超音波探傷装置および超音波探傷方法
【課題】探触子と表面付近の傷との間に障害物がある場合でも、検査の作業効率が良い超音波探傷装置を提供する。
【解決手段】超音波探傷装置は、入力される電気信号を超音波に変換して試験体中に送信し、且つ、試験体中を伝搬する超音波を受信し、該超音波を電気信号に変換する超音波探触子と、超音波探触子を駆動し、且つ、超音波探触子からの電気信号を受信する送受信器と、を備える超音波探傷装置において、超音波探触子を伝搬する超音波は、縦波であり、試験体中を伝搬する超音波は、試験体中の伝搬に伴い波面が試験体の表面に達し、且つ、試験体の表面に疑似表面SV波を発生する横波であり、超音波探触子と試験体との境界面において、入力される電気信号が変換された縦波が横波にモード変換され、また、試験体の表面を伝搬する疑似表面SV波が縦波に変換される。
【解決手段】超音波探傷装置は、入力される電気信号を超音波に変換して試験体中に送信し、且つ、試験体中を伝搬する超音波を受信し、該超音波を電気信号に変換する超音波探触子と、超音波探触子を駆動し、且つ、超音波探触子からの電気信号を受信する送受信器と、を備える超音波探傷装置において、超音波探触子を伝搬する超音波は、縦波であり、試験体中を伝搬する超音波は、試験体中の伝搬に伴い波面が試験体の表面に達し、且つ、試験体の表面に疑似表面SV波を発生する横波であり、超音波探触子と試験体との境界面において、入力される電気信号が変換された縦波が横波にモード変換され、また、試験体の表面を伝搬する疑似表面SV波が縦波に変換される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体の表面近傍に発生した傷を非破壊で検査する超音波探傷装置および超音波探傷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の超音波探傷装置では、固体の表面に表面波やクリーピング波を伝搬させて、表面近傍の傷を非破壊で検査する(例えば、非特許文献1参照)。
また、表面SHARE Horizontal(SH)波を固体表面に伝搬させて検査する方法も提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
【非特許文献1】社団法人日本非破壊検査協会編、「新非破壊検査便覧」、初版、日刊工業新聞社、1992年10月15日、p.310−313
【非特許文献2】戸田裕己著、「超音波探傷における諸現象のホイヘンスの原理による物理的解説 第3回(ホイヘンスの原理の応用)」、非破壊検査、社団法人日本非破壊検査協会、1991年、第40巻、第7号、p.415−420
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、表面波を伝搬させるとき、表面波の伝搬途中に障害物があると、この障害物が表面波の伝搬を妨げる場合が多い。このため、障害物よりも遠くにある傷の探傷は、表面波を用いては難しい。
また、クリーピング波は、エネルギーを漏洩しながら伝搬するので減衰が大きく、十分な検出感度が得られないという問題がある。
また、表面SH波は、探触子と試験体との間に粘性の大きな接触媒質を塗布し、接触状態を安定させる必要がある。このため、検査の作業効率が良くないという問題がある。
また、粘性の大きな接触媒質が必要であるため、探触子を走査して探傷を行うには、不向きである。
【0005】
この発明の目的は、探触子と表面付近の傷との間に障害物がある場合でも、検査の作業効率が良い超音波探傷装置および超音波探傷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わる超音波探傷装置は、入力される電気信号を超音波に変換して試験体中に送信し、且つ、上記試験体中を伝搬する超音波を受信し、該超音波を電気信号に変換する超音波探触子と、上記超音波探触子を駆動し、且つ、上記超音波探触子からの電気信号を受信する送受信器と、を備える超音波探傷装置において、上記超音波探触子を伝搬する超音波は、縦波であり、上記試験体中を伝搬する超音波は、上記試験体中の伝搬に伴い波面が上記試験体の表面に達し、且つ、上記試験体の表面に疑似表面SV波を発生する横波であり、上記超音波探触子と上記試験体との境界面において、上記入力される電気信号が変換された縦波が上記横波にモード変換され、また、上記試験体の表面を伝搬する疑似表面SV波が縦波に変換される。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係わる超音波探傷装置の効果は、斜角探触子と傷との間に障害物があり、従来の表面波やクリーピング波を用いた探傷では困難であるような場合でも、疑似表面SV波を送受信する構成とすることにより、傷で反射したエコー信号を受信できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
この発明の説明において、「傷」という呼び方で検出対象物を表現しているが、この発明に係わる超音波探傷装置および超音波探傷方法の適用範囲は傷の検出だけに限定するものではなく、試験体の表面近傍の性状の全般を検査対象としている。
図1は、この発明の実施の形態1に係わる超音波探傷装置の構成を示す図である。また、図1は、斜角探触子から傷までの超音波の伝搬を説明するための図でもある。図2は、傷から斜角探触子までの超音波の伝搬を説明するための図である。図3は、アクリル樹脂と鋼との境界面における平面波の往復透過率に関するデータを示すグラフである。図4と図5は、斜角探触子のくさび内および試験体内を伝搬する音場シミュレーションの結果である。
【0009】
この発明の実施の形態1に係わる超音波探傷装置は、電気信号を超音波に変換し、検査対象の試験体に超音波を送信し、且つ、試験体を伝搬した超音波を受信し、超音波を電気信号に変換する斜角探触子1と、斜角探触子1を駆動し、且つ、斜角探触子1からの電気信号を受信する送受信器としての探傷器2と、を備える。
そして、斜角探触子1は、探傷器2から供給される電気信号を超音波に変換する振動子3と、振動子3の振動により超音波が発信され、内部を超音波が伝搬するくさび4と、を備える。この斜角探触子1は、送受信される超音波が横波、即ちSHARE VERTICAL(SV)波となるように設計された横波斜角探触子である。
【0010】
このくさび4は、ポリスチロール樹脂で作られており、試験体5が鋼で作られている場合、試験体5に対面する接触面を基準面に採用すると、振動子3が貼り付けられる貼付面の傾斜角αは46.7°である。そして、くさび4内を伝搬する縦波8は、モード変換されてSV波9になる。このSV波9の伝搬する方向、即ち、接触面の法線からの屈折角θは、スネルの法則に従って決まる。例えば、くさび4がポリスチロール樹脂(縦波音速V1=2360m/s)で、試験体5が鋼(横波音速V2=3230m/s)で作られているとき、屈折角θは、式(1)により決まる。傾斜角αが46.7°のときには、屈折角θは85°となる。
【0011】
θ=ArcSIN(V2×SINα/V1)・・・(1)
【0012】
次に、この発明の実施の形態1に係わる超音波探傷装置の動作原理について説明する。
この発明の説明では、図1に示すように、試験体5として、表面に傷6があり、その傷6は斜角探触子1からみて障害物7の遠方にあるものを用いる。
探傷器2から励振信号を斜角探触子1に入力し、斜角探触子1の振動子3を励振する。
そして、振動子3が振動すると、くさび4の内部に縦波8が発生し、縦波8がくさび4内部を伝搬し、くさび4と試験体5との境界面に波面が達した縦波8がSV波9にモード変換され、試験体5中を主にSV波9が伝搬する。
なお、試験体5中には、モード変換によって発生した表面波も伝搬していくが、説明を簡単にするため、図1中には表面波は示さない。
【0013】
ここでもし、屈折角θが小さいと、試験体5中を伝搬していくSV波9は試験体5の表面の影響を殆ど受けずに伝搬する。しかし、この発明のように屈折角θが85°と90°に近いような場合には、試験体5中を伝搬していくSV波9は伝搬するに従い、試験体5の表面の影響を受ける。すなわち、SV波9の波面は拡がりながら伝搬するが、試験体5の表面によって波面の拡がりが止められる。このとき、試験体5の表面に、SV波9の伝搬に伴い表面に沿って伝搬する波動が発生する。SV波9は固体と気体との境界面で存在することができないので、この波動は、正確にはSV波9でも表面波でもない。従って、この発明の説明では、この波動を、「疑似表面SV波」10と呼ぶことにする。
図1には、SV波9と疑似表面SV波10の波面が伝搬していく模式的な様子を示している。
【0014】
この疑似表面SV波10は、試験体5の表面が存在することにより発生する波動である。このため、伝搬経路に障害物7がある場合、例えば、図1に示すような形状の障害物7が存在する場合には、疑似表面SV波10は一旦SV波9に吸収されるような形で消失する。しかし、SV波9の波面が再び表面に達する領域に伝搬すると、疑似表面SV波10がまた発生する。このように、疑似表面SV波10は、常にSV波9に伴って伝搬する。
【0015】
図1に示すように、屈折角θが大きい斜角探触子1では、試験体5の表面付近をSV波9および疑似表面SV波10が伝搬していく。すなわち、斜角探触子1の屈折角θが90°に近い値であれば、試験体5の表面付近にSV波9および疑似表面SV波10を伝搬させることができる。SV波9および疑似表面SV波10は、表面付近の傷6に入射し、エコー信号が発生する。このエコー信号のモードは、傷6の大きさにもよるが、多くの場合はSV波9が主となる。
【0016】
傷6による反射波としてのSV波9は、図1に示した斜角探触子1から傷6に伝搬した経路の逆の経路を辿って振動子3で受信される。この様子を、図2を用いて説明する。傷6で反射したエコー信号であるSV波9は、くさび4の方向に波面を拡げながら伝搬する。この時、斜角探触子1から傷6に伝搬した場合と同様に、SV波9の波面は拡がりながら伝搬するが、試験体5の表面に達した波面はそれ以上拡がることができない。このとき、試験体5の表面には、SV波9の伝搬に伴い表面に沿って伝搬する疑似表面SV波10が発生する。
【0017】
そして、エコー信号であるSV波9の波面がくさび4の下方に位置する試験体5にまで到達しても、伝搬方向が図2に示すように試験体5の表面に対してほぼ平行であるために、くさび4内に波動を形成することはない。一方、疑似表面SV波10がくさび4の下方に位置する試験体5の表面に到達すると、振動のエネルギーをくさび4内に放出しながら伝搬する。このため、くさび4内にはモード変換により縦波8が発生する。この縦波8を振動子3で受信することで、探傷器2には傷6で反射したエコー信号が伝達される。このような動作原理により、試験体5の表面付近にある傷6を探傷することが可能である。
【0018】
このように、斜角探触子1と傷6との間に障害物7があり、従来の表面波やクリーピング波を用いた探傷では困難であるような場合でも、疑似表面SV波10を送受信する構成とすることにより、傷6で反射したエコー信号を受信できる。したがって、表面波やクリーピング波を用いた探傷では困難な場合でも探傷可能となる。
また、SV波9が主たる波動となる横波斜角探触子1を用いるので、粘性の大きな接触媒質を用いる必要はなく、水を接触媒質としても十分探傷可能である。このため、表面SH波を用いて探傷する場合に比べて作業効率が大幅に改善できる。
【0019】
なお、通常の横波斜角探触子は、疑似表面SV波10が発生するような構成とはなっていない。その理由は、くさび4と試験体5との往復透過率に関係する。なお、往復透過率は、一定のパワーを与えたときの振幅によって表される。図3に、くさび4をアクリル樹脂、試験体5を鋼とした場合の振幅の屈折角依存性を示す。図3の横軸は、屈折角θで、縦軸は、振幅である。図3から分かるように、屈折角θが80°を超えた付近から急激に振幅が減少し、屈折角θが90°で零になる。したがって、従来は往復透過率の減少を避ける方向での設計がなされており、通常の横波斜角探触子の屈折角θは70°以下である場合が多く、80°を超えるものはほとんどない。これに対し、この発明では、屈折角θが80°を超えるような横波斜角探触子1を用いることにより、前記特性をもつ疑似表面SV波10が発生することを発見し、これにより表面近傍の超音波探傷を可能にした。このように従来の横波斜角探触子を用いていると、疑似表面SV波10を用いて超音波探傷を行うという発想が出てこなかったものと考えられる。
【0020】
これまで説明してきた縦波8、SV波9および疑似表面SV波10の伝搬を確認するため、2次元弾性波Finite Difference Time Domain(FDTD)法による音場シミュレーションを行い、くさび4内および試験体5内をどのように超音波が伝搬していくのかを音場シミュレーションした。この音場シミュレーションでは、くさび4をポリスチロール樹脂(縦波音速2360m/s)、試験体5を鋼(横波音速3230m/s)とした。また、周波数を5MHzとした。
音場シミュレーションの結果を、図4および図5に示す。図4および図5では、振動子3を励振してからの経過時間が20μsまでの音場を4μs経過ごとに示している。図4および図5では、黒い部分がくさび4および試験体5の内部を示し、その黒い部分の中の白い部分が縦波8、SV波9または疑似表面SV波10の波面を示す。
【0021】
図4(a)に示す4μs後の音場では、くさび4内に縦波8が励振され伝搬している。
図4(b)に示す8μs後の音場では、モード変換によって生じたSV波9と表面波11が伝搬する。この表面波11はレイリー(Rayleigh)波と呼ばれるものである。
図4(c)に示す12μs後の音場では、SV波9が試験体5内を、表面波11が試験体5の表面に沿って伝搬する。
図5(a)に示す16μs後の音場では、表面波11は試験体5の表面に沿って伝搬し、障害物7を透過する方向に伝搬しない。このことから、図1に示したような試験体5の形状では、表面波11による探傷が困難であることが分かる。
【0022】
しかし、図5(a)に示す16μs後の音場には、斜角探触子1から見て障害物7より遠方の試験体5の表面にSV波9の波面が達しており、その表面に疑似表面SV波10が発生している。
図5(b)に示す20μs後の音場には、傷6で反射されたSV波9が伝搬していく様子を示している。
【0023】
図4および図5に示した音場シミュレーションの結果だけでは疑似表面SV波10の様子は分かりにくので、改めて疑似表面SV波10を拡大して説明する。図6は、図5(a)に示す16μsの音場の内、疑似表面SV波10付近を拡大して示したものである。このときは表示感度も変えて示している。
弾性波FDTD法では試験体5中の粒子速度を計算するので、粒子の振動をベクトルとして求めることができる。図7に、疑似表面SV波10が伝搬している箇所の小さな矢印によるベクトル図を示している。また、図8に、粒子の振動を表すベクトルの概念図を示している。
【0024】
この図8のベクトルの概念図から分かるように、試験体5の表面の粒子は回転している。このように粒子が回転する波動は、一般的にはSV波9とは呼べない。どちらかと言えば表面波11の振動に近い現象である。しかし、SV波9に伴い表面に沿って伝搬する波動であるので、伝搬速度はSV波9と同じである。このような波動であるので、この発明ではこの波動を「疑似表面SV波」10と呼んで説明した。
【0025】
次に、疑似表面SV波10がくさび4内に形成する波動について説明する。くさび4内の波動は、図4および図5に示した音場シミュレーションでは分かりづらい。そこで、図9に示すような構成で新たに音場シミュレーションを行った。この音場シミュレーションでは、図4と同じ斜角探触子1a、1bを2つ用意し、一方を送信用の斜角探触子1a、他方を受信用の斜角探触子1bとし、所定の距離だけ離間して配置して行った。また、送信用の斜角探触子1aおよび受信用の斜角探触子1bの振動子3の傾斜角αを、45.7°、46.7°、47.7°として、疑似表面SV波10によりくさび4内に形成する縦波の波面の傾きを求めた。図10は、2探触子法の受信用の斜角探触子1bの内部の音場を示す。図10(a)は、振動子3の傾斜角αが45.7°、図10(b)は、振動子3の傾斜角αが46.7°、図10(c)は、振動子3の傾斜角αが47.7°である。なお、くさび4と試験体5の材質は図4の場合と同様に、くさび4はポリスチロール樹脂(縦波音速2360m/s)、試験体5は鋼(横波音速3230m/s)とした。また、周波数も同様に5MHzとした。
【0026】
図10から、疑似表面SV波10がくさび4内に縦波8を形成する様子が分かる。
また、図10には、傾斜角αを変えた場合のくさび4内音場を示している。図10から分かるように、傾斜角αを変えても受信用の斜角探触子1b内部における縦波8の波面の角度は変わらない。この波面と送信用の斜角探触子1aの振動子3とが平行であると、効率良く疑似表面SV波10を送信でき、受信用の斜角探触子1bの振動子3と平行であると、効率良く疑似表面SV波10を受信できる。すなわち、疑似表面SV波10を効率良く送受信する傾斜角αが存在する。この発明に係わる超音波探傷装置においては、斜角探触子1の構成として、傾斜角αが疑似表面SV波10を効率良く送受信する角度であることを特徴とする。
【0027】
なお、疑似表面SV波10を効率良く送受信する角度は、試験体5の音速によって変化する。このため、振動子3とくさび4内の縦波の波面が平行になるように調整する角度調整機構21を備えてもよい。図11は、振動子3をくさび4内を伝搬する縦波8の波面に平行になるように調整する角度調整機構21の構成図である。
この角度調整機構21は、図11に示すように、くさび4の両側面を挟持する保持棒22と、保持棒22を回転自在に支持する軸受23を一端に設けられた支持棒24と、支持棒24の他端を固定する枠25と、を備える。
【0028】
そして、角度調整機構21は、図12に示すように、枠25の底面が試験体5の表面に載せられ、くさび4と試験体5の表面との間およびその周りに接触媒質26が溜められている。接触媒質26は、水、油、グリセリンなどである。そして、図12に示すように、疑似表面SV波10がくさび4の下方に位置する試験体5に達すると、疑似表面SV波10は、接触媒質26内およびくさび4内を伝搬する縦波8を発生する。
図12からも分かるように、角度調整機構21により振動子3の傾斜角αを調整することにより、くさび4内の縦波8の波面と振動子3とを平行にすることができ、効率良く疑似表面SV波10により発生される縦波8を受信することができる。すなわち、SN比を向上させるという効果がある。送信についても同様である。このような角度調整は、直接接触法では困難であるが、水ギャップ法や水浸法であれば角度調整は可能である。
【0029】
なお、角度調整機構21を用いて振動子3の傾斜角αを変化させ、角度変化に対するエコー高さを求めることにより、試験体5の横波音速測定を行うことも可能である。
【0030】
実施の形態2.
図13は、この発明の実施の形態2に係わる超音波探傷装置の構成図である。
この発明の実施の形態2に係わる超音波探傷装置は、実施の形態1に係わる超音波探傷装置と超音波の送受信を別々の斜角探触子1a、1bを用いて行うことが異なっており、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0031】
実施の形態2に係わる超音波探傷装置は、実施の形態1に係わる斜角探触子1と同様な斜角探触子1aを送信用とし、同様に実施の形態1に係わる斜角探触子1と同様な斜角探触子1bを受信用として配置する。この斜角探触子1aの振動子3aの傾斜角αは、実施の形態1に係わる斜角探触子1の振動子3の傾斜角αと同様に、くさび4aと試験体5の境界面でモード変換されたSV波9の屈折角θが80°を超え、SV波9の伝搬に伴い、試験体5の表面に疑似表面SV波10が発生するように設定されている。
【0032】
また、この斜角探触子1bの振動子3bの傾斜角αは、屈折角θが80°を超えているSV波9により試験体5の表面を伝搬する疑似表面SV波10によりくさび4b内に発生された縦波8を検出できるように設定されている。
そして、この実施の形態2に係わる探傷器2Bは、送信用の斜角探触子1aに対して振動子3aを励振する励振信号を入力する。一方、受信用の斜角探触子1bの振動子3bがくさび4bを伝搬してきた縦波8を検出したときの検出信号が入力される。
【0033】
次に、この発明の実施の形態2に係わる超音波探傷装置の動作について説明する。
実施の形態1と同様に、斜角探触子1aから試験体5の表面に近い部分にSV波9を伝搬させ、SV波9の伝搬に伴って発生する疑似表面SV波10を試験体5の表面に伝搬させる。
そして、実施の形態1のように傷6からのエコー信号を受信するのではなく、そのまま斜角探触子1bにより疑似表面SV波10を受信する。また、くさび4a、4b内の縦波8の伝搬遅延時間を予め求めておく。また、送信用の探触探触子1aと受信用の斜角探触子1bとの間の距離を測定しておく。
それから、送信用の斜角探触子1aから試験体5内を伝搬するSV波9を送信し、受信用の斜角探触子1bにより試験体5の表面を伝搬した疑似表面SV波10を受信して伝搬遅延時間を求め、伝搬遅延時間と距離とから試験体5を伝搬するSV波9の音速を測定する。
【0034】
試験体5の表面に沿って伝搬するSV波9の音速を求めることは、従来は困難であった。図3に示したように、屈折角θ90°では往復透過率が零になるので、この発明の実施の形態2のようにして音速測定を行うという発想自体が、従来はなかったものと思われる。このため従来は、垂直横波探触子を用い、振動方向が図12の紙面に平行な方向の横波の音速を測定していた。しかしこの方法では試験体5の厚さ測定が必須であり、また、表面SH波と同様に、垂直横波探触子用の粘性の高い接触媒質を用いる必要があるので、困難な点が多い。
【0035】
これに対し、この発明の実施の形態2に係わる超音波探傷装置を用いて音速を測定すると、試験体5の厚さを測定する必要はなく、且つ、送信用の斜角探触子1aと受信用の斜角探触子1bの距離が分かれば良い。また、垂直横波探触子を用いたときのように、粘性の高い接触媒質を用いる必要もない。従って、音速測定が簡易的に行える。
また、従来は、試験体5の表面に対して垂直方向に伝搬する横波の音速を求めていたが、実施の形態2に係わる超音波探傷装置を用いて測定した音速は、試験体5の表面に沿って伝搬する音速とほぼ同じであるので、傷6が表面にあるために起こる音速の変化を検出することにより、精度よく超音波探傷を行うことができる。
【0036】
なお音速測定方法として、図13に示したように送信用の斜角探触子1aと受信用の斜角探触子1bを用いる2探触子法による方法を説明したが、基準となる反射源があれば、これを用いて1探触子法で音速測定しても構わない。この場合、送信用の斜角探触子1aから基準となる反射源までの距離を測定する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる超音波探傷装置の構成を示す図である。
【図2】傷から斜角探触子までの超音波の伝搬を説明するための図である。
【図3】アクリル樹脂と鋼との境界面における平面波の往復透過率に関するグラフである。
【図4】斜角探触子のくさび内および試験体内を伝搬する励振から4、8、12μs経過後の音場シミュレーションの結果である。
【図5】斜角探触子のくさび内および試験体内を伝搬する励振から16、20μs経過後の音場シミュレーションの結果である。
【図6】励振から16μs経過後の音場の内の疑似表面SV波付近を拡大して示したものである。
【図7】疑似表面SV波付近の粒子の振動ベクトルの分布図である。
【図8】疑似表面SV波の付近の粒子の振動の概念図である。
【図9】疑似表面SV波によりくさび内を伝搬する縦波を音場シミュレーションするときの構成図である。
【図10】疑似表面SV波によりくさび内を伝搬する縦波の様子を示す図である。
【図11】振動子の傾斜角を縦波の波面の傾きに合わせるために調整する角度調整機構の構成図である。
【図12】角度調整機構を用いて縦波の波面の傾きに振動子の傾斜角を調整する様子を説明するための図である。
【図13】この発明の実施の形態2に係わる超音波探傷装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1、1a、1b 斜角探触子、2、2B 探傷器、3、3a、3b 振動子、4、4a、4b くさび、5 試験体、6 傷、7 障害物、8 縦波、9 横波(SV波)、10 疑似表面SV波、11 表面波、21 角度調整機構、22 保持棒、23 軸受、24 支持棒、25 枠、26 接触媒質。
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体の表面近傍に発生した傷を非破壊で検査する超音波探傷装置および超音波探傷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の超音波探傷装置では、固体の表面に表面波やクリーピング波を伝搬させて、表面近傍の傷を非破壊で検査する(例えば、非特許文献1参照)。
また、表面SHARE Horizontal(SH)波を固体表面に伝搬させて検査する方法も提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
【非特許文献1】社団法人日本非破壊検査協会編、「新非破壊検査便覧」、初版、日刊工業新聞社、1992年10月15日、p.310−313
【非特許文献2】戸田裕己著、「超音波探傷における諸現象のホイヘンスの原理による物理的解説 第3回(ホイヘンスの原理の応用)」、非破壊検査、社団法人日本非破壊検査協会、1991年、第40巻、第7号、p.415−420
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、表面波を伝搬させるとき、表面波の伝搬途中に障害物があると、この障害物が表面波の伝搬を妨げる場合が多い。このため、障害物よりも遠くにある傷の探傷は、表面波を用いては難しい。
また、クリーピング波は、エネルギーを漏洩しながら伝搬するので減衰が大きく、十分な検出感度が得られないという問題がある。
また、表面SH波は、探触子と試験体との間に粘性の大きな接触媒質を塗布し、接触状態を安定させる必要がある。このため、検査の作業効率が良くないという問題がある。
また、粘性の大きな接触媒質が必要であるため、探触子を走査して探傷を行うには、不向きである。
【0005】
この発明の目的は、探触子と表面付近の傷との間に障害物がある場合でも、検査の作業効率が良い超音波探傷装置および超音波探傷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わる超音波探傷装置は、入力される電気信号を超音波に変換して試験体中に送信し、且つ、上記試験体中を伝搬する超音波を受信し、該超音波を電気信号に変換する超音波探触子と、上記超音波探触子を駆動し、且つ、上記超音波探触子からの電気信号を受信する送受信器と、を備える超音波探傷装置において、上記超音波探触子を伝搬する超音波は、縦波であり、上記試験体中を伝搬する超音波は、上記試験体中の伝搬に伴い波面が上記試験体の表面に達し、且つ、上記試験体の表面に疑似表面SV波を発生する横波であり、上記超音波探触子と上記試験体との境界面において、上記入力される電気信号が変換された縦波が上記横波にモード変換され、また、上記試験体の表面を伝搬する疑似表面SV波が縦波に変換される。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係わる超音波探傷装置の効果は、斜角探触子と傷との間に障害物があり、従来の表面波やクリーピング波を用いた探傷では困難であるような場合でも、疑似表面SV波を送受信する構成とすることにより、傷で反射したエコー信号を受信できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
この発明の説明において、「傷」という呼び方で検出対象物を表現しているが、この発明に係わる超音波探傷装置および超音波探傷方法の適用範囲は傷の検出だけに限定するものではなく、試験体の表面近傍の性状の全般を検査対象としている。
図1は、この発明の実施の形態1に係わる超音波探傷装置の構成を示す図である。また、図1は、斜角探触子から傷までの超音波の伝搬を説明するための図でもある。図2は、傷から斜角探触子までの超音波の伝搬を説明するための図である。図3は、アクリル樹脂と鋼との境界面における平面波の往復透過率に関するデータを示すグラフである。図4と図5は、斜角探触子のくさび内および試験体内を伝搬する音場シミュレーションの結果である。
【0009】
この発明の実施の形態1に係わる超音波探傷装置は、電気信号を超音波に変換し、検査対象の試験体に超音波を送信し、且つ、試験体を伝搬した超音波を受信し、超音波を電気信号に変換する斜角探触子1と、斜角探触子1を駆動し、且つ、斜角探触子1からの電気信号を受信する送受信器としての探傷器2と、を備える。
そして、斜角探触子1は、探傷器2から供給される電気信号を超音波に変換する振動子3と、振動子3の振動により超音波が発信され、内部を超音波が伝搬するくさび4と、を備える。この斜角探触子1は、送受信される超音波が横波、即ちSHARE VERTICAL(SV)波となるように設計された横波斜角探触子である。
【0010】
このくさび4は、ポリスチロール樹脂で作られており、試験体5が鋼で作られている場合、試験体5に対面する接触面を基準面に採用すると、振動子3が貼り付けられる貼付面の傾斜角αは46.7°である。そして、くさび4内を伝搬する縦波8は、モード変換されてSV波9になる。このSV波9の伝搬する方向、即ち、接触面の法線からの屈折角θは、スネルの法則に従って決まる。例えば、くさび4がポリスチロール樹脂(縦波音速V1=2360m/s)で、試験体5が鋼(横波音速V2=3230m/s)で作られているとき、屈折角θは、式(1)により決まる。傾斜角αが46.7°のときには、屈折角θは85°となる。
【0011】
θ=ArcSIN(V2×SINα/V1)・・・(1)
【0012】
次に、この発明の実施の形態1に係わる超音波探傷装置の動作原理について説明する。
この発明の説明では、図1に示すように、試験体5として、表面に傷6があり、その傷6は斜角探触子1からみて障害物7の遠方にあるものを用いる。
探傷器2から励振信号を斜角探触子1に入力し、斜角探触子1の振動子3を励振する。
そして、振動子3が振動すると、くさび4の内部に縦波8が発生し、縦波8がくさび4内部を伝搬し、くさび4と試験体5との境界面に波面が達した縦波8がSV波9にモード変換され、試験体5中を主にSV波9が伝搬する。
なお、試験体5中には、モード変換によって発生した表面波も伝搬していくが、説明を簡単にするため、図1中には表面波は示さない。
【0013】
ここでもし、屈折角θが小さいと、試験体5中を伝搬していくSV波9は試験体5の表面の影響を殆ど受けずに伝搬する。しかし、この発明のように屈折角θが85°と90°に近いような場合には、試験体5中を伝搬していくSV波9は伝搬するに従い、試験体5の表面の影響を受ける。すなわち、SV波9の波面は拡がりながら伝搬するが、試験体5の表面によって波面の拡がりが止められる。このとき、試験体5の表面に、SV波9の伝搬に伴い表面に沿って伝搬する波動が発生する。SV波9は固体と気体との境界面で存在することができないので、この波動は、正確にはSV波9でも表面波でもない。従って、この発明の説明では、この波動を、「疑似表面SV波」10と呼ぶことにする。
図1には、SV波9と疑似表面SV波10の波面が伝搬していく模式的な様子を示している。
【0014】
この疑似表面SV波10は、試験体5の表面が存在することにより発生する波動である。このため、伝搬経路に障害物7がある場合、例えば、図1に示すような形状の障害物7が存在する場合には、疑似表面SV波10は一旦SV波9に吸収されるような形で消失する。しかし、SV波9の波面が再び表面に達する領域に伝搬すると、疑似表面SV波10がまた発生する。このように、疑似表面SV波10は、常にSV波9に伴って伝搬する。
【0015】
図1に示すように、屈折角θが大きい斜角探触子1では、試験体5の表面付近をSV波9および疑似表面SV波10が伝搬していく。すなわち、斜角探触子1の屈折角θが90°に近い値であれば、試験体5の表面付近にSV波9および疑似表面SV波10を伝搬させることができる。SV波9および疑似表面SV波10は、表面付近の傷6に入射し、エコー信号が発生する。このエコー信号のモードは、傷6の大きさにもよるが、多くの場合はSV波9が主となる。
【0016】
傷6による反射波としてのSV波9は、図1に示した斜角探触子1から傷6に伝搬した経路の逆の経路を辿って振動子3で受信される。この様子を、図2を用いて説明する。傷6で反射したエコー信号であるSV波9は、くさび4の方向に波面を拡げながら伝搬する。この時、斜角探触子1から傷6に伝搬した場合と同様に、SV波9の波面は拡がりながら伝搬するが、試験体5の表面に達した波面はそれ以上拡がることができない。このとき、試験体5の表面には、SV波9の伝搬に伴い表面に沿って伝搬する疑似表面SV波10が発生する。
【0017】
そして、エコー信号であるSV波9の波面がくさび4の下方に位置する試験体5にまで到達しても、伝搬方向が図2に示すように試験体5の表面に対してほぼ平行であるために、くさび4内に波動を形成することはない。一方、疑似表面SV波10がくさび4の下方に位置する試験体5の表面に到達すると、振動のエネルギーをくさび4内に放出しながら伝搬する。このため、くさび4内にはモード変換により縦波8が発生する。この縦波8を振動子3で受信することで、探傷器2には傷6で反射したエコー信号が伝達される。このような動作原理により、試験体5の表面付近にある傷6を探傷することが可能である。
【0018】
このように、斜角探触子1と傷6との間に障害物7があり、従来の表面波やクリーピング波を用いた探傷では困難であるような場合でも、疑似表面SV波10を送受信する構成とすることにより、傷6で反射したエコー信号を受信できる。したがって、表面波やクリーピング波を用いた探傷では困難な場合でも探傷可能となる。
また、SV波9が主たる波動となる横波斜角探触子1を用いるので、粘性の大きな接触媒質を用いる必要はなく、水を接触媒質としても十分探傷可能である。このため、表面SH波を用いて探傷する場合に比べて作業効率が大幅に改善できる。
【0019】
なお、通常の横波斜角探触子は、疑似表面SV波10が発生するような構成とはなっていない。その理由は、くさび4と試験体5との往復透過率に関係する。なお、往復透過率は、一定のパワーを与えたときの振幅によって表される。図3に、くさび4をアクリル樹脂、試験体5を鋼とした場合の振幅の屈折角依存性を示す。図3の横軸は、屈折角θで、縦軸は、振幅である。図3から分かるように、屈折角θが80°を超えた付近から急激に振幅が減少し、屈折角θが90°で零になる。したがって、従来は往復透過率の減少を避ける方向での設計がなされており、通常の横波斜角探触子の屈折角θは70°以下である場合が多く、80°を超えるものはほとんどない。これに対し、この発明では、屈折角θが80°を超えるような横波斜角探触子1を用いることにより、前記特性をもつ疑似表面SV波10が発生することを発見し、これにより表面近傍の超音波探傷を可能にした。このように従来の横波斜角探触子を用いていると、疑似表面SV波10を用いて超音波探傷を行うという発想が出てこなかったものと考えられる。
【0020】
これまで説明してきた縦波8、SV波9および疑似表面SV波10の伝搬を確認するため、2次元弾性波Finite Difference Time Domain(FDTD)法による音場シミュレーションを行い、くさび4内および試験体5内をどのように超音波が伝搬していくのかを音場シミュレーションした。この音場シミュレーションでは、くさび4をポリスチロール樹脂(縦波音速2360m/s)、試験体5を鋼(横波音速3230m/s)とした。また、周波数を5MHzとした。
音場シミュレーションの結果を、図4および図5に示す。図4および図5では、振動子3を励振してからの経過時間が20μsまでの音場を4μs経過ごとに示している。図4および図5では、黒い部分がくさび4および試験体5の内部を示し、その黒い部分の中の白い部分が縦波8、SV波9または疑似表面SV波10の波面を示す。
【0021】
図4(a)に示す4μs後の音場では、くさび4内に縦波8が励振され伝搬している。
図4(b)に示す8μs後の音場では、モード変換によって生じたSV波9と表面波11が伝搬する。この表面波11はレイリー(Rayleigh)波と呼ばれるものである。
図4(c)に示す12μs後の音場では、SV波9が試験体5内を、表面波11が試験体5の表面に沿って伝搬する。
図5(a)に示す16μs後の音場では、表面波11は試験体5の表面に沿って伝搬し、障害物7を透過する方向に伝搬しない。このことから、図1に示したような試験体5の形状では、表面波11による探傷が困難であることが分かる。
【0022】
しかし、図5(a)に示す16μs後の音場には、斜角探触子1から見て障害物7より遠方の試験体5の表面にSV波9の波面が達しており、その表面に疑似表面SV波10が発生している。
図5(b)に示す20μs後の音場には、傷6で反射されたSV波9が伝搬していく様子を示している。
【0023】
図4および図5に示した音場シミュレーションの結果だけでは疑似表面SV波10の様子は分かりにくので、改めて疑似表面SV波10を拡大して説明する。図6は、図5(a)に示す16μsの音場の内、疑似表面SV波10付近を拡大して示したものである。このときは表示感度も変えて示している。
弾性波FDTD法では試験体5中の粒子速度を計算するので、粒子の振動をベクトルとして求めることができる。図7に、疑似表面SV波10が伝搬している箇所の小さな矢印によるベクトル図を示している。また、図8に、粒子の振動を表すベクトルの概念図を示している。
【0024】
この図8のベクトルの概念図から分かるように、試験体5の表面の粒子は回転している。このように粒子が回転する波動は、一般的にはSV波9とは呼べない。どちらかと言えば表面波11の振動に近い現象である。しかし、SV波9に伴い表面に沿って伝搬する波動であるので、伝搬速度はSV波9と同じである。このような波動であるので、この発明ではこの波動を「疑似表面SV波」10と呼んで説明した。
【0025】
次に、疑似表面SV波10がくさび4内に形成する波動について説明する。くさび4内の波動は、図4および図5に示した音場シミュレーションでは分かりづらい。そこで、図9に示すような構成で新たに音場シミュレーションを行った。この音場シミュレーションでは、図4と同じ斜角探触子1a、1bを2つ用意し、一方を送信用の斜角探触子1a、他方を受信用の斜角探触子1bとし、所定の距離だけ離間して配置して行った。また、送信用の斜角探触子1aおよび受信用の斜角探触子1bの振動子3の傾斜角αを、45.7°、46.7°、47.7°として、疑似表面SV波10によりくさび4内に形成する縦波の波面の傾きを求めた。図10は、2探触子法の受信用の斜角探触子1bの内部の音場を示す。図10(a)は、振動子3の傾斜角αが45.7°、図10(b)は、振動子3の傾斜角αが46.7°、図10(c)は、振動子3の傾斜角αが47.7°である。なお、くさび4と試験体5の材質は図4の場合と同様に、くさび4はポリスチロール樹脂(縦波音速2360m/s)、試験体5は鋼(横波音速3230m/s)とした。また、周波数も同様に5MHzとした。
【0026】
図10から、疑似表面SV波10がくさび4内に縦波8を形成する様子が分かる。
また、図10には、傾斜角αを変えた場合のくさび4内音場を示している。図10から分かるように、傾斜角αを変えても受信用の斜角探触子1b内部における縦波8の波面の角度は変わらない。この波面と送信用の斜角探触子1aの振動子3とが平行であると、効率良く疑似表面SV波10を送信でき、受信用の斜角探触子1bの振動子3と平行であると、効率良く疑似表面SV波10を受信できる。すなわち、疑似表面SV波10を効率良く送受信する傾斜角αが存在する。この発明に係わる超音波探傷装置においては、斜角探触子1の構成として、傾斜角αが疑似表面SV波10を効率良く送受信する角度であることを特徴とする。
【0027】
なお、疑似表面SV波10を効率良く送受信する角度は、試験体5の音速によって変化する。このため、振動子3とくさび4内の縦波の波面が平行になるように調整する角度調整機構21を備えてもよい。図11は、振動子3をくさび4内を伝搬する縦波8の波面に平行になるように調整する角度調整機構21の構成図である。
この角度調整機構21は、図11に示すように、くさび4の両側面を挟持する保持棒22と、保持棒22を回転自在に支持する軸受23を一端に設けられた支持棒24と、支持棒24の他端を固定する枠25と、を備える。
【0028】
そして、角度調整機構21は、図12に示すように、枠25の底面が試験体5の表面に載せられ、くさび4と試験体5の表面との間およびその周りに接触媒質26が溜められている。接触媒質26は、水、油、グリセリンなどである。そして、図12に示すように、疑似表面SV波10がくさび4の下方に位置する試験体5に達すると、疑似表面SV波10は、接触媒質26内およびくさび4内を伝搬する縦波8を発生する。
図12からも分かるように、角度調整機構21により振動子3の傾斜角αを調整することにより、くさび4内の縦波8の波面と振動子3とを平行にすることができ、効率良く疑似表面SV波10により発生される縦波8を受信することができる。すなわち、SN比を向上させるという効果がある。送信についても同様である。このような角度調整は、直接接触法では困難であるが、水ギャップ法や水浸法であれば角度調整は可能である。
【0029】
なお、角度調整機構21を用いて振動子3の傾斜角αを変化させ、角度変化に対するエコー高さを求めることにより、試験体5の横波音速測定を行うことも可能である。
【0030】
実施の形態2.
図13は、この発明の実施の形態2に係わる超音波探傷装置の構成図である。
この発明の実施の形態2に係わる超音波探傷装置は、実施の形態1に係わる超音波探傷装置と超音波の送受信を別々の斜角探触子1a、1bを用いて行うことが異なっており、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
【0031】
実施の形態2に係わる超音波探傷装置は、実施の形態1に係わる斜角探触子1と同様な斜角探触子1aを送信用とし、同様に実施の形態1に係わる斜角探触子1と同様な斜角探触子1bを受信用として配置する。この斜角探触子1aの振動子3aの傾斜角αは、実施の形態1に係わる斜角探触子1の振動子3の傾斜角αと同様に、くさび4aと試験体5の境界面でモード変換されたSV波9の屈折角θが80°を超え、SV波9の伝搬に伴い、試験体5の表面に疑似表面SV波10が発生するように設定されている。
【0032】
また、この斜角探触子1bの振動子3bの傾斜角αは、屈折角θが80°を超えているSV波9により試験体5の表面を伝搬する疑似表面SV波10によりくさび4b内に発生された縦波8を検出できるように設定されている。
そして、この実施の形態2に係わる探傷器2Bは、送信用の斜角探触子1aに対して振動子3aを励振する励振信号を入力する。一方、受信用の斜角探触子1bの振動子3bがくさび4bを伝搬してきた縦波8を検出したときの検出信号が入力される。
【0033】
次に、この発明の実施の形態2に係わる超音波探傷装置の動作について説明する。
実施の形態1と同様に、斜角探触子1aから試験体5の表面に近い部分にSV波9を伝搬させ、SV波9の伝搬に伴って発生する疑似表面SV波10を試験体5の表面に伝搬させる。
そして、実施の形態1のように傷6からのエコー信号を受信するのではなく、そのまま斜角探触子1bにより疑似表面SV波10を受信する。また、くさび4a、4b内の縦波8の伝搬遅延時間を予め求めておく。また、送信用の探触探触子1aと受信用の斜角探触子1bとの間の距離を測定しておく。
それから、送信用の斜角探触子1aから試験体5内を伝搬するSV波9を送信し、受信用の斜角探触子1bにより試験体5の表面を伝搬した疑似表面SV波10を受信して伝搬遅延時間を求め、伝搬遅延時間と距離とから試験体5を伝搬するSV波9の音速を測定する。
【0034】
試験体5の表面に沿って伝搬するSV波9の音速を求めることは、従来は困難であった。図3に示したように、屈折角θ90°では往復透過率が零になるので、この発明の実施の形態2のようにして音速測定を行うという発想自体が、従来はなかったものと思われる。このため従来は、垂直横波探触子を用い、振動方向が図12の紙面に平行な方向の横波の音速を測定していた。しかしこの方法では試験体5の厚さ測定が必須であり、また、表面SH波と同様に、垂直横波探触子用の粘性の高い接触媒質を用いる必要があるので、困難な点が多い。
【0035】
これに対し、この発明の実施の形態2に係わる超音波探傷装置を用いて音速を測定すると、試験体5の厚さを測定する必要はなく、且つ、送信用の斜角探触子1aと受信用の斜角探触子1bの距離が分かれば良い。また、垂直横波探触子を用いたときのように、粘性の高い接触媒質を用いる必要もない。従って、音速測定が簡易的に行える。
また、従来は、試験体5の表面に対して垂直方向に伝搬する横波の音速を求めていたが、実施の形態2に係わる超音波探傷装置を用いて測定した音速は、試験体5の表面に沿って伝搬する音速とほぼ同じであるので、傷6が表面にあるために起こる音速の変化を検出することにより、精度よく超音波探傷を行うことができる。
【0036】
なお音速測定方法として、図13に示したように送信用の斜角探触子1aと受信用の斜角探触子1bを用いる2探触子法による方法を説明したが、基準となる反射源があれば、これを用いて1探触子法で音速測定しても構わない。この場合、送信用の斜角探触子1aから基準となる反射源までの距離を測定する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる超音波探傷装置の構成を示す図である。
【図2】傷から斜角探触子までの超音波の伝搬を説明するための図である。
【図3】アクリル樹脂と鋼との境界面における平面波の往復透過率に関するグラフである。
【図4】斜角探触子のくさび内および試験体内を伝搬する励振から4、8、12μs経過後の音場シミュレーションの結果である。
【図5】斜角探触子のくさび内および試験体内を伝搬する励振から16、20μs経過後の音場シミュレーションの結果である。
【図6】励振から16μs経過後の音場の内の疑似表面SV波付近を拡大して示したものである。
【図7】疑似表面SV波付近の粒子の振動ベクトルの分布図である。
【図8】疑似表面SV波の付近の粒子の振動の概念図である。
【図9】疑似表面SV波によりくさび内を伝搬する縦波を音場シミュレーションするときの構成図である。
【図10】疑似表面SV波によりくさび内を伝搬する縦波の様子を示す図である。
【図11】振動子の傾斜角を縦波の波面の傾きに合わせるために調整する角度調整機構の構成図である。
【図12】角度調整機構を用いて縦波の波面の傾きに振動子の傾斜角を調整する様子を説明するための図である。
【図13】この発明の実施の形態2に係わる超音波探傷装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1、1a、1b 斜角探触子、2、2B 探傷器、3、3a、3b 振動子、4、4a、4b くさび、5 試験体、6 傷、7 障害物、8 縦波、9 横波(SV波)、10 疑似表面SV波、11 表面波、21 角度調整機構、22 保持棒、23 軸受、24 支持棒、25 枠、26 接触媒質。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される電気信号を超音波に変換して試験体中に送信し、且つ、上記試験体中を伝搬する超音波を受信し、該超音波を電気信号に変換する超音波探触子と、上記超音波探触子を駆動し、且つ、上記超音波探触子からの電気信号を受信する送受信器と、を備える超音波探傷装置において、
上記超音波探触子を伝搬する超音波は、縦波であり、
上記試験体中を伝搬する超音波は、上記試験体中の伝搬に伴い波面が上記試験体の表面に達し、且つ、上記試験体の表面に疑似表面SV波を発生する横波であり、
上記超音波探触子と上記試験体との境界面において、上記入力される電気信号が変換された縦波が上記横波にモード変換され、また、上記試験体の表面を伝搬する疑似表面SV波が縦波に変換されることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
入力される電気信号を超音波に変換して試験体中に送信する送信用の超音波探触子と、上記試験体中を伝搬する超音波を受信し、該超音波を電気信号に変換する受信用の超音波探触子と、上記送信用の超音波探触子を駆動し、且つ、上記受信用の超音波探触子からの電気信号を受信する送受信器と、を備える超音波探傷装置において、
上記送信用および受信用の超音波探触子を伝搬する超音波は、縦波であり、
上記試験体中を伝搬する超音波は、上記試験体中の伝搬に伴い波面が上記試験体の表面に達し、且つ、上記試験体の表面に疑似表面SV波を発生する横波であり、
上記送信用の超音波探触子と上記試験体との境界面において、上記入力される電気信号が変換された縦波が上記横波にモード変換され、
上記受信用の超音波探触子と上記試験体との境界面において、上記試験体の表面を伝搬する疑似表面SV波が縦波に変換されることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項3】
上記超音波探触子の振動子は、上記表面に沿って伝搬する疑似表面SV波がモード変換されて上記超音波探触子のくさび内に形成される縦波の波面に対して平行になるように配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
上記試験体の表面に沿って伝搬する疑似表面SV波がモード変換されて上記超音波探触子のくさび内に形成される縦波の波面に対して、上記超音波探触子の振動子が平行になるように調整する角度調整機構を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波探傷装置。
【請求項5】
上記疑似表面SV波が上記試験体の表面の所定の距離を伝搬したときの伝搬遅延時間を求め、上記伝搬遅延時間から上記試験体の横波音速を測定することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
入力された電気信号が超音波探触子により縦波に変換され、該縦波が上記超音波探触子と試験体との境界面で波面が上記試験体の表面に達する横波にモード変換されるステップと、
上記試験体の表面近傍の傷で反射して戻る上記横波が伝搬するとき、上記試験体の表面に発生する疑似表面SV波が上記超音波探触子と試験体との境界面で縦波にモード変換されるステップと、
を有することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項7】
上記疑似表面SV波が上記試験体の表面の所定の距離を伝搬したときの伝搬遅延時間を求め、上記伝搬遅延時間から上記試験体の横波音速を測定し、該横波音速に基づいて傷を探傷するステップを有することを特徴とする請求項6に記載の超音波探傷方法。
【請求項1】
入力される電気信号を超音波に変換して試験体中に送信し、且つ、上記試験体中を伝搬する超音波を受信し、該超音波を電気信号に変換する超音波探触子と、上記超音波探触子を駆動し、且つ、上記超音波探触子からの電気信号を受信する送受信器と、を備える超音波探傷装置において、
上記超音波探触子を伝搬する超音波は、縦波であり、
上記試験体中を伝搬する超音波は、上記試験体中の伝搬に伴い波面が上記試験体の表面に達し、且つ、上記試験体の表面に疑似表面SV波を発生する横波であり、
上記超音波探触子と上記試験体との境界面において、上記入力される電気信号が変換された縦波が上記横波にモード変換され、また、上記試験体の表面を伝搬する疑似表面SV波が縦波に変換されることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
入力される電気信号を超音波に変換して試験体中に送信する送信用の超音波探触子と、上記試験体中を伝搬する超音波を受信し、該超音波を電気信号に変換する受信用の超音波探触子と、上記送信用の超音波探触子を駆動し、且つ、上記受信用の超音波探触子からの電気信号を受信する送受信器と、を備える超音波探傷装置において、
上記送信用および受信用の超音波探触子を伝搬する超音波は、縦波であり、
上記試験体中を伝搬する超音波は、上記試験体中の伝搬に伴い波面が上記試験体の表面に達し、且つ、上記試験体の表面に疑似表面SV波を発生する横波であり、
上記送信用の超音波探触子と上記試験体との境界面において、上記入力される電気信号が変換された縦波が上記横波にモード変換され、
上記受信用の超音波探触子と上記試験体との境界面において、上記試験体の表面を伝搬する疑似表面SV波が縦波に変換されることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項3】
上記超音波探触子の振動子は、上記表面に沿って伝搬する疑似表面SV波がモード変換されて上記超音波探触子のくさび内に形成される縦波の波面に対して平行になるように配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
上記試験体の表面に沿って伝搬する疑似表面SV波がモード変換されて上記超音波探触子のくさび内に形成される縦波の波面に対して、上記超音波探触子の振動子が平行になるように調整する角度調整機構を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波探傷装置。
【請求項5】
上記疑似表面SV波が上記試験体の表面の所定の距離を伝搬したときの伝搬遅延時間を求め、上記伝搬遅延時間から上記試験体の横波音速を測定することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
入力された電気信号が超音波探触子により縦波に変換され、該縦波が上記超音波探触子と試験体との境界面で波面が上記試験体の表面に達する横波にモード変換されるステップと、
上記試験体の表面近傍の傷で反射して戻る上記横波が伝搬するとき、上記試験体の表面に発生する疑似表面SV波が上記超音波探触子と試験体との境界面で縦波にモード変換されるステップと、
を有することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項7】
上記疑似表面SV波が上記試験体の表面の所定の距離を伝搬したときの伝搬遅延時間を求め、上記伝搬遅延時間から上記試験体の横波音速を測定し、該横波音速に基づいて傷を探傷するステップを有することを特徴とする請求項6に記載の超音波探傷方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−14911(P2008−14911A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189281(P2006−189281)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(392036153)菱電湘南エレクトロニクス株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(392036153)菱電湘南エレクトロニクス株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
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