に反射エコーを検出して収録するのみでは、欠陥が存在しない場所にて誤検知を生ずる可能性がある。したがって、図5(a)に示すように、欠陥検知範囲は広めになりがちの傾向がある。
一方、開口合成法を適用した場合は欠陥の位置の精度が増すので、図5(b)に示すように、欠陥検知範囲はより狭い範囲に限定される。
【0023】
図5(a)(b)は、反射エコー検出後の処理手順が異なるとはいえ、ともに同一の反射エコーに基づいて作成された描画セルであるため、両者を比較することにより、真の欠陥位置やその大きさを精度よく特定することができる。
比較の手法は、目視確認によるものでもよいし、所定のピッチで描画セルを分割して分割セル毎にデータ比較するものでもよい。
【0024】
図6は、特定した欠陥位置等をx軸方向で連結した様子を示すものである。
図5で説明した手法により、yz平面上において、開口合成法で欠陥位置等を特定することができる。次に、x軸方向にデータを連結することにより、3次元空間上での欠陥位置等を特定し、3次元のセルデータとして描画することができる。
【0025】
なお、初めから開口合成法のみを用いて欠陥検知することも考えられるが、以下の事情がある場合には、開口合成法のみを用いて最終的な検知結果とすることができないため、本実施の形態1で説明した手法を用いることが必要となる。
【0026】
超音波探傷の規格において、全反射エコー波形を収録し、その結果を提示することが求められる場合がある。この場合には、全反射エコー波形を収録は不可避であり、開口合成法のみを単独で用いることはできない。
したがって、この場合には、全反射エコー波形の収録と併用して開口合成法を適用し、規格準拠と正確な探傷を同時に実現する。
【0027】
以上のように、本実施の形態1によれば、y軸方向の走査中に得られる反射エコーに対して開口合成法を適用することにより、裏波ビード4で反射したエコーにより欠陥を誤検知することを低減できるので、欠陥検知の精度が増す。
また、全エコー波形を収録する前提の下で開口合成法を適用するので、規格準拠等の観点から全エコー波形の収録が求められる場合でも、これに準拠しつつ高精度な探傷を実施することができる。
【0028】
実施の形態2.
実施の形態1において、全エコー波形の収録結果に開口合成法を適用し、欠陥の誤検知を低減する手法について、主に検知精度の観点から説明した。
本発明の実施の形態2では、探傷の実行速度をより向上させる手法について説明する。
【0029】
本実施の形態2において、超音波探触子1は、反射エコー波形の収録と平行して開口合成法を適用する。並行処理の実施により、波形収録と同時に探傷処理を実施することができるので、迅速な探傷が可能である。
【0030】
図7は、本実施の形態2に係る超音波探触子1の動作フローである。以下、各ステップについて説明する。
【0031】
(S701)
超音波探触子1は、溶接ビード3に沿って(x軸方向に)走査を実施する。
走査ピッチは、例えば1mm又は2mmとし、検査対象の全範囲を走査し終えるまで、以後のステップS702〜S710を繰り返す。
(S702)
超音波探触子1は、x軸方向に所定のピッチで移動する(初回のみ、走査開始位置に超音波探触子1をセットする)。
【0032】
(S703)
超音波探触子1は、y軸方向に走査を実施する。
走査ピッチは、例えば1mm又は2mmとし、検査対象の全範囲を走査し終えるまで、以後のステップS704〜S705を繰り返す。
(S704)
超音波探触子1は、y軸方向に所定のピッチで移動する。
(S705)
超音波探触子1は、検査対象位置に向けて超音波を入射し、反射エコーを検出して、その波形データを収録する。
【0033】
(S706)
超音波探触子1は、次のステップS707とS708の処理を並列的に実行する。
(S707)
超音波探触子1は、ステップS705(y軸方向の走査時)で収録した反射エコー波形データに基づき、yz平面について、図2で説明したような欠陥検知結果を反映したセルデータを生成する。
(S708)
超音波探触子1は、ステップS705(y軸方向の走査時)で収録した反射エコー波形データに基づき、開口合成法を適用し、欠陥位置等を特定する。
【0034】
(S709)
超音波探触子1は、ステップS707で生成した全エコー波形収録に基づくセルデータと、ステップS708で開口合成法により特定した欠陥位置等とを比較し、セルデータ上における欠陥位置を判別する。
(S710)
超音波探触子1は、セルデータ上における欠陥位置の判別結果を記録する。
【0035】
以上のように、本実施の形態2によれば、全エコー波形の収録結果を損なうことなく図2のようなセルデータを生成し、開口合成法により特定した欠陥位置等をセルデータ上に反映することにより、裏波ビード4による反射エコーの影響を除去することができる。
また、ステップS707とS708の処理を並列的に実行するので、迅速な欠陥特定が可能である。
【0036】
実施の形態3.
実施の形態1〜2において、超音波探触子1は、データ処理演算を行う制御部と、データ収録のための記憶部を備えることを説明した。これらの構成は、必ずしも超音波探触子1と一体的に構成する必要はなく、外部のコンピュータ等の装置に同機能を持たせてもよい。
【0037】
以上の実施の形態において、裏波ビード4に起因する形状エコーの影響を除去する例を説明したが、これに限られるものではなく、本発明に係る超音波探傷方法を用いて、その他の任意の形状エコーの影響を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施の形態1に係る超音波探触子1が、検査対象材の溶接部における欠陥を検査している様子を示すものである。
【図2】検出した反射エコーに基づき検知した欠陥を3次元描画した様子を示すものである。
【図3】裏波ビード4で超音波が反射することにより、存在しない欠陥を誤検知してしまう様子を説明するものである。
【図4】超音波探触子1が探傷を実施する様子を示すものである。
【図5】反射エコーを全て検知・収録することによる欠陥検知結果と、開口合成法による欠陥検知結果との対比を示すものである。
【図6】特定した欠陥位置等をx軸方向で連結した様子を示すものである。
【図7】実施の形態2に係る超音波探触子1の動作フローである。
【符号の説明】
【0039】
1 超音波探触子、2 超音波、3 溶接ビード、4 裏波ビード、5 欠陥。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を用いて被検査物の溶接部における欠陥を検査する方法であって、
超音波を検査対象部に入射してその反射エコーを検出する検出手段を設け、
前記検出手段を検査対象範囲で走査して反射エコーを検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出した反射エコーに基づき、超音波の入射箇所に対応する位置の欠陥を平面上に投影したセルを作成するセル作成ステップと、
前記検出ステップで検出した反射エコーに基づき、前記平面上における欠陥位置を開口合成法により特定する欠陥特定ステップと、
を有し、
前記欠陥特定ステップで得られた欠陥位置を、前記セル作成ステップで作成したセルに反映することにより、
当該セルにおいて、前記溶接部の形状に起因するエコーの影響を除去する
ことを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項2】
前記セル作成ステップと前記欠陥特定ステップを平行して実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の超音波探傷方法をコンピュータに実行させることを特徴とする超音波探傷プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−249441(P2008−249441A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90087(P2007−90087)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】