説明

超音波探触子および超音波探触子の製造方法

【課題】生産性が高い超音波探触子および超音波探触子の製造方法を提供する。
【解決手段】圧電膜3およびバッキング材5を同じエアロゾルデポジション法によって形成するようにしたので、タングステンやフェライトの粉末などを非可撓性エポキシ樹脂に混入させるなどしてバッキング材を形成する他の方法に比べて短時間で形成でき、生産性が高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子および超音波探触子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非破壊検査の一方法として超音波検査方法が知られている。この検査方法では、被検体に向けて送出した超音波パルスの反射波を受信して、この受信信号を処理することにより被検体内部の状態を観察する。このような超音波パルスの送出および受信には、たとえば圧電素子、ダンパ(バッキング材)および音響レンズを備える超音波探触子が用いられる。超音波単触子は、圧電素子に電圧パルスを印加することにより超音波パルスを送出するとともに、圧電素子の後方に取付けられたバッキング材により圧電素子の不要な振動を軽減するように構成されている。このバッキング材は、タングステンやフェライトの粉末などを非可撓性エポキシ樹脂に混入させて製作される(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57−113691号公報
【特許文献2】特開平2−21850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した特許文献に記載されたバッキング材の製造方法では、生産性が高くなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1) 請求項1の発明による超音波探触子は、音響レンズと、エアロゾルデポジション法で形成した圧電素子と、エアロゾルデポジション法で形成したバッキング材とを備えることを特徴とする。
(2) 請求項2の発明は、請求項1に記載の超音波探触子において、圧電素子と、バッキング材とは、同じ材料で形成されていることを特徴とする。
(3) 請求項3の発明による超音波探触子の製造方法は、請求項1または請求項2に記載の超音波探触子を製造する超音波探触子の製造方法において、音響レンズを真空チャンバ内に設置する工程と、真空チャンバ内に設置した音響レンズの表面にエアロゾルデポジション法で圧電素子を形成する工程と、形成した圧電素子の音響レンズ側とは反対側の面にエアロゾルデポジション法でバッキング材を形成する工程とを少なくとも含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、超音波探触子の生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明を適用した超音波探触子の構造を示す模式図である。
【図2】上部電極4を示す図である。
【図3】下部電極2と上部電極4にインパルス状の電圧を印加して圧電膜3を駆動したときの、圧電膜3の振動波形を示す図である。
【図4】超音波探触子10の製造工程を示す図である。
【図5】超音波探触子10の製造工程で用いられるエアロゾルデポジション法による成膜装置100の概略の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1〜5を参照して、本発明による超音波探触子および超音波探触子の製造方法の一実施の形態を説明する。図1は、本発明を適用した超音波探触子の構造を示す模式図である。超音波探触子10は、音響レンズ1と、下部電極2と、圧電膜3と、上部電極4と、バッキング材5とを有する。音響レンズ1は、たとえば樹脂や石英から成り、圧電膜3で発生させた超音波振動を収束させるものである。下部電極2および上部電極4は、圧電膜3に電圧を印加するための電極である。上部電極4は、たとえば、図2に示すように、90度毎に4等分された円盤状の電極であり、4等分された各電極4a〜4dに個別に電圧を印加することができるように構成されている。
【0009】
圧電膜3は、たとえばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)から成る圧電素子であり、後述するように、エアロゾルデポジション法によって形成されている。バッキング材5は、圧電膜3の不要な振動を軽減するための部材であって、圧電膜3と同じ材料から成り、圧電膜3と同様にエアロゾルデポジション法によって形成されている。バッキング材5は、上部電極4を介して圧電膜3の一方に面に設けられている。なお、バッキング材5は、90度毎に4等分された円盤状の電極上に、互いに隣り合わないように略180度ずれた位置で対向するように(たとえば図2における電極4aと4c上に)設けられている。バッキング材5と圧電膜3とが同じ材料から成るので、バッキング材5の音響インピーダンスZbは、圧電膜3の音響インピーダンスZpztと略一致する。
【0010】
このように構成される超音波探触子10では、下部電極2および上部電極4に所定周波数の電圧を印加することで圧電膜3を振動させて、音響レンズ1から超音波を対象物に向けて発することができる。そして、対象物から反射された超音波を音響レンズ1を介して圧電膜3で受信する。受信した超音波によって圧電膜3で発生する電気信号を処理することで対象物の内部の状態を非破壊で観察できる。
【0011】
図3(a)は、下部電極2と、上部電極4のうちバッキング材5が設けられている電極4a,4cにインパルス状の電圧を印加して圧電膜3を駆動したときの、圧電膜3の振動波形を示す図である。また、図3(b)は、下部電極2と、上部電極4のうちバッキング材5が設けられていない電極4b,4dにインパルス状の電圧を印加して圧電膜3を駆動したときの、圧電膜3の振動波形を示す図である。下部電極2と、電極4a,4cにインパルス状の電圧を印加した場合、バッキング材5による振動を減衰させる効果によって残留振動が抑制されるので、短いパルスを発することができる。このような短いパルスで超音波探傷を行うと距離分解能を向上できるので、表層近傍の欠陥の探傷に有効である。また、下部電極2と、電極4b,4dにインパルス状の電圧を印加した場合、バッキング材5による振動を減衰させる効果がないので、残留振動が抑制されず、振動継続時間の長いパルスを発することができる。このような長いパルスで超音波探傷を行うことで、減衰の大きな被検査体の探傷が可能となる。本実施の形態の超音波探触子10では、電圧を印加する上部電極4を適宜選択することで、被検査体に応じた適切な超音波振動を発生させることができる。
【0012】
−−−超音波探触子10の製造方法について−−−
超音波探触子10の製造方法について、図4,5を参照して説明する。図4は、超音波探触子10の製造工程を示す図であり、図5は、超音波探触子10の製造工程で用いられるエアロゾルデポジション法による成膜装置100の概略の構成を示す図である。超音波探触子10の製造工程では、まず、音響レンズ1にスパッタまたは蒸着によって下部電極2を製作(形成)する。下部電極2は、クロムや金で構成される。スパッタおよび蒸着については公知の技術であるので、詳細な説明は省略する。
【0013】
次いで、エアロゾルデポジション法によって下部電極2上に圧電膜3を形成する。上述したように、圧電膜3はPZTで構成される。エアロゾルデポジション法では、図5に示す成膜装置100が用いられる。この成膜装置100は、真空チャンバ101内に、音響レンズ1が装着される可動ステージ10と、エアロゾルの噴射、停止を制御するシャッター12と、エアロゾルを噴射するためのノズル13とを備えている。真空チャンバ101の排気口15には、排気装置14が接続されている。可動ステージ10は、XYZ可動装置11によって真空チャンバ101内で、3次元的に移動可能である。
【0014】
成膜装置100には、ノズル13からPZTの微粉末原料18をエアロゾル化して噴射するために、バルブ17,20と、エアロゾル化室19と、高圧ガスボンベ21とがノズル13に直列的に接続されている。微粉末原料18は、高圧ガスボンベ21からエアロゾル化室19に供給された高圧ガスによってエアロゾル化され、エアロゾル輸送管16でノズル13に供給され、ノズル13から可動ステージ10上の音響レンズ1に向けて噴射される。これにより、音響レンズ1にPZTから成る圧電膜3が形成される。
【0015】
次いで、音響レンズ1を成膜装置100から取り出し、下部電極2の場合と同様に、スパッタまたは蒸着によって圧電膜3上に上部電極4を形成する。上部電極4は、下部電極2と同様にクロムや金で構成される。上部電極4が形成された後、エアロゾルデポジション法によって上部電極4上にバッキング材5を形成する。上述したように、バッキング材5は圧電膜3と同じPZTで構成される。上部電極4が形成された音響レンズ1は、可動ステージ10に再び装着されて、ノズル13からPZTの微粉末原料18が噴射されることで、バッキング材5が形成される。バッキング材5の厚さは、圧電膜3を振動させたときの共振を防止するために厚くされるが、エアロゾルデポジション法によれば、タングステンやフェライトの粉末などを非可撓性エポキシ樹脂に混入させるなどしてバッキング材を形成する他の方法に比べて短時間で形成できる。バッキング材5が形成された後、音響レンズ1を成膜装置100から取り出す。
【0016】
上述した超音波探触子10および超音波探触子10の製造方法では、次の作用効果を奏する。
(1) 圧電膜3およびバッキング材5を同じエアロゾルデポジション法によって形成するようにしたので、タングステンやフェライトの粉末などを非可撓性エポキシ樹脂に混入させるなどしてバッキング材を形成する他の方法に比べて短時間で形成でき、生産性を高めることができる。
【0017】
(2) タングステンやフェライトの粉末などを非可撓性エポキシ樹脂に混入させて形成する従来の方法では、安定的に所望の音響インピーダンスとすることが難しかった。しかし、本実施の形態では、圧電膜3およびバッキング材5をエアロゾルデポジション法によって形成するようにしたので、従来の方法に比べて容易に、バッキング材5を所望の音響インピーダンスとすることができる。
【0018】
(3) 圧電膜3およびバッキング材5を同じ材料粉末からエアロゾルデポジション法によって形成するようにしたので、容易にバッキング材5の音響インピーダンスZbを圧電膜3の音響インピーダンスZpztと略一致させることができる。これにより、バッキング材5によって残留振動を効果的に抑制できるので、距離分解能が優れた超音波探触子10を容易に製造できる。
【0019】
−−−変形例−−−
(1) 上述の説明では、圧電膜3およびバッキング材5の材料としてPZTが用いられているが、PZTは材料の一例であり、PT(PbTiO3 )、PLZT{(Pb,La)(Zr,Ti)O3 }、チタン酸バリウム(BaTiO3 )等の他の圧電材料を用いてもよい。また、上述の説明では、バッキング材5と圧電膜3とを同じ材料で構成しているが、バッキング材5の音響インピーダンスZbと、圧電膜3の音響インピーダンスZpztとが略一致するのであれば、バッキング材5と圧電膜3とを異なる材料で構成してもよい。
【0020】
(2) 上述の説明では、上部電極4を4分割して形成し、電極4b,4dにはバッキング材5を形成しないようにしたが、本発明はこれに限定されず、上部電極4を分割せずに形成して、上部電極4上に全体的にバッキング材5を形成するようにしてもよい。
(3) 上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。
【0021】
なお、本発明は、上述した実施の形態のものに何ら限定されず、音響レンズと、エアロゾルデポジション法で形成した圧電素子と、エアロゾルデポジション法で形成したバッキング材とを備える各種構造の超音波探触子を含むものである。
また、本発明は、上述した実施の形態のものに何ら限定されず、音響レンズを真空チャンバ内に設置する工程と、真空チャンバ内に設置した音響レンズの表面にエアロゾルデポジション法で圧電素子を形成する工程と、形成した圧電素子の音響レンズ側とは反対側の面にエアロゾルデポジション法でバッキング材を形成する工程とを少なくとも含む各種の超音波探触子の製造方法を含むものである。
【符号の説明】
【0022】
1 音響レンズ 2 下部電極
3 圧電膜 4 上部電極
5 バッキング材 100 成膜装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響レンズと、
エアロゾルデポジション法で形成した圧電素子と、
エアロゾルデポジション法で形成したバッキング材とを備えることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探触子において、
前記圧電素子と、前記バッキング材とは、同じ材料で形成されていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の超音波探触子を製造する超音波探触子の製造方法において、
前記音響レンズを真空チャンバ内に設置する工程と、
前記真空チャンバ内に設置した前記音響レンズの表面にエアロゾルデポジション法で前記圧電素子を形成する工程と、
前記形成した圧電素子の前記音響レンズ側とは反対側の面にエアロゾルデポジション法で前記バッキング材を形成する工程とを少なくとも含むことを特徴とする超音波探触子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−192967(P2010−192967A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32418(P2009−32418)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】