説明

超音波探触子

【課題】 低コストでバラツキのない安定した密閉構造を実現することができ、使用者が誤って落下させた場合にも密閉構造を保持することが可能な超音波探触子を提供する。
【解決手段】 基台5は外周部に環状溝5aが形成された中間部を有し、軸方向の一端部が部品支持部となり、軸方向の他端部が筐体6の開口端部に嵌合され、環状溝にシール部材7を装入した状態で、ドーム状に形成された被検体接触部を有する音響窓部材3の開口端部が筐体の開口端部に嵌装されるとき、基台の環状溝の筐体側の外周部の直径が音響窓部材の開口端部の内周部の直径よりも小さくされて、環状溝に連通する空間が形成され、この空間に筐体の縁端部6aが押入されてシール部材が径方向及び軸方向の両方から圧接されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて被検体内の画像を得る超音波診断装置に使用される超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波の送受信面がコンベックス形状(凸形状)をなすように配列された複数の超音波振動子によって、これらの超音波振動子の配列方向(電子走査方向)に行われる電子走査と、この電子走査の方向と直交する方向に移動又は回動させる機械走査とにより、複数の断層画像の取得及び立体画像の構築を可能にする医用超音波診断装置に使用される超音波探触子が知られている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【0003】
図3は上述した超音波探触子を応用して、一般的に広く採用されている従来の超音波探触子の具体的な構成を説明するために、一部を破断して示した斜視図である。図3において、超音波探触子100は、円筒状に形成された筐体106の開口端部に基台105が嵌合され、さらに、超音波の送受信を行うためにドーム状に形成された被検体接触部を有する音響窓部材103の開口端部が筐体106の外周部に嵌装されており、基台105と音響窓部材103で囲まれた空間に超音波振動子アセンブリ101を含む主要な構成要素が密閉状態で収納され、さらに、液状の音響伝搬媒質104が充填されている。
【0004】
基台105は筐体106の開口端部と略等しい外径を持つフランジ状の中間部を有し、軸方向の一端部(図面の上方端部)が部品支持部となり、軸方向の他端部(図面の下方端部)が、筐体106の開口端部に嵌合されている。また、音響伝搬媒質104内に気泡が発生することを防止するため、音響伝搬媒質104に所定の圧力を加える与圧部材108が、その媒質流通端部を軸方向に貫通する状態で基台105に装着されている。さらに、基台105の中間部の外周部に環状溝105aが形成され、この環状溝105aにシール部材107が装入されている。
【0005】
超音波振動子アセンブリ101は、超音波の送受信面がコンベックス形状をなすように配列された複数の超音波振動子を含んで構成され、超音波の送受信面から見て背面側で、コンベックス形状の弦に相当する部分に回転軸102が一体的に結合されている。回転軸102は基台105の部品支持部に回動可能に支持され、さらに、駆動伝達機構を介して、図示省略のモータなどの駆動部に係合されている。この駆動部を正・逆転させることにより超音波振動子アセンブリ101を、回転軸102を中心にして矢印X方向に揺動させることができる。超音波振動子アセンブリ101に対する電気信号の送受信は、基台105を貫通させた図示省略の可とう性接続部材によって行われる。
【0006】
したがって、超音波振動子アセンブリ101を構成する複数の超音波振動子に対する電子走査と、回転軸102を中心とした超音波振動子アセンブリ101の揺動による機械走査とによって、被検体内の任意の断層画像や立体画像を取得することが可能になる。
【0007】
図4は図3に示した超音波探触子100のうち、筐体106の開口端部に基台105が嵌合され、音響窓部材103の開口端部が筐体106の開口端部に嵌装される部分を拡大して示した断面図である。図4において、筐体106から軸方向に突出する基台105の中間部の外周部に環状溝105aが形成され、この環状溝105aにはシール部材107としてゴム材料からなるOリングが装入されている。音響窓部材103はその内周部に一体的に成形されたインサートねじ103aを備えており、基台105に締結される。シール部材107は径方向に圧縮され、基台105の外周部と音響窓部材103の内周部との間に弾性を持って挟持される。また、音響窓部材103の開口端部と筐体106の開口端部との間は、組立時に塗布された接着剤109(図4中の点線内)によって封止され、これによって筐体106の内部は密閉状態に保持される。
【0008】
以上のように構成することにより、シール部材107により音響伝搬媒質104の漏洩を防ぐとともに、接着剤109を塗布することにより外部からの液体などの浸入も防いでいる。
【特許文献1】特公平7−38851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したように接着剤を使用して封止する構造は、接着剤塗布作業のバラツキにより、接着剤の塗布部に微小な空孔が発生することがある。また、組立工程で、空孔がないように接着剤を塗布して密閉構造とした場合でも、落下による衝撃などにより外部から過度な荷重が加わった場合、接着作業のバラツキによってできた接着強度の弱い部位に亀裂が生じることがある。このため、外部から液体が浸入したり、漏洩電流が増加したりするという問題があった。この問題に対して事前に対策を講じるには、製造工程における試験及びその評価が必要であり、不良となるものに関しての修理工程が必要となる。
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、音響窓部材と筐体との間を封止するに当たり、低コストで組立作業のバラツキのない安定した密閉構造を実現することができ、かつ、使用者が誤って落下させた場合にも密閉構造を保持することが可能な信頼性の高い超音波探触子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、円筒状の開口端部を有する筐体と、筐体の開口端部と略等しい外径を持ち、その外周部に環状溝が形成された中間部を有し、軸方向の一端部が部品支持部となり、軸方向の他端部が筐体の開口端部に嵌合された基台と、超音波振動子を含み、基台の部品支持部に支持された超音波振動子アセンブリと、ドーム状に形成され、超音波振動子アセンブリを内部に収納して、開口端部が基台の中間部及び筐体の開口端部の各外周部に共通に嵌装された音響窓部材と、基台の環状溝に装入されたシール部材と、音響窓部材の内部に充填された音響伝搬媒質とを備え、基台の環状溝の筐体側の外周部の直径が音響窓部材の開口端部の内周部の直径よりも小さくされて、環状溝に連通する空間が形成され、空間に筐体の縁端部が押入されてシール部材が径方向及び軸方向の両方から圧接されている超音波探触子である。
【0012】
この構成により、単一のシール部材が音響窓部材と基台との間の封止と、音響窓部材と筐体との間の封止とに共用されることとなり、これによって低コストで組立作業のバラツキのない安定した密閉構造を実現することができ、かつ、使用者が誤って落下させた場合にも密閉構造を保持することが可能になる。
【0013】
また、請求項2に係る発明は、筐体、音響窓部材及びシール部材はそれぞれ電気絶縁材料で構成されている超音波探触子である。
【0014】
この構成により、絶縁耐圧が高められるとともに、漏洩電流を低減させることができ、超音波診断性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記のように構成したことにより、音響窓部材と筐体との間を封止するに当たり、低コストで組立作業のバラツキのない安定した密閉構造を実現することができ、かつ、使用者が誤って落下させた場合にも密閉構造を保持することが可能な信頼性の高い超音波探触子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を図面に示す好適な実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る超音波探触子の実施の形態の構成を説明するために、一部を破断して示した斜視図である。図1において、超音波探触子10は、円筒状に形成された筐体6の開口端部に基台5が嵌合され、さらに、超音波の送受信を行うためにドーム状に形成された被検体接触部を有する音響窓部材3の開口端部が筐体6の外周部に嵌装されるとともにインサートネジ3aを介して基台5を固定しており、基台5と音響窓部材3で囲まれた空間に超音波振動子アセンブリ1を含む主要な構成要素が密閉状態で収納され、さらに、液状の音響伝搬媒質4が充填されている。
【0017】
基台5は筐体6の開口端部と略等しい外径を持つフランジ状の中間部を有し、軸方向の一端部(図面の上方端部)が部品支持部となり、軸方向の他端部(図面の下方端部)が、筐体6の開口端部に嵌合されている。また、音響伝搬媒質4内に気泡が発生することを防止するため、音響伝搬媒質4に所定の圧力を加える与圧部材8が、その媒質流通端部を軸方向に貫通する状態で基台5に装着されている。さらに、基台5のフランジ状の中間部の外周部に環状溝5aが形成され、この環状溝5aにシール部材7が装入されている。これによって、音響窓部材3の開口端部が筐体6に嵌装されるとき、シール部材7は基台5の外周部と音響窓部材3の開口端部の内周部との間に弾性を持って挟持される。ここで、基台5として金属材料が用いられ、音響窓部材3及び筐体6として、例えば、プラスチックなどの電気絶縁材料が用いられる。
【0018】
超音波振動子アセンブリ1は、超音波の送受信面がコンベックス形状をなすように配列された複数の超音波振動子を含んで構成され、超音波の送受信面から見て背面側で、コンベックス形状の弦に相当する部分に回転軸2が一体的に結合されている。回転軸2は基台5の部品支持部に回動可能に支持され、さらに、駆動伝達機構を介して、図示省略のモータなどの駆動部に係合されている。この駆動部を正・逆転させることにより超音波振動子アセンブリ1を、回転軸2を中心にして矢印X方向に揺動させることができる。超音波振動子アセンブリ1に対する電気信号の送受信は、基台5を貫通させた図示省略の可とう性接続部材によって行われる。
【0019】
したがって、超音波振動子アセンブリ1を構成する複数の超音波振動子に対する電子走査と、回転軸2を中心とした超音波振動子アセンブリ1の揺動による機械走査とによって、被検体内の任意の断層画像や立体画像を取得することが可能になる。
【0020】
図2は図1に示した超音波探触子10のうち、筐体6の開口端部に基台5が嵌合され、音響窓部材3の開口端部が筐体6の開口端部に嵌装される部分を拡大して示した断面図である。この図2において、基台5の環状溝5aの筐体6側の外周部の直径が、音響窓部材3の開口端部の内周部の直径よりも小さく形成され筐体6側へ連通する空間が形成されている。そして、この空間に筐体6の縁端部6aが押入されている。
【0021】
ここで、シール部材7はゴム材料からなるOリングが用いられる。、シール部材7は音響窓部材3の内周部と基台5の外周部との間で径方向に弾性を持って圧接され、さらに、基台5と筐体6との間で軸方向に弾性を持って圧接される。このようにして、単一のシール部材7により、基台5と音響窓部材3の間を封止すると同時に、筐体6と音響窓部材3との間をも封止することができる。
【0022】
以上のように、本発明の実施の形態によれば、新規に部品を追加することなく、接着剤及び接着作業を省くことができ、低コストで組立作業のバラツキのない安定した密閉構造を実現することができ、かつ、使用者が誤って落下させた場合にも密閉構造を保持することが可能な信頼性の高い超音波探触子を提供することができる。
【0023】
なお、本実施の形態では、シール部材7としてゴム材料からなるOリングを用いたが、密封構造に適した弾性を備え、電気的には絶縁材料で形成されたものであれば、Oリング以外のこれに類似するシール部材を使用することができる。特に、シール部材7が電気的絶縁材料で形成された場合、音響窓部材3、シール部材7及び筐体6のすべてが電気的絶縁材料で形成されることとなり、絶縁耐圧が高められるとともに、漏洩電流を低減させることができ、超音波診断性能を高めることができるという新たな効果も得られる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上のように、本発明に係る超音波探触子は、基台と音響窓部材との間でシール部材が弾性的に挟持され、かつ、シール部材を筐体の縁端部が軸方向に押圧する構成であるため、接着剤を使用することなく音響窓部材、シール部材及び筐体で囲まれる内部をその外部に対して密閉構造を形成することができ、低コストで組立作業のバラツキのない安定した密閉構造を実現することができ、かつ、使用者が誤って落下させた場合にも密閉構造を保持することが可能になることから信頼性が高められ、超音波を用いて体内画像を得るための医用超音波診断装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る超音波探触子の実施の形態の構成を説明するために、一部を破断して示した斜視図
【図2】図1に示した超音波探触子のうち、筐体の開口端部に基台が嵌合され、音響窓部材の開口端部が筐体の開口端部に嵌装される部分を拡大して示した断面図
【図3】一般的に採用されている従来の超音波探触子の具体的な構成を説明するために、一部を破断して示した斜視図
【図4】図3に示した超音波振動子のうち、筐体の開口端部に基台が嵌合され、音響窓部材の開口端部が筐体の開口端部に嵌装される部分を拡大して示した断面図
【符号の説明】
【0026】
1 超音波振動子アセンブリ
2 回転軸
3 音響窓部材
3a インサートネジ
4 音響伝搬媒質
5 基台
5a 環状溝
5b、5c 基台の外周部
6 筐体
6a 筐体の縁端部
7 シール部材
8 与圧部材
10 超音波探触子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の開口端部を有する筐体と、
前記筐体の開口端部と略等しい外径を持ち、その外周部に環状溝が形成された中間部を有し、軸方向の一端部が部品支持部となり、軸方向の他端部が前記筐体の開口端部に嵌合された基台と、
超音波振動子を含み、前記基台の部品支持部に支持された超音波振動子アセンブリと、
ドーム状に形成され、前記超音波振動子アセンブリを内部に収納して、開口端部が前記基台の中間部及び前記筐体の開口端部の各外周部に共通に嵌装された音響窓部材と、
前記基台の環状溝に装入されたシール部材と、
前記音響窓部材の内部に充填された音響伝搬媒質とを備え、
前記基台の環状溝の前記筐体側の外周部の直径が前記音響窓部材の開口端部の内周部の直径よりも小さくされて、前記環状溝に連通する空間が形成され、前記空間に前記筐体の縁端部が押入されて前記シール部材が径方向及び軸方向の両方から圧接されている超音波探触子。
【請求項2】
前記筐体、音響窓部材及びシール部材はそれぞれ電気絶縁材料で構成される請求項1に記載の超音波探触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−198097(P2006−198097A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11952(P2005−11952)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】