説明

超音波探触子の製造方法

【課題】分極処理された圧電体の切削加工による圧電効果の劣化を抑制することができる超音波探触子の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の工程において、少なくとも1次元アレイ状に所定間隔に配列された複数の柱状の圧電素子31と、圧電素子31の間に位置する高分子材からなる高分子層32とを有し、超音波を送受する面及びそれに対向する面に電極21及び共通電極22が設けられた複合圧電体に、音響整合層40及びバッキング層10を積層して設ける。そして、第2の工程において、複合圧電体を、バッキング層10が設けられる側とは反対側から、音響整合層40とともに、高分子層32に沿って切断して、超音波振動子33をアレイ状に複数形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波探触子は医用超音波診断装置、超音波探傷装置及びソナー等の装置において用いられている。この超音波探触子は、方位方向に列状に配列された複数の超音波振動子を備えて構成されている。この超音波振動子間は溝が形成されており、これにより、超音波振動子が個々に分割されている。
【0003】
従来は、このような超音波振動子を、1枚の圧電体と音響整合層とを積層し、ダイシングにより所定ピッチ毎に切込みを入れることにより複数の振動子を形成するようにしていた(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−303637号公報
【特許文献2】特開2000−14672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記各特許文献に記載の技術は何れも、ダイシングにより圧電体を切断する前に、圧電体の上下両面に設けられる電極に電界を印加することにより分極処理が行われる必要がある。そして、分極が行われた圧電体に対し、ダイシングが行われるので、ダイシングによる切削加工時において生じる熱や機械的衝撃により、切断後の圧電体(圧電素子)に脱分極が生じる。脱分極が生じた圧電素子は圧電効果が劣化し、超音波の受信における感度が低下して正確な受信信号を得ることができない等、性能の低下という問題が生じる。これに対し、上記特許文献2に記載の技術では、脱分極した圧電素子に対して再分極を行うようにしているが、切断後の圧電素子に対して個別に再分極を行う場合には、様々な条件を検討する必要がある等、大変手間がかかる作業となる。
【0006】
本発明の課題は、分極処理された圧電体の切削加工による圧電効果の劣化を抑制することができる超音波探触子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、超音波を送受する超音波振動子がアレイ状に配列された超音波探触子の製造方法であって、
少なくとも1次元アレイ状に所定間隔にて配列された複数の柱状の圧電素子と、該圧電素子の間に位置する高分子材からなる高分子層とを有し、超音波を送受する面及びそれに対向する面に一対の電極層が設けられた複合圧電体に、音響整合層及び基台を積層して設ける第1工程と、
前記複合圧電体を、前記基台が設けられる側とは反対側から、前記音響整合層とともに、前記高分子層に沿って切断して、前記超音波振動子をアレイ状に複数形成する第2工程と、
を含むことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の超音波探触子の製造方法において、
前記複合圧電体は、硬質樹脂によって前記高分子層が形成されている。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の超音波探触子の製造方法において、
前記高分子層を切断して形成された切断部に前記高分子層を構成する高分子材よりも硬度の小さい材料を充填する第3工程をさらに含むことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の超音波探触子の製造方法において、
前記基台はバッキング層であって、
前記第1の工程において、前記音響整合層、前記複合圧電体、前記バッキング層の順にこれらを積層し、
前記第3の工程において、前記切断部に有機合成系接着剤を充溢するとともに、音響レンズを、充溢した前記有機合成系接着剤にて前記音響整合層の表面に貼着することを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の超音波探触子の製造方法において、
前記複合圧電体は、前記圧電素子の配列方向における前記高分子層の幅が、前記第2の工程において切断によって生じる溝の幅の110%〜150%である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分極処理された圧電体の切削加工による圧電効果の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施の形態に係る超音波探触子の製造方法によって製造される超音波探触子の中間積層体の内部構造を模式的に表す斜視図である。
【図2】図1に示される中間積層体のうち、音響整合層及び共通電極を省略して表した斜視図である。
【図3】第1の実施の形態に係る製造方法にて製造された超音波探触子の内部構造を模式的に表す斜視図である。
【図4】本実施の形態に係る超音波探触子の製造方法の他の切断加工例について説明する側面図である。
【図5】第2の実施の形態に係る超音波探触子の製造方法によって製造される超音波探触子の中間積層体の内部構造を模式的に表す斜視図である。
【図6】図5に示される中間積層体のうち、音響整合層及び電極を省略して表した斜視図である。
【図7】第2の実施の形態に係る製造方法にて製造された超音波探触子の内部構造を模式的に表す斜視図である。
【図8】第3の実施の形態に係る製造方法にて製造された超音波探触子の内部構造を模式的に表す斜視図である。
【図9】図8に示される超音波探触子の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。ただし、発明の範囲は図示例に限定されない。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有するものについては、同一の符号を付し、その説明を省略する。
本発明の実施の形態において適用される超音波探触子は、医用超音波診断装置の主要構成部品であって、電気信号が与えられることにより超音波を送信し、超音波を受信することより電気信号を出力する機能を有するものである。
【0015】
(第1の実施の形態)
最初に、図1〜図3を参照しながら、第1の実施の形態に係る超音波探触子の製造方法について説明する。
【0016】
先ず、第1工程として、図1に示すように、図上正面視下方から、バッキング層10、電極21、複合圧電体30、共通電極22、音響整合層40の順に、接着し積層された中間積層体100aを形成する。
【0017】
バッキング層10は、複合圧電体30を支持し、不要な超音波を吸収し得る超音波吸収体である。すなわち、バッキング層10は、複合圧電体30の被検体に超音波を送受信する方向と反対の板面に装着され、被検体の方向の反対側に発生する超音波を吸収する。
【0018】
バッキング層10を構成するバッキング材としては、天然ゴム、フェライトゴム、エポキシ樹脂や、これらの材料に酸化タングステンや酸化チタン、フェライト等の粉末を入れてプレス成形したゴム系複合材やエポキシ樹脂複合材、塩化ビニル、ポリビニルブチラール(PVB)、ABS樹脂、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、フッ素樹脂(PTFE)ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体などの熱可塑性樹脂などが適用できる。
【0019】
好ましいバッキング材としては、ゴム系複合材料、及び/又は、エポキシ樹脂複合材からなるものであり、その形状は複合圧電体30やこれを含むプローブヘッドの形状に応じて、適宜選択することができる。
【0020】
複合圧電体30の超音波を送受する面及びそれに対向する面には、一対の電極層である電極21と共通電極22とが設けられている。電極21は、図示しない信号引き出しフレキシブルプリント基板(FPC)からの電源電圧を複合圧電体30に対して印加する。また、共通電極22は、図示しないグランド引き出しFPCを通じてアース接続される。なお、複合圧電体30の側面に回り込み電極を設け、圧電体下面側で電極21と絶縁されるように共通電極22を引き出す構成にし、FPCを通じて電源やアースと接続してもよい。
【0021】
電極21及び共通電極22に用いられる材料としては、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)などが挙げられる。電極21及び共通電極22は、まず、チタン(Ti)やクロム(Cr)などの下地金属をスパッタ法により0.002〜1.0μmの厚さに形成した後、上記金属元素を主体とする金属及びそれらの合金からなる金属材料、さらには必要に応じ一部絶縁材料をスパッタ法、蒸着法その他の適当な方法で0.02〜10μmの厚さに形成する。これらの電極形成はスパッタ法以外でも微粉末の金属粉末と低融点ガラスを混合した導電ペーストをスクリーン印刷やディッピング法、溶射法で形成することもできる。
【0022】
複合圧電体30は、図2に示すように、角柱状の圧電素子31及び高分子層32が交互に1次元アレイ状に配列して構成された、いわゆる、2−2コンポジット圧電体である。本実施の形態において、圧電素子31及び高分子層32のX方向(配列方向)における外形寸法は、それぞれ、圧電素子31を70μmとし、高分子層32を30μmとしている。すなわち、圧電素子31と高分子層32の配列のピッチは100μmである。ここで、高分子層32のX方向における寸法は、所定の振動子ピッチに適合するように設定するのが好ましい。また、本実施の形態では、説明を容易にするために、5つの圧電素子31と、その間の4つの高分子層32とによって表しているが、実際には、多数(例えば、192個)の圧電素子31が設けられ、各圧電素子間にそれぞれ高分子層32が設けられた構成となっている。
【0023】
圧電素子31に用いられる材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、リラクサ系,ニオブ酸鉛系及びチタン酸鉛系のセラミック等の圧電セラミックや、チタン酸亜鉛酸ニオブ酸鉛(PZNT)、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸(PMNT)等の単結晶が好適である。
高分子層32を構成する高分子材としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂等の有機合成高分子材を用いることができる。なお、天然ゴム等の有機天然高分子材を適用してもよい。これらの有機高分子材は、上述した圧電材料に比べて比熱が大きく、熱伝導率が小さいので、後述する切断処理において発生する摩擦熱等の熱ダメージを抑制することができる。例えば、エポキシ樹脂は、熱伝導率が約0.2W/(m・K)であり、比熱及び熱伝導率の点で有利である。また、これらの有機高分子材は、切断処理時における圧電材料に対する物理的損傷を防止することができる。本実施の形態に適用される有機高分子材は、切断処理時の切削加工精度を良好にするため所定の硬度を有する硬質樹脂を適用するのがよく、例えば、ロックウェル硬度が80以上のものが好適である。また、アレイ化した後の素子特性を良好にするため、高分子材の音速として1km/s以上が好適である。本実施の形態では、音速が2km/s以上であり、ロックウェル硬度がM80以上であるエポキシ樹脂を適用している。なお、有機高分子材に代えて、無機高分子材を適用してもよい。
【0024】
上述のように構成された複合圧電体30は、公知の製造方法により製造される。すなわち、上記圧電セラミックや単結晶等の圧電材を所定の大きさに切削して所定間隔の間隙を設けて複数の圧電素子31を形成する。複数の圧電素子31をモールドにより成形してもよい。そして、複数の圧電素子31間における間隙に上記高分子材を充填・硬化させて高分子層32を形成する。そして、所定厚みとなるように、一体化された圧電素子31及び高分子層32の上下面を研磨して複合圧電体30が形成される。研磨済みの複合圧電体30は、上下面に電極が挟着され、所定の分極電圧が印加されて分極処理がなされる。
【0025】
音響整合層40は、超音波振動子と被検体の間の音響インピーダンスを整合させ、境界面での反射を抑制するものである。音響整合層40は、複合圧電体30の、超音波の送受信が行われる送受信方向である被検体側に、共通電極22を介して装着される。音響整合層40は、複合圧電体30と被検体との概ね中間の音響インピーダンスを有する。
【0026】
音響整合層40に用いられる材料としては、アルミ、アルミ合金(例えばAL−Mg合金)、マグネシウム合金、マコールガラス、ガラス、溶融石英、コッパーグラファイト、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)、ABC樹脂、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ナイロン(PA6、PA6−6)、PPO(ポリフェニレンオキシド)、PPS(ポリフェニレンスルフィド:ガラス繊維入りも可)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、PETP(ポリエチレンテレフタレート)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。好ましくはエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に、充填剤として、亜鉛華、酸化チタン、シリカやアルミナ、ベンガラ、フェライト、酸化タングステン、酸化イットリビウム、硫酸バリウム、タングステン、モリブデン等を入れて成形したものが適用できる。
【0027】
音響整合層40は、単層でもよいし複数層から構成されてもよいが、好ましくは2層以上、より好ましくは4層以上である。音響整合層40の層厚は、超音波の波長をλとすると、λ/4となるように定めるのが好ましい。音響整合層40の層厚が適切になされないと、本来の共振周波数とは異なる周波数ポイントに複数の不要スプリアスが出現し、基本音響特性が大きく変動してしまう場合がある。結果、残響時間の増加、反射エコーの波形歪みによる感度やS/Nの低下を引き起こす場合がある。このような音響整合層の厚さとしては、通常、概ね20〜500μmの範囲のものが用いられる。
【0028】
上述した各部を積層して中間積層体100aを形成する。すなわち、先ず、上述した分極処理済みの複合圧電体30に形成した電極21に対してバッキング材を貼着してバッキング層10を形成するとともに、共通電極22に対して音響整合層40を貼着し、中間積層体100aを形成する。なお、電極21及び共通電極22を複合圧電体30に直接設けず、それぞれ圧電体30を挟んで接着されるFPC及び音響整合層40に対し挟着した後に、これらを複合圧電体30に対して接着するようにしてもよい。
【0029】
次に、第2工程として、上述のようにして形成された中間積層体100aに対して切断処理を行って、超音波探触子100を形成する。
【0030】
本実施の形態では、図3に示すように、上述のようにして形成された中間積層体100aに対し、バッキング層10を基台として、高分子層32に沿って、Y方向に、音響整合層40側からバッキング層10にかけて、ダイシングブレードにて所定間隔でダイシングする。このとき、高分子層32が一部残存するような切断幅となるダイシングブレードが選択される。その結果、複合圧電体30が複数に分割され、複数チャンネルの超音波振動子33が1次元アレイ状に形成された超音波探触子100が形成される。超音波振動子33の間には、切断を行ったダイシングブレードの刃厚に応じた幅の空隙からなる切断部34が形成される。本実施の形態では、所定間隔で配置された高分子層32毎に切断するので、この超音波振動子33の素子ピッチ(所定間隔で切断されて形成された素子のピッチ)は、圧電素子31と高分子層32の配列のピッチと同じ(上述の例の場合は100μm)となる。ここで、高分子層32の幅は、切断部34の幅に対し、110〜150%とすることが好ましい。このようにすると、ダイシングブレードによるダイシング時におけるずれや切削摩耗を含めても、ダイシングの際に圧電素子31にダイシングブレードが直接接触することがない。また、ダイシング後に高分子層32が残存するため、圧電素子31単体のみによって構成するものに比べ、圧電素子31のアスペクト比が大きくなる。従って、入力エネルギーの効率がよく、厚み方向の振動の変換効率を向上させることができる。また、超音波振動子33全体に対する高分子層32の割合が大きいほど、生体等の被検体に対するマッチングが良化され、被検体に対して効率よく超音波を送信することができるようになる。本実施の形態では、上述したように、送信超音波の波長との関係で高分子層32の幅を30μmとしているため、刃厚が20μmであるダイシングブレードを使用してダイシングを行うようにしている。この場合の切断部34の幅は、ダイシングの条件にもよるが、通常は、ダイシングブレードの刃厚よりもわずかに大きく、20μm〜24μm程度となる。ダイシングブレードの刃厚は、高分子層32の幅を考慮して適宜選択することができ、切断部34の幅が上記範囲となるように選択することがより好ましい。
【0031】
従来の超音波探触子では、分極された圧電体に対してダイシングし、超音波振動子を形成するようにしていたので、ダイシングに伴う機械的衝撃及び摩擦熱により、圧電体の脱分極(減極ともいう)が引き起こされ、超音波振動子の感度が劣化する。分極処理時における分極強度を100%とした場合、従来の超音波探触子の製造方法によれば、経験上、平均して約10%の減極が振動子毎に生じている。このように脱分極化された超音波振動子に対して、従来では、再度高電圧を印加する再分極処理が行われていたが、個々の振動子に対して適切な分極処理が行われる必要があるため、分極のための検討事項が多く煩雑であった。
【0032】
これに対し、本実施の形態では、圧電素子31を直接切断することなく、高分子層32を切断することにより、超音波振動子33を形成するようにしたので、圧電素子31に対する衝撃は小さく、また、摩擦熱も伝達されにくくなるので、圧電素子31の脱分極の影響を極めて小さくすることができるようになる。本実施の形態によれば、従来のように圧電体を直接切断するものに比べ、圧電定数の劣化を約10%改善することができる。
【0033】
なお、本実施の形態では、高分子層32毎に切断を行ったが、所定数の高分子層32毎に切断を行って超音波探触子を形成するようにしてもよい。例えば、図4に示すように、3つの高分子層32毎に切断を行うようにすると、3つの圧電素子31により1チャンネルの超音波振動子33aが形成された超音波探触子100bを形成することができる。この場合、超音波振動子33aの素子ピッチは100μm×3=300μmとなる。
【0034】
(第2の実施の形態)
次に、図5〜図7を参照しながら、第2の実施の形態に係る超音波探触子の製造方法について説明する。
【0035】
先ず、第1工程として、図5に示すように、図上正面視下方から、バッキング層210、電極221、複合圧電体230、共通電極222、音響整合層240の順に、接着し積層された中間積層体200aを形成する。
第2の実施の形態では、複合圧電体230の構成及び切断処理において、第1の実施の形態と相異する他は、第1の実施の形態と同様であるため、第1の実施の形態と相異する点について主に説明し、第1の実施の形態と同一の構成については、説明を省略する。
【0036】
本実施の形態における複合圧電体230は、図6に示すように、方形状の圧電素子231が所定間隔で2次元アレイ状に複数配列され、複数の圧電素子231によって形成された間隙に高分子層232が形成された、いわゆる、1−3コンポジット圧電体である。本実施の形態において、圧電素子231のX方向及びY方向における外形寸法は70×70μmとしている。また、高分子層232のX方向又はY方向の幅寸法は30μmとしている。すなわち、圧電素子231のX方向及びY方向のピッチはそれぞれ100μmである。その他の複合圧電体230の各部材質や製造方法については、第1の実施の形態における複合圧電体を同一であるため、説明を省略する。
【0037】
次に、第2工程として、上述のようにして形成された中間積層体200aに対して切断処理を行って、超音波探触子200を形成する。
すなわち、第2の実施の形態では、図7に示すように、上述のようにして形成された中間積層体200aに対し、高分子層232に沿って、X方向及びY方向に、音響整合層240側からバッキング層210にかけて、ダイシングブレードにて所定間隔で切断する。その結果、中間積層体200aが複数に分割され、複数チャンネルの超音波振動子233が2次元アレイ状に形成された超音波探触子200が形成される。超音波振動子233の間には、切断を行ったダイシングブレードの幅の空隙からなる切断部234が形成される。
【0038】
このように、第2の実施の形態のように、2次元アレイ状の超音波振動子としても、第1の実施の形態と同様の効果が得られる超音波探触子を製造することができる。
【0039】
なお、第2の実施の形態では、複合圧電体230に対してX方向及びY方向の両方向に切断を行ったが、Y方向のみに切断を行って超音波振動子を1次元アレイ状に形成するようにしてもよい。これによれば、1チャンネルにおける超音波振動子に対する高分子層の割合が大きくなり、超音波振動子全体のインピーダンスを下げることができる。
また、第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、所定数の高分子層32毎に切断を行うようにしてもよい。
【0040】
(第3の実施の形態)
次に、図8及び図9を参照しながら、第3の実施の形態に係る超音波探触子の製造方法について説明する。
【0041】
第3の実施の形態に係る超音波探触子100cは、図8に示すように、第1の実施の形態において上述した要領にて超音波探触子100を形成した後、切断部34に所定の充填剤を充填して分離部60を形成するとともに、音響整合層40の上面に音響レンズ50を積層することにより形成されている。
その他の構成については、第1の実施の形態と同様であるため、第1の実施の形態と相異する点について主に説明し、第1の実施の形態と同一の構成については、説明を省略する。
【0042】
本実施の形態における音響レンズ50は、屈折を利用して超音波ビームを集束し分解能を向上するために配置されるものである。すなわち、音響レンズ50は、超音波探触子100bの被検体と接する側に設けられ、超音波振動子33にて発生された超音波を、被検体に効率よく入射させる。音響レンズ50は、被検体と接する部分で、内部の音速に応じて凸型又は凹型のレンズ形状を有し、被検体に入射される超音波を、撮像断面と直交する厚さ方向(エレベーション方向)で収束させる。
【0043】
音響レンズ50は、概ね被検体及び音響整合層40の中間の音響インピーダンスを有する軟質の高分子材料により形成される。
【0044】
音響レンズ50を構成する素材としては、従来公知のシリコーン系ゴム、ブタジエン系ゴム、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム等のホモポリマー、エチレンとプロピレンとを共重合させてなるエチレン−プロピレン共重合体ゴム等の共重合体ゴム等が適用可能である。これらのうち、シリコーン系ゴム及びブタジエン系ゴムを用いることが好ましい。
【0045】
本実施の形態に適用されるシリコーン系ゴムとしては、シリコーンゴム、フッ素シリコーンゴム等が挙げられる。特に、レンズ材の特性上、シリコーンゴムを使用するのが好ましい。シリコーンゴムとは、Si−O結合からなる分子骨格を有し、そのSi原子に複数の有機基が主結合したオルガノポリシロキサンをいい、通常は、その主成分はメチルポリシロキサンで、全体の有機基のうち90%以上はメチル基である。メチル基に代えて水素原子、フェニル基、ビニル基、アリル基等を導入したものを使用することもできる。シリコーンゴムは、例えば、高重合度のオルガノポリシロキサンに過酸化ベンゾイルなどの硬化剤(加硫剤)を混練し、加熱加硫し硬化させることにより得ることができる。必要に応じてシリカ、ナイロン粉末等の有機又は無機充填剤、硫黄、酸化亜鉛等の加硫助剤等を添加してもよい。
【0046】
本実施の形態に適用されるブタジエン系ゴムとしては、ブタジエン単独又はブタジエンを主体としこれに少量のスチロール又はアクリロニトリルが共重合した共重合ゴム等が挙げられる。特に、レンズ材の特性上、ブタジエンゴムを使用することが好ましい。ブタジエンゴムとは、共役二重結合を有するブタジエンの重合により得られる合成ゴムをいう。ブタジエンゴムは、共役二重結合を有するブタジエン単独が1.4又は1.2重合することにより得ることができる。ブタジエンゴムは、硫黄等により加硫させたものが使用できる。
【0047】
本実施の形態に係る音響レンズ50では、シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとを混合し加硫硬化させることにより生成されたものを使用する。例えば、シリコーンゴムとブタジエンゴムとを適宜割合で、混練ロールにより、混合し、過酸化ベンゾイルなどの加硫剤を添加し、加熱加硫し架橋(硬化)させることにより得ることができる。その際に、加硫助剤として、酸化亜鉛を添加することが好ましい。酸化亜鉛は、レンズ特性を落とさずに、加硫促進を促し、加硫時間を短縮できる。他に、着色剤や音響レンズの特性を損なわない範囲内で他の添加剤を添加してもよい。シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとの混合割合は、適宜設定することができるが、音響インピーダンスが被検体に近似するとともに、音響レンズ50内における音速が被検体よりも小さく、減衰が少なくなるように設定するのが好ましく、1:1が最適である。
【0048】
シリコーンゴムは、市販品として入手することができ、例えば信越化学社製、KE742U、KE752U、KE931U、KE941U、KE951U、KE961U、KE850U、KE555U、KE575U等や、モメンティブパフォーマンスマテリアル社製のTSE221−3U、TE221−4U、TSE2233U、XE20−523−4U、TSE27−4U、TSE260−3U、TSE−260−4Uやダウコーニング東レ社製のSH35U、SH55UA、SH831U、SE6749U、SE1120USE4704Uなどを用いることができる。
【0049】
なお、本実施の形態においては、上記シリコーン系ゴム等のゴム素材をベース(主成分)として、音速調整、密度調整等の目的に応じ、シリカ、アルミナ、酸化チタンなどの無機充填剤や、ナイロンなどの有機樹脂等を配合することもできる。
【0050】
音響レンズ50は、分離部60を形成する充填剤により、音響整合層40の上面に接着される。
すなわち、本実施の形態では、切断部34に充填する充填剤として接着剤を適用し、これにより分離部60を形成する。そして、充填剤を切断部34から充溢させて、音響整合層40の表面に接着層61を形成する。音響整合層40の表面に形成された接着層61上に音響レンズ50を積層し、接着層61を硬化させることにより、音響レンズ50が音響整合層40に対して接着される。
【0051】
ここで、切断部34に充填される接着剤としては、エポキシ樹脂系、シリコーン系、ウレタン樹脂系、ポリエチレン樹脂系、ポリウレタン樹脂系等の有機合成系接着剤が適用可能である。なお、分離部60を形成する充填剤の材料と、接着層61を形成する材料とを異ならせるようにしてもよい。この場合、分離部60を形成する充填剤の材料としては、各種有機高分子材が適用できるが、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂等の各種樹脂、あるいは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ブタジエンゴム等の各種ゴムが好適である。また、接着層61を形成する接着剤は、上述した各種有機合成系接着剤が適用可能である。特に、分離部60を形成する充填剤としては、横波の伝搬を低減させるために、超音波振動子33において構成される圧電素子31の占積率や送信周波数に応じて生じる位相波等の影響を考慮して選択するのがよく、レイリー波速度が1500m/s以下である材料を含むものが好ましい。また、本実施の形態においては、音響レンズ50が剥がれ難く、高分子層32よりも硬度が小さいものを適用するのがより好ましい。このようにすれば、超音波探触子100bの強度を保つことができ、音響クロストークが生じにくくなる。本実施の形態では、シリコーン系接着剤を適用している。
【0052】
なお、本実施の形態では、第1の実施の形態における超音波探触子100に対して適用したものを例に説明したが、第2の実施の形態における超音波探触子200に対しても適用できることは言うまでもない。
また、分離部60のみ設け、音響レンズ50を設けない構成としてもよい。
【0053】
以上説明したように、本発明の第1〜第3の実施の形態によれば、第1の工程において、少なくとも1次元アレイ状に所定間隔に配列された複数の柱状の圧電素子31(231)と、圧電素子31(231)の間に位置する高分子材からなる高分子層32(232)とを有し、超音波を送受する面及びそれに対向する面に電極21(221)及び共通電極22(222)がそれぞれ設けられた複合圧電体30(230)に、音響整合層40(240)及びバッキング層10(210)を積層して設ける。そして、第2の工程において、複合圧電体30(230)を、バッキング層10(210)が設けられる側とは反対側から、音響整合層40(240)とともに、高分子層32(232)に沿って切断して、超音波振動子33(233)をアレイ状に複数形成する。その結果、分極処理された圧電素子を切断することなく超音波振動子を形成することができるので、分極処理された圧電体の切削加工による圧電効果の劣化を抑制することができる超音波探触子を製造することができる。
【0054】
また、本発明の第1〜第3の実施の形態によれば、高分子層32(232)が硬質樹脂によって形成されているので、切断処理時の機械加工性がよく、高精度な切断処理を行うことができる。
【0055】
また、本発明の第3の実施の形態によれば、高分子層32(232)を切断して形成された切断部34(234)に高分子層32(232)を構成する高分子材よりも硬度の小さい材料を充填する第3の工程をさらに含む。その結果、音響クロストークを抑制しつつ、超音波探触子の強度を確保することができる。
【0056】
また、本発明の第3の実施の形態によれば、第1の工程において、音響整合層40、複合圧電体30、バッキング層10の順にこれらを積層する。そして、第3の工程において、切断部34(234)に高分子系接着剤を充溢するとともに、音響レンズ50を、充溢した高分子系接着剤にて前記音響整合層40の表面に貼着する。その結果、音響レンズが剥がれ難くなる。また、切断部34に充填する作業と音響レンズの接着剤作業とを同時に行うことができるので、音響レンズの取り付け工程が簡素化できる。
【0057】
また、本発明の第1〜第3の実施の形態によれば、圧電素子31(231)の配列方向における高分子層32(232)の幅が、第2の工程において切断によって生じる溝の幅の110%〜150%であるので、圧電材を直接切断して超音波振動子を形成する場合と比較して圧電定数の劣化を改善することができる。
【0058】
なお、本発明の実施の形態における記述は、本発明に係る超音波探触子の一例であり、これに限定されるものではない。超音波探触子を構成する各機能部の細部構成及び細部動作に関しても適宜変更可能である。
【0059】
また、本実施の形態では、複合圧電体30(230)を切断するとき、バッキング層10(210)を基台とし、音響整合層40(240)より切断して超音波振動子33(233)を形成するようにしたが、以下のようにして超音波振動子を形成することもできる。すなわち、例えば、複合圧電体と音響整合層とを積層し上で、基台としての捨て板を音響整合層の表面に貼着し、複合圧電体側から高分子層に沿って捨て板にかけて切断する。そして、切断後の複合圧電体に対してバッキング層を取り付け、捨て板を音響整合層から取り外す。このように超音波振動子を形成するようにしても、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0060】
100,100b,100c 超音波探触子
100a 中間積層体
10 バッキング層
21 電極
22 共通電極
30 複合圧電体
31 圧電素子
32 高分子層
33 超音波振動子
34 切断部
40 音響整合層
50 音響レンズ
200 超音波探触子
200a 中間積層体
210 バッキング層
221 電極
222 共通電極
230 複合圧電体
231 圧電素子
232 高分子層
233 超音波振動子
234 切断部
240 音響整合層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受する超音波振動子がアレイ状に配列された超音波探触子の製造方法であって、
少なくとも1次元アレイ状に所定間隔にて配列された複数の柱状の圧電素子と、該圧電素子の間に位置する高分子材からなる高分子層とを有し、超音波を送受する面及びそれに対向する面に一対の電極層が設けられた複合圧電体に、音響整合層及び基台を積層して設ける第1工程と、
前記複合圧電体を、前記基台が設けられる側とは反対側から、前記音響整合層とともに、前記高分子層に沿って切断して、前記超音波振動子をアレイ状に複数形成する第2工程と、
を含むことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【請求項2】
前記複合圧電体は、硬質樹脂によって前記高分子層が形成されている請求項1に記載の超音波探触子の製造方法。
【請求項3】
前記高分子層を切断して形成された切断部に前記高分子層を構成する高分子材よりも硬度の小さい材料を充填する第3工程をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波探触子の製造方法。
【請求項4】
前記基台はバッキング層であって、
前記第1の工程において、前記音響整合層、前記複合圧電体、前記バッキング層の順にこれらを積層し、
前記第3の工程において、前記切断部に有機合成系接着剤を充溢するとともに、音響レンズを、充溢した前記有機合成系接着剤にて前記音響整合層の表面に貼着することを特徴とする請求項3に記載の超音波探触子の製造方法。
【請求項5】
前記複合圧電体は、前記圧電素子の配列方向における前記高分子層の幅が、前記第2の工程において切断によって生じる溝の幅の110%〜150%である請求項1〜4の何れか一項に記載の超音波探触子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−182758(P2012−182758A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45800(P2011−45800)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】