説明

超音波探傷用基準線の再現装置および方法

【課題】 検査毎に超音波探傷用基準線がずれることなく高精度に再現できるようにすることである。
【解決手段】 超音波探傷の検査対象物に固定して磁石14a〜14nを配置する。この磁石14a〜14nは超音波探傷用の基準線位置を指示する。磁石14a〜14nの位置は磁石位置検出器19で検出され、演算処理部17は磁石位置検出器19で検出された磁石位置に基いて超音波探傷用の基準線位置を判定する。そして、線引き部21は、演算処理部17で判定した基準線位置に超音波探傷用の基準線を線引きする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷の測定箇所を位置決めするためのの基準線を再現する超音波探傷用基準線の再現装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、発電プラントの配管や容器等は超音波探傷により非破壊検査が行われている。この非破壊検査は同じ検査対象物に対して定期的に行われ、前回の検査結果と今回の検査結果とを比較して欠陥の進行度合を比較することになる。したがって、検査対象物の検査箇所は同じ箇所であることが必要である。そこで、検査対象物の表面に基準線を設けてその基準線を基に超音波探触子を移動させるようにしている。
【0003】
検査対象物の検査箇所を高精度に維持するものとして、検査対象物である容器壁面あるいはその近傍の構造材に、超音波探触子を搭載した走行体の基点にするガイドを設けておき、このガイドを走行体に具備したセンサで検出しつつ走行体を高精度で位置決めして走行できるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。また、検査対象物である配管の表面に基準マークを設けておき、この基準マークとの位置関係により欠陥の位置を特定できるようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭61−217711号公報
【特許文献2】特公平8−27266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、検査対象物の近傍の空間が狭い場合には、走行体の基点にするガイドを設けることができないことがある。また、検査対象物が高温流体の流れる配管である場合には、その表面に錆が発生するので、超音波検査を行うにあたってはその錆を取り除き、配管の表面を研磨した後に超音波探傷を行うことになる。そのため、検査対象物である配管の表面に基準マークを設けたとしても削り取られてしまい基準マークがなくなってしまう。そこで、高温流体の流れる配管では、以下の手順で検査を行うようにしている。
【0005】
(1)配管周囲の保温材を取り除く。
【0006】
(2)グラインダーなどで配管の表面を削り、錆を取り除き手入れ加工する。
【0007】
(3)溶接線などを目印に基準線を決定し線引きする。
【0008】
(4)線引きした基準線を基に前回と同様の走査線を再現する。
【0009】
(5)走査線に沿って超音波探傷を実施する。
【0010】
(6)配管などに保温材を取り付け、超音波検査前の状態に戻す。
【0011】
このように、人手で基準線を決定して線引きし、また、その基準線を基に走査線を作成しているので、基準線や走査線の再現性の精度が落ちる。すなわち、検査の度に実施する前処理により基準線を含めて前回の走査線が消えてしまうので、基準線が検査毎にずれる可能性が高く走査線の再現性に限界がある。また、作業環境が狭隈あるいは高所の場合があり、基準線を決定する作業の安全性に課題が残るとともに、そのような作業環境で人手により作成される走査線には再現性に限界がある。
【0012】
本発明の目的は、検査毎に超音波探傷用基準線がずれることなく高精度に再現できる超音波探傷用基準線の再現装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明に係わる超音波探傷用基準線の再現装置は、超音波探傷の検査対象物に固定して配置され超音波探傷用の基準線位置を指示する磁石と、前記磁石の位置を検出する磁石位置検出器と、前記磁石位置検出器で検出された磁石位置に基いて超音波探傷用の基準線位置を判定する演算処理部と、前記演算処理部で判定した基準線位置に超音波探傷用の基準線を線引きする線引き部とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明に係わる超音波探傷用基準線の再現方法は、超音波探傷の検査対象物に固定して配置された磁石の位置を検出し、前記磁石の位置に基いて超音波探傷用の基準線位置を特定し、特定した基準線位置に超音波探傷用の基準線を線引きすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、超音波探傷用の基準線位置を指示する磁石を検査対象物に固定しておき、超音波検査を行うにあたっては、磁石を基に超音波探傷用基準線を再現するので、検査対象物の表面を研磨して錆を取り除いた場合であっても、精度良く超音波探傷用基準線を再現できる。また、磁石の位置を自動で判定し超音波探傷用基準線を自動で線引きすることができるので、作業環境が狭隈あるいは高所の場合であっても作業の安全性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の実施の形態に係わる超音波探傷用基準線の再現装置の構成図であり、図1(a)は検査対象物である配管に配置された磁石の配列の説明図、図1(b)は再現装置本体のブロック構成図である。
【0017】
いま、検査対象物である配管11は、図1(a)に示すように、鋼管12aと鋼管12bとが溶接部13で溶接され、鋼管12aは検査対象領域であり、鋼管12bは検査対象領域外(非検査対象領域)であるとする。このような検査対象物に対し、複数個の磁石14a〜14nを用意し、非検査対象領域の鋼管12bの円周上に所定の間隔を保って配置する。各々の磁石14a〜14nの極性は、例えば配管11の軸方向に磁極(N−S)の方向が向くように配置される。これにより、各々の磁石14a〜14nの磁束の向きは配管11の軸方向となる。
【0018】
各々の磁石14a〜14nは、超音波探傷用の基準線位置を特定するために配置され、配管11の表面に固定して配置される。例えば、接着剤で配管11の表面に貼り付けられる。超音波探傷用基準線として溶接部13の溶接線が選ばれる場合には、各々の磁石14a〜14nは、溶接部13の溶接線を指示するように配管11の表面に配置される。この場合、各々の磁石14a〜14nの配置位置から所定距離の位置が超音波探傷用基準線となる。
【0019】
図1(b)は再現装置本体15のブロック構成図である。再現装置本体15は、4個の走行車輪16a〜16dを有し、検査対象物の表面に吸着して回転し、検査対象物の表面上を走行できるようになっている。演算制御部17は駆動部18に指令を出して走行車輪16a〜16bを駆動制御する。
【0020】
磁石位置検出器19は検査対象物である配管11に固定配置された磁石14の位置を検出するものであり、磁石位置検出器19(再現装置本体15)と磁石14a〜14nとの間の距離により磁石14a〜14nの位置を検出する。磁石位置検出器19で検出された磁石位置は演算処理部17に入力される。
【0021】
記憶部20には各々の磁石14a〜14nの位置と超音波探傷用の基準線の位置との関係が予め記憶されており、演算処理部17は、磁石位置検出器19で検出された各々の磁石14a〜14nの位置に基いて、記憶部20に記憶された磁石位置と基準線位置との関係から超音波探傷用の基準線位置を特定する。演算処理部17は、線引き部21に対し、特定した各々の磁石14a〜14nの位置に対応する基準線位置をプロットし、そのプロット位置を線引きして超音波探傷用基準線を再現する。
【0022】
図2は超音波探傷用基準線の再現方法の工程を示すフローチャートである。まず、検査対象物である配管11に固定配置された磁石14a〜14nの位置を検出する(S11)。各々の磁石14a〜14nの位置の検出は、例えば、以下のようにして行う。図3に示すように、再現装置本体15を配管11の表面を走行させ、各々の磁石14a〜14nと磁石位置検出器19(再現装置本体15)との間の距離La〜Lnを測定する。
【0023】
次に、超音波探傷用の基準線位置を特定する(S12)。超音波探傷用の基準線位置の特定は、例えば、以下のようにして行う。図4(a)に示すように、隣り合う磁石14a、14bについてそれぞれ再現装置本体15との間の距離La、Lbを測定し、隣り合う磁石14a、14b間の距離Labは既知であるから、距離La、Lb、Labを三辺とする三角形を特定する。そして、磁石14aの位置に対応する基準線位置をプロットするには、図4(b)に示すように、距離Laと距離Labとがなす角αを直角とし、距離Laが予め記憶部20に記憶された距離L0となるように再現装置本体15を走行させる。そして、そのときの再現装置本体15の位置を磁石14aの位置に対応する基準線位置としてプロットする。以下、同様に、図5に示すように、磁石14b〜14nの位置に対応する基準線位置Pa〜Pnを線引き部21によりプロットする。
【0024】
次に、超音波探傷用の基準線を線引き部21により線引きする(S13)。超音波探傷用の基準線の線引きは、図6に示すように、ステップS12で求めた基準線位置Pa〜Pn間を線引きして基準線22を求め、超音波探傷用基準線を再現する。
【0025】
このようにして、超音波探傷用基準線が線引きされると、この超音波探傷用基準線を基にして、超音波探触子を移動させる位置を特定する。例えば、超音波探傷用基準線を基にして、超音波測定をする位置を特定するための走査線を検査対象物に線引きする。あるいは、超音波探傷用基準線を基に、超音波探触子を搭載した走行台車を検査体の表面上に走行させる。
【0026】
以上の説明では、再現装置本体15を自動走行させて、磁石14a〜14nの位置を自動で判定し、超音波探傷用基準線を自動で線引きする場合について説明したが、人が再現装置本体15をマニュアルで動かして操作し、基準点を特定することもできる。
【0027】
再現装置本体15をマニュアル操作して基準線を特定する場合は、基準線を自在定規などを利用しながら検査対象物上の距離や間隔などを計測して決定するのに比べて作業量が減り、それに伴って安全性を確保でき、かつ簡便で効率よく基準線を決定できる。また、再現装置本体15を自動走行させて基準線を特定する場合には、作業環境が狭隈あるいは高所の場合であっても作業の安全性を確保できる。
【0028】
本発明の実施の形態によれば、超音波探傷用の基準線位置を指示する磁石を検査対象物のうちの非検査領域に固定しておくので、検査対象物の表面を研磨して錆を取り除く際に磁石14a〜14n自体が除去されることがない。また、超音波検査を行うにあたっては、磁石14a〜14nを基に超音波探傷用基準線を再現するので、精度良く超音波探傷用基準線を再現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係わる超音波探傷用基準線の再現装置の構成図。
【図2】本発明の実施の形態に係わる超音波探傷用基準線の再現方法の工程を示すフローチャート。
【図3】本発明の実施の形態において各々の磁石位置検出の仕方の一例を示す説明図。
【図4】本発明の実施の形態において超音波探傷用の基準線位置の特定の仕方の一例を示す説明図。
【図5】本発明の実施の形態において各々の磁石位置に対応する基準線位置にプロットする仕方の説明図。
【図6】本発明の実施の形態において超音波探傷用の基準線を線引きする仕方の説明図。
【符号の説明】
【0030】
11…配管、12…鋼管、13…溶接部、14…磁石、15…再現装置本体、16…走行車輪、17…演算制御部、18…駆動部、19…磁石位置検出器、20…記憶部、21…線引き部、22…基準線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探傷の検査対象物に固定して配置され超音波探傷用の基準線位置を指示する磁石と、
前記磁石の位置を検出する磁石位置検出器と、
前記磁石位置検出器で検出された磁石位置に基いて超音波探傷用の基準線位置を判定する演算処理部と、
前記演算処理部で判定した基準線位置に超音波探傷用の基準線を線引きする線引き部とを備えたことを特徴とする超音波探傷用基準線の再現装置。
【請求項2】
超音波探傷の検査対象物に固定して配置された磁石の位置を検出し、
前記磁石の位置に基いて超音波探傷用の基準線位置を特定し、
特定した基準線位置に超音波探傷用の基準線を線引きすることを特徴とする超音波探傷用基準線の再現方法

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−51914(P2007−51914A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236768(P2005−236768)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】