説明

超音波探傷装置および超音波探傷方法

【課題】検査対象の表面が複雑な形状に形成された場合でも、精度が高い検出結果が得られる超音波探傷装置を提供する。
【解決手段】複数の超音波素子を駆動して検査対象2に超音波を入射し、その検査対象2からの反射超音波を受信する超音波プローブ1と、超音波プローブ1が反射超音波を受信した受信信号を解析して探傷結果を算出する解析手段7とを備える。解析手段7は、超音波が入射する検査対象2の表面情報に基づいて求めた超音波の伝搬経路を用いて探傷結果を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象の健全性を非破壊で確認するための超音波探傷装置および超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に超音波探傷技術は、非破壊で検査対象である構造材の健全性を確認することが可能な技術であり、様々な分野で欠くことができない技術として使用されている。特に、近年は、検査対象の表面が曲面形状などの複雑形状部が形成された構造物に対しても検査要求があり、超音波探傷技術への要求が高度化しているのが現状である。
【0003】
その一方で、検査対象の表面に曲面などの複雑な形状が形成されている場合には、超音波が適切に検査対象物へ入射することができない問題がある。因みに、溶接線およびその熱影響部においては、溶接の入熱によるひずみや傘折れが生じたり、溶金を盛った後の凸形状など、設計上は平坦である箇所が曲面などの複雑な形状に形成されてしまうことが多い。
【0004】
また、例えば原子力発電プラントや火力発電プラントのノズル管台などに代表される各種配管や、タービン翼のプラットフォーム部などは、設計上、曲面などの複雑形状に形成され、検査が困難な箇所も多く存在している。現状において、超音波を検査対象へ入射できなかったり、仮に入射することができたとしても目標とする探傷屈折角とならない場合が生じ得るなどの問題がある。また、フェーズドアレイ(PA)やマトリックスアレイ(MA)を使用する場合は、各素子の入射位置毎に表面の形状が異なっている場合がある。
【0005】
このような問題を解決する手段として、従来では、例えば特許文献1に記載された技術がある。この技術は、検査対象の表面形状を超音波プローブにより計測し、その計測した形状に応じてフェーズドアレイ(PA)の送信遅延時間を最適化して検査する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−170877号公報「超音波探傷装置及び方法」
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】超音波による欠陥寸法測定 −非破壊検査の新しい展開− 共立出版発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された技術は、検査対象の表面形状に応じ、超音波の遅延時間条件を最適化することしか言及されていない。具体的には、表面形状に応じて超音波を入射することで、超音波の入射角が変化する問題には対応することが可能であるものの、探傷結果を表示する際に、この表面形状の影響を考慮せずに探傷結果を表示させると、実際の探傷位置とは異なる箇所に欠陥の指示エコーが検出されることになる。
【0009】
この指示エコーの位置は、別途表面形状の影響を考慮して探傷結果を補正しなければ、正確な欠陥位置を検知することができず、検出位置の誤差を生じ、精度の低い超音波探傷しか実施することができない。加えて、上記指示エコーが不明瞭になるなどの問題も生じる。
【0010】
本発明は上述した事情を考慮してなされたものであり、検査対象の表面が複雑な形状に形成された場合でも、精度が高い検出結果が得られる超音波探傷装置および超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る超音波探傷装置は、複数の超音波素子を駆動して検査対象に超音波を入射し、その検査対象からの反射超音波を受信する超音波プローブと、前記超音波プローブが反射超音波を受信した受信信号を解析して探傷結果を算出する解析手段と、を備える超音波探傷装置であって、前記解析手段は、前記超音波が入射する前記検査対象の表面情報に基づいて求めた前記超音波の伝搬経路を用いて探傷結果を算出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る超音波探傷方法は、超音波プローブの複数の超音波素子を駆動して検査対象に超音波を入射する超音波入射ステップと、前記超音波入射ステップの後に、前記検査対象からの反射超音波を受信する超音波受信ステップと、前記超音波受信ステップの後に、前記超音波プローブが反射超音波を受信した受信信号を解析して探傷結果を算出する解析ステップと、を含む超音波探傷方法であって、前記解析ステップは、前記超音波が入射する前記検査対象の表面情報に基づいて求めた前記超音波の伝搬経路を用いて探傷結果を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、検査対象の表面が複雑な形状に形成された場合でも、精度が高い検出結果が得られ、正確な超音波探傷を実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る超音波探傷装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】一般的な探傷例を示す説明図である。
【図3】一般的な探傷結果を再構成する例を示す説明図である。
【図4】一般的な探傷方法を示すフローチャートである。
【図5】検査対象の表面が非平面の超音波の伝搬経路を示す説明図である。
【図6】検査対象の表面形状を考慮しない再構成方法を示す説明図である。
【図7】検査対象の表面形状を考慮した再構成方法を示す説明図である。
【図8】表面形状を計測して探傷結果を再構成する場合を示すフローチャートである。
【図9】設計データから読み込んだ表面形状に応じて探傷結果を再構成する場合を示すフローチャートである。
【図10】本実施形態において発振された超音波が検査対象内部で伝播する状態を示す説明図である。
【図11】検査対象の表面傾きθを用いて実際の入射角と探傷屈折角を算出する場合を示す説明図である。
【図12】受信信号と検査対象位置情報とを対応付けるためのフローチャートである。
【図13】検査対象の表面傾きを求めるための説明図である。
【図14】別の方法で検査対象の表面傾きを求めるための説明図である。
【図15】検査対象の表面形状を考慮しない再構成を行った例の画像を示す図である。
【図16】検査対象の表面形状を考慮して再構成を行った例の画像を示す図である。
【図17】超音波の強度を音場シミュレーションにて示す図である。
【図18】超音波の強度を音場シミュレーションにて示す図である。
【図19】表面の曲面形状の影響を考慮せずに再構成した結果の画像を示す図である。
【図20】表面の曲面形状の影響を考慮して再構成させた結果の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る超音波探傷装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
本実施形態における超音波プローブとは、セラミックス製、その複合材料またはそれ以外の材料で圧電効果により超音波を発生することが可能な圧電素子、高分子フィルムによる圧電素子、またはそれ以外の超音波を発生可能な機構と、超音波をダンピングするダンピング材と、超音波の送信面に取り付けられた前面板とのいずれかの構成、もしくはそれらの組み合わせからなる構成とし、一般的な超音波探触子と称されるものとする。
【0017】
本実施形態では、圧電素子が一次元状に配列された一般的にアレイセンサと呼ばれるものを適用した場合について説明するが、二次元状に配列されたマトリックスセンサを適用してもよい。
【0018】
本実施形態における音響接触媒質は、例えば水、グリセリン、マシン油、アクリルやポリスチレンのゲルなどのように超音波を伝播させることが可能な媒質とする。なお、本実施形態においては、超音波プローブから検査対象へ超音波を入射させる際に音響接触媒質の記載を省略している場合もある。また、一般的なフェーズドアレイなどの複数の圧電素子を用いることによって超音波の送受信遅延制御による探傷方法の詳細は、上記非特許文献1などにより周知技術であるので、その説明を省略する。
【0019】
以下、本実施形態に係る超音波探傷装置の具体的な構成について説明する。
【0020】
図1は本発明に係る超音波探傷装置の一実施形態を示すブロック図である。図2は一般的な探傷例を示す説明図である。図3は一般的な探傷結果を再構成する例を示す説明図である。図4は一般的な探傷方法を示すフローチャートである。図5は検査対象の表面が非平面の超音波の伝搬経路を示す説明図である。
【0021】
なお、以下の説明では、配管を検査対象とし、その配管の欠陥部分を超音波により探傷する場合について説明する。また、図1では、配管の中心を一点鎖線で示している。
【0022】
図1に示すように、超音波探傷装置は超音波プローブ1を有する。この超音波プローブ1は、複数の超音波素子を駆動して検査対象2である配管に音響接触媒質3を通して超音波を入射し、検査対象2からの反射超音波を受信する。
【0023】
また、超音波探傷装置は、超音波プローブ1で超音波の送受信を行うための超音波送受信部4と、この超音波送受信部4で実際に駆動させる超音波素子を制御するための駆動素子制御部5と、超音波プローブ1で受信した受信信号(超音波信号)を記録するために記憶手段としての信号記録部6と、この信号記録部6に記録した受信信号を解析して探傷結果を算出する解析部7と、この解析部7により得られた探傷結果を表示するための表示部8と、設計段階における検査対象2の表面形状のデータが予め記録されている設計データベース9と、を備える。
【0024】
駆動素子制御部5は、送受信感度を調整する送受信感度調整部5aを備え、複数の超音波素子のそれぞれを任意の時間で発振するための遅延手段を構成する。信号記録部6は、駆動素子制御部5で受信した超音波信号を保存する記憶手段を構成する。
【0025】
解析部7は、超音波が入射する検査対象2の表面情報に基づいて求めた超音波の伝搬経路に基づいて探傷結果を算出する解析手段を構成する。すなわち、解析部7は、超音波が入射する位置の検査対象2の表面と超音波プローブ1との相対角度を用いて超音波の伝搬経路を求めている。
【0026】
なお、図1に示す超音波探傷装置は、複数の圧電素子からなる超音波プローブ1に対して遅延時間を付与し送受信の制御を行う機構を備えていれば、他の構成であってもよい。
【0027】
次に、図2および図3に基づいて一般的なフェーズドアレイ(PA)を用いた場合の探傷方法について説明する。
【0028】
図2に示すように、検査対象2の内部に超音波を任意の探傷屈折角で入射させるため、フェーズドアレイ(PA)の超音波プローブ1に設けられた複数の超音波素子(以下、圧電素子ともいう。)に適切な時間遅延を付与して発振させていくことで、超音波の方向や焦点位置の制御が可能になる。なお、本実施形態では、代表的にリニアスキャン法を適用した場合について説明するが、その他セクタースキャンなど、種々の探傷方法を用いてもよい。
【0029】
検査対象2に入射された超音波は、検査対象2内部に欠陥などの反射源が存在すると、超音波が反射、散乱され、その反射波が超音波プローブ1の圧電素子で受信される。このようにして得られた超音波波形は、設定した超音波の入射角αと探傷屈折角βに応じて、電子スキャン方向に画像化することが可能である。この画像化は一般的にB−scanやS−scanと呼ばれている。この画像化は、図3に示すように探傷時の探傷条件に応じた入射角αや探傷屈折角βにより再構成される。なお、以下の実施形態においては、B−scanを用いて説明する。
【0030】
このような一般的な探傷方法を図4に基づいて説明する。
【0031】
図4に示すように、検査対象2に対する探傷屈折角βや焦点位置などの探傷条件に基づいて遅延時間を算出しておき(ステップS1)、検査対象2のある位置に超音波プローブ1を設置し(ステップS2)、検査対象2を探傷(ステップS3)した後、探傷屈折角βに応じて得られた超音波データを再構成し、B−scanを作成(ステップS4)する。その後、再度検査対象2の検査位置を変更し、ステップS3およびステップS4の処理を繰り返すことになる。
【0032】
しかしながら、例えば検査対象2の表面が、溶接金属の余盛や、研削によりうねり(部分的な曲面)などが形成されていた場合、あるいはそもそも検査対象2が非平面であった場合は、図3に示す平面条件と想定した探傷条件で探傷および結果の再構成(ステップS4)を実施すると、検査結果に誤差が生じる問題がある。
【0033】
この問題を図5に基づいて説明する。図5は検査対象2の表面にうねりなどの曲面2aが形成されている場合について検査する場合である。ここで、探傷条件が図2に示すように平面の条件で計算されていた場合、超音波プローブ1のどの位置からも入射角αにより探傷されることになる。そのため、検査対象2の表面が曲面2aに形成されている箇所に入射する場合、スネルの法則から探傷屈折角βが固定されず、入射位置に応じて様々な変化を生じる。したがって、超音波受信信号に基づいて再構成を行う際は、検査対象2の表面形状を考慮しなければ、再構成の条件の探傷屈折角βと実際の探傷屈折角βが異なってしまい、実際の超音波の伝搬経路と異なる条件で再構成を行ってしまうことになる。
【0034】
この点について、図6および図7を用いてさらに詳細に説明する。
【0035】
図6は検査対象の表面形状を考慮しない再構成方法を示す説明図である。図7は検査対象の表面形状を考慮した再構成方法を示す説明図である。具体的に、図6および図7は、それぞれ探傷結果をB−scan表示する際に、再構成の計算に用いる超音波の伝搬経路を示している。図6は検査対象2の表面形状を考慮していない例を示し、図7は検査対象の表面形状を考慮した例を示している。
【0036】
図6に示す例は、あくまでも平面形状を想定した超音波伝搬経路となっており、実際の検査対象2内部の探傷屈折角βは反映されずに再構成される。すなわち、実際とは異なる超音波伝搬経路を用いて再構成されるため、再構成で得られた欠陥位置などが、実際に検査対象2に生じている欠陥の位置に対して誤差を生じてしまう。
【0037】
これに対して、図7に示すように、検査対象2の実際の表面形状を考慮した超音波の伝搬経路(すなわち、実際の超音波の伝搬経路)を用いて再構成を行えば、上述したような誤差は生じない。したがって、図7に示す超音波の伝搬経路は、検査対象2の表面形状、入射角αから探傷屈折角βを算出して求めることが可能である。
【0038】
このように本実施形態では、入射点の各位置で探傷屈折角βを計算し、その角度に応じて探傷結果を再構成することで、実際の超音波探傷の結果を反映し、位置誤差などがない検査が可能になる。
【0039】
次に、検査対象2の表面形状を考慮して探傷結果を再構成する場合の2つの処理を図8および図9に基づいて説明する。
【0040】
図8は表面形状を計測して探傷結果を再構成する場合を示すフローチャートである。図9は設計データから読み込んだ表面形状に応じて探傷結果を再構成する場合を示すフローチャートである。
【0041】
図8において、ステップS11では、超音波プローブ1を検査対象2に音響接触媒質3を介して設置して検査対象2を走査する。次いで、ステップS12では、検査対象2の表面形状を計測する。そして、超音波プローブ1により超音波探傷処理を実行(ステップS13)した後、ステップS12で計測した検査対象2の表面形状に応じた探傷結果の再構成処理を行う(ステップS14)。
【0042】
図9において、ステップS21では、超音波プローブ1を検査対象2に音響接触媒質3を介して設置して検査対象2を走査する。次いで、ステップS22では、超音波プローブ1により超音波探傷処理を実行する。そして、設計データベース9に予め記録されている検査対象2の表面形状を読み込む処理(ステップS23)を実行した後、その表面形状に応じた探傷結果の再構成処理を行う(ステップS24)。
【0043】
次に、図10〜図12を用いて探傷屈折角βの算出方法について説明する。
【0044】
図10は本実施形態において発振された超音波が検査対象内部で伝播する状態を示す説明図である。図11は検査対象の表面傾きθを用いて実際の入射角と探傷屈折角を算出する場合を示す説明図である。図12は受信信号と検査対象位置情報とを対応付けるためのフローチャートである。
【0045】
図10に示すように、同時送信する素子の中心位置Eから、超音波プローブ1と検査対象2との位置関係および探傷したい条件(超音波の検査対象2内部での伝播方向、超音波をフォーカスする位置などの情報)により事前に計算された入射角αにて音響接触媒質3を伝播し、検査対象2表面に到達する。なお、入射角αとは、図6および図7に示した入射角αに相当するものであり、換言すれば超音波プローブ1から検査対象2へ超音波を送信する角度である。表面形状が平面でない場合には、入射角αは、実際の入射角度とは異なる。ここで、素子の中心位置Eは、超音波素子の位置情報であり、入射角αは、超音波の送信角度である。
【0046】
図10および図12に示すように、まず、事前に検査対象2の表面形状を計測した結果、または設計データベース9に予め記録されている設計情報に基づいて、検査対象2の表面に座標S〜Sの情報を設定する。なお、本実施形態は、フェーズドアレイ探触子を用いた場合について説明するので、各座標情報は二次元(S(x,z))であるが、マトリックスアレイ探触子を用いる場合は、三次元(S(x,y,z))で設定する。(ステップS31)
次いで、超音波素子の中心位置Eと、各超音波素子から送信する超音波の入射角αとから、超音波素子の中心位置Eから送信される超音波の入射位置(以下、入射点ともいう。)S(x,z)を計算することが可能である。(ステップS32)
ここで、図11に示すように入射位置S(x,z)の座標における検査対象の表面傾きθを用いることで、実際の入射角αと実際の探傷屈折角βを、スネルの法則から算出することが可能である。なお、表面傾きθは、平面と仮定された検査対象2の表面に対する傾きであり、換言すれば、超音波入射位置における実際の検査対象2の表面と超音波プローブ1との相対角度である。なお、表面傾きθの算出方法については後述する。(ステップS33,S34,S35)
この結果、送信される超音波素子の中心位置Eから入射位置Sまでの伝播距離E、入射位置Sから検査対象2内のある位置S(x,z)、および検査対象2内での超音波の伝搬方向が分かるため、実際の超音波の伝搬経路を求めることができる。
【0047】
そして、音響接触媒質3と検査対象2のそれぞれの音速は既知であることから、素子の中心位置Eから超音波を送信して受信した超音波信号Umのデータにおいて、超音波信号の各時間が検査対象内部のどこの位置に対応しているかを算出することが可能となる。なお、図示は省略するが、超音波信号Umとは縦軸に信号振幅、横軸に時間をとった信号波形である。(ステップS36)
この一連の処理を、超音波探傷を行う全素子位置について繰り返し実行することにより、検査対象2の表面形状を考慮した再構成を行うことが可能である。
【0048】
次に、上述した座標Smにおける検査対象2の表面傾きθを求める方法について説明する。図13は検査対象の表面傾きを求めるための説明図である。図14は別の方法で検査対象の表面傾きを求めるための説明図である。この表面傾きθは、超音波プローブ1と検査対象2との相対角度である。
【0049】
図13に示すように、上記の超音波の入射点Sにおける表面傾きθは、超音波の入射点Sに隣接した座標点Sm−1と座標点Sm+1から算出することが可能である。また、隣接している座標ではなく、超音波の入射点Sからa離れた座標点Sm−aと座標点Sm+aを用いて算出することも可能である。
【0050】
さらに、座標点Sm−aから座標点Sm+aまでの各点を利用し、各点を通るように最小二乗法などの手法により直線近似することで傾きを求める手法も可能である。また、図14に示すように、形状計測結果にノイズが生じている場合もあるため、座標点Sm−aから座標点Sm+aまでの複数点のうち、ばらつきの大きいデータ点を除去して表面傾きθを算出するようにしてもよい。
【0051】
なお、上述した超音波素子の中心位置Eと検査対象2内のある位置Sの位置から入射点Sを特定する際に、表面形状関数Sの各位置における表面傾きθを先に計算し、中心位置Eと検査対象2内のある位置Sの位置に対して座標Sから座標Sまでスネルの法則で計算し、計算結果の絶対値が最小となる値を中心位置Eと検査対象2内のある位置Sの位置関係における入射点Sとする計算も可能である。
【0052】
また、図10に示す探傷結果再構成領域M(x,z)の作成には、超音波信号Uから探傷結果Mへの位置を計算する場合と、探傷結果Mの座標点から、各座標に対応する超音波信号Uの位置を算出する方法の両方を適用することができる。
【0053】
次に、実際に欠陥を付与した試験体に対して探傷を行い、得られた探傷信号について再構成を行った結果を用いて、表面形状を考慮しない再構成と表面形状を考慮した再構成について比較して説明する。検査対象2の表面形状を考慮しない再構成を行った例を図15に、検査対象2の表面形状を考慮して再構成を行った例を図16に示す。これらの例では、超音波が検査対象2の探傷面に存する曲面(うねり)2aから検査対象2に付与された欠陥に送信される条件で探傷を行っている。
【0054】
図15は、平面に45度で超音波を入射させる条件でうねりを持つ検査対象2に対して探傷し、探傷した結果を表面の曲面形状の影響を考慮せずに再構成した結果を示す。
【0055】
図15に示した例では、コーナーエコー部(検査対象2の探傷面と反対側に生じている欠陥開口部からのエコー)を示すピークが、探傷面と反対側の面よりも内側に位置していることが分かる。また、欠陥の端部エコー(欠陥の検査対象内部側の端部からのエコー)は、明確なピークを示していない。
【0056】
これに対して、図16に示した例では、コーナーエコー部のピークが探傷面と反対側の面上に位置していることが分かる。また、端部エコーも明確なピークを示している。
【0057】
さらに、図15と図16とを比較すると、図15に示す例では欠陥位置の紙面において左側の欠陥等が存在しない位置に、エコーを示す領域が現れてしまっていることが分かる。
【0058】
このように、表面形状を考慮しない再構成では、曲面の影響を受ける検査対象2の内部に付与された欠陥のコーナーエコーおよび端部エコーの指示が不明瞭、かつ指示の位置が実際に付与されている欠陥位置に対して誤差を生じていることが分かる。
【0059】
これに対して、表面の曲面形状の影響を考慮した再構成結果では、欠陥のコーナーエコーおよび端部エコーの指示が図15に比べて明瞭に示されており、欠陥の指示位置も正確であることが判明した。
【0060】
ところで、上述した本実施形態において、検査対象2へ入射する超音波が位置により探傷屈折角βが変化する問題がある。また、例えば、図10〜図14に示すような検査対象2の表面の曲率が大きい場合、探傷屈折角βが大きく変化するため、検査すべき領域に超音波を入射することができない問題がある。
【0061】
図17および図18は、検査対象が平面の場合に探傷屈折角βが45度、検査対象厚さtに対して3/4tで超音波の焦点が形成される条件で計算された超音波プローブ1の送信遅延条件にて曲面へ超音波を入射した場合の超音波の強度を音場シミュレーションにて示した結果である。
【0062】
図17に示すように、平面部の一部から超音波が検査対象2の内部へ入射しているものの、曲面からは超音波が的確に入射することができていないことを確認することができる。一方、図18に示すように曲面に対応した送信の遅延条件にて超音波を入射した場合、曲面からも超音波が検査対象2内へ入射されることが確認できる。
【0063】
このように、検査対象2の表面形状に応じて検査対象2内部の探傷条件が同等となるように、各位置における入射角を制御することにより、検査対象2内部の探傷条件が一定となり、また探傷することができなかった位置へ超音波を入射することが可能になる。
【0064】
本実施形態においても、前述の通り探傷結果を再構成する場合には、表面形状に応じた再構成を実施する必要がある。例えば、図19には、曲面の形状を考慮して超音波の送信のための遅延時間条件を計算し、探傷した結果を表面の曲面形状の影響を考慮せずに再構成した結果を示す。
【0065】
図19によれば、コーナーエコー部が曲面の影響を受ける位置となるが、コーナーエコーの指示が円弧状に間延びしていること、およびピークの指示位置が実際のコーナー位置より若干ずれが生じていることが確認できる。
【0066】
一方、表面の曲面形状の影響を考慮し、再構成させた結果を図20に示す。コーナーエコー指示が図19に比べて明瞭化し、ピークの指示位置の誤差も解消されていることが確認できる。また、欠陥位置も、実際に付与している欠陥位置と同等の位置になる。
【0067】
このように本実施形態によれば、探傷結果を検査対象2の表面形状に応じて再構成することで、複雑な形状に形成された検査対象2の表面に対して、検出精度が高い超音波探傷装置および超音波探傷方法を提供することが可能になる。その結果、正確な超音波探傷を実施することが可能になり、装置の信頼性を向上させることができる。
【0068】
なお、本実施形態は、表面形状を考慮しない送信遅延条件で探傷した場合だけでなく、形状を考慮した送信遅延条件により探傷した場合にも適用することが可能である。また、上記実施形態では、検査対象2が非平面形状について説明してきたが、検査対象が平面であるが、超音波プローブ1と検査対象2の位置関係が非平行である場合や、その位置関係が平行であるが超音波プローブ1から検査対象2の表面までの距離の設置誤差の影響を可能な限り除去して正確な計測を行いたい場合などにも有効である。すなわち、検査対象2の表面の超音波が入射する位置における表面形状、相対角度などの表面情報を用いた再構成により、探傷精度を向上することが可能である。
【0069】
さらに、以上のように本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、単なる例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更することができる。
【0070】
例えば、上述の実施形態では、表面形状の情報を得るにあたり、設計データから取得するか、検査中に表面形状を計測することとして説明したが、検査前に予め計測しておくこととしてもよい。
【0071】
また、上述の実施形態においては、入射点Sを、素子の中心位置E、超音波の入射角αを用いて特定するものとしたが、例えば表面座標Sの各位置における表面傾きθを先に計算し、中心位置Eと検査対象2内のある位置Sに対して座標Sから座標Sまでスネルの法則で計算し、計算結果の絶対値が最小となる値をEとSの位置関係における入射点Sとする計算も可能である。
【0072】
ここで、計算結果が0となる座標が真の入射点であるが、各座標Sの設定数によっては、真の入射点に座標が設定されない場合もあるので、真の入射点に最も近い座標である値が最小となる座標Sを、入射位置として採用するようにしてもよい。
【0073】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1…超音波プローブ
2…検査対象
3…音響接触媒質
4…超音波送受信部
5…駆動素子制御部(遅延手段)
6…信号記録部(記憶手段)
7…解析部(解析手段)
8…表示部
9…設計データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超音波素子を駆動して検査対象に超音波を入射し、その検査対象からの反射超音波を受信する超音波プローブと、
前記超音波プローブが反射超音波を受信した受信信号を解析して探傷結果を算出する解析手段と、を備える超音波探傷装置であって、
前記解析手段は、前記超音波が入射する前記検査対象の表面情報に基づいて求めた前記超音波の伝搬経路を用いて探傷結果を算出することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
前記超音波素子の各々を任意の時間で発振するための遅延手段と、受信した超音波信号を保存する記憶手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記表面情報は、前記検査対象の表面形状情報を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
前記解析手段は、前記超音波が入射する位置の前記検査対象表面と前記超音波プローブとの相対角度を用いて前記超音波の伝搬経路を求めることを特徴とする請求項3に記載の超音波探傷装置。
【請求項5】
前記解析手段は、前記超音波プローブから前記検査対象へ入射する超音波の送信角度と、前記超音波を送信する超音波素子の位置情報とを用いて、前記検査対象表面の前記超音波の入射位置を特定することを特徴とする請求項4に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
前記解析手段は、
前記送信角度、前記入射位置、前記相対角度に基づいて前記超音波の前記検査対象への入射角度を求め、
前記入射角度に基づいて前記超音波が前記検査対象に入射したときの屈折角度を求め、
前記送信角度、前記入射位置、前記屈折角度に基づいて求めた前記超音波の伝搬経路を用いて探傷結果を算出することを特徴とする請求項5に記載の超音波探傷装置。
【請求項7】
前記表面情報は、前記検査対象の前記超音波プローブに対する相対角度を含むことを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項8】
超音波プローブの複数の超音波素子を駆動して検査対象に超音波を入射する超音波入射ステップと、
前記超音波入射ステップの後に、前記検査対象からの反射超音波を受信する超音波受信ステップと、
前記超音波受信ステップの後に、前記超音波プローブが反射超音波を受信した受信信号を解析して探傷結果を算出する解析ステップと、を含む超音波探傷方法であって、
前記解析ステップは、前記超音波が入射する前記検査対象の表面情報に基づいて求めた前記超音波の伝搬経路を用いて探傷結果を算出することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項9】
前記解析ステップは、
前記送信角度、前記入射位置、前記相対角度に基づいて前記超音波の前記検査対象への入射角度を求める入射角度算出ステップと、
前記入射角度に基づいて前記超音波が前記検査対象に入射したときの屈折角度を求める屈折角度算出ステップと、
前記送信角度、前記入射位置、前記屈折角度に基づいて求めた前記超音波の伝搬経路を用いて探傷結果を算出する探傷結果算出ステップと、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の超音波探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−21814(P2012−21814A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158167(P2010−158167)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】